説明

塗装鋼材製海洋構造物

【課題】 塗装費用の削減が可能である、耐食性に優れた鋼製海洋構造物を提供する。
【解決手段】 構造物の高さ方向に飛来海塩粒子量が異なる環境で使用される塗装鋼材製海洋構造物において、前記飛来海塩粒子量について所定の境界値を設定し、前記構造物のうち前記飛来海塩粒子量が前記境界値超えとなる領域を下部領域とし、前記構造物のうち前記飛来海塩粒子量が前記境界値以下となる領域を上部領域とし、前記境界値を0.1mdd以下とし、前記下部領域と前記上部領域とでは異なる厚さの塗装を施すものとし、前記上部領域の塗装厚みを前記下部領域の塗装厚みより薄くする。これにより、塗装作業の軽減、再塗装期間の短縮が可能となり、塗装費用が低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海塩が飛来する洋上大気環境下で使用される塗装鋼材製海洋構造物に係り、特に洋上に建設される洋上構造物、さらには洋上風力発電タワーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境の保全という観点から、温室効果ガスである二酸化炭素(CO)の削減が要望され、CO排出が著しい化石燃料に代えて、COを排出しないクリーンなエネルギーが注目されている。このようなクリーンなエネルギー源として、再生可能な自然エネルギーを利用しようとする気運が世界各国で高まっている。なかでも、再生可能な自然エネルギーである風力を利用した風力発電は、比較的発電コストが低いことから、最近では、世界各国で風力発電の導入が活発化している。しかし、風力発電は、風況によって出力が変動しやすいという問題がある。
【0003】
風力発電に適した地域は、たえず強風が期待できるところである。しかし、そのような地域は陸上では限られており、しかも、そのような地域には、すでに風力発電設備が導入され、導入密度が高くなっているところが多い。また、最近では、風力発電装置の騒音等の問題が顕在化してきており、陸上では、これからさき、新規に風力発電設備を建設することが難しくなっているのが現状である。このため、風力発電は、陸上から洋上へ移行しつつある。
【0004】
洋上では、風速が大で、しかも乱れが少ない風が安定して吹くことが多く、稼働時間が長くなり、大きな風力発電量が期待できる。しかも、風速は、離岸距離が増大するにしたがい、増加する傾向にあるため、最近では、海岸から遠く離れた大水深の沖合に、洋上風力発電設備を建設する計画が検討されている。設置場所は、現在では、「水深:20m未満、沖合:20km以内」が主流であるが、将来的には、「水深:60m未満、沖合:60km以内」、さらには「水深:60m以上、沖合:60km以上」の海域までが、検討の対象にされている。
【0005】
このような水深の深い沖合で洋上風力発電を可能とするために、洋上で風力発電装置を設置できる基礎構造について、種々の方式が提案されている。最近では、大口径のドリルピットによる掘削が可能となり、離岸距離が20km以内、水深が20m未満の海域では、着床したモノパイル基礎の上に風力発電装置を設置するのが主流となっている。
さらに、水深が深くなる水深:40m以上の海域では、ジャケット型、トリパイル型等の基礎の利用が考えられている。またさらなる高深度の海域では、例えば、特許文献1に示されるような構造の、海底に着床しない浮体構造が提案されている。この浮体構造は、復元力が大きく、発電装置の傾斜がなく発電量の低下も少なく、軽量でありかつ短期間に製造できるとしている。
また、風力発電量は、風速の3乗と、ブレード径の2乗に比例する。このため、風力発電設備は、ブレード径を大きくし、大型化する傾向にある。そして、このような大型化したブレードを回転可能に支えるタワーは、全体として80m程度の高さで、直径が8mを超える程度の大きさの大型構造物(管体)となる場合もあり、通常、厚肉の鋼材を溶接してパーツごとに製造し組み立てられる。
【0006】
従来から、陸上や海岸近傍に設置された風力発電装置においても、風力発電装置を構成するタワー等には、使用する環境に応じた塗装等の防錆処理が施されている。しかし、洋上に設置された大型風力発電装置においては、設置場所が洋上であるということから再塗装等の保守補修作業が困難であるため、ライフサイクルコスト(LCC)を考慮して塗装(塗膜)の耐久性向上が重要な技術課題と考えられている。
【0007】
塗装(塗膜)の耐久性向上については、自動車用薄鋼板についてではあるが、例えば特許文献2に、基板鋼板にジンクリッチ塗料が施された、塗装耐食性に優れた耐食性鋼板が記載されている。特許文献2に記載された技術では、基板となる鋼板を、質量%で、C:0.001〜0.10%、Si:0.5%以下、Mn:0.05〜2.0%、TiとZrを合計で0.03%超0.4%未満、Cu:0.03〜0.5%、Ni:0.03〜0.5%、P:0.020〜0.1%、S:0.01%以下、Ca:0.0005〜0.02%、Al:0.003〜0.20%を含有する組成の鋼板としており、Ti+Zr:0.03%超0.4%未満、Cu:0.03〜0.5%、Ni:0.03〜0.5%、P:0.020〜0.1%を含有させた組成とすることに特徴があり、これにより、基板の耐食性が向上するとともに、ジンクリッチ塗料による塗膜の耐食性が著しく向上して、防錆効果が長時間持続可能となるとしている。なお、ジンクリッチ塗料に所定の金属塩を含有させることにより、さらに効果が高められるとしている。
【0008】
また、特許文献3には、塗装耐久性に優れた塗装用鋼材が記載されている。特許文献3に記載された塗装用鋼材は、質量%で、C:0.12%以下、Cu:0.05〜3.0%、Ni:0.05〜6.0%、Ti:0.025〜0.15%を含有し、Cu+Ni:0.50%以上、PCM:0.23%以下で、さらには、Si:1.0%以下、Mn:2.5%以下、P:0.05%以下、S:0.02%以下、Cr:0.05%以下を含有することを特徴としている。特許文献3に記載された技術では、Cr含有量を極力低減して塗膜欠陥部における腐食促進要因を低減するとともに、Cu、Ni、Tiの多量含有により、生成錆を緻密化して耐食性を向上させている。
【0009】
さらに、特許文献4には、補修再塗装寿命の延長および補修再塗装作業の軽減に寄与する耐食性に優れた造船用耐食鋼が記載されている。特許文献4に記載された技術は、特に海水腐食環境下で使用されるバラストタンク用鋼材(船舶用鋼材)に関するものであり、本発明が対象とする海洋構造物が晒される一般の洋上大気環境下とは腐食環境が異なる特殊な環境である。特許文献4に記載された造船用耐食鋼の成分組成は、質量%で、C:0.03〜0.25%、Si:0.05〜0.50%%、Mn:0.1〜2.0%、P:0.025%以下、S:0.01%以下、Al:0.01〜0.10%、W:0.01〜1.0%を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなることを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−248792号公報
【特許文献2】特開2003−171732号公報
【特許文献3】特開2000−169939号公報
【特許文献4】特開2007−46148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献1に記載された技術は、発電装置用基礎構造ついての技術であり、発電装置を構成する材料についての記載はない。また、特許文献2に記載された技術では、Pの多量含有、さらに合計で0.03質量%を超える(Ti+Zr)の多量含有を必須としており、厚鋼板では低温靭性が劣化するという問題がある。また、洋上におけるような高塩分濃度の厳しい腐食使用環境下において、所望の耐食性を確保するためには、耐食性向上元素を鋼に多く含有させるため高価になるという問題もある。
【0012】
また、特許文献3に記載された技術では、0.025質量%以上というTiの多量含有を必要としており、厚鋼板の低温靭性が劣化するという問題がある。また、特許文献3に記載された技術では、Tiの多量含有に加えてさらに、0.50質量%以上という多量の(Cu+Ni)の含有を必要としており、原料費の高騰や変動により材料コストが左右されるという問題もある。さらに、特許文献4に記載された技術は、海水が出入りするバラストタンク用鋼材を対象としており、鋼材は中性塩化物の洋上大気環境下とは異なる環境下で使用される。したがって、鋼材に塗布する塗装種も異なったものになる。また、中性塩化物の洋上大気環境下での塗膜の耐久性については言及しておらず、洋上大気環境下での塗膜の耐久性向上については問題を残していた。
【0013】
また、洋上に設置される風力発電装置をはじめとする海洋構造物は、一般的に大型構造物であり、その構築には大量の素材を要する。そのため、海洋構造物に適用される素材(塗装鋼材)には洋上大気環境に対する優れた耐食性が要求されるとともに、安価であることも要求される。ここで、素材となる塗装鋼材の低コスト化を図る手段としては、鋼材を構成する合金元素の添加量を低減する手段などが採用されている。しかしながら、鋼材表面に塗装を施すための塗料の消費量も軽視することはできず、海洋構造物の場合、大型構造物であるがゆえ、莫大な量の塗料が消費される。そのため、塗料の消費量を低減することができれば大幅なコスト削減を実現し得るが、上記した何れの従来技術においても塗料消費量の低減化について、十分な検討がなされていない。
【0014】
さらに、洋上大気環境など厳しい腐食環境に使用されることが多い従来の防錆仕様(例えばISO129944規定のC5M系)では、従来の塗装寿命は15年程度とされている。ゆえに、15年を超える用途で構造材を使用する場合、少なからず保守(メンテナンス)を行うことが必要となる。しかし、大型洋上風力発電タワーの場合、メンテナンスや補修が困難であることからライフサイクルコスト(LCC)を考慮して、塗膜の耐久性を向上させ塗装寿命を延長し、塗装等のメンテナンス回数を低減してミニマムメンテナンス化を図り、LCCを向上させ、さらにはメンテナンスフリー化することが重要と考えられている。
【0015】
本発明は、かかる従来技術の問題を解決し、かつ海塩が飛来する洋上大気環境下で使用が可能で、従来に比べて、塗装費用の削減が可能である、耐食性に優れた海洋構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記した目的を達成すべく、海塩が飛来する環境(洋上大気環境)に絶えず晒される海洋構造物の耐食性に及ぼす各種要因について鋭意検討した。先述のとおり、海洋構造物は一般的に大型構造物であり、洋上風力発電設備のタワーに至っては、その高さが80mにも達する。そこで、本発明者らは、海洋構造物の下部領域と上部領域とでは、洋上大気環境が異なることに着目した。例えば、洋上風力発電設備用タワーの場合、タワーの海面直上部と、海面から約80mのタワー最高部とでは、飛来海塩粒子量が大きく異なることが推測された。そして、本発明者らが調査した結果、タワーの海面直上部の飛来海塩粒子量は約0.4〜1.5mddと非常に高い値を示す一方、海面から約80mのタワー最高部の飛来海塩粒子量は約0.01〜0.1mddと比較的低い値を示すことが確認された。
【0017】
以上の結果から、本発明者らは、飛来海塩粒子量が高い海洋構造物の下部領域と、飛来海塩粒子量が低い海洋構造物の上部領域とでは、同一の塗装仕様(塗装の厚さや種類)とする必要がないことに想到した。そして、飛来海塩粒子量が低い海洋構造物の上部領域における塗装の厚さを、飛来海塩粒子量が高い海洋構造物の下部領域における塗装の厚さよりも薄くすることにより、塗料の消費量を削減し、延いては海洋構造物のコスト削減化が達成されることを知見した。また、海洋構造物の下部領域にのみ優れた耐食性を有する高価な塗料を用いて塗装を施し、海洋構造物の上部領域には比較的安価な塗料を用いて塗装を施すことにより、塗料コストを削減し、延いては海洋構造物のコスト削減が可能であることを知見した。
【0018】
また、海洋構造物の安全性・信頼性の観点からは、鋼材自体の耐食性や鋼材−塗装(塗膜)間の密着性も重要である。そこで、本発明者らはさらに、海塩が飛来する洋上大気環境下における鋼材の耐食性に及ぼす各種合金元素の影響について鋭意研究した。その結果、本発明者らの研究によれば、鋼材に含まれるC含有量の適正化を図ることにより、用途に応じた所望の耐食性や強度を鋼材に付与できることを知見した。また、鋼材に、適正量のW、Nbを含有させることにより、海塩が飛来する厳しい腐食環境下においても、表面に塗膜を有する場合には、塗膜の剥離、膨れの発生が顕著に減少し、塗膜の耐久性が向上することを知見した。また、海塩の飛来量が増加し腐食性が増加した場合には、WおよびNb、あるいはさらにTiに加え、適正量の(Cu+Ni)をさらに含有させることにより、塗膜の耐久性が更に向上して塗膜寿命の顕著な延長が可能であるということも知見した。
なお、W、Nbによる塗膜の耐久性向上の機構について、現時点では明瞭とはなっていないが、本発明者らは、つぎのように、考えている。
【0019】
適正量のWの含有により、地鉄と塗装(塗膜)間に安定で緻密な錆が形成される。鋼材中に含まれたWは、地鉄と塗装(塗膜)間に溶出して、WO2−イオンとなり、Fe2+イオンと反応して、次式のような反応で、難溶性のFe WOを形成する。
Fe2+ + WO2− → Fe WO
腐食生成物(錆)中に難溶性のFe WOが含まれることにより、錆層が緻密化し、イオンや酸素の透過が抑制されて、錆生成量が低減することになり、塗膜の膨れ、剥離等を顕著に防止できることになる。
【0020】
また、適正量のNbの含有により、微細フェライト組織の生成と、炭化物(NbC)の微細分散が可能となる。そしてさらに、Nbの含有により、フェライト相と異相界面を形成し、耐食性に悪影響を及ぼすセメンタイトの生成が遅延するとともに、微細化され、塗装鋼板の耐食性が顕著に向上するものと考えられる。セメンタイトに代表される炭化物は腐食環境下ではカソードとして作用するため、炭化物を微細分散させることは、塗膜欠陥の低減に繋がり、耐食性の向上という観点から好ましいといえる。あるいはさらに、適正量のTiを含有すると、生成する錆の緻密性が増加する。
【0021】
このような作用を有する、WとNbの適正量を含有し、あるいはさらにTiを含有し、さらに(Cu+Ni+2W)が0.1以上1.0未満を満足するように、適正量のCu,Niを含有させることにより、飛来する海塩粒子量が増大するような洋上大気環境下においても塗膜耐久性が顕著に向上することを知見した。
【0022】
本発明は、上記した知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次の通りである。
[1] 構造物の高さ方向に飛来海塩粒子量が異なる環境で使用される塗装鋼材製海洋構造物であって、前記飛来海塩粒子量について所定の境界値を設定し、前記構造物のうち前記飛来海塩粒子量が前記境界値超えとなる領域を下部領域とし、前記構造物のうち前記飛来海塩粒子量が前記境界値以下となる領域を上部領域とし、前記境界値を0.1mdd以下とし、前記下部領域と前記上部領域とでは異なる厚さの塗装が施されており、前記上部領域の塗装厚みが前記下部領域の塗装厚みより薄いことを特徴とする塗装鋼材製海洋構造物。
【0023】
[2] 前記[1]において、前記下部領域における塗装の厚さが、前記上部領域における塗装の厚さの1.5〜5.0倍であることを特徴とする塗装鋼材製海洋構造物。
【0024】
[3] 前記[1]または[2]において、前記下部領域の塗装をISO12944規定に準拠したC5M系の塗装とすることを特徴とする塗装鋼材製海洋構造物。
【0025】
[4] 前記[1]ないし[3]のいずれかにおいて、前記上部領域の塗装を、下塗り層として10μm以上40μm未満の厚さのジンクリッチ塗装と、中塗り層として80μm以上400μm未満の厚さのエポキシ樹脂塗装と、上塗り層として10μm以上50μm未満の厚さのポリウレタン樹脂塗装により構成される塗装とすることを特徴とする塗装鋼材製海洋構造物。
【0026】
[5] 前記[1]ないし[4]のいずれかにおいて、前記鋼材が、質量%で、C:0.08%未満、Si:0.75%以下、Mn:1.6%以下、 P:0.030%以下、S:0.030%以下、Al:0.01〜0.05%、N:0.01%以下
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする塗装鋼材製海洋構造物。
【0027】
[6] 前記[5]において、前記Cの含有量が、質量%で0.08%以上0.18%以下であることを特徴とする塗装鋼材製海洋構造物。
【0028】
[7] 前記[5]または[6]において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Nb:0.010〜0.200%、Ti:0.025%未満のうちの1種または2種を含有することを特徴とする塗装鋼材製海洋構造物。
【0029】
[8] 前記[5]ないし[7]のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.5%以下、Ni:0.5%以下、W:0.03〜0.5%のうちから選ばれた1種または2種以上を、Cu、Ni、W含有量の関係式である、(Cu+Ni+2W)が0.1〜1.0%を満足するように含有することを特徴とする塗装鋼材製海洋構造物。
【0030】
[9] 前記[5]ないし[8]のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、質量%で、Mo:0.5%以下、V:1.0%以下、Sn:0.5%以下、Sb:0.3%以下、Cr:2.0%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする塗装鋼材製海洋構造物。
【0031】
[10] 前記[5]ないし[9]のいずれかにおいて、前記PおよびSの含有量が、質量%で、P:0.010%以下、S:0.0020%以下であることを特徴とする塗装鋼材製海洋構造物。
【0032】
[11] 前記[1]ないし[10]のいずれかにおいて、前記海洋構造物が、洋上構造物であることを特徴とする塗装鋼材製海洋構造物。
【0033】
[12] 前記[11]において、前記洋上構造物が、風力発電タワーであることを特徴とする塗装鋼材製海洋構造物。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、塗装鋼材製海洋構造物の塗装仕様を、構造物の高さ方向で変化させることにより、海洋構造物の塗装費用を従来に比べて削減することが可能となるという産業上格段の効果を奏する。また、本発明によれば、所定の組成を有する鋼材を用いることにより、鋼材自体の耐食性や鋼材−塗装(塗膜)間の密着性が向上し、海洋構造物のミニマムメンテナンス化によるライフサイクルコスト(LCC)の低下を実現できるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】大気暴露試験に用いた試験片を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
海岸、さらには洋上では、陸上に比べて風速が大きく、かつ塩分を多く含む風が吹いているが、飛来する海塩の粒子量(飛来海塩粒子量)は、海面からの高さで変化している。
飛来する塩分、すなわち、飛来する海塩粒子によって、鋼材の腐食が促進されるため、飛来する海塩粒子量によって、腐食環境の厳しさを、概ね区別できる。飛来海塩粒子量が0.1〜0.4mddを境にして、腐食の厳しさが大きく変化するといわれており、飛来海塩粒子量:0.1mddを塗装仕様を決定するうえの一つの指標として、本発明になる海洋構造物では、飛来海塩粒子量により高さ方向で塗装の仕様を変化させる。ここで、mddは、mg/dm/dayをいう。
【0037】
本発明の海洋構造物は、高さ方向に飛来海塩粒子量が異なる環境で使用される構造物であって、塗装鋼材製であり、前記飛来海塩粒子量について0.1mdd以下の所定の値を境界値とし、前記飛来海塩粒子量が前記境界値以下となる上部領域と、前記飛来海塩粒子量が前記境界値超えとなる下部領域の塗装とで、異なる厚さの塗装を施すものとする。
飛来海塩粒子量が0.1mdd超えとなる環境は、厳しい腐食環境であり、厚塗り塗装とする必要がある。一方、飛来海塩粒子量が0.1mdd以下である環境、特に海面より20m超の上層部においては前記飛来海塩粒子量が0.1mdd以下となり、比較的緩やかな腐食環境であるため、薄塗り塗装でも、十分な耐食性を長期間保持できる。また、当然0.1mdd以下の領域に、より環境の厳しい領域と同じ厚塗り塗装を施しても問題ないが、すべての領域を厚塗り塗装とすることは、上記したようにコスト削減の観点からは好ましくない。
【0038】
そこで、本発明では、構造物に塗膜厚さの異なる2種の塗装(厚塗り塗装と薄塗り塗装)を施すものとし、飛来海塩粒子量について所定の境界値を設定し、構造物のうち飛来海塩粒子量が境界値超えとなる下部領域を厚塗り塗装とし、構造物のうち飛来海塩粒子量が境界値以下となる上部領域を薄塗り塗装とする。そして、飛来海塩粒子量の境界値を0.1mdd以下の値に設定することで、構造物のうち飛来海塩粒子量が0.1mdd超えとなる領域で必ず厚塗り塗装を施すこととし、構造物の耐食性を確保する。一方、飛来海塩粒子量の境界値を0.1mdd以下の値に設定することで、構造物のうち飛来海塩粒子量が0.1mdd以下の任意の領域を薄塗り塗装とし、コスト削減を図ることとする。
具体的には、飛来海塩粒子量が境界値超えとなる下部領域における塗装の厚さを、飛来海塩粒子量が境界値以下となる上部領域における塗装の厚さの1.5〜5.0倍とすることが好ましい。これにより、海洋構造物の塗装を全体として軽減でき、塗装費用の大幅な削減が可能となり、ミニマムメンテナンス化によるライフサイクルコスト(LCC)の低下を実現できる。また、上記境界値としては、0.03mdd以上0.1mdd以下が好ましい。この境界値を0.03mdd未満とすると、LCC低減効果が少なくなる。
【0039】
なお、鋼材製海洋構造物では、鋼材を保護するための塗装を施して、腐食の防止を図ることは必須となっており、各種規格に、使用環境に応じた塗装仕様が規定されている。そこで、本発明における塗装鋼材では、使用環境に応じ、各種規格に規定された塗装仕様で、基材とする鋼材に塗装することが好ましい。
例えば、ISO 12944には、最も厳しい大気中腐食カテゴリーとして、海洋構造物用であるC5-Mが規定され、それに適合した塗装仕様が記載されている。本発明の塗装鋼材製海洋構造物において、下部領域に対してはこの規定に準じた塗装仕様を用いることが好ましい。すなわち、飛来海塩粒子量が境界値超えとなる海面に近い下部領域の塗装仕様としては、ISO12944規定のC5M系準拠とした塗装とすることが好ましい。
【0040】
そして、本発明においては、飛来海塩粒子量が境界値以下となる上部領域において、上記した膜厚よりも薄くするものとし、その合計厚さを上記合計厚さの1/5〜2/3倍とすること(すなわち、下部領域における塗装の厚さを、上部領域における塗装の厚さの1.5〜5.0倍とすること)が好ましい。
【0041】
例えば、前記下部領域の塗装を、無機ジンク塗料40μm 以上80μm以下(乾燥膜厚)の下塗り層と、エポキシ樹脂塗料400μm 以上600μm以下(乾燥膜厚)の中塗り層と、ポリウレタン樹脂塗料 50μm 以上100μm以下(乾燥膜厚)の上塗り層により構成される塗装とし、前記上部領域の塗装を、JIS K5552(2002)に規定されるジンクリッチプライマーもしくはJIS K5553(2002)に規定される厚膜形ジンクリッチペイント10μm 以上40μm未満(乾燥膜厚)の下塗り層と、エポキシ樹脂塗料80μm 以上400μm未満(乾燥膜厚)の中塗り層と、ポリウレタン樹脂塗料10μm 以上50μm未満(乾燥膜厚)の上塗り層により構成される塗装とすることができる。
なお、基材となる鋼材には、塗装前に、Sa:21/2程度のブラスト処理を施すことは言うまでもない。
【0042】
以上、飛来海塩粒子量により高さ方向で塗装の厚さを変化させる場合について述べてきたが、本発明では、飛来海塩粒子量により高さ方向で塗装の種類を変化させることもできる。例えば、上記した各種塗装仕様では大気中腐食カテゴリー毎に塗装の種類が規定されているが、飛来海塩粒子量が境界値超え、例えば0.1mdd超えとなる下部領域にのみ、最も厳しい大気中腐食カテゴリーに属する塗装を適用し、飛来海塩粒子量が境界値以下、例えば0.1mdd以下となる上部領域にはその他の種類の異なるより防錆効果が少ない安価な塗装を適宜適用することができる。
【0043】
例えば、前記下部領域の塗装を、無機ジンク塗料の下塗り層と、エポキシ樹脂塗料の中塗り層と、ポリウレタン樹脂塗料の上塗り層により構成される塗装とし、前記上部領域の塗装を、下塗り層を省略してエポキシ樹脂塗料の中塗り層と、ポリウレタン樹脂塗料の上塗り層により構成される塗装とすることができる。
【0044】
また、前記下部領域の塗装を、無機ジンク塗料の下塗り層を省略するとともに中塗り層と優れた耐食性を有するエポキシガラスフレーク塗料の上塗り層により構成される塗装とし、前記上部領域の塗装を、下塗り層を省略し、エポキシ樹脂塗料の中塗り層と、ポリウレタン樹脂塗料の上塗り層により構成される塗装とすることもできる。
【0045】
従来、鋼材製海洋構造物の塗装仕様は、最も腐食環境の厳しい部分に基づき設定されるのが一般的であった。すなわち、従来の塗装鋼材製海洋構造物では、最も腐食環境の厳しい部分を基準として設定された塗装仕様が構造物全体に適用されていたため、例えば飛来海塩粒子量が比較的低い構造物上部領域において過剰な塗装が為されていた。
一方、本発明によると、飛来海塩粒子量に応じて塗装仕様を変更する、具体的には飛来海塩粒子量の低い上部領域において塗装を薄塗、或いは安価な塗装とするため、塗装費用を大幅に削減することができる。
【0046】
また、上記した塗装は、基材とする鋼材を、質量%で、C:0.08%未満またはC:0.08%以上0.18%以下、Si:0.75%以下、Mn:1.6%以下、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Al:0.01〜0.05%、N:0.01%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の耐食性に優れた鋼材とすることにより、塗膜厚を薄くすることも可能となる。
【0047】
以下に、本発明鋼材の組成限定理由について説明する。なお、以下、とくに断わらない限り、質量%は単に%で記す。
C:0.08%未満または0.08%以上0.18%以下
Cは、固溶して鋼材の強度を増加させるとともに、炭化物形成元素と結合し炭化物を形成する元素である。セメンタイト等の炭化物は、フェライト相との異相界面を形成し、海塩が飛来する腐食環境下ではカソードとなりやすく、腐食を促進するため、耐食性の観点からはできるだけ低減するか、微細に分散させることが望ましい。そのため、鋼材の耐食性を重視する場合には、C含有量を低減することが望ましく、その含有量を0.08%未満に低減すると耐食性、特に皮膜耐久性が飛躍的に向上する。一方、鋼材の強度を重視する場合には、C含有量を高めることが望ましく、その含有量を0.08%以上とすることが望ましい。但し、C含有量が0.18%を超えると、海塩が飛来する腐食環境での耐食性を確保することが困難になる。
【0048】
以上の理由により、鋼材に優れた耐食性が要求される場合には、C含有量を0.08%未満とすることが好ましく、0.03%以下とすることがより好ましい。一方、耐食性よりも寧ろ高強度が要求される場合には、C含有量を0.08%以上0.18%以下とすることが好ましく、0.10%以上0.15%以下とすることがより好ましい。
なお、「0.08%未満」、「0.08%以上0.18%以下」のいずれのC含有量を選択するかについては、塗装鋼材製海洋構造物の用途毎に要求される耐食性や強度を勘案して適宜選択すればよい。
【0049】
Si:0.75%以下
Siは、脱酸剤として作用するとともに、固溶して強度を増加させる元素であり、所望の強度を確保するために、本発明では0.10%以上含有させることが望ましい。Siは、加熱時の酸化に際し、地鉄とスケール界面にファイアライトを生成し、スケールと地鉄との密着性を増加させる作用を有するが、0.75%を超える多量の含有は、靭性を低下させるとともに、熱間圧延時に地鉄とスケールとの界面厚さが増大しすぎて、ローラ矯正、プレス矯正時に、スケールの割れ、剥離が顕著となり、製造性が低下する。このため、Siは0.75%以下の範囲に限定した。なお、Siの過剰な含有は、鋼材の硬質化、加工性の低下を招くため、0.50%以下とすることが好ましい。
【0050】
Mn:1.6%以下
Mnは、固溶して鋼材の強度を増加させるとともに、靭性を向上させる作用を有する元素である。また、MnはSと結合しMnSを形成し、有害なFeSの形成を抑制し、鋼材表面および鋼中でのSの悪影響を抑制する作用を有する。このような効果を得るためには、Mnは0.5%以上含有することが望ましい。一方、1.6%を超える含有は、溶接性を低下させ、機械加工性を低下させる。このため、Mnは1.6%以下の範囲に限定した。なお、好ましくは0.6〜1.5%である。
【0051】
P:0.030%以下
Pは、鋼材の強度を増加させる作用を有するが、粒界に偏析することで、耐食性を低下させるとともに、二次加工脆性の原因となり、鋼材の加工性を低下させる。このため、加工性向上の観点からはできるだけ低減することが望ましいが、過度の低減は精錬コストを高騰させる。このため、0.001%程度以上とすることが望ましい。また、このような加工性の低下は0.030%を超える含有で顕著となる。このため、Pは0.030%以下に限定した。なお、更なる耐食性、とくに顕著な塗膜の耐久性向上のためには、Pは0.010%以下とすることが好ましい。さらに好ましくは0.005%以下である。
【0052】
S:0.030%以下
Sは、Mnを含有する組成では、可溶性非金属介在物であるMnSを形成する。MnSは、海塩が飛来する環境下では溶解し、腐食の起点となり、耐食性を低下させる。このため、Sはできるだけ低減することが望ましいが、0.030%以下であれば許容できる。なお、過度の低減は精錬コストが高騰するため、0.0005%以上とすることが望ましい。なお、更なる耐食性、とくに顕著な塗膜の耐久性向上のためには、Sは0.0020%以下とすることが好ましい。さらに好ましくは0.0010%以下である。
【0053】
Al:0.01〜0.05%
Alは、脱酸剤として作用するとともに、結晶粒を微細化する元素である。このような効果を得るためには、0.01%以上含有させる。一方、0.05%を超える含有は、酸化物系介在物が増加し、鋼材の清浄度が低下する。このため、Alは0.01〜0.05%に限定した。
【0054】
N:0.01%以下
Nは、固溶して鋼材の強度を増加させるが、多量の含有は、鋼材を硬質化させ、靭性、溶接性を低下させる。溶接性の低下という観点からはNは、できるだけ低減することが望ましいが、過度の低減は精錬コストを高騰させるため、0.001%程度以上とすることが好ましい。一方、0.01%を超えて多量に含有すると、鋼材が硬質化し、靭性が低下するとともに、溶接性が低下する。このため、Nは0.01%以下に限定した。なお、好ましくは0.005%以下である。
【0055】
上記した成分が基本の成分であるが、これら基本の組成に加えてさらに、Nb:0.010〜0.200%、Ti:0.025%未満のうちの1種または2種、および/または、Cu:0.5%以下、Ni:0.5%以下、W:0.03〜0.5%のうちから選ばれた1種または2種以上を、上記した含有範囲内でかつ(Cu+Ni+2W):0.1〜1.0を満足するように、および/または、Mo:0.5%以下、V:1.0%以下、Sn:0.5%以下、Sb:0.3%以下、Cr:2.0%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を、必要に応じて、選択して含有できる。
【0056】
Nb:0.010〜0.200%
Nbは、Cと結合し微細なNbCとして析出する。これに伴い、微細な炭化物が形成されて、腐食の起点となるフェライト相と炭化物との異相界面(例えば、セメンタイト等の粗大な炭化物)の形成が抑制され、耐食性が向上するようになる。また、Nbの含有により、粗大炭化物の形成が抑制されるとともに、母相(フェライト相)の結晶粒径が微細化し、靭性が向上する。このような効果を得るためには0.010%以上の含有を必要とする。一方、0.200%を超える含有は、耐食性向上効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できなくなり、経済的に不利となるとともに、鋼材の硬質化を招く。このため、Nbは0.010〜0.200%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.015〜0.05%である。
【0057】
Ti:0.025%未満
Tiは、微細な炭化物を形成して耐食性の向上に寄与し、さらに窒化物の形成を介して組織を微細化し靭性の向上に寄与する元素であり、必要に応じて含有できる。このような効果を得るためには0.010%以上含有することが望ましいが、0.025%以上含有すると、鋼中に粗大な窒化物(TiN)を形成し靭性が低下しやすくなる。このため、含有する場合には、Tiは0.025%未満に限定することが好ましい。なお、好ましくは0.015%以下である。
【0058】
Cu:0.5%以下、Ni:0.5%以下、W:0.03〜0.5%のうちから選ばれた1種または2種以上
Wを含有することにより、地鉄と塗膜(塗装)との間に形成される腐食生成物(錆)が緻密化され、イオンや酸素の透過が抑制されて、塗膜耐久性が向上し、塗膜寿命の延長に寄与するものと考えられる。このような効果を得るためには、0.03%以上の含有を必要とする。一方、0.5%を超える含有は、鋼が硬質化し靭性が低下する。このようなことから、Wは0.03〜0.5%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.05〜0.3%である。
【0059】
Cu、Niは、いずれも、Wとともに複合含有させることにより、飛来海塩粒子が多くなる環境下における耐食性、とくに塗膜の耐久性向上に顕著に寄与する。このような効果を得るためにはCu、Niとも0.05%以上含有することが望ましいが、Cu、Niともに0.5%を超える含有は、高価な合金元素の多量含有となり、材料コストの低減が期待できなくなる。このようなことから、含有する場合には、Cu:0.5%以下、Ni:0.5%以下の範囲に限定することが好ましい。
【0060】
なお、Cu、Niを含有する場合には、上記した含有範囲内でかつ、Cu含有量、Ni含有量、W含有量の関係式である、(Cu+Ni+2W)が0.1〜1.0%を満足するように、W含有量と関連して、Cu、Niの含有量を調整することが好ましい。(Cu+Ni+2W)が0.1%未満では、耐食性を向上させる元素の含有量が不足し、耐食性が不足する。一方、(Cu+Ni+2W)が1.0%を超えるような多量のCu、Niの含有は、材料コストを高騰させる。このため、Cu、Niを含有する場合には、(Cu+Ni+2W)が0.1〜1.0%の範囲となるように調整することが好ましい。
【0061】
Mo:0.5%以下、V:1.0%以下、Sn:0.5%以下、Sb:0.3%以下、Cr:2.0%以下のうちから選ばれた1種または2種以上
Mo、V、Sn、Sb、Crはいずれも、耐食性を向上させる元素であり、必要に応じて選択して1種または2種以上含有できる。Mo、V、Sb、Sn、Crは、いずれも、緻密で安定な錆層の形成に寄与し、鋼材の発錆を抑制して、鋼材の耐食性向上および塗膜の寿命延長に寄与する。このような効果を得るためには、Mo:0.01%以上、V:0.01%以上、Sn:0.01%以上、Sb:0.01%以上、Cr:0.01%以上、それぞれを含有させることが望ましい。なお、より望ましくは、Mo:0.05%以上、V:0.05%以上、Sn:0.05%以上、Sb:0.05%以上、Cr:0.10%以上である。一方、Mo:0.5%、V:1.0%、Sn:0.5%、Sb:0.3%、Cr:2.0%をそれぞれ超える含有は、加工性を低下させ、鋼材の製造性を損なう。このため、含有する場合は、Mo:0.5%以下、V:1.0%以下、Sb:0.5%以下、Sn:0.3%以下、Cr:2.0%以下にそれぞれ限定することが好ましい。なお、より好ましくは、Mo:0.1〜0.3%、V:0.1〜0.5%、Sn:0.10〜0.30%、Sb:0.10〜0.3%、Cr:0.2〜0.5%である。
【0062】
なおさらに、本発明では、上記した成分を上記した範囲で含有するとともに、炭素当量Ceqを0.40以下に、および/または、Pcmを0.30以下に限定することが、溶接性や靭性を確保するという観点から好ましい。
なお、炭素当量Ceqは、次(1)式
Ceq=C+Mn/6+Si/24+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14 ‥‥(1)
(ここで、C、Mn、Si、Ni、Cr、Mo、V:各元素の含有量(質量%))
で定義される式を用いて計算した値を、溶接割れ感受性指数PCMは、次(2)式
CM=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5B ‥‥(2)
(ここで、C、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、B:各元素の含有量(質量%))
で定義される式を用いて計算した値を、それぞれ用いるものとする。(1)式、(2)式に含まれる元素を含有しない場合には、当該元素の含有量を零として計算するものとする。
【0063】
炭素当量Ceqが0.40を超えると、溶接部の強度(硬さ)が大きくなりすぎて、溶接割れが発生しやすくなる。なお、予熱等を不要とすること、寒冷地での溶接施工という観点から、Ceqは、好ましくは0.37以下である。また、溶接割れ感受性指数PCMが0.30を超えて大きくなると、割れ感受性が高くなり、溶接割れが多発する。なお、PCMは、好ましくは0.20以下である。
【0064】
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物からなる。なお、不可避的不純物としては、O:0.0030%以下、Ca:0.001%以下、B:0.0005%以下が許容できる。
【0065】
つぎに、本発明鋼板の好ましい組織について説明する。
本発明鋼材は、上記した組成を有しさらに、組織全体に対する面積率で、70%以上のフェライト相と、残部がフェライト相以外の第二相とからなる組織を有することが好ましい。
フェライト相:70%以上
本発明鋼材は、組織全体に対する面積率で、70%以上のフェライト相と、フェライト以外の第二相とからなる組織を有することが好ましい。
本発明の組成範囲では、鋼材の組織は、フェライト単相、フェライト相とパーライト相との混合、ベイナイト相、マルテンサイト相、あるいはそれらの混合した組織等、種々の組織を呈する。本発明者らの検討によれば、洋上風力タワーにおけるような、海塩が飛来する腐食環境下では、耐食性が最も優れている組織はフェライト相であるという知見を得ている。このようなことから、本発明では、組織を、組織全体に対する面積率で、70%以上の、フェライト相を主体とする組織とすることが好ましい。
【0066】
海塩が飛来する腐食環境下では、フェライト相単相以外の組織の場合は、腐食の起点は、主として、炭化物とマトリックス(フェライト相)との異相界面、とくにセメンタイトに代表されるような粗大な炭化物とフェライト相の界面であり、耐食性の観点からは、フェライト相単相組織とすることが好ましいが、フェライト相単相では、鋼材に所望の特性、たとえば、所望の高強度を付与することが難しくなる。そのため、本発明では、耐食性と、他の特性とのバランスを考慮して、フェライト相は、組織全体に対する面積率で、70%以上に限定した。なお、好ましくは80〜95%である。また、フェライト相は、組織全体に対する面積率で、80%以上であっても、炭化物が粗大化していては、十分な耐食性の向上は得られないため、フェライト相の微細化、さらにはフェライト相以外の第二相が、微細でかつ均一に分布していることが好ましい。
【0067】
フェライト相以外の残部(第二相)は、セメンタイト、パーライト相、ベイナイト相、残留オーステナイト相、マルテンサイト相等とすることが好ましい。第二相が、30%を超えて多量に存在すると、耐食性が低下する。なお、第二相は好ましくは15%以下である。
【0068】
また、本発明鋼材では、フェライト相の結晶粒度番号が9.0以上の微細な組織とすることがより好ましい。組織(フェライト結晶粒)を微細化することにより、結果的に、結晶粒界を長くすることができ、結晶粒界に析出しやすい炭化物も微細に分散するようになる。結晶粒が微細なほど、炭化物の微細分散を図ることができる。なお、製造工程の負荷を考慮して、結晶粒度番号:8.0以上としても良い。なお、本発明では、結晶粒度番号は、JIS G 0551の規定に準拠して算出した値を用いるものとする。
【0069】
ついで、本発明鋼材の好ましい製造方法について説明する。
上記した組成を有する鋼材の製造方法は、通常公知の方法がいずれも適用可能であり、とくに限定されない。
本発明鋼材が厚鋼板である場合には、上記した組成の溶鋼を、転炉等の通常公知の溶製方法で溶製し、連続鋳造法等の常用の方法でスラブ等の鋼素材としたのち、鋼素材を加熱し、厚板圧延(熱間圧延)を施し、冷却、あるいはさらに矯正等を施して所望の寸法形状の厚鋼板とすることが好ましい。なお、厚板圧延では、通常の圧延に加えて、制御圧延、制御冷却等を適用して所望の強度、靭性等の特性を付与することもできる。
【0070】
鋼材が厚鋼板である場合には、例えば、鋼素材を、1000〜1200℃に加熱したのち、800℃以上の温度域で累積圧下率:60%以上で、圧延終了温度:750℃以上とする厚板圧延を施し、厚鋼板としたのち、20℃/s以下の冷却速度で550℃以下まで冷却する水冷もしくは空冷等を行うことが好ましいが、これに限定されないことは言うまでもない。圧延後の冷却条件を制御することに代えて、室温まで空冷で冷却した後、熱処理を施してもよい。熱処理条件としては、所望の強度、靭性を確保できるように、加熱温度:800〜950℃加熱したのち、1.0〜10℃/sの範囲の冷却速度で室温まで冷却するか、または加熱後空冷(0.1℃/s〜0.7℃/sの空冷、例えば0.2℃/s)することが好ましい。
【0071】
また、鋼材が、形鋼の場合には、上記した組成の溶鋼を、転炉等の通常公知の溶製方法で溶製し、連続鋳造法等の常用の方法でブルーム等の鋼素材としたのち、鋼素材を加熱し、形鋼圧延(熱間圧延)を施し、冷却、あるいはさらに矯正等を施して所望の寸法形状の、H形鋼、鋼矢板等の形鋼とすることが好ましい。形鋼圧延は、通常の圧延方法がいずれも適用可能である。また、鋼材が棒鋼である場合も同様で、通常の条件で棒鋼圧延を適用して所望の寸法形状、強度、靭性を有する棒鋼となるように、製造条件を調整することが好ましい。
なお、形鋼圧延、棒鋼圧延では、圧延後の冷却条件は、鋼材の肉厚にもよるが、10℃/s以下の冷却速度で550℃以下まで冷却することが、所望の特性を有する鋼材を得るために好ましい。
【0072】
上記した鋼材を使用して、所定寸法形状の海洋構造物とする。本発明海洋構造物としては、海岸域に建設されるもの、あるいは沿岸から遠く離れた洋上に建設する洋上構造物があり、なかでも風力発電タワーがある。
なお、海洋構造物の製造方法は、上記した、高さ方向で異なる厚さの塗装を施すこと以外は、常法にしたがい製造すればよく、とくに限定する必要はない。例えば、海洋構造物が風力発電用タワーである場合は、上記した組成を有する所定厚さの鋼材を、所定の大きさ・形状となるように切断し、さらに必要に応じて曲げ等の加工を施して所定形状寸法の部材としたのち、溶接等により、これら部材を接合して、所望の径の管形状を有し、所望の高さの管状構造物とする。そして、飛来海塩粒子量が境界値超え、例えば0.1mdd超えとなる下部領域と、飛来海塩粒子量が境界値以下、例えば0.1mdd以下となる上部領域とでは、異なる仕様の塗装を施して風力発電用タワーとする。なお、塗装前にショットブラスト処理等を施し、基材鋼材の表面粗さを適正化しておく。
なお、風力発電タワーは上記した製造工程で製造された厚鋼板をSMA溶接し、例えば8.0m径の大径管を複数製造し、それらを溶接またはボルト接合で組み合わせて使用することになる。
以下、実施例に基づいて、さらに本発明について説明する。
【実施例】
【0073】
(実施例1)
表1に示す組成を有する鋼素材(スラブ)を1100〜1150℃に加熱し、800℃以上温度範囲での累積圧下率が60%以上で、かつ圧延終了温度:800℃以上とする厚板圧延を施し、厚板圧延終了後、10℃/s以下の冷却速度で冷却して、厚鋼板(厚さ50mm)を得た。
なお、一部の厚鋼板には熱処理(焼戻処理:焼戻し温度860℃,焼戻し温度における保持時間:600s)を施した。
得られた厚鋼板について、以下の方法に従い引張試験、衝撃試験、組織観察を実施した。
【0074】
(1−1)引張試験
得られた厚鋼板の板厚1/4位置から、引張方向が圧延方向と直角方向となるように、JIS 4号引張試験片を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠して引張試験を実施し、引張特性(降伏強さYS、引張強さTS、伸びEl)を測定した。
(1−2)衝撃試験
得られた厚鋼板の板厚1/4位置から、試験片長さ方向が圧延方向と直角方向となるように、Vノッチ試験片を採取し、JIS Z 2242の規定に準拠してシャルピー衝撃試験を実施し、試験温度:0℃と−40℃における吸収エネルギーvE(J)、vE−40 (J)を求めた。なお、各鋼板で各3本実施し、得られた吸収エネルギーの算術平均を求め、各鋼板の靭性を評価した。
(2)組織観察
得られた厚鋼板の板厚1/4位置から試験片を採取し、圧延方向断面(L断面)を研磨し、ナイタール液でエッチングして、光学顕微鏡(倍率:50〜400倍)を用いて、組織を観察し、撮像した。そして、画像解析装置を用いてフェライト相の分率(面積%)を測定した。
また、JIS G 0551に準拠して、フェライト相の結晶粒度を算出した。
引張特性の測定結果、靭性、および組織の観察結果を、表2に示す。
【0075】
また、得られた厚鋼板より試験片(大きさ:150×100×10mm厚)を採取し、表面の酸化スケールを、ショットブラスト処理により除去したのち、重量(試験前重量)を測定し、塗装処理を施して、塗装厚鋼板(塗装試験材)を得た。
塗装処理は、ショットブラスト処理済みの厚鋼板表面(片面)に、下塗りと、2回の中塗りと、上塗りからなる処理とした。この塗装は、ISO12944規定のC5M系相当の塗装である。
塗装処理の条件は下記のとおりである。
下塗り:無機ジンク塗料(塗料名:関西ペイント(株)製SDジンク1500A(商品名))
中塗り1:エポキシ樹脂塗料(塗料名:関西ペイント(株)製エポキシHB(商品名))
中塗り2:エポキシ樹脂塗料(塗料名:関西ペイント(株)製エポキシHB(商品名))
上塗り:ポリウレタン樹脂塗料(塗料名:関西ペイント(株)製レタン6000HB(商品名))
表3〜5に示すとおり、上記した下塗り層、中塗り層、上塗り層の膜厚を様々に変化させ、飛来海塩粒子量が境界値以下となる上部領域用の塗装試験材(1L〜27L)と、飛来海塩粒子量が境界値超えとなる下部領域用の塗装試験材(1H〜27H)をそれぞれ作製した。また、一部の塗装試験材については、下塗り層を設けず上塗り層をエポキシガラスフレーク塗料(塗料名:JOTUN(株)製Baltoflake(商品名))とした。
なお、塗装は、厚鋼板表面にエアスプレー塗布する処理とした。
ついで、得られた塗装試験材を用いて塗装鋼材の耐食性を評価した。試験方法は次の通りとした。
【0076】
(3)耐食性
上記塗装試験材の塗装面に、図1に示すように、130mm長さの鋼に達する切欠きをセンターから左右に10mm間隔で9本付与し、大気暴露試験を行った。
大気暴露試験は、飛来海塩粒子量:0.10mddおよび0.45mdd(0.1mdd超え)である地域で、730日間の大気暴露試験(試験期間の平均気温:飛来海塩粒子量が0.10mddの地域の場合は15℃、飛来海塩粒子量が0.45mddの地域の場合は19℃)を実施した。なお、大気暴露試験では、試験片は水平から60°傾け、試験面が南向きに正対するように設置した。
大気暴露試験後、塗装を剥離剤(ネオオリバー#100:三彩化学株式会社)剥離し、さらに、試験片表面に形成された腐食生成物をクエン酸第二アンモニウム水溶液に浸漬した後、真鍮ブラシを用いて除去して、試験片重量を測定し試験後の試験後重量とし、試験前に予め測定しておいた試験前重量(ショットブラスト後塗装前鋼材重量)との差を算出し、腐食減量を測定し、腐食速度(μm/year)を求めた。腐食速度が60μm/year以下の場合を充分な耐食性があるとして合格「○」とし、60μm/yearを超える場合を不合格「×」とした。
得られた結果を表3、表4および表5に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
【表2】

【0079】
【表3】

【0080】
【表4】

【0081】
【表5】

【0082】
表2に示すとおり、表1に示す組成(本発明において好ましいとされる組成)を有する厚鋼板は、いずれも、所望の高強度と優れた靭性とを有する。
また、表3〜5に示すとおり、飛来海塩粒子量が0.45mdd(0.1mdd超え)の腐食環境であっても、本願の下部領域用の塗装を施した塗装試験材(1H〜27H)の上記試験による腐食速度は58.0μm/year以下であり、また、下部領域用の塗装よりも膜厚の薄い、本願の上部領域用の塗装を施した塗装試験材(1L〜27L)であっても飛来海塩粒子量が0.10mddの腐食環境における腐食速度は44.5μm/year以下である。
以上の結果から明らかであるように、飛来海塩粒子量が0.1mdd以下となる上部領域において塗装を薄塗としたり、安価な塗装とした場合であっても、所定の補修期間間隔(15年以上)とすることができる。
【0083】
(実施例2)
外径:8.0mφ、海上高さ:80mからなる洋上風力発電タワーを沿岸から5.0kmの、水深:30〜45m程度の位置に設置するとして、飛来海塩粒子量が0.1mdd超えとなる高さは20m以下、また、飛来海塩粒子量が0.1mdd以下となる高さは20m超えとなる。そこで、飛来海塩粒子量が0.1mdd超えとなる下部領域(海面より海面上20m上までの部分)を、鋼材表面に、合計で全塗膜厚さ:500μmからなる塗装(無機ジンク:50μm、エポキシ樹脂塗膜:200μmを2層、ウレタン樹脂塗膜厚さ:50μm)を施し、飛来海塩粒子量が0.1mdd以下となる上部領域(上記領域より上の部分、60m分)を、鋼材表面に、合計で全塗膜厚さ:270μmからなる塗装(無機ジンク:25μm、エポキシ樹脂塗膜:100μmを2層、ウレタン樹脂塗膜厚さ:45μm)を施した場合を想定し、塗装費用を概算した。また、海上の高さ方向全域(海面より上端まで80m分)にわたり前記した下部領域仕様の塗装を行なった場合の塗装費用を概算し基準(=1.0)とした。結果は、飛来海塩粒子量が0.1mdd以下となる上部領域における塗装の厚さを、飛来海塩粒子量が0.1mdd超えとなる下部領域における塗装の厚さの270/500=1/1.85(1/1.5〜1/5)とすることにより、作業工数の減少も含め塗装費用は基準よりも10%以上安価になることが試算された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の高さ方向に飛来海塩粒子量が異なる環境で使用される塗装鋼材製海洋構造物であって、前記飛来海塩粒子量について所定の境界値を設定し、前記構造物のうち前記飛来海塩粒子量が前記境界値超えとなる領域を下部領域とし、前記構造物のうち前記飛来海塩粒子量が前記境界値以下となる領域を上部領域とし、前記境界値を0.1mdd以下とし、前記下部領域と前記上部領域とでは異なる厚さの塗装が施されており、前記上部領域の塗装厚みが前記下部領域の塗装厚みより薄いことを特徴とする塗装鋼材製海洋構造物。
【請求項2】
前記下部領域における塗装の厚さが、前記上部領域における塗装の厚さの1.5〜5.0倍であることを特徴とする請求項1に記載の塗装鋼材製海洋構造物。
【請求項3】
前記下部領域の塗装をISO12944規定に準拠したC5M系の塗装とすることを特徴とする請求項1または2に記載の塗装鋼材製海洋構造物。
【請求項4】
前記上部領域の塗装を、下塗り層として10μm以上40μm未満の厚さのジンクリッチ塗装と、中塗り層として80μm以上400μm未満の厚さのエポキシ樹脂塗装と、上塗り層として10μm以上50μm未満の厚さのポリウレタン樹脂塗装により構成される塗装とすることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の塗装鋼材製海洋構造物。
【請求項5】
前記鋼材が、質量%で、
C:0.08%未満、 Si:0.75%以下、
Mn:1.6%以下、 P:0.030%以下、
S:0.030%以下、 Al:0.01〜0.05%、
N:0.01%以下
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の塗装鋼材製海洋構造物。
【請求項6】
前記Cの含有量が、質量%で0.08%以上0.18%以下であることを特徴とする請求項5に記載の塗装鋼材製海洋構造物。
【請求項7】
前記組成に加えてさらに、質量%でNb:0.010〜0.200%、Ti:0.025%未満のうちの1種または2種を含有することを特徴とする請求項5または6に記載の塗装鋼材製海洋構造物。
【請求項8】
前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.5%以下、Ni:0.5%以下、W:0.03〜0.5%のうちから選ばれた1種または2種以上を、Cu、Ni、W含有量の関係式である、(Cu+Ni+2W)が0.1〜1.0%を満足するように含有することを特徴とする請求項5ないし7のいずれか1項に記載の塗装鋼材製海洋構造物。
【請求項9】
前記組成に加えてさらに、質量%で、Mo:0.5%以下、V:1.0%以下、Sn:0.5%以下、Sb:0.3%以下、Cr:2.0%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項5ないし8のいずれか1項に記載の塗装鋼材製海洋構造物。
【請求項10】
前記PおよびSの含有量が、質量%で、P:0.010%以下、S:0.0020%以下であることを特徴とする請求項5ないし9のいずれか1項に記載の塗装鋼材製海洋構造物。
【請求項11】
前記海洋構造物が、洋上構造物であることを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1項に記載の塗装鋼材製海洋構造物。
【請求項12】
前記洋上構造物が、風力発電タワーであることを特徴とする請求項11に記載の塗装鋼材製海洋構造物。


【図1】
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【公開番号】特開2013−32577(P2013−32577A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−51220(P2012−51220)
【出願日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】