説明

変位計用アンプ装置

【課題】 差動トランス式変位計と歪みゲージ式変位計のいずれを使用する場合であっても、共通して使用することが可能な変位計用アンプ装置を提供する。
【解決手段】 変位計が差動トランス式変位計であるか歪みゲージ式変位計であるかの種別を記憶した不揮発性記憶素子と、変位計の種別に基づいて変位計から受信した出力信号に対するゲインの値を変更する計装アンプ55と、変位計の種別に基づいて変位計から受信した出力信号に対する検波の方法を変更する相関係数計算部58と、変位計の種別に基づいて変位計に送信する電源電圧の波形を変更する波形メモリ53および波形制御部54とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、変位計用アンプ装置に関し、特に、材料試験機に使用される差動トランス式変位計と、歪みゲージ式変位計とを選択使用可能な変位計用アンプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
静的試験や疲労試験等を実行する材料試験機においては、試験片の変位を測定するために変位計が使用される。このような変位計としては、例えば、差動コイルに発生する起電力の差を検出することにより変位を測定するLVDT(Linear Variable Differential Transformer)式とも呼称される差動トランス式変位計や、ひずみゲージの抵抗変化を検出することにより変位を測定するSG(Strain Gauge)式とも呼称される歪みゲージ式変位計が知られている。これらの変位計は、変位計用アンプを介して、材料試験機に接続されている(特許文献1参照)。
【0003】
また、特許文献2には、変位量に対応したLVDT出力をケーブルユニットを介して計装アンプ供給するに際し、材料試験機の電源を投入するたびに計装アンプのゲインを調整しなければならないという問題を解決するために、差動トランス式変位計に実変位を与えることなく電気的に仮想的変位出力を供給するためのキャリブレーション用インピーダンスを備えたケーブルユニットを利用する材料試験機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−331256号公報
【特許文献2】特開2009−250678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
差動トランス式変位計と歪みゲージ式変位計とは、その電気的特性に違いがある。例えば、差動トランス式変位計は交流でのみ駆動されるのに対し、歪みゲージ式変位計は直流でも駆動される。また、差動トランス式変位計の検出感度は比較的高いことから受信回路のゲインは低く設定されるのに対し、歪みゲージ式変位計の検出感度は比較的低く受信回路のゲインを高く設定する必要がある等の差違がある。このため、差動トランス式変位計と、歪みゲージ式変位計との両者を使用する場合には、変位計用アンプも変位計の形式に対応して複数個準備する必要がある。
【0006】
この発明は上記課題を解決するためになされたものであり、差動トランス式変位計と歪みゲージ式変位計のいずれを使用する場合であっても、共通して使用することが可能な変位計用アンプ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、材料試験機に使用される差動トランス式変位計と、歪みゲージ式変位計とを選択使用可能な変位計用アンプ装置であって、接続された変位計が差動トランス式変位計であるか歪みゲージ式変位計であるかを識別する識別手段と、前記識別手段により識別した変位計の種別に基づいて、前記変位計から受信した出力信号に対するゲインの値を変更するゲイン変更手段と、前記識別手段により識別した変位計の種別に基づいて、前記変位計から受信した出力信号に対する検波の方法を変更する検波変更手段と、前記識別手段により識別した変位計の種別に基づいて、前記変位計に送信する電源電圧の波形を変更する電源電圧変更手段とを備えたことを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記変位計が差動トランス式変位計であるか歪みゲージ式変位計であるかの種別と、前記変位計に固有の電気的キャリブレーション用情報とを記憶した記憶部を備えるケーブルユニットを備え、前記識別手段は、前記記憶部に記憶された前記変位計が差動トランス式変位計であるか歪みゲージ式変位計であるかの種別の情報を読み込むことにより、接続された変位計が差動トランス式変位計であるか歪みゲージ式変位計であるかを識別することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、差動トランス式変位計と歪みゲージ式変位計のいずれを使用する場合であっても、単一の変位計用アンプを使用することができる。このため、経済的であり、かつ、設置スペースを小さくすることが可能となる。また、変位計の選択に拡張性を得ることが可能となる。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、ケーブルユニットにおける記憶部に記憶された変位計の種別の情報を利用して接続された変位計が差動トランス式変位計であるか歪みゲージ式変位計であるかを識別できるとともに、この記憶部に記憶された変位計に固有の電気的キャリブレーション用情報を利用して電気的キャリブレーションを実行することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明に係る変位計用アンプ装置を適用した材料試験機の概要図である。
【図2】ケーブルユニット24の概要図である。
【図3】変位計15に対応したケーブルユニット24の機能を示す説明図である。
【図4】アンプコントローラ25のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、この発明に係る変位計用アンプ装置を適用した材料試験機の概要図である。
【0013】
この材料試験機は、テーブル16と、このテーブル16上に鉛直方向を向く状態で回転可能に立設された一対のねじ棹11、12と、これらのねじ棹11、12に沿って移動可能なクロスヘッド13と、このクロスヘッド13を移動させて試験片10に対して試験力を付与するための負荷機構30とを備える。
【0014】
クロスヘッド13は、一対のねじ棹11、12に対して、図示を省略したナットを介して連結されている。各ねじ棹11、12の下端部には、負荷機構30におけるウォーム減速機32、33が連結されている。このウォーム減速機32、33は、負荷機構30の駆動源であるサーボモータ31と連結されており、サーボモータ31の回転がウォーム減速機32、33を介して、一対のねじ棹11、12に伝達される構成となっている。サーボモータ31の回転によって、一対のねじ棹11、12が同期して回転することにより、クロスヘッド13は、これらのねじ棹11、12に沿って昇降する。
【0015】
クロスヘッド13には、試験片10の上端部を把持するための上つかみ具21が付設されている。一方、テーブル16には、試験片10の下端部を把持するための下つかみ具22が付設されている。引っ張り試験を行う場合には、試験片10の両端部をこれらの上つかみ具21および下つかみ具22により把持した状態で、クロスヘッド13を上昇させることにより、試験片10に試験力(引張荷重)を負荷する。
【0016】
このときに、試験片10に作用する試験力はロードセル14によって検出され、演算制御部23に入力される。また、試験片10における標点間の距離の変位量は、変位計15により測定される。この変位計15による変位量の測定値は、ケーブルユニット24およびアンプコントローラ25を介して、演算制御部23に入力される。このケーブルユニット24およびアンプコントローラ25は、この発明に係る変位計用アンプ装置を構成する。
【0017】
演算制御部23はコンピュータやシーケンサーおよびこれらの周辺機器によって構成されており、ロードセル14および変位計15からの試験力データおよび変位量データを取り込んでデータ処理を実行する。また、サーボモータ31は、この演算制御部23により、フィードバック制御される。
【0018】
図2は、図1に示すケーブルユニット24の概要図である。
【0019】
このケーブルユニット24は、変位計15とアンプコントローラ25との間を接続するものであり、変位計側コネクタ241と、試験機側コネクタ242と、これらを連結するケーブル本体243とから構成される。試験機側コネクタ242の内部には、基板244が配設されており、この基板244上には、後述する受動回路と不揮発性記憶素子とが搭載されている。
【0020】
後述するように、変位計15には、差動トランス式変位計と歪みゲージ式変位計とがあり、それらの特性は互いに異なるばかりでなく、同種の変位計であっても使用される仕様により電気的特性が異なり、また、全く同一の製品であってもその特性には製造や組立のばらつきによる違いがみられる。このため、基板244上に搭載してある不揮発性記憶手段の記憶内容、ならびに、受動回路における抵抗器の抵抗値およびコンデンサの静電容量値は、各変位計15の固有特性に適合した内容に設定される。すなわち、不揮発性記憶素子には、変位計に固有の電気的キャリブレーション用情報が記憶され、受動回路は各変位計に対応した設定がなされている。
【0021】
図3は、変位計15に対応したケーブルユニット24の機能を示す説明図である。ここで、図3(a)は、差動トランス式変位計15a用のケーブルユニット24aを示し、図3(b)は、歪みゲージ式変位計15b用のケーブルユニット24bを示している。
【0022】
図3(a)に示す差動トランス式変位計15a用のケーブルユニット24aは、作動トランス式変位計用の受動回路245aと、不揮発性記憶素子246aとを備えている。不揮発性記憶素子246aには、作動トランス式変位計15aに固有の電気的キャリブレーション用情報が記憶され、受動回路245aは作動トランス式変位計15aに対応した設定がなされている。一方、図3(b)に示す歪みゲージ式変位計15b用のケーブルユニット24bは、歪みゲージ式変位計用の受動回路245bと、不揮発性記憶素子246bとを備えている。不揮発性記憶素子246bには、歪みゲージ式変位計15bに固有の電気的キャリブレーション用情報が記憶され、受動回路245bは歪みゲージ式変位計15bに対応した設定がなされている。
【0023】
但し、差動トランス式変位計15a用と歪みゲージ式変位計15b用とにおける変位計側コネクタ241および試験機側コネクタ242の形状やピン割付は、全く同一となっている。このため、これらを選択的に使用することが可能となる。
【0024】
図4は、図1に示すアンプコントローラ25のブロック図である。
【0025】
このアンプコントローラ25は、アンプユニット50と制御回路60とから構成される。アンプユニット50は、ケーブルユニット24における受動回路245に対して変位計15の一次側駆動信号としてのアナログ信号を送信するとともに、この受動回路245から変位計15の二次側受信信号としてのアナログ信号を受信する。また、制御回路60は、ケーブルユニット24における不揮発性記憶素子246にアクセスすることにより、この不揮発性記憶素子246から、ケーブルユニット24を介して接続された変位計15が差動トランス式変位計15aであるか歪みゲージ式変位計15bであるかの種別の情報と、この変位計15に固有の電気的キャリブレーション用情報とを読み取る。また、この制御回路60は、材料試験機本体における演算制御部23に接続されている。
【0026】
このアンプコントローラ25においては、上述したように、制御回路60がケーブルユニット24における不揮発性記憶素子246にアクセスすることにより、ケーブルユニット24を介して接続された変位計15が差動トランス式変位計15aであるか歪みゲージ式変位計15bであるかを識別する。そして、識別した接続された変位計15が差動トランス式変位計15aであるか歪みゲージ式変位計15bであるかの情報に基づいて下記の動作を実行する。この制御回路60および不揮発性記憶素子246は、接続された変位計15が差動トランス式変位計15aであるか歪みゲージ式変位計15bであるかを識別する識別手段として機能する。
【0027】
アンプコントローラ25における駆動側の回路においては、制御回路60が識別した変位計15の情報に基づいて、この変位計15に出力する一次側駆動信号を生成する。すなわち、制御回路60の制御により、波形メモリ53から、変位計15に対応した電源電圧の波形のデータを出力する。より具体的には、差動トランス式変位計15aに対しては電源電圧として正弦波を出力し、歪みゲージ式変位計15bに対しては電源電圧として直流のデータを出力する。このときには、波形制御部54において、差動トランス式変位計15aのときには波形メモリ53のアドレスをすすめ、歪みゲージ式変位計15bのときには波形メモリ53のアドレスを固定しておく。また、波形制御部54は、各差動トランス式変位計15aに対応した周波数を選択する。波形メモリ53からの出力は、D/A変換器でD/A変換された後、パワーアンプ51を介して変位計15に出力される。
【0028】
一方、アンプコントローラ25における受信側の回路においては、制御回路60が識別した変位計15の情報に基づいて、この変位計15から受信する二次側受信信号を処理する。すなわち、最初に、計装アンプ55が、受信信号に対する増幅率を、差動トランス式変位計15aと歪みゲージ式変位計15bとで変更する。また、このときには、変位計15に固有の電気的キャリブレーション用情報に基づいて、増幅率が調整される。この信号は、キャリア信号を残したままで、ローパスフィルタ56およびA/D変換器57を介して、相関係数計算部58に送信される。
【0029】
この相関係数計算部58においては、キャリア信号の検波、すなわち、復調を実行する。この相関係数計算部58は、制御回路60が識別した変位計15の種類に応じて変位計15から受信した出力信号に対する検波の方法を変更する検波変更手段として機能するものであり、変位計15が差動トランス式変位計15aであるか歪みゲージ式変位計15bであるかの情報に基づいて検波方式を変更する。より具体的には、差動トランス式変位計15aのときにはejωt との相関をとることにより検波を行い、歪みゲージ式変位計15bのときには一定値との相関をとることにより検波を行う。なお、このような検波の方法は、例えば、特開2008−76300号公報等に開示されている。
【0030】
検波後の受信信号は、デジタルフィルタ59において、キャリア信号の1周期分ごとの測定結果が平均化され、制御回路60に入力される。そして、制御回路60は、アンプユニット50において処理後の二次側受信信号を、図1に示す演算制御部23に送信する。
【0031】
以上のように、この発明に係る変位計用アンプ装置においては、変位計15として、差動トランス式変位計15aと、歪みゲージ式変位計15bとを選択的に使用することが可能となる。
【符号の説明】
【0032】
10 試験片
11 ねじ棹
12 ねじ棹
13 クロスヘッド
14 ロードセル
15 変位計
16 テーブル
17 照明装置
21 上つかみ具
22 下つかみ具
23 演算制御部
24 ケーブルユニット
25 アンプコントローラ
30 負荷機構
31 サーボモータ
50 アンプユニット
51 パワーアンプ
52 D/A変換器
53 波形メモリ
54 波形制御部
55 計装アンプ
56 ローパスフィルタ
57 A/D変換器
58 相関係数計算部
59 デジタルフィルタ
60 制御回路
241 変位計側コネクタ
242 試験機側コネクタ
243 ケーブル本体
244 基板
245 受動回路
246 不揮発性素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料試験機に使用される差動トランス式変位計と、歪みゲージ式変位計とを選択使用可能な変位計用アンプ装置であって、
接続された変位計が差動トランス式変位計であるか歪みゲージ式変位計であるかを識別する識別手段と、
前記識別手段により識別した変位計の種別に基づいて、前記変位計から受信した出力信号に対するゲインの値を変更するゲイン変更手段と、
前記識別手段により識別した変位計の種別に基づいて、前記変位計から受信した出力信号に対する検波の方法を変更する検波変更手段と、
前記識別手段により識別した変位計の種別に基づいて、前記変位計に送信する電源電圧の波形を変更する電源電圧変更手段と、
を備えたことを特徴とする変位計用アンプ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の変位計用アンプ装置において、
前記変位計が差動トランス式変位計であるか歪みゲージ式変位計であるかの種別と、前記変位計に固有の電気的キャリブレーション用情報とを記憶した記憶部を備えるケーブルユニットを備え、
前記識別手段は、前記記憶部に記憶された前記変位計が差動トランス式変位計であるか歪みゲージ式変位計であるかの種別の情報を読み込むことにより、接続された変位計が差動トランス式変位計であるか歪みゲージ式変位計であるかを識別することを特徴とする変位計用アンプ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−169774(P2011−169774A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−34263(P2010−34263)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】