説明

変形・歪に敏感なワークのチャッキング方法、及びこの方法を実施するためのチャック

本発明は、薄壁のリング、またはその他の、変形・歪の悪影響を受け易いワーク(6)をチャッキングする方法に関する。用いるチャック(1)は、チャック躯幹体(3)中にあって、複数のクランプジョー(2)より根元側に、磁極ブロック(7)を備え、磁極ブロック(7)が少なくとも1つの磁石(4)を有する。チャッキングの対象であるワーク(6)について、該チャック(1)の複数のクランプジョー(2)の間に配置し、クランプジョー(2)を閉じることにより心出しを行ない、このように心出しされた位置・姿勢にて、磁石(4)により固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変形・歪の悪影響を受け易いワーク(変形・歪に敏感なワーク)、特に薄壁のリングをチャッキング(chucking)する次のような方法からなる。すなわち、チャックとしては、チャック躯幹体中にあって、複数のクランプジョーより根元側に、少なくとも1つの磁石を有する磁極ブロック(magnetic pole block)が備えられたものを用いる。そして、チャッキングすべきワークについて、該チャックの複数のクランプジョーの間に配置し、クランプジョーを閉じることにより心出し(centering alignment)を行ない、このように心出しされた位置・姿勢にて、磁石により固定する。この方法を実施するためのチャックも、本発明の対象である。
【背景技術】
【0002】
変形・歪に敏感なワークを切削加工するため、該ワークについて、磁石を用いてワークをチャッキングする装置を使用して、保持することが技術水準から知られている。例えばドイツ実用新案DE29904532U1に記載されている。しかしながら、このようなチャッキングは、ワークの取り付け面が小さい場合に、保持力が小さくなりすぎるという不利な点と結び付いている。この問題は、原理上、薄壁のリングである場合のワークの形状に起因する。このようなワークの形状は、約250mm〜5000mmの範囲の径を有する軸受リングとして、必要となるようなものである。このような問題以外にも、加工動作の際に出現する応力によって、ワークの位置がずらされる可能性がある。また、心出しされたチャッキングが磁石により行われることがないので、加工動作の開始前に、ワークを正確に心合わせするのに多大な時間を費やす必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】ドイツ特許DE4200269C
【特許文献2】ドイツ実用新案DE29904532U1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明の根底をなす課題は、前述の不利な点の発生が防がれた方法を提供することである。さらに本発明の課題は、本発明による方法を実施することのできるチャックを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題における方法に関する部分は、冒頭に述べた方法によって解決される。
【発明の効果】
【0006】
この方法は、次のような事実を生かしたものである。すなわち、さらなる労力を要することなく、上記チャックにより、心出しを伴うチャッキングを実現できる。したがって、ワークの加工動作を開始する前に、シンプルな方式により、ワークの正確な心出しが確実に実現される。また、上記チャックを使用することにより、ワークはチャックの複数のクランプジョーによって、嵌合または突き当てにより係止されて固定されている。そのため、加工作動の際に出現する力により、ワークの位置がずれることがない。なお、本発明の方法では、以下に留意すべきである。上記チャックは、該チャックについての通常の一般的な所定の目的から外れて、次のように用いることができるのであり、変形・歪に敏感なワークのチャッキングに当然に用いなければならないというのではない。すなわち、心出しの役割を果たすようにクランプジョーを閉じる際に、チャッキング力を生じさせるという、補助的な用い方も、もちろん可能である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明のチャックについて、先端側から見た模式的な図である。チャッキングされた軸受けリングをも併せて示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の枠内において、複数のクランプジョーを閉じた後、電磁石として具現された磁石について、通電を行って作動をさせるというのであれば好ましい。このようであると、クランプジョーによるワークの心出しが、永久磁石との相互作用による干渉や妨げを受けることなく実現できる。
【0009】
また、本発明の枠内において、次のような形態をとることができる。すなわち、遠心力によって発生するクランプジョーの締め付け力損失を少なくとも部分的に補償すべく、回転数に依存して電磁石の電場の強さを大きくすることができる。このようにして、ワークの位置・姿勢を、確実に保持することができる。当然ながら、次のような形態をとることもできる。すなわち、遠心力によって発生するクランプジョーの締め付け力損失を少なくとも部分的に補償するため、回転数に依存して締め付け力自体を増大させることもできる。
【0010】
上記のドイツ実用新案DE29904532U1に記載の装置とは異なり、チャックを使用しているためにワークの加工は2つの面でのみ可能である。というのは、第3の面はクランプジョーにより遮られているからである。このため、本発明の枠内において、次のことが想定されている。すなわち、ワークにおける遮られていない2つの面について加工を行った後、クランプジョーをワークから引き離し、ワークの固定が電磁石だけで行われるようにする。このようにすることで、クランプジョーを用いることに起因する不都合を回避することができる。
【0011】
また、ワークの位置・姿勢のズレを阻止すべく、本発明による方法の枠内において、クランプジョーを引き離した後、電磁石の電場の強さを増大させることが想定されている。
【0012】
上記の本発明の課題における装置に関する部分は、次のようなチャックによって解決される。チャックは、手動操作式または動力操作式であって、次のような特徴を有する。すなわち、一つのチャック躯幹体中に、半径方向に案内されている複数のクランプジョーを有し、チャック躯幹体には、複数のクランプジョーより根元側に、磁極ブロック、及び、少なくとも1つの電磁石が配置されている。技術水準により基本構造が公知となっているチャックの内部にて、磁極ブロックと電磁石とを一体に設けるならば、次のような実施形態をとることができる。すなわち、技術水準により公知であるチャックの基本構造をそのままに保つことができ、特には、根元側に配置されている磁極ブロックにより、クランプジョーの位置・姿勢のシフトの範囲が制限されることがないという実施形態が得られる。
【0013】
また、次のようであると特に好ましい。すなわち、複数の磁石領域中にあって複数のクランプジョーの間には、一つの電磁石からなる一つのソレノイド・コイル装置が配置されるか、または、複数の電磁石からなる複数のソレノイド・コイル装置が配置される。この配置構成によると、わずかな構造上の損失でもって、すなわち、小さな構造部分を用いるだけで、大きな電場の強さを得ることができる。さらには、6個のクランプジョーと6個の磁石領域が設けられているのが好ましい。このようであると、機械装置のコストを小さくすることと、変形や歪に敏感なワークに対して、周方向に均一な応力を作用させることとの間にて、合理的な妥協が得られるからである。
【0014】
上記の他に、各磁石領域が、中央での分割により、極性の異なる複数の領域を有しているならば好ましい。このようであると、任意の奇数個のクランプジョーを使用することも可能だからである。
【0015】
以下に、本発明の、図面に示す実施形態について詳細に説明する。
【0016】
図1には、本発明を手動操作式または動力操作式の実施形態にて実施するのに用いることのできるチャック1について示す。クランプジョー2を作動させるためのチャック1の基本構造は、技術水準から、そのまま引き継ぐことができるので、図1には、本発明の説明に充分である模式的な、先端側から見た図を示す。図1に示すチャック躯幹体3中には、複数個のクランプジョー2、詳しくは6個のクランプジョー2が半径方向に案内されている。チャック躯幹体3中にあって、これらクランプジョー2に比べて根元側に、少なくとも1つの電磁石4を備えた磁極ブロック7が配置されている。図示の実施例によれば、電磁石4が、この場合も先と同様に、6個存在する。これらの電磁石4は、クランプジョー2が位置・姿勢をシフトする距離範囲内に位置している。不図示の実施例によると、各磁石領域5が、中央での分割により、相異なる極性の複数の部分領域を有するようにすることができるのであり、この場合にも、隣合う2つの磁石領域における、互いに隣合う部分領域が相異なる極性を有することに変わりはない。上記の複数の電磁石4により、複数の磁石領域5が決定されるのであり、ここで、隣合う磁石領域5は、異なる磁極性を有する。このようなチャック1を用いるならば、変形・歪に敏感なワーク6、特には軸受リングのような薄壁のリングを、複数のクランプジョー2の間に配置することができ、このワーク6について、クランプジョー2を閉じることによって心出しすることができる。ワーク6の心出しの後、ワーク6は、磁石の作用により保持される。特には、電磁石4に通電して作動状態とすることにより保持される。ここで、このように保持する保持力は、言うまでもなく、クランプジョー2によって補強することができる。しかし、変形・歪に敏感なワーク6が歪むのを避けるために、クランプジョー2は、チャッキングの荷重・応力を主として担うということがないようにすべきである。また、本発明のチャック1によると、次のような形態をとることができる。すなわち、遠心力に起因するクランプジョー2の締め付け力損失を補償するため、電磁石4の電場の強さを大きくすること、および/または、クランプジョー2の締め付け力そのものを増大させること(すなわち、これらの少なくとも一方)が行われる。また、ワーク6における2つの、完全にむき出しとなっている面(すなわち、リングの内周面、及び先端側の端面)について加工を行った後に、ワーク6における、未加工の、加工を行うべき面(すなわち、リングの外周面)についても加工を行うことができるようにすべく、以下のことが想定されている。すなわち、これらクランプジョー2について、開くか、根元側へと後退させるか、または、他の方式により未加工の、加工予定の面から引き離す。場合によっては、電磁石4の電場の強さを増大させる。すると、電磁石4の電場のみによって、ワーク6のチャッキングが行われることとなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄壁のリング、またはその他の、変形・歪に敏感なワーク(6)をチャッキングする方法であって、チャック(1)として、チャック躯幹体(3)中における複数のクランプジョー(2)より根元側に、磁極ブロック(7)を備え、磁極ブロック(7)に少なくとも1つの磁石(4)が備えられたものを用い、
チャッキングすべきワーク(6)について、該チャック(1)の複数のクランプジョー(2)の間に配置し、クランプジョー(2)を閉じることにより心出しを行ない、このように心出しされた位置・姿勢にて、磁石(4)により固定するチャッキング方法。
【請求項2】
クランプジョー(2)を閉じた後、電磁石(4)からなる磁石について、通電により作動状態とすることを特徴とする請求項1に記載のチャッキング方法。
【請求項3】
心出しの役割を果たすようにクランプジョー(2)を閉じる際に、チャッキング力を生じさせることを特徴とする請求項1または2に記載のチャッキング方法。
【請求項4】
遠心力によって引き起こされる、クランプジョー(2)の締め付け力の損失を少なくとも部分的に補償すべく、回転数に依存して電磁石(4)の電場の強さを増大させることを特徴とする請求項3に記載のチャッキング方法。
【請求項5】
遠心力によって引き起こされる、クランプジョー(2)の締め付け力の損失を少なくとも部分的に補償すべく、回転数に依存して締め付け力を増大させることを特徴とする請求項3に記載のチャッキング方法。
【請求項6】
ワーク(6)における2つのむき出しの面に加工を行った後、複数のクランプジョー(2)について、外側へと開くか、もしくはその他の様式でワーク(6)から引き離すか、根元側へと引き戻すか、または、他の方式により、ワーク(6)における加工を行うべき面から引き離し、そして、
電磁石(4)のみにより、ワーク(6)についての固定を実現することを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載のチャッキング方法。
【請求項7】
クランプジョー(2)を引き離した後、電磁石(4)の電場の強さを増大させることを特徴とする請求項6に記載のチャッキング方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のチャッキング方法を実施するためのチャックであって、チャックには、複数個のクランプジョー(2)がチャック躯幹体(3)中に半径方向に案内されて備えられ、チャック躯幹体(3)には、クランプジョー(2)より根元側に、少なくとも1つの電磁石(4)を備えた磁極ブロック(7)が配置されていることを特徴とするチャック。
【請求項9】
クランプジョー(2)に挟まれる各磁石領域(5)内には、1つの電磁石(4)をなすソレノイドコイル装置が配置されるか、または、複数の電磁石(4)をなす複数のソレノイドコイル装置が配置され、また、磁石領域(5)は、隣合う磁石領域(5)間で互いに異なる磁気極性を有するように配置されることを特徴とする請求項8に記載のチャック。
【請求項10】
6個のクランプジョー(2)、及び、6個の磁石領域(5)が備えられることを特徴とする請求項9に記載のチャック。
【請求項11】
各磁石領域(5)が、中央での分割により、互いに極性の異なる複数の領域を有していることを特徴とする請求項9または10に記載のチャック。

【図1】
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【公表番号】特表2011−500339(P2011−500339A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−529226(P2010−529226)
【出願日】平成19年10月16日(2007.10.16)
【国際出願番号】PCT/DE2007/001835
【国際公開番号】WO2009/049569
【国際公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(597007204)ロェーム ゲーエムベーハー (33)
【Fターム(参考)】