説明

変性ポリオレフィン樹脂の製造方法

【課題】エネルギーロスが少なく、生産性に優れ、熱劣化が少ない変性ポリオレフィン樹脂の製造方法を提供すること。
【解決手段】以下の連続する工程からなることを特徴とする変性ポリオレフィン樹脂の製造方法;(1)1〜40重量%の揮発成分を含有するポリオレフィン樹脂から揮発成分を脱揮して、揮発成分量が0〜0.5重量%であるポリオレフィン樹脂(A)を得る工程、ならびに、(2)該ポリオレフィン樹脂(A)100重量部と、少なくとも1種の不飽和基(b1)および少なくとも1種の極性基(b2)を有する化合物(b)0.01〜20重量部と、有機過酸化物(c)0.001〜20重量部とを反応させて、変性ポリオレフィン樹脂(B)を製造する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性ポリオレフィン樹脂の製造方法に関する。さらに詳細には、エネルギーロスが少なく、生産性に優れ、熱劣化が少ない変性ポリオレフィン樹脂の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン樹脂は、比較的安価で、かつ良好な成形性、耐熱性、耐溶剤性、機械的特性、外観等を有するため、多方面の分野で使用されている。さらにその特長を活かすために、異種ポリマーとブレンドしたりアロイ化したり、各種の無機材料と組み合わせて複合材料としたり、あるいは金属に積層して、より優れた特長を有する材料を形成する試みが行われている。
【0003】
しかし、極性基のないポリオレフィン樹脂は、接着性、塗装性、印刷性等に問題があり、無機材料や金属との接着性が良好ではなかった。また、極性基を有する異種ポリマー、特にポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリフェニレンオキサオド樹脂等のいわゆるエンジニアリングプラスチックとは相容性が低いために、両者を配合したポリマーアロイは耐衝撃性や機械的強度などが低くなり、成形品に表面剥離が生じることがあった。
【0004】
成形品に表面剥離が生じることを防止するために、ポリオレフィン樹脂を改質する方法が提案され、電子線、放射線やオゾン等でのポリプロピレンを処理する方法、あるいは、有機過酸化物等ラジカル発生剤存在下、不飽和カルボン酸及びその誘導体等を用いてグラフト変性させる方法が行われており、一般的には、溶媒および揮発成分を除去した重合体を混練押出機を使用して加熱溶融させ、溶融状態でポリオレフィン樹脂を不飽和カルボン酸又はその誘導体でグラフト変性させる方法が行われている(特許文献1)。
【0005】
溶液重合法や塊状重合法で重合された樹脂を加熱溶融して脱揮押出機に供給し、揮発成分を除去し、重合体を取り出す方法は、これまでに種々の方法が提案されている(特許文献2〜5)。
しかしながら、さらに変性樹脂の製造を行うには、再度取り出した樹脂を加熱溶融させて変性剤や有機過酸化物と反応させる必要が生じるため、エネルギーロスが大きく、生産性が劣り、変性樹脂の熱劣化を促進させる可能性があった。
【0006】
【特許文献1】特開2005−121171号公報
【特許文献2】特公昭51−29914号公報
【特許文献3】特公昭52−17555号公報
【特許文献4】特開昭57−49603号公報
【特許文献5】特開昭58−147332号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
かかる状況の下、1度の加熱溶融させる工程で、連続して重合後の重合溶液から溶媒等の揮発成分の除去、および、ポリオレフィン樹脂の変性までを行うべく鋭意検討を行った。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、エネルギーロスが少なく、脱揮と変性とを同時に行うため生産性に優れ、熱劣化が少ない変性ポリオレフィン樹脂の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、下記の手段により解決された。
以下の連続する工程からなることを特徴とする変性ポリオレフィン樹脂の製造方法;
(1)1〜40重量%の揮発成分を含有するポリオレフィン樹脂から揮発成分を脱揮して、揮発成分含有量が0〜0.5重量%であるポリオレフィン樹脂(A)を得る工程、ならびに、
(2)該ポリオレフィン樹脂(A)100重量部と、少なくとも1種の不飽和基(b1)および少なくとも1種の極性基(b2)を有する化合物(b)0.01〜20重量部と、有機過酸化物(c)0.001〜20重量部とを反応させて、変性ポリオレフィン樹脂(B)を製造する工程。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、エネルギーロスが少なく、生産性に優れ、熱劣化が少ない変性ポリオレフィン樹脂の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の変性ポリオレフィン樹脂の製造方法は、以下の連続する工程からなることを特徴とする。
(1)1〜40重量%の揮発成分を含有するポリオレフィン樹脂から揮発成分を脱揮して、揮発成分含有量が0〜0.5重量%であるポリオレフィン樹脂(A)を得る工程、ならびに、
(2)該ポリオレフィン樹脂(A)100重量部と、少なくとも1種の不飽和基(b1)および少なくとも1種の極性基(b2)を有する化合物(b)0.01〜20重量部と、有機過酸化物(c)0.001〜20重量部とを反応させて、変性ポリオレフィン樹脂(B)を製造する工程。
【0012】
以下、「1〜40重量%の揮発成分を含有するポリオレフィン樹脂から揮発成分を脱揮して、揮発成分含有量が0〜0.5重量%であるポリオレフィン樹脂(A)」、「少なくとも1種の不飽和基(b1)」、「少なくとも1種の極性基(b2)」、「化合物(b)」、「有機過酸化物(c)」、「変性ポリオレフィン樹脂(B)」をそれぞれ単に、「成分(A)」、「不飽和基(b1)」、「極性基(b2)」、「成分(b)」、「成分(c)」および「成分(B)」ともいう。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
<成分(A)>
本発明で用いられる成分(A)とは、「1〜40重量%の揮発成分を含有するポリオレフィン樹脂から揮発成分を脱揮して、揮発成分含有量が0〜0.5重量%であるポリオレフィン樹脂(A)」をいう。具体的には、公知の触媒を用いて溶液重合法や塊状重合法、好ましくは溶液重合法で重合されたエチレン、プロピレン、炭素数4以上のα−オレフィン、環状オレフィン、ビニル化合物、ビニルエステル化合物、不飽和カルボン酸エステル、不飽和カルボン酸、アルケニル芳香族炭化水素に由来する単量体単位を少なくとも1種含有するポリオレフィン樹脂である。
成分(A)は、上記単量体単位のいずれかを単独で含有する単独重合体であっても良く、少なくとも2種を含有する共重合体であっても良い。
【0014】
成分(A)に用いられる炭素数4以上のα−オレフィンとしては、直鎖状のα−オレフィン、分岐状のα−オレフィンが挙げられる。
直鎖状のα−オレフィンとしては、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−へプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、および、1−エイコセン等が挙げられ、好ましくは1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−へプテン、1−オクテンである。
分岐状のα−オレフィンとしては、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、2−エチル−1−ヘキセン、および、2,2,4−トリメチル−1−ペンテン等が挙げられる。
【0015】
環状オレフィンは、4個以上の炭素原子が環を形成し、該環の中に少なくとも1個の炭素−炭素二重結合を含むオレフィンであり、単環状オレフィン、置換単環状オレフィン、多環状オレフィン、置換多環状オレフィン等が挙げられる。
【0016】
単環状オレフィンとしては、例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロペンタジエン、シクロヘキセン、1,3−シクロヘキサジエン、1,4−シクロヘキサジエン、シクロヘプテン、1,3−シクロヘプタジエン、1,3,5−シクロヘプタトリエン、シクロオクテン、1,5−シクロオクタジエン、および、シクロドデセン等が挙げられる。
【0017】
置換単環状オレフィンとしては、例えば、3−メチルシクロペンテン、4−メチルシクロペンテン、4,4−ジメチルシクロペンテン、3−メチルシクロヘキセン、4−メチルシクロヘキセン、4,4−ジメチルシクロヘキセン、および、1,3−ジメチルシクロヘキセン等が挙げられる。
【0018】
多環状オレフィンまたは置換多環状オレフィンとしては、下記一般式[I]で表される環状オレフィンが挙げられる。
【0019】
【化1】

【0020】
(式中、R1〜R12はそれぞれ独立に、水素原子、水酸基、アミノ基、ホスフィノ基、または炭素数1〜20の有機基であり、R10とR11は環を形成してもよい。mは0以上の整数を示す。)
【0021】
一般式[I]中、炭素数1〜20の有機基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基等のアルキル基;フェニル基、トルイル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基等のアリールオキシ基;アセチル基等のアシル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基もしくはアラルキルオキシカルボニル基;アセチルオキシ基等のアシルオキシ基;メトキシスルホニル基、エトキシスルホニル基等のアルコキシスルホニル基、アリールオキシスルホニル基もしくはアラルキルオキシスルホニル基;トリメチルシリル基等の置換シリル基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基;カルボキシル基;シアノ基等が挙げられ、さらに上記アルキル基、アリール基またはアラルキル基の少なくとも1つの水素原子が水酸基、アミノ基、アシル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、置換シリル基、アルキルアミノ基またはシアノ基で置換された基が挙げられる。
【0022】
1〜R12として好ましくは、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基、炭素数1〜20のアシル基、炭素数2〜20のアルコキシカルボニル基、炭素数1〜20のアシルオキシ基または炭素数1〜20の2置換シリル基である。
【0023】
mは0以上の整数であり、好ましくは0≦m≦3の整数である。
一般式[I]で表される環状オレフィンとして好ましくは、ノルボルネン、5−メチルノルボルネン、5−エチルノルボルネン、5−ブチルノルボルネン、5−フェニルノルボルネン、5−ベンジルノルボルネン、テトラシクロドデセン、トリシクロデセン、トリシクロウンデセン、ペンタシクロペンタデセン、ペンタシクロヘキサデセン、8−メチルテトラシクロドデセン、8−エチルテトラシクロドデセン、5−アセチルノルボルネン、5−アセチルオキシノルボルネン、5−メトキシカルボニルノルボルネン、5−エトキシカルボニルノルボルネン、5−メチル−5−メトキシカルボニルノルボルネン、5−シアノノルボルネン、8−メトキシカルボニルテトラシクロドデセン、8−メチル−8−テトラシクロドデセン、および、8−シアノテトラシクロドデセン等が挙げられる。
【0024】
成分(A)に用いられるビニル化合物としては、下記一般式[II]で示されるビニル化合物が挙げられる。
CH2=CH−R13 [II]
(式[II]中、R13は2級アルキル基、3級アルキル基またはシクロアルキル基を示す。)
【0025】
2級アルキル基としては炭素数3〜20の2級アルキル基が好ましく、3級アルキル基としては炭素数4〜20の3級アルキル基が好ましく、シクロアルキル基としては3〜16員環を有するシクロアルキル基が好ましく、3〜10員環を有するシクロアルキル基がより好ましい。
【0026】
一般式[II]で示されるビニル化合物としては、例えば、ビニルシクロプロパン、ビニルシクロブタン、ビニルシクロペンタン、ビニルシクロヘキサン、ビニルシクロヘプタン、ビニルシクロオクタン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ヘキセン、3−メチル−1−ヘプテン、3−メチル−1−オクテン、3,3−ジメチル−1−ブテン、3,3−ジメチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘプテン、3,3−ジメチル−1−オクテン、3,4−ジメチル−1−ペンテン、3,4−ジメチル−1−ヘキセン、3,4−ジメチル−1−ヘプテン、3,4−ジメチル−1−オクテン、3,5−ジメチル−1−ヘキセン、3,5−ジメチル−1−ヘプテン、3,5−ジメチル−1−オクテン、3,6−ジメチル−1−ヘプテン、3,6−ジメチル−1−オクテン、3,7−ジメチル−1−オクテン、3,3,4−トリメチル−1−ペンテン、3,3,4−トリメチル−1−ヘキセン、3,3,4−トリメチル−1−ヘプテン、3,3,4−トリメチル−1−オクテン、3,4,4−トリメチル−1−ペンテン、3,4,4−トリメチル−1−ヘキセン、3,4,4−トリメチル−1−ヘプテン、3,4,4−トリメチル−1−オクテン、5−ビニル−2−ノルボルネン、1−ビニルアダマンタン、4−ビニル−1−シクロヘキセン等が挙げられる。
【0027】
成分(A)に用いられるアルケニル芳香族炭化水素としては、下記一般式[III]で表されるアルケニル芳香族炭化水素が挙げられる。

(式中、R14は水素原子または炭素数1〜20のアルキル基であり、Arは炭素数6〜25の芳香族炭化水素基を示す。)
【0028】
一般式[III]中、R14が炭素数1〜20のアルキル基である場合、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基等が挙げられる。R14として、好ましくは、水素原子またはメチル基である。
【0029】
一般式[III]中、Arとしては、例えば、フェニル基、トルイル基、キシリル基、第三級ブチルフェニル基、ビニルフェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、アントラセニル基、ベンジル基等が挙げられる。好ましくは、フェニル基、トルイル基、キシリル基、第三級ブチルフェニル基、ビニルフェニル基またはナフチル基である。
【0030】
一般式[III]で表されるアルケニル芳香族炭化水素としては、例えば、スチレン、2−フェニルプロピレン、2−フェニルブテン、3−フェニルプロピレン等のアルケニルベンゼン;p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−エチルスチレン、m−エチルスチレン、o−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、3,4−ジメチルスチレン、3,5−ジメチルスチレン、3−メチル−5−エチルスチレン、p−第3級ブチルスチレン、p−第2級ブチルスチレンなどのアルキルスチレン;1−ビニルナフタレン等のアルケニルナフタレン等が挙げられる。好ましくは、スチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−第3級ブチルスチレン、2−フェニルプロピレン、または1−ビニルナフタレンであり、より好ましくはスチレンである。
【0031】
成分(A)に用いられるビニルエステル化合物としては、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0032】
成分(A)に用いられる不飽和カルボン酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等が挙げられる。
【0033】
成分(A)に用いられる不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸等があげられる。
【0034】
成分(A)のテトラリン中135℃で測定される極限粘度([η])は、揮発成分を効率よく脱揮させるという観点から、好ましくは0.08〜10dl/gであり、より好ましくは0.1〜5dl/gであり、さらに好ましくは0.2〜3dl/gである。
【0035】
成分(A)のゲル・パーミエイション・クロマトグラフィー(GPC)によって測定される分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.2〜5.0であり、より好ましくは1.5〜3.0である。なお、Mwは重量平均分子量を示し、Mnは数重量平均分子量を示す。
【0036】
本発明の揮発成分とは、溶液重合法あるいは塊状重合法によって得られた未反応単量体、溶剤、副生成物あるいは不純物等の揮発成分を指す。
【0037】
本発明の方法でいう未反応単量体とは、成分(A)を重合あるいは共重合させた後、重合体組成物中に存在する重合してない残存単量体であり、エチレン、スチレン、ノルボルネン、2−メチルプロピレン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、ジシクロペンタジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ジシクロオクタジエン、7−メチル−1,6−オクタジエン、5−ビニル−2−ノルボルネン、ビニルシクロヘキサン等の成分(A)を合成する際の原料となるモノマーの未反応分があげられる。
【0038】
本発明の方法でいう重合体組成物中の溶剤とは、一般に溶液重合として使用できる溶剤であれば特に限定しないが、メチルブタン、ジメチルブタン、ペンタン、メチルペンタン、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、メチルシクロペンタン等の環式脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、メタノール、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノール、イソブチルアルコール等のアルコール又は、メチレンクロライド、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素があげられ、1種または2種以上組み合わされたものがあげられる。
【0039】
また本発明でいう副生成物は、反応中に生成する揮発性の低分子量物あるいは原料に含まれる揮発性の成分である。
【0040】
本発明において、成分(A)に含まれる揮発成分量は0〜0.5重量%であり、成分(A)は実質的に揮発成分を含まないことが好ましい。「実質的に揮発成分を含まない」とは成分(A)に含まれる揮発成分量が好ましくは5,000ppm以下であり、1,000ppm以下であることがより好ましく、100ppm以下であることが更に好ましい。
揮発成分量が0.5重量%を超えると、変性時にグラフト率が低下する傾向にある。
【0041】
成分(A)の製造には、狭分子量分布の共重合体が得られる点から、メタロセン系触媒を用いることが好ましい。メタロセン系触媒としては、シクロペンタジエニル骨格を少なくとも1個有する周期表第4族〜第6族の遷移金属錯体を挙げることができる。メタロセン系触媒の具体例としては、たとえば特開平9−12635号公報や特開平9−151205号公報記載のメタロセン系触媒を挙げることができる。
【0042】
成分(A)としては、グラフト時のMFRの変動を抑えるという観点から、好ましくはプロピレン及び/又は炭素数4〜20のα−オレフィン側鎖の配列がアタクチック構造であるオレフィン共重合体であることが好ましい。
成分(A)であるオレフィン共重合体中の立体規則性をアタクチック構造にするには、エチレン、プロピレン及び炭素数4〜20のα−オレフィンからなる群から選ばれた2種以上のオレフィンであって、選ばれたオレフィンの炭素数の合計が6以上である2種以上のオレフィン、並びに任意に環状オレフィンを、下記(D)と、(E)及び/又は(F)とを用いてなるオレフィン重合用触媒の存在下で共重合することによって製造することができる。
【0043】
(D):下記一般式[IV]〜[VI]で表される遷移金属錯体のうちの少なくとも一種。
【0044】
【化2】

【0045】
(上記一般式[IV]〜[VI]においてそれぞれ、M1は元素の周期律表の第4族の遷移金属原子を示し、Aは元素の周期律表の第16族の原子を示し、Jは元素の周期律表の第14族の原子を示す。Cp1はシクロペンタジエン形アニオン骨格を有する基を示す。X1、X2、R15、R16、R17、R18、R19及びR20はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、アリール基、置換シリル基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基又は2置換アミノ基を示す。X3は元素の周期律表の第16族の原子を示す。R15、R16、R17、R18、R19及びR20は任意に結合して環を形成してもよい。2つのM1、A、J、Cp1、X1、X2、X3、R15、R16、R17、R18、R19及びR20はそれぞれ同じであっても異なっていてもよい。)
(E):下記(E1)〜(E3)から選ばれる1種以上のアルミニウム化合物
(E1):一般式 E1aAlZ3-aで示される有機アルミニウム化合物
(E2):一般式 {−Al(E2)−O−}bで示される構造を有する環状のアルミノキサン
(E3):一般式 E3{−Al(E3)−O−}cAlE32で示される構造を有する線状のアルミノキサン
(但し、E1、E2及びE3は、それぞれ炭化水素基であり、全てのE1、全てのE2及び全てのE3は同じであっても異なっていてもよい。Zは水素原子又はハロゲン原子を表し、全てのZは同じであっても異なっていてもよい。aは0<a≦3を満足する数を、bは2以上の整数を、cは1以上の整数を表す。)
【0046】
(F):下記(F1)〜(F3)のいずれかのホウ素化合物
(F1):一般式 BQ123で表されるホウ素化合物、
(F2):一般式 G+(BQ1234-で表されるホウ素化合物、
(F3):一般式 (L−H)+(BQ1234-で表されるホウ素化合物
(但し、Bは3価の原子価状態のホウ素原子であり、Q1〜Q4はハロゲン原子、炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基、置換シリル基、アルコキシ基又は2置換アミノ基であり、それらは同じであっても異なっていてもよい。G+は無機又は有機のカチオンであり、Lは中性ルイス塩基であり、(L−H)+はブレンステッド酸である。)
【0047】
(D)、(E)および(F)に示すオレフィン重合用触媒の具体例については、特開2005−120171号公報の段落0021〜0056を参照することができる。
【0048】
各成分の使用量は通常、(E)/(D)のモル比が0.1〜10,000で、好ましくは5〜2,000、(F)/(D)のモル比が0.01〜100で、好ましくは0.5〜10の範囲にあるように、各成分を用いることが望ましい。
【0049】
各成分を溶液状態もしくは溶媒に懸濁状態で用いる場合の濃度は、重合反応器に各成分を供給する装置の性能などの条件により、適宜選択されるが、一般に、(D)が、通常0.01〜500μmol/gで、より好ましくは、0.05〜100μmol/g、更に好ましくは、0.05〜50μmol/g、(E)が、Dl原子換算で、通常0.01〜10,000μmol/gで、より好ましくは、0.1〜5,000μmol/g、更に好ましくは、0.1〜2,000μmol/g、(F)は、通常0.01〜500μmol/gで、より好ましくは、0.05〜200μmol/g、更に好ましくは、0.05〜100μmol/gの範囲にあるように各成分を用いることが望ましい。
【0050】
成分(A)を製造するには、たとえば、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、又はメチレンジクロライド等のハロゲン化炭化水素を溶媒として用いる溶媒重合、又はスラリー重合、ガス状のモノマー中での気相重合等が可能であり、また、連続重合、回分式重合のどちらでも可能である。
重合温度は、−50〜200℃の範囲を取り得るが、特に、−20〜100℃の範囲が好ましく、重合圧力は、常圧〜60kg/cmGが好ましい。
重合時間は、一般的に、使用する触媒の種類、反応装置により適宜決定されるが、1分間〜20時間の範囲を取ることができる。また、重合体の分子量を調節するために水素等の連鎖移動剤を添加することもできる。
また2種類以上の(A1)成分を併用してもよい。
【0051】
<成分(b)>
本発明で用いられる成分(b)は、「少なくとも1種の不飽和基(b1)および少なくとも1種の極性基(b2)を有する化合物(b)」をいう。成分(b)における不飽和基(b1)は、炭素−炭素二重結合または炭素−炭素三重結合が好ましい。
【0052】
本発明で用いられる成分(b)における極性基(b2)として、カルボキシル基、エステル基、アミノ基、アミノ基から誘導されるアンモニウム塩の構造を有する基、アミド基、イミド基、ニトリル基、エポキシ基、水酸基、イソシアナート基、2−オキサ−1,3−ジオキソ−1,3−プロパンジイル基、ジヒドロオキサゾリル基を例示することができる。
【0053】
成分(b)として、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸エステル、不飽和カルボン酸アミド、不飽和カルボン酸無水物、不飽和エポキシ化合物、不飽和アルコール、不飽和アミン、および不飽和イソシアナートを例示することができる。具体的な成分(b)として以下グループ(1)〜(14)の化合物を例示することができ、これらの化合物の2種以上を組合せても良い。
【0054】
<グループ(1)>
マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、マレイミド、マレイン酸ヒドラジド、無水メチルナジック酸、無水ジクロロマレイン酸、マレイン酸アミド、イタコン酸、無水イタコン酸、グリシジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、およびアリルグリシジルエーテル。
【0055】
<グループ(2)>
無水マレイン酸とジアミンとの反応物のような、下式で表される化合物(式中、Rは脂肪族基または芳香族基を表す)。
【0056】
【化3】

【0057】
<グループ(3)>
大豆油、キリ油、ヒマシ油、アマニ油、麻実油、綿実油、ゴマ油、菜種油、落花生油、椿油、オリーブ油、ヤシ油、およびイワシ油のような天然油脂。
【0058】
<グループ(4)>
上記のような天然油脂をエポキシ化して得られる化合物。
【0059】
<グループ(5)>
アクリル酸、ブテン酸、クロトン酸、ビニル酢酸、メタクリル酸、ペンテン酸、アンゲリカ酸、チグリン酸、2−ペンテン酸、3−ペンテン酸、α−エチルアクリル酸、β−メチルクロトン酸、4−ペンテン酸、2−ヘキセン、2−メチル−2−ペンテン酸、3−メチル−2−ペンテン酸、α−エチルクロトン酸、2,2−ジメチル−3−ブテン酸、2−ヘプテン酸、2−オクテン酸、4−デセン酸、9−ウンデセン酸、10−ウンデセン酸、4−ドデセン酸、5−ドデセン酸、4−テトラデセン酸、9−テトラデセン酸、9−ヘキサデセン酸、2−オクタデセン酸、9−オクタデセン酸、アイコセン酸、ドコセン酸、エルカ酸、テトラコセン酸、ミコリペン酸、2,4−ヘキサジエン酸、ジアリル酢酸、ゲラニウム酸、2,4−デカジエン酸、2,4−ドデカジエン酸、9,12−ヘキサデカジエン酸、9,12−オクタデカジエン酸、ヘキサデカトリエン酸、アイコサジエン酸、アイコサトリエン酸、アイコサテトラエン酸、リシノール酸、エレオステアリン酸、オレイン酸、アイコサペンタエン酸、エルシン酸、ドコサジエン酸、ドコサトリエン酸、ドコサテトラエン酸、ドコサペンタエン酸、テトラコセン酸、ヘキサコセン酸、ヘキサコジエン酸、オクタコセン酸、およびトラアコンテン酸のような不飽和カルボン酸。
【0060】
<グループ(6)>
上記不飽和カルボン酸の、エステル、アミドまたは無水物。
【0061】
<グループ(7)>
アリルアルコール、クロチルアルコール、メチルビニルカルビノール、アリルカルビノール、メチルプロペニルカルビノール、4−ペンテン−1−オール、10−ウンデセン−1−オール、プロパルギルアルコール、1,4−ペンタジエン−3−オール、1,4−ヘキサジエン−3−オール、3,5−ヘキサジエン−2−オール、および2,4−ヘキサジエン−1−オールのような不飽和アルコール。
【0062】
<グループ(8)>
3−ブテン−1,2−ジオール、2,5−ジメチル−3−ヘキセン−2,5−ジオール、1,5−ヘキサジエン−3,4−ジオール、および2,6−オクタジエン−4,5−ジオールのような不飽和アルコール。
【0063】
<グループ(9)>
上記グループ(7)および(8)の不飽和アルコールの水酸基がアミノ基に置換された不飽和アミン。
【0064】
<グループ(10)>
ブタジエンおよびイソプレンのようなジエン化合物の、数平均分子量が約500〜約10,000のような低分子量重合体に、無水マレイン酸またはフェノール類を付加した化合物。
【0065】
<グループ(11)>
ブタジエンおよびイソプレンのようなジエン化合物の、数平均分子量が約10,000以上のような高分子量重合体に、無水マレイン酸またはフェノール類を付加した化合物。
【0066】
<グループ(12)>
ブタジエンおよびイソプレンのようなジエン化合物の、数平均分子量が約500〜約10,000のような低分子量重合体に、アミノ基、カルボキシル基、水酸基、またはエポキシ基のような基を導入した化合物。
【0067】
<グループ(13)>
ブタジエンおよびイソプレンのようなジエン化合物の、数平均分子量が約10,000以上のような高分子量重合体に、アミノ基、カルボキシル基、水酸基、またはエポキシ基のような基を導入した化合物。
【0068】
<グループ(14)>
イソシアン酸アリル。
【0069】
中でも、成分(b)として、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、無水イタコン酸、イタコン酸、グリシジル(メタ)アクリレート、または2−ヒドロキシエチルメタクリレートが好ましい。
【0070】
<成分(c)>
成分(c)は、分解してラジカルを発生した後、成分(A)からプロトンを引き抜く作用を有する有機過酸化物であり、成分(b)の成分(A)へのグラフト量を向上させるという観点や、成分(A)の架橋および分解を防止するという観点から、好ましくは、半減期が1分である分解温度が50〜210℃の有機過酸化物である。
半減期が1分である分解温度が50〜210℃の有機過酸化物として、ジアシルパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシケタール、アルキルパーエステル、およびパーカルボネートを例示することができる。中でも、ジアシルパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、アルキルパーエステル、またはパーカルボネートが好ましい。
【0071】
成分(c)として具体的には、ジセチルパーオキシジカルボネート、ジ−3−メトキシブチルパーオキシジカルボネート、ビス(2−エチルヘキシル)パーオキシジカルボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカルボネート、ジイソプロピルパーオキシジカルボネート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカルボネート、ジミリスチルパーオキシカルボネート、1,1,3,3−テトラメチルブチルネオデカノエート、α―クミルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、2,5ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブテン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、n−ブチル−4,4−ビス(t−ベルオキシ)バレラート、ジ−t−ブチルベルオキシイソフタレート、ジクミルパーオキサイド、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、および2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3を例示することができる。
【0072】
<成分(b)の使用量>
成分(b)の使用量は、成分(A)の合計量を100重量部として、0.01〜20重量部であり、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.2〜3重量部である。
該使用量が0.01重量部未満の場合、成分(A)への成分(b)のグラフト量が不十分で、その結果、接着性が不十分となることがある。該使用量が20重量部を超えた場合、本発明における成分(A)に残存する未反応の成分(b)が多くなり、その結果、接着性が不十分となることがある。
【0073】
<成分(c)の使用量>
成分(c)の使用量は、成分(A)の合計量を100重量部として、0.001〜20重量部、好ましくは0.01〜10重量部である。該使用量が0.001重量部未満の場合、成分(A)への成分(b)のグラフト量が不充分なことがあり、20重量部を超えた場合、成分(A)の分解や架橋が進んで、本発明における熱可塑性樹脂組成物と塗膜との密着性が不十分であることがある。
【0074】
成分(A)、成分(b)および成分(c)のそれぞれは、スチレンおよびジビニルベンゼンのようなビニル芳香族化合物、または酸化防止剤、耐熱安定剤および中和剤のような公知の添加剤と組合せてもよい。ビニル芳香族化合物の使用量は、成分(A)を100重量部として、0.1〜15重量部、好ましくは0.1〜7重量部である。
【0075】
<工程(1)>
工程(1)は、「1〜40重量%の揮発成分を含有するポリオレフィン樹脂から揮発成分を脱揮して、揮発成分量が0〜0.5重量%であるポリオレフィン樹脂(A)を得る工程」である。この工程(1)において、成分(A)を得る工程として、〔1〕溶融混練する方法、〔2〕濃縮する方法を例示することができる。
なかでも、効率よく脱揮して成分(A)を得やすいという観点から、方法〔1〕が望ましい。方法〔1〕の溶融混練で用いられる混練機としては、一軸押出機、二軸押出機、および多軸押出機のような公知の装置を例示することができる。具体的な方法としては、以下の方法を例示することができる。
〔1−1〕1〜40重量%の揮発成分を含有するポリオレフィン樹脂を投入口から投入し、溶融混練を行い、真空ベント口またはスリットより揮発成分を脱揮する方法(以下、「方法〔1−1〕」ともいう。);
〔1−2〕1〜40重量%の揮発成分を含有するポリオレフィン樹脂を投入口から投入し、溶融混練を行い、真空ベント口またはスリットより揮発成分を脱揮した後、脱揮助剤を添加し、その後に真空ベント口またはスリットより脱揮助剤を脱揮する方法(以下、「方法〔1−2〕」ともいう。);
ここでいう真空ベント口とは、押出機から、揮発成分を除去するために、押出機に取付けられた開口部である。また、ここでいうスリットとは、押出機から、揮発成分を除去するために、押出機に取付けられた、目開き10μm以上1cm以下の、パンチングプレート、ウェッジワイヤー式脱水スリットやスクリーンメッシュ式などの開口部である。これらは、直接大気に開放されていても良いし、配管を経て揮発分が除かれる構造であってもよいが、環境対策上は後者の形が望ましい。
なお上記真空ベント口およびスリットは、単独で用いてもよいし、同一種類のものを複数用いてもよいし、あるいは異なる種類のものを組み合わせて用いてもよい。例えば、揮発成分量の多い樹脂からスリットを用いて揮発分をある程度除去してから、その下流側で真空ベント口からさらに揮発分を除去することなどもできる。
【0076】
シリンダー設定温度は、揮発成分の低減やポリオレフィン樹脂及び揮発成分の劣化の観点から、通常、常圧下のポリオレフィン樹脂の融点、又は揮発成分の沸点のいずれか高い方の温度より、2℃から300℃高い温度が好ましい。
【0077】
真空ベント口およびスリットの設定圧力は、750torr以下が好ましい。なお、複数のスリットや真空ベント口の圧力を、各真空ベント口ごとに異なる圧力に制御しても良い。例えば、比較的に揮発分の多い押出機上流側では、ベントアップなどを回避するために、750torr以下に制御しておき、下流側では、揮発成分量を低減させるために40torr以下に制御することなどもできる。
【0078】
ここでいう脱揮助剤とは、ポリマーすなわち処理材料に対して不活性な、例えば窒素ガス、炭酸ガス等の気体、あるいは処理材料に混練された後に気化する水、アルコールなどの液体、または、粉末(固体)であってもよい。
【0079】
<工程(2)>
工程(2)は、「ポリオレフィン樹脂(A)100重量部と、少なくとも1種の不飽和基(b1)および少なくとも1種の極性基(b2)を有する化合物(b)0.01〜20重量部と、有機過酸化物(c)0.001〜20重量部とを反応させて、変性ポリオレフィン樹脂(B)を製造する工程」である。この工程(2)において、成分(A)と成分(b)と成分(c)とを反応させる方法として、〔1〕溶融混練する方法、〔2〕有機溶剤に溶解させ、得られた溶液を加熱する方法、〔3〕水中に懸濁させ、得られた懸濁液を加熱する方法を例示することができる。
中でも、経済的であるという観点から、方法〔1〕が好ましい。方法〔1〕の溶融混練で用いられる混練機として、バンバリーミキサー、プラストミル、ブラベンダープラストグラフ、一軸押出機、および二軸押出機のような公知の装置を例示することができる。中でも、連続生産ができ生産性が高いという観点から一軸または二軸の押出機が好ましい。
【0080】
押出機を用いた溶融混練の具体的な方法として、以下の方法[2−1]〜[2−6]を例示することができる:
〔2−1〕成分(A)に、成分(b)と成分(c)を一括して投入し、溶融混練する方法(以下、「方法〔2−1〕」ともいう。);
〔2−2〕成分(A)に、水または有機溶剤と混合した成分(b)と成分(c)を一括して投入し、溶融混練する方法(以下、「方法〔2−2〕」ともいう。);
〔2−3〕成分(A)に、水または有機溶剤と混合した成分(b)と水または有機溶剤と混合した成分(c)を一括して投入し、溶融混練する方法(以下、「方法〔2−3〕」ともいう。);
〔2−4〕成分(A)に、成分(b)を投入後、成分(c)を投入し、溶融混練する方法(以下、「方法〔2−4〕」ともいう。);
〔2−5〕成分(A)に、水または有機溶剤と混合した成分(b)を投入後、成分(c)を投入し、溶融混練する方法(以下、「方法〔2−5〕」ともいう。);
〔2−6〕成分(A)に、水または有機溶剤に混合した成分(b)を投入後、水または有機溶剤に混合した成分(c)を投入し、溶融混練する方法(以下、「方法〔2−6〕」ともいう。)。
【0081】
ここでいう有機溶剤とは、メチルブタン、ジメチルブタン、ペンタン、メチルペンタン、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、メチルシクロペンタン等の環式脂肪族炭化水素、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、メタノール、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノール、イソブチルアルコール等のアルコール又は、メチレンクロライド、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素があげられ、1種または2種以上組み合わされたものが挙げられる。
【0082】
溶融混練の温度(押出機の場合はシリンダーの温度)は、成分(A)への成分(b)のグラフト量を向上させるという観点や、成分(A)の架橋や分解を抑えるという観点から、通常50〜300℃、好ましくは80〜270℃である。
【0083】
押出機の溶融混練を行う部分の温度は、溶融混練を前半と後半の2段階に分けることが好ましい。溶融混練の前半で変性反応を行い、後半でストランドを容易に引き取れるようにする、またはアンダーウォーターカットでペレット化を容易にするために、後半の温度を前半よりも低く設定することが好ましい。具体的には、前半の温度は200〜280℃が好ましく、220〜270℃がより好ましい。後半の温度は30〜190℃が好ましく、30〜170℃がより好ましい。
【0084】
溶融混練の時間は、成分(A)への成分(b)のグラフト量を充分に向上させるという観点から、通常0.1〜30分、より好ましくは0.5〜5分である。
水または有機溶剤に混合した成分(b)や水または有機溶剤に混合した成分(c)を押出機に投入する方法として、公知の液体添加装置を用いることができる。
【0085】
工程(1)と工程(2)とを連続して設けることにより、成分(A)から成分(B)を連続して製造する製造装置の構成として、〔1〕成分(A)を製造する1段目の押出機の原料吐出口が、成分(B)を製造する2段目の押出機の原料投入口に接続されているタンデム押出機(図1)、および、〔2〕成分(A)と成分(B)とを製造する押出機が同一である押出機(図2)を好ましく例示できる。
【0086】
<メルトフローレート>
本発明において、変性ポリオレフィン(B)のメルトフローレート(MFR)は、5〜300g/10分であることが好ましく、10〜200g/10分であることがより好ましい。
【0087】
従来の変性ポリオレフィンの製造方法は、ポリオレフィン樹脂(A)をペレット等として得た後に、再度溶融混練して変性剤および過酸化物を用いて変性していたため、押出機の投入口への樹脂詰まりや、溶融混練するためのエネルギーのロス、再加熱による樹脂の劣化を生じていた。
本発明の変性ポリオレフィンの製造方法は、ポリオレフィン樹脂(A)を得る工程と変性ポリオレフィン(B)を得る工程とを連続して設けているため、ポリオレフィン樹脂(A)をペレット化等する必要がなく生産性に優れる。また、ペレット化が困難な樹脂であっても押出機の投入口への樹脂詰まりを回避することができる。また、ポリオレフィン樹脂(A)を溶融混練するためのエネルギーのロスや、再加熱による樹脂の劣化を防止することができる。
【0088】
<用途>
本発明の製造方法により得られた変性ポリオレフィン樹脂(B)は、樹脂と混合、有機溶剤に溶解、もしくは水系エマルジョンとして各種接着剤用途に用いることができる。例えば水系エマルジョンからなる皮膜は、塗料用のバインダー;印刷インキ用のバインダー;プラスチック、ガラス、繊維、ガラス繊維、紙、木、金属、ゴム、合成皮革、不織布およびコンクリートのような基材へのコーティング剤;粘着剤;接着剤等に用いられる。
【実施例】
【0089】
以下実施例により、本発明を説明するが、これらは単なる例示であり、本発明を逸脱しない限りこれら実施例に限定されない。
【0090】
1.グラフト率
グラフト率は、下記の方法((1)〜(7)の手順)で求めた。
(1)変性ポリオレフィン樹脂1.0gをキシレン10mlに溶解して溶液を調製した。
(2)溶液をメタノール300mlに撹拌しながら滴下して、変性ポリオレフィン樹脂を再沈殿させた。
(3)再沈殿された変性ポリオレフィン樹脂を回収した。
(4)回収された変性ポリオレフィン樹脂を、80℃で8時間真空乾燥した。
(5)乾燥された変性ポリオレフィン樹脂を熱プレスして、厚さ100μmのフイルムを作製した。
(6)該フイルムの赤外吸収スペクトルを測定した。
(7)該スペクトルの1730cm−1付近の吸収から、グラフト率を求めた。
【0091】
2.メルトフローレート(MFR、単位:g/10分)
JIS K7210に従って、190℃、荷重21.2Nで測定した。
【0092】
3.揮発成分量測定
ポリオレフィン樹脂0.5gを22mlのHS用バイアル瓶に入れて窒素ガスで密封した後に、200℃で1時間加熱したときのガス1mlをガスクロマトグラフィー(GC)測定に供し、ヘッドスペース法ガスクロマトグラフィー/質量分析測定(HS−GC/MS)から各ピークの定性分析を行なった。次に、既知の濃度のヘキサンおよびビニルシクロヘキサンを含むアセトン溶液1μLを注入し、同様にヘッドスペース法ガスクロマトグラフィー測定(HS−GC)を行い、これにより検量線を作成した。得られた検量線に基づいて、各サンプルのヘッドスペース法ガスクロマトグラフィー測定(HS−GC)の各ピークからアウトガス量を算出し、該バイアル瓶に封入したポリオレフィン樹脂量との比率から揮発性分量を求めた。
【0093】
<参考例1>
(1)ポリオレフィン樹脂の製造
乾燥窒素ガスで置換した約1,500lの撹拌槽中に、ビニルシクロヘキサン39kg、脱水トルエン357kgを投入した。
47℃に昇温後、水素を0.015MPa、エチレンを0.6MPa仕込んだ後、トリイソブチルアルミニウムのトルエン溶液[東ソー・ファインケム(株)製、Al原子換算濃度 20.3重量%]を1.2kg、脱水トルエンを7kg、ジエチルシリレン(テトラメチルシクロペンタジエニル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド66mgを脱水トルエン1.7kgに溶解したもの、脱水トルエンを7kg、3gのN,N−ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートを7kgの脱水トルエンに同伴させたもの、脱水トルエンを7kgを、順に投入して重合を開始した。
反応中は、エチレンを0.6MPaを維持するよう補充しつづけ、温度も54℃程度に制御しつづけた。2時間撹拌した後、エタノール1kg仕込み、重合を停止した。反応液と2重量%塩酸195kgと、1回、撹拌接触させ、水層を除去後、有機層に水194kgを、撹拌接触させ、水層を除去した。同様の操作をもう2回繰り返した後、加熱減圧し、非初成分を蒸発させた結果、揮発分を10重量%含んだエチレン−ビニルシクロヘキサン共重合体30kgを得た。
これから一部分取した該重合体について、分析を行った結果、該重合体のビニルシクロヘキサン単量体単位の含有量は12mol%、[η]は0.54dl/gであった。
【0094】
<実施例1>
押出機:成分(A)を製造する1段目の押出機として、日本製鋼所(株)製のTEX30αを用い、成分(B)を製造する2段目の押出機として、日本製鋼所(株)製のTEX44αIIを用いた。該TEX30α押出機の原料吐出口を、該TEX44αII押出機の原料投入口に接続してタンデム押出機1とした。押出機の構成を図1に示す。
【0095】
工程(1):ポリオレフィン樹脂(A)(成分(A))の製造
10重量%の揮発成分を含有する参考例1で製造したエチレン-ビニルシクロヘキサン共重合体樹脂を投入口30aから投入し、シリンダー10aの温度を250℃、スクリュー20aの回転数を260rpmに制御し、第1の真空ベント口101を740torrに、第2〜第5の真空ベント口102〜105を30torrに制御した。
投入された前記共重合体樹脂は、シリンダー10a内において加熱、混練されることにより流動状態となり、投入口30aから原料吐出口110の方向へスクリュー20aにより押し出された。その際、前記共重合体樹脂に含まれる揮発成分は、第2〜第4の真空ベント口102〜104を通じて脱揮され、揮発成分が脱揮されたことにより成分(A)が得られた。前記成分(A)は流動状態を保ったまま原料吐出口110から連続的に押し出され、原料吐出口110に連結された原料投入口120を通じてシリンダー10b内に導入された。原料投入口120から成分(A)をサンプリングしたところ、成分(A)の揮発成分含有量は0.001重量%であった。
【0096】
工程(2):変性ポリオレフィン樹脂(B)(成分(B))の製造
図1に示す投入口30bから、表1に示した割合で化薬アクゾ(株)製パーカドックス14−40C(1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン)、無水マレイン酸を投入し、第5の真空ベント口105から脱揮する方法で成分(B)の製造を行った。なお、混練部を前半と後半に分けて、シリンダー10bの前半部の造粒温度250℃、後半部の混練温度を60℃、スクリュー20bの回転数を260rpmに制御して製造を行った。
【0097】
<実施例2>
押出機:成分(A)および成分(B)を製造する押出機1Aとして、日本製鋼所(株)製のTEX30αを用いた。押出機1Aの構成は図2に示す
【0098】
10重量%の揮発成分を含有する参考例1で製造したエチレン-ビニルシクロヘキサン共重合体樹脂を投入口30aから投入し、シリンダー10Aの温度を250℃、スクリュー20Aの回転数を600rpmとして第1の真空ベント口101Aを740torrに、第2、第3の真空ベント口102A、103Aを30torrとして、かかる条件で混練、脱揮を行い成分(A)を製造した。投入口30bから(成分A)をサンプリングしたところ、成分(A)の揮発成分含有量は0.01重量%であった。
投入口30bに液体添加装置を取り付け、表2に示した割合で作製した有機溶剤に混合した成分で液添を行い、図2に示す投入口30bから、表2に示した割合で化薬アクゾ(株)製パーカドックス14R−P(1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン)、無水マレイン酸を投入し、第4の真空ベント口104Aから脱揮する方法で、シリンダー10Aの温度を250℃として変性ポリオレフィン(B)の製造を行った。
【0099】
【表1】

【0100】
【表2】

【0101】
【表3】

【0102】
また、実施例1において、エチレン−ビニルシクロヘキサン共重合体の代わりに、ポリオレフィン樹脂(A)として、エチレンとノルボルネンとの共重合体(ノルボルネンの含有量20mol%)、または、エチレンとスチレンとの共重合体(スチレンの含有量20mol%)を用いた場合においても、同様に良好な生産性、グラフト率、メルトフローレートが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】成分(A)を製造する1段目の押出機の原料吐出口が、成分(B)を製造する2段目の押出機の原料投入口に接続されているタンデム押出機の模式図である。
【図2】成分(A)と成分(B)とを製造する押出機が同一である押出機の模式図である。
【符号の説明】
【0104】
1 タンデム押出機
1A 押出機
10a、10b、10A シリンダー
101、101A 第1の真空ベント口
102、102A 第2の真空ベント口
103、103A 第3の真空ベント口
104、104A 第4の真空ベント口
105 第5の真空ベント口
110 原料吐出口
120 原料投入口
20a、20b、20A スクリュー
30a、30b 投入口
40、40A 樹脂出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の連続する工程からなることを特徴とする変性ポリオレフィン樹脂の製造方法;
(1)1〜40重量%の揮発成分を含有するポリオレフィン樹脂から揮発成分を脱揮して、揮発成分含有量が0〜0.5重量%であるポリオレフィン樹脂(A)を得る工程、ならびに、
(2)該ポリオレフィン樹脂(A)100重量部と、少なくとも1種の不飽和基(b1)および少なくとも1種の極性基(b2)を有する化合物(b)0.01〜20重量部と、有機過酸化物(c)0.001〜20重量部とを反応させて、変性ポリオレフィン樹脂(B)を製造する工程。
【請求項2】
工程(1)に押出機を用いる請求項1記載の変性ポリオレフィン樹脂の製造方法。
【請求項3】
工程(2)に押出機を用いる請求項1または2に記載の変性ポリオレフィン樹脂の製造方法。
【請求項4】
工程(1)と工程(2)とをタンデム押出機または同一の押出機を用いて行う請求項1〜3のいずれか1つに記載の変性ポリオレフィン樹脂の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−40957(P2009−40957A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−209892(P2007−209892)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】