説明

変速機

【課題】短時間で噛み合いのON/OFF作業を終えることができ、過大なトルクがかかった場合にクラッチが切れて変速機の破壊を防止する。
【解決手段】回転可能に支持された入力軸12と出力軸14との間にそれぞれ配置された、少なくとも2組の歯車要素対である第1の歯車要素対16及び第2の歯車要素対17と、入力軸と出力軸との間に、少なくとも2組の歯車要素対をそれぞれ解除可能に連結する少なくとも2組のクラッチである第1のクラッチ40及び第2のクラッチ42と、入力軸と出力軸との間に配置された少なくとも1組の非円形歯車要素対18と、入力軸と出力軸との間に少なくとも1組の非円形歯車要素対を解除可能に連結する少なくとも1組の非円形歯車要素対用クラッチ44と、を備える変速機10において、非円形歯車要素対用クラッチが斜面のみで噛み合うように構成されたドグクラッチからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在では、例えば自動車のオートマチックトランスミッションなど、減速比を多段に変えることが可能な変速機は既に数多く開発され、確立された機械となりつつある。この自動車の変速機では、減速比を変える際に動力を効率よく伝達することが課題となっている。
【0003】
通常、減速比の異なる歯車対を同時に噛み合わせて回転させることはできないため、回転を止めることなく負荷を支持しつつ、減速比を変えることはできない。また、通常の自動車などの変速機では、減速比を変える前には、これから締結する歯車と軸の回転速度が異なるため、摩擦を利用してこれらを一致させていることから、歯車と軸の間には大きな滑りが生じ、正確な回転角度の伝達は困難であり、動力の伝達効率も悪い。
【0004】
そこで、非円形歯車要素対とクラッチを使用することにより回転を止めることなく負荷を支持しつつ減速比を変えることができ、正確に回転角度を伝達し、かつ動力を効率的に伝達することができるようにした変速機が提案されている(特許文献1)。前記クラッチとしては、自動車の変速機に一般的に用いられているドグクラッチが考えられる。
【0005】
このドグクラッチは、例えば図10に示すように、同一軸上例えば回転軸70上で対向する対称形状の駆動側と従動側(被動側ともいう。)のクラッチ要素71,72を備えている。クラッチ要素71,72は先端が山形に形成された長尺のドグ部74を回転軸70の周方向に沿って所定の隙間76を隔てて複数設けてなり、ドグ部74は一方のドグ部74が他方のドグ部74間の隙間76に嵌合し得るように互いに摺接する摺接面73を両側面に有している。
【0006】
ところで、非円形歯車要素対に使用するクラッチとしては、短時間で噛み合いのON/OFF作業を終えることが求められ、また、クラッチに過大なトルクがかかった場合、クラッチが切れることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第WO2008/062718A1号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記ドグクラッチは、ドグ部74の噛合ストロークが長くなっているため、ドグクラッチの噛み合いのON/OFFに時間がかかるだけでなく、ドグクラッチに過大なトルクがかかった場合でもクラッチが切れることはないので、非円形歯車要素対の破損を含む変速機の破損を招くおそれがある。
【0009】
本発明は、上述した従来の技術が有する課題を解消し、短時間で噛み合いのON/OFF作業を終えることができ、過大なトルクがかかった場合にクラッチが切れて変速機の破壊を防止することができる変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、回転可能に支持された入力軸と出力軸との間にそれぞれ配置された、少なくとも2組の歯車要素対である第1の歯車要素対及び第2の歯車要素対と、前記入力軸と前記出力軸との間に、少なくとも2組の前記歯車要素対をそれぞれ解除可能に連結する少なくとも2組のクラッチである第1のクラッチ及び第2のクラッチと、前記入力軸と前記出力軸との間に配置された少なくとも1組の非円形歯車要素対と、前記入力軸と前記出力軸との間に少なくとも1組の前記非円形歯車要素対を解除可能に連結する少なくとも1組の非円形歯車要素対用クラッチと、を備え、前記非線形歯車要素対は、前記入力軸と前記出力軸との間の減速比が、前記入力軸と前記出力軸との間に前記第1の歯車要素対が連結された時の前記第1の歯車要素対の少なくとも一部の噛み合い区間における第1の減速比と等しくなる第1の噛み合い区間と、前記入力軸と前記出力軸との間の減速比が、前記入力軸と前記出力軸との間に前記第2の歯車要素対が連結された時の第2の歯車要素対の少なくとも一部の噛み合い区間における第2の減速比と等しくなる第2の噛み合い区間とを含む変速機において、前記非円形歯車要素対用クラッチが斜面のみで噛み合うように構成されたドグクラッチからなることを特徴とする。
【0011】
前記ドグクラッチは、同一軸上で対向する対称形状の駆動側と従動側のクラッチ要素からなり、該クラッチ要素は2つの斜面からなる山形の凸部を有するドグ部を軸の周方向に沿って複数設けることにより隣り合うドグ部の2つの傾斜面で谷形の凹部を形成して凸部と凹部を周方向に交互に形成してなり、駆動側のクラッチ要素の凸部と凹部が従動側のクラッチ要素の凹部と凸部に係合又は離間してクラッチがON又はOFFになるように構成されていることが好ましい。
【0012】
前記駆動側と従動側のクラッチ要素のうち、一方のクラッチ要素が外スプライン状に配置したドグ部を有し、他方のクラッチ要素が内スプライン状に配置したドグ部を有し、これらドグ部の凸部の稜線が同じ角度で傾斜して形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、短時間で噛み合いのON/OFF作業を終えることができ、過大なトルクがかかった場合にクラッチが切れて変速機の破壊を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明が適用される変速機の一例を模式的に示す機構図である。
【図2】変速機の歯車のピッチ円或いはピッチ曲線を模式的に示す図である。
【図3】(a)は非円形歯車対の減速比の変化を模式的に示すグラフ、(b)はクラッチのONとOFFを示す表である。
【図4】(a)は非円形歯車対の減速比の変化を模式的に示すグラフ、(b)はクラッチのONとOFFを示す表である。
【図5】変速機の構成を示す断面図である。
【図6】変速機の動作を示す断面図である。
【図7】変速機の動作を示す断面図である。
【図8】非円形歯車要素対用クラッチであるドグクラッチの一例を模式的に示す図で、(a)はクラッチOFF時の図、(b)はクラッチON時の図である。
【図9】非円形歯車要素対用クラッチであるドグクラッチの他の例を示す図で、(a)はクラッチOFF時の部分的断面図、(b)はクラッチON時の部分的断面図、(c)は(a)のA−A線断面図、(d)は(a)のB−B線断面図ある。
【図10】自動車の変速機に用いられている従来のドッグクラッチの一例を模式的に示す図で、(a)はクラッチOFF時の図、(b)はクラッチON時の図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明を実施するための形態を添付図面に基いて詳述する。
【0016】
先ず、変速機の基本的な構成を図1〜図7を参照しながら説明する。
【0017】
図1の機構図に模式的に示すように、変速機10は、回転可能に支持されている入力軸12及び出力軸14と、第1の歯車対16と、第2の歯車対17と、非円形歯車対18と、クラッチ40,42,44とを備えている。
【0018】
各歯車対16,17,18は、それぞれ、一対の歯車20,30;22,32;24,34が噛み合い、回転角度の遅れがない。すなわち、回転角度を正確に伝達し、かつ動力を効率的に伝達する。
【0019】
入力軸12には、各歯車対16,17,18の一方の歯車(入力側歯車)20,22,24が固定され、これらの歯車20,22,24は入力軸12と一体となって回転する。
【0020】
出力軸14には、各歯車対16,17,18の他方の歯車(出力側歯車)30,32,34が、相対回転可能な状態に支持されている。出力側歯車30,32,34は、クラッチ40,42,44により、選択的に出力軸14に結合される。すなわち、クラッチ40,42,44がつながっているONのときには、対応する出力側歯車30,32,34は出力軸14に対して結合され、結合された出力側歯車30,32,34と出力歯車14とは一体となって回転する。クラッチ40,42,44が切れているOFFのときには、出力側歯車30,32,34は、出力軸14の軸方向の移動が拘束されながら、出力軸14に対して相対回転可能となる。
【0021】
クラッチ40,42,44がONのとき、クラッチ40,42,44での滑り等がなければ、クラッチ40,42,44がONとなっている出力側歯車30,32,34から出力軸14に、回転角度を正確に伝達し、かつ動力を効率的に伝達することができる。
【0022】
クラッチ40,42,44には、ドグクラッチ等の噛み合いクラッチを用いることが好ましい。円板クラッチなどの摩擦クラッチでは滑りが発生する可能性があるのに対して、噛み合いクラッチでは、駆動側と被動側に形成された突起や穴等の機械的構造が噛み合い、摩擦クラッチのような滑りが発生しないので、噛み合いクラッチを用いると、回転角度を極めて正確に伝達し、かつ動力を極めて効率的に伝達することができるからである。図示しないが、クラッチ40,42,44はアクチュエータによって駆動され、アクチュエータの動作は、制御装置によって制御される。また、非円形歯車対18の位相は、図示しないセンサにより検出され、検出信号は制御装置に入力される。制御装置は、回転を止めることなく減速比を切り替え、回転角度を正確に伝達し、かつ動力を効率的に伝達することができるように、クラッチ40,42,44のON/OFFを制御する。
【0023】
各歯車対16,17,18は、クラッチ40,42,44のONによって、入力軸12と出力軸14との間に選択的に連結される。クラッチ40のONにより、第1の歯車対16が入力軸12と出力軸14との間に連結されたとき、入力軸12と出力軸14との間の減速比は、相対的に大きい一定の減速比RHとなる。クラッチ42のONにより第2の歯車対17が入力軸12と出力軸14との間に連結されたとき、入力軸12と出力軸14との間の減速比は、相対的に小さい一定の減速比RLとなる。クラッチ44のONにより非円形歯車対18が入力軸12と出力軸14との間に連結されたとき、入力軸12と出力軸14との間の減速比は、少なくとも減速比がRHとRLとを含む範囲内で変化する。
【0024】
例えば図2に示すように各歯車対16,17,18の歯車を噛み合いピッチ円(以下、単に「ピッチ円」という。)或いは噛み合いピッチ曲線(以下、単に「ピッチ曲線」という。)で表し、歯面の図示を省略すると、第1及び第2の歯車対16,17は、対をなす歯車20,30;22,32のピッチ円20p,30p;22p,32pが互いに接する円形歯車である。
【0025】
非円形歯車対18の対をなす歯車24,34は非円形歯車であり、非円形歯車対18の対をなす歯車24,34のピッチ曲線は、減速比RHの第1の歯車対16のピッチ円20p,30pの円弧と等しい第1の区間25,35と、減速比RLの第2の歯車対のピッチ円22p,32pの円弧と等しい第3の区間27,37と、減速比がRHとRLとの間で変化する第2及び第4の区間26,36;28,38とを有する。非円形歯車対18の対をなす歯車24,34は、図2において矢印で示す方向に回転する時、歯車24,34のピッチ曲線の各区間25,35;26,36;27,37;28,38同士が噛み合う。
【0026】
非円形歯車対18が入力軸12と出力軸14との間に連結されている状況において、非円形歯車対18が、図2(a)に示すように、第3の区間27,37で噛み合う場合は、入力軸12と出力軸14との間の減速比はRLとなり、図2(b)で示すように、第1の区間25,35で噛み合う場合は、入力軸12と出力軸14との間の減速比はRHとなる。第2の区間26,36、第4の区間28,38で噛み合う場合は、入力軸12と出力軸14との間の減速比は、RLとRHの間で変化する。
【0027】
次に、変速機10の動作について、図3及び図4を参照しながら説明する。図3(a)及び図4(a)は、非円形歯車対18の減速比のグラフである。横軸は入力軸12の回転角度、縦軸は入力側歯車24と出力側歯車34との間の減速比である。図3(b)及び図4(b)の表では、クラッチ40,42,44のONの状態を○印で示し、クラッチ40,42,44のOFFの状態は空欄としている。図3(b)及び図4(b)において、減速比RHの第1の歯車対16のクラッチ40を「クラッチ(RH)」、減速比RLの第2の歯車対17のクラッチ42を「クラッチ(RL)」、減速比が変化する非円形歯車対18のクラッチ44を「クラッチ(変速)」と表している。
【0028】
減速比RHの第1の歯車対16のクラッチ40がON、クラッチ42,44がOFFの時には、入力軸12と出力軸14との間は、一定の減速比RHとなる。減速比RLの第2の歯車対17のクラッチ42がON、クラッチ40,44がOFFの時には、入力軸12と出力軸14との間は、一定の減速比RLとなる。非円形歯車対18の減速比は、図3(a)及び図4(a)に示すように、入力軸12の回転に伴って減速比RHとRLとを含む所定範囲内で変化する。なお、図3(a)及び図4(a)において、非円形歯車対18の減速比が変化する時の曲線は模式的に図示されている。
【0029】
入力軸12と出力軸14との間の減速比をRHからRLに変える場合には、以下のようにクラッチ40,42,44を作動させる。
【0030】
図3(a)に示すように、減速比RHの第1の歯車対16のクラッチ40がONの状態で、非円形歯車対18の減速比がRLからRHに変化する区間301を通過し、一定の減速比RHとなる区間302に入ったら、図3(b)に示すように、減速比RHの第1の歯車対16のクラッチ40に加え、減速比が変化する非円形歯車対18のクラッチ44をONにする。そして、区間302において非円形歯車対18のクラッチ44がONになった後、かつ、非円形歯車対18の減速比がRHからRLに変化する区間303に入る前に、減速比RHの第1の歯車対16のクラッチ40をOFFにする。
【0031】
そして、非円形歯車対18の減速比がRHからRLに変化する区間303では、非円形歯車対18のクラッチ44のみがONである。区間303では、入力軸12と出力軸14との間に非円形歯車対18が連結されているので、入力軸12と出力軸14との間の減速比は、RHからRLに変化する。この間、クラッチ44の滑りがなければ、非円形歯車対18の噛み合いによって、入力軸12から出力軸14に、回転角度を正確に伝達し、かつ動力を効率的に伝達することができる。
【0032】
非円形歯車対18の減速比RHからRLに変化する区間303を通過して、一定の減速比RLとなる区間304に入ったら、図3(b)に示すように、減速比RLの第2の歯車対17のクラッチ42をONする。そして、区間304において第2の歯車対17のクラッチ42がONになった後、かつ、非円形歯車対18の減速比がRLからRHに変化する区間305に入る前に、非円形歯車対18のクラッチ44をOFFにする。このようにして、入力軸12と出力軸14との間に第2の歯車対17のみが連結された後は、入力軸12と出力軸14との間の減速比はRL一定となり、第2の歯車対17の噛み合いによって、入力軸12から出力軸14に、回転角度を正確に伝達し、かつ動力を効率的に伝達することができる。
【0033】
クラッチ40,42,44は、駆動側と被動側とが同じ速度のときにON/OFFの切り替えを行うので、クラッチ40,42,44に、ドグクラッチ等の噛み合いクラッチを用いることができる。
【0034】
入力軸12と出力軸14との間の減速比をRLからRHに変える場合も、上記と同様である。すなわち、図4(a)に示すように、非円形歯車対18の減速比がRHからRLに変化する区間401を通過し、一定の減速比RLとなる区間402に入ったら、図4(b)に示すように、第2の歯車対17のクラッチ42に加え、非円形歯車対18のクラッチ44をONにする。そして、区間402において非円形歯車対18のクラッチ44がONになった後、かつ、非円形歯車対18の減速比がRLからRHに変化する区間403に入る前に、減速比RLの第2の歯車対17のクラッチ42をOFFにする。
【0035】
そして、非円形歯車対18の減速比がRLからRHに変化する区間403では、非円形歯車対18のクラッチ44のみがONである。区間403では、入力軸12と出力軸14との間に非円形歯車対18のみが連結されているので、入力軸12と出力軸14との間の減速比は、RLからRHに変化する。この間、クラッチ44の滑りがなければ、非円形歯車対18の噛み合いによって、入力軸12から出力軸14に、回転角度を正確に伝達し、かつ動力を効率的に伝達することができる。
【0036】
非円形歯車対18の減速比がRLからRHに変化する区間403を通過して、一定の減速比RHとなる区間404に入ったら、図4(b)に示すように、減速比RHの第1の歯車対16のクラッチ40をONにする。そして、区間404において第1の歯車対16のクラッチ40がONになった後、かつ、非円形歯車対18の減速比がRHからRLに変化する区間405に入る前に、非円形歯車対18のクラッチ44をOFFにする。このようにして、入力軸12と出力軸14との間に第1の歯車対16のみが連結された後は、入力軸12と出力軸14との間は一定の減速比RHとなり、第1の歯車対16の噛み合いによって、入力軸12から出力軸14に、回転角度を正確に伝達し、かつ動力を効率的に伝達することができる。
【0037】
次に、変速機10の具体的な構成例について、図5〜図7を参照しながら説明する。図5の断面図に示すように、入力軸12に、各歯車対16,17,18の入力側歯車20,22,24が順に固定されている。出力軸14には、各歯車対16,17,18の出力側歯車30,32,34が相対回転可能かつ、軸方向移動不可能な状態で順に支持されている。第1の歯車対16の出力側歯車30と第2の歯車対17の出力側歯車32との間には、円形歯車用クラッチ500のシフター41が配置されている。円形歯車用クラッチ500は、シフター41を兼用することで、第1の歯車対16用の第1のクラッチと第2の歯車対17用の第2のクラッチとの両方の機能を実現している。第2の歯車対17の出力側歯車32と非円形歯車対18の出力側歯車34との間には、非円形歯車用クラッチ502のシフター45が配置されている。円形歯車用及び非円形歯車用クラッチ500,502のシフター41、45は、出力軸14に形成されたスプライン溝に摺動自在に支持されており、出力軸14に沿って軸方向に移動自在であるが、出力軸14に対する相対回転はできない状態であり、出力軸14と一体となって回転するようになっている。
【0038】
円形歯車用及び非円形歯車用クラッチ500,502のシフター41、45の外周面には図示しないアクチュエータ(クラッチON/OFF駆動手段)が嵌合する溝41x,45xが形成されている。円形歯車用クラッチ500のシフター41は、溝41xに嵌合する図示しないアクチュエータの駆動によって、図5に示した中間位置から矢印41s,41tに示すように両側に移動する。非円形歯車用クラッチ502のシフター45は、溝45xに嵌合する図示しないアクチュエータの駆動によって、図5に示した待機位置から矢印45tで示す片側だけ移動する。
【0039】
円形歯車用クラッチ500のシフター41は、第1の歯車対16の出力歯車30に対向する側面と、第2の歯車対17の出力側歯車32に対向する側面に、所定のピッチで突起(ドグ)41a,41bが形成されている。第1の歯車対16の出力側歯車30と第2の歯車対17の出力側歯車32には、円形歯車用クラッチ500の構成要素として、円形歯車用クラッチ500のシフター41に対向する側面に、円形歯車用クラッチ500のシフター41の突起41a,41bに対向して、所定のピッチで凹部(ドグ穴)31,33が形成されている。矢印41s,41tで示す方向に円形歯車用クラッチ500のシフター41が移動した時、円形歯車用クラッチ500のシフター41の突起41a,41bが、出力側歯車30,32の凹部31,33に嵌合し、円形歯車用クラッチ500のシフター41を介して出力軸14と出力側歯車30,32とが一体となって回転する。すなわち、入力軸12と出力軸14との間に第1又は第2の歯車対16,17が連結され、入力軸12から、第1又は第2の歯車対16,17を介して出力軸14に、回転角度を正確に伝達し、かつ動力を効率的に伝達することができる。
【0040】
前記非円形歯車用クラッチ502においては、短時間で噛み合いのON/OFF作業を終えることが求められ、また、クラッチに過大なトルクがかかった場合、クラッチが切れることが望ましいため、図8に示すように斜面53aのみで噛み合うように構成されたドグクラッチが採用されている。非円形歯車用クラッチ502のシフター45は、非円形歯車対18の出力側歯車34に対向する側面に、ドグクラッチにおける一方(従動側)のクラッチ要素52が設けられている。非円形歯車対18の出力側歯車34には、非円形歯車用クラッチ502の構成要素として、非円形歯車用クラッチ502のシフター45に対向する側面に、非円形歯車用クラッチ502のシフター45のクラッチ要素52に対応する他方(駆動側)のクラッチ要素51が設けられている。非円形歯車用クラッチ502のシフター45が移動したとき、非円形歯車用クラッチ502のシフター45のクラッチ要素52が、非円形歯車対18の出力側歯車34のクラッチ要素51に嵌合し、非円形歯車用クラッチ502のシフター45を介して出力軸14と出力側歯車34とが一体となって回転する。すなわち、入力軸12から出力軸14に、回転角度を正確に伝達し、かつ動力を効率的に伝達することができる。
【0041】
前記非円形歯車用クラッチ502であるドグクラッチは、同一軸上で対向する対称形状の駆動側と従動側のクラッチ要素51,52からなる。クラッチ要素51,52は2つの斜面53aからなる山形の凸部53を有するドグ部54を軸の周方向に沿って複数設けることにより隣り合うドグ部54の隣り合う2つの傾斜面53aで谷形の凹部55を形成して凸部53と凹部55を周方向に交互に形成してなり、駆動側のクラッチ要素51の凸部53と凹部55が従動側のクラッチ要素52の凹部55と凸部53に係合又は離間してクラッチがON又はOFFになるように構成されている。なお、前記ドグ部54は、断面4角形(長方形)のドグ部本体54aの一端に断面三角形の凸部53を形成して構成されている。隣り合うドグ部の間にはドグ本体54aの幅よりも小さい隙間56が設けられている。
【0042】
次に、この変速機10の動作について、図6〜図7を参照しながら説明する。図6(a)に示すように、円形歯車用クラッチ500のシフター41が矢印41sで示す方向に移動して第1の歯車対16の出力側歯車30に嵌合し、非円形歯車用クラッチ502のシフター45が待機位置にあるとき、入力軸12と出力軸14との間には、第1の歯車対16のみが連結される。この時、回転角度及び動力は、図において破線で示すように、入力軸12から第1の歯車対16の入力側歯車20、出力側歯車30、円形歯車用クラッチ500のシフター41を介して、出力軸14に伝達され、減速比はRHとなる。減速比をRHからRLに切り替える場合には、先ず、図6(b)に示すように、非円形歯車対18の減速比がRHになる状態で、非円形歯車用クラッチ502のシフター45が矢印45tで示す方向に移動してそのクラッチ要素51が非円形歯車対18の出力側歯車34のクラッチ要素52に嵌合し、入力軸12と出力軸14との間に、第1の歯車対16と非円形歯車対18とが連結される。この時、回転角度及び動力は、図において破線で示すように、入力軸12から、(a)第1の歯車対16の入力側歯車20、出力側歯車30、円形歯車用クラッチ500のシフター41を介して、及び(b)非円形歯車対18の入力側歯車24、出力側歯車34、非円形歯車用クラッチ502のシフター45を介して、出力軸14に伝達される。
【0043】
次いで、非円形歯車対18の減速比がRHから変化する前に、図6(c)に示すように、円形歯車用クラッチ500のシフター41が中間位置に移動し、第1の歯車対16の出力側歯車30との嵌合が解除され、入力軸12と出力軸14との間に、非円形歯車対18のみが連結される。このとき、回転角度及び動力は、図において破線で示すように、入力軸12から、非円形歯車対18の入力側歯車24、出力側歯車34、非円形歯車用クラッチ502のシフター45を介して、出力軸14に伝達される。そして、非円形歯車対18のみが連結された状態で、非円形歯車対18の減速比がRHからRLに変化する。
【0044】
次いで、非円形歯車対18の減速比がRLになると、図7(d)に示すように、円形歯車用クラッチ500のシフター41が矢印41tで示す方向に移動して第2の歯車対17の出力側歯車32に嵌合し、入力軸12と出力軸14との間に、第2の歯車対17と非円形歯車対18とが連結される。この時、回転角度及び動力は、図において破線で示すように、入力軸12から、(a)第2の歯車対17の入力側歯車22、出力側歯車32、円形歯車用クラッチ500のシフター41を介して、及び(b)非円形歯車対18の入力側歯車24、出力側歯車34、非円形歯車用クラッチ502のシフター45を介して、出力軸14に伝達される。
【0045】
次いで、非円形歯車対18の減速比がRLから変化する前に、図7(e)に示すように、非円形歯車用クラッチ502のシフター45が待機位置に移動し、非円形歯車対18の出力側歯車34との嵌合が解除され、入力軸12と出力軸14との間に、第2の歯車対17のみが連結される。この時、回転角度及び動力は、図において、破線で示すように、入力軸12から、第2の歯車対17の入力側歯車22、出力側歯車32、円形歯車用クラッチ500のシフター41を介して、出力軸14に伝達され、一定の減速比RLとなり、減速比の切り替えが完了する。
【0046】
以上の構成からなる自動車の変速機によれば、前記非円形歯車用クラッチ502が斜面53aのみで噛み合うように構成されたドグクラッチからなるため、従来のドグクラッチからなるものと異なり、短時間で噛み合いのON/OFF作業を終えることができ、過大なトルクがかかった場合にクラッチが切れて非円形歯車対を含む変速機の破壊を防止することができる。
【0047】
図9は非円形歯車用クラッチであるドグクラッチの他の例を示す図で、(a)はクラッチOFF時の部分的断面図、(b)はクラッチON時の部分的断面図、(c)は(a)のA−A線断面図、(d)は(b)のB−B線断面図である。図9に示すように駆動側と従動側のクラッチ要素のうち、一方のクラッチ要素51が外スプライン状に配置したドグ部54を有し、他方のクラッチ要素52が内スプライン状に配置したドグ部54を有し、これらドグ部54の凸部53の稜線60が同じ角度で傾斜して形成されている。図9のドグクラッチにおいても図8のドグクラッチと同様の効果を奏することができる。
【0048】
以上、本発明の実施の形態ないし実施例を図面により詳述してきたが、本発明は前記実施の形態ないし実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲での種々の設計変更が可能である。例えば、本発明に係る変速機としては、少なくとも3組の前記歯車要素対と、少なくとも3組の前記クラッチと、少なくとも2組の前記非円形歯車要素対と、少なくとも2組の前記非円形歯車要素対用クラッチと、を備えていてもよい。
【符号の説明】
【0049】
10 変速機
12 入力軸
14 出力軸
16 第1の歯車対(第1の歯車要素対)
17 第2の歯車対(第2の歯車要素対)
18 非円形歯車対(非円形歯車要素対)
25,35 第1の区間(第1の噛み合い区間)
27,37 第2の区間(第2の噛み合い区間)
40 クラッチ(第1のクラッチ)
42 クラッチ(第2のクラッチ)
44 クラッチ(非円形歯車要素対用クラッチ)
53a 斜面
53 凸部
54 ドグ部
55 凹部
502 非円形歯車用クラッチ(非円形歯車要素対用クラッチ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能に支持された入力軸と出力軸との間にそれぞれ配置された、少なくとも2組の歯車要素対である第1の歯車要素対及び第2の歯車要素対と、
前記入力軸と前記出力軸との間に、少なくとも2組の前記歯車要素対をそれぞれ解除可能に連結する少なくとも2組のクラッチである第1のクラッチ及び第2のクラッチと、
前記入力軸と前記出力軸との間に配置された少なくとも1組の非円形歯車要素対と、
前記入力軸と前記出力軸との間に少なくとも1組の前記非円形歯車要素対を解除可能に連結する少なくとも1組の非円形歯車要素対用クラッチと、を備え、
前記非円形歯車要素対は、前記入力軸と前記出力軸との間の減速比が、前記入力軸と前記出力軸との間に前記第1の歯車要素対が連結された時の前記第1の歯車要素対の少なくとも一部の噛み合い区間における第1の減速比と等しくなる第1の噛み合い区間と、前記入力軸と前記出力軸との間の減速比が、前記入力軸と前記出力軸との間に前記第2の歯車要素対が連結された時の第2の歯車要素対の少なくとも一部の噛み合い区間における第2の減速比と等しくなる第2の噛み合い区間とを含む変速機において、
前記非円形歯車要素対用クラッチが斜面のみで噛み合うように構成されたドグクラッチからなることを特徴とする変速機。
【請求項2】
前記ドグクラッチは、同一軸上で対向する対称形状の駆動側と従動側のクラッチ要素からなり、該クラッチ要素は2つの斜面からなる山形の凸部を有するドグ部を軸の周方向に沿って複数設けることにより隣り合うドグ部の2つの傾斜面で谷形の凹部を形成して凸部と凹部を周方向に交互に形成してなり、駆動側のクラッチ要素の凸部と凹部が従動側のクラッチ要素の凹部と凸部に係合又は離間してクラッチがON又はOFFになるように構成されていることを特徴とする請求項1記載の変速機。
【請求項3】
前記駆動側と従動側のクラッチ要素のうち、一方のクラッチ要素が外スプライン状に配置したドグ部を有し、他方のクラッチ要素が内スプライン状に配置したドグ部を有し、これらドグ部の凸部の稜線が同じ角度で傾斜して形成されていることを特徴とする請求項2記載の変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−181003(P2010−181003A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−27239(P2009−27239)
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】