説明

外装材施工法

【課題】作業中にアスベストが外部に飛散せず、屋根,壁等に使用されている石綿スレート11を外装材で覆う簡便な工法を提供する。
【解決手段】重ね葺き時に露出した石綿スレート11の上に非粘着の飛散防止シート20を展開し、シートの合せ目22,23やケラバ14,軒先15の切断端縁に粘着テープ21を貼り付ける。飛散防止シート20で区画された密閉空間が石綿スレート11の上方に形成されるので、新設金属屋根板12を石綿スレート11,野地板10に固着する際に石綿スレート11から発生する切り粉Pは密閉空間に閉じ込められ外部に飛散しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスベストの飛散を防止しながら石綿スレート,石綿含有壁材等を外装材で覆う施工法に関する。
【背景技術】
【0002】
スレート屋根を金属屋根板で重ね葺きする際、野地板の軒棟方向に沿って敷設されたスレートに、スレートを貫通するビスで金属屋根板を野地板に固着している。スレートとして、耐火・断熱性,軽量性,耐久性に優れたアスベストを配合した石綿スレートが過去に使用されていた。しかし、老朽化した石綿スレートから、或いは切断等の加工時に飛散するアスベストが健康に深刻な影響を及ぼすことから、石綿スレートの使用は社会問題になっている。
【0003】
アスベスト被害を解消するため、老朽化が著しい建築物では、石綿スレートを初めとするアスベスト含有建材や吹付けアスベストの撤去が進められているが、撤去には費用,工数等に多大の負担を強いられる。撤去されないまでも、適切な措置でアスベストの飛散を防止できれば、負担が大幅に軽減される。既設の石綿スレートをそのままにして金属屋根板を重ね葺きする工法では、石綿スレートに融着性の防水シートを貼り付け、石綿スレートとほぼ同じ働き幅の金属屋根板を防水シートの上から釘,吊り子等で固定している(特許文献1)。
【特許文献1】実公平6-24502号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
融着性の防水シートは、常温でも接着力を呈するので、ステープル等の必要なく石綿スレートに接着できる。石綿スレートに貼り合せた融着性防水シートは、石綿スレートの表面に密着し、金属屋根の葺替え時にアスベストの飛散を防止できるものと予想される。しかし、融着性防水シートを貼り合せた石綿スレートの上で金属屋根板を敷設する実作業では、アスベストの飛散が避けられなかった。なかでも、石綿スレートの全面に融着性防水シートが密着しているものほど、アスベストの飛散が著しくなる傾向にあった。
【0005】
石綿スレート/シートの接触状態がアスベストの飛散に及ぼす影響を調査・検討した結果、意外にも石綿スレート/シート間に隙間ができるようにシートを展開するとき、アスベストの飛散が防止できることを見出した。石綿スレート/シートの隙間が飛散防止に有効なことは、屋根の葺替えに限らず、石綿含有壁材(窯業系サイディング,石綿スレートを剥き出し状態で取り付けた壁,アスベスト含有塗料を吹き付けた壁等)の補修工事でも同様である。
【0006】
本発明は、石綿スレート,石綿含有壁材とシートとの隙間がアスベストの飛散防止に有効であるとの知見をベースに、石綿スレートを用いた屋根や石綿含有壁材を用いた外壁をシートで覆い、石綿スレート,石綿含有壁材を密閉空間に包み込んだ上で外装材を施工することにより、健康に有害なアスベストの飛散を簡単な方法で効果的に防止し、作業効率よく外装材を取り付けることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、石綿スレートや石綿含有壁材を包み込む密閉空間を飛散防止シートで形成し、施工時に石綿スレート,石綿含有壁材から発生する切り粉を密閉空間に閉じ込め、外部に飛散させないことを特徴とする。
重ね葺き作業では、石綿スレートの全面に非粘着性の飛散防止シートを展開し、飛散防止シートの合せ目を粘着テープで繋ぎ、切断端縁を粘着テープで屋根材に固着する。石綿スレートを包み込む密閉空間が飛散防止シートで区画され、飛散防止シート,石綿スレートを貫通するビスで新設金属屋根板を固定する際に石綿スレートから発生する切り粉が密閉空間に閉じ込められる。
【0008】
壁の補修工法では、多段に積み上げられた石綿含有壁材の全面に非粘着性の飛散防止シートを展開し、飛散防止シートの合せ目を粘着テープで繋ぎ、切断端縁,土台見切縁を粘着テープで壁材に固着する。石綿含有壁材を包み込む密閉空間が飛散防止シートで区画され、飛散防止シート,石綿含有壁材を貫通するビスで新設外装材を固定する際に発生する切り粉が密閉空間に閉じ込められる。
【実施の形態】
【0009】
横葺きの金属屋根に適用した例で本発明を具体的に説明するが、石綿スレートが露出したままの屋根に対しても同様に適用されることはいうまでもない。
横葺きの金属屋根は、軒棟方向に傾斜した野地板10に石綿スレート11を配列している(図1)。石綿スレート11は、間口方向に長く、軒棟方向に階段状に重ねられ、石綿スレート11の上に固定される金属屋根板12(図2)とほぼ同じ働き幅をもっている。軒側金属屋根板12の棟側係合部に棟側金属屋根板12の軒側係止部を噛み合わせることにより、金属屋根板12が軒棟方向に階段状に敷設される。金属屋根板12と石綿スレート11との間に桟木13(図3)を組み込み、厚み感を付与することもある。
【0010】
金属屋根板12は、材質,塗料等によって長期耐食性が保証されている部材であるが、過酷な腐食環境に曝される状態では発錆が避けられない。発錆は、金属屋根の外観を著しく損ねるばかりでなく、積雪地域では屋根傾斜面から滑落する雪の滑りを悪化させることにもなる。そこで、何年か経過した時点で葺替えの必要が生じる。葺替えは、建築物の雰囲気を変えるために施工されることもある。
【0011】
重ね葺きに際しては、石綿スレート11の全面を飛散防止シート20で覆う。既設の重ね葺き金属屋根板がある場合には、既設金属屋根板を取り外した屋根傾斜面に飛散防止シート20を展開し、露出した石綿スレート11の全面を飛散防止シート20で覆う。飛散防止シート20は、従来の粘着性シートと異なり非粘着であり、石綿スレート11に密着せずに隙間G(図2,3)を形成する。飛散防止シート20は、ビス打ち等の際に四方に破れが発生せず、吸湿しても寸法変化や強度変化のない材質が好ましく、JIS A6005相当のアスファルトフェルト,アスファルトルーフィング,砂付きルーフィング,JIS A6111相当の透湿防水シート等が使用される。
【0012】
飛散防止シート20は、施工性を考慮し、石綿スレート11や金属屋根板12と同じ又は整数倍のサイズに裁断されたシートが使用される。そのため、複数枚の飛散防止シート20の合せ目を粘着テープ21で繋ぐことにより、屋根傾斜面の全体を飛散防止シート20で覆っている。粘着テープ21は、軒棟方向の合せ目22,間口方向の合せ目23の他に、ケラバ14,軒先15にも適用され、石綿スレート11の上方に密閉空間を飛散防止シート20で区画する。
【0013】
次いで、飛散防止シート20の上で新設金属屋根板12を位置決めし、ビス16で石綿スレート11を介し野地板10に固定する。ビス16の打ち込みによって破断したアスベストは極細繊維状の切り粉Pとなって石綿スレート11から分離し、固定部の石綿スレート11が剥き出しの場合(図2b,図3b)には切り粉Pが外部に飛散する。しかし、石綿スレート11と飛散防止シート20との間に密閉空間が形成されているので、石綿スレート11から分離した切り粉Pは隙間Gに閉じ込められ、外部に飛散しない(図2a,図3a)。
飛散防止シート20の合せ目又は切断端縁から50mm以内にビス16の打設個所を設定せざるを得ない場合、密閉空間が外部に連通しないように、粘着テープ21や接着剤等で合せ目や切断端縁をシーリングする。
【0014】
石綿スレート11と飛散防止シート20との間を密閉空間とすることは、融着性の防水シートを石綿スレート11の表面に密着させる従来工法よりもアスベストの飛散防止に優れた効果を発揮する。密閉空間が飛散防止効果に及ぼす影響は、次のように説明できる。
【0015】
石綿スレート11から浮遊状態にある飛散防止シート20(図4a)は、ビス16の打ち込みで生じる圧力変動を撓み変形として吸収する。石綿スレート11からの切り粉Pも隙間Gに閉じ込められるが、切り粉Pの量に応じて隙間Gのサイズも変わるので急激な内圧増加に至らない。他方、石綿スレート11に融着性シートSを密着させていると、ビス16の打ち込み時に加わる応力を吸収する遊びが融着性シートSにないため、閾値を超える力が加わると融着性シートSが大きく破断し、生じた開口から切り粉Pが周囲に噴出する。この点、飛散防止シート20を石綿スレート11に付着させずに隙間Gをもたせた方がアスベストの飛散防止に好適といえる。
【0016】
密閉空間の形成でアスベストの飛散防止を図ることは、石綿スレートを有する屋根に限らず、石綿含有壁材で構築された壁にも適用できる。
石綿含有壁材31を用いた壁構造体30(図5)は、石綿含有壁材31を垂直方向に積み重ねた構造をもっており、適宜の個所が開放された窓32となっている。石綿含有壁材31の表面が露出したものもあれば、石綿含有壁材31の表面に着色塗膜等を施したもの,コンクリート系本体にアスベストを吹付け塗装したものもある。何れの壁構造体30でも、石綿含有壁材31からアスベストが飛散することを防止する措置が要求される。
【0017】
壁構造体30の撤去なくアスベストの飛散を防止するため、石綿含有壁材31を新設外装材33(図6)で被覆するが、新設外装材33の固着に先立って石綿含有壁材31の全表面を飛散防止シート20で包み込む。
飛散防止シート20は、間口方向に沿って石綿含有壁材31にあてがわれ、間口方向に延びる合せ目22a,上下方向に延びる合せ目23aを粘着テープ21で繋がれる。窓32の周辺では、窓32の縁よりも若干後退した位置に切断端縁24がくるように飛散防止シート20を裁断しており、窓32の縁と切断端縁24との間で露出する石綿含有壁材31の表面に粘着テープ21を貼り付ける。地盤近傍の石綿含有壁材31にあてがわれた飛散防止シート20も、土台見切縁25が粘着テープ21で覆われ固定される。
【0018】
飛散防止シート20の合せ目22a,23a,切断端縁24,土台見切縁25に粘着テープ21を貼り合せることにより、飛散防止シート20で区画された密閉空間が石綿含有壁材31の表面近傍に形成される。そのため、新設外装材33を取り付けるためビス36を石綿含有壁材31,既設胴縁34(図6a)に打ち込んでも、石綿含有壁材31から発生する切り粉は密閉空間に閉じ込められ、外部に飛散しない。新設外装材33に加え新設胴縁35(図6b)を取り付ける場合でも、石綿含有壁材31からの切り粉は外部に飛散しない。
【0019】
壁面に対する施工では、石綿含有壁材31から発生した切り粉が壁面に沿って落下することが屋根の施工と異なるが、同様な切り粉の落下は急勾配の屋根を施工する際にも生じる。壁面に沿って落下し密閉空間の下部に切り粉が溜まっても、粘着テープ21で土台見切縁25が封止・固定されているので、石綿含有壁材31と飛散防止シート20の隙間からのアスベスト飛散が防止される。
【0020】
以上のように、石綿スレート11,石綿含有壁材31を包み込む密閉空間を飛散防止シート20で区画した後、新設金属屋根板12や新設外装材33をビス止めするとき、石綿スレート11,石綿含有壁材31から発生する切り粉Pが密閉空間に閉じ込められ外部に飛散しない。そのため、作業環境は勿論、周辺環境の悪化が抑えられる。しかも、既存の屋根や壁を覆って密閉空間を形成するだけの作業であるため、作業コストの上昇も抑えられる。
このようにして、本発明の工法では、アスベストの飛散がない状態で屋根の重ね葺き,壁の補修が可能になり、アスベスト問題が深刻になっている現状で優れた工法といえる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】横葺き屋根の重ね葺きに本発明を適用した例の説明図
【図2】飛散防止シートで密閉空間を形成した場合(a)を、石綿スレートが剥き出しのままの横葺き作業(b)と対比した図
【図3】同じく飛散防止シートで密閉空間を形成した場合(a)を、石綿スレートが剥き出しのままの横葺き作業(b)と対比した図
【図4】飛散防止シートで区画した密閉空間がアスベストの飛散防止に有効なことを対比して説明する図
【図5】石綿含有壁材を多段に積み重ねた壁構造体を補集する作業の説明図
【図6】飛散防止シートで密閉空間を形成した壁構造体の補修作業を示す二例
【符号の説明】
【0022】
10:野地板 11:石綿スレート 13:桟木 14:ケラバ 15:軒先 16:ビス
20:飛散防止シート 21:粘着テープ 22:軒棟方向の合せ目 23:間口方向の合せ目 24:切断端縁 25:土台見切縁
30:壁構造体 31:石綿含有壁材 32:窓 33:新設外装材 34:既設胴縁 35:新設胴縁
G:隙間 P:石綿スレートの切り粉 S:融着性シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石綿スレート(11)が野地板(10)に固着された屋根を金属屋根板で重ね葺きする際、石綿スレート(11)の全面に非粘着性の飛散防止シート(20)を展開し、飛散防止シート(20)の合せ目(22,23)を粘着テープ(21)で繋ぎ切断端縁を粘着テープ(21)で屋根材に固着することにより石綿スレート(11)を包み込む密閉空間を飛散防止シート(20)で区画し、飛散防止シート(20),石綿スレート(11)を貫通するビス(16)で新設金属屋根板(12)を固定する外装材施工法。
【請求項2】
石綿含有壁材(31)の表面を外装材で覆う際、多段に積み上げられた石綿含有壁材(31)の全面に非粘着性の飛散防止シート(20)を展開し、飛散防止シート(20)の合せ目(22a,23a)を粘着テープ(21)で繋ぎ切断端縁(24),土台見切縁(25)を粘着テープ(21)で壁材に固着することにより石綿含有壁材(31)を包み込む密閉空間を飛散防止シート(20)で区画し、飛散防止シート(20),石綿含有壁材(31)を貫通するビス(36)で新設外装材(33)を固定する外装材施工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−107235(P2007−107235A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−298051(P2005−298051)
【出願日】平成17年10月12日(2005.10.12)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【出願人】(391037478)日本鐵板株式會社 (13)
【出願人】(596092366)月星商事株式会社 (3)
【出願人】(593023785)日新総合建材株式会社 (23)
【Fターム(参考)】