説明

大谷石の地下空洞充填工法

【課題】大谷石の廃坑に形成された複数の横坑の交差位置に、溶融スラグを含むゲル状の充填材を流し込むことにより、環境への悪影響を誘発することなく、当該交差位置での地盤脆弱性を補完して地盤全体の安定性を向上させることができ、かつ低コストで施工の容易な大谷石の地下空洞充填工法を提供する。
【解決手段】大谷石の地下空洞を構成する複数の横坑3の交差位置に向けて、地表面からボーリングを施し、かつ当該ボーリング位置まで圧入した供給パイプ7を介して、ゲル状の充填材8を上記横坑3の交差位置およびその周域に充填するようにした。上記横坑3の交差位置およびその周域にゲル状の充填材8を充填した後に、隣接する交差位置間で連通する横坑3に向けて地表面からボーリングを施し、かつ当該ボーリング位置まで圧入した供給パイプ7を介して、ゲル状の充填材8を上記横坑3に充填するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大谷石の地下空洞充填工法に係り、詳しくは残柱式採掘方法により形成された大谷石の地下空洞を埋戻すための充填工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、大谷石の採石作業は地盤沈下や地盤陥没等の事故を未然に防止し、地盤の安定性を図る見地から残柱式採掘方法が採用されている。しかし、採石作業により形成された地下空洞は、地震等の自然災害や地表面を頻繁に往来する重量物積載車両の振動により経時的に安定性が損なわれ、しばしば各種の地盤沈下や地盤陥没等の事故を引き起こしている。このため、その対策として、前記地下空洞を埋め戻す各種の充填工法が提案されている。そして、従来技術による大谷石の地下空洞充填工法としては、充填材として廃棄物と生コンを素材としたコンクリートを用いる工法や、石炭灰(以下、フライアッシュという。)と水とからなる混合液を用いる工法が提案されている。
【特許文献1】特開平3−9000
【特許文献2】特開平8−28200
【0003】
しかしながら、上記特許文献1のものでは、高分子系のプラスティックやゴム類、あるいは金属、ガラス、陶磁器等の種々のくず材をそのまま素材として充填材を構成しているため、充填材としての剛性や耐性が不均一になりやすいうえ、素材によっては環境ホルモンへの悪影響も懸念され、また、特許文献2のものでは、加圧流動床燃焼複合発電施設(PFBC)で排出される産業廃棄物としてのフライアッシュを有効利用することができるものの、このフライアッシュと水との混合を前提とした構成であるため、地下水が廃坑に既に存在する場合には、その充填効果を最大限に発揮することができず、所定の充填形状を確保することが困難となる、という問題点を内包するものであった。
【0004】
一方、近年では、家庭や事業所のゴミを焼却炉で燃やすことにより発生する有害物質のダイオキシンが環境に関わる社会問題として大きく取り上げられ、各地に存在する公共の焼却施設には、通常の焼却炉でゴミを燃やした際に排出される焼却灰を、更に約1400℃の高温で溶かす溶融炉が設置され、この溶融炉での熱処理で得られたゲル状の物質を急激に冷却することで、有害な化学物質(ダイオキシン)や重金属(鉛・水銀・六価クロムなど)をガラス質と一体化して外部に一切出さない硬く細かい物質、すなわち溶融スラグが得られることが知見されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、叙上のごとき実状に鑑み従来の充填工法の欠点を解消すべく創案されたものであって、その意図するところは、大谷石の地下空洞を構成する複数の横坑の交差位置に、前記のような溶融スラグを含むゲル状の充填材を流し込むことにより、環境への悪影響を誘発することなく、当該交差位置での地盤脆弱性を補完して地盤全体の安定性を向上させることができ、かつ低コストで施工の容易な大谷石の地下空洞充填工法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
課題を解決するため、本発明が採用した第1の技術手段は、残柱式採掘方法により形成された大谷石の地下空洞を構成する複数の横坑の交差位置に向けて、地表面からボーリングを施し、かつ当該ボーリング位置まで圧入した供給パイプを介して、ゲル状の充填材を上記横坑の交差位置およびその周域に充填するようにしたことを特徴とするものである。
【0007】
本発明が採用した第2の技術手段は、上記横坑の交差位置およびその周域にゲル状の充填材を充填した後に、隣接する交差位置間で連通する横坑に向けて地表面からボーリングを施し、かつ当該ボーリング位置まで圧入した供給パイプを介して、ゲル状の充填材を上記横坑に充填するようにしたことを特徴とするものである。
【0008】
本発明が採用した第3の技術手段は、上記充填材は、溶融スラグ、セメント系固化材、土質材料および水を構成材料とし、供給パイプを介した地下空洞への供給過程で混合されてゲル状に態化することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
したがって、本発明によれば、地盤脆弱性の要因となる横坑の交差位置およびその周域に、ゲル状の充填材を充填することにより、材料ロスを生じることなく、地下空洞への限定的な充填を確実に行うことができると共に、地表面からボーリング位置まで圧入した供給パイプを介して充填材を充填するので、地下空洞内における地下水の有無に関係なく作業を行うことが可能となり、しかも、充填材は、溶融スラグを含むセメント系固化材及び土質材料で構成されるため、自然環境に悪影響を与えることがない。更に、横坑の交差位置およびその周域にゲル状の充填材を充填した後に、隣接する交差位置間で連通する横坑に向けて地表面からボーリングを施して、この位置にゲル状の充填材を充填することにより、より一層の地盤補完をなし得て、その後に利用される地表面の建造物、施設の安全性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
地下空洞を構成する複数の横坑の交差位置に向けて、地表面からボーリングを施し、地表面からこのボーリング位置まで圧入した供給パイプを介して、ゲル状の充填材を上記横坑の交差位置およびその周域に充填した。
【実施例1】
【0011】
本発明の構成を、図面に示した一実施例に基づいて詳細に説明する。 図1〜図2において、1は地盤、2は平面的な広がりを有して過去に該地盤1中に採掘された大谷石の廃坑であり、現状では大規模な地下空洞となっている。
【0012】
上記廃坑2は、高さが2〜10m程度であり、地上までの土被り深さが100m前後を有して形成されていると共に、本実施例の廃坑2は、複数の柱部T、T…を残して複数の横坑3、3…が交差する、いわゆる残柱式の採掘方法によって形成されており、地表面Hに連通する竪坑4からの計測で、その内部には深さ13〜14mの位置まで地下水Wで満たされている。なお、5は竪坑4の開口部4aを擁して付設された石加工工場跡、6は石置き場である。
【0013】
本発明の充填工法においては、まず図3に示すように、複数の横坑3、3…の各交差位置X、X…に向けて地盤1のボーリングを行い、次に図4に示すように、そのボーリング孔に供給パイプ7、7を挿入して、前記交差位置Xへ充填材8を充填する。
【0014】
ここで、上記充填材8は、溶融スラグa、セメント系固化材b、砂利キラc等の土質材料および水dを構成材料とし、廃坑2への供給過程で供給パイプ7内で混合されてゲル状に態化させたものである。
なお、上述した砂利キラcは、珪砂や、耐火煉瓦等の窯業原料として使用される耐火粘土の製造過程で副産物として生じる、石英、長石、カオリンを構成鉱物とする粘土混じりの微粒珪砂であって、当業者間では「キラ」と総称されるものである。
【0015】
上記充填材8に配合される溶融スラグaは、溶融固化技術が普及し始めてから約十数年の間に、溶融スラグaを最終処分場に埋め立てるのではなく、その安全性から土木建築工事の材料に有効利用するための研究・試験が近年全国各地で続けられてきた成果物であり、現在は、道路の舗装用アスファルトの混合材料としての有効性、安全性が確認されたことから、主として、市町村レベルでの公共事業でアスファルト材料(アスファルトの全体重量の約10%を溶融スラグaで置き換える。)としての利用が進められているものである。そして、その安全な有効利用のために、国及び都道府県の基準も定められており、これらの実績に基づき、ゴミからつくられた溶融スラグaは、リサイクル(循環型)社会における代表的な有価物として、安価(一例では、200円/トン)に提供されている。
【0016】
そして、上記溶融スラグaを含む、セメント系固化材b、砂利キラcおよび水dの構成比率は、水dを「100」とした場合に、セメント系固化材b「15」、砂利キラc「25」、溶融スラグa「50」を基準として、廃坑2が位置する地域の地盤(岩盤)、土質および地下水質の各調査結果に基づいて構成比率を適宜に変更することにより、最適なゲル状に態化させるように調整がなされる。これらの構成材料a〜dは、図4に示すように、現場に設置した図示しないプラントからコンベア9、9によって供給される溶融スラグa、セメント系固化材b、砂利キラcと、ポンプ10によって供給される水dを、ホッパー11に投入して混合した後に圧入ポンプ12を介して供給パイプ7に充填材8として圧送される。この供給パイプ7での圧送過程において、上記充填材8は短時間(20秒程度)でゲル化し、上記供給パイプ7の吐出口7aから吐出されたゲル状の充填材8が横坑3、3の交差位置Xを基点として、その周域に流出するが、上記充填材8は、自らの重量による広がりとともに盛り上がり、交差位置Xの周域近傍で横坑3、3の天井に達した時点で横坑3、3の交差位置Xでの充填が完了する。そして、全ての交差位置Xでの充填を完了すれば充填作業が終了し、充填材8は経時的に固結していくことになるが、溶融スラグを含むゲル状の充填材を交差位置Xで流し込むことにより、環境への悪影響を誘発することなく、廃坑2における当該交差位置Xでの地盤脆弱性を補完して地盤全体の安定性を向上させることができる。(図5参照)。
【0017】
このとき、前述した廃坑2が位置する地域の地盤(岩盤)、土質および地下水質の各調査結果で、地盤沈下や崩落の危険性があると認められる脆弱部位が予め知見されている場合には、図6に示すように、当該部位(実施例ではA領域)の隣接する交差位置X、X間で連通する横坑3、3に向けて地表面Hからボーリングをそれぞれ施し、かつ当該ボーリング位置まで圧入した供給パイプ7、7を介して、前記と同様に、溶融スラグa、セメント系固化材b、砂利キラcおよび水dからなるゲル状の充填材8を、上記横坑3に充填すれば、A領域における脆弱部位のより一層の補完がなされることになる(図7参照)。
【産業上の利用可能性】
【0018】
大谷石の地下空洞の埋め戻しの外、全国の地中に存在する炭廃坑などの埋め戻しに利用する事により、その地表面の有効利用を図ることができ、また、地下階を有する古い建造物を取り壊す際に、本発明の充填工法を利用して地下階を埋め戻せば、当該地下階の剛構造をそのまま有効に利用して地表面の再利用が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の大谷石の地下空洞充填工法を採用する廃坑およびその周辺を示す要部縦断面図である。
【図2】廃坑内を示す要部水平断面図である。
【図3】充填工法の施工手順を示す平面図である。
【図4】廃坑およびその周辺を示す要部拡大断面図である。
【図5】充填材を充填した廃坑内を示す要部水平断面図である。
【図6】充填材を充填した廃坑内を示す要部水平断面図である。
【図7】脆弱部位に充填材を充填した廃坑内を示す要部水平断面図である。
【符号の説明】
【0020】
2 廃坑 3 横坑 7 供給パイプ 8 充填材 a 溶融スラグ b セメント系固化材 c 土質材料 d 水 H 地表面 X 交差位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
残柱式採掘方法により形成された大谷石の地下空洞を構成する複数の横坑の交差位置に向けて、地表面からボーリングを施し、かつ当該ボーリング位置まで圧入した供給パイプを介して、ゲル状の充填材を上記横坑の交差位置およびその周域に充填するようにしたことを特徴とする大谷石の地下空洞充填工法。
【請求項2】
上記横坑の交差位置およびその周域にゲル状の充填材を充填した後に、隣接する交差位置間で連通する横坑に向けて地表面からボーリングを施し、かつ当該ボーリング位置まで圧入した供給パイプを介して、ゲル状の充填材を上記横坑に充填するようにしたことを特徴とする請求項1記載の大谷石の地下空洞充填工法。
【請求項3】
上記充填材は、溶融スラグ、セメント系固化材、土質材料および水を構成材料とし、供給パイプを介した地下空洞への供給過程で混合されてゲル状に態化することを特徴とする請求項1または2に記載の大谷石の地下空洞充填工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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