説明

子宮癌の診断方法および子宮癌診断用キット

【課題】子宮頚癌および体癌細胞を直接測定および解析する細胞ベースのスクリーニング方法であって、非侵襲的であり、検査負担も低く、かつ信頼性の高い診断結果を得られる子宮癌の診断方法、および該診断方法に用いられるキットの提供
【解決手段】生体試料中に子宮癌細胞が含まれているか否かにより子宮癌を診断する方法であって、(a1)生体試料中の細胞を、細胞観察用容器中に固定した後に染色する工程と、(b1)前記工程(a1)において染色された細胞の顕微鏡画像を取得し、画像解析することにより、子宮癌細胞を検出する工程と、を有し、かつ、前記生体試料が子宮由来のものであることを特徴とする、子宮癌の診断方法、および前記子宮癌の診断方法に用いられる子宮癌診断用キット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料中に子宮癌細胞が含まれているか否かにより子宮癌を診断する方法であって、自宅にいながらでも手軽に入手可能な生体試料を用いて、子宮体癌と子宮頚癌とを区別して早期に検出し得る診断方法、および該診断方法に用いられるキットに関する。
【背景技術】
【0002】
子宮癌には、子宮頚部に発生する子宮頚癌および子宮体部に発生する子宮体癌がある。両者は同じ子宮に発生する癌であるが、種類が異なり、発生原因や検診方法、治療法等も異なる。日本における子宮癌は近年増加しており、毎年約2万3千人が罹患し、約5千4百人が死亡しているという報告がある。
日本では20歳代からの幅広い年齢層で子宮頚癌の発生率が高い傾向にあり、30代前半から70代前半にかけてその発症率は同程度である。さらに従来、子宮体癌は、閉経前後およびそれ以降の年齢層に多く発生するとされていたが、近年においては、食生活の欧米化、肥満、ストレス等が原因ではないかと考えられており、比較的若くて妊娠経験のない女性の罹患者の割合が増加傾向にある。
【0003】
日本における子宮体癌は、以前は子宮癌のうちの10%以下であったが、確実に増加しており、現在では子宮癌全体の約45%を占めており、アメリカにおける約78%に近づきつつある。すなわち、30年前に比べて、子宮頚癌は横ばいから減少しているが、子宮体癌は約8倍に増加している。子宮体癌の5年生存率は、そのステージにしたがって、1期(91.1%)、2期(86.4%)、3期(69.2%)、4期(26.1%)という報告がある。
【0004】
子宮頚癌および子宮体癌の検診方法としては、細胞診が一般的に行われている。特に子宮頚癌では、その対象部位が子宮口に近いため、試料採取時の被験者への負担が比較的軽く、早期発見のスクリーニング法として、健康診断等で細胞診が有効に利用されている。このような細胞診は、具体的には、分取した細胞に対して、通常パパニコロウ染色を行い、細胞の形状、核、クロマチンの不均等分布、核形不整等から子宮頚癌および子宮体癌を診断する。顕微鏡下による人間(細胞技師等の専門員)の目による診断が一般的である。
【0005】
子宮頚部群のサンプルの測定・解析に関して、より容易に行える方法としてフローサイトメータを用いた方法がある(例えば、特許文献1参照。)。これは、細胞を流しながら細胞がもつ個々の蛍光強度を測定するものであり、該測定結果に基づき、一つ一つの細胞が癌細胞か正常細胞かを判断する。
また、最近では、RT−PCRやプロテオミクスによる診断も増えてきている。これらの方法は、細胞を含んでいる検体をすりつぶして、RNAやタンパク質を抽出し、定量性PCRや癌特異的抗体を用いて、検出される癌細胞由来のRNAやタンパク質量の多寡により、子宮癌を発症しているか否かを判断するものである。
さらに、子宮体癌診断においては、採取される細胞診検体をモノレイヤー標本作成装置であるThin Prepを応用して処理した検体を用いて、子宮体癌に特異的に発現する糖鎖抗原(SN-Ag)をターゲットとした酵素免疫測定法を用いた方法も研究レベルでされている。
【0006】
さらに、子宮体癌が疑われる場合には、子宮内膜組織診という生検をおこなう。子宮体癌は子宮の奧にできるため、直接視認することは困難であるが、最近は、ヒステロスコープという子宮鏡を用いて病変やその広がりを観察し、診断するという方法もとられている。その他、子宮内膜症の診断として、月経血をつかった方法がある(例えば、特許文献2参照。)。該方法は、月経血から病理切片として、基底細胞あるいは基底細胞に典型的な遺伝子産物のうち少なくとも1種を測定し、診断として使用する方法である。
【特許文献1】特開2005−315862号公報
【特許文献2】特開2003−207509号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
細胞診では、細胞の採取方法や採取器具により、挿入率や採取細胞量に差異が見られるため、安定した結果が得られにくいという問題がある。さらに、採取部位により診断がことなる可能性も高い。また、被験者から細胞を採取する工程は侵襲的であり、いずれの方法や器具を用いた場合であっても、痛みを伴うとされる。特に、対象部位が子宮口より遠くに存在する子宮体癌では、子宮口から奥まで細い管を挿入し、子宮内壁から細胞を採取して癌細胞の有無を調べるが、痛みや出血を伴う場合がある。さらに、子宮体癌は、妊娠経験のない女性が罹患しやすいという傾向があるが、このような細胞診を嫌がり、産科への来院を避ける傾向にあるのも、発見が遅くなる理由の一つにあげられる。
【0008】
また、細胞診断では、1つでも陽性と診断される細胞がサンプル中に存在している場合、かなり高い確率で子宮癌であると診断されるため、1つの細胞の見逃しも許されないことになる。したがって、細胞技師にかかる肉体的および精神的負担というものは計り知れない。また、長時間蛍光顕微鏡で観察していると、その蛍光色素による褪色を回避することができない。マニュアル的に顕微鏡写真をとっていく方法をとらざるを得ない。1つの細胞の見逃しもなく、マニュアル的に撮像工程を踏むことは、非常に大変な作業である。さらに、再度、元のサンプルを顕微鏡下で探すことは容易なことではない。
【0009】
一方、フローサイトメータを用いた診断方法では、個々の細胞がばらばらになっていることが測定の際の必要条件となってくる。しかしながら、月経血やおりものを含む分泌物から分取された細胞サンプルは基本的にはあまりきれいではなく、細胞以外のごみ等のデブリスや上皮細胞が結合組織につながれているものを含むことが少なくない。このように細胞が個々になっていない試料をフローサイトメータで解析する場合、データを読み取ることができないばかりでなく、フローの流路を塞いでしまう可能性が高い。さらに、細胞以外のごみ等のデブリスの自家蛍光を拾ってしまい、データ結果に誤りをもたらす可能性がある。加えて、一度流してしまったサンプルを、再度顕微鏡下で探すことは不可能である。そのため、このようなフローサイトメータによる解析では、測定解析後に示される蛍光強度データだけに基づく臨床診断を下さなければならず、十分に信頼できる結果を得ることが困難な場合も多い。また、形態が不定形である細胞、特に脱核している細胞等は、細胞として認識されず、診断上見落とされる可能性があり非常に危険である。
【0010】
また、RT−PCRやプロテオミクスによる診断では、そのDNAやRNA等の核酸やタンパク質を抽出するステップが煩雑であるという問題がある。また、診断の決め手となるのは、それらの量であり、たとえば、1000個の正常細胞に1つの癌細胞が混入している場合のように、癌細胞由来の核酸等の量が非常に微量であり、検出限界以下である場合には、癌細胞の存在を発見できない可能性がある。一方、検出感度をあげて測定した場合には、正常細胞もすべて陽性と診断される可能性がある。このように、RT−PCRやプロテオミクスによる診断では、個々の細胞ごとに癌細胞か正常細胞かを判断する細胞診よりも信頼性に劣るという問題がある。
【0011】
上述したように、現在行われている子宮癌の診断方法では、被験者への負担、検査技師等の検査負担、診断結果の信頼性等のいずれをも満足する方法はない。
したがって、本発明は、子宮頚癌および体癌細胞を直接測定および解析する細胞ベースのスクリーニング方法であって、非侵襲的であり、検査負担も低く、かつ信頼性の高い診断結果を得られる子宮癌の診断方法および該診断方法に用いられるキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、月経血等の女性性器から分泌または剥離される生体試料中の細胞を染色し、個々の細胞ごとに癌細胞か正常細胞かを判断することにより、非侵襲的に質の高い子宮癌診断を行うことができること、特に、子宮頚癌細胞と特異的に結合する抗体と子宮体癌細胞と特異的に結合する抗体とを用いることにより、子宮頚癌と子宮体癌を区別して診断し得ること、さらに、免疫染色後、顕微鏡画像を取得し、画像解析を行うことにより、簡便かつ迅速に子宮癌を診断し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明は、
(1) 生体試料中に子宮癌細胞が含まれているか否かにより子宮癌を診断する方法であって、(a1)生体試料中の細胞を、細胞観察用容器中に固定した後に染色する工程と、(b1)前記工程(a1)において染色された細胞の顕微鏡画像を取得し、画像解析することにより、子宮癌細胞を検出する工程と、を有し、かつ、前記生体試料が子宮由来のものであることを特徴とする、子宮癌の診断方法、
(2) 前記生体試料が、月経血、おりもの、および女性性器からの分泌物からなる群より選択される一種を保存液に懸濁させた試料であることを特徴とする、前記(1)記載の子宮癌の診断方法、
(3) 前記生体試料が、生理用ナプキン、生理用タンポン、およびパンティーライナーからなる群より選択される一種に吸収されたものであることを特徴とする前記(1)記載の標的細胞の子宮癌の診断方法、
(4) 前記工程(a1)における染色が、子宮癌細胞と特異的に結合し得る検出用抗体を用いて行うことを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか記載の子宮癌の診断方法、
(5) 前記検出用抗体が、抗ヒトEpCAM抗体および/または抗ヒトCD44v6抗体であることを特徴とする前記(4)記載の子宮癌の診断方法、
(6) 前記工程(a1)における染色が、子宮体癌細胞と特異的に結合し得る第1検出用抗体および子宮頚癌細胞と特異的に結合し得る第2検出用抗体を用いて行うものであり、かつ、前記工程(b1)における子宮癌細胞の検出が、子宮体癌細胞と子宮頚癌細胞とを区別して検出するものであることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか記載の子宮癌の診断方法、
(7) 前記第1検出用抗体が抗ヒトEpCAM抗体であり、前記第2検出用抗体が抗ヒトCD44v6抗体であることを特徴とする前記(6)記載の子宮癌の診断方法、
(8) 前記工程(a1)における染色が、核染色であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか記載の子宮癌の診断方法、
(9) 前記工程(a1)における染色が、核染色を併用することを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれか記載の子宮癌の診断方法。
【0014】
(10) 前記工程(a1)が工程(a1−1)であり、前記工程(a1−1)の前に、下記工程(c1)を有することを特徴とする前記(1)〜(9)のいずれか記載の子宮癌の診断方法;(c1)生体試料中の細胞を、正常上皮細胞と子宮癌細胞とにおいて共通して発現している細胞表面抗原と特異的に結合し得る回収用抗体を用いて回収する工程;(a1−1)前記工程(c1)において回収された細胞を、細胞観察用容器中に固定した後に染色する工程、
(11) 前記工程(a1)が工程(a1−2)であり、前記工程(a1−2)の前に、下記工程(c2−1)〜(c2−3)を有することを特徴とする前記(1)〜(9)のいずれか記載の子宮癌の診断方法;(c2−1)子宮癌細胞の細胞表面抗原と特異的に結合する回収用抗体がリンカーを介して結合された固相担体を、生体試料に添加して混合し、子宮癌細胞−回収用抗体−固相担体複合体を形成する工程;(c2−2)前記工程(c2−1)において形成された子宮癌細胞−回収用抗体−固相担体複合体を回収する工程;(c2−3)前記工程(c2−2)において回収された子宮癌細胞−回収用抗体−固相担体複合体中の子宮癌細胞を、固相担体から分離する工程;(a1−2)前記工程(c2−3)において得られた子宮癌細胞を、細胞観察用容器中に固定した後に染色する工程、
(12) 前記回収用抗体が、正常上皮細胞と子宮癌細胞とにおいて共通して発現している細胞表面抗原と特異的に結合し得る抗体であることを特徴とする前記(10)または(11)記載の子宮癌の診断方法、
(13) 前記回収用抗体が抗ヒトpanCEACAM抗体であることを特徴とする前記(12)記載の子宮癌の診断方法、
(14) 前記リンカーが、プロテインG、プロテインA、またはDNAからなることを特徴とする前記(11)〜(13)のいずれか記載の子宮癌の診断方法、
(15) 前記工程(c2−3)において、DNA切断酵素反応処理、非特異的抗体との競合反応処理、およびpHの酸性化処理からなる群より選択される1種を行うことにより、子宮癌細胞を固相担体から分離することを特徴とする前記(14)記載の子宮癌の診断方法、
(16) 前記固相担体が、平均粒子径0.05〜6μmの磁気ビーズであることを特徴とする前記(11)〜(15)のいずれか記載の子宮癌の診断方法、
【0015】
(17) 前記検出用抗体が蛍光物質により標識された抗体であることを特徴とする前記(4)〜(7)のいずれか記載の子宮癌の診断方法、
(18) 前記検出用抗体がリガンドにより標識された抗体であり、子宮癌細胞の染色を、当該リガンドと、予め蛍光物質により標識された当該リガンドと特異的に結合し得る受容体との相互作用を利用した蛍光染色により行うことを特徴とする前記(4)〜(7)のいずれか記載の子宮癌の診断方法、
(19) 前記細胞観察用容器が、スライドガラスまたはマルチウェルプレートであることを特徴とする前記(1)〜(18)のいずれか記載の子宮癌の診断方法、
(20) 顕微鏡画像の取得および画像解析を、イメージングサイトメータを用いて行うことを特徴とする前記(1)〜(19)のいずれか記載の子宮癌の診断方法、
(21) 前記画像解析が、取得された顕微鏡画像に基づいて、各細胞の面積および蛍光強度を解析し、1細胞の解析結果を1ドットとして、細胞の面積と蛍光強度をパラメータとしたヒストグラムまたはドットプロットにより表示した後、所定の閾値に基づき標的細胞を同定することを特徴とする前記(20)記載の子宮癌の診断方法、
(22) 前記イメージングサイトメータが、前記ヒストグラムまたはドットプロット上に、ドットとして表示された細胞の面積の解析データまたは蛍光強度の解析データから、顕微鏡画像の画像データを呼び出す手段を有することを特徴とする前記(21)記載の子宮癌の診断方法、
【0016】
(23) 子宮由来生体試料を保存するための保存液含有容器、細胞観察用容器、子宮癌細胞と特異的に結合し得る検出用抗体、及び核染色剤からなる群より選択される1以上を含むことを特徴とする子宮癌診断用キット、
(24) 前記子宮由来生体試料が、月経血、おりもの、および女性性器からの分泌物からなる群より選択される一種であることを特徴とする前記(23)記載の子宮癌診断用キット、
(25) 前記検出用抗体が、抗ヒトEpCAM抗体および/または抗ヒトCD44v6抗体であることを特徴とする前記(23)または(24)記載の子宮癌診断用キット、
(26) さらに、正常上皮細胞と子宮癌細胞とにおいて共通して発現している細胞表面抗原と特異的に結合し得る回収用抗体を、リンカーを介して結合させた固相担体を有することを特徴とする、前記(23)〜(25)のいずれか記載の子宮癌診断用キット、
(27) 前記リンカーがDNAからなるものであり、さらに、DNA切断酵素を有することを特徴とする前記(26)記載の子宮癌検出用キット、
(28) 前記リンカーがプロテインGまたはプロテインAであり、さらに、非特異的抗体またはpH調製剤を有することを特徴とする前記(26)記載の子宮癌診断用キット、
(29) 前記固相担体が磁気ビーズであり、さらに、磁気ビーズ回収用磁気基盤を有することを特徴とする前記(26)〜(28)のいずれか記載の子宮癌診断用キット、
(30) 前記検出用抗体が、蛍光分子により標識されていることを特徴とする前記(23)〜(29)のいずれか記載の子宮癌診断用キット、
(31) 前記検出用抗体がリガンドにより標識されており、さらに、当該リガンドと特異的に結合し得る受容体を有し、前記受容体が蛍光物質により標識されていることを特徴とする前記(23)〜(29)のいずれか記載の子宮癌診断用キット、
(32) 前記細胞観察用容器がスライドガラスまたはマルチウェルタイププレートであることを特徴とする前記(23)〜(31)のいずれか記載の子宮癌診断用キット、
【0017】
(33) 子宮由来生体試料中に子宮体癌細胞が含まれているか否かにより子宮体癌を診断する方法であって、子宮由来生体試料に含まれる子宮体癌細胞を、抗ヒトEpCAM抗体を用いて検出する検出工程を有することを特徴とする、子宮体癌の診断方法、
(34) 子宮由来生体試料中に子宮頚癌細胞が含まれているか否かにより子宮頚癌を診断する方法であって、子宮由来生体試料に含まれる子宮頚癌細胞を、抗ヒトCD44v6抗体を用いて検出する検出工程を有することを特徴とする、子宮頚癌の診断方法、
(35) 子宮由来生体試料中に子宮癌細胞が含まれているか否かにより子宮癌を診断する方法であって、生体試料に含まれる子宮体癌細胞と子宮頚癌細胞とを、子宮体癌細胞と特異的に結合し得る第1検出用抗体および子宮頚癌細胞と特異的に結合し得る第2検出用抗体を用いて、区別して検出する検出工程を有し、前記第1検出用抗体が抗ヒトEpCAM抗体であり、前記第2検出用抗体が抗ヒトCD44v6抗体であることを特徴とする、子宮癌の診断方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の子宮癌の診断方法においては、子宮由来の生体試料中の細胞を染色し、顕微鏡画像を取得し、画像解析することにより、子宮癌細胞を直接検出することができる。
また、子宮癌細胞と特異的に結合する抗体、特に子宮頚癌細胞と特異的に結合する抗体と子宮体癌細胞と特異的に結合する抗体とを用いることにより、免疫染色によって子宮癌を簡便かつ高感度に検出することができる。特に、子宮体癌細胞と子宮頚癌細胞を区別して検出することも可能であるため、子宮体癌と子宮頚癌を高い精度で区別して診断することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の子宮癌の診断方法に供される生体試料は、子宮由来の生体試料である。子宮由来の生体試料としては、子宮由来の細胞を含んでいることが期待できる生体試料であれば、特に限定されるものではないが、月経血、おりもの、および女性性器からの分泌物等の、子宮から自然に分泌または剥離されるもの、またはこれらの懸濁液であることが好ましい。なお、本発明においておりものとは、女性性器(子宮)から分泌される粘液や組織片を意味する。また、子宮からの分泌物としては、子宮から分泌される粘液等がある。このように、子宮から強制的に採取した生体試料ではなく、自然に子宮から回収し得る生体試料を用いることにより、従来の子宮から直接細胞試料を採取する細胞診よりも非侵襲的であり、かつ被験者の心理的負担を顕著に軽減することができる。このため、本発明の子宮癌の診断方法を用いることにより、子宮癌の可能性の高い人を従来よりも積極的に産婦人科に外来させ、子宮癌の早期発見に資することが期待できる。
【0020】
月経血、おりもの、および女性性器からの分泌物等(以下、月経血等ということがある。)は、生理用ナプキン、生理用タンポン、およびパンティーライナー等の、細胞を含む月経血等を吸収し得る吸収剤に吸収させることにより採取することができる。生理用ナプキンやパンティーライナーは下着に装着し、生理用タンポンは膣内に挿入する。生理用タンポンを使用する場合にはトキシックショック症候群(TSS)の発症を回避するために、月経時であれば4〜8時間までにとどめることが好ましい。また、例えば、就寝時に吸収剤を装着し起床時に取り外すことにより、月経時以外でもおりもの(子宮からの分泌液)を、該吸収剤に吸収させ回収することができる。
【0021】
月経血等を吸収した吸収剤を、保存液に浸漬させることにより、吸収剤から月経血等に含まれている細胞等を保存液に抽出し、細胞含有懸濁液を得ることができる。吸収剤からの細胞の抽出は、細胞を損なうことなく抽出し得る方法であれば、特に限定されるものではなく、常法により行うことができる。例えば、保存液に浸漬させた月経血等を吸収した吸収剤を、Stomacher(登録商標) Lab Blender bagのような滅菌済ポリビニルバックに移し、Stomacher(登録商標)(Seward社製)等の破砕・攪拌装置を用いて懸濁した後、吸収剤を絞ることにより、細胞含有懸濁液を得ることができる。
【0022】
保存液としては、細胞に負担がかからず、細胞を安定的に保存し得る溶液であれば、特に限定されるものではなく、通常、細胞試料の処理に用いられる緩衝液等から適宜選択して用いることができる。中でも、リン酸緩衝液(PBS)や25mMHEPES含有ハンクス液等であることが好ましい。これらの緩衝液に、BSA(Bovine serum albumin)等のタンパク質や、FBS(Fetal Bovine Serum)等の血清を、0.1%〜10%となるように添加した溶液であることがより好ましい。また、該保存液には、細胞に負担をかけず、かつ後の工程に影響を及ぼさない限り、界面活性剤や有機溶剤を添加してもよい。
【0023】
月経血等を吸収した吸収剤は、速やかに保存液に浸漬されることが好ましい。吸収剤中に長期間保存することにより、生体試料に含まれている細胞が損なわれる可能性が高くなるためである。このため、吸収剤が回収される場所が検査場から離れている場合や、吸収剤の回収後検査開始までの待ち時間がある場合には、吸収剤を保存液に浸漬させた状態で輸送や保存することが好ましい。また、保存液に浸漬させた吸収剤は、低温環境下で保存されることが好ましい。室温で保存する場合よりも、細胞に対する影響を抑えることができるためである。特に、4℃以下の凍結しない程度の温度で保存されることが好ましい。輸送の際も4℃以下を保って検査場まで運ばれることが好ましい。また、一般的には、4℃で3日間程度保存する場合には、回収細胞数に大きな違いはないが、可能な限り速やかに輸送し、検査を行うことが好ましい。例えば、健康診断等の臨床検査においては、検査場との連携を保つためにインターネット上もしくは電話回線上で、指定番号等を入力し、発送期日、到着期日等を自動で振り分け、適切な日時に発送し検査し得るように連携をとることが望ましい。
【0024】
本発明の子宮癌の診断方法は、月経血等の子宮由来生体試料に含まれている細胞を染色して得られた顕微鏡画像を解析することにより、子宮癌細胞を直接検出することを特徴とする。染色された細胞を、顕微鏡観察により検出するため、細胞同士が接着している場合や、細胞に細胞以外の組織片等が付着している場合であっても、個々の細胞について、子宮癌細胞か否かを判断することができる。すなわち、本発明の子宮癌の診断方法は、フローサイトメータを用いる解析方法とは異なり、月経血等の個々の細胞が必ずしも分離されていない生体試料中の細胞に対しても、解析を行うことができるという利点も有する。
【0025】
本発明の子宮癌の診断方法は、具体的には、下記工程(a1)および(b1)を有することを特徴とする。
(a1)子宮由来生体試料中の細胞を、細胞観察用容器中に固定した後に染色する工程。
(b1)前記工程(a1)において染色された細胞の顕微鏡画像を取得し、画像解析することにより、子宮癌細胞を検出する工程。
【0026】
子宮由来生体試料に含まれている細胞は、上述したように、月経血等の子宮由来生体試料を吸収した吸収剤から保存液中に抽出し、細胞含有懸濁液として調製することができる。得られた細胞含有懸濁液をそのまま染色のための試料として用いてもよく、該細胞含有懸濁液からさらに細胞を回収し、回収した細胞に対して子宮癌細胞の検出を行ってもよい。
【0027】
細胞観察用容器としては、一般的に細胞染色に用いられるものであれば、特に限定されるものではないが、スライドガラスまたはマルチウェルプレートであることが好ましい。スライドガラスまたはマルチウェルプレートを用いて、イメージングサイトメータ等を用いることにより、多数の検体も迅速かつ簡便に処理することが可能となる
【0028】
なお、細胞観察用容器への細胞の固定方法は、特に限定されるものではなく、常法により行うことができる。例えば、自然乾燥させてもよく、ホルムアルデヒドやパラホルムアルデヒド、メタノール等の細胞固定架橋剤を呈することにより、細胞観察用容器へ細胞を固定することができる。固定処理後、細胞固定架橋剤を除去するため、PBS等で洗浄する。洗浄処理後、すぐに免疫染色を行わない場合は、細胞観察用容器をPBS等のバッファーを満たし、乾燥防止のフィルムを貼付して4℃で保存することもできる。また、検出用抗体と反応させる前に、細胞を固定した細胞観察用容器を、スキムミルク含有PBS等を用いてブロッキングすることも好ましい。
【0029】
工程(a1)における細胞の染色は、子宮癌細胞を染色し得る方法であれば、特に限定されるものではないが、子宮癌細胞と特異的に結合し得る検出用抗体を用いた免疫染色であってもよく、核染色剤を用いた核染色であってもよい。
【0030】
工程(a1)における細胞の染色として、検出用抗体を用いた免疫染色を行うことにより、生体試料中に含まれている細胞の中から、子宮癌細胞を特異的に染色し得るため、より精度よく子宮癌を検出することができる。
【0031】
本発明において検出用抗体とは、正常上皮細胞を認識せず、子宮癌細胞を特異的に認識し得る抗体である。本発明においては、特に、正常上皮細胞の細胞表面抗原と結合せず、子宮癌細胞の細胞表面抗原と特異的に結合し得る抗体であることが好ましい。該検出用抗体は、子宮体癌細胞と子宮頚癌細胞の両方を認識する抗体であってもよいが、いずれか一方をより特異的に認識し得る抗体であることがより好ましい。子宮体癌と子宮頚癌を区別して診断することが可能となるためである。但し、本発明において、特異的に結合するとは、結合する対象である物質の検出や精製等に通常用いることができる程度に特異的に結合し得ることを意味し、子宮癌の診断に影響を及ぼさないような他の物質と交差するものであってもよい。
【0032】
具体的には、子宮体癌細胞と特異的に結合し得る第1検出用抗体および子宮頚癌細胞と特異的に結合し得る第2検出用抗体を用いることにより、生体試料に含まれる子宮体癌細胞と子宮頚癌細胞とを区別して検出することができる。第1検出用抗体としては、例えば、EpCAMを抗原とする抗ヒトEpCAM抗体等の、子宮体癌細胞の細胞表面に発現しており、正常上皮細胞や子宮頚癌細胞の細胞表面にはほとんど発現していない細胞膜タンパク質等を抗原とする抗体であることが好ましい。抗ヒトEpCAM抗体としては、具体的には、市販されているクローンVU−1D9{例えば、AbD serotec社(カタログNo.4240−4009)から入手可能}やクローンBer−EP4{例えば、Dako社(カタログNo.M0804)から入手可能}、クローンB8−4(国立がんセンター樹立)等がある。一方、第2検出用抗体としては、例えば、CD44v6を抗原とする抗ヒトCD44v6抗体等の、子宮頚癌細胞の細胞表面に発現しており、正常上皮細胞や子宮体癌細胞の細胞表面にはほとんど発現していない細胞膜タンパク質等を抗原とする抗体であることが好ましい。抗ヒトCD44v6抗体としては、具体的には、市販されているクローンVFF18{例えば、Chemicon社(カタログNo.MAB4073)から入手可能}、クローン1033C(国立がんセンター樹立)等がある。
【0033】
なお、本発明において用いられる抗体は、モノクローナル抗体であってもよく、ポリクローナル抗体であってもよい。また、このような抗体は、市販の抗体を用いてもよく、抗原をマウス等の実験動物に免疫し、常法により作製した抗体を用いてもよい。
【0034】
工程(a1)における免疫染色は、常法により行うことができる。具体的には、生体試料中の細胞を、細胞観察用容器中に固定し、検出用抗体を固定した子宮癌細胞と結合させる。その後、顕微鏡観察等を用いて、該検出用抗体を検出することにより、子宮癌細胞を検出することができる。免疫染色としては、蛍光物質や酵素等で標識した検出用抗体を用いて細胞を染色する直接法であってもよく、検出用抗体に対する抗体である二次抗体を用いて染色する間接法であってもよい。
【0035】
検出用抗体として、予め蛍光物質により標識された抗体を用いた場合には、共焦点レーザ顕微鏡等を用いて、細胞に、該蛍光物質の蛍光特性に適した波長の励起光を照射し、該蛍光物質から発された蛍光を検出することにより、高感度に検出用抗体と結合した細胞を検出することができる。抗体を標識する蛍光物質としては、一般的にタンパク質等の生体分子の標識に用いられる蛍光物質であれば、特に限定されるものではなく、公知の蛍光物質の中から適宜選択して用いることができる。該蛍光物質として、例えば、FITC(フルオレセインイソチオシアナート)、フルオレセイン、ローダミン(Rhodamin)、TAMRA、NBD、TMR(テトラメチルローダミン)等が挙げられる。
【0036】
子宮体癌細胞と特異的に結合し得る第1検出用抗体および子宮頚癌細胞と特異的に結合し得る第2検出用抗体を用いる場合には、第1検出用抗体と第2検出用抗体とを、それぞれ蛍光特性の異なる蛍光物質を用いて標識することにより、子宮体癌細胞と子宮頚癌細胞とを区別して検出することができる。なお、本発明において、蛍光特性が異なるとは、FITCとローダミンのように、励起光照射により発される蛍光の波長が、区別して検出し得るほど異なることを意味する。
【0037】
また、検出用抗体としてリガンドにより標識された抗体を用いて、検出用抗体と子宮癌細胞を結合させた後、当該リガンドと特異的に結合し得る受容体を二次抗体として用いることにより、子宮癌細胞を検出することもできる。該受容体を予め蛍光物質により標識しておくことにより、高感度に検出用抗体と結合した細胞を検出することができる。なお、本発明においてリガンドとは、抗体の標識に用いられる蛍光物質以外の物質であり、受容体とは、該リガンドと特異的に結合し得る物質を意味する。リガンドとしては、通常タンパク質等の標識に用いられるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ビオチン(biotin)、グルタチオン(Glutathione)、DNP(dinitorophenol)、ジゴキシゲニン(digoxigenin)、ジゴキシン(digoxin)、2以上の糖からなる糖鎖、6以上のアミノ酸からなるポリペプチド、オーキシン、ジベレリン、ステロイド、タンパク質、および、それらの類縁体等がある。一方、受容体としては、該リガンドの抗体や該リガンドの検出等に通常用いられている化合物等が挙げられる。ここで、リガンドの検出等に通常用いられている化合物とは、例えば、リガンドがビオチンの場合にはアビジンやストレプトアビジンであり、リガンドがグルタチオンの場合にはGST(グルタチオン−S−トランスフェラーゼ)、リガンドがマルトース等のアミロースの場合にはMBP(マルトース結合タンパク質)等である。
【0038】
その他、蛍光ではなく、酵素反応を利用した免疫染色法であってもよい。例えば、HRP(西洋わさびペルオキシダーゼ)やAP(アルカリフォスファターゼ)等の酵素を用いて標識した検出用抗体を、子宮癌細胞と結合させた後、該酵素の基質となる色素を添加して酵素反応を生じさせることにより、子宮癌細胞を染色し、検出することもできる。
【0039】
一方、工程(a1)における細胞の染色として、核染色剤を用いた核染色を行うことにより、生体試料中に含まれている細胞をより簡便に染色することができる。癌細胞では、正常細胞よりも核内の核酸量が多くなることから、核染色をした場合、癌細胞は正常細胞よりも強く染色される傾向がある。このため、核染色を行い、取得された各細胞の顕微鏡画像から、染色度を画像解析することにより、当該細胞が正常細胞か癌細胞かを判断することができる。なお、核染色剤としては、核酸を染色し得る色素を有効成分とするものであれば、特に限定されるものではなく、公知の核染色剤の中から、適宜選択して用いることができる。公知の核染色剤として、例えば、インタカレーターであるDAPI、PI、DRAQ5、Sytox、YOYO等が挙げられる。
【0040】
生体試料がおりもの等の比較的細胞以外の生体成分が少ない試料である場合には、上述したように調製した細胞含有懸濁液をそのまま、または適宜稀釈した後に、細胞観察用容器に適量を分注し、細胞固定処理を施した後、細胞染色を行ってもよい。一方、該細胞含有懸濁液から細胞を回収した後、この回収された細胞を細胞観察用容器に固定し、検出用抗体を用いて子宮癌細胞を検出してもよい。生体試料が月経血等のように細胞以外の生体成分が多く含まれている場合には、予め他の生体成分から分離して細胞を回収し、この回収された細胞を検出工程に用いることにより、ノイズの少ないより精度の高い検出が可能になる。
【0041】
細胞含有懸濁液からは、子宮癌細胞のみを回収してもよいが、子宮癌細胞と正常上皮細胞とを同時に回収することが好ましい。細胞含有懸濁液に含まれている子宮癌細胞は、通常非常に微量であるため、比較的多く含まれている正常上皮細胞と同時に回収することにより、効率よく回収することができるためである。本発明においては、正常上皮細胞と子宮癌細胞とにおいて共通して発現している細胞表面抗原と特異的に結合し得る回収用抗体を用いて、子宮癌細胞と正常上皮細胞とを同時に回収することが好ましい。該回収用抗体としては、正常上皮細胞と子宮癌細胞とにおいて共通して発現している細胞表面抗原に対する抗体であれば、特に限定されるものではない。本発明において用いられる回収用抗体としては、panCEACAMを抗原とする抗ヒトpanCEACAM抗体であることが好ましい。抗ヒトpanCEACAM抗体としては、具体的には、クローンF34−187、クローンD14HD11{例えば、ALEXIS社から入手可能}等がある。
【0042】
細胞の回収方法としては、生体試料から調製された細胞含有懸濁液中に含まれる子宮癌細胞を損なうことなく、回収し得る方法であれば、特に限定されるものではなく、公知の方法から適宜選択して行うことができる。本発明においては、回収用抗体が結合された固相担体を10〜240μL程度、細胞含有懸濁液に添加して混合し、子宮癌細胞−回収用抗体−固相担体複合体を形成した後、この形成された子宮癌細胞−回収用抗体−固相担体複合体を回収することにより、子宮癌細胞を含む細胞を回収することが好ましい。例えば、遠心分離処理等を行うことにより、固相担体を沈澱させた後、上清を除去することにより、固相担体と複合体を形成している細胞を回収することができる。
【0043】
固相担体としては、例えば、シリカ、ガラス、セラミックス、プラスチック、ラテックス等からなる粒子、磁気ビーズ、金、アルミニウム、ニッケル、アルミナ、チタニア、ジルコニア等からなる金属粒子、アガロースレジン、セファロースレジン等が挙げられる。磁場を利用することにより、子宮癌細胞−回収用抗体−固相担体複合体の回収を簡便になし得るため、本発明においては、固相担体として磁気ビーズを用いることが好ましい。
【0044】
本発明において、磁気ビーズは、磁性を帯びている粒子であれば、特に限定されるものではない。該磁気ビーズとして、例えば、四三酸化鉄(Fe3 4 )、三二酸化鉄(γ−Fe2 3 )、各種フェライト、鉄、マンガン、ニッケル、コバルト、クロム等の金属からなる粒子や、コバルト、ニッケル、マンガン等を含む合金からなる粒子等がある。また、該磁気ビーズは、磁性体のみからなる粒子であってもよく、ラテックス粒子等の非磁性体粒子の内部に磁性体の微粒子を含有させた粒子であってもよい。
【0045】
本発明において、固相担体として用いられる分散性微粒子の平均粒子径は、特に限定されるものではなく、例えば、0.05〜100μm程度の、分子生物学や生化学の分野において通常用いられている大きさのものを用いることができる。固相担体として磁気ビーズを用いる場合には、平均粒子径が0.05〜6μmの磁気ビーズであることが好ましい。
その他、本発明においては、平均粒子径が100〜500μm程度のかなり大きなビーズを用いてもよい。平均粒子径が大きな分散性微粒子を固相担体として用いることにより、後述するリリースの際に、細胞に与えるダメージを軽減することも可能である。
【0046】
固相担体は回収用抗体と直接結合したものであってもよいが、回収用抗体がリンカーを介して結合された固相担体であることが好ましい。リンカーとしては、回収用抗体と結合している細胞にダメージを与えることなく、細胞と固相担体を分離し得るものが好ましい。一般的に用いられる固相担体には、自家蛍光を有するものも多く、回収された細胞を、検出用抗体を用いて免疫染色し、顕微鏡観察により検出する場合には、細胞から固相担体を切り離す(リリース)することが必要となるためである。本発明においては、特に、プロテインG、プロテインA、またはDNAからなるリンカーを介して回収用抗体が結合された固相担体を用いることにより、回収された細胞を固相担体から簡便に分離することができる。
【0047】
回収用抗体と固相担体をつなぐリンカーがDNAからなる場合には、DNase等のDNA切断酵素を用いた酵素処理を行うことにより、細胞と結合した回収用抗体と固相担体を切り離すことができる。また、該リンカーが制限酵素認識配列を有するポリヌクレオチドである場合には、制限酵素処理を行うことにより、細胞と結合した回収用抗体と固相担体を切り離す(リリース)ことができる。なお、効率よく細胞を回収するために、リリース工程は2回以上行うことが好ましい。
【0048】
回収用抗体と固相担体をつなぐリンカーがプロテインGまたはプロテインAである場合には、子宮癌細胞−回収用抗体−固相担体複合体に大量の非特異的抗体を添加し混合することにより、回収用抗体と非特異的抗体との競合反応により、子宮癌細胞と結合した回収用抗体を固相担体から分離することができる。その他、子宮癌細胞−回収用抗体−固相担体複合体を含む溶液のpHを酸性にすることにより、固相担体と結合したプロテインGやプロテインAから、子宮癌細胞と結合した回収用抗体を分離することができる。
【0049】
検出用抗体を用いた免疫染色や核酸染色により染色された細胞観察用容器中の子宮癌細胞は、顕微鏡を用いて観察され、個々の細胞ごとに子宮癌細胞か正常細胞かを判断される。この顕微鏡観察は、ヒトにより手動で行ってもよいが、顕微鏡画像を取得し、画像解析することにより、検出時の操作負担を顕著に軽減することができる。すなわち、本発明の子宮癌の診断方法において、染色された細胞の顕微鏡画像を取得し、画像解析を行うことにより、細胞技師等による顕微鏡下の目視観察を行う従来の方法よりも、簡便かつ迅速であり、検査負担を顕著に軽減することができる。
【0050】
なお、子宮癌細胞の染色として、検出用抗体を用いた免疫染色を行う場合には、取得された染色画像中の細胞認識を容易にするために、検出用抗体を用いた免疫染色と、核染色を併用することが好ましい。核染色を行うための核染色剤は、子宮癌細胞を標識した蛍光物質(例えば、検出用抗体を標識した蛍光物質)の蛍光特性等を考慮して、例えば前記で挙げられたような公知の核染色剤の中から適宜選択して用いることができる。
【0051】
本発明においてイメージングサイトメータとは、自動的に染色画像の取得と得られた染色画像の解析を行うことができる画像解析装置を意味する。例えば、スライドガラス上の細胞集団に対して、レーザを収束させたスポットで走査し、この細胞集団の個々の細胞が発する蛍光を検出し、走査画像データを画像処理することにより、個々の細胞のデータを抽出して測定するレーザ走査型サイトメータ(例えば、特開平3−255365号公報参照。)やこれを適宜改良したサイトメータ等が挙げられる。
【0052】
特に、取得された顕微鏡画像に基づき得られた解析データから、顕微鏡画像の画像データを呼び出す手段を有するイメージングサイトメータを用いることが好ましい。各解析データに対して画像データを迅速に確認することができるため、より信頼性の高い診断結果を得ることができるためである。また、解析結果をヒストグラムやドットプロットにより表示する手段を有していることが好ましい。本発明においては、ドットプロット表示がより望ましい。ドットプロット表示では、個々の細胞が1つ1つのドットとして表示されるため、解析結果をドットプロット表示することにより、個々の細胞情報を画像とともに瞬時に確認できる利点がある。
【0053】
画像解析は、公知の画像解析プログラム等を用いて常法により行うことができる。図1のフローチャートは、本発明における画像解析の一態様を示したものである。該方法は、核染色を併用して得られた染色画像の解析を行っている。まず、ステップaとして、蛍光染色された細胞の染色画像を取得する。それぞれ蛍光特性の異なる蛍光物質を用いて染色した細胞の画像を、蛍光ごとに別個に取得する。すなわち、検出用抗体により蛍光染色された画像と核染色画像とを、1ショット(1顕微鏡視野)ごとに取得し、蓄積する。
ステップbとして、取得された核染色画像に基づき、核をメインオブジェクト(主物体)として認識し、輪郭をトレースする。ステップcとして、蛍光強度データおよびその物体の面積の最小(ミニマム)と最大(マキシマム)から、1の核として認識させる範囲を決定する。核の面積の最小(ミニマム)と最大(マキシマム)は、予め正常上皮細胞または子宮癌細胞の染色像から決定しておく。
【0054】
細胞核(メインオブジェクト)を、面積(Area)と他の形状の記述ファクターとにより集団を特定して、デブリスを排除し、細胞を含む領域を選択する。形状の記述ファクターとしては、例えば、サーキュラリティーファクター、円周ペリメータ、MAXフェレット、エロンゲーションファクター等がある。図2は、メインオブジェクトとして認識した核を、面積データとサーキュラリティーファクターデータをパラメータとして、ドットプロット(スキャッターグラム)により表示したものである。1ドットが1核(すなわち1細胞)を示している。なお、ドットプロットに換えてヒストグラムにより表示してもよい。図2のドットプロットから、解析対象とする細胞を含む領域と、細胞以外を含む領域に分け、細胞を含む領域に含まれるメインオブジェクト(細胞)に対して、以降の子宮癌細胞の検出工程を行う。より詳細な解析が必要であれば、2つの細胞等を認識してしまうものを削除しないため、細胞1個を1メインオブジェクトとして認識している可能性が高い領域(図中の実線で囲われた領域)、細胞1個または2〜3個を1メインオブジェクトとして認識している可能性が高い領域(図中の破線で囲われた領域)、細胞2個以上を1メインオブジェクトとして認識している可能性が高い領域の3つの領域(図中の二点鎖線で囲われた領域)を設定することが好ましい。各領域の決定(ゲーティング)は、予め決定された所定の閾値を用いて決定してもよく、各ドットを選択(クリック)して、各ドットが示す細胞の染色画像データを呼び出し、染色画像を確認しながら行ってもよい。
【0055】
その後、ステップdとして、核周辺あるいは細胞表面領域をサブオブジェクトとして認識する。認識されたサブオブジェクトとメインオブジェクトは親子関係にある。細胞核を中心に周辺にマスキングを行ってもよく、細胞核および周辺領域を含むようにマスキングを行ってもよい。検出用抗体蛍光染色画像に基づき、認識されたサブオブジェクトにおける蛍光強度データから、子宮癌細胞を同定する(ステップe)。図3は、核周辺領域(サブオブジェクト)を、面積データと平均蛍光強度データをパラメータとして、ドットプロットにより表示したものである。なお、図2と同様に、1ドットが1サブオブジェクト(すなわち1細胞)を示しており、ドットプロットに換えてヒストグラムにより表示してもよい。図3のドットプロットから、検出用抗体により細胞表面が染色された細胞を含む領域(ポジティブ領域、図中の実線で囲われた領域)、検出用抗体により細胞表面が染色されなかった細胞を含む領域(ネガティブ領域、二点鎖線で囲われた領域)、検出用抗体により非特異的に細胞表面が染色されている可能性が高い細胞を含む領域(擬陽性グレー領域、図中の破線で囲われた領域)に分類することができる。
【0056】
なお、それぞれの蛍光量における境界、すなわち、染色されているか否かの境界値は、検出用抗体とは結合しないことが判明している細胞群をネガティブコントロール群、子宮癌細胞であることが判明している細胞群をポジティブコントロール群とし、ネガティブコントロール群の蛍光強度とポジティブコントロール群の蛍光強度とから決定することができる。
【0057】
検出用抗体を用いた免疫染色を行い取得された顕微鏡画像を解析するに際して、個々の細胞が、検出用抗体により特異的に染色されているのか否か、すなわち、陽性か否かの判断は、上記手法のほかにも、細胞染色において一般的に用いられている判断手法により行うことができる。たとえば、子宮癌細胞と結合しない非特異的抗体を用いた二重染色法を利用して行ってもよい。なお、該非特異的抗体としては、子宮癌細胞と結合しない抗体であれば特に限定されるものではなく、例えば、mouseIgG1kappa(ベクトンディッキンソン社製、カタログ番号:557273)等の、ヒトに対するエピトープのないIgGやIgM等の中から適宜選択して用いることができる。
【0058】
具体的には、前記工程(a−4)の後、又は工程(a−4)における検出用抗体による染色と同時に、細胞観察用容器中に固定された細胞を、非特異的抗体を用いて免疫染色する。非特異的抗体を、検出用抗体を標識した蛍光物質とは蛍光特性の異なる蛍光物質により標識する等により、工程(b)において、非特異的抗体により蛍光染色された画像(非特異的抗体蛍光染色画像)を、検出用抗体蛍光染色画像とは別個に、1ショット(1顕微鏡視野)ごとに取得し、蓄積する。次に、非特異的抗体蛍光染色画像から得られる1細胞当たりの蛍光強度(Intensity per cell:IPC)から、蓄積された全非特異的抗体蛍光染色画像の平均IPC(全細胞のIPCの総和/細胞数:MIPC)を算出する。さらに、非特異的抗体蛍光染色における検出用抗体蛍光染色のratio(検出用抗体蛍光染色画像中の細胞のIPC/全非特異的抗体蛍光染色画像のMIPC)を求め、該ratioを基準として、陽性か陰性かを判断する。なお、MIPCに換えて、蓄積された全非特異的抗体蛍光染色画像のIPCのピーク値、中央値(Median)、ピークからの10%から100%(正規)分布範囲等を用いてもよい。なお、IPCは、1細胞あたりにおけるマスクエリアの合計蛍光強度データ(累積)でもいいし、1ピクセルあたりにおける平均の蛍光強度データでもよい。
【0059】
ここで、ポジティブ領域に1ドット(1細胞)でも存在している場合には、子宮癌を発症していると診断することができる。また、判定がつきにくい擬陽性グレー領域に存在している場合には、各ドットが示す細胞の染色画像データを呼び出し、染色画像を確認することや、核中のDNA量等の他のパラメータのデータから、該細胞が子宮癌細胞か否かを判断することができる。その他、ポリメーラーゼチェインリアクション(PCR)等の遺伝子解析を行うことにより、より詳細な判定を下すこともできる。
【0060】
このような画像解析は、CELAVIEW RS100(オリンパス社製)等の公知の解析ソフトウェアを用いて行うことができる。データ解析は、例えば以下の手順で行うことができる。なお、図4に、CELAVIEW RS100を用いた画像解析において、測定領域の具体的な設定方法を模式的に示す。
【0061】
図4(a)は1つの細胞を模式的に示した図である。図中、エリア101は核(細胞核)を、エリア102は細胞質を、それぞれ示している。まず、画像解析において、細胞一つ一つを自動的に識別するために、DAPIで染色されたこのエリア101、すなわち細胞核エリア103をメインオブジェクトとして認識するような領域を設定する{図4(b)}。また、その際、DAPIにより染色された部分の面積の最大値と最小値および蛍光強度の閾値により、核領域を設定する。
さらに、細胞密度が高く、細胞が込み合っているような場合がある場合は、領域分割を行う手法の一つとして知られているウォーターシェッド(Watershed)アルゴリズム手法を用いることが好ましい。該手法は、マークと呼ばれる領域の中心を隣接画素へと広げていくことによって領域を得るものであり、この機能を同時に使用することにより、個々の細胞を認識するよう設定する{図4(c)}。図4(c)に示すように、2つの重なり合う細胞を、ウォーターシェッド機能を用いることで2つの細胞核として認識できるようになる{図4(c―b)}。一方で、ウォーターシェッド機能を用いない場合では、1つの細胞核として認識される{図4(c―a)}。細胞核の認識は、他にも、エッジ認識や隣接する細胞のくびれを認識されることによっても同様に行うことができる。
【0062】
次に、認識されたメインオブジェクト(個々の細胞核)を中心とし、サブオブジェクトとして、等間隔に存在するドーナツ型のエリア104を作成する。ドーナツエリアの作成においては、核最外線からのドーナツの最内線開始地点とドーナツ最外線である終点を自由に設定することができるが、表面抗原(CD44v6およびEpCAM)を測定対象とする際には、図4(d)に示すように、少なくともエリア内に細胞膜105がすべて含まれる状態となるようなエリア104を設定し、細胞内がもれなく測定対象となるドーナツエリアになるように設定する。
【0063】
解析時には、画像処理の一つの方法としてローリングボールを使ったバックグランド補正を行ってもよい。さらに、核の誤認識を排除するため、細胞核エリア103と、例えばサーキュラリティーファクターをはじめとする細胞核の形状を記述ファクター(その他、前述した円周ペリメータ、MAXフェレット、エロンゲーションファクター等)により、細胞集団を特定するような領域106を選択し、ノイズを排除して解析を行ってもよい{図4(e)}。
【0064】
次に、各々のドーナツエリア104内におけるCD44v6、EpCAMの平均蛍光強度(ドーナツエリア内の1ピクセルあたりの平均蛍光強度)もしくは最大蛍光強度(ドーナツエリア内の1ピクセルあたりで最大の蛍光強度)により、1細胞あたりのそれぞれの蛍光強度を解析する{図4(f)}。
ここで、非癌罹患者由来の生体試料を用いて同様に取得されたデータに基づき、蛍光強度の閾値107を決定し、当該閾値107により表面抗原ポジティブ領域を決定しゲーティングを行う。なお、閾値107は、予め決定されたものであってもよい。その他、表面抗原ポジティブ領域を決定するために、前述のように、非癌罹患者由来の生体試料を用いて取得された蛍光染色画像の、平均IPC(MIPC)、IPCのピーク値、中央値(Median)、ピークからの10%から100%(正規)分布範囲等を用いてもよい。
【0065】
さらには、DAPI等の核染色剤を用いて得られた核染色画像の核内におけるトータル蛍光強度または最大蛍光強度(核内の1ピクセルあたりで最大の蛍光強度)のデータに基づき、閾値108を決定し、当該閾値108によりターゲット領域を決定しゲーティングを行う{図4(g)}。なお、核内におけるトータル蛍光強度または最大蛍光強度のデータから1細胞あたりのそれぞれの蛍光強度を解析し、1細胞のDNA量を算出してもよい。この算出された1細胞当たりのDNA量のデータに基づき、閾値107と同様に、閾値108を作成することができる。
【0066】
癌細胞では、脱核が生じている場合もあるが、核染色画像に基づき細胞を認識している場合には、脱核した細胞は認識されないため、子宮癌細胞が見逃されてしまう可能性がある。また、細胞の凝集が酷い場合にも、核染色画像からは細胞として認識されず、子宮癌細胞が見逃されてしまう可能性がある。このため、例えば、上記のポジティブ領域に含まれる細胞がなかった場合には、念のため、核染色画像では細胞と認識されなかった(染色されなかった)領域(ネガティブ領域)にあるオブジェクトに対して、改めて子宮癌細胞か否かを判断することが好ましい。
具体的には、まず、ステップfとして、1ショットの検出用抗体染色画像の総蛍光強度が一定値以上である検出用抗体蛍光染色画像を選抜し、該画像に基づき、一定値以上の蛍光強度を有する領域(細胞表面領域)をメインオブジェクトとして認識する。この場合、例えば、検出用抗体として第1検出用抗体と第2検出用抗体の2の抗体を用いた場合には、両抗体による蛍光強度の和が一定以上の蛍光強度を有する検出用抗体染色画像を選抜することが好ましい。さらにステップgとして、認識されたメインオブジェクト(細胞)のうち、所定の閾値以上の蛍光強度を有する細胞の染色画像を確認し、該細胞が子宮癌細胞か否かを判断する。図5は、ステップfで認識されたメインオブジェクト(細胞)を、蛍光強度データをパラメータとして作成したヒストグラムである。このヒストグラムから、解析対象とする細胞を含む領域を設定し、該領域内の個々の細胞の染色画像データをギャラリー表示で確認して、検出用抗体で染色されているか否か、すなわち、子宮癌細胞か否かを診断することができる。これらのステップを加えることにより、診断上の陽性可能性の見落としを効果的に防止することができる。
【0067】
このような画像解析の結果、第1検出用抗体のみが陽性である(第1検出用抗体のみで染色される)場合には、該細胞は子宮体癌に罹患しており、一方、第2検出用抗体のみが陽性である(第1検出用抗体のみで染色される)場合には、該細胞は子宮頚癌に罹患していると診断することができる。さらに、解析された全ての細胞において、いずれの検出用抗体も陰性であった場合には、子宮癌に罹患していない可能性が高いと判断することができる。
【0068】
本発明の子宮癌の診断方法に用いられる検出用抗体等の試薬をキット化することにより、より簡便に子宮癌の診断を行うことができる。例えば、子宮由来生体試料を保存するための保存液含有容器、細胞観察用容器、子宮癌細胞と特異的に結合し得る検出用抗体、及び核染色剤からなる群より選択される1以上を含む子宮癌診断用キットを用いることにより、(a1)生体試料中の細胞を、細胞観察用容器中に固定した後に染色する工程と、(b1)前記工程(a1)において染色された細胞の顕微鏡画像を取得し、画像解析することにより、子宮癌細胞を検出する工程とを有する子宮癌の診断方法を簡便に行うことができる。なお、前記検出用抗体としては、抗ヒトEpCAM抗体および/または抗ヒトCD44v6抗体であることが好ましい。
【0069】
また、前記保存液含有容器と保存液含有容器と検出用抗体に加えて、さらに、正常上皮細胞と子宮癌細胞とにおいて共通して発現している細胞表面抗原と特異的に結合し得る回収用抗体を、リンカーを介して結合させた固相担体を有する子宮癌診断用キットを用いることにより、予め生体試料から細胞を回収した後に細胞染色を行う子宮癌の診断方法、特に、生体試料からの子宮癌細胞の回収を、(c2−1)子宮癌細胞の細胞表面抗原と特異的に結合する回収用抗体がリンカーを介して結合された固相担体を、生体試料に添加して混合し、子宮癌細胞−回収用抗体−固相担体複合体を形成する工程と、(c2−2)前記工程(c2−1)において形成された子宮癌細胞−回収用抗体−固相担体複合体を回収する工程と、(c2−3)前記工程(c2−2)において回収された子宮癌細胞−回収用抗体−固相担体複合体中の子宮癌細胞を、固相担体から分離する工程とにより行う子宮癌の診断方法を、簡便に行うことができる。
【0070】
本発明においては、固相担体が磁気ビーズである場合には、さらに、マグネチックシート等の磁気ビーズ回収用磁気基盤を有していることも好ましい。
【0071】
なお、該保存液含有容器としては、例えば、Stomacher(登録商標) Lab Blender bagのような滅菌済ポリビニルバック等であってもよい。また、これらのキットが含有することができる回収用抗体、回収用抗体がリンカーを介して結合された固相担体、細胞観察用容器、保存液等は、上述したものから適宜選択して用いることができる。
【0072】
特に、固相担体と回収用抗体をつなぐリンカーがDNAからなるものである場合には、さらに、DNA切断酵素を有するキットであることが好ましい。一方、当該リンカーがプロテインGまたはプロテインAである場合には、さらに、非特異的抗体またはpH調製剤を有するキットであることが好ましい。
【0073】
このように、本発明の子宮癌の診断方法により、月経血等の生体試料に含まれる子宮癌細胞を高精度かつ簡便に検出することができ、子宮癌の診断において信頼性の高い結果を得ることができる。このため、本発明の子宮癌の診断方法を用いることにより、不必要な検査を減らすことができ、保険料の軽減に資することが期待される。
【0074】
また、本発明の子宮癌の診断方法を応用することにより、月経血等の生体試料中の、子宮癌細胞以外の標的細胞を検出することもできる。具体的には、(a’1)生体試料中の標的細胞を、細胞観察用容器中に固定し、当該標的細胞の細胞表面抗原と特異的に結合し得る検出用抗体を用いて染色する工程と、(b’1)前記工程(a’1)において染色された標的細胞の顕微鏡画像を取得し、画像解析することにより、標的細胞を検出する工程と、を有することにより、標的細胞を検出することができる。その他、(a’2−1)標的細胞の細胞表面抗原と特異的に結合する回収用抗体がリンカーを介して結合された固相担体を、生体試料に添加して混合し、標的細胞−回収用抗体−固相担体複合体を形成する工程と、(a’2−2)前記工程(a’2−1)において形成された標的細胞−回収用抗体−固相担体複合体を回収する工程と、(a’2−3)前記工程(a’2−2)において回収された標的細胞−回収用抗体−固相担体複合体中の標的細胞を、固相担体から分離する工程と、(a’2−4)前記工程(a’2−3)において得られた標的細胞を、細胞観察用容器中に固定し、当該標的細胞の細胞表面抗原と特異的に結合し得る検出用抗体を用いて染色する工程と、(b’2)前記工程(a’2−4)において染色された標的細胞の顕微鏡画像を取得し、画像解析することにより、標的細胞を検出する工程と、を有する方法であってもよい。
【0075】
その他、子宮癌を診断するためには、子宮由来生体試料に含まれる子宮癌細胞を、前記の検出用抗体を用いて検出する場合に、画像解析以外の方法で検出することもできる。検出用抗体を用いて子宮癌細胞を検出する方法としては、子宮癌細胞と検出用抗体との結合性を利用して検出する方法であれば、特に限定されるものではなく、免疫染色法、免疫凝集法、ELISA法等の公知の手法の中から適宜選択して行うことができる。本発明においては、特に、子宮癌細胞と特異的に結合し得る検出用抗体を用いた免疫染色法により検出することが好ましい。
【0076】
例えば、検出用抗体として、子宮体癌細胞と特異的に結合し得る第1検出用抗体および子宮頚癌細胞と特異的に結合し得る第2検出用抗体を用いることにより、生体試料に含まれる子宮体癌細胞と子宮頚癌細胞とを区別して検出するができる。第1検出用抗体および第2検出用抗体としては、前述と同様のものを用いることができるが、第1検出用抗体が抗ヒトEpCAM抗体であり、第2検出用抗体が抗ヒトCD44v6抗体であることが好ましい。
【0077】
また、検出用抗体として抗ヒトEpCAM抗体を用いることにより、子宮由来生体試料に含まれる子宮体癌細胞を検出し、子宮体癌を診断することができる。一方、検出用抗体として抗ヒトCD44v6抗体を用いることにより、子宮由来生体試料に含まれる子宮頚
【実施例】
【0078】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0079】
[実施例1]
<検出用抗体および回収用抗体>
子宮体癌細胞と特異的に結合し得る第1検出用抗体として、抗ヒトEpCAM抗体{クローンVU−1D9(カタログNo.4240−4009、AbD serotec社製)、又は、クローンB8−4(国立がんセンター樹立)}を用い、子宮頚癌細胞と特異的に結合し得る第2検出用抗体として、抗ヒトCD44v6抗体{クローンVFF18(カタログNo.MAB4073、Chemicon社製)、又は、クローン1033C(国立がんセンター樹立)}を用いた。また、正常上皮細胞と子宮癌細胞とにおいて共通して発現している細胞表面抗原と特異的に結合し得る回収用抗体として、抗ヒトpanCEACAM抗体{クローンF34−187又はクローンD14HD11(ALEXIS社製)}を用いた。表1に、それぞれの抗体の特異性を示した。表中、「+」は抗体が認識し得ることを意味し、「−」は認識しないことを意味する。また、「−(+)」は、非常に認識力が弱いことを意味する。
【0080】
【表1】

【0081】
<回収用ビーズ>
回収用抗体を固相担体に結合させた回収用ビーズとして、抗ヒトpanCEACAM抗体をオリゴヌクレオチドからなるDNAリンカーを介して直径(平均粒子径)3μmの磁気ビーズに結合させてある磁気ビーズを用いた。この回収用ビーズを、最終的に3%w/vスラリーとなるように、0.1%BSAおよび2mM EDTA添加リン酸緩衝液(PBS)を用いて調製した。
【0082】
<月経血から細胞の回収>
子宮頸癌患者(頚管腺由来の腺癌のため、EpCAM+/CD44v6−)由来の月経血を吸収させた吸収剤(生理用ナプキン)を、0.1%BSAおよび2mM EDTA添加リン酸緩衝液(PBS)に浸し、4℃1日保存した後、Stomacher(登録商標) Lab Blender bagに移し、Stomacher(登録商標)(Seward社製)にて1分間懸濁後、吸収剤を絞りながら細胞含有懸濁液をチューブに分注して、上記の回収用ビーズを80μL添加した。室温にて、ミキサーで15回転/分の条件の下、30分間のインキュベーションを行った。
その後、サンプルの入った50mlチューブを、Dynal MPC−1(50mlチューブ対応のマグネット台)に置いた。軽く揺らしながら、室温で15分間反応させた後、
上清をとり、ハンクス液を1ml加えた。回収用ビーズ懸濁液を新しい1.5mlチューブに移し、月経血中に含まれていた細胞を回収した。
なお、対照として、非子宮癌患者由来の月経血を吸収させた吸収剤(生理用ナプキン)から、上記と同様にして月経血中に含まれていたさを回収し、以降の操作も子宮頸癌患者由来細胞と同様にして行った。
【0083】
<固相担体から細胞の分離>
回収用ビーズ懸濁液にDNase(200Unit)を添加し、室温で15分間反応させることにより、ビーズと回収用抗体との間のDNAからなるリンカー部分を切断した。P−200のピペットを用いてピペッティング作業を行った後、チューブをMPC−S(1.5mlチューブ対応のマグネット台)に置き、室温で5分間反応させた。リリースされたビーズはマグネットに吸着されているため、細胞が存在する上清を回収することにより、細胞とビーズを分離した。効率よく細胞を回収するために、リリース工程は2回行った。
【0084】
<細胞の固定操作>
回収された細胞を含む上清を、マルチウェルプレートにアプライした後、3.7%ホルムアルデヒド溶液を用いて各ウェルの底面に細胞を固定した。PBSで洗浄後、PBSを満たして乾燥防止のフィルムを貼付し、4℃で保存した。
【0085】
<細胞の免疫染色>
5%スキムミルク含有PBSで10分間ブロッキングした後、蛍光物質(Alexa488)で標識された抗ヒトEpCAM抗体(EpCAMーAlexa488)、および蛍光物質(Alexa647)で標識された抗ヒトCD44v6抗体(CD44v6ーAlexa647)を添加して、60分間室温で反応させた。反応後、十分に洗浄した後、DAPIを用いて核染色を行った。
なお、ビオチン標識された抗ヒトEpCAM抗体等を用いた場合には、蛍光標識された(ストレプト)アビジンを使用して核染色を行ってもよく、HRP標識された(ストレプト)アビジンを使用した場合は蛍光標識されたTyramideを30分間反応させる。十分に洗浄した後、核染色を行うこともできる。
【0086】
<画像解析>
免疫染色後、マルチウェルプレートをCELAVIEW(登録商標)(オリンパス社製)に設置し、図1に示すフローチャートに従い、画像解析を行った。まず、顕微鏡の視野ごとに3種の染色画像{Alexa488染色画像(EpCAMーAlexa488染色画像)、Alexa647染色画像(CD44v6ーAlexa647染色画像)、およびDAPI染色画像(核染色画像)}を取得した(ステップa)。次に、取得されたDAPI染色画像に基づき、核をメインオブジェクトとして認識した後(ステップb)、蛍光強度データおよびその物体の面積の最小と最大から、核として認識させる範囲を決定し(ステップc)、細胞表面をサブオブジェクトとして認識した(ステップd)。その後、Alexa488染色画像およびAlexa647染色画像に基づき、認識されたサブオブジェクトにおける蛍光強度データから、子宮癌細胞を同定した(ステップe)。なお、メインオブジェクトやサブオブジェクトの認識等の測定領域の設定は、図4に示す方法に従って行った。
【0087】
図6は、核染色画像の解析により得られた1の細胞(核)におけるトータル蛍光強度(DAPIトータル蛍光強度)をパラメータとして作成したヒストグラムである。図中、(a)が子宮頸癌患者の月経血から得られた結果であり、(b)が非子宮癌患者由来の月経血から得られた結果である。これらのヒストグラムに対して、DNA異数性を持つ細胞の領域(非正常細胞領域)を決定しゲーティングを行った。図6(a)および(b)中、点線で囲まれた領域が非正常細胞領域を示す。この結果、非子宮癌患者由来の月経血中よりも、子宮頸癌患者由来の月経血中には、DNA異数性を持つ細胞の割合が明らかに多かった。
【0088】
また、図7は、Alexa488染色画像の解析により得られた1の細胞における平均蛍光強度をパラメータとして作成したヒストグラムである。図中、(a)が子宮頸癌患者の月経血から得られた結果であり、(b)が非子宮癌患者由来の月経血から得られた結果である。この結果、非子宮癌患者由来の月経血中には、抗ヒトEpCAM抗体で一定の蛍光強度で染色された細胞がほとんど無かったのに対して、子宮頸癌患者由来の月経血中には、抗ヒトEpCAM抗体で強く染色される細胞が多く存在していた。
【0089】
図8に非子宮癌患者の月経血中の細胞の染色画像の結果を、図9に子宮頸癌患者の月経血中の細胞の染色画像の結果を、それぞれ示す。図8および9において、(a)はDAPI染色画像、(b)はEpCAMーAlexa488染色画像、(c)はCD44v6ーAlexa647染色画像である。染色画像の結果からも、子宮頸癌患者の月経血中の細胞には、抗ヒトEpCAM抗体で強く染色される細胞があるが、非子宮癌患者の月経血中の細胞は、ほとんど染色されないことが明らかである。さらに、抗ヒトEpCAM抗体で染色された子宮頸癌患者由来の細胞は、抗ヒトCD44v6抗体では染色されなかったことから、抗ヒトEpCAM抗体および抗ヒトCD44v6抗体を用いることにより、子宮頸癌と子宮体癌を区別して検出し得ることも明らかである。
【0090】
以上の結果から、本発明の子宮癌の診断方法により、月経血等の生体試料に含まれる子宮癌細胞を高精度かつ簡便に検出し得ることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の子宮癌の診断方法は、非侵襲的であり、検査負担が軽く、かつ信頼性の高い結果を得ることができる子宮癌診断方法であるため、子宮癌検診等の臨床検査等の分野において利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明における画像解析の一態様を示したフローチャートである。
【図2】メインオブジェクトとして認識した核を、面積データとサーキュラリティーファクターデータをパラメータとして、ドットプロット(スキャッターグラム)により表示したものである。
【図3】核周辺領域(サブオブジェクト)を、面積データと平均蛍光強度データをパラメータとして、ドットプロットにより表示したものである。
【図4】CELAVIEWの解析ソフトウェアを用いた画像解析において、測定領域の具体的な設定方法を模式的に示した図である。
【図5】ステップfで認識されたメインオブジェクト(細胞)を、細胞の面積データと蛍光強度データをパラメータとして作成したヒストグラムである。
【図6】実施例1において、核染色画像の解析により得られた1の細胞(核)におけるトータル蛍光強度(DAPIトータル蛍光強度)をパラメータとして作成したヒストグラムである。
【図7】実施例1において、Alexa488染色画像の解析により得られた1の細胞における平均蛍光強度をパラメータとして作成したヒストグラムである。
【図8】実施例1において、非子宮癌患者の月経血中の細胞の染色画像を示した図である。
【図9】実施例1において、子宮頸癌患者の月経血中の細胞の染色画像を示した図である。
【符号の説明】
【0093】
101…核、102…細胞質、103…メインオブジェクトとして認識されるエリア、104…サブオブジェクトとして認識されるエリア、105…細胞膜、106…選択される細胞集団の領域、107…閾値、108…閾値。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料中に子宮癌細胞が含まれているか否かにより子宮癌を診断する方法であって、
(a1)生体試料中の細胞を、細胞観察用容器中に固定した後に染色する工程と、
(b1)前記工程(a1)において染色された細胞の顕微鏡画像を取得し、画像解析することにより、子宮癌細胞を検出する工程と、
を有し、かつ、前記生体試料が子宮由来のものであることを特徴とする、子宮癌の診断方法。
【請求項2】
前記生体試料が、月経血、おりもの、および女性性器からの分泌物からなる群より選択される一種を保存液に懸濁させた試料であることを特徴とする、請求項1記載の子宮癌の診断方法。
【請求項3】
前記生体試料が、生理用ナプキン、生理用タンポン、およびパンティーライナーからなる群より選択される一種に吸収されたものであることを特徴とする請求項1記載の標的細胞の子宮癌の診断方法。
【請求項4】
前記工程(a1)における染色が、子宮癌細胞と特異的に結合し得る検出用抗体を用いて行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の子宮癌の診断方法。
【請求項5】
前記検出用抗体が、抗ヒトEpCAM抗体および/または抗ヒトCD44v6抗体であることを特徴とする請求項4記載の子宮癌の診断方法。
【請求項6】
前記工程(a1)における染色が、子宮体癌細胞と特異的に結合し得る第1検出用抗体および子宮頚癌細胞と特異的に結合し得る第2検出用抗体を用いて行うものであり、かつ、前記工程(b1)における子宮癌細胞の検出が、子宮体癌細胞と子宮頚癌細胞とを区別して検出するものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の子宮癌の診断方法。
【請求項7】
前記第1検出用抗体が抗ヒトEpCAM抗体であり、前記第2検出用抗体が抗ヒトCD44v6抗体であることを特徴とする請求項6記載の子宮癌の診断方法。
【請求項8】
前記工程(a1)における染色が、核染色であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の子宮癌の診断方法。
【請求項9】
前記工程(a1)における染色が、核染色を併用することを特徴とする請求項1〜7のいずれか記載の子宮癌の診断方法。
【請求項10】
前記工程(a1)が工程(a1−1)であり、前記工程(a1−1)の前に、下記工程(c1)を有することを特徴とする請求項1〜9のいずれか記載の子宮癌の診断方法。
(c1)生体試料中の細胞を、正常上皮細胞と子宮癌細胞とにおいて共通して発現している細胞表面抗原と特異的に結合し得る回収用抗体を用いて回収する工程。
(a1−1)前記工程(c1)において回収された細胞を、細胞観察用容器中に固定した後に染色する工程。
【請求項11】
前記工程(a1)が工程(a1−2)であり、前記工程(a1−2)の前に、下記工程(c2−1)〜(c2−3)を有することを特徴とする請求項1〜9のいずれか記載の子宮癌の診断方法。
(c2−1)子宮癌細胞の細胞表面抗原と特異的に結合する回収用抗体がリンカーを介して結合された固相担体を、生体試料に添加して混合し、子宮癌細胞−回収用抗体−固相担体複合体を形成する工程。
(c2−2)前記工程(c2−1)において形成された子宮癌細胞−回収用抗体−固相担体複合体を回収する工程。
(c2−3)前記工程(c2−2)において回収された子宮癌細胞−回収用抗体−固相担体複合体中の子宮癌細胞を、固相担体から分離する工程。
(a1−2)前記工程(c2−3)において得られた子宮癌細胞を、細胞観察用容器中に固定した後に染色する工程。
【請求項12】
前記回収用抗体が、正常上皮細胞と子宮癌細胞とにおいて共通して発現している細胞表面抗原と特異的に結合し得る抗体であることを特徴とする請求項10または11記載の子宮癌の診断方法。
【請求項13】
前記回収用抗体が抗ヒトpanCEACAM抗体であることを特徴とする請求項12記載の子宮癌の診断方法。
【請求項14】
前記リンカーが、プロテインG、プロテインA、またはDNAからなることを特徴とする請求項11〜13のいずれか記載の子宮癌の診断方法。
【請求項15】
前記工程(c2−3)において、DNA切断酵素反応処理、非特異的抗体との競合反応処理、およびpHの酸性化処理からなる群より選択される1種を行うことにより、子宮癌細胞を固相担体から分離することを特徴とする請求項14記載の子宮癌の診断方法。
【請求項16】
前記固相担体が、平均粒子径0.05〜6μmの磁気ビーズであることを特徴とする請求項11〜15のいずれか記載の子宮癌の診断方法。
【請求項17】
前記検出用抗体が蛍光物質により標識された抗体であることを特徴とする請求項4〜7のいずれか記載の子宮癌の診断方法。
【請求項18】
前記検出用抗体がリガンドにより標識された抗体であり、子宮癌細胞の染色を、当該リガンドと、予め蛍光物質により標識された当該リガンドと特異的に結合し得る受容体との相互作用を利用した蛍光染色により行うことを特徴とする請求項4〜7のいずれか記載の子宮癌の診断方法。
【請求項19】
前記細胞観察用容器が、スライドガラスまたはマルチウェルプレートであることを特徴とする請求項1〜18のいずれか記載の子宮癌の診断方法。
【請求項20】
顕微鏡画像の取得および画像解析を、イメージングサイトメータを用いて行うことを特徴とする請求項1〜19のいずれか記載の子宮癌の診断方法。
【請求項21】
前記画像解析が、取得された顕微鏡画像に基づいて、各細胞の面積および蛍光強度を解析し、1細胞の解析結果を1ドットとして、細胞の面積と蛍光強度をパラメータとしたヒストグラムまたはドットプロットにより表示した後、所定の閾値に基づき標的細胞を同定することを特徴とする請求項20記載の子宮癌の診断方法。
【請求項22】
前記イメージングサイトメータが、前記ヒストグラムまたはドットプロット上に、ドットとして表示された細胞の面積の解析データまたは蛍光強度の解析データから、顕微鏡画像の画像データを呼び出す手段を有することを特徴とする請求項21記載の子宮癌の診断方法。
【請求項23】
子宮由来生体試料を保存するための保存液含有容器、細胞観察用容器、子宮癌細胞と特異的に結合し得る検出用抗体、及び核染色剤からなる群より選択される1以上を含むことを特徴とする子宮癌診断用キット。
【請求項24】
前記子宮由来生体試料が、月経血、おりもの、および女性性器からの分泌物からなる群より選択される一種であることを特徴とする請求項23記載の子宮癌診断用キット。
【請求項25】
前記検出用抗体が、抗ヒトEpCAM抗体および/または抗ヒトCD44v6抗体であることを特徴とする請求項23または24記載の子宮癌診断用キット。
【請求項26】
さらに、正常上皮細胞と子宮癌細胞とにおいて共通して発現している細胞表面抗原と特異的に結合し得る回収用抗体を、リンカーを介して結合させた固相担体を有することを特徴とする、請求項23〜25のいずれか記載の子宮癌診断用キット。
【請求項27】
前記リンカーがDNAからなるものであり、さらに、DNA切断酵素を有することを特徴とする請求項26記載の子宮癌検出用キット。
【請求項28】
前記リンカーがプロテインGまたはプロテインAであり、さらに、非特異的抗体またはpH調製剤を有することを特徴とする請求項26記載の子宮癌診断用キット。
【請求項29】
前記固相担体が磁気ビーズであり、さらに、磁気ビーズ回収用磁気基盤を有することを特徴とする請求項26〜28のいずれか記載の子宮癌診断用キット。
【請求項30】
前記検出用抗体が、蛍光分子により標識されていることを特徴とする請求項23〜29のいずれか記載の子宮癌診断用キット。
【請求項31】
前記検出用抗体がリガンドにより標識されており、さらに、当該リガンドと特異的に結合し得る受容体を有し、前記受容体が蛍光物質により標識されていることを特徴とする請求項23〜29のいずれか記載の子宮癌診断用キット。
【請求項32】
前記細胞観察用容器がスライドガラスまたはマルチウェルタイププレートであることを特徴とする請求項23〜31のいずれか記載の子宮癌診断用キット。
【請求項33】
子宮由来生体試料中に子宮体癌細胞が含まれているか否かにより子宮体癌を診断する方法であって、
子宮由来生体試料に含まれる子宮体癌細胞を、抗ヒトEpCAM抗体を用いて検出する検出工程を有することを特徴とする、子宮体癌の診断方法。
【請求項34】
子宮由来生体試料中に子宮頚癌細胞が含まれているか否かにより子宮頚癌を診断する方法であって、
子宮由来生体試料に含まれる子宮頚癌細胞を、抗ヒトCD44v6抗体を用いて検出する検出工程を有することを特徴とする、子宮頚癌の診断方法。
【請求項35】
子宮由来生体試料中に子宮癌細胞が含まれているか否かにより子宮癌を診断する方法であって、
生体試料に含まれる子宮体癌細胞と子宮頚癌細胞とを、子宮体癌細胞と特異的に結合し得る第1検出用抗体および子宮頚癌細胞と特異的に結合し得る第2検出用抗体を用いて、区別して検出する検出工程を有し、
前記第1検出用抗体が抗ヒトEpCAM抗体であり、前記第2検出用抗体が抗ヒトCD44v6抗体であることを特徴とする、子宮癌の診断方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−151677(P2010−151677A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−331273(P2008−331273)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【出願人】(590001452)国立がんセンター総長 (80)