説明

孔版印刷用エマルションインキ

【課題】 着色顔料としてカーボンブラックを含有する黒色の、孔版印刷用エマルションインキの、高温での保存性を低下させたり、連続印刷時に印刷のにじみや裏移りを生じたりすることなしに、その安定性を、これまでよりも向上する。
【解決手段】 W/O型の孔版印刷用エマルションインキを構成する油相中に、着色顔料として、DBP吸油量が90cm/100g以上である第1のカーボンブラックと、DBP吸油量が50cm/100g以下である第2のカーボンブラックとを併用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、孔版印刷用エマルションインキに関するものである。
【背景技術】
【0002】
孔版印刷は、オフセット印刷その他の、本格的な印刷方法に比べて装置が簡単で操作が簡便であるため、静電式複写機等が普及する以前には、主に事務用の簡単な印刷等に広く利用されていた。しかし、近年、感熱性の孔版原紙とサーマルヘッドとを組み合わせることによりデジタル化が可能となったこと、それに伴って、孔版原紙の穿孔サイズが規格化され、インキの転移量を制御しやすくなり、印刷画像の高画質化が可能となったことから、孔版印刷は、静電式複写機等と同様に操作が簡便で、しかも、印刷速度が速い新たな印刷方法として、再び、脚光を浴びつつある。
【0003】
デジタル化対応の孔版印刷装置においては、通常、長尺の帯状に形成し、ロール状に巻き重ねた感熱性の孔版原紙を、当該ロールから所定量ずつ繰り出しながら、イメージスキャナで読み込んだ原稿像に対応するデジタル信号に応じてサーマルヘッドを作動させることで、繰り出した孔版原紙に、原稿像に対応した微小な貫通孔を穿孔する。
次に、貫通孔が穿孔された孔版原紙を、多孔質構造に形成された版胴の外周に巻きつけた状態で、そのさらに外側に重ねた紙等の被印刷体と共に、版胴ごと、当該版胴内に配置され、表面にインキが供給されたスキージロールと、版胴の外側から、当該版胴と孔版原紙と被印刷体とを間に挟んでスキージロールに圧接された圧ロールとの間を通過させる。そうすると、孔版原紙の、貫通孔を穿孔した部分においてのみ、選択的に、インキが、スキージロール側から印刷体側へ通過して、被印刷体の表面に、原稿像に対応した印刷画像が印刷される。
【0004】
近年、上記の各部を、静電式複写機等と同程度の大きさの筐体内に配置すると共に、各工程を、静電式複写機による複写と同等の簡単な操作で行えるように自動化したものが実用化されている。
上記の孔版印刷装置用のインキとしては、一般に、油相と水相とからなるW/O(油中水)型で、かつ油相中に着色顔料を含有させたエマルションインキが用いられる。また、このエマルションインキにおいては、油相に比べて水相の比率を高く設定するのが一般的である。これは、水相が、エマルションインキの、温度変化に対する粘度変化を小さくし、紙等の被印刷体への浸透速度を速め、構造粘性を高め、孔版印刷装置内での垂れを防止すると共に、孔版原紙から被印刷体を剥がす時に糸を曳くのを防止する等の効果を有するためである。また、油相中には、エマルションインキを低粘度化しつつ、垂れを防止するために、ベースとなる溶剤に、揮発性の溶剤を加えるのが一般的である。
【0005】
しかし、水相の比率を高くすると共に、油相中に揮発性の溶剤を含有させたW/O型のエマルションインキは、孔版印刷装置を停止して長時間、放置すると、揮発性の溶剤が気化して組成が変化したり、エマルションが合一したりすることで、エマルションが崩壊しやすく、エマルションが崩壊すると、吸油量の小さい着色顔料だけでは、エマルション全体で保持していた油を保持できなくなるため、余剰の油が吐き出されて、孔版印刷装置の内部で、いわゆるインキの垂れを生じやすくなるという問題がある。詳しくは、エマルションが崩壊して余剰の油が吐き出されることで粘度が大きく低下したインキが、スキージロールの表面から流れ落ち、版胴の内周に集まって、孔版原紙との隙間からしみ出てきたり、版胴と、この版胴を支えるフランジ部の隙間から流れ出したりする。
【0006】
そこで、孔版印刷装置を停止して長時間、放置してもエマルションが崩壊するのを防止するため、着色顔料と共に、当該着色顔料に比べてDBP吸油量の大きい体質顔料を併用して、エマルションインキの安定性を向上することが提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−311027号公報(請求項1、第0006欄、第0009欄〜第0015欄)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、発明者の検討によると、モノクロ印刷用として汎用される、着色顔料としてカーボンブラックを含有する黒色のエマルションインキに、DBP吸油量がカーボンブラックよりも大きい体質顔料を加えた場合には、特に、エマルションインキを高温環境下で保存した際に、エマルションが崩壊したり、粘度が大きく変動したりするという新たな問題を生じる。これは、体質顔料が、カーボンブラックの分散に適した油相中に良好に分散されず、特に、高温での保存時に、油相から分離しやすいためである。
【0008】
そこで、発明者は、着色顔料として、これまでよりもDBP吸油量が大きいため油を放出しにくいカーボンブラックを使用して、エマルションインキの安定性を向上することを検討した。しかし、その場合には、エマルションインキの流動性が大きく低下して、紙等の被印刷体への浸透性が悪くなるため、印刷の乾きが遅くなって、連続印刷時に、印刷直後の被印刷体の上に、次に印刷した新たな被印刷体を重ねると、印刷がにじんだり、重ねた被印刷体の裏面が汚れる、いわゆる裏移りを生じたりすることが判明した。
【0009】
本発明の目的は、着色顔料としてカーボンブラックを含有する黒色の、孔版印刷用エマルションインキの、高温での保存性を低下させたり、連続印刷時に印刷のにじみや裏移りを生じたりすることなしに、その安定性を、これまでよりも向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の発明は、油相と水相とからなるW/O型の孔版印刷用エマルションインキであって、油相中に、DBP吸油量が90cm/100g以上である第1のカーボンブラックと、DBP吸油量が50cm/100g以下である第2のカーボンブラックとを含有することを特徴とする孔版印刷用エマルションインキである。
請求項2記載の発明は、B型粘度計とNo.4ローターとを使用して、測定温度23±1℃で測定した、ローターの回転数が6rpmであるときの油相の粘度ηと、回転数が60rpmであるときの油相の粘度ηとの比η/ηが2.0〜4.5であると共に、粘度ηが1000〜3000cPである請求項1記載の孔版印刷用エマルションインキである。
【0011】
請求項3記載の発明は、第1のカーボンブラックとして、窒素吸着比表面積が100m/g以下であるものを用いる請求項1記載の孔版印刷用エマルションインキである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の発明のエマルションインキにおいては、着色顔料として、DBP吸油量が異なる第1および第2のカーボンブラックを併用しており、このうち、DBP吸油量が90cm/100g以上である第1のカーボンブラックが、油相中の油を良好に保持するために機能することから、エマルションインキの安定性を向上することができる。そのため、孔版印刷装置を停止して長時間、放置してもエマルションが崩壊するのを防止して、インキの垂れ等が生じるのを防止することができる。
【0013】
また、上記エマルションインキにおいては、DBP吸油量が50cm/100g以下である第2のカーボンブラックを併用しているため、エマルションインキの流動性が大きく低下するのを抑制することができる。そのため、エマルションインキの、紙等の被印刷体への良好な浸透性を維持して、印刷の乾きが遅くなるのを防止して、連続印刷時に、印刷がにじんだり裏移りしたりするのを防止することができる。
【0014】
しかも、上記エマルションインキは、着色顔料としての第1および第2のカーボンブラック以外に、体質顔料等の、油相に溶解しない固形分を含有しないため、特に、エマルションインキを高温環境下で保存した際に、エマルションが崩壊したり、粘度が大きく変動したりすることもない。
したがって、請求項1記載の発明によれば、着色顔料としてカーボンブラックを含有する黒色の、孔版印刷用エマルションインキの、高温での保存性を低下させたり、連続印刷時に印刷のにじみや裏移りを生じたりすることなしに、その安定性を、これまでよりも向上することが可能となる。
【0015】
なお、請求項1記載の発明において、第1のカーボンブラックのDBP吸油量が90cm/100以上に限定されるのは、DBP吸油量が90cm/100g未満では、当該第1のカーボンブラックを配合することによる、油相中の油を良好に保持して、エマルションインキの安定性を向上する効果が得られないためである。また、第2のカーボンブラックのDBP吸油量が50cm/100g以下に限定されるのは、DBP吸油量が50cm/100gを超える場合には、当該第2のカーボンブラックを併用することによる、エマルションインキの流動性が大きく低下するのを抑制して、当該エマルションインキの、被印刷体への良好な浸透性を維持する効果が得られないためである。
【0016】
上記2種のカーボンブラックを含み、水相と共にエマルションインキを構成する油相は、請求項2に記載したように、B型粘度計とNo.4ローターとを使用して、測定温度23±1℃で測定した、ローターの回転数が6rpmであるときの油相の粘度ηと、回転数が60rpmであるときの油相の粘度ηとの比η/ηが2.0〜4.5であると共に、粘度ηが1000〜3000cPであるのが好ましい。
【0017】
油相の粘度ηが1000cP未満では、W/O型のエマルションの内相である水相同士が凝集しやすくなって、エマルションインキの安定性が低下するおそれがある。また、W/O型のエマルションインキは、一般に、外相である油相の方が、内相である水相よりも、紙等の被印刷体に浸透しやすい上、表面張力が小さいことから、印刷時には、被印刷体に、先に油相が浸透し、ついで水相が浸透および/または揮発する。そのため、油相の粘度ηが3000cPを超える場合には、当該油相の、被印刷体への浸透性が低下することから、エマルションインキが被印刷体内に浸透せずに、その表面に留まる時間が長くなって、印刷の乾きが遅くなり、連続印刷した際に、印刷のにじみや裏移りを生じるおそれがある。これに対し、油相の粘度ηが1000〜3000cPであれば、印刷の乾きが遅くなるのを防止して、連続印刷時に印刷のにじみや裏移りが生じるのを防止しつつ、エマルションインキの安定性を向上する効果を、より一層、向上することができる。
【0018】
また、油相の粘度の比η/ηが2.0未満では、エマルションインキの、1枚の被印刷体に対する転写量が多くなりすぎて、印刷の乾きが遅くなり、連続印刷時に、印刷のにじみや裏移りを生じやすくなる傾向がある。また、インキの消費量が増加するため、スキージロールにインキを供給するインキ容器1個あたりの印刷枚数が少なくなって、インキ容器を頻繁に交換しなければならなくなるという問題も生じる。一方、比η/ηが4.5を超える場合には、エマルションインキの、1枚の被印刷体に対する転写量が少なくなり過ぎて、印刷画像の画像濃度が低下するおそれがある。これに対し、油相の粘度の比η/ηが2.0〜4.5であれば、印刷の乾きが遅くなるのを防止して、連続印刷時に印刷のにじみや裏移りが生じるのを防止すると共に、インキの消費量を抑えながら、十分な画像濃度を有する印刷画像を形成することが可能となる。
【0019】
前記第1のカーボンブラックとしては、請求項3に記載したように、窒素吸着比表面積が100m/g以下であるものを用いるのが好ましい。窒素吸着比表面積が100m/gを超えるカーボンブラックは、DBP吸着量が同じでも、きわめて微細な孔を多数、有するため、毛管力が強すぎて、印刷時に、保持した油を速やかに放出しにくい傾向がある。そのため、印刷の乾きが遅くなって、連続印刷時に、印刷のにじみや裏移りを生じるおそれがある。これに対し、窒素吸着比表面積が100m/g以下であるカーボンブラックは、適度な毛管力を有し、印刷時に、保持した油を速やかに放出することができるため、当該カーボンブラックを使用すれば、印刷の乾きが遅くなるのを防止して、連続印刷時に印刷のにじみや裏移りが生じるのを防止する効果を、より一層、向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の孔版印刷用エマルションインキは、油相と水相とからなるW/O型のエマルションであって、その油相中に、DBP吸油量が90cm/100g以上である第1のカーボンブラックと、DBP吸油量が50cm/100g以下である第2のカーボンブラックとを含有することを特徴とするものである。
このうち、第1のカーボンブラックのDBP吸油量が90cm/100g以上に限定されるのは、DBP吸油量が90cm/100g未満では、当該第1のカーボンブラックを配合することによる、油相中の油を良好に保持して、エマルションインキの安定性を向上する効果が得られないためである。なお、第1のカーボンブラックのDBP吸油量は、上記の範囲内でも、特に、130cm/100g以下であるのが好ましい。DBP吸油量が130cm/100gを超えるカーボンブラックは、印刷時に、保持した油を速やかに放出しにくい傾向があり、印刷の乾きが遅くなって、連続印刷時に、印刷のにじみや裏移りを生じるおそれがある。
【0021】
DBP吸油量が上記の条件を満足する第1のカーボンブラックとしては、例えば、キャボット(CABOT)社製のエルフテックス(登録商標)8〔DBP吸油量:100cm/100g、窒素吸着比表面積81m/g〕、エルフテックス12〔DBP吸油量:95cm/100g、窒素吸着比表面積43m/g〕、三菱化学(株)製のMA−100〔DBP吸油量:100cm/100g、窒素吸着比表面積110m/g〕、MA−230〔DBP吸油量:113cm/100g、窒素吸着比表面積74m/g〕、デグサ(Degussa)社製のプリンテックス(登録商標)40〔DBP吸油量:114cm/100g、窒素吸着比表面積90m/g〕、プリンテックス60〔DBP吸油量:114cm/100g、窒素吸着比表面積115m/g〕、プリンテックス30〔DBP吸油量:105cm/100g、窒素吸着比表面積80m/g〕、プリンテックス3〔DBP吸油量:123cm/100g、窒素吸着比表面積80m/g〕等の1種または2種以上が挙げられる。
【0022】
また、第1のカーボンブラックは、窒素吸着比表面積が100m/g以下であるのが好ましい。窒素吸着比表面積が100m/gを超えるカーボンブラックは、DBP吸着量が同じでも、きわめて微細な孔を多数、有するため、毛管力が強すぎて、印刷時に、保持した油を速やかに放出しにくい傾向があり、印刷の乾きが遅くなって、連続印刷時に、印刷のにじみや裏移りを生じるおそれがある。なお、第1のカーボンブラックの窒素吸着比表面積は、上記の範囲内でも、特に、40m/g以上であるのが好ましい。窒素吸着比表面積が40m/g未満であるカーボンブラックは、DBP吸着量が同じでも、毛管力が弱すぎて、油相中の油を良好に保持して、エマルションインキの安定性を向上する効果が十分に得られないおそれがある。
【0023】
窒素吸着比表面積が上記の条件を満足する第1のカーボンブラックとしては、上記例示の各種カーボンブラックのうち、キャボット社製のエルフテックス8、エルフテックス12、三菱化学(株)製のMA−230、デグサ社製のプリンテックス40、プリンテックス30、プリンテックス3等の1種または2種以上が挙げられる。
上記第1のカーボンブラックと併用する、第2のカーボンブラックのDBP吸油量が50cm/100g以下に限定されるのは、DBP吸油量が50cm/100gを超える場合には、当該第2のカーボンブラックを併用したことによる、エマルションインキの流動性が大きく低下するのを抑制して、当該エマルションインキの、被印刷体への良好な浸透性を維持する効果が得られないためである。また、第2のカーボンブラックは、第1のカーボンブラックによる、油の保持を補助するために機能するのが好ましく、そのためには、第2のカーボンブラックのDBP吸油量は、上記の範囲内でも、特に、30cm/100g以上であるのが好ましい。
【0024】
DBP吸油量が上記の条件を満足する第2のカーボンブラックとしては、例えば、デグサ社製のプリンテックス25〔DBP吸油量:45cm/100g、窒素吸着比表面積45m/g〕、プリンテックス35〔DBP吸油量:42cm/100g、窒素吸着比表面積65m/g〕、プリンテックス55〔DBP吸油量:46cm/100g、窒素吸着比表面積110m/g〕、デグサ社製のスペシャルブラック350〔DBP吸油量:45cm/100g、窒素吸着比表面積65m/g〕、スペシャルブラック250〔DBP吸油量:46cm/100g、窒素吸着比表面積40m/g〕、スペシャルブラック550〔DBP吸油量:47cm/100g、窒素吸着比表面積110m/g〕等の1種または2種以上が挙げられる。
【0025】
また、第2のカーボンブラックは、第1のカーボンブラックによる油の保持を補助して、油を良好に保持すると共に、印刷時に、保持した油を速やかに放出することを考慮すると、第1のカーボンブラックの場合と同様に、その窒素吸着比表面積が、40〜100m/gであるのが好ましい。窒素吸着比表面積がこの条件を満足する第2のカーボンブラックとしては、上記例示の各種カーボンブラックのうち、デグサ社製のプリンテックス25〔DBP吸油量:45cm/100g、窒素吸着比表面積45m/g〕、プリンテックス35〔DBP吸油量:42cm/100g、窒素吸着比表面積65m/g〕、スペシャルブラック350〔DBP吸油量:45cm/100g、窒素吸着比表面積65m/g〕、スペシャルブラック250〔DBP吸油量:46cm/100g、窒素吸着比表面積40m/g〕等の1種または2種以上が挙げられる。
【0026】
第1のカーボンブラックと第2のカーボンブラックとは、任意の割合で併用することができるが、重量比で表して、10/90〜90/10の範囲で併用するのが好ましい。この範囲より第1のカーボンブラックが少ない場合には、当該第1のカーボンブラックを配合することによる、油相中の油を良好に保持して、エマルションインキの安定性を向上する効果が得られないおそれがある。また、上記の範囲より第2のカーボンブラックが少ない場合には、当該第2のカーボンブラックを併用したことによる、エマルションインキの流動性が大きく低下するのを抑制して、当該エマルションインキの、被印刷体への良好な浸透性を維持する効果が得られないおそれがある。
【0027】
なお、第1および第2のカーボンブラックを併用したことによる、印刷の乾きが遅くなるのを防止して、連続印刷時に印刷のにじみや裏移りが生じるのを防止しつつ、エマルションインキの安定性を向上する効果を、より一層、向上することや、次に説明する、油相の粘度ηとηとの比η/ηを2.0〜4.5の範囲に調整し、かつ粘度ηを1000〜3000cPに調整することを考慮すると、両カーボンブラックの配合割合(重量比)は、上記の範囲内でも特に、20/80〜80/20であるのがより一層、好ましい。また、第1および第2のカーボンブラックの合計の添加量は、エマルションインキの総量の1〜15重量%、特に2〜10重量%であるのが好ましい。
【0028】
油相は、第1および第2のカーボンブラックを併用すること以外は従来同様に構成することができる。すなわち、油相は、溶剤に、着色顔料としての第1および第2のカーボンブラックの他、樹脂、界面活性剤その他の添加剤を適宜、添加することで構成される。
このうち、溶剤としては、例えば、石油系溶剤〔パラフィン系(メタン列)炭化水素、ナフテン系(シクロパラフィン系)炭化水素、オレフィン系(エチレン列)炭化水素、芳香族炭化水素等〕、スピンドル油、軽油、灯油、マシン油、ギヤー油、潤滑油、モーター油等の鉱物油類;あまに油、トール油、とうもろこし油、オリーブ油、ナタネ油、ヒマシ油、大豆油、脱水ひまし油等の植物油類;ヤシ油、パーム油等の植物油脂類;ポリイソブチレン類、水素化ポリデセン類、トリメチロールプロパンエステル類、ネオペンチルエステル類、ペンタエリスリトールエステル類、シロキサン類、シリコーン類、フロロカーボン類、アルキル置換ジフェニルエーテル類、フタル酸エステル類、リン酸エステル類等の合成油類などの1種または2種以上が挙げられる。
【0029】
また、溶剤としては、先に説明したように、エマルションインキを低粘度化しつつ、垂れを防止するために、ベースとなる溶剤と、揮発性の溶剤とを組み合わせるのが好ましい。そのような組み合わせとしては、例えばベースとなる溶剤としてのパラフィン系炭化水素と、揮発性の溶剤としてのナフテン系炭化水素との組み合わせ等が挙げられる。
樹脂は、着色顔料の、溶剤に対する濡れ性を改善して油相中への分散性を向上し、かつ、エマルションインキの安定性を向上すると共に、印刷後の着色顔料を、被印刷体の表面に固着させるためなどに添加される。樹脂としては、例えば、ロジン、重合ロジン、水素化ロジン、ロジンエステル、水素化ロジンエステル等のロジン系樹脂類;ロジン変性フェノール樹脂等のロジン変性樹脂類;アルキド樹脂;フェノール樹脂;マレイン酸樹脂;石油樹脂;ゴム誘導体;重合ひまし油等の1種または2種以上が挙げられる。特に、着色顔料の、溶剤に対する濡れ性を改善する効果に優れたアルキド樹脂が好ましい。樹脂の添加量は、エマルションインキの総量の20重量%以下、特に1〜7重量%であるのが好ましい。
【0030】
界面活性剤としては、例えば、金属石鹸、高級アルコール硫酸エステル化塩、ポリオキシエチレン付加物の硫酸エステル化塩等の陰イオン性界面活性剤;1〜3級アミン塩、4級アンモニウム塩等の陽イオン性界面活性剤;および非イオン性界面活性剤等の1種または2種以上が挙げられ、特に非イオン性界面活性剤が好ましい。
また、非イオン性界面活性剤としては、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンセスキオレエート、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のソルビタン脂肪酸エステル類;グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル等の多価アルコールの脂肪酸エステル類;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、脂肪酸のポリオキシエチレンエーテル、高級アルコールのポリオキシエチレンエーテル、ポリグリセリン脂肪酸エステルのポリオキシエチレンエーテル、ポリオキシエチレンフィトステロールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンひまし油、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンラノリン誘導体等のポリオキシエチレンエーテル類;ポリオキシエチレンアルキルアミン;ポリオキシエチレン脂肪酸アミド;ポリオキシエチレンアルキルフェニルホルムアルデヒド縮合物等の1種または2種以上が挙げられる。
【0031】
特に、ソルビタン脂肪酸エステルが好ましい。また、界面活性剤の添加量は、各々の界面活性剤のモル濃度、エマルションにおける、水相と油相との界面の面積(一部は、油相と着色顔料との界面の面積)を考慮して決めることができるが、エマルションインキの総量の1〜20重量%、特に1〜5重量%であるのが好ましい。
その他の添加剤としては、例えば、顔料分散剤、ゲル化剤、酸化防止剤等が挙げられる。また、流動性を調整する補助剤として、ワックス等を主成分としたコンパウンドを添加することもできる。顔料分散剤としては、上で説明した界面活性剤が挙げられる他、アルキルアミン系高分子化合物、アルミニウムキレート系化合物、スチレン/無水マレイン酸共重合体、ポリアクリル酸の部分アルキルエステル、ポリアルキレンポリアミン脂肪族多価カルボン酸、ポリエーテル、エステル型アニオン界面活性剤、高分子量ポリカルボン酸の長鎖アミン塩、ポリアミド、燐酸エステル系界面活性剤、アルキルスルホカルボン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ジオクチルスルホコハク酸塩等の1種または2種以上も使用可能である。顔料分散剤の添加量は、着色顔料としての第1および第2のカーボンブラックの合計量の40重量%以下、特に2〜35重量%であるのが好ましい。
【0032】
ゲル化剤は、油相に含まれる樹脂をゲル化してエマルションインキの保存安定性、定着性等を向上させるためのものである。ゲル化剤としては、例えば、Li、Na、K、Al、Ca、Co、Fe、Mn、Mg、Pb、Zn、Zr等の金属を含む有機酸塩;有機キレート化合物;金属石鹸オリゴマー等の、油相中で、樹脂と配位結合する化合物が好ましい。ゲル化剤の具体例としては、例えば、オクチル酸アルミニウム等のオクチル酸金属塩;ナフテン酸マンガン等のナフテン酸金属塩;ステアリン酸亜鉛等のステアリン酸塩;アルミニウムジイソプロポキシドモノエチルアセトアセテート等の有機キレート化合物等の1種または2種以上が挙げられる。ゲル化剤の添加量は、油相中に含まれる樹脂の総量に対して15重量%以下、特に5〜10重量%であるのが好ましい。
【0033】
酸化防止剤としては、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、没食子酸プロピル、ブチルヒドロキシアニソール等の1種または2種以上があげられる。酸化防止剤を添加することで、油相中の樹脂等の酸化を防いで、エマルションインキの粘度が上昇等するのが防止される。酸化防止剤の添加量は、油相の総量の2重量%以下、特に0.1〜1.0重量%であるのが好ましい。また、油相には、印刷時に、被印刷体と孔版原紙との離型性を向上して、被印刷体の巻き上がりを防止するために、ワックスを添加してもよい。
【0034】
上記の各成分を含む油相は、B型粘度計とNo.4ローターとを使用して、測定温度23±1℃で測定した、ローターの回転数が6rpmであるときの油相の粘度ηと、回転数が60rpmであるときの油相の粘度ηとの比η/ηが2.0〜4.5であると共に、粘度ηが1000〜3000cPであるのが好ましい。
油相の粘度の比η/ηが2.0〜4.5であれば、印刷の乾きが遅くなるのを防止して、連続印刷時に印刷のにじみや裏移りが生じるのを防止すると共に、インキの消費量を抑えながら、十分な画像濃度を有する印刷画像を形成することが可能となる。なお、これらの効果をより一層、向上するためには、油相の粘度の比η/ηは、上記の範囲内でも特に、2.5〜4.0であるのがさらに好ましい。
【0035】
また、油相の粘度ηが1000〜3000cPであれば、印刷の乾きが遅くなるのを防止して、連続印刷時に印刷のにじみや裏移りが生じるのを防止しつつ、エマルションインキの安定性を向上する効果を、より一層、向上することができる。これらの効果をより一層、向上するためには、油相の粘度ηは、上記の範囲内でも特に、1200〜2700cPであるのが好ましい。
【0036】
油相の粘度の比η/ηや粘度ηを調整するためには、先に説明したように、第1および第2のカーボンブラックの配合割合(重量比)を調整すればよい。また、DBP吸油量の異なる第1および第2のカーボンブラックを組み合わせたり、油相に添加する両カーボンブラックの合計の添加量を調整したり、両カーボンブラックと組み合わせる溶剤の種類や配合を変更したりしても、油相の粘度の比η/ηや粘度ηを調整することができる。
【0037】
油相と共にエマルションインキを構成する水相は、従来同様に、水に、O/W型樹脂エマルション、水溶性樹脂、湿潤剤、凍結防止剤、電解質、防腐・防カビ剤、pH調整剤等の添加剤を適宜、添加することで構成される。
このうち、水は清浄であればよく、水道水、純水(イオン交換水)、蒸留水等がいずれも使用可能である。O/W型樹脂エマルションや水溶性樹脂は、保湿や増粘のために添加されるもので、このうち、O/W型樹脂エマルションとしては、例えば、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、ポリメタクリル酸エステル、ポリスチレン、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、塩化ビニリデン−アクリル酸エステル共重合体、塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ウレタン等の樹脂のエマルションの1種または2種以上が挙げられる。
【0038】
また、水溶性樹脂としては、例えば、デンプン、マンナン、アルギン酸ソーダ、ガラクタン、トラガントガム、アラビアガム、プルラン、デキストラン、キサンタンガム、ニカワ、ゼラチン、コラーゲン、カゼイン等の天然高分子;カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシメチルデンプン、カルボキシメチルデンプン、ジアルデヒドデンプン等の半合成高分子;アクリル樹脂誘導体(ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸トリエタノールアミン等)、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレン−ポリビニルアルコール共重合体、ポリビニルメチルエーテル、水溶性ウレタン等の合成高分子等の1種または2種以上が挙げられる。O/W型樹脂エマルションおよび/または水溶性樹脂の添加量は、水相中に含まれる水の量の25重量%以下、特に0.5〜15重量%であるのが好ましい。
【0039】
湿潤剤、および凍結防止剤は兼用可能であり、その例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール等の低級飽和一価アルコール類;グリセリン、ソルビトール等の多価アルコール類等の1種または2種以上が挙げられる。その添加量は、水相中に含まれる水の量の15重量%以下、特に4〜12重量%であるのが好ましい。
【0040】
電解質は、エマルションの安定性を向上するためのものであり、その例としては、エマルションの安定性向上に有効な、離液順列の高い陰イオンまたは陽イオンを含む塩が好ましい。離液順列の高い陰イオンとしては、例えば、クエン酸イオン、酒石酸イオン、硫酸イオン、酢酸イオン等が挙げられ、離液順列の高い陽イオンとしては、例えば、アルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオンが挙げられる。電解質は、上記陰イオンと陽イオンのうちの少なくとも一方を含んでいればよく、そのような電解質の具体例としては、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等の1種または2種以上が挙げられる。電解質の添加量は、水相の総量の0.1〜2重量%、特に0.5〜1.5重量%であるのが好ましい。
【0041】
防湿・防カビ剤としては、例えば、サリチル酸、フェノール類、p−オキシ安息香酸メチル、p−オキシ安息香酸エチル等の芳香族ヒドロキシ化合物やその塩素化物;ソルビン酸;デヒドロ酢酸等の1種または2種以上が挙げられる。防湿・防カビ剤の添加量は、水相中に含まれる水の量の3重量%以下、特に0.1〜1.2重量%であるのが好ましい。
pH調整剤としては、例えば、トリエタノールアミン、酢酸ナトリウム、トリアリルアミン等が挙げられる。水溶性樹脂を含む系では、必要に応じてpH調整剤を添加して、水相のpHを6〜8に調整することで、当該水溶性樹脂による、保湿や増粘の効果を良好に発揮させることができる。また、水相には、防錆剤や消泡剤を添加して、印刷時に、孔版印刷装置の金属部分が錆びたり、インキが泡立ったりするのを防止することもできる。
【0042】
本発明の孔版印刷用エマルションインキは、上記の各成分からなる油相と水相とからなるW/O型のエマルション構造を有する。かかるエマルションインキは、従来同様に、油相をかく拌しながら、そこへ、徐々に水相を滴下して乳化させることで製造される。油相と水相との配合割合は特に限定されないが、油相/水相(重量比)で表して、油相/水相=10/90〜50/50の範囲で配合するのが好ましく、特に、先に説明したように、油相に比べて水相の比率を高く設定するのがさらに好ましい。
【実施例】
【0043】
実施例1:
(油相の調製)
アルキド樹脂4重量部と、ソルビタンモノオレエート2.5重量部と、酸化防止剤0.1重量部とを、パラフィン系炭化水素4.5重量部と、ナフテン系炭化水素13.5重量部との混合溶媒に溶解して樹脂ワニスを調製した。次に、この樹脂ワニス24.6重量部に、DBP吸油量が100cm/100g、窒素吸着比表面積が81m/gである第1のカーボンブラック〔キャボット社製のエルフテックス8〕1.25重量部と、DBP吸油量が45cm/100g、窒素吸着比表面積が45m/gである第2のカーボンブラック〔デグサ社製のプリンテックス25〕3.75重量部とをプレミックスした後、3本ロールミルを5回、通過させて、カーボンブラックの二次粒子径が10μmになるまで粉砕して油相を調製した。
【0044】
(水相の調製)
硫酸マグネシウム1重量部と、エチレングリコール4重量部と、純水65.4重量部とを、ディスパーを用いて混合して水相を調製した。
(孔版印刷用エマルションインキの製造)
油相29.6重量部を、ディスパーを用いてかく拌しながら、水相70.4重量部を徐々に滴下して乳化させて、W/O型のエマルション構造を有する孔版印刷用エマルションインキを製造した。
【0045】
実施例2〜5、比較例1、2:
第1および第2のカーボンブラックの添加量を、それぞれ、表1に示す値としたこと以外は実施例1と同様にして孔版印刷用エマルションインキを製造した。
【0046】
【表1】

【0047】
実施例6:
第1のカーボンブラックとして、キャボット社製のエルフテックス8に代えて、DBP吸油量が100cm/100g、窒素吸着比表面積が110m/gであるカーボンブラック〔三菱化学(株)製のMA−100〕2.5重量部を添加したこと以外は実施例2と同様にして孔版印刷用エマルションインキを製造した。
【0048】
比較例3:
第1のカーボンブラックとして、キャボット社製のエルフテックス8に代えて、DBP吸油量が85cm/100g、窒素吸着比表面積が89m/gであるカーボンブラック〔キャボット社製のリーガル300R〕2.5重量部を添加したこと以外は実施例2と同様にして孔版印刷用エマルションインキを製造した。
【0049】
比較例4:
第2のカーボンブラックとして、デグサ社製のプリンテックス25に代えて、DBP吸油量が66cm/100g、窒素吸着比表面積が80m/gであるカーボンブラック〔デグサ社製のプリンテックス300〕2.5重量部を添加したこと以外は実施例2と同様にして孔版印刷用エマルションインキを製造した。
【0050】
比較例5:
第1のカーボンブラックに代えて、体質顔料であるタルク(DBP吸油量:60cm/100g)2.5重量部を添加したこと以外は実施例2と同様にして孔版印刷用エマルションインキを製造した。
油相の粘度測定:
実施例1〜6、比較例1〜5で調製した、水相を加えてエマルション化する前の油相について、B型粘度計BM〔(株)トキメック製〕とNo.4ローターとを使用して、測定温度23±1℃、ローターの回転数6rpmの条件で、粘度ηを測定すると共に、測定温度23±1℃、ローターの回転数60rpmの条件で、粘度ηを測定した。そして、両測定結果から、粘度の比η/ηを求めた。なお、測定は、所定量の油相をB型粘度計の測定容器に入れて、粘度計ごと、温度23±1℃、相対湿度60%の環境下で1時間、静置後、同環境下で行った。
【0051】
実機試験:
実施例1〜6、比較例1〜5で製造した孔版印刷用エマルションインキを、感熱性の孔版原紙とサーマルヘッドとを組み合わせた市販の孔版印刷装置用のインキ容器に充てんし、このインキ容器を孔版印刷装置に装着して、下記の各項目の評価を行った。
(インキの垂れ)
孔版印刷装置を動かして、インキ容器から、エマルションインキを、スキージロールの表面に供給した状態で、装置を停止して、温度23±1℃の常温条件下で1ヶ月間、放置した後、内部を観察した。そして下記の基準で、インキの垂れの有無を評価した。
【0052】
○:1ヶ月前と変化なし。インキの垂れなし。
×:スキージロールからインキが垂れ落ちていた。インキの垂れあり。
(裏移り)
孔版印刷装置を動かして、普通紙上に20枚の連続印刷を行った。そして、印刷後に、装置の排紙部に重ねられた、20枚の普通紙の裏面を観察し、下記の基準で、裏移りの有無を評価した。
【0053】
○:汚れが全くないか、もしくはベタ印刷部と接触していた部分がわずかに汚れている程度。裏移りなし。
△:汚れがあったが、実用上、問題ないレベルであった。裏移りほとんどなし。
×:著しく汚れていた。裏移りあり。
(インキの消費量)
孔版印刷装置を動かして、普通紙上に、1000枚の連続印刷を行った後、インキ容器に残ったインキ量を測定した。そして、下記の基準で、インキの消費量を評価した。
【0054】
○:インキの消費量は、印刷画像から予測される適正値以下であった。インキの消費量少。
×:インキの消費量は、適正値を超えていた。インキの消費量過剰。
(画像濃度)
孔版印刷装置を動かして、普通紙上に印刷を行った。そして、印刷画像のベタ印刷部の画像濃度を、グレタグマクベス社製の反射濃度計RD−914を用いて測定して、下記の基準で、画像濃度を評価した。
【0055】
○:画像濃度が0.84〜1.20の範囲内であった。画像濃度適正。
×:画像濃度が0.84未満であるか、または1.20を超えていた。画像濃度不適正。
高温保存試験:
実施例1〜6、比較例1〜5で製造した孔版印刷用エマルションインキを、60℃に設定した恒温槽中で2週間、保存した後、状態を観察して、下記の基準で、高温での保存性を評価した。
【0056】
○:エマルションの崩壊による油水分離が見られない上、著しい粘度変化もなかった。高温での保存性良好。
×:エマルションの崩壊による油水分離が見られたり、著しい粘度変化が見られたりした。高温での保存性不良。
結果を表2に示す。
【0057】
【表2】

【0058】
表より、着色顔料として、DBP吸油量が90cm/100g以上である第1のカーボンブラックのみを添加した比較例1のエマルションインキは、油相の粘度ηが3000cPを超えると共に、流動性が大きく低下するため、被印刷体への浸透性が悪化し、連続印刷時に裏移りを生じることがわかった。また、比較例1のエマルションインキは、油相の粘度の比η/ηが4.5を超えるため、1枚の被印刷体に対する転写量が少なくなり過ぎて、印刷画像の画像濃度が低下することもわかった。
【0059】
また、上記第1のカーボンブラックと、DBP吸油量が50cm/100gを超える第2のカーボンブラックとを併用した比較例4のエマルションインキは、第2のカーボンブラックを併用したことによる効果が得られず、依然として、油相の粘度ηが3000cPを超えると共に、その流動性が低下して、被印刷体への浸透性が悪化し、連続印刷時に裏移りを生じることがわかった。また、比較例2のエマルションインキは、依然として、油相の粘度の比η/ηが4.5を超えるため、1枚の被印刷体に対する転写量が少なくなり過ぎて、印刷画像の画像濃度が低下することがわかった。
【0060】
着色顔料として、DBP吸油量が50cm/100g以下である第2のカーボンブラックのみを添加した比較例2のエマルションインキは、油相の粘度ηが1000cPを下回り、エマルションインキの安定性が低下するため、長時間、放置した際に、インキの垂れを生じることがわかった。また、比較例2のエマルションインキは、油相の粘度の比η/ηが2.0未満であるため、1枚の被印刷体に対する転写量が多くなりすぎて、その消費量が増加すると共に、印刷の乾きが遅くなって、連続印刷時に裏移りを生じることもわかった。
【0061】
また、上記第2のカーボンブラックと、DBP吸油量が90cm/100g未満である第1のカーボンブラックとを併用した比較例3のエマルションインキは、第1のカーボンブラックを配合したことによる効果が得られず、依然として、油相の粘度ηが1000cPを下回り、エマルションインキの安定性が低下するため、長時間、放置した際に、インキの垂れを生じることがわかった。また、比較例3のエマルションインキは、依然として、油相の粘度の比η/ηが2.0未満であるため、1枚の被印刷体に対する転写量が多くなりすぎて、その消費量が増加すると共に、印刷の乾きが遅くなって、連続印刷時に裏移りを生じることもわかった。
【0062】
さらに、上記第2のカーボンブラックと、体質顔料であるタルクとを併用した比較例5のエマルションインキは、高温での保存時に、エマルションの崩壊による油水分離や著しい粘度変化が見られた。また、比較例5のエマルションインキは、併用したタルクのDBP吸油量が90cm/100g未満であるため、その併用の効果が得られず、長時間、放置した際に、インキの垂れを生じると共に、消費量が増加し、かつ印刷の乾きが遅くなって、連続印刷時に裏移りを生じることもわかった。
【0063】
これに対し、実施例1〜6のエマルションインクはいずれも、各試験の評価が○〜△であって、良好な特性を有することがわかった。また、実施例1〜3と実施例4、5とを比較すると、実施例1〜3の方が、各項目の評価が良好であったことから、油相の粘度の比η/ηは2.0〜4.5の範囲内で、かつ粘度ηは1000〜3000cPの範囲内であるのが好ましいことがわかった。さらに、実施例2と実施例6とを比較すると、実施例2の方が、各項目の評価が良好であったことから、第1のカーボンブラックとしては、窒素吸着比表面積が100m/g以下であるものを用いるのが好ましいことがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油相と水相とからなるW/O型の孔版印刷用エマルションインキであって、油相中に、DBP吸油量が90cm/100g以上である第1のカーボンブラックと、DBP吸油量が50cm/100g以下である第2のカーボンブラックとを含有することを特徴とする孔版印刷用エマルションインキ。
【請求項2】
B型粘度計とNo.4ローターとを使用して、測定温度23±1℃で測定した、ローターの回転数が6rpmであるときの油相の粘度ηと、回転数が60rpmであるときの油相の粘度ηとの比η/ηが2.0〜4.5であると共に、粘度ηが1000〜3000cPである請求項1記載の孔版印刷用エマルションインキ。
【請求項3】
第1のカーボンブラックとして、窒素吸着比表面積が100m/g以下であるものを用いる請求項1記載の孔版印刷用エマルションインキ。

【公開番号】特開2006−124476(P2006−124476A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−312685(P2004−312685)
【出願日】平成16年10月27日(2004.10.27)
【出願人】(000108306)ゼネラル株式会社 (17)
【Fターム(参考)】