説明

容量性素子の駆動装置

【課題】容量性素子に印加される信号の電圧を安定させることができる容量性素子の駆動装置を提供する。
【解決手段】交流信号を生成する信号発生回路2と、前記信号発生回路にて生成された交流信号を増幅して容量性素子6に印加する増幅回路4,5と、前記容量性素子に印加された交流信号の一部を前記増幅回路へ帰還入力する帰還回路7,8と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容量性素子の駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧電素子などの容量性素子に位相の異なる周波電圧を印加して進行性振動波を形成する駆動装置において、圧電素子の共振周波数以上のインダクタンスを有するコイルを設けた共振利用型駆動回路が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−245553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の駆動回路は共振現象を利用しているため、駆動周波数の変化や圧電素子の製造上の個体差により圧電素子に印加される信号の電圧が安定しないという問題があった。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、容量性素子に印加される信号の電圧を安定させることができる容量性素子の駆動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の解決手段によって上記課題を解決する。なお、発明の実施形態を示す図面に対応する符号を付して説明するが、この符号は発明の理解を容易にするためだけのものであって発明を限定する趣旨ではない。
【0007】
本発明に係る容量性素子の駆動装置は、交流信号を生成する信号発生回路(2)と、前記信号発生回路にて生成された前記交流信号を増幅して容量性素子(6)に印加する増幅回路(4,5)と、前記容量性素子に印加された交流信号の一部を前記増幅回路へ帰還入力する帰還回路(7,8)と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
上記発明に係る容量性素子の駆動装置において、前記増幅回路(4,5)はオペアンプ(U1)を含み、該オペアンプのオープンループゲインは、前記増幅回路による入出力電圧の増幅比より大きいように構成することができる。
【0009】
また、上記発明に係る容量性素子の駆動装置において、前記増幅回路(4,5)は、前記容量性素子の容量成分と共振する誘導性素子(L1)を含むように構成することができる。
【0010】
また、上記発明に係る容量性素子の駆動装置において、前記帰還回路(7,8)は、前記容量性素子に印加された交流信号の交流成分を抽出するカップリングコンデンサ(C2)を含むように構成することができる。
【0011】
また、上記発明に係る容量性素子の駆動装置において、前記帰還回路(7,8)は、時定数を調整する時定数調整回路(R2,C4)を含むように構成することができる。
【0012】
また、上記発明に係る容量性素子の駆動装置において、前記容量性素子(6)は圧電素子で構成することができる。
【0013】
また、上記発明に係る容量性素子の駆動装置において、前記誘電性素子(L1)はインダクタで構成することができる。
【0014】
また、上記発明に係る容量性素子の駆動装置において、前記信号発生回路にて生成された交流信号の位相を調整し、第1の位相の交流信号と前記第1の位相と異なる第2の位相の交流信号を生成する移相回路(3)を有し、前記増幅回路は、前記第1の位相の交流信号と前記第2の位相の交流信号とをそれぞれ増幅して前記容量性素子に印加するように構成することができる。
【発明の効果】
【0015】
上記発明によれば、容量性素子に印加される信号の電圧を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】発明の一実施の形態を適用した容量性素子の駆動装置を示すブロック図である。
【図2】図1の増幅回路、圧電素子および帰還回路の具体的態様を示す電気回路図である。
【図3】図1の増幅回路、圧電素子および帰還回路の他の具体的態様を示す電気回路図である。
【図4】比較例に係る容量性素子の駆動装置を示す電気回路図である。
【図5】図4に示す駆動装置による出力波形を示すグラフである。
【図6】図2に示す駆動装置による出力波形を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、上記発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
図1及び図2を参照して、本実施形態に係る容量性素子の駆動装置として超音波モータに用いられる圧電素子の駆動装置を例に挙げて説明する。ただし、本実施形態は圧電素子以外の容量性素子にも適用することができる。
【0019】
本例の駆動装置は、図1に示すように、超音波モータの駆動源となる容量性素子としての圧電素子6と、圧電素子6に対する駆動信号を生成する駆動信号発生回路2と、駆動信号発生回路2で生成された駆動信号の位相を調整する移相回路3と、移相回路3にて調整された駆動信号を増幅して圧電素子6に印加する一対の増幅回路4,5と、圧電素子6に印加した駆動信号の一部を増幅回路4,5へそれぞれフィードバックする一対の帰還回路7,8と、駆動信号発生回路2、移相回路3及び増幅回路4,5に電力を供給する電源回路1と、を備える。
【0020】
圧電素子6は、2相駆動タイプの圧電素子であって、詳細な図示は省略するが、位置的に1/4波長ずらせた二組の駆動電極を有し、これら二組の駆動電極のそれぞれに90度位相が異なる2つの交流電圧が印加される。これにより曲げ振動の進行波が超音波モータの振動体に励振され、摩擦駆動により超音波モータの移動体が駆動する。
【0021】
駆動信号発生回路2は、電源回路1からの電源の供給を受けて圧電素子6を駆動するための交流信号を発生させる信号生成回路である。電源回路1が乾電池などの直流電源回路である場合は、駆動交流信号を生成するためのインバータ回路が含まれる。
【0022】
移相回路3は、電源回路1からの電源の供給を受け、駆動信号発生回路2にて生成された駆動交流信号を第1の位相と第2の位相とに二分割し、一方の交流信号をそのまま一方の増幅回路4へ出力する一方で、他方の交流信号を所定の位相である90度だけ移相して他方の増幅回路5へ出力する。
【0023】
増幅回路4,5は、電源回路1からの電源の供給を受けて入力された駆動交流信号を超音波モータの駆動に充分なレベルまでそれぞれ電力増幅し、これを圧電素子6のそれぞれの駆動電極に出力する。このようにして、圧電素子6の駆動電極のそれぞれに90度位相が異なる2つの交流電圧が印加され、超音波モータの振動体に励振されることになる。
【0024】
特に本例の駆動装置には、圧電素子6に印加した駆動交流信号を増幅回路4,5へそれぞれフィードバックする一対の帰還回路7,8が設けられている。この帰還回路7,8によりフィードバックされた駆動交流信号は増幅回路4,5に入力され、この増幅回路4,5にて予め設定された入力電圧との比率に基づき一定の出力電圧になるように制御される。
【0025】
図2は、図1の増幅回路4,5、圧電素子6および帰還回路7,8の具体的態様を示す電気回路図であり、図1の一方の増幅回路4、圧電素子6および帰還回路7のみを示す電気回路図である。なお、図1の他方の増幅回路5及び帰還回路8も同様の構成とされている。
【0026】
図2に示すように、増幅回路4は、オペアンプU1と、トランジスタQ1および圧電素子6の容量成分と共振する誘導性素子であるインダクタL1を含み、移相回路3からの駆動交流信号はオペアンプU1の反転入力端子(−)に入力される。オペアンプU1の非反転入力端子(+)には、当該オペアンプU1の電源回路1の供給電圧VCC1の範囲内の所定電圧、たとえばVCC2=VCC1/2の電圧が設定されている。また、オペアンプU1のオープンループゲインが、反転入力端子への入力電圧と圧電素子6に印加される電圧との入出力電圧の増幅比より大きくなるように、抵抗R1,R11の値が設定されている。
【0027】
そして、反転入力端子に入力された駆動交流信号は、オペアンプU1、トランジスタQ1およびインダクタL1を介して増幅され、圧電素子6の電極へ出力される。
【0028】
一方、帰還回路7は、圧電素子6へ印加される電圧を分圧する分圧回路R5,R6と、分圧された駆動交流信号のバイアス値を変換するカップリングコンデンサC2と、オペアンプU2と、抵抗R2とを含む。カップリングコンデンサC2は駆動交流信号から交流成分を抽出し、直流成分を調整したうえでオペアンプU2の反転入力端子(−)に出力する。オペアンプU2の非反転入力端子(+)には基準電圧VCC2が設定され、これとの比率に基づいた出力電圧がオペアンプU2の出力端子から出力され、これがオペアンプU1の反転入力端子(−)に入力されるように構成されている。
【0029】
以上の構成により、オペアンプU1の反転入力端子(−)に入力された駆動交流信号は、当該オペアンプU1、トランジスタQ1およびインダクタL1によって増幅された状態で圧電素子6に印加される。このとき、この印加された駆動交流信号をオペアンプU2および抵抗R2を介してオペアンプU1へフィードバックするので、駆動電圧が安定することになる。
【0030】
図4は、図2に示す本実施形態の駆動装置から帰還回路7を省いた比較例に係る電気回路図であり、図5は、図4に示す比較例の駆動装置のオペアンプU1の反転入力端子(−)にAの駆動交流信号を入力したときの圧電素子6に印加される駆動交流信号の波形を示すグラフである。
【0031】
本実施形態に係る帰還回路7を含まない駆動装置では、駆動交流信号の波形Aが一定であるにも拘らず、印加される駆動交流信号の波形Bが安定するのにある程度の時間が必要となる。
【0032】
これに対し、図6は、図1および図2に示す駆動装置においてオペアンプU1の反転入力端子にCの駆動交流信号を入力したときの、圧電素子6に印加される駆動交流信号の波形と、オペアンプU2の出力端子における出力波形Eとを示すグラフである。
【0033】
本例によれば、比較例の波形Aと同じ波形Cの駆動交流信号を与えると、印加される駆動交流信号の波形Dからフィードバックされる信号の波形Eが安定になるように制御されるため、圧電素子6に印加される駆動交流信号Dは短時間で安定した駆動波形となる。
【0034】
図3は、図1の増幅回路、圧電素子および帰還回路の他の具体的態様を示す電気回路図であり、図1の一方の増幅回路4、圧電素子6および帰還回路7のみを示す電気回路図である。なお、図1の他方の増幅回路5及び帰還回路8も同様の構成とされている。図2に示す具体的態様に対して、帰還回路7の抵抗R2に並列にコンデンサC4を接続した点が相違し、その他の構成は同じである。
【0035】
抵抗R2とコンデンサC4との並列回路(微分回路)の抵抗値と静電容量を調整することによって、当該帰還回路7の時定数τ=RC(Rは抵抗R2の抵抗値、CはコンデンサC4の静電容量)を調整することができ、これにより帰還回路7を流れる信号に含まれるノイズを除去することができる。
【符号の説明】
【0036】
1…電源回路
2…駆動信号発生回路
3…移相回路
4,5…増幅回路
U1…オペアンプ
Q1…トランジスタ
L1…インダクタ
6…圧電素子
7,8…帰還回路
C2…カップリングコンデンサ
R2…抵抗
C4…コンデンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流信号を生成する信号発生回路と、
前記信号発生回路にて生成された前記交流信号を増幅して容量性素子に印加する増幅回路と、
前記容量性素子に印加された交流信号の一部を前記増幅回路へ帰還入力する帰還回路と、を備えたことを特徴とする容量性素子の駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の容量性素子の駆動装置において、
前記増幅回路はオペアンプを含み、該オペアンプのオープンループゲインは、前記増幅回路による入出力電圧の増幅比より大きいことを特徴とする容量性素子の駆動装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の容量性素子の駆動装置において、
前記増幅回路は、前記容量性素子の容量成分と共振する誘導性素子を含むことを特徴とする容量性素子の駆動装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の容量性素子の駆動装置において、
前記帰還回路は、前記容量性素子に印加された交流信号の交流成分を抽出するカップリングコンデンサを含むことを特徴とする容量性素子の駆動装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の容量性素子の駆動装置において、
前記帰還回路は、時定数を調整する時定数調整回路を含むことを特徴とする容量性素子の駆動装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の容量性素子の駆動装置において、
前記容量性素子は圧電素子であることを特徴とする容量性素子の駆動装置。
【請求項7】
請求項3〜6のいずれか一項に記載の容量性素子の駆動装置において、
前記誘電性素子はインダクタであることを特徴とする容量性素子の駆動装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の容量性素子の駆動装置において、
前記信号発生回路にて生成された交流信号の位相を調整し、第1の位相の交流信号と前記第1の位相と異なる第2の位相の交流信号を生成する移相回路を有し、
前記増幅回路は、前記第1の位相の交流信号と前記第2の位相の交流信号とをそれぞれ増幅して前記容量性素子に印加することを特徴とする容量性素子の駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−268547(P2010−268547A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−116070(P2009−116070)
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】