説明

対物レンズユニット、生体観察装置およびアダプタ

【課題】 拍動等の動的な挙動を示す生体の観察時に、その動的な挙動を抑えて鮮明な画像を得る。
【解決手段】 光学部品25を支持する鏡筒24を備え、該鏡筒24の先端面24aが、最先の光学部品25よりも先端側に配置されているとともに、該鏡筒24の先端面24aに、径方向に貫通する溝状の凹部27が設けられている対物レンズユニット1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、対物レンズユニット、生体観察装置およびアダプタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、生物学の研究においては、光学顕微鏡を用いて蛍光プローブによるイオン濃度、膜電位などの可視化が行われるようになっており、例えば、標本として実験動物の一個体を用い、生きたままその臓器等を観察するいわゆるin-vivo観察が行われるようになっている。in-vivo観察においては、観察対象が拍動、呼吸動などの動きをもつので観察位置のズレや焦点のボケが生じやすい。
このような観察位置のズレや焦点ボケを解消する方法としては、撮像手段を備えた顕微鏡全体を観察対象の動きに合わせて追従させる装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平7−222754号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1の装置では、撮像手段を備え、大きな重量を有する顕微鏡全体を駆動する必要があるので、高速で動作させることができないという問題がある。例えば、心臓を観察する場合には、ラットの心拍数は約350回/分、マウスの心拍数は約620回/分であり、これらの心拍数に特許文献1の装置を追従させることは極めて困難である。
【0004】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、動的な挙動を示す生体、特に、短い周期で動く生体から鮮明な画像を得ることのできる対物レンズユニット、生体観察装置およびアダプタを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、光学部品を支持する鏡筒を備え、該鏡筒の先端面が、最先の光学部品よりも先端側に配置されているとともに、該鏡筒の先端面に、径方向に貫通する溝状の凹部が設けられている対物レンズユニットを提供する。
【0006】
本発明に係る対物レンズユニットを顕微鏡等の観察装置に取り付けて、生体等の試料を生きたままの状態で観察する際に、対物レンズユニットの鏡筒の先端面を生体等の試料に密着させることで、生体等の試料の光軸方向に沿う動きが拘束される。したがって、試料が短い周期で動的な挙動を示しても、これを押さえて、ブレの少ない鮮明な画像を取得することができる。
【0007】
この場合において、本発明によれば、鏡筒の先端面に溝状の凹部が設けられているので、生体等の試料に血管が存在する場合に、該血管を凹部内に収容して血管以外の部分を鏡筒の先端面により押さえることができる。したがって、観察に際して血管を圧迫することが防止され、生体を正常な状態に維持しつつ観察を行うことが可能となる。
【0008】
また、本発明は、上記対物レンズユニットを備える生体観察装置を提供する。
本発明によれば、生体等の試料に血管が存在する場合に、対物レンズユニットの鏡筒の先端面に形成された凹部内に血管を収容し、血管以外の部分を鏡筒の先端面により押さえながら観察することができる。したがって、観察に際して血管を圧迫することが防止され、生体を正常な状態に維持しつつ観察を行うことが可能となる。
【0009】
また、本発明は、対物レンズユニットの光学部品を支持する鏡筒の先端部に取り付けられる筒状のアダプタであって、前記鏡筒の先端面よりも先端側に配置される押圧面を備え、該押圧面に、径方向に貫通する溝状の凹部が備えられているアダプタを提供する。
本発明に係るアダプタを対物レンズユニットの鏡筒の先端部に取り付けることにより、アダプタの押圧面によって生体を押圧すると、押圧面に形成された凹部内に血管が収容され、血管を圧迫することなく生体の動的な挙動を抑制することが可能となる。したがって、試料が短い周期で動的な挙動を示しても、これを押さえて、ブレの少ない鮮明な画像を取得することができる。
【0010】
上記発明においては、前記鏡筒の先端部に着脱可能に取り付けられることが好ましい。
通常の観察時にはアダプタを取り外して観察を行い、生体の血管部分の観察あるいは血管を有する生体の生きたままの観察を行う場合にはアダプタを鏡筒の先端部に取り付けて、血管を圧迫することなく生体の動的な挙動を抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、動的に挙動する生体を観察する際に、生体の血管を圧迫することなく、生体の動的な挙動を抑制することができる。したがって、生体を健全な状態に維持し、また、生体を圧迫しない正常な状態に維持したまま、ブレを抑えて鮮明な画像を得ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態に係る対物レンズユニット1および生体観察装置2について図面を参照して説明する。
本実施形態に係る生体観察装置2は、図1に示されるように、光学ユニット3と観察ヘッド4とこれらを接続する光ファイバ5とを備えている。
【0013】
光学ユニット3は、レーザ光のような励起光L1を出射する励起光源6と、出射された励起光L1を平行光に変換するコリメートレンズ7と、平行光にされた励起光L1を光ファイバ5の端面5aに集光するカップリングレンズ8と、他の光ファイバ5を介して戻ってきた蛍光L2を集光するコリメートレンズ9および集光レンズ10と、集光された蛍光L2を検出する光検出器11とを備えている。光検出器11は、例えば、光電子増倍管(Photomultiplier Tube:PMT)である。
【0014】
観察ヘッド4には、筐体12内に、励起光源6からの励起光L1を略平行光に変換するコリメートレンズ13と、コリメートレンズ13から出射された平行光を2次元的に走査する光走査部14と、走査された励起光L1を集光して中間像を結像する瞳投影レンズ15と、中間像を結像した励起光L1を集光して平行光に変換する結像レンズ16とが備えられている。また、筐体12には、結像レンズ16からの励起光L1を集光して所定の焦点位置に再結像させる対物レンズユニット1が取り付けられている。
【0015】
また、筐体12内には、試料Aにおいて発せられ、対物レンズユニット1、結像レンズ16、瞳投影レンズ15、光走査部14を介して戻る蛍光L2を励起光L1から分離するダイクロイックミラー17と、分離された蛍光L2を光ファイバ5の一端面5aに集光するカップリングレンズ18とが備えられている。
光走査部14は、例えば、互いに直交する軸線回りに揺動可能な2枚のガルバノミラー14a,14bを対向配置してなる、いわゆる近接ガルバノミラーである。
【0016】
前記観察ヘッド4は、ベース19から立ち上がる支柱20に、図示しない駆動装置によって昇降させられる昇降スライダ21を備えている。図中、符号22は試料Aを搭載して、水平方向に移動可能に支持するステージである。
【0017】
前記対物レンズユニット1は、図2に示されるように、筐体12に着脱可能に取り付けられる取付ネジ23を備えた鏡筒24内に、複数の光学部品25を収容して構成されている。本実施形態に係る対物レンズユニット1は、鏡筒24の先端に細径の円筒部26を備え、低侵襲で試料A内に先端面24aを挿入できるようになっている。鏡筒24の先端面24aには、図2および図3に示されるように凹部27が設けられている。
【0018】
鏡筒24の先端面24aは、鏡筒24内に支持されている複数の光学部品25のうち、最先端に配置される光学部品25、例えばカバーガラスよりも先端側に配置されている。前記凹部27は、光学部品25を挟んで両側に位置する鏡筒24の先端面24aをそれぞれ切り欠いて、径方向に貫通する溝状に形成されている。
【0019】
このように構成された本実施形態に係る対物レンズユニット1および生体観察装置2の作用について以下に説明する。
光学ユニット3の励起光源6から発せられた励起光L1は、コリメートレンズ7およびカップリングレンズ8を介して光ファイバ5の一端面5aに集光され、光ファイバ5を介して観察ヘッド4内に伝播される。光ファイバ5内を伝播されてきた励起光L1は、コリメートレンズ13により略平行光に変換された状態で、ダイクロイックミラー17を通過し、光走査部14により2次元的に走査される。
【0020】
光走査部14により走査された励起光L1は、瞳投影レンズ15、結像レンズ16および対物レンズユニット1を介してリレーされ、対物レンズユニット1の先端から出射されて試料Aに照射される。
そして、対物レンズユニット1の鏡筒24の先端面24aが試料Aに密着させられて所定の押圧力を試料Aに付与することにより、試料Aの脈動等による動的な挙動を抑制することが可能となる。
【0021】
したがって、実験小動物等の生体試料Aを生きたままの状態で観察する際に、鏡筒24の先端面24aによって試料Aを押圧した状態で、試料Aに励起光L1を照射し、試料Aから発せられる蛍光L2を検出することにより、生体試料Aの拍動等による観察対象部位の変動を抑えて、ブレの少ない鮮明な画像を取得することができる。
【0022】
この場合において、本実施形態に係る対物レンズユニット1および生体観察装置2によれば、鏡筒24の先端面24aに凹部27が設けられているので、リング状の先端面24aを試料Aに押し当てても、観察対象範囲の周囲が全周にわたって圧迫されてしまうことが防止できる。
すなわち、図4に示されるように、生体試料Aの観察対象が血管Bである場合や観察対象部位の近傍に血管Bがある場合等に、血管Bが対物レンズユニット1による視野範囲内に入るように鏡筒24の先端面24aを試料Aに押し当てると、血管Bが鏡筒24の先端面24aを直径方向に横切るように配置される。
【0023】
この場合に、鏡筒24の先端面24aに形成した2カ所の凹部27に血管Bが一致するように、対物レンズユニット1の光軸回りの角度を調節することにより、鏡筒24の先端面24aによって試料Aを押圧しても、血管Bが凹部27内に収容されることによって圧迫されないようにすることができる。その結果、試料Aを押圧して、拍動等の動的な挙動を抑制しても、正常な血流が妨げられることが防止され、生体試料Aを正常な状態で生きたまま観察することができる。
【0024】
なお、本実施形態に係る対物レンズユニット1および生体観察装置2においては、対物レンズユニット1の鏡筒24の先端面24aに直径方向に1列に並ぶ2カ所の凹部27を設けたものを例示したが、これに代えて、3カ所以上の凹部27が設けられていてもよい。
【0025】
次に、本発明の一実施形態に係るアダプタ30について、図5および図6を参照して以下に説明する。
本実施形態に係るアダプタ30は、対物レンズユニット31の鏡筒32の先端部に着脱可能に取り付けられる筒状の部材であって、鏡筒32の先端部を嵌合させる嵌合孔30aと、鏡筒32の先端部に取り付けられたときに、最先端に配されることとなる先端面30bに形成された、径方向に延びる2つの凹部33とを備えている。
【0026】
また、アダプタ30の嵌合孔30a内には、嵌合された鏡筒32の先端面32aを突き当てる段部34が設けられている。したがって、鏡筒32の先端部をアダプタ30の嵌合孔30a内に嵌合させて、その先端面32aを段部34に突き当てることにより、アダプタ30を鏡筒32の先端部の定位置に取り付けることができるようになっている。
【0027】
このように構成された本実施形態に係るアダプタ30によれば、鏡筒32の先端部の定位置に取り付けて、アダプタ30の先端面30bによって試料Aを押圧することにより、試料Aの脈動等による動的な挙動を抑制することが可能となる。
したがって、実験小動物等の生体試料Aを生きたままの状態で観察する際に、アダプタ30の先端面30bによって試料Aを押圧した状態で、試料Aに励起光L1を照射し、試料Aから発せられる蛍光L2を検出することにより、生体試料Aの拍動等による観察対象部位の変動を抑えて、ブレの少ない鮮明な画像を取得することができる。
【0028】
この場合において、本実施形態に係るアダプタ30によれば、生体試料Aに押し当てられるリング状の先端面30bに凹部33が設けられているので、観察対象範囲の周囲が全周にわたって圧迫されてしまうことが防止できる。すなわち、アダプタ30の先端面30bに形成された凹部33内に血管Bを収容することで、血管Bが圧迫されないようにすることができ、その結果、生体試料Aの正常な血流が妨げられることが防止しつつ、生体試料Aの拍動等の動的な挙動を抑制することができる。
【0029】
また、本実施形態に係るアダプタ30によれば、対物レンズユニット31の鏡筒32の先端部から取り外すことにより、アダプタ30を有しない通常の観察を行うことが可能となる。また、先端面30bと段部34との距離の異なる他のアダプタ30に交換することにより、対物レンズユニット31の焦点位置を調節することが可能となる。
【0030】
なお、本実施形態に係るアダプタ30は、対物レンズユニット31の鏡筒32の先端部に着脱可能に取り付けることとしたが、これに代えて、筐体12に取り付けることにしてもよい。
また、図7に示されるように、対物レンズユニット31の鏡筒32にその長手方向に移動自在に取り付けるとともに、鏡筒32とアダプタ30′との間に配置したコイルスプリング35、あるいは図示しないおもりによってアダプタ30′を押し下げる押圧力Fを付与するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態に係る生体観察装置の全体構成を概略的に示す模式図である。
【図2】図1の生体観察装置に備えられた対物レンズユニットを示す一部を破断した正面図である。
【図3】図2の対物レンズユニットの鏡筒の先端面を示す斜視図である。
【図4】図2の対物レンズユニットの鏡筒の先端面を生体に押し当てた状態を示す斜視図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るアダプタを対物レンズユニットの先端部に取り付けた状態を示す縦断面図である。
【図6】図5のアダプタの先端面を示す斜視図である。
【図7】図5のアダプタの変形例を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 対物レンズユニット
2 生体観察装置
24,32 鏡筒
24a 先端面
25 光学部品
28,33 凹部
30,30′ アダプタ
30b 先端面(押圧面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学部品を支持する鏡筒を備え、
該鏡筒の先端面が、最先の光学部品よりも先端側に配置されているとともに、
該鏡筒の先端面に、径方向に貫通する溝状の凹部が設けられている対物レンズユニット。
【請求項2】
請求項1に記載の対物レンズユニットを備える生体観察装置。
【請求項3】
対物レンズユニットの光学部品を支持する鏡筒の先端部に取り付けられる筒状のアダプタであって、
前記鏡筒の先端面よりも先端側に配置される押圧面を備え、
該押圧面に、径方向に貫通する溝状の凹部が備えられているアダプタ。
【請求項4】
前記鏡筒の先端部に着脱可能に取り付けられる請求項3に記載のアダプタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−276689(P2006−276689A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−98426(P2005−98426)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】