説明

射出成形中に樹脂がキャビティ面から剥離しやすい箇所を予測する方法とそれを利用した射出成形型と射出成形方法

【課題】 キャビティに充填した樹脂がキャビティ面から剥離しやすいか否かを示す評価値を算出して樹脂がキャビティ面から剥離しやすい箇所を予測する技術を提供する。
【解決手段】 キャビティ2aを複数個に分割した微小空間(メッシュ)内に存在する樹脂に生じる流動速度と圧力と温度の計時的変化をコンピュータを利用して数値計算し、キャビティ面に接する微小空間毎に、溶融樹脂の流動が停止した時の圧力と、溶融樹脂の流動が停止した時から樹脂が固化した時までの圧力の積分値を算出し、算出された両者の値からキャビティ面からの剥離しやすさの程度を示す評価値(面張りレベルM(x))を算出し、算出した評価値を剥離しやすさの限界を示す基準値と比較してキャビティ面から剥離しやすい評価値を示している微小空間を特定し、射出成形中に樹脂がキャビティ面から剥離しやすい箇所を予測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形品を射出成形する射出成形技術に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形技術は、射出成形型を閉じることで確保されるキャビティに溶融樹脂を充填する工程と、キャビティに充填した溶融樹脂を冷却して固化する工程と、射出成形型を開けて射出成形型から射出成形品を取り出す工程を備えている。射出成形品はキャビティ形状に成形されて固化している。
樹脂は収縮しながら固化する。キャビティに充填した溶融樹脂がキャビティ内で収縮することに対して対策を施さないと、樹脂が収縮する結果、樹脂がキャビティ面から剥離してしまう。キャビティ面から剥離した状態で樹脂が固化すると、射出成形品の形状はキャビティ形状からずれてしまい、正確な形状に成形することができない。そこで、キャビティに溶融樹脂を充填し終えた後も、キャビティに充填する溶融樹脂に圧力を加え続ける技術が開発されている。通常は保圧工程といわれる。保圧工程を実施すると、キャビティ内で樹脂が収縮することを補償するように樹脂がキャビティに追加充填される。
しかしながら、保圧工程では樹脂が冷却して流動しづらくなっており、樹脂が収縮することを補償するように追加充填するためには、キャビティに追加充填する樹脂に強大な圧力を加える必要がある。このために、射出成形型は強大な圧力に耐えられるように製作する必要があり、射出成形型がひどく大型化しやすい。
【0003】
この問題に対処するために、特許文献1の技術が提案されている。多くの射出成形品には、意図した形状に仕上げる必要がある面(意匠面)と、その裏面であって表面の仕上がりが悪いことが許容される面(非意匠面)がある。特許文献1の技術では、射出成形品の非意匠面を成形するキャビティ面に開口する加圧流体注入用流路を有する射出成形型を用いる。
特許文献1の技術では、キャビティに充填した溶融樹脂がキャビティ内で収縮することによって、樹脂が意匠面を成形するキャビティ面から剥離する前に、非意匠面と非意匠面を成形するキャビティ面の間に加圧流体を注入して樹脂の非意匠面とキャビティ面を剥離させる。射出成形品の非意匠面とキャビティ面の間に加圧流体を注入すると、射出成形品の非意匠面がキャビティ面から剥離し、樹脂の収縮によって生じる「ひけ」を非意匠面側に集中させることができる。射出成形品の意匠面については、意匠面を成形するキャビティ面に密着した状態を維持することができる。特許文献1の技術によると、保圧工程でキャビティに追加充填する樹脂に掛ける圧力を顕著に低減することができる。射出成形型が大型化するのを抑制することができる。なお、特許文献1の技術は、本出願の出願時点ではまだ公開されていないことに留意されたい。
【0004】
【特許文献1】特願2004−373751号の明細書と図面
【0005】
特許文献1の技術では、キャビティに充填した溶融樹脂が収縮しながら固化する際に、樹脂がキャビティ面から剥離しやすい箇所に向けて加圧流体を集中的に注入するのが効果的である。しかしながら、収縮する樹脂がキャビティ面から剥離しやすい箇所を特定するのはなかなか困難であり、実行してみると、非意匠面側から加圧流体を注入しない箇所で、樹脂が意匠面を成形するキャビティ面から剥離してしまうことが起こる。
これを避けるためには、非意匠面の様々な箇所に向けて加圧流体を注入すればよいが、そうすると、射出成形型に加圧流体注入用流路を何本も形成しなければならず、射出成形型が複雑なものとなってしまう。収縮する樹脂がキャビティ面から剥離しやすい箇所を予測する技術が必要とされている。
【0006】
上記は、収縮する樹脂がキャビティ面から剥離しやすい箇所を予測する必要があることを示す一つの例示であり、収縮する樹脂がキャビティ面から剥離しやすい箇所を予測する必要はそれに限られない。樹脂がキャビティ面から剥離しやすい箇所を特定できれば、ゲートの位置を修正したり、板厚を修正したり、射出成形型の温度を修正したりして、剥離しやすい箇所で樹脂が剥離しないように改善することが可能となる。
【0007】
射出成形中の樹脂の挙動を数値計算するプログラムが市販されている。このプログラムでは、キャビティを複数個の微小空間毎に分割し、微小空間毎に、キャビティに溶融樹脂を充填し始めてから、キャビティに追加充填する溶融樹脂に圧力を加え続けながらキャビティに充填した溶融樹脂が冷却して成形されるまでの間に、各微小空間内に存在する樹脂に生じる流動速度と圧力と温度の計時的変化を、数値計算して求める。
この数値計算プログラムを利用することによって、射出成形中に生じる樹脂の挙動をシミュレーションすることができ、良好に射出成形するための射出成形条件の算出過程等が大幅に簡単化された。
【0008】
しかしながら、この数値計算手法でも、収縮する樹脂がキャビティ面から剥離するか否かを計算することは難しい。樹脂がキャビティ面から剥離するか否かは、樹脂が収縮することによってキャビティ面から剥がれようとする力と、樹脂にかかっている圧力によって樹脂をキャビティ面に密着させておく力と、樹脂とキャビティ面の密着力等が複雑に絡み合って決まる。力の微妙なバランスに拠って、樹脂がキャビティ面から剥離するか否かがきめられる。数値計算手法を用いても、収縮する樹脂がキャビティ面から剥離する箇所を予測することは難しい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の問題点を解決するために創案された。
本発明では、キャビティに充填した樹脂がキャビティ面から剥離しやすいか否かを示す評価値を算出する方法を提供する。本発明では、その評価値を利用して樹脂がキャビティ面から剥離しやすい箇所を予測する方法を提供する。本発明では、樹脂が意匠面を成形するキャビティ面から剥離しやすい箇所の裏面に向けて選択的に加圧流体を注入することによって、樹脂が意匠面を成形するキャビティ面から剥離しない状態で射出成形する方法を提供する。あるいは、そのために用いる射出成形型を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(請求項1に記載の発明)
この方法は、射出成形型のキャビティに充填した樹脂が射出成形中にキャビティ面から剥離しやすい箇所を予測するための方法である。この方法は、従来から既知の数値計算工程を備えている。この数値計算工程では、キャビティを複数個に分割した微小空間毎に、キャビティに溶融樹脂を充填し始めてから、キャビティに追加充填する溶融樹脂に圧力を加え続けながらキャビティに充填した溶融樹脂が冷却して成形されるまでの間に、各微小空間内に存在する樹脂に生じる流動速度と圧力と温度の計時的変化をコンピュータを利用して数値計算する。
この方法は、その数値計算結果に基づいて、キャビティ面に接する微小空間毎に、溶融樹脂の流動が停止した時の圧力と溶融樹脂の流動が停止した時から樹脂が固化した時までの圧力の積分値を算出する工程と、前記工程で算出された流動停止時圧力と圧力積分値の両者から剥離しやすさの程度を示す評価値を算出する工程と、キャビティ面に接する微小空間毎に算出された評価値を剥離しやすさの限界を示す基準値と比較し、その基準値を超えて剥離しやすい評価値を示している微小空間を特定する工程を備えている。
【0011】
本発明者らの研究によって、射出成形中に樹脂がキャビティ面から剥離するか否かには溶融樹脂の流動が停止した時に溶融樹脂に作用していた圧力が大きな影響を与えることがわかってきた。また、流動が停止した時から樹脂が固化した時までに溶融樹脂に作用した圧力の積分値が大きな影響を与えることがわかってきた。両者ともに大きい箇所では、樹脂がキャビティ面から剥離する可能性は低いのに対し、両者ともに小さい箇所では、樹脂がキャビティ面から剥離する可能性が高いことがわかってきた。
本発明の評価方法を用いれば、樹脂がキャビティ面から剥離いやすい箇所を容易に特定することができる。すなわち、「ひけ」が発生し易い箇所を、容易に特定することができる。本発明の評価方法によれば、射出成形型を実際に製造する前に、「ひけ」が発生するか否かを予測することができ、「ひけ」は発生する場合には、「ひけ」の発生を防止する対策を事前に講じることができる。あるいは、特許文献1の技術に対しては、加圧流体を注入することが有効な範囲が事前に判明する。良好な射出成形型を製作するまでの過程が大幅に簡単化される。
【0012】
(請求項2に記載の発明)
評価値算出工程では、評価値Mを、次式によって算出することが好ましい。
M=A*P+B*AP+C
上記において、A,B,Cは、予め実験結果によって決定されている定数であり、A>0であり、B>0であり、Pは、流動停止時圧力であり、APは、圧力積分値である。
【0013】
上記式で算出される評価値Mは、樹脂が射出成形中にキャビティ面から剥離しやすい程度によく相関していることが確認されている。Mが大きい箇所では、樹脂がキャビティ面から剥離する可能性が低いのに対し、Mが小さい箇所では、樹脂がキャビティ面から剥離する可能性が高いことが確認されている。
【0014】
(請求項3に記載の発明)
本発明によると、特許文献1に記載されている射出成形技術に適した射出成形型を簡単に製作することができる。
本発明によって得られる射出成形型は、射出成形品の意匠面を成形するキャビティ面と、射出成形品の非意匠面を成形するキャビティ面と、その非意匠面を成形するキャビティ面に開口している加圧流体注入用流路を備えている。本発明によって得られる射出成形型は、その開口の位置が下記のプロセスによって決定されている。
そのプロセスは、射出成形型のキャビティを複数個に分割した微小空間毎に、キャビティに溶融樹脂を充填し始めてから、キャビティに追加充填する溶融樹脂に圧力を加え続けながらキャビティに充填した溶融樹脂が冷却して成形されるまでの間に、各微小空間内に存在する樹脂に生じる流動速度と圧力と温度の計時的変化をコンピュータを利用して数値計算する工程と、意匠面を成形するキャビティ面に接する微小空間毎に、溶融樹脂の流動が停止した時の圧力と、溶融樹脂の流動が停止した時から樹脂が固化した時までの圧力の積分値を算出する工程と、前記工程で算出された流動停止時圧力と圧力積分値の両者から剥離しやすさの程度を示す評価値を算出する工程と、意匠面を成形するキャビティ面に接する微小空間毎に算出された評価値を剥離しやすさの限界を示す基準値と比較し、その基準値を超えて剥離しやすい評価値を示している微小空間微小空間を特定する工程と、非意匠面を成形するキャビティ面のうち、特定された微小空間が存在する範囲内に加圧流体注入用流路の開口を設定する工程を備えている。
こうして得られる射出成形型は、意匠面を成形するキャビティ面から樹脂が剥離しやすい範囲に加圧流体注入用流路が開口しており、特許文献1に記載されている射出成形方法に適している。意匠面を成形するキャビティ面から樹脂が剥離するよりも前に、その裏面側をキャビティ面から剥離することができ、成形品の意匠面の形状が意図したものからズレることを効果的に抑制する。
【0015】
(請求項4に記載の発明)
本発明によると、特許文献1に記載されている射出成形方法を確実に実施することができる。本発明の方法は、意匠面と非意匠面を有する成形品を射出成形する方法であり、実際に射出成形するに先立って、下記の分析段階を実施する。分析段階では、射出成形型のキャビティを複数個に分割した微小空間毎に、キャビティに溶融樹脂を充填し始めてから、キャビティに追加充填する溶融樹脂に圧力を加え続けながらキャビティに充填した溶融樹脂が冷却して成形されるまでの間に、各微小空間内に存在する樹脂に生じる流動速度と圧力と温度の計時的変化をコンピュータを利用して数値計算する工程と、意匠面を成形するキャビティ面に接する微小空間毎に、溶融樹脂の流動が停止した時の圧力と、溶融樹脂の流動が停止した時から樹脂が固化した時までの圧力の積分値を算出する工程と、その工程で算出された流動停止時圧力と圧力積分値の両者から剥離しやすさの程度を示す評価値を算出する工程と、意匠面を成形するキャビティ面に接する微小空間毎に算出された評価値を剥離しやすさの限界を示す基準値と比較し、その基準値を超えて剥離しやすい評価値を示している微小空間を特定する工程を実施する。
実際の射出成形時には、溶融樹脂の充填工程に続けて、特定した微小空間が存在する範囲に向いあう非意匠面に向けて加圧流体を注入する工程を実施する。
本発明の射出成形方法によると、意匠面を成形するキャビティ面から樹脂が剥離するよりも前に、その裏面側をキャビティ面から剥離することができ、成形品の意匠面の形状が意図したものからズレることを効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、キャビティに充填した樹脂に「ひけ」が発生し易い箇所を予測することが可能となる。「ひけ」が発生し易い箇所の裏面に加圧流体を導入して意匠面に「ひけ」が発生することを防止する技術を採用する場合には、加圧流体を導入するための開口位置を決定するまでの過程が簡単化される。また、「ひけ」が発生しない射出成形条件を選定するまでの過程が簡単化される。いずれにしても、射出成形品を意図した形状に仕上げるまでの過程が簡単化される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に説明する実施例の主要な特徴を列記しておく。
(第1形態) 射出成形型のキャビティに充填した樹脂が射出成形中にキャビティ面から剥離しやすいか剥離しづらいかを示すレベルを面張りレベルという。面張りレベルが高ければ、樹脂がキャビティ面から剥離しづらい。計算された面張りレベルが低い箇所が意匠面で検出された場合には、意匠面では低い面張りレベルが計算されなくなるまで、キャビティの形状を変更する。
(第2形態) 面張りレベルが低い箇所が計算された場合には、保圧工程における圧力を高める。
【実施例】
【0018】
本発明の射出成形技術に係る一実施例を図面を参照しながら説明する。本実施例では、自動車のバンパーを射出成形する。
図1は、本実施例で射出成形された射出成形品10の斜視図を示す。図2は、射出成形品10を成形する射出成形型2の断面図と、加圧エアー注入装置50のブロック構成図を示す。図3は、本実施例の射出成形方法の工程図を示す。図4は、射出成形過程をシミュレーションする数値計算(CAE)プログラムが実行する処理のフローチャートを示す。図5には、成形型2のキャビティに樹脂を充填し始めてから、キャビティに追加充填する溶融樹脂に圧力を加え続けながらキャビティに充填した溶融樹脂が冷却して成形されるまでの間に、樹脂に生じると圧力と温度の経時的変化の一例を示す。これは、CAEプログラムで計算された結果を示している。図6、図7には、図5とは相違する微小空間(メッシュ)における樹脂の圧力と時間の経時的変化を示す。
【0019】
射出成形品10は、図1に示すように、意匠面(表面)11と、非意匠面(裏面)12を持っている。意匠面11は、意図した表面形状に仕上げる必要がある面である。非意匠面12は、表面形状が重視されない面である。なお、図1に示す薄墨部10a,10bは、後述するように、樹脂の面張りレベルM(x)が低い箇所である。樹脂の面張りレベルM(x)は、キャビティに充填した樹脂が射出成形中にキャビティ面から剥離しやすい程度を示す評価値であり、評価値が高いほど剥離しづらく、評価値が低いほど剥離しやすい。
【0020】
射出成形装置は、図2に示す射出成形型2と、加圧エアー注入装置50と、射出成形の各工程を制御する制御装置(特に図示していない。)と、後述するCAEシステムを備えている。CAEシステムは、キャビティに樹脂を充填し始めてから、保圧工程と冷却工程を経て射出成形品が形成されるまでの間の樹脂の挙動をシミュレーションし、樹脂に生じる圧力と温度の計時的変化を数値計算するコンピュータシステムであり、市販されているプログラムを利用している。図2は、図1に示した射出成形品10のII−II線に対応する位置での射出成形型2の断面図を示している。
射出成形型2は、第1型20と第2型30を有している。図2では、第1型20と第2型30が組み合わされることによって、成形型2が閉じた状態を示している。成形型2が閉じた状態では、第1型20の第1キャビティ面21と、第2型30の第2キャビティ面31によって、キャビティ2aが形成される。成形型2を開くときには、第1型20と第2型30を分離する。キャビティ2aの形状は、射出成形品10(図1参照)の形状に対応している。すなわち、第1型20の第1キャビティ面21は、射出成形品10の意匠面11を成形する。第2型30の第2キャビティ面31は、射出成形品10の非意匠面12と端面を成形する。
成形型2の第1型20と第2型30は、それぞれ型の支持部材(図示省略)に取り付けられている。第2型30の支持部材は、射出成形装置の制御装置により、第1型20に対して接近する方向あるいは離間する方向にスライド移動可能に構成されている。これにより、成形型2が開閉される。
【0021】
第1型20には、成形型2の外部と第1キャビティ面21を連通するゲート22が設けられている。ゲート22には、成形型2の外部に配置された射出ノズル(図示省略)から溶融樹脂が射出される。
第2型30には、流路32と流路33が形成されている。流路32は、その一端が第2キャビティ面31に開口するとともに、他端が外部に開口している。流路33も流路32と同様に、その一端が第2キャビティ面31に開口するとともに、他端が外部に開口している。流路32の第2キャビティ面31における開口部には、ベント部材32aが挿入されている。流路33の第2キャビティ面31における開口部にも、ベント部材33aが挿入されている。ベント部材32a、33aは、キャビティ2aに溶融樹脂が充填された際に、溶融樹脂が流路32,33に入り込まないように構成されている。なお、流路32,33の配設位置は、予めCAEシステムを利用して決定している。その詳細については後述する。
【0022】
図2に示すように、流路32,33には、加圧エアー注入装置50が接続されている。加圧エアー注入装置50には、フィルタ51、レギュレータ52、バルブ53が設けられている。フィルタ51、レギュレータ52、バルブ53は、流体配管54の一端54aの側から、フィルタ51、レギュレータ52、バルブ53の順に流体配管54に介装されている。バルブ53の出口側に接続された流体配管54は二又に分岐されている。そして、一方が流路32に接続され、他方が流路33に接続される。
なお、流体配管54の一端54aには、高圧な工場エアーが供給されている。
加圧エアー注入装置50のバルブ53が開かれると、フィルタ51により異物が除去され、レギュレータ52により圧力が所定値(例えば、0.5MPa)に調圧された加圧エアーが流路32,33に供給される。
【0023】
このように構成された射出成形装置を用いて射出成形品10を成形する各工程を、図3を参照して簡単に説明する。各工程は、射出成形装置の制御装置によって制御され、実行される。
射出成形品10を成形するときには、まず成形型2を閉じる工程を実行する。この型閉じ工程を開始する時刻を時刻s0とする。射出成形装置の制御装置は、第2型30(併せて、図2参照)が取り付けられている支持部材を第1型20方向に移動し、第2型30と第1型20を組み合わせ、成形型2を閉じる。これによって、キャビティ2aが形成される。
【0024】
図3に示す時刻s1で型閉じ工程が終了すると、続いて溶融樹脂の充填工程が実行される。充填工程では、射出ノズルから射出された溶融樹脂がゲート22(併せて図2参照)を通過してキャビティ2aに充填されてゆく。そして、溶融樹脂が流路32,33に設けられているベント部材32a,33aを通過した直後のタイミング(図3に示す時刻s2)で、加圧エアー注入装置50のバルブ53が開かれる。これにより、流路32,33に加圧エアーが供給される。流路32,33に供給された加圧エアーは、キャビティ2aに注入される。流路32,33は第2キャビティ面31側に設けられているので、キャビティ2aに充填された樹脂は第2キャビティ面31から剥離し、第1キャビティ面21に密着する。特に、流路32,33の第2キャビティ面31に開口している付近では、樹脂が第1キャビティ面21に密着する効果が高い。この際、キャビティ2aに充填された樹脂は、温度が低下して収縮しはじめている。
【0025】
図3に示す時刻s3で、充填工程が終了したら、保圧工程及び冷却工程が開始される。保圧工程では、ゲート22(併せて図2参照)からキャビティ2aに加えられる圧力がほぼ一定に維持され、キャビティ2aで収縮した分の溶融樹脂が補充(追加充填)される。冷却工程では、第1型20と第2型30を通過している冷却配管(図示省略)を通過している冷却水によって、溶融樹脂が冷却されて固化する。そして、射出成形装置の制御手段は、図3に示す時刻s4で保圧工程を終了する。また、時刻s5で、冷却工程を終了するとともに、加圧エアー注入装置50のバルブ53を閉じて空気注入工程を終了する。次に、時刻s5で、型開き工程に移行することによって、成形型2が開かれる。時刻s6で、製品取出工程を実行して射出成形品10を射出成形型2から取り出す。
【0026】
次に、射出成形型2の第2型30の流路32,33の配設位置について、図4〜図7を参照して詳細に説明する。
成形型2のキャビティ2aの形状はCADを用いて設計されており、形状を記述するデータが既知である。そのデータを利用して、実際に成形型2を製造する前に、CAEシステムを用いて、キャビティ2aに充填する樹脂の挙動をシミュレーションすることができる。成形型2のゲート22から注入される溶融樹脂は、キャビティ2a内を流動しながらキャビティ2aを充填してゆく。この際、キャビティ2a内の場所によって、溶融樹脂の流動と固化の状況が相違する。そこで、CAEシステムでは、キャビティ2a内の空間を格子状に多数の微小空間(メッシュ)に分割する。メッシュ内では、樹脂の流動速度と圧力と温度が一定であるとできる程度に細かなメッシュに分割する。CAEプログラムを利用すると、メッシュ毎に、キャビティに溶融樹脂を充填し始めてから、保圧工程と冷却工程を経て、溶融樹脂が固化して射出成形品に成形されるまでの間に、各メッシュ内に存在する樹脂に生じる流動速度と圧力と温度の計時的変化を数値計算することができる。CAEシステムによって実行される数値計算の手法は、既知の手法であり、詳細な説明は省略する。
【0027】
CAEシステムは、CPU等の制御手段、RAM,ROM等の記憶手段、液晶表示器等の表示手段、キーボード等の入力手段を備えている。
本実施例のCAEシステムに、成形型2のキャビティ2aの形状が入力されると、CAEシステムは、図4のフローチャートに示す処理を実行する。このプログラムは、CAEシステムの記憶手段に記憶されており、制御手段により適宜読み出されて実行される。
ステップA10で、CAEシステムに、メッシュデータや、成形条件(溶融樹脂の射出速度、成形型2や樹脂の温度等)や、材料データ(樹脂固有のpvt特性、樹脂固有の粘度特性等)が入力される。メッシュデータには、キャビティ2aを細かな多数の微小空間(メッシュ)に分割するためのデータが入力される。ステップA10で必要なデータが入力されると、CAEプログラムは、ステップA11で、メッシュ毎に、各メッシュ内に存在する樹脂に生じる流動速度と圧力と温度を数値計算する。CAEプログラムは、キャビティに溶融樹脂を充填し始めてから、保圧工程と冷却工程を経て、溶融樹脂が固化して射出成形品に成形されるまでの間、各微小空間内に存在する樹脂に生じる流動速度と圧力と温度を数値計算する。これによって、各微小空間毎に、流動速度と圧力と温度の経時的変化を示すデータが計算される。
【0028】
各メッシュにおける樹脂の流動速度と圧力と温度は、射出成形工程の進行に伴って変化する。図5の上段には、キャビティ2a内の所定のメッシュ(x1番目のメッシュ)の樹脂の圧力P(Pa)の時間s(min)に対する変化の様子を示す。また、図5の下段には、当該メッシュの樹脂の温度T(℃)と時間s(min)に対する変化の様子を示す。これらの経時的変化は、メッシュによって相違し、例えば、ゲート22(併せて図2参照)直下に位置するメッシュでは、充填工程終了時の圧力P(Pa)は、図5に示すメッシュよりも高くなる。なお、図5は、温度T1(℃)で流動が停止する樹脂を用い、温度T2(℃)で固化する樹脂を利用している場合を示している。
当該メッシュの樹脂の圧力P(Pa)は、時刻s3で充填工程が終了し、保圧・冷却工程に進行して少し時間が経過した時にピーク値を向かえる。そして、工程が進行するにつれて樹脂は収縮しながら固化し、圧力P(Pa)はピーク値から低下し続ける。そして、時刻sYで樹脂の温度がT1(℃)となって樹脂の流動が停止する。樹脂の流動が停止する時の樹脂の圧力はp1(Pa)となっている。そして、時刻s5で樹脂の温度がT2(℃)となって樹脂が固化する。樹脂が固化する時の樹脂の圧力はp2(Pa)となっている。
【0029】
CAEプログラムが、各メッシュ毎に、図5に例示したような、樹脂の流動速度と圧力と温度の経時的変化を計算すると、CAEシステムの制御手段は、図4のステップA12に処理を進める。
ステップA12で、CAEシステムの制御手段は、メッシュの順番を示す変数xに1を代入してステップA14に進む。なお、変数xに対応する樹脂の位置は、CAEシステムの記憶手段に記憶されている。
ステップA14では、ステップA12で指定されたメッシュの面張りレベルM(x)を式1:M(x)=A*P+B*AP+Cに従って算出する。式1において、A,B,Cは、予め実験結果によって決定されている定数であり、A>0であり、B>0である。
Pは、ステップA12で指定されたメッシュに存在する樹脂が流動を停止した時の圧力であり、図5に例示した場合には、p1(Pa)である。
APは、ステップA12で指定されたメッシュに存在する溶融樹脂の流動が停止した時から樹脂が固化した時までの圧力の積分値である。図5に例示した場合には、時刻sYで樹脂の流動が停止しており、時刻s5で樹脂が固化している。従って図5のハッチに示す面積が、溶融樹脂の流動が停止した時から樹脂が固化した時までの圧力の積分値である。
【0030】
ここで、上記した式1について説明する。樹脂の流動が停止したメッシュでは、そのメッシュに周囲から樹脂が供給されなくなる。発明者らは、この時点で当該メッシュにかかっていた圧力が、当該メッシュの面張りレベルに重要な影響を与えることを見出した。また、当該メッシュについての樹脂の流動停止時から固化時までの圧力の積分値が、樹脂が固化するまでに受けた密度向上度合いに重要な影響を与えることを見出した。そして、密度向上度合いが面張りレベルを向上させることも確認した。
以上のことから、樹脂の流動が停止した時の圧力と、樹脂の流動停止時から固化時までの圧力の積分値が、面張りレベルに大きく影響することが確認された。
そこで、M(x)を目的変数とする回帰式を、上記した式1のように、樹脂の流動停止時の圧力と、樹脂の流動停止時から固化時までの圧力の積分値を説明変数として表す。そして、定数A,B,Cについては、実験データに基づいて予め決定しておく。
【0031】
図4のステップA14では、定数A,B,Cが予め求められている式1に、ステップA12で指定されたメッシュに存在する溶融樹脂の流動が停止した時の圧力(図5のp1)と、ステップA12で指定されたメッシュに存在する溶融樹脂の流動が停止した時から樹脂が固化した時までの圧力の積分値(図5のハッチに示す面積)を代入し、ステップA12で指定されたメッシュの面張りレベルM(x)を算出する。
【0032】
図4のステップA16では、CAEシステムの制御手段が、算出した面張りレベルM(x)が、樹脂のキャビティ面からの剥離しやすさの限界を示す基準値未満であるか否かを判別する。算出したM(x)が基準値未満である場合には(ステップA16のYes)、ステップA18に進む。算出したM(x)が基準値以上である場合には(ステップA16のNo)、ステップA20に進む。
ステップA18では、制御手段は、算出したM(x)の値を変数xの位置に対応させて記憶手段(特に図示していない。)に記憶する。そして、ステップA20に進む。
ステップA20で、制御手段は、変数xに1を加算しステップA22に進む。
ステップA22で、制御手段は、ステップA20で1を加算したxがメッシュの総数nを超えているか否かを判別する。メッシュの総数nを超えている場合(ステップA22のYes)には、終了する。メッシュの総数をnを超えていない場合(ステップA22のNo)には、ステップA14に戻る。
【0033】
これにより、CAEシステムの記憶手段には、面張りレベルM(x)が基準値に達しないメッシュの変数x(メッシュの順番)と、当該メッシュの面張りレベルM(x)が順次記憶される。図6、図7は、図5に計時的変化を示したメッシュとは相違するメッシュの、圧力P(Pa)と時間s(min)の計時的変化例を示す。図6のメッシュでは、「樹脂の流動停止時の圧力」は、図5のメッシュと同じp1(Pa)であるが、「樹脂の流動停止時から固化時までの圧力の積分値」は、図5のメッシュよりも小さい。また、図7のメッシュでは、「樹脂の流動停止時から固化時までの圧力の積分値」は、図5のメッシュと同じであるが、「樹脂の流動停止時の圧力」は、図5のメッシュよりも小さい。したがって、図6に示したメッシュ及び図7に示したメッシュともに、図5に示したメッシュよりも面張りレベルM(x)は小さくなる。
【0034】
図4に示すステップA18で、CAEシステムの記憶手段に記憶されされたメッシュは面張りレベルM(x)が小さく、キャビティ面に当接する表面に「ひけ」が発生し易い。前述したように、各メッシュの変数xに対応する射出成形品10の位置は、予めCAEシステムの記憶手段に記憶されている。したがって、CAEシステムの制御手段は、該当するメッシュの面張りレベルM(x)と、該当するメッシュの変数xに対応する射出成形品10の位置を記憶手段から読み出す。そして、図1に示すように、表示手段に、該当するメッシュに対応する箇所が判別可能な状態で(色分け等により)射出成形品10を表示することができる。ここでは、3次元的に配置されているメッシュ群のうち、意匠面を成形するキャビティ面に接するメッシュについてのみ、面張りレベルM(x)が基準値に満たないメッシュを検索し、検索されたメッシュに接するキャビティ面に薄墨部10a,10bが施されている。
【0035】
図1に示す薄墨部10a,10bは、射出成形品10の意匠面11に存在する。前述したように、射出成形品10の意匠面11は意図した形状に仕上げる必要がある面である。したがって、何らかの対策を講じる必要がある。
本実施例では、これらの箇所の裏面12に、空気注入工程(併せて、図3参照)で加圧エアーが注入されるように、流路32,33(併せて、図2参照)を配設する。これにより面張りレベルが小さく、意匠面11に「ひけ」が発生し易い箇所の樹脂の裏面12に効果的に加圧エアーを注入することができる。これにより、当該箇所の樹脂を第2キャビティ面31から剥離し、樹脂の収縮による「ひけ」を裏面側に集中させることができる。それとともに、当該箇所の意匠面(表面)11を第1キャビティ面21に密着した状態を維持することができる。意匠面11が第1キャビティ面21に密着した状態を維持すると、当該箇所の意匠面11を意図した形状に仕上げることができる。したがって、射出成形品10を容易に意図した形状に仕上げることができる。
【0036】
本実施例では、加圧流体を注入する工程で、加圧流体として加圧エアーを注入する場合について説明したが、加圧流体は、空気以外の気体や液体等でもよい。
本実施例では、樹脂の面張りレベルM(x)を評価して、M(x)が基準値に達していないメッシュを検出し、当該メッシュが意匠面11側にあれば、意匠面11に「ひけ」が発生することを防止している。具体的には、本実施例では、「ひけ」が発生し易い箇所の裏面12に加圧エアーを注入する流路32,33を第2型30に配設して対策している。しかしながら、別の対策を講じるようにしてもよい。例えば、意匠面11に「ひけ」が発生し易い箇所に、より樹脂が供給され易いように、キャビティ2aの形状を変更して成形型を製造するようにしてもよい。また、保圧工程を長く設定するようにしてもよい。あるいは、保圧工程で掛ける圧力を増大することも可能である。
【0037】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本実施例で射出成形された射出成形品10の斜視図を示す。
【図2】射出成形品10を成形する射出成形型2の断面図と、加圧エアー注入装置50のブロック構成図を示す。
【図3】本実施例の射出成形方法の工程図を示す。
【図4】射出成形の過程をシミュレーションする数値計算(CAE)プログラムが実行する処理のフローチャートを示す。
【図5】キャビティ2aに樹脂を充填し始めてから、キャビティ2aに追加充填する溶融樹脂に圧力を加え続けながらキャビティに充填した溶融樹脂が冷却して成形されるまでの間に、樹脂に生じる圧力と温度の経時的変化の一例を示す。
【図6】図5のメッシュ(微小空間)とは相違するメッシュにおける、樹脂の圧力の経時的変化を示す。
【図7】図5のメッシュ(微小空間)とは相違するメッシュにおける、樹脂の圧力の経時的変化を示す。
【符号の説明】
【0039】
2 成形型
2a キャビティ
10 射出成形品
11 意匠面
12 非意匠面
20 第1型
21 第1キャビティ面
22 ゲート
30 第2型
31 第2キャビティ面
32,33 流路
32a,33a ベント部材
50 加圧エアー注入装置
51 フィルタ
52 レギュレータ
53 バルブ
54 流体配管
54a 流体配管の一端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形型のキャビティに充填した樹脂が射出成形中にキャビティ面から剥離しやすい箇所を予測する方法であり、
前記キャビティを複数個に分割した微小空間毎に、前記キャビティに溶融樹脂を充填し始めてから、前記キャビティに追加充填する溶融樹脂に圧力を加え続けながら前記キャビティに充填した溶融樹脂が冷却して成形されるまでの間に、各微小空間内に存在する樹脂に生じる流動速度と圧力と温度の計時的変化を、コンピュータを利用して数値計算する工程と、
キャビティ面に接する微小空間毎に、溶融樹脂の流動が停止した時の圧力と、溶融樹脂の流動が停止した時から樹脂が固化した時までの圧力の積分値を算出する工程と、
前記工程で算出された流動停止時圧力と圧力積分値の両者から、剥離しやすさの程度を示す評価値を算出する工程と、
前記キャビティ面に接する微小空間毎に算出された評価値を、剥離しやすさの限界を示す基準値と比較し、その基準値を超えて剥離しやすい評価値を示している微小空間を特定する工程、
を備えていることを特徴とする、射出成形中に樹脂がキャビティ面から剥離しやすい箇所を予測する方法。
【請求項2】
前記評価値算出工程では、評価値Mを、次式:
M=A*P+B*AP+Cに従って算出することを特徴とし、その式において、
A,B,Cは、予め実験結果によって決定されている定数であり、
A>0であり、
B>0であり、
Pは、流動停止時圧力であり、
APは、圧力積分値であることを特徴とする請求項1の予測方法。
【請求項3】
射出成形品の意匠面を成形するキャビティ面と、射出成形品の非意匠面を成形するキャビティ面と、その非意匠面を成形するキャビティ面に開口している加圧流体注入用流路を備えている射出成形型であり、
その開口の位置が下記のプロセス、すなわち、
前記射出成形型のキャビティを複数個に分割した微小空間毎に、前記キャビティに溶融樹脂を充填し始めてから、前記キャビティに追加充填する溶融樹脂に圧力を加え続けながら前記キャビティに充填した溶融樹脂が冷却して成形されるまでの間に、各微小空間内に存在する樹脂に生じる流動速度と圧力と温度の計時的変化を、コンピュータを利用して数値計算する工程と、
意匠面を成形するキャビティ面に接する微小空間毎に、溶融樹脂の流動が停止した時の圧力と、溶融樹脂の流動が停止した時から樹脂が固化した時までの圧力の積分値を算出する工程と、
前記工程で算出された流動停止時圧力と圧力積分値の両者から、剥離しやすさの程度を示す評価値を算出する工程と、
意匠面を成形するキャビティ面に接する微小空間毎に算出された評価値を、剥離しやすさの限界を示す基準値と比較し、その基準値を超えて剥離しやすい評価値を示している微小空間を特定する工程、
非意匠面を成形するキャビティ面のうち、特定された微小空間が存在する範囲内に、加圧流体注入用流路の開口を設定する工程を経て決定されていることを特徴とする射出成形型。
【請求項4】
意匠面と非意匠面を有する射出成形品を射出成形する方法であり、
実際に射出成形するに先立って、下記の分析、すなわち、
射出成形型のキャビティを複数個に分割した微小空間毎に、前記キャビティに溶融樹脂を充填し始めてから、前記キャビティに追加充填する溶融樹脂に圧力を加え続けながら前記キャビティに充填した溶融樹脂が冷却して成形されるまでの間に、各微小空間内に存在する樹脂に生じる流動速度と圧力と温度の計時的変化を、コンピュータを利用して数値計算する工程と、
意匠面を成形するキャビティ面に接する微小空間毎に、溶融樹脂の流動が停止した時の圧力と、溶融樹脂の流動が停止した時から樹脂が固化した時までの圧力の積分値を算出する工程と、
前記工程で算出された流動停止時圧力と圧力積分値の両者から、剥離しやすさの程度を示す評価値を算出する工程と、
意匠面を成形するキャビティ面に接する微小空間毎に算出された評価値を剥離しやすさの限界を示す基準値と比較し、その基準値を超えて剥離しやすい評価値を示している微小空間を特定する工程を実施しておき、
実際の射出成形時には、溶融樹脂の充填工程に続けて、特定された微小空間が存在する範囲に向いあう非意匠面に向けて加圧流体を注入する工程を実施することを特徴とする射出成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−105938(P2007−105938A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−297445(P2005−297445)
【出願日】平成17年10月12日(2005.10.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(300087396)株式会社ビーピーエイ (10)
【Fターム(参考)】