説明

射出成形方法と射出成形装置

【課題】 樹脂成形品の意匠面(表面)を意図した形状に仕上げるとともに、樹脂成形品の成形サイクルの短縮化を図ることができる射出成形技術を提供する。
【解決手段】 成形品の意匠面を成形する型と成形品の裏面を成形する型を閉じることによって確保されているキャビティ内に溶融樹脂を充填する充填工程と、裏面を成形する型とキャビティ内に充填した溶融樹脂との間に、冷却した加圧流体を注入する注入工程と、型を開けて型から成形品を取りだす工程を備え、充填工程の開始タイミング以降で型を開けるタイミング以前の期間内に注入工程を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形品を成形するための射出成形技術に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形方法は、型を閉じることによって確保されているキャビティ内に溶融樹脂を充填する充填工程と、キャビティ内に充填した溶融樹脂が冷却されて凝固した後に型を開けて型から成形品を取りだす工程を備えている。
多くの溶融樹脂は凝固する際に収縮する。キャビティに充填した溶融樹脂が収縮して凝固すると、樹脂成形品がキャビティ面から剥がれてしまう。樹脂成形品がキャビティ面から剥がれてしまうと、樹脂成形品を意図した形状に仕上げることができない。
ところで、多くの樹脂成形品には、意図した形状に仕上げる必要がある面(意匠面又は表面)と、その裏側であって仕上がりが悪いことが許容される面(裏面)がある。特許文献1には、射出成形型のキャビティに溶融樹脂を充填した後に、樹脂成形品の裏面を成形するキャビティ面に開口する流路から、樹脂成形品の裏面に加圧流体を注入する技術が開示されている。樹脂成形品の裏面に加圧流体を注入すると、樹脂成形品の裏面がキャビティ面から剥離するとともに、樹脂成形品の意匠面(表面)はキャビティ面に密着した状態を維持する。樹脂成形品の意匠面がキャビティ面に密着した状態を維持すると、樹脂成形品の意匠面を意図した形状に仕上げることができる。
【0003】
【特許文献1】特開平10−58493号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
キャビティに充填された溶融樹脂は、充填工程後に実施する冷却工程で冷却されて凝固する。溶融樹脂は200℃以上等の高温であるため、冷却工程には相応の時間を要する。これにより樹脂成形品の成形サイクルの短縮化が制限されていた。
本発明は、上記の問題点を解決するために創案された。本発明では、樹脂成形品の意匠面(表面)を意図した形状に仕上げるとともに、樹脂成形品の成形サイクルの短縮化を図ることができる射出成形技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(請求項1に記載の発明)
本発明の射出成形方法は、成形品の意匠面を成形する型と成形品の裏面を成形する型を閉じることによって確保されているキャビティ内に溶融樹脂を充填する充填工程と、裏面を成形する型とキャビティ内に充填した溶融樹脂との間に冷却した加圧流体を注入する注入工程と、型を開けて型から成形品を取りだす工程を備えている。本発明の射出成形方法では、前記した充填工程の開始タイミング以降で型を開けるタイミング以前の期間内に、前記した注入工程を実施する。
本発明の射出成形方法では、成形品の裏面を成形する型とキャビティ内に充填した溶融樹脂との間に冷却した加圧流体を注入する。これにより、キャビティ内に充填した溶融樹脂を成形品の裏面を成形する型のキャビティ面から剥離させるとともに、キャビティ内に充填した溶融樹脂を成形品の意匠面を成形する型のキャビティ面に密着させ、成形品の意匠面を意図した形状に仕上げることができる。また、冷却した加圧流体を注入するので、上記作用と同時に、溶融樹脂を冷却することもできる。したがって、溶融樹脂が冷却されて凝固するまでの時間を短縮化することができ、射出成形のサイクルの短縮化を図ることができる。ひいては、成形品の生産性を向上することができる。
【0006】
(請求項2に記載の発明)
前記充填工程に続けて、前記キャビティ内に追加充填する溶融樹脂に圧力を加え続ける保圧工程を実施することが好ましい。
キャビティ内の溶融樹脂は収縮しながら凝固する。本発明の射出成形方法では、保圧工程を有しているので、キャビティ内に充填された溶融樹脂が収縮すると、その収縮分を補充するように溶融樹脂が追加充填される。したがって、樹脂成形品にヒケやボイドが発生するのを抑制することができる。
【0007】
(請求項3に記載の発明)
冷却した加圧流体を注入する工程の開始に先立って、成形品の裏面を成形する型とキャビティ内に充填した溶融樹脂との間に、常温の加圧流体を注入する工程を実施することが好ましい。
高温の溶融樹脂が冷却した加圧流体に接触すると、冷却した加圧流体に接触した部分だけが早い速度で凝固し始め、均一性が損ねられて成形品に歪みが発生する場合がある。そこで、まず常温の加圧流体を注入し、ある程度溶融樹脂の温度が下がってから、冷却した加圧流体を注入する。これにより、樹脂成形品の均一性が損なわれず、樹脂成形品の意匠面を意図した形状に仕上げることができる。
【0008】
(請求項4に記載の発明)
特に保圧工程の実施中に、常温の加圧流体を注入する工程を実施することが好ましい。これによれば、キャビティ内に充填された溶融樹脂が収縮するのを補充するように溶融樹脂が追加充填され、樹脂成形品にヒケやボイドが発生するのを確実に抑制することができる。
【0009】
(請求項5に記載の発明)
本発明は射出成形装置に具現化することもできる。この射出成形装置は、成形品の意匠面を成形する第1の型と、成形品の裏面を成形するとともに、成形品の裏面を成形する面に開口する流路が設けられている第2の型と、冷却した加圧流体を前記流路に注入する冷却加圧流体注入装置を備えている。
本発明の射出成形装置を用いれば、第2の型とキャビティ内に充填した溶融樹脂との間に冷却した加圧流体を注入することができる。これにより、充填した溶融樹脂を第2の型のキャビティ面から剥離させるとともに、第1の型のキャビティ面に密着させることができる。樹脂成形品の意匠面(表面)を意図した形状に仕上げることができる。また、冷却した加圧流体を注入するので、キャビティ内に充填した溶融樹脂を第2の型のキャビティ面から剥離させるのと同時に、溶融樹脂を冷却することもできる。したがって、充填した溶融樹脂が冷却する時間を短縮化することができ、成形サイクルの短縮化を図ることがきる。ひいては、樹脂成形品の生産性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、樹脂成形品の意匠面(表面)を意図した形状に仕上げるとともに、樹脂成形品の成形サイクルの短縮化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に説明する実施例の主要な特徴を列記しておく。
(第1形態)
成形品の意匠面を成形する型と成形品の裏面を成形する型を閉じて、型の内部に閉じたキャビティを確保する。そのキャビティに溶融樹脂を充填する。溶融樹脂が冷えて凝固したら、型を開けて型から成形品を取りだす。溶融樹脂を充填して型を開くまでの間に、裏面を成形する型と充填した溶融樹脂の間に、冷却した加圧流体を注入する工程を実施する。
(第2形態)
成形品の裏面を成形する型と充填した溶融樹脂の間に常温の加圧流体を注入する工程を実施した後に、冷却した加圧流体を注入する工程を実施する。
(第3形態)
成形品の裏面を成形する型には、キャビティ面に開口している流路が設けられている。この開口部から、加圧流体を注入する。キャビティ内に充填した溶融樹脂の先端が開口部を通過した直後に、加圧流体の注入を開始する。
(第4形態)
溶融樹脂をキャビティ内に充填する工程が終了した後も、キャビティ内に送り込む溶融樹脂に圧力を加え続ける。キャビティ内に充填された溶融樹脂が収縮すると、その収縮分を補充するように、キャビティ内に溶融樹脂が追加充填される。
(第5形態)
保圧工程が終了するのにあわせて常温の加圧流体を注入する工程を終了し、それに続けて冷却した加圧流体を注入する工程を開始する。
(第6形態)
充填工程が終了するのにあわせて、型に配設された冷却配管に流されている冷却水による樹脂の冷却工程を開始する。
(第7形態)
冷却水による冷却工程が終了するときに、冷却した加圧流体を注入する工程を終了する。
(第8形態)
加圧流体は、加圧空気である。
【実施例】
【0012】
本発明の射出成形方法に係る一実施例を、図面を参照しながら説明する。本実施例では、本発明の射出成形方法によって、自動車のバンパーを射出成形する。
図1は、本実施例で成形された樹脂成形品12の斜視図を示す。図2は、樹脂成形品12を成形する射出成形型22の、図1に示した樹脂成形品12のII−II線に対応する位置での断面図と、加圧エアー注入装置21のブロック図を示す。図3は、本実施例の射出成形方法の工程図を示す。図4、図5は、射出成形型22のキャビティ26内を溶融樹脂72が流動する状態を示す。図6は、樹脂成形品12の意匠面(表面)14を成形する第1キャビティ面27に溶融樹脂72が密着している様子を示す。
【0013】
樹脂成形品12(特許請求の範囲の「成形品」の実施例)は、図1に示すように、意匠面(表面)14と、裏面16を持っている。意匠面14は、意図した表面形状に仕上げる必要がある面である。裏面16は、表面形状が重視されない面である。
【0014】
射出成形装置20は、図2に示すように、成形型(射出成形型)22と加圧エアー注入装置21(特許請求の範囲の「冷却加圧流体注入装置」の実施例)を備えている。成形型22は、第1型24(特許請求の範囲の「第1の型」の実施例)と第2型25(特許請求の範囲の「第2の型」の実施例)を有している。図2は、第1型24と第2型25が組み合わされることによって、成形型22が閉じた状態を示している。成形型22が閉じた状態では、第1型24の第1キャビティ面27と、第2型25の第2キャビティ面28によって、キャビティ26が形成される。成形型22を開くときには、第1型24と第2型25を分離する。キャビティ26の形状は、樹脂成形品12(併せて、図1参照)のそれに対応している。すなわち、第1型24の第1キャビティ面27は、樹脂成形品12の意匠面14を成形する。第2型25の第2キャビティ面28は、樹脂成形品12の裏面16と端面を成形する。
【0015】
第1型24には、成形型22の外部と第1キャビティ面27を連通するゲート30が設けられている。ゲート30には、成形型22の外部に配置された射出ノズル(図示省略)から溶融樹脂が射出される。
第2型25には、流路31と流路33が形成されている。流路31は、その一端が開口部32として第2キャビティ面28に開口するとともに、他端が外部に開口している。流路33も流路31と同様に、その一端が開口部34として第2キャビティ面28に開口するとともに、他端が外部に開口している。流路31の開口部32には、ベント部材36が挿入されている。流路33の開口部34にも、ベント部材38が挿入されている。ベント部材36、38は、キャビティ26に溶融樹脂72が充填された際に、溶融樹脂72が流路31,33に入り込まないように構成されている。
【0016】
加圧エアー注入装置21は、流体配管40、フィルタ43、レギュレータ44、3ウエイバルブ45、冷却装置46、開閉弁47、コントローラ48を備えている。
流体配管40の一端42の側から、フィルタ43、レギュレータ44、3ウエイバルブ45が順に流体配管40に介装されている。3ウエイバルブ45の出口では、流体配管40が流体配管40a、40bの二又に分岐されている。流体配管40aは、開閉弁47の入口に接続されている。流体配管40bは、冷却装置46の入口側に接続されている。冷却装置46の出口側に接続された流体配管40cは開閉弁47の入口に接続されている。開閉弁47の出口に接続された流体配管40bは、二又に分岐されてから流路31と流路33に其々が接続されている。コントローラ48は、開閉弁47の開閉と、3ウエイバルブ45の開閉動作を制御している。
なお、流体配管40の一端42には、高圧な工場エアーが供給されている。
【0017】
コントローラ48により、開閉弁47の開閉と3ウエイバルブ45の動作が制御されることで、加圧エアー注入装置21は以下に示す動作を実行する。
流体配管40の一端42に供給されたエアーは、フィルタ43により異物が除去される。そして、レギュレータ44により、圧力が所定値(例えば、0.5MPa)に調圧される。3ウエイバルブ45は、流体配管40a,40bの両方を閉じる形態(以降、第1形態と称呼する。)、流体配管40aを開き流体配管40bを閉じる形態(以降、第2形態と称呼する。)、流体配管40bを開き流体配管40aを閉じる形態(以降、第3形態と称呼する。)に設定することができる。3ウエイバルブ45が第1形態に設定された場合には、エアーは開閉弁47の入口に供給されない。3ウエイバルブ45が第2形態に設定された場合には、冷却装置46を通らない常温のエアーが開閉弁47の入口に供給される。したがって、開閉弁47が開かれると、流路31,33に常温のエアーが供給される。この状態は、後述する常温エアー注入工程で用いられる。3ウエイバルブ45が第3形態に設定された場合には、エアーは冷却装置46に導入され、冷却されたエアーが流体配管40cに供給される。これにより、冷却されたエアーが開閉弁47の入口に供給される。したがって、開閉弁47が開かれると、流路31,33に冷却されたエアーが供給される。この状態は、後述する冷却エアー注入工程で用いられる。
【0018】
次に、図3を参照して、射出成形装置20を用いて樹脂成形品12を成形する各工程について説明する。図3の上段には、溶融樹脂29をキャビティ26に充填している途中から、加圧エアー注入装置21を用いて、キャビティ26内に常温のエアーを注入する工程のみを実施する場合の工程図を示す。図3の下段には、常温のエアーを注入する工程を実施してから、冷却したエアーを注入する工程を実施する場合の工程図を示す。
図3の下段に示すように、樹脂成形品12を成形するときには、まず成形型22を型閉めする工程を実行する。この型閉工程を開始する時刻を時刻t0とする。この際、コントローラ48により、開閉弁47(併せて、図2参照)は、閉じるように制御されている。また、3ウエイバルブ45は前述した第1形態となるように制御されている。よって、型閉工程が行われている間(時刻t0〜t1)では、成形型22の流路31、33にエアーは供給されていない。
【0019】
時刻t1で型閉工程が終了すると、続いて射出工程が実行される。射出工程が実行されると、射出ノズルから射出された溶融樹脂がゲート30を通過してキャビティ26に充填されてゆく。射出された溶融樹脂は、キャビティ26内を流動する。図4は、キャビティ26内を流動する溶融樹脂72の先端73(以下「メルトフロント73」と言う)がベント部材36上を通過する直前の状態を図示している。図5は、溶融樹脂72のメルトフロント73がベント部材36上を通過した直後の状態を図示している。
加圧エアー注入装置21のコントローラ48には、予め、射出工程が開始された時点(時刻t1)から、開閉弁47を開くとともに3ウエイバルブ45を第1形態から第2形態とする時間が設定されている。この設定時間としては、射出工程が開始されてから、溶融樹脂72のメルトフロント73がベント部材36上を通過した直後のタイミング(図5に示す状態)までの時間(時刻t2−t1の予測時間)が設定される。設定にあたっては、開口部32の周囲近傍の圧力計測データや、キャビティ26内における溶融樹脂72の流動解析結果等が用いられる。
【0020】
時刻t1から設定時間が経過したら、時刻t2で、コントローラ48は、開閉弁47を開くとともに3ウエイバルブ45を第1形態から第2形態とする。これにより、流路31,33に常温の加圧エアーが供給される常温エアー注入工程が開始される。流路31,33に供給されたエアーは、キャビティ26に注入される。流路31,33は第2キャビティ面28側に設けられているので、キャビティ26に充填された溶融樹脂72は第2キャビティ面28から剥離し、第1キャビティ面27に密着する。この際、充填された溶融樹脂72と第2キャビティ面28との間には隙間ができている。同時に、キャビティ26に充填された溶融樹脂72は、温度が低下して収縮しはじめる。
【0021】
図3に示すように、時刻t3で、射出工程が終了したら、保圧工程及び冷却工程が開始される。保圧工程では、ゲート30からキャビティ26に加えられる圧力がほぼ一定に維持され、収縮した溶融樹脂72が補充される。冷却工程では、第1型24と第2型25を通過している冷却配管(図2において図示省略)を通過している冷却水によって、溶融樹脂72が冷却されて凝固する。
【0022】
本実施の形態では、時刻t4で、保圧工程が終了されると、コントローラ48は、開閉弁47を開いたまま3ウエイバルブ45を第2形態から第3形態とする。これにより、常温エアー注入工程が終了され、流路31,33に冷却装置46で冷却された加圧エアーが供給される冷却エアー注入工程が開始される。流路31,33に供給された、冷却した加圧エアーはキャビティ26に注入される。これにより、キャビティ26に充填された溶融樹脂72は、第2キャビティ面28から剥離して第1キャビティ面27に密着した状態を維持しながら、冷却された加圧エアーによりさらにスピーディーに温度が低下し収縮する。これにより、充填された溶融樹脂72と第2キャビティ面28との間の隙間は大きくなる。
なお、保圧工程が終了しても、冷却水による冷却工程は継続されている。そして、時刻t5で、冷却工程が終了されると、コントローラ48は、開閉弁47を閉じて3ウエイバルブ45を第3形態から第1形態とする。これにより、低温エアー注入工程が終了される。
【0023】
図6は、時刻t5で、低温エアー注入工程及び冷却工程が終了したときの樹脂72の状態を図示している。エアーが注入されたことによって樹脂72の裏面が第2キャビティ面28から剥離しており、樹脂72の表面は第1キャビティ面27に確実に密着している。よって、樹脂成形品12の意匠面14は、良好に成形される。また、時刻t4で保圧工程が終了するときに常温エアー注入工程を終了し、冷却エアー注入工程を行うことにより、冷却水のよる冷却工程に加え、注入するエアーによっても溶融樹脂72を冷却することができる。図3の上段のように常温エアーのみを注入する場合には、冷却工程を時刻t3〜時刻s5まで行っているが、図3の下段のように冷却エアーの注入も行う場合には、冷却工程を時刻t3〜時刻t5(t5<s5)まで行えばよい。したがって、冷却工程を図3に示すA[A=s5−t5](分)短縮することができる。
次に、時刻t5で、型開き工程に移行することによって、成形型22が開かれる。そして、時刻t6で、最後に製品取出工程を実行して樹脂成形品12を成形型22から取り出す。
【0024】
本実施の形態の射出成形方法によれば、第2型25と充填した溶融樹脂72との間にエアーを注入する。これにより、充填した溶融樹脂72が第2型25の第2キャビティ面28から剥離されるとともに、溶融樹脂72を第1型24の第1キャビティ面27に密着させ、樹脂成形品12の意匠面14を意図した形状に仕上げることができる。また、冷却したエアーを注入するので、同時に、充填した溶融樹脂72を冷却することもできる。したがって、溶融樹脂72が冷却する時間を短縮化することができる。図3に示した工程図では、冷却工程をA(分)短縮化することができることを示している。この場合、樹脂成形品12の成形サイクルも、A(分)短縮化することができる。ひいては、樹脂成形品12の生産性を向上させることができる。
【0025】
また、本実施の形態の射出成形方法では、時刻t3で射出工程が終了した後に保圧工程を行っている。これにより、溶融樹脂72が射出された後のキャビティ26内に、収縮した溶融樹脂を補うように溶融樹脂を補充することができ、樹脂成形品12にヒケやボイドが発生するのを抑制することができる。
【0026】
また、本実施の形態の射出成形方法では、冷却エアー注入工程が行われる前に、常温エアー注入工程が行われている。高温の溶融樹脂72が冷却したエアーに接触すると、接触した部分だけが極めて早い速度で凝固し始め、樹脂成形品12の均一性を損なう場合がある。そこで、まず常温のエアーを注入して、ある程度溶融樹脂72の温度が下がってから、冷却したエアーを注入する。これにより、樹脂成形品12の均一性を損なうことなく、溶融樹脂72を冷却することができる。
【0027】
また、本実施の形態の射出成形方法では、時刻t3〜t4で保圧工程が行われている際には、常温エアー注入工程が行われており、時刻t4で保圧工程が終了してから冷却エアー注入工程が行われる。これにより、溶融樹脂72を補充する保圧工程の際に、樹脂成形品12の裏面16を成形する第2型25近傍のキャビティ26内にある溶融樹脂72の凝固を遅らせ、樹脂成形品12に歪みが発生することを抑制することができる。
【0028】
本実施の形態では、射出工程の途中、時刻t2で溶融樹脂72のメルトフロント73がベント部材36上を通過したら、常温エアー注入工程を開始する場合について説明したが、常温エアー注入工程は、時刻t3で射出工程が終了してから開始してもよい。
また、本実施の形態では、コントローラ48には、射出工程が開始されてから常温エアー注入工程が開始される時間が設定されている場合について説明した。また、コントローラ48は、保圧工程が終了したタイミングを検出して常温エアー注入工程を終了するとともに冷却エアー注入工程を開始する場合について説明した。また、コントローラ48は、冷却工程が終了したタイミングを検出して冷却エアー注入工程を終了する場合について説明した。このような、コントローラ48に設定される時間や、コントローラ48により検出されるタイミング等は実施の形態に限定されるものではなく、所望の時間やタイミングで冷却エアー注入工程が開始され、所望の時間やタイミングで終了されるように設定されていればよい。
また、保圧工程とともにエアー注入工程が行われる場合には、収縮した溶融樹脂を補充しなくても、成形品の意匠面を意図した形状に仕上げることができるので、本来は、エアー注入工程が行われない場合と比較して保圧工程を実施する時間を短縮化することができる。あるいは、省略することもできる。本実施の形態では、射出工程が終了したら、保圧工程と冷却工程が開始され、保圧工程が終了しても冷却工程が継続される場合について説明したので、保圧工程を実施する時間を短縮化することができても、成形サイクルの短縮化には直接的には関係ない。しかしながら、保圧工程が終了してから冷却工程が開始されるように設定されている場合には、本来、保圧工程を実施する時間を短縮化できると、成形サイクルを短縮化することができるはずである。ところが、樹脂成形品12の成形サイクルが短い場合には、保圧工程を短縮化してしまうと、型開きまでの間に樹脂成形品が充分に冷却されない場合があり、結局、保圧工程を短縮化した分冷却工程を長くする必要が生じ、トータルの成形サイクルとしては短縮化できない場合があった。本発明の射出成形方法によれば、キャビティ26内の溶融樹脂76を、冷却されたエアーによっても冷却することができ、溶融樹脂76が迅速に冷却されるので、保圧工程を短縮化した分冷却工程を長くする必要がない。したがって、この場合、少なくとも保圧工程を短縮化した分成形サイクルを短縮化することができる。
また、本実施の形態では、加圧流体が加圧空気の場合について説明したが、加圧流体は、空気以外の気体や液体等でもよい。
また、本実施の形態では、常温エアー注入工程を実施した後に、冷却エアー注入工程を実施する場合について説明したが、常温エアー注入工程は実施しなくてもよい。これによれば、工程の数を減少させることができるので、成形品を効率よく量産することができ、成形品のコスト低減化を図ることができる。
なお、射出成形装置は、型の冷却配管に冷却水が常に通過するように構成されていてもよいし、樹脂の冷却工程が開始される際に冷却水が通過しはじめ、冷却工程が終了される際に冷却水の通過が停止されるように構成されていてもよい。
【0029】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本実施例で成形された樹脂成形品12の斜視図を示す。
【図2】樹脂成形品12を成形する射出成形型22の、図1に示した樹脂成形品12のII−II線に対応する位置での断面図と、加圧エアー注入装置21のブロック図を示す。
【図3】射出成形方法の工程図を示す。
【図4】射出成形型22のキャビティ26内を溶融樹脂72が流動する状態の説明図を示す。
【図5】射出成形型22のキャビティ26内を溶融樹脂72が流動する状態の説明図を示す。
【図6】樹脂成形品12の意匠面(表面)14を成形する第1キャビティ面27に溶融樹脂72が密着している様子を示す。
【符号の説明】
【0031】
12 樹脂成形品
14 意匠面
16 裏面
20 射出成形装置
21 加圧エアー注入装置
22 成形型
24 第1型
25 第2型
26 キャビティ
27 第1キャビティ面
28 第2キャビティ面
30 ゲート
31 流路
32 開口部
33 流路
34 開口部
36,38 ベント部材
40 流体配管
42 流体配管の一端
43 フィルタ
44 レギュレータ
45 3ウエイバルブ
46 冷却装置
47 開閉弁
48 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形品の意匠面を成形する型と成形品の裏面を成形する型を閉じることによって確保されているキャビティ内に溶融樹脂を充填する充填工程と、
前記裏面を成形する型と前記キャビティ内に充填した溶融樹脂との間に、冷却した加圧流体を注入する注入工程と、
型を開けて型から成形品を取りだす工程を備えており、
前記充填工程の開始タイミング以降で型を開けるタイミング以前の期間内に、前記注入工程を実施することを特徴とする射出成形方法。
【請求項2】
前記充填工程に続けて、前記キャビティ内に追加充填する溶融樹脂に圧力を加え続ける保圧工程を実施することを特徴とする請求項1の射出成形方法。
【請求項3】
前記注入工程に先立って、前記裏面を成形する型と前記キャビティ内に充填した溶融樹脂との間に、常温の加圧流体を注入する工程を実施することを特徴とする請求項1又は2の射出成形方法。
【請求項4】
前記保圧工程の実施中に、常温の加圧流体を注入する工程を実施することを特徴とする請求項3の射出成形方法。
【請求項5】
成形品の意匠面を成形する第1の型と、
成形品の裏面を成形するとともに、その裏面を成形する面に開口する流路が設けられている第2の型と、
冷却した加圧流体を前記流路に注入する冷却加圧流体注入装置と、
を備えている射出成形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−83684(P2007−83684A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−278560(P2005−278560)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(300087396)株式会社ビーピーエイ (10)
【Fターム(参考)】