説明

射出成形装置と射出成形方法

【課題】 成形品の非意匠面に向かって適切なタイミングで加圧流体を注入する技術を実現する。
【解決手段】 射出成形装置20は、射出成形型21と、通過検出手段50、51と、加圧流体注入手段と、制御手段60を備えている。射出成形型21は、キャビティ27と、キャビティ27で成形される成形品の非意匠面に向かってキャビティ面に開口する注入口35、36を有している。通過検出手段50、51は、注入口35、36近傍に取付けられており、その取付位置を溶融樹脂のメルトフロントが通過するタイミングを検出する。加圧流体注入手段は、キャビティ27に注入口35、36を介して加圧流体を注入する。制御手段60は、通過検出手段50、51が検出したタイミングに基づいて加圧流体注入手段を制御することによって、キャビティ27に注入する加圧流体量を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製の成形品を射出成形する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
射出成形型のキャビティに溶融した樹脂を射出することによって、成形品を成形する技術が知られている。射出成形型のキャビティに射出された樹脂は、冷却して凝固するときに収縮する。樹脂が収縮すると、成形品がキャビティ面から剥離する。成形品がキャビティ面から剥離すると、成形品を意図した形状に仕上げることができない。
成形品には、多くの場合、意図した形状に仕上げる必要がある意匠面(表面)と、仕上げが悪いことが許容される非意匠面(裏面)がある。意匠面は表側キャビティ面によって成形され、非意匠面は裏側キャビティ面によって成形される。
特許文献1には、射出成形型のキャビティに溶融樹脂を射出した後に、裏側キャビティ面に開口する注入口から、成形品の非意匠面に向けて加圧流体を注入する技術が開示されている。成形品の非意匠面に向けて加圧流体を注入すると、成形品の非意匠面と裏側キャビティ面の間に加圧流体が侵入することによって、成形品の非意匠面が裏側キャビティ面から剥離するとともに、成形品の意匠面が表側キャビティ面に押し当てられる。成形品の意匠面を表側キャビティ面に押し当てることによって、樹脂をさらに充填する保圧を行うことなく、意匠面に発生するヒケを防止している。
【0003】
【特許文献1】特開平10−58493号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されている技術のように、保圧を行うことなく成形品の意匠面を表側キャビティ面に押し当てるためには、高圧力の加圧流体を注入しなければならない。そのため、射出成形型の強度を高くしなければならない。射出成形型は、強度を高くすると大型化してしまう。高圧力の加圧流体を注入するためには、大掛かりな設備が必要になる。
そこで、発明者は、キャビティに溶融した樹脂を充填した後に、保圧を行いながら、成形品の非意匠面に向けて低圧な加圧流体を注入する射出成形技術を開発した。この技術によれば、低圧な加圧流体を成形品の意匠面に向けて注入するだけで、成形品の非意匠面が裏側キャビティ面から剥離するとともに、成形品の意匠面が表側キャビティ面に押し当てられる。このため、成形品の意匠面が意図した形状に仕上げられる。
【0005】
このような射出成形技術では、キャビティに樹脂を充填した後に加圧流体を注入すると、樹脂の収縮が既に始まっているので、成形品の意匠面が表側キャビティ面に密着せず、意匠面にヒケが発生してしまう。逆に、加圧流体を注入するタイミングが早すぎると、充填されてキャビティ内を流動する樹脂の先端(メルトフロント)に加圧流体が吹き付けられることによって樹脂の流動が乱れ、意匠面に影響を及ぼすことがある。そのため、従来においては、キャビティ内で流動する樹脂の動きをCAE等のシミュレーションを用いて解析し、メルトフロントが注入口上を通過するタイミングを予測していた。樹脂の流動を解析するには、極めて高度な演算処理を必要とするが、理論上の成形条件と実際の成形条件との相違等によって、精度良く樹脂の流動状態を予測するのが難しい。また、成形条件が異なるたびに膨大な手間と時間を費やして樹脂の流動を解析し、加圧流体を注入するタイミングを設定する必要がある。
本発明は、上述の事情を鑑みてなされたものであり、加圧流体を適切なタイミングで注入可能な射出成形技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の射出成形装置は、射出成形型と、通過検出手段と、加圧流体注入手段と、制御手段とを備えている。射出成形型は、キャビティと、そのキャビティに溶融樹脂を充填するゲートと、キャビティで成形される成形品の非意匠面に向かってキャビティ面に開口する注入口を有している。通過検出手段は、注入口近傍に取付けられており、その取付位置を溶融樹脂のメルトフロントが通過するタイミングを検出する。加圧流体注入手段は、キャビティに注入口を介して加圧流体を注入する。制御手段は、通過検出手段が検出したタイミングに基づいて加圧流体注入手段を制御することによって、キャビティに注入する加圧流体量を調整する。
この射出成形装置は、注入口近傍に取付けられている通過検出手段が溶融樹脂のメルトフロントの通過を検出したタイミングに基づいて、注入口からキャビティに注入する加圧流体量を調整する。このため、適切なタイミングで加圧流体を注入することができる。射出成形条件が変わっても、樹脂の流動解析を行う必要がなく、作業者の作業負荷が大幅に軽減される。
【0007】
上記の射出成形装置において、加圧流体注入手段は、注入口と加圧流体注入源を連通する流路と、流路に介装されている開閉弁を有しており、制御手段は、通過検出手段が検出したタイミングに基づいて開閉弁を開くことが好ましい。
この射出成形装置によれば、開閉弁を開くことで加圧流体を注入することができるため、その注入タイミングが遅延することが防止される。従って、樹脂のメルトフロントが注入口上を通過した直後に、加圧流体を注入することができる。
【0008】
上記の射出成形装置において、通過検出手段は溶融樹脂のメルトフロントが注入口上を通過した後に、メルトフロントの通過を検出する位置に設けられていることが好ましい。
このように構成されていると、メルトフロントが注入口上を確実に通過してから、加圧流体が注入される。
【0009】
上記の射出成形装置において、通過検出手段は、圧力センサであることが好ましい。
圧力センサは、溶融している樹脂の温度や圧力に対する耐久性を有していることが望ましい。樹脂の温度や圧力に対する耐久性を有していれば、光センサや温度センサ等を採用することもできる。
【0010】
本発明の射出成形方法は、溶融樹脂充填工程と、タイミング検出工程と、加圧流体注入工程とを備えている。溶融樹脂充填工程は、射出成形型のキャビティに溶融樹脂を充填する。タイミング検出工程は、キャビティに充填された溶融樹脂のメルトフロントが成形品の非意匠面を成形するキャビティ面の所定位置を通過したタイミングを検出する。加圧流体注入工程は、溶融樹脂のメルトフロントが所定位置を通過したタイミングに基づいて、所定位置近傍から非意匠面に向けて加圧流体を注入する。
この射出成形方法によれば、溶融樹脂のメルトフロントが注入口上を通過してから、注入する加圧流体量を調整することが可能になる。適切なタイミングで、成形品の非意匠面に向けて流体を注入することができ、射出成形条件が変わっても、注入開始タイミングを設定し直す必要がなく、作業者の作業負荷が大幅に軽減される。
【0011】
上記の射出成形方法において、タイミング検出工程では、所定位置における圧力を検出することによって、溶融樹脂のメルトフロントが所定位置を通過したタイミングを検出することが好ましい。
この射出成形方法は、圧力を検出することによって、溶融樹脂のメルトフロントが所定位置を通過したタイミングを検出する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の技術では、注入口の近傍を溶融樹脂のメルトフロントが通過したタイミングに基づいて、成形品の非意匠面側に加圧流体を注入する。よって、加圧流体の注入タイミングを設定する手間と時間を要さずに、適切なタイミングで加圧流体を注入することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
後述する実施例の主要な特徴を記載する。
(1)射出成形装置は、自動車のバンパーのように、精度良く仕上げる必要がある意匠面と、精度が重視されない非意匠面を持っている成形品を射出成形する。
(2)射出成形装置は、成形型と加圧部を備えている。成形型は、第1型と第2型を有している。第1型と第2型は、閉じている状態でキャビティを形成する。第1型の第1キャビティ面は、成形品の意匠面を成形する。第2型の第2キャビティ面は、成形品の非意匠面を成形する。
(3)第1型の第1キャビティ面には、射出口が開口している。射出成形型の外部から射出された溶融樹脂が、射出口からキャビティに入り込む。
(4)第2型には、加圧流体用の流路が形成されている。流路の一端は、第2キャビティ面に開口している。流路の他端は、第2型の外部に開口している。第2キャビティ面の開口部の近傍に圧力センサが設けられている
(5)加圧部は、配管、フィルタ、レギュレータ、ソレノイドバルブ、コントローラを備えている。配管の一端は、加圧空気を供給する供給源(コンプレッサ)に接続されている。配管の他端は、第2型の加圧流体用の流路に接続されている。フィルタとレギュレータとソレノイドバルブは、配管に介装されている。ソレノイドバルブは、開閉弁である。コントローラは、圧力センサの検出信号を処理し、制御信号をソレノイドバルブに出力する。
(6)コントローラは、圧力センサが所定圧力以上を検出すると、ソレノイドバルブを開く。ソレノイドバルブが開くと、キャビティ内を流動する樹脂の非意匠面に向けて開口部から加圧空気が侵入し、樹脂の非意匠面と第2キャビティ面を剥離させる。そのことによって、意匠面が精度良く仕上がった成形品を成形するのに成功している。
【実施例】
【0014】
本発明の射出成形技術に係る一実施例を、図面を参照しながら説明する。
本実施例では、後述する射出成形装置20を用いて、図1に示す樹脂製の成形品10を射出成形する。成形品10は、例えば、自動車のバンパーであり、平板状の本体18と、本体18に対して略直角方向に折れ曲がっている一方側の端部17と、端部17と同方向に折れ曲がっている他方側の端部19を有している。端部17の端面15と、端部19の端面16は、本体18の側面に対して傾斜している。成形品10は、意匠面12と非意匠面14を持っている。意匠面12は、その形状を精度良く仕上げる必要がある面である。非意匠面14は、その形状の精度が重視されない面である。
【0015】
図2に示すように、射出成形装置20は、成形型21と加圧部22を備えている。成形型21は、第1型23と第2型24を有している。図2は、第1型23と第2型24が閉じている状態を示している。第1型23と第2型24が閉じている状態では、第1型23の第1キャビティ面25と、第2型24の第2キャビティ面26によって、キャビティ27が形成される。成形型21を開くときには、第1型23と第2型24を分離する。キャビティ27の形状は、成形品10のそれに対応している。第1キャビティ面25は、成形品10の意匠面12を成形する。第2キャビティ面26は、成形品10の非意匠面14を成形する。
第1型23の第1キャビティ面25には、射出口28が開口している。射出口28と第1型23の外部が、ゲート30によって連通されている。ゲート30には、成形型21の外部に配置された射出ノズル(図示省略)から溶融した樹脂が射出される。ゲート30に射出された樹脂は、射出口28からキャビティ27に入り込む。キャビティ27内で樹脂が凝固することによって、成形品10が成形される。
【0016】
第2型24には、加圧流体用の流路31と流路32が形成されている。流路31の一端は、第2キャビティ面26に開口している。流路31は、開口部(注入口)35によってキャビティ27に連通している(図3参照)。流路31の他端40は、後述する配管43に接続されている。流路32の一端は、第2キャビティ面26に開口している。流路32は、開口部(注入口)36によってキャビティ27に連通している。流路32の他端37は、配管43に接続されている。
流路31の開口部35には、ベント部材33が挿入されている。流路32の開口部36にも、ベント部材34が挿入されている。ベント部材33とベント部材34は、ボルト(図示省略)によって第2型24に固定されている。開口部35の内壁とベント部材33の側壁との間には隙間が確保されている。同様に、開口部36の内壁とベント部材34の側壁との間にも、隙間が確保されている。
【0017】
第2型24には、開口部35の近傍であるとともに、開口部35を挟んでゲート30の射出口28から反対側(遠い側)に圧力センサ50が設けられている(図3参照)。第2型24の開口部36の近傍にも、圧力センサ51が設けられている。センサ50は開口部35近傍のキャビティ27内の圧力を検出し、センサ51は開口部36近傍のキャビティ27内の圧力を検出する。
図4に示すように、圧力センサ50は、外周部に雄ネジが切られている本体54と、本体54よりも径が小さい受圧部53と、本体54に接続されている配線55を持っている。第2型24には、雌ネジが切られている凹部56と、凹部56と第2キャビティ面26を連通するセンサ孔52が形成されている。圧力センサ50は、本体54が第2型24の凹部56にネジ込まれ、受圧部53がセンサ孔52に挿入された状態で、第2型24に取り付けられている。圧力センサ50の受圧部53は、その先端面57でキャビティ27内の圧力を検出する。圧力センサ51も、圧力センサ50と同様の構成によって、第2型24に取り付けられている。
図3に示すように、第2型24には、傾斜部61と傾斜部62が形成されている。傾斜部61は、成形品10の端面15を成形する。傾斜部62は、成形品10の端面16を成形する。
【0018】
図2に示すように、加圧部22は、配管43、フィルタ45、レギュレータ46、ソレノイドバルブ47、コントローラ60を備えている。
配管43の一端44には、高圧な空気(例えば、工場エアー)の供給源が接続されている。配管43の他端側は、2つに分岐している。一方の分岐の端末は、流路31の他端40に接続されている。他方の分岐の端末は、流路32の他端37に接続されている。フィルタ45とレギュレータ46とソレノイドバルブ47は、配管43に介装されている。フィルタ45は、通過する空気から異物を除去する。レギュレータ46は、配管43に供給された空気の圧力を調圧する(減圧する)。ソレノイドバルブ47は、開閉弁である。ソレノイドバルブ47が開いているときには、レギュレータ46によって調圧された空気(以下「加圧空気」と言う)が第2型24の流路31、32に供給される。コントローラ60には、圧力センサ50、51の検出信号が入力される。コントローラ60は、記憶しているプログラムに従って圧力センサ50、51の検出信号を処理し、制御信号をソレノイドバルブ47に出力する。ソレノイドバルブ47の動作タイミングについては、後述にて詳細に説明する。
【0019】
射出成形装置20を用いて成形品10を成形する各工程と、それらの工程におけるキャビティ27内の圧力変化について説明する。
図5の下半分は、成形工程図である。図5の上半分は、キャビティ27内の圧力変化をグラフで示している。成形工程図の横軸は、時間経過に対応している。その時間経過は、キャビティ27内の圧力変化のグラフにも適用される。グラフ中の線Xは、ゲート30の射出口28近傍でのキャビティ27内圧力である。線Yは、センサ50、51によって検出される圧力である。
開口部35側と開口部36側では同様の事象が発生する。従って、以下においては、両者で発生する事象を開口部35側で代表して説明することとし、開口部36側についての説明を省略する。
【0020】
図5に示すように、成形品10を成形するときには、成形型20を型閉めする工程を実行する。型閉め工程を開始するタイミングで、コントローラ60はソレノイドバルブ47に閉信号を出力する。ソレノイドバルブ47は、閉信号が入力されると閉じる。従って、第2型24の流路31、32には、加圧空気が供給されない。
型閉め工程に続いて、射出工程を実行する。射出工程を実行すると、射出ノズルから射出されてゲート30の射出口28からキャビティ27内に入り込んだ溶融樹脂が、キャビティ27に充填されてゆく。ゲート30の射出口28近傍の圧力(線X)は、急激に上昇する。圧力センサ50が検出する圧力(線Y)は、圧力センサ50が射出口28から遠く配置されているので、射出口28の近傍の圧力よりも遅れて上昇を開始する。
射出された樹脂は、キャビティ27内を流動する。図6は、キャビティ27内を流動する樹脂64の先端65(以下「メルトフロント65」と言う)が開口部35に接近している状態を示している。
【0021】
コントローラ60は、圧力センサ50が所定圧力(図5のグラフの圧力Z)を検出すると、ソレノイドバルブ47に開信号を出力する。圧力Zは、溶融樹脂64のメルトフロント65が圧力センサ50上を通過し、さらに進行したとき(図7参照)に圧力センサ50が検出する圧力である。つまり、圧力センサ50が圧力Zを検出すれば、溶融樹脂64のメルトフロント65は、圧力センサ50上を通過してさらに進行している。圧力センサ50は、ゲート30の射出口28に対して、開口部35よりも遠く配置されている。従って、圧力センサ50が圧力Zを検出したときには、メルトフロント65は開口部35上を確実に通過している。
ソレノイドバルブ47は、開信号が入力されると開く。ソレノイドバルブ47が開くと、第2型24の流路31の開口部35から加圧空気がキャビティ27に供給される。加圧流体注入工程が開始される。加圧空気は、開口部35の内壁とベント部材33の側壁との間に設けられている隙間を通過する。
【0022】
流体注入工程が開始されると、加圧空気が樹脂64の非意匠面67側に注入される。樹脂64の非意匠面67側に加圧空気が注入されると、空気が樹脂64の非意匠面67と第2キャビティ面26の間に侵入し、非意匠面67と第2キャビティ面26が剥離する。その様子が図8に示されている。注入された加圧空気は、第2型24に設けられている中子(図示省略)と型本体との間隙を通過して外部に排出される。キャビティ27を充填した樹脂は収縮しながら硬化する。
図5に示すように、射出工程が終了してから、保圧工程を開始する。保圧工程とともに冷却行程も開始される。保圧工程を開始すると、ゲート30の射出口28近傍のキャビティ27内圧力は、急激に低下した後に、ゲート30から保圧が行われることによって、以後の保圧工程中はほぼ一定の値を維持する。冷却工程では、第1型23と第2型24は、それらの内部に設けられている冷却流路(図示省略)を通過する冷却水によって冷却される。第1型23と第2型24が冷却されてキャビティ27の温度が低下すると、樹脂64が凝固する。
センサ50が検出する圧力、即ち開口部35近傍の圧力は、流体注入工程が開始されてからも上昇を続け、保圧工程の途中でピークを付けてから降下する。そして、保圧工程の終了後にゼロになる。ゲート30の射出口28近傍の圧力がピークを付けた後も、センサ50の検出圧力が上昇するのは、センサ50が射出口28から遠く配置されており、圧力の伝搬に遅れが生じるからである。
【0023】
成形品10の部位29(図1参照)は、端面15が傾斜していることによって、ゲート30の射出口28から最も遠く配置される。このため、部位29に伝搬する保圧圧力が低くならざるを得ない。部位29に伝搬する保圧圧力が低いと、凝固するときの収縮を補うように樹脂64を充填することができない。そのため、部位29にはヒケが発生し易い。
本実施例の成形型21は、第2型24の部位29に対応した部位の非意匠面側に開口部35から加圧空気を注入することによって、樹脂64の非意匠面67と第2キャビティ面26を剥離させる。樹脂64が収縮しても、樹脂64の非意匠面67と第2キャビティ面26が剥離しているので、樹脂64の意匠面68と第1キャビティ面25は密着した状態を維持する。樹脂64の非意匠面67が第2キャビティ面26から剥離していれば、樹脂64の意匠面68を第1キャビティ面25から剥離させようとする力が作用しないからである。よって、部位29の意匠面68にヒケが発生するのが防止される。
【0024】
これに対して、樹脂64の非意匠面67と第2キャビティ面26が剥離していないと、樹脂64が収縮したときに、樹脂64の非意匠面67が第2キャビティ面26から剥離しようとするし、同時に意匠面68も第1キャビティ面25から剥離しようとする。非意匠面67と第2キャビティ面26、および意匠面68と第1キャビティ面25には、樹脂64が収縮するときに、密着を維持しようとする力(剥離に抵抗する力)が作用する。従って、非意匠面67側は意匠面68側を剥離させようとし、意匠面68側は非意匠面67側を剥離させようとする。このため、樹脂64の意匠面68が第1キャビティ面25から剥離して凹むことによって、そこにヒケが発生してしまうことがある。
また、第2型24に中子を設けると、第2型24の本体と中子によって第2キャビティ面26に段差が形成されることがある。第2キャビティ面26に段差が形成されていても、本実施例のように、非意匠面67が剥離した状態で樹脂64が凝固すると、段差の影響が成形品10の意匠面12に及ぶことがない。
【0025】
図5に示すように、流路31の開口部35近傍の圧力は、流体注入工程が開始されてからも上昇を続ける。このため、開口部35から注入する加圧空気の圧力よりも、開口部35におけるキャビティ27内の圧力の方が高くなることもあり得る。注入する加圧空気の圧力よりも、開口部35におけるキャビティ27内の圧力の方が高くなっても、その時点では既に樹脂64の非意匠面67が第2キャビティ面26から剥離しているので、意匠面68は第1キャビティ面25と密着した状態を維持する。
流体注入工程と冷却工程は、同時に終了する。図8は、流体注入工程と冷却工程が終了した状態を示している。樹脂64の非意匠面67が第2キャビティ面26から剥離しており、樹脂64の意匠面68は第1キャビティ面25に確実に密着している。
流体注入工程と冷却工程が終了するタイミングで、コントローラ60はソレノイドバルブ47に閉信号を出力する。ソレノイドバルブ47は、閉信号が入力されると閉じる。ソレノイドバルブ47が閉じると、キャビティ27への加圧空気の供給が停止する。流体注入工程と冷却工程を終了後、型開き工程に移行して成形型21を開く。最後に、製品取出し工程を実行することによって、成形された成形品10を成形型21から取り出す。
【0026】
射出成形装置20は、センサ50が開口部35近傍の圧力を検出することで、樹脂64のメルトフロント65が開口部50上を通過してから、開口部35から加圧空気を注入する。メルトフロント65が開口部50上を通過しており、樹脂64が収縮するよりも前であるという最適のタイミングで加圧空気を注入する。そのことによって、意匠面12が精度良く仕上がった成形品10を成形するのに成功している。
これに対して、樹脂64のメルトフロント65が開口部35上を通過するよりも前のタイミングで開口部35から加圧空気を注入すると、メルトフロント65に空気が吹き込まれる。メルトフロント65に空気が吹き込まれると、成形品10の意匠面12にフローマークが発生してしまう。射出工程を実行してキャビティ27に樹脂64が充填され、その後の冷却工程が進行したタイミングで加圧空気を注入すると、空気が樹脂64の非意匠面67側に充分に侵入するよりも前に樹脂64の収縮が進行する。つまり、樹脂64の非意匠面67が第2キャビティ面26から完全に剥離する前に、樹脂64の収縮が進行する。従って、樹脂64の意匠面68が第1キャビティ面25に密着することが保証されない。よって、成形品10の意匠面12に、ヒケが発生したり、第2キャビティ面26の段差の影響が及んでしまうことがある。
【0027】
このように、成形型21のキャビティ27に加圧空気を注入するタイミングは、微妙な調整を必要とする。加圧空気を注入するタイミングが早すぎても、遅すぎても、成形品10を良好に成形することができない。
従来、加圧空気を注入するタイミングは、試行錯誤的に選定したり、CAEによる樹脂の流動解析結果を用いて選定していた。このため、加圧空気を注入するタイミングを選定するのに、多大な手間と時間をかけざるを得なかった。多大な手間と時間をかけて注入タイミングを設定しても、射出条件(射出圧力や射出時間)を少し変える必要が生じただけで、注入タイミングを再度選定し直さなければならなかった。さらには、加圧空気の注入は、射出開始時等から所定時間が経過したタイミングで開始しているので、射出条件のバラツキに対応することができなかった。
本発明の射出成形装置20は、センサ50、51が所定圧力を検出すると、ソレノイドバルブ47が開くことによって加圧空気をキャビティ27に注入する。よって、加圧空気を注入するタイミングを、試行錯誤的に選定したり、CAE(Computer Aided Engineering)による樹脂の流動解析結果を用いて選定したりする必要がない。加圧空気を注入するタイミングを設定するための手間と時間が抑制される。
【0028】
ソレノイドバルブ47の代わりに、流量調整弁を採用することもできる。その場合には、例えば、流量制御弁を制御することによって、キャビティ27に樹脂が充填される途中に、キャビティ27に注入する加圧空気の流量を調整する。例えば、樹脂64のメルトフロント65が開口部50上を通過する前から、少量の加圧空気を注入しておき、メルトフロント65が開口部50上を通過してから、注入する加圧空気の流量を増大させる。
圧力センサ50、51の代わりの装置(例えば、温度センサや光センサ)によって、メルトフロント65の通過を検出することもできる。
【0029】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】成形品の斜視図。
【図2】射出成形装置の系統図。
【図3】第2型の斜視図。
【図4】圧力センサとその取付部の断面図。
【図5】成形工程図とキャビティ内圧力の変化を示すグラフ。
【図6】キャビティに樹脂が充填される途中の状態を示す断面図。
【図7】キャビティに樹脂が充填される途中の状態を示す断面図。
【図8】キャビティに樹脂が充填された状態を示す断面図。
【符号の説明】
【0031】
10:成形品
12:意匠面
14:非意匠面
15、16:端面
17:端部
18:本体
19:端部
20:射出成形装置
21:成形型
22:加圧部
23:第1型
24:第2型
25:第1キャビティ面
26:第2キャビティ面
27:キャビティ
28:射出口
20:部位
30:ゲート
31、32:流路
33、34:ベント部材
35、36:開口部
37:他端
40:他端
43:配管
44:一端
45:フィルタ
46:レギュレータ
47:ソレノイドバルブ
50、51:圧力センサ
52:センサ孔
53:受圧部
54:本体
55:配線
56:凹部
57:先端面
60:コントローラ
61、62:傾斜部
64:樹脂
67:非意匠面
68:意匠面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビティと、そのキャビティに溶融樹脂を充填するゲートと、キャビティで成形される成形品の非意匠面に向かってキャビティ面に開口する注入口を有する射出成形型と、
注入口近傍に取付けられており、その取付位置を溶融樹脂のメルトフロントが通過するタイミングを検出する通過検出手段と、
キャビティに注入口を介して加圧流体を注入する加圧流体注入手段と、
通過検出手段が検出したタイミングに基づいて加圧流体注入手段を制御することによって、キャビティに注入する加圧流体量を調整する制御手段と、
を備えていることを特徴とする射出成形装置。
【請求項2】
加圧流体注入手段は、注入口と加圧流体注入源を連通する流路と、流路に介装されている開閉弁を有しており、
制御手段は、通過検出手段が検出したタイミングに基づいて開閉弁を開くことを特徴とする請求項1の射出成形装置。
【請求項3】
通過検出手段は、溶融樹脂のメルトフロントが注入口上を通過した後に、メルトフロントの通過を検出する位置に設けられていることを特徴とする請求項1又は2の射出成形装置。
【請求項4】
通過検出手段は、圧力センサであることを特徴とする請求項1から3のいずれかの射出成形装置。
【請求項5】
射出成形型のキャビティに溶融樹脂を充填する溶融樹脂充填工程と、
キャビティに充填された溶融樹脂のメルトフロントが成形品の非意匠面を成形するキャビティ面の所定位置を通過したタイミングを検出するタイミング検出工程と、
溶融樹脂のメルトフロントが所定位置を通過したタイミングに基づいて、所定位置近傍から非意匠面に向けて加圧流体を注入する加圧流体注入工程と、
を備えていることを特徴とする射出成形方法。
【請求項6】
タイミング検出工程では、所定位置における圧力を検出することによって、溶融樹脂のメルトフロントが所定位置を通過したタイミングを検出することを特徴とする請求項5の射出成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−1114(P2007−1114A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−183083(P2005−183083)
【出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(300087396)株式会社ビーピーエイ (10)
【Fターム(参考)】