説明

射出成形装置

【課題】溶融樹脂が間隙にどの程度侵入するか定量的に評価する射出成形装置を提供する。
【解決手段】固定型2と可動型3とキャビティ4と射出機8とを備える射出成形装置において、キャビティ4は、複数の樹脂侵入部6a〜6lを、射出された溶融樹脂の圧力が等しくなる位置に設けられている。開口部9a〜9lは、幅又は高さが互いに同一であり、他方が互いに異なる矩形形状である。キャビティ4は、中心に湯道7を備え、樹脂侵入部6a〜6lは、互いに等間隔に放射状に設けられている

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、固定型と、可動型と、前記固定型と前記可動型との間に形成されるキャビティとからなる金型と、溶融樹脂を前記キャビティに射出する射出機とを備える射出成形装置が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
前記従来の射出成形装置では、射出する溶融樹脂の物性によっては、固定型と可動型との間に樹脂が侵入してしまい、得られる成形品にバリが発生することがある。
【0004】
そこで、例えば、樹脂の既知の物性を参考にして、射出条件を調整してバリの発生を低減することが行われている。前記既知の物性として、例えば、溶融状態の樹脂の流動性を示す尺度の一つであるメルトフローレートが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−233885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、既知の物性を参考に射出条件を調整したとしても、実際に射出成形を行ってみると、十分にバリの発生を低減することができないことがある。そこで、バリが発生しにくい材料を開発するために、射出成形時の溶融樹脂の物性を容易に把握することができる手段の開発が望まれる。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑み、射出成形時に、溶融樹脂がどの程度の間隙にどの程度侵入するかを定量的に評価することができる射出成形装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するために、本発明は、固定型と、可動型と、前記固定型と前記可動型との間に形成されるキャビティとを有する金型と、溶融樹脂を前記キャビティに射出する射出機とを備える射出成形装置において、前記キャビティは、該キャビティに連通し、それぞれ異なる開口部形状を有する空部である複数の樹脂侵入部を備え、前記樹脂侵入部は、互いに前記キャビティに射出された溶融樹脂の圧力が等しくなる位置に設けられていることを特徴とする。
【0009】
本発明の射出成形装置は、前記キャビティに前記複数の樹脂侵入部を備えている。前記樹脂侵入部は、前記固定型と前記可動型との間に、溶融樹脂が侵入し得るように意図的に設けられた間隙である。従って、本発明の射出成形装置によれば、前記キャビティに射出された溶融樹脂を、その物性に応じて前記開口部から前記樹脂侵入部へと侵入させることができ、バリに相当する部分を試験的に発生させることができる。
【0010】
また、前記キャビティにおいて、前記複数の樹脂侵入部は、互いに前記キャビティに射出された溶融樹脂の圧力が等しくなる位置に設けられているので、前記キャビティ内における位置に関わらず、溶融樹脂を均一に侵入させることができる。このとき前記複数の樹脂侵入部は、それぞれ異なる開口部形状を有するため、前記複数の樹脂侵入部に侵入した樹脂の長さを比較することにより、開口部形状の相違による溶融樹脂の間隙への侵入し易さの変化を定量的に把握して、どのようなバリが発生する可能性があるかを評価することができる。
【0011】
また、本発明の射出成形装置において、前記複数の樹脂侵入部は、前記キャビティとの連通部に矩形形状の開口部を備え、前記開口部は、互いに同一の幅と、互いに異なる高さとを備えることが好ましい。このように前記樹脂侵入部の開口部の形状について、幅を同一とし、高さのみ変量させることにより、開口部の高さの相違による溶融樹脂の間隙への侵入し易さの変化を定量的に評価することができる。
【0012】
また、本発明の射出成形装置において、前記複数の樹脂侵入部は、前記キャビティとの連通部に矩形形状の開口部を備え、前記開口部は、互いに同一の高さと、互いに異なる幅とを備えることが好ましい。このように前記樹脂侵入部の開口部の形状について、高さを同一とし幅のみ変量させることにより、開口部の幅の相違による溶融樹脂の間隙への侵入し易さの変化を定量的に評価することができる。
【0013】
さらに、本発明の射出成形装置において、前記キャビティは、均一な高さの円盤状体を形成する円形空洞部からなり、円形の中心に、前記射出機に連通される湯道を備え、前記樹脂侵入部は、前記円形空洞部の周縁部に互いに等間隔に放射状に設けられていることが好ましい。
【0014】
前記キャビティは、円形の中心に前記湯道を備え、前記樹脂侵入部を前記円形空洞部の周縁部に互いに等間隔に放射状に設けられている。従って、前記複数の樹脂侵入部の前記湯道からの距離を等しくすることができ、前記複数の樹脂侵入部を前記キャビティに射出された溶融樹脂の圧力が等しくなる位置に配置することができる。
【0015】
また、本発明の射出成形装置において、前記キャビティは、前記樹脂侵入部を2n個(nは自然数)備えており、前記樹脂侵入部の前記開口部の開口面積が最も小さいものから順に数えて1から2n番目とするときに、(2k)番目(kは1≦k≦nの自然数)の前記樹脂侵入部の対向する位置に、(2k−1)番目の前記樹脂侵入部が配置され、(2k)番目の前記樹脂侵入部の円周方向に隣接する位置に、(2k+1)番目の前記樹脂侵入部が配置されている(2k+1>2nとなる場合は除く)ことが好ましい。
【0016】
前記樹脂侵入部を、上記配置とすることにより、前記キャビティを二等分したときに、前記キャビティの一方側における前記開口部の合計開口面積と、前記キャビティの他方側における前記開口部の合計開口面積との差を小さくすることができる。この結果、前記固定型と前記可動型とを離間する方向にかかる射出された溶融樹脂の圧力が前記キャビティの両側間において実質的に均一となるため、意図しないバリの発生を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の射出成形装置を示す説明図。
【図2】図1の射出成形装置のII−II線断面図。
【図3】本発明の射出成形装置の要部拡大図。
【図4】本発明の射出成形装置を用いたメルトフローレートの値が同じである2種類の樹脂におけるバリ発生を示すグラフ。
【図5】本発明の射出成形装置を用いたメルトフローレートの値が異なる2種類の樹脂におけるバリ発生を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0019】
本実施形態の射出成形装置1は、図1に示すように、固定型2と可動型3とからなる金型とを備える。可動型3は、固定型2に対して前後方向に移動可能であり、可動型3を固定型2に当接させることにより、可動型3と固定型2との間にキャビティ4が形成される。
【0020】
キャビティ4は、図1及び図2に示すように、均一な高さの円形空洞部5を備え、円形空洞部5の周縁部に、例えば、12個の樹脂侵入部6a〜6lが、互いに等間隔に放射状に形成されている。また、円形空洞部5の円形の中心には、湯道7が連通されており、湯道7の他方の端部は、射出機8に連通されている。
【0021】
樹脂侵入部6a〜6lは、図3に示すように、キャビティ4との連通部に、例えば、矩形形状の開口部9a〜9lを有している。開口部9a〜9lは、互いに同一幅であり、例えば、5mmの幅を有している。また、開口部9(9a〜9l)は、互いに異なる高さを有しており、例えば、0.01mm、0.015mm、0.02mm、0.03mm、0.04mm、0.05mm、0.06mm、0.08mm、0.10mm、0.12mm、0.15mm、0.20mmの高さを有している。
【0022】
本実施形態の射出成形装置1は、樹脂侵入部6を12個(6a〜6l)備えており、樹脂侵入部6の開口部9の高さが最も低いものから順に数えて1から12番目とするときに、(2k)番目(kは1≦k≦6の自然数)の樹脂侵入部6の対向する位置に、(2k−1)番目の樹脂侵入部6を配置し、(2k)番目の樹脂侵入部6の円周方向に隣接する位置に、(2k+1)番目の樹脂侵入部6を配置する。但し、本実施形態では、樹脂侵入部6は12個であるので、2k+1=13、即ち、2k+1>12となる場合は除く。
【0023】
具体的には、先ず、開口部9の高さが最も低い0.01mmである樹脂侵入部6aに対向する位置に、開口部9の高さが2番目に低い0.015mmである樹脂侵入部6bが配置される。次に、開口部9の高さが3番目に低い0.02mmである樹脂侵入部6cは、樹脂侵入部6bに対して円周方向に隣接する位置に配置される。
【0024】
以下、同様にして、開口部9の高さが低い順に配置され、図2に示す構成とされている。
【0025】
また、樹脂侵入部6a〜6lは、開口部の形状の違いによる樹脂の侵入長さの違いを検出できる程度に十分な長さを有していればよい。
【0026】
次に、本実施形態の射出成形装置1を用いる樹脂の評価方法について、説明する。
【0027】
先ず、可動型3を固定型2に向けて移動させて型閉めする。次に、射出機8から湯道7を介してキャビティ4内に、評価すべき溶融樹脂を射出する。その後、キャビティ4内に射出された溶融樹脂が冷却固化したならば、固定型2と可動型3とを型開きし、得られた成形品を離型させて取り出す。
【0028】
得られた成形品は、溶融樹脂の物性に応じて、各樹脂侵入部6a〜6lに溶融樹脂が侵入するため、該侵入した溶融樹脂が固化した部分の長さが、樹脂の間隙への侵入性を示す指標となる。従って、溶融樹脂の侵入長さを測定し、樹脂侵入部6a〜6lの開口部9a〜9lの高さの相違による溶融樹脂の間隙への侵入し易さを評価する。
【0029】
本発明の実施例では、前記溶融樹脂として、例えば、メルトフローレートがいずれも30g/10分であるA材及びB材と、メルトフローレートが28g/10分であるC材との3種類を用いた。A材、B材、C材は、それぞれ異なる樹脂である。次に、射出成形装置1を用い、前記樹脂をそれぞれ射出機8により、例えば、樹脂温度200℃、射出時間0.1秒でキャビティ4内に射出し、10秒間の間、44.1MPaの圧力で維持した。
【0030】
次に、キャビティ4内に射出された溶融樹脂が冷却固化した後、固定型2と可動型3とを型開きし、得られた成形品を離型させて取り出した。得られた成形品における、各樹脂侵入部6a〜6lに侵入した溶融樹脂が固化した部分の長さは、樹脂の間隙への侵入性を示す指標となるため、該部分の長さを測定し、溶融樹脂の違いによる間隙への侵入し易さを評価した。
【0031】
溶融樹脂として、A材とB材とを用いた場合を比較すると、図4に示すように、いずれもメルトフローレートが30g/10分と、同じ物性値で表される樹脂であるにも関わらず、樹脂侵入部6の開口部9の高さが0.05mm以上の範囲では、B材の方がA材よりも溶融樹脂の侵入長さが長くなっていることが明らかである。従って、B材は、前記範囲において、A材より間隙への侵入性が高い樹脂であると評価することができる。これは、A材とB材との分子量分布や配合比、添加剤等の違いによるものであると考えられる。
【0032】
また、溶融樹脂として、A材とC材とを用いた場合を比較すると、図5に示すように、C材は、メルトフローレートが28g/10分であり、A材よりも低い流動性を有するにも関わらず、樹脂侵入部6の開口部9の高さが0.04mm以上、0.08mm未満の範囲において、樹脂の侵入長さがA材よりも長くなっていることが明らかである。従って、C材は、前記範囲において、A材より間隙への侵入性が高い樹脂であると評価することができる。これは、A材とC材との分子量分布や配合比、添加剤等の違いによるものであると考えられる。
【0033】
また、本実施形態の射出成形装置1では、樹脂侵入部6a〜6lの開口部9a〜9lを互いに同一の幅とすると共に、互いに異なる高さとしたが、これに代えて、樹脂侵入部6a〜6lの開口部9a〜9lを互いに同一の高さと、互いに異なる幅とを備えるようにしてもよい。
【0034】
また、本実施形態の射出成形装置1では、樹脂侵入部6a〜6lの開口部9a〜9lを矩形形状としたが、これに代えて、樹脂侵入部の開口部を径の異なる円形等としてもよい。
【符号の説明】
【0035】
1…射出成形装置、2…固定型、3…可動型、4…キャビティ、5…円形空洞部、6…樹脂侵入部、7…湯道、8…射出機、9…開口部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定型と、可動型と、前記固定型と前記可動型との間に形成されるキャビティとを有する金型と、溶融樹脂を前記キャビティに射出する射出機とを備える射出成形装置において、
前記キャビティは、該キャビティに連通し、それぞれ異なる開口部形状を有する空部である複数の樹脂侵入部を備え、
前記樹脂侵入部は、互いに前記キャビティに射出された溶融樹脂の圧力が等しくなる位置に設けられていることを特徴とする射出成形装置。
【請求項2】
請求項1記載の射出成形装置において、
前記複数の樹脂侵入部は、前記キャビティとの連通部に矩形形状の開口部を備え、
前記開口部は、互いに同一の幅と、互いに異なる高さとを備えることを特徴とする射出成形装置。
【請求項3】
請求項1記載の射出成形装置において、
前記複数の樹脂侵入部は、前記キャビティとの連通部に矩形形状の開口部を備え、
前記開口部は、互いに同一の高さと、互いに異なる幅とを備えることを特徴とする射出成形装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の射出成形装置において、
前記キャビティは、均一な高さの円盤状体を形成する円形空洞部からなり、円形の中心に、前記射出機に連通される湯道を備え、
前記複数の樹脂侵入部は、前記円形空洞部の周縁部に互いに等間隔に放射状に設けられていることを特徴とする射出成形装置。
【請求項5】
請求項4記載の射出成形装置において、
前記キャビティは、前記樹脂侵入部を2n個(nは自然数)備えており、
前記樹脂侵入部の前記開口部の開口面積が最も小さいものから順に数えて1から2n番目とするときに、(2k)番目(kは1≦k≦nの自然数)の前記樹脂侵入部の対向する位置に、(2k−1)番目の前記樹脂侵入部が配置され、(2k)番目の前記樹脂侵入部の円周方向に隣接する位置に、(2k+1)番目の前記樹脂侵入部が配置されている(2k+1>2nとなる場合は除く)ことを特徴とする射出成形装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−158152(P2012−158152A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20961(P2011−20961)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】