説明

射出成形金型、及び成形品の製造方法

【課題】中空部分を有する成形品を製造するために用いられ、且つ成形品の成形不良が抑制され得る射出成形金型を提供する。
【解決手段】本発明に係る射出成形金型1は、中空部分を有する成形品を形成するために用いられる。前記射出成形金型1は前記中空部分を形成するための中子2を備え、前記中子2に、この中子2の表面で開口するベント5が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は射出成形金型及びこの射出成形金型を用いる成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セラミックス粉末、有機バインダなどを含有する成形用材料から成形品を得るための手法として、次のような方法がおこなわれている。成形用材料が射出成形されることで成形体が得られる。この成形体が必要に応じて脱脂されることで成形体から有機バインダが除去される。続いてこの成形体が加熱されることでセラミックス粉末が焼結し、これにより成形品が得られる。更にこの成形品には必要に応じて研磨等の後加工が施される。
【0003】
このような成形品を製造するために用いられる従来の射出成形金型として、特許文献1に開示されている金型が挙げられる。この金型は、固定型又は可動型に設けられた入れ子を備える。入れ子には、型締め状態でキャビティ内に挿入される成形ピンと、この成形ピンよりも突出寸法の大きい複数の保護ピンとが設けられている。更にこの金型には、キャビティの内周面とエジェクタピンとの間に、成形時にキャビティからガスを排出するためのベントが形成されている。
【0004】
この特許文献1に記載されている金型はフェルールを形成するために用いられ、この金型が成形ピンを備えることでフェルールに中空のファイバ装着部が形成される。すなわち、この金型における成形ピンは、成形体に中空部分を形成するための中子として機能する。更に、この金型にはベントが形成されているため、射出成形時に成形用材料からガスが発生しても、ガスがベントを通じて金型から排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−181811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
中子を備える射出成形金型が用いられることで、中空部分を有する種々の形状の成形品が得られると考えられる。しかし、この場合、成形用材料と中子との間にガスが存在すると、このガスは射出成形金型から排出されずに成形用材料と中子との間に閉じ込められてしまう。このため射出成形金型内で成形用材料の未充填が発生することがある。更に、射出成形金型内では成形用材料は中子を取り巻くように移動するため、成形体にウエルドが発生しやすくなる。ウエルドが生じている成形体が加熱されるとクラックが生じやすくなってしまう。このように、射出成形を利用して中空部分を有する成形品を得ようとすると、成形品に成形不良が発生しやすいものであった。
【0007】
本発明は上記事由に鑑みてなされたものであり、中空部分を有する成形品を製造するために用いられ、且つ成形品の成形不良が抑制され得る射出成形金型、並びにこの射出成形金型を利用する成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る射出成形金型は、中空部分を有する成形品を形成するための射出成形金型であって、前記中空部分を形成するための中子を備え、前記中子に、この中子の表面で開口するベントが形成されている。
【0009】
本発明に係る射出成形金型においては、前記中子の表面に凹部が形成され、前記ベントが前記凹部で開口していることが好ましい。
【0010】
本発明に係る射出成形金型においては、前記中子が、第一の中子ブロックと第二の中子ブロックとで構成され、型締め時に前記第一の中子ブロックと前記第二の中子ブロックとが突き合わされ、前記型締め時に前記凹部が前記第一の中子ブロックの表面から前記第二の中子ブロックの表面に亘って形成されると共に前記第一の中子ブロックと前記第二の中子ブロックとの間で前記ベントが開口することが好ましい。
【0011】
本発明に係る成形品の製造方法は、前記射出成形金型を用いて中空部分を有する成形品を製造する方法であって、前記射出成形金型内及び前記ベント内が減圧されている状態で前記射出成形金型内に成形用材料を射出する工程を含む。
【0012】
本発明に係る成形品の製造方法においては、前記射出成形金型内に前記成形用材料を射出した後、前記射出成形金型内の減圧状態を解除し、続いて前記射出成形金型を開く工程を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る射出成形金型は、中空部分を有する成形品を形成するために用いられ、且つこの射出成形金型を用いて形成される成形品の成形不良が抑制される。
【0014】
本発明に係る成形品の製造方法によれば、射出成形により中空部分を有する成形品が製造され、且つこの成形品の成形不良が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態の一例における射出成形金型を示す概略の断面図である。
【図2】実施例で得られた成形品を示す断面図である。
【図3】実施例で得られた成形品の外観を示す写真である。
【図4】実施例において射出成形金型内が減圧された状態のままで射出成形金型を開いた場合の、クラックが発生した成形品の外観を示す写真である。
【図5】比較例における脱脂後の成形体の中空部分内の、くびれが形成されている部位を示す写真である。
【図6】比較例で得られた成形品を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の一実施形態における射出成形金型1の断面を示す概略図である。この射出成形金型1は、中空部分を有する成形品を得るために用いられる。この中空部分は成形品の両端で開口する。この射出成形金型1は、金型本体10と、この金型本体10に固定される中子2とを備えている。
【0017】
金型本体10は、第一の本体ブロック11と第二の本体ブロック12とで構成されている。金型本体10は例えば型板(固定側型板及び可動側型板)から構成され、或いは型板に固定される入れ子から構成される。金型本体10が型板から構成される場合には、第一の本体ブロック11が固定側型板から構成されると共に第二の本体ブロック12が可動側型板から構成され、或いは第一の本体ブロック11が可動側型板から構成されると共に第二の本体ブロック12が固定側型板から構成される。金型本体10が入れ子から構成される場合には第一の本体ブロック11が固定側型板に固定されると共に第二の本体ブロック12が可動側型板に固定され、或いは第一の本体ブロック11が可動側型板に固定されると共に第二の本体ブロック12が固定側型板に固定される。型締め時には金型本体10内に第一の本体ブロック11と第二の本体ブロック12で囲まれる空洞4が形成され、この空洞4内で成形体が造形される。図1中の符号15は、第一の本体ブロック11と第二の本体ブロック12との間のパーティングラインである。
【0018】
第一の本体ブロック11には、金型移動方向に貫通する第一の固定用孔31が形成されている。金型移動方向とは、射出成形金型1が型締めされる際、並びに射出成形金型1が開かれる際の、第一の本体ブロック11に対する第二の本体ブロック12の移動方向であり、固定側型板に対する可動側型板の移動方向に相当する。第一の本体ブロック11の、第二の本体ブロック12に対向する面には、第一の凹所41が形成されている。更に、第一の本体ブロック11には第一の凹所41に通じるランナ43が形成されている。通常はこのようなランナ43が形成されている第一の本体ブロック11が固定側型板から構成され、或いは固定側型板に固定される。
【0019】
第二の本体ブロック12には、金型移動方向に貫通する第二の固定用孔32が形成されている。第二の本体ブロック12の、第一の本体ブロック11に対向する面には、第一の凹所41よりも深い第二の凹所42が形成されている。
【0020】
第二の本体ブロック12は、第三の本体ブロック13と第四の本体ブロック14に分割されている。第二の固定用孔32は第四の本体ブロック14に形成されている。第三の本体ブロック13は、第四の本体ブロック14における第一の本体ブロック11と対向する面に重ねられている。第三の本体ブロック13は筒状であり、この第三の本体ブロック13の内側に第二の凹所42が形成される。
【0021】
中子2は、第一の中子ブロック21と第二の中子ブロック22とで構成される。型締め時に第一の中子ブロック21と第二の中子ブロック22とが突き合わされることで中子2が構成され、この中子2が金型本体10内の空洞4に配置される。
【0022】
第一の中子ブロック21は、第一の固定用孔31に挿入されている状態で、第一の本体ブロック11に固定されている。第一の中子ブロック21は、第一の固定用孔31から第二の本体ブロック12へ向けて金型移動方向に沿って突出している。
【0023】
第二の中子ブロック22は、第二の固定用孔32に挿入されている状態で、第二の本体ブロック12に固定されている。第二の中子ブロック22は、第二の固定用孔32から第一の本体ブロック11へ向けて金型移動方向に沿って突出している。
【0024】
本実施形態では、型締め時に第一の中子ブロック21と第二の中子ブロック22とが突き合わされる際に、第一の中子ブロック21と第二の中子ブロック22とが嵌合する。第一の中子ブロック21における第二の中子ブロック22と対向する面には第一の嵌合部23が形成され、第二の中子ブロック22における第一の中子ブロック21と対向する面には第二の嵌合部24が形成される。型締め時には第一の嵌合部23と第二の嵌合部24とが嵌合する。本実施形態では第一の嵌合部23は凹状に形成され、第二の嵌合部24は凸状に形成されていることで、第一の嵌合部23と第二の嵌合部24とが嵌合し合う形状になっている。第一の嵌合部23と第二の嵌合部24の形状は、互いに嵌合し合う形状であれば、本実施形態以外の適宜の形状であってもよい。尚、第一の中子ブロック21と第二の中子ブロック22とは互いに嵌合することなく突き合わされてもよい。
【0025】
中子2の表面は、成形体に形成される中空部分の形状に応じた適宜の形状に形成される。但し、第一の中子ブロック21と第二の中子ブロック22は、射出成形金型1から成形体が取り出される際に、成形体から引っ掛かりなく引き抜かれ得るような形状であることが好ましい。図1に示される第一の中子ブロック21の外周面と金型移動方向に平行な任意の平面との交線は金型移動方向と平行であり、このため第一の中子ブロック21は成形体から引っ掛かりなく引き抜かれ得る。この交線が金型移動方向に対して抜き勾配を有してもよい。この交線は階段状であってもよく、この場合は交線の位置が第二の中子ブロック22から離れるほど第一の中子ブロック21の外側へシフトする。図1に示される第二の中子ブロック22の外周面と金型移動方向に平行な任意の平面との交線は階段状であり、且つ交線の位置が第二の固定用孔32に近づくほど第二の中子ブロック22の外側へシフトしている。このため第二の中子ブロック22は成形体から引っ掛かりなく引き抜かれ得る。この交線は金型移動方向と平行であってもよく、金型移動方向に対して抜き勾配を有してもよい。
【0026】
中子2の外周面には凹部6が形成されている。凹部6は例えば溝状に形成され、且つ中子2を取り巻くようにループ状に形成される。この凹部6は第一の中子ブロック21の表面から第二の中子ブロック22の表面に亘って形成されている。凹部6の表面に現れる第一の中子ブロック21と第二の中子ブロック22との継ぎ目は、凹部6の底面に位置している。以下、第一の中子ブロック21における凹部6を構成する部分を第一の凹部構成部61といい、第二の中子ブロック22における凹部6を構成する部分を第二の凹部構成部62という。第一の凹部構成部61は第一の中子ブロック21における第二の中子ブロック22と対向する端部に形成され、第二の凹部構成部62は第二の中子ブロック22における第一の中子ブロック21と対向する端部に形成されている。本実施形態では第一の凹部構成部61と第二の凹部構成部62とが断面L字状に形成され、型締め時に第一の凹部構成部61と第二の凹部構成部62とが突き合わされることで凹部6が構成される。第一の凹部構成部61と第二の凹部構成部62の形状は、凹部6が構成され得るような形状であれば、本実施形態における形状に限られない。本実施形態による射出成形金型1はこのような構成を有するため、中子2に凹部6が形成されているにもかかわらず、射出成形金型1から成形体が取り出される際には第一の凹部構成部61と第二の凹部構成部62は成形体に引っ掛からない。
【0027】
中子2には、中子2の表面で開口するベント5(第一のベント51)が形成されている。本明細書において、ベント5とは、射出成形金型1におけるガス抜き用の流路を意味する。本実施形態のように中子2の表面に凹部6が形成されている場合には、第一のベント51は凹部6で開口することが好ましい。本実施形態では、第一のベント51は、第一のベント通孔511と第一のベント溝512から構成されている。第一のベント通孔511は、第一の中子ブロック21内に形成されている。この第一のベント通孔511は第一の中子ブロック21における第二の中子ブロック22に突き当てられている面で開口し、本実施形態では第一の嵌合部23の底面で開口する。第一のベント溝512は、第一の中子ブロック21における第二の中子ブロック22に突き当てられている面と、第二の中子ブロック22における第一の中子ブロック21に突き当てられている面のうち、少なくとも一方に形成され、且つ中子2の凹部6の底面から第一のベント通孔511に至るように形成されている。第一の中子ブロック21と第二の中子ブロック22とが突き当てられると、第一のベント溝512によって第一の中子ブロック21と第二の中子ブロック22との間に凹部6の底面で開口する空間が形成されると共に、この空間が第一のベント通孔511と連通する。これにより第一のベント51が形成され、この第一のベント51が凹部6の底面で開口する。
【0028】
本実施形態による射出成形金型1には、更に金型本体10と中子2との継ぎ目で開口するベント5(第二のベント52)、並びに金型本体10の空洞4に面する表面で開口するベント5(第三のベント53)が形成されている。
【0029】
第二のベント52は、第二のベント通孔521と第二のベント溝522から構成される。第二のベント通孔521は、第四の本体ブロック14内に形成されている。第二のベント通孔521は、第二の固定用孔32の内周面から第四の本体ブロック14の外面に至るまで形成されている。第二のベント溝522は、金型本体10の第四の本体ブロック14における、第二の固定用孔32の内周面に形成されている。第二のベント溝522は、第一のベント通孔511から第二の凹所42に至るまで形成されている。第二の固定用孔32に第二の中子ブロック22が挿入されると、第二のベント溝522と第二の中子ブロック22との間に金型本体10と中子2との継ぎ目で開口する空間が形成されると共に、この空間が第二のベント通孔521に連通する。これにより、第二のベント通孔521が形成される。
【0030】
第三のベント53は、第三のベント溝531から構成される。第三のベント溝531は、第四の本体ブロック14における第一の本体ブロック11と対向する面に形成されている。第三のベント溝531は、第一の本体ブロック11と対向する面の端縁から第二の凹所42に至るまで形成されている。第三の本体ブロック13が第四の本体ブロック14に重なると、第三のベント溝531と第三のブロックとの間に、第二の凹所42内と第二の本体ブロック12の外側とを連通する第三のベント53が形成される。
【0031】
本実施形態による射出成形金型1が用いられることで、成形品が製造される。成形品の製造のために使用される成形用材料8は、射出成形により成形される材料であれば制限されない。成形用材料8としては、セラミックス粉末、有機バインダなどを含有するセラミックス成形用材料、金属粉末、有機バインダなどを含有する金属成形用材料、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂などを含有する樹脂成形用材料などが、挙げられる。
【0032】
本実施形態による射出成形金型1は、特に射出成形時にガスが生じる成形用材料8を成形するために、好適に用いられる。このような成形用材料8としては、有機バインダに対して酸化触媒作用を発揮するセラミックス粉末や金属粉末などを含有する、セラミックス成形用材料や金属成形用材料が挙げられる。これらの成形用材料8では、射出成形時にセラミックス粉末や金属粉末による酸化触媒作用により有機バインダが分解してガスが発生する。このような成形用材料8の具体例として、セリア安定化ジルコニア粉末、アルミナ粉末、及び有機バインダを含有するセラミック材料が挙げられる。
【0033】
射出成形金型1が用いられることで成形用材料8が射出成形される場合には、成形用材料8が射出成形金型1に射出される前に、射出成形金型1の空洞4内及びベント5内が減圧されることが好ましい。そのためは、例えば射出成形金型1の第一のベント51、第二のベント52、及び第三のベント53に、真空ポンプなどの減圧装置9が接続される。射出成形金型1が型締めされた状態で減圧装置9が作動することで、射出成形金型1の空洞4内及びベント5内が減圧される。
【0034】
空洞4内及びベント5内が所望の程度まで減圧されたら、空洞4内及びベント5内が減圧された状態が維持されたままで、減圧装置9が停止され、或いは減圧装置9とベント5との接続が解除されることが好ましい。射出成形金型1は、成形用材料8が成形されるために適した適宜の温度に保持される。
【0035】
続いて、射出成形金型1の空洞4内及びベント5内が減圧され、且つ射出成形金型1が成形に適した温度に保持されている状態で、射出成形金型1へ成形用材料8が射出される。この成形用材料8はランナ43を通じて空洞4に射出される。
【0036】
空洞4内へ射出された成形用材料8は、空洞4内に充填されて成形され、これにより成形体が形成される。空洞4内では成形用材料8は中子2を取り巻くように移動するが、空洞4内は減圧されているため、成形体にはウエルドや未充填による成形不良が生じにくくなる。これに加えて、空洞4内で成形用材料8からガスが発生しても、このガスが空洞4からベント5へ流入するため、成形体には未充填による成形不良が更に生じにくくなる。
【0037】
更に、空洞4内で成形用材料8が中子2を取り巻いている状態で成形用材料8と中子2との間にガスが発生しても、このガスは中子2の表面に開口している第一のベント51に流入するため、成形用材料8と中子2との間にガスが閉じ込められにくくなる。このため、成形体の中空部分において成形用材料8の未充填による不良が更に生じにくくなり、加えてウエルドによる不良も更に生じにくくなる。中子2の凹部6の内側やその周囲の領域は成形用材料8が比較的充填されにくいため、この領域にはガスが閉じ込められてしまいやすいが、本実施形態のように中子2の凹部6で第一のベント51が開口していると、中子2の凹部6の内側やその周囲の領域にあるガスが第一のベント51に流入し、このため成形用材料8の未充填は更に生じにくくなる。
【0038】
更に、射出成形時に減圧装置9が停止され、或いは減圧装置9とベント5との接続が解除されていると、空洞4内に充填されている成形用材料8がベント5へ流入しにくくなる。このため成形体にはバリなどによる成形不良も発生しにくくなる。
【0039】
空洞4内で成形体が形成された後、射出成形金型1が開かれる。このとき、射出成形金型1内の減圧状態が解除されてから射出成形金型1が開かれることが好ましい。例えばベント5が大気に開放されることで、射出成形金型1内の減圧状態が解除される。このように予め射出成形金型1内の減圧状態が解除されると、射出成形金型1が開かれる際に成形体に応力がかかりにくくなり、このため成形体にクラックが生じにくくなる。更に、成形体に内部応力が蓄積されにくくなり、このため成形体が加熱されることで脱脂されたり焼成されたりする場合にもクラックが生じにくくなる。
【0040】
射出成形金型1が開かれる際には、第二の本体ブロック12が第一の本体ブロック11に対して、この第一の本体ブロック11から離れる方向へ、金型移動方向に沿って移動することで、第一の本体ブロック11と第二の本体ブロック12とが分離する。このとき、第一の本体ブロック11に固定されている第一の中子ブロック21と、第二の本体ブロック12に固定されている第二の中子ブロック22とが分離する。射出成形金型1が開かれると、本実施形態では、通常は、成形体が第二の本体ブロック12に、第二の凹所42の内側で保持される。成形体は、例えばエジェクタピンにより突き出されることで第二の本体ブロック12から取り出される。第三の本体ブロック13と第四の本体ブロック14とが分離されることで成形体が第二のブロックから取り出されてもよい。このようにして射出成形金型1から成形体が取り出される際、本実施形態では第一の中子ブロック21と第二の中子ブロック22が成形体から引っ掛かりなく引き抜かれる。
【0041】
成形用材料8が樹脂成形用材料である場合には、成形体がそのまま完成品(成形品)になってもよい。この成形品には更に必要に応じて研磨、切削加工、表面処理などの後処理が施されてもよい。
【0042】
成形用材料8がセラミックス成形用材料や金属成形用材料である場合には、成形体が射出成形金型1から取り出された後、この成形体が必要に応じて脱脂される。更にこの成形体は、必要に応じて焼成されることで焼結する。これにより、成形品が得られる。この成形品にも、更に必要に応じて研磨、切削加工、表面処理などの後処理が施されてもよい。
【0043】
本実施形態による方法によって成形品が製造されると、成形品に、この成形品の両端で開口する中空部分が形成されると共に、成形品にウエルド、未充填、クラックなどの成形不良が生じにくくなる。更に、中空部分の内面は、くびれや凹凸などが形成されている複雑な形状に形成され得るようになる。
【実施例】
【0044】
[実施例]
セリア安定化ジルコニア粉末を70体積%、アルミナ粉末を30体積%の割合で含有するセラミックス粉末を調製した。このセラミックス粉末に有機バインダーを、セラミックス粉末に対して22質量%の割合で加えて混合することで、セラミックス成形用材料を調製した。
【0045】
図1に示す構造を有する射出成形金型1を用意した。この射出成形金型1を型締めした状態で、第一のベント51、第二のベント52及び第三のベント53に真空ポンプを接続し、この真空ポンプを作動させることにより射出成形金型1内の空洞4、第一のベント51、第二のベント52及び第三のベント53を減圧した。
【0046】
続いて、真空ポンプを停止すると共に射出成形金型1内を減圧されたままに維持し、この状態で射出成形金型1にセラミックス成形用材料を射出した。射出成形時の射出成形金型1の温度は35℃とした。
【0047】
続いて、第一のベント51、第二のベント52及び第三のベント53を大気に開放してから、射出成形金型1を開いて、成形体を取り出した。
【0048】
この成形体を、その温度が500℃になるまで加熱することで脱脂した。この加熱時の成形体の昇温速度は5〜25℃/hrの範囲に収まるようにした。続いて、脱脂後の成形体を加熱温度1450℃で2時間焼成することで、成形品を得た。
【0049】
このようにして成形品を製造したところ、成形体にはウエルドやクラックは認められなかった。
【0050】
図2は、本実施例により製造された成形品81を示す断面図である。図2に示されるように、成形品81にはその両端で開口する中空部分82が形成されており、この中空部分82の内面には、中子2の凹部6に対応する位置に凸状のくびれ83が形成されている。本実施例では、成形品に未充填による不良は確認されなかった。図3は本実施例により製造された成形品の外観を撮影することにより得られた写真である。この写真に示されるように、成形品にはクラックは確認されなかった。
【0051】
一方、上記のようにして成形品を製造するにあたり、射出成形金型1内が減圧されたままに維持しながら射出成形金型1を開いたところ、成形体を焼成して成形品を得る際に、30数量%の割合で成形品にクラックが発生した。図4はクラックが発生した成形品の外観を撮影することにより得られた写真である。
【0052】
[比較例]
射出成形金型1に第一のベント51が形成されていないこと以外は上記実施例と同じ条件で成形品を製造した。
【0053】
図5は、本比較例における脱脂後の成形体の中空部分における、くびれが形成されている部分を、中空部分の開口から撮影することで得られた写真である。この写真に示されように、脱脂後の成形体にはクラックが生じてしまった(図中の矢印参照)。
【0054】
図6は、本比較例により製造された成形品84を示す断面図である。図6に示されるように、成形品84の中空部分85におけるくびれ86の付近(図中の円で囲まれている部分)に、未充填による成形不良が生じてしまっていた。
【符号の説明】
【0055】
1 射出成形金型
2 中子
21 第一の中子ブロック
22 第二の中子ブロック
5 ベント
6 凹部
8 成形用材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空部分を有する成形品を形成するための射出成形金型であって、前記中空部分を形成するための中子を備え、前記中子に、この中子の表面で開口するベントが形成されている射出成形金型。
【請求項2】
前記中子の表面に凹部が形成され、前記ベントが前記凹部で開口している請求項1に記載の射出成形金型。
【請求項3】
前記中子が、第一の中子ブロックと第二の中子ブロックとで構成され、型締め時に前記第一の中子ブロックと前記第二の中子ブロックとが突き合わされ、前記型締め時に前記凹部が前記第一の中子ブロックの表面から前記第二の中子ブロックの表面に亘って形成されると共に前記第一の中子ブロックと前記第二の中子ブロックとの間で前記ベントが開口する請求項2に記載の射出成形金型。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の射出成形金型を用いて中空部分を有する成形品を製造する方法であって、
前記射出成形金型内及び前記ベント内が減圧されている状態で前記射出成形金型内に成形用材料を射出する工程を含む成形品の製造方法。
【請求項5】
前記射出成形金型内に前記成形用材料を射出した後、前記射出成形金型内の減圧状態を解除し、続いて前記射出成形金型を開く工程を含む請求項4に記載の成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−91330(P2012−91330A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238383(P2010−238383)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】