説明

導電線及びその製造方法

【課題】 軽量で屈曲性能を備えた、繊維を芯材とする導電線、および、該導電線を低コストで製造可能な製造方法を提供する。
【解決手段】 導電性塗料は、箔片状金属粉および樹脂を含む導電性塗膜が繊維製芯材に被覆されており、前記塗膜中において前記箔片状金属粉が互いにずれ重なっていることを特徴とする。導電線の製造方法は、無撚繊維の束からなる繊維製芯材を、支持体上において幅方向に扁平状に広げて並べる工程と、並べられた繊維の束の長さ方向に沿って、箔片状金属粉および樹脂を含む導電性塗料を繊維製芯材に印刷する工程と、前記繊維製芯材に印刷された前記導電性塗料を乾燥させる工程と、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電線及びその製造方法に係り、特に、繊維を心材とする導電線及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電線と用いられる導電線は一般に銅線が使用されているが、電線の軽量化を図る代替材料として、例えば、繊維を芯材として金属皮膜を電解めっき、化学めっき、あるいは真空蒸着によって形成した金属被覆繊維が提案されている(例えば、特許文献1等)。
【特許文献1】特開2001−234468号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、めっき法や蒸着法によって金属被覆された金属被覆繊維は可撓性に劣り、電線としての使用するには難がある。また、製造装置も高コストとなる。
【0004】
そこで、本発明は、軽量で可撓性を備える導電線、および、該導電線を低コストで製造可能な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明に係る導電線は、樹脂中に所定量の箔片状金属粉を含有する導電性塗膜が繊維製芯材に被覆された導電線であって、前記繊維製芯材がマルチフィラメントであって単繊維の各々に前記導電性塗膜が被覆されており、前記塗膜中において前記箔片状金属粉が互いにずれ重なることにより電気的に導通していることを特徴とする。
【0006】
前記薄片状金属粉は、銀、アルミニウム、及び、銀メッキされた銅からなる群から選ばれる少なくとも1種により形成されていることが好ましい。
【0007】
前記箔片状金属粉は、平均粒径が1〜40μmであることが好ましい。
【0008】
導電性塗膜は、平均粒径4〜8μm、比表面積1.4〜2.4m/g、見掛密度0.5〜0.9g/cmの箔片状銀粉を35〜45重量部と、樹脂15〜25重量部とを含有する導電性塗膜が好ましい。
【0009】
前記繊維は、ポリケトン繊維、高強力ポリアリレート繊維、アラミド繊維等の高強度繊維が好ましい。高強度繊維は、単繊維の直径が10〜200μmであることが好ましい。
【0010】
また、上記目的を達成するため、本発明に係る繊維を芯材とする導電線の製造方法は、無撚繊維の束からなる繊維製芯材を、支持体上において幅方向に扁平状に広げて並べる工程と、並べられた繊維の束の長さ方向に沿って、箔片状金属粉および樹脂を含む導電性塗料を繊維製芯材に印刷する工程と、前記繊維製芯材に印刷された前記導電性塗料を乾燥させる工程と、を含むことを特徴とする。
【0011】
前記導電性塗料を乾燥させる前に、前記導電性塗料を印刷した前記無撚繊維に撚りをかける工程を更に含むことが好ましい。
【0012】
前記導電性塗料を繊維製芯材に印刷する方法が、メッシュスクリーン印刷及びロールコータの少なくとも一方であり、繊維の束の長さ方向に沿ってスキージ及びロールの少なくとも一方を移動させることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る導電線によれば、繊維を芯材とし、導電性塗膜に樹脂を含むため可撓性を有することができ、塗膜中において前記箔片状金属粉が互いにずれ重なっているため、導電線を撓ませても導電性を維持することができる。
【0014】
また、本発明に係る導電線の製造方法によれば、繊維の束を幅方向に広げて導電性塗料を印刷することにより、細い繊維の単糸一本一本に対して導電性塗料を塗布することができ、繊維の束の長さ方向に沿ってスキージ、ロール等を移動させて導電性塗料を印刷することにより、繊維の長さ方向において箔片状金属粉がずれ重なり易くなり、その結果、製造された導電線の撓み時の導電性を良好に維持し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係る導電線は、箔片状金属粉および樹脂を含む導電性塗膜が、該塗膜中において前記箔片状金属粉が互いにずれ重なるようにして、繊維製芯材に被覆されている。
【0016】
箔片状金属粉を構成する金属性材料としては、抵抗値、加工性、コスト等の観点から、銀が好ましいが、銀以外として例えば、Al或いは銀メッキした銅を用いることもでき、あるいはこれらの金属の2種以上を混合して用いることもできる。箔片状金属粉の原料粉は還元法、電解法、アトマイズ法などによって製造することができる。箔片状金属粉は、フレーク状金属粉、鱗片状金属粉等として市販されているものがあり、それらを利用することもできる。
【0017】
箔片状金属粉は、平均粒径が1〜40μmであることが好ましい。箔片状金属粉の平均粒径が1μm未満であると箔片状金属粉同士の接触面積が小さくなり、抵抗値が高くなるし、塗料粘度も高くなる。一方、箔片状金属粉の平均粒径が40μmを超えると、塗膜中の樹脂成分との密着性が低下し、箔片状金属粉が塗膜中の樹脂成分と分離することがあり、抵抗値が高くなる。箔片状金属粉の厚みは、粒径によって異なるが、例えば、0.01〜1.0μm程度である。
【0018】
箔片状金属粉として銀を用いる場合、導電性塗膜は、平均粒径4〜8μm、比表面積1.4〜2.4m/g、見掛密度0.5〜0.9g/cmの箔片状銀粉を35〜45重量部と、樹脂15〜25重量部とを含有することが、より好ましい。箔片状銀粉の平均粒径が4μm未満であるかまたは8μmを超えると、抵抗値が高くなり、導電性能が低下するからである。また、箔片状銀粉の比表面積が1.4m/g未満であるかまたは箔片状銀粉の見掛け密度が0.9g/cmを超えると、塗膜層内での銀粉の重なりが少なくなり、塗膜の体積固有抵抗率が高くなるからである。また箔片状銀粉の比表面積が2.4m/gを超えるかまたは箔片状銀粉の見掛け密度が0.4g/cm未満であると、導電性塗膜を形成する前の導電性塗料の混練時に箔片状銀粉が変形を起こし、導電性塗膜の体積固有抵抗率が高くなることがあるからである。
【0019】
箔片状金属粉の平均粒径は、レーザー回折法で測定する。箔片状金属粉の比表面積はBET法(気体吸着法)により測定する。また箔片状金属粉の見掛け密度はJISZ2504により測定する。なお、箔片状金属粉の厚みd(μm)は、銀の比重を10.5とし、箔片状金属粉の比表面積をS(m/g)として、d=0.19/Sから計算することができる。
【0020】
導電性塗膜に含有される樹脂は、塗料として使用され得る公知の樹脂、たとえば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂等を使用し得るが、アクリル樹脂(とくにアクリル酸エステル共重合体)が室温における粘着性が比較的高く、常温でも硬化するため、好適な樹脂として使用し得る。また、弾性エポキシ樹脂等の弾性樹脂、たとえば、変性シリコーン樹脂、エポキシ変性シリコーン樹脂等も公的な樹脂として使用し得る。また、アクリルエマルジョンなどの水溶性樹脂を使用して水性塗料とすることもできる。さらに、紫外線硬化性樹脂や赤外線硬化性樹脂などの光硬化性樹脂を用いることもできる。
【0021】
芯材となる繊維は、容易に切れない繊維が好ましく、高強度繊維が好ましい。高強度繊維としては、たとえば、ポリケトン繊維、高強力ポリアリレート繊維、アラミド繊維等を例示することができる。この種の高強度繊維としては、たとえば、サイバロン、ケブラー、ダイニーマ、ザイロン、ベクトランといった商標名で販売されているものがある。また、用いる樹脂によっては、耐熱性(例えば200℃以上)を有する繊維を使用する。
【0022】
上記構成の導電線においては、導電性塗膜中の箔片状金属粉が互いにずれ重なっており、その結果、導電性を発揮する。丸粒状金属微粒子のみからなる金属粉では、金属粉を構成している金属微粒子同士が点接触であるため、導電線が撓んだときに導電性塗膜中の隣り合う金属微粒子が離れてしまうことで導電性能が低下するが、箔片状金属粉を所定量含む導電性塗膜は、金属粉を構成する金属薄片の各々がオーバーラップしているため、導電線が撓んだ場合でも隣り合う金属片どうしの電気的導通性能を維持し得る。箔片状金属粉は、所望の電気伝導性及び可撓性に応じて、導電性塗料の樹脂中の配合量が適宜設定される。なお、丸粒状金属微粒子を箔片状金属粉に混入させることは可能である。
【0023】
例えば、銀の体積抵抗率は1.59×10−6Ω・cmであるが、箔片状銀粉を用いた上記構成の導電線は、10−6〜10−4Ω・cmオーダーの体積抵抗率を確保することが可能である。これは、導電線としては極めて低い体積抵抗率である。
【0024】
また、本発明の導電線は、芯材が繊維であるので、軽量化が可能である。特に、ジェット機やロケットのように軽量化が求められる分野において、有用な導電線となる。さらに、アルミニウムは銀や銅に比べて密度が小さいため、軽量化に対しては、箔片状アルミニウム粉がより適している。
【0025】
さらに、本発明の導電線は、繊維製芯材の表面に導電性塗膜が形成されるため、高周波電流を流す場合に有利である。すなわち、一般に、高周波電流の周波数が高ければ高いほど、電流が導線の表面に集ろうとし、導線の内部の電流(密度)は小さくなる(これを「表皮効果」と言う。)。従って、導電線の芯材が非導電性の繊維であっても、高周波電流であれば効率よく流すことができる。
【0026】
また、表皮効果により、周波数が高くなると導体の内部は電流の伝導に殆ど関与しなくなり、見掛け上の断面積が減少し、抵抗が大きくなる。導線の直径が小さければ、内部の無駄になる部分が少なく、抵抗の増加は小さい。従って、高周波電流を流す場合には、できるだけ繊維製芯材を細くすることが好ましく、たとえば、10〜200μm程度が好ましく、より好ましくは10〜50μ程度である。
【0027】
上記のような導電線の製造方法の一例として、箔片状銀分を用いた例を以下に説明する。
【0028】
平均粒径4〜8μm、比表面積1.4〜2.4m/g、見掛密度0.5〜0.9g/cmの箔片状銀粉を35〜45重量部、樹脂15〜25重量部と、適宜溶剤を含有する導電性塗料を用意する。
【0029】
溶剤は、水性塗料では水、油性塗料では有機溶剤が使用され、使用する樹脂に応じて適宜決定され、たとえば、樹脂がアクリル酸エステル共重合体の場合、プロピレングリコールモノエーテル及びエチレングリコールモノブチルエーテルの混合液を使用できる。また、導電性塗料の塗布方法によって、適宜の塗料粘度、揮発速度等となるよう、溶剤の含有量が調整される。導電性塗料は、厚すぎると屈曲性能を損なう恐れがあるため、乾燥(硬化)後において、得られた導電性が屈曲性能を発揮し得る程度の厚みにする。
【0030】
導電性塗料の塗布方法として、塗膜の厚み制御が容易であるメッシュスクリーン印刷を好適な塗布方法として挙げることができる。メッシュスクリーン印刷の場合、導電性塗料は、樹脂15〜25重量部に対し、溶剤を40〜60重量部含有させる。導電性塗料の粘度を、例えば、390mPa・s(25℃)に調整し、メッシュスクリーンは、たとえば100〜200メッシュのスクリーンを使用することができる。
【0031】
メッシュスクリーン印刷を行う場合、連続的に印刷可能な印刷機を使用することが好ましい。即ち、印刷前の繊維を巻いた引出リールから引き出した繊維を巻取リールで巻き取る途中に、昇降自在のスクリーン及び機枠に支持されたスキージが配置され、繊維を間欠送りし、その間欠送りに合わせてスクリーンを上下動させて、スクリーンを介して導電性塗料をスキージングにより印刷することで、長尺の繊維に連続的に印刷可能である。もちろん、印刷後巻取前に乾燥機で加熱乾燥することもできる。
【0032】
スキージは、いわゆる平スキージのほか、ロータリースキージを使用しても良い。スキージ方向は、繊維の送り方向と平行とすることが好ましい。繊維の送り方向と平行で且つ一方向に加圧しつつスキージングすることにより、導電性塗膜中の箔片状銀粉がずれ重なって並ぶ配向が繊維の長さ方向に揃いやすく、導電線の撓み時における導電性維持に貢献し得る。
【0033】
印刷を施す繊維は、撚りが施されていない無撚繊維を使用することが好ましい。支持体上に載置された無撚繊維は、スキージ等の塗料塗布手段による押圧によって、無撚繊維を構成する単糸の束が繊維幅方向(繊維径方向)に扁平状または帯状に広げて並べられ、繊維単糸の各々に略均等に導電性塗料が付与され得る。このように単糸の束が扁平状に押し広げられることにより、導電性塗料を塗布し易くなる。繊維単糸一本に導電性を得るのに必要な箔片状銀粉が付与されるためには、繊維の単糸直径は、少なくとも10μ程度以上が必要とされる。また、無撚繊維の場合は、導電性塗料を印刷後、硬化前に、撚りをかけても良い。
【0034】
印刷後、使用する樹脂に応じた硬化条件により導電性塗料を硬化、乾燥させる。
【0035】
メッシュスクリーン印刷の他に、スクリーンを用いずに、スキージのみを用いて導電性塗料を塗布することも可能である。
【0036】
また、ロールコータによる印刷も可能である。ロールコータの場合は、シルクスクリーン印刷に比べて印刷速度が速いため、シルクスクリーン印刷に用いる塗料よりも低粘度で且つ短時間で乾燥するように、速乾性の溶剤を使用し、添加量も調整される。
【0037】
ロールコータの場合、ロールの回転方向は印刷されるべき繊維が送られる方向に沿う方向であるから、上記メッシュスクリーン印刷において説明したように、導電性塗料中の箔片状銀粉は、箔片状銀粉を構成している各銀片のずれ重なり方向が繊維の長さ方向に揃い易く、各銀片の好適な配向性に寄与し得る。その結果、導電性繊維の撓み時の導電性能を良好に維持し得る。
【0038】
上記印刷方法の他、浸漬塗布も可能である。浸漬塗布の場合、浸漬後、導電性塗料槽から引き出された繊維を、ブレード等の掻き取り手段によって一定の加圧をかけながら導電性塗料を一定厚みとなるように掻き取るか、あるいは、所望の塗膜厚になるよう調節された所定幅のスリットを通過させることによって、余分な導電性塗料を除去する。塗料塗布時における掻き取り時あるいはスリット通過時に、導電性塗料は、上記のメッシュスクリーン印刷のスキージング作用と同様に、導電性塗料中の箔片状銀粉をずれ重なり方向を一定方向に配向させる作用を生じさせ得る。
【0039】
導電性塗料を繊維芯材に印刷した後、非導電性の塗料を導電性被膜上に印刷することにより、絶縁被覆層を形成することもできる。この場合、非導電性塗料は、導電性塗料と同様に、スクリーン印刷、ロールコータ等による印刷等を採用することができる。非導電性塗料は、たとえば、導電性塗料から箔片状銀粉を除いた樹脂によって形成することができる。
【0040】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更が可能である。
【0041】
実施例
平均粒径4〜8μm、比表面積1.4〜2.4m/g、見掛密度0.5〜0.9g/cmの箔片状銀粉を40重量部、アクリル酸エステル共重合体を20重量部、プロピレングリコールモノメチルエーテルを25重量部、エチレングリコールモノブチルエーテルを25重量部、を含有する導電性塗料を製作した。
【0042】
使用した繊維は、下記の高強度繊維であった。物性値は、カタログ値である。
【0043】
ポリケトン繊維(商標名 サイバロン)
引張強力 280〜294N(29〜30Kg)
引張強度 17〜18cN/dtex(2.2〜2.3GPa)
引張弾性率 340〜350cN/dtex(43.6〜45.9GPa)
破断伸度 5〜7%
水分率 0.5〜0.6%
融点 271〜273℃
分解温度 318〜322℃
密度 1.29〜1.31g/cm
単糸直径 10〜11μm
単糸数 150本/束
上記繊維は、無撚繊維であった。この繊維を支持台の上に載置し、スキージを用いて上記導電性塗料を直接(スクリーン等を介さずに)塗布した。塗布にあたっては、スキージを繊維の長さ方向に沿って、一方向にスキージングした。繊維は、図1にイメージで示すように、上記の繊維のように100本以上(図1では12本のみ図示)の単糸1からなる束2を扁平状(帯状)に広げて敷き並べておくことで、スキージ3でスキージングした際に導電性塗料4が繊維上に乗り易くなる。すなわち、単糸が10〜11μm程度と非常に細い場合、単糸がバラバラであると塗布効率が悪く、しかも、塗布し難いからである。
【0044】
こうして導電性塗料を塗布した繊維(A)を、(A−I)常温(25℃)で約24時間乾燥させた導電線の試料と、(A−II)200℃、3分で焼結させた導電線の試料を、それぞれ作成した。得られた試料は、いずれも可撓性を備えていた。特に、常温乾燥させた試料(A−I)は、高温焼結(A−II)の試料よりも屈曲性に優れていた。
【0045】
導電線試料A−I、A−IIのそれぞれについて、次のようにして体積抵抗率を測定した。
【0046】
まず、導電線試料A−Iを2.1cmの間隔で電気抵抗値を測定し、導電線試料A−IIを3.2cmの間隔で電気抵抗値を測定した。電気抵抗値は、ヒューレッドパッカー社製LCRメータ(HP4284A)を用いて測定した。
【0047】
次に、導電性塗料の塗膜、すなわち導電性塗膜の断面積を次のようにして計算した。まず、導電性塗料が塗布されていない裸の繊維を、走査型電子顕微鏡を用いて写真撮影した。図2、図3は、導電性塗料が塗布されていない繊維の走査型電子顕微鏡写真である。プリントアウトした図3の1000倍の顕微鏡写真(横幅136mm)を用い、写真上で繊維の長さ方向に約10mm間隔にて10カ所、繊維の直径を測定し、顕微鏡写真のスケールから直径を換算して算出した。算出された繊維の平均直径は、11.8μmであった。次に、導電性塗料が塗布された繊維すなわち導電線を、走査型電子顕微鏡にて撮影した。図4、図5は、導電線の走査型電子顕微鏡写真である。裸の繊維の場合と同様にして、プリントアウトした図5の顕微鏡写真(横幅136mm)を用いて、写真上で約10mm間隔で12カ所、外径を測定し、顕微鏡写真のスケールから外径を換算して算出した。算出された導電線の平均外径は、14.57μmであった。こうして得られた測定結果から、導電性塗膜の膜厚を、(14.57−11.8)/2=1.385(μm)と算定した。導電性塗膜の周囲長は、11.8(裸の繊維の直径)×3.14=37(μm)と算定した。これらの結果から、導電性塗膜の断面積を、37×1.385=51.25μm=0.5125×10−6cmとした。これらの測定結果と、測定した抵抗値とを基にし、一束単位(150本)で体積抵抗率を算出した結果を、表1に示す。
【0048】
【表1】

たとえば、A−I、20Hzの場合、体積抵抗率は、
9.0(Ω)×0.5125×10−6(cm)×150(本数)÷2.1(cm)=3.3×10−4(Ω・cm)として計算した。
【0049】
表1から明らかなように、常温乾燥においても、10−4Ωcmのレベルの低抵抗値を示し、高温焼結すれば10−6Ωcmのレベルまで抵抗値を下げることができる。常温乾燥によって得られた試料の体積抵抗率が、高温焼結の場合に比べて高いのは、溶剤が完全に抜け切れていないからと考えられ、時間経過とともに徐々に溶剤が抜けていくことで、高温焼結の試料の体積抵抗率に徐々に近付くと考えられる。
【0050】
他の実施例として、上記実施例と同様にして製作した導電線のSEM写真を図6に示す。なお、試料に使用した導電性塗料は上記実施例と同様であるが、繊維は直径30μmの高強度繊維を使用した。図6は、500倍のSEM写真であり、箔片状銀粉が単糸の表面を覆っている状態が示されている。
【0051】
さらに他の実施例として、上記実施例と同様にして試料を作成し、導電線試料を樹脂で固めて断面をカットし、カット面を研磨してX線マイクロアナライザー付き走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製JSM−8000)で分析した。分析結果の画像を、図7に示す。なお、試料に使用した導電性塗料は上記実施例と同じであるが、繊維は直径30μmの高強度繊維を使用した。図7において、淡色で示されている部分が銀の存在領域であり、銀が単糸の周囲を被覆していることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】導電性塗料の塗布工程を概念的に示した斜視図である。
【図2】導電性塗料が塗布されていない繊維製芯材のSEM写真(100倍)である。
【図3】図2の写真の一部を拡大したSEM写真(1000倍)である。
【図4】本発明に係る導電線の実施例を撮影したSEM写真(100倍)である。
【図5】図4の写真の一部を拡大したSEM写真(1000倍)である。
【図6】本発明に係る導電線の他の実施例を撮影したSEM写真(500倍)である。
【図7】本発明に係る導電線の更に他の実施例を断面分析したX線マイクロアナライザーの分析画像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂中に所定量の箔片状金属粉を含有する導電性塗膜が繊維製芯材に被覆された導電線であって、前記繊維製芯材がマルチフィラメントであってその単繊維の各々に前記導電性塗膜が被覆されており、前記塗膜中において前記箔片状金属粉が互いにずれ重なって導通していることを特徴とする導電線。
【請求項2】
前記薄片状金属粉が、銀、アルミニウム、及び、銀メッキされた銅からなる群から選ばれる少なくとも1種により形成されていることを特徴とする請求項1に記載の導電線。
【請求項3】
前記箔片状金属粉は、平均粒径が1〜40μmであることを特徴とする請求項1に記載の導電線。
【請求項4】
前記導電性塗膜が、平均粒径4〜8μm、比表面積1.4〜2.4m/g、見掛密度0.5〜0.9g/cmの箔片状銀粉を35〜45重量部と、樹脂15〜25重量部とを含有することを特徴とする請求項1に記載の導電線。
【請求項5】
前記繊維製芯材は、高強度繊維で形成され、単繊維の直径が10〜200μmであることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の導電線。
【請求項6】
無撚繊維の束からなる繊維製芯材を、支持体上において幅方向に扁平状に広げて並べる工程と、
並べられた繊維の束の長さ方向に沿って、樹脂中に所定量の箔片状金属粉を含む導電性塗料を、前記繊維製芯材に印刷する工程と、
前記繊維製芯材に印刷された前記導電性塗料を乾燥させる工程と、
を含むことを特徴とする導電線の製造方法。
【請求項7】
前記導電性塗料を乾燥させる前に、前記導電性塗料を印刷した前記無撚繊維に撚りをかける工程を更に含むことを特徴とする請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記導電性塗料を繊維製芯材に印刷する方法が、メッシュスクリーン印刷及びロールコータの少なくとも一方であり、繊維の束の長さ方向に沿ってスキージ及びロールの少なくとも一方を移動させることを特徴とする請求項6又は7に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−108662(P2010−108662A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−277481(P2008−277481)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(300078763)株式会社高友産業 (4)
【Fターム(参考)】