説明

尿素水添加装置

【課題】エンジン運転中に尿素水の添加を一時的に停止させる場合に、尿素水インジェクタの内部における尿素の析出を防止し、目詰まりを回避する。
【解決手段】エンジン運転中にエンジン排気に対する尿素水の添加が一時的に停止されたことを検知するとともに、尿素水インジェクタ8の内部が高温状態にあるか否かを判定する。尿素水の添加が一時的に停止されたことを検知したときに、尿素水インジェクタ8の内部が高温状態にあると判定した場合は、尿素水の添加が停止されたことの検知後所定の時間に亘って尿素水インジェクタ8内の共通の通路(尿素水通路)にアシストエアを供給し、尿素水インジェクタ8の内部を冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン排気に尿素水を添加する装置において、尿素水インジェクタの内部における尿素の析出を防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
尿素SCRシステムでは、エンジン排気にアンモニアの前駆体である尿素を水溶液の状態で噴射供給し、尿素水から排気熱を利用した加水分解反応によって生じたアンモニアを排気中のNOxと還元触媒上で反応させることで、NOxを選択的に還元浄化する。このような尿素SCRシステムでは、貯蔵タンクに蓄えられている尿素水を電動ポンプによって汲み出し、排気管に貫通設置された尿素水インジェクタを通じて排気中に噴射するのが一般的である。ここで、エンジン運転中(従って、NOxの排出が継続している。)に何らかの要因によって排気に対する尿素水の添加を一時的に停止させる必要が生じた場合に、尿素水インジェクタ内の尿素水通路及び尿素水を尿素水インジェクタに導入するための配管(尿素水供給管)に尿素水が残ることとなり、この残留尿素水の一部が排気熱の影響を受けて尿素を析出し、尿素水通路に目詰まりを生じさせるという問題がある。尿素水インジェクタ先端の噴孔周辺における尿素の析出を回避する技術として、従来次のようなものが存在する(下記特許文献1)。エンジンの運転停止に伴って排気に対する尿素水の添加を停止させる際に、尿素水噴射用のものと同一の噴孔にアシストエアを供給して噴孔周辺に残留する尿素水を押し流し、残留尿素水を由来とする尿素の析出を防止するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−031746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前掲特許文献1に記載の技術は、エンジンの運転停止に伴って尿素水の添加を停止させる際に、運転停止中は排気からの受熱がないことを考慮して常にアシストエアを供給し、残留尿素水を噴孔周辺から排除するものであり、エンジン運転中に尿素水の添加を一時的に停止させる場合を想定していない。尿素水添加の一時的な停止は、エンジン排気の温度が上記排気熱を利用した尿素の加水分解反応にとって充分ではない場合等に行われ得るが、エンジン運転中においては仮に噴孔周辺で尿素の析出が生じたとしても排気からの受熱によって析出した尿素を溶解し、除去することが可能である。これに対し、尿素水の添加を停止させる際に尿素水インジェクタの内部における温度が上昇しており、尿素水インジェクタ内の尿素水通路が尿素の析出を生じさせる温度状態にある場合は、内部で析出した尿素を噴孔周辺の尿素析出物と同様に排気からの受熱によって溶解させて除去することは難しい。
【0005】
そこで、本発明は、エンジン運転中に尿素水の添加を一時的に停止させる場合に、尿素水インジェクタの内部における尿素の析出を防止し、目詰まりを回避することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、エンジン排気に尿素水を添加するための尿素水インジェクタであって、エンジンにおいて排気通路に面して開口するように設置される噴孔を備え、尿素水及び噴射補助ガスが前記噴孔に繋がるこの尿素水インジェクタ内の共通の通路を同時又は交互に流通可能に構成された尿素水インジェクタと、エンジン排気に対する前記尿素水インジェクタからの前記尿素水の添加を制御するコントロールユニットと、を含んで構成される。本発明の一形態において、前記コントロールユニットは、エンジン運転中にエンジン排気に対する前記尿素水の添加が一時的に停止されたことを検知する添加停止検知部と、前記尿素水インジェクタの内部が高温状態にあるか否かを判定する温度状態判定部と、前記温度状態判定部の判定結果を取得して前記共通の通路への前記噴射補助ガスの供給を制御するガス供給制御部と、を含んで構成され、前記ガス供給制御部は、前記添加停止検知部によって前記尿素水の添加が一時的に停止されたことが検知されたときに、前記温度状態判定部から前記尿素水インジェクタの内部が高温状態にあるとの判定結果を取得した場合は、前記尿素水の添加が停止されたことの検知後所定の時間に亘って前記共通の通路に前記噴射補助ガスを供給する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、エンジン運転中における尿素水添加の一時的な停止を添加停止検知部によって検知する。添加停止検知部は、エンジン排気に対する尿素水添加量が実質的に0になった(又は設定された)ことを検知することによってこれを判断することが可能である。そして、ガス供給制御部は、添加停止検知部によって尿素水の添加が一時的に停止されたことが検知されたときに、温度状態判定部から尿素水インジェクタの内部が高温状態にあるとの判定結果を取得した場合に、尿素水添加の停止の検知後所定の時間に亘って尿素水インジェクタ内の上記共通の通路に噴射補助ガスを供給する。これにより、エンジン運転中に尿素水の添加を一時的に停止させる際に、尿素水インジェクタの内部が高温状態にあり、尿素水インジェクタ内の尿素水通路において尿素の析出を生じる可能性がある場合に、共通の通路に噴射補助ガスを流通させて尿素水インジェクタの内部を冷却し、尿素の析出を防止して、目詰まりを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態に係る尿素水添加装置の構成を概略的に示す模式図
【図2】同上実施形態に係る尿素水添加装置を構成する尿素水インジェクタの要部断面図
【図3】同上実施形態に係る尿素水添加装置の添加停止時における動作を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る尿素水添加装置全体の構成を概略的に示している。本実施形態に係る尿素水添加装置は、エンジン排気に対し、尿素水を図示しない還元触媒の排気上流側で添加する。
本実施形態において、NOxの還元剤であるアンモニアは、その前駆体である尿素の水溶液の状態で尿素水貯蔵タンク2に蓄えられている。尿素水貯蔵タンク2内の尿素水は、尿素水供給ポンプ(電動ポンプ)4によって汲み上げられ、尿素水供給管6を介して尿素水インジェクタ8に供給される。尿素水インジェクタ8は、大まかにはインジェクタ本体81、ノズル部82及びインレットコネクタ83からなり、インジェクタ本体81が排気通路Pの管壁(排気管)にフランジ結合されるとともに、インジェクタ本体81の一部及びノズル部82が排気通路Pに挿入されて、ノズル部82先端に設けられた噴孔が排気通路Pに面して開口している。図2は、尿素水インジェクタ8の、その中心軸に平行な断面を示しており、インレットコネクタ83内における尿素水通路の内面に複数の段差Sが形成されている様子を示している。後に述べるように、本実施形態では、尿素水の添加を一時的に停止させる際に、この断差Sの部分に残留する尿素水に由来する尿素の析出を特に問題とする。
【0010】
噴射補助ガスである清浄空気(アシストエア)は、高圧エアタンク10に圧縮状態で貯蔵されており、高圧エアタンク10からエア供給管12を介して尿素水インジェクタ8に供給され、尿素水供給管6を通じて供給された尿素水とともに排気通路Pに噴射される。ここで、アシストエアによって尿素水の拡散微細化を促進させることで、図示しない還元触媒におけるNOx浄化効率の改善が図られている。エア供給管12には圧力制御弁14が介装されており、これによってアシストエアの供給圧力が制御される。本実施形態では、エア供給管12と尿素水供給管6とが連通管16によって接続されており、エア供給管12と連通管16との接続部に設置された方向切換弁18によってアシストエアが通過する方向が切り換えられる。具体的には、アシストエアは、エンジン排気に尿素水を添加する通常作動時においてはエア供給管12を介して尿素水インジェクタ8に供給され、尿素水の拡散微細化促進に利用される。一方で、尿素水の添加を停止させる添加停止時においては後に述べる所定の条件が成立した場合に方向切換弁18によって連通管16に案内され、尿素水供給管6の一部を介して尿素水インジェクタ8に供給される。このように尿素水供給管6の一部を介して供給されたアシストエアは、尿素水インジェクタ8の内部において尿素水噴射用のものと同一の通路を流れ、同一の噴孔から排気通路Pに噴射される。ここで、アシストエアは、尿素水インジェクタ8内の尿素水通路を流れる過程で尿素水インジェクタ8の内部を冷却するとともに、インレットコネクタ83内の断差S付近に残留する尿素水を押し流し、排気通路Pに排出する。
【0011】
コントロールユニット22は、尿素水インジェクタ8からの尿素水の添加を制御する。本実施形態では、排気温度センサ32、尿素水濃度センサ34、運転状態センサ36及びNOxセンサ38等が設けられており、コントロールユニット22は、これらの各種センサの検出値を入力し、これをもとに尿素水供給ポンプ4、圧力制御弁14及び方向切換弁18等の動作を制御するための指令信号を生成及び出力する。本実施形態において、排気温度センサ32は、排気通路Pの管壁(排気管)を貫通して設置され、エンジン排気の温度を検出する。尿素水濃度センサ34は、尿素水貯蔵タンク2に蓄えられている尿素水の濃度を検出する。運転状態センサ36は、エンジン運転状態の指標としてエンジンの回転速度等を検出し、NOxセンサ38は、エンジン排気のNOx濃度を検出する。
【0012】
図3は、本実施形態に係る尿素水添加装置の添加停止時における動作を示すフローチャートである。
S102では、エンジン運転中に排気に対する尿素水の添加が一時的に停止されたか否かを判定する。本実施形態において、この判定は、コントロールユニット22がエンジン運転状態等をもとに算出した尿素水添加量が0となったか否かを判定することによって行う。例えば、エンジン排気がその熱を利用した尿素の加水分解反応にとって充分に高温でない場合に、尿素水の添加を一時的に停止させるため、コントロールユニット22によって尿素水添加量が0に設定される。尿素水の添加が停止されたと判定した場合にのみ、S104に処理を進める。本実施形態では、S102における動作によって「添加停止検知部」の機能が実現される。
【0013】
S104では、尿素水インジェクタ8の内部温度(具体的には、インレットコネクタ83内における断差S付近の温度)Tiを推定する。本実施形態では、エンジン排気の温度(排気温度)Texhと、排気温度が当該温度に維持されている時間Δt1とに応じて尿素水インジェクタ8内における所定の箇所の温度(断差S付近の温度)Tiを実験的に求め、割り付けたテーブルデータを参照して演算推定する。
【0014】
S106では、推定した内部温度Tiが尿素水インジェクタ8の高温状態を示す所定の温度以上であるか否かを判定する。所定の温度以上である場合は、S108に処理を進め、それ以外の場合は、S112に処理を進める。本実施形態では、S104及びS106における動作によって「温度状態判定部」の機能が実現される。
S108では、方向切換弁18によって尿素水の供給経路を切り換え、尿素水噴射用のものと共通の経路及び同一の噴孔を介してアシストエアを排気通路Pに噴出させる。これにより、尿素水インジェクタ8の内部が冷却されて尿素の析出が抑制されるとともに、インレットコネクタ83内の断差S付近に残留する尿素水が排除される。
【0015】
S110では、尿素水の添加が停止された後、尿素水インジェクタ8の冷却及びその内部における残留尿素水の排除に必要とされる時間Δt2が経過したか否かを判定する。所定の時間Δt2を経過した場合は、S112へ処理を進め、経過していない場合は、アシストエアの供給を継続し、尿素水インジェクタ8の内部を引き続き冷却する。
S112では、方向切換弁18の向きを通常状態に復帰させるとともに圧力制御弁14を遮断して、アシストエアの供給を停止させる。本実施形態では、S108〜S112における動作によって「ガス供給制御部」の機能が実現される。
【0016】
このように、本実施形態によれば、エンジン運転中における尿素水添加の一時的な停止に際し、尿素水インジェクタ8の内部が高温状態にある場合に、尿素水添加の停止後所定の時間に亘って尿素水インジェクタ8内の尿素水通路(「共通の通路」に相当する。)にアシストエアを供給するようにしたことで、尿素水インジェクタ8の内部を冷却するとともに、内部に残留する尿素水を排除し、残留尿素水に由来する尿素の析出を防止することができる。特に本実施形態では、尿素水インジェクタ8の内部温度Tiとしてインレットコネクタ83内における断差S付近の温度を推定するようにしたことで、尿素の析出が特に問題となる部分(断差S付近の部分)が高温状態にある場合にアシストエアの供給が実行されることとなるので、アシストエアの無駄な消費を回避し、効率的な冷却が可能である。これにより、エンジン作動中に尿素水の添加を一時的に停止させる際に、尿素水インジェクタ8の内部における尿素の析出を防止(又は少なくとも抑制)して、目詰まりを回避することができる。
【0017】
以上の説明では、エンジン排気に対する尿素水の添加をアシストエアによって支援し、尿素水とアシストエアとをノズル部82内で予め混合させて排気通路Pに噴射する場合について説明した。これに限らず、本発明は、アシストエアを採用しない噴射方式の尿素水添加装置に適用することも可能である。そのような場合も、上記同様の配管構造によって尿素水供給管6の一部を尿素水及びアシストエアの共用とし、尿素水の添加を一時的に停止させる際に共通の通路を通じてアシストエアを噴出させ、尿素水インジェクタの内部を冷却し、内部に残留する尿素水を排除することで、残留尿素水に由来する尿素の析出を防止することができる。
【符号の説明】
【0018】
2…尿素水貯蔵タンク、4…尿素水供給ポンプ、6…尿素水供給管、8…尿素水インジェクタ、81…インジェクタ本体、82…ノズル部、83…インレットコネクタ、10…高圧エアタンク、12…エア供給管、14…圧力制御弁、16…連通管、18…方向切換弁、22…コントロールユニット、32…排気温度センサ、34…尿素水濃度センサ、36…運転状態センサ、38…NOxセンサ、P…排気通路、S…断差。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン排気に尿素水を添加するための尿素水インジェクタであって、エンジンにおいて排気通路に面して開口するように設置される噴孔を備え、尿素水及び噴射補助ガスが前記噴孔に繋がるこの尿素水インジェクタ内の共通の通路を同時又は交互に流通可能に構成された尿素水インジェクタと、
エンジン排気に対する前記尿素水インジェクタからの前記尿素水の添加を制御するコントロールユニットと、
を含んで構成され、
前記コントロールユニットは、
エンジン運転中にエンジン排気に対する前記尿素水の添加が一時的に停止されたことを検知する添加停止検知部と、
前記尿素水インジェクタの内部が高温状態にあるか否かを判定する温度状態判定部と、
前記温度状態判定部の判定結果を取得して前記共通の通路への前記噴射補助ガスの供給を制御するガス供給制御部と、
を含んで構成され、
前記ガス供給制御部は、前記添加停止検知部によって前記尿素水の添加が一時的に停止されたことが検知されたときに、前記温度状態判定部から前記尿素水インジェクタの内部が高温状態にあるとの判定結果を取得した場合は、前記尿素水の添加が停止されたことの検知後所定の時間に亘って前記共通の通路に前記噴射補助ガスを供給する、尿素水添加装置。
【請求項2】
エンジン排気の温度を検出する排気温度センサを更に含んで構成され、
前記温度状態判定部は、前記排気温度センサの排気温度検出値をもとに、所定以上の排気温度が所定の時間に亘って検出された場合に、前記尿素水インジェクタの内部が高温状態にあると判定する、請求項1に記載の尿素水添加装置。
【請求項3】
前記所定の温度及び時間は、前記尿素水インジェクタのノズル部を尿素水貯蔵タンクから伸びる尿素水供給管に接続するためのコネクタ内の尿素水通路において尿素の析出が生じる条件に適合されている、請求項2に記載の尿素水添加装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−132330(P2012−132330A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283175(P2010−283175)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000003908)UDトラックス株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】