局所療法送達及び局所器官保護
体内の局所部位に灌流するためのシステムが、カテーテル・アセンブリを含む。カテーテル・アセンブリは、局所部位に灌流液を送達するように適合された静脈アクセス・ラインと、局所部位から灌流液を還流するように適合された静脈又は動脈還流ラインと、局所部位に灌流液を灌流している間及び前記局所部位から灌流液を還流している間に局所部位と身体の体循環との間でのいくらか又は実質的に全ての生理学的血流を防げるように適合された閉塞デバイスとを有する。システムは、未処理の、処理された、又は不活性化処理された血液を制御された態様で局所部位に灌流する及び/又は局所部位から還流する過程中に、灌流液として使用するための血液の調整を容易にするためにカテーテル・アセンブリに関連付けられた血液回路を含むことができる。送達機械が、実質的に局所部位のみに灌流液を提供するために、局所部位に灌流液を送達する及び局所部位からいくらか又は全ての灌流液を還流するように血液回路及びカテーテル・アセンブリを制御することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に療法(または治療;therapy)の送達(delivery)に関し、より詳細には、療法の全身的な影響を最小限にするため又はなくすために局所部位に療法を閉じ込めることができる、標的身体組織構造への療法の局所送達に関する。
【背景技術】
【0002】
長い間、療法投与技法は全身経路に依拠していた。これは、そのような経路のアクセス性が良いからである。例えば全身経路は、経口、静脈内、筋肉内、皮膚、皮下、吸入送達技法によってアクセスすることができる。しかしほとんどの療法は特定の組織構造を標的としており、そのような局所治療のための全身投与は、全身投与の希釈及び/又は望ましくない全身的な副作用により、非効率的又は非効果的であることがある。いずれにせよ、治療の最大の利益は、全身投与によっては実現されない可能性が高い。
【0003】
現在実用されている局所投与技法は、標的組織構造への直接の適用によって局所治療の効果を改良する。しかし、組織構造を通る全身血液循環により、依然として投与される治療の希釈が生じる。さらに、適用される治療の対流輸送が全身的な副作用を引き起こすこともあり、これは局所的に投与されたときでさえ潜在的な治療効力を制限する。したがって典型的には、局所化されているが隔離はされていない療法投与の長期の適用は、療法の最大の効果を提供するのに必要とされる高い器官対身体濃度勾配を維持しない。
【0004】
動物実験で有望な結果を示す多くの治療は、治療の標的とされている組織構造外での許容できない全身的及び/又は局所的な悪影響により、臨床での使用はできない。そのような療法は非常に強いことがあるが、重症状態又は命の危険がある状態には重要な治療であることがある。一例は硬い腫瘍の治療であり、これは典型的には、腫瘍部位に達するように化学療法剤の全身的な静脈内注入を行うというアプローチが取られる。しかし、多くの化学療法剤の全身的な毒性によって、応答を引き起こすために投与量及び/又は曝露期間を維持する可能性が制限される。
【0005】
別の例は、損傷した組織への動脈循環の急性の重度の破壊によって引き起こされる虚血組織の治療である。虚血性創傷の例は、心筋梗塞(心臓発作)及び脳血管障害(卒中)である。虚血性創傷の治療は、典型的には、直接的な動脈インターベンションを含む。しかし、従来の動脈インターベンション技法は完了までにかなりの時間が必要であり、動脈塞栓や再灌流創傷によるものなど二次創傷の危険をもたらす。再灌流創傷は、動脈破裂が解決された後、組織への血液供給の突然の戻りによって引き起こされることがある。
【0006】
心臓発作のための現在標準的な治療は再灌流治療であり、これは主に、ステント及び/又はバルーン血管形成及び/又は血管溶解治療など、経皮的冠動脈形成術(PCI)によるものである。そのような治療の目標は、できるだけ早く心筋への組織灌流を再確立して組織損傷を最小限に抑え、組織サルベージ(tissue salvage)を促進することである。しかし、PCIにより凝血デブリが下流に流れ、より小さな動脈の遠位閉塞が生じる可能性がある。さらに、虚血組織自体への血液供給の戻りが組織に損傷を及ぼすことがある(すなわち再灌流創傷)。
【0007】
動脈循環破壊及び/又は再灌流創傷によって引き起こされる組織損傷を防止する又は最小限にするための組織冷却治療の概念が研究されている。しかし、従来の全身冷却は、重度の震え、電解質シフト及び全身的な血管拡張による血液動力学的な不安定性、凝固異常、又は出血傾向の増加、及び感染など、全身的な悪影響を引き起こすことがあり、これは患者管理をさらに複雑にする。さらに、従来の低体温療法投与では、標的組織への療法送達が非効率的になることがあり、上述した望ましくない全身的な副作用を伴わずに標的組織を迅速に冷却することはできない。したがって、重度の創傷後の組織の死を冷却治療によって効果的に減少できることを実証する前臨床研究での証拠があるにも関わらず、従来の全身冷却の欠点により、一般に、重度の虚血性創傷と外傷性創傷どちらにも冷却治療の臨床使用ができない。
【0008】
危険にさらされている虚血心筋に逆行で送達される酸素付加血液の灌流などの逆行性の療法的灌流が、酸素付加血液を灌流不足の心筋組織に迅速に到達させるための独立した治療又はPCIの補助的治療として研究されている。虚血脳卒中の文脈では、酸素付加血液の逆行性灌流も研究されており、酸素付加自己血を、頸静脈を通して冠状静脈洞の一方又は両方にポンピングすることができる。1つの従来の方法は、バルーン・カテーテルによって両方の頸静脈を閉塞し、或いは望みであれば脳内のより高い位置から還流経路を閉塞し、動脈血液を冠状洞の一方又は両方に継続的にポンピングすることを示す。
【0009】
酸素付加血液を虚血組織に迅速に提供することに加えて、研究者らは、静脈逆行性灌流が、逆行性灌流される組織の低体温療法のための有利な技法となり得ることを認識している。再灌流療法と併用する適度な低体温(32〜33℃)が、再灌流療法のみと比べたときに組織保護の重要な改良を提供することが示されている。療法的冷却によって組織構造を直接治療することによって、システム療法的冷却の多くの望ましくない副作用を回避することができる。
【0010】
酸素付加血液の逆行性灌流、及び逆行性灌流プラットフォームを通る対象の低体温療法の有望な結果が得られているにも関わらず、現在の提案は複雑なシステムに関わるものであり、動脈カテーテル挿入の必要性、及び/又は不適切な若しくは問題のある逆行性灌流を含む。さらに、今日提案されているシステムは、標的組織構造を実質的に隔離することはできず、したがって従来の療法送達は、典型的には体循環に対する汚染を生じる。低体温療法を含めた様々な適用例に関して、大きな汚染は望ましくなく、標的組織構造に対する療法の効果を制限する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって本発明の目的は、療法を局所的に送達し、実質的に標的組織構造のみに療法を隔離することである。
【0012】
本発明の別の目的は、高い器官対身体療法勾配を維持することである。そのような勾配は、標的器官での療法的濃度と、体循環でのそのような療法的濃度との差である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によって器官循環を体循環から隔離することができ、それにより、依然として身体に対するその役割を果たしながら器官循環が体循環からコンパートメント化される。したがって療法は、長期にわたって高い器官対全身療法勾配又は全身対器官療法勾配を維持するように送達することができる。特定の適用例では、本発明は、全身的な副作用を防止する又は最小限にするように特定の器官の局所治療を促進する。全身的な副作用への患者の耐性により現在制限されている又は実用可能でない強力な治療を、本発明のシステムによって適用することができる可能性がある。そのような強力な治療の例としては、低体温療法や化学療法がある。他方、全身治療が好ましいが、重要器官に対するその毒性によって制限されているとき、本発明の器官循環隔離の概念を使用して、全身治療による器官損傷を防止すること又は最小限にすることができる。したがって、特定の器官(組織構造)に強力な治療を局所化できること、又は特定の器官(組織構造)から強力な治療を隔離できることにより、特定の既存の治療の用途が広がり、より多くの患者により多くの利益を提供することができる。
【0014】
いくつかの技法及びデバイス構成を本明細書で提案するが、本発明の概念は、一般に、(i)局所療法送達、(ii)療法隔離、及び(iii)区分的な療法の不活性化によって記述することができる。そのような原理は、器官灌流ライン、器官還流ライン、及び全身ラインを有するカテーテル挿入によって達成することができる。その結果、単一カテーテル・プラットフォームが、様々な臨床適用例に役立つことがある。多くの状況で、本発明のシステムによるカテーテル挿入は、比較的低リスクの静脈アクセスを含むことがあり、動脈インターベンションを必要としない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の療法送達システムの概略図である。
【図2】図1に示されるシステムの概略図である。
【図3】本発明の療法送達システムの概略図である。
【図4】図3に示されるシステムの概略図である。
【図5】図3に示されるシステムの概略図である。
【図6】本発明の療法送達システムの概略図である。
【図7】図6に示されるシステムの概略図である。
【図8】図6に示されるシステムの概略図である。
【図9】図6に示されるシステムの概略図である。
【図10】図6に示されるシステムの概略図である。
【図11A】本発明の療法送達システムの概略図である。
【図11B】本発明の療法送達システムの概略図である。
【図12】本発明の療法送達システムの概略図である。
【図13A】本発明の療法送達システムに関連付けて使用可能なバルーン固定デバイスの概略図である。
【図13B】本発明の療法送達システムに関連付けて使用可能なバルーン固定デバイスを示す図である。
【図14】本発明の療法送達システムの概略図である。
【図15】図14に示されるシステムの一部の概略図である。
【図16】図14に示されるシステムの一部の概略図である。
【図17】図14に示されるシステムの一部の概略図である。
【図18】本発明の療法送達システムの実装形態の概略図である。
【図19A】図18に示されるシステムの一部の概略図である。
【図19B】図18に示されるシステムの一部の概略図である。
【図20A】図18に示されるシステムの一部の概略図である。
【図20B】図18に示されるシステムの一部の概略図である。
【図20C】図18に示されるシステムの一部の概略図である。
【図21】本発明の療法送達システムの一部の概略流れ図である。
【図22】本発明の療法送達システムの一部の概略流れ図である。
【図23】本発明の療法送達システムの一部の概略流れ図である。
【図24】本発明の療法送達システムの一部の概略流れ図である。
【図25】本発明の療法送達システムの一部の概略流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
ここで、本発明の様々な可能な構成を表すように意図されている添付図面を参照しながら説明する詳細な実施例に関して、上に挙げた目的及び利点を、本発明によって提供される他の目的、特徴、及び進歩と共に示す。本発明の他の実施例及び観点は、当業者の理解の範囲内にあるものと考えられる。
【0017】
本発明の一つの観点は、身体の体循環から少なくとも部分的に隔離された組織構造循環コンパートメントを確立することである。本発明において、用語「組織構造」は、血液循環が通る器官や手足など哺乳動物の身体の細胞構造を意味することがある。したがって、本明細書において、用語「器官」と「組織構造」は、血液流体が循環される哺乳動物の身体又は体内の組織細胞を表すものとして交換可能に使用することができる。本発明において、用語「全身性」は、哺乳動物の身体全体にわたる血液循環を意味することがある。したがって、本発明の一つの観点は、組織構造の血液循環を体循環の残りの部分から少なくとも部分的に分離することである。組織構造循環を少なくとも部分的に隔離することによって、局所組織構造療法及び/又は組織構造保護を実現することができる。
【0018】
本発明は、標的組織構造の静脈系を通して療法を送達して、局所治療の効果を最大にし、且つ組織構造循環を体循環から少なくとも部分的に隔離して、療法の希釈化及び/又は全身的な副作用を最小限にする又は防止することを対象とすることがある。静脈系は、組織構造及びその毛細血管床への比較的安全であり直接的なアクセスを提供し、動脈系へのアクセスに関連付けられる危険を伴わない。本発明の手法は、組織構造に局所化された低体温療法、薬物送達、化学療法、及び細胞ベースの療法を含めた様々な適用例で使用することができる。さらに本発明は、全身化学療法による腎不全の防止など、全身治療から脆弱な組織構造を保護するために使用することができる。本発明のさらなる適用例は、副次的な全身的創傷を引き起こす可能性がある重度の創傷を伴う大きな器官のための局所器官血漿交換又は器官透析である。
【0019】
いくつかの実施例では、送達される療法の全身的な影響を最小限にする又はなくすのに、療法不活性化が有益であることがある。療法の不活性化とは、例えば冷却された血液を生理学的温度に加温すること、生理活性剤中の毒素を最小限にする又はなくすように生理活性剤を代謝させること、及び療法で採用される生理活性剤の全身的な活性を中和するために補償剤を添加することを含むことがある。
【0020】
本発明の一つの観点では、組織構造の循環が体循環から実質的に完全に隔離されることがある。組織構造の完全隔離の構成の概略図が図1に示されており、ここではカテーテルが標的組織構造(器官)の動脈流入構造及び静脈還流構造内に挿入されることがある。カテーテルはそれぞれ閉塞デバイスを含み、閉塞デバイスは、それぞれの動脈流入構造又は静脈還流構造を選択的に実質的に閉塞し、それによりそこを通る全ての動脈流又は静脈流を実質的に閉塞するように適合されている。標的組織構造の循環隔離を完成させるようにカテーテル及びそれぞれの閉塞デバイスの配置が展開された後、標的組織構造への局所血液循環を提供するために体外血液調整装置が提供される。
【0021】
概略的に示した完全隔離システム8は、標的組織構造11の静脈還流構造20に位置決め可能な遠位部分12を有する静脈カテーテル10を含む。静脈カテーテル10の遠位部分12は第1の閉塞デバイス14を含み、第1の閉塞デバイス14は、静脈還流構造20を選択的に実質的に閉塞し、それにより全ての組織構造11の静脈還流を実質的に閉塞するように適合されている。
【0022】
図1に示されるように、循環の流れの方向は、順行(動脈から静脈)でも逆行(静脈から動脈)でもよい。逆行性の流れと組織構造の完全隔離とを採用する実施例では、器官(組織構造)循環コンパートメントの還流経路として動脈循環を使用することができる。典型的には静脈系が動脈系よりも多くの側副循環を有するので、器官循環コンパートメントを通る逆行性の流れが順行性の流れよりもいくぶん好ましいことがある。その結果、逆行性の流れは、順行性の流れよりも器官組織及びその毛細血管床へのアクセスが良いことがある。さらに、逆行性の灌流は、標的器官(組織構造)の閉塞後虚血領域へのアクセスがより良いことがある。さらに、逆行性の流れは、器官循環コンパーメントを通る順行性の流れに比べ、動脈損傷、及び動脈塞栓によるデブリ閉塞の可能性を最小限にすることができる。器官循環が体循環とは無関係に制御されるので、器官の灌流の流量及び圧力を別個に最適化して、細胞レベルで最大の組織灌流又は療法交換を実現することができる。また、本発明の療法送達の長期使用にわたって血管閉塞を最小限にするために、器官循環コンパートメントを通る双方向の流れ(交互の順行性の流れと逆行性の流れ)が有益となることもある。
【0023】
器官循環コンパートメントを通る灌流用に自己血を調整するために、体外血液ループ内にある血液調整装置が本発明のシステムに提供される。体外療法送達用の血液調整装置は、器官循環コンパートメントに入る血液容積とそこから出る血液容積を調整する又は等しくするために流量−容積調節メカニズムを含むことがある。流量−容積調節メカニズムは、出入りのバランスを監視し、選択的に器官循環ループに血液を追加するように、又は器官循環ループから血液を除去するように適合され、バランスを取るための血液は体循環から供給される。このようにして、流量−容積調節メカニズムは、標的器官を通る出入りの流れのバランスを取るように適合されている。
【0024】
いくつかの実施例では、血液調整装置はさらに、器官循環コンパートメントから出て体循環に入る血液を調整するように適合される。そのような調整は、図1では「治療不活性化」として概略的に示されており、ここで、血液調整装置は、器官循環ループ内で標的器官を通っている療法を不活性化する。療法の全身的な影響を最小限にする又はなくすために、体循環に血流を戻す前に、送達されている療法を不活性化することが有益となることがある。
【0025】
図1に概略的に記載される完全器官隔離構成の一実装形態が図2に示されており、ここで、システム8は、標的組織構造(器官)11での静脈還流構造20に位置決め可能な遠位部分12を有する静脈カテーテル10を含む。静脈カテーテル10の遠位部分12は第1の閉塞デバイス14を含み、第1の閉塞デバイス14は、静脈還流構造20を選択的に実質的に閉塞し、それにより全ての組織構造11の静脈還流を実質的に閉塞するように適合される。さらに、静脈カテーテル10は、第1の閉塞デバイス14よりも上流に動作可能に配設された灌流ポート16と、第1の閉塞器デバイス14よりも下流に動作可能に配設された全身ポート18とを含む。
【0026】
本発明において、用語「上流」及び「下流」は、動脈、器官、及び静脈を通る変更されていない自然な血流方向など、変えられていない自然な血流方向を表す。したがって静脈還流構造における用語「上流」は、それぞれの組織構造/器官に向かう相対方向を意味し、その組織構造/器官から、そのような静脈還流構造を通して静脈血流が還流される。したがって、(例えば図2に示されるような)逆行性の灌流の場合でさえ、閉塞デバイス(14)よりも「上流に」配設された灌流ポート(16)は、そのような灌流ポート(16)が閉塞デバイス(14)よりも標的組織構造(11)の近位に位置されていることを意味するものと意図される。
【0027】
図2に示されるシステム8はさらに、組織構造11の動脈流入構造22に位置決め可能な遠位部分32を有する動脈カテーテル30を含む。動脈カテーテル30の遠位部分32は第2の閉塞デバイス34を含み、第2の閉塞デバイス34は動脈流入構造22を選択的に実質的に閉塞し、それにより組織構造11の全ての動脈流入を実質的に閉塞するように適合されている。動脈カテーテル30はさらに、第2の閉塞デバイス34よりも下流に動作可能に配設された還流ポート36を含む。
【0028】
いくつかの実施例では、第2の閉塞デバイス34は、組織構造11への全ての動脈流入を実質的に閉塞し、第1の閉塞デバイス14は、組織構造11からの全ての静脈還流を実質的に閉塞する。しかし、動脈系と静脈系の一方又は両方で側副循環を有する組織構造11のためにシステム8を採用することができることが企図されている。したがって、システム8の第1の閉塞デバイス14及び第2の閉塞デバイス34を採用して、組織構造11の標的静脈還流構造及び動脈流入構造のみを閉塞することができる。さらに、全身ポート18は、図2では静脈カテーテル10と関連付けて示されているが、全身ポート18を静脈カテーテル10と動脈カテーテル30の一方又は両方に関連付けることができることが企図されている。
【0029】
システム8は血液調整装置40をさらに含み、血液調整装置40は、灌流ポート16、還流ポート36、及び全身ポート18を共に流体結合する。血液調整装置40は、還流ポート36及び還流ライン2を通る還流血流42としてのそこへの血液供給を調整し、還流血流42の少なくとも一部を、調整された逆行性の灌流血流44として灌流ライン1及び灌流ポート16を通して再灌流し、還流血流42の少なくとも一部を、全身血流46として全身ライン3及び全身ポート18を通して定量供給することができる。上述したように、流量−容積調節メカニズム48を採用して、器官循環コンパートメント内の血流を増減させて、器官循環コンパートメント内部で所望の血流及び流体圧を維持することができる。したがって、流量−容積調節メカニズム48は、全身ポート18を通って体循環コンパートメントに出る血流を可能にする及び/又は促すことができ、或いは全身ライン46に沿って全身ポート18を通って体循環コンパートメントから入る血流を可能にする及び/又は促すことができる。したがって、血流は、血液調整装置40の流量−容積調節メカニズム48によって制御された調節に対応するように、全身ライン46を通して双方向で処理することができる。そのような双方向性は図1に概略的に示されている。典型的には、流量−容積調節メカニズム48は、図1及び図2に示されるものなど本発明の組織構造の完全隔離の実施例でのみ必要とされる。そのような実施例では、組織構造11での動脈流入及び静脈還流が、システム8の少なくとも静脈カテーテル10及び動脈カテーテル30によって実質的に完全に制御される。また、流量−容積調節メカニズム48は、システム8の必須の構成要素ではなく、器官循環コンパートメントへの又はそこからの血流を制御するための任意選択のメカニズムであることも理解されたい。また、システム8によって押し流される標的器官を通る血流は、逆行でも、順行でも、又は交互の逆行と順行でもよいことを図1の概略図から理解されたい。標的器官11を通る順行性の流れに関して、調整された血液の灌流は、血液調整装置40によってライン2を通して定量供給し、ライン1を通して器官11から還流することができる。したがって、少なくともシステム8の灌流ラインと還流ラインの役割を、標的器官11を通る順行性の流れ及び/又は双方向の流れのために逆にすることもできることを理解すべきである。
【0030】
図2に示されるように、システム8は2つの別個のカテーテル10、30、及び2つの血管アクセス点を採用する。例示する実施例では、動脈カテーテル30は、2ルーメン・バルーン・カテーテルであり、第2の閉塞デバイス34は、当技術分野で一般に利用される膨張可能な閉塞バルーンである。動脈カテーテル30の第1のルーメンは還流ライン2であり、第2のルーメンはバルーン膨張及び収縮のために利用することができる。第1の閉塞デバイス14及び第2の閉塞デバイス34はそれぞれ、器官循環を体循環から分離して、分離された器官循環コンパートメントと体循環コンパートメントを形成するための膨張可能なバルーンでよい。灌流ポート16及び還流ポート36は器官循環コンパートメントに開いており、全身ポート18は体循環コンパートメントに開いている。静脈カテーテル10は3ルーメン・バルーン・カテーテルでよく、第1のルーメンは灌流ライン1専用であり、第2のルーメンは全身ライン3専用であり、第3のルーメンはバルーン膨張及び収縮用である。一実施例では、全身ライン3は、動脈塞栓の可能性を最小限にするために静脈カテーテル10に組み込むことができる。
【0031】
カテーテル10、30はそれぞれ、大腿静脈、内頸静脈、若しくは鎖骨下静脈、又は大腿動脈、若しくは頸動脈など任意の一般的な静脈又は動脈アクセスを通して挿入することができる。特定の実施例では、動脈カテーテル30は、動脈アクセスを有するステント送達カテーテル又は血栓除去用カテーテルでよい。還流ポート36及び還流血流42を血液調整装置8に接続するために、シャント43が採用されることもある。
【0032】
特定の実装形態では、図1及び図2に示される完全器官循環隔離システムに必要とされる動脈カテーテル挿入は、標的器官自体又は他の重要器官に対する動脈塞栓合併症の可能性のために望ましくないことがあり、且つ/又は救急時など特定の臨床状況においては実現可能でないことがある。したがって本発明はまた、療法送達を行うために静脈アクセスのみを使用する器官循環コンパートメントの部分隔離も企図する。静脈アクセスは、最小侵襲性技法によって実現することができ、救急施設でさえ比較的迅速に達成可能である。
【0033】
上述した完全隔離技法とは異なり、器官循環の部分隔離は動脈アクセスを必要としない。療法送達のための灌流液は、標的組織構造(器官)の静脈還流構造を通して逆行で適用することができる。この手法では、器官は、いくぶん増加した血流及び流体圧を受ける。静脈は、典型的には比較的高い弾性追従性を示し、したがって本発明の逆行性の灌流技法のより高い血流及び血圧に対応するのに良く適している。実際、より高い器官静脈圧は、静水圧及び組織灌流を増加するのに有利であることがあり、それによって虚血事象によって引き起こされる非流通現象を最小限にし、動脈閉塞後の領域への酸素付加血流が増加する。部分循環隔離は、静脈還流ラインを通して体外血液調整装置に通常の静脈流を分岐して、血液を調整する(例えば酸素付加する、冷却する、生理活性剤添加する)こと、調整された血液材料を、灌流ラインを通して標的組織構造の静脈還流構造に灌流することによって行うことができる。このようにして、アクセスされた静脈は「動脈化」され、追加の酸素付加血流を標的器官に供給する。標的組織構造への動脈流が静脈還流の流れ量に寄与し、ここで動脈流入は閉塞されていないので、静脈還流の流れ量のいくらかの部分のみが体外療法送達に戻され、静脈灌流ラインを通して標的器官に再灌流される。本発明のシステムの静脈還流ラインによって捕捉された余剰の静脈血液容積は体循環に向けられることがあり、任意選択で、体循環に戻る前に療法不活性化システムを通る。組織構造循環の部分隔離に関する本発明の一実施例の概略図が図3に提供される。システム60は、標的組織構造61の第1の静脈還流構造72に位置決め可能な第1の静脈アクセス・ライン64と、組織構造61の第2の静脈還流構造74に位置決め可能な第2の静脈アクセス・ライン66とを含む。一実施例では、第1の静脈アクセス・ライン64は、組織構造61の第1の静脈還流構造72に位置決め可能な遠位部分65を有する第1の静脈カテーテルである。第1の静脈カテーテル64の遠位部分65は第1の閉塞デバイス68を含むことがあり、第1の閉塞デバイス68は、第1の静脈還流構造72を選択的に実質的に閉塞するように適合されている。図4は、図3に概略的に示されるシステム60のより詳細な図を提供する。
【0034】
第2の静脈アクセス・ライン66は、第2の静脈還流構造74に位置決め可能な遠位部分67を有する第2の静脈カテーテルでよい。第2の静脈カテーテル66の遠位部分67は、第2の静脈構造74を選択的に実質的に閉塞するように適合された第2の閉塞デバイス78を含むことがあり、それにより、第1の閉塞デバイス68と共同して、体循環コンパートメントとは別個の組織構造71の器官循環コンパートメントを確立する。しかし、いくつかの実施例では、第1のカテーテル64及び第2のカテーテル66は、組織構造61の静脈還流を部分的にのみ閉塞し、したがって、好ましい調整された血液灌流のために組織構造61の少なくとも一部分を隔離するのに有用である。
【0035】
図3の概略図では、第1の静脈アクセス・ライン64は、灌流血流80のための静脈灌流ライン1に対応することがあり、第2の静脈アクセス・ライン66は、静脈還流の流れ82のための還流ライン2に対応することがある。第1のカテーテル64及び第2のカテーテル66は、それぞれ第1の閉塞デバイス68及び第2の閉塞デバイス78よりも上流に動作可能に配設された灌流ポート76を含むことがある。第1のカテーテル64及び第2のカテーテル66はさらに、還流ポート77及び全身ポート79を含むことがあり、全身ポート79は、それぞれ第1の閉塞デバイス68及び第2の閉塞デバイス78よりも下流に動作可能に配設される。
【0036】
システム60は血液調整装置90をさらに含み、血液調整装置90は、血液調整装置90の器官循環隔離ユニット92で、灌流ポート76、還流ポート77、及び全身ポート79を互いに流体結合する。この実施例では、血液調整装置90は、還流ポート77及び還流ライン2を通る還流血流82としてそこに供給された血液を調整し、還流血流82の少なくとも一部を、調整された逆行性の灌流血流80として灌流ライン1及び灌流ポート76を通して再灌流することができる。調整装置90はさらに、還流血流82の少なくとも一部を、全身血流84として全身ライン3及び全身ポート79を通して定量供給するように構成される。本発明の他の実施例と同様に、全身ポート79で終端する全身ライン3を、第1のカテーテル64と第2のカテーテル66の一方又は両方に組み込むことができることを理解されたい。さらに、第1のカテーテル64と第2のカテーテル66の一方又は両方が、灌流ポート76で終端する灌流ライン1と還流ポート77から延びる還流ライン2の一方又は両方を含むことがあることを理解されたい。
【0037】
図示した実施例では、灌流液は、灌流ライン1を通して組織構造61及びその毛細血管床に向けられ、組織構造61から静脈還流ライン2を通り、組織構造61の第1の静脈還流構造72と第2の静脈還流構造74の間の静脈側副循環を通って戻る。このようにすると、2つの静脈72、74は、それぞれ灌流静脈と還流静脈として働く。いくつかの実施例では、還流ライン2に対する小さな負圧を提供して、組織構造61の静脈血流の大部分を還流ポート77に引き込むことができる。
【0038】
完全隔離実施例に関して上述したように、少なくとも2つの静脈アクセス位置を採用するシステム60は、組織構造循環の完全隔離又は組織構造循環の部分隔離のいずれにも採用することができる。当技術分野でよく知られているように、第1のカテーテル64及び第2のカテーテル66は複数ルーメン・バルーン・カテーテルでよく、第1の閉塞デバイス68及び第2の閉塞デバイス78は膨張可能なバルーンでよい。図示した実例では、第1のカテーテル64は2ルーメン・カテーテルでよく、灌流ライン1用の第1のルーメンと、バルーン68の膨張/収縮用の流体を輸送するための第2のルーメンとを備える。同様に、第2のカテーテル66はトリプルルーメン・カテーテルでよく、還流ライン2用の第1のルーメンと、全身ライン3用の第2のルーメンと、膨張可能なバルーン78に膨張流体を輸送するための第3のルーメンとを備える。閉塞デバイス68、78が閉塞状態に展開された状態で、灌流ライン1及び還流ライン2は器官循環コンパートメントに開き、全身ライン3は体循環コンパートメントに開く。
【0039】
図示した実施例では、還流ポート77は、それぞれ第1の閉塞デバイス68及び第2の閉塞デバイス78よりも上流に配設される。しかし、特に組織構造61が第1及び第2の静脈還流構造72、74に加えて側副静脈還流を有する適用例では、還流ポート77を(体循環コンパートメント内で)第1及び第2の閉塞デバイスよりも下流に配設することができることが企図されている。
【0040】
システム60の複数アクセス・カテーテル構成は、連続的な療法送達のために、同時の灌流と還流を可能にする。連続的であるが、静脈逆行性灌流と還流血流は個別に一定でも周期的でもよく、本明細書で以下により詳細に説明する様式で血液調整装置90によって監視される全身的又は局所的な血行力学又は安全圧力設定点によって調整することができる。
【0041】
システム60に関する理想的な候補の組織構造は、少なくとも2つの主要な静脈還流ラインを含むことがある。特定の実例は脳であり、脳は、頭蓋内静脈洞を通して良く接続されている左右の内頸静脈への静脈還流を有する。その結果、1つの内頸静脈を通る灌流が脳の両側に効果的に灌流することができ、脳の両側からの静脈還流を別の内頸静脈から還流することができ、頭蓋内圧又は脳圧の大幅な増加は生じない。内頸静脈カテーテル挿入も一般的なインターベンションであり、したがって本発明のシステム60は、実践する医師が容易に受け入れることができるものである。
【0042】
システム60の1つの例示的な適用例は、全脳組織に低体温療法を提供することであり得る。第1のバルーン・カテーテル64及び第2のバルーン・カテーテル66に関する常時バルーン膨張が局所脳冷却の助けとなる環境を確立し、全身的な冷却を最小限にする。カテーテル64、66の1つ又は複数に圧力センサを設けることができ、それにより、それぞれの閉塞デバイス68、78を間断的に収縮させて脳循環への可能な逆流を解放することができる。この実施例では、血液調整装置による調整は、灌流血流80を約35℃未満に冷却することを含む。さらに、血液調整装置90が療法不活性化を組み込むことができ、それにより、調整はさらに、全身血流84を生理学的温度まで加温して、望ましくない全身的な冷却を回避することを含む。
【0043】
本発明の別の実施例が図5に示されており、第1のカテーテル102及び第2のカテーテル104は、第1のカテーテル64及び第2のカテーテル66に関して述べたのとは逆方向からの静脈アクセスのために構成される。特に、第1のカテーテル102は、第1の閉塞デバイス108が灌流ポート110に対して遠位に配設されるように配置することができ、灌流ポート110は、(器官循環コンパートメント内で)第1の閉塞デバイス108よりも上流に動作可能に配設される。したがって、灌流血流80は、灌流ポート110から定量供給されて逆行方向で組織構造111に灌流する。図5に示される実施例では、第2のカテーテル104は、(器官循環コンパートメント内で)第2の閉塞デバイス118よりも上流に配設された還流ポート112を含み、したがって灌流ポート110及び還流ポート112は器官循環コンパートメントに開き、全身ポート114は体循環コンパートメントに開く。
【0044】
本発明のさらなる実施例が図6に概略的に示され、ここでシステム120はただ1つの静脈アクセス・ラインを含み、この静脈アクセス・ラインは、少なくとも部分的に隔離された標的組織構造122に局所療法を送達するように適合されている。システム120のより詳細な図が図7に示されている。ただ1つの静脈アクセス・ラインは、組織構造122の静脈還流構造140に位置決め可能な遠位部分126を有する静脈カテーテル124において具現化することができる。カテーテル124の遠位部分126は、静脈還流構造140を選択的に実質的に閉塞するように適合された閉塞デバイス128を含むことがある。一実施例では、閉塞デバイス128は、(図7に示されるように)器官循環コンパートメントを体循環コンパートメントから分離するために、組織構造122の静脈循環を全身循環から実質的に隔離するように展開させることができる。いくつかの実施例では、カテーテル124は、局所器官循環コンパートメントに灌流液を定量供給するために閉塞デバイス128よりも上流に動作可能に配設された灌流ポート132を含む。好ましくは、カテーテル124はさらに、調整された灌流液を生成するための血流をシステム120に供給するために静脈還流血流144を捕捉するための還流ポート134を含む。還流ポート134は、適用例ごとの望みに応じて、閉塞デバイス126よりも上流に配設することも、下流に配設することもできる。閉塞デバイス128よりも下流で還流ポート134を利用する実施例は、側副静脈放出を有する組織構造122、及び/又は閉塞デバイス128の間断的な展開に関わることがある。このようにすると、組織構造122からの静脈還流を、組織構造122での流体圧を許容限度内に維持するように調節することができる。
【0045】
図7に示される構成は例示的な器官循環隔離構成であり、ここでは組織構造122の少なくとも静脈還流構造140を閉塞デバイス128によって連続的に閉塞することができ、灌流ライン1及び灌流ポート132を通して送達される療法を、閉塞デバイス128よりも上流にある還流ポート134で実質的に完全に捕捉することができる。その結果、灌流された療法は、器官循環コンパートメント内部に実質的に維持され、体循環コンパートメントを汚染しない。
【0046】
システム120は血液調整装置150をさらに含み、血液調整装置150は、灌流ポート132と還流ポート134を互いに流体結合する。血液調整装置150は、還流ポート134を通る還流血流144としてのそこへの血液供給を受け取り、還流血流144の少なくとも一部を、調整された逆行性の灌流血流132として灌流ポート132を通して再灌流することができることがある。調整装置150の調整は、灌流血流142を約35℃未満で生成するために冷却を行うことを含むことがある。
【0047】
いくつかの実施例では、カテーテル124は体循環コンパートメント内に動作可能に配設され、血液調整装置150によって灌流ポート132及び還流ポート134に流体接続された全身ポート136を含む。血液調整装置150は、還流血流144の少なくとも一部を、全身ポート136を通して全身血流146として定量供給することができることがある。全身ポート136は、好ましくは、体循環コンパートメント内に全身血流146を定量供給するように構成される。体循環コンパートメント内に全身血流146を定量供給する前に、血液調整装置150は、全身血流146を不活性化することによって全身血流146を調整することができる。いくつかの実施例では、血液調整装置150による不活性化は、全身血流146を生理学的温度まで加温することを含む。このようにすると、器官循環コンパートメント内部の標的組織構造122に送達された低体温療法を、体循環コンパートメントへの解放前に「不活性化」する、又は加温することができ、それにより、低体温療法は標的組織構造122に局所化され、体循環コンパートメントを汚染しない。
【0048】
図7に示されるシステム120は、標的組織構造122への逆行性の療法送達を提供し、還流ポート134を通る静脈還流を制御して、静脈還流血流134を血液調整装置150に向ける。いくつかの実施例では、ただ1つのカテーテル124を、組織構造122からの実質的に全ての静脈還流に対応する組織構造122の静脈還流構造の内部に位置決めすることができる。例示的実施例は、閉塞デバイス128が心筋からの実質的に全ての静脈還流を閉塞するように冠状静脈洞にカテーテル124を配置することによって心筋に療法送達するものである。そのような構成は、冠循環と体循環の間での療法の汚染を防止する又は最小限にする。バルーン・カテーテルの膨張可能なバルーンであることがある閉塞デバイス128は、連続的に展開して冠状静脈洞と接触することができ、体循環コンパートメントから切り離された冠循環系の真のコンパートメント化を確立する。
【0049】
図8に示される実施例は図7に示される実施例と同様の機能を示すが、若干修正された構成を有する。特に、ただ1つのカテーテル160を、全身ポート168が閉塞デバイス170の遠位に動作可能に配設された状態で配置することができ、それにより全身血流146が、全身ライン3を通して、全身ポート168から出て体循環内に定量供給される。この実施例では、閉塞デバイス170は、標的器官の静脈還流を体循環から実質的に完全に隔離し、ここで閉塞デバイス170は、標的組織構造122の主要な又は唯一の静脈還流構造140を実質的に閉塞する。灌流血流142は閉塞デバイス170の近位にあるが、それにも関わらず、静脈により隔離された器官循環コンパートメント内にある灌流ポート162で定量供給される。同様に、組織構造122からの静脈還流は還流ライン144用の還流ポート164を通る。
【0050】
図7及び図8に示される実施例のいずれにおいても、器官循環コンパートメントの静脈還流を、体循環コンパートメントから実質的に隔離することができる。したがって、標的組織構造122の局所療法のために、灌流ライン1を通して器官循環コンパートメントに療法を送達することができる。組織構造122からの静脈還流の実質的な隔離により、送達された療法は、体循環コンパートメントから分離されたままであることがあり、体循環コンパートメントに戻る前に血液調整装置を通して処理される。したがって、体循環に対する療法の汚染による望ましくない副作用を被らずに、対象の療法を標的器官/組織構造に対して局所的に達成することができる。
【0051】
標的組織構造に局所療法を提供することに加えて、上述した構成は、局所療法を達成するための単純な単一カテーテル・デバイスを提供する。単一カテーテル構成は、ただ1つの静脈アクセスのみを必要とし、この静脈アクセスは、緊急状況でさえ迅速に行うことができる。また、標的組織構造から静脈還流を選択的に実質的に閉塞するためにただ1つの閉塞デバイスのみを戦略的に位置決めすればよいので、単一カテーテルの遠位配置が容易になる。
【0052】
また、本発明によって、選択的に実質的に隔離された器官循環コンパートメント内に動作可能に配設された複合の灌流液/還流ポートと連絡するように灌流ライン1と還流ライン2をただ1つのルーメンに組み合わせることができることが企図されている。そのような実施例の第1の実例が図9に示されており、ここでカテーテル190は複合の灌流/還流ルーメン192を含み、複合の灌流/還流ルーメン192は複合の灌流/還流ポート194と連絡し、複合の灌流/還流ポート194は器官循環コンパートメント内に配設され、閉塞デバイス202によって体循環コンパートメントから選択的に実質的に隔離されている。図9に示される実施例では、複合の灌流/還流ポート194は、閉塞デバイス202の遠位に動作可能に配設される。図10の実施例は、複合の灌流/還流ルーメン216の複合の灌流/還流ポート214に対して遠位に位置された閉塞デバイス212を提供する。また、図10の複合の灌流/還流ポート214は、選択的に実質的に隔離された器官循環コンパートメントと連絡するように、閉塞デバイス212よりも上流に配設される。
【0053】
図9及び図10に示される実施例のいずれにおいても、灌流血流196と還流血流198は、血液調整装置内部の流れ分離器デバイス200で分離される。したがってルーメン192、216を通る流れは双方向であり、逆行方向で灌流し、且つ血液調整装置への静脈流の順行性還流を可能にする。典型的には、複合の灌流/還流ルーメン192、216は、比較的大きい容積の組織構造/器官のために、特に組織構造容積が複合の灌流/還流ルーメン192、216の容積よりも大きい場合に採用することができる。灌流ライン196と還流ライン198を単一ルーメン192、216に組み合わせる利益は、増大したルーメン直径による流れ抵抗の減少である。そのような減少された流れ抵抗は、増加された灌流血流及び還流血流を促すことがある。対照的に、図7及び図8の分離された灌流ルーメンと還流ルーメンは、特に小さな容積の標的器官において療法交換のための死腔を防止するために、いくつかの適用例で有利に採用されることがある。さらに、灌流ライン1を還流ライン2から分離することにより、それぞれの灌流血流と還流血流がいくらか重なり合うことができるようになり、したがって理論上は療法送達を最適化する又は最大にすることができる。したがって、本発明が少なくとも図示した構成を包含することが企図されている。
【0054】
全身ポート199を体循環コンパートメントに連絡する全身ライン3は様々な形で構成することができる。例えば全身ポートの位置は、カテーテル挿入部位のすぐ近位から、閉塞デバイスの動作可能位置に隣接する位置、例えば展開された閉塞デバイスよりも下流での器官の静脈還流構造内部まで、様々な位置にすることができる。
【0055】
図7〜図10の例示的実施例はそれぞれ、概念上は図6に示される単一静脈アクセス・システムの概略図に従う。そのようなシステムは、標的組織構造/器官122の部分隔離又は完全隔離を採用することができ、ここで、単一静脈アクセス手法と組み合わせて動脈閉塞が採用されることも、採用されないこともある。しかし、図6の概略図の構成はただ1つの静脈/静脈還流構造において静脈灌流と還流の両方を利用する。いくつかの実施例では、灌流と還流は同時には行われず、双方向の流れに関して周期的に制御され、器官循環コンパートメントへの灌流と器官循環コンパートメントからの還流とを交互に行う。静脈逆行性灌流ラインは、標的組織構造の毛細血管床及び組織に達するように、静脈構造を通して療法を灌流する。そのような静脈逆行性灌流は、標的器官/組織構造の壁内及び静脈内圧の増加をもたらすことがある。したがって静脈還流ラインは、指定された安全範囲内で壁内圧及び静脈内圧を維持し、また適切な組織循環を保証する役割を担う。静脈灌流/還流サイクルは、心筋に関する心臓サイクルなど、又は肝臓など他の器官に関する波形サイクルなど、局所器官循環サイクルに対応することがある。すなわち、還流サイクルは、例えば心電図信号などの生理学的信号(R波からの適切な時間オフセットを有するか、或いは体表面心電図と心内心電図の両方又は一方)、局所血行力学情報(局所的な流れ及び圧力波形)、又は圧力設定点、又は様々な信号の組合せによって作動させることができる。本明細書で以下により詳細に説明するように、灌流段階と還流段階の間のバランスは、血液調整装置によって制御する又は動かすことができる。
【0056】
単一静脈アクセス隔離技法は、主要な門脈ドレナージを有する様々な器官又は他の組織構造で使用することができる。例示的な組織構造としては、冠状静脈洞、脳の内頸静脈、肝静脈、及び腎静脈を挙げられる。例えば肝臓に送達される療法の場合、肝静脈系が右、中央、及び左の肝静脈に分けられており、それらは全て下大静脈からアクセス可能であるので、各肝葉に対する局所療法が可能であることがある。単一静脈アクセス技法の主要な利益は、一般に利用される静脈アクセス点を介してアクセスされるカテーテルを1つしか必要としないので、インターベンションを単純化できることである。間断的な灌流を利用する実施例では、療法送達は、器官容積に比べて比較的大きい灌流血流容積を必要とすることがあり、これは、場合によっては静脈内圧及び壁内圧の上昇をもたらす。したがって、そのようなシステムに圧力監視機能を組み込んで安全範囲内で圧力を維持することが望ましい。
【0057】
図7〜図10の実施例は、標的組織構造の静脈還流構造の常時閉塞を用いて機能することがある。そのような常時閉塞は、静脈還流構造の静脈壁に対する膨張可能なバルーンの膨張によって達成することができる。閉塞デバイスよりも上流に還流ポートを位置決めすることによって常時閉塞が容易になり、それにより、器官循環コンパートメントへの調整された血流の再灌流、並びに不活性化、及び体循環への定量供給のために、少なくとも部分的に隔離された組織構造からの静脈還流を血液調整装置に還流することができる。
【0058】
図11A及び図11Bに示される本発明の別の実施例では、単一アクセス静脈カテーテル220は、閉塞デバイス230よりも上流に動作可能に配設された灌流ポート222で終端する灌流ライン1を含む。カテーテル220はさらに、還流ポート224を通る静脈還流血流を受け取る還流ライン2を含む。余剰の還流血流は、全身ライン3で全身ポート221を通して体循環に戻すことができる。還流ポート224及び全身ポート221は体循環内に動作可能に配設され、体循環は、閉塞デバイス230よりも上流にある器官循環コンパートメントから選択的に少なくとも部分的に隔離される。そのような構成は、「擬似隔離」療法送達を提供することができ、器官循環コンパートメントで灌流ポート222を通して送達される療法は、最初に不活性化のために血液調整装置を通して送られることなく、体循環に静脈を通して還流することができる。還流ポート224及び/又は全身ポート221は、体循環コンパートメント内で、カテーテル挿入の部位の近位に動作可能に位置決めすることができ、又はより遠位に配設することができ、例えば閉塞デバイス230のより近位に配設することができる。還流ポート224と全身ポート221を互いに近位に動作可能に位置決めする必要はない。還流ポート224と全身ポート221の順序は、典型的には、静脈分枝の局所分布に応じて決まる。いくつかの実施例では、還流ポート224が全身ポート221よりも上流でよい。
【0059】
膨張可能なバルーンであることがある閉塞デバイス230は、標的器官の静脈還流サイクルに合わせて選択的に膨張及び収縮することができる。そのようにすると、閉塞デバイス230は、自然な静脈還流サイクル中に選択的に収縮させて、器官循環コンパートメントから出る静脈還流を可能にし、その後、再び膨張させて、静脈還流構造を閉塞し、還流サイクル間の逆行性の灌流を促すことができる。標的器官が心筋である実例では、閉塞デバイス230は、冠状静脈洞に動作可能に位置決めされた膨張可能なバルーンでよい。バルーン230は、冠静脈還流(心収縮期)中に収縮するように動作させることができる。バルーン230の再膨張は心拡張期中に行うことができ、その時、灌流ポート222から心筋への逆行性灌流を促す。バルーン230が心収縮期中に収縮されるので、灌流ポート222を通して送達される療法が体循環をいくぶん汚染することがあり得る。しかし、還流ポート224は、汚染された全身静脈血流を連続的又は周期的に収集するように構成することができ、送達された療法を血液調整装置で不活性化して、全身ポート221で体循環に再び入れる。心筋の低体温療法の場合、血液調整装置によって行われる不活性化は、汚染された全身血流を加温し、生理学的温度以上で全身血流3を戻すことである。この方法は、バルーン230の周期的な収縮によって生じる療法汚染を補償する。
【0060】
本発明の別の実施例が図12に示されており、ここでは単一アクセス静脈カテーテル250が、灌流ポート252で終端する灌流ライン1を含み、灌流ポート252は、標的器官/組織構造の静脈還流構造内で閉塞デバイス260よりも上流に動作可能に配設される。したがって、灌流ポート252は、閉塞デバイス260によって体循環から少なくとも部分的に分離された器官循環コンパートメント内に動作可能に配設することができる。カテーテル250はさらに、還流ポート254を通して静脈還流血流を収集する還流ライン2を含む。還流ライン2は還流ポート254を有するルーメンを備えることができ、還流ポート254は任意の所望の位置に配設されるが、好ましくはカテーテル250によって画定された静脈経路に沿ってカテーテル挿入部位と閉塞デバイス260の動作位置との間の位置に配設することができる。還流ポート254は、灌流ポート252が動作可能に配設された器官循環コンパートメントから少なくとも部分的に分離された体循環内に配設することができる。
【0061】
閉塞デバイス260は、カテーテル220の閉塞デバイス230に関して説明したものと同様に動作させることができ、ここでは閉塞デバイス260を閉塞状態に間断的に展開することができ、周期的な静脈還流血流が器官循環コンパートメントから出ることができるようにしている。図12の構成は、標的組織構造/器官への直接の療法送達を促す。図11の実施例と同様に、灌流ポート252を通る灌流は、標的器官の静脈還流構造内部で逆行方向に送達することができ、そのような逆行性灌流は、周期的な静脈還流血流の非流通期間中に行われるように位相合わせすることができる。例えば、灌流ポート252を通した心筋への灌流は心拡張期中に行うことができ、心収縮期中には止めることができる。そのような位相合わせした灌流は、本発明の任意の実施例で行うことができることを理解されたい。図12のデバイスは、血液調整装置による療法不活性化を含まないが、それにも関わらず、例えば酸素付加及び冷却された血液を含めた調整された血液を灌流ライン1での灌流液に供給する。このようにすると、灌流ライン1は、酸素付加及び冷却された血液を虚血組織に、その療法的治療のために供給することができる。不活性化なしでは、灌流された療法は、ある期間にわたって体循環に影響を及ぼすことがある。しかしそのようなシステムは、比較的短い期間では、例えばPCI中に疾患組織構造への血管形成及び動脈血流を再確立するために有用であることがある。
【0062】
図11及び図12で述べたデバイスを様々な組織構造/器官で使用することができることを理解されたい。例示的な適用例は、頭蓋内静脈洞に局所療法を提供するために、頸静脈に単一アクセス・カテーテルを送達することである。そのような実施例では、灌流ポートは、展開される閉塞デバイスよりも上流に配設され、灌流液は、別の頸静脈によって、頭蓋内静脈洞から静脈を通して還流することができる。側副静脈還流の存在により、閉塞デバイスは、周期的に膨張/収縮する必要はなく、連続的に閉塞状態に展開することができる。頸動脈アクセス用の還流ポート及び全身ポートは、適切であれば、体循環内に動作可能に位置決めすることができる。
【0063】
本発明の任意の実施例を、例えば心臓発作治療用のPCIなど動脈インターベンション用の補助的療法として採用することができる。補助的動脈インターベンションの場合、追加の還流ラインは、標的組織構造の動脈側で逆行灌流液を捕捉し、捕捉された灌流液の少なくとも一部を、体循環への再灌流及び/又は定量供給のために血液調整装置に戻すように確立することができる。追加の還流ラインを、例えばステント送達カテーテル又は血栓除去用カテーテルに組み込むことができ、それにより、そのようなカテーテルを用いた動脈インターベンションは、本発明の1つ又は複数の別個の静脈カテーテルから灌流血流を捕捉するための簡便なプラットフォームも提供する。動脈側での追加の還流は、追加の還流ラインから逆流の還流を導くことが可能なシャント又は他のラインを通して本発明の血液調整装置に送達することができる。いくつかの実施例では、動脈吸引ポンプを採用して、血液調整装置への追加の還流を引き出すのに必要な吸引力を提供することができる。吸引効果は、組織構造の動脈循環を全身動脈循環からコンパートメント化又は分離するように、動脈還流ラインに関連付けて閉塞デバイスを使用することによって高めることができる。閉塞デバイスは、動脈遮断位置よりも上流に動作可能に配設することができ、遮断位置の不慮の破壊の危険を最小限にするために動脈遮断位置よりも実質的に上流に動作可能に位置決めすることができる。従来の血栓除去用カテーテルは、典型的には、動脈遮断位置に近接して位置決めする必要があり、これは、血塊及び/又は血小板の不慮の破壊を引き起こすことがある。いくつかの血栓除去用カテーテルは、遮断位置の下流に血液フィルタを位置決めするために遮断位置を通過する必要さえある。
【0064】
この構成の独特の利益は、血塊及び/又は血小板デブリが動脈インターベンション部位よりも下流に流れるのを効果的に阻止することである。デブリは、隔離された器官循環コンパートメント内に捕捉され、血液調整装置に移送されて、体循環から除去される。
【0065】
上述したように、本発明のカテーテルは、指定の安全範囲内での動作条件を保証するためにフィードバック制御を提供するために、圧力センサ、温度センサ、又は化学センサ、例えば直接的な器官電気信号若しくはエレクトログラム・センサなど、様々なセンサを備えることができる。例えば内部の圧力を監視するために圧力センサを器官循環コンパートメント内に配設することができ、また最適なフィードバック制御のために温度センサや化学センサなどの療法用センサを還流ポート又はその付近に動作可能に配設することができる。
【0066】
追加のカテーテル安定性を提供し、器官循環コンパートメントの隔離に重要なカテーテル及び閉塞デバイスの位置を固定するために、1つ又は複数の固定メカニズムを本発明のカテーテルと共に含むことができる。そのような固定メカニズムは、例えばプログラムされた閉塞デバイスの展開又は収縮中にカテーテルが外れるのを防止するのに有用であることがある。例示的な固定メカニズムが図13A及び図13Bに示されている。固定メカニズム275、277は、伸縮可能なステント又はコイルでよい。図13Bに示されるように、事前成形されたコイル状のカテーテル280は、カテーテルの挿入及び引抜き中にガイド・ワイヤによって伸長させることができ、カテーテル設計に組み込むことができる。複数ルーメン・カテーテルの場合、ただ1つのルーメンのみを、図13Bに示される構成で事前成形することができる。
【0067】
本発明のシステムは、好ましくは、灌流ラインを通して標的組織構造に療法を送達し、特定の標的組織構造に療法を局所化し、器官の循環流れ量を調整し、送達された療法を、全身ラインを通る体循環に再び入れる前に不活性化するように適合される。本発明の体外血液調整装置の概略図が図14に示されており、血液調整装置300は、療法送達モジュール310と、療法隔離モジュール320と、療法不活性化モジュール330とを含む。図14の概略的な流れ図は、各モジュール310、320、330の例示的構成要素、流体の流れ方向及び接続性、並びに例示的な制御経路を示す。
【0068】
本発明によって提供される局所療法送達は、薬物、化学療法、細胞若しくは遺伝子療法、及び/又は物理治療モダリティ(例えば低体温療法)を含むことがある。さらに、局所療法送達は、標的組織構造の酸素供給を増加する又は適切な酸素供給を保証するための酸素付加を含むことがある。したがって療法送達モジュール310は、1つ又は複数の療法送達メカニズムを含むことがあり、これらのメカニズムには、例えば(i)化学療法や他の補充療法を含めた補充薬物又は細胞療法のための外部補充312、(ii)酸素付加314、及び(iii)温度制御316が含まれる。外部補充312は、流量制御注入ポンプ(図示せず)を含むことがあり、このポンプは、灌流血流1と同期されること又は別個に制御されることがある。酸素付加314は、従来の膜酸素付加装置によって、又は高圧水性酸素の供給によって、又はそれらの組合せによって提供することができる。還流ライン2内部の温度センサから入力信号を受信することができる温度制御316は、標的組織構造に療法温度を与える。そのような療法温度は、低体温療法のための冷却、又は低体温療法に反する加温を含むことがある。図14に示されるように、療法送達モジュールは、静脈アクセス・ライン(灌流ライン1)に灌流液を送達するように適合される。
【0069】
療法送達モジュール310に関する詳細な例示的な流れ図が図15に示されている。図示される実施例では、療法送達モジュール310は、血液リザーバ315と、空気/血塊フィルタ317と、調整された灌流液を灌流ライン1を通して標的組織構造へ押し流すための灌流ポンプ318とを含む。いくつかの実施例では、療法送達モジュール310の構成要素は、使い捨ての血液回路カートリッジ内に含まれる。
【0070】
療法隔離モジュール320はカテーテルの還流ライン2に流体結合され、実質的に標的組織構造のみに灌流液を提供するように、カテーテルを使用して、絶対的及び相対的な局所標的組織構造への灌流液の送達及び/又は局所標的組織構造からの灌流液の還流を制御するように適合されている。いくつかの実施例では、還流血流は、灌流ライン1を通る灌流血流よりも大きいことがある。そのような実施例では、隔離ユニット320は、最適な灌流血流、及び標的組織構造内部での安全な血管内圧又は静脈内圧を維持する役割を果たす。したがって療法隔離モジュール320は、灌流ライン1及び還流ライン2からの流れ量及び血管内圧を監視するように適合することができ、余剰の流れがあればそれを療法不活性化モジュール330に分流させる。図14に示されるように、還流血流は、心臓発作の診断のために心筋酵素を監視する際など、診断又は疾患進行監視のために監視及び試験することができる。
【0071】
療法隔離モジュール320の例示的な流れ図が図16に示されている。図16の実施例は、体外ループでの凝血を最小限にするための血液希釈剤添加メカニズムと、還流ポンプ324と、療法送達モジュール310と療法不活性化モジュール330それぞれへの流れの分割及び流量を制御するための流量制御装置326とを含む。
【0072】
還流ライン2を通る還流血流が灌流ライン1を通る所望の灌流血流よりも多いと療法隔離モジュール320が判断した場合、還流血流の一部が、余剰の流れとして療法不活性化モジュール330に向けられる。そのような余剰の流れが全身ライン3を通して全身血流として体循環に戻される前に、余剰の流れ中の任意の残りの療法剤又は特性を療法不活性化モジュール330によって不活性化して、そのような療法剤又は特性の望ましくない全身的な影響を防止する又は最小限にすることができる。不活性化プロセスは、療法送達モジュール310によって送達される特定の療法に応じて決まり、内部不活性化及び/又は外部不活性化によって行われることがある。
【0073】
内部不活性化は、療法薬物及び/又は化学療法を不活性化するための直接の代謝(すなわち人工肝臓)及び透析(すなわち人工腎臓)を含むことがある。採用される代謝法は特定の療法剤に専用のものであることがあり、一方、透析法は、より一般的に広範囲の療法剤に適用することができる。内部不活性化による療法剤の除去が不十分である場合、投与された生理活性剤に対する相殺拮抗剤の添加によって外部不活性化を適用することができる。内部不活性化は、血液からの1種又は複数種の生理活性剤の除去に適用され、外部不活性化は、体循環と相互作用する対抗剤を供給する。いくつかの実施例では、療法不活性化モジュール330の内部不活性化透析からの透析液を、療法投与中の診断又は疾患監視のために使用することができる。さらに、全身性薬物又は流体補充を、簡便な血管アクセス位置として療法不活性化モジュール330を通して投与することができる。
【0074】
内部不活性化は細胞分離装置をさらに含み、細胞ベースの療法で使用される細胞を再採取し、再採取された細胞を療法送達モジュール310にリサイクルする。療法不活性化モジュール330は、余剰の流れの温度を変えるための、例えば全身ライン3を通して定量供給するために生理学的温度に変えるための温度制御デバイス332を含むことができる。療法送達モジュール10が冷却された灌流液を標的組織構造に灌流する低体温療法の適用例では、温度制御デバイス332は、体循環に全身血流を戻す前に余剰の流れを生理学的温度に再び加温するように適合させることができる。このようにすると低体温療法を実質的に標的組織構造に隔離することができ、体循環の残りの部分は、そのような低体温療法によって実質的に影響を受けない。したがって体温又は全身温度を標的組織温度とは無関係に制御することができる。不活性化温度制御デバイス332のためのフィードバック・ループは標的組織構造の温度制御に依存しないことがあり、例えば体循環内部に位置されたセンサから体温/全身温度信号を受信することによって行われる。
【0075】
本発明の例示的な療法不活性化モジュール330の流れ図が図17に示されている。還流ポンプ324によって押し流されるとき、療法不活性化モジュールの流れループは受動的な流れとなることがあるが、流れ方向の制御を補助するように任意選択で全身ポンプ334が含まれることがある。
【0076】
血液調整装置300は療法不活性化モジュール330と共に示されているが、本発明の血液調整装置のいくつかの実施例はそのような療法不活性化モジュール330を含む必要がないことを理解されたい。特に療法不活性化モジュール330によって行われる療法不活性化がない場合でさえ、本発明のカテーテル構成によって得られる標的組織構造/器官隔離は比較的大きい器官対全身濃度勾配を促す。局所療法送達は、それ自体「受動的な」療法不活性化とみなすことができる。なぜなら、余剰の流れ又は側副循環の汚染が大きな全身血液容積によって希釈され、またそれと同時に、標的組織構造内での療法濃度が高い療法的レベルに達するからである。
【0077】
本発明の一実施例では、送達機械400を提供して、血液調整装置、及び血液調整装置に関連付けられた1つ又は複数のカテーテルを制御し、実質的に局所標的組織構造のみへの療法送達を実現するように局所標的組織構造に療法を送達し、また局所標的組織構造からいくらか又は全ての療法を還流する。送達機械400の例示的実施例が図18に示されており、この送達機械400は、療法送達モジュール、療法隔離モジュール、及び療法不活性化モジュールを接続して動作させるように構成される。機械400は、それ自体が患者の血液に接触することなく血液の調整及び移送を促すように構成することができる。例えば機械400は、血液に接触せずに、酸素供給ユニットと、1つ又は複数の温度制御ユニットと、非接触血液ポンプと、流れ方向制御機構と、内部不活性化装置とを含むことができる。
【0078】
灌流液に酸素付加するための酸素供給は、機械400にあるポータブル酸素タンクから供給されることがあり、又は治療カートリッジ410内部の療法送達モジュール310にある酸素付加装置314に直接接続された設備からの標準的な酸素ラインから供給することができる。いくつかの実施例では、治療カートリッジ410は、機械400に動作可能に係合可能であり、システムの血液接触部分となることがあり、したがって治療カートリッジ410は使い捨てであることがある。酸素タンク又は設備の酸素ラインの代わりに、又はそれに加えて、機械400は高圧水性酸素溶液混合ユニット(図示せず)を含むことがあり、このユニットは灌流ライン1に酸素飽和食塩水を注入するように適合される。
【0079】
温度制御ユニット316、332は、熱交換媒体として蒸留水を使用することができ、熱交換器が治療カートリッジ410内に配設されている。温度制御ユニット316、332によって行われる加熱及び冷却は、熱電デバイスによって行われることがあり、この熱電デバイスは、電流を交番させることによって、加熱又は冷却に制御可能に切り替えることができる。機械400による汚染を防止するようにカートリッジ410の配管内に閉じ込められた状態で、血流を機械400でのローリング・ポンプ又は蠕動ポンプによって押し流すことができる。そのようなポンプは血流方向を制御することもできる。
【0080】
上述したように、治療カートリッジ410は、療法送達モジュール310、療法隔離モジュール320、及び療法不活性化モジュール330との1つ又は複数を含むことができる。一実施例では、治療カートリッジ410は、各モジュール310、320、330を含む。したがってカートリッジ410は、機械400の設備によって行うことができる機能を具現化する。機械400は、例えば酸素付加、温度制御、流体ポンピングのための接続を伴って、迅速に接続/切断できるように治療カートリッジ410を動作可能に受け取るように特に構成することができ、療法不活性化接続は、治療カートリッジ410を機械400と動作係合状態に取り付けたときに自動的に確立することができる。図19及び図20は、治療カートリッジ410のポンプ・ヘッド416、418が機械400のローリング・ポンプ422と動作可能に係合できるようにするための例示的な自己係合メカニズムを示す。図19Aは、機械400と動作可能に係合する前のカートリッジ410を示し、図19Bは、カートリッジ410が機械400と動作可能に係合した後の、機械400のローリング・ポンプ422とカートリッジ410のポンプ・ヘッド416との相互作用を示す。特定の実施例では、動作可能な係合は、機械400の受取部へのカートリッジ410の物理的な係合を含むことがある。
【0081】
代替の例示的な構成が図20A〜図20Cに示されており、ここでは使い捨ての配管内部の血液回路であることがあるポンプ・ヘッド418を、トップダウン手法で、機械400のローリング・ポンプ422と動作可能に係合することができる。図19及び図20に示される各実施例において、ローリング・ポンプ422のローラ424がポンプ・ヘッド416、418に動作可能に係合して、血液回路を通る流体の流れをもたらす。
【0082】
カートリッジ410の温度制御デバイスは、血流中への熱交換流体による汚染を回避するために、熱交換器コンパートメント内で誘発される負圧を組み入れることができる。熱交換器ループでの漏れが生じた場合、血流は熱交換器コンパートメントに向けて導かれ、その逆には導かれない。また、生じ得る漏れを監視するために、熱交換器コンパートメント内にヘモグロビン検出器を装備することができる。いずれにせよ、熱交換器と血流コンパートメントの両方の突然の圧力変化を、システム漏れの示唆として使用することができる。
【0083】
外部補充デバイスをカートリッジ410に直接接続することができ、このカートリッジ410を本発明のカテーテルに直接接続することができる。細胞分離装置デバイスが含まれる場合、カートリッジ410は、療法不活性化モジュール内で細胞分離装置から療法送達モジュール310に細胞を移送するラインを採用することができる。療法不活性化モジュール330が代謝器又は透析器を含む場合、カートリッジ410は、代謝産物透析液用の排出ラインを含むことがある。
【0084】
本発明の血液調整装置のための例示的な制御回路の概要が図21に示されている。灌流ライン1と還流ライン2の両方からの圧力を監視して、標的器官の静脈内圧を求めることができる。灌流血流と還流血流を制御するために、標的器官圧力情報を、他の適切な生理学的信号と共に、療法隔離モジュール320内の圧力制御ユニットに送達することができる。圧力制御ユニット325は分流器として働くことができ、この分流器は、例えば灌流ポートでの圧力を感知するセンサから送達された制御信号に応答して、灌流血流と全身血流の間での還流血流の分割を調節する。静脈内圧だけでなく、様々な特性を検出するためにセンサを配備することもでき、また血液調整装置の圧力制御デバイス325にそのような特性の値を表す信号を通信するためにセンサを配備することもできる。センサは、圧力、温度、流量、エレクトログラム信号、酵素濃度、及び療法薬物濃度などの特性を検出するように適合されることがある。
【0085】
灌流ポンプ318及び還流ポンプ324は、流量、流れの方向、及びタイミングを制御することができ、同期された流れパターンを様々な標的組織構造/器官に提供する。灌流ライン1及び還流ライン2から流れ情報を受信することによって、圧力/流量制御デバイス325は、療法不活性化モジュール330に送達される余剰の流れの容積に従って不活性化療法を調節することができる。また、灌流液及び全身血流の温度調節を最適化するために、灌流血流及び余剰の流れの容積に関するデータを温度制御デバイス316、332に送達することができる。
【0086】
いくつかの実施例では、温度制御デバイス316は、還流ライン2内に配設された温度センサから温度情報を受信する。標的組織構造での温度を監視するために、そのような温度信号を、標的組織構造での局所低体温療法のためのフィードバックとして使用することができる。さらに、低体温療法の適用例での標的組織温度に関する確証情報を、心筋からの心電図を含めたエレクトログラムなど生理学的信号によって得ることもできる。温度フィードバック情報を利用して、標的組織構造での療法送達又は濃度を推定することができる。またそのような情報は、遠隔で感知するのが難しい生理活性剤に関する局所療法送達にも有用であることがある。さらなる温度制御は、全身温度又は全身体温の感知を含むことがあり、それにより余剰の流れを使用して体温を調整し、所望の器官対全身温度勾配で維持することができる。そのようにして所望の(例えば通常の)体温を維持しながら、標的器官温度を療法的範囲内で維持することができる。
【0087】
(例示的な適用例)
以下に、本発明のシステムの例示的な臨床適用例を記載する。本明細書で述べる適用例は、本発明によって企図される様々な適用例に限定を加える意図はない。
【0088】
(隔離された器官に特定的な低体温療法)
低体温療法は、再灌流創傷を防止する又は最小限にするために適度な低体温(32℃〜34℃)を使用する治療である。この治療は、多くの器官(例えば心臓、脳、肝臓、及び腎臓など)に関して虚血性創傷と外傷性創傷の両方に関して大きな利益を提供することが実証されている。この隔離された器官に特定的な療法送達を使用する目的は、通常の体温を維持しながら、特定の標的器官に冷却療法を局所化することである。これは、意識のある(すなわち医学的に誘発される昏睡状態及び強い筋弛緩を伴わない)患者に対する低体温療法の使用を可能にし、冷却治療の全身的な副作用を防止する。
【0089】
低体温療法を使用する必要があるのは、大抵は救急状況に関わる場合であるので、適時の実施及び簡単な使用が療法送達デバイスの設計の重要な因子である。したがって静脈アクセスのみを必要とするシステムが最も好ましい。1静脈アクセス技法か2静脈アクセス技法かの選択は、標的器官に応じて決まる。心臓に低体温療法を適用する際、冠状静脈洞が心室筋の主要な静脈還流経路であることから、並びにその容易なアクセス及びよく確立された処置のため、1静脈アクセスがより良い選択肢となり得る。脳への適用例では、2つ(左右)の内頸静脈が2静脈アクセス技法を可能な選択肢にする。それにも関わらず、本明細書で述べる完全隔離器官循環の技法を低体温療法に使用することもできる。
【0090】
低体温療法のデバイス設定に関して、療法送達及び隔離部分については、全般的な記述からの大きな変更はない。単に冷却治療に関しては、外部補充ユニットは必要ない。しかし、少量の薬物(すなわち、心拍数及び心筋収縮を制御するためのβ遮断薬、抗不整脈薬又は抗痙攣薬、及び/又は心臓発作と卒中の両方のための硫酸マグネシウム)を、低体温治療によって標的器官に局所的に投与することもできる。標的器官は、器官隔離技法から酸素付加の増加という追加の利益を有することができる。不活性化部分に関する唯一の必須の構成要素は、全身温度制御機構である。
【0091】
局所送達技法が採用される一方で、標的器官の機能を保つことができる(すなわち、特に心臓に関しては急性心筋梗塞、脳に関しては卒中を防止する)。標準的な心臓発作及び卒中の治療のためのこれら新規の局所送達方法には2つの主要な効果がある。1つは再灌流前の器官冷却である。最初に、心臓、又は脳、又は他の標的器官を、わずか数分間(典型的には15分以内)で療法温度まで冷却することができる。これは局所再灌流の確立(バルーン/ステント又は血栓溶解血管形成)前に冷却を可能にし、これは最良の細胞保護を提供することが知られている。第2に、より長期の冷却治療(例えば12〜72時間)が、覚醒状態の患者に対して可能である。これは適度な低体温による細胞サルベージの利益を最大にする。心停止に関して、医学的に誘発される昏睡状態なしで、局所脳冷却を使用することができる。したがって24時間を超える期間にわたる適度な低体温を使用することができる。心停止患者の神経症状を監視することができ、その一方で冷却治療が採用され、これを使用して低体温療法の長さを個々に最適化することができる。
【0092】
(隔離された器官に特定的な薬物及び化学療法)
多くの薬物は、有効となるように、標的器官での高い療法的投与量を必要とし、これは重大な全身的な副作用を引き起こす。化学療法は高い毒性の生理活性剤の一例である。多くの癌患者は、癌によってよりも化学療法の合併症により死亡している。これは多くの患者への化学療法の使用を制限する。隔離された器官への療法送達技法を使用して、高い器官対全身濃度勾配を必要とする薬物を送達することもできる。この目標は、標的器官内で高い濃度を維持し、しかし体循環内では非常に低い濃度を保つことである。化学療法は、その投与に通常は数時間〜数日かかるので、この局所療法送達に対する良好な選択肢である。また、器官隔離はその後さらに数日にわたって維持することができる。
【0093】
このタイプの適用例は通常は定期的な外来で採用されるので、器官隔離技法の選択は、よりオープンであり、標的器官又は器官セグメント又は腫瘍血管系に応じて決まる。例えば脳に関しては、2静脈アクセスの部分隔離技法が最適な選択肢となり得る。しかし肝臓に関しては、肝臓内の循環隔離の所望の位置及び大きさに応じて、2静脈アクセスの部分隔離技法と1静脈アクセスの部分隔離技法がどちらも適することがある。腎臓の腎静脈に関しては、1アクセスの器官循環の部分隔離が良好な選択肢となり得る。さらに、局所的及び全身的な動脈塞栓を管理することができる場合には、完全隔離技法も非常に有用となり得る。癌の塊に関して、器官循環隔離技法の適性又は選択は純粋に血管構造に応じて決まる。
【0094】
療法剤を灌流ラインに加えて、標的器官に局所療法を送達することができる。器官温度を変える必要はないことがあるが、少量の加温又は冷却された食塩水を灌流ラインに注入することができ、還流ラインでの温度感知から療法送達の効果を算出することができることがある。この技法の実現性は、標的器官の血管構造、及び隔離技法の構成に応じて決まる。
【0095】
利用可能である場合、薬物に対する解毒剤を使用して、療法送達を不活性化又は中和することができる。また、ミニ器官透析を使用して、いくらかの薬物又は療法剤を血液容積から還流して体循環に戻すこともできる。それにも関わらず、不活性化を伴わない療法の局所送達及び隔離だけで、標的器官内又は標的器官での療法剤の濃度を十分に上昇させることができることがあり、その一方で、システムへの汚染を患者にとってより許容できるレベルまで希釈することができる。標的器官の容積は(全身に比べて)比較的小さいので、局所療法送達手法では比較的少量の薬物しか必要とされないことが多く、これはまた化学療法など高価な薬物に関する治療コストを減少する。本発明の局所送達方法によって全身的な副作用を最小限にすることができるので、既存の化学療法プロトコルを局所器官に対する投与期間がより長くなり、投与量がより大きくなるように修正することができる。
【0096】
(隔離器官保護)
毒性生理活性剤による療法の従来の投与は全身治療によるものである。しかし、療法用生理活性剤は、肝臓、腎臓、又は心臓など特定の重要器官に対して毒性を有することがある。局所療法送達を提供することに加えて、本発明の器官循環隔離技法を使用して、高い全身対器官濃度勾配を生成することによって、全身治療から標的器官を保護することもできる。したがって器官循環はシステム循環から隔離又は分離される。
【0097】
この適用例では、器官循環の完全隔離が最も効果的であることがある。なぜならこれは、動脈系から入ってくる血流を防止する又は大幅に減少するからである。それにも関わらず、入ってくる動脈流からの毒素を希釈及び中和するのに、本明細書で説明する部分隔離技法も有用である。標的器官の血管系は、器官循環隔離技法を選択する際の最も主要な因子である。例えば、ここで述べる部分隔離技法は肝臓にとってより良い選択肢となることがあり、一方、腎臓は、完全隔離技法と部分隔離技法のいずれにも良好な候補であることがある。
【0098】
この適用例に対処するために、療法不活性化モジュールは、代わりに、図22に示されるように灌流側にあることがある。しかし、酸素付加及び温度制御ユニットは(保護)療法送達モジュールに残っていてよい。この適用例の目標は、療法を不活性化又は中和することである。本発明の完全隔離技法を用いて両方の腎臓を保護する必要がある場合、腎臓の透析機能が全身血液循環から遮断されるので、流量−容積調節ラインを通した一時血液透析が必要とされることがある。
【0099】
(隔離された器官に特定的な細胞ベースの療法)
幹細胞治療又は再生医療が発展しており、やがて一般的な療法モダリティとなり得る。細胞療法が直面する多くの課題の1つは、低い細胞播種又は生存率である。従来、細胞は動脈ラインを通って送達され、それによって、送達される細胞の大部分は非常に迅速に毛細血管又は側副循環を通過し、組織床内に播種するのに十分な時間を有さない。これらの細胞を静脈系を通して送達することが、組織床との接触時間を高める助けとなることがある。さらに、本発明の器官循環隔離は標的器官に細胞をリサイクルすることができる。したがって器官隔離技法を使用して、細胞ベースの療法のための播種量を改良することができる。器官の容積は(全身の容積に比べて)小さいので、従来の全身投与に比べ、本発明のシステム内で細胞ベースの療法を促進するためには比較的少数の細胞しか必要とされないことがある。
【0100】
器官循環の部分隔離の技法は、まず、局所療法送達中に長期の動脈アクセスを回避すると考えることができる。1静脈アクセスを選択するか2静脈アクセスを選択するかどうかは、標的器官の血管構造に応じて決まる。これは前の適用例で論じたのと同様である。デバイス設定は、図23に示されるように、標的器官に細胞を戻してリサイクルするために細胞分離装置を必要とすることがある。しかしこれは、細胞療法のための供給がそれほど限られていない場合には重大な構成要素ではないことがある。この適用例は、他の不活性化構成要素を必要としないことがある。
【0101】
この適用例のいくつかの例として、慢性心筋梗塞、慢性肝不全、及び慢性腎不全のための細胞ベースの療法を挙げることができる。不全の器官機能を永久的に回復するために、これらの疾患器官を通して幹細胞を注入することができる。これはまた図24に示される適度な冷却と組み合わせることもでき、これは細胞生存率を改良することが実証されている。
【0102】
(隔離された器官に特定的な血漿交換及び透析)
創傷に伴う毒性が全身に重大な障害を引き起こすことがある大きな器官の創傷の場合、この器官隔離法を使用して、器官を体循環から分離し、その後、血漿交換及び/又は透析を行って、創傷した細胞によって生成される毒性を除去することができる。それを行うことにより、局所治療を採用して細胞回復を助け、また再灌流創傷から器官を保護することもできる。この適用例の一例は、四肢(すなわち腕又は脚)を隔離することであり、その際、血液供給が数時間以上にわたって途絶えている。これは通常、全身への再灌流創傷を防止するために切断を行うことを示唆し、切断は、急性腎不全や心不全など重大な合併症、さらには死をもたらすことさえあり得る。別の例示的な適用例は、大きな内蔵の壊疽である。
【0103】
この適用例は、主に大きな容積の器官に関するものであり、本発明の完全器官隔離技法が適切な選択肢となり得る。腕及び脚に関して、動脈系と静脈系の両方のための血管アクセスが、上腕動脈及び上腕静脈、又は軸動脈及び軸静脈、並びに大腿動脈及び大腿静脈を通して容易に得られる。デバイス設定は、図25に示されるようなものでよく、毒性不活性化ユニットは、還流血流を処理するように適合させることができる。組織への酸素供給を提供するため、及び創傷した組織への追加の再灌流損傷を防止するために、酸素付加及び適度な冷却を含めることができる。
【0104】
これ自体が、単なる療法送達と言うよりは一種の治療であり、これは通常であれば切断されることになる腕又は足を残す一助となり得る。これは健康管理システムにとってだけでなく社会全体にとっても非常に費用がかかる障害を減少させる助けとなることがあり、より重要なことには、患者の人生の質を改善又は維持する助けとなる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に療法(または治療;therapy)の送達(delivery)に関し、より詳細には、療法の全身的な影響を最小限にするため又はなくすために局所部位に療法を閉じ込めることができる、標的身体組織構造への療法の局所送達に関する。
【背景技術】
【0002】
長い間、療法投与技法は全身経路に依拠していた。これは、そのような経路のアクセス性が良いからである。例えば全身経路は、経口、静脈内、筋肉内、皮膚、皮下、吸入送達技法によってアクセスすることができる。しかしほとんどの療法は特定の組織構造を標的としており、そのような局所治療のための全身投与は、全身投与の希釈及び/又は望ましくない全身的な副作用により、非効率的又は非効果的であることがある。いずれにせよ、治療の最大の利益は、全身投与によっては実現されない可能性が高い。
【0003】
現在実用されている局所投与技法は、標的組織構造への直接の適用によって局所治療の効果を改良する。しかし、組織構造を通る全身血液循環により、依然として投与される治療の希釈が生じる。さらに、適用される治療の対流輸送が全身的な副作用を引き起こすこともあり、これは局所的に投与されたときでさえ潜在的な治療効力を制限する。したがって典型的には、局所化されているが隔離はされていない療法投与の長期の適用は、療法の最大の効果を提供するのに必要とされる高い器官対身体濃度勾配を維持しない。
【0004】
動物実験で有望な結果を示す多くの治療は、治療の標的とされている組織構造外での許容できない全身的及び/又は局所的な悪影響により、臨床での使用はできない。そのような療法は非常に強いことがあるが、重症状態又は命の危険がある状態には重要な治療であることがある。一例は硬い腫瘍の治療であり、これは典型的には、腫瘍部位に達するように化学療法剤の全身的な静脈内注入を行うというアプローチが取られる。しかし、多くの化学療法剤の全身的な毒性によって、応答を引き起こすために投与量及び/又は曝露期間を維持する可能性が制限される。
【0005】
別の例は、損傷した組織への動脈循環の急性の重度の破壊によって引き起こされる虚血組織の治療である。虚血性創傷の例は、心筋梗塞(心臓発作)及び脳血管障害(卒中)である。虚血性創傷の治療は、典型的には、直接的な動脈インターベンションを含む。しかし、従来の動脈インターベンション技法は完了までにかなりの時間が必要であり、動脈塞栓や再灌流創傷によるものなど二次創傷の危険をもたらす。再灌流創傷は、動脈破裂が解決された後、組織への血液供給の突然の戻りによって引き起こされることがある。
【0006】
心臓発作のための現在標準的な治療は再灌流治療であり、これは主に、ステント及び/又はバルーン血管形成及び/又は血管溶解治療など、経皮的冠動脈形成術(PCI)によるものである。そのような治療の目標は、できるだけ早く心筋への組織灌流を再確立して組織損傷を最小限に抑え、組織サルベージ(tissue salvage)を促進することである。しかし、PCIにより凝血デブリが下流に流れ、より小さな動脈の遠位閉塞が生じる可能性がある。さらに、虚血組織自体への血液供給の戻りが組織に損傷を及ぼすことがある(すなわち再灌流創傷)。
【0007】
動脈循環破壊及び/又は再灌流創傷によって引き起こされる組織損傷を防止する又は最小限にするための組織冷却治療の概念が研究されている。しかし、従来の全身冷却は、重度の震え、電解質シフト及び全身的な血管拡張による血液動力学的な不安定性、凝固異常、又は出血傾向の増加、及び感染など、全身的な悪影響を引き起こすことがあり、これは患者管理をさらに複雑にする。さらに、従来の低体温療法投与では、標的組織への療法送達が非効率的になることがあり、上述した望ましくない全身的な副作用を伴わずに標的組織を迅速に冷却することはできない。したがって、重度の創傷後の組織の死を冷却治療によって効果的に減少できることを実証する前臨床研究での証拠があるにも関わらず、従来の全身冷却の欠点により、一般に、重度の虚血性創傷と外傷性創傷どちらにも冷却治療の臨床使用ができない。
【0008】
危険にさらされている虚血心筋に逆行で送達される酸素付加血液の灌流などの逆行性の療法的灌流が、酸素付加血液を灌流不足の心筋組織に迅速に到達させるための独立した治療又はPCIの補助的治療として研究されている。虚血脳卒中の文脈では、酸素付加血液の逆行性灌流も研究されており、酸素付加自己血を、頸静脈を通して冠状静脈洞の一方又は両方にポンピングすることができる。1つの従来の方法は、バルーン・カテーテルによって両方の頸静脈を閉塞し、或いは望みであれば脳内のより高い位置から還流経路を閉塞し、動脈血液を冠状洞の一方又は両方に継続的にポンピングすることを示す。
【0009】
酸素付加血液を虚血組織に迅速に提供することに加えて、研究者らは、静脈逆行性灌流が、逆行性灌流される組織の低体温療法のための有利な技法となり得ることを認識している。再灌流療法と併用する適度な低体温(32〜33℃)が、再灌流療法のみと比べたときに組織保護の重要な改良を提供することが示されている。療法的冷却によって組織構造を直接治療することによって、システム療法的冷却の多くの望ましくない副作用を回避することができる。
【0010】
酸素付加血液の逆行性灌流、及び逆行性灌流プラットフォームを通る対象の低体温療法の有望な結果が得られているにも関わらず、現在の提案は複雑なシステムに関わるものであり、動脈カテーテル挿入の必要性、及び/又は不適切な若しくは問題のある逆行性灌流を含む。さらに、今日提案されているシステムは、標的組織構造を実質的に隔離することはできず、したがって従来の療法送達は、典型的には体循環に対する汚染を生じる。低体温療法を含めた様々な適用例に関して、大きな汚染は望ましくなく、標的組織構造に対する療法の効果を制限する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって本発明の目的は、療法を局所的に送達し、実質的に標的組織構造のみに療法を隔離することである。
【0012】
本発明の別の目的は、高い器官対身体療法勾配を維持することである。そのような勾配は、標的器官での療法的濃度と、体循環でのそのような療法的濃度との差である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によって器官循環を体循環から隔離することができ、それにより、依然として身体に対するその役割を果たしながら器官循環が体循環からコンパートメント化される。したがって療法は、長期にわたって高い器官対全身療法勾配又は全身対器官療法勾配を維持するように送達することができる。特定の適用例では、本発明は、全身的な副作用を防止する又は最小限にするように特定の器官の局所治療を促進する。全身的な副作用への患者の耐性により現在制限されている又は実用可能でない強力な治療を、本発明のシステムによって適用することができる可能性がある。そのような強力な治療の例としては、低体温療法や化学療法がある。他方、全身治療が好ましいが、重要器官に対するその毒性によって制限されているとき、本発明の器官循環隔離の概念を使用して、全身治療による器官損傷を防止すること又は最小限にすることができる。したがって、特定の器官(組織構造)に強力な治療を局所化できること、又は特定の器官(組織構造)から強力な治療を隔離できることにより、特定の既存の治療の用途が広がり、より多くの患者により多くの利益を提供することができる。
【0014】
いくつかの技法及びデバイス構成を本明細書で提案するが、本発明の概念は、一般に、(i)局所療法送達、(ii)療法隔離、及び(iii)区分的な療法の不活性化によって記述することができる。そのような原理は、器官灌流ライン、器官還流ライン、及び全身ラインを有するカテーテル挿入によって達成することができる。その結果、単一カテーテル・プラットフォームが、様々な臨床適用例に役立つことがある。多くの状況で、本発明のシステムによるカテーテル挿入は、比較的低リスクの静脈アクセスを含むことがあり、動脈インターベンションを必要としない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の療法送達システムの概略図である。
【図2】図1に示されるシステムの概略図である。
【図3】本発明の療法送達システムの概略図である。
【図4】図3に示されるシステムの概略図である。
【図5】図3に示されるシステムの概略図である。
【図6】本発明の療法送達システムの概略図である。
【図7】図6に示されるシステムの概略図である。
【図8】図6に示されるシステムの概略図である。
【図9】図6に示されるシステムの概略図である。
【図10】図6に示されるシステムの概略図である。
【図11A】本発明の療法送達システムの概略図である。
【図11B】本発明の療法送達システムの概略図である。
【図12】本発明の療法送達システムの概略図である。
【図13A】本発明の療法送達システムに関連付けて使用可能なバルーン固定デバイスの概略図である。
【図13B】本発明の療法送達システムに関連付けて使用可能なバルーン固定デバイスを示す図である。
【図14】本発明の療法送達システムの概略図である。
【図15】図14に示されるシステムの一部の概略図である。
【図16】図14に示されるシステムの一部の概略図である。
【図17】図14に示されるシステムの一部の概略図である。
【図18】本発明の療法送達システムの実装形態の概略図である。
【図19A】図18に示されるシステムの一部の概略図である。
【図19B】図18に示されるシステムの一部の概略図である。
【図20A】図18に示されるシステムの一部の概略図である。
【図20B】図18に示されるシステムの一部の概略図である。
【図20C】図18に示されるシステムの一部の概略図である。
【図21】本発明の療法送達システムの一部の概略流れ図である。
【図22】本発明の療法送達システムの一部の概略流れ図である。
【図23】本発明の療法送達システムの一部の概略流れ図である。
【図24】本発明の療法送達システムの一部の概略流れ図である。
【図25】本発明の療法送達システムの一部の概略流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
ここで、本発明の様々な可能な構成を表すように意図されている添付図面を参照しながら説明する詳細な実施例に関して、上に挙げた目的及び利点を、本発明によって提供される他の目的、特徴、及び進歩と共に示す。本発明の他の実施例及び観点は、当業者の理解の範囲内にあるものと考えられる。
【0017】
本発明の一つの観点は、身体の体循環から少なくとも部分的に隔離された組織構造循環コンパートメントを確立することである。本発明において、用語「組織構造」は、血液循環が通る器官や手足など哺乳動物の身体の細胞構造を意味することがある。したがって、本明細書において、用語「器官」と「組織構造」は、血液流体が循環される哺乳動物の身体又は体内の組織細胞を表すものとして交換可能に使用することができる。本発明において、用語「全身性」は、哺乳動物の身体全体にわたる血液循環を意味することがある。したがって、本発明の一つの観点は、組織構造の血液循環を体循環の残りの部分から少なくとも部分的に分離することである。組織構造循環を少なくとも部分的に隔離することによって、局所組織構造療法及び/又は組織構造保護を実現することができる。
【0018】
本発明は、標的組織構造の静脈系を通して療法を送達して、局所治療の効果を最大にし、且つ組織構造循環を体循環から少なくとも部分的に隔離して、療法の希釈化及び/又は全身的な副作用を最小限にする又は防止することを対象とすることがある。静脈系は、組織構造及びその毛細血管床への比較的安全であり直接的なアクセスを提供し、動脈系へのアクセスに関連付けられる危険を伴わない。本発明の手法は、組織構造に局所化された低体温療法、薬物送達、化学療法、及び細胞ベースの療法を含めた様々な適用例で使用することができる。さらに本発明は、全身化学療法による腎不全の防止など、全身治療から脆弱な組織構造を保護するために使用することができる。本発明のさらなる適用例は、副次的な全身的創傷を引き起こす可能性がある重度の創傷を伴う大きな器官のための局所器官血漿交換又は器官透析である。
【0019】
いくつかの実施例では、送達される療法の全身的な影響を最小限にする又はなくすのに、療法不活性化が有益であることがある。療法の不活性化とは、例えば冷却された血液を生理学的温度に加温すること、生理活性剤中の毒素を最小限にする又はなくすように生理活性剤を代謝させること、及び療法で採用される生理活性剤の全身的な活性を中和するために補償剤を添加することを含むことがある。
【0020】
本発明の一つの観点では、組織構造の循環が体循環から実質的に完全に隔離されることがある。組織構造の完全隔離の構成の概略図が図1に示されており、ここではカテーテルが標的組織構造(器官)の動脈流入構造及び静脈還流構造内に挿入されることがある。カテーテルはそれぞれ閉塞デバイスを含み、閉塞デバイスは、それぞれの動脈流入構造又は静脈還流構造を選択的に実質的に閉塞し、それによりそこを通る全ての動脈流又は静脈流を実質的に閉塞するように適合されている。標的組織構造の循環隔離を完成させるようにカテーテル及びそれぞれの閉塞デバイスの配置が展開された後、標的組織構造への局所血液循環を提供するために体外血液調整装置が提供される。
【0021】
概略的に示した完全隔離システム8は、標的組織構造11の静脈還流構造20に位置決め可能な遠位部分12を有する静脈カテーテル10を含む。静脈カテーテル10の遠位部分12は第1の閉塞デバイス14を含み、第1の閉塞デバイス14は、静脈還流構造20を選択的に実質的に閉塞し、それにより全ての組織構造11の静脈還流を実質的に閉塞するように適合されている。
【0022】
図1に示されるように、循環の流れの方向は、順行(動脈から静脈)でも逆行(静脈から動脈)でもよい。逆行性の流れと組織構造の完全隔離とを採用する実施例では、器官(組織構造)循環コンパートメントの還流経路として動脈循環を使用することができる。典型的には静脈系が動脈系よりも多くの側副循環を有するので、器官循環コンパートメントを通る逆行性の流れが順行性の流れよりもいくぶん好ましいことがある。その結果、逆行性の流れは、順行性の流れよりも器官組織及びその毛細血管床へのアクセスが良いことがある。さらに、逆行性の灌流は、標的器官(組織構造)の閉塞後虚血領域へのアクセスがより良いことがある。さらに、逆行性の流れは、器官循環コンパーメントを通る順行性の流れに比べ、動脈損傷、及び動脈塞栓によるデブリ閉塞の可能性を最小限にすることができる。器官循環が体循環とは無関係に制御されるので、器官の灌流の流量及び圧力を別個に最適化して、細胞レベルで最大の組織灌流又は療法交換を実現することができる。また、本発明の療法送達の長期使用にわたって血管閉塞を最小限にするために、器官循環コンパートメントを通る双方向の流れ(交互の順行性の流れと逆行性の流れ)が有益となることもある。
【0023】
器官循環コンパートメントを通る灌流用に自己血を調整するために、体外血液ループ内にある血液調整装置が本発明のシステムに提供される。体外療法送達用の血液調整装置は、器官循環コンパートメントに入る血液容積とそこから出る血液容積を調整する又は等しくするために流量−容積調節メカニズムを含むことがある。流量−容積調節メカニズムは、出入りのバランスを監視し、選択的に器官循環ループに血液を追加するように、又は器官循環ループから血液を除去するように適合され、バランスを取るための血液は体循環から供給される。このようにして、流量−容積調節メカニズムは、標的器官を通る出入りの流れのバランスを取るように適合されている。
【0024】
いくつかの実施例では、血液調整装置はさらに、器官循環コンパートメントから出て体循環に入る血液を調整するように適合される。そのような調整は、図1では「治療不活性化」として概略的に示されており、ここで、血液調整装置は、器官循環ループ内で標的器官を通っている療法を不活性化する。療法の全身的な影響を最小限にする又はなくすために、体循環に血流を戻す前に、送達されている療法を不活性化することが有益となることがある。
【0025】
図1に概略的に記載される完全器官隔離構成の一実装形態が図2に示されており、ここで、システム8は、標的組織構造(器官)11での静脈還流構造20に位置決め可能な遠位部分12を有する静脈カテーテル10を含む。静脈カテーテル10の遠位部分12は第1の閉塞デバイス14を含み、第1の閉塞デバイス14は、静脈還流構造20を選択的に実質的に閉塞し、それにより全ての組織構造11の静脈還流を実質的に閉塞するように適合される。さらに、静脈カテーテル10は、第1の閉塞デバイス14よりも上流に動作可能に配設された灌流ポート16と、第1の閉塞器デバイス14よりも下流に動作可能に配設された全身ポート18とを含む。
【0026】
本発明において、用語「上流」及び「下流」は、動脈、器官、及び静脈を通る変更されていない自然な血流方向など、変えられていない自然な血流方向を表す。したがって静脈還流構造における用語「上流」は、それぞれの組織構造/器官に向かう相対方向を意味し、その組織構造/器官から、そのような静脈還流構造を通して静脈血流が還流される。したがって、(例えば図2に示されるような)逆行性の灌流の場合でさえ、閉塞デバイス(14)よりも「上流に」配設された灌流ポート(16)は、そのような灌流ポート(16)が閉塞デバイス(14)よりも標的組織構造(11)の近位に位置されていることを意味するものと意図される。
【0027】
図2に示されるシステム8はさらに、組織構造11の動脈流入構造22に位置決め可能な遠位部分32を有する動脈カテーテル30を含む。動脈カテーテル30の遠位部分32は第2の閉塞デバイス34を含み、第2の閉塞デバイス34は動脈流入構造22を選択的に実質的に閉塞し、それにより組織構造11の全ての動脈流入を実質的に閉塞するように適合されている。動脈カテーテル30はさらに、第2の閉塞デバイス34よりも下流に動作可能に配設された還流ポート36を含む。
【0028】
いくつかの実施例では、第2の閉塞デバイス34は、組織構造11への全ての動脈流入を実質的に閉塞し、第1の閉塞デバイス14は、組織構造11からの全ての静脈還流を実質的に閉塞する。しかし、動脈系と静脈系の一方又は両方で側副循環を有する組織構造11のためにシステム8を採用することができることが企図されている。したがって、システム8の第1の閉塞デバイス14及び第2の閉塞デバイス34を採用して、組織構造11の標的静脈還流構造及び動脈流入構造のみを閉塞することができる。さらに、全身ポート18は、図2では静脈カテーテル10と関連付けて示されているが、全身ポート18を静脈カテーテル10と動脈カテーテル30の一方又は両方に関連付けることができることが企図されている。
【0029】
システム8は血液調整装置40をさらに含み、血液調整装置40は、灌流ポート16、還流ポート36、及び全身ポート18を共に流体結合する。血液調整装置40は、還流ポート36及び還流ライン2を通る還流血流42としてのそこへの血液供給を調整し、還流血流42の少なくとも一部を、調整された逆行性の灌流血流44として灌流ライン1及び灌流ポート16を通して再灌流し、還流血流42の少なくとも一部を、全身血流46として全身ライン3及び全身ポート18を通して定量供給することができる。上述したように、流量−容積調節メカニズム48を採用して、器官循環コンパートメント内の血流を増減させて、器官循環コンパートメント内部で所望の血流及び流体圧を維持することができる。したがって、流量−容積調節メカニズム48は、全身ポート18を通って体循環コンパートメントに出る血流を可能にする及び/又は促すことができ、或いは全身ライン46に沿って全身ポート18を通って体循環コンパートメントから入る血流を可能にする及び/又は促すことができる。したがって、血流は、血液調整装置40の流量−容積調節メカニズム48によって制御された調節に対応するように、全身ライン46を通して双方向で処理することができる。そのような双方向性は図1に概略的に示されている。典型的には、流量−容積調節メカニズム48は、図1及び図2に示されるものなど本発明の組織構造の完全隔離の実施例でのみ必要とされる。そのような実施例では、組織構造11での動脈流入及び静脈還流が、システム8の少なくとも静脈カテーテル10及び動脈カテーテル30によって実質的に完全に制御される。また、流量−容積調節メカニズム48は、システム8の必須の構成要素ではなく、器官循環コンパートメントへの又はそこからの血流を制御するための任意選択のメカニズムであることも理解されたい。また、システム8によって押し流される標的器官を通る血流は、逆行でも、順行でも、又は交互の逆行と順行でもよいことを図1の概略図から理解されたい。標的器官11を通る順行性の流れに関して、調整された血液の灌流は、血液調整装置40によってライン2を通して定量供給し、ライン1を通して器官11から還流することができる。したがって、少なくともシステム8の灌流ラインと還流ラインの役割を、標的器官11を通る順行性の流れ及び/又は双方向の流れのために逆にすることもできることを理解すべきである。
【0030】
図2に示されるように、システム8は2つの別個のカテーテル10、30、及び2つの血管アクセス点を採用する。例示する実施例では、動脈カテーテル30は、2ルーメン・バルーン・カテーテルであり、第2の閉塞デバイス34は、当技術分野で一般に利用される膨張可能な閉塞バルーンである。動脈カテーテル30の第1のルーメンは還流ライン2であり、第2のルーメンはバルーン膨張及び収縮のために利用することができる。第1の閉塞デバイス14及び第2の閉塞デバイス34はそれぞれ、器官循環を体循環から分離して、分離された器官循環コンパートメントと体循環コンパートメントを形成するための膨張可能なバルーンでよい。灌流ポート16及び還流ポート36は器官循環コンパートメントに開いており、全身ポート18は体循環コンパートメントに開いている。静脈カテーテル10は3ルーメン・バルーン・カテーテルでよく、第1のルーメンは灌流ライン1専用であり、第2のルーメンは全身ライン3専用であり、第3のルーメンはバルーン膨張及び収縮用である。一実施例では、全身ライン3は、動脈塞栓の可能性を最小限にするために静脈カテーテル10に組み込むことができる。
【0031】
カテーテル10、30はそれぞれ、大腿静脈、内頸静脈、若しくは鎖骨下静脈、又は大腿動脈、若しくは頸動脈など任意の一般的な静脈又は動脈アクセスを通して挿入することができる。特定の実施例では、動脈カテーテル30は、動脈アクセスを有するステント送達カテーテル又は血栓除去用カテーテルでよい。還流ポート36及び還流血流42を血液調整装置8に接続するために、シャント43が採用されることもある。
【0032】
特定の実装形態では、図1及び図2に示される完全器官循環隔離システムに必要とされる動脈カテーテル挿入は、標的器官自体又は他の重要器官に対する動脈塞栓合併症の可能性のために望ましくないことがあり、且つ/又は救急時など特定の臨床状況においては実現可能でないことがある。したがって本発明はまた、療法送達を行うために静脈アクセスのみを使用する器官循環コンパートメントの部分隔離も企図する。静脈アクセスは、最小侵襲性技法によって実現することができ、救急施設でさえ比較的迅速に達成可能である。
【0033】
上述した完全隔離技法とは異なり、器官循環の部分隔離は動脈アクセスを必要としない。療法送達のための灌流液は、標的組織構造(器官)の静脈還流構造を通して逆行で適用することができる。この手法では、器官は、いくぶん増加した血流及び流体圧を受ける。静脈は、典型的には比較的高い弾性追従性を示し、したがって本発明の逆行性の灌流技法のより高い血流及び血圧に対応するのに良く適している。実際、より高い器官静脈圧は、静水圧及び組織灌流を増加するのに有利であることがあり、それによって虚血事象によって引き起こされる非流通現象を最小限にし、動脈閉塞後の領域への酸素付加血流が増加する。部分循環隔離は、静脈還流ラインを通して体外血液調整装置に通常の静脈流を分岐して、血液を調整する(例えば酸素付加する、冷却する、生理活性剤添加する)こと、調整された血液材料を、灌流ラインを通して標的組織構造の静脈還流構造に灌流することによって行うことができる。このようにして、アクセスされた静脈は「動脈化」され、追加の酸素付加血流を標的器官に供給する。標的組織構造への動脈流が静脈還流の流れ量に寄与し、ここで動脈流入は閉塞されていないので、静脈還流の流れ量のいくらかの部分のみが体外療法送達に戻され、静脈灌流ラインを通して標的器官に再灌流される。本発明のシステムの静脈還流ラインによって捕捉された余剰の静脈血液容積は体循環に向けられることがあり、任意選択で、体循環に戻る前に療法不活性化システムを通る。組織構造循環の部分隔離に関する本発明の一実施例の概略図が図3に提供される。システム60は、標的組織構造61の第1の静脈還流構造72に位置決め可能な第1の静脈アクセス・ライン64と、組織構造61の第2の静脈還流構造74に位置決め可能な第2の静脈アクセス・ライン66とを含む。一実施例では、第1の静脈アクセス・ライン64は、組織構造61の第1の静脈還流構造72に位置決め可能な遠位部分65を有する第1の静脈カテーテルである。第1の静脈カテーテル64の遠位部分65は第1の閉塞デバイス68を含むことがあり、第1の閉塞デバイス68は、第1の静脈還流構造72を選択的に実質的に閉塞するように適合されている。図4は、図3に概略的に示されるシステム60のより詳細な図を提供する。
【0034】
第2の静脈アクセス・ライン66は、第2の静脈還流構造74に位置決め可能な遠位部分67を有する第2の静脈カテーテルでよい。第2の静脈カテーテル66の遠位部分67は、第2の静脈構造74を選択的に実質的に閉塞するように適合された第2の閉塞デバイス78を含むことがあり、それにより、第1の閉塞デバイス68と共同して、体循環コンパートメントとは別個の組織構造71の器官循環コンパートメントを確立する。しかし、いくつかの実施例では、第1のカテーテル64及び第2のカテーテル66は、組織構造61の静脈還流を部分的にのみ閉塞し、したがって、好ましい調整された血液灌流のために組織構造61の少なくとも一部分を隔離するのに有用である。
【0035】
図3の概略図では、第1の静脈アクセス・ライン64は、灌流血流80のための静脈灌流ライン1に対応することがあり、第2の静脈アクセス・ライン66は、静脈還流の流れ82のための還流ライン2に対応することがある。第1のカテーテル64及び第2のカテーテル66は、それぞれ第1の閉塞デバイス68及び第2の閉塞デバイス78よりも上流に動作可能に配設された灌流ポート76を含むことがある。第1のカテーテル64及び第2のカテーテル66はさらに、還流ポート77及び全身ポート79を含むことがあり、全身ポート79は、それぞれ第1の閉塞デバイス68及び第2の閉塞デバイス78よりも下流に動作可能に配設される。
【0036】
システム60は血液調整装置90をさらに含み、血液調整装置90は、血液調整装置90の器官循環隔離ユニット92で、灌流ポート76、還流ポート77、及び全身ポート79を互いに流体結合する。この実施例では、血液調整装置90は、還流ポート77及び還流ライン2を通る還流血流82としてそこに供給された血液を調整し、還流血流82の少なくとも一部を、調整された逆行性の灌流血流80として灌流ライン1及び灌流ポート76を通して再灌流することができる。調整装置90はさらに、還流血流82の少なくとも一部を、全身血流84として全身ライン3及び全身ポート79を通して定量供給するように構成される。本発明の他の実施例と同様に、全身ポート79で終端する全身ライン3を、第1のカテーテル64と第2のカテーテル66の一方又は両方に組み込むことができることを理解されたい。さらに、第1のカテーテル64と第2のカテーテル66の一方又は両方が、灌流ポート76で終端する灌流ライン1と還流ポート77から延びる還流ライン2の一方又は両方を含むことがあることを理解されたい。
【0037】
図示した実施例では、灌流液は、灌流ライン1を通して組織構造61及びその毛細血管床に向けられ、組織構造61から静脈還流ライン2を通り、組織構造61の第1の静脈還流構造72と第2の静脈還流構造74の間の静脈側副循環を通って戻る。このようにすると、2つの静脈72、74は、それぞれ灌流静脈と還流静脈として働く。いくつかの実施例では、還流ライン2に対する小さな負圧を提供して、組織構造61の静脈血流の大部分を還流ポート77に引き込むことができる。
【0038】
完全隔離実施例に関して上述したように、少なくとも2つの静脈アクセス位置を採用するシステム60は、組織構造循環の完全隔離又は組織構造循環の部分隔離のいずれにも採用することができる。当技術分野でよく知られているように、第1のカテーテル64及び第2のカテーテル66は複数ルーメン・バルーン・カテーテルでよく、第1の閉塞デバイス68及び第2の閉塞デバイス78は膨張可能なバルーンでよい。図示した実例では、第1のカテーテル64は2ルーメン・カテーテルでよく、灌流ライン1用の第1のルーメンと、バルーン68の膨張/収縮用の流体を輸送するための第2のルーメンとを備える。同様に、第2のカテーテル66はトリプルルーメン・カテーテルでよく、還流ライン2用の第1のルーメンと、全身ライン3用の第2のルーメンと、膨張可能なバルーン78に膨張流体を輸送するための第3のルーメンとを備える。閉塞デバイス68、78が閉塞状態に展開された状態で、灌流ライン1及び還流ライン2は器官循環コンパートメントに開き、全身ライン3は体循環コンパートメントに開く。
【0039】
図示した実施例では、還流ポート77は、それぞれ第1の閉塞デバイス68及び第2の閉塞デバイス78よりも上流に配設される。しかし、特に組織構造61が第1及び第2の静脈還流構造72、74に加えて側副静脈還流を有する適用例では、還流ポート77を(体循環コンパートメント内で)第1及び第2の閉塞デバイスよりも下流に配設することができることが企図されている。
【0040】
システム60の複数アクセス・カテーテル構成は、連続的な療法送達のために、同時の灌流と還流を可能にする。連続的であるが、静脈逆行性灌流と還流血流は個別に一定でも周期的でもよく、本明細書で以下により詳細に説明する様式で血液調整装置90によって監視される全身的又は局所的な血行力学又は安全圧力設定点によって調整することができる。
【0041】
システム60に関する理想的な候補の組織構造は、少なくとも2つの主要な静脈還流ラインを含むことがある。特定の実例は脳であり、脳は、頭蓋内静脈洞を通して良く接続されている左右の内頸静脈への静脈還流を有する。その結果、1つの内頸静脈を通る灌流が脳の両側に効果的に灌流することができ、脳の両側からの静脈還流を別の内頸静脈から還流することができ、頭蓋内圧又は脳圧の大幅な増加は生じない。内頸静脈カテーテル挿入も一般的なインターベンションであり、したがって本発明のシステム60は、実践する医師が容易に受け入れることができるものである。
【0042】
システム60の1つの例示的な適用例は、全脳組織に低体温療法を提供することであり得る。第1のバルーン・カテーテル64及び第2のバルーン・カテーテル66に関する常時バルーン膨張が局所脳冷却の助けとなる環境を確立し、全身的な冷却を最小限にする。カテーテル64、66の1つ又は複数に圧力センサを設けることができ、それにより、それぞれの閉塞デバイス68、78を間断的に収縮させて脳循環への可能な逆流を解放することができる。この実施例では、血液調整装置による調整は、灌流血流80を約35℃未満に冷却することを含む。さらに、血液調整装置90が療法不活性化を組み込むことができ、それにより、調整はさらに、全身血流84を生理学的温度まで加温して、望ましくない全身的な冷却を回避することを含む。
【0043】
本発明の別の実施例が図5に示されており、第1のカテーテル102及び第2のカテーテル104は、第1のカテーテル64及び第2のカテーテル66に関して述べたのとは逆方向からの静脈アクセスのために構成される。特に、第1のカテーテル102は、第1の閉塞デバイス108が灌流ポート110に対して遠位に配設されるように配置することができ、灌流ポート110は、(器官循環コンパートメント内で)第1の閉塞デバイス108よりも上流に動作可能に配設される。したがって、灌流血流80は、灌流ポート110から定量供給されて逆行方向で組織構造111に灌流する。図5に示される実施例では、第2のカテーテル104は、(器官循環コンパートメント内で)第2の閉塞デバイス118よりも上流に配設された還流ポート112を含み、したがって灌流ポート110及び還流ポート112は器官循環コンパートメントに開き、全身ポート114は体循環コンパートメントに開く。
【0044】
本発明のさらなる実施例が図6に概略的に示され、ここでシステム120はただ1つの静脈アクセス・ラインを含み、この静脈アクセス・ラインは、少なくとも部分的に隔離された標的組織構造122に局所療法を送達するように適合されている。システム120のより詳細な図が図7に示されている。ただ1つの静脈アクセス・ラインは、組織構造122の静脈還流構造140に位置決め可能な遠位部分126を有する静脈カテーテル124において具現化することができる。カテーテル124の遠位部分126は、静脈還流構造140を選択的に実質的に閉塞するように適合された閉塞デバイス128を含むことがある。一実施例では、閉塞デバイス128は、(図7に示されるように)器官循環コンパートメントを体循環コンパートメントから分離するために、組織構造122の静脈循環を全身循環から実質的に隔離するように展開させることができる。いくつかの実施例では、カテーテル124は、局所器官循環コンパートメントに灌流液を定量供給するために閉塞デバイス128よりも上流に動作可能に配設された灌流ポート132を含む。好ましくは、カテーテル124はさらに、調整された灌流液を生成するための血流をシステム120に供給するために静脈還流血流144を捕捉するための還流ポート134を含む。還流ポート134は、適用例ごとの望みに応じて、閉塞デバイス126よりも上流に配設することも、下流に配設することもできる。閉塞デバイス128よりも下流で還流ポート134を利用する実施例は、側副静脈放出を有する組織構造122、及び/又は閉塞デバイス128の間断的な展開に関わることがある。このようにすると、組織構造122からの静脈還流を、組織構造122での流体圧を許容限度内に維持するように調節することができる。
【0045】
図7に示される構成は例示的な器官循環隔離構成であり、ここでは組織構造122の少なくとも静脈還流構造140を閉塞デバイス128によって連続的に閉塞することができ、灌流ライン1及び灌流ポート132を通して送達される療法を、閉塞デバイス128よりも上流にある還流ポート134で実質的に完全に捕捉することができる。その結果、灌流された療法は、器官循環コンパートメント内部に実質的に維持され、体循環コンパートメントを汚染しない。
【0046】
システム120は血液調整装置150をさらに含み、血液調整装置150は、灌流ポート132と還流ポート134を互いに流体結合する。血液調整装置150は、還流ポート134を通る還流血流144としてのそこへの血液供給を受け取り、還流血流144の少なくとも一部を、調整された逆行性の灌流血流132として灌流ポート132を通して再灌流することができることがある。調整装置150の調整は、灌流血流142を約35℃未満で生成するために冷却を行うことを含むことがある。
【0047】
いくつかの実施例では、カテーテル124は体循環コンパートメント内に動作可能に配設され、血液調整装置150によって灌流ポート132及び還流ポート134に流体接続された全身ポート136を含む。血液調整装置150は、還流血流144の少なくとも一部を、全身ポート136を通して全身血流146として定量供給することができることがある。全身ポート136は、好ましくは、体循環コンパートメント内に全身血流146を定量供給するように構成される。体循環コンパートメント内に全身血流146を定量供給する前に、血液調整装置150は、全身血流146を不活性化することによって全身血流146を調整することができる。いくつかの実施例では、血液調整装置150による不活性化は、全身血流146を生理学的温度まで加温することを含む。このようにすると、器官循環コンパートメント内部の標的組織構造122に送達された低体温療法を、体循環コンパートメントへの解放前に「不活性化」する、又は加温することができ、それにより、低体温療法は標的組織構造122に局所化され、体循環コンパートメントを汚染しない。
【0048】
図7に示されるシステム120は、標的組織構造122への逆行性の療法送達を提供し、還流ポート134を通る静脈還流を制御して、静脈還流血流134を血液調整装置150に向ける。いくつかの実施例では、ただ1つのカテーテル124を、組織構造122からの実質的に全ての静脈還流に対応する組織構造122の静脈還流構造の内部に位置決めすることができる。例示的実施例は、閉塞デバイス128が心筋からの実質的に全ての静脈還流を閉塞するように冠状静脈洞にカテーテル124を配置することによって心筋に療法送達するものである。そのような構成は、冠循環と体循環の間での療法の汚染を防止する又は最小限にする。バルーン・カテーテルの膨張可能なバルーンであることがある閉塞デバイス128は、連続的に展開して冠状静脈洞と接触することができ、体循環コンパートメントから切り離された冠循環系の真のコンパートメント化を確立する。
【0049】
図8に示される実施例は図7に示される実施例と同様の機能を示すが、若干修正された構成を有する。特に、ただ1つのカテーテル160を、全身ポート168が閉塞デバイス170の遠位に動作可能に配設された状態で配置することができ、それにより全身血流146が、全身ライン3を通して、全身ポート168から出て体循環内に定量供給される。この実施例では、閉塞デバイス170は、標的器官の静脈還流を体循環から実質的に完全に隔離し、ここで閉塞デバイス170は、標的組織構造122の主要な又は唯一の静脈還流構造140を実質的に閉塞する。灌流血流142は閉塞デバイス170の近位にあるが、それにも関わらず、静脈により隔離された器官循環コンパートメント内にある灌流ポート162で定量供給される。同様に、組織構造122からの静脈還流は還流ライン144用の還流ポート164を通る。
【0050】
図7及び図8に示される実施例のいずれにおいても、器官循環コンパートメントの静脈還流を、体循環コンパートメントから実質的に隔離することができる。したがって、標的組織構造122の局所療法のために、灌流ライン1を通して器官循環コンパートメントに療法を送達することができる。組織構造122からの静脈還流の実質的な隔離により、送達された療法は、体循環コンパートメントから分離されたままであることがあり、体循環コンパートメントに戻る前に血液調整装置を通して処理される。したがって、体循環に対する療法の汚染による望ましくない副作用を被らずに、対象の療法を標的器官/組織構造に対して局所的に達成することができる。
【0051】
標的組織構造に局所療法を提供することに加えて、上述した構成は、局所療法を達成するための単純な単一カテーテル・デバイスを提供する。単一カテーテル構成は、ただ1つの静脈アクセスのみを必要とし、この静脈アクセスは、緊急状況でさえ迅速に行うことができる。また、標的組織構造から静脈還流を選択的に実質的に閉塞するためにただ1つの閉塞デバイスのみを戦略的に位置決めすればよいので、単一カテーテルの遠位配置が容易になる。
【0052】
また、本発明によって、選択的に実質的に隔離された器官循環コンパートメント内に動作可能に配設された複合の灌流液/還流ポートと連絡するように灌流ライン1と還流ライン2をただ1つのルーメンに組み合わせることができることが企図されている。そのような実施例の第1の実例が図9に示されており、ここでカテーテル190は複合の灌流/還流ルーメン192を含み、複合の灌流/還流ルーメン192は複合の灌流/還流ポート194と連絡し、複合の灌流/還流ポート194は器官循環コンパートメント内に配設され、閉塞デバイス202によって体循環コンパートメントから選択的に実質的に隔離されている。図9に示される実施例では、複合の灌流/還流ポート194は、閉塞デバイス202の遠位に動作可能に配設される。図10の実施例は、複合の灌流/還流ルーメン216の複合の灌流/還流ポート214に対して遠位に位置された閉塞デバイス212を提供する。また、図10の複合の灌流/還流ポート214は、選択的に実質的に隔離された器官循環コンパートメントと連絡するように、閉塞デバイス212よりも上流に配設される。
【0053】
図9及び図10に示される実施例のいずれにおいても、灌流血流196と還流血流198は、血液調整装置内部の流れ分離器デバイス200で分離される。したがってルーメン192、216を通る流れは双方向であり、逆行方向で灌流し、且つ血液調整装置への静脈流の順行性還流を可能にする。典型的には、複合の灌流/還流ルーメン192、216は、比較的大きい容積の組織構造/器官のために、特に組織構造容積が複合の灌流/還流ルーメン192、216の容積よりも大きい場合に採用することができる。灌流ライン196と還流ライン198を単一ルーメン192、216に組み合わせる利益は、増大したルーメン直径による流れ抵抗の減少である。そのような減少された流れ抵抗は、増加された灌流血流及び還流血流を促すことがある。対照的に、図7及び図8の分離された灌流ルーメンと還流ルーメンは、特に小さな容積の標的器官において療法交換のための死腔を防止するために、いくつかの適用例で有利に採用されることがある。さらに、灌流ライン1を還流ライン2から分離することにより、それぞれの灌流血流と還流血流がいくらか重なり合うことができるようになり、したがって理論上は療法送達を最適化する又は最大にすることができる。したがって、本発明が少なくとも図示した構成を包含することが企図されている。
【0054】
全身ポート199を体循環コンパートメントに連絡する全身ライン3は様々な形で構成することができる。例えば全身ポートの位置は、カテーテル挿入部位のすぐ近位から、閉塞デバイスの動作可能位置に隣接する位置、例えば展開された閉塞デバイスよりも下流での器官の静脈還流構造内部まで、様々な位置にすることができる。
【0055】
図7〜図10の例示的実施例はそれぞれ、概念上は図6に示される単一静脈アクセス・システムの概略図に従う。そのようなシステムは、標的組織構造/器官122の部分隔離又は完全隔離を採用することができ、ここで、単一静脈アクセス手法と組み合わせて動脈閉塞が採用されることも、採用されないこともある。しかし、図6の概略図の構成はただ1つの静脈/静脈還流構造において静脈灌流と還流の両方を利用する。いくつかの実施例では、灌流と還流は同時には行われず、双方向の流れに関して周期的に制御され、器官循環コンパートメントへの灌流と器官循環コンパートメントからの還流とを交互に行う。静脈逆行性灌流ラインは、標的組織構造の毛細血管床及び組織に達するように、静脈構造を通して療法を灌流する。そのような静脈逆行性灌流は、標的器官/組織構造の壁内及び静脈内圧の増加をもたらすことがある。したがって静脈還流ラインは、指定された安全範囲内で壁内圧及び静脈内圧を維持し、また適切な組織循環を保証する役割を担う。静脈灌流/還流サイクルは、心筋に関する心臓サイクルなど、又は肝臓など他の器官に関する波形サイクルなど、局所器官循環サイクルに対応することがある。すなわち、還流サイクルは、例えば心電図信号などの生理学的信号(R波からの適切な時間オフセットを有するか、或いは体表面心電図と心内心電図の両方又は一方)、局所血行力学情報(局所的な流れ及び圧力波形)、又は圧力設定点、又は様々な信号の組合せによって作動させることができる。本明細書で以下により詳細に説明するように、灌流段階と還流段階の間のバランスは、血液調整装置によって制御する又は動かすことができる。
【0056】
単一静脈アクセス隔離技法は、主要な門脈ドレナージを有する様々な器官又は他の組織構造で使用することができる。例示的な組織構造としては、冠状静脈洞、脳の内頸静脈、肝静脈、及び腎静脈を挙げられる。例えば肝臓に送達される療法の場合、肝静脈系が右、中央、及び左の肝静脈に分けられており、それらは全て下大静脈からアクセス可能であるので、各肝葉に対する局所療法が可能であることがある。単一静脈アクセス技法の主要な利益は、一般に利用される静脈アクセス点を介してアクセスされるカテーテルを1つしか必要としないので、インターベンションを単純化できることである。間断的な灌流を利用する実施例では、療法送達は、器官容積に比べて比較的大きい灌流血流容積を必要とすることがあり、これは、場合によっては静脈内圧及び壁内圧の上昇をもたらす。したがって、そのようなシステムに圧力監視機能を組み込んで安全範囲内で圧力を維持することが望ましい。
【0057】
図7〜図10の実施例は、標的組織構造の静脈還流構造の常時閉塞を用いて機能することがある。そのような常時閉塞は、静脈還流構造の静脈壁に対する膨張可能なバルーンの膨張によって達成することができる。閉塞デバイスよりも上流に還流ポートを位置決めすることによって常時閉塞が容易になり、それにより、器官循環コンパートメントへの調整された血流の再灌流、並びに不活性化、及び体循環への定量供給のために、少なくとも部分的に隔離された組織構造からの静脈還流を血液調整装置に還流することができる。
【0058】
図11A及び図11Bに示される本発明の別の実施例では、単一アクセス静脈カテーテル220は、閉塞デバイス230よりも上流に動作可能に配設された灌流ポート222で終端する灌流ライン1を含む。カテーテル220はさらに、還流ポート224を通る静脈還流血流を受け取る還流ライン2を含む。余剰の還流血流は、全身ライン3で全身ポート221を通して体循環に戻すことができる。還流ポート224及び全身ポート221は体循環内に動作可能に配設され、体循環は、閉塞デバイス230よりも上流にある器官循環コンパートメントから選択的に少なくとも部分的に隔離される。そのような構成は、「擬似隔離」療法送達を提供することができ、器官循環コンパートメントで灌流ポート222を通して送達される療法は、最初に不活性化のために血液調整装置を通して送られることなく、体循環に静脈を通して還流することができる。還流ポート224及び/又は全身ポート221は、体循環コンパートメント内で、カテーテル挿入の部位の近位に動作可能に位置決めすることができ、又はより遠位に配設することができ、例えば閉塞デバイス230のより近位に配設することができる。還流ポート224と全身ポート221を互いに近位に動作可能に位置決めする必要はない。還流ポート224と全身ポート221の順序は、典型的には、静脈分枝の局所分布に応じて決まる。いくつかの実施例では、還流ポート224が全身ポート221よりも上流でよい。
【0059】
膨張可能なバルーンであることがある閉塞デバイス230は、標的器官の静脈還流サイクルに合わせて選択的に膨張及び収縮することができる。そのようにすると、閉塞デバイス230は、自然な静脈還流サイクル中に選択的に収縮させて、器官循環コンパートメントから出る静脈還流を可能にし、その後、再び膨張させて、静脈還流構造を閉塞し、還流サイクル間の逆行性の灌流を促すことができる。標的器官が心筋である実例では、閉塞デバイス230は、冠状静脈洞に動作可能に位置決めされた膨張可能なバルーンでよい。バルーン230は、冠静脈還流(心収縮期)中に収縮するように動作させることができる。バルーン230の再膨張は心拡張期中に行うことができ、その時、灌流ポート222から心筋への逆行性灌流を促す。バルーン230が心収縮期中に収縮されるので、灌流ポート222を通して送達される療法が体循環をいくぶん汚染することがあり得る。しかし、還流ポート224は、汚染された全身静脈血流を連続的又は周期的に収集するように構成することができ、送達された療法を血液調整装置で不活性化して、全身ポート221で体循環に再び入れる。心筋の低体温療法の場合、血液調整装置によって行われる不活性化は、汚染された全身血流を加温し、生理学的温度以上で全身血流3を戻すことである。この方法は、バルーン230の周期的な収縮によって生じる療法汚染を補償する。
【0060】
本発明の別の実施例が図12に示されており、ここでは単一アクセス静脈カテーテル250が、灌流ポート252で終端する灌流ライン1を含み、灌流ポート252は、標的器官/組織構造の静脈還流構造内で閉塞デバイス260よりも上流に動作可能に配設される。したがって、灌流ポート252は、閉塞デバイス260によって体循環から少なくとも部分的に分離された器官循環コンパートメント内に動作可能に配設することができる。カテーテル250はさらに、還流ポート254を通して静脈還流血流を収集する還流ライン2を含む。還流ライン2は還流ポート254を有するルーメンを備えることができ、還流ポート254は任意の所望の位置に配設されるが、好ましくはカテーテル250によって画定された静脈経路に沿ってカテーテル挿入部位と閉塞デバイス260の動作位置との間の位置に配設することができる。還流ポート254は、灌流ポート252が動作可能に配設された器官循環コンパートメントから少なくとも部分的に分離された体循環内に配設することができる。
【0061】
閉塞デバイス260は、カテーテル220の閉塞デバイス230に関して説明したものと同様に動作させることができ、ここでは閉塞デバイス260を閉塞状態に間断的に展開することができ、周期的な静脈還流血流が器官循環コンパートメントから出ることができるようにしている。図12の構成は、標的組織構造/器官への直接の療法送達を促す。図11の実施例と同様に、灌流ポート252を通る灌流は、標的器官の静脈還流構造内部で逆行方向に送達することができ、そのような逆行性灌流は、周期的な静脈還流血流の非流通期間中に行われるように位相合わせすることができる。例えば、灌流ポート252を通した心筋への灌流は心拡張期中に行うことができ、心収縮期中には止めることができる。そのような位相合わせした灌流は、本発明の任意の実施例で行うことができることを理解されたい。図12のデバイスは、血液調整装置による療法不活性化を含まないが、それにも関わらず、例えば酸素付加及び冷却された血液を含めた調整された血液を灌流ライン1での灌流液に供給する。このようにすると、灌流ライン1は、酸素付加及び冷却された血液を虚血組織に、その療法的治療のために供給することができる。不活性化なしでは、灌流された療法は、ある期間にわたって体循環に影響を及ぼすことがある。しかしそのようなシステムは、比較的短い期間では、例えばPCI中に疾患組織構造への血管形成及び動脈血流を再確立するために有用であることがある。
【0062】
図11及び図12で述べたデバイスを様々な組織構造/器官で使用することができることを理解されたい。例示的な適用例は、頭蓋内静脈洞に局所療法を提供するために、頸静脈に単一アクセス・カテーテルを送達することである。そのような実施例では、灌流ポートは、展開される閉塞デバイスよりも上流に配設され、灌流液は、別の頸静脈によって、頭蓋内静脈洞から静脈を通して還流することができる。側副静脈還流の存在により、閉塞デバイスは、周期的に膨張/収縮する必要はなく、連続的に閉塞状態に展開することができる。頸動脈アクセス用の還流ポート及び全身ポートは、適切であれば、体循環内に動作可能に位置決めすることができる。
【0063】
本発明の任意の実施例を、例えば心臓発作治療用のPCIなど動脈インターベンション用の補助的療法として採用することができる。補助的動脈インターベンションの場合、追加の還流ラインは、標的組織構造の動脈側で逆行灌流液を捕捉し、捕捉された灌流液の少なくとも一部を、体循環への再灌流及び/又は定量供給のために血液調整装置に戻すように確立することができる。追加の還流ラインを、例えばステント送達カテーテル又は血栓除去用カテーテルに組み込むことができ、それにより、そのようなカテーテルを用いた動脈インターベンションは、本発明の1つ又は複数の別個の静脈カテーテルから灌流血流を捕捉するための簡便なプラットフォームも提供する。動脈側での追加の還流は、追加の還流ラインから逆流の還流を導くことが可能なシャント又は他のラインを通して本発明の血液調整装置に送達することができる。いくつかの実施例では、動脈吸引ポンプを採用して、血液調整装置への追加の還流を引き出すのに必要な吸引力を提供することができる。吸引効果は、組織構造の動脈循環を全身動脈循環からコンパートメント化又は分離するように、動脈還流ラインに関連付けて閉塞デバイスを使用することによって高めることができる。閉塞デバイスは、動脈遮断位置よりも上流に動作可能に配設することができ、遮断位置の不慮の破壊の危険を最小限にするために動脈遮断位置よりも実質的に上流に動作可能に位置決めすることができる。従来の血栓除去用カテーテルは、典型的には、動脈遮断位置に近接して位置決めする必要があり、これは、血塊及び/又は血小板の不慮の破壊を引き起こすことがある。いくつかの血栓除去用カテーテルは、遮断位置の下流に血液フィルタを位置決めするために遮断位置を通過する必要さえある。
【0064】
この構成の独特の利益は、血塊及び/又は血小板デブリが動脈インターベンション部位よりも下流に流れるのを効果的に阻止することである。デブリは、隔離された器官循環コンパートメント内に捕捉され、血液調整装置に移送されて、体循環から除去される。
【0065】
上述したように、本発明のカテーテルは、指定の安全範囲内での動作条件を保証するためにフィードバック制御を提供するために、圧力センサ、温度センサ、又は化学センサ、例えば直接的な器官電気信号若しくはエレクトログラム・センサなど、様々なセンサを備えることができる。例えば内部の圧力を監視するために圧力センサを器官循環コンパートメント内に配設することができ、また最適なフィードバック制御のために温度センサや化学センサなどの療法用センサを還流ポート又はその付近に動作可能に配設することができる。
【0066】
追加のカテーテル安定性を提供し、器官循環コンパートメントの隔離に重要なカテーテル及び閉塞デバイスの位置を固定するために、1つ又は複数の固定メカニズムを本発明のカテーテルと共に含むことができる。そのような固定メカニズムは、例えばプログラムされた閉塞デバイスの展開又は収縮中にカテーテルが外れるのを防止するのに有用であることがある。例示的な固定メカニズムが図13A及び図13Bに示されている。固定メカニズム275、277は、伸縮可能なステント又はコイルでよい。図13Bに示されるように、事前成形されたコイル状のカテーテル280は、カテーテルの挿入及び引抜き中にガイド・ワイヤによって伸長させることができ、カテーテル設計に組み込むことができる。複数ルーメン・カテーテルの場合、ただ1つのルーメンのみを、図13Bに示される構成で事前成形することができる。
【0067】
本発明のシステムは、好ましくは、灌流ラインを通して標的組織構造に療法を送達し、特定の標的組織構造に療法を局所化し、器官の循環流れ量を調整し、送達された療法を、全身ラインを通る体循環に再び入れる前に不活性化するように適合される。本発明の体外血液調整装置の概略図が図14に示されており、血液調整装置300は、療法送達モジュール310と、療法隔離モジュール320と、療法不活性化モジュール330とを含む。図14の概略的な流れ図は、各モジュール310、320、330の例示的構成要素、流体の流れ方向及び接続性、並びに例示的な制御経路を示す。
【0068】
本発明によって提供される局所療法送達は、薬物、化学療法、細胞若しくは遺伝子療法、及び/又は物理治療モダリティ(例えば低体温療法)を含むことがある。さらに、局所療法送達は、標的組織構造の酸素供給を増加する又は適切な酸素供給を保証するための酸素付加を含むことがある。したがって療法送達モジュール310は、1つ又は複数の療法送達メカニズムを含むことがあり、これらのメカニズムには、例えば(i)化学療法や他の補充療法を含めた補充薬物又は細胞療法のための外部補充312、(ii)酸素付加314、及び(iii)温度制御316が含まれる。外部補充312は、流量制御注入ポンプ(図示せず)を含むことがあり、このポンプは、灌流血流1と同期されること又は別個に制御されることがある。酸素付加314は、従来の膜酸素付加装置によって、又は高圧水性酸素の供給によって、又はそれらの組合せによって提供することができる。還流ライン2内部の温度センサから入力信号を受信することができる温度制御316は、標的組織構造に療法温度を与える。そのような療法温度は、低体温療法のための冷却、又は低体温療法に反する加温を含むことがある。図14に示されるように、療法送達モジュールは、静脈アクセス・ライン(灌流ライン1)に灌流液を送達するように適合される。
【0069】
療法送達モジュール310に関する詳細な例示的な流れ図が図15に示されている。図示される実施例では、療法送達モジュール310は、血液リザーバ315と、空気/血塊フィルタ317と、調整された灌流液を灌流ライン1を通して標的組織構造へ押し流すための灌流ポンプ318とを含む。いくつかの実施例では、療法送達モジュール310の構成要素は、使い捨ての血液回路カートリッジ内に含まれる。
【0070】
療法隔離モジュール320はカテーテルの還流ライン2に流体結合され、実質的に標的組織構造のみに灌流液を提供するように、カテーテルを使用して、絶対的及び相対的な局所標的組織構造への灌流液の送達及び/又は局所標的組織構造からの灌流液の還流を制御するように適合されている。いくつかの実施例では、還流血流は、灌流ライン1を通る灌流血流よりも大きいことがある。そのような実施例では、隔離ユニット320は、最適な灌流血流、及び標的組織構造内部での安全な血管内圧又は静脈内圧を維持する役割を果たす。したがって療法隔離モジュール320は、灌流ライン1及び還流ライン2からの流れ量及び血管内圧を監視するように適合することができ、余剰の流れがあればそれを療法不活性化モジュール330に分流させる。図14に示されるように、還流血流は、心臓発作の診断のために心筋酵素を監視する際など、診断又は疾患進行監視のために監視及び試験することができる。
【0071】
療法隔離モジュール320の例示的な流れ図が図16に示されている。図16の実施例は、体外ループでの凝血を最小限にするための血液希釈剤添加メカニズムと、還流ポンプ324と、療法送達モジュール310と療法不活性化モジュール330それぞれへの流れの分割及び流量を制御するための流量制御装置326とを含む。
【0072】
還流ライン2を通る還流血流が灌流ライン1を通る所望の灌流血流よりも多いと療法隔離モジュール320が判断した場合、還流血流の一部が、余剰の流れとして療法不活性化モジュール330に向けられる。そのような余剰の流れが全身ライン3を通して全身血流として体循環に戻される前に、余剰の流れ中の任意の残りの療法剤又は特性を療法不活性化モジュール330によって不活性化して、そのような療法剤又は特性の望ましくない全身的な影響を防止する又は最小限にすることができる。不活性化プロセスは、療法送達モジュール310によって送達される特定の療法に応じて決まり、内部不活性化及び/又は外部不活性化によって行われることがある。
【0073】
内部不活性化は、療法薬物及び/又は化学療法を不活性化するための直接の代謝(すなわち人工肝臓)及び透析(すなわち人工腎臓)を含むことがある。採用される代謝法は特定の療法剤に専用のものであることがあり、一方、透析法は、より一般的に広範囲の療法剤に適用することができる。内部不活性化による療法剤の除去が不十分である場合、投与された生理活性剤に対する相殺拮抗剤の添加によって外部不活性化を適用することができる。内部不活性化は、血液からの1種又は複数種の生理活性剤の除去に適用され、外部不活性化は、体循環と相互作用する対抗剤を供給する。いくつかの実施例では、療法不活性化モジュール330の内部不活性化透析からの透析液を、療法投与中の診断又は疾患監視のために使用することができる。さらに、全身性薬物又は流体補充を、簡便な血管アクセス位置として療法不活性化モジュール330を通して投与することができる。
【0074】
内部不活性化は細胞分離装置をさらに含み、細胞ベースの療法で使用される細胞を再採取し、再採取された細胞を療法送達モジュール310にリサイクルする。療法不活性化モジュール330は、余剰の流れの温度を変えるための、例えば全身ライン3を通して定量供給するために生理学的温度に変えるための温度制御デバイス332を含むことができる。療法送達モジュール10が冷却された灌流液を標的組織構造に灌流する低体温療法の適用例では、温度制御デバイス332は、体循環に全身血流を戻す前に余剰の流れを生理学的温度に再び加温するように適合させることができる。このようにすると低体温療法を実質的に標的組織構造に隔離することができ、体循環の残りの部分は、そのような低体温療法によって実質的に影響を受けない。したがって体温又は全身温度を標的組織温度とは無関係に制御することができる。不活性化温度制御デバイス332のためのフィードバック・ループは標的組織構造の温度制御に依存しないことがあり、例えば体循環内部に位置されたセンサから体温/全身温度信号を受信することによって行われる。
【0075】
本発明の例示的な療法不活性化モジュール330の流れ図が図17に示されている。還流ポンプ324によって押し流されるとき、療法不活性化モジュールの流れループは受動的な流れとなることがあるが、流れ方向の制御を補助するように任意選択で全身ポンプ334が含まれることがある。
【0076】
血液調整装置300は療法不活性化モジュール330と共に示されているが、本発明の血液調整装置のいくつかの実施例はそのような療法不活性化モジュール330を含む必要がないことを理解されたい。特に療法不活性化モジュール330によって行われる療法不活性化がない場合でさえ、本発明のカテーテル構成によって得られる標的組織構造/器官隔離は比較的大きい器官対全身濃度勾配を促す。局所療法送達は、それ自体「受動的な」療法不活性化とみなすことができる。なぜなら、余剰の流れ又は側副循環の汚染が大きな全身血液容積によって希釈され、またそれと同時に、標的組織構造内での療法濃度が高い療法的レベルに達するからである。
【0077】
本発明の一実施例では、送達機械400を提供して、血液調整装置、及び血液調整装置に関連付けられた1つ又は複数のカテーテルを制御し、実質的に局所標的組織構造のみへの療法送達を実現するように局所標的組織構造に療法を送達し、また局所標的組織構造からいくらか又は全ての療法を還流する。送達機械400の例示的実施例が図18に示されており、この送達機械400は、療法送達モジュール、療法隔離モジュール、及び療法不活性化モジュールを接続して動作させるように構成される。機械400は、それ自体が患者の血液に接触することなく血液の調整及び移送を促すように構成することができる。例えば機械400は、血液に接触せずに、酸素供給ユニットと、1つ又は複数の温度制御ユニットと、非接触血液ポンプと、流れ方向制御機構と、内部不活性化装置とを含むことができる。
【0078】
灌流液に酸素付加するための酸素供給は、機械400にあるポータブル酸素タンクから供給されることがあり、又は治療カートリッジ410内部の療法送達モジュール310にある酸素付加装置314に直接接続された設備からの標準的な酸素ラインから供給することができる。いくつかの実施例では、治療カートリッジ410は、機械400に動作可能に係合可能であり、システムの血液接触部分となることがあり、したがって治療カートリッジ410は使い捨てであることがある。酸素タンク又は設備の酸素ラインの代わりに、又はそれに加えて、機械400は高圧水性酸素溶液混合ユニット(図示せず)を含むことがあり、このユニットは灌流ライン1に酸素飽和食塩水を注入するように適合される。
【0079】
温度制御ユニット316、332は、熱交換媒体として蒸留水を使用することができ、熱交換器が治療カートリッジ410内に配設されている。温度制御ユニット316、332によって行われる加熱及び冷却は、熱電デバイスによって行われることがあり、この熱電デバイスは、電流を交番させることによって、加熱又は冷却に制御可能に切り替えることができる。機械400による汚染を防止するようにカートリッジ410の配管内に閉じ込められた状態で、血流を機械400でのローリング・ポンプ又は蠕動ポンプによって押し流すことができる。そのようなポンプは血流方向を制御することもできる。
【0080】
上述したように、治療カートリッジ410は、療法送達モジュール310、療法隔離モジュール320、及び療法不活性化モジュール330との1つ又は複数を含むことができる。一実施例では、治療カートリッジ410は、各モジュール310、320、330を含む。したがってカートリッジ410は、機械400の設備によって行うことができる機能を具現化する。機械400は、例えば酸素付加、温度制御、流体ポンピングのための接続を伴って、迅速に接続/切断できるように治療カートリッジ410を動作可能に受け取るように特に構成することができ、療法不活性化接続は、治療カートリッジ410を機械400と動作係合状態に取り付けたときに自動的に確立することができる。図19及び図20は、治療カートリッジ410のポンプ・ヘッド416、418が機械400のローリング・ポンプ422と動作可能に係合できるようにするための例示的な自己係合メカニズムを示す。図19Aは、機械400と動作可能に係合する前のカートリッジ410を示し、図19Bは、カートリッジ410が機械400と動作可能に係合した後の、機械400のローリング・ポンプ422とカートリッジ410のポンプ・ヘッド416との相互作用を示す。特定の実施例では、動作可能な係合は、機械400の受取部へのカートリッジ410の物理的な係合を含むことがある。
【0081】
代替の例示的な構成が図20A〜図20Cに示されており、ここでは使い捨ての配管内部の血液回路であることがあるポンプ・ヘッド418を、トップダウン手法で、機械400のローリング・ポンプ422と動作可能に係合することができる。図19及び図20に示される各実施例において、ローリング・ポンプ422のローラ424がポンプ・ヘッド416、418に動作可能に係合して、血液回路を通る流体の流れをもたらす。
【0082】
カートリッジ410の温度制御デバイスは、血流中への熱交換流体による汚染を回避するために、熱交換器コンパートメント内で誘発される負圧を組み入れることができる。熱交換器ループでの漏れが生じた場合、血流は熱交換器コンパートメントに向けて導かれ、その逆には導かれない。また、生じ得る漏れを監視するために、熱交換器コンパートメント内にヘモグロビン検出器を装備することができる。いずれにせよ、熱交換器と血流コンパートメントの両方の突然の圧力変化を、システム漏れの示唆として使用することができる。
【0083】
外部補充デバイスをカートリッジ410に直接接続することができ、このカートリッジ410を本発明のカテーテルに直接接続することができる。細胞分離装置デバイスが含まれる場合、カートリッジ410は、療法不活性化モジュール内で細胞分離装置から療法送達モジュール310に細胞を移送するラインを採用することができる。療法不活性化モジュール330が代謝器又は透析器を含む場合、カートリッジ410は、代謝産物透析液用の排出ラインを含むことがある。
【0084】
本発明の血液調整装置のための例示的な制御回路の概要が図21に示されている。灌流ライン1と還流ライン2の両方からの圧力を監視して、標的器官の静脈内圧を求めることができる。灌流血流と還流血流を制御するために、標的器官圧力情報を、他の適切な生理学的信号と共に、療法隔離モジュール320内の圧力制御ユニットに送達することができる。圧力制御ユニット325は分流器として働くことができ、この分流器は、例えば灌流ポートでの圧力を感知するセンサから送達された制御信号に応答して、灌流血流と全身血流の間での還流血流の分割を調節する。静脈内圧だけでなく、様々な特性を検出するためにセンサを配備することもでき、また血液調整装置の圧力制御デバイス325にそのような特性の値を表す信号を通信するためにセンサを配備することもできる。センサは、圧力、温度、流量、エレクトログラム信号、酵素濃度、及び療法薬物濃度などの特性を検出するように適合されることがある。
【0085】
灌流ポンプ318及び還流ポンプ324は、流量、流れの方向、及びタイミングを制御することができ、同期された流れパターンを様々な標的組織構造/器官に提供する。灌流ライン1及び還流ライン2から流れ情報を受信することによって、圧力/流量制御デバイス325は、療法不活性化モジュール330に送達される余剰の流れの容積に従って不活性化療法を調節することができる。また、灌流液及び全身血流の温度調節を最適化するために、灌流血流及び余剰の流れの容積に関するデータを温度制御デバイス316、332に送達することができる。
【0086】
いくつかの実施例では、温度制御デバイス316は、還流ライン2内に配設された温度センサから温度情報を受信する。標的組織構造での温度を監視するために、そのような温度信号を、標的組織構造での局所低体温療法のためのフィードバックとして使用することができる。さらに、低体温療法の適用例での標的組織温度に関する確証情報を、心筋からの心電図を含めたエレクトログラムなど生理学的信号によって得ることもできる。温度フィードバック情報を利用して、標的組織構造での療法送達又は濃度を推定することができる。またそのような情報は、遠隔で感知するのが難しい生理活性剤に関する局所療法送達にも有用であることがある。さらなる温度制御は、全身温度又は全身体温の感知を含むことがあり、それにより余剰の流れを使用して体温を調整し、所望の器官対全身温度勾配で維持することができる。そのようにして所望の(例えば通常の)体温を維持しながら、標的器官温度を療法的範囲内で維持することができる。
【0087】
(例示的な適用例)
以下に、本発明のシステムの例示的な臨床適用例を記載する。本明細書で述べる適用例は、本発明によって企図される様々な適用例に限定を加える意図はない。
【0088】
(隔離された器官に特定的な低体温療法)
低体温療法は、再灌流創傷を防止する又は最小限にするために適度な低体温(32℃〜34℃)を使用する治療である。この治療は、多くの器官(例えば心臓、脳、肝臓、及び腎臓など)に関して虚血性創傷と外傷性創傷の両方に関して大きな利益を提供することが実証されている。この隔離された器官に特定的な療法送達を使用する目的は、通常の体温を維持しながら、特定の標的器官に冷却療法を局所化することである。これは、意識のある(すなわち医学的に誘発される昏睡状態及び強い筋弛緩を伴わない)患者に対する低体温療法の使用を可能にし、冷却治療の全身的な副作用を防止する。
【0089】
低体温療法を使用する必要があるのは、大抵は救急状況に関わる場合であるので、適時の実施及び簡単な使用が療法送達デバイスの設計の重要な因子である。したがって静脈アクセスのみを必要とするシステムが最も好ましい。1静脈アクセス技法か2静脈アクセス技法かの選択は、標的器官に応じて決まる。心臓に低体温療法を適用する際、冠状静脈洞が心室筋の主要な静脈還流経路であることから、並びにその容易なアクセス及びよく確立された処置のため、1静脈アクセスがより良い選択肢となり得る。脳への適用例では、2つ(左右)の内頸静脈が2静脈アクセス技法を可能な選択肢にする。それにも関わらず、本明細書で述べる完全隔離器官循環の技法を低体温療法に使用することもできる。
【0090】
低体温療法のデバイス設定に関して、療法送達及び隔離部分については、全般的な記述からの大きな変更はない。単に冷却治療に関しては、外部補充ユニットは必要ない。しかし、少量の薬物(すなわち、心拍数及び心筋収縮を制御するためのβ遮断薬、抗不整脈薬又は抗痙攣薬、及び/又は心臓発作と卒中の両方のための硫酸マグネシウム)を、低体温治療によって標的器官に局所的に投与することもできる。標的器官は、器官隔離技法から酸素付加の増加という追加の利益を有することができる。不活性化部分に関する唯一の必須の構成要素は、全身温度制御機構である。
【0091】
局所送達技法が採用される一方で、標的器官の機能を保つことができる(すなわち、特に心臓に関しては急性心筋梗塞、脳に関しては卒中を防止する)。標準的な心臓発作及び卒中の治療のためのこれら新規の局所送達方法には2つの主要な効果がある。1つは再灌流前の器官冷却である。最初に、心臓、又は脳、又は他の標的器官を、わずか数分間(典型的には15分以内)で療法温度まで冷却することができる。これは局所再灌流の確立(バルーン/ステント又は血栓溶解血管形成)前に冷却を可能にし、これは最良の細胞保護を提供することが知られている。第2に、より長期の冷却治療(例えば12〜72時間)が、覚醒状態の患者に対して可能である。これは適度な低体温による細胞サルベージの利益を最大にする。心停止に関して、医学的に誘発される昏睡状態なしで、局所脳冷却を使用することができる。したがって24時間を超える期間にわたる適度な低体温を使用することができる。心停止患者の神経症状を監視することができ、その一方で冷却治療が採用され、これを使用して低体温療法の長さを個々に最適化することができる。
【0092】
(隔離された器官に特定的な薬物及び化学療法)
多くの薬物は、有効となるように、標的器官での高い療法的投与量を必要とし、これは重大な全身的な副作用を引き起こす。化学療法は高い毒性の生理活性剤の一例である。多くの癌患者は、癌によってよりも化学療法の合併症により死亡している。これは多くの患者への化学療法の使用を制限する。隔離された器官への療法送達技法を使用して、高い器官対全身濃度勾配を必要とする薬物を送達することもできる。この目標は、標的器官内で高い濃度を維持し、しかし体循環内では非常に低い濃度を保つことである。化学療法は、その投与に通常は数時間〜数日かかるので、この局所療法送達に対する良好な選択肢である。また、器官隔離はその後さらに数日にわたって維持することができる。
【0093】
このタイプの適用例は通常は定期的な外来で採用されるので、器官隔離技法の選択は、よりオープンであり、標的器官又は器官セグメント又は腫瘍血管系に応じて決まる。例えば脳に関しては、2静脈アクセスの部分隔離技法が最適な選択肢となり得る。しかし肝臓に関しては、肝臓内の循環隔離の所望の位置及び大きさに応じて、2静脈アクセスの部分隔離技法と1静脈アクセスの部分隔離技法がどちらも適することがある。腎臓の腎静脈に関しては、1アクセスの器官循環の部分隔離が良好な選択肢となり得る。さらに、局所的及び全身的な動脈塞栓を管理することができる場合には、完全隔離技法も非常に有用となり得る。癌の塊に関して、器官循環隔離技法の適性又は選択は純粋に血管構造に応じて決まる。
【0094】
療法剤を灌流ラインに加えて、標的器官に局所療法を送達することができる。器官温度を変える必要はないことがあるが、少量の加温又は冷却された食塩水を灌流ラインに注入することができ、還流ラインでの温度感知から療法送達の効果を算出することができることがある。この技法の実現性は、標的器官の血管構造、及び隔離技法の構成に応じて決まる。
【0095】
利用可能である場合、薬物に対する解毒剤を使用して、療法送達を不活性化又は中和することができる。また、ミニ器官透析を使用して、いくらかの薬物又は療法剤を血液容積から還流して体循環に戻すこともできる。それにも関わらず、不活性化を伴わない療法の局所送達及び隔離だけで、標的器官内又は標的器官での療法剤の濃度を十分に上昇させることができることがあり、その一方で、システムへの汚染を患者にとってより許容できるレベルまで希釈することができる。標的器官の容積は(全身に比べて)比較的小さいので、局所療法送達手法では比較的少量の薬物しか必要とされないことが多く、これはまた化学療法など高価な薬物に関する治療コストを減少する。本発明の局所送達方法によって全身的な副作用を最小限にすることができるので、既存の化学療法プロトコルを局所器官に対する投与期間がより長くなり、投与量がより大きくなるように修正することができる。
【0096】
(隔離器官保護)
毒性生理活性剤による療法の従来の投与は全身治療によるものである。しかし、療法用生理活性剤は、肝臓、腎臓、又は心臓など特定の重要器官に対して毒性を有することがある。局所療法送達を提供することに加えて、本発明の器官循環隔離技法を使用して、高い全身対器官濃度勾配を生成することによって、全身治療から標的器官を保護することもできる。したがって器官循環はシステム循環から隔離又は分離される。
【0097】
この適用例では、器官循環の完全隔離が最も効果的であることがある。なぜならこれは、動脈系から入ってくる血流を防止する又は大幅に減少するからである。それにも関わらず、入ってくる動脈流からの毒素を希釈及び中和するのに、本明細書で説明する部分隔離技法も有用である。標的器官の血管系は、器官循環隔離技法を選択する際の最も主要な因子である。例えば、ここで述べる部分隔離技法は肝臓にとってより良い選択肢となることがあり、一方、腎臓は、完全隔離技法と部分隔離技法のいずれにも良好な候補であることがある。
【0098】
この適用例に対処するために、療法不活性化モジュールは、代わりに、図22に示されるように灌流側にあることがある。しかし、酸素付加及び温度制御ユニットは(保護)療法送達モジュールに残っていてよい。この適用例の目標は、療法を不活性化又は中和することである。本発明の完全隔離技法を用いて両方の腎臓を保護する必要がある場合、腎臓の透析機能が全身血液循環から遮断されるので、流量−容積調節ラインを通した一時血液透析が必要とされることがある。
【0099】
(隔離された器官に特定的な細胞ベースの療法)
幹細胞治療又は再生医療が発展しており、やがて一般的な療法モダリティとなり得る。細胞療法が直面する多くの課題の1つは、低い細胞播種又は生存率である。従来、細胞は動脈ラインを通って送達され、それによって、送達される細胞の大部分は非常に迅速に毛細血管又は側副循環を通過し、組織床内に播種するのに十分な時間を有さない。これらの細胞を静脈系を通して送達することが、組織床との接触時間を高める助けとなることがある。さらに、本発明の器官循環隔離は標的器官に細胞をリサイクルすることができる。したがって器官隔離技法を使用して、細胞ベースの療法のための播種量を改良することができる。器官の容積は(全身の容積に比べて)小さいので、従来の全身投与に比べ、本発明のシステム内で細胞ベースの療法を促進するためには比較的少数の細胞しか必要とされないことがある。
【0100】
器官循環の部分隔離の技法は、まず、局所療法送達中に長期の動脈アクセスを回避すると考えることができる。1静脈アクセスを選択するか2静脈アクセスを選択するかどうかは、標的器官の血管構造に応じて決まる。これは前の適用例で論じたのと同様である。デバイス設定は、図23に示されるように、標的器官に細胞を戻してリサイクルするために細胞分離装置を必要とすることがある。しかしこれは、細胞療法のための供給がそれほど限られていない場合には重大な構成要素ではないことがある。この適用例は、他の不活性化構成要素を必要としないことがある。
【0101】
この適用例のいくつかの例として、慢性心筋梗塞、慢性肝不全、及び慢性腎不全のための細胞ベースの療法を挙げることができる。不全の器官機能を永久的に回復するために、これらの疾患器官を通して幹細胞を注入することができる。これはまた図24に示される適度な冷却と組み合わせることもでき、これは細胞生存率を改良することが実証されている。
【0102】
(隔離された器官に特定的な血漿交換及び透析)
創傷に伴う毒性が全身に重大な障害を引き起こすことがある大きな器官の創傷の場合、この器官隔離法を使用して、器官を体循環から分離し、その後、血漿交換及び/又は透析を行って、創傷した細胞によって生成される毒性を除去することができる。それを行うことにより、局所治療を採用して細胞回復を助け、また再灌流創傷から器官を保護することもできる。この適用例の一例は、四肢(すなわち腕又は脚)を隔離することであり、その際、血液供給が数時間以上にわたって途絶えている。これは通常、全身への再灌流創傷を防止するために切断を行うことを示唆し、切断は、急性腎不全や心不全など重大な合併症、さらには死をもたらすことさえあり得る。別の例示的な適用例は、大きな内蔵の壊疽である。
【0103】
この適用例は、主に大きな容積の器官に関するものであり、本発明の完全器官隔離技法が適切な選択肢となり得る。腕及び脚に関して、動脈系と静脈系の両方のための血管アクセスが、上腕動脈及び上腕静脈、又は軸動脈及び軸静脈、並びに大腿動脈及び大腿静脈を通して容易に得られる。デバイス設定は、図25に示されるようなものでよく、毒性不活性化ユニットは、還流血流を処理するように適合させることができる。組織への酸素供給を提供するため、及び創傷した組織への追加の再灌流損傷を防止するために、酸素付加及び適度な冷却を含めることができる。
【0104】
これ自体が、単なる療法送達と言うよりは一種の治療であり、これは通常であれば切断されることになる腕又は足を残す一助となり得る。これは健康管理システムにとってだけでなく社会全体にとっても非常に費用がかかる障害を減少させる助けとなることがあり、より重要なことには、患者の人生の質を改善又は維持する助けとなる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
体内の局所部位に灌流するためのシステムであって、
(a)カテーテル・アセンブリと、
(b)血液回路と、
(c)送達機械と
を有するシステムにおいて、
前記カテーテル・アセンブリが、
(i)前記局所部位に灌流液を送達するように適合された静脈アクセス・ラインと、
(ii)前記局所部位から灌流液を排出するように適合された静脈又は動脈還流ラインと、
(iii)前記局所部位に灌流液を灌流している間及び前記局所部位から灌流液を排出している間、前記局所部位と前記身体の体循環との間でいくらかの又は実質的に全ての生理学的血流を防げるように適合された閉塞デバイスと
を有し、
未処理の、処理された、又は不活性化処理された血液を制御下で前記局所部位に灌流している間及び/又は前記局所部位から排出している間、前記灌流液として使用するために血液の調整を容易にするように前記血液回路が前記カテーテル・アセンブリに関連付けられており、また前記血液回路が、
(i)前記静脈アクセス・ラインに灌流液を送達するように適合された療法送達モジュールと、
(ii)実質的に前記局所部位のみに灌流液を提供するように、カテーテルを使用して絶対的及び相対的な前記局所部位への灌流液の送達及び/又は前記局所部位からの灌流液の排出を制御するように適合された療法隔離モジュールと、
(iii)前記体循環に戻す送達の前に、排出された灌流液を回収して、前記灌流液を不活性化するように適合された療法不活性化モジュールと
を有し、また
前記送達機械が、前記局所部位に灌流液を送達するため及び前記局所部位からいくらかの又は全ての灌流液を排出するために、前記血液回路及び前記カテーテル・アセンブリを制御するように適合され、それによって、実質的に前記局所部位のみに灌流液を提供する
システム。
【請求項2】
前記還流ラインが静脈排出を提供し、前記局所部位の部分的な隔離を提供するために前記システムが使用される請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記還流ラインが動脈排出を提供し、前記局所部位の完全な隔離を提供するために前記システムが使用される請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記閉塞デバイスが膨張可能なバルーンである請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記静脈アクセス・ラインが、近位端と遠位端を有するカテーテルを有し、前記近位端が前記血液回路と流体連絡して接続され、前記遠位端が、前記カテーテルへの及び/又はカテーテルからの前記血液の流れに実質的に開口し、前記膨張可能なバルーンが、前記近位端と遠位端の間に位置決めされて、前記局所部位と前記体循環の間の血流を閉塞する請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記灌流液が自己血液を含み、前記自己血液が、
(a)1つ又は複数の生理活性剤の添加、
(b)前記血液からの1つ又は複数の生理活性剤の除去、及び
(c)前記局所部位での対応する応答を促すための前記血液の生理学的修正
からなる群から選択される態様で調整されている請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記局所部位が、心臓、脳、肝臓、腎臓、腕、及び脚からなる群から選択される請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記静脈アクセス・ライン、前記静脈還流ライン、及び前記閉塞デバイスがそれぞれ、単一の静脈の内部に位置決めされるように適合されている請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記アクセス・ライン及び前記還流ラインが、同軸ルーメンの形態で提供され、前記閉塞デバイスが、最外ルーメンの外面を取り囲む膨張可能なバルーンを有している請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記静脈アクセス・ライン及び前記静脈還流ラインがそれぞれ、異なる静脈の内部に位置決めされるように適合されている請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
前記灌流液が自己血液を含み、前記自己血液が、前記局所部位を加温又は冷却するために前記療法送達モジュールによってそれぞれ加熱又は冷却されている請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
前記局所部位が心臓を含み、前記灌流液が、約35℃未満に冷却された自己血液を含む請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
心筋の局所低体温療法のための方法であって、
(a)カテーテル・アセンブリであって、
(i)前記心筋に灌流液を搬送するための灌流ポートで終端する灌流ラインと、
(ii)静脈流を搬送するための還流ポートから延びる静脈還流ラインと、
(iii)全身ポートで終端する全身返流ラインと、
(iv)閉塞デバイスと
を有するカテーテル・アセンブリを提供するステップと、
(b)調整された又は未調整の血液を制御下で前記心筋に灌流するため及び/又は前記心筋から還流するために、前記カテーテル・アセンブリに関連付けられた血液調整装置を提供するステップであって、前記血液調整装置が、
(i)灌流液温度調節デバイスを有する療法送達モジュールと、
(ii)絶対的及び相対的な前記心筋への灌流液の送達及び/又は心筋からの灌流液の排出を制御するように適合された療法隔離モジュールと、
(iii)体循環に送達するために静脈流を調整するように適合された療法不活性化モジュールと
を含んでいるステップと、
(c)前記カテーテル・アセンブリの遠位部分を前記心筋の静脈還流構造内部に位置決めするステップであって、前記閉塞デバイスが、前記灌流ポートの近位に配設されるステップと、
(d)前記心筋からの実質的に全ての静脈還流を閉塞するように前記閉塞デバイスを作動させるステップと、
(e)前記静脈還流ラインを通して前記療法隔離モジュールに静脈流を受け取るステップと、
(f)前記静脈流の少なくとも一部を前記療法送達モジュールに制御可能に送達するステップと、
(g)前記灌流液温度調節デバイスによって前記療法送達モジュールで静脈流を調整することによって灌流液を生成するステップであって、前記灌流液温度調節デバイスによる前記調整が、前記灌流液を約35℃未満に冷却することを含むステップと、
(h)前記灌流ポートを通して前記静脈還流構造に逆行方向で前記灌流液を制御可能に定量供給するステップと、
(i)前記療法不活性化モジュールで静脈流を調整することによって全身血流を生成するステップと、
(j)前記全身ポートを通して体循環に前記全身血流を制御可能に定量供給するステップと
を含む方法。
【請求項14】
前記閉塞デバイスが、心臓大静脈からの静脈流を選択的に閉塞するのに適した位置で、冠状静脈洞内に位置決めされる請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記還流ポートが、前記閉塞デバイスの遠位に位置決めされる請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記閉塞デバイスが、膨張可能なバルーンである請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記心筋の心収縮期中に前記バルーンを制御可能に収縮し、前記心筋の心拡張期中に前記バルーンを制御可能に膨張するステップを含む請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記心筋の心拡張期と同期して前記静脈還流構造に前記灌流液を断続的に定量供給するステップを含む請求項13に記載の方法。
【請求項19】
組織構造に局所療法を送達するためのシステムであって、
前記組織構造の静脈還流構造に位置決め可能な遠位部分を有する静脈カテーテルであって、前記遠位部分が、前記組織構造の静脈循環を体循環から実質的に隔離するように前記静脈還流構造を選択的に実質的に閉塞するように適合された閉塞デバイスと、どちらも前記閉塞デバイスよりも上流に動作可能に配設された灌流ポート及び還流ポートとを含む静脈カテーテル、及び
前記静脈カテーテルの前記還流ポートに前記灌流ポートを流体結合させる血液調整装置であって、前記血液調整装置は、前記還流ポートを通して還流血流としてそこに供給された血液を調整すること、及び前記還流血流の少なくとも一部を、調整された逆行性の灌流血流として前記灌流ポートを通して再灌流することができ、前記調整は、前記灌流血流を約35℃未満に冷却することを含む血液調整装置
を有するシステム。
【請求項20】
前記静脈カテーテルが、前記閉塞デバイスよりも下流に動作可能に配設され且つ前記血液調整装置を通して前記灌流ポート及び前記還流ポートに流体接続された全身ポートを含み、また前記血液調整装置が、前記還流血流の少なくとも一部を、前記全身ポートを通して全身血流として定量供給可能である請求項19に記載のシステム。
【請求項21】
前記調整が、前記全身血流を不活性化するステップを含む請求項20に記載のシステム。
【請求項22】
前記全身血流を不活性化するステップが、前記全身血流を生理学的温度まで加温するステップを含む請求項21に記載のシステム。
【請求項23】
前記血液調整装置に通信可能に結合された1つ又は複数のセンサを含み、前記1つ又は複数のセンサが特性を検出し、前記特性の値を表す信号を前記血液調整装置の信号処理装置に通信することができる請求項20に記載のシステム。
【請求項24】
前記特性が、圧力、温度、流量、エレクトログラム信号、酵素濃度、及び療法薬物濃度からなる群から選択される請求項23に記載のシステム。
【請求項25】
前記血液調整装置が、前記還流血流を前記逆行性の灌流血流と前記全身血流に制御可能に分離するための分流器を含む請求項24に記載のシステム。
【請求項26】
前記分流器が、少なくとも前記灌流ポートでの圧力を示す前記信号処理装置から送達される制御信号に応答して、前記灌流血流と前記全身血流への前記還流血流の分割を調節する請求項25に記載のシステム。
【請求項27】
前記組織構造からの静脈還流の流量が低い期間に同期して、前記灌流ポートを通して前記灌流血流を断続的にポンピングするための灌流ポンプを含む請求項24に記載のシステム。
【請求項28】
前記灌流ポンプが、心臓の心拡張期中にのみ前記灌流血流を断続的にポンピングする請求項27に記載のシステム。
【請求項29】
前記調整が、前記灌流血流に酸素付加するステップを含む請求項19に記載のシステム。
【請求項30】
前記閉塞デバイスが、前記組織構造の静脈循環を体循環から選択的に実質的に隔離するように適合されている請求項19に記載のシステム。
【請求項31】
組織構造に局所療法を送達するためのシステムであって、
前記組織構造の第1の静脈還流構造に位置決め可能な遠位部分を有する第1の静脈カテーテルであって、前記遠位部分が、組織構造循環コンパートメントと全身循環コンパートメントを画定するために前記第1の静脈還流構造を選択的に実質的に閉塞するように適合された第1の閉塞デバイスを含む第1の静脈カテーテルと、
前記組織構造の第2の静脈還流構造に位置決め可能な遠位部分を有する第2の静脈カテーテルであって、前記第2の静脈カテーテルの前記遠位部分が、前記第2の静脈還流構造を選択的に実質的に閉塞するように適合された第2の閉塞デバイスを含み、前記第1の静脈カテーテルと第2の静脈カテーテルが、共同して、前記組織構造循環コンパートメント内に動作可能に配設された灌流ポート、還流ポート、及び前記体循環コンパートメント内に動作可能に配設された全身ポートを含む第2の静脈カテーテルと、
前記灌流ポート、前記還流ポート、及び前記全身ポートを流体結合する血液調整装置であって、前記血液調整装置が、前記還流ポートを通る還流血流としてのそこへの血液供給を調整し、前記還流血流の少なくとも一部を、調整された逆行性の灌流血流として前記灌流ポートを通して再灌流し、前記還流血流の少なくとも一部を、全身血流として前記全身ポートを通して定量供給することができる血液調製装置と
を有するシステム。
【請求項32】
前記還流ポートが、前記組織構造循環コンパートメント内に動作可能に配設される請求項31に記載のシステム。
【請求項33】
前記調整が、前記灌流血流を約35℃未満に冷却することを含む請求項31に記載のシステム。
【請求項34】
前記調整が、前記全身血流を生理学的温度まで加温することを含む請求項33に記載のシステム。
【請求項35】
前記組織構造が脳である請求項31に記載のシステム。
【請求項36】
隔離された組織構造に局所療法を送達するためのシステムであって、
前記組織構造の静脈還流構造に位置決め可能な遠位部分を有する静脈カテーテルであって、前記遠位部分が、前記静脈還流構造を選択的に実質的に閉塞し、それにより前記組織構造の全ての静脈還流を実質的に閉塞するように適合された第1の閉塞デバイスを含み、前記静脈カテーテルが、前記第1の閉塞デバイスよりも上流に動作可能に配設された第1の組織構造循環コンパートメント・ポート、及び前記第1の閉塞デバイスよりも下流に動作可能に配設された全身ポートをさらに含む静脈カテーテルと、
前記組織構造の動脈流入構造に位置決め可能な遠位部分を有する動脈カテーテルであって、前記遠位部分が、前記動脈流入を選択的に実質的に閉塞するように適合された第2の閉塞デバイス、及び前記第2の閉塞デバイスよりも下流に動作可能に配設された第2の組織構造循環コンパートメント・ポートを含む動脈カテーテルと、
前記第1及び第2の組織構造循環コンパートメント・ポートと前記全身ポートとを流体結合する血液調整装置であって、前記血液調整装置が、前記第1及び第2の組織構造循環コンパートメント・ポートの一方を通る還流血流としてそこに供給された血液を調整し、前記還流血流の少なくとも一部を、調整された灌流血流として前記第1及び第2の組織構造循環コンパートメント・ポートの他方を通して再灌流し、前記還流血流の少なくとも一部を、全身血流として前記全身ポートを通して定量供給することができる血液調製装置と
を有するシステム。
【請求項37】
前記動脈カテーテルが、ステント送達カテーテル又は血栓除去用カテーテルである請求項36に記載のシステム。
【請求項38】
前記動脈カテーテルの前記第2の組織構造循環コンパートメント・ポートを前記血液調整装置に流体接続するシャントを含む請求項36に記載のシステム。
【請求項39】
前記組織構造が心筋である請求項36に記載のシステム。
【請求項40】
前記調整が、約35℃未満に前記灌流血流を冷却すること、及び前記全身血流を生理学的温度まで加温することを含む請求項36に記載のシステム。
【請求項41】
組織構造に局所療法を送達するためのデバイスであって、
前記組織構造の静脈還流構造に位置決め可能な遠位部分を有する複数ルーメン静脈カテーテルであって、前記遠位部分が、前記静脈還流構造を実質的に閉塞するため、及び組織構造コンパートメント血液循環を全身血液循環から分離するために、前記静脈還流構造の壁に当接するように選択的に膨張する膨張可能バルーンを含むカテーテル
を有し、前記カテーテルが、
(i)調整された血液を、灌流ポートから前記組織構造コンパートメント血液循環に逆行方向で定量供給するための灌流ルーメンと、
(ii)前記カテーテルの還流ポートから、前記調整された血液の生成源に静脈血液を搬送するための還流ルーメンと、
(iii)調整された血液を前記カテーテルの全身ポートから前記静脈還流構造の全身血液循環に定量供給するための全身ルーメンと、
(iv)前記膨張可能なバルーンを選択的に膨張及び収縮するように前記膨張可能なバルーンと流体連絡する流体膨張ルーメンと、
(v)前記組織構造コンパートメント血液循環内での流体圧力を検出するための圧力センサと、を含む
デバイス。
【請求項42】
前記組織構造コンパートメント血液循環内の流体温度を検出するための温度センサを含む請求項41に記載のデバイス。
【請求項43】
前記組織構造コンパートメント内の電気信号を検出するためのエレクトログラムを含む請求項41に記載のデバイス。
【請求項44】
前記還流ポートが、前記膨張可能なバルーンの遠位に動作可能に配設される請求項41に記載のデバイス。
【請求項45】
組織構造に局所療法を送達するためのシステムであって、
前記組織構造の静脈還流構造に位置決め可能な遠位部分を有する静脈カテーテルであって、前記遠位部分が、体循環コンパートメントとは別個の組織構造循環コンパートメントを選択的に画定するために前記静脈還流構造を選択的に実質的に閉塞するように適合された閉塞デバイスを含み、前記組織構造循環コンパートメントが、前記閉塞デバイスが前記静脈還流構造を実質的に閉塞するときに前記体循環コンパートメントから実質的に隔離され、前記静脈カテーテルが、さらに、前記組織構造循環コンパートメント内に動作可能に配設された灌流ポート、還流ポート、及び全身ポートを含む静脈カテーテルと、
前記静脈カテーテルの前記灌流ポート、前記還流ポート、及び前記全身ポートを互いに流体結合する血液調整装置であって、前記血液調整装置が、前記還流ポートを通る還流血流としてのそこへの血液供給を調整し、前記還流血流の少なくとも一部を、調整された逆行性の灌流血流として前記灌流ポートを通して再灌流し、前記還流血流の少なくとも一部を、全身血流として前記全身ポートを通して前記全身循環コンポーネントに定量供給することができる血液調製装置と
を有するシステム。
【請求項46】
前記灌流ポート、前記還流ポート、及び前記全身ポートがそれぞれ、前記静脈カテーテルのそれぞれ異なるルーメンに関連付けられる請求項45に記載のシステム。
【請求項47】
前記血液調整装置が、調整された逆行性の灌流血流の再灌流と、前記全身ポートを通した前記全身血流の定量供給とを自動的に制御する請求項45に記載のシステム。
【請求項48】
前記調整が、前記灌流血流を約35℃未満に冷却することを含む請求項45に記載のシステム。
【請求項49】
前記全身血流をほぼ生理学的温度まで加温することによって前記全身血流を調整することを含む請求項48に記載のシステム。
【請求項50】
組織構造に局所療法を送達するためのシステムであって、
前記組織構造の静脈還流構造に位置決め可能な遠位部分を有する静脈カテーテルであって、前記遠位部分が、膨張可能なバルーンが前記静脈還流構造を実質的に閉塞するように膨張されたときに体循環コンパートメントとは別個の組織構造循環コンパートメントを画定するように、前記静脈還流構造を選択的に実質的に閉塞するように適合された膨張可能なバルーンを含み、前記静脈カテーテルが、さらに、前記組織構造循環コンパートメント内に動作可能に配設された灌流ポート、及び還流ポートを含む静脈カテーテルと、
前記静脈カテーテルの前記還流ポートに前記灌流ポートを流体結合させる血液調整装置であって、前記血液調整装置が、前記還流ポートを通して還流血流としてそこに供給された血液を調整し、前記還流血流の少なくとも一部を、調整された逆行性の灌流血流として前記灌流ポートを通して再灌流することができ、前記血液調整装置が、前記組織構造からの静脈還流の流量が低い期間に同期して前記灌流血液を再灌流するように適合され、前記血液調整装置が、前記灌流血流に酸素付加することによって前記灌流血流を調整するように適合されている血液調整装置と
を有するシステム。
【請求項51】
前記血液調整装置が、心筋の心拡張期中にのみ前記灌流血流を心筋に再灌流する請求項50に記載のシステム。
【請求項52】
組織構造に局所療法を送達するためのシステムであって、
前記組織構造の静脈還流構造に位置決め可能な遠位部分を有する静脈カテーテルであって、前記遠位部分が、前記静脈還流構造を選択的に実質的に閉塞するように適合された第1の閉塞デバイスを含み、前記静脈カテーテルが、さらに、前記第1の閉塞デバイスよりも上流に動作可能に配設された第1の組織構造循環コンパートメント・ポート、及び前記第1の閉塞デバイスよりも下流に動作可能に配設された全身ポートを含む静脈カテーテルと、
前記組織構造の動脈流入構造に位置決め可能な遠位部分を有する動脈カテーテルであって、前記遠位部分が、第2の組織構造循環コンパートメント・ポートを含む動脈カテーテルと、
前記第1及び第2の組織構造循環コンパートメント・ポートと前記全身ポートとを流体結合する血液調整装置であって、前記血液調整装置が、前記第1及び第2の組織構造循環コンパートメント・ポートの少なくとも一方を通る還流血流としてそこに供給される血液を調整し、前記還流血流の少なくとも一部を、調整された灌流血流として前記第1及び第2の組織構造循環コンパートメント・ポートの少なくとも一方を通して再灌流し、前記還流血流の少なくとも一部を、全身血流として前記全身ポートを通して定量供給することができる血液調製装置と
を有するシステム。
【請求項53】
前記動脈カテーテルの前記遠位部分に組み込まれ、前記第2の組織構造循環コンパートメント・ポートよりも上流で前記組織構造の動脈流入構造に位置決め可能である第2の閉塞デバイスを含む請求項52に記載のシステム。
【請求項54】
前記動脈カテーテルが、ステント送達カテーテル又は血栓除去用カテーテルである請求項52に記載のシステム。
【請求項55】
前記動脈カテーテルの前記第2の組織構造循環コンパートメント・ポートを前記血液調整装置に流体接続するシャントを含む請求項52に記載のシステム。
【請求項56】
前記組織構造が心筋である請求項52に記載のシステム。
【請求項57】
前記第1の閉塞デバイスが、前記組織構造の全ての静脈還流を選択的に実質的に閉塞するように位置決め可能であり、前記第2の閉塞デバイスが、前記組織構造への全ての動脈流入を選択的に実質的に閉塞するように位置決め可能である請求項52に記載のシステム。
【請求項1】
体内の局所部位に灌流するためのシステムであって、
(a)カテーテル・アセンブリと、
(b)血液回路と、
(c)送達機械と
を有するシステムにおいて、
前記カテーテル・アセンブリが、
(i)前記局所部位に灌流液を送達するように適合された静脈アクセス・ラインと、
(ii)前記局所部位から灌流液を排出するように適合された静脈又は動脈還流ラインと、
(iii)前記局所部位に灌流液を灌流している間及び前記局所部位から灌流液を排出している間、前記局所部位と前記身体の体循環との間でいくらかの又は実質的に全ての生理学的血流を防げるように適合された閉塞デバイスと
を有し、
未処理の、処理された、又は不活性化処理された血液を制御下で前記局所部位に灌流している間及び/又は前記局所部位から排出している間、前記灌流液として使用するために血液の調整を容易にするように前記血液回路が前記カテーテル・アセンブリに関連付けられており、また前記血液回路が、
(i)前記静脈アクセス・ラインに灌流液を送達するように適合された療法送達モジュールと、
(ii)実質的に前記局所部位のみに灌流液を提供するように、カテーテルを使用して絶対的及び相対的な前記局所部位への灌流液の送達及び/又は前記局所部位からの灌流液の排出を制御するように適合された療法隔離モジュールと、
(iii)前記体循環に戻す送達の前に、排出された灌流液を回収して、前記灌流液を不活性化するように適合された療法不活性化モジュールと
を有し、また
前記送達機械が、前記局所部位に灌流液を送達するため及び前記局所部位からいくらかの又は全ての灌流液を排出するために、前記血液回路及び前記カテーテル・アセンブリを制御するように適合され、それによって、実質的に前記局所部位のみに灌流液を提供する
システム。
【請求項2】
前記還流ラインが静脈排出を提供し、前記局所部位の部分的な隔離を提供するために前記システムが使用される請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記還流ラインが動脈排出を提供し、前記局所部位の完全な隔離を提供するために前記システムが使用される請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記閉塞デバイスが膨張可能なバルーンである請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記静脈アクセス・ラインが、近位端と遠位端を有するカテーテルを有し、前記近位端が前記血液回路と流体連絡して接続され、前記遠位端が、前記カテーテルへの及び/又はカテーテルからの前記血液の流れに実質的に開口し、前記膨張可能なバルーンが、前記近位端と遠位端の間に位置決めされて、前記局所部位と前記体循環の間の血流を閉塞する請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記灌流液が自己血液を含み、前記自己血液が、
(a)1つ又は複数の生理活性剤の添加、
(b)前記血液からの1つ又は複数の生理活性剤の除去、及び
(c)前記局所部位での対応する応答を促すための前記血液の生理学的修正
からなる群から選択される態様で調整されている請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記局所部位が、心臓、脳、肝臓、腎臓、腕、及び脚からなる群から選択される請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記静脈アクセス・ライン、前記静脈還流ライン、及び前記閉塞デバイスがそれぞれ、単一の静脈の内部に位置決めされるように適合されている請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記アクセス・ライン及び前記還流ラインが、同軸ルーメンの形態で提供され、前記閉塞デバイスが、最外ルーメンの外面を取り囲む膨張可能なバルーンを有している請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記静脈アクセス・ライン及び前記静脈還流ラインがそれぞれ、異なる静脈の内部に位置決めされるように適合されている請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
前記灌流液が自己血液を含み、前記自己血液が、前記局所部位を加温又は冷却するために前記療法送達モジュールによってそれぞれ加熱又は冷却されている請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
前記局所部位が心臓を含み、前記灌流液が、約35℃未満に冷却された自己血液を含む請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
心筋の局所低体温療法のための方法であって、
(a)カテーテル・アセンブリであって、
(i)前記心筋に灌流液を搬送するための灌流ポートで終端する灌流ラインと、
(ii)静脈流を搬送するための還流ポートから延びる静脈還流ラインと、
(iii)全身ポートで終端する全身返流ラインと、
(iv)閉塞デバイスと
を有するカテーテル・アセンブリを提供するステップと、
(b)調整された又は未調整の血液を制御下で前記心筋に灌流するため及び/又は前記心筋から還流するために、前記カテーテル・アセンブリに関連付けられた血液調整装置を提供するステップであって、前記血液調整装置が、
(i)灌流液温度調節デバイスを有する療法送達モジュールと、
(ii)絶対的及び相対的な前記心筋への灌流液の送達及び/又は心筋からの灌流液の排出を制御するように適合された療法隔離モジュールと、
(iii)体循環に送達するために静脈流を調整するように適合された療法不活性化モジュールと
を含んでいるステップと、
(c)前記カテーテル・アセンブリの遠位部分を前記心筋の静脈還流構造内部に位置決めするステップであって、前記閉塞デバイスが、前記灌流ポートの近位に配設されるステップと、
(d)前記心筋からの実質的に全ての静脈還流を閉塞するように前記閉塞デバイスを作動させるステップと、
(e)前記静脈還流ラインを通して前記療法隔離モジュールに静脈流を受け取るステップと、
(f)前記静脈流の少なくとも一部を前記療法送達モジュールに制御可能に送達するステップと、
(g)前記灌流液温度調節デバイスによって前記療法送達モジュールで静脈流を調整することによって灌流液を生成するステップであって、前記灌流液温度調節デバイスによる前記調整が、前記灌流液を約35℃未満に冷却することを含むステップと、
(h)前記灌流ポートを通して前記静脈還流構造に逆行方向で前記灌流液を制御可能に定量供給するステップと、
(i)前記療法不活性化モジュールで静脈流を調整することによって全身血流を生成するステップと、
(j)前記全身ポートを通して体循環に前記全身血流を制御可能に定量供給するステップと
を含む方法。
【請求項14】
前記閉塞デバイスが、心臓大静脈からの静脈流を選択的に閉塞するのに適した位置で、冠状静脈洞内に位置決めされる請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記還流ポートが、前記閉塞デバイスの遠位に位置決めされる請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記閉塞デバイスが、膨張可能なバルーンである請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記心筋の心収縮期中に前記バルーンを制御可能に収縮し、前記心筋の心拡張期中に前記バルーンを制御可能に膨張するステップを含む請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記心筋の心拡張期と同期して前記静脈還流構造に前記灌流液を断続的に定量供給するステップを含む請求項13に記載の方法。
【請求項19】
組織構造に局所療法を送達するためのシステムであって、
前記組織構造の静脈還流構造に位置決め可能な遠位部分を有する静脈カテーテルであって、前記遠位部分が、前記組織構造の静脈循環を体循環から実質的に隔離するように前記静脈還流構造を選択的に実質的に閉塞するように適合された閉塞デバイスと、どちらも前記閉塞デバイスよりも上流に動作可能に配設された灌流ポート及び還流ポートとを含む静脈カテーテル、及び
前記静脈カテーテルの前記還流ポートに前記灌流ポートを流体結合させる血液調整装置であって、前記血液調整装置は、前記還流ポートを通して還流血流としてそこに供給された血液を調整すること、及び前記還流血流の少なくとも一部を、調整された逆行性の灌流血流として前記灌流ポートを通して再灌流することができ、前記調整は、前記灌流血流を約35℃未満に冷却することを含む血液調整装置
を有するシステム。
【請求項20】
前記静脈カテーテルが、前記閉塞デバイスよりも下流に動作可能に配設され且つ前記血液調整装置を通して前記灌流ポート及び前記還流ポートに流体接続された全身ポートを含み、また前記血液調整装置が、前記還流血流の少なくとも一部を、前記全身ポートを通して全身血流として定量供給可能である請求項19に記載のシステム。
【請求項21】
前記調整が、前記全身血流を不活性化するステップを含む請求項20に記載のシステム。
【請求項22】
前記全身血流を不活性化するステップが、前記全身血流を生理学的温度まで加温するステップを含む請求項21に記載のシステム。
【請求項23】
前記血液調整装置に通信可能に結合された1つ又は複数のセンサを含み、前記1つ又は複数のセンサが特性を検出し、前記特性の値を表す信号を前記血液調整装置の信号処理装置に通信することができる請求項20に記載のシステム。
【請求項24】
前記特性が、圧力、温度、流量、エレクトログラム信号、酵素濃度、及び療法薬物濃度からなる群から選択される請求項23に記載のシステム。
【請求項25】
前記血液調整装置が、前記還流血流を前記逆行性の灌流血流と前記全身血流に制御可能に分離するための分流器を含む請求項24に記載のシステム。
【請求項26】
前記分流器が、少なくとも前記灌流ポートでの圧力を示す前記信号処理装置から送達される制御信号に応答して、前記灌流血流と前記全身血流への前記還流血流の分割を調節する請求項25に記載のシステム。
【請求項27】
前記組織構造からの静脈還流の流量が低い期間に同期して、前記灌流ポートを通して前記灌流血流を断続的にポンピングするための灌流ポンプを含む請求項24に記載のシステム。
【請求項28】
前記灌流ポンプが、心臓の心拡張期中にのみ前記灌流血流を断続的にポンピングする請求項27に記載のシステム。
【請求項29】
前記調整が、前記灌流血流に酸素付加するステップを含む請求項19に記載のシステム。
【請求項30】
前記閉塞デバイスが、前記組織構造の静脈循環を体循環から選択的に実質的に隔離するように適合されている請求項19に記載のシステム。
【請求項31】
組織構造に局所療法を送達するためのシステムであって、
前記組織構造の第1の静脈還流構造に位置決め可能な遠位部分を有する第1の静脈カテーテルであって、前記遠位部分が、組織構造循環コンパートメントと全身循環コンパートメントを画定するために前記第1の静脈還流構造を選択的に実質的に閉塞するように適合された第1の閉塞デバイスを含む第1の静脈カテーテルと、
前記組織構造の第2の静脈還流構造に位置決め可能な遠位部分を有する第2の静脈カテーテルであって、前記第2の静脈カテーテルの前記遠位部分が、前記第2の静脈還流構造を選択的に実質的に閉塞するように適合された第2の閉塞デバイスを含み、前記第1の静脈カテーテルと第2の静脈カテーテルが、共同して、前記組織構造循環コンパートメント内に動作可能に配設された灌流ポート、還流ポート、及び前記体循環コンパートメント内に動作可能に配設された全身ポートを含む第2の静脈カテーテルと、
前記灌流ポート、前記還流ポート、及び前記全身ポートを流体結合する血液調整装置であって、前記血液調整装置が、前記還流ポートを通る還流血流としてのそこへの血液供給を調整し、前記還流血流の少なくとも一部を、調整された逆行性の灌流血流として前記灌流ポートを通して再灌流し、前記還流血流の少なくとも一部を、全身血流として前記全身ポートを通して定量供給することができる血液調製装置と
を有するシステム。
【請求項32】
前記還流ポートが、前記組織構造循環コンパートメント内に動作可能に配設される請求項31に記載のシステム。
【請求項33】
前記調整が、前記灌流血流を約35℃未満に冷却することを含む請求項31に記載のシステム。
【請求項34】
前記調整が、前記全身血流を生理学的温度まで加温することを含む請求項33に記載のシステム。
【請求項35】
前記組織構造が脳である請求項31に記載のシステム。
【請求項36】
隔離された組織構造に局所療法を送達するためのシステムであって、
前記組織構造の静脈還流構造に位置決め可能な遠位部分を有する静脈カテーテルであって、前記遠位部分が、前記静脈還流構造を選択的に実質的に閉塞し、それにより前記組織構造の全ての静脈還流を実質的に閉塞するように適合された第1の閉塞デバイスを含み、前記静脈カテーテルが、前記第1の閉塞デバイスよりも上流に動作可能に配設された第1の組織構造循環コンパートメント・ポート、及び前記第1の閉塞デバイスよりも下流に動作可能に配設された全身ポートをさらに含む静脈カテーテルと、
前記組織構造の動脈流入構造に位置決め可能な遠位部分を有する動脈カテーテルであって、前記遠位部分が、前記動脈流入を選択的に実質的に閉塞するように適合された第2の閉塞デバイス、及び前記第2の閉塞デバイスよりも下流に動作可能に配設された第2の組織構造循環コンパートメント・ポートを含む動脈カテーテルと、
前記第1及び第2の組織構造循環コンパートメント・ポートと前記全身ポートとを流体結合する血液調整装置であって、前記血液調整装置が、前記第1及び第2の組織構造循環コンパートメント・ポートの一方を通る還流血流としてそこに供給された血液を調整し、前記還流血流の少なくとも一部を、調整された灌流血流として前記第1及び第2の組織構造循環コンパートメント・ポートの他方を通して再灌流し、前記還流血流の少なくとも一部を、全身血流として前記全身ポートを通して定量供給することができる血液調製装置と
を有するシステム。
【請求項37】
前記動脈カテーテルが、ステント送達カテーテル又は血栓除去用カテーテルである請求項36に記載のシステム。
【請求項38】
前記動脈カテーテルの前記第2の組織構造循環コンパートメント・ポートを前記血液調整装置に流体接続するシャントを含む請求項36に記載のシステム。
【請求項39】
前記組織構造が心筋である請求項36に記載のシステム。
【請求項40】
前記調整が、約35℃未満に前記灌流血流を冷却すること、及び前記全身血流を生理学的温度まで加温することを含む請求項36に記載のシステム。
【請求項41】
組織構造に局所療法を送達するためのデバイスであって、
前記組織構造の静脈還流構造に位置決め可能な遠位部分を有する複数ルーメン静脈カテーテルであって、前記遠位部分が、前記静脈還流構造を実質的に閉塞するため、及び組織構造コンパートメント血液循環を全身血液循環から分離するために、前記静脈還流構造の壁に当接するように選択的に膨張する膨張可能バルーンを含むカテーテル
を有し、前記カテーテルが、
(i)調整された血液を、灌流ポートから前記組織構造コンパートメント血液循環に逆行方向で定量供給するための灌流ルーメンと、
(ii)前記カテーテルの還流ポートから、前記調整された血液の生成源に静脈血液を搬送するための還流ルーメンと、
(iii)調整された血液を前記カテーテルの全身ポートから前記静脈還流構造の全身血液循環に定量供給するための全身ルーメンと、
(iv)前記膨張可能なバルーンを選択的に膨張及び収縮するように前記膨張可能なバルーンと流体連絡する流体膨張ルーメンと、
(v)前記組織構造コンパートメント血液循環内での流体圧力を検出するための圧力センサと、を含む
デバイス。
【請求項42】
前記組織構造コンパートメント血液循環内の流体温度を検出するための温度センサを含む請求項41に記載のデバイス。
【請求項43】
前記組織構造コンパートメント内の電気信号を検出するためのエレクトログラムを含む請求項41に記載のデバイス。
【請求項44】
前記還流ポートが、前記膨張可能なバルーンの遠位に動作可能に配設される請求項41に記載のデバイス。
【請求項45】
組織構造に局所療法を送達するためのシステムであって、
前記組織構造の静脈還流構造に位置決め可能な遠位部分を有する静脈カテーテルであって、前記遠位部分が、体循環コンパートメントとは別個の組織構造循環コンパートメントを選択的に画定するために前記静脈還流構造を選択的に実質的に閉塞するように適合された閉塞デバイスを含み、前記組織構造循環コンパートメントが、前記閉塞デバイスが前記静脈還流構造を実質的に閉塞するときに前記体循環コンパートメントから実質的に隔離され、前記静脈カテーテルが、さらに、前記組織構造循環コンパートメント内に動作可能に配設された灌流ポート、還流ポート、及び全身ポートを含む静脈カテーテルと、
前記静脈カテーテルの前記灌流ポート、前記還流ポート、及び前記全身ポートを互いに流体結合する血液調整装置であって、前記血液調整装置が、前記還流ポートを通る還流血流としてのそこへの血液供給を調整し、前記還流血流の少なくとも一部を、調整された逆行性の灌流血流として前記灌流ポートを通して再灌流し、前記還流血流の少なくとも一部を、全身血流として前記全身ポートを通して前記全身循環コンポーネントに定量供給することができる血液調製装置と
を有するシステム。
【請求項46】
前記灌流ポート、前記還流ポート、及び前記全身ポートがそれぞれ、前記静脈カテーテルのそれぞれ異なるルーメンに関連付けられる請求項45に記載のシステム。
【請求項47】
前記血液調整装置が、調整された逆行性の灌流血流の再灌流と、前記全身ポートを通した前記全身血流の定量供給とを自動的に制御する請求項45に記載のシステム。
【請求項48】
前記調整が、前記灌流血流を約35℃未満に冷却することを含む請求項45に記載のシステム。
【請求項49】
前記全身血流をほぼ生理学的温度まで加温することによって前記全身血流を調整することを含む請求項48に記載のシステム。
【請求項50】
組織構造に局所療法を送達するためのシステムであって、
前記組織構造の静脈還流構造に位置決め可能な遠位部分を有する静脈カテーテルであって、前記遠位部分が、膨張可能なバルーンが前記静脈還流構造を実質的に閉塞するように膨張されたときに体循環コンパートメントとは別個の組織構造循環コンパートメントを画定するように、前記静脈還流構造を選択的に実質的に閉塞するように適合された膨張可能なバルーンを含み、前記静脈カテーテルが、さらに、前記組織構造循環コンパートメント内に動作可能に配設された灌流ポート、及び還流ポートを含む静脈カテーテルと、
前記静脈カテーテルの前記還流ポートに前記灌流ポートを流体結合させる血液調整装置であって、前記血液調整装置が、前記還流ポートを通して還流血流としてそこに供給された血液を調整し、前記還流血流の少なくとも一部を、調整された逆行性の灌流血流として前記灌流ポートを通して再灌流することができ、前記血液調整装置が、前記組織構造からの静脈還流の流量が低い期間に同期して前記灌流血液を再灌流するように適合され、前記血液調整装置が、前記灌流血流に酸素付加することによって前記灌流血流を調整するように適合されている血液調整装置と
を有するシステム。
【請求項51】
前記血液調整装置が、心筋の心拡張期中にのみ前記灌流血流を心筋に再灌流する請求項50に記載のシステム。
【請求項52】
組織構造に局所療法を送達するためのシステムであって、
前記組織構造の静脈還流構造に位置決め可能な遠位部分を有する静脈カテーテルであって、前記遠位部分が、前記静脈還流構造を選択的に実質的に閉塞するように適合された第1の閉塞デバイスを含み、前記静脈カテーテルが、さらに、前記第1の閉塞デバイスよりも上流に動作可能に配設された第1の組織構造循環コンパートメント・ポート、及び前記第1の閉塞デバイスよりも下流に動作可能に配設された全身ポートを含む静脈カテーテルと、
前記組織構造の動脈流入構造に位置決め可能な遠位部分を有する動脈カテーテルであって、前記遠位部分が、第2の組織構造循環コンパートメント・ポートを含む動脈カテーテルと、
前記第1及び第2の組織構造循環コンパートメント・ポートと前記全身ポートとを流体結合する血液調整装置であって、前記血液調整装置が、前記第1及び第2の組織構造循環コンパートメント・ポートの少なくとも一方を通る還流血流としてそこに供給される血液を調整し、前記還流血流の少なくとも一部を、調整された灌流血流として前記第1及び第2の組織構造循環コンパートメント・ポートの少なくとも一方を通して再灌流し、前記還流血流の少なくとも一部を、全身血流として前記全身ポートを通して定量供給することができる血液調製装置と
を有するシステム。
【請求項53】
前記動脈カテーテルの前記遠位部分に組み込まれ、前記第2の組織構造循環コンパートメント・ポートよりも上流で前記組織構造の動脈流入構造に位置決め可能である第2の閉塞デバイスを含む請求項52に記載のシステム。
【請求項54】
前記動脈カテーテルが、ステント送達カテーテル又は血栓除去用カテーテルである請求項52に記載のシステム。
【請求項55】
前記動脈カテーテルの前記第2の組織構造循環コンパートメント・ポートを前記血液調整装置に流体接続するシャントを含む請求項52に記載のシステム。
【請求項56】
前記組織構造が心筋である請求項52に記載のシステム。
【請求項57】
前記第1の閉塞デバイスが、前記組織構造の全ての静脈還流を選択的に実質的に閉塞するように位置決め可能であり、前記第2の閉塞デバイスが、前記組織構造への全ての動脈流入を選択的に実質的に閉塞するように位置決め可能である請求項52に記載のシステム。
【図11A】
【図11B】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図19B】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19A】
【図20A】
【図20B】
【図20C】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図11B】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図19B】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19A】
【図20A】
【図20B】
【図20C】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公表番号】特表2013−518675(P2013−518675A)
【公表日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−552054(P2012−552054)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【国際出願番号】PCT/US2011/023471
【国際公開番号】WO2011/097295
【国際公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(512201498)ニルヴァ メディカル、エルエルシー (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【国際出願番号】PCT/US2011/023471
【国際公開番号】WO2011/097295
【国際公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(512201498)ニルヴァ メディカル、エルエルシー (1)
【Fターム(参考)】
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