説明

履物

【課題】脱ぎ履きし易く、歩行時には足との一体感が高まって脱げ難くなる履物を提供する。
【解決手段】本発明は、足50が載置される底部2と、足50の甲54を覆う変形可能な甲被覆部3と、甲被覆部3を牽引して足50の踵52に掛け回される牽引体4とを備える。牽引体4は、それが足50の踵52に掛け回される際に甲被覆部3を引張って足50の甲54に当て付けるように甲被覆部3に接続される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は履物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、サンダルやスリッパ等の履物は、図8に示されるように、足50が載置されて足裏56と直接に接触する底部102(場合により、足裏56と接触する中敷部材と、地面または床面と接触する底部材とから成る)と、底部102の前側に設けられて足50の甲54および足先を包み込むように形成される甲被覆部103とから成る簡略的な構造を成しており、風通しが良く手軽に履けるという利点がある。
【0003】
しかしながら、その一方で、このような底部102と甲被覆部103とから成る簡略的な履物100は、脱げ易いという側面もある。すなわち、この種の履物100の甲被覆部103は、一般に脱ぎ履きし易くするために平均的な人の足の甲サイズよりも大きく形成されており、そのため、足50の甲54と甲被覆部103の内周面との間に隙間110が存在する。したがって、歩行時には、前記隙間110に起因して、図8の(b)に示されるように足裏56が底部102から離れて足50の踵52と底部102との間に隙間115が生じ、歩き難かったり、歩行時にパタパタと音をたてる場合がある。とりわけ、小走りのような比較的激しい動きをする場合には、前記隙間115に起因して履物が脱げてしまうこともある。そのため、例えば特許文献1ないし特許文献3に開示される履物は、足の踵に掛け回される紐あるいは足の踵を背後から覆う伸縮性のバンド等を設けることにより足の踵を固定し、足裏56が底部102から離れることを抑制するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−070006号
【特許文献2】特開2010−264209号
【特許文献3】特許第4671395号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、紐やバンド等によって踵を固定しても、足裏56が底部102から離れることを完全に防止できるとは言い難い。これは、足50の甲54と甲被覆部103の内周面との間に依然として隙間110が存在するためであり、この隙間に伴って上下に遊度がある限り、歩行時に底部102上で足がばたつくことは避けられない。しかしながら、一方で、隙間110は、甲被覆部103の開口を大きく保って足を甲被覆部103に挿入し易くする(履き易くする)という側面もある。つまり、図8に示されるようなタイプの履物では、脱ぎ履きするときには隙間110が存在した方がよく、逆に、歩行時には隙間110が存在しない方がよい。
【0006】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、脱ぎ履きし易く、歩行時には足との一体感が高まって脱げ難くなる履物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、本発明の履物は、足が載置される底部と、足の甲を覆う変形可能な甲被覆部と、該甲被覆部を牽引して足の踵に掛け回される牽引体とを備え、前記牽引体は、それが足の踵に掛け回される際に前記甲被覆部を引張って足の甲に当て付けるように前記甲被覆部に接続されることを特徴とする。
【0008】
上記構成によれば、牽引体を引張らない状態では、甲被覆部の内側(足の甲と甲被覆部の内周面との間)に隙間を残しておくことができ、したがって、履物の脱ぎ履きを容易に行なうことができる。また、甲被覆部に足を差し入れて牽引体を足の踵に掛け回すと、甲被覆部が牽引体により引張られて足の甲に当て付くため、甲被覆部の隙間が無くなるとともに、甲被覆部による押圧力によって足裏が履物の底部に押し付けられる。また、同時に、踵に掛け回される牽引体は、足が履物の後方へずれることを防止するとともに、踵を履物の底部に固定する。つまり、甲被覆部による下向きの押圧力と踵が牽引体から受ける下向きの反力とによって足首の前後が履物の底部へ引き寄せられて足裏が履物の底部に強固に密着するため、歩行時には履物と足との一体感が高まり、足裏が底部から離れ難くなる(履物が脱げ難くなる)。
【0009】
なお、上記構成において、甲被覆部にはその周長変化を許容する切り欠きが設けられることが好ましい。これにより、甲被覆部の変形がし易くなり、甲被覆部と足の甲との密着性が高まる。また、上記構成では、甲被覆部が個別に変形可能な2つの被覆体を有し、牽引体の両端がそれぞれ対応する別個の被覆体に接続されてもよい。この場合、2つの被覆体が甲被覆部の両側に分かれて前後に位置されれば、甲被覆部によって足の甲を両側から締め付けることも可能になり、足と履物との一体感(密着性)を更に高めることができる。また、上記構成において、甲被覆部は、被覆本体と、該被覆本体の内周面に接続されて足の甲を押圧するための押圧体とから成り、牽引体の両端が押圧体に接続されてもよい。これにより、足の甲を局所的に効率良く押圧できるとともに、牽引体に加えるべき牽引力が軽くなる。また、上記構成においては、前述したように、牽引体を引張らない状態で、甲被覆部の内側(足の甲と甲被覆部の内周面との間)に隙間を残しておくことができるが、その場合、履口が潰れないように自立した構造を成すことが好ましい。そのようにすれば、突っ掛け履きがし易くなる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、脱ぎ履きし易く、歩行時には足との一体感が高まって脱げ難くなる履物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る履物であり、(a)は牽引体を引張らない状態の斜視図、(b)は牽引体を引張って甲被覆部を底部側に引き寄せた状態の斜視図である。
【図2】足を甲被覆部内に差し入れて牽引体を足の踵に掛け回した状態の側面図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る履物であり、(a)は牽引体を引張らない状態の履物の斜視図、(b)は牽引体を引張らない状態の履物の平面図である。
【図4】本発明の第3の実施形態に係る履物であり、(a)は牽引体を引張らない状態の履物の斜視図、(b)は足を甲被覆部内に差し入れて牽引体を足の踵に掛け回した状態の側面図、(c)は牽引体による牽引に伴う甲被覆部の変形を模式的に示す正面図である。
【図5】本発明の第4の実施形態に係る履物であり、(a)は牽引体を引張らない状態の履物の斜視図、(b)は該履物に設けられる押圧体の斜視図である。
【図6】本発明の第5の実施形態に係る履物であり、足を甲被覆部内に差し入れて牽引体を足の踵に掛け回した状態の側面図である。
【図7】本発明の第6の実施形態に係る履物であり、(a)は牽引体を踵保持カバーと共に引張って甲被覆部を底部側に引き寄せた状態の斜視図、(b)は踵保持カバーの概略側面図である。
【図8】(a)は従来の履物を履いた状態の側面図、(b)は(a)の履物を履いて歩いている状態の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について具体的に説明する。
図1〜図3は本発明の第1の実施形態を示している。図示のように、本実施形態の履物1は、足50が載置されて足裏56と直接に接触する底部2と、底部2の前側に設けられて足50の甲54および足先を包み込むように形成される甲被覆部3とから成る。底部2は、ポリウレタン、ポリエチレン等の合成樹脂または合成ゴム等によって形成されており、例えば、足裏56と接触する中敷部材と、地面または床面と接触する底部材とから成っていてもよい。また、甲被覆部3は、足の先端側を挿入できる略ドーム状の空間Sを内側に形成して甲54および足先を覆うようになっており、底部2と一体に接続されるとともに、変形可能な材料、例えばポリウレタン、ポリエチレン等の合成樹脂、または、ポリウレタン、ポリエチレン、EVA等の発泡性合成樹脂、あるいは、合成ゴム、合成皮革等によって形成される。
【0013】
なお、本実施形態において、甲被覆部3は、その開口縁部から前方へ延びる切り欠き5を両側に有しており、これらの切り欠き5は、甲被覆部3の周長変化(変形)を許容するようになっている。また、切り欠き5を通じて甲被覆部3内に異物が侵入するのを防止するため、切り欠き5にはこれを塞ぐように伸縮性のカバー(図示せず)が取着されてもよい。また、本実施形態において、甲被覆部3は、足50の甲54および足先を含めて足の前方側全体を覆っているが、足先を露出させるように甲54だけを覆ってもよい。
【0014】
また、本実施形態の履物1は、甲被覆部3を牽引して足の踵52に掛け回される牽引体4を備える。この牽引体4は、紐状部材として形成されており、それが足50の踵52に掛け回される際に甲被覆部3を引張って足50の甲54に当て付けるようにその両端が甲被覆部3の両側に接続されている。具体的には、牽引体4は、一方では、その両端部が、甲被覆部3の開口縁部近傍の両側下端縁に設けられる筒部(布材等により形成される)6を挿通して切り欠き5を横切って上方に延び、両側の切り欠き部5によって片持ち梁状に延びる甲被覆部3の舌片3aの両側に接続される。また、牽引体4は、他方では、両筒部6から下方へ抜け出て履物1の後側へとループ状に延びている。なお、牽引体4は、甲被覆部3を足50の甲54に当て付けることができる牽引力を生起できる限りにおいて全体または一部が伸縮性を有していてもよい。例えば、牽引体4は、合成繊維を編み込んだもの、ポリウレタ等の合成樹脂、合成ゴム、または、これらの任意の組み合わせから形成することができる。
【0015】
牽引体4を引張らない状態が図1の(a)に示され、牽引体4を引張って甲被覆部3を底部2側に引き寄せた状態が図1の(b)に示されている。牽引体4を引張らない状態(図1の(a)の状態)では、甲被覆部3の内側(甲被覆部3の内周面と足50の甲54との間)に隙間を残しておくことができ、したがって、履物1の脱ぎ履きを容易に行なうことができる。また、図2に示されるように甲被覆部3に足50を差し入れて牽引体4を足50の踵52に掛け回すと、甲被覆部3が牽引体4により引張られて(図中の矢印a,b参照)足50の甲54に当て付くため、甲被覆部3の隙間が無くなるとともに、甲被覆部3による押圧力F1によって足裏56が履物1の底部2に押し付けられる。また、同時に、踵52に掛け回される牽引体4は、足50が履物1の後方へずれることを防止するとともに、踵52を履物1の底部2に固定する。つまり、甲被覆部3による下向きの押圧力F1と踵52が牽引体4から受ける下向きの反力F2とによって足首58の前後が履物1の底部2へV字状に引き寄せられて足裏56が履物1の底部2に強固に密着するため、歩行時には履物1と足50との一体感が高まり、足裏56が底部2から離れ難くなる(履物1が脱げ難くなる)。また、この場合、甲被覆部3にはその周長変化を許容する切り欠き5が設けられているため、甲被覆部3が変形し易く、甲被覆部3と足50の甲54との密着性が高まる。
【0016】
このように、本実施形態によれば、脱ぎ履きし易く、歩行時には足との一体感が高まって脱げ難くなる履物1を提供できる。
【0017】
図3は本発明の第2の実施形態を示している。図示のように、本実施形態の履物1Aの甲被覆部3Aは個別に変形可能な2つの被覆体3Aa,3Abを有しており、牽引体4の両端がそれぞれ対応する別個の被覆体3Aa,3Abに接続されている。具体的には、甲被覆部3Aは、その開口縁部から前方へと延びる開放部12を上部中央に有しており、この開放部12の両側にはそれぞれ互いに前後に位置して開放部12を横切るように片持ち梁状に延びる舌片状の被覆体3Aa,3Abが甲被覆部3Aと一体に形成されている。そして、牽引体4の一端が一方の被覆体3Aaに対して接続部9で接続され、牽引体4の他端が他方の被覆体3Abに対して接続部9で接続される。なお、それ以外の構成は第1の実施形態と同一である。
【0018】
したがって、このような実施形態の構成では、甲被覆部3によって足50の甲54を両側から締め付けることが可能となり、足50と履物1との一体感(密着性)を更に高めることができる。
【0019】
図4は本発明の第3の実施形態を示している。本実施形態の履物1Bは、第1の実施形態の筒部6が甲被覆部3の開口縁部の略全体にわたって延び、筒部6内に牽引体4が挿通された構成となっている。すなわち、牽引体4が途切れのない閉ループを成して甲被覆部3の開口縁部の略全体にわたって延びた構成となっている。この場合、切り欠き5は存在しなくてもよい。そのような場合であっても、牽引体4が甲被覆部3の開口縁部の略全体にわたって延びるため、牽引体4を引張る(牽引体4を引張らない状態では、図4の(b)に二点鎖線で示されるように、牽引体4は収縮状態にある)ことにより図4の(c)に示されるように甲被覆部3を内側に十分に変形させる(底部2側に引き寄せる)ことができる(図4の(c)には、牽引体4を引張っていない状態の甲被覆部3が二点破線で示され、牽引体4を引張った状態の甲被覆部3が実線で示されている)。また、本実施形態では、甲被覆部3の変形を容易にするため、甲被覆部3が伸縮性を有する生地によって形成されることが好ましい。なお、それ以外の構成は第1の実施形態と同一である。
【0020】
図5は本発明の第4実施形態を示している。図示のように、本実施形態の履物1Cの甲被覆部3は、足50の甲54および足先を包み込むように形成される被覆本体3aと、被覆本体3aの内周面の上部中央に接続されて足50の甲54を押圧するための押圧体3bとから成る。この場合、押圧体3bは、その前端が被覆本体3aの内周面に接続固定されており、この接続固定部30から後方へ向けて片持ち梁状に延びている。そして、この押圧体3bの後端部の両側に牽引体4のそれぞれの端部が接続されている。また、牽引体4が挿通される筒部6は、前述した実施形態では甲被覆部3の外面に設けられていたが、本実施形態では、牽引体4と接続する押圧体3bが甲被覆部3の内側に設けられていることから甲被覆部3の内面に設けられている。なお、それ以外の構成は第1の実施形態と同一である。
【0021】
したがって、このような実施形態の構成では、押圧体3bによって足50の甲54を局所的に効率良く押圧できるとともに、牽引体4に加えるべき牽引力が軽くなる。
【0022】
図6は本発明の第5実施形態を示している。図示のように、本実施形態の履物1B’は、図4に示される第2の実施形態の構成に加えて、筒部6の両端部に、牽引体4が掛け回される滑車40を備えている。このような滑車40を設けると、滑車40によって牽引力を効果的な方向(甲被覆部3を効果的かつ効率的に変形させることができる方向)で作用させることができ、有益である。なお、滑車40は第1ないし第4の実施形態の全てに適用できる。
【0023】
図7は本発明の第6実施形態を示している。図示のように、本実施形態の履物1Dは、足50の踵52を後側から保持する布生地等(例えば、クロロプレン材)から成る踵保持カバー70を更に備えている。この踵保持カバー70にはその上縁の全体にわたって牽引体4が通されており、牽引体4を引張らない状態では、図7の(b)に二点鎖線で示されるように牽引体4と共に倒伏されて底部2上に載置された状態となる(矢印参照)。この状態から、履物1Dを履く場合には、甲被覆部3に足50を差し入れながら牽引体4を踵保持カバー70と共に引張って図7の(a)に示されるように踵保持カバー70を引き起こせばよい。それにより、足50の踵52が後側から踵保持カバー70によって保持されるとともに、前述したように甲被覆部3が足50の甲54に当て付くため、足50が履物1Dと密着して一体化する。なお、本実施形態では、牽引体4が踵保持カバー70の上縁の全体にわたって通されているが、牽引体4を踵保持カバー70に通すことなく踵保持カバー70の両側に接続するだけでもよい。
【符号の説明】
【0024】
1,1A,1B,1B’,1C 履物
2 底部
3 甲被覆部
3a 被覆本体
3b 押圧体
3Aa,3Ab 被覆体
4 牽引体
5 切り欠き
50 足
52 踵
54 甲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
足が載置される底部と、足の甲を覆う変形可能な甲被覆部と、該甲被覆部を牽引して足の踵に掛け回される牽引体とを備え、前記牽引体は、それが足の踵に掛け回される際に前記甲被覆部を引張って足の甲に当て付けるように前記甲被覆部に接続されることを特徴とする履物。
【請求項2】
前記甲被覆部にはその周長変化を許容する切り欠きが設けられることを特徴とする請求項1に記載の履物。
【請求項3】
前記甲被覆部は個別に変形可能な2つの被覆体を有し、前記牽引体の両端がそれぞれ対応する別個の被覆体に接続されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の履物。
【請求項4】
前記甲被覆部は、被覆本体と、該被覆本体の内周面に接続されて足の甲を押圧するための押圧体とから成り、前記牽引体の両端が前記押圧体に接続されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の履物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−245291(P2012−245291A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121255(P2011−121255)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000002495)グローブライド株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】