説明

工具折損検出装置

【課題】 回転工具の溝や刃に落ち込んで削れたり、曲がったり、バウンドしたりせず、したがって、工具の回転を停止させることなく、工具の側部や先端の折損の検出を可能にし、機械の稼働率の向上を図ることのできる工具折損検出装置、及び、工具の先端切羽斜面のチッピング量の合否の判定に誤動作の生じない工具折損検出装置を提供する
【解決手段】 本願装置1は、接触杆5を工具の溝や刃に落ち込ませないようにするために接触杆5を検出しようとするドリル等(工具6)のねじれ溝6aを跨ぐ幅Aを持つ帯状焼き入れバネ板とし、回転工具の溝や刃にたとえ当たってもバネの特性により逃げられるように構成した。また、工具の先端の欠損の検出が可能になるように、前記接触杆5を、断面がL状に曲げられ、工具の先端側軸方向への撓みを生じない板金棹とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はドリル、タップ、リーマ、エンドミル等の工具の折損(側部や先端)の有無を検出するための工具折損検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の工具折損検出装置は、たとえば、図4の如く、装置本体の駆動部41の主軸42に基端部43を固定してなる接触杆44を、駆動部41の作動で一定の範囲で旋回させ、その旋回範囲内にある工具45の側面に直角方向から当接させるようにし、該接触杆44が工具45に当接しないで通過したときには「折損」と判断し、警告又は機械制御部(図示せず)へ停止信号を出力するように構成されていた(特開2001−038512、特開2005−198553参照)。
【特許文献1】特開2001−038512
【特許文献2】特開2005−198553
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記装置の接触杆44は、図4の如く、小径の針金状ニードルであり、回転中のドリルやタップなどの工具の側面に直角方向から当てるには適さなかった。なぜならば、切削時に切り屑を穴の外に排出するためのねじれ溝45aがあるドリルやタップなどの工具の溝に落ち込んで削れたり、曲がったり、バウンドしたりするおそれがあったからである。したがって、これらの工具の折損検出時にはその回転を停止させなければならなかった。
【0004】
また、上記装置では、工具の回転あるいは停止を問わず、接触杆44が接触した接触点より下側の折損については検知できたが、工具の先端切羽斜面に当接させてその欠損(チッピング)を検出することは困難であった。なぜならば、接触杆はその撓みやガタなどのために、工具先端に当接しないで逃げてしまうことがあったからである。換言すれば、工具の先端切羽斜面にチッピングがないにもかかわらず、欠損と判定する誤動作の生ずるおそれがあった。
【0005】
本発明は上記の点に鑑みて創出したもので、その目的とするところは、回転工具の溝や刃に落ち込んで削れたり、曲がったり、バウンドしたりせず、したがって、工具の回転を停止させることなく、工具の側部や先端の折損の検出を可能にし、機械の稼働率の向上を図ることのできる工具折損検出装置を提供することにある。また、他の発明の目的とするところは、工具の先端切羽斜面のチッピングやチッピング量の合否の判定に誤動作の生じない工具折損検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る工具折損検出装置は、接触杆を工具の側面に直角方向から当接することにより折損を検出する工具折損検出装置において、前記接触杆を検出しようとするドリル等のねじれ溝を跨ぐ幅を持つ帯状焼き入れバネ板としたことを特徴とし、工具を回転させたまま折損の検出が可能になるように構成した。
【0007】
また、請求項2に記載の発明に係る工具折損検出装置は、前記接触杆が針金状ニードルとその中間部に着脱又は位置移動可能に設けた短小の帯状焼き入れバネ板とからなることを特徴とし、細い工具への過大な接触力を与えないようにできるとともに、工具の回転方向に対応して取付向きを変更できるように構成した。
【0008】
さらに、請求項3に記載の発明に係る工具折損検出装置は、接触杆を工具の側面に直角方向から当接することにより折損を検出する工具折損検出装置において、前記接触杆を、断面がL状に曲げられ、工具の先端側軸方向への撓みを生じない板金棹とし、L状接触杆の先端側のコンタクトが工具先端切羽斜面に当たるようにしたことを特徴とし、工具の先端の折損の確実な検出が可能になるように構成した。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、接触杆を検出しようとするドリル等のねじれ溝を跨ぐ幅を持つ帯状焼き入れバネ板としたから、ドリルやタップなどのねじれ溝に落ち込んで削れたり、曲がったり、バウンドしたりせず、したがって、ドリルやタップなどの工具を停止させることなく(回転中であっても)、折損の検出が可能である。したがって、検出に際しての機械の稼働率の向上が図れるという優れた効果を奏するものである。
【0010】
また、請求項2に記載の発明によれば、接触杆が短小な帯状焼き入れバネ板を針金状ニードルの中間部の位置を自在に選ぶことが可能であるため、細い工具への過大な接触力を与えないようにすることが可能である。また、短小な帯状焼き入れバネ板が針金状ニードルに着脱可能になっているため、工具の回転方向に対応して取付向きを自在に変更できるなど、各種の優れた効果を奏するものである。
【0011】
さらに、請求項3に記載の発明によれば、接触杆を断面がL状であって、工具の先端側軸方向への撓みを生じない板金棹とし、しかも、L状接触杆の先端側コンタクトがドリルの先端切羽斜面に当てられるため、工具の先端切羽のチッピング量の合否の正確な判定が可能になるという優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明の複数の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は本願装置の第1例を示し、(a)は平面図、(b)は正面図、図2は本願装置の第2例を示し、(a)は平面図、(b)は正面図、図3は本願装置の第3例を示し、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【0013】
図1は本願装置1の第1例を示すもので、該本願装置1は駆動部2の主軸3に基端部材4を介して固定してなる帯状焼き入れバネ板からなる接触杆5を、その旋回範囲内にある工具6に対して扁平状に当たるようにしている。該帯状焼き入れバネ板からなる接触杆5は折損検出しようとするドリル等(工具6)のねじれ溝6aを跨ぐ幅Aを、図1(b)の如く、当接部位7のみならず全長にわたって有している。ここに接触杆5を前記溝を跨ぐ幅Aをもつ帯状にしたのは工具の溝や刃に落ち込ませないためであり、焼き入れしたバネ板としたのは回転工具の溝や刃にたとえ当たってもバネの特性により逃げられるようにするためである。
【0014】
前記帯状焼き入れバネ板からなる接触杆5の基端部材4は、その端部に駆動部2の主軸3を挟み込むスリ割り溝4aを有し、該スリ割り溝4aを側面から挿通した締付具4bにより締付け固定している。また、帯状焼き入れバネ板からなる接触杆5とその基端部材4との一体化は、締付具4bにより締付け固定している。
【0015】
前記駆動部2としては、電動モータ(制御モータ)を駆動源とするものでもよいが、エアコンプレッサーからエアホースを介して連通した直動エア駆動源を利用するようにしてもよい。この直動エア駆動源は、工作機械の如く、切削剤(油)が多量にふりかかる状況下や切削剤が噴霧状に充満する雰囲気中でも電気的トラブルが生じにくく、この面では有効だからである。
【0016】
前記当接部位7を含む全長にわたってドリル等のねじれ溝6aを跨ぐ幅Aを持つ帯状焼き入れバネ板からなる接触杆5は、図1(b)の一点鎖線で示す如く、ねじれ溝6aへの落ち込みが規制できる。勿論、ねじれ溝6aへの落ち込み規制効果は工具6が回転中でも有効に機能する。
【0017】
図2は本願装置1の第2例を示す。これによれば、駆動部2の主軸3に基端部材4を介して固定してなる針金状ニードル8と、該針金状ニードル8の中間部位に、帯状焼き入れバネ板からなる短小接触杆9を着脱又は位置移動可能に設けてなる。
【0018】
前記短小接触杆9は、図2(a)の如く、前記針金状ニードル8へ締付固定できる固定部品9aと、該固定部品9aに締付具により一体化してなる帯状焼き入れバネ板9bとからなる。この短小接触杆9の帯状焼き入れバネ板9bは、図2(b)の如く、工具6のねじれ溝6aを跨ぐだけの横幅Aを持っている。
【0019】
前記短小接触杆9は、締付具9a′を緩めれば、固定部品9aとともに針金状ニードル8に沿って矢印イ−イ′方向に移動でき、その移動後に確定した最適位置にて再び固定できるようになっている。これは細い工具への過大な接触力を与えないようにするために有効である。また、短小接触杆9は、工具の回転方向に対応し、締付具9a′を緩めて固定部品9aとともに針金状ニードル8から抜き取り、その取付向きを変更することも可能である。
【0020】
なお、図2に示す本願装置1の場合も、針金状ニードル8の基端部材4は、その端部に駆動部2の主軸3を挟み込むためのスリ割り溝4aを有し、該スリ割り溝4aを側面から挿通した締付具4bにより締付固定されていることは、図1の場合と共通している。
【0021】
図3は本願装置1の第3例を示す。これによれば、図3(a)の如く、駆動部2の駆動軸3に基端部材4を介して固定してなる接触杆5を断面L形の板金棹10とし、工具の先端側軸方向への撓みを生じないようにしている。これは先端側上縁の上端面がドリル(工具6)の先端切羽斜面に当たるようにし、切羽のチッピング量の合否の判定ができるようにしているものである。
【0022】
前記板金棹10は、前記駆動軸3を挟み込みんだスリ割り溝4aに挿通した締付具4bにより締付固定した基端部材4の下側隅角部に、L形の基端内角面を合わせ、図3(a)及び(b)の如く、取付具10a、10bにて固定されている。
【0023】
前記板金棹10の先端部には、工具6の先端切羽6′の折損を検出するコンタクト11を、図3(c)の如く、設けている。このコンタクト11を設けるのは、工具6の先端切羽6′に当接しないときは、「欠損」と判定して欠損信号を図示しない制御部に出力し、当接したときは、「正常」と判定して正常信号を制御部に出力できるようにするためである。
【0024】
次に、本願装置1の作用を説明する。まず、本願装置1の接触杆5を、ドリルやタップなどの工具6のねじれ溝を跨ぐ幅を持つ帯状焼き入れバネ板としたから、該工具6が回転中であったとしても、そのねじれ溝6aに接触杆5が落ち込むことがなく、工具の折損検出ができるため、機械の稼働率を損なうことがない。
【0025】
また、本願装置1の接触杆5として、針金状ニードル8とその中間部に、工具6のねじれ溝6aを跨ぐ幅を持つに短小の帯状焼き入れバネ板からなる短小接触杆9を、着脱又は位置移動可能に設けるときは、細い工具への過大な接触力を与えないようにすることができる。また、短小接触杆9は工具の回転方向に対応してその取付向きを変更できるという利点もある。
【0026】
さらに、本願装置1の接触杆5として、断面がL状に曲げられ、工具の先端側軸方向への撓みを生じない板金棹を用い、L状接触杆の先端側のコンタクト(エッジ部)がドリル等の先端切羽斜面に当たるようにすると、工具6の先端切羽のチッピング量の合否の判定が確実にできるものである。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本願装置1は、工具の回転を停止させることなく、工具の折損や先端の欠損の検出が可能である。換言すれば、工具の折損検出及びチッピング量の合否の判定のために機械の稼働率を低下させることのないという有効なものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本願装置の第1例を示し、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図2】本願装置の第2例を示し、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図3】本願装置の第3例を示し、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図4】従来装置の接触杆の旋回と工具との関係を示す説明的斜視図である。
【符号の説明】
【0029】
1 本願装置
2 駆動部
3 主軸
4 基端部材
4a スリ割り溝
4b 締付具
5 接触杆
6 工具(ドリル、タップ)
6a ねじれ溝
6′ 工具先端
7 当接部位
8 針金状ニードル
9 短小接触杆
9a 固定部品
9a′ 締付具
9b 接触板
10 板金棹
10a、10b 取付具
11 コンタクト
A 接触杆の横幅
41 装置本体の駆動部
42 主軸
43 基端部
44 接触杆
45 工具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接触杆を工具の側面に直角方向から当接することにより折損を検出する工具折損検出装置において、前記接触杆を検出しようとするドリル等のねじれ溝を跨ぐ幅を持つ帯状焼き入れバネ板としたことを特徴とする工具折損検出装置。
【請求項2】
前記接触杆が、針金状ニードルとその中間部に着脱又は位置移動可能に設けた短小の帯状焼き入れバネ板とからなることを特徴とする請求項1に記載の工具折損検出装置。
【請求項3】
接触杆を工具の側面に直角方向から当接することにより折損を検出する工具折損検出装置において、前記接触杆を、断面がL状に曲げられ、工具の先端側軸方向への撓みを生じない板金棹とし、L状接触杆の先端側のコンタクトが工具先端切羽斜面に当たるようにしたことを特徴とする工具折損検出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate