説明

平面アンテナ

【課題】取り付け位置の制限される場所にも、送受信効率および指向性特性を低下させずに好適に取り付けることのできるコンパクトな平面アンテナを提供する。
【解決手段】平面アンテナ10は、ガラス板12と、このガラス板12の面側に形成される、パッチ状の放射導体14aとこの放射導体14aから突出したストリップ状の突出部14bとを有し、電波の波長をλ、ガラス板12の短縮率をk、突出部14bの突出長さをLb とした場合、Lb ≦k・λ/2を満たす島状導体14と、この島状導体14と同一の面上に形成され、島状導体14の周囲を離間して囲む接地導体16とを有する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、平面アンテナに関するものであり、特に、マイクロ波通信やミリ波通信に好適な高周波用平面アンテナに関するものである。より具体的には、車両と車両外部の送信機器および/または受信機器との間の、特にGHz帯の範囲の周波数における無線通信を目的とした平面アンテナ、例えば、車両の窓ガラスに形成されて用いられる平面アンテナに関するものである。
【0002】
【従来の技術】今日、高速、大容量通信への要求から、マイクロ波やミリ波を用いて電波を送受信する高周波の通信が急速に拡がっている。電波を送受信するアンテナとして、例えば、円形若しくは方形のパッチ状の放射導体を持つマイクロストリップアンテナ(以下、マイクロストリップアンテナをMSAとする)が好適に用いられている。また、このMSAは、パッチアンテナとも呼ばれている。このMSAはプリント基板で作製でき、平面構造であるので小型薄型アンテナとして広く普及している。
【0003】このMSAは、一般に、誘電体基板の両面に導体薄膜等の導体板を形成し、一方の側の導体板を接地導体(グランド板あるいは地板とも呼ぶ)とし、他方の側の導体板をエッチング処理を施すことによって円形または方形の放射導体を形成したものである。このMSAの給電は、例えば同軸ケーブルの中心導体を放射導体の所定の位置に接続し、同軸ケーブルの外部導体をMSAの放射導体と反対側の面の接地導体に接続することによって行われる。このようにMSAは、誘電体基板の両面に導体板があるため、MSAの両面の導体板への接続が給電のために必要となっている。
【0004】一方において、US特許4063246号では、”COPLANAR STRIPLINE ANTENNA”が開示されている。すなわち、誘電体基板の片側の面に接地導体を設け、この反対の側の面にパッチ状の放射導体とこの放射導体の周囲に所定の間隔(ギャップとも言う)を成して形成した接地導体とを設けることを開示している。これによれば、誘電体基板の片側の面に、放射導体と接地導体が形成され、例えば同軸ケーブルの中心導体を放射導体と所定の位置で接続し、同軸ケーブルの外部導体を放射導体と同一の面に形成された接地導体と接続するので、給電を誘電体基板の片側の面で行うことができる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところで、近年、高速道路や有料道路において、5.8GHzの周波数帯を用いた無線通信を行うことで、料金徴収を自動的に行う自動料金収受システム(ETC:Electric Toll Collection System )が提案されている。このシステムは料金所に設けられた路側機と車両に設置された車載機の間で無線データ通信を行うものである。このシステムの車載機側で用いられるアンテナとしては、上述のMSAや積層タイプの面実装用アンテナが用いられることが多く、車載機に搭載されるか、若しくはアンテナを別の筐体に収め、それらを車両のダッシュボード上に置いて用いられる。しかし、ダッシュボード上に設置されるMSA等のアンテナは、車内や車外からみてデザイン上好ましくなく、また、ドライバーの視野の妨げになる。また、取り付け位置や方向などによって、アンテナの特性が一定しないといった指向性特性の問題もある。
【0006】さらに、上述のMSAは誘電体基板の両面に導体板を必要とするため、車両の窓ガラスに用いる場合、車外側となるガラス面にも導体が露出するため、MSAの耐久性が低くなるといった問題があった。さらに、ガラス板の両面に導体を形成することは、製造工程が煩雑になることを意味し、コストも高くなる。さらに、ガラス板を誘電体基板として構成したMSAの放射体と接地導体とに給電するために、ガラス板を穿孔する煩雑な孔開け加工を必要とする。そのため、ガラス板の面上にMSAを形成することは困難であった。また、上述のUS特許4063246号の開示するアンテナにおいても、接地導体を車室内側となるガラス面に設ける他、放射導体を車外側となるガラス面に設けて車外に露出するのでアンテナの耐久性が低くなるという問題があった。このように、アンテナの取り付け位置とドライバーの視野との両方を満足させるアンテナ、さらには、従来取り付け位置の制限された場所にも、送受信効率を低下させず、さらに、指向性特性を低下させずに好適に取り付けることのできる耐久性の良いコンパクトなアンテナは今日得られていないのが現状である。
【0007】そこで、本発明は、電波を送信し、あるいは電波を受信する平面アンテナであって、例えば、車両の運転席の前方のように、取り付け位置の制限される場所にも、送受信効率および指向性特性を低下させずに好適に取り付けることのできる耐久性の良いコンパクトなアンテナを提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明は、誘電体基板に島状導体と接地導体とが設けられている平面アンテナであって、前記島状導体は突出するストリップ状の突出部を有し、前記島状導体の一部又は全部が離間して前記接地導体により囲まれており、送信または受信に用いる電波の波長をλ、この電波の前記誘電体基板における短縮率をk、および前記突出部の突出長さをLb とした場合、Lb ≦k・λ/2を満たすことを特徴とする平面アンテナを提供するものである。
【0009】ここで、前記誘電体基板の比誘電率をεr とした時、前記短縮率kは、k=εr (-1/2)であるのが好ましい。
【0010】前記島状導体は、円形状または方形形状に前記突出部が形成されているのが好ましい。ここで、前記島状導体の前記突出部と前記接地導体とによって、コブレナーウェーブガイドが形成されるのが好ましく、このコブレナーウェーブガイドの端部に、給電部が設けられるのが好ましい。また、前記島状導体には、前記突出部と接続する部分に、前記突出部の縁が前記島状導体の内部に延長されるように切り込みが設けられてもよい。
【0011】ここで、前記島状導体および前記接地導体は、銀ペーストを焼成して成る厚膜または導体層であり、前記誘電体基板の基板面の表層には、黒色セラミック膜が形成されてもよい。
【0012】前記誘電体基板は、ガラス板であるのが好ましく、さらに、このガラス板は、車両用ガラス板であるのが好ましい。さらに、この車両用ガラス板は、車両用フロントガラスであるのが好ましく、前記平面アンテナは、この車両用フロントガラス板の車室内側に形成されるのが好ましい。また、前記車両用ガラス板は、合わせガラス板であって、前記平面アンテナは、合わせガラスを構成するガラス基板に形成されてもよい。さらに、前記平面アンテナは、車両用フロントガラスの縁から100mm以内の範囲に形成されるのが好ましく、さらに、車両用フロントガラスを車両に装着する際の左右方向の中心線を中心とする左右100mm以内の範囲に形成されるのが好ましい。
【0013】
【発明の実施の形態】以下、本発明の平面アンテナについて、添付の図面に示される好適実施例を基に詳細に説明する。
【0014】図1(a)および(b)には、本発明の平面アンテナの一実施形態である平面アンテナ10が示されている。図1(a)は、平面アンテナ10の平面図であり、図1(b)は図1(a)に示すA−A’線で切断した平面アンテナ10の断面図である。
【0015】平面アンテナ10は、図1(a)および(b)に示すように、誘電体基板であるガラス板12の少なくとも一方の面側に形成される平面アンテナであって、ガラス板12と、ガラス板12の面上に形成される、正方形状の本体部14aとこの本体部14aから突出したストリップ状の突出部14bとを有する島状導体14と、島状導体14と同一の面上に形成され、この島状導体14の全部を一定の距離離間して囲む導体16とを主に有して構成される。
【0016】突出部14bの端部には、給電部18が設けられ、図示されない表面実装型コネクタを介して、島状導体14と同一の面側で同軸ケーブルの中心導体と接続される。また、導体16は、アース接続された同軸ケーブルの外部導体と接続されて、常時アース接続されている。従って、平面アンテナ10においては、本体部14aは電波を放射する放射導体として、この放射導体を取り囲む導体16は接地導体として機能する。また、突出部14bは、接地導体である導体16とともに、ストリップ状の中心導体の両側に一定の距離を隔てて接地導体が形成される公知の伝送線路であるコブレナーウェーブガイド(CPW)を形成し、突出部14bはコブレナーウェーブガイドのストリップ状の中心導体として機能する。以降では、本体部14aを放射導体14aといい、突出部14bを伝送線中心導体14bといい、導体16を接地導体16という。
【0017】ここで、放射導体14aの幅Wおよび長さLa は、平面アンテナ10で送受信する電波の波長によって電波が共振するように設定される。平面アンテナ10の導体長さLa は、送受信を行う所望の周波数帯の中心周波数の波長をλM とした場合、アンテナの送受信効率を向上させるために、k・(λM /4)〜k・λM(kはガラス板12における短縮率)の範囲にあることが好ましい。この範囲に導体長さLa を設定することで、この範囲外に設定する場合に比べて、数dBの利得が向上する。また、放射導体14aの幅Wは、送受信を行う所望の周波数帯の最高周波数の波長をλH とし、送受信を行う所望の周波数帯の最低周波数の波長をλL とするとき、k・(λH /4)〜k・λL の範囲にあることが好ましい。
【0018】一方、伝送線中心導体14bの放射導体14aから突出する突出部の線路長Lb は、平面アンテナ10で送受信する電波の波長、例えば中心周波数の波長をλM とし、ガラス板12における短縮率をkとした場合、k・λM /2以下とする。このように、伝送線中心導体14bの線路長Lb の上限をk・λM /2と規定することで、アンテナの送受信効率を確保でき、しかもコンパクトな平面アンテナを形成することができる。
【0019】ここで、短縮率kとは、誘電体基板上を伝搬する電波の伝搬速度に関係するもので、所望の電波の周波数で、アンテナの入力インピーダンスのリアクタンス成分が0となるように、すなわちアンテナが共振するように、誘電体基板を用いることによって作製されるアンテナの寸法を、誘電体基板体のない場合に考えられるアンテナ寸法に比べて小さくする比率をいう。ここで、短縮率kは、誘電体基板の比誘電率をεr とすると、k=εr (-1/2)で表すことができる。
【0020】接地導体16は、ガラス板12上の一定の領域に所定以上の面積を持つように形成される。すなわち、平面アンテナ10は、指向性特性が良好となるように、接地導体16の面積が調整されている。このようにして、指向性特性を良好にすることができるのは、誘電体基板と空気界面での反射やガラス板を伝搬する表面波の、指向性特性への影響が低減するためと考えられる。
【0021】また、接地導体16は、島状導体14の周囲を一定の距離離間して囲む。すなわち、接地導体16は、放射導体14aの縁より一定の間隔gapp 離れ、伝送線中心導体14bの縁より一定の間隔gapf 離れて設けられる。間隔gapp は、平面アンテナ10の入力インピーダンス特性が良好となるように設定され、ほぼガラス板12の厚さ近傍が好ましい。一方、間隔gapf は、伝送線中心導体14bの線路幅との比によって設定され、この間隔gapf と線路幅の比は、伝送線中心導体14bと接地導体16によって形成されるCPWにおける特性インピーダンスが所定の値、通常、高周波伝送線路で用いられる特性インピーダンス50Ωとなるように、ガラス板の比誘電率と放射体や接地導体の導伝率および厚さとを考慮して設定される。このCPWについては、"Microstrip Lines and Slotines" (Artech House 出版社、著者 K.C.Gupta他) に詳述されている。なお、本実施例では、接地導体16は、放射導体14aの縁より一定の間隔gapp 離れ、伝送線中心導体14bの縁より一定の間隔gapf 離れているが、本発明では、後述するように、円偏波の電波を送受信する場合には、接地導体16は、放射導体14aと左右で異なる一定の間隔gapp1、gapp2で離れてもよいし、また、接地導体16と放射導体14aとの間隔がアンテナ10の長さ方向に沿って変化するものであってもよい。
【0022】このような島状導体14と接地導体16は、銀ペースト等の、導電性金属を含有するペーストをガラス板12にプリントし、焼付けて形成される。なお、本発明においては、この形成方法に限定されず、銅等の導電性物質からなる、線状又は箔状の薄膜を、ガラス板12の面上に形成してもよい。このようにガラス板12上に銀ペーストを焼成したものを導体として形成するのでガラス板12と放射導体14aや伝送線中心導体14bや接地導体16との間に空隙を生じることが無く、空隙によるそれぞれの界面で反射が生じ、共振したりして、平面アンテナ10の送受信の特性が低下することがない。
【0023】なお、平面アンテナ10は、一枚のガラス板12上に形成されるが、本発明においては、合わせガラス板や複層ガラス板であってもよく、この場合、合わせガラス板や複層ガラス板を構成するガラス板のどの面側に形成してもよい。例えば、合わせガラス板の合わせ面側に形成してもよいが、この場合、ガラス板を横断してアンテナに給電するための給電手段が必要とされる。また、本発明においては、誘電体基板は、ガラス板に限定されず、セラミックやポリイミド樹脂やサファイア、さらにはプリント配線基板等いずれであってもよい。その際、誘電体基板の比誘電率や導体の導電率および厚さを考慮し、送受信する周波数によって放射導体14aの大きさやCPWの幅、例えば、伝送線中心導体14bの幅や間隔gapf を変更することが必要である。また、アンテナの送受信の効率を向上させるには低誘電損失の誘電体基板を用いるのが好ましい。また、誘電体基板は、表層に着色したプリント膜、例えば黒色プリント膜を形成したものを用いてもよい。
【0024】このような平面アンテナ10は、例えば、車両用フロントガラス板の面に形成してETCにおけるアンテナとして利用される。すなわち、車両用フロントガラスをガラス板12として用いる。このような平面アンテナ10は、狭域通信(DSRC:Dedicated Short Range Communication )制御回路等とともに一体化してガラス板12上に設けられてもよい。また、上記平面アンテナ10は、放射導体14aと中心伝送線中心導体14bの全部が接地導体16によって囲まれるものであるが、本発明においては、放射導体14aと中心伝送線中心導体14bの一部が接地導体16によって囲まれた平面アンテナであってもよい。以上のように平面アンテナ10は構成される。
【0025】次に、平面アンテナ10の動作について、説明する。まず、電波の送信は、伝送線中心導体14bの端部に設けられた給電部18から給電され、CPWを伝搬して、放射導体14aを励振する。このとき放射導体14aの共振周波数で励振すれば、放射導体14aより電波を放射する。上述したMSAは、放射導体と地導体との間の電界から、放射導体端部で磁流を生じ、その磁流を波源として電波を放射するアンテナであるが、平面アンテナ10は、放射導体14aとその周囲に間隔をおいて同一面に配された接地導体16との間の電界から放射導体14aの端部で磁流を生じ、その磁流を波源として、電波を放射すると考えられる。平面アンテナ10における共振周波数は、平面アンテナ10の長さを半波長とする電波の周波数近傍に位置するが、この共振周波数は、放射導体14aの端部の影響、放射導体14aと接地導体16との間隔gapp 等を用いて細かく設定することができる。
【0026】電波の受信は、アンテナの送信と受信の可逆性により、上記説明と逆の動作となる。このように、平面アンテナ10は、放射導体14a、接地導体16および伝送線中心導体14bが形成された誘電体基板12面の反対の面に導体は形成されておらず、誘電体基板12の一方の面にのみ、放射導体14a、接地導体16および伝送線中心導体14bが形成された、同一面または共平面(コプレーナ)構造のアンテナとなるので、平面アンテナ10を一方の誘電体基板12の面側に形成することができ、誘電体基板の両側に配置しなければならないMSAに比べて、耐久性が向上する。さらに、給電部18も放射導体14a等と同一の面側に設けられるので、給電も容易になり、コンパクトな構成を実現する。
【0027】平面アンテナ10は、放射導体14aの形状を図1に示すよう正方形状とするが、矩形形状等の方形形状であってもよく、さらには、図2(a)に示すように円形状でもよい。さらには、ETCのように円偏波の電波を送受信する場合には、図2(b)〜図2(e)に示すように放射導体14aの一部に切り欠き部20や突起部21などを設け、縮退素子または摂動素子を用いて、円偏波に対応するようにしてもよい。この他、放射導体14aを正方形状として、この正方形状の中央部にスロットを設けてもよく、通常のMSAにおける円偏波技術と同様の手法を用いることができる。さらに、図2(f)に示すように、放射導体14aを正方形状として、放射導体14aと接地導体16との間隔を間隔gapp1、gapp2のように左右で異なるものとしたり、図2(g)に示すように、放射導体14aと接地導体16との間隔をアンテナの長さ方向において変化させることで、放射導体14aと接地導体16との間隔による容量の変化を生じさせ、上記縮退素子または摂動素子と同様の効果を得て、円偏波に対応するようにしてもよい。
【0028】また、図2(h)に示すように、伝送線中心導体14bと放射導体14aとのインピーダンスの整合を行うために、放射導体14aと周囲の接地導体16との間隔gapp による影響を考慮して、放射導体14aは、伝送線中心導体14bと接続する部分に、伝送線中心導体14bの縁が放射導体14a内部に延長されるように、切り込み22を設けてもよい。この場合、上述した放射導体14aの一部に切り欠き部20や突起部21などを設けてもよい。
【0029】また、接地導体16の大きさ、形状は実施例にとらわれず、指向性特性に影響を与えない範囲であれば種々の変更が可能であり、接地導体16の外周部をドット形状にしてデザイン性を向上することも可能である。さらには、室内側に金属もしくは導電性を有する板を設置するようにして、反射板を設け、アンテナの送受信の効率を向上させることもできる。
【0030】なお、本発明の平面アンテナは、上述した5.8GHzの周波数帯を用いた無線通信を行うETCにおいて好適に用いられるが、ETCに限定されず、同様の周波数帯を用いる種々データ通信にも使用可能である。例えば、自動車電話用の800MHz帯(810〜960MHz)、自動車電話用の1.5GHz帯(1.429〜1.501GHz)、UHF帯(300MHz〜3GHz)、GPS人工衛星のGPS信号1575.42MHz等の電波の送受信に用いることもできる。勿論、上記帯域以外にもマイクロ波の周波数の電波(1GHz〜3THz)やミリ波帯の電波(30GHz〜300GHz)の送受信にも用いることができる。
【0031】このような平面アンテナ10として、以下のような平面アンテナを作製した。
【0032】(実施例1)誘電体基板として厚さ3.5mmのガラス板上に銀ペーストを焼成してなる、図1(a)に示す形状の放射導体14a、伝送線中心導体14bおよび接地導体16を形成した。このとき放射導体14aの形状は中心周波数5.8GHzで送受信可能な平面アンテナとなるように、大きさ(幅W×長さLa )が、7.9mm×7.9mmとなる正方形状とし、間隔gapp を2mmとした(あるいは、図2(f)における間隔gapp1および間隔gapp2を共に2mmとした)。そして、CPWを構成する伝送線中心導体14bの幅を1mmとし、間隔gapf を0.3mmとした。この伝送線中心導体14bによって作られるCPWは誘電体基板1の比誘電率、導体の導電率および厚さを考慮し、5.8GHzで特性インピーダンスがほぼ50Ωとなるように構成した。接地導体16の大きさは、図1(a)に示すxplを70mm、yplを100mmとした。また、伝送線中心導体14bの長さ、すなわち、伝送線中心導体14bの線路長Lb を、略k・λM /4に相当する6.45mmとし、k・λM /2以下とした。
【0033】このときの入力インピーダンス特性は図3に示すような特性であった。すなわち、周波数5.8GHzにおいて、リアクタンス成分が0近傍の値となって共振を起こすことが示されている。また、周波数5.8GHz時の垂直偏波における指向性特性は図4に示すような良好な特性であった。図3および図4より、作製した平面アンテナは所望の周波数で共振を起こし、接地導体16は良好な指向性特性を得る程度の面積を有して良好なアンテナとして機能することが判った。なお、図4における横軸の0度は、ガラス板面12に対して垂直な方向を示す。
【0034】(実施例2)次に、実施例1の構成に付加して、図5に示すように、誘電体基板であるガラス板12と放射導体14aおよび接地導体16との間に黒色セラミックス膜24を形成した。入力インピーダンス特性は図3に示す実施例1の場合に比べ、60MHz程度低周波側に共振する周波数がシフトし、垂直偏波における指向性特性は図4に示す指向特性より約0.5dB低下したが、良好なアンテナとして機能した。なお、この黒色セラミックス膜24の電気的影響を考慮して、放射導体14aのサイズを微調整(この場合は共振周波数が低周波側にシフトしているので、放射導体14aを小さく)すれば、さらに良い特性が得られると考えられる。
【0035】実施例2は、平面アンテナ10は、ガラス板12と放射導体14aおよび接地導体16との間に黒色プリント膜を有する例であるが、黒色プリント膜に限定されず、プリント膜の色はどのようなものであってもよい。この平面アンテナ10を車両用窓ガラス板、例えば車両用フロントガラスに用いる場合、平面アンテナ10は、車両用フロントガラスの車室内側に形成されるのが、給電部18を介した給電のし易さや耐久性の点から好ましく、上記黒色プリント膜によって室外側から平面アンテナ10の放射導体14aや伝送線中心導体14bや接地導体16を光学的に(視覚的に)遮蔽することができ、車外側から見た見栄えを向上することができる。また、放射導体14aの上に更に黒色プリント膜を形成して車室内側からも光学的(視覚的に)遮蔽することで車室内側から見た見栄えも向上することが可能である。
【0036】また、車両用フロントガラスは、合わせガラスが用いられるので、車両の室内側に平面アンテナを形成するとともに、デザイン上の点から、合わせガラス板の合わせ面に着色した中間膜を挟んで平面アンテナ10を光学的に(視覚的に)遮蔽してもよい。中間膜の色も黒色に限定されない。その際、平面アンテナ10は、視野の妨げにならないように、車両用フロントガラスの縁から100mm以内の範囲内に形成されるのが好ましく、さらに、車両用フロントガラスを車両に装着する際の左右方向の中心線を中心とする左右100mm以内の範囲に形成されるのが好ましい。例えば、運転者の視点から見て、ルームミラーの裏側となる位置が、視野の妨げにならない点およびデザイン上の点から特に好ましい。
【0037】以上、本発明の平面アンテナについて詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良および変更を行ってもよいのはもちろんである。
【0038】
【発明の効果】以上、詳細に説明したように、本発明の平面アンテナによれば、例えば、車両のフロントガラス等のような車両等の移動体のガラスに、送受信効率や指向性特性を低下させず、高周波用アンテナを好適に取り付けることができる。しかも、耐久性が良くコンパクトである。例えば、GPS(Grobal Positioning Sysytem )、VICS(Vehicle information and communication Sysytem)やETC等の専用狭域通信(DSRC) システムに好適なアンテナとなる。さらには、電話などの通信システムや移動体のガラス板等に本発明の平面アンテナを形成するのみならず、他の誘電体基板上にも形成することもでき、種々の用途の高周波用平面アンテナとして使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 (a)は、本発明の平面アンテナの一例の形状を示す平面図であり、(b)は、(a)に示すA−A’線における平面アンテナの断面図である。
【図2】 (a)〜(h)は、本発明の平面アンテナの他の例の形状を示す平面図である。
【図3】 本発明の平面アンテナの入力インピーダンス特性を示す図である。
【図4】 本発明の平面アンテナの指向性特性を示す図である。
【図5】 本発明の平面アンテナの他の例の断面を示す断面図である。
【符号の説明】
10 平面アンテナ
12 ガラス板
14 島状導体
14a 本体部(放射導体)
14b 突出部(伝送線中心導体)
16 導体(接地導体)
18 給電部
20 切り欠き部
21 突起部
22 切り込み
24 黒色セラミック膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】誘電体基板に島状導体と接地導体とが設けられている平面アンテナであって、前記島状導体は突出するストリップ状の突出部を有し、前記島状導体の一部又は全部が離間して前記接地導体により囲まれており、送信または受信に用いる電波の波長をλ、この電波の前記誘電体基板における短縮率をk、および前記突出部の突出長さをLb とした場合、Lb ≦k・λ/2を満たすことを特徴とする平面アンテナ。
【請求項2】前記誘電体基板の比誘電率をεr としたとき、前記短縮率kは、k=εr (-1/2)である請求項1に記載の平面アンテナ。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図5】
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【公開番号】特開2002−252520(P2002−252520A)
【公開日】平成14年9月6日(2002.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−46918(P2001−46918)
【出願日】平成13年2月22日(2001.2.22)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】