説明

平面モータ

【課題】スライダをプラテンから降ろして吊り上げることなくスライダのエアベアリング面を直接メンテナンスできる平面モータを提供する。
【解決手段】
エアベアリング19によりスライダ12をプラテン11の上面に浮上させ、2次元方向に移動させる平面モータにおいて、
プラテン11に上面高さを揃えて外付けされ、スライダ12の底面よりも小さな開口部51aと、この開口部51aを密封状態にふさぐ蓋部511と、この蓋部511を開閉する駆動機構512と、蓋部511を開いた状態において開口部51aからスライダ12のエアベアリング面12aを清掃するメンテナンス部18とを有する脱着式プラテン51を備えたことを特徴とする平面モータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は平面モータに関し、詳しくは、エアベアリングによりスライダをプラテンの上面に浮上させ、2次元方向に移動させる平面モータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、露光装置等の半導体製造装置や検査装置には、対象物の位置を高速かつ高精度で制御するための位置決め装置が搭載されている。この位置決め装置としては、対象物が載置されたスライダをエアベアリングによって浮上させ、平面モータにより非接触で2次元方向に駆動させるものが提案されている。
【0003】
図2は、従来の平面モータの一例を示す図である。図2の(a)は平面モータの上面図(XY平面図)、図2の(b)は側面図(XZ平面図)である。
【0004】
ベース1上にプラテン100が固定されている。このプラテン100上に、位置決めの対象物17が搭載されたスライダ12が載置されている。
【0005】
スライダ12の下面12aにはエア噴出穴12bとエア溝12cが形成されている。スライダ12は、ベース1の外部からケーブルベア(登録商標)13を介して供給されるクリーンエアをエア噴出穴12bから噴出させ、そのエアをエア溝12cに流通させることにより、プラテン100上に浮上する。
【0006】
プラテン100は平面モータにおける固定子、スライダ12は可動子である。スライダ12は、スライダ12とプラテン100との間に発生する磁気吸引力と、エアによる浮上力のつり合う空隙15(およそ数10μm程度)の位置で安定して浮上する。エア噴出穴12b、エア溝12cおよび空隙15でエアベアリング19を構成している。スライダ12はエアベアリング19によりプラテン100上を非接触でXY方向に位置制御される。スライダ12を位置制御することにより、対象物17が指定された位置に制御される。
【0007】
スライダ12の4辺にはバーミラー16が設けられている。プラテン100の周囲には複数のレーザ干渉計14が対向するように固定配置されている。X軸方向に対向するレーザ干渉計14はスライダ12のX軸方向の位置検出を行い、Y軸方向に対向するレーザ干渉計14はスライダ12のY軸方向の位置検出を行う。これらのレーザ干渉計14は、出射したレーザ光とこのレーザ光がスライダ12のバーミラー16で反射されて戻ってくる反射光との干渉に基づき、スライダ12の位置検出を行う。検出されたスライダ12の位置および回転角θは平面モータにフィードバックされ、位置制御や姿勢制御に利用される。
【0008】
下記特許文献1には、レーザ干渉計を用いてスライダの位置検出を行う平面モータが記載されている。
また、下記特許文献2には、エアベアリングによりスライダ部を浮上させたXYステージが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−200969号公報
【特許文献2】特開2005−025695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、エアベアリングを使用した平面モータは、空隙15にゴミや切粉等の異物を噛み込んだり、エア噴出孔12bやエア溝12cから異物が侵入する場合がある。このような状態でスライダ12を動作させると、プラテン100やスライダ12に傷が付いてしまう。プラテン100やスライダ12に傷が付くと、エア漏れによりエアベアリング19が破損したり、磁気材料が破損してスライダ12の推力に悪影響となる可能性がある。
【0011】
プラテン100の表面上に付着した異物は容易に取り除くことができる。しかし、スライダ12の下面のエアベアリング面12aに付着した異物は、スライダ12をプラテン100から降ろして吊り上げない限り取り除くことができない。
【0012】
スライダ12にはミクロン単位で調整されたバーミラー16や微動機構17、ケーブルベア13、配線・配管等が高密度に実装されており、プラテン100から降ろして吊り上げるためにはそれぞれを分解する必要がある。また、異物を取り除いた後は、再度組立と調整が必要となり、膨大な時間とコストが必要となる。さらに、スライダ12は磁性体のため、プラテン100から降ろす場合には専用の治具も必要になる。
【0013】
スライダ12をプラテン100から降ろさずにエアベアリング面12aの異物を取り除くためには、
1.エアベアリング19へ供給するエアをON/OFFさせる
2.エアベアリング19へ供給するエアの圧力を上下させる
3.手動でスライダ12をゆっくり往復運動させる
などの手法を組み合わせ、傷の発生状況を確認しながら異物が飛び散ることを期待するしかない。しかし、一時的に傷が発生しなくなっても、下面12aを直接清掃しているわけではないため、異物が実際に取り除かれたかどうかは不明である。
【0014】
本発明は、従来の問題をなくし、スライダをプラテンから降ろして吊り上げることなくスライダのエアベアリング面を直接メンテナンスできる平面モータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
このような課題を達成するために、請求項1に記載の発明は、
エアベアリングによりスライダをプラテンの上面に浮上させ、2次元方向に移動させる平面モータにおいて、
前記プラテンに上面高さを揃えて外付けされ、前記スライダの底面よりも小さな開口部と、この開口部を密封状態にふさぐ蓋部と、この蓋部を開閉する開閉機構と、前記蓋部を開いた状態において前記開口部から前記スライダのエアベアリング面を清掃するメンテナンス部とを有する第2のプラテンを備えたことを特徴とする。
【0016】
請求項2に記載の発明は、
請求項1に記載の平面モータにおいて、
前記メンテナンス部は、前記エアベアリング面に圧縮気体を吹き付けることを特徴とする。
【0017】
請求項3に記載の発明は、
請求項1または2に記載の平面モータにおいて、
前記メンテナンス部は、前記エアベアリング面から気体吸引を行うことを特徴とする。
【0018】
請求項4に記載の発明は、
請求項1〜3のいずれかに記載の平面モータにおいて、
前記メンテナンス部は、前記エアベアリング面に清掃用部材を接触させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1の発明によれば、
プラテンに上面高さを揃えて外付けされ、スライダの底面よりも小さな開口部と、この開口部を密封状態にふさぐ蓋部と、この蓋部を開閉する開閉機構と、蓋部を開いた状態において開口部からスライダのエアベアリング面を清掃するメンテナンス部とを有する第2のプラテンを備えたことにより、スライダをプラテンから降ろして吊り上げることなくエアベアリング面を直接メンテナンスできる平面モータを提供できる。
【0020】
メンテナンス部は、請求項2のようにメンテナンス穴から圧縮気体を送り込むことでエアベアリング面を清掃してもよいし、請求項3のようにメンテナンス穴から気体吸引を行うことでエアベアリング面を清掃してもよい。また、請求項4のようにメンテナンス穴からエアベアリング面に清掃用部材を接触させてエアベアリング面を清掃してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例1を示す構成図である。
【図2】従来の平面モータの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0022】
図1は本発明の実施例1を示す図である。図1の(a)は平面モータの上面図(XY平面図)、図1の(b)は側面図(XZ平面図)である。なお、従来例と同じ構成要素には同じ番号を付す。
【0023】
ベース1上にプラテン11が固定されている。このプラテン11上に、位置決めの対象物17が搭載されたスライダ12が載置されている。スライダ12は側辺がX軸またはY軸に平行に配置される。
【0024】
スライダ12の下面12aにはエア噴出穴12bとエア溝12cが形成されている。スライダ12は、ベース1の外部からケーブルベア13を介して供給されるクリーンエアをエア噴出穴12bから噴出させ、そのエアをエア溝12cに流通させることにより、プラテン11上に浮上する。
【0025】
プラテン11は平面モータにおける固定子、スライダ12は可動子である。スライダ12は、スライダ12とプラテン11との間に発生する磁気吸引力と、エアによる浮上力のつり合う空隙15(およそ数10μm程度)の位置で安定して浮上する。エア噴出穴12b、エア溝12cおよび空隙15でエアベアリング19を構成している。スライダ12はエアベアリング19によりプラテン11上を非接触でXY方向に位置制御される。その際、スライダ12はその側辺がX軸またはY軸と平行な状態を保ったまま移動する。スライダ12を位置制御することにより、対象物17が指定された位置に制御される。
【0026】
スライダ12の4辺にはバーミラー16が設けられている。プラテン11の周囲には複数のレーザ干渉計14が対向するように固定配置されている。X方向に対向するレーザ干渉計14はスライダ12のX方向の位置検出を行い、Y方向に対向するレーザ干渉計14はスライダ12のY方向の位置検出を行う。これらのレーザ干渉計14は、出射したレーザ光とこのレーザ光がスライダ12のバーミラー16で反射されて戻ってくる反射光との干渉に基づき、スライダ12の位置検出を行う。検出されたスライダ12の位置および回転角θは平面モータにフィードバックされ、位置制御や姿勢制御に利用される。なお、スライダ12の位置制御および姿勢制御は図示しない制御部によって行われる。
【0027】
51はプラテン11に外付けされる脱着式プラテンである。脱着式プラテン51は、開口部51a、開口部開閉機構51b、メンテナンス部18、脱着機構52、高さ調整機構53から構成されている。
【0028】
開口部51aは、開放時にはエアベアリング19のエアが漏れてエアベアリング19が成立しない、すなわちエアベアリング19に影響を及ぼす大きさの穴である。開口部開閉機構51bは、プラテン形状の蓋部511と、この蓋部を開閉する駆動機構512と、蓋部511を閉じたときにエアが漏れないようにするためのパッキン513で構成されている。駆動機構512は、たとえばエアシリンダ、モータなどが考えられる。
【0029】
開口部51aのサイズは、スライダ12の底面よりもわずかに小さく設定する。開口部51a上にスライダ12を移動させ、エアベアリング19をOFFすると、スライダ12底面の縁部が脱着式プラテン51の開口部51aの外周部分によって支持されるようにする。
【0030】
開口部51aの下方にはメンテナンス部18が設けられている。メンテナンス部18は圧縮気体を噴出させる機構を備えており、開口部51a上にスライダ12が位置する際にスライダ12のエアベアリング面12aに圧縮気体を噴き付け、エアベアリング面12aの清掃を行う。
【0031】
脱着機構52および高さ調整機構53は、脱着式プラテン51をプラテン11に接続する際に用いられる機構である。プラテン11には位置決めピン11bを、脱着式プラテン51にはガイド穴51cを備えておき、脱着式プラテン51をプラテン11に接続する際に位置決めピン11bとガイド穴51cを勘合させて位置合わせを行う。
高さ調整機構53は、ボールネジによりプラテン11と脱着式プラテン51の上面高さを調整する。脱着機構52はエアシリンダによりプラテン11と脱着式プラテン51をクランプし、これらの位置を固定する。脱着式プラテン51とプラテン11との接続部はエアパッキン51dを配置する。エアパッキン51dにより、脱着式プラテン51とプラテン11との接続部に多少隙間があってもエア漏れを防止し、エアベアリング19を成立させる効果がある。
【0032】
接続された脱着式プラテン51は、通常は開口部開閉機構51bにより、開口部51aは密封状態で閉じられている。エアベアリング面12aの清掃を行うときは、制御部はスライダ12を脱着式プラテン51上に移動させ、エアベアリング19をOFFし、スライダ12を脱着式プラテン51上に着座させる。その後、制御部は開口部開閉機構51bにより開口部51aを開く。エアベアリング面12aには、開口部51aを介してメンテナンス部18から圧縮気体が供給され、エアブローによりエアベアリング面12aの異物が除去される。
【0033】
清掃後、開口部開閉機構51bにより開口部51aを閉じる。制御部は、エアベアリング19をONし、スライダ12をプラテン11上に移動させ、エアベアリング面12aのメンテナンス完了となる。
【0034】
制御部は、プラテン11での通常の動作シーケンスの中で定期的にスライダ12を脱着式プラテン51に移動させ、エアベアリング面12aの清掃を行う。
また、制御部は、エアベアリング面12aに異物が付着したと判断される場合、あるいは空隙15に異物が噛み込まれたと判断される場合に、スライダ12を脱着式プラテン51に移動させ、エアベアリング面12aの清掃を行う。
【0035】
本実施例は以上のように構成され、
プラテン11に上面高さを揃えて外付けされ、スライダ12の底面よりも小さな開口部51aと、この開口部51aを密封状態にふさぐ蓋部511と、この蓋部511を開閉する駆動機構513と、蓋部511を開いた状態において開口部51aからスライダ12のエアベアリング面12aを清掃するメンテナンス部18とを有する脱着式プラテン51を備えたことにより、スライダ12をプラテン11から降ろして吊り上げることなくエアベアリング面12aを直接メンテナンスできる。これにより、異物の噛み込みの原因を根本的に除去することができる。また、清掃にあたりスライダ12を分解、再組立、再調整する必要がないため、作業時間を大幅に短縮できる。
【0036】
また、本実施例では、制御部が定期的にスライダ12を脱着式プラテン51に移動させ、エアベアリング面12aの清掃を行うため、異物のエアベアリング面12aへの付着、空隙15への噛み込みを予防できる。
【0037】
また、本実施例では、脱着式プラテン51がプラテン11に外付けされるため、プラテン11の作業エリアを狭めることがなく、また、従来の平面モータに容易に適用できる。
【0038】
なお、本実施例では、メンテナンス部18は圧縮気体を開口部51aから送り込み、エアブローによりエアベアリング面12aを清掃したが、メンテナンス部18はエアベアリング面12aから気体吸引を行うことにより清掃を行ってもよい。また、メンテナンス部18は、ブラシなどの清掃用部材をエアベアリング面12aに接触させることによりエアベアリング面12aの清掃を行ってもよい。
【0039】
また、本実施例では、メンテナンス部18はエアベアリング面12aの清掃を行うものとして記載したが、エアベアリング面12aに限らず、エア噴出穴12b、エア溝12cも併せて清掃してもよい。
【0040】
また、本実施例では、脱着機構52はエアシリンダによりプラテン11と脱着式プラテン51をクランプしたが、モータや手動によりクランプする構成としてもよい。
また、高さ調整機構53はボールネジにより脱着式プラテン51の上面高さを調整したが、脱着式プラテン51の上面高さをプラテン11に合わせることができればボールネジ以外の構成を用いてもよい。
【0041】
また、本実施例では、開口部51aをスライダ12の底面とほぼ同程度の大きさとすることができるため、エアベアリング面12aの観察用にメンテナンス部18にCCDカメラ等の撮影機器を搭載してもよい。あるいは、平面モータのユーザが開口部51aを介して直接観察したり、修理等のメンテナンスを行ってもよい。
【0042】
本実施例の平面モータは、半導体デバイスの製造に用いる露光装置、液晶表示素子やプラズマディスプレイの製造に用いる露光装置に適用可能である。また、露光装置に限らず、あらゆる平面モータを使用した装置(基板検査装置、レーザ描画装置、ICハンドラ等)に広く適用可能である。
たとえば露光装置で段取り換え作業等によりスライダ12が待ち状態の時間を利用して、エアベアリング面12aの清掃動作を行うシーケンスを制御部に組み込むことで、エアベアリング面12aを常時クリーンな状態に保ち、異物の噛み込みを予防することができる。
【0043】
なお、本実施例における脱着式プラテンは特許請求の範囲における第2のプラテンに相当し、駆動機構513は開閉機構に相当する。
【符号の説明】
【0044】
1 ベース
11 プラテン
11b 位置決めピン
12 スライダ
12a エアベアリング面
12b エア噴出穴
12c エア溝
13 ケーブルベア
14 レーザ干渉計
15 空隙
16 バーミラー
17 位置決め対象物
18 メンテナンス部
19 エアベアリング
51 脱着式プラテン
51a 開口部
51b 開口部開閉機構
511 蓋部
512 駆動機構
513 パッキン
51c ガイド穴
52 脱着機構
53 高さ調整機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアベアリングによりスライダをプラテンの上面に浮上させ、2次元方向に移動させる平面モータにおいて、
前記プラテンに上面高さを揃えて外付けされ、前記スライダの底面よりも小さな開口部と、この開口部を密封状態にふさぐ蓋部と、この蓋部を開閉する開閉機構と、前記蓋部を開いた状態において前記開口部から前記スライダのエアベアリング面を清掃するメンテナンス部とを有する第2のプラテンを備えたことを特徴とする平面モータ。
【請求項2】
前記メンテナンス部は、前記エアベアリング面に圧縮気体を吹き付けることを特徴とする請求項1に記載の平面モータ。
【請求項3】
前記メンテナンス部は、前記エアベアリング面から気体吸引を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の平面モータ。
【請求項4】
前記メンテナンス部は、前記エアベアリング面に清掃用部材を接触させることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の平面モータ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−41444(P2011−41444A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−189294(P2009−189294)
【出願日】平成21年8月18日(2009.8.18)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】