説明

建物の免震基礎構造

【課題】住宅等の軽量建物に対しても適正な振動減衰作用を発揮でき、強風時に建物が揺れることが無く、地震時に建物の共振を回避でき、且つ居住者の低周波振動障害を防止できる建物の免震基礎構造を提供する。
【解決手段】本発明に係る免震基礎構造1は、地盤2に既存グランドレベル3から掘り下げて形成された凹部4と、凹部4に複数敷き並べられ、夫々内部に砂利状物質5yが収容された砂利袋5と、砂利袋5に支持された建物6の基礎7とを備えている。地盤2が振動すると、砂利袋5内の砂利状物質5yが袋内で移動して砂利袋5の表面を引っ張る力が生じ、振動力の一部が消費されて建物6に伝わる。振動が砂利袋5を通過すると周期が短い振動に変換されるので、建物6の共振、低周波振動障害を回避できる。基礎7が砂利袋5に広面積で支持されているので、強風時でも建物6を安定して支持できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤の振動を弱めて建物に伝える免震基礎構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の免震構造として、免震ダンパー等の減衰手段を用いたものが知られている(特許文献1、2参照)。この種の免震構造は、例えば、建物の下部の地盤に近い部分とそれよりも上方の部分との間に免震ダンパー等の減衰手段を介設し、地盤が振動した際に下部から上方に向けて建物に伝わる振動をその免震ダンパー等の減衰手段のダンピング機能によって吸収するようにしている。
【0003】
また、別の建物の免震構造として、ロッキングボール等の滑り支承を用いたもの(特許文献3、4参照)が知られている。この種の免震構造は、例えば、地盤側に上部が略半球状に窪んだ受け皿を設置し、その受け皿に建物の基礎梁から下方に延出された支柱を差し入れ、支柱の下端に設けたボールベアリングで建物の荷重を受け皿に支持し、地盤が振動した際に、ボールベアリングが受け皿内を転動或いは滑動して支柱が受け皿内を移動することで、建物に伝わる振動を小さくしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−270180号公報
【特許文献2】特開2004−190424号公報
【特許文献3】特開2006−328655号公報
【特許文献4】特開2008ー280818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、免震ダンパー等の減衰手段を用いた免震構造は、適正な振動減衰効果を得るためには建物に或る程度の重量が必要であり、住宅等の軽量建物に対しては効果が期待し難いという問題がある。他方、ロッキングボール等の滑り支承を用いた免震構造は、強風時には風力の変動によっても建物が揺れてしまうため、かかる風害による揺れの制御が必要となるという問題がある。
【0006】
また、これら減衰手段や滑り支承を用いた免震構造は、地盤の振動を減衰して或いは弱めて建物に伝えるものに過ぎず、地盤の振動の周期や波長を積極的に変更して建物に伝えるものではない。このため、地盤の地質組成や地表から岩盤プレートまでの深さ等によっては、地震時における地盤の卓越周期が建物の固有周期と一致する場合も考えられ、その場合には共振が生じ、建物に大きな被害が生じてしまう。
【0007】
更に、これら減衰手段や滑り支承を用いた免震構造は、地震時の振動のみならず周辺の交通による振動(交通振動)に対してもその振動を減衰して或いは弱めて建物に伝えることができるものの、既述のように振動の周期や波長を積極的に変更して建物に伝えるものではないため、振動の周期が長い場合、その周期によっては居住者に低周波振動障害を生じさせることもある。
【0008】
以上の事情を考慮して創案された本発明の目的は、住宅等の軽量建物に対しても適正な振動減衰作用を発揮でき、強風時に建物が揺れることが無く、地震時に建物の共振を回避でき、且つ低周波振動障害を防止できる建物の免震基礎構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明に係る建物の免震基礎構造は、地盤に既存グランドレベルから掘り下げて形成された凹部と、該凹部に複数敷き並べられ、夫々内部に砂利状物質が収容された砂利袋と、該砂利袋に支持された建物の基礎とを備えている。
【0010】
前記砂利袋と前記基礎の下端との間に、地盤の振動時に前記基礎が前記砂利袋に対して水平方向に移動することを許容する滑りシートを介在してもよい。
【0011】
前記砂利状物質の好適な代表例として構造用軽量骨材を挙げることができる。
【0012】
前記砂利袋が、既存グランドレベルの下方に配置された複数の下部砂利袋と、これら下部砂利袋の一部を除いたものの上に積み重ねられて既存グランドレベルの上方に配置された上部砂利袋との二種から成り、前記基礎が、前記上部砂利袋が積み重ねられていない前記下部砂利袋に支持された基礎立上げ部と、前記上部砂利袋の上部を覆うように盤状に形成されて前記上部砂利袋に支持され前記基礎立上げ部に繋がった基礎耐圧盤部とを有し、前記滑りシートが、前記下部砂利袋と前記基礎立上げ部の下端との間、且つ前記下部砂利袋と前記上部砂利袋との間に介在されていてもよい。
【0013】
前記下部砂利袋を複数拘束するため、それら複数の下部砂利袋を収容する拘束袋を更に備えていてもよい。
【0014】
前記基礎耐圧盤部に上下を貫通して設けられ、太陽熱で暖められた空気を前記基礎耐圧盤部の上方から下方に導いて前記上部砂利袋に蓄熱するための入熱口と、前記基礎耐圧盤部に前記入熱口から離れて上下を貫通して設けられ、前記上部砂利袋に蓄熱された熱によって暖められた空気を上方の室内に供給するための出熱口とを更に備えていてもよい。
【0015】
前記上部砂利袋が通気性を有し、かかる上部砂利袋の下面に接する下面シート部と該下面シート部の縁から上方に延出された側面シート部とから成る通風ガイドシートを更に備え、該通風ガイドシートと前記基礎耐圧部との間に、前記入熱口から前記上部砂利袋を通過して前記出熱口へ向かう空気の通路となる通風通路を形成してもよい。
【0016】
前記上部砂利袋に蓄熱された熱を前記基礎耐圧盤部を介して室内に伝えるため、前記基礎耐圧盤部の上に、直接、室内の床を敷設してもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る建物の免震基礎構造によれば、次のような効果を発揮できる。
(1)地盤が振動すると砂利袋内の砂利状物質が袋内で移動し、砂利袋の表面を引っ張る力や隣接する砂利袋同士を押し付け合う力が生じる。この結果、地盤の振動力の一部が砂利袋の表面を引っ張る力や隣接する砂利袋同士を押し付け合う力に転換される。よって、地盤の振動が弱まって建物に伝わり、住宅等の軽量建物に対しても、適正な振動減衰作用を発揮できる。
(2)建物の基礎が砂利袋に支持されているので、基礎をロッキングボール等の滑り支承を用いて支持した従来の免震構造よりも安定して振らつくことなく支持できる。よって、ロッキングボール等の滑り支承を用いた免震構造のように強風時に建物が揺れることは無い。
(3)地盤の振動が砂利袋を通過して建物に伝わる際、振動の周期が大幅に小さくなって即ち波長が短くなって建物に伝わる。この結果、建物には建物の固有周期よりも大幅に小さい周期の振動が伝わることになる。よって、地震時に建物の共振を回避でき、同時に居住者の低周波振動障害を防止できる。
(4)地盤に既存グランドレベルから掘り下げて凹部を形成してそこに砂利袋を敷き並べたので、凹部を形成する際に除去された土砂が砂利袋内の砂利状物質に置き換えられ、地盤改良されている。よって、地盤が仮に軟弱地盤であったとしても地盤沈下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る建物の免震基礎構造の概略を示す説明図であり、地盤、砂利袋、基礎、滑りシート及び建物の側断面図である。
【図2】図1の部分拡大図である。
【図3】図2の上部砂利袋、下部砂利袋及び滑りシート等を模式的に表した説明図である。
【図4】地震時に地盤から建物に伝播される地震波を模式的に表した説明図である。
【図5】地震時における斜め方向の力を水平方向の力と垂直方向の力とに分力した様子を示す説明図である。
【図6】水平方向の力と垂直方向の力とが砂利袋に作用する様子を示す説明図である。
【図7】水平方向の力と垂直方向の力とが砂利袋に作用した際に、砂利袋内の砂利が袋内で移動して砂利袋の表面を引っ張る様子を示す説明図であり、(a)は砂利袋が水平方向から圧縮された状態、(b)は砂利袋が垂直方向から圧縮された状態を示す。
【図8】複数の砂利袋を拘束袋に収容したものが水平方向から圧縮されたときの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の好適実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0020】
図1、図2に示すように、本実施形態に係る建物の免震基礎構造1は、地盤2に既存グランドレベル3から掘り下げて形成された凹部4と、凹部4に複数敷き並べられ夫々内部に砂利状物質が収容された砂利袋5と、砂利袋5に支持された建物6の基礎7とを備えている。また、砂利袋5と基礎7の下端との間には、地盤2の振動時に基礎7がその下端の砂利袋5に対して水平方向に移動することを許容する滑りシート8が介在されている。
【0021】
凹部4は、地盤2を表層から良好な地盤面まで所定深さ(例えば20〜50cm程度)根切りすることで形成される。凹部4にはそこから除去された土砂に代わって砂利袋5が敷き並べられるので、凹部4を形成する際に除去された土砂は、地盤改良のために除去された土砂と考えることもできる。ここで、土砂入れ替え層の厚さ、即ち凹部4の深さは、地盤2から砂利袋5を介して建物6に伝わる震動の周期が、後述するように建物6の固有周期とマッチして共振しないよう、十分に小さくなる深さに設定される。かかる深さは、建物6の載荷量や地盤2の地質によって変動するため、載荷量や地質に応じて検討を要するが、概ね30〜40cmであれば十分である。
【0022】
地盤2が地表面に岩盤が露呈しているようなものの場合、その地盤2の揺れ方の特性を代表する卓越周期は概ね0.1秒(約10Hz)であり、関東ローム層のような火山灰堆積大地の地盤2の場合、卓越周期は概ね0.4秒(約2.5Hz)であり、海岸を埋め立てたような地盤2や田や沼を埋め立てた地盤2の場合、卓越周期は概ね1.0秒〜0.8秒(約1Hz〜1.25Hz)である。他方、建物6については、日本の木造建築物の固有周期は、旧日本式木造住宅の場合に概ね0.4秒(約2.5Hz)であり、近年建築される木造住宅の場合に概ね0.3秒〜0.35秒(約3.3Hz〜2.9Hz)である。このように、地盤2の卓越周期と建物6の固有周期とが0.1秒〜1.0秒の範囲に収まっていて極めて近いので、仮に砂利袋5が存在しないとしたなら、地盤2が振動した際に建物6が共振する可能性がある。
【0023】
そこで、本実施形態では、地盤2に形成した凹部4に砂利袋5を敷設し、砂利袋5に建物6の基礎7を支持させることで、地盤2と基礎7との間に、砂利袋5を介在させている。砂利袋5は、後述するように、地盤2から建物6に伝わる振動の周期を大幅に短くする機能を発揮する。
【0024】
図2に示すように、砂利袋5は、布、不織布、細目のネット等からなる袋体5xと、袋体5x内に収容された砂利状物質5yとからなる。ここでの砂利状物質5yの概念には、粒径数十ミリ程度の礫の他、粒径がミリ単位の砂、或いは砂と礫が混合したものも含まれ、比較的軽い砂や礫が好ましい。また、砂利状物質5yには、構造用軽量骨材を用いることが好ましい。構造用軽量骨材には、例えば、日本メサライト工業株式会社が販売しているメサライト(登録商標、MESALITE:Mitsui Expanded Shale Light-Weight Aggregate)という人工軽量骨材が用いられる。
【0025】
砂利状物質5yが砂の場合、その砂の固有周期は極めて小さく0.025秒(約40Hz)であり、粒径35mm程度の礫の場合でも、その固有周期は0.125秒〜0.077秒(約8Hz〜13Hz)である。これら砂や礫、構造用軽量骨材等の砂利状物質5yが収容された砂利袋5の上に建物6の基礎7を支持させることで、建物6を実質的に支持する基盤が砂利袋5であると見なすことができ、砂利袋5内の砂利状物質5yの固有周期と建物6の固有周期とは大幅に相違するため、共振を回避できる。
【0026】
すなわち、図4に示すように、地盤2の振動が砂利袋5を通過して建物6に伝わる際、振動の周期が大幅に小さくなって即ち波長が短くなって建物6に伝わることになる。実際の地震時には、震源方向から水平に伝播して建物6に到達する地震波Aのみならず、斜め下方から建物6に伝播する地震波Bや、建物6の真下の岩盤Gから垂直に上昇して建物6に伝播する地震波Cや、一度岩盤Gに当たって反射した後に建物6に伝播する地震波D等が、複雑に干渉し合いながら建物6に伝播されるところ、各方向の地震波は、砂利袋5を通過することで、建物6の固有周期よりも大幅に小さい周期となって建物6に伝わる。これにより、建物6が木造住宅である場合のみならず、建物6がコンクリート製住宅であっても、共振を回避できる。また、建物6に伝わる振動が高周波になるので、居住者の低周波振動障害をも防止できる。
【0027】
図1、図2に示すように、凹部4内に敷設される砂利袋5には、既存グランドレベル3の下方に配置された複数の下部砂利袋5aと、これら下部砂利袋5aの一部を除いたものの上に積み重ねられて既存グランドレベル3の上方に配置された上部砂利袋5bとの二種が存在する。詳しくは、下部砂利袋5aは、凹部4の底一面に平面状に敷き並べられ、上下二段に積み重ねられている。他方、上部砂利袋5bは、平面状に敷き並べられた複数の下部砂利袋5aの内、縁の部分の下部砂利袋5aを除いた下部砂利袋5aの上に支持されていて、上下二段に積み重ねられている。なお、下部砂利袋5a及び上部砂利袋5bは、少なくとも一方を一段としても或いは三段以上としてもよい。
【0028】
下部砂利袋5aは、図2、図3に示すように、拘束袋9に収容されている。なお、図3は模式図であり、図2とは拘束袋9内に収容される下部砂利袋5aの数等が異なっている。
【0029】
下部砂利袋5aを拘束袋9に収容する手順を述べる。
【0030】
先ず、凹部4に、拘束袋9の底部及び側部を構成する底部側部シート9aを敷き、その上に下部砂利袋5aを一段敷き並べ、隣接する袋同士の隙間に袋5a内のものよりも小さな砂利状粒子(礫や砂や構造用軽量骨材)を充填し、天圧して締め固める。それらの上に同様にして二段目の下部砂利袋5aを敷き並べ、隣接する袋同士の隙間に小さな砂利状粒子を充填し、天圧して締め固める。
【0031】
ここで、二段目の下部砂利袋5aの上面が既存グランドレベル3の高さに一致するように、下部砂利袋5aの袋体5xの寸法及びそれに充填する砂利状物質5yの量を調整しておく。二段目の下部砂利袋5aの上面に、拘束袋9の上部を構成する上部シート9bを掛け、その上部シート9bを底部側部シート9aと結ぶ又は縛る等して緊決する。これにより、上部シート9bと底部側部シート9aとが拘束袋9となる。
【0032】
拘束袋9は、透水性を有するもの(例えば布、不織布、メッシュ等)が好ましい。さもなければ雨水が拘束袋9の内部に浸入した場合に拘束袋9内に水が溜まり、基礎7の下方に湿気の元となる水溜まりが存在することになってしまうからである。なお、拘束袋9は、図2に示すように全ての下部砂利袋5aを単独の拘束袋9で収容するものに限られず、複数の下部砂利袋5aを幾つかずつ、同様の手順で別々の収容袋9に収容するようにしてもよい(図3参照)。
【0033】
図2、図3に示すように、拘束袋9の上部シート9bの上には、滑りシート8が既存グランドレベル3に合わせて載せられる。滑りシート8は、地震の横揺れが大きい場合に、その上を基礎7が水平方向に滑ることで振動を吸収する機能を発揮する。滑りシート8は、基礎7が滑り易く且つ基礎7が滑っても破損し難い材質、例えば硬質プラスチックシート等が用いられる。滑りシート8のサイズは、凹部4よりも大きく設定されており、滑りシート8の縁の部分が凹部4からはみ出して既存グランドレベル3の上に載置されている。これにより、地震時に滑りシート8上を滑る基礎7は、二段目の下部砂利袋5aの上面が既存グランドレベル3の高さに一致していることとも相俟って、凹部4の内方のみならず、凹部4の外にもスライドできる。よって、大地震時の大きな横揺れも確実に吸収できる。
【0034】
図2に示すように、基礎7は、上部砂利袋5bが積み重ねられていない下部砂利袋5a(凹部4の縁に沿って配置された下部砂利袋5a)に支持された基礎立上げ部7aと、上部砂利袋5bの上部を覆うように盤状に形成されて上部砂利袋5bに支持された基礎耐圧盤部7bとを有する。基礎耐圧盤部7bと基礎立上げ部7aとは、繋がっており、所謂ベタ基礎を構成する。基礎立上げ部7aは平面視で枠状に形成されており、その内方に上部砂利袋5bが略隙間無く収容されている。滑りシート8は、基礎立上げ部7aの下端と下部砂利袋5aとの間、且つ上部砂利袋5bと下部砂利袋5aとの間に介在されている。よって、基礎7が滑りシート8上をスライドする際には、基礎7と一体的に上部砂利袋5bが滑りシート8上を滑り、上部砂利袋5bが下部砂利袋5aに対して水平方向に移動する。
【0035】
図1に示すように、基礎耐圧盤部7bには、太陽熱で暖められた空気を基礎耐圧盤部7bの上方から下方に導いて上部砂利袋5bに蓄熱するための入熱口10が、上下を貫通して設けられている。また、図1、図2に示すように、基礎耐圧盤部7bには、上部砂利袋5bに蓄熱された熱によって暖められた空気を上方の室内に供給するための出熱口11が、入熱口10から離れて上下を貫通して設けられている。図1においては、入熱口10を基礎耐圧盤部7bの略中央(中程)に一つ配設し、出熱口11を基礎耐圧盤部7bの端(基礎立上げ部7aの脇)に二つ配設したものを示したが、これに限られることはなく、入熱口10を二つ以上配設してもよく、出熱口11を一階の各部屋毎に配設してもよい。
【0036】
入熱口10に太陽熱で暖められた空気を導くシステムについて述べる。
【0037】
図1に示すように、建物6の屋根裏には、太陽熱(太陽熱には、直射日光から得られるものだけではなく、例えば、直射日光が太陽電池等を透過した後の日光から得られる熱も含まれる)で暖められた空気を貯蔵するための暖気貯蔵室12が形成されている。暖気貯蔵室12と入熱口10とは、一階の床から二階の床を貫通して二階の天井まで鉛直方向に形成されたダクト13で接続されている。ダクト13内には、暖気貯蔵室12の空気を入熱口10に送るためのファン14が設けられている。ファン14は送風方向を逆にできるものであってもよい。また、二階の室内の天井には、室内の空気を暖気貯蔵室12に取り込むための開口15が形成されている。
【0038】
図1、図2に示すように、建物6の壁16には、上下方向に沿った壁内空気通路17が形成されている。壁16は、基礎立上げ部7aの上に設置された土台(基礎梁)18に支持された内壁16aと、その外側に配設された断熱材16bと、その外側に壁内空気通路17を形成する隙間を隔てて配設された外壁16cとを備えている。すなわち、壁内空気通路17は、外壁16cと断熱材16bとの間に形成されている。壁内空気通路17の下端は、基礎立上げ部7aの側方にて外部に開口され、壁内空気通路17の上端は、軒裏に形成された中間暖気貯蔵室19に繋がっている。また、軒天井には、外部の空気を中間暖気貯蔵室19に取り込むための開口20が形成されている。軒裏の中間暖気貯蔵室19と屋根裏の暖気貯蔵室12とは、屋根21の内側に形成された屋根内空気通路22で接続されている。
【0039】
以上の構成によれば、ファン14を駆動すると、外部の空気が、壁内空気通路17の下端の開口から吸い込まれ、壁内空気通路17を上昇する際、太陽光によって暖められた外壁16cの熱を受けて暖められ、暖められる前よりも比重が小さくなって上昇力が強まり、軒裏の中間暖気貯蔵室19に至る。その空気は、軒裏に形成された開口20から導かれた空気と共に屋根内空気通路22を通って上昇し、その際、太陽光によって暖められた屋根22からの熱を受けて暖められ、屋根裏の暖気貯蔵室12に至る。その空気は、二階の天井に形成された開口15から導かれた空気と共にダクト13に吸い込まれ、ファン14によって下方に押し出され、入熱口10を通って基礎耐圧盤部7bの下方に至る。この空気(暖気)により上部砂利袋5bが暖められ、砂利状物質5yに蓄熱される。
【0040】
上部砂利袋5bの砂利状物質5yに蓄熱された熱は、基礎耐圧盤部7bの下方の空気を暖める。暖められた空気は、ファン14により生成された空気の流れ(慣性力)によって、出熱口11に向けて押し流され、出熱口11を通って基礎耐圧盤部7bの上方の室内に供給される。これにより室内の暖房が達成される。ここで、図1に示すように、基礎耐圧盤部7bの上に、直接、一階の室内の床23を敷設すれば、上部砂利袋5bに蓄熱された熱を、出熱口11からのみならず、基礎耐圧盤部7b及び床23を介して、室内に伝えることができる。
【0041】
上部砂利袋5bの砂利状物質5yに蓄熱された熱を効率よく利用するためには、上部砂利袋5bの袋体5xが通気性を有する材質又は構造(例えば布、不織布、細目のネット等)となっていることが好ましい。また、図2、図3に示すように、かかる上部砂利袋5bの下に通風ガイドシート24を敷設し、通風ガイドシート24と基礎耐圧部7bとの間に、入熱口10から上部砂利袋5bを通過して出熱口11へ向かう空気の通路となる通風通路25(図1参照)を形成してもよい。この通風通路25により、入熱口10から導入された空気を的確に上部砂利袋5bを通過させて出熱口11に導くことができ、上部砂利袋5bに蓄熱された熱を効率よく室内の暖房に利用できる。
【0042】
図2、図3に示すように、通風ガイドシート24は、上部砂利袋5bの下面に接する下面シート部24aと、下面シート部24aの縁から基礎立上げ部7aに沿って上方に延出された側面シート部24bとから成り、風を通さないビニールやガラス繊維等の材質から成形されている。これにより、通風ガイドシート24の下面シート部24aに沿って水平方向に流れた空気は、側面シート部24bによって上方に転向されて基礎立上げ部7aに沿って上昇し、基礎立上げ部7aの脇に配設された出熱口11に案内される。
【0043】
通風ガイドシート24は、上述のように通風通路25の一部を構成すると共に、防湿シート及び防蟻シートを兼ねる。防蟻性能を高める場合には、ガラス繊維からなるシートに硼酸を含浸させたものを通風ガイドシート24として用いる。また、通風ガイドシート24は、側面シート部24bを上部砂利袋5bの側部に固定することで、複数の上部砂利袋5bを拘束する機能も発揮する。
【0044】
図2に示すように、通風ガイドシート(下面シート部24aと側面シート部24bとが一体となったもの)24は、上述した滑りシート8の上に載せられる。そのガイドシート24の上に、上部砂利袋5bを一段敷き並べ、隣接する袋同士の隙間に袋5b内のものよりも小さな砂利状粒子(礫や砂や構造用軽量骨材)を充填し、天圧して締め固める。その上に同様にして二段目の上部砂利袋5bを敷き並べ、隣接する袋同士の隙間に小さな砂利状粒子を充填し、天圧して締め固める。そして、通風ガイドシート24の側面シート部24bを上方に向け、上部砂利袋5bの側部に固定する。
【0045】
その後、滑りシート8の上に、コンクリート用の堰板(図示せず)を、上部砂利袋を囲繞するようにして平面視で枠状に配設する。堰板の内方に基礎用の鉄筋(図示せず)を配筋する。鉄筋は、基礎立上げ部7aとなる部分と、基礎耐圧盤部7bとなる部分とに夫々配筋される。配筋後、堰板の内方にコンクリートを打設し、基礎立上げ部7aと基礎耐圧盤部7bとから成る基礎7を構築する。こうして構築された基礎7は、基礎立上げ部7aの内方に上部砂利袋5bが隙間無く収容され、基礎耐圧盤7bと上部砂利袋5bとが密着し、基礎耐圧盤部7bの荷重が上部砂利袋5bに支持され、基礎立上げ部7aの荷重が下部砂利袋5aに支持されることになる。
【0046】
最後に、基礎立上げ部7aの外側に、滑りシート8を覆うように盛り土をし、新たなグランドレベル(新グランドレベル)26とする。こうして施工された免震基礎構造1の上に、上述した建物6が建築される。
【0047】
本実施形態に係る免震基礎構造1の作用を述べる。
【0048】
地盤2が振動すると砂利袋(下部砂利袋5a、上部砂利袋5b)5の中の砂利状物質5yが夫々の袋体5x内で移動し、袋体5xの表面を引っ張る力や隣接する砂利袋5同士を押し付け合う力が生じる。この結果、地盤2の振動力の一部が砂利袋5の袋体5xの表面(繊維)を引っ張る力や隣接する砂利袋5同士を押し付け合う力に転換され、地盤2の振動が弱まって建物6に伝わる。よって、この免震基礎構造1は、建物6の重量の軽重に拘わらず、常に的確な振動減衰作用を発揮し、住宅等の軽量建物に対しても、適正な振動減衰作用を発揮する。
【0049】
例えば、図5に示すように、地盤2を斜め上方に進んで砂利袋5に伝播する地震波の力Fは、水平方向のX方向成分xと垂直方向のY方向成分yとに分解して考えることができる。図6は、砂利袋5に左右からX方向成分xが加わり、砂利袋5に下方から加わったY方向成分yが建物6の荷重Wと釣り合うように作用している様子を表す。
【0050】
図7(a)に示すように、砂利袋5に左右からX方向成分xが加わって、砂利袋5が水平方向から圧縮されると、袋体5x内の砂利状物質5yが袋体5x内で移動して袋体5xの表面が引っ張られる。また、図7(b)に示すように、砂利袋5に下方からY方向成分yが、上方から建物6の荷重Wが加わって、砂利袋5が上下方向から圧縮されても、袋体5x内の砂利状物質5yが袋体5x内で移動して袋体5xの表面が引っ張られる。このように、地盤2の振動力が砂利袋5の砂利状物質5yを移動させる力と袋体5xの表面を引っ張る力とに消費されるので、建物6に伝わる振動が小さくなる。
【0051】
図8は、複数の砂利袋5を収容する拘束袋9の作用を示す。図7(a)および図7(b)を用いて説明したように個々の砂利袋5の袋体5xが変形すると、各袋体5xの変形によって、それらを収容する拘束袋9の表面(繊維)が引っ張られる。よって、地盤2の振動力は、個々の砂利袋5の袋体5xの表面を引っ張る力に消費されるのみならず、それら砂利袋5を収容する拘束袋9の表面を引っ張る力にも消費されることになり、建物6に伝わる力が一層弱くなる。
【0052】
図8に示すように、拘束袋9に左右から地震波のX方向成分xが加わると、それらX方向成分xは、砂利袋5の袋体5xの表面を引っ張る力と拘束袋9の表面を引っ張る力とに消費され、Y方向上方の力y1とY方向下方の力y2とが生じる。そして、Y方向上方の力y1が、建物6の荷重及び地震時のめり込み力の合力Y1と相殺され、Y方向下方の力y2が、地震波の突き上げ力及びY方向成分の合力Y2と相殺される。この結果、Y方向のバランスが保たれる。
【0053】
また、図1、図2に示すように、この免震基礎構造1は、基礎立上げ部7aの下端が滑りシート8の上に載置されていることから、地震の横揺れが大きい場合には、基礎7が滑りシート8上を水平方向に滑り、横揺れが建物6に伝わり難くなる。すなわち、巨大地震時における地盤2の横揺れは、基礎7が滑りシート8上を水平方向に滑ることで吸収され、極端に弱まって建物6に伝わる。この結果、巨大地震時の建物6の倒壊を防止できる。
【0054】
加えて、この免震基礎構造1は、建物6の基礎7が砂利袋5に広面積で支持されている。詳しくは、基礎立上げ部7aの下端面が下部砂利袋5aに支持され、基礎耐圧盤部7bの下面が全面的に上部砂利袋5bに支持されている。よって、ロッキングボール等の滑り支承を用いた従来の免震構造よりも安定して基礎7を支持することができ、ロッキングボール等の滑り支承を用いた免震構造のように強風時に建物が揺れることは無い。
【0055】
更には、図4を用いて説明したように、地盤2の振動が砂利袋5を通過して建物6に伝わる際、振動の周期が大幅に小さくなって即ち波長が短くなって建物6に伝わる。この結果、地盤2の卓越周期に拘わらず、建物6には建物6の固有周期よりも大幅に小さい周期の振動が伝わることになる。よって、地震時に建物6の共振を回避でき、同時に居住者の低周波振動障害をも防止できる。
【0056】
また、地盤2に既存グランドレベル3から掘り下げて凹部4を形成してそこに砂利袋5(下部砂利袋5a、上部砂利袋5b)を敷き並べたので、凹部4を形成する際に除去された土砂が砂利袋5内の砂利状物質5yに置き換えられ、地盤改良されている。そして、その上に基礎7の基礎耐圧盤部7bが支持されている。よって、地盤2が仮に軟弱地盤であったとしても、基礎7の沈下(地盤沈下)を抑えることができる。
【0057】
本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、拘束袋9、通風ガイドシート24、入熱口10、出熱口11及び滑りシート8は、適宜、何れか一つ又は複数について省略できる。
【符号の説明】
【0058】
1 免震基礎構造
2 地盤
3 既存グランドレベル
4 凹部
5 砂利袋
5a 下部砂利袋
5b 上部砂利袋
5x 袋体
5y 砂利状物質
6 建物
7 基礎
7a 基礎立上げ部
7b 基礎耐圧盤部
8 滑りシート
9 拘束袋
10 入熱口
11 出熱口
23 床
24 通風ガイドシート
24a 下面シート部
24b 側面シート部
25 通風通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に既存グランドレベルから掘り下げて形成された凹部と、
該凹部に複数敷き並べられ、夫々内部に砂利状物質が収容された砂利袋と、
該砂利袋に支持された建物の基礎と、
を備えたことを特徴とする建物の免震基礎構造。
【請求項2】
前記砂利袋と前記基礎の下端との間に、地盤の振動時に前記基礎が前記砂利袋に対して水平方向に移動することを許容する滑りシートを介在した、
請求項1に記載の建物の免震基礎構造。
【請求項3】
前記砂利状物質に、構造用軽量骨材を用いた、
請求項1又は2に記載の建物の免震基礎構造。
【請求項4】
前記砂利袋が、既存グランドレベルの下方に配置された複数の下部砂利袋と、これら下部砂利袋の一部を除いたものの上に積み重ねられて既存グランドレベルの上方に配置された上部砂利袋との二種から成り、
前記基礎が、前記上部砂利袋が積み重ねられていない前記下部砂利袋に支持された基礎立上げ部と、前記上部砂利袋の上部を覆うように盤状に形成されて前記上部砂利袋に支持され前記基礎立上げ部に繋がった基礎耐圧盤部とを有し、
前記滑りシートが、前記下部砂利袋と前記基礎立上げ部の下端との間、且つ前記下部砂利袋と前記上部砂利袋との間に介在された、
請求項2又は3に記載の建物の免震基礎構造。
【請求項5】
前記下部砂利袋を複数拘束するため、それら複数の下部砂利袋を収容する拘束袋を更に備えた、
請求項4に記載の建物の免震基礎構造。
【請求項6】
前記基礎耐圧盤部に上下を貫通して設けられ、太陽熱で暖められた空気を前記基礎耐圧盤部の上方から下方に導いて前記上部砂利袋に蓄熱するための入熱口と、
前記基礎耐圧盤部に前記入熱口から離れて上下を貫通して設けられ、前記上部砂利袋に蓄熱された熱によって暖められた空気を上方の室内に供給するための出熱口とを更に備えた、
請求項4又は5に記載の建物の免震基礎構造。
【請求項7】
前記上部砂利袋が通気性を有し、
かかる上部砂利袋の下面に接する下面シート部と該下面シート部の縁から上方に延出された側面シート部とから成る通風ガイドシートを更に備え、
該通風ガイドシートと前記基礎耐圧部との間に、前記入熱口から前記上部砂利袋を通過して前記出熱口へ向かう空気の通路となる通風通路を形成した、
請求項6に記載の建物の免震基礎構造。
【請求項8】
前記上部砂利袋に蓄熱された熱を前記基礎耐圧盤部を介して室内に伝えるため、前記基礎耐圧盤部の上に、直接、室内の床を敷設した、
請求項6又は7に記載の建物の免震基礎構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−157775(P2011−157775A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21741(P2010−21741)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(510031604)
【Fターム(参考)】