説明

建物の施工方法

【課題】高層建物を充分に短工期かつ低コストで施工する。
【解決手段】低層部の柱を充填被覆形鋼管コンクリート造とし、低層部の柱鉄骨および梁鉄骨の建て方工程と柱鉄骨内へのコンクリート充填工程とを低層部の全層にわたって先行実施した後、低層部の柱鉄骨の外側への鉄筋コンクリートによる被覆の施工と、高層部の鉄筋コンクリート造の躯体の施工を並行して実施する。低層部の最上層の躯体を柱および梁ともに鉄骨鉄筋コンクリート造としてその躯体の施工を高層部の鉄筋コンクリート造の躯体の施工に先行して実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建物の施工方法に係わり、特に低層部と高層部とで構造が異なる高層建物の施工を短工期かつ低コストで行うための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物を施工する際にはその工期を可及的に短縮したいという要請があるが、通常のように建物を低層部から高層物に向けて順次立ち上げていくという手法では工期短縮にも自ずと限界があることから、たとえば特許文献1や特許文献2に示されるように工期短縮を可能とするための様々な手法が提案されている。
【特許文献1】特開平9−302936号公報
【特許文献2】特開平11−84050号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、高層建物においては低層部と高層部とで用途が異なる場合も多く、たとえば高層集合住宅建物においては低層部を店舗や事務所とすることも一般的である。そのような場合、低層部と高層部の構造もそれぞれの用途に適合させて、たとえば店舗としての低層部は鉄骨造や鉄骨鉄筋コンクリート造とし、集合住宅としての高層部は鉄筋コンクリート造とするといったように、全体として複合的な構造とされることも一般的である。
そして、そのような複合用途、複合構造の建物も短工期かつ低コストで施工したいという要請があるが、充分な短工期と充分な低コストとを両立し得るような有効適切な手法は確立されていない。
つまり、工期短縮を目的とする場合には鉄骨造のような乾式工法が好適であるが、その場合はコスト的には不利であるばかりでなく用途に応じた要求性能を確保できない場合があるし、逆にコストや性能の点では鉄筋コンクリート造が有利ではあっても工期の点では不利である、というように裏腹の関係にある。
【0004】
上記事情に鑑み、本発明はこの種の建物を充分に短工期かつ低コストで施工することのできる有効適切な施工方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、低層部の柱の構造が鉄骨鉄筋コンクリート造とされるとともに梁の構造が鉄骨造とされ、高層部の柱および梁の構造が鉄筋コンクリート造とされる複合構造の建物の施工方法であって、低層部における鉄骨鉄筋コンクリート造の柱の構造を、柱鉄骨としての鋼管内にコンクリートを充填しかつ該鋼管を鉄筋コンクリートにより被覆してなる充填被覆形鋼管コンクリート造とし、低層部の柱鉄骨および梁鉄骨の建て方工程と、柱鉄骨内へのコンクリート充填工程とを低層部の全層にわたって先行実施した後、低層部の柱鉄骨の外側への鉄筋コンクリートによる被覆の施工を低層部の最下層から上層部に向かって順次行う工程と、高層部の鉄筋コンクリート造の躯体の施工を高層部の最下層から上層部に向かって順次行う工程とを並行して実施することにより、低層部および高層部の躯体を並行して施工することを特徴とする。
本発明においては、低層部と高層部との境界層となる低層部の最上層の躯体を柱および梁ともに鉄骨鉄筋コンクリート造とし、該境界層の躯体の施工を高層部の鉄筋コンクリート造の躯体の施工に先行して実施するようにしても良い。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、低層部の構造を工期的に有利な充填被覆形鋼管コンクリート造とし、高層部の構造としてコスト的および性能的に有利な鉄筋コンクリート造とし、それら異種の構造を合理的に組み合わせたものであって、低層部の柱鉄骨である鋼管の内部へのコンクリートを充填した時点で高層部の躯体の施工に早期に着手し、それ以降は低層部の躯体の残部の施工と高層部の躯体の施工とを並行して行うことにより、充分なコスト削減と充分な工期短縮の双方を両立し得るものであり、この種の複合用途、複合構造の建物の施工方法として極めて有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1は本発明の一実施形態である施工方法の工程を示すものであり、図2〜図4はその要部の詳細を示す図である。
本実施形態はたとえば地上20階建て程度ないしそれ以上の高層建物への適用例であって、その建物の用途は9階までの低層部が店舗、10階以上の高層部が集合住宅である複合用途とされ、かつそれらの用途に応じて低層部(9階の立ち上がり=10階の床梁まで)の構造が鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)を主体とする構造とされ、高層部(10階の立ち上がりから)の構造が鉄筋コンクリート造(RC造)とされた複合構造によるものである。
本実施形態では、そのような複合用途、複合構造の建物を充分に短工期かつ低コストで施工するべく、具体的には以下のような構造と施工方法を採用している。
【0008】
すなわち、完成後の躯体の一部を図4に示すように、集合住宅として使用する高層部の構造は通常の現場施工主体のRC造、あるいはプレキャストコンクリート部材を使用したRC造として、各層の柱および梁はいずれもRC柱1とRC梁2とにより構成するものである。
一方、店舗として使用する低層部の構造は、基本的にはSRC造ではあるものの、各層の梁はH形鋼等の鉄骨造(S造)によるS梁3とし、柱は充填被覆形鋼管コンクリート造によるSRC柱4とする。このSRC柱4は図4(b)に示すように柱鉄骨としての角形断面の鋼管4aの内部にコンクリートを充填するとともに、鋼管4aを鉄筋コンクリートにより被覆(RC被覆)した構造のものである。
また、低層部の最上階(本例では9階)は高層部の境界層であるので、そこでの構造は低層部の他の層(1階〜8階)とは若干異なり、図4(c)に示すように9階のSRC柱4は柱鉄骨として鋼管4aとクロスH形鋼4bとを接合したものとしており、かつこの階の梁(10階の床梁)はH形鋼を鉄筋コンクリートで被覆した通常のSRC梁5としている。
【0009】
上記構造の建物を施工するには、まず図1(a)に示すように低層部の鉄骨建て方を行う。それには、通常のようにタワークレーン6を用いて柱鉄骨としての鋼管4aを立設していきつつ、柱鉄骨間に各層のS梁3を架設していき、かつ鋼管4a内にはコンクリートを充填していく。なお、上述のように低層部の最上階(9階)にはクロスH形鋼4bを溶接しておき、図2に示すようにその上部には後工程において施工する10階のRC柱1を接合するために同断面のクロスH形鋼4bを予め溶接しておく。
【0010】
鉄骨建て方を低層部の全階(1階〜9階)にわたって行い、9階途中までの柱鉄骨としての鋼管4aの内部全体にコンクリートを充填した後にはその外側にRC被覆を施工してSRC柱4を完成させるのであるが、そのRC被覆工程は単に低層部の全階に対して順次行うのではなく、まず図1(b)に示すように低層部の最下階と最上階(つまり1階と9階)に対して並行作業により行う。
すなわち、1階の柱鉄骨である鋼管4aの外側への配筋、型枠組み立て、コンクリート打設によるRC被覆を行って1階のSRC柱4を完成させるとともに、それとの並行作業によって9階の柱鉄骨である鋼管4aおよびクロスH形鋼4b並びにS梁3にも同様にRC被覆を行って、9階のSRC柱4および10階の床梁としてのSRC梁5を1階とともに先行施工する。その際、図3に示すように9階のスラブ8も同時に施工し、また後工程において施工する10階のRC柱1を接合するための柱主筋9を上記のクロスH形鋼4bとともに10階の床上に突出させておくと良い。
【0011】
以上により、低層部の最下階と最上階(1階と9階)の柱が頑強なSRC柱4として先行施工され、これによりそれらの間の中間階(2〜8階)における柱は未だRC被覆のなされていない半完成状態ではあるものの、その時点で高層部の躯体を先行施工しても施工荷重を支持するに充分な強度を支障なく確保できるものとなる。
そこで、図1(c)に示すように低層部の柱に対するRC被覆工程を2階から順次上層階に向かって実施していってSRC柱4を完成させていきつつ、それとの並行作業によって高層部の躯体であるRC柱1およびRC梁2を10階から上層階に向かって順次施工していく。その際、さらに工期短縮のためにはRC柱1およびRC梁2の施工をプレキャストコンクリート部材を用いて行うことが好ましい。
【0012】
そのようにして低層部のSRC柱4の施工と高層部のRC柱1とRC梁2の施工とを並行して行い、図1(d)および図4に示すように8階のSRC柱4を完成させてそれを既に先行施工されている9階のSRC柱4に接合すれば低層部の躯体の施工が全て完了する。
その時点までに高層部の施工が最上階まで完了していれば建物全体の躯体の施工は完了であるが、高層部の躯体の施工が残っていればそのまま高層部での施工を継続していけば良い。
【0013】
以上の工法によれば、低層部の躯体の一部を施工した時点で高層部の躯体の施工に早期に着手して、それ以降は低層部の躯体の残部の施工と高層部の躯体の施工とを並行して行うことにより、低層部の躯体を全て完成させてから改めて高層部の躯体の施工に移行する通常の施工法に比べて工期短縮を充分に図ることができる。
勿論、このような工法が可能であるためには、早期に着手する高層部の施工時荷重を半完成状態の低層部の躯体全体で安定に支持可能であることが大前提であるが、本実施形態では低層部のSRC柱4の構造を充填被覆形鋼管コンクリート造として、その柱鉄骨である鋼管4a内にコンクリートを充填してから高層部の躯体施工に着手するので、鋼管4aの外側へのRC被覆を行わずとも高層部の施工時荷重を支持するに充分な必要最小限の強度を確保することができる。
換言すれば、本工法は低層部のSRC柱4を充填被覆形鋼管コンクリート造とすることが大前提であり、かつその柱鉄骨としての鋼管4a内へのコンクリートを充填することを条件として、高層部の躯体の先行施工すなわち低層部の躯体との並行施工がはじめて可能になったものであるといえる。
【0014】
なお、単に工期短縮のみを実現すれば良い場合には、低層部の躯体を充填被覆形鋼管コンクリート造とするまでもなく、単なる純鉄骨造や、あるいは鉄筋コンクリートの被覆を必要としない単なる充填形鋼管コンクリート造(いわゆるCFT構造)とすることで充分であるが、その場合においては低層部の柱の所要断面がいたずらに大きくなり、特に鉄骨所要量が格段に増大することによる多大なコスト増が不可避であり、コスト的な制約がある場合には現実的ではない。
同様に、高層部の躯体も現場施工中心のRC造に代えてS造とすれば工期短縮は図ることができるものの、その場合もコスト増が不可避であるばかりでなく、集合住宅に要求される遮音性や居住性といった性能を確保する点でも不利であり、やはり現実的ではない。
それに対して、本工法によれば、低層部と高層部の構造として充填被覆形鋼管コンクリート造とRC造との組み合わせを採用して双方の躯体の施工を一部ラップさせて行うことにより、それぞれの用途に適合した合理的な構造形式を採用しつつ、充分なコスト削減と充分な工期短縮の双方を両立し得るものであり、この種の複合用途、複合構造の建物の施工方法として極めて有効である。
【0015】
以上で本発明の一実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものでは勿論なく、細部の構造や具体的な工程については、施工するべき建物の規模や用途、形態その他の諸条件に応じて適宜の設計的変更が可能であることは当然である。
【0016】
たとえば、上記実施形態では9階までを低層部とし10階以上を高層部としたが、低層部と高層部との区分は建物全体の計画に応じて任意の階で行えば良い。
また、上記実施形態では、高層部の躯体施工に先立って低層部の最上階(上記では9階)の柱に対するRC被覆を先行するようにし、またその階のみは柱鉄骨の一部にクロスH形鋼4bを使用するとともに梁もSRC梁5としたが、要は低層部の半完成状態の躯体によって高層部の施工時荷重を安定に支持することができれば良いのであって、その限りにおいては必ずしも上記実施形態のようにすることに限らず、たとえば図5〜図8に示すようなより単純化した工程とすることも考えられる。
【0017】
図5〜図8は上記実施形態を基本としつつ、より単純化した基本的な工程による変形例を示すものである。
これは、図5(a)に示すように低層部(1階〜9階)の鉄骨建て方を完了した後、(b)〜(d)に示すように低層部の柱に対するRC被覆を1階から順次行っていくとともに、それに並行して高層部の躯体施工を10階から順次行っていき、低層部の最上階(9階)に対するRC被覆は最後に行うようにしたものである。
また、本例では図6〜図8に示すように、低層部の最上階(9階)のSRC柱4も他の階と同様に鋼管4aを使用してその内部には鉄骨建て方時にコンクリートを充填してしまい、さらに梁も他の階と同様のS梁3としているが、それによっても高層部の施工時荷重を支持するに充分な強度を確保し得るものとなっている。
また、先の実施形態においては高層部の最下階(10階)のRC柱1を低層部の最上階(9階)のSRC柱4に接合するためにクロスH形鋼4bを使用し、本例においてはそれに代えて接合鋼管10を使用しているが、そのようなクロスH形鋼4bや接合鋼管10は必須ではなく、要は低層部と高層部の柱どうしを構造的に一体化し得る状態で接合すれば良いのであって、その限りにおいて適宜の接合構造が採用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態である施工方法の工程を示す図である。
【図2】同、要部(図1(a)におけるII部)の詳細図である。
【図3】同、要部(図1(b)におけるIII部)の詳細図である。
【図4】同、要部(図1(d)におけるIV部)の詳細図である。
【図5】同、変形例の工程を示す図である。
【図6】同、要部(図5(a)におけるVI部)の詳細図である。
【図7】同、要部(図5(b)におけるVII部)の詳細図である。
【図8】同、要部(図5(d)におけるVIII部)の詳細図である。
【符号の説明】
【0019】
鉄筋コンクリート柱(RC柱)鉄筋コンクリート梁(RC梁)鉄骨梁(S梁)鉄骨鉄筋コンクリート柱(SRC柱) 4a 鋼管(柱鉄骨)
4b クロスH形鋼(柱鉄骨)
鉄骨鉄筋コンクリート梁(SRC梁)タワークレーンスラブ柱主筋接合鋼管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低層部の柱の構造が鉄骨鉄筋コンクリート造とされるとともに梁の構造が鉄骨造とされ、高層部の柱および梁の構造が鉄筋コンクリート造とされる複合構造の建物の施工方法であって、
低層部における鉄骨鉄筋コンクリート造の柱の構造を、柱鉄骨としての鋼管内にコンクリートを充填しかつ該鋼管を鉄筋コンクリートにより被覆してなる充填被覆形鋼管コンクリート造とし、
低層部の柱鉄骨および梁鉄骨の建て方工程と、柱鉄骨内へのコンクリート充填工程とを低層部の全層にわたって先行実施した後、
低層部の柱鉄骨の外側への鉄筋コンクリートによる被覆の施工を低層部の最下層から上層部に向かって順次行う工程と、高層部の鉄筋コンクリート造の躯体の施工を高層部の最下層から上層部に向かって順次行う工程とを並行して実施することにより、低層部および高層部の躯体を並行して施工することを特徴とする建物の施工方法。
【請求項2】
請求項1記載の建物の施工方法であって、
低層部と高層部との境界層となる低層部の最上層の躯体を柱および梁ともに鉄骨鉄筋コンクリート造とし、
該境界層の躯体の施工を高層部の鉄筋コンクリート造の躯体の施工に先行して実施することを特徴とする建物の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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