説明

引戸式キャビネット

【課題】設置によって生じる本体の微妙な歪みに対応して、扉の水平高さを容易に調整することができ、本体と引戸とを機能上及び外観上整合させ、極めて簡単に設置することが可能な引戸式キャビネットを提供する。
【解決手段】天板11、背板、側板12A,12B及び底板13を有し、正面開口部にレール13a,13bを設けた本体10と、本体10の正面開口部に取り付けられ、レール13a,13bに沿って横方向に摺動可能な引戸20A,20Bと、を備え、引戸20A,20Bの下端部の左右に、出没量の調整を可能とした一対のローラー31,31をそれぞれ設け、各ローラー31の出没量を調整することによって、引戸20A,20Bを本体10に対して水平にする構成としてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本体と引戸とを備えた引戸式キャビネットに関し、特に、設置によって生じる本体の微妙な歪みに対応して、扉の水平高さを容易に調整することができ、本体と引戸とを機能上及び外観上整合させ、極めて簡単に設置することが可能な引戸式キャビネットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、オフィスや一般家庭において書類等を整理・収納するために、引戸式キャビネットが広く普及している。一般的な引戸式キャビネットは、特許文献1及び2に示すように、鋼板を折り曲げ加工した箱状の本体の正面に、2枚以上の引戸を摺動自在に取り付けた構成となっている。
【0003】
また、鋼板製のオフィス家具は、工場で高精度に大量生産することができ、従来の引戸式キャビネットも、その寸法誤差を1mm以下に抑えることができた。したがって、引戸式キャビネット自体に、寸法誤差に起因する本体の歪みや引戸のずれが生じることはなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−121422号公報
【特許文献2】特開2004−105276号公報
【特許文献3】特開平8−275835号公報
【特許文献4】特開2003−275049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、従来の引戸式キャビネットをオフィス等に設置すると、オフィス等の床面が傾いているために本体が微妙に歪み、引戸の開閉がスムーズに行えない、引戸が本体のレールから脱落してしまう、本体と引戸との間に隙間が生じる、といった施工現場での問題があった。
【0006】
このため、特許文献3及び4のキャビネット(又はキャビネットの架台)のように、底部四隅に水平高さを調整するためのアジャスタを備えたものがあった。これらアジャスタの高さを一つずつ調整することで床面の傾きを吸収し、引戸式キャビネットの本体を水平に設置することができた。
【0007】
しかし、底部四隅のアジャスタを一つずつ調整して引戸式キャビネットの本体を水平にするには、熟練した技術及び労力を必要とし、調整に時間が掛かるという問題があった。特に、複数の引戸式キャビネットを横並びに近接配置する場合は、隣り合うキャビネットを移動させ、四つのアジャスタを調整するための作業スペースを確保しなければならず、複数の引戸式キャビネットのアジャスタを順番に微調整し、全てを水平にする作業は、専門の施工業者であっても多大な労力と時間を要した。
【0008】
2枚以上の引戸を備える一般的な引戸式キャビネットでは、その本体の前面が完全に開口した構成となっており、そもそも構造上強度が低い。補強部材の数、各部スポット溶接の数を増加して本体の強度を高めることも可能であるが、これでは製品のコストが増大してしまう。特に、景気状況が悪化した近年においては、製品のコストダウンが強く要望され、鋼板製のオフィス家具も構造の簡素化が進んでおり、必要最低限の強度をもった安価な製品が増えると考えられる。この結果、上述した引戸式キャビネットの微妙な歪みの問題は、今後も一層増加すると予想される。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、設置によって生じる本体の微妙な歪みに対応して、扉の水平高さを容易に調整することができ、本体と引戸とを機能上及び外観上整合させ、極めて簡単に設置することが可能な引戸式キャビネットの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題点を解決するために、本発明の引戸式キャビネットは、天板、背板、側板及び底板を有し、正面開口部にレールを設けた本体と、前記本体の正面開口部に取り付けられ、前記レールに沿って横方向に摺動可能な引戸と、を備え、前記引戸の下端部の左右に、出没量の調整を可能とした一対のローラーをそれぞれ設け、各ローラーの出没量を調整することによって、前記引戸を前記本体に対して水平にする構成としてある。
【0011】
上記構成によれば、傾斜した床への設置によって本体が微妙に歪んだ場合でも、各ローラーの出没量を調整して引戸を本体に対して水平にすることができる。これにより、本体と引戸とを機能上及び外観上整合させることができ、従来、引戸の開閉がスムーズに行えない、引戸が本体のレールから脱落してしまう、本体と引戸との間に隙間が生じる、といった施工現場での問題を全て解決することが可能となる。
【0012】
すなわち、本発明では、調整が困難な本体の傾きはそのままで、傾いた本体に対して各引戸を水平にして機能上及び外観上の整合を得ている。なお、本体の微妙な傾きや歪みは、専ら各引戸との不整合によって視覚を通じて認識されるので、本体と各引戸とが互いに水平な状態では、本体の微妙な傾きや歪みを認識することができなくなり、機能上及び外観上の何らの問題も生じない。
【0013】
このような本発明は、特に、本体及び引戸が薄板鋼製の引戸式キャビネットに好適であり、本体及び引戸の強度を必要十分な程度に抑えてコストダウンを図ることができ、床の傾斜によって本体に微妙な傾きや歪みが生じた場合でも、本体と引戸とを簡単に整合させることが可能である。特に、引戸の水平高さを調整するための各ローラーは、薄板鋼製の引戸を補強するための下端折返し部、又は横方向に延設された補強部材に簡単に取り付けることができる。
【0014】
本発明の引戸式キャビネットにおける引戸の水平高さ調整は、各ローラーの出没量を微調整するだけで簡単に行うことができ、技術、熟練、労力及び時間を一切必要とせず、誰でも容易に引戸式キャビネットを美しく設置することができるようになる。
【0015】
好ましくは、上述した本発明において、前記ローラーと、前記ローラーを回動自在に保持するホルダと、前記ホルダを回動自在に保持するケースとを有し、前記ケースの壁部には、該ケース内に進退可能なピン部材が螺合してあり、該ピン部材を進退させることで前記ケース内の前記ホルダを回動させ、これにより前記ローラーの出没量を調整する、水平高さ調整部材を備え、一対の前記水平高さ調整部材を、前記引戸の下端部の左右に取り付けた構成とする。
【0016】
上記構成によれば、水平高さ調整部材を簡単な構成とすることができ、この水平高さ調整部材を、既存設計の引戸に取り付けるだけで、従来品を本発明の引戸式キャビネットとすることができる。また、水平高さ調整部材を取り付けることで、本体の微妙な歪みによる問題を簡単に解決することができるので、必要十分な強度の確保を条件に、引戸式キャビネットの構造を簡素化することが可能となり、製品のコストダウンの要望に応え、安価な製品を製造することができるようになる。さらに、ピン部材の螺合を利用して、ローラーの出没量を微調整することが可能であり、本水平高さ調整部材は、簡単な構成でありながら容易かつ正確に引戸の水平高さを調整することができる。
【0017】
好ましくは、上述した本発明において、前記水平高さ調整部材が、一側に壁部を設けて他側を開放した前記ホルダと、一側を開放して他側に壁部を設けた前記ケースとを有し、前記ホルダに前記ローラーを保持させ、該ホルダを前記ケースに保持させると、前記ホルダの壁部と、前記ケースの壁部とが互いに対向し、これら壁部の間に前記ローラーが回動自在に収納される構成とする。
【0018】
上記構成によれば、ホルダとケースとの互いの壁部を対向させてローラーの脱落を防止することができ、ホルダ及びケースから一つずつ壁部を省略して、水平高さ調整部材の簡略化を図ることができる。特に、壁部が省略されることで、水平高さ調整部材を薄型化することが可能となり、薄い引戸の下端部にも何ら制限無く設けることができる。
【0019】
好ましくは、上述した本発明において、前記ホルダに、前記ピン部材の先端との当接部を設け、螺合による前記ピン部材の進退量に応じて前記ホルダが回動され、前記ローラーの出没量が調整される構成とする。より好ましくは、上述した本発明において、前記ピン部材の先端部をボール状とし、前記ホルダに、前記ピン部材のボール状先端部が上下動自在に係合する縦穴状の軸受部を設け、これらボール状先端部と縦穴状軸受部とが自在継手を形成し、螺合による前記ピン部材の進退量に応じて前記ホルダが回動され、前記ローラーの出没量が調整される構成としてもよい。
【0020】
これらのいずれの構成を採用した場合でも、螺合によって進退するピン部材の先端でホルダを回動させ、ローラーの出没量を正確に微調整することが可能である。特に、ピン部材とホルダとを自在継手で連結した後者の構成を採用した場合は、常にホルダがピン部材に保持されるので、ホルダに保持されたローラーが自重で下がることがない。この結果、本体に引戸を組み付ける際に、ローラーの出没量を最小とすることにより、ローラーとレール周辺部との緩衝を防止することができ、引戸を容易に組み付けることが可能となる。
【0021】
また、ボール状先端部及び縦穴状軸受部は、それぞれピン部材及びホルダに一体的に設けることができるので、部品点数を増加させることなく、ピン部材とホルダとを上下動自在に連結させることが可能である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の引戸式キャビネットによれば、設置によって生じる本体の微妙な歪みに対応して、扉の水平高さを容易に調整することができ、本体と引戸とを機能上及び外観上整合させ、極めて簡単に設置することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態に係る引戸式キャビネットを示す正面である。
【図2】上記引戸式キャビネットの各引戸に設けられた水平高さ調整部材の第1実施形態を示すものであり、同図(a)は分解斜視図、同図(b)は組立状態を示す透視斜視図である。
【図3】同図(a)及び(b)は上記水平高さ調整部材の動作を示す断面図である。
【図4】上記水平高さ調整部材の各引戸への取付状態を示す部分断面図である。
【図5】同図(a)及び(b)は上記水平高さ調整部材による引戸の水平高さ調整を説明するための部分断面図である。
【図6】上記引戸式キャビネットの各引戸に設けられた水平高さ調整部材の第2実施形態を示す分解斜視図である。
【図7】同図(a)及び(b)は上記水平高さ調整部材の動作を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態に係る引戸式キャビネットについて、図面を参照しつつ説明する。
【0025】
[引戸式キャビネットの全体構成]
まず、図1を参照しつつ、本実施形態に係る引戸式キャビネット1の全体構成について説明する。同図において、引戸式キャビネット1は、薄板鋼を折り曲げ加工した箱状の本体10の正面に、同じく薄板鋼製の2枚の引戸20A,20Bを摺動自在に取り付けた構成となっている。本体10は、天板11、側板12A,12B、底板13、及び図示しない背板を有する。
【0026】
本体10の正面は開口しており、この開口を各引戸20A,20Bが閉鎖している。各引戸20A,20Bは、天板11の前端部に沿って図中横方向に延びるガイド溝(図示せず)と、底板13の前端部に沿って図中横方向に延びるレール13a,13bに保持されている。そして、各引戸20A,20Bの下端裏側には、下端折り返し部21(図4を参照)が設けてあり、この下端折り返し部21の左右両側には、一対の水平高さ調整部材30,30が間隔をおいて取り付けてある。各水平高さ調整部材30は、それぞれレール13a又は13bに沿って移動可能なローラー31を有し、各ローラー31は、下端折り返し部21の左右両側で各引戸20A,20Bの自重を支持している。
【0027】
[水平高さ調整部材の構成]
図2(a)及び(b)は第1実施形態に係る水平高さ調整部材30を示すものである。同図(a)において、本実施形態の水平高さ調整部材30は、上述したローラー31と、このローラー31を回動自在に保持するホルダ32と、このホルダ32を回動自在に保持するケース33と、このケース33内に進退可能に設けられたピン部材34とを備えた構成となっている。例えば、ローラー31、ホルダ32及びケース33をそれぞれ合成樹脂の成形品とし、ピン部材34を金属製としてもよい。但し、これら部材の材料は、特に限定されるものではない。以下、ローラー31、ホルダ32、ケース33及びピン部材34について順に説明する。
【0028】
ローラー31は、肉厚の薄い円板状の大径部31aの片面に、同心の小径部31bを突設した構成となっている。小径部31bの肉厚は厚く、中心に軸受孔31cが穿設してある。図4に示すように、ローラー31の大径部31aは、底板13のレール13a又は13b内に入り込み、このとき小径部31bは、底板13の上面に当接する。
【0029】
図2(a)に戻り、ホルダ32は、ローラー31の円周に対応する円弧状フレーム32Aの一側のみに第1壁部32aを設け、他側を開放させた構成となっている。第1壁部32aの内面における円弧状フレーム32Aの円弧の中心点には、一本の回動軸32bが突設してある。この回動軸32bをローラー31の軸受孔31cに挿入すると、ローラー31がホルダ32内に回動自在に保持される。また、第1壁部31aにおける円弧状フレーム32Aの一端には、回動軸32bと間隔をおいて軸受孔32cが穿設してある。さらに、この軸受孔32cの上方に位置する円弧状フレーム32Aの端面は、ピン部材34との当接部32dとなっている。
【0030】
ケース33は、ホルダ32の外形に対応するコ字形フレーム33Aの他側のみに第2壁部33aを設け、一側を開放させた構成となっている。第2壁部33aの内面における一側には、一本の回動軸33bが突設してある。この回動軸33bをホルダ32の軸受孔32cに挿入すると、ホルダ32がケース33内に回動自在に保持されるとともに、互いの第1及び第2壁部32a,33aが対向し、これら壁部32a,33aの間にローラー31が収納される(図2(b)を参照)。
【0031】
このようなホルダ32とケース33との組立状態では、軸受孔32c及び回動軸33bの上方に、ホルダ32の当接部32dが配置される。そして、この当接部32dに対応するコ字形フレーム33Aの一辺上方には、ピン部材34が螺合する雌ねじ孔33cが水平に設けてある。ピン部材34の外周面には雄ねじ34aが形成してあり、この雄ねじ34aを雌ねじ孔33cに螺合させ、図示しないドライバ等によりピン部材34を正逆方向に回転させると、ピン部材34の先端がケース33内で進退し、ホルダ32の当接部32dに当接する。
【0032】
一方、図2(b)に示すように、ケース33の第2壁部33aの外面における一側上方には、弾性変形可能な係合爪33dが設けてある。同じく第2壁部33aの外面における下端縁には、一対の係合凸部33e,33eが突設してある。
【0033】
[水平高さ調整部材の動作]
上記構成からなる水平高さ調整部材30の動作について、図3(a)及び(b)を参照しつつ説明する。まず、同図(a)に示すように、ピン部材34の先端をケース33内に突出させない状態では、ホルダ32がケース33内に収まり、ローラー31の突出量が最も少ない状態となる。次いで、同図(b)に示すように、図示しないドライバ等によりピン部材34を回転させてケース33内へ前進させると、ピン部材34の先端が、ホルダ32の当接部32dに当接する。すると、ピン部材34の先端に押されたホルダ32が、ケース33の回動軸33bを中心に回動し、ローラー31の突出量が増大する。すなわち、雄ねじ34aと雌ねじ孔33cとの螺合を利用して、ピン部材34を進退させることにより、ローラー31の出没量を微調整することができる。
【0034】
[水平高さ調整部材による引戸の水平高さ調整]
図4に示すように、水平高さ調整部材30の係合爪33d及び係合凸部33e,33eに対応して、各引戸20A,20Bの下端折り返し部21には、係合孔21a及び切欠部21b,21bが設けてある。水平高さ調整部材30を下端折り返し部21の隙間に挿入すると、係合爪33dが係合孔21aに噛み合うとともに、各係合凸部33eが各切欠部21bにそれぞれ嵌合し、水平高さ調整部材30が下端折り返し部21に強固に固定される。
【0035】
また、係合孔21a及び各切欠部21bは、下端折り返し部21の左右にそれぞれ一対設けてあり、一枚の引戸20A(20B)の下端折り返し部21には、その左右両側に一対の水平高さ調整部材30,30がそれぞれ取り付けてある(図1を参照)。ここで、図示しないが、下端折り返し部21の左側に取り付ける水平高さ調整部材30と、右側に取り付ける水平高さ調整部材30とは、互いの構成要素が左右真逆となった対称構造となっている。左右対称の各水平高さ調整部材30,30は、下端折り返し部21に取り付けたとき、互いのピン部材34,34が引戸20A(20B)の左辺側又は右辺側に位置するようになっている。
【0036】
仮に、本実施形態の引戸式キャビネット1を設置した床面が傾斜しており、図1に示す本体10が微妙に歪んだり、傾いたりして、例えば、各引戸20A,20Bの開閉がスムーズに行えない、ローラー31がレール13a又は13bから脱落してしまう、側板12A,12Bと各引戸20A,20Bとの間に微小な隙間が生じてしまう、といった問題が起きたとする。
【0037】
このような場合は、図5(a),(b)に示すように、引戸20Aに取り付けられた左右一対の水平高さ調整部材30,30の各ピン部材34,34をそれぞれ回転させて、各ローラー31,31の出没量を増減させる。これにより、引戸20Aの左右の水平高さを微調整し、引戸Aを傾いた本体10に対して水平にする。これと同様に、引戸20Bについても左右の水平高さを微調整し、傾いた本体10に対して水平にする。この結果、本体10と各引戸20A,20Bとを機能上及び外観上整合させることができ、上記の問題は全て解決される。
【0038】
なお、水平高さ調整部材30は、本体10の微妙な歪みや傾きを修正するものではないが、本体10の微妙な歪みや傾きは、専ら各引戸20A,20Bとの不整合によって視覚を通じて認識されるので、本体10と各引戸20A,20Bとが互いに水平な状態では、本体10の微妙な歪みや傾きを認識することができなくなり、機能上及び外観上の何らの問題も生じない。
【0039】
[水平高さ調整部材の変更例]
次に、図6及び図7(a)及び(b)を参照しつつ、第2実施形態に係る水平高さ調整部材40について説明する。なお、これら図面において、上述した第1実施形態の水平高さ調整部材30と同一部分には、同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0040】
本実施形態の水平高さ調整部材40は、図6に示すように、ピン部材34にボール状先端部34bを設けるとともに、ホルダ32に、ピン部材34のボール状先端部34bが上下動自在に係合する縦穴状軸受部32eを形成した構成としてある。本実施形態では、これらボール状先端部34bと縦穴状軸受部32eとが自在継手を形成する。
【0041】
第1実施形態と同様にローラー31、ホルダ32、ケース33及びピン部材34を組み立て、ねじの螺合によってピン部材34を進退させると、図7(a)及び(b)に示すように、ピン部材34の進退量に応じてホルダ32が回動され、ローラー31の出没量が調整される。
【0042】
本実施形態の水平高さ調整部材40によれば、第1実施形態と同様に、本体10と各引戸20A,20Bとを機能上及び外観上整合させることができ、本体10の微妙な歪みや傾きによって生じる上記の問題を全て解決することができる。特に、本実施形態の水平高さ調整部材40では、ホルダ32とピン部材34とを自在継手(縦穴状軸受部32e及びボール状先端部34b)で連結してあるので、常にホルダ32がピン部材34に保持され、ホルダ32に保持されたローラー31が自重で下がることがない。この結果、本体10に引戸20A、20Bを組み付ける際に、各ローラー31の出没量を最小とすることにより、各ローラー31とレール13a、13b周辺部との緩衝を防止することができ、引戸20A、20Bを容易に組み付けることが可能となる。
【0043】
[引戸式キャビネットの作用効果]
以上説明したように、本実施形態の引戸式キャビネット1によれば、各引戸20A,20Bの水平高さ調整は、各ローラー31,31の出没量を微調整するだけで簡単に行うことができ、技術、熟練、労力及び時間を一切必要とせず、誰でも容易に引戸式キャビネットを美しく設置することができるようになる。
【0044】
水平高さ調整部材30又は40は、ローラー31、ホルダ32、ケース33及びピン部材34からなる極めて簡単な構成であり、この水平高さ調整部材30又は40を、既存設計の各引戸に取り付けるだけで、従来品を本実施形態の引戸式キャビネット1とすることができる。
【0045】
水平高さ調整部材30又は40を取り付けることで、本体10の微妙な歪みや傾きによる問題を簡単に解決することができるので、必要十分な強度の確保を条件に、引戸式キャビネット1の構造を簡素化することが可能となり、製品のコストダウンの要望に応え、安価な製品を製造することができるようになる。
【0046】
ピン部材34の螺合を利用して、ローラー31の出没量を微調整することが可能であり、水平高さ調整部材30又は40は、簡単な構成でありながら容易かつ正確に各引戸20A,20Bの水平高さを調整することができる。
【0047】
ホルダ32とケース33との互いの壁部32A,33Aを対向させてローラー31の脱落を防止することができ、ホルダ32及びケース33から一つずつ壁部を省略して、水平高さ調整部材30又は40の簡略化を図ることができる。特に、壁部が省略されることで、水平高さ調整部材30又は40を薄型化することが可能となり、薄い引戸の下端部にも何ら制限無く設けることができる。
【0048】
[その他の変更]
なお、本発明の引戸式キャビネットは、上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、2枚の引戸を備えた引戸式キャビネットを具体例として説明したが、これに限らず、本発明は、1枚又は3枚以上の引戸を備えた引戸式キャビネットに適用することができる。
【0049】
また、上述した各実施形態では、各引戸20A,20Bの下端裏側に、下端折り返し部21を設けた構成としたが、これに限定されるものではなく、例えば、各引戸20A,20Bの下端裏側に、薄板鋼を折り曲げ加工した横方向に延びる中空状の補強部材をスポット溶接し、この補強部材に凹溝を切り欠いて、水平高さ調整部材30又は40を取り付ける構成としてもよい。下端折り返し部21又は補強部材のいずれを設けた場合でも、水平高さ調整部材30又は40を狭小な空間に簡単に取り付けることが可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 引戸式キャビネット
10 本体
11 天板
12A,12B 側板
13 底板
13a,13b レール
20A,20B 引戸
21 下端折り返し部
21a 係合孔
21b 切欠部
30,40 水平高さ調整部材
31 ローラー
31a 大径部
31b 小径部
31c 軸受孔
32 ホルダ
32A 円弧状フレーム
32a 第1壁部
32b 回動軸
32c 軸受孔
32d 当接部
32e 縦穴状軸受部
33 ケース
33A コ字形フレーム
33a 第2壁部
33b 回動軸
33c 雌ねじ孔
33d 係合爪
33e 係合凸部
34 ピン部材
34a 雄ねじ
34b ボール状先端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天板、背板、側板及び底板を有し、正面開口部にレールを設けた本体と、
前記本体の正面開口部に取り付けられ、前記レールに沿って横方向に摺動可能な引戸と、を備え、
前記引戸の下端部の左右に、出没量の調整を可能とした一対のローラーをそれぞれ設け、各ローラーの出没量を調整することによって、各引戸を前記本体に対して水平にすることを特徴とする引戸式キャビネット。
【請求項2】
前記ローラーと、前記ローラーを回動自在に保持するホルダと、前記ホルダを回動自在に保持するケースとを有し、前記ケースの壁部には、該ケース内に進退可能なピン部材が螺合してあり、該ピン部材を進退させることで前記ケース内の前記ホルダを回動させ、これにより前記ローラーの出没量を調整する、水平高さ調整部材を備え、
一対の前記水平高さ調整部材を、前記引戸の下端部の左右に取り付けた請求項1記載の引戸式キャビネット。
【請求項3】
前記水平高さ調整部材が、一側に壁部を設けて他側を開放した前記ホルダと、一側を開放して他側に壁部を設けた前記ケースとを有し、
前記ホルダに前記ローラーを保持させ、該ホルダを前記ケースに保持させると、前記ホルダの壁部と、前記ケースの壁部とが互いに対向し、これら壁部の間に前記ローラーが回動自在に収納される請求項2記載の引戸式キャビネット。
【請求項4】
前記ホルダに、前記ピン部材の先端との当接部を設け、螺合による前記ピン部材の進退量に応じて前記ホルダが回動され、前記ローラーの出没量が調整される請求項2又は3記載の引戸式キャビネット。
【請求項5】
前記ピン部材の先端部をボール状とし、前記ホルダに、前記ピン部材のボール状先端部が上下動自在に係合する縦穴状の軸受部を設け、これらボール状先端部と縦穴状軸受部とが自在継手を形成し、螺合による前記ピン部材の進退量に応じて前記ホルダが回動され、前記ローラーの出没量が調整される請求項2又は3記載の引戸式キャビネット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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