説明

弾性波センサの製造方法

【課題】所望の箇所に、特性を劣化させることなく反応物質を形成することができる弾性波センサの製造方法を提供する。
【解決手段】(a)表面21に電極部22,24が形成された圧電基板20の表面全体にブロッキング層31を形成するブロッキング層形成工程と、(b)圧電基板20の所望の個所に形成されたブロッキング層31のみを物理的方法で取り除くブロッキング層除去工程と、(c)所望の個所に反応物質24を形成する反応物質形成工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波センサの製造方法に関し、詳しくは、弾性波素子の電極部上など、所望の個所のみに抗体などの反応物を設けた弾性波センサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧電基板の表面に電極部と反応物質を形成しておき、反応物質の反応を弾性波によって検出する弾性波センサが提案されている。このような弾性波センサでは、所望の個所のみに抗体などの反応物を設ける必要がある。
【0003】
例えば特許文献1には、図9の略図に示すように、抗原抗体反応により捕集された抗原または抗体の量により弾性波の周波数特性が変化する弾性波センサにおいて、金属電極上のみに抗体などの反応物質を固相化させる方法が開示されている。
【0004】
具体的には、図9(a)に示すように圧電性基板11の表面上に形成された金属電極12a,12b上に、システアミン151及びグルタルアルデヒド153を含む自己組織化膜15を形成し、図9(b1)に示すように自己組織化膜15の上にレジスト層16を形成した後、図9(b2)に示すように、圧電性基板11及びレジスト層16の表面全体に、抗原または抗体に対してブロッキング作用を有するブロッキング層14を形成する。そして、金属電極12a,12b上の自己組織化膜15に形成されたレジスト層16を、レジスト層16の表面上に形成されたブロッキング層14とともに除去して、図9(b3)に示すように、金属電極12a、12bを除く圧電性基板11の表面上のブロッキング層14を残し、ブロッキング層14上の自己組織化膜15を露出させる。そして、ブロッキング層14上の自己組織化膜15のブロッキング作用によって、図9(c)に示すように、金属電極12a、12b上の自己組織化膜15の表面にだけ抗体層13a,13bを形成し、弾性波センサが完成する。
【0005】
この弾性波センサに抗原を含む抗原溶液を導入すると、抗原液中の抗原抗体反応により、図9(d)に示すように、抗原18が抗体131を介して抗体層13a,13bに捕集され、これによって弾性波センサは弾性波の周波数特性が変化する(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−178167号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、図9のような方法では、レジスト層16を除去する必要があるため、レジスト除去液としてアセトンなどの化学薬品が使用される。その場合、この化学薬品によってブロッキング層14も変質し、ブロッキング層14としての特性が劣化してしまい、弾性波センサの特性が劣化する。
【0007】
また、剥離液を用いてレジスト層16除去する方法では、金属電極12a,12bの形状等によっては剥離液がレジスト層16に入りにくく、残渣が発生することがある。その場合、弾性波センサの特性が劣化する。
【0008】
本発明は、かかる実情に鑑み、所望の箇所に、特性を劣化させることなく反応物質を形成することができる弾性波センサの製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、以下のように構成した弾性波センサの製造方法を提供する。
【0010】
弾性波センサの製造方法は、免疫学的反応により捕集された被測定物質の量により弾性波の周波数特性が変化する弾性波センサの製造方法である。弾性波センサの製造方法は、(a)表面に電極部が形成された圧電基板の表面全体にブロッキング層を形成するブロッキング層形成工程と、(b)前記圧電基板の所望の個所に形成された前記ブロッキング層のみを物理的方法で取り除くブロッキング層除去工程と、(c)前記所望の個所に反応物質を形成する反応物質形成工程とを備える。
【0011】
上記方法によれば、不要なブロッキング層の除去に物理的方法を用いているため、所望の個所を除く個所に形成されているブロッキング層が、ブロッキング層を除去するための化学薬品による化学反応で性能が劣化することを、防ぐことができる。
【0012】
また、本発明は、上記課題を解決するために、以下のように構成した弾性波センサの製造方法を提供する。
【0013】
弾性波センサの製造方法は、免疫学的反応により捕集された被測定物質の量により弾性波の周波数特性が変化する弾性波センサの製造方法である。弾性波センサの製造方法は、(i)表面に電極部が形成された圧電基板の表面全体に反応物質を形成する反応物質形成工程と、(ii)前記圧電基板の所望の個所を除く個所に形成された前記反応物質のみを物理的方法で取り除く反応物質除去工程と、(iii)前記所望の個所を除く個所にブロッキング層を形成するブロッキング層形成工程とを備える。
【0014】
上記方法によれば、不要な反応物質の除去に物理的方法を用いているため、所望の個所に形成されている反応物質が、不要な反応物質を除去するための化学薬品による化学反応で性能が劣化することを、防ぐことができる。
【0015】
好ましくは、前記反応物質除去工程の後に、(iv)前記圧電基板の表面全体に第2の反応物質を形成する第2の反応物質形成工程と、(v)前記圧電基板の別の所望の個所を除く個所に形成された前記第2の反応物質のみを物理的方法で取り除く第2の反応物質除去工程とをさらに備える。
【0016】
この場合、反応物質の劣化なく、微小領域で複数の反応物質を形成し、分けることができる。
【0017】
好ましくは、上記各構成の弾性波センサの製造方法において、前記所望の個所が前記電極部上である。
【0018】
この場合、特性の優れた弾性波センサを製造することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の弾性波センサの製造方法によれば、所望の箇所に、特性を劣化させることなく反応物質を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図1〜図8を参照しながら説明する。
【0021】
<実施例1> 実施例1の弾性波センサの製造方法について、図1〜図4を参照しながら説明する。
【0022】
まず、実施例1の弾性波センサの製造方法について説明する。図1は、実施例1の弾性波センサの製造工程を示す略図である。
【0023】
図1(a)に示すように、表面21に電極部22,24が形成された圧電基板20を用意し、ブロッカー30を含むブロッカー溶液を圧電基板20の表面21側に導入し、圧電基板20の表面21及び電極部22,24の表面全体に、ブロッカー30によりブロッキング層31を形成する。
【0024】
次いで、図1(b)において矢印50で示すように圧電基板20に対するレーザ40の照射位置を相対的に移動させ、圧電基板20の表面21及び電極部22,24上に形成されたブロッキング層31のうち、所望の領域にレーザ40を照射し、所望領域上に形成されたブロッキング層31を物理的に除去する。ここでは、図において右側の一方の電極部24上に形成されたブロッキング層31を物理的に除去する。
【0025】
レーザ光40の代わりに、イオンミリングなどの物理的方法を用いて、所望領域上に形成されたブロッキング層31を物理的に除去してもよい。
【0026】
次いで、抗体32を含む抗体溶液を圧電基板20の表面21側に導入する。ブロッキング層31は抗体溶液に対してブロッキング作用を有するので、ブロッキング層31が除去された所望位置の電極部24上に、図1(c)に示すように、抗体32を固相化して形成することができる。
【0027】
これによって、図1(d)に示すように、図において右側の電極部24にのみ抗体32が形成されるが、必要に応じて、抗体32を固相化して形成する電極部を選択することが可能である。
【0028】
図2は、電極部22,24の近傍にウェル26を備えた変形例の弾性波フィルタの製造工程を示す略図である。
【0029】
変形例1の弾性波フィルタの製造では、図2(a)に示すように、圧電基板20の表面21に電極部22,24とウェル26とが形成された圧電基板20を用意し、ブロッカー30を含むブロッカー溶液を圧電基板20の表面21側に導入し、圧電基板20の表面21と電極部22,24及びウェル26の表面全体とに、ブロッカー30によりブロッキング層31を形成する。
【0030】
次いで、図2(b)において矢印52で示すように圧電基板20に対してレーザ42の照射位置を相対的に移動させ、圧電基板20の表面21と電極部22,24及びウェル26の表面全体とに形成されたブロッキング層31のうち、所望の領域にレーザ42を照射し、所望領域上に形成されたブロッキング層31を物理的に除去する。ここでは、図において右側の一方の電極部24上に形成されたブロッキング層31を物理的に除去する。
【0031】
次いで、圧電基板20の表面21側に抗体32を含む抗体溶液を導入する。ブロッキング層31は抗体溶液に対してブロッキング作用を有するので、ブロッキング層31が除去された所望位置の電極部24上に、図2(c)に示すように、抗体32を固相化して形成することができる。
【0032】
これによって、図2(d)に示すように、図において右側の電極部24にのみ抗体32が形成されるが、必要に応じて、抗体32を固相化して形成する電極部を選択することが可能である。
【0033】
不要なブロック層の除去にレーザを用いることにより、必要な部分のブロック層の性能劣化がなくなる。また、ウェル形状であっても、問題なく、ブロック層と抗体とを塗り分けることができる。
【0034】
図3は、圧電基板の表面及び電極部の表面全体をブロッキング層でブロッキングした弾性波センサに、抗原を含む抗原液を導入した場合の周波数特性の経時変化を測定した結果を示すグラフである。図4は、所望の領域のIDT電極部のブロッキング層をレーザで除去し、IDT電極部に抗体を固相化した実施例1の弾性波センサについて、抗原を含む抗原液を導入した場合のIDT電極部の周波数特性の経時変化を測定した結果を示すグラフである。
【0035】
図3と図4とを比較すると、周波数特性の変化は図4の方が図3よりも大きいことから、実施例1の弾性波センサの製造方法では、レーザでブロッキング層が十分に除去され、その除去された電極に抗体が固相化して形成されていることが分かる。そして、弾性波センサとして十分に機能している。すなわち、抗原抗体反応により捕集された抗原の量により弾性波の周波数特性が変化する。
【0036】
なお、測定を数回繰り返しているので、図3及び図4において、測定結果を示す線は複数本存在する。
【0037】
以上に説明した実施例1の弾性波センサの製造方法のように、電極部を含む素子領域全体にブロッキング層を形成した後、電極部上などの所望の個所に形成されているブロッキング層のみをレーザ、イオンミリングなどの物理的方法を用いて取り除き、その後、その所望の個所にのみ抗体などの反応物を形成する場合、不要なブロッキング層の除去にレーザを用いているため、電極部を除く個所に形成されているブロッキング層の性能劣化を防止できる。したがって、弾性波センサの性能劣化を防止できる。
【0038】
<実施例2> 実施例2の弾性波センサの製造方法について、図5〜図8を参照しながら説明する。
【0039】
実施例2の弾性波センサは、図5の略図に示す工程で製造する。
【0040】
すなわち、図5(a)に示すように、まず、表面21に電極部22,24が形成された圧電基板20を用意し、圧電基板20の表面21側に抗体32を含む抗体溶液を導入して、圧電基板20の表面21及び電極部22,24の表面全体に抗体32を固相化して形成する。
【0041】
次いで、図5(b)において矢印54で示すように圧電基板20に対するレーザ44の照射位置を相対的に移動させて、圧電基板20の表面21の電極部24を除く個所に形成された抗体32をレーザ44の照射によって物理的に除去し、電極部24上の抗体32のみを残す。
【0042】
次いで、図5(c)に示すように、ブロッカー30を含むブロッカー溶液を圧電基板20の表面21側に導入する。図5(d)に示すように、抗体32が形成された電極部24を除く個所に、ブロッカー30によりブロッキング層31を形成する。なお、抗体32が形成された電極部24上には、抗体32の存在によりブロッキング層31が形成されない。
【0043】
図6は、複数の電極部22,24に種類の異なる別々の抗体32,34を固相化して形成した変形例の弾性波フィルタの製造工程を示す略図である。
【0044】
すなわち、図6(a)に示すように、まず、表面21に電極部22,24が形成された圧電基板20の表面21側に、第1の抗体32を含む抗体液を導入し、圧電基板20の表面21及び電極部22,24の表面に、第1の抗体32を固相化して形成する。
【0045】
次いで、図6(b)において矢印56で示すように圧電基板20に対するレーザ46の照射位置を相対的に移動させ、圧電基板20の表面21の電極部24を除く個所に形成された第1の抗体32を、レーザ46の照射によって物理的に除去する。すなわち、電極部24にのみ、第1の抗体32を残しておく。
【0046】
次いで、図6(c)に示すように、第2の抗体32を含む抗体溶液を圧電基板20の表面21側に導入し、第1の抗体32が形成された電極部24を除く個所に、第2の抗体34を固相化して形成する。そして、図6(b)と同様に、圧電基板20の表面21の電極部22,24を除く個所に形成された第2の抗体32にレーザを照射して物理的に除去する。
【0047】
そして、ブロッカー30を含むブロッカー溶液を圧電基板20の表面21側に導入し、図6(d)に示すように、電極部22,24を除く個所に、ブロッカー30を含むブロッキング層31を形成する。電極部24には第1の抗体32が固相化して形成され、電極部22には第2の抗体34が固相化して形成されているため、第1及び第2の抗体32,34の存在により、電極部22,24にはブロッキング層31が形成されない。
【0048】
不要な抗体の除去にレーザを用いることにより、必要な部分の抗体の性能劣化がなくなる。そのため、抗体の性能劣化なく、微小領域で2種類以上の抗体の塗り分けが可能となる。また、ウェル形状であっても問題なく塗り分けることができる。
【0049】
図7、8は、図5の方法により作製した弾性波センサについて、櫛歯状のIDT電極部からの出力信号を調べた結果である。図7は、その上にブロッキング層が形成されているIDT電極部、すなわち図5(d)の左側の電極部22の出力信号の変化である。図8は、その上に抗体が固相化して形成されたIDT電極部、すなわち図(5)の右側の電極部22についての出力信号の変化である。図7及び図8において縦線及び矢印で示すように、抗原を含む抗原溶液(Antigen Flow)は、約3分経過後に導入している。
【0050】
図7から、IDT電極部に抗体が固相化して形成されていない場合には、抗原溶液を導入しても周波数がほとんど変化せず、センサとしてほとんど機能していないことが分かる。一方、図8から、IDT電極部に抗体が固相化して形成されている場合には、周波数が変化し、センサとして十分に機能していることが分かる。
【0051】
なお、図7、8には複数の線が存在するが、これらは図2、3と同様に数回繰り返し測定した結果をそれぞれ示している。
【0052】
第2の実施例のように、電極部を含む素子領域全体に抗体などの反応物を形成した後、電極部上などの所望の個所を除く個所に形成されている反応物のみをレーザ、イオンミリングなどの物理的方法を用いて取り除き、所望の個所にのみ抗体などの反応物を形成し、その後、所望の個所を除く個所にブロッキング層を形成する場合、不要な抗体の除去にレーザを用いているため、電極部に形成されている抗体の性能劣化を防止できる。
【0053】
<まとめ> 以上に説明したように、不要なブロッキング層の除去や不要な抗体の除去にレーザ等の物理的な方法を用いると、除去に用いる化学薬品による化学反応で性能が劣化することを防ぐことができる。
【0054】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変更を加えて実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】弾性波センサの製造工程を示す略図である。(実施例1)
【図2】弾性波センサの製造工程を示す略図である。(実施例1の変形例)
【図3】弾性波センサの周波数特性の変化を示すグラフである。(比較例)
【図4】弾性波センサの周波数特性の変化を示すグラフである。(実施例1)
【図5】弾性波センサの製造工程を示す略図である。(実施例2)
【図6】弾性波センサの製造工程を示す略図である。(実施例2の変形例)
【図7】弾性波センサの周波数特性の変化を示すグラフである。(実施例2)
【図8】弾性波センサの周波数特性の変化を示すグラフである。(実施例2)
【図9】弾性波センサの製造工程を示す略図である。(従来例)
【符号の説明】
【0056】
20 圧電基板
21 表面
22,24 電極部
31 ブロッキング層
32,34 抗体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫学的反応により捕集された被測定物質の量により弾性波の周波数特性が変化する弾性波センサの製造方法であって、
表面に電極部が形成された圧電基板の表面全体にブロッキング層を形成するブロッキング層形成工程と、
前記圧電基板の所望の個所に形成された前記ブロッキング層のみを物理的方法で取り除くブロッキング層除去工程と、
前記所望の個所に反応物質を形成する反応物質形成工程と、
を備えることを特徴とする弾性波センサの製造方法。
【請求項2】
免疫学的反応により捕集された被測定物質の量により弾性波の周波数特性が変化する弾性波センサの製造方法であって、
表面に電極部が形成された圧電基板の表面全体に反応物質を形成する反応物質形成工程と、
前記圧電基板の所望の個所を除く個所に形成された前記反応物質のみを物理的方法で取り除く反応物質除去工程と、
前記所望の個所を除く個所にブロッキング層を形成するブロッキング層形成工程と、
を備えることを特徴とする弾性波センサの製造方法。
【請求項3】
前記反応物質除去工程の後に、
前記圧電基板の表面全体に第2の反応物質を形成する第2の反応物質形成工程と、
前記圧電基板の別の所望の個所を除く個所に形成された前記第2の反応物質のみを物理的方法で取り除く第2の反応物質除去工程と、
をさらに備えることを特徴とする請求項2に記載の弾性波センサの製造方法。
【請求項4】
前記所望の個所が前記電極部上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載の弾性波センサの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−91484(P2010−91484A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−263276(P2008−263276)
【出願日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】