説明

成形機の型締装置

【課題】タイバによって連結された固定および支持プラテンと、それらの間で移動する可動プラテンとを含み、固定および可動プラテンにそれぞれ取り付けられた断熱板のその上から、固定側および可動側の金型がそれぞれ取り付けられ、その金型の取り付けの際に、その金型が金型取り付け部材によって締め付けられて固定されると、その締め付け力で断熱板が圧縮されて、その固定側金型とその可動側金型の間の平行度を悪くする。
【解決手段】そこで、本発明の成形機の型締装置では、ヤング率の大きい材質で形成されるとともに前記断熱板の厚み寸法よりも大きい厚み寸法に形成された断熱スペーサを、その断熱板をその厚み方向に貫通する複数の断熱スペーサ用の貫通孔に挿嵌させて、その断熱スペーサ用の貫通孔を、その断熱板の板面上の金型が面する領域内であって、その領域の中心点を通る上下方向と左右方向の直線に対して線対称の位置にそれぞれ形成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形機の型締装置において、金型装置からプラテンに伝わる熱を抑えるために、それらの間に断熱板が備えられても、固定側金型と可動側金型の間の平行度を高精度に維持することができる型締装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、射出成形機は、少なくとも射出装置と型締装置とを備えて、その射出装置で樹脂材料を加熱しながら可塑化して溶融し、その溶融樹脂を高圧で射出して型締装置に搭載された金型装置内のキャビティに充填し、そのキャビティ内の溶融樹脂を冷却し固化させて成形品を得るものである。
【0003】
その射出成形機の型締装置は、タイバで連結された固定プラテンとバックプラテン、それらの間で移動する可動プラテン、そして、その可動プラテンを進退させてその固定プラテンに対して押圧する駆動装置を機台上に備える。
【0004】
その固定プラテンには、金型装置の固定側(以下、固定側金型という)が搭載され、その可動プラテンには、金型装置の可動側(以下、可動側金型という)が搭載される。その金型装置の取り付けは、固定側金型に備える固定側取り付け板および可動側金型に備える可動側取り付け板を、金型取り付け部材、すなわちクランプ部材または直接ボルトでプラテンに固定することで行われる。そして、駆動装置は、固定側金型に対して、可動プラテンとともに可動側金型を進退させて型開閉を行い、押圧して型締めを行う。
【0005】
プラテンに搭載された金型装置は、多くの場合、所定の温度に温度調節される。例えば、レンズ等の精密な成形品を成形する際には、百数十度程度の比較的高温に温度調節されることが多い。そのため、金型装置の内部には、その外部に設置した金型温度調節器で温度調節された水や油のような熱媒体を循環させる温調配管が備えられている。なお、さらに高温の温度調節が必要な場合には、ヒーターを利用する場合もある。
【0006】
そのため、特許文献1のように金型装置とプラテンの間には、金型装置の熱がプラテンに伝わらないように断熱板が挟まれる。その断熱板は、金型装置に備える固定側および可動側取り付け板がプラテンに面する部分を少なくとも覆うように形成されて、温度調節された金型装置からプラテンに熱が逃げるのを抑える。それによって、金型装置が速やかに所定温度まで昇温し、金型装置の温度調整が安定し、そして、不要な熱エネルギ損失もなく省エネとなる。また、その断熱板は、金型装置から伝わる熱でプラテンが熱膨張し歪むのを抑え、さらには射出成形機全体の歪みをも防止する。さらには、プラテンの金型取り付け面の損傷や錆も防止する。
【0007】
そのような断熱板は、従来、ガラス繊維などを主基材としたものにバインダを加えて作成されたものであって、加工精度が低く、その両面の平行度が低いため、レンズなどの精密成形では、十分に高い精度の成形が行えない恐れがあった。そこで、特許文献2では、強度や耐久性や断熱性が高い材質であって、表面精度を高くすることができるという観点から、セラミックスから成る断熱層を固定および可動プラテンの金型取り付け面に一体に形成させた成形機を開示している。それで、断熱層の加工精度を高くし、それら取り付け面の間の平行度を向上させて、高い型締精度で精密な成形品を成形する。特許文献2以外にも、全体をセラミックスで形成した断熱板をプラテンに固定するようにしたものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開平03−108414号公報
【特許文献2】特開2006−142687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、本願出願人は、まだ改良の余地があると考える。既述したように精密な成形では、型締装置のプラテンに金型装置を取り付けた際に、固定側金型と可動側金型の間の平行度に高い精度が求められる。例えば、球面レンズの成形では、金型装置のキャビティ内の成形品をその金型装置を開いて取り出す際に、固定側金型と可動側金型の間の平行度が低い状態で型開させた場合には、その開始直後において、球面レンズ表面とキャビティ面の一部が離型し、それ以外がくっついた状態を経てから完全に離型されることになる。型開直後の成形品は、固化しているとはいえ、ある程度の熱を持った弾性体である。そのため、球面レンズ表面の最初に離型する部分が、引っ張られるようにして離型されて、その部分が微細ではあるが変形してしまう場合があった。そのように成形された球面レンズでは、上下の断面と左右の断面とが同じ形状にならず、非点収差すなわち光が1点で交わらないで分散している現象が起こると言われている。
【0010】
断熱板を間に挟んだ形でプラテンに金型装置を取り付けた際に、固定側金型と可動側金型の間の平行度を低下させる原因には、既述した理由の他に、金型装置の複数箇所を金型取り付け部材でプラテンに固定することによって起こる断熱板の不均一な圧縮がある。固定側金型および可動側金型は、それぞれ固定側および可動側取り付け板を備えて、それら取り付け板の周縁の複数箇所を金型取り付け部材によって、プラテン側に締め付けるようにして固定プラテンや可動プラテンにそれぞれ固定される。それで、断熱板は、金型取り付け部材で締め付けられる部分がプラテン側に向かって圧縮されるのである。例えば、作業者が、固定側および可動側取り付け板の周縁部を、それぞれ型締装置の操作側および半操作側に対して上下2カ所の合計4カ所ずつを金型取り付け部材で固定したとする。すると、その4カ所に面した断熱板の部分が、それぞれの金型取り付け部材の締め付け具合によって、異なる量だけ圧縮される。例えば、従来のガラス繊維などを主基材とする断熱板では、その厚み方向に最大で30μm程度圧縮されてしまう場合もあった。そのため、固定側金型と可動側金型の間の平行度は、作業者の金型取り付け部材の締め付け具合で変動してしまうことになる。
【0011】
そのため、作業としては、金型装置をプラテンに取り付けたあとに、固定側金型と可動側金型の間の平行度を補正する必要があり、手間の掛かる作業が増えてしまう。また、その平行度の補正方法は、金型取り付け部材による金型装置の締め付け力を調整して行われる。場合によっては、金型取り付け部材の締め付けのゆるみの原因となって、成形を繰り返す間に平行度を悪くする。
【0012】
それならば、断熱板の材質を強度の高いセラミックスにすれば、金型装置をプラテンに取り付けた際の断熱板の厚み寸法に対する圧縮量を小さくでき、固定側と可動側の金型の平行度を高い精度で維持することができる。しかし、セラミックスからなる断熱板は、ガラス繊維などを主基材とする断熱板に比べて価格が高く、また、ガラス繊維などを主基材とする断熱板の熱伝導率が0.3(W/(m・k))程度であるのに対して、セラミックスの中でも熱伝導率が低いジルコニアであっても3(W/(m・k))程度と断熱性能に関して劣る部分もある。
【0013】
そこで、本発明は、上記の問題を解決するためのものであり、型締装置のプラテンと金型装置の間に断熱板を挟む形でその金型装置をその型締装置に取り付ける際に、固定側金型と可動側金型の間の平行度を高い精度で維持しながら、高い断熱性能と低い価格を実現する断熱板を備える射出成形機の型締装置を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の成形機の型締装置は、上記課題を解決するために、タイバによって連結された固定プラテンおよび支持プラテンと、それらのプラテン間で移動する可動プラテンとを含み、その固定プラテンに取り付けられた断熱板のその上から固定側金型が取り付けられ、その可動プラテンに取り付けられた断熱板のその上から可動側金型が取り付けられ、その金型の取り付けの際に、その固定側金型とその可動側金型が金型取り付け部材によって締め付けられるようにして固定される成形機の型締装置において、ヤング率の大きい材質で形成されるとともに前記断熱板の厚み寸法よりも大きい厚み寸法に形成された断熱スペーサが、その断熱板をその厚み方向に貫通する複数の断熱スペーサ用の貫通孔に挿嵌され、その断熱スペーサ用の貫通孔が、その断熱板の板面上の前記金型が面する領域内であって、その領域の中心点を通る上下方向と左右方向の直線に対して線対称の位置にそれぞれ形成される。
【0015】
また、本発明の前記断熱スペーサの材質が、セラミックスであると良い。
【0016】
また、本発明の前記断熱スペーサの材質が、セラミックスのうちのジルコニアであると良い。
【0017】
また、本発明の前記断熱スペーサが、円盤形状または円筒形状であって、その軸心に引っ掛け孔となる貫通孔を有すると良い。
【発明の効果】
【0018】
本発明の成形機の型締装置によれば、プラテンに取り付けられた断熱板のその上から金型装置を取り付ける際に、ヤング率の大きい材質で形成され、その断熱板より厚み寸法の大きい断熱スペーサを、その断熱板の所定位置に貫通するように備えて、その断熱板自体には金型装置を当接させないで、圧縮量の小さい断熱スペーサにだけ金型装置を当接させるようにすることで、固定側金型と可動側金型の間の平行度を高精度に維持できる。その断熱スペーサによって、金型装置に当接するその断熱スペーサの当接面の面積を小さくすることや、その金型装置に当接させる断熱スペーサの個数を減らすことで、その金型装置からプラテンへの熱伝導を小さくし、断熱効果を高めることができる。そして、その断熱スペーサは、その材質が高価なものであっても、金型装置の断熱板側に面した面の、その一部と当接される大きさであれば良いので、その全部と当接されるような、つまりは断熱板全体を製作するよりはるかに安価に製作できる。
【0019】
また、本発明の成形機の型締装置によれば、上記の断熱スペーサの材質を高強度のセラミックスにすることで、断熱スペーサ自体の圧縮量を小さくして、型締装置に取り付けられた固定側金型と可動側金型の間の平行度が高い精度で維持できる。
【0020】
また、本発明の成形機の型締装置によれば、上記の断熱スペーサの材質をセラミックスの中でも熱伝導率が低いジルコニアにすることで、金型装置を取り付ける際の締め付け力や型締装置の型締力が大きくて、どうしても金型装置と当接する断熱スペーサの当接面を大きくしなければならない場合に、断熱性能を損なうことなくその面積を大きくできる。
【0021】
また、本発明の成形機の型締装置によれば、上記断熱スペーサを円盤形状または円筒形状とすることで、その加工を容易にし、また、その軸心に貫通孔を形成することで、プラテンに断熱板を取り付けた状態でも軸心部の貫通孔に棒などを突き刺すなどして引っ掛けることでその断熱スペーサの取り外しを容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の成形機の型締装置を概略的に示し、操作側から観た立面図である。
【図2】図1の固定プラテンと可動プラテンの部分を拡大した一部断面図を含む立面図である。
【図3】図2の固定プラテンのA−A矢視図である(点線は、固定側金型を断熱板上に取り付けた様子を示す。)。
【図4】図2の可動プラテンのB−B矢視図である(点線は、可動側金型を断熱板上に取り付けた様子を示す。)。
【図5】図(a)が図3の固定側の断熱スペーサ近辺のC−C断面図を示し(括弧の符合は、可動側に置き換えた場合を示す)、図(b)が図(a)のD−D矢視図を示す。
【図6】本発明の断熱スペーサの別の実施態様であって、図(a)が、図3の固定側の断熱スペーサ近傍のC−C断面図を示し(括弧の符合は、可動側に置き換えた場合を示す)、図(b)が図(a)のE−E矢視図を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の射出成形機の型締装置は、図1ないし図6で示される。図1は、本発明の実施形態における射出成形機の型締装置を概略的に示した操作側から観た立面図である。図2は、図1の固定プラテンと可動プラテンの部分を拡大した一部断面図を含む立面図である。図3は、図2の固定プラテンのA−A矢視図である(点線は、固定側金型を断熱板上に取り付けた様子を示す。)。図4は、図2の可動プラテンのB−B矢視図である(点線は、可動側金型を断熱板上に取り付けた様子を示す。)。図5は、図(a)が図3の固定側の断熱スペーサ近辺のC−C断面図を示し(括弧の符合は、可動側に置き換えた場合を示す)、図(b)が図(a)のD−D矢視図を示す。図6は、本発明の断熱スペーサの別の実施態様であって、図(a)が、図3の固定側の断熱スペーサ近辺のC−C断面図を示し(括弧の符合は、可動側に置き換えた場合を示す)、図(b)が図(a)のE−E矢視図を示す。なお、図1ないし図6において、型締装置の操作側や反操作側の方向を左右方向とし、各図の型締装置の上側や下側の方向を上下方向と言う。
【0024】
型締装置1は、タイバ10によって連結された固定プラテン11とバックプラテン12と、それらのプラテン間で移動する可動プラテン13、そして、可動プラテン13を固定プラテン11に対して進退させて押圧する駆動装置14を機台2の上に備える。固定プラテン11には、金型装置20の固定側金型20aが取り付けられ、可動プラテン13には、金型装置20の可動側金型20bが取り付けられる。金型装置20の取り付けは、複数個の金型取り付け部材16によって固定プラテン11側または可動プラテン13側に締め付けて固定するようにされる。駆動装置14は、可動プラテン13を可動側金型20bとともに進退させて型開閉し、押圧して型締めする装置であり、例えば油圧駆動あるいは電動油圧駆動の直圧式型締装置やトグル式型締装置などがある。成形材料を可塑化して射出する射出装置3(その全体図は省略)は、型締装置1の固定プラテン11側に配置される。
【0025】
上記の固定プラテン11と可動プラテン13は、向かい合うそれらの金型取り付け面11a、13aが高精度な平行度を維持するように設置される。例えば、固定プラテン11に対して進退する可動プラテン13は、その可動プラテンの四隅に備えるリニアブッシュ18にタイバ10を通すタイプや、図示省略されるが、機台上に備えるリニアガイドにその可動プラテンの下端を載せるタイプがある。それによって、進退する可動プラテン13の真直性を高めて、固定プラテン11と可動プラテン13の間の平行度を維持するようにしている。
【0026】
さらには、図示省略されるが、3つのプラテンがその上下の中心位置で支持部材によって機台上に支持され、固定プラテンと支持プラテンが機台に固定され、可動プラテンがタイバに懸架されることなく機台上のリニアガイドに案内され、そして、それら3つのプラテンがその下端面の中心位置で型開閉方向と直交する横断方向への位置ずれを規制する基準部材と嵌合されるようにしたタイプがある。それによって、それら3つのプラテン及びその周囲の温度が変化しても、それらプラテン自体で生じる熱伸びがそれらの中心位置を基準に上下左右に対称に伸びて、固定プラテンと可動プラテンの間の中心位置と平行度を鉛直方向にも横断方向にも狂わせないようにするものもある。
【0027】
なお、固定プラテン11には、その中心位置に金型装置20のロケートリング21をはめ込むとともに、射出装置3の射出ノズル3aを通すための孔11bが形成されている。また、可動プラテン13には、その中心位置あるいは所定位置に突き出し装置(図示省略)のエジェクタロッド17を通す孔13bが形成されている。そして、固定プラテン11と可動プラテン13には、後述する断熱板30を固定するためのねじ32aや、後述する金型取り付け部材などの締め付けボルト16cのためのねじ穴を備えている。
【0028】
固定側金型20aと可動側金型20bは、そのような固定プラテン11と可動プラテン13に、それぞれ断熱板30を介して取り付けられる。その金型装置20には、金型装置20自体の温度を設定温度に維持するための温度調節用の配管(図示省略)を備えている。その配管には、外部の温度調節器から延びる配管(図示省略)が接続され、温度調節された水や油などの熱媒体を循環させるようになっている。22aは、固定側金型20aの固定プラテン11側に備える固定側取り付け板である。22bは、可動側金型20bの可動プラテン13側に備える可動側取り付け板である。もちろん、固定側金型20aと可動側金型20bは、プラテン側の面23a、23bやパーティング面の平行度が高い精度で形成されている。
【0029】
固定側金型20aおよび可動側金型20bは、固定側取り付け板22aおよび可動側取り付け板22bの周縁部の複数箇所を締め付けるように、複数の金型取り付け部材16を使用して取り付けられる。その金型取り付け部材16には、例えば、マツバ材16aとカマシ材16bと締め付けボルト16cからなる装置がある。マツバ材16aは、板状または2本の平行した角棒からなるもので、その真ん中に締め付けボルト16cを通す孔または空間を有する。カマシ材16bは、その厚み寸法が固定側取り付け板22aおよび可動側取り付け板22bの厚み寸法と同じ寸法に形成された部材である。それで、その装置は、マツバ材16aの一端が固定側取り付け板22aまたは可動側取り付け板22bを押さえ、他端がカマシ材16bを押さえた状態で、プラテン11、13に対してマツバ材16aを締め付けボルト16cで締め付けることで金型装置20を固定する。
【0030】
ここからは、本発明の特有の構成が説明される。本発明では、成形機の型締装置1において、後述する断熱スペーサ40を備える断熱板30を固定プラテン11および可動プラテン13に取り付けて、その断熱板30の上から金型装置20が取り付けられる。断熱板30には、断熱スペーサ40が挿嵌される断熱スペーサ用の貫通孔31と、断熱板30自身をプラテン11、13に固定するねじ32aを通すための断熱板取り付け用の貫通孔32と、金型取り付け部材16の締め付けボルト16cを通すための金型取り付け部材用の貫通孔33とを、それぞれ所定位置に所定個数が形成される。それに加えて、固定側に取り付けられる断熱板30aには、その中心位置に固定側金型20aのロケートリング21をはめ込むとともに、射出装置3の射出ノズル3aを通すためのロケートリング用の貫通孔34が形成される。また、可動側に取り付けられる断熱板30bには、その中心位置または所定位置に突き出し装置(図示省略)のエジェクタロッド17を通すエジェクタロッド用の貫通孔35が形成されている。
【0031】
断熱板30は、その上側と下側と操作側と反操作側のそれぞれ1カ所をねじ止めされて固定プラテン11と可動プラテン13に取り付けられている。その断熱板30には、金型装置20が面する領域36内に複数の断熱スペーサ用の貫通孔31が形成されて、その孔31に断熱スペーサ40が貫通するように挿嵌される。図5のように、断熱スペーサ40は、その厚み寸法dが断熱板30(固定側が30a、可動側が30b)の厚み寸法dより大きく(d>d)形成されていて、プラテン11、13に当接するまで挿嵌されても断熱板30の金型装置20側の表面から突き出している。その断熱スペーサの厚み寸法dは、断熱板の厚み寸法dに対して0.1(mm)ないし0.5(mm)大きいと良い。そして、金型装置20が、その金型装置の固定側および可動側取り付け板22a、22bに対して、操作側の上側と下側および反操作側の上側と下側を、金型取り付け部材16で締め付けられて断熱板30の上から固定プラテン11と可動プラテン13に取り付けられる。その際、その断熱スペーサ40が金型取り付け部材16の締め付け力によって圧縮される圧縮量Δdは、金型装置を取り付ける前において、その断熱スペーサ40が断熱板30から突き出している量(=d−d)に比べて小さい(Δd<(d−d))。そして、その圧縮量Δdは、数μm程度にされると良い。そのため、その断熱スペーサ40は、ヤング率の大きい材質で形成される。
【0032】
それによって金型装置20は、断熱板30の上から固定側と可動側のプラテン11、13に取り付けても、その断熱スペーサ40にのみ当接されて、断熱板30自体に当接されない。断熱スペーサ40は、ガラス繊維などを主基材とする断熱板に比べてその圧縮量Δdが小さくされて、金型装置20の取り付け時に生じる固定側金型20aと可動側金型20bの間の平行度の狂いを防止して、その平行度を精度良く維持できる。
【0033】
また、ヤング率の大きい材質で形成される断熱スペーサ30は、固定側金型20aに当接するすべての断熱スペーサ40の当接面41の合計した面積、または、可動側金型20bに当接するすべての断熱スペーサ40の当接面41の合計した面積を、それら金型装置20の断熱板側の面の面積に比べて小さくできる。したがって、例えば、従来のように固定側金型20aのロケートリング21を除く固定プラテン11側の面23a全体(その面積S)を、熱伝導率の小さいガラス繊維などを主基材とした断熱板で当接するようにして断熱したときの断熱効果と比較して、その固定プラテン11側の面23aの所定箇所だけを、従来に比べ熱伝導率の大きい材質でできた複数の断熱スペーサ40のみで当接するようにして断熱したときの断熱効果は、その金型20aに当接する断熱スペーサ30の当接面41(1個当たりのその当接面の面積S)の合計した面積Sを小さくすることで同等以上に調整することが可能となる。また、断熱スペーサ40の材質が高価な場合でも、金型装置20の断熱板30に面する面をすべて覆う必要がないので、価格を低く抑えることができる。
【0034】
また、断熱スペーサ40が金型装置20に当接する位置は、断熱板30の金型装置20が面する領域36内にあけられた断熱スペーサ用の貫通孔31に挿嵌されることで決定される。その貫通孔31の位置は、その断熱板30の板面上の金型装置20が面する領域36内であって、その板面上の中心点37を通る上下方向と左右方向の直線に対して線対称の位置にそれぞれ形成される。これは、金型の取り付け時や型締時において、金型装置20が受ける圧力が上側と下側で均等、そして、右側(操作側)と左側(反操作側)で均等にするためである。また、その位置は、少なくとも金型装置20が金型取り付け部材16によって締め付けられる位置あるいはその近傍の位置にあると良い。これは、断熱スペーサ40と金型取り付け部材16の位置によって、断熱スペーサ40の当接位置を頂点として、金型が湾曲するようなことを防止するためである。また、その位置は、金型装置20内のその軸心方向に延びる樹脂流路に対して、その延長線上の位置にあっても良い。
【0035】
また、断熱スペーサ40用の貫通孔31が、前もって断熱スペーサ40の個数より多く形成されて、断熱スペーサ40を抜き差しして、その位置を変更できるようにしても良い。断熱スペーサ40の抜き差しには、図6のように断熱スペーサ40の軸心に引っ掛け孔42を形成すると良い。なお、断熱板30は、金型取り付け部材16を使用でき、各種貫通孔を形成でき、金型装置20からの輻射熱を断熱できればいかなる材質でも構わない。例えば、断熱板30には、従来のガラス繊維などを主基材とする断熱板が使われても良い。
【0036】
以下、金型装置20の固定側金型20aを例に、さらに詳しく説明される。固定側金型20aに備える固定側取り付け板22aは、固定側断熱板30a側の面23aが1辺L=L=170(mm)であって、その面23aの中心にロケートリング21を備える。固定側の断熱板30aには、ロケートリング21をはめ込むための内径寸法R=42(mm)の貫通孔34があいている。従来は、そのロケートリング21部分を除いた固定側取り付け板22aの固定側断熱板30a側の面23aが、その断熱板30aに当接されていた。その当接した面積Sは、
=L・L−π・(R/2)=約27515(mm
とされる。ちなみに、従来の断熱板には、熱伝導率λ=約0.3(W/(m・k))のガラス繊維などを主基材するものであって、厚み寸法d=10(mm)を想定する。
【0037】
本発明では、従来の断熱板にかえて、断熱板の本体に断熱スペーサ40を挿嵌させた断熱板30を用いる。断熱板30は、上記従来のガラス繊維などを主基材とするもので、厚み寸法d=10mmとする。その断熱板30の本体は、金型装置20と当接しないが、断熱スペーサ40を所定箇所に設置し、金型装置20からの輻射熱を防止するために必要である。なお、断熱板30本体の材質については、ガラス繊維などを主基材とするものに限定されない。
【0038】
実際に固定側金型20aに当接される断熱スペーサ40は、セラミックスのうちの熱伝導率λ=約3(W/(m・k))であるジルコニアからなり、厚み寸法d=10.1(mm)の円盤形状または円筒形状のものがn=8個用意される。そのジルコニアは、ヤング率(E=206(GPa))が高く、また、セラミックスの中でも熱伝導率が低い材質である。しかし、ジルコニアの熱伝導率λは、従来の断熱板の熱伝導率λに比べて約10倍ある。そのため、従来の断熱板の断熱効果をジルコニアからなる断熱スペーサ40で実現するためには、本実施例では従来の断熱板と断熱スペーサ40の厚み寸法の差が0.1(mm)程度違うだけなので、断熱スペーサ40が固定側金型20aと当接する面積の合計面積Sを、従来の断熱板が固定側金型20aと当接する面積Sの約10分の1にすれば良い。そのため、すべての断熱スペーサ40が固定側金型20aと当接する面積の合計面積Sが、
=S・(d/d)・(λ/λ)=約2779(mm
とされる。したがって、本実施例では、固定側の断熱スペーサ40がn=8個の場合、その断熱スペーサ40の1個あたりの固定側金型20aと当接する面41の面積Sが、
=S/n=約347(mm
とされる。ここで、本実施例の断熱スペーサ40は、円盤形状または円筒形状に形成されるので、その外径寸法Rは、
=2・{√(347/π)}=約20(mm)
とされる。そして、断熱板30aに形成される断熱スペーサ用の貫通孔31の内径寸法は、外形寸法Rの断熱スペーサ40が挿入され嵌め込まれるとともに抜き取ることもできる寸法に形成されると良い。
【0039】
上記では、まず熱伝導率をもとにして断熱スペーサ40の各寸法を計算で求めた。つぎに、その断熱スペーサ40が、金型取り付け部材16による締め付け力を負荷されてどれだけ圧縮されるかを確認し、各寸法が妥当であるか確認する。なお、円盤形状の断熱スペーサ40は、その厚み寸法d=10.1(mm)、その外径R=20(mm)として、その1個あたりの固定側金型20aに当接する面の面積Sは、
=π・(R/2)=314(mm
とする。そして、固定側には、n=8個の断熱スペーサ40が使用される。
【0040】
固定側金型20aは、その金型の固定プラテン11側に備える固定側取り付け板22aの周縁部を複数個の金型取り付け部材16で断熱板30aの上から固定プラテンに対して締め付けるようにして型締装置1に取り付けられる。実施例では、その固定側取り付け板22aを、型締装置1の操作側および半操作側に対して上下2個の合計m=4個の金型取り付け部材16で締め付けることで断熱板30aの上から取り付けられる。1個の金型取り付け部材16は、締め付けボルト16cとして、M10のボルトが1本使用されるとする。そのボルト16cは、2.4系列、外径R=10(mm)、基本トルク(締め付けトルク)T=59(N・m)である。トルク係数k=0.2とすると、ボルト1本当たりのボルト軸力Nは、
N=T/(R・k)=29.5(kN)
となる。そして、m=4個の金型取り付け部材16を使用するので、4本のボルト軸力を合計したボルト軸力Nは、
=m・N=118(kN)
となる。
したがって、1個当たりの断熱スペーサが受ける締め付け力Pは、
=N/(n・S)=約47(MPa)
となる。本実施例の断熱スペーサ40は、セラミックスの中のジルコニアで形成されているので、前述のとおりそのヤング率E=206GPaである。それより、断熱スペーサの歪み率εは、
ε=P/E=約0.00023
となる。
したがって、断熱スペーサの厚み寸法に対する圧縮量Δdは、
Δd=ε・d=2.3(μm)
となる。ちなみに、圧縮量Δd=5(μm)にするには、締め付けボルト16cの1本当たりの締め付けトルクT=129(N・m)のとき、つまりは基本トルクの略2倍のときとなる。
【0041】
断熱スペーサ40は、金型取り付け部材16による締め付け力以外にも、型締装置による型締力を負荷される。本実施例では、成形する成形品やその金型装置20の大きさなどから、型締装置1の最大型締力P=98(kN)とした。最大型締力Pが負荷された際に、1本当たりの断熱スペーサ40が受ける圧力Pは、
=P/(n・S)=39(MPa)
となる。
その際の断熱スペーサの歪み率εは、
ε=P/E=約0.00019
となる。
したがって、断熱スペーサの厚み寸法に対する圧縮量Δdは、
Δd=ε・d=1.9(μm)
となる。最大型締力Pを負荷しても断熱スペーサ40の圧縮量は、小さいものとなる。
【0042】
ここまで固定側金型20aおよび固定側の断熱板30aを例に説明してきたが可動側金型20bおよび可動側の断熱板30bに関しても同じである。可動側金型20bの場合には、エジェクタロッド17が通る貫通孔35の部分が、可動側金型20bと断熱板30bの当接されない箇所となる。通常は、固定側と可動側ともに同じ個数、同じ形状、そして、同じ寸法の断熱スペーサ40を同じ位置に使用しても構わない。しかし、それに限定されるものでなく、固定側と可動側で、断熱スペーサ40の形状、寸法、個数を違えても良いし、金型に当接する位置を違えても良い。また、固定側と可動側の両側に断熱スペーサ40を備える断熱板30を取り付けるように説明してきたが、固定側または可動側のどちらか一方でも構わない。なお、実施例では、円盤形状または円筒形状の断熱スペーサ40で説明したが、その形状は必要に応じた形状に形成されれば良い。
【0043】
上記のように金型装置20が断熱スペーサ40を備えた断熱板30の上から、金型取り付け部材16を使ってプラテン11、13に固定されても、断熱スペーサ40の圧縮量Δdは、数μmに押さえられる。そのため、従来のように、金型装置20を取り付ける際に、断熱板30が圧縮されて、固定側金型20aと可動側金型20bの間の平行度が狂うのを抑えて、その平行度を高精度に維持することができる。そのうえ、断熱効果は、従来の断熱板による効果と同等であり、加温された金型装置20から伝わる熱がプラテン11、13に伝導するのを十分に抑えて、プラテン11、13などの型締装置1の歪みを抑えることができる。
【符号の説明】
【0044】
1 型締装置
11 固定プラテン
13 可動プラテン
16 金型取り付け部材
20a 固定側金型
20b 可動側金型
22a 固定側取り付け板
22b 可動側取り付け板
30 断熱板
30a 固定側の断熱板
30b 可動側の断熱板
31 断熱板の断熱スペーサ用の貫通孔
33 断熱板の金型取り付け部材用の貫通孔
34 固定側の断熱板のロケートリング用の貫通孔
35 可動側の断熱板のエジェクタロッド用の貫通孔
36 断熱板の金型装置が面する領域
40 断熱スペーサ
41 断熱スペーサの金型装置に当接する面
42 断熱スペーサの引っ掛け孔
断熱スペーサの外形寸法
断熱スペーサの厚み寸法
断熱板の厚み寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイバによって連結された固定プラテンおよび支持プラテンと、それらのプラテン間で移動する可動プラテンとを含み、その固定プラテンに取り付けられた断熱板のその上から固定側金型が取り付けられ、その可動プラテンに取り付けられた断熱板のその上から可動側金型が取り付けられ、その金型の取り付けの際に、その固定側金型とその可動側金型が金型取り付け部材によって締め付けられるようにして固定される成形機の型締装置において、
ヤング率の大きい材質で形成されるとともに前記断熱板の厚み寸法よりも大きい厚み寸法に形成された断熱スペーサが、その断熱板をその厚み方向に貫通する複数の断熱スペーサ用の貫通孔に挿嵌され、
その断熱スペーサ用の貫通孔が、その断熱板の板面上の前記金型が面する領域内であって、その領域の中心点を通る上下方向と左右方向の直線に対して線対称の位置にそれぞれ形成されることを特徴とする成形機の型締装置。
【請求項2】
前記断熱スペーサの材質が、セラミックスであることを特徴とする請求項1記載の成形機の型締装置。
【請求項3】
前記断熱スペーサの材質が、セラミックスのうちのジルコニアであることを特徴とする請求項2記載の成形機の型締装置。
【請求項4】
前記断熱スペーサが、円盤形状または円筒形状であって、その軸心に引っ掛け孔となる貫通孔を有することを特徴とする請求項1ないし請求項3記載の成形機の型締装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−11483(P2011−11483A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−158446(P2009−158446)
【出願日】平成21年7月3日(2009.7.3)
【出願人】(301056270)株式会社ソディックプラステック (35)
【Fターム(参考)】