説明

成形焼き菓子の製造方法

【課題】塩を含む原料であっても焦げを発生させることなくより短時間で良好な発泡・焼成を可能とする成形焼き菓子の製造方法を提供すること。
【解決手段】成型焼き菓子の製造方法は、ヒータを内蔵した嵌合可能な一対の雄型と雌型からなる発泡成形用の金型を用い、前記ヒータにより予め所定温度に予熱した雄型と雌型の間に塩を含む原料を介在させて雄型と雌型を嵌合させ、金型内で原料を加熱して発泡・焼成することにより焼き菓子を成形する工程を備え、金型内で原料を加熱する前記工程は、雄型と雌型を介して負荷としての原料に高周波を印加して誘電加熱する工程を含み、誘電加熱工程が、高周波発振回路と、インピーダンス整合回路とを用い、高周波発振回路と負荷とのインピーダンスを整合させながら、高周波発振回路の出力を、高周波印加開始から所定時間だけ一定値に維持した後、段階的に低下させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、成形焼き菓子の製造方法に関し、詳しくは金型内で原料を誘電加熱して発泡・焼成する成形焼き菓子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この発明に関連する先行技術としては、金型内で原料を誘電加熱して発泡・焼成するにあたり、原料中の水分残量が少ない加熱後期における交流電源の出力が、原料中の水分残量が多い加熱初期における交流電源の出力よりも低くなるように切り替える成形焼き菓子の製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4101832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アイスクリームやソフトクリームのコーンカップのような成形焼き菓子の製造方法として、主に小麦粉、澱粉、塩、砂糖および水等からなる原料を予め所定の温度に予熱された金型に供給し、供給された原料に高周波発振回路から高周波を印加して誘電加熱し、金型内で発泡・焼成する前記のような方法が知られている。
このような製造方法において、原料の発泡・焼成に要する時間を短縮するために高周波発振回路の出力を上げることが考えられる。
【0005】
しかしながら、単に高周波発振回路の出力を上げると水分値が低くなる加熱後期において焼成が過剰となり成形焼き菓子に焦げが発生する。
特に、原料に塩が含まれる場合には、原料の導電性が高まり高周波電流が集中することでジュール熱による過加熱が起こるため、塩を含まない場合と比較して焦げが顕著に発生し易くなる。
とはいえ、原料に含まれる塩は成形焼き菓子の食味を引き立てる大切な要素であり、原料から塩を省くことは好ましくない。
【0006】
この発明は以上のような事情を考慮してなされたもので、塩を含む原料であっても焦げを発生させることなくより短時間で良好な発泡・焼成を可能とする成形焼き菓子の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、ヒータを内蔵した嵌合可能な一対の雄型と雌型からなる発泡成形用の金型を用い、前記ヒータにより予め所定温度に予熱した雄型と雌型の間に塩を含む原料を介在させて雄型と雌型を嵌合させ、金型内で原料を加熱して発泡・焼成することにより焼き菓子を成形する工程を備え、金型内で原料を加熱する前記工程は、雄型と雌型を介して負荷としての原料に高周波を印加して誘電加熱する工程を含み、誘電加熱工程が、高周波発振回路と、インピーダンス整合回路とを用い、高周波発振回路と負荷とのインピーダンスを整合させながら、高周波発振回路の出力を、高周波印加開始から所定時間だけ一定値に維持した後、段階的に低下させることを特徴とする成形焼き菓子の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、原料に高周波を印加して誘電加熱する誘電加熱工程において、高周波発振回路の出力を、高周波印加開始から所定時間だけ一定値に維持した後、段階的に低下させるので、原料の水分値に見合った出力で高周波を効率よく安定して印加でき、塩を含む原料であっても焦げを発生させることなく短時間で良好に発泡・焼成できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態に係る成形焼き菓子の製造方法で製造された成形焼き菓子の正面図である。
【図2】図1に示される成形焼き菓子の平面図である。
【図3】図1のA−A矢視断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る成形焼き菓子の製造方法を説明する工程図である。
【図5】本発明の実施形態に係る成形焼き菓子の製造方法を説明する工程図である。
【図6】本発明の実施形態に係る成形焼き菓子の製造方法で用いられる高周波誘電加熱装置の構成を示す説明図である。
【図7】図6に示される高周波誘電加熱装置の動作を示すフローチャートである。
【図8】本発明の実施例1における高周波誘電加熱時の各部の時間的変化を示す特性図である。
【図9】本発明の実施例2における高周波誘電加熱時の各部の時間的変化を示す特性図である。
【図10】比較例1における高周波誘電加熱時の各部の時間的変化を示す特性図である。
【図11】比較例2における高周波誘電加熱時の各部の時間的変化を示す特性図である。
【図12】本発明の実施例3における高周波誘導加熱時の各部の時間的変化を示す特性図である。
【図13】比較例3における高周波誘導加熱時の各部の時間的変化を示す特性図である。
【図14】比較例4における高周波誘導加熱時の各部の時間的変化を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
この発明による成形焼き菓子の製造方法は、ヒータを内蔵した嵌合可能な一対の雄型と雌型からなる発泡成形用の金型を用い、前記ヒータにより予め所定温度に予熱した雄型と雌型の間に塩を含む原料を介在させて雄型と雌型を嵌合させ、金型内で原料を加熱して発泡・焼成することにより焼き菓子を成形する工程を備え、金型内で原料を加熱する前記工程は、雄型と雌型を介して負荷としての原料に高周波を印加して誘電加熱する工程を含み、誘電加熱工程が、高周波発振回路と、インピーダンス整合回路とを用い、高周波発振回路と負荷とのインピーダンスを整合させながら、高周波発振回路の出力を、高周波印加開始から所定時間だけ一定値に維持した後、段階的に低下させることを特徴とする。
【0011】
この発明による成形焼き菓子の製造方法において、ヒータを内蔵した嵌合可能な一対の雄型と雌型からなる発泡成形用の金型とは、嵌合時に成形すべき焼き菓子の形状に対応したキャビティを形成し、該キャビティ内で原料を加熱し発泡させた際に生じるガスや水蒸気を外部へ適宜放出させることができるように構成された金型を意味する。ヒータは金型を所望の温度に管理するために雄型と雌型の両方に設けられていることが好ましい。
【0012】
また、原料とは、成形焼き菓子の原料であって発泡成形用の金型で成形できるように水分と塩を含んで調製されたものを意味する。
原料としては、特に限定されるものではないが、例えば、小麦粉、澱粉、塩、砂糖および水からなり流動性を有するものを用いることができる。原料には若干量の膨化剤、油脂、香料等が含まれていてもよい。
原料に占める水の比率(原料の水分値)は、特に限定されるものではないが、例えば55〜65重量%程度とすることができる。
原料が上記のような量の水分を含有することにより、原料を発泡させるのに十分な量の水蒸気を発生させつつ、比較的短時間のうちに良好な組織の発泡層からなる成形焼き菓子を焼成することが可能となる。
【0013】
すなわち、原料の水分値が約65重量%を超えると原料に占める固形分の比率が相対的に低下し、焼成時に成形物から水蒸気を抜くのに多くの時間を要するばかりでなく、発泡層の組織が疎になり適切なクリスピー感のある食感が得られなくなる。
一方、原料の水分値が約55重量%を下回ると原料に占める固形分の比率が相対的に高くなって発泡し難くなり、発泡層の組織が密になり適切なクリスピー感のある食感が得られなくなる。
このため、この発明において原料の水分値は55〜65重量%程度が好適である。
なお、この発明においては原料の水分値が約2.0重量%以下になったことをもって焼成が完了した状態とする。
【0014】
この発明による成形焼き菓子の製造方法において、原料に占める塩の比率は、例えば0.1〜0.5重量%程度とすることができる。
【0015】
この発明による成形焼き菓子の製造方法において、誘電加熱工程は、雄型と雌型を嵌合させた後、所定時間後に開始されてもよい。
このような構成によれば、原料が金型のキャビティに満注するか或いはそれに近い状態で高周波の印加を開始できるので、高周波がより一層安定して印加されるようになる。
【0016】
この発明による成形焼き菓子の製造方法において、高周波発振回路の出力の低下は、高周波発振回路への入力電圧を低下させることによって行われることが好ましい。
このような構成によれば、高周波発振回路の出力の調整を容易に行うことができる。
【0017】
以下、図面に基づいてこの発明の実施形態に係る成形焼き菓子の製造方法について説明する。
【0018】
本発明の実施形態に係る成形焼き菓子の製造方法について図1〜14に基づいて説明する。図1は本発明の実施形態に係る製造方法で製造された成形焼き菓子の正面図、図2は図1に示される成形焼き菓子の平面図、図3は図1のA−A矢視断面図である。
【0019】
図1〜3に示されるように、本発明の実施形態に係る製造方法によって製造された成形焼き菓子(コーンカップ)1は、後述する原料6を発泡・焼成して得られた発泡層2によって構成されている。成形焼き菓子1の胴部1bの周囲には縦方向に延びる複数のリブ1cが形成され、これにより厚みの薄い部分と厚い部分が交互に形成されている。
成形焼き菓子1は、図1に示される高さH1が約83mm、図2に示される直径D1が約76mmである。図3に示される発泡層2は、最も薄い部分の厚みT1が約2.0mm、最も厚い部分の厚みT2が約3.0mmである。また、焼成後の成形焼き菓子1に占める水分の比率は約1.5重量%である。
【0020】
以下、図1〜3に示される成形焼き菓子1の製造方法について図4および図5に基づいて説明する。図4および図5は本発明の実施形態に係る成形焼き菓子の製造方法を説明する工程図である。
本実施形態では、図4(a)に示されるように、一対の雄型3と雌型4とからなる発泡成形用の金型5が用いられる。雄型3と雌型4は図示しない電熱ヒータを内蔵しており、以下の工程においていずれも約200℃に予熱される。
【0021】
まず、図4(a)に示されるように、所定量(約16グラム)の原料6を雌型4に供給する。原料6は主に小麦粉、澱粉、塩、砂糖および水からなり、若干量の膨化剤、油脂、香料等のその他材料を含む。
【0022】
次に、図4(b)に示されるように、雄型3と雌型4を嵌合させる。雄型3と雌型4を嵌合させると成形焼き菓子1(図1参照)の形状に対応したキャビティ7が金型5に形成され、原料6がキャビティ7を満たすように流動する。
その後、図5(c)に示されるように、交流電源21に接続された高周波発振回路25からインピーダンス整合回路26と、雄型3および雌型4とを介してキャビティ7内の原料6に高周波の印加を開始する。
【0023】
高周波の印加が開始されると、キャビティ7内の原料6が誘電加熱され、原料6の発泡と焼成が速やかに進行する。この際、後述するように、本実施形態では原料6の水分値の変化に合わせて高周波発振回路25の出力が高周波印加開始から所定時間だけ一定に維持された後、段階的に低下させられる。
なお、雄型3と雌型4との当接部分にはキャビティ7内で発生した水蒸気を外部へ放散させる蒸気抜き孔(図示せず)が形成されている。
【0024】
高周波の印加開始から所定時間が経過すると高周波の印加を止め、図5(d)に示されるように雄型3と雌型4の嵌合を解いて金型5を開放すると図1〜3に示される成形焼き菓子1が得られる。
【0025】
以下、本実施形態で用いられる高周波誘電加熱について説明する。図6は本実施形態で用いられる高周波誘電加熱装置の構成を示す説明図である。
図6に示すように、高周波誘電加熱装置は、200Vの交流電源21の電圧を200V以下の任意の交流電圧Viに調整可能なサイリスタ式の電圧調整器22と、電圧調整器22の出力電圧Viを50倍に昇圧する昇圧トランス23と、昇圧トランス23の出力電圧を直流電圧Vpに変換する整流器24と、整流器24の出力電圧Vpと出力電流Ipからなる直流電力Piをうけて高周波電力Poを出力する高周波発振回路25と、電流Ipの大きさを検出する電流検出器32と、高周波発振回路25の高周波出力Poを雄型3と雌型4を介して原料6に供給するインピーダンス整合回路26とを備える。
【0026】
インピーダンス整合回路26は、高周波発振回路25と負荷(原料6)とのインピーダンスを整合させるための回路である。
インピーダンス整合回路26は、可変インダクタLsと固定コンデンサCsとの直列回路と、発振回路25の出力に並列接続される可変コンデンサCpと、可変インダクタLsのインダクタンスLを変化させるモータ27と、可変コンデンサCpのキャパシタンスCを変化させるモータ28とを備える。
また、雄型3と雌型4とを介して原料6を加圧するプレス装置(図示しない)は、雄型4と雌型5が嵌合したときに出力するプレスセンサ29を備える。
【0027】
制御部30は、CPU、ROM、RAMからなるマイクロコンピュータを備え、種々の加熱条件を入力設定する入力部31とプレスセンサ29と電流検出器32からの出力を受けて、電圧調整器22およびインピーダンス整合回路26のモータ27,28などを制御するようになっている。
【0028】
このような構成における動作を図7に示すフローチャートと、図8〜図14に示す特性図を用いて説明する。
図8〜図14は、高周波誘電加熱時のプレスセンサ29の出力信号Sと、電圧調整器22の出力設定信号Vと、可変インダクタLsのインダクタンスLと、可変コンデンサCpのキャパシタンスCと、発振回路25の入力電流Ipの時間tに対する変化を示す特性図である。なお、図12〜図14ではインダクタンスLとキャパシタンスCの変化特性は図示していない。
【0029】
図7に示すように、まずステップS0において初期設定が行われる。
つまり、入力部31より、予めインダクタンスLとキャパシタンスCの初期値に設定されると共に、電圧調整器22の出力設定信号V、プレスを嵌合させてから高周波発振回路25を出力させるまでの初期遅延時間t1、およびプレスを嵌合させてから高周波発振回路25の出力を停止させるまでの処理時間t2が設定される。
【0030】
次に、プレスを下降させ(ステップS1)、雄型3と雌型4の嵌合が完了してプレスセンサ29の出力信号SがONになる(ステップS2)。
初期遅延時間t1が経過すると(ステップS3)、高周波発振回路25の出力がONになって(ステップS4)、時間t2が経過するまで誘電加熱処理が実行される。
処理時間t2が経過すると(ステップS5)、高周波発振回路25の出力がOFFになり(ステップS6)、プレスが開放され、成形された原料6が取り出される(ステップS7)。
なお、本実施形態において初期遅延時間t1は必ずしも必要でなく、初期遅延時間t1を設けることなく一連の工程を実施することも可能である。初期遅延時間t1を設けない場合、初期遅延時間t1は零秒に設定される。
【0031】
実施例1
実施例1では、原料6全体に対する各材料の配合比率は小麦粉が34.6重量%、澱粉が13.8重量%、塩が0.1重量%、砂糖が2.1重量%、水が48.4重量%、その他材料が1.0重量%である。小麦粉や澱粉にも水分が含まれているため調製された原料6の水分値は57.5%となり、その性状はバッター(水生地)状である。
【0032】
図8は、この実施例において、初期遅延時間t1を1.0秒に設定し、電圧調整器22の出力設定信号Vを最高出力の90〜55%の8段階に設定し、プレス嵌合後から誘電加熱終了までの処理時間t2を14秒に設定し、誘電加熱を実行した時の実測特性を示す。
【0033】
これによると、信号SがONになって1.0秒後に電流Ipが立ち上がり、電流Ipが立ち上がって約7秒が経過してから電圧調整器22の出力設定信号Vが90%〜55%まで段階的に変化する。それに伴って電流Ipは最高値を約10秒間維持した後、徐々に減少する。
【0034】
インピーダンス整合回路26は、可変インダクタLsのインダクタンスLを時間と共に増大させ、可変コンデンサCpのキャパシタンスCを一定に維持して、加熱時間に伴って増大する原料6のインピーダンスに対応してあらかじめ設定した値に従い動作していることが分かる。このようにして、成形焼き菓子1は焦げを生じることなく短時間(14秒)で成形される。
【0035】
実施例2
原料6には実施例1と同じものを用いた。
図9は、実施例2において、初期遅延時間t1を、雄型3と雌型4との間に満注される時間を考慮して5.0秒に設定し、電圧調整器22の出力設定信号Vを最高出力の55〜40%の4段階に設定し、プレス嵌合後から誘電加熱終了までの処理時間t2を18秒に設定し、誘電加熱を実行した時の実測特性を示す。
【0036】
これによると、信号SがONになって5.0秒後に電流Ipが立ち上がり、電流Ipが立ち上がって約7.5秒が経過してから電圧調整器22の出力設定信号Vが55%〜40%まで段階的に変化する。それに伴って電流Ipは最高値を約7.5秒間維持した後、徐々に減少する。
【0037】
インピーダンス整合回路26は、可変インダクタLsのインダクタンスLと可変コンデンサCpのキャパシタンスCを時間と共に増大させ、加熱時間に伴って増大する原料6のインピーダンスに対応してあらかじめ設定した値に従い動作していることが分かる。
このようにして、成形焼き菓子1は焦げを生じることなく短時間(18秒)で成形される。
【0038】
比較例1
原料6には実施例1と同じものを用いた。
図10は比較例1の、図8に対応する特性図である。
図10は、この比較例において、初期遅延時間t1を1.0秒に設定し、電圧調整器22の出力設定信号Vを最高出力の100%一定に設定し、プレス嵌合後から誘電加熱終了までの処理時間t2を12秒に設定し、誘電加熱を実行した時の実測特性を示す。なお、金型5や原料6等、その他の条件は上述の実施例1および2と同様である。
【0039】
これによると、信号SがONになって1.0秒後に電流Ipが立ち上がり、処理時間t2が経過するまで電流Ipはほぼ一定に維持される。
つまり、比較例1では電圧調整器22の出力を100%に固定したまま11秒間にわたって高周波が印加される。
【0040】
比較例1の誘電加熱方法により製造された成形焼き菓子には、部分的に焦げと生焼けが発生していた。
これは、原料6に含まれる塩により原料6の導電性が高くなっているにも関わらず高出力の高周波を印加し続けたため、高周波が局部的に集中して印加され焼きムラが生じたためと考えられる。
【0041】
比較例2
原料6には実施例1と同じものを用いた。
図11は、比較例2の、図8に対応する特性図である。
図11は、この比較例において、初期遅延時間t1を1.0秒に設定し、電圧調整器22の出力設定信号Vを最高出力の70%に設定し、プレス嵌合後から誘電加熱終了までの処理時間t2を20.5秒に設定し、誘電加熱を実行した時の実測特性を示す。なお、金型5や原料6等、その他の条件は上述の実施例1および2と同様である。
【0042】
これによると、信号SがONになって1.0秒後に電流Ipが立ち上がり、処理時間t2が経過するまで電流Ipはほぼ一定に維持される。
つまり、比較例2では電圧調整器22の出力を比較例1よりも低い70%に固定したまま、比較的長い19.5秒間にわたって高周波が印加される。
【0043】
比較例2の誘電加熱方法により製造された成形焼き菓子には、焦げや生焼けが発生しておらず、水分値も2.0%以下となるまで焼成が完了していた。
比較例2から、塩を含む原料6であっても、低い出力の高周波を長時間にわたって印加すれば、焦げを発生させずに焼成できることが分かる。
但し、原料6の発泡・焼成に要する時間は実施例1および2よりも顕著に長くなる。
【0044】
比較例1および2から明らかなように、高周波発振回路25の出力を、高周波印加開始から所定時間だけ一定に維持した後、段階的に低下させることを特徴とする本実施形態に係る成形焼き菓子の製造方法は、塩を含む原料6であっても焦げを発生させることなく短時間で良好に発泡・焼成を行ううえで非常に効果的であることが分かる。
【0045】
実施例3
実施例3では、原料6全体に対する各材料の配合比率は小麦粉が34.6重量%、澱粉が13.8重量%、塩が0.3重量%、砂糖が1.9重量%、水が48.4重量%、その他材料が1.0重量%である。
つまり、実施例2の原料は、実施例1に比べて塩が0.1重量%から0.3重量%に増量されている。
【0046】
図12は、この実施例の図8に対応する特性図である。図12は、この実施例において、初期遅延時間t1を1.0秒に設定し、電圧調整器22の出力信号Vを最高出力43〜30%の4段階に設定し、プレス嵌合後から誘電加熱終了までの処理時間t2を26.0秒に設定し、誘電加熱を実行した時の実測特性を示す。
【0047】
これによると信号SがONになって1.0秒後に電流Ipが最高値に向かって立ち上がり、電流Ipが立ち上がって約5秒が経過してから15秒間にわたって出力設定信号Vが43%〜30%まで段階的に変化する。それに伴って電流Ipは最高値を約3秒間維持した後、段階的に低下する。このようにして、成形焼き菓子1は焦げを生じることなく26秒で成形された。
【0048】
比較例3
原料6には実施例3と同じものを用いた。
図13は比較例3の図12に対応する特性図である。図13は、この実施例において、初期遅延時間t1を1.0秒に設定し、電圧調整器22の出力信号Vを最高出力の30%に設定し、プレス嵌合後から誘電加熱終了までの処理時間t2を32.0秒に設定し、誘電加熱を実行した時の実測特性を示す。
【0049】
これによると、信号SがONになって1.0秒後に電流Ipが立ち上がり、その後、電圧調整器22の出力信号Vの設定値(最高出力の30%一定)に対応して低い値(図12のIpの最低値)に31秒間維持される。
このようにして成形焼き菓子1は焦げを生じることなく成形された。
【0050】
比較例4
原料6には実施例3と同じものを用いた。
図14は比較例4の、図12に対応する特性図である。
図14は、この実施例において、初期遅延時間t1を1.0秒に設定し、電圧調整器22の出力信号Vを最高出力の40%に設定し、処理時間t2を16秒に設定し、誘電加熱を実行した時の実測特性を示す。
【0051】
これによると、信号SがONになって1秒後に電流Ipが立ち上がり、その後、電圧調整器22の出力信号Vの設定値(最高出力の40%一定)に対応して高い値に15秒間維持される。
この場合には、成形焼き菓子1は焼け不足にもかかわらず、内底で焦げが発生した。
【0052】
実施例3と比較例3、4から明らかなように、原料において塩を増量した場合でも、誘電加熱用の高周波発振回路の出力を、高周波印加開始から所定時間だけ一定値に維持した後、段階的に低下させることにより、成形焼き菓子を、比較的短時間で焦げを生じさせることなく成形できることが分かる。
【符号の説明】
【0053】
1 成形焼き菓子
1b 胴部
1c リブ
2 発泡層
3 雄型
4 雌型
5 金型
6 原料
7 キャビティ
21 交流電源
22 電圧調整器
23 昇圧トランス
24 整流器
25 高周波発振回路
26 インピーダンス整合回路
27,28 モータ
29 プレスセンサ
30 制御部
31 入力部
32 電流検出器
Cp 可変コンデンサ
Cs 固定コンデンサ
Ls 可変インダクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒータを内蔵した嵌合可能な一対の雄型と雌型からなる発泡成形用の金型を用い、前記ヒータにより予め所定温度に予熱した雄型と雌型の間に塩を含む原料を介在させて雄型と雌型を嵌合させ、金型内で原料を加熱して発泡・焼成することにより焼き菓子を成形する工程を備え、金型内で原料を加熱する前記工程は、雄型と雌型を介して負荷としての原料に高周波を印加して誘電加熱する工程を含み、
誘電加熱工程が、高周波発振回路と、インピーダンス整合回路とを用い、高周波発振回路と負荷とのインピーダンスを整合させながら、高周波発振回路の出力を、高周波印加開始から所定時間だけ一定値に維持した後、段階的に低下させることを特徴とする成形焼き菓子の製造方法。
【請求項2】
原料に占める塩の比率が0.1〜0.5重量%である請求項1記載の成形焼き菓子の製造方法。
【請求項3】
誘電加熱工程は、雄型と雌型を嵌合させた後、所定時間後に開始される請求項1又は2記載の成形焼き菓子の製造方法。
【請求項4】
高周波発振回路の出力の低下は、高周波発振回路への入力電圧を低下させることによって行われる請求項1〜3のいずれか1つに記載の成形焼き菓子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−228224(P2012−228224A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99725(P2011−99725)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000226895)日世株式会社 (24)
【Fターム(参考)】