説明

成形用金型

【課題】 より確実に押出し板を後退限に戻すことができ、且つ、押出し板と油圧シリンダとの連結作業の負荷も軽減することができる成形用金型を提供する。
【解決手段】 成形用金型は、可動母型5と、押出し用油圧シリンダ23の油圧動力が伝達されて、可動母型5側へと前進摺動する押出し板11と、可動母型5及び押出し板11の間に設けられ、押出し板11を後退限側に付勢する撓み力を発生するスプリング14とを備えている。スプリング14の撓み力は、押出し板の摺動抵抗力と押出し用油圧シリンダの解放時戻し抵抗力とを加算した抵抗力よりも大きくなるように設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイカストを初めとする各種鋳造や樹脂成形などにおける成形用金型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、成形用金型として、例えば図5及び図6に示される構成のものが知られている。この成形用金型は、射出部を持ち移動することのない固定型81と、型の開閉動作のため移動する可動型82とを備えている。そして、可動型82は、成形体の形状を成形する可動中子83、可動中子83を保持する可動母型84、成形体のアンダーカット部を成形する移動中子85、移動中子85を保持するスライドホルダ86などからなるスライド機構部と、成形体を金型から取り出すための押出し板88、押出しピン89、押出しガイド棒90、押出し量を制限するための押出し板前進限ストッパー91、押出し後退位置(以下、「後退限」という)を決めるための押出し板後退限ストッパー92、押出しピン89(押出し板88)を確実に後退限まで戻すためのリターンピン93などからなる押出し機構部と、押出し板88などの収納スペースを確保するダイベース94とから構成されている。
【0003】
ここで、押出し機構部においては、成形体の成形後、金型を開いた状態で、成形機の押出し用の油圧シリンダ96の油圧動力が成形機側の部品(マシン部品)である押出し用、あるいは、押出し・引戻し用の連結棒97を介して押出し板88、並びにここに配置・支持された押出しピン89及びリターンピン93に伝達される。これによりこれら押出し板88等を前進させることで、成形体を金型より押し出す。この機能においては、金型キャビティ部品の構成に関わらず、連結棒97は、油圧シリンダ96及び押出し板88に固着させる必要はなく、動力を伝える媒体としてそれらの間に配置するだけでよい。
【0004】
次に、新たな成形に移行するため、押し出された押出しピン89及び押出し板88を後退限まで戻す動作が必要になる。通常、アンダーカット形状を成形する移動中子85を有しないキャビティ部品で構成される金型の場合は、上記油圧シリンダ96により押し出された押出しピン89及び押出し板88を後退限まで戻す必要はない。これは、型締め時、押出し板88に配置・支持されたリターンピン93の先端がこれに対向する固定型81によって押圧され、これらが押し戻されることによる。従って、この場合も、連結棒97は、油圧シリンダ96及び押出し板88に固着させる必要はなく、動力を伝える媒体としてそれらの間に配置するだけでよい。
【0005】
しかしながら、アンダーカット形状を成形する移動中子85を有するキャビティ部品で構成され、且つ、移動中子85の裏側に押出しピン89が配置される金型の場合は、型締め前に移動中子85を移動させる必要があることから、事前に押出しピン89を後退限まで戻さなければならない。従って、連結棒97の一端及び他端は、それぞれ油圧シリンダ96及び押出し板88に機械的締結等で連結されている。また、油圧シリンダ96との連結部には、通常、押出し・引戻し方向に若干の遊びがあるため、押出しピン89がその遊び分だけキャビティ内に突出して成形体に食い込むことがないよう、型締め時に確実に押出しピン89及び押出し板88を後退限まで戻すためのリターンピン93の設置が必要になる。
【0006】
なお、成形機側では、電磁切替弁98に出力される制御信号にて油圧動力による押出し・引戻しの動作が制御されている。そして、この動作制御に係る押出し板88の後退位置を検知するセンサは、例えば成形機側の油圧シリンダ96と同期した装置に設置されている。
【特許文献1】特許第2808056号明細書(第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、このように押出し板88の後退限までの移動をリターンピン93で行う金型の構成では、リターンピン93を支持する分、押出し板88が大型化することになる。そして、ダイベース94は、押出し板88の収容スペースが増大する分だけ可動母型84からの荷重を受ける支柱94aが制限されて、可動母型84の撓みを許容する低剛性の金型となる。そして、金型の剛性不足に起因して、成形体にバリ、フラッシュなどが生じ、ひいては、成形体の品質不良の発生や金型の短寿命化を余儀なくされている。
【0008】
また、金型段取替え時、連結棒97の一端及び他端をそれぞれ押出し板88及び油圧シリンダ96に機械的締結等で連結する必要があり、重量物が占有する狭い空間での煩雑な作業となって、長時間を要することになる。
【0009】
一方、こうした作業の負荷を軽減するために、連結棒97と押出し板88及び油圧シリンダ96との連結に関し、油圧又は空圧を利用したオートクランプ装置を採用することも考えられる。しかしながら、既存の装置に追加するには多大なコストを要することになる。また、いずれにせよ、押出し板を後退限まで戻すためにリターンピンを利用するのであれば、押出し板を小型化することはできない。
【0010】
なお、特許文献1には、押出し板(3)を戻すためのスプリング(4)を備えた構成が記載されているが、その目的とするところは押出し板の後退時の衝撃音防止であり、押出し板を後退限まで戻すための構成を具体化したものではない。
【0011】
本発明の目的は、より確実に押出し板を後退限に戻すことができ、且つ、押出し板と油圧シリンダとの連結作業の負荷も軽減することができる成形用金型を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、可動母型と、押出し用油圧シリンダの油圧動力が伝達されて、前記可動母型側へと前進摺動する押出し板と、前記可動母型及び前記押出し板の間に設けられ、該押出し板を後退限側に付勢する撓み力を発生するスプリングとを備え、前記スプリングの撓み力は、押出し板の摺動抵抗力と押出し用油圧シリンダの解放時戻し抵抗力とを加算した抵抗力よりも大きくなるように設定されていることを要旨とする。
【0013】
請求項2に記載の発明は、可動中子と、押出し用油圧シリンダの油圧動力が伝達されて、前記可動中子側へと前進摺動する押出し板と、前記可動中子及び前記押出し板の間に設けられ、該押出し板を後退限側に付勢する撓み力を発生するスプリングとを備え、前記スプリングの撓み力は、押出し板の摺動抵抗力と押出し用油圧シリンダの解放時戻し抵抗力とを加算した抵抗力よりも大きくなるように設定されていることを要旨とする。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の成形用金型において、前記押出し板が後退限に配置されていることを検出するセンサを備えたことを要旨とする。
(作用)
請求項1又は2に記載の発明によれば、前記スプリングの撓み力は、前記後退限までの間を通じて、押出し板の摺動抵抗力と押出し用油圧シリンダの解放時戻し抵抗力とを加算した抵抗力よりも大きくなるように設定されることから、該押出し板はこの抵抗力に抗してその後退限へと確実に後退する(戻る)。
【0015】
また、例えば前記押出し用油圧シリンダと前記押出し板との間に動力等を伝達する中継部材が配置される場合、この中継部材は該押出し板を押圧するのみで前記押出し用油圧シリンダの油圧動力を伝達し、該押出し板を前記可動母型側へと前進摺動させ得る。一方、前記中継部材は前記押出し用油圧シリンダを押圧するのみで前記スプリングの撓み力を伝達し、該押出し用油圧シリンダと一体で前記押出し板をその後退限へと後退させ得る。従って、これらの動力等の伝達に際しては、前記押出し用油圧シリンダ及び前記押出し板に前記中継部材が当接さえしていればこれらを機械的締結等で連結する必要はなく、これら押出し板と油圧シリンダとの連結作業の負荷が軽減される。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば、前記センサにより前記押出し板が後退限に配置されていることを検出することで、該押出し板が後退限に確実に戻っていることを確認したうえで次の動作に移行するように成形機とのインターロックを取ることができ、異常発生時の迅速な対処が可能となる。
【発明の効果】
【0017】
以上詳述したように、請求項1乃至3に記載の発明では、より確実に押出し板を後退限に戻すことができ、且つ、押出し板と油圧シリンダとの連結作業の負荷も軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(第1の実施形態)
以下、本発明を具体化した第1の実施形態について図面に従って説明する。
図1は、本発明が適用される金型及び成形機(マシン)の一部を示す断面図である。また、図2は可動型の正面図である。なお、図1の左右方向が型開閉の方向に相当する。図1に示されるように、本実施形態の金型は、射出部を有する固定型1と、可動型2とを備えている。固定型1は、固定母型3及び固定中子4を備えている。一方、可動型2は、可動母型5、可動中子6、スライドホルダ7、移動中子8及びダイベース9を備えている。そして、可動型2は、押出し板11、複数の押出しガイド棒12、押出しピン13、スプリング14、押出し板前進限ストッパー15、押出し板後退限ストッパー16、センサ17などからなる押出し機構部を備えている。
【0019】
前記固定母型3は成形機の固定プラテン21に保持されており、略直方体の形状を有している。そして、固定母型3の可動型2側の端面の四隅には、同可動型2側に突出する位置決めピン3aがそれぞれ設けられている。これら位置決めピン3aは、前記可動型2の型開閉時の位置決めのためのものである。
【0020】
また、前記固定母型3には、固定中子4の外形に応じた内壁面を有して可動型2側の端面から凹設された中子嵌合凹部3bが形成されている。前記固定中子4は、上記中子嵌合凹部3bの開口側から組み付けられこれと嵌合することで固定母型3に保持されている。この固定中子4は、成形体の外形に応じたキャビティ型面4aを有している。さらに、前記固定母型3には、前記スライドホルダ7と嵌合するホルダ嵌合凹部3cが形成されている。
【0021】
前記可動母型5はダイベース9に固定されており、略直方体の形状を有している。そして、可動母型5の固定型1(固定母型3)側の端面の四隅には、前記位置決めピン3aの軸線に沿って穿設された位置決め孔5aがそれぞれ設けられている(図2参照)。可動型2(可動母型5)は、その型開閉時にこれら位置決め孔5aに前記位置決めピン3aが挿入されることで位置決めされる。
【0022】
また、前記可動母型5には、可動中子6の外形に応じた内壁面を有して固定型1側の端面から凹設された嵌合凹部5bが形成されている。この嵌合凹部5bは、型閉鎖時にその開口が前記中子嵌合凹部3bの開口と一致するように形成されている。前記可動中子6は、上記嵌合凹部5bの開口側から組み付けられこれと嵌合することで可動母型5に保持されている。この可動中子6は、成形体の外形に応じたキャビティ型面6aを有している。
【0023】
さらに、前記可動母型5には、前記嵌合凹部5bの一側(図1の上側)において型開閉方向と直交する方向(図1の上下方向)に連通するスライド溝5cが形成されている。そして、このスライド溝5cには、前記スライドホルダ7が可動中子6に当接するまでの範囲で移動可能に装着されている。前記移動中子8は、このスライドホルダ7に保持されており、移動中子8は型開閉方向において可動中子6の一部と重なって成形体のアンダーカット部を成形する。
【0024】
なお、上記スライドホルダ7には、前記ホルダ嵌合凹部3cと嵌合する嵌合突部7aが形成されている。これにより、上記スライドホルダ7は、型締め時に移動中子8とともに固定母型3及び可動母型5間に堅固に保持される。
【0025】
前記ダイベース9は成形機の可動プラテン22に保持されており、前記可動母型5の外形に応じた外壁面を有する略直方体の形状を有している。そして、前記ダイベース9には、可動母型5側の端面から凹設された押出し板収納凹部9aが形成されている。前記可動母型5は、この押出し板収納凹部9a周りに形成される支柱部9bとの当接面において、例えばボルト締結にて固定されている。この支柱部9bは、型締め時に前記可動母型5を支える機能を有している。ダイベース9は、この押出し板収納凹部9aにより、上記可動母型5によって閉塞されるスペースSを形成している。このスペースSには、前記押出し板11が型開閉の方向(押出し方向)に前後移動可能に取り付けられている。
【0026】
詳述すると、前記押出しガイド棒12は、その軸線が押出し方向に伸びるように上記スペースS内において一端及び他端がそれぞれ押出し板収納凹部9aの底面及び可動母型5の裏面に支持されている。上記押出し板11は、これら押出しガイド棒12が挿通されるガイド孔を有しており、同押出しガイド棒12を介して位置決めされて可動母型5に対しその裏面側で押出し方向に前後摺動可能に取り付けられている。
【0027】
前記押出し板前進限ストッパー15は、一端が可動母型5の裏面に支持されその軸線が押出し方向(戻し方向)に所定距離だけ伸びるように上記スペースS内に配置されている。そして、前記押出し板11の前進摺動は、押出し板前進限ストッパー15の先端面に当接するまでの範囲に設定されている。これは、押出し板11の押出し量を制限して、例えば冷却部材などの周辺部材との干渉を回避するためである。
【0028】
一方、前記押出し板後退限ストッパー16は、一端が押出し板収納凹部9aの底面に支持されその軸線が押出し方向に所定距離だけ伸びるように上記スペースS内に配置されている。そして、前記押出し板11の後退摺動は、押出し板後退限ストッパー16の先端面に当接するまでの範囲に設定されている。これは、押出し板11の後退限での配置を確実にするためである。
【0029】
前記押出しピン13は、その軸線が押出し方向に伸びるように前記押出し板11に支持されている。すなわち、前記押出し板11は、押出し方向に積層されたフロントプレート11a及びリヤプレート11bを有し、前記押出しピン13はその基端側のフランジがこれらフロントプレート11a及びリヤプレート11bにより挟持されている。そして、上記押出しピン13は、フロントプレート11a、可動母型5及び可動中子6を貫通してその先端をキャビティ型面6aに突出し得るように設けられている。従って、成形体の成形後の型を開いた状態では、前記押出し板11の前進により押出しピン13の先端がキャビティ型面6aから突出することで可動中子6から成形体が取り出される。このとき、押出し板11(フロントプレート11a)と押出し板前進限ストッパー15との当接によって同押出し板11の前進が規制され(前進限に配置され)、押出しピン13の突出量が規制されている。一方、押出し板11(リヤプレート11b)と押出し板後退限ストッパー16との当接によって同押出し板11の後退が規制される(後退限に配置される)とき、前記押出しピン13の先端は可動中子6から突出しないように設定されている。なお、上記押出しピン13は、6本が配設されている(図2参照)。
【0030】
図2に示されるように、前記スプリング14は、押出し板11(フロントプレート11a)の対向端面の四隅にそれぞれ対応してその軸線が押出し方向(戻し方向)に伸びるように前記可動母型5の裏面に固着・支持されている。上記スプリング14は、高圧ガスを密封したピストン式の、いわゆるガススプリングである。これらスプリング14は、押出し板11の対向端面と弾接して同押出し板11を後退限側(押出し板11と可動母型5とを離間させる方向)に付勢する撓み力を発生する。特に、押出し板11が後退限に配置されているときには、押出し板11はスプリング14により押出し板後退限ストッパー16に圧接するように付勢されることで当該位置に保持される。
【0031】
従って、押出し板11に後述する油圧動力(押出し油圧動力)が伝達されて前記押出し板11が前進すると、これらスプリング14は圧縮される。また、上記油圧動力が解放されると、スプリング14は、その撓み力にて押出し板11を後退限側に付勢しつつ膨張する。そして、上記押出し板11は、前記押出しピン13とともに前記押出し板後退限ストッパー16に当接する後退限まで後退する。なお、これらスプリング14が発生する撓み力の設定については後述する。
【0032】
図2に示されるように、前記センサ17は、押出し板11(リヤプレート11b)の対向端面の両側にそれぞれ対応して前記押出し板収納凹部9aの底面に対をなして固着・支持されている。これらセンサ17は、例えばリミットスイッチにて構成されており、押出し板11が後退限にあることを検出する。
【0033】
上記ダイベース9には、前記押出し板収納凹部9aの底壁部を押出し方向に貫通する貫通穴9cが形成されている。そして、この貫通穴9cには、前記可動プラテン22を貫通して一端が前記押出し板11に当接するとともに他端が成形機の押出し用油圧シリンダ23に当接する複数の動力伝達棒24が挿通されている。上記動力伝達棒24は成形機側の部品(マシン部品)であって、押出し用油圧シリンダ23の油圧動力(押出し動力)が動力伝達棒24に伝達されると、前記押出し板11はこの動力伝達棒24により押圧されることで押出し方向に前進移動する。一方、押出し用油圧シリンダ23の油圧動力が解放されると、前記押出し板11はスプリング14の撓み力により後退限側に付勢される。そして、押出し板11は、上記動力伝達棒24にて押出し用油圧シリンダ23を押し戻しながら後退限まで後退する。
【0034】
なお、成形機側での油圧動力の動作制御は、電磁切替弁25に出力される制御信号にてされている。この制御信号の設定に際しては、前記センサ17の検出信号が参照されており、押出し板11が後退限に確実に戻っていることを確認したうえで次の動作に移行するように成形機とのインターロックが取られている。
【0035】
ここで、本実施形態におけるスプリング14の撓み力等の設定について以下に説明する。この撓み力等の設定は、各スプリング14の撓み力を総和した撓み力として設定されている。
【0036】
まず、押出し板11の前進限でのスプリング14の撓み力は、押出し用油圧シリンダ23の油圧動力から、成形体の可動型2(可動中子6)への喰い付き力を差し引いた力より小さく設定されている。これは、押出し用油圧シリンダ23の油圧動力によりスプリング14に抗して成形体を可動型2(可動中子6)から取り出すためである。
【0037】
また、押出し板11の後退限でのスプリング14の撓み力は、金型側および成形機側の押出し機構部全体の抵抗力(押出し板11の摺動抵抗力、押出しピン13の摺動抵抗力、押出し用油圧シリンダ23のピストン摺動抵抗力、排出圧抵抗力などを加算した抵抗力)より大きく設定されている。これは、スプリング14の撓み力にて押出し板11を後退限まで戻すためである。なお、上記抵抗力において、押出し板11の摺動抵抗力及び押出しピン13の摺動抵抗力を併せた抵抗力を総称して「押出し板の摺動抵抗力」という。また、ピストン摺動抵抗力及び排出圧抵抗力を併せた抵抗力を総称して「押出し用油圧シリンダの解放時戻し抵抗力」という。従って、前記スプリング14の撓み力は、これら押出し板の摺動抵抗力と押出し用油圧シリンダの解放時戻し抵抗力とを加算した抵抗力よりも大きくなるように設定されている。
【0038】
さらに、スプリング14は、その全ストロークの手前で押出し板11が押出し板後退限ストッパー16に当接する機械的な後退規制がなされるように設定されている。従って、スプリング14は、押出し板11の後退限で維持する撓み力にて同押出し板11を押出し板後退限ストッパー16に押し付け、その後退限での配置を保持させる。これは、押出し板11と押出し板後退限ストッパー16との遊びを解消して前後方向への振動を抑制し、次の工程へと確実に移行しうるようにするためである。
【0039】
次に、本実施形態における押出し機構の動作について総括して説明する。成形体の成形後、型を開き移動中子8を後退させた状態で、押出し用油圧シリンダ23を駆動する。このとき、押出し用油圧シリンダ23の油圧動力により、動力伝達棒24を経て可動母型5と押出し板11との間に配置されたスプリング14を圧縮しながら、押出し板11及び押出しピン13は押出し板前進限ストッパー15に当接するまで前進する。そして、金型に張り付いた成形体は、押し出されて離型する。なお、この状態では、スプリング14は最大限に圧縮されてその撓み力も最大になるが、前述の撓み力の設定により押出し用油圧シリンダ23の油圧動力を打ち負かすことはない。
【0040】
その後、成形体が取り出されると、押出し用油圧シリンダ23の油圧は、押出し側及び戻し側とも解放状態に制御され、圧縮されたスプリング14の撓み力は、押出し機構部全体の抵抗力(押出し板11の摺動抵抗力、押出しピン13の摺動抵抗力、押出し用油圧シリンダ23のピストン摺動抵抗力及び排出圧抵抗力など)に打ち勝つ。そして、スプリング14は、その撓み力にて押出し板11から押出し用油圧シリンダ23に至る押出し機構部全体を後退させる。そして、押出し板11は、押出し板後退限ストッパー16に当接するまで後退し、後退限での配置が保持される。
【0041】
以上詳述したように、本実施形態によれば、以下に示す効果が得られるようになる。
(1)本実施形態では、前記スプリング14の撓み力は、後退限までの間を通じて、押出し板の摺動抵抗力と押出し用油圧シリンダの解放時戻し抵抗力とを加算した抵抗力よりも大きくなるように設定されることから、前記押出し板11はこの抵抗力に抗してその後退限へと確実に後退する(戻る)。
【0042】
また、前記押出し板11と押出し用油圧シリンダ23との間に配置される動力伝達棒24は押出し板11を押圧するのみで前記押出し用油圧シリンダ23の油圧動力を伝達し、同押出し板11を前記可動母型5側へと前進摺動させ得る。一方、前記動力伝達棒24は前記押出し用油圧シリンダ23を押圧するのみで前記スプリング14の撓み力を伝達し、同押出し用油圧シリンダ23と一体で前記押出し板11をその後退限へと後退させ得る。従って、これらの動力等の伝達に際しては、前記押出し用油圧シリンダ23及び前記押出し板11に前記動力伝達棒24が当接さえしていればこれらを機械的締結等で連結する必要はなく、これら押出し板11と油圧シリンダ23との連結作業の負荷を軽減することができる。つまり、これら押出し板11と油圧シリンダ23との間に所要の長さを有する動力伝達棒24を配置するだけでよいため、金型の交換作業に要する時間を短縮化することができ、その作業も極めて簡易なものにできる。
【0043】
(2)本実施形態では、前記センサ17により前記押出し板11が後退限に配置されていることを検出することで、同押出し板11が後退限に確実に戻っていることを確認したうえで次の動作に移行するように成形機とのインターロックを取ることができ、異常発生時の迅速な対処が可能となる。つまり、金型や成形機の予期できない故障により押出し板11が後退限に移行できない状態になった場合に、次の工程への移行を制約したり異常警報を発するなどして、不良品を生産し続けることを防止したり金型の短寿命化を抑制する。
【0044】
(3)本実施形態では、センサ17を可動型2での押出し動作に関して不動部となるダイベース9に設けたことで、その電気配線を容易に行うことができる。
(4)本実施形態では、スプリング14としてガススプリングを採用したことで、耐久性を向上することができる。また、スプリング14をコンパクトで長ストロークの構成にできることから、その配置自由度も向上することができる。
【0045】
(5)本実施形態では、スプリング14を可動母型5の裏面に設けてその配置がキャビティ型面6aの形状によって制約されないようにしたため、即ち従来例(図6参照)のようにキャビティ型面を避けるように押出し板を延出させてリターンピンを設ける形態とは異なるため、押出し板11を小型化することができる。
【0046】
(6)本実施形態では、リターンピンの廃止による押出し板11の小型化によって、ダイベース9の支柱部9bの受圧面積を増大することができ、可動母型5の撓みに対する剛性を増大することができる。そして、可動母型5の剛性不足に起因する成形体のバリ、フラッシュなどの発生を抑制し、ひいては、成形体の品質不良の発生や金型の短寿命化を防止することができる。
【0047】
(7)本実施形態では、リターンピンの廃止による押出し板11の小型化や、押出し板11及び油圧シリンダ23の機械的締結手段の廃止により、金型コストを低減させることができる。
【0048】
(8)本実施形態では、前記スプリング14は、前記押出し板11の後退限において同押出し板11を保持する撓み力を有する。これにより、前記押出し板11が後退限に保持されることで、同押出し板11が振動して異音を発生したりすることを抑制できる。
【0049】
(第2の実施形態)
以下、本発明を具体化した第2の実施形態について図面に従って説明する。なお、第2の実施形態は、第1の実施形態においてダイベースを割愛し、可動中子と押出し板との間にスプリング及びセンサ17を配置するように変更した構成であるため、同様の部分については同一の符号を付してその説明を一部省略する。
【0050】
図3は、本発明が適用される金型及び成形機の一部を示す断面図である。また、図4は可動型の正面図である。図3に示されるように、本実施形態の可動型30は、前記可動プラテン22に保持された可動母型31を備えている。そして、可動型30は、前記押出し板11、複数の押出しガイド棒32、押出しピン33、スプリング34、センサ35などからなる押出し機構部を備えている。
【0051】
前記可動母型31は、前記嵌合凹部5bよりも縮幅されて更にその底面から凹設された押出し板収納凹部31aが形成されている。可動母型31は、この押出し板収納凹部31aにより、上記可動中子6によって閉塞されるスペースSを形成している。このスペースSには、前記押出し板11が型開閉の方向(押出し方向)に前後移動可能に取り付けられている。
【0052】
詳述すると、前記押出しガイド棒32は、その軸線が押出し方向に伸びるように上記スペースS内において一端及び他端がそれぞれ押出し板収納凹部31aの底面及び可動中子6の裏面に支持されている。前記押出し板11は、これら押出しガイド棒32を介して位置決めされて可動中子6に対しその裏面側で押出し方向に前後摺動可能に取り付けられている。この押出し板11の前後摺動は、それぞれ可動中子6の対向端面(裏面)及び押出し板収納凹部31aの対向端面(底面)に当接するまでの範囲に設定されている。
【0053】
前記押出しピン33は、その軸線が押出し方向に伸びるように前記押出し板11に支持されている。そして、上記押出しピン33は、フロントプレート11a及び可動中子6を貫通してその先端をキャビティ型面6aに突出し得るように設けられている。従って、成形体の成形後の型を開いた状態では、前記押出し板11の前進により押出しピン33の先端がキャビティ型面6aから突出することで可動中子6から成形体が取り出される。このとき、押出し板11(フロントプレート11a)と可動中子6の対向端面との当接によって同押出し板11の前進が規制される。一方、押出し板11(リヤプレート11b)と押出し板収納凹部31aの対向端面との当接によって同押出し板11の後退が規制される。
【0054】
図4に示されるように、前記スプリング34は、押出し板11の四隅にそれぞれその軸線が押出し方向に伸びるように固着・支持されている。上記スプリング34は、高圧ガスを密封したピストン式の、いわゆるガススプリングである。これらスプリング34は、可動中子6の対向端面と弾接して同押出し板11を後退限側に付勢する撓み力を発生する。特に、押出し板11が後退限に配置されているときには、押出し板11はスプリング34により押出し板収納凹部31aの対向端面(底面)に圧接するように付勢されることで当該位置に保持される。
【0055】
上記可動母型31には、前記押出し板収納凹部31aの底壁部を押出し方向に貫通する複数の貫通穴31cが形成されている。そして、これら貫通穴31cには、前記可動プラテン22を貫通して一端が前記押出し板11に当接するとともに他端が成形機の押出し用油圧シリンダ23(図1参照)に当接する複数の動力伝達棒24が挿通されている。なお、押出し板11の前後摺動に伴うスプリング34等の動作及びその撓み力の設定は前記第1の実施形態と同様であるためその説明を割愛する。
【0056】
前記可動母型31には、押出し板収納凹部31aの底面(後退限での押出し板11の当接面)から凹設された複数の取付凹部31bが形成されており、前記センサ35はこの取付凹部31bに収容される態様で固着・支持されている。図2に示されるように、前記センサ35は、押出し板11(リヤプレート11b)の対向端面の両側にそれぞれ対応して対をなして配置されている。これらセンサ35は、例えばリミットスイッチにて構成されており、押出し板11が後退限にあることを検出する。
【0057】
以上詳述したように、本実施形態によれば、前記第1の実施形態における(1)〜(4)、(7)(8)の効果に加えて以下に示す効果が得られるようになる。
(1)本実施形態では、スプリング34を可動中子6の裏面に対向して押出し板11に設けてその配置がキャビティ型面6aの形状によって制約されないようにしたため、即ち従来例(図6参照)のようにキャビティ型面を避けるように押出し板を延出させてリターンピンを設ける形態とは異なるため、押出し板11を小型化することができる。そして、この押出し板11を収納するための押出し板収納凹部31aの容積をその分小さくすることで、押出し板収納凹部31aの形成に伴う可動母型31の可動中子6から受ける荷重の受圧面積の低減を最小限に抑制することができ、可動母型5の撓みに対する剛性低下を抑制することができる。そして、可動母型5の剛性不足に起因する成形体のバリ、フラッシュなどの発生を抑制し、ひいては、成形体の品質不良の発生や金型の短寿命化を防止することができる。
【0058】
(2)本実施形態では、可動中子6の裏面側に押出し板11を配置し、ダイベースを廃止したことで、部品点数の低減による金型コストの低減を図ることができる。
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
【0059】
・前記第1の実施形態において、スプリング14を押出し板11に固着・支持し、これを可動母型5の裏面に弾接させてもよい。
・前記第1の実施形態において、センサ17を押出し板11に固着・支持してダイベース9(押出し板収納凹部9aの底面)に対向させてもよい。
【0060】
・前記第2の実施形態において、スプリング34を可動中子6の裏面に固着・支持し、これを押出し板11(フロントプレート11a)の対向端面に弾接させてもよい。
・前記第2の実施形態において、センサ35を押出し板11に固着・支持して可動母型31(取付凹部31bの底面)に対向させてもよい。
【0061】
・前記各実施形態において、スプリング14,34の個数はいくつであってもよい。要は、これらの撓み力の総和が前述の各条件を満たしていればよい。この場合、こうした撓み力が押出し板11に均等に作用するようにスプリングを配置することが好ましい。
【0062】
・前記各実施形態において、スプリング14,34としてコイルスプリングを採用してもよい。
・前記各実施形態において、センサ17,35として接触・非接触(近接)式の適宜のセンサを採用してもよい。
【0063】
・前記各実施形態において、センサ17,35の個数はいくつであってもよい。
・本発明は前記各実施形態に限定されるものではなく、その趣旨の範囲であれば全ての金型、真空(減圧)成形用金型、キャビティを形成する中子部のみを成形機上で自動でカセット的に入れ替える特殊な金型(特開平11−290989号公報)などを問わず、どのような形態であってもよい。
【0064】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
(イ)請求項1〜3のいずれか1項に記載の成形用金型において、
前記スプリングは、前記押出し板の後退限において該押出し板を保持する撓み力を有することを特徴とする成形用金型。この技術的思想によれば、前記スプリングにより前記押出し板が後退限に保持されることで、該押出し板が振動して異音を発生したりすることを抑制できる。
【0065】
(ロ)上記(イ)に記載の成形用金型において、
前記押出し板の後退限における前記スプリングの撓み力は、前記押出し板を前進摺動させる前記押出し用油圧シリンダの油圧動力を打ち負かさないことを特徴とする成形用金型。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す断面図。
【図2】同実施形態を示す正面図。
【図3】本発明の第2の実施形態を示す断面図。
【図4】同実施形態を示す正面図。
【図5】従来の形態を示す正面図。
【図6】従来の形態を示す断面図。
【符号の説明】
【0067】
5,31…可動母型、6…可動中子、8a,11…押出し板、14,34…スプリング、17,35…センサ、23…押出し用油圧シリンダ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動母型と、
押出し用油圧シリンダの油圧動力が伝達されて、前記可動母型側へと前進摺動する押出し板と、
前記可動母型及び前記押出し板の間に設けられ、該押出し板を後退限側に付勢する撓み力を発生するスプリングとを備え、
前記スプリングの撓み力は、押出し板の摺動抵抗力と押出し用油圧シリンダの解放時戻し抵抗力とを加算した抵抗力よりも大きくなるように設定されていることを特徴とする成形用金型。
【請求項2】
可動中子と、
押出し用油圧シリンダの油圧動力が伝達されて、前記可動中子側へと前進摺動する押出し板と、
前記可動中子及び前記押出し板の間に設けられ、該押出し板を後退限側に付勢する撓み力を発生するスプリングとを備え、
前記スプリングの撓み力は、押出し板の摺動抵抗力と押出し用油圧シリンダの解放時戻し抵抗力とを加算した抵抗力よりも大きくなるように設定されていることを特徴とする成形用金型。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の成形用金型において、
前記押出し板が後退限に配置されていることを検出するセンサを備えたことを特徴とする成形用金型。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−7272(P2006−7272A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−187746(P2004−187746)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】