説明

成形転写箔用フィルム

【課題】
本発明は、成形性、耐溶剤性(印刷塗工性)、転写箔の生産性のいずれにも満足し、さらにコストパフォーマンスに優れる成形転写箔用フィルムを提供する。
【解決手段】
ポリエステル層(A)の両面に、ポリエステル層(B)を有するフィルムであって、下記(1)〜(3)の全てを満たすことを特徴とする、成形転写箔用フィルム。
(1)ポリエステル層(A)は、固有粘度0.5〜0.9dl/gのポリエチレンテレフタレート85〜95質量部と、固有粘度0.6〜1.0dl/gのポリブチレンテレフタレート5〜15質量部とを溶融混合して得られるポリエステルを、ポリエステル層(A)100質量%中に50質量%以上100質量%以下含有する層である。
(2)ポリエステル層(B)は、固有粘度0.6〜1.0dl/gのポリブチレンテレフタレートを、ポリエステル層(B)100質量%中に50質量%以上100質量%以下含有する層である。
(3)前記フィルムについて、100℃における破断伸度が500%以上であり、500%伸長時の応力が3〜7MPaであること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形性、耐溶剤性(印刷塗工性)、転写箔の生産性のいずれにも満足し、さらにコストパフォーマンスに優れる成形転写箔用フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境意識の高まりにより、家電製品用部品や自動車内外装部品などの成形部材の加飾で、塗装レス、メッキ代替などの要望が高まり、フィルムを使用した加飾方法の導入が進んでいる。そのような中で、印刷および成形加工して用いる従来の転写箔用フィルムおよび成形用フィルムとして、二軸延伸ポリエステルフィルムを用いることなどが提案されている(例えば、特許文献1参照)。また転写箔用途については、成形応力が特定の範囲のポリエステルフィルムを用い、成形性の改善の目的で二軸延伸PETに比べて成形応力の低いポリエステル、特に共重合ポリエステルを用いることが示されている(特許文献2参照)。
【0003】
しかしながら、二軸延伸ポリエステルフィルムを用いる方法は、深絞り成形品や形状の複雑な部材への転写に対しては、成形性の点で不十分であった。また、共重合ポリエステルフィルムを用いる方法は、二軸延伸ポリエステルフィルムでは発現しにくい深絞り追従性、すなわち成形性が良いものの、融点が低いので耐熱性が悪く、さらに印刷塗工性に関しては特に考慮されておらず、各種コーティング剤および印刷インキに含まれる溶剤、例えば、酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエンなどによってフィルム表面の平滑性が悪化し、コーティング不良や印刷欠点が発生しやすいなどの問題がある。これより、各種コーティング剤および印刷インキに含まれる溶剤に対する耐溶剤性、すなわち印刷塗工性に優れ、さらに成形性にも優れるフィルムが望まれていた。
【0004】
そこで、成形性に優れるポリエステルフィルムに、耐溶剤性に優れるポリオレフィンフィルムを貼り合わせて、成形性および印刷塗工性に優れた、貼り合わせフィルムが開発されている(特許文献3参照)が、貼り合わせフィルムは両フィルムを貼り合わせる工程が必要であり、また、ポリエステルフィルムとポリオレフィンフィルムを貼り合わせたフィルムは回収性が悪いので、製造コストが高いという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平06−210799号公報
【特許文献2】特開2000−238070号公報
【特許文献3】特開2004−188708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は上記した従来技術の問題点を解決し、成形性、耐溶剤性(印刷塗工性)、転写箔の生産性のいずれにも満足し、さらにコストパフォーマンスに優れる成形転写箔用フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、ポリエステル層(A)の両面に、ポリエステル(B)を有するフィルムであって、下記(1)〜(3)の全てを満たすことを特徴とする、成形転写箔用フィルムである。
【0008】
(1)ポリエステル層(A)は、固有粘度0.5〜0.9dl/gのポリエチレンテレフタレート85〜95質量部と、固有粘度0.6〜1.0dl/gのポリブチレンテレフタレート5〜15質量部とを溶融混合して得られるポリエステルを、ポリエステル層(A)100質量%中に50質量%以上100質量%以下含有する層である。
【0009】
(2)ポリエステル層(B)は、固有粘度0.6〜1.0dl/gのポリブチレンテレフタレートを、ポリエステル層(B)100質量%中に50質量%以上100質量%以下含有する層である。
【0010】
(3)前記フィルムについて、100℃における破断伸度が500%以上であり、500%伸長時の応力が3〜7MPaであること。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、成形性、耐溶剤性(印刷塗工性)、転写箔の生産性のいずれにも満足し、さらにコストパフォーマンスに優れる成形転写箔用フィルムを得ることができる。
【0012】
より具体的には、印刷塗工性はコーティング剤や印刷インキに含有する溶剤、特に酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエンなどに対しての耐溶剤性に優れるため、各種コーティング剤および印刷インキを用いることができる。本発明の成形転写箔用フィルムは、深絞り性や被転写体の細かな形状部分への追従性などの成形性に優れるため、真空成形、圧空成形、プレス成形といった各種成形方法において良好な成形性を達成することができ、様々な成形加工方法に適用が可能であり、例えば、家電製品用部品や自動車内外装部品などの成形部材の加飾に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の成形転写箔用フィルムは、各種コーティング剤および印刷インキに含まれる溶剤に対する耐溶剤性、すなわち印刷塗工性の点から、ポリエステル層(A)の両面に、後述するポリエステル層(A)を積層する必要がある。
【0014】
本発明で用いられるポリエステルとは、エステル結合を主鎖の主要な結合鎖とする高分子化合物であり、ジカルボン酸とジオールの重縮合によって得ることができる。ジカルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、フタル酸等の芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、エイコ酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、ドデカンジオン酸、マレイン酸、フマル酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、トリメリット酸、およびピロメリット酸等の多官能酸等を挙げることができ、これら成分を複数用いて共重合体とすることもできる。一方、ジオール成分としては、例えば、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールおよびトリエチレングリコール等の脂肪族グリコール、ビスフェノールAやビスフェノールSなどの芳香族グリコール、ジエチレングリコール、およびポリテトラメチレングリコール等を挙げることができ、これら成分を複数用いて共重合体とすることもできる。
【0015】
本発明の成形転写箔用フィルムのポリエステル層(A)に用いるポリエステルは、成形性と生産性の点から、固有粘度0.5〜0.9dl/gのポリエチレンテレフタレート85〜95質量部と、固有粘度0.6〜1.0dl/gのポリブチレンテレフタレート5〜15質量部とを溶融混合して得られるポリエステルであり、該ポリエステルをポリエステル層(A)100質量%中に50質量%以上100質量%以下含有する層である。
【0016】
上記以外の組成および上記範囲外の配合比であると、成形体への転写時における細かな形状部分への追従性の悪化や破れが発生する等、成形性低下の深刻な問題が生じる。
【0017】
本発明の成形転写箔用フィルムのポリエステル層(B)は、固有粘度0.6〜1.0dl/gのポリブチレンテレフタレートを、ポリエステル層(B)100質量%中に50質量%以上100質量%以下含有する層である。ポリブチレンテレフタレートの含有量が低下すると、耐溶剤性が劣り易くなるので好ましくない。
【0018】
本発明の成形転写箔用フィルムには、目的や用途に応じて各種の粒子を添加することができる。添加する粒子は、ポリエステル樹脂に不活性なものであれば特に限定されないが、無機粒子、有機粒子、架橋高分子粒子、重合系内で生成させる内部粒子などを挙げることができる。これらの粒子を2種類以上添加しても構わない。かかる粒子の添加量は、本発明の成形転写箔用フィルムの全質量に対して0.01〜10質量%が好ましく、さらに好ましくは0.03〜2質量%である。
【0019】
無機粒子の種類としては、特に限定されないが、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウムなどの各種炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの各種硫酸塩、カオリン、タルクなどの各種複合酸化物、リン酸リチウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウムなどの各種リン酸塩、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、酸化チタンなどの各種酸化物、フッ化リチウムなどの各種塩を使用することができる。
【0020】
また有機粒子としては、カルシウム、バリウム、亜鉛、マンガン、マグネシウム等のテレフタル酸塩などが使用される。
【0021】
架橋高分子粒子としては、ジビニルベンゼン、スチレン、アクリル酸、メタクリル酸のビニル系モノマーからの単独重合体または共重合体が挙げられる。その他、ポリテトラフルオロエチレン、ベンゾグアナミン樹脂、熱硬化エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、熱硬化性尿素樹脂、熱硬化性フェノール樹脂などの有機粒子も好ましく使用される。
【0022】
ポリエステル重合系内で生成させる内部粒子としては、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物などをポリエステルの反応系内に添加して、さらにリン化合物も重合系内に添加する公知の方法によって生成される粒子が挙げられる。
【0023】
本発明の成形転写箔用フィルムには、各種の添加剤を含有することができる。つまり、ポリエステル樹脂以外の成分として、必要に応じて公知の添加剤、例えば、難燃剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐電防止剤、可塑剤、粘着性付与剤、脂肪酸エステル、ワックス等の有機滑剤またはポリシロキサン等の消泡剤を適量配合することができる。
【0024】
本発明の成形転写箔用フィルムは、フィルムの100℃における破断伸度が500%以上であることが重要である。成形転写箔用フィルムの100℃における破断伸度が500%より小さい場合、成形性が劣り、成形中にフィルム破断が発生し易くなるので好ましくない。またより好ましくは、フィルムの100℃における破断伸度が700%以上であり、特に好ましくは、100℃における破断伸度が800%以上である。なお、100℃における破断伸度の上限値は特に限定されないが、現実的には2,000%とすることは困難であると考えられる。
【0025】
さらに本発明では、上記のようにフィルムの100℃における破断伸度を500%以上と制御することと同時に、フィルムの100℃における500%伸長時の応力が3〜7MPaであることが重要である。
【0026】
成形転写箔用フィルムの100℃における500%伸長時の応力が7MPaより大きい場合、転写時においてフィルムが成形体の細かな形状部分へ追従できなくなるので好ましくない。例えば、成形体の表面に凹凸で表現された小さなロゴなど、細かな形状部分への追従性についてである。また、成形転写箔用フィルムの100℃における500%伸長時の応力が3MPaより小さい場合、フィルム自体の強度が弱くなり、転写時に破れが発生し易くなるので好ましくない。
【0027】
本発明の成形転写箔用フィルムの厚みは、50〜100μmの範囲であることが好ましい。50μm未満の場合、フィルムの剛性、生産性および平面性が悪化し、さらには成形時にしわなどが入りやすくなり好ましくない。また、100μmを越えると、取り扱い性や成形性の悪化を引き起こすため好ましくない。
【0028】
本発明の成形転写箔用フィルムにおけるポリエステル層(B)の厚みの合計は、フィルムの全体厚みの5〜20%であることが好ましい。ポリエステル層(B)の厚みの合計が5%未満では、耐溶剤性すなわち印刷塗工性や、転写性の悪化を引き起こすため好ましくない。また、ポリエステル層(B)の厚みの合計が20%を超えると、成形性の悪化を引き起こすので好ましくない。
【0029】
本発明の成形転写箔用フィルムは、どちらか一方のポリエステル層(B)面に、(離型層)/トップコート層/印刷層/接着層をこの順に設けることができ、かかる積層フィルムは、深絞り可能な転写箔として用いることができる。
【0030】
本発明の成形転写箔用フィルムは、80℃、30分加熱時の熱収縮率が、−0.3〜0.3%であることが好ましい。成形転写箔用フィルムの熱収縮率が上記範囲から外れると、離型層、トップコート層、印刷層および接着層を積層する際の乾燥工程において収縮し、しわ等が発生し易くなるので好ましくない。また、成形転写箔用フィルムの熱収縮率が上記の上限値(0.3%)を越えると、すなわちフィルムがより収縮する状態であると、成形体へ転写した際に細かな形状部分へ追従できなくなり、成形性の悪化を引き起こすため、上記の範囲内であることが非常に重要である。一方、成形転写箔用フィルムの熱収縮率が上記の下限値(−0.3%)未満であると、乾燥工程において幅収縮を起こしてコーティング不良が発生する恐れがあるため好ましくない。なお、熱収縮率の値が「−」(マイナス)の値である場合、フィルムが伸びたことを示すものとする。
【0031】
本発明の成形転写箔用フィルムに積層される(離型層)/トップコート層/印刷層/接着層からなる積層膜は、転写によって成形樹脂表面に塗膜形成される積層構造膜である。ただし、離型層については、トップコート層の素材との密着性にもよるが、ポリエステル層(B)の表面自体が離型性を有しており、トップコート層との離型性が悪い場合にのみ、公知の離型用素材をコートすれば良い。
【0032】
トップコート層の素材としては公知のものを用いることができ、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、ゴム系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体系樹脂などを用いることが好ましい。
【0033】
トップコート層の形成方法としては、例えばロールコート法、グラビアコート法、コンマコート法などのコート法、また、例えばグラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷方法がある。トップコート層は成形物の表面を形成するので、積層フィルムを剥離後、熱硬化樹脂、紫外線硬化樹脂、熱線硬化樹脂を形成させても構わない。また、トップコート層には耐候性を向上させるために、紫外線吸収剤、紫外線反射剤を添加しても構わない。また、耐溶剤性を向上させるためにポリオレフィン系樹脂をコートしても構わない。
【0034】
印刷層の素材としては公知のものを用いる事ができ、ポリウレタン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、アルキド系樹脂、熱可塑性エラストマー系樹脂などが用いられる。また、好ましくは柔軟な被膜を作成することができる樹脂のバインダーが用いられ、適切な色の顔料または染料を着色剤として含有する着色インキを用いることが特に好ましい。
【0035】
印刷層の形成方法は公知の方法を用いる事ができ、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法を用いることが好ましい。特に多色刷りや階調色彩を必要とする場合はオフセット印刷法やグラビア印刷法が好ましく用いられる。また、単色の場合はグラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法を採用することもできる。印刷法は図柄に応じて、全面的に形成する場合や部分的に形成する場合がある。
【0036】
形成樹脂への接着性を付与する目的で設ける接着層の素材としては、感熱タイプあるいは感圧タイプを用いることが好ましい。また、成形樹脂がアクリル系樹脂の場合はアクリル系樹脂を用いることが好ましい。また、成形樹脂がポリフェニレンオキシド・ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン共重合体系樹脂、ポリスチレン系樹脂の場合は、これらの樹脂と親和性のあるアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂などを用いることが好ましい。成形樹脂がポリプロピレン系樹脂の場合は、塩素化ポリオレフィン系樹脂、塩素化エチレン−酢酸ビニル共重合体系樹脂、環化ゴム、クマロンインデン系樹脂を用いることが好ましい。
【0037】
成形樹脂への接着性を付与する目的で設ける接着層の形成方法は公知の方法が用いられ、例えばロールコート法、グラビアコート法、コンマコート法などのコート法、また、例えばグラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷方法が用いられる。
【0038】
成形樹脂としては、特に限定されないが、例えば、自動車内外装部品に用いられる場合は、ポリプロピレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアクリロニトリル・スチレン系樹脂などが用いられる。
【0039】
なお、本発明の成形転写箔用フィルムにおける、どちらか一方のポリエステル層(B)面にさらに形成する塗膜形成用の積層構造膜である(離型層)、トップコート層、印刷層、接着層の各層の厚みは、成形物の形状、素材、大きさによって、適当な厚みにすることができるが、数ミクロン程度が一般的である。
【0040】
本発明の成形転写箔用フィルムは、家電製品用部品又は自動車内外装部品などの加飾用途に使用されることが好ましい。そのため、本発明の成形転写箔用フィルムに積層される(離型層)/トップコート層/印刷層/接着層からなる積層膜は、深絞り可能な転写箔として、家電製品用部品や自動車内外装部品などの成形部材への加飾で幅広く使用することができる。
【0041】
次に、本発明の成形転写箔用フィルムの製造方法について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0042】
本発明の成形転写箔用フィルムは、Tダイまたはインフレーション法などの溶融押出し法によって得られる。例えばTダイ法によりフィルムを得る場合、押出されたフィルムを急冷し、冷却固化することは重要な条件である。
【0043】
本発明の成形転写箔用フィルムは、例えば、ポリエステル層(A)を構成するポリエステル樹脂Aと、ポリエステル層(B)を構成するポリエステル樹脂Bを必要に応じて乾燥した後、公知の溶融押出機に供給する。
【0044】
押出機は、一軸溶融押出機でもベント口を具備した二軸押出機でも構わない。供給された樹脂は、それぞれのポリエステルの融点+20〜30℃の温度で溶融させた後、リーフディスクフィルターまたは金網メッシュを通過させる。次に、ポリエステル層(B)/ポリエステル層(A)/ポリエステル層(B)の3層ピノール管またはフィードブロックを通過させ、スリット状のTダイ口金に導き、シート状に押出す。
【0045】
押出されたシートの両端部に、針状エッジピニング装置を用いる静電印加方式、シート全面にエアチャンバー装置を用いる空圧方式、ニップロール方式などにより、表面温度50〜60℃に温調した冷却ロールに密着させ、溶融状態から冷却固化することで、成形転写箔用フィルムを得ることができる。
【0046】
冷却ロールは、表面温度50〜60℃の温度条件とすることで、シートを冷却ロール面に適度に密着させることが、製膜の安定性の上で重要である。また、冷却ロールの表面は、鏡面でも梨地でも構わないが、フィルムの冷却ロールへの密着性、粘着性の観点から、光沢度の低下などのフィルム表面への影響が無い範囲で、梨地とすることが好ましい。
【0047】
なお、実質的に無配向の無延伸フィルムで、かつ80℃、30分加熱時の熱収縮率が−0.3〜0.3%に制御されたフィルムを得るためには、上記のいずれのキャスト方法でも、巻き取り時の張力コントロールにより、シートの微延伸を起こさせないことが重要である。
【実施例】
【0048】
以下、実施例に沿って本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。なお、諸特性は以下の方法により測定、評価した。
(1)固有粘度
固有粘度[η]は、オルトクロロフェノール中、25℃で測定した溶液粘度から下式によって計算される値を用いる。すなわち、
ηsp/C=[η]+K[η]×C
ここで、ηsp=(溶液粘度/溶媒粘度)−1、Cは溶媒100mlあたりの溶解ポリマー質量(g/100ml)、Kはハギンス定数(0.343とする)である。また、溶液粘度、溶媒粘度はオストワルド粘度計を用いて測定した。
(2)100℃における破断伸度および100℃における500%伸長時の応力
本発明の成形転写箔用フィルムを、(株)オリエンテック製引張試験機UCT−100を用いて、ASTM D−882に従って100℃雰囲気下で測定した。なお、引っ張り方向は成形転写箔用フィルムの製膜方向および幅方向の2方向とし、試料の幅は10mm、初期長は20mm、引っ張り速度は200mm/分とした。
(3)フィルムの総厚み
(株)ミツトヨ製デジマチックマイクロメータMDC−25Sを用いて、フィルムの幅方向に等間隔に10点測定し、その平均値を求めて測定結果とした。
(4)フィルムの積層厚み
本発明の成形転写箔用フィルムを10mm×5mmに試料を採取し、ミクロトームを用いて氷中で断面方向に切断した。(株)日立製作所製透過型電子顕微鏡HU−12を用いて、切断した試料の断面を300倍に拡大して観察し、積層厚みを算出した。
(5)80℃での熱収縮率
JIS C 238−1997 5.3.4(寸法変化)に準拠して、フィルムの長手方向及び幅方向における80℃での熱収縮率を下記の手順で測定した。
【0049】
本発明の成形転写箔用フィルムを、100mm×10mmの大きさに長手方向(製膜方向)および幅方向の2方向に切り出し、均一に一定荷重(3g)をかけ、(株)テクノニーズ製の自動測長器で原長を測定した。続いて、30分間、80℃の雰囲気のオーブンに入れ、熱処理後、再び自動測長器にて処理後長を測定し、下記の数式より熱収縮率を求めた。
【0050】
熱収縮率(%)=((原長−処理後長)/原長)×100
(6)耐溶剤性
フィルム表面に酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエンを各々3ml滴下させて6時間放置した後、溶剤をきれいに拭き取って、表面状態を下記の評価基準の通り目視で観察し判定した。○と△であれば合格レベルである。
○:すべての溶剤に対して、白化、収縮、変形、溶剤の痕跡が認められないもの。
△:いずれかの溶剤に対して、比較的軽い白化、収縮、変形が認められたもの。
×:いずれかの溶剤に対して、白化、収縮、変形が認められるもの。
(7)印刷塗工性
本転写箔用フィルムの転写面側(一方の面側)に、アクリル系樹脂を用いてグラビアコート法で離型層を形成し、70℃で乾燥させた。その上に図柄層として、ビニル樹脂系インキによるメタリック色(アルミニウム顔料20%含有)のベタパターンをグラビア印刷で形成し、70℃で乾燥させた。次いで、40℃の温水で洗浄、乾燥し、最後にアクリル系樹脂の接着層を図柄上にグラビアコート法で形成し、70℃で乾燥させ、転写箔を得た。
【0051】
得られた転写箔に対し、欠点、濁り、しわなどの点から以下の基準で目視にて観察し、判定した。
○:非常にきれいであり、印刷欠点、しわ、濁りなど全くない。
△:比較的印刷は良好であるが、かすかな濁りや、ごくわずかのしわなどが認められる。
×:印刷の品位が悪く、印刷欠点または印刷に影響のある濁り、しわの発生が認められる。
(8)成形性
(7)により得られた転写箔を、布施真空株式会社製の三次元真空加熱成形機(TOM成形機/NFG−0406−T)にて、直径50mm、深さ30mmの深さ方向に直径が一定で、表面に文字サイズがフォント11の凹凸で形成されたロゴのある、アクリル樹脂製の円筒カップの凸部分に対して、金型温度100℃で金型内で接着層を内側にして、圧空条件300kPa/秒にて成形同時転写加工を行って転写箔の成形品を得た。
【0052】
上記、転写箔の成形品に対し、最もコーナーがシャープに形成され、成形品のロゴ部分への転写箔の追従性について、転写箔の成形品の状態を以下の基準で目視にて観察し、判定した。
○:コーナーもシャープに成形され、追従性も良好であり、成形後の厚みも均一であった。
△:コーナーにやや丸みがあり、追従性もやや劣り、成形後の厚みもやや不均一であった。
×:成形後の厚みが不均一であり、追従性も悪く、しわ、破れが発生した。
(9)総合評価
耐溶剤性、印刷塗工性、成形性の評価結果を踏まえ、以下の基準で判定した。○と△であれば合格レベルである。
○:耐溶剤性、印刷塗工性、成形性のすべての評価について、いずれも○の評価であり、転写箔用フィルムとして好ましく用いることができる。
△:耐溶剤性、印刷塗工性、成形性について、1項目または2項目について△の評価であったが、それ以外は○の評価であり、転写箔用フィルムとしての実用に十分耐えられる。
×:耐溶剤性、印刷塗工性、成形性について、少なくとも1項目が×の評価、または3項目が△の評価であり、転写箔用フィルムとしての実用に耐えられない、または転写箔用フィルムとして使用することが困難である。
【0053】
実施例および比較例には、以下のポリエステルおよび粒子マスターを使用した。
【0054】
[ポリブチレンテレフタレートA(PBT−A)]
東レ(株)製“トレコン”(登録商標)1100Sのポリブチレンテレフタレート(融点225℃、固有粘度0.89dl/g)を用いた。
【0055】
[ポリブチレンテレフタレートB(PBT−B)]
二酸化ケイ素(富士シリシア化学(株)製“サイリシア430”、平均粒子径4.1μm)6重量%を東レ(株)製“トレコン”(登録商標)1100Sのポリブチレンテレフタレート(融点225℃、固有粘度0.89dl/g)に添加し、得られた混合物を250℃に設定したベント式二軸押出機(L/D=35)に供給した。押出機にて溶融した溶融樹脂を口金に供給して直径5mmの円状の穴から押出し、ただちに10℃の冷却水にて急冷して得られたガット状樹脂を4mm間隔で切断し、二酸化ケイ素を6重量%含有したポリブチレンテレフタレートペレット(融点226℃、固有粘度0.85dl/g)を得た。
【0056】
[ポリブチレンテレフタレートC(PBT−C)]
東レ(株)製“トレコン”(登録商標)1200Sのポリブチレンテレフタレート(融点225℃、固有粘度1.23dl/g)を用いた。
【0057】
[ポリエチレンテレフタレートA(PBT−A)]
テレフタル酸ジメチル100重量部、エチレングリコール60重量部の混合物に、テレフタル酸ジメチル量に対して酢酸マグネシウム0.09重量%、三酸化アンチモン0.03重量部を添加して、常法により加熱昇温してエステル交換反応を行った。次いで、該エステル交換反応生成物に、テレフタル酸ジメチル量に対して、リン酸85%水溶液0.20重量部を添加した後、重縮合反応槽に移行する。次いで、加熱昇温しながら反応系を徐々に減圧して1mmHgの減圧下、290℃で常温により重縮合反応を行い、融点257℃、固有粘度0.71dl/gのポリエチレンテレフタレート樹脂を得た。
【0058】
[ポリエチレンテレフタレートB(PBT−B)]
上記、ポリエチレンテレフタレートAの固相重合品、融点257℃、固有粘度1.23dl/gのポリエチレンテレフタレート樹脂を得た。
【0059】
但し、表中の略号は以下の通りである
PET:ポリエチレンテレフタレート
PBT:ポリブチレンテレフタレート
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
(実施例1)
ポリエステル樹脂層(B)のポリエステルとして、PBT−A(96重量%)とPBT−B(4重量%)の混合物を用い、150℃で4時間減圧乾燥を行った後、押出温度255℃に設定した一軸押出機(L/D=36)にポリエステル樹脂層(A)のポリエステルとして、PBT−A(8重量%)とPET−A(92重量%)の混合物を用い、150℃で4時間減圧乾燥を行った後、押出温度280℃に設定した一軸押出機(L/D=36)に、それぞれ投与し、ポリエステル樹脂層(B)/ポリエステル樹脂層(A)/ポリエステル樹脂層(B)のフィードブロックを通し、280℃に設定したスリット間隙0.8mmのTダイ口金に導きフィルム状に押出し、押し出されたシートの両端部に針状エッジピニング装置を用いて静電印加方式およびエアチャンバー方式を併用して、温度60℃の中心線平均粗さが0.5μmの梨地冷却ロールに密着させて冷却個固化し、厚み75μmの成形転写箔用フィルムを得た。
【0063】
このようにして得られた、本発明の成形転写箔用フィルム、および本発明のフィルムを用いた転写箔、ならびに該転写箔の成形品は、表1に示すように耐溶剤性、印刷塗工性、成形性(追従性)に優れた特性を示した。
(実施例2)
ポリエステル層(A)のポリエチレンテレフタレートの固有粘度を変更した以外は、実施例1と同様の方法によって、本発明の成形転写箔用フィルムを得た。
【0064】
このようにして得られた、本発明の成形転写箔用フィルム、および本発明の成形転写用フィルムを用いた印刷塗工品、ならびに成形品は、表1に示すとおりであり、一部の特性ではわずかに劣るものの、その他は優れた特性を示した。
(実施例3)
ポリエステル層(B)の厚みを変更した以外は、実施例1と同様の方法によって、本発明の成形転写箔用フィルムを得た。
【0065】
このようにして得られた、本発明の成形転写箔用フィルム、および本発明の成形転写用フィルムを用いた印刷塗工品、ならびに成形品は、表1に示すとおりであり、一部の特性ではわずかに劣るものの、その他は優れた特性を示した。
(実施例4)
ポリエステル層(A)のポリブチレンテレフタレートの固有粘度を変更した以外は、実施例1と同様の方法によって、本発明の成形転写箔用フィルムを得た。
【0066】
このようにして得られた、本発明の成形転写箔用フィルム、および本発明の成形転写用フィルムを用いた印刷塗工品、ならびに成形品は、表1に示すとおりであり、一部の特性ではわずかに劣るものの、その他は優れた特性を示した。
(比較例1〜6)
表に示すように使用する樹脂を変更した点を除いては、実施例1と同様にして、比較例1〜6のフィルムを得た。比較例1〜6で得られたフィルムは、耐溶剤性、印刷塗工性、成形性(追従性)のいずれも満足するフィルムではなかった。転写箔用フィルムとして使用することが困難である。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、成形性、耐溶剤性(印刷塗工性)、転写箔の生産性のいずれにも満足し、さらにコストパフォーマンスに優れる成形転写箔用フィルムを得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル層(A)の両面に、ポリエステル層(B)を有するフィルムであって、下記(1)〜(3)の全てを満たすことを特徴とする、成形転写箔用フィルム。
(1)ポリエステル層(A)は、固有粘度0.5〜0.9dl/gのポリエチレンテレフタレート85〜95質量部と、固有粘度0.6〜1.0dl/gのポリブチレンテレフタレート5〜15質量部とを溶融混合して得られるポリエステルを、ポリエステル層(A)100質量%中に50質量%以上100質量%以下含有する層である。
(2)ポリエステル層(B)は、固有粘度0.6〜1.0dl/gのポリブチレンテレフタレートを、ポリエステル層(B)100質量%中に50質量%以上100質量%以下含有する層である。
(3)前記フィルムについて、100℃における破断伸度が500%以上であり、500%伸長時の応力が3〜7MPaであること。
【請求項2】
前記フィルムの厚みが50〜100μmであり、
かつ前記ポリエステル層(B)の厚みの合計が、前記フィルムの厚みの5〜20%であることを特徴とする、請求項1に記載の成形転写箔用フィルム。
【請求項3】
80℃、30分加熱時の熱収縮率が、−0.3〜0.3%であることを特徴とする、請求項1または2に記載の成形転写箔用フィルム。
【請求項4】
家電製品用部品又は自動車内外装部品の加飾用途に使用されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の成形転写箔用フィルム。

【公開番号】特開2013−63612(P2013−63612A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204254(P2011−204254)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】