説明

成膜装置および成膜方法

【課題】基板上に成膜される膜の厚さの均一性を向上する。
【解決手段】筐体150と、筐体150の内部に成膜材料160を微粒子化したミストを噴霧する複数の噴霧機構と、複数の噴霧機構の基板200上への成膜量を所定の範囲に収めるように調節する調節手段とを備える。調節手段は、複数の噴霧機構の各々の基板200上への成膜量を調節する、または、基板200上への成膜量に関して複数の群に分けられた複数の噴霧機構においてこの複数の群の各々に含まれる噴霧機構毎に基板200上への成膜量を調節する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置および成膜方法に関し、特に、微粒子化した成膜材料を堆積させて成膜する成膜装置および成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体、ディスプレイおよび太陽電池などの分野で、透明導電膜が広く利用されている。透明導電膜としては、STO(チタン酸ストロンチウム)およびITO(Snドープ酸化インジウム)などの金属酸化物からなるものが主流である。透明導電膜は、一般的に、スパッタリング法、蒸着法、および、有機金属化合物を用いた有機金属化学気相成長法などを用いて成膜される。
【0003】
スパッタリング法および蒸着法においては、真空プロセスで成膜するため、真空容器などの真空雰囲気を形成して維持する設備が必要となる。有機金属化学気相成長法においては、原料として用いる有機金属化合物が爆発性および毒性を有するため、機密性の高い設備が必要となる。このため、上記の成膜方法を行なうためには、高価な成膜装置が必要となる。
【0004】
そこで、従来とは異なる成膜方法としてミスト法が提案されている。ミスト法は、原料金属を溶質として含む溶媒を霧化して基板上に噴霧することによって成膜する方法である。
【0005】
ミスト法においては、大気圧で成膜することができるため、真空容器およびポンプ類などの製造設備が不要である。また、ミスト法においては有機金属化合物のような危険物質を用いないため、簡易な構成で安価な成膜装置を使用することができる。
【0006】
均一な膜厚で成膜するために、噴射するガスの流量を切り替える成膜方法を開示した先行文献として、特開2010−229460号公報(特許文献1)がある。特許公報1に記載された成膜方法においては、基板面の成膜すべき有効領域にノズルが対向しているときに紛体を含んだガスを所定の流量で噴射し、有効領域以外の無効領域にノズルが対向しているときに所定の流量より大きな流量でガスを噴射している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−229460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
複数のノズルを用いて成膜する場合、各ノズルから噴霧されるミストの流量はばらつきを有する。また、ノズルの噴霧流量は経時的に変化する。そのため、複数のノズルを用いて基板上に均一な膜厚の膜を成膜することは困難であった。
【0009】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであって、基板上に成膜される膜の厚さの均一性を向上できる、成膜装置および成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に基づく成膜装置は、微粒子化した成膜材料を基板上に堆積させて成膜する成膜装置である。成膜装置は、筐体と、筐体の内部に成膜材料を微粒子化したミストを噴霧する複数の噴霧機構と、複数の噴霧機構の基板上への成膜量を所定の範囲に収めるように調節する調節手段とを備える。調節手段は、複数の噴霧機構の各々の基板上への成膜量を調節する、または、基板上への成膜量に関して複数の群に分けられた複数の噴霧機構においてこの複数の群の各々に含まれる噴霧機構毎に基板上への成膜量を調節する。
【0011】
本発明の一形態においては、複数の噴霧機構の各々はスプレーノズルからなる。スプレーノズルは、成膜材料を圧縮空気により微粒子化したミストを噴霧する。
【0012】
本発明の一形態においては、調節手段は、圧縮空気の流量を調節することにより基板上への成膜量を調節する。
【0013】
本発明の一形態においては、調節手段は、成膜材料の溶液の圧力を調節することにより基板上への成膜量を調節する。
【0014】
本発明の一形態においては、成膜装置は、スプレーノズルを基板に対して接近または離隔するように動作させる駆動機構をさらに備える。調節手段は、駆動機構によりスプレーノズルと基板との間の距離を調節することにより基板上への成膜量を調節する。
【0015】
本発明の一形態においては、成膜装置は、スプレーノズルを冷却する冷却手段をさらに備える。
【0016】
本発明の一形態においては、冷却手段は、駆動機構によるスプレーノズルの動作に連動して基板に対して接近または離隔する。
【0017】
本発明に基づく成膜方法は、成膜材料を微粒子化したミストを噴霧する複数の噴霧機構の基板上への成膜量を所定の範囲に収めるように調節する調節工程と、調節工程後に、複数の噴霧機構により微粒子化したミストを噴霧する噴霧工程とを備える。調節工程において、複数の噴霧機構の各々の基板上への成膜量を調節する、または、基板上への成膜量に関して複数の群に分けられた複数の噴霧機構においてこの複数の群の各々に含まれる噴霧機構毎に基板上への成膜量を調節する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、基板上に成膜される膜の厚さの均一性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る成膜装置の構成を示す側面図である。
【図2】同実施形態に係る成膜装置に含まれる成膜室の構成を示す断面図である。
【図3】図2の成膜室を矢印III方向から見た図である。
【図4】同実施形態に係る成膜装置に用いたスプレーノズルの噴霧領域の外形を示す模式図である。
【図5】同実施形態に係るスプレーノズルの噴霧領域の長手方向における相対噴付強度を示すグラフである。
【図6】同実施形態に係るスプレーノズルの噴霧領域の短手方向における相対噴付強度を示すグラフである。
【図7】第1比較例として、ピッチを100mmとして11ヶのスプレーノズルを各々の噴霧領域の長手方向が一列になるように配置した場合の噴霧領域の長手方向における比較噴付強度を示すグラフである。
【図8】第2比較例として、ピッチを120mmとして9ヶのスプレーノズルを各々の噴霧領域の長手方向が一列になるように配置した場合の噴霧領域の長手方向における比較噴付強度を示すグラフである。
【図9】第3比較例として、ピッチを150mmとして8ヶのスプレーノズルを各々の噴霧領域の長手方向が一列になるように配置した場合の噴霧領域の長手方向における比較噴付強度を示すグラフである。
【図10】20本の噴霧開始直後のスプレーノズル130の噴霧量(L/hr)をと圧縮空気消費量(L/min)を調査した結果を示す図である。
【図11】ハステロイ(登録商標)からなるスプレーノズルと、ハステロイ(登録商標)およびアルミナからなるスプレーノズルとにおいてミストを噴霧した際の噴霧量の経時変化を示す図である。
【図12】スプレーノズルの噴霧量およびミスト径と圧縮空気の圧力との関係を示す図である。
【図13】スプレーノズルの噴霧量およびミスト径と成膜材料の溶液の圧力との関係を示す図である。
【図14】スプレーノズルの噴霧量およびミスト径とスプレーノズルのノズル径との関係を示す図である。
【図15】各群に含まれるスプレーノズル毎に調節手段を備えたタンクが接続されている状態を示す平面図である。
【図16】同実施形態に係るタンクの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態に係る成膜装置について説明する。以下の実施形態の説明においては、図中の同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。本実施形態においては、薄膜太陽電池などに用いられる透明導電膜の成膜を例に説明するが、本発明は様々な膜の成膜に応用可能である。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係る成膜装置の構成を示す側面図である。図2は、本実施形態に係る成膜装置に含まれる成膜室の構成を示す断面図である。図3は、図2の成膜室を矢印III方向から見た図である。なお、図3においては、噴霧機構を簡略に図示している。
【0022】
図1に示すように、本発明の実施形態1に係る成膜装置10は、基板200が投入される投入部11と、基板200が予熱される予熱部12と、基板200が成膜処理される成膜部13と、基板200が冷却される徐冷部14と、基板200が取り出される取出し部15とを有している。
【0023】
図1から3に示すように、成膜装置10は、基板200を搬送経路に沿って搬送する搬送手段である搬送コンベア110を備える。搬送コンベア110は、投入部11、予熱部12、成膜部13、徐冷部14および取出し部15に亘って設けられている。
【0024】
搬送コンベア110は、基板200が載置される搬送ベルト111と、搬送ベルト111が巻き掛けられたプーリ112と、プーリ112を駆動させる駆動軸113と、駆動軸113に動力を付与する図示しないモータとから構成されている。搬送ベルト111は、耐熱性を有する金属または樹脂から形成されている。
【0025】
基板200は、搬送コンベア110により矢印114で示す方向に搬送される。すなわち、本実施形態に係る成膜装置10においては、基板200の搬送経路は平面視において直線状である。ただし、搬送経路は直線状に限られず、搬送経路が平面視において屈曲していてもよいし、曲線状であってもよい。
【0026】
また、成膜装置10は、搬送経路中に並ぶように位置する複数の成膜室100(100a,100b,100c,100d)を備える。具体的には、基板200の搬送方向の上流側から順に、成膜室100a、成膜室100b、成膜室100c、成膜室100dが設けられている。本実施形態においては、4つの成膜室100(100a,100b,100c,100d)が設けられているが、1つ以上の成膜室100が設けられていればよい。
【0027】
さらに、成膜装置10は、複数の成膜室100のうち隣接する成膜室同士を繋ぐように搬送経路に沿ってトンネル状に位置し、複数の成膜室100を順次通過する基板200を取り囲んで加熱する加熱炉120を備える。図3に示すように、筐体150の下部が、加熱炉120に覆われている。
【0028】
トンネル状の加熱炉120の上部に開口が設けられ、その開口内に筐体150が組み込まれている。加熱炉120は、4つの成膜室100(100a,100b,100c,100d)に亘って設けられている。加熱炉120は、基板200を予熱するために、基板200の搬送方向の上流側に位置する成膜室100aより上流側から設けられている。すなわち、加熱炉120は、予熱部12および成膜部13に亘って設けられている。
【0029】
基板200は、搬送コンベア110により加熱炉120内を搬送されつつ加熱される。基板200に成膜する際には、加熱炉120内は、ほぼ同一の温度、たとえば550℃に維持されている。
【0030】
本実施形態に係る成膜室100においては、微粒子化した成膜材料160を基板200上に堆積させて成膜する。図2に示すように、成膜室100には、筐体150と、筐体150の内部に成膜材料160を微粒子化したミストを噴霧する噴霧機構が設けられている。
【0031】
筐体150は、側壁の1つに、ミストを排気するための排気口152を有している。図1に示すように、排気口152には、接続管310の一端が接続されている。接続管310の他端は、排気されたミストを無害化処理するガス処理手段である除害装置300に接続されている。
【0032】
図2に示すように、筐体150は、キャリアガス170が導入される導入口151を有している。また、筐体150は、筐体150内を3つの空間に分割する仕切壁154を有している。第1の空間は、噴霧機構の一部が配置される噴霧機構配置空間158である。第2の空間は、噴霧機構からミストが噴霧されるミスト噴霧空間159である。第3の空間は、排気口152と繋がっている排気空間153である。
【0033】
筐体150は、ミスト噴霧空間159からミストを基板200上に流動可能とする、基板200と対向する開放部を有している。開放部は、筐体150の下部に形成されている。図1,3に示すように、開放部は、加熱炉120内に位置している。搬送コンベア110により搬送されている基板200と筐体150の開放部との間には、所定の間隙が設けられている。
【0034】
噴霧機構は、成膜材料160を圧縮空気により微粒子化して噴霧するスプレーノズル130からなる。複数の噴霧機構は、噴霧口を各々有する。具体的には、図示しないコンプレッサーからの圧縮空気により、タンク140に貯溜されている成膜材料160の溶液を加圧して通路141を通過させ、スプレーノズル130の噴霧口から微粒子化したミストを噴霧する。筐体150には、スプレーノズル130の位置に対応して開口155が形成されている。
【0035】
スプレーノズル130の端部に、スプレーノズル130を冷却する冷却手段である冷却ジャケット131が取り付けられている。冷却ジャケット131は図示しない冷却水供給管と接続され、冷却ジャケット131の内部では冷却水が循環している。
【0036】
また、成膜室100には、スプレーノズル130の先端に取り付けられた筒状の整流部材132が設けられている。本実施形態においては、整流部材132は、内側面に位置してミストを整流するテーパ状の整流部134を有している。ただし、整流部134の形状はこれに限られず、たとえば、ラッパ状の形状を有していてもよい。
【0037】
整流部材132は、整流部材132の外側面の一部に接続された図示しない接続部材が冷却ジャケット131の外側面の一部に接続されることにより、冷却ジャケット131に取り付けられている。
【0038】
スプレーノズル130は、成膜材料160の溶液と圧縮空気との2流体を混合してミストを噴霧する2流体スプレーノズルである。ここで、ミストとは、平均粒子経が0.1μm以上100μm以下の液滴が気体中に分散された状態のものをいう。ミストの平均粒子径は、液浸法によって算出された値とする。
【0039】
ただし、噴霧機構はスプレーノズル130に限られず、超音波を用いてミストを発生させるものでもよい。超音波振動子によってミストを発生させる場合、スプレーノズル130によりミストを発生させる場合に比べて、ミストの平均粒子径を均一にできるため、発生させたミスト同士が基板200に到達する前に凝集することを抑制できる。
【0040】
図3に示すように、複数のスプレーノズル130は、筐体150内において、基板200と対向して互いに間隔を置いて基板200の搬送方向と直交する方向に並んでいる。図3においては、ピッチLpで3つのスプレーノズル130を配置しているが、スプレーノズル130の数は3つに限られず複数であればよい。
【0041】
設けられるスプレーノズル130の数は、基板200の成膜処理の所望のタクトタイムを満たすために必要な単位時間当たりのミストの噴霧量、または、成膜処理を行なううえで必要な成膜速度に応じて適宜変更される。
【0042】
スプレーノズル130の噴霧口と基板200の上面との間の距離Lhに対して加熱炉120の上端と基板200との間の距離はLh/4に設定されている。
【0043】
なお、後述する導入口151から導入されるキャリアガス170の一部は、スプレーノズル130を冷却するためにスプレーノズル130に対して送られる。スプレーノズル130にキャリアガス170を送るために、スプレーノズル130の近傍に図示しない冷却ファンが配置されている。スプレーノズル130は、冷却ファンにより空冷される。さらに、スプレーノズル130は上述の冷却ジャケット131により水冷される。
【0044】
このように、スプレーノズル130の近傍を冷却することにより、スプレーノズル130から噴き付けられる前の成膜材料160の溶液が沸点以下の温度まで冷却される。より好ましくは、成膜材料160の溶液が室温程度まで冷却される。
【0045】
この冷却により、成膜材料160の溶液中の溶媒がスプレーノズル130内において揮発することを抑制できるため、噴き付けられる成膜材料160の溶液の濃度を一定に保つことができる。また、スプレーノズル130内において成膜材料160の溶液中の溶媒が揮発することによる成膜材料160の固化を抑制できる。
【0046】
その結果、一定の濃度の成膜材料160を用いて成膜できるため、基板200上に成膜される膜の品質を安定させることができる。また、固化した成膜材料160によるスプレーノズル130の目詰まりを抑制することができる。
【0047】
成膜材料160の溶液としては、亜鉛、スズ、インジウム、カドミウムおよびストロンチウムからなる群より選択される無機材料の塩化物を、溶媒に溶解させた溶液を用いることができる。溶媒としては、水、メタノール、エタノールおよびブタノールなどを用いることができる。このような成膜材料160の溶液としては、たとえば、酢酸亜鉛を含む水溶液、酸化インジウム錫を含む水溶液および酸化錫を含む水溶液などを用いることができる。
【0048】
ただし、成膜材料160の溶液としてはこれに限られず、種々の溶液を用いることができる。成膜材料160の溶液の濃度は特に限定されないが、たとえば、0.1mol/L以上3mol/L以下の濃度である。
【0049】
ここで、筐体150内におけるガスの流動経路について説明する。まず、導入口151から、たとえば圧縮空気からなるキャリアガス170が筐体150のミスト噴霧空間159内に導入される。ミスト噴霧空間159内に導入されたキャリアガス170は、矢印171で示す向きに流動する。キャリアガス170としては、たとえば、窒素、酸素、水素およびこれらの混合ガスを用いることができる。
【0050】
スプレーノズル130からミストが、矢印161で示す向きに噴霧領域162中に噴霧される。ミストとキャリアガス170とは、混合領域181において互いに混合されて混合ミストとなる。混合ミストは、矢印182で示す向きに流動して開放部に到達する。混合ミストは、開放部から基板200の主面上に噴き付けられる。ミストを含む混合ミストが基板200上に噴き付けられる領域を、噴き付け領域Xと称する。
【0051】
噴き付け領域Xに到達した混合ミストは、基板200の主面に沿って流動する。具体的には、仕切壁154の一部であって基板200の主面と対向している対向面と、基板200の主面との間を矢印183で示す向きに混合ミストが流動する。混合ミストが矢印183で示す向きに流動する領域を、流路領域Yと称する。
【0052】
流路領域Yを通過した混合ミストは、排気空間153内を矢印184で示す向きに流動する。このように混合ミストが基板の主面上から排気口152に向かう領域を、排気領域Zと称する。排気空間153内を通過して排気口152に到達した混合ミストは、除害装置300により無害化されて排気ガス180として外部に放出される。なお、図2においては、除害装置300を図示していない。
【0053】
上記の噴き付け領域Xと流路領域Yと排気領域Zとから開放部が構成されている。ミストは、複数の成膜室100(100a,100b,100c,100d)の各々において、噴霧機構から開放部を通過して排気口152に向けて流動する。
【0054】
なお、排気口152においては、導入口151から導入されるキャリアガス170の3倍〜10倍程度大きな流量で混合ミストを排気している。ただし、導入されるキャリアガス170の流量および混合ミストの排気流量は適宜設定される。
【0055】
図1に示すように、成膜室100aにおいて、矢印400で示すようにミストが流動する。成膜室100bにおいて、矢印410で示すようにミストが流動する。成膜室100cにおいて、矢印420で示すようにミストが流動する。成膜室100dにおいて、矢印430で示すようにミストが流動する。
【0056】
上記のようにミストが流動している状態で、開放部の近傍を基板200が通過することにより、基板200が成膜処理される。本実施形態の成膜装置10においては、開放部の近傍を基板200が通過するように搬送コンベア110が設けられている。
【0057】
基板200は、搬送コンベア110により、複数の成膜室100(100a,100b,100c,100d)の各々において、噴き付け領域X、流路領域Yおよび排気領域Zを順に通過するように搬送される。基板200は、噴き付け領域X、流路領域Yおよび排気領域Zを通過する間に、主面上に成膜材料160の微粒子が堆積することにより成膜される。
【0058】
たとえば、基板200には、アルカリバリア層としてSiO2膜、および、透明導電膜としてTCO(Transparent Conductive Oxide)などの複数の膜が形成される。なお、アルカリバリア層は、基板200に含まれるアルカリ分による太陽電池の性能低下を防止するためのものである。そのため、基板200がアルカリ分を多く含まない材質からなる場合、アルカリバリア層を形成しなくてもよい。
【0059】
このように基板200上に異なる種類の膜を形成する場合は、複数の成膜室100(100a,100b,100c,100d)において、種々のミストが用いられる。たとえば、成膜室100aにおいてSiO2を成膜材料160とするミストを用い、成膜室100bにおいてSnO2を成膜材料160とするミストを用いる。
【0060】
SnO2からなる透明導電膜を形成する場合には、加熱炉120内の温度は、450℃以上600℃以下であることが好ましく、520℃以上580℃以下であることがより好ましい。
【0061】
加熱炉120内の温度が450℃未満である場合、基板200上に付着した混合ミストの乾燥時間が長くなることにより成膜レートが著しく低下する。一方、加熱炉120内の温度が600℃より高い場合、混合ミストの一部において基板200上に到達する前に混合ミストに含まれる溶媒が揮発して成膜性能を失うことにより、基板200上に到達する混合ミストの量が低下して成膜レートが著しく低下する。
【0062】
また、スプレーノズル130の噴霧圧力、キャリアガス170の流量および排気流量を適切に設定することにより、混合ミストを安定して基板200の上面に到達させることができる。
【0063】
上記の構成により発生した混合ミストにより基板200上に均一な膜を形成するためには、混合ミストを基板200上の全体に到達させる必要がある。ここで、スプレーノズル130の噴霧領域について説明する。
【0064】
図4は、本実施形態に係る成膜装置に用いたスプレーノズルの噴霧領域の外形を示す模式図である。成膜材料160の溶液として、0.9mol/LのSnCl4・5H2Oと、0.3mol/LのNH4Fと、30体積%のHClと、2.5体積%のメタノールとを含む水溶液を用いた。この水溶液の沸点は、約70℃程度であった。
【0065】
図4に示すように、スプレーノズル130の噴霧領域162は、スプレーノズル130の噴霧口から距離Lh離れた地点において、楕円形状の外形を有している。
【0066】
具体的には、長径の長さがLW、短径の長さがLTである楕円形状を有している。すなわち、噴霧領域162は、長径に平行な長手方向と、短径に平行な短手方向とを有している。図4中の0点は、長径と短径との交点であって、スプレーノズル130の中心の鉛直方向における直下の位置である。
【0067】
図5は、本実施形態に係るスプレーノズルの噴霧領域の長手方向における相対噴付強度を示すグラフである。図6は、本実施形態に係るスプレーノズルの噴霧領域の短手方向における相対噴付強度を示すグラフである。
【0068】
図5においては、縦軸に相対噴付強度(%)、横軸に噴霧領域の長手方向における0点からの位置(mm)を示している。図6においては、縦軸に相対噴付強度(%)、横軸に噴霧領域の短手方向における0点からの位置(mm)を示している。
【0069】
図5に示すように、Lh=300mmの地点においては、スプレーノズル130の噴霧領域162の長手方向における相対噴付強度は、0点から離れるに従って上昇して100%になった後、さらに0点から離れるに従って下降して0%になっている。
【0070】
図6に示すように、Lh=300mmの地点においては、スプレーノズル130の噴霧領域162の短手方向における相対噴付強度は、0点において100%であり、0点から離れるに従って下降して0%になっている。
【0071】
このように、噴霧領域162内において、スプレーノズル130の中心の直下より端部の方がミストの噴付強度が弱くなる。この傾向は、複数のスプレーノズル130を設けた場合にも同様である。
【0072】
図7は、第1比較例として、ピッチを100mmとして11ヶのスプレーノズルを各々の噴霧領域の長手方向が一列になるように配置した場合の噴霧領域の長手方向における比較噴付強度を示すグラフである。図8は、第2比較例として、ピッチを120mmとして9ヶのスプレーノズルを各々の噴霧領域の長手方向が一列になるように配置した場合の噴霧領域の長手方向における比較噴付強度を示すグラフである。図9は、第3比較例として、ピッチを150mmとして8ヶのスプレーノズルを各々の噴霧領域の長手方向が一列になるように配置した場合の噴霧領域の長手方向における比較噴付強度を示すグラフである。
【0073】
図7〜9においては、縦軸に比較噴付強度(%)、横軸に、一列に配置された噴霧領域の長手方向における0点からの位置(mm)を示している。なお、比較噴付強度(%)は、上記の1ヶのスプレーノズルの相対噴付強度の最大値を100%として、複数のスプレーノズルを各ピッチで配置したときの噴付強度を示している。
【0074】
図7〜9に示すように、Lh=300mmの地点においては、ピッチを120mmとしてスプレーノズルを配置した場合に、噴霧領域の長手方向における比較噴付強度が比較的均一になっていた。
【0075】
第1から第3比較例の成膜装置のように、複数のスプレーノズル130を配置して成膜する場合、各スプレーノズル130の噴霧量にはばらつきがある。また、スプレーノズル130の噴霧量は経時的に変化する。
【0076】
図10は、20本の噴霧開始直後のスプレーノズル130の噴霧量(L/hr)をと圧縮空気消費量(L/min)を調査した結果を示す図である。図10に示すように、噴霧開始直後のスプレーノズル130の噴霧量には、±10%程度のばらつきがある。
【0077】
スプレーノズル130の噴霧量の経時変化は、スプレーノズル130を構成する材料によって異なる。たとえば、ハステロイ(登録商標)からなるスプレーノズルと、ハステロイ(登録商標)およびアルミナからなるスプレーノズルとにおいて、上記の成膜材料160の溶液を噴霧した場合の噴霧量の経時変化が異なる。
【0078】
図11は、ハステロイ(登録商標)からなるスプレーノズルと、ハステロイ(登録商標)およびアルミナからなるスプレーノズルとにおいてミストを噴霧した際の噴霧量の経時変化を示す図である。
【0079】
図11に示すように、ハステロイ(登録商標)からなるスプレーノズルでは、噴霧開始時の噴霧量に比較して、噴霧開始後40時間経過時の噴霧量が約25%増加した。一方、ハステロイ(登録商標)およびアルミナからなるスプレーノズルでは、噴霧量は略一定であった。これは、ハステロイ(登録商標)からなるスプレーノズルにおいては、ノズルの内部がミストにより腐食されてノズルの口径が大きくなったためである。このように、スプレーノズルの噴霧量は、スプレーノズルの構成材料によって経時変化の度合いが異なる。
【0080】
スプレーノズルの噴霧量は、他のファクターによっても異なってくる。図12は、スプレーノズルの噴霧量およびミスト径と圧縮空気の圧力との関係を示す図である。図13は、スプレーノズルの噴霧量およびミスト径と成膜材料の溶液の圧力との関係を示す図である。図14は、スプレーノズルの噴霧量およびミスト径とスプレーノズルのノズル径との関係を示す図である。
【0081】
図12においては、縦軸に噴霧量およびミスト径、横軸に圧縮空気の圧力を示している。図13においては、縦軸に噴霧量およびミスト径、横軸に成膜材料の溶液の圧力を示している。図14においては、縦軸に噴霧量およびミスト径、横軸にスプレーノズルのノズル径を示している。図12〜14においては、噴霧量を点線で、ミスト径を実線で示している。
【0082】
図12に示すように、成膜材料160の溶液と混合される圧縮空気の圧力が高くなるに従って、噴霧されるミストの径は小さくなる。また、圧縮空気の圧力が高くなるに従って、スプレーノズルの噴霧量は、ある程度増加した後、減少する。
【0083】
図13に示すように、成膜材料160の溶液の圧力が高くなるに従って、噴霧されるミストの径は大きくなり、スプレーノズルの噴霧量は増加する。図14に示すように、スプレーノズルのノズル径が大きくなるに従って、噴霧されるミストの径は大きくなり、スプレーノズルの噴霧量は僅かに増加する。
【0084】
上記のように、スプレーノズルの噴霧量に相関を有するファクターとして、圧縮空気の圧力および成膜材料の溶液の圧力がある。これらのファクターについて制御することにより、スプレーノズルから所望の噴霧量でミストを噴霧させることができる。複数のスプレーノズル130に所望の噴霧量でミストを噴霧させることにより、基板200上への成膜量を調節することができる。
【0085】
そこで、本実施形態に係る成膜装置10においては、複数の噴霧機構の基板200上への成膜量を所定の範囲に収めるように調節する調節手段を備える。調節手段は、基板200上への成膜量に関して複数の群に分けられた複数の噴霧機構において、この複数の群の各々に含まれる噴霧機構毎に、基板上への成膜量を調節する。
【0086】
たとえば、図10に示す20本のスプレーノズル130を用いて基板200上に成膜する場合、噴霧量によって20本のスプレーノズル130を4つの群に分ける。ノズルNo.5,8,18,20のスプレーノズルをA群とし、ノズルNo.1,2,12,17のスプレーノズルをB群とし、ノズルNo.3,10,15のスプレーノズルをC群とし、ノズルNo.4,9,19のスプレーノズルをD群とする。
【0087】
図15は、各群に含まれるスプレーノズル毎に調節手段を備えたタンクが接続されている状態を示す平面図である。図15に示すように、基板200の搬送方向においてスプレーノズル130を2列に配置する。スプレーノズル130の配置は1列でもよいが、2列に配置した場合、基板200の搬送速度を上げて成膜処理することが可能となるため成膜時間を短縮することができる。また、2列に配置したスプレーノズル130を千鳥状に配置している。このように配置することにより、基板200上に均一に成膜することができる。
【0088】
A群に含まれるスプレーノズル130の各々は、タンク140aと通路141を介して接続されている。B群に含まれるスプレーノズル130の各々は、タンク140bと通路141を介して接続されている。C群に含まれるスプレーノズル130の各々は、タンク140cと通路141を介して接続されている。D群に含まれるスプレーノズル130の各々は、タンク140dと通路141を介して接続されている。
【0089】
図16は、本実施形態に係るタンクの構成を示す断面図である。図2においてはタンク140を簡略に示したが、図16に示すようにタンク140は二重構造を有している。具体的には、タンク140は、外側容器142と、外側容器142内に位置する内側容器143とを有する。成膜材料160の溶液は、内側容器143内に貯液されている。
【0090】
外側容器142には、調節手段である圧力調整部500が配管510を介して接続されている。内側容器143は開口部145を有し、開口部145を通じて内側容器143内の空間部146と外側容器142の空間部144とが連通している。通路141は、外側容器142および内側容器143を貫通して、通路141の端部が成膜材料160の溶液中に位置している。
【0091】
圧力調整部500により外側容器142の空間部144内が負圧に引かれると、開口部145を通じて内側容器143内の空間部146内が負圧に引かれる。その結果、成膜材料160の溶液の圧力が低下する。逆に、圧力調整部500により外側容器142の空間部144内が加圧されると、開口部145を通じて内側容器143内の空間部146内が加圧される。その結果、成膜材料160の溶液の圧力が上昇する。このように、圧力調整部500により成膜材料160の溶液の圧力を調節することができる。
【0092】
スプレーノズル130の各群毎にタンク140が接続されているため、各群毎に成膜材料160の溶液の圧力を調節することができる。そのため、各群毎にスプレーノズル130の噴霧量を調節して基板上への成膜量を調節することができる。
【0093】
また、調節手段は、圧縮空気を供給する上記コンプレッサーの駆動を調節するものでもよい。コンプレッサーの駆動を調節することにより、圧縮空気の圧力を調節することができる。
【0094】
この場合も、スプレーノズル130の各群毎にタンク140が接続されているため、各群毎に圧縮空気の圧力を調節することができる。そのため、各群毎にスプレーノズル130の噴霧量を調節して基板上への成膜量を調節することができる。
【0095】
上記のように、噴霧開始直後の噴霧量の近いスプレーノズル130同士を1つの群にまとめて噴霧量を調節することにより、多数のスプレーノズル130の成膜量の調節を精度よく、かつ、装置構成が複雑にならないようにすることができる。
【0096】
ただし、調節手段は、複数のスプレーノズル130の各々の噴霧量を調節するものでもよい。調節手段が、各スプレーノズル130において圧縮空気の圧力または成膜材料の溶液の圧力を調節することにより、それぞれのスプレーノズル130における噴霧量を所望の噴霧量として基板200上への成膜量を調節することができる。
【0097】
さらに、成膜装置10は、スプレーノズル130を基板200に対して接近または離隔するように動作させる図示しない駆動機構をさらに備えてもよい。この場合、調節手段は、この駆動機構によりスプレーノズル130と基板200との間の距離を調節することにより成膜量を調節することができる。
【0098】
具体的には、スプレーノズル130と基板200との間の距離を接近させることにより、基板200上に到達するミストの量を増やして成膜量を増加させる。逆に、スプレーノズル130と基板200との間の距離を離隔させることにより、基板200上に到達するミストの量を減じて成膜量を減少させる。
【0099】
なお、駆動機構は、スプレーノズル130本体を移動させるものでもよいし、スプレーノズル130の端部のみを伸縮させるものでもよい。
【0100】
この場合、冷却ジャケット131は、駆動機構によるスプレーノズル130の動作に連動して基板200に対して接近または離隔する。このようにすることにより、スプレーノズル130を冷却しつつスプレーノズル130からミストを噴霧させることができる。
【0101】
その結果、スプレーノズル130が基板200に接近して加熱炉120に近づいた際に、スプレーノズル130の温度が高くなることを抑制してスプレーノズル130の目詰まりを防ぐことができる。
【0102】
本実施形態においては、冷却ジャケット131および整流部材132を設けたが、必ずしも冷却ジャケット131および整流部材132を設けなくてもよい。
【0103】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0104】
10 成膜装置、11 投入部、12 予熱部、13 成膜部、14 徐冷部、15 取出し部、100,100a,100b,100c,100d 成膜室、110 搬送コンベア、111 搬送ベルト、112 プーリ、113 駆動軸、120 加熱炉、130 スプレーノズル、131 冷却ジャケット、132 整流部材、134 整流部、140,140a,140b,140c,140d タンク、141 通路、142 外側容器、143 内側容器、145 開口部、144,146 空間部、150 筐体、151 導入口、152 排気口、153 排気空間、154 仕切壁、155 開口、158 噴霧機構配置空間、159 ミスト噴霧空間、160 成膜材料、162 噴霧領域、170 キャリアガス、180 排気ガス、181 混合領域、200 基板、300 除害装置、310 接続管、500 圧力調整部、510 配管、X 噴き付け領域、Y 流路領域、Z 排気領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子化した成膜材料を基板上に堆積させて成膜する成膜装置であって、
筐体と、
前記筐体の内部に前記成膜材料を微粒子化したミストを噴霧する複数の噴霧機構と、
前記複数の噴霧機構の基板上への成膜量を所定の範囲に収めるように調節する調節手段とを備え、
前記調節手段は、前記複数の噴霧機構の各々の基板上への成膜量を調節する、または、基板上への成膜量に関して複数の群に分けられた前記複数の噴霧機構において該複数の群の各々に含まれる噴霧機構毎に基板上への成膜量を調節する、成膜装置。
【請求項2】
前記複数の噴霧機構の各々はスプレーノズルからなり、
前記スプレーノズルは、前記成膜材料を圧縮空気により微粒子化した前記ミストを噴霧する、請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記調節手段は、前記圧縮空気の流量を調節することにより基板上への成膜量を調節する、請求項2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記調節手段は、前記成膜材料の前記溶液の圧力を調節することにより基板上への成膜量を調節する、請求項2に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記スプレーノズルを基板に対して接近または離隔するように動作させる駆動機構をさらに備え、
前記調節手段は、前記駆動機構により前記スプレーノズルと基板との間の距離を調節することにより基板上への成膜量を調節する、請求項2から4のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項6】
前記スプレーノズルを冷却する冷却手段をさらに備える、請求項5に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記冷却手段は、前記駆動機構による前記スプレーノズルの動作に連動して基板に対して接近または離隔する、請求項6に記載の成膜装置。
【請求項8】
成膜材料を微粒子化したミストを噴霧する複数の噴霧機構の基板上への成膜量を所定の範囲に収めるように調節する調節工程と、
前記調節工程後に、前記複数の噴霧機構により微粒子化した前記ミストを噴霧する噴霧工程とを備え、
前記調節工程において、前記複数の噴霧機構の各々の基板上への成膜量を調節する、または、基板上への成膜量に関して複数の群に分けられた前記複数の噴霧機構において該複数の群の各々に含まれる噴霧機構毎に基板上への成膜量を調節する、成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−95938(P2013−95938A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237382(P2011−237382)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】