説明

抗体又は標的の同定のための方法

本開示は、サンプル中の免疫グロブリンのレパートリ配列データを分析することによって、及び前記サンプル中にある最も優性のVH及びVL鎖を決定することによって、抗体、標的分子、又は病原体を同定するための方法、ならびにその方法で用いられる材料に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生物学的サンプル中の免疫グロブリンの配列データを分析することによって、及び、前記生物学的サンプル中にある最も豊富なVH及びVL鎖を決定することによって、抗体、標的分子、又は病原体を同定するための方法に関する。それに用いられる材料も更に提供される。
【背景技術】
【0002】
抗体又は標的分子を同定するための従来の方法は、活性化させたヒトB細胞から抗体を単離する困難なプロセスを含む。例えば、免疫化した、あるいは癌患者のB細胞からの完全ヒト抗体の単離は、完全ヒト抗体に対する有効な経路と見なされる。いくつかの企業はヒトから単一のB細胞を単離するための商業上のサービスを提供する。これらのB細胞は不死化されるか、あるいは単一細胞の免疫グロブリンの遺伝情報が回収されるかである。これらの方法は、困難かつ高価な高処理技術を含み、細胞ごとに遺伝情報を単離し、数千の細胞を不死化し、標的組織でそれらの各出力をスクリーニングするための技術を含む。
【0003】
近年、いくつかの企業が全ゲノム配列決定サービス、あるいは各タスクを実現するために用いることができる機械を提供している。これはRoche社の454システム、Illuminas社のSolexaシステム、及びHelico Biosciences社のHeliscopeシステムを含む。例えば、Helico社のシステムは、標的配列の定量的分布を更に維持することによって、単一機械で24時間内に2×109の塩基を配列決定できる。
【0004】
米国特許第7,288,249号は、2又はそれ以上の別個の細胞集団の表面に特異的に発現される抗原を同定するための方法を開示する。免疫化はB細胞でトリガされ、増殖(クローン増殖)するために、及び対応する抗体を分泌するために、免疫原に結合するVH−VLの組合せを産生する。しかしながら、米国特許第7,288,249号によるプロセスは、VH及びVL遺伝子のクローン化を含み(VH及びVL遺伝子はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって別個にクローン化される)、VH及びVL遺伝子はファージライブラリ中でランダムに組換えられ(すなわち、最も豊富なVH及びVL遺伝子の選択がない)、その後、Winterら,Ann.Rev.Immunol.,12:433−455(1994);に記載のように抗原結合クローンについて検索される。抗体の可変型遺伝子セグメント(VH及びVLセグメントを含む)をコード化した核酸は、対象の細胞から回収されて、増幅される。再配列されたVH及びVL遺伝子ライブラリの場合においては、所望のDNAがリンパ球からゲノムDNA又はmRNAを単離することによって取得され、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)が後に続き、プライマーが再配列されたVH及びVL遺伝子の5’及び3’末端と合致する。有用な抗体を見つけるために、未処理の抗体ファージライブラリが実際の癌細胞に対してスクリーニングされる。
【0005】
米国特許第6,897,028号は、タンパク質がリガンドに結合する分子標的の同定方法について記載し、ペプチド又はタンパク質ライブラリに対するリガンドをスクリーニングし、ここでペプチド又はライブラリのタンパク質メンバは、細胞から得られるcDNAライブラリの発現産物、及びその発現産物のフラグメントから選択される。このプロセスは更に、ライブラリから分離されたメンバをコード化する核酸配列を決定するステップと、これらの核酸配列をペプチド配列に翻訳するステップと、タンパク質を同定するステップとを含む。
【0006】
米国特許出願公開第20060141532号明細書(出願番号11/286917)は、Iwasakiら,Eur.J.Immunol.,24:2874−2881,1994;に開示されるように、抗イディオタイプの抗体の特定のVH又はVL領域のアミノ酸配列を決定するためのプロトコルを用いることによって、免疫原性ペプチドを同定及び設計するための方法を開示する。抗原のアミノ酸は標準的なアミノ酸分析技術によって、あるいは化学的配列決定によって決定され、抗イディオタイプの抗体のVH及び/又はVL領域のアミノ酸配列は、当該技術分野で周知の技術による、各領域をコード化するゲノムDNA又はcDNAを配列決定することによって決定される。
【0007】
国際公開第2005/094159号は、不死化リンパ球からの結合ペプチドの単離と、健常組織ではない腫瘍組織に選択的に結合する、これらの結合ペプチド、通常はIgM1免疫グロブリンの試験とについて記載する。結合ペプチドは腫瘍の増殖を阻害できる。
【0008】
国際公開第03/052416号は、B細胞からの候補のVH及びVL配列の単離及び配列決定のためのアプローチについて記載する。前記候補のVH及びVL配列によってコード化された免疫グロブリンは感染症の治療に有用な可能性がある。国際公開第03/052416号に記載された方法論、ならびに先行技術で開示された総ての他の方法は、配列決定前の核酸の操作を要求する。特に、時間のかかるクローニングステップが必須であり、本発明に開示のような範囲の方法を実行することを不可能にしている。
【0009】
国際公開第03/052416号の場合にあるように、上述の総ての方法は、標的をコード化する核酸を単離する困難なプロセス、及び/又は超高処理によるゲノム配列決定を含む。しかしながら、VH及びVL鎖の配列データを分析することによって、及び最も優性のVH及びVLを決定することによって標的分子を同定する、困難が少なく、対費用効果の高い、及び/又はより簡単な方法は有用である。
【発明の概要】
【0010】
本開示の実施形態は一般的に、生物学的サンプル中にある免疫グロブリンの可変重(VH)鎖及び可変軽(VL)鎖の配列データを分析することによって、抗体、標的分子、又は病原体を同定する方法に関する。この実施形態の一部は、所定のコンピュータに実装されるアルゴリズムを用いて、サンプル中にある最も豊富なVH及びVL鎖を決定することと、ベクタにおける発現用に最も豊富なVH及びVL鎖のポリヌクレオチドを合成することと、発現した抗体を試験して標的分子を同定することとに関する。他の実施形態は、所定のコンピュータに実装されるアルゴリズムを用いて、サンプル中にある最も豊富なVH及びVL鎖を決定することと、ベクタにおける発現用に最も豊富なVH及びVL鎖のポリヌクレオチドを合成することと、特定の標的分子又は標的組織に結合する発現した抗体のどちらかを試験することとに関する。特定の実施形態においては、サンプルは事前選択又は事前濃縮されない生物学的サンプルである。
【0011】
一実施形態は、サンプル中の抗体、標的、又は病原体を同定する方法を提供し、
a)サンプル中の免疫グロブリンをコード化するmRNAのcDNAを取得するステップであって、これによってcDNAの混合物を取得するステップと;
b)免疫グロブリンの可変重(VH)鎖及び可変軽(VL)鎖の各々を配列決定するステップであって、これによってサンプル中にある免疫グロブリンのVH及びVL鎖の配列データを取得するステップと;
c)所定のコンピュータに実装されるアルゴリズムを用いて、サンプル中にある最も豊富なVH及びVL鎖を決定するステップと;
d)最も豊富なVH及びVL鎖のポリヌクレオチドを合成し、哺乳類発現ベクタを用いて抗体を産生するステップと;
e)抗体を試験するステップであって、これによって特定の標的分子又は組織に結合する抗体を同定するか、あるいは特定の抗体に結合する標的分子を同定するステップと;
を具える。
【0012】
別の実施形態は抗体、標的、又は病原体を同定する方法を提供し、
a)ヒト、ネズミ、げっ歯類、マウス、ラット、リス、シマリス、ホリネズミ、ヤマアラシ、ビーバー、ハムスター、スナネズミ、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、雌ウシ、又はウマといった、免疫化されるか、あるいは病原体又は標的分子に感染する哺乳類から、生物学的サンプルを提供するステップと;
b)生物学的サンプルからB細胞を収集するステップと;
c)収集されたB細胞中の免疫グロブリンをコード化するmRNA(例えば、IgG)を取得するステップと;
d)免疫グロブリンのcDNAを産生するステップであって(例えば、逆転写PCRによって、及び増幅用のIgGに特異的なプライマーを用いることによって)、これによってcDNAの混合物を取得するステップと;
e)免疫グロブリンの可変重(VH)鎖及び可変軽(VL)鎖の各々を配列決定するステップであって(例えば、VH及びVLの別個の配列を取得することによって)、これによってサンプル中にある免疫グロブリンのVH及びVL鎖の配列データを取得するステップと;
f)VH及びVL鎖の配列データを分析して、サンプル中にある最も優性のVH及びVL鎖を決定するステップと;
g)所定のコンピュータに実装されるアルゴリズムを用いて、サンプル中にある最も豊富なVH及びVL鎖を決定するステップと;
h)最も豊富なVH及びVL鎖のポリヌクレオチドを合成するステップと;
i)合成されたVH及びVLのポリヌクレオチドを、哺乳類発現ベクタに組み込むステップと;
j)VH及びVLポリヌクレオチド組み込み型ベクタが培養基中で発現するのを可能にするステップであって、これによって抗体又はそのフラグメントを産生するステップと;
k)イムノアッセイを用いることによって抗体を試験するステップであって、これによって抗体、標的分子、又は標的分子に対する病原体を同定するステップと;
を具える。特定の実施形態においては、哺乳類は罹患哺乳類である。
【0013】
特定の実施形態においては、免疫グロブリンはIgG、IgM、IgA、IgD、又はIgEの免疫グロブリンクラスのうちの少なくとも1つ、あるいはそのフラグメントである。いくつかの実施形態においては、免疫グロブリンはIgGクラスである。
【0014】
特定の実施形態においては、免疫グロブリンはIgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4の免疫グロブリンGのサブクラスのいずれか1つである。
【0015】
別の実施形態は抗体、標的、又は病原体を同定する方法を提供し、免疫グロブリンのcDNAは逆転写PCRによって産生される。
【0016】
別の実施形態は抗体、標的、又は病原体を同定する方法を提供し、IgGに特異的なプライマーは逆転写PCR増幅で用いられる。
【0017】
別の実施形態は抗体、標的、又は病原体を同定する方法を提供し、プライマーはIgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4の免疫グロブリンGのサブクラスのいずれか1つに対して特異的な逆転写PCR増幅で用いられる。
【0018】
別の実施形態は抗体、標的、又は病原体を同定する方法を提供し、免疫グロブリンのVH及びVL鎖に対する別個の配列データが取得される。VH及びVL鎖の配列データはデータベースに保存され、最も豊富なVH及びVL鎖がコンピュータに実装されるアルゴリズムを介して決定される。
【0019】
別の実施形態は抗体、標的、又は病原体を同定する方法を提供し、哺乳類はヒト、ネズミ、げっ歯類、マウス、ラット、リス、シマリス、ホリネズミ、ヤマアラシ、ビーバー、ハムスター、スナネズミ、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、雌ウシ、又はウマである。
【0020】
別の実施形態はサンプル中の抗体、標的、又は病原体を同定する方法を提供し、
a)サンプル中にあるVH及びVL鎖の配列データを分析するステップと;
b)サンプル中にあるVH及びVL鎖の存在量を決定するステップと;
を具える。方法は更に、ステップb)で同定された豊富なVH及びVL鎖を含む1又はそれ以上の免疫グロブリンを調製するステップを具える。
【0021】
特定の実施形態においては、ヒトは癌患者であるか、あるいは免疫化されるか、あるいは病原体又は標的分子に感染している。
【0022】
更に、本開示の別の実施形態は抗体、標的、又は病原体を同定する方法を提供し、哺乳類はヒト、ネズミ、げっ歯類、マウス、ラット、リス、シマリス、ホリネズミ、ヤマアラシ、ビーバー、ハムスター、スナネズミ、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、雌ウシ、又はウマである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本開示は、生物学的サンプル中にある可変重(VH)鎖及び可変軽(VL)鎖の免疫グロブリンの配列データを分析することによって、抗体、標的分子、又は病原体を同定するための方法、ならびに本明細書中に開示された方法で用いられる材料を提供する。本開示は更に、所定のコンピュータに実装されるアルゴリズムを用いて、サンプル中にある最も豊富なVH及びVL鎖を決定し、ベクタにおける発現用に最も豊富なVH及びVL鎖のポリヌクレオチドを合成し、発現した抗体を試験して標的分子を同定する方法に関する。
【0024】
一態様によると、本開示は「免疫ゲノム(immunonome)」の配列決定によって、抗体、標的分子、又は病原体を同定又は検出するため方法を提供し、それは哺乳類サンプル(ヒト、ネズミ、げっ歯類、マウス、ラット、リス、シマリス、ホリネズミ、ヤマアラシ、ビーバー、ハムスター、スナネズミ、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、雌ウシ、又はウマなど)中で免疫グロブリン(IgGなど)をコード化する完全なmRNA(あるいは、逆転写PCR後のcDNA)のことであり、哺乳類は標的分子で免疫化されるか、癌患者であるか、あるいは特定のウイルス性、細菌性、又は原生動物の種に感染する。特定の実施形態においては、哺乳類(例えば、ヒト、ネズミ、げっ歯類、マウス、ラット、リス、シマリス、ホリネズミ、ヤマアラシ、ビーバー、ハムスター、スナネズミ、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、雌ウシ、又はウマ)はワクチンといった標的分子で免疫化される。他の実施形態においては、前記哺乳類は癌患者である。
【0025】
別の態様によると、B細胞は免疫化された哺乳類又は癌患者から単離され、mRNAは各サンプルから抽出され、mRNAによってコード化された免疫グロブリンは逆転写及び配列決定される。いくつかの実施形態においては、少なくとも10のB細胞が免疫化された哺乳類又は癌患者から単離され、他の実施形態においては、少なくとも10のB細胞、10のB細胞、又は更に10のB細胞が免疫化された哺乳類又は癌患者から単離される。免疫グロブリンの可変鎖をコード化する遺伝子は一般的には、約1000ヌクレオチドの長さを有する。従って、配列情報の約2×10の塩基の配列決定は、少なくとも2倍の免疫ゲノム全体を包含する。優性のCDR配列ならびにその(高頻度)変異が同定される。これらの配列は特異的であるか、あるいは免疫刺激に対し少なくとも代表的である。重鎖及び軽鎖配列(相互に回復できない)は、優性の頻度によって、すなわちその存在量によってクラスター形成される。最も豊富なVH及びVLは合成され、哺乳類発現ベクタに(1つごとに、あるいは集団で)導入される。ベクタは好適な培地で発現され、スクリーニングされて、対象の標的に対し特異性の免疫グロブリン、又はそのフラグメントを取得する。得られた結合剤は治療効果について試験され、薬剤として用いるために産生され、新しい抗体又は分子標的を同定するのに用いられうる。
【0026】
本開示の実施形態は利点を提供し、以下のものを含む。
― 本明細書中に記載の実施形態は、超高処理の従来の生物学(wet biology)を情報生物学、及び有意に減少した時系列中の多くの患者からのB細胞を分析する場合に並列化が可能な、単一で広範囲の並列型分子配列決定技術に置換できる(通常、ショットガン配列決定のみが実行され、75ないし500の塩基対の比較的短い伸長を産生し、アセンブリは取得されたフラグメントの配列分析によってなされる)。
― 免疫グロブリンの定常領域中の高い相同性は、配列分析アルゴリズムと干渉しない。
― 本明細書中に記載の実施形態はクローニングステップの回避を可能にする。
― 本明細書中に記載の実施形態は、IgG選択性のプライマー、つまりIgGサブクラスに特異的なプライマーを用いることによって、低品質IgMの単離の問題を克服できる。
― 本明細書中の方法は、診断方法のために免疫ゲノムを用いることを可能にする。例えば、同一のアレルゲンに対するアレルギーを受ける患者はその免疫反応において同様の配列パターンを示しうる。従って、原則的にバイオマーカーとしての免疫ゲノムのプロファイルの使用は更に十分な大きさのデータセットが取得された場合に実現可能である。
― 免疫ゲノムの情報は更に、合成型のヒト、ネズミ、又はげっ歯類全体の抗体ライブラリの設計を促進できる。
【0027】
本開示の一実施形態によると、サンプル中、例えば、免疫化されるか、あるいは病原体又は標的分子に感染する哺乳類(例えば、ヒト、ネズミ、げっ歯類、マウス、ラット、リス、シマリス、ホリネズミ、ヤマアラシ、ビーバー、ハムスター、スナネズミ、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、雌ウシ、又はウマ)由来の生物学的サンプル中の抗体、標的分子、疾病マーカー、病原体、又は標的分子に対する病原体は、
a)サンプル中の免疫グロブリンをコード化するmRNAのcDNAを取得するステップであって(例えば、サンプルからB細胞を収集することによって)、これによってcDNAの混合物を取得するステップと;
b)免疫グロブリンの可変重(VH)鎖及び可変軽(VL)鎖の各々を配列決定するステップであって、これによってサンプル中にある免疫グロブリン(IgG等)のVH及びVL鎖の配列データを取得するステップと;
c)サンプル中にある最も豊富なVH及びVL鎖を決定するステップと(例えば、所定のコンピュータに実装されるアルゴリズムを用いて、サンプル中にあるVH及びVL鎖の配列データを分析することによって);
d)最も豊富なVH及びVL鎖のポリヌクレオチドを合成し、哺乳類発現ベクタを用いて抗体を産生するステップと(例えば、合成されたVH及びVLのポリヌクレオチドを哺乳類発現ベクタに組み込むことによって);
e)抗体を試験するステップであって(例えば、イムノアッセイを用いることによって)、これによって、サンプル中の抗体、標的、又は標的分子に対する病原体を同定するステップと;
を具える方法によって、同定、決定、検出又は診断される。
【0028】
本開示の別の実施形態によると、抗体、標的分子、疾病マーカー、病原体、又は標的分子に対する病原体は、
a)免疫化されるか、あるいは病原体又は標的分子に感染する哺乳類(例えば、ヒト、ネズミ、げっ歯類、マウス、ラット、リス、シマリス、ホリネズミ、ヤマアラシ、ビーバー、ハムスター、スナネズミ、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、雌ウシ、又はウマ)由来の生物学的サンプル、あるいは疾病マーカー又は標的分子に対する抗体を含むサンプルを提供するステップと;
b)生物学的サンプルからB細胞を収集するステップと;
c)収集されたB細胞中の免疫グロブリンをコード化するmRNAを取得するステップと;
d)免疫グロブリンのcDNAを産生するステップであって、これによってcDNAの混合物を取得するステップと;
e)免疫グロブリンの可変重(VH)鎖及び可変軽(VL)鎖の各々(VH及びVLの配列に好適で、かつ別個に得られる)を配列決定するステップであって、これによってサンプル中にある免疫グロブリン(IgG等)のVH及びVL鎖の配列データを取得するステップと;
f)VH及びVL鎖の配列データを分析して、サンプル中にある最も優性のVH及びVL鎖を決定するステップと;
g)所定のコンピュータに実装されるアルゴリズムを用いて、サンプル中にある最も豊富なVH及びVL鎖を決定するステップと;
h)最も豊富なVH及びVL鎖のポリヌクレオチドを合成するステップと;
i)合成されたVH及びVLのポリヌクレオチドを哺乳類発現ベクタに組み込むステップと;
j)VH及びVLポリヌクレオチド組み込み型ベクタが培養基で発現するのを可能にするステップであって、これによって抗体を産生するステップと;
k)イムノアッセイを用いることによって抗体を試験するステップであって、これによって、抗体、標的、標的分子、疾病マーカー、病原体、又は標的分子に対する病原体を同定するステップと;
を具える方法によって、同定、決定、検出又は診断される。
【0029】
本開示の実施形態においては、免疫グロブリンをコード化するmRNAはIgGクラスである。
【0030】
本開示の他の実施形態においては、免疫グロブリンのcDNAは逆転写PCRによって産生される。
【0031】
本開示の他の実施形態によると、IgGに特異的なプライマーは逆転写PCR増幅で用いられる。
【0032】
本開示の他の実施形態においては、免疫グロブリンのVH及びVL鎖に対する別個の配列データは、コンピュータに実装されるアルゴリズムを決定するために取得される。
【0033】
本開示の別の実施形態においては、哺乳類はヒト、ネズミ、げっ歯類、マウス、ラット、リス、シマリス、ホリネズミ、ヤマアラシ、ビーバー、ハムスター、スナネズミ、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、雌ウシ、又はウマである。
【0034】
本開示の別の実施形態によると、抗体、標的分子、疾病マーカー、病原体、又は標的分子に対する病原体は、
a)サンプル中にあるVH及びVL鎖の配列データを分析するステップと;
b)サンプル中にあるVH及びVL鎖の存在量を決定するステップと;
を具える方法によって同定、決定、検出又は診断される。
【0035】
別の実施形態においては、その方法は更にステップb)で同定された豊富なVH及びVL鎖を含む1又はそれ以上の免疫グロブリンを調製するステップを具える。本開示の他の実施形態においては、サンプルは生物学的サンプルである。他の実施形態においては、生物学的サンプルは哺乳類由来である。更に他の実施形態においては、前記哺乳類はヒト、ネズミ、げっ歯類、マウス、ラット、リス、シマリス、ホリネズミ、ヤマアラシ、ビーバー、ハムスター、スナネズミ、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、雌ウシ、又はウマである。他の実施形態においては、前記ヒトは癌患者であるか、免疫化されるか、あるいは病原体又は標的分子に感染する。他の実施形態においては、免疫グロブリンはIgGクラスである。
【0036】
[定義及び本開示の他の実施形態]
用語「免疫グロブリン(immunoglobulin:Ig)」は、免疫グロブリン遺伝子によって実質的にコード化される1又はそれ以上のポリペプチドからなるタンパク質のことである。免疫グロブリンは限定しないが、抗体を含む。免疫グロブリンは多数の構造形態を有してもよく、限定しないが全長型抗体、抗体フラグメント、及び別個の免疫グロブリンドメインを含む。本明細書中の「免疫グロブリン(Ig)ドメイン」は、タンパク質構造の技術分野の当業者によって確認されるような異なる構造主体として存在する免疫グロブリンの領域を意味する。本明細書中で用いられるような用語「IgG」は、認識された免疫グロブリンγ遺伝子によって実質的にコード化される抗体のクラスに属するタンパク質を意味する。
【0037】
用語「抗体(antibody)」はポリクローナル抗体、アフィニティー精製ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ヒト、ネズミ又はげっ歯類の完全抗体、ならびにF(ab’)及びFabタンパク質分解フラグメントといった抗原結合性フラグメントを含む。キメラ抗体、Fvフラグメント、及び単鎖抗体等といった、遺伝子改変された未処理の抗体又はフラグメント、ならびに合成型の抗原結合性ペプチド及びポリペプチドは更に含まれる。本開示による抗体は、抗体クラスのいずれかに属する免疫グロブリン遺伝子によって実質的にコード化されてもよい。抗体はIgGクラスの抗体に属する配列を含み、ヒトサブクラスのIgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4を含む。この抗体は、IgA(ヒトサブクラスのIgA1及びIgA2)、IgD、IgE、IgG、又はIgMクラスの抗体に属する配列を含む。
【0038】
本明細書中で用いられるような用語「可変鎖(variable chain)」又は「可変領域(variable region)」は、軽鎖(κ及びλを含む)及び重鎖の免疫グロブリン遺伝子座をそれぞれ構成する、VL(Vκ及びVλを含む)、VH、JL(Jκ及びJλを含む)、及びJH遺伝子のいずれかによって実質的にコード化される1又はそれ以上のIgドメインを含む免疫グロブリンの領域を意味する。軽鎖又は重鎖の可変領域(VL及びVH)は、「相補性決定領域」又は「CDR」と称される3の超可変領域によって割り込まれる「フレームワーク」又は「FR」領域からなる。フレームワーク領域及びCDRの範囲は正確に規定されてきた(Kabat,1991,J.Immunol.,147,915−920.;Chothia&Lesk,1987,J.Mol.Biol.196:901−917;Chothiaら,1989,Nature342:877−883;Al−Lazikaniら,1997,J.Mol.Biol.273:927−948)。抗体のフレームワーク領域は、構成要素である軽鎖及び重鎖の結合フレームワーク領域であり、CDRを配置及び配列比較するように作用し、主に抗原への結合を担当する。
【0039】
用語「生物学的サンプル(biological sample)」は生物学的起源の任意のサンプルのことであってもよく、組織又は体液、全血、血清又は血漿のサンプル、あるいはタンパク質、ポリペプチド、核酸、又はポリヌクレオチドといった任意の成分を含むサンプルを含んでもよい。特定の実施形態においては、生物学的サンプルは、ヒト、ネズミ、げっ歯類、マウス、ラット、リス、シマリス、ホリネズミ、ヤマアラシ、ビーバー、ハムスター、スナネズミ、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、雌ウシ、又はウマ由来といった、哺乳類由来である。他の実施形態においては、生物学的サンプルは哺乳類由来であり、哺乳類(例えばヒト、ネズミ、げっ歯類、マウス、ラット、リス、シマリス、ホリネズミ、ヤマアラシ、ビーバー、ハムスター、スナネズミ、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、雌ウシ、又はウマ)は標的分子で免疫化されるか、癌患者であるか、あるいは特定のウイルス性、細菌性、又は原生動物の種に感染する。
【0040】
「標的(target)」又は「標的分子(target molecule)」は、抗体といった免疫グロブリンと反応し、それに結合する分子のことである。標的は既知又は未知であってもよく、及び/あるいは、例えば、免疫沈降、それに続く質量分光分析、N末端タンパク質配列決定などの当該技術分野で周知の方法によって同定できる。
【0041】
用語「哺乳類(mammal)」は、例えばヒト、ネズミ、げっ歯類、マウス、ラット、リス、シマリス、ホリネズミ、ヤマアラシ、ビーバー、ハムスター、スナネズミ、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、雌ウシ、及びウマなどの哺乳類として分類される任意の生物のことである。実施形態においては、哺乳類はマウスである。本開示の他の実施形態においては、哺乳類はヒト又はラットである。
【0042】
配列情報は任意のフォーマットで保存でき、ひいては本明細書中で用いられるような用語「データベース(database)」は、データベースファイル、ルックアップ表、又はExcelのスプレッドシートといった、任意の情報の集合、特に配列情報のことである。特定の実施形態においては、データベースは、コンピュータ可読型の記憶装置といった電子工学的な形態で保存される。これはサーバ、クライアント、ハードディスク、CD、DVD、Palm Pilotといった携帯情報端末、テープ、zipディスク、コンピュータ内部のROM(読み出し専用メモリ)、あるいはインターネット又はワールドワイドウェブといった媒体を含む。コンピュータによりアクセス可能なファイルの保存のための他の媒体は、当該技術分野の当業者にあきらかである。
【0043】
この状況で用いられるような「コンピュータに実装されるアルゴリズム(computer−implemented algorithm)」は、VH及びVL鎖がある特定の生物学的サンプル中で最も豊富であることを決定するのに用いられうる任意の統計学的手段のことである。このようなコンピュータに実装されるアルゴリズムは、より大きなソフトウェアパッケージの一部あるいはスタンドアロン型のソフトウェアパッチ又はアプリケーションであってもよい。コンピュータに実装されるアルゴリズムは一般的に、VH及びVL鎖の変異体の配列データを含むデータベース上で動作する。コンピュータに実装されるアルゴリズムの出力は一般的に、生物学的サンプル中にある最も優性又は豊富な配列、例えば別個のVH鎖又はVL鎖のリストである。
【0044】
本開示の実施形態によると、コンピュータに実装されるアルゴリズムを介して同定される最も優性又は豊富な配列は合成され、本明細書中に記載のような発現用の発現ベクタに組み込まれる。
【0045】
用語「(ポリ)ペプチド((poly)peptide)」はペプチド結合を介して連結される、複数、すなわち2又はそれ以上のアミノ酸の1又はそれ以上の鎖からなる分子と関連する。
【0046】
用語「タンパク質(protein)」は、(ポリ)ペプチドの少なくとも一部分が、1又は複数の(ポリ)ペプチド鎖内及び又はその間に二次、三次、又は四次構造を形成することによって規定された三次元配列を有するか、あるいはそれを取得できる(ポリ)ペプチドのことである。この定義は天然型又は少なくとも部分的に人工型のタンパク質といったタンパク質を含み、同様に、すべてのタンパク質のフラグメント又はドメインを、これらのフラグメント又はドメインが上述したような規定された三次元配列を取得できる限りにおいては含む。1の鎖からなる(ポリ)ペプチド/タンパク質の例は単鎖Fv抗体フラグメントであり、2以上の鎖からなる(ポリ)ペプチド/タンパク質の例はFab抗体フラグメントである。
【0047】
特定の実施形態においては、本開示はIgGクラスの免疫グロブリンといった、免疫グロブリンのスーパーファミリの、好適には免疫グロブリンのメンバ又は誘導体の少なくとも一部を含む(ポリ)ペプチドのライブラリを提供する。いくつかの実施形態はヒト抗体のライブラリを提供する。他の実施形態は哺乳類又はげっ歯類の抗体のライブラリを提供する。可変重鎖領域及び可変軽鎖領域は好適には、フレームワーク領域(FR)1、2、3、及び4ならびに相補性決定領域(CDR)1、2、及び3を含む。
【0048】
最も豊富なVH及びVL鎖をコード化するこれらの人工遺伝子は次いで、例えば、遺伝子全体の合成によって、あるいは合成型の遺伝子サブユニットによって構築される。これらの遺伝子サブユニットは(ポリ)ペプチドレベルでの構造的な下位要素に、例えば1又はそれ以上のフレームワーク領域及び/又は1又はそれ以上のフレームワーク領域に対応する。DNAレベルでは、これらの遺伝子サブユニットは各々の下位要素の始点及び終点での切断部位によって規定してもよい。特定の実施形態においては、米国特許第7,264,963号に記載のように、下位要素はHuCAL(Human Combinatorial Antibody Library)と互換性がある。
【0049】
このDNA分子の集合は次いで、Fv、ジスルフィド結合Fv、単鎖Fv(scFv)、又はFabフラグメントといった、抗体又は抗体フラグメントのライブラリを産生するのに用いることができ、新しい標的の抗原に対する特異性の供給源として用いてもよい。更に、抗体の親和性は事前に構築されたライブラリカセット及び周知の成熟化手順を用いて最適化できる。
【0050】
本開示は標的に結合する1又はそれ以上の抗体又は抗体フラグメントをコード化する1又はそれ以上の遺伝子を同定するための方法を提供し、抗体又は抗体フラグメントを発現するステップと、所定の標的分子に結合する1又はそれ以上の抗体又は抗体フラグメントを単離するためにそれらをスクリーニングするステップとを具える。
【0051】
遺伝子発現:用語「遺伝子発現(gene expression)」は生体内又は生体外プロセスのことであり、これによって遺伝子の情報はmRNAに転写され、次いでタンパク質/(ポリ)ペプチドに翻訳される。従って、遺伝子発現という用語は、細胞内部に生じるプロセスのことであり、これによって遺伝子の情報はmRNAに転写され、タンパク質に翻訳される。発現という用語は更に、翻訳後の修飾及び輸送の総ての事象を含み、これは(ポリ)ペプチドが機能的であるために必要である。相同遺伝子の分析:2又はそれ以上の遺伝子の対応するアミノ酸配列は、総ての位置での同一又は類似のアミノ酸残基間で相関性を最大化する方法で、相互に配列比較される。これらの配列比較された配列は、同一及び/又は類似の残基の合計の割合が規定されたしきい値を超える場合に、相同的であると称される。
【0052】
用語「ベクタ(vector)」は、異なる遺伝子環境間で、動作可能に結合された別の核酸を輸送することが可能な核酸分子のことである。好適なベクタはそれらが結合される核酸の自律増殖及び/又は発現を可能にするベクタである。動作可能に結合された遺伝子の発現に向かわせることが可能なベクタは、本明細書中で「発現ベクタ(expression vector)」と称される。ベクタの選択は所定のベクタの特異的な要求及び機能的特性に依存する。
【0053】
本開示の一実施形態においては、ベクタは原核生物のレプリコン、すなわち、細菌性宿主細胞といった、それとともに形質転換される原核生物の宿主細胞中の染色体的に余分な組換えDNA分子の自律増殖及び維持に向かう能力を有するDNA配列を含む。このようなレプリコンは当該技術分野で公知である。加えて、原核生物のレプリコンを含むそれらの実施形態は更に、発現がそれとともに形質転換される細菌性宿主に対する薬物耐性といった選択的な利点を提供する遺伝子を含む。
【0054】
原核生物のレプリコンを含むベクタは更に、それとともに形質転換される、大腸菌といった細菌性宿主細胞中で、V及び/又はVでコード化する相同体の発現(転写及び翻訳)に向かわせうる原核生物のプロモーターを含む。プロモーターはRNAポリメラーゼの結合及び生じさせるべき転写を可能にする、DNA配列によって形成される発現制御要素である。細菌性宿主で互換性のあるプロモータ配列は一般的には、DNAセグメントの挿入に都合の良い制限部位を含むプラスミドベクタで提供される。このようなベクタプラスミドの例は、pUC8、pUC9、pBR322及びpBR329、pPL、ならびにpKK223を含み、商業上利用可能である。このようなベクタは「原核生物の発現ベクタ(prokaryotic expression vector)」と称される。
【0055】
それらを含む好適な真核生物の発現ベクタは、脊椎動物細胞と互換性がある。用語「真核生物の発現ベクタ(eucaryotic expression vector)」は、真核生物の宿主細胞中の核酸の発現に有用な任意の発現ベクタのことである。本開示の特定の実施形態においては、真核生物のベクタは哺乳類発現ベクタである。用語「哺乳類発現ベクタ(mammalian expression vector)」は哺乳類宿主細胞中の核酸の発現に有用な任意の発現ベクタのことである。
【0056】
真核生物の発現ベクタは当該技術分野で公知であり、更に商業上利用可能である。一般的には、このようなベクタは所望のDNA相同体の挿入に都合の良い制限部位を含んで提供される。このようなベクタの例は、pSV及びpKSV−10、pBPV−1/PML2d、ならびにpTDT1(ATCC寄託番号31255)を含む。
【0057】
本開示の別の実施形態においては、真核生物の発現ベクタは真核細胞に有効な選択マーカ、好適には薬物耐性選択マーカを含む。好適な薬物耐性マーカはネオマイシン耐性を生じさせる遺伝子、すなわちネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(ネオ)遺伝子である。Southernら,J.Mol.Appl.Genet,1:327−341(1982)。
【0058】
及び/又はVでコード化するDNA相同体の遺伝子を発現するためのレトロウイルス性の発現ベクタは更に予期される。用語「レトロウイルス発現ベクタ(retroviral expression vector)」は、レトロウイルスゲノムの末端反復配列(LTR)領域から得られるプロモータ配列を含むDNA分子のことである。
【0059】
1又はそれ以上の、V及び/又はVでコード化するDNA構造は、個別に、あるいは組合せでのいずれかで、V及び/又はVでコード化するDNA相同体の増幅及び/又は発現を提供するために好適な宿主に導入される。V及びVのポリペプチドが異なる生物で発現する場合、各ポリペプチドは単離され、次いで抗体又はそのフラグメントを形成するために好適な培地に混合される。V及び/又はVでコード化するDNA相同体を含有する構成が導入された細胞性宿主は、「形質転換(transform)」された、あるいは「形質転換体(transformant)」であると本明細書中で称される。
【0060】
宿主細胞は原核生物又は真核生物のもののいずれかにできる。細菌性細胞は好適には原核生物の宿主細胞であり、一般的には例えば、メリーランド州ベセズダのBethesda Research Laboratories社から入手可能な、大腸菌株DH5といった大腸菌(E.coli)の菌株である。好適な真核生物の宿主細胞は酵母菌、ならびにネズミ及びげっ歯類を含む哺乳類細胞、好適にはマウス、ラット、サル、又はヒトの細胞株由来のものといった脊椎動物細胞を含む。
【0061】
組換えDNA分子を有する好適な宿主細胞の形質転換は、用いられるベクタの型に一般的に依存する方法によって実現される。原核生物の宿主細胞の形質転換に関しては、例えば、Cohenら,Proceedings National Academy of Science,USA,Vol.69,P.2110(1972);及びManiatisら,Molecular Cloning,a Laboratory Manual,Cold spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,N.Y.(1982);を参照。rDNAを含むレトロウイルスベクタを有する脊椎動物細胞の形質転換に関しては、例えばSorgeら,Mol.Cell.Biol.,4:1730−1737(1984);Grahamら,Virol.,52:456(1973);及びWiglerら,Proceedings National Academy of Sciences,USA,Vol.76,P.1373−1376(1979);を参照。
【0062】
及び/又はVのポリペプチドの発現用のスクリーニング:正常に形質転換された細胞、すなわち、ベクタに動作可能に結合される、V及び/又はVでコード化するDNA相同体を含む細胞は、受容体のリガンドへの結合、又は、受容体、好適にはその活性部位をコード化するポリヌクレオチドの存在を検出する任意の好適な公知の技術によって同定できる。一実施形態においては、スクリーニングアッセイは、受容体によるリガンドの結合が検出可能なシグナルを、直接的にか、あるいは間接的にかのいずれかで産生するように行われる。このようなシグナルは例えば、複合体の産生、触媒反応産物の形成、及びエネルギの放出又は取り込み等を含む。対象の組換えDNAとともに形質転換に供される集団からの細胞はクローニングされて、例えばモノクローナルなコロニーを産生する。これらのコロニーを形成する細胞は収集及び溶解され、そのDNA成分は、例えば、Southern,J.Mol.Biol.,98:503(1975);又は、Berentら,Biotech.3:208(1985);に記載のような当該技術分野に周知の方法を用いて、組換えDNAの存在について試験される。
【0063】
及び/又はVでコード化するDNAの存在について直接的にアッセイする他に、正常な形質転換は更に、産生されるV及び/又はVのポリペプチドが事前選択されたエピトープを含む場合に特に、公知の免疫学的方法によって確認できる。形質変換されることとなる細胞のサンプルは、例えばエピトープに対する抗体を用いて事前選択されたエピトープの存在についてアッセイされる。
【0064】
本明細書中で用いられるような「イムノアッセイ(immunoassay)」は、抗原と、抗体のような免疫グロブリンとの間の特異的な結合反応の任意の測定のことである。一般的には、抗原は(ポリ)ペプチド又はタンパク質であるが、核酸、脂質、脂肪酸、又は有機小分子といったその他の物質が抗原として作用してもよい。当業者はイムノアッセイが抗原と免疫グロブリンとの間の特異的な結合を測定するのに最適であることを容易に理解及び決定するであろう。
【0065】
本発明の状況で用いられるような用語「代表的なサンプル(representative sample)」は、前記サンプル中にある免疫グロブリンの可変軽(VL)鎖及び可変重(VH)鎖の概要を得るために、配列決定する必要のある、サンプルの免疫グロブリンの可変軽(VL)鎖及び可変重(VH)鎖の代表的なサンプルに関する。このような概要を得るのに要求される配列の総数は各サンプルの性質に依存するが、少なくとも大きくすべきであるので、合理的な概算は免疫グロブリンのどの可変軽(VL)鎖と、どの可変重(VH)鎖とが前記サンプル中で最も豊富であるかでなされる。前記サンプル中にある免疫グロブリンの可変軽(VL)鎖及び可変重(VH)鎖のうち少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、又は少なくとも95%が配列決定される。更に、好適には前記サンプル中にある免疫グロブリンの可変軽(VL)鎖及び可変重(VH)鎖のうち、少なくとも1,000、少なくとも10,000、少なくとも50,000、あるいは少なくとも100,000が配列決定される。
【0066】
本発明の状況で用いられるような用語「最も豊富な(most abundant)」はサンプルが配列決定される場合に最も頻繁に同定される可変軽(VL)鎖及び可変重(VH)鎖のことである。最も豊富な可変軽(VL)鎖及び可変重(VH)鎖は一般的にはあるサンプル中で最も大きい数であるものである。
【0067】
特定の実施形態においては、本発明は、サンプル中の抗体、標的、又は病原体の同定のための方法を提供し、
a)サンプル中の免疫グロブリンをコード化するmRNAのcDNAを取得するステップであって、これによってcDNAの混合物を取得するステップと;
b)免疫グロブリンの可変重(VH)鎖及び可変軽(VL)鎖のうちの少なくとも代表的なサンプルを配列決定するステップであって、これによって、サンプル中にある免疫グロブリン(IgG)のVH及びVL鎖の配列データを取得するステップと;
c)コンピュータに実装されるアルゴリズムを用いて、サンプル中にある最も豊富なVH及びVL鎖を決定するステップと;
d)最も豊富なVH及びVL鎖のポリヌクレオチドを合成し、哺乳類発現ベクタを用いて前記VH及びVL鎖を含む抗体を産生するステップと;
e)抗体を試験するステップであって、これによって抗体又は標的を同定するステップと;
を具える。好適には、前記サンプルは生物学的サンプルである。好適には、前記生物学的サンプルは哺乳類由来である。好適には、前記哺乳類はヒト、ネズミ、げっ歯類、マウス、ラット、リス、シマリス、ホリネズミ、ヤマアラシ、ビーバー、ハムスター、スナネズミ、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、雌ウシ、又はウマである。好適には、前記ヒトは癌患者であるか、前記ヒトは免疫化されるか、あるいは前記ヒトは病原体又は標的分子に感染する。サンプル中で前記免疫グロブリンをコード化するmRNAは、サンプルからB細胞を収集又は単離することによって取得される。好適には、前記免疫グロブリンはIgGクラスである。好適には、サンプル中の免疫グロブリンをコード化するmRNAから取得されるcDNAは逆転写PCRによって産生される。好適には、IgGに特異的なプライマーは、免疫グロブリンをコード化するmRNAからのcDNAの産生に用いられる。好適には、サンプル中にあるVH及びVL鎖はサンプル中にあるVH及びVL鎖の配列データを分析することによって決定される。最も好適には、本発明の方法はいずれのクローニングステップも要求しない。特に、コンピュータに実装されるアルゴリズムを用いてサンプル中にある最も豊富なVH及びVL鎖の決定まで行われる総ての方法ステップは、いずれのクローニングステップも要求しない。好適には、ステップ(d)の最も豊富なVH及びVL鎖のVH及びVLのポリヌクレオチドは哺乳類発現ベクタに組み込まれる。好適には、前記ステップで産生された抗体は培養基に放出される。好適には、本方法のステップ(e)の抗体の試験は、イムノアッセイを用いることによって行われる。好適には、本方法のステップ(e)においては、抗体は同定され、特定の標的分子又は組織に結合する。好適には、本方法のステップ(e)においては、標的分子は同定され、特定の抗体に結合する。
【0068】
特定の実施形態においては、本発明は、
a)免疫化され、病原体又は標的分子に感染し、癌に罹患する、哺乳類由来の生物学的サンプルを提供するステップと
b)生物学的サンプルからB細胞を収集するステップと;
c)収集されたB細胞からmRNAを取得するステップと;
d)mRNAによってコード化された免疫グロブリンのcDNAを産生するステップであって、これによってcDNAの混合物を取得するステップと;
e)免疫グロブリンの可変重(VH)鎖及び可変軽(VL)鎖のうちの少なくとも代表的なサンプルを配列決定するステップであって、これによってサンプル中にある免疫グロブリンのVH及びVL鎖の配列データを取得するステップと;
f)コンピュータに実装されるアルゴリズムを用いて、サンプル中にある最も豊富なVH及びVL鎖を決定するステップと;
h)最も豊富なVH及びVL鎖のポリヌクレオチドを合成するステップと;
i)合成されたVH及びVLのポリヌクレオチドを哺乳類発現ベクタに組み込むステップと;
j)VH及びVLポリヌクレオチド組み込み型ベクタがVH及びVLのポリヌクレオチドを発現するのを可能にするステップであって、これによって抗体を産生するステップと;
k)イムノアッセイを用いることによって抗体を試験するステップであって、これによって抗体、標的、又は病原体を同定するステップと;
を具える、抗体、標的、又は病原体の同定のための方法を提供する。好適には、前記サンプルは生物学的サンプルである。好適には、前記生物学的サンプルは哺乳類由来である。好適には、前記哺乳類はヒト、ネズミ、げっ歯類、マウス、ラット、リス、シマリス、ホリネズミ、ヤマアラシ、ビーバー、ハムスター、スナネズミ、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、雌ウシ、又はウマである。好適には、前記ヒトは癌患者であるか、前記ヒトは免疫化されるか、あるいは前記ヒトは病原体又は標的分子に感染する。好適には、前記免疫グロブリンはIgGクラスである。
【0069】
特定の実施形態においては、本発明は、
a)サンプル中にあるVH及びVL鎖の配列データを分析するステップと;
b)サンプル中にあるVH及びVL鎖の存在量を決定するステップと;
を具えるサンプル中の抗体、標的、又は病原体の同定のための方法を提供する。好適には、前記方法は更に、ステップb)で同定された豊富なVH及びVL鎖を含む1又はそれ以上の免疫グロブリンを調製するステップを具える。好適には、前記サンプルは生物学的サンプルである。好適には、前記生物学的サンプルは哺乳類由来である。好適には、前記哺乳類はヒト、ネズミ、げっ歯類、マウス、ラット、リス、シマリス、ホリネズミ、ヤマアラシ、ビーバー、ハムスター、スナネズミ、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、雌ウシ、又はウマである。好適には、前記ヒトは癌患者であるか、前記ヒトは免疫化されるか、あるいは前記ヒトは病原体又は標的分子に感染する。好適には、前記免疫グロブリンはIgGクラスである。
【0070】
特定の実施形態においては、本発明は、
a)サンプル中の免疫グロブリンをコード化するmRNAのcDNAを取得するステップであって、これによってcDNAの混合物を取得するステップと;
b)免疫グロブリンの可変重(VH)鎖及び可変軽(VL)鎖のうちの少なくとも代表的なサンプルを直接的に配列決定するステップであって、
c)コンピュータに実装されるアルゴリズムを用いて、サンプル中にある最も豊富なVH及びVL鎖を決定するステップと;
d)サンプル中にある最も豊富なVH及びVL鎖をコード化するポリヌクレオチドを合成し、発現ベクタを用いて前記VH及びVL鎖を含む抗体を産生するステップと;
e)抗体を試験するステップであって、これによって抗体又は標的を同定するステップと;
を具える、サンプル中の抗体、標的、又は病原体を同定する方法を提供する。
【0071】
上に列挙した方法のステップ(b)の状況で用いられるような用語「直接的に配列決定するステップ(direct sequencing)」は、ステップ(a)で取得されるcDNAが、任意の更なる分子生物学的な修飾ステップなしに、配列決定される状況のことである。具体的には、クローニングステップが要求されない。
【0072】
好適な実施形態においては、サンプルは生物学的サンプルである。更に好適な実施形態においては、生物学的サンプルは哺乳類由来である。前記哺乳類はヒト、ネズミ、げっ歯類、マウス、ラット、リス、シマリス、ホリネズミ、ヤマアラシ、ビーバー、ハムスター、スナネズミ、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、雌ウシ、又はウマであってもよい。前記生物学的サンプルは更にヒト由来であってもよく、前記ヒトは癌患者であるか、前記ヒトは免疫化されるか、あるいは前記ヒトは病原体又は標的分子に感染する。
【0073】
好適な実施形態においては、上に列挙した方法のステップ(a)での免疫グロブリンをコード化するmRNAは、サンプルからB細胞を収集又は単離することによって取得される。免疫グロブリンはIgGクラスである。
【0074】
好適な実施形態においては、上に列挙した方法のステップ(a)での前記免疫グロブリンをコード化するmRNAのcDNAは逆転写PCRによって産生される。更に好適な実施形態においては、IgGに特異的なプライマーは前記逆転写PCRで用いられる。
【0075】
好適な実施形態においては、上に列挙した方法のステップ(c)でのサンプル中にある最も豊富なVH及びVL鎖は、サンプル中にあるVH及びVL鎖の配列データを分析することによって決定される。
【0076】
好適な実施形態においては、上に列挙した方法のステップ(a)ないし(c)はいずれのクローニングステップも要求しない。
【0077】
好適な実施形態においては、上に列挙した方法のステップ(d)で合成されたVH及びVLのポリヌクレオチドは、発現ベクタに組み込まれる。更に好適には、前記発現ベクタは哺乳類発現ベクタである。
【0078】
好適な実施形態においては、上に列挙した方法のステップ(d)で産生された抗体は、培養基に放出される。
【0079】
好適な実施形態においては、上に列挙した方法のステップ(e)での抗体の試験はイムノアッセイを用いることによって実行される。
【0080】
好適な実施形態においては、上に列挙した方法のステップ(e)で、抗体は同定され、特定の標的分子又は組織に結合する。好適な実施形態においては、上に列挙した方法のステップ(e)で、標的分子は同定され、特定の抗体に結合する。
【0081】
特定の実施形態においては、本発明は、
a)免疫化され、病原体又は標的分子に感染し、癌に罹患する、哺乳類由来の生物学的サンプルを提供するステップと;
b)生物学的サンプルからB細胞を収集するステップと;
c)収集されたB細胞からmRNAを取得するステップと;
d)mRNAによってコード化された免疫グロブリンのcDNAを産生するステップであって、cDNAの混合物を取得するステップと;
e)免疫グロブリンの可変重(VH)鎖及び可変軽(VL)鎖のうちの少なくとも代表的なサンプルを直接的に配列決定するステップであって、これによってサンプル中にある免疫グロブリンのVH及びVL鎖の配列データを取得するステップと;
f)コンピュータに実装されるアルゴリズムを用いて、サンプル中にある最も豊富なVH及びVL鎖を決定するステップと;
h)サンプル中にある最も豊富なVH及びVL鎖をコード化するポリヌクレオチドを合成するステップと;
i) 合成されたVH及びVLのポリヌクレオチドを哺乳類発現ベクタに組み込むステップと;
j)VH及びVLポリヌクレオチド組み込み型ベクタがVH及びVLのポリヌクレオチドを発現するのを可能にするステップであって、これによって抗体を産生するステップと;
k)イムノアッセイを用いることによって抗体を試験するステップであって、抗体、標的、又は病原体を同定するステップと;
を具える、抗体、標的、又は病原体を同定する方法を提供する。好適な実施形態においては、前記サンプルは生物学的サンプルである。更に好適な実施形態においては、前記生物学的サンプルは哺乳類由来である。前記哺乳類はヒト、ネズミ、げっ歯類、マウス、ラット、リス、シマリス、ホリネズミ、ヤマアラシ、ビーバー、ハムスター、スナネズミ、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、雌ウシ、又はウマにできる。更に好適な実施形態においては、前記ヒトは癌患者であるか、前記ヒトは免疫化されるか、あるいは前記ヒトは病原体又は標的分子に感染する。更に好適な実施形態においては、免疫グロブリンはIgGクラスである。
【0082】
特定の実施形態においては、本発明は、
a)サンプル中にあるVH及びVL鎖の配列データを分析するステップと;
b)サンプル中にあるVH及びVL鎖の存在量を決定するステップと;
を具える、サンプル中の抗体、標的、又は病原体を同定する方法を提供する。更なる実施形態においては、前記方法は更に、ステップb)で同定された豊富なVH及びVL鎖を含む1又はそれ以上の免疫グロブリンを調製するステップを具える。好適な実施形態においては、前記サンプルは生物学的サンプルである。更に好適な実施形態においては、前記生物学的サンプルは哺乳類由来である。前記哺乳類はヒト、ネズミ、げっ歯類、マウス、ラット、リス、シマリス、ホリネズミ、ヤマアラシ、ビーバー、ハムスター、スナネズミ、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、雌ウシ、又はウマにできる。更に好適な実施形態においては、前記ヒトは癌患者であるか、前記ヒトは免疫化されるか、あるいは前記ヒトは病原体又は標的分子に感染する。更に好適な実施形態においては、免疫グロブリンはIgGクラスである.
【0083】
本開示は以下の実施例によって更に記載されるが、いかなる方法でも開示の範囲を限定しない。
【実施例】
【0084】
[免疫化/感染した患者からのB細胞の収集]
B細胞は様々な異なる方法で、免疫化あるいは感染した患者から単離でき、このような技術は当業者に周知である。多くのこのような技術において、静止Bリンパ球(B細胞)は、例えば磁気マイクロビーズを介して、抗CD43及び抗Mac−1/CD11bのモノクローナル抗体とともに負の選択を用いて、脾臓から単離される。このストラテジは脾細胞の混合集団から非B細胞を枯渇させ、静止脾臓B細胞を除いて、最も成熟した白血球がCD43を発現するという事実に依拠する(実際に、CD43の発現は、顆粒球、単球、マクロファージ、血小板、ナチュラルキラー(NK)細胞、胸腺細胞、ならびに末梢性のCD8陽性T細胞及びほとんどのCD4陽性T細胞に加えて、未成熟のB細胞、形質細胞、及びいくつかの成熟B1細胞に示されていた)。抗Mac−1/CD11bマイクロビーズは負の選択に含まれて、骨髄系細胞の除去を改善する。B細胞の単離は、AutoMACS自動式磁気ビーズセルソータ(Miltenyi Biotec社)を用いて自動化してもよい。B220+細胞の蛍光分析により評価されるように、このような単離は常に、脾臓につき約4×10e7の、95%より高い純度のB細胞を産生する。更に、Miltenyi S,Muller W,Weichel W,及びRadbruch A.(1990)Cytometry11(2),231−238参照。
【0085】
[mRNA抽出及び逆転写]
免疫グロブリン、好適にはIgG型の免疫グロブリンは、mRNAの抽出、次いで逆転写を介してB細胞から選択的に増幅できる。
【0086】
B細胞といった真核細胞からのmRNA抽出は公知の技術的手順である。多数のプロトコルが存在し、商用のキットが利用可能である。PolyATtract(登録商標)mRNA Isolation System(米国ウィスコンシン州マディソンのPromega社)又は様々なRNeasy及びOligotex DirectmRNAキット(双方が、ドイツ連邦共和国ヒルデンのQiagen社)など。これらの技術の多くは、例えばオリゴチミジンセルロースといったオリゴチミジン基質に対するアフィニティ精製を介して真核生物mRNAのポリA尾部を利用する。
【0087】
免疫グロブリンは特異的なプライマーを用いた逆転写、その後の従来のPCRを介して、単離したmRNAから選択的に増幅できる。特異的なプライマーは、免疫グロブリンに対し、あるいは、ある免疫グロブリンクラス、すなわちIgG、IgM、IgA、IgD、又はIgEのいずれかに対し、あるいは、あるいは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4といった、ある免疫グロブリンサブクラスに対してさえも特異的にできる。免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖遺伝子を増幅するために用いられうるプライマーは例えば、Cancer Surv 1997;30:21−44、J Clin Pathol1994;47:493−6、J Clin Pathol 1990;43:888−90、又はMol Pathol.2002 April;55(2):98−101に開示される。
【0088】
[cDNAのゲノム配列決定]
免疫グロブリンの全配列が配列決定される。Helicos BioSciences社(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)といったゲノム全体を配列決定できる様々な企業が存在する。そのTrue Single Molecule Sequencing(登録商標)技術をもって、Helicos社は高速かつ高効率でDNA又はRNAの単一分子を直接的に配列決定することを可能にする。同様の配列の努力を行うことが可能な他の企業は、Illumina社(米国カリフォルニア州サンディエゴ;Solexaシステム)及びRoche社(スイス連邦バーゼル州;454システム)を含む。クローニングステップは配列決定の前に要求されない。
【0089】
免疫グロブリンのVH及びVL鎖の配列が別個に決定される。10より多いVH及びVL鎖の別個の配列が決定され、10より多い別個の配列であることが好ましく、10より多い別個の配列であることが更に好ましく、10より多い別個の配列であることが更に好ましい。
【0090】
決定された配列は任意のデータベースシステムに保存してもよい。このようなデータベースシステムは、用いられる配列決定システムの一部であってもよい。代替的に、配列情報はExcelのスプレッドシートの形態、あるいはタブ区切りフォーマットといった他のフォーマットで保存してもよい。
【0091】
[事前決定されたアルゴリズムによる優性/豊富なVH及びVL配列の決定]
配列決定された免疫グロブリンのVH及びVL鎖の存在量は、様々なアルゴリズムによって決定できる。VH鎖及びVL鎖は好適には別個に分析される。
【0092】
第1のステップは同一の免疫グロブリンから得られるVH及びVL鎖の配列を同定することであってもよい。同一の免疫グロブリンから得られる配列は、必ずしも完全に同一とは限らない。それらの配列が、各配列について全く同じヌクレオチドで開始又は終了しないために、あるいは、ヌクレオチドが、このような大きな範囲の配列決定配列プロジェクト中に生じうる事象である、決定プロセスで誤読されるために、このようなわずかな差異は生じうる。特定のヌクレオチド、特に特定のヌクレオチド配列が他のもの(例えば、GCリッチなヌクレオチド伸長)よりも誤読を更に起こしやすいことは周知である。生体情報学的なツール及びアルゴリズムは、その多くは各配列決定システムの一部であるが、このような場合を決定でき、あるいは少なくとも実例を示唆でき、そこではこのようなエラーが生じうる。
【0093】
VH及びVL鎖の存在量は様々な統計検定によって決定してもよい。最も容易には、別個のVH及びVL鎖が単に計数される。より複雑な統計検定は様々な他のパラメータを考慮する。限定されない例によると、以下の統計検定及び文献はこのような又は同様の分析を為す多数のアプローチの実施例として誘導できる:Bayesian Shrinkage Estimation(例えば、Biometrics 59(2003):476−486参照)、DADA(Digital Analysis of cDNA Abundance;例えば、BMC Genomics 2002,3:7参照)、線形モデリング(Pacific Symposium on Biocomputing,1999,4:41−52)、及び様々なクラスタリング手法(BMC Bioinformatics 2006,7:397,Fourth IEEE International Conference on Data Mining(ICDM’04),pp.403−406)。
【0094】
[VH及びVLの合成]
最も豊富なVH及びVL鎖の遺伝子は従来の方法によって合成される。このような合成は標準的な技術であり、例えば数例を挙げると、Entelechon社(ドイツ共和国レーゲンスブルク)、Geneart社(ドイツ共和国レーゲンスブルク)、又はSloning Biotechnology社(ドイツ共和国プッフハイム)といった多くの企業が、それぞれのサービスを提供している。理想的には、各遺伝子が既に、好適なベクタにクローニングするための好適な制限部位を保有する。
【0095】
[優性のVH及びVL鎖のクローニング及び発現]
VH及びVL鎖の合成された遺伝子は、各発現ベクタにクローニングされる。そうするために、各発現ベクタは合成された遺伝子と互換性のある好適な制限酵素で消化される。上記のように、合成された遺伝子は好適には既にベクタと互換性がある、すなわち、各制限部位は既に合成された遺伝子中に存在する。例示的なベクタはpcDNA、pMORPH、pUC、pBR、pBAD、及び他のベクタを含む。ベクタによる発現は、合成されたVH及びVL鎖を含む全長免疫グロブリンの産生を引き起こし、更に後のステップで特徴づけられるか、あるいは修飾できる。
【0096】
[発現されたポリペプチドをスクリーニングするためのイムノアッセイ及びVH及びVLの組合せの選択]
pcDNA、pMORPH、pUC、pBR、pBAD、及び他のベクタといった各ベクタによる発現後に産生される全長免疫グロブリンは、様々な型のアッセイで用いられうる。例えば、イムノアッセイを行ってもよい。
【0097】
例えば、免疫グロブリンの、抗原といった、ある標的分子への結合をアッセイしてもよい。これはELISA法、ウエスタンブロット法、又はその他の等価的な手段といった標準的な検査法によって取得してもよい。このような実験はある標的分子に結合する免疫グロブリンの同定を引き起こしうる。このような実験は更に、より定量的な方法で行ってもよい、すなわち、各免疫グロブリンがある標的分子に結合するか否かを決定するだけではなく、そのような相互作用がどのくらい強く生じるかを決定する。これは免疫グロブリンの所定の標的分子に対する結合親和性、解離定数、又はその他の等価パラメータの決定を介して得てもよい。代表的な技術は、表面プラズモン共鳴法、溶解平衡滴定、カンチレバー、聴覚バイオセンサ、及び当該技術分野に周知の他の方法を含む。
【0098】
所定の免疫グロブリンが結合する標的分子を同定することは更に可能である。そうするために、ある免疫グロブリンが選択され、免疫グロブリンの混合物の少なくとも1の標的分子への結合を可能にする条件下で、結合可能性のあるタンパク質の混合物に供される。代表的な結合条件は、バッファ組成及びストリンジェンシといった好適なパラメータの選択によって調整してもよい。
【0099】
[標的/抗体の同定]
所定の標的分子に結合する免疫グロブリンの同定、又は所定の免疫グロブリンに結合する標的分子の同定は、任意の周知の方法論によって実現できる。多くのこのような方法は当業者に周知であり、例示的な文献として以下のものが提供される:Valle RP,Curr Opin Drug Discov Devel.2003 Mar;6(2):197−203、Ackermann BL Expert Rev Proteomics.2007 Apr;4(2):175−86及びAnderson KS J Proteome Res.2005 Jul−Aug;4(4):1123−33。
【0100】
説明、特定の実施例、及びデータは例示的な実施形態を示すが、例示のために与えられ、開示を限定することを意図しないことは理解すべきである。本開示にある様々な変形及び変更は、本明細書中に含まれる考察、開示及びデータから当業者に明らかになり、従って、本開示の一部と見なされる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル中の抗体、標的、又は病原体を同定する方法であって、
a)前記サンプル中の免疫グロブリンをコード化するmRNAのcDNAを取得するステップであって、これによって前記cDNAの混合物を取得するステップと;
b)前記免疫グロブリンの可変重(VH)鎖及び可変軽(VL)鎖のうちの少なくとも代表的なサンプルを直接的に配列決定するステップであって、これによって前記サンプル中にある前記免疫グロブリンのVH及びVL鎖の配列データを取得するステップと;
c)コンピュータに実装されるアルゴリズムを用いて、前記サンプル中にある最も豊富なVH及びVL鎖を決定するステップと;
d)前記サンプル中にある最も豊富なVH及びVL鎖をコード化するポリヌクレオチドを合成し、発現ベクタを用いて前記VH及びVL鎖を含む抗体を産生するステップと;
e)前記抗体を試験するステップであって、これによって前記抗体又は前記標的を同定するステップと;
を具えることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記サンプルが生物学的サンプルであることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法において、前記生物学的サンプルが哺乳類由来であることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法において、前記哺乳類がヒト、ネズミ、げっ歯類、マウス、ラット、リス、シマリス、ホリネズミ、ヤマアラシ、ビーバー、ハムスター、スナネズミ、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、雌ウシ、又はウマであることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法において、前記ヒトが癌患者であるか、前記ヒトが免疫化されるか、あるいは前記ヒトが病原体又は標的分子に感染することを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法において、前記免疫グロブリンをコード化するmRNAが、前記サンプルからB細胞を収集又は単離することによって取得されることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法において、前記免疫グロブリンがIgGクラスであることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法において、前記免疫グロブリンをコード化するmRNAのcDNAがステップ(a)で、逆転写PCRによって産生されることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法において、IgGに特異的なプライマーが用いられることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法において、前記サンプル中にある最も豊富なVH及びVL鎖が、前記サンプル中にある前記VH及びVL鎖の配列データを分析することによって決定されることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法において、ステップ(a)ないし(c)がいかなるクローニングステップも要求しないことを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法において、ステップ(d)で合成された前記VH及びVLのポリヌクレオチドが発現ベクタに組み込まれることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項13に記載の方法において、前記発現ベクタが哺乳類発現ベクタであることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項1に記載の方法において、ステップ(d)で産生される前記抗体が培養基に放出されることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項1に記載の方法において、前記抗体の試験がステップ(e)で、イムノアッセイを用いることによって行われることを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項1に記載の方法において、抗体がステップ(e)で同定され、特定の標的分子又は組織に結合することを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項1に記載の方法において、標的分子がステップ(e)で同定され、特定の抗体に結合することを特徴とする方法。
【請求項18】
抗体、標的、又は病原体を同定する方法であって、
a)免疫化されるか、病原体又は標的分子に感染するか、あるいは癌を患う哺乳類から生物学的サンプルを提供するステップと;
b)前記生物学的サンプルからB細胞を収集するステップと;
c)収集された前記B細胞からmRNAを取得するステップと;
d)前記mRNAによってコード化された、免疫グロブリンのcDNAを産生するステップであって、これによって前記cDNAの混合物を取得するステップと;
e)前記免疫グロブリンの可変重(VH)鎖及び可変軽(VL)鎖のうちの少なくとも代表的なサンプルを直接的に配列決定するステップであって、これによって、前記サンプル中にある前記免疫グロブリンのVH及びVL鎖の配列データを取得するステップと;
f)コンピュータに実装されるアルゴリズムを用いて、前記サンプル中にある最も豊富なVH及びVL鎖を決定するステップと;
h)前記サンプル中にある最も豊富なVH及びVL鎖をコード化するポリヌクレオチドを合成するステップと;
i)合成されたVH及びVLの前記ポリヌクレオチドを、哺乳類発現ベクタに組み込むステップと;
j)VH及びVLポリヌクレオチド組み込み型ベクタが前記VH及びVLのポリヌクレオチドを発現するのを可能にするステップであって、これによって抗体が産生されるステップと;
k)イムノアッセイを用いることによって前記抗体を試験するステップであって、これによって前記抗体、標的、又は病原体を同定するステップと;
を具えることを特徴とする方法。
【請求項19】
サンプル中の抗体、標的、又は病原体を同定する方法であって、
a)前記サンプル中にあるVH及びVL鎖の配列データを分析するステップと;
b)前記サンプル中にあるVH及びVL鎖の存在量を決定するステップと;
を具えることを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法が、ステップb)で同定される豊富なVH及びVL鎖を含む1又はそれ以上の免疫グロブリンを調製するステップを更に具えることを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項18ないし20のいずれかに記載の方法において、前記サンプルが生物学的サンプルであることを特徴とする方法。
【請求項22】
請求項21に記載の方法において、前記生物学的サンプルが哺乳類由来であることを特徴とする方法。
【請求項23】
請求項22に記載の方法において、前記哺乳類がヒト、ネズミ、げっ歯類、マウス、ラット、リス、シマリス、ホリネズミ、ヤマアラシ、ビーバー、ハムスター、スナネズミ、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、雌ウシ、又はウマであることを特徴とする方法。
【請求項24】
請求項23に記載の方法において、前記ヒトが癌患者であるか、前記ヒトが免疫化されるか、あるいは前記ヒトが病原体又は標的分子に感染することを特徴とする方法。
【請求項25】
請求項18ないし24のいずれかに記載の方法において、前記免疫グロブリンがIgGクラスであることを特徴とする方法。


【公表番号】特表2011−523348(P2011−523348A)
【公表日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−545417(P2010−545417)
【出願日】平成21年2月11日(2009.2.11)
【国際出願番号】PCT/EP2009/000953
【国際公開番号】WO2009/100896
【国際公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(502247787)モルフォシス・アー・ゲー (8)
【Fターム(参考)】