押え盛土構造
【課題】低コストで容積を小さくすることができる押え盛土構造を提供する。
【解決手段】山2などの傾斜面3の地すべりを防止するために傾斜面3の地すべり土塊4の末端部5に所定厚さの盛土部6を形成する押え盛土構造において、施工現場あるいはその近傍で採取可能な現場発生土と水とセメントとを混合して構成されるセメント系材料を積層してなるセメント系盛土部7を、少なくとも盛土部6の一部に形成し、セメント系盛土部は、少なくとも傾斜面3の下部に繋がる平坦部9に接触するように構成した。
【解決手段】山2などの傾斜面3の地すべりを防止するために傾斜面3の地すべり土塊4の末端部5に所定厚さの盛土部6を形成する押え盛土構造において、施工現場あるいはその近傍で採取可能な現場発生土と水とセメントとを混合して構成されるセメント系材料を積層してなるセメント系盛土部7を、少なくとも盛土部6の一部に形成し、セメント系盛土部は、少なくとも傾斜面3の下部に繋がる平坦部9に接触するように構成した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、傾斜面の地すべりを防止するために前記傾斜面の地すべり土塊の末端部に所定厚さの盛土部を形成する押え盛土構造に関する。
【背景技術】
【0002】
山などの傾斜面の地すべりを防止するための工法としては、押え盛土工法が知られている。従来の一般的な押え盛土工法は、傾斜面の地すべり土塊の末端部(下部)に盛土部を形成することによって、地すべり滑動力に対する抵抗力を増加させるようにしている。盛土部は、地すべり土塊の末端部を押えることで、地すべり滑動力に対する抵抗力を増加させているが、盛土量が抵抗力の増加量に大きく関係してくる。そのため、地すべり土塊が大きく滑動力が大きい場合には、大量の盛土を行わなければならない。特に、滑動面が盛土部の上部近傍に位置する場合は、その上側に位置する盛土量が少なく、抵抗力の増加量が小さくなってしまう。そのため、抵抗力を増加させるためには、滑動面の位置での盛土厚を厚くする必要があり、滑動面よりも下側の盛土量は、大幅に増加してしまう。
【0003】
その対策として、盛土を形成する土砂に短繊維を混合することで、土粒子間の結合力を増して、盛土量を減らすものがあった(例えば、特許文献1参照)。かかる構成によれば、土粒子間に配置される短繊維が適度に絡み合うことによって、盛土の強度が増して、盛土の体積を小さくすることができる。しかし、かかる構成では、盛土の土粒子間での結合力は増加してはいるものの、盛土と地盤面との摩擦力については考慮されておらず、盛土の体積を小さくする余地はまだ残されていた。また、盛土の強度についても、土粒子間の結合力を強める余地は残されている。
【0004】
そこで、地すべり土塊の末端部での押え部分の体積をさらに小さくするために、盛土に代えてコンクリート製の擁壁を形成することが考えられる。このようにすれば、擁壁は地盤面に一体的に形成されるとともに、擁壁自体も一体的に形成されているので、滑動面より下側も含む擁壁の重量で、地すべり滑動力に抵抗することができ、擁壁(地すべり土塊の末端部での押え部分)の厚さを大幅に薄くすることができる。
【特許文献1】特開平7−237747号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、コンクリート製の擁壁を形成するには、大量の骨材が必要となる上に、施工も大変である。コンクリートの骨材は、所定の粒径に揃った土砂などを用いるため、特定の採取場から採取して搬送しなければならない。そのため、骨材の調達と搬送に多くの費用を要し、施工費用の増大を招いてしまう。
【0006】
そこで、本発明は前記の問題を解決すべく案出されたものであって、施工費用の低減を図れるとともに、容積を小さくすることができる押え盛土構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための請求項1に係る発明は、傾斜面の地すべりを防止するために前記傾斜面の地すべり土塊の末端部に所定厚さの盛土部を形成する押え盛土構造において、施工現場あるいはその近傍で採取可能な現場発生土と水とセメントとを混合して構成されるセメント系材料を積層してなるセメント系盛土部を、少なくとも前記盛土部の一部に形成し、前記セメント系盛土部は、少なくとも前記傾斜面の下部に繋がる平坦部に接触することを特徴とする押え盛土構造である。
【0008】
前記構成によれば、現場発生土を利用したセメント系材料を用いて、セメント系盛土部を形成しているので、骨材の調達費用および搬送費用を大幅に低減できる。また、セメント系盛土部は、セメントによって一体型に形成することができ、滑動面の延長線部分より下側も含む盛土の重量で、地すべり滑動力に抵抗することができるので、盛土部全体の厚さを大幅に薄くすることができる。さらに、セメント系盛土部は、セメントによって、少なくとも平坦部の地盤表面と岩着するので、地すべり滑動力に対する抵抗力を増大することができ、これによっても盛土量を低減させることができる。
【0009】
請求項2に係る発明は、前記セメント系盛土部と前記傾斜面との間に、前記現場発生土が積層されて構成される普通盛土部を形成したことを特徴とする請求項1に記載の押え盛土構造である。
【0010】
前記構成によれば、セメントの混合量を減らすことができるとともに、普通盛土部の重量も地すべり滑動力に対する抵抗力に有効に作用する。したがって、合理的な押え盛土構造とすることができ、必要最小限の施工費用で盛土部を形成できる。
【0011】
請求項3に係る発明は、前記セメント系盛土部が接触する地盤表面を、目荒らしして地山を露出させて、前記セメント系盛土部と地盤表面との粘着力を高めるように構成したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の押え盛土構造である。
【0012】
前記構成によれば、セメント系盛土部と地盤表面とが互いに噛み合い、岩着性が高まる。したがって、セメント系盛土部と地盤表面との粘着力を大幅に高めることができるので、地すべり滑動力に対する抵抗力を増大させることができ、盛土量をさらに低減させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、押え盛土を、低コストで構築できるとともに、その容積を小さくすることができるといった優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
図1は本発明に係る押え盛土構造を実施するための最良の形態を示した断面図であって、地山の下部ですべり面が発生する場合を想定した、すべりに対する安全率を説明するための図、図2は本発明に係る押え盛土構造を実施するための最良の形態を示した断面図であって、地山の中間部ですべり面が発生する場合を想定した、すべりに対する安全率を説明するための図である。
【0016】
まず、本実施の形態に係る押え盛土構造の構成について説明する。
【0017】
図1および図2に示すように、押え盛土1は、山2などの傾斜面3の地すべりを防止するために傾斜面3の地すべり土塊4の末端部5に所定厚さで形成されている。ところで、本発明は、施工現場あるいはその近傍で採取可能な現場発生土と水とセメントとを混合して構成されるセメント系材料を積層してなるセメント系盛土部7を、盛土部6の少なくとも一部に形成し、セメント系盛土部7は、少なくとも傾斜面3の下部に繋がる平坦部9に接触するようにしたことを特徴とする。
【0018】
セメント系材料は、施工現場あるいはその近傍で採取可能な現場発生土(例えば、河床砂礫や風化岩(横坑掘削ズリなど))に、水とセメントとを混合して構成されている。施工にかかる費用を低減させるために、現場発生土の分級などの調整は、基本的には行わない。以上のようなセメント系材料は、CSG(Cemented Sand and Gravel)材料と称され、1992年以降、台形ダムの堤体などの施工に用いられ、実績を積み重ねている。
【0019】
本実施の形態では、盛土部6は、全体がセメント系盛土部7にて構成されており、セメント系盛土部7は、傾斜面3およびその下部に繋がる平坦部9に接触するように構成されている。平坦部9は、表面が水平となっている部分以外にも、地すべりのおそれのない緩やかな傾斜部分も含むものとする。セメント系盛土部7が接触する地盤表面11(本実施の形態では、傾斜面3の下部および平坦部9)は、バックホウで削るなどして目荒らしされて地山が露出されて、セメント系盛土部7と地盤表面11との粘着力を高めるように構成されている。セメント系盛土部7は、下部から順次、締め固めながら積層することで構築される。
【0020】
セメント系材料の現場発生土と水とセメントとの配合比率は、予め採取した現場発生土と水とセメントとを複数種の配合比率で混合させて複数の強度試験体を形成して強度試験を行い、その強度試験の結果に応じて決定される。具体的には、複数の強度試験体を用いて行った強度試験より、各強度試験体の配合比率を採用した場合のセメント系材料の粘着力を求め、その粘着力が、地すべり防止のために必要なセメント系盛土部7の粘着力であるかどうかを検討する。
【0021】
以下に、セメント系材料の強度試験について説明する。
【0022】
本実施の形態では、施工現場で実際に採取された2種類の現場発生土(河床砂礫および風化岩(横坑掘削ズリ))について強度試験を行った。以下、河床砂礫を「母材A」、風化岩を「母材B」と称する場合がある。なお、本実施の形態では、現場発生土の例として、河床砂礫と風化岩(横坑掘削ズリ)を挙げているが、これに限られるものではなく、施工現場あるいはその近傍で採取できる土砂であれば、何であってもよいのは勿論である。
【0023】
現地で採取される母材Aおよび母材Bの粒度は、一定ではなく、バラツキを有しているため、母材Aおよび母材Bについて、それぞれ複数の採取箇所を選定し、それら採取箇所ごとの粒度を調査した。その上で、想定される母材Aおよび母材Bの粒度の変動幅を設定し、最も荒い粒度(以下、「粗粒度」という)、平均的な粒度(以下、「平均粒度」という)、最も細かい粒度(以下、「細粒度」という)の3種類を試験粒度として設定した(図3参照)。
【0024】
ここで、試験条件を、単位セメント量が60,80kg/m3の2種、単位水量が60〜150kg/m3の範囲で15毎の7種、粒度が粗粒度、平均粒度、細粒度の3種、に設定し、これらの条件で作成した供試体について、圧縮強度試験および引張強度試験を行った。供試体は、各試験条件ごとに6体ずつ作成した。
【0025】
強度試験に使用する母材Aおよび母材Bは、原材料を0〜5mm、5〜10mm、10〜20mm、20〜40mm、40〜80mmに5分級にふるい分けしたものを、設定した粗粒度、平均粒度、細粒度の3粒度に適合するように再混合したものを用いる。使用セメントは普通ポルトランドセメントであり混和剤は使用していない。母材A,Bと水とセメントとを傾動式ミキサに全量投入後、3分間混合する。混合後のセメント系材料は、40mmのふるいでウェットスクリーニングし、各試験に用いた。
【0026】
供試体は、直径150mm、高さ300mmの円柱体形状に作成したものを用いた。供試体は、混合後のセメント系材料を3層に分けて型枠に詰め、各層をボッシュタンパーで30秒締め固め、その後、脱型を行わず、型枠ごとに供試体をラップで密封して、20℃の恒温室にて封緘養生を行って形成した。そして、所定の材齢まで養生を行った後、キャッピング・脱型を行い、密度計測を行ってから圧縮強度試験および引張強度試験を実施した。
【0027】
圧縮強度試験は、材齢28日、91日で、JIS A 1108−1999「コンクリートの圧縮強度試験方法」に従い実施した。圧縮強度試験では、載荷盤に変位計を設置し、供試体全体の変位量と、載荷荷重を計測した。応力ひずみ曲線の直線区間を弾性領域とし、その弾性領域の中で応力が最大となる点を弾性領域強度とし、応力ひずみ曲線の最大値をピーク強度とした。また、弾性領域における応力ひずみ曲線の傾きから弾性係数を算出した。なお、各試験条件における試験値は、供試体6体の試験結果の平均値を出して整理している。
【0028】
ここで、単位水量とピーク強度との関係を示したグラフを図4に示す。図4(a)に示すように、母材A(河床砂礫)におけるピーク強度は、単位セメント量(C)が、60kg/m3のケースで、2〜6N/mm2、単位セメント量(C)が、80kg/m3のケースで、4〜11N/mm2である。図4(b)に示すように、母材B(風化岩)におけるピーク強度は、単位セメント量(C)が、60kg/m3のケースで、2〜3N/mm2、単位セメント量(C)が、80kg/m3のケースで、3〜6N/mm2である。
【0029】
母材A、母材Bともに、単位セメント量が80kg/m3のケースの方が、60kg/m3のケースに比べてピーク強度が大きい結果となった。また、母材A、母材Bの粒度分布とピーク強度との関係は、単位水量が小さい領域では、粗粒度ほどピーク強度が大きい傾向を示し、単位水量が大きい領域では、粒度分布の影響は見られなかった。
【0030】
次に、単位水量と弾性領域強度との関係を示したグラフを図5に示す。図5(a)に示すように、母材A(河床砂礫)における弾性領域強度は、単位セメント量(C)が、60kg/m3のケースで、1.5〜4N/mm2、単位セメント量(C)が、80kg/m3のケースで、2〜8N/mm2である。図5(b)に示すように、母材B(風化岩)における弾性領域強度は、単位セメント量(C)が、60kg/m3のケースで、1〜2N/mm2、単位セメント量(C)が、80kg/m3のケースで、2〜4N/mm2である。
【0031】
母材A、母材Bともに、単位セメント量が80kg/m3のケースの方が、60kg/m3のケースに比べて弾性領域強度が大きい結果となった。また、母材A、母材Bの粒度分布と弾性領域強度との関係は、単位水量が小さい領域では、粗粒度ほど弾性領域強度が大きい傾向を示し、単位水量が大きい領域では、粒度分布の影響は見られなかった。この傾向は、図4に示した単位水量とピーク強度との関係の傾向と同様である。
【0032】
次に、ピーク強度と弾性領域強度との関係を示したグラフを図6に示す。図6(a)および(b)に示すように、粒度分布や単位水量、単位セメント量の変動によらず、弾性領域強度はピーク強度の6〜7割程度である。
【0033】
引張強度試験は、材齢91日で、JIS A 1113−1999「コンクリートの割裂引張強度試験方法」に従い実施した。
【0034】
単位水量と引張強度との関係を示したグラフを図7に示す。図7(a)に示すように、平均粒度における母材Aの引張強度は、単位セメント量が、60kg/m3のケースで、0.3〜0.8N/mm2、単位セメント量(C)が、80kg/m3のケースで、0.6〜1.0N/mm2である。図7(b)に示すように、平均粒度における母材B(風化岩)の引張強度は、試験ケースが少ないが、単位セメント量(C)が、80kg/m3のケースで、0.6〜0.7N/mm2である。
【0035】
これらの結果をまとめて、弾性領域強度と引張強度との関係を示したグラフを図8に示す。図8(a)に示すように、弾性領域強度と引張強度には相関関係が確認でき、引張強度は、弾性領域強度の1/5程度であることが判明した。この結果と図6の結果をまとめると、引張強度はピーク強度の1/7〜1/8であることが分かった。
【0036】
ここで、CSG材料の圧縮強度は、セメント水比と比例することが分かっているため、風化岩(母材B)を例に挙げて、単位水量110kg/m3の場合の単位セメント量60,80kg/m3の結果を用いて、セメント水比と圧縮強度の関係を示すと、図9に示すグラフのようになる。
【0037】
一方、CSG材料の粘着力と、一軸圧縮強度との関係は、理論上、図10に示すようになる。図10中、Fcは圧縮強度、Ftは引張強度、φは内部摩擦角、σは一軸圧縮強度、τはせん断力、Cは粘着力を示す。この結果を基に、引張強度はピーク強度の1/8として、一軸圧縮強度と粘着力との関係を示すと、図11のグラフのようになる。
【0038】
以上の試験事例より、単位セメント量とピーク強度相当の粘着力との関係を推定したものを以下の表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
また、参考として、単位セメント量と弾性領域強度相当の粘着力との関係を推定したものを以下の表2に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
表1に示すように、CSGの粘着力は、最低セメント量60kg/m3として、ピーク強度で、440kN/m2程度確保できると考えられるが、試験事例の結果を考慮し、設計に用いる粘着力は、300kN/m2を基本として、必要に応じて単位セメント量の増量を考慮して、変化させるものとする。内部摩擦角は、図10より51度となるが、試験事例を考慮して48度とする。
【0043】
一方、母材Bの場合のCSGの単位体積重量は、下記の表3に示すように、単位セメント量60kg/m3、単位水量110kg/m3とした場合、22kN/m3となる。
【0044】
【表3】
【0045】
以上のように強度試験の結果より考察を行うことで、他の各試験条件についても粘着力(表1および表2参照)と、内部摩擦核と、単位体積重量(表3参照)が求められる。
【0046】
ところで、図1に示すように、地山の下部ですべり面(深い地すべり土塊のすべり面)が発生する場合を想定した場合、以下の数1に示す(式1)によって、すべりに対する安全率が示される。
【0047】
【数1】
【0048】
(式1)において、Fsはすべりに対する安全率=抵抗力/滑動力を示す。抵抗力を示す分子部分では、φ2は深い地すべり土塊の内部摩擦角を示し、WNは深い地すべり土塊の重量のうち、すべり面に鉛直な成分を示し、C2は深い地すべり土塊の粘着力を示し、L2は深い地すべり土塊のすべり面の長さを示し、φCはセメント系盛土部7の内部摩擦角を示し、WCNはセメント系盛土部7の重量のうち、すべり面に鉛直な成分を示し、CCはセメント系盛土部7の粘着力を示し、LC2はセメント系盛土部7と平坦部9との接触長さを示す。滑動力を示す分母部分では、WSは深い地すべり土塊の重量のうち、すべり面に平行な成分を示し、WCSはセメント系盛土部7の重量のうち、すべり面に平行な成分を示す。
【0049】
ここで、前記強度試験によって求められたセメント系盛土部7の粘着力、内部摩擦核および単位体積重量を(式1)に代入して計算することで、必要な安全率に応じた盛土量が求められる。この場合、単位セメント量を多くすると、盛土量を減らすことができ、逆に、盛土量を多くすると、単位セメント量を減らすことができる。現場発生土の採取状態やトータルでの施工コストを考慮して計算することによって、現場発生土と水とセメントとの配合比率を合理的に決定することができる。このとき、配合比率は、粒度のバラツキも考慮して、必要な安全率を得られるように決定する。
【0050】
一方、図2に示すように、地山の中間部ですべり面(浅い地すべり土塊のすべり面)が発生する場合を想定した場合、以下の数2に示す(式2)によって、すべりに対する安全率が示される。
【0051】
【数2】
【0052】
(式2)において、Fsはすべりに対する安全率=抵抗力/滑動力を示す。抵抗力を示す分子部分では、φ1は浅い地すべり土塊の内部摩擦角を示し、W1Nは浅い地すべり土塊の重量のうち、すべり面に鉛直な成分を示し、C1は浅い地すべり土塊の粘着力を示し、L1は浅い地すべり土塊のすべり面の長さを示し、φCはセメント系盛土部7の内部摩擦角を示し、WC1Nは浅い地すべり土塊のすべり面の下端部より上部に位置するセメント系盛土部7の重量のうち、すべり面に鉛直な成分を示し、CCはセメント系盛土部7の粘着力を示し、LC1は浅い地すべり土塊のすべり面の下端部におけるセメント系盛土部7の厚さを示す。滑動力を示す分母部分では、W1Sは浅い地すべり土塊の重量のうち、すべり面に平行な成分を示し、WC1Sは浅い地すべり土塊のすべり面の下端部より上部に位置するセメント系盛土部7の重量のうち、すべり面に平行な成分を示す。
【0053】
ここで、前記強度試験によって求められたセメント系盛土部7の粘着力、内部摩擦核および単位体積重量を(式2)に代入して計算することで、必要な安全率に応じた盛土量が求められる。この場合、単位セメント量を多くすると、盛土量を減らすことができ、逆に、盛土量を多くすると、単位セメント量を減らすことができる。現場発生土の採取状態、トータルでの施工コストおよび現場発生土の粒度のバラツキ状態を考慮して計算することによって、現場発生土と水とセメントとの配合比率を合理的に決定することができる。
【0054】
配合比率および盛土量は、図1のケースと図2のケースの両方の安全率の条件を満たすように決定される。
【0055】
なお、前記強度試験では、供試体は、直径150mm、高さ300mmの円柱体形状に作成したものを用いており、その試験結果に基づいて配合比率および盛土量を決定(設計段階)するようにしているが、実際の施工前には、直径300mm、高さ600mmの円柱体形状の大型供試体を作成し、同様の強度試験を行う。これによって、強度試験の精度向上が達成され、配合比率および盛土量の適合性が高められる。
【0056】
以下に、本実施の形態の作用を説明する。
【0057】
本実施の形態によれば、現場発生土を利用したセメント系材料を用いて、セメント系盛土部7を形成しているので、コンクリート製の擁壁を構築する場合と比較して、骨材の調達費用および搬送費用を大幅に低減できる。特に、施工現場が交通不便な山奥にある場合では、搬送費用の低減効果は大きい。また、セメント系盛土部7は、セメント系材料をバックホウなどで締め固めながら積層していくだけで構築できるので、型枠を形成して行うコンクリート擁壁の施工と比較して、施工手間が少なく、施工費用を大幅に低減することができる。さらに、従来は産業廃棄物となっていた現場発生土を有効利用できるので、産業廃棄物の処理費用を低減させることもできる。
【0058】
また、セメント系盛土部7は、セメントによって一体型に形成されており、従来の短繊維混合土砂と比較して粘着力が格段に大きい。したがって、滑動面(すべり面)の延長線部分より下側も含む盛土の重量で、地すべり滑動力に抵抗することができるので、盛土部6全体の厚さを大幅に薄くすることができる。具体的には、セメント系盛土部7の重量の他に、セメント系盛土部7の粘着力による抵抗力((式2)のCCLC1に相当)の増加が得られるので、盛土量を低減することができる。すなわち、盛土の重量が少なく、その重量のすべり面に鉛直な成分(WC1N)が小さくても、セメント系盛土部7の粘着力による抵抗力(CCLC1)が増加するので、必要な抵抗力を得ることができる。
【0059】
一方、セメント系盛土部7は、セメントによって、少なくとも平坦部9の地盤表面と岩着するので、セメント系盛土部7の重量の他に、地すべり滑動力に対する抵抗力((式1)のCCLC2に相当)を増大させることができ、これによっても盛土量を低減させることができる。すなわち、盛土の重量のうち、すべり面に鉛直な成分(WCN)が小さくても、セメント系盛土部7と平坦部9の地盤表面との粘着力による抵抗力(CCLC2)が増加するので、必要な抵抗力を得ることができる。
【0060】
さらに、セメント系盛土部7が接触する地盤表面11(平坦部9や傾斜面3など)を、目荒らしして地山を露出させているので、セメント系盛土部7と地盤表面11とが互いに噛み合うこととなり、セメント系盛土部7と地盤表面11との粘着力(岩着性)を大幅に高めることができる。これによって、すべりに対する抵抗力をさらに増加させることができ、盛土量を減らすことができる。
【0061】
また、セメント系材料の現場発生土と水とセメントとの配合比率は、予め採取した現場発生土と水とセメントとを複数種の配合比率で混合させて複数の強度試験体を形成して強度試験を行い、その強度試験の結果に応じて決定されるようにしたので、現場ごとに異なる現場発生土の特性に合わせて、配合比率を決定できる。これによって、常に必要な強度を発現させることができる最適な配合とすることができる。
【0062】
ここで、セメント量を増やすと、現場発生土の量を減らすことができるので、盛土の容積を減らすことができる。一方、現場発生土を増やすと、セメント量を減らすことができるので、コスト削減を図れる。これらを考慮することで、容積およびコスト面でバランスのとれた、つまり施工現場の形状に応じた配合比率を決定することができる。
【0063】
図12は本発明に係る押え盛土構造を実施するための最良の第二の形態を示した断面図であって、地山の下部ですべり面が発生する場合を想定した、すべりに対する安全率を説明するための図である。
【0064】
かかる実施の形態は、傾斜面3の下部に繋がる平坦部9と、この平坦部9に接触するセメント系盛土部7との粘着力(岩着性)が弱い場合の形態である。なお、セメント系盛土部7や傾斜面3などの構成は、基本的に図1の実施の形態と同様であるので、同じ符号を付して、その説明を省略する。
【0065】
本実施の形態において、地山の下部ですべり面(深い地すべり土塊のすべり面)が発生する場合を想定した場合、以下の数3に示す(式3)によって、すべりに対する安全率が示される。
【0066】
【数3】
【0067】
(式3)において、Fsはすべりに対する安全率=抵抗力/滑動力を示す。抵抗力を示す分子部分では、φ2は深い地すべり土塊の内部摩擦角を示し、WNは深い地すべり土塊の重量のうち、すべり面に鉛直な成分を示し、C2は深い地すべり土塊の粘着力を示し、L2は深い地すべり土塊のすべり面の長さを示し、φDはセメント系盛土部7と平坦部9間の内部摩擦角を示し、WCNはセメント系盛土部7の重量のうち、すべり面に鉛直な成分を示す。滑動力を示す分母部分では、WSは深い地すべり土塊の重量のうち、すべり面に平行な成分を示し、WCSはセメント系盛土部7の重量のうち、すべり面に平行な成分を示す。
【0068】
ここで、前記強度試験によって求められたセメント系盛土部7の粘着力、内部摩擦核および単位体積重量を(式3)に代入して計算することで、必要な安全率に応じた盛土量が求められる。この場合、単位セメント量を多くすると、盛土量を減らすことができ、逆に、盛土量を多くすると、単位セメント量を減らすことができる。以上のように、計算することによって、現場発生土の採取状態やトータルでの施工コストを考慮して、現場発生土と水とセメントとの配合比率を合理的に決定することができる。
【0069】
本実施の形態では、図1に示した実施の形態と比較してセメント系盛土部7と平坦部9との粘着力が弱い分、抵抗力が小さいが、セメント系盛土部7は一体化されているので、地山の中間部ですべり面(浅い地すべり土塊のすべり面)が発生する場合を想定した場合は、セメント系盛土部7の粘着力による抵抗力を得ることができ、全体として盛土量を減らすことができる。
【0070】
図13は本発明に係る押え盛土構造を実施するための最良の第三の形態を示した断面図であって、地山の中間部ですべり面が発生する場合を想定した、すべりに対する安全率を説明するための図である。
【0071】
かかる実施の形態は、セメント系盛土部7と傾斜面3との間に、現場発生土がそのまま積層されて構成される普通盛土部12が形成されている。セメント系盛土部7と普通盛土部12とで盛土部6が構成されている。セメント系盛土部7は、その底面が傾斜面3の下部に繋がる平坦部9に接触するように配置されている。セメント系盛土部7は、上部に向かうに連れて厚さが小さくなる断面台形状に形成されている。普通盛土部12は、上部に向かうに連れて厚さが大きくなる断面逆三角形状に形成されている。なお、セメント系盛土部7と普通盛土部12の形状は、前記の形状に限られるものではなく、セメント系盛土部7と普通盛土部12の厚さが、下部から上部まで一定の厚さとなるように形成してもよい。盛土部6は、傾斜面3側に現場発生土を積層するとともに、その表面側にセメント系材料を積層して構築されている。つまり、セメント系盛土部7と普通盛土部12とは、下部から上部に順次、同時施工される。なお、セメント系盛土部7と普通盛土部12以外の構成については、図1の実施の形態と同様であるので、同じ符号を付して、その説明を省略する。
【0072】
本実施の形態において、地山の中間部ですべり面(浅い地すべり土塊のすべり面)が発生する場合を想定した場合、以下の数4に示す(式4)によって、すべりに対する安全率が示される。
【0073】
【数4】
【0074】
(式4)において、Fsはすべりに対する安全率=抵抗力/滑動力を示す。抵抗力を示す分子部分では、φ1は浅い地すべり土塊の内部摩擦角を示し、W1Nは浅い地すべり土塊の重量のうち、すべり面に鉛直な成分を示し、C1は浅い地すべり土塊の粘着力を示し、L1は浅い地すべり土塊のすべり面の長さを示し、φBは普通盛土部12の内部摩擦角を示し、W´BNは普通盛土部12の重量のうち、すべり面に鉛直な成分を示し、φCはセメント系盛土部7の内部摩擦角を示し、W´C1Nはセメント系盛土部7の重量のうち、すべり面に鉛直な成分を示し、CCはセメント系盛土部7の粘着力を示し、L´C1は浅い地すべり土塊のすべり面の下端部におけるセメント系盛土部7の厚さを示す。滑動力を示す分母部分では、W1Sは浅い地すべり土塊の重量のうち、すべり面に平行な成分を示し、W´BSは浅い地すべり土塊のすべり面の下端部より上部に位置する普通盛土部12の重量のうち、すべり面に平行な成分を示し、W´C1Sは浅い地すべり土塊のすべり面の下端部より上部に位置するセメント系盛土部7の重量のうち、すべり面に平行な成分を示す。
【0075】
ここで、前記強度試験によって求められたセメント系盛土部7の粘着力、内部摩擦核および単位体積重量を(式4)に代入して計算することで、必要な安全率に応じた盛土量が求められる。この場合、単位セメント量を多くすると、盛土量を減らすことができ、逆に、盛土量を多くすると、単位セメント量を減らすことができる。以上のように、計算することによって、現場発生土の採取状態やトータルでの施工コストを考慮して、現場発生土と水とセメントとの配合比率を合理的に決定することができる。
【0076】
本実施の形態では、盛土部6をセメント系盛土部7と普通盛土部12とで構成しているので、図1に示した実施の形態と比較してセメントの混合量を低減することができる。すなわち、普通盛土部12で盛土部6の重量を確保しつつ、セメント系盛土部7で粘着力を得ることで、効率的にすべりに対する抵抗力を増加させることができる。よって施工コストのさらなる低減が達成される。
【0077】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。例えば、現場発生土は、基本的には分級しないが、分級する場合も本発明の技術範囲に含まれるのは言うまでもない。
【0078】
また、本発明に係る押え盛土構造は、単独で形成されることに限られるものではなく、地下水排除工と併用してもよいのは勿論である。このようにすれば、地下水の変動による滑動力の変動を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明に係る押え盛土構造を実施するための最良の形態を示した断面図であって、地山の下部ですべり面が発生する場合を想定した、すべりに対する安全率を説明するための図である。
【図2】本発明に係る押え盛土構造を実施するための最良の形態を示した断面図であって、地山の中間部ですべり面が発生する場合を想定した、すべりに対する安全率を説明するための図である。
【図3】(a)は河床砂礫の試験粒度を示したグラフ、(b)は風化岩(横坑掘削ズリ)の試験粒度を示したグラフである。
【図4】(a)は河床砂礫の単位水量とピーク強度との関係を示したグラフ、(b)は風化岩(横坑掘削ズリ)の単位水量とピーク強度との関係を示したグラフである。
【図5】(a)は河床砂礫の単位水量と弾性領域強度との関係を示したグラフ、(b)は風化岩(横坑掘削ズリ)の単位水量と弾性領域強度との関係を示したグラフである。
【図6】(a)は河床砂礫のピーク強度と弾性領域強度との関係を示したグラフ、(b)は風化岩(横坑掘削ズリ)のピーク強度と弾性領域強度との関係を示したグラフである。
【図7】(a)は河床砂礫の単位水量と引張強度との関係を示したグラフ、(b)は風化岩(横坑掘削ズリ)の単位水量と引張強度との関係を示したグラフである。
【図8】(a)は河床砂礫の弾性領域強度と引張強度との関係を示したグラフ、(b)は風化岩(横坑掘削ズリ)の弾性領域強度と引張強度との関係を示したグラフである。
【図9】セメント水比と圧縮強度との関係を示したグラフである。
【図10】一軸圧縮強度と粘着力との関係を示した理論図である。
【図11】一軸圧縮強度と粘着力との関係を示したグラフである。
【図12】本発明に係る押え盛土構造を実施するための最良の第二の形態を示した断面図であって、地山の下部ですべり面が発生する場合を想定した、すべりに対する安全率を説明するための図である。
【図13】本発明に係る押え盛土構造を実施するための最良の第三の形態を示した断面図であって、地山の中間部ですべり面が発生する場合を想定した、すべりに対する安全率を説明するための図である。
【符号の説明】
【0080】
2 山
3 傾斜面
4 地すべり土塊
5 末端部
6 盛土部
7 セメント系盛土部
9 平坦部
12 普通盛土部
【技術分野】
【0001】
本発明は、傾斜面の地すべりを防止するために前記傾斜面の地すべり土塊の末端部に所定厚さの盛土部を形成する押え盛土構造に関する。
【背景技術】
【0002】
山などの傾斜面の地すべりを防止するための工法としては、押え盛土工法が知られている。従来の一般的な押え盛土工法は、傾斜面の地すべり土塊の末端部(下部)に盛土部を形成することによって、地すべり滑動力に対する抵抗力を増加させるようにしている。盛土部は、地すべり土塊の末端部を押えることで、地すべり滑動力に対する抵抗力を増加させているが、盛土量が抵抗力の増加量に大きく関係してくる。そのため、地すべり土塊が大きく滑動力が大きい場合には、大量の盛土を行わなければならない。特に、滑動面が盛土部の上部近傍に位置する場合は、その上側に位置する盛土量が少なく、抵抗力の増加量が小さくなってしまう。そのため、抵抗力を増加させるためには、滑動面の位置での盛土厚を厚くする必要があり、滑動面よりも下側の盛土量は、大幅に増加してしまう。
【0003】
その対策として、盛土を形成する土砂に短繊維を混合することで、土粒子間の結合力を増して、盛土量を減らすものがあった(例えば、特許文献1参照)。かかる構成によれば、土粒子間に配置される短繊維が適度に絡み合うことによって、盛土の強度が増して、盛土の体積を小さくすることができる。しかし、かかる構成では、盛土の土粒子間での結合力は増加してはいるものの、盛土と地盤面との摩擦力については考慮されておらず、盛土の体積を小さくする余地はまだ残されていた。また、盛土の強度についても、土粒子間の結合力を強める余地は残されている。
【0004】
そこで、地すべり土塊の末端部での押え部分の体積をさらに小さくするために、盛土に代えてコンクリート製の擁壁を形成することが考えられる。このようにすれば、擁壁は地盤面に一体的に形成されるとともに、擁壁自体も一体的に形成されているので、滑動面より下側も含む擁壁の重量で、地すべり滑動力に抵抗することができ、擁壁(地すべり土塊の末端部での押え部分)の厚さを大幅に薄くすることができる。
【特許文献1】特開平7−237747号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、コンクリート製の擁壁を形成するには、大量の骨材が必要となる上に、施工も大変である。コンクリートの骨材は、所定の粒径に揃った土砂などを用いるため、特定の採取場から採取して搬送しなければならない。そのため、骨材の調達と搬送に多くの費用を要し、施工費用の増大を招いてしまう。
【0006】
そこで、本発明は前記の問題を解決すべく案出されたものであって、施工費用の低減を図れるとともに、容積を小さくすることができる押え盛土構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための請求項1に係る発明は、傾斜面の地すべりを防止するために前記傾斜面の地すべり土塊の末端部に所定厚さの盛土部を形成する押え盛土構造において、施工現場あるいはその近傍で採取可能な現場発生土と水とセメントとを混合して構成されるセメント系材料を積層してなるセメント系盛土部を、少なくとも前記盛土部の一部に形成し、前記セメント系盛土部は、少なくとも前記傾斜面の下部に繋がる平坦部に接触することを特徴とする押え盛土構造である。
【0008】
前記構成によれば、現場発生土を利用したセメント系材料を用いて、セメント系盛土部を形成しているので、骨材の調達費用および搬送費用を大幅に低減できる。また、セメント系盛土部は、セメントによって一体型に形成することができ、滑動面の延長線部分より下側も含む盛土の重量で、地すべり滑動力に抵抗することができるので、盛土部全体の厚さを大幅に薄くすることができる。さらに、セメント系盛土部は、セメントによって、少なくとも平坦部の地盤表面と岩着するので、地すべり滑動力に対する抵抗力を増大することができ、これによっても盛土量を低減させることができる。
【0009】
請求項2に係る発明は、前記セメント系盛土部と前記傾斜面との間に、前記現場発生土が積層されて構成される普通盛土部を形成したことを特徴とする請求項1に記載の押え盛土構造である。
【0010】
前記構成によれば、セメントの混合量を減らすことができるとともに、普通盛土部の重量も地すべり滑動力に対する抵抗力に有効に作用する。したがって、合理的な押え盛土構造とすることができ、必要最小限の施工費用で盛土部を形成できる。
【0011】
請求項3に係る発明は、前記セメント系盛土部が接触する地盤表面を、目荒らしして地山を露出させて、前記セメント系盛土部と地盤表面との粘着力を高めるように構成したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の押え盛土構造である。
【0012】
前記構成によれば、セメント系盛土部と地盤表面とが互いに噛み合い、岩着性が高まる。したがって、セメント系盛土部と地盤表面との粘着力を大幅に高めることができるので、地すべり滑動力に対する抵抗力を増大させることができ、盛土量をさらに低減させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、押え盛土を、低コストで構築できるとともに、その容積を小さくすることができるといった優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
図1は本発明に係る押え盛土構造を実施するための最良の形態を示した断面図であって、地山の下部ですべり面が発生する場合を想定した、すべりに対する安全率を説明するための図、図2は本発明に係る押え盛土構造を実施するための最良の形態を示した断面図であって、地山の中間部ですべり面が発生する場合を想定した、すべりに対する安全率を説明するための図である。
【0016】
まず、本実施の形態に係る押え盛土構造の構成について説明する。
【0017】
図1および図2に示すように、押え盛土1は、山2などの傾斜面3の地すべりを防止するために傾斜面3の地すべり土塊4の末端部5に所定厚さで形成されている。ところで、本発明は、施工現場あるいはその近傍で採取可能な現場発生土と水とセメントとを混合して構成されるセメント系材料を積層してなるセメント系盛土部7を、盛土部6の少なくとも一部に形成し、セメント系盛土部7は、少なくとも傾斜面3の下部に繋がる平坦部9に接触するようにしたことを特徴とする。
【0018】
セメント系材料は、施工現場あるいはその近傍で採取可能な現場発生土(例えば、河床砂礫や風化岩(横坑掘削ズリなど))に、水とセメントとを混合して構成されている。施工にかかる費用を低減させるために、現場発生土の分級などの調整は、基本的には行わない。以上のようなセメント系材料は、CSG(Cemented Sand and Gravel)材料と称され、1992年以降、台形ダムの堤体などの施工に用いられ、実績を積み重ねている。
【0019】
本実施の形態では、盛土部6は、全体がセメント系盛土部7にて構成されており、セメント系盛土部7は、傾斜面3およびその下部に繋がる平坦部9に接触するように構成されている。平坦部9は、表面が水平となっている部分以外にも、地すべりのおそれのない緩やかな傾斜部分も含むものとする。セメント系盛土部7が接触する地盤表面11(本実施の形態では、傾斜面3の下部および平坦部9)は、バックホウで削るなどして目荒らしされて地山が露出されて、セメント系盛土部7と地盤表面11との粘着力を高めるように構成されている。セメント系盛土部7は、下部から順次、締め固めながら積層することで構築される。
【0020】
セメント系材料の現場発生土と水とセメントとの配合比率は、予め採取した現場発生土と水とセメントとを複数種の配合比率で混合させて複数の強度試験体を形成して強度試験を行い、その強度試験の結果に応じて決定される。具体的には、複数の強度試験体を用いて行った強度試験より、各強度試験体の配合比率を採用した場合のセメント系材料の粘着力を求め、その粘着力が、地すべり防止のために必要なセメント系盛土部7の粘着力であるかどうかを検討する。
【0021】
以下に、セメント系材料の強度試験について説明する。
【0022】
本実施の形態では、施工現場で実際に採取された2種類の現場発生土(河床砂礫および風化岩(横坑掘削ズリ))について強度試験を行った。以下、河床砂礫を「母材A」、風化岩を「母材B」と称する場合がある。なお、本実施の形態では、現場発生土の例として、河床砂礫と風化岩(横坑掘削ズリ)を挙げているが、これに限られるものではなく、施工現場あるいはその近傍で採取できる土砂であれば、何であってもよいのは勿論である。
【0023】
現地で採取される母材Aおよび母材Bの粒度は、一定ではなく、バラツキを有しているため、母材Aおよび母材Bについて、それぞれ複数の採取箇所を選定し、それら採取箇所ごとの粒度を調査した。その上で、想定される母材Aおよび母材Bの粒度の変動幅を設定し、最も荒い粒度(以下、「粗粒度」という)、平均的な粒度(以下、「平均粒度」という)、最も細かい粒度(以下、「細粒度」という)の3種類を試験粒度として設定した(図3参照)。
【0024】
ここで、試験条件を、単位セメント量が60,80kg/m3の2種、単位水量が60〜150kg/m3の範囲で15毎の7種、粒度が粗粒度、平均粒度、細粒度の3種、に設定し、これらの条件で作成した供試体について、圧縮強度試験および引張強度試験を行った。供試体は、各試験条件ごとに6体ずつ作成した。
【0025】
強度試験に使用する母材Aおよび母材Bは、原材料を0〜5mm、5〜10mm、10〜20mm、20〜40mm、40〜80mmに5分級にふるい分けしたものを、設定した粗粒度、平均粒度、細粒度の3粒度に適合するように再混合したものを用いる。使用セメントは普通ポルトランドセメントであり混和剤は使用していない。母材A,Bと水とセメントとを傾動式ミキサに全量投入後、3分間混合する。混合後のセメント系材料は、40mmのふるいでウェットスクリーニングし、各試験に用いた。
【0026】
供試体は、直径150mm、高さ300mmの円柱体形状に作成したものを用いた。供試体は、混合後のセメント系材料を3層に分けて型枠に詰め、各層をボッシュタンパーで30秒締め固め、その後、脱型を行わず、型枠ごとに供試体をラップで密封して、20℃の恒温室にて封緘養生を行って形成した。そして、所定の材齢まで養生を行った後、キャッピング・脱型を行い、密度計測を行ってから圧縮強度試験および引張強度試験を実施した。
【0027】
圧縮強度試験は、材齢28日、91日で、JIS A 1108−1999「コンクリートの圧縮強度試験方法」に従い実施した。圧縮強度試験では、載荷盤に変位計を設置し、供試体全体の変位量と、載荷荷重を計測した。応力ひずみ曲線の直線区間を弾性領域とし、その弾性領域の中で応力が最大となる点を弾性領域強度とし、応力ひずみ曲線の最大値をピーク強度とした。また、弾性領域における応力ひずみ曲線の傾きから弾性係数を算出した。なお、各試験条件における試験値は、供試体6体の試験結果の平均値を出して整理している。
【0028】
ここで、単位水量とピーク強度との関係を示したグラフを図4に示す。図4(a)に示すように、母材A(河床砂礫)におけるピーク強度は、単位セメント量(C)が、60kg/m3のケースで、2〜6N/mm2、単位セメント量(C)が、80kg/m3のケースで、4〜11N/mm2である。図4(b)に示すように、母材B(風化岩)におけるピーク強度は、単位セメント量(C)が、60kg/m3のケースで、2〜3N/mm2、単位セメント量(C)が、80kg/m3のケースで、3〜6N/mm2である。
【0029】
母材A、母材Bともに、単位セメント量が80kg/m3のケースの方が、60kg/m3のケースに比べてピーク強度が大きい結果となった。また、母材A、母材Bの粒度分布とピーク強度との関係は、単位水量が小さい領域では、粗粒度ほどピーク強度が大きい傾向を示し、単位水量が大きい領域では、粒度分布の影響は見られなかった。
【0030】
次に、単位水量と弾性領域強度との関係を示したグラフを図5に示す。図5(a)に示すように、母材A(河床砂礫)における弾性領域強度は、単位セメント量(C)が、60kg/m3のケースで、1.5〜4N/mm2、単位セメント量(C)が、80kg/m3のケースで、2〜8N/mm2である。図5(b)に示すように、母材B(風化岩)における弾性領域強度は、単位セメント量(C)が、60kg/m3のケースで、1〜2N/mm2、単位セメント量(C)が、80kg/m3のケースで、2〜4N/mm2である。
【0031】
母材A、母材Bともに、単位セメント量が80kg/m3のケースの方が、60kg/m3のケースに比べて弾性領域強度が大きい結果となった。また、母材A、母材Bの粒度分布と弾性領域強度との関係は、単位水量が小さい領域では、粗粒度ほど弾性領域強度が大きい傾向を示し、単位水量が大きい領域では、粒度分布の影響は見られなかった。この傾向は、図4に示した単位水量とピーク強度との関係の傾向と同様である。
【0032】
次に、ピーク強度と弾性領域強度との関係を示したグラフを図6に示す。図6(a)および(b)に示すように、粒度分布や単位水量、単位セメント量の変動によらず、弾性領域強度はピーク強度の6〜7割程度である。
【0033】
引張強度試験は、材齢91日で、JIS A 1113−1999「コンクリートの割裂引張強度試験方法」に従い実施した。
【0034】
単位水量と引張強度との関係を示したグラフを図7に示す。図7(a)に示すように、平均粒度における母材Aの引張強度は、単位セメント量が、60kg/m3のケースで、0.3〜0.8N/mm2、単位セメント量(C)が、80kg/m3のケースで、0.6〜1.0N/mm2である。図7(b)に示すように、平均粒度における母材B(風化岩)の引張強度は、試験ケースが少ないが、単位セメント量(C)が、80kg/m3のケースで、0.6〜0.7N/mm2である。
【0035】
これらの結果をまとめて、弾性領域強度と引張強度との関係を示したグラフを図8に示す。図8(a)に示すように、弾性領域強度と引張強度には相関関係が確認でき、引張強度は、弾性領域強度の1/5程度であることが判明した。この結果と図6の結果をまとめると、引張強度はピーク強度の1/7〜1/8であることが分かった。
【0036】
ここで、CSG材料の圧縮強度は、セメント水比と比例することが分かっているため、風化岩(母材B)を例に挙げて、単位水量110kg/m3の場合の単位セメント量60,80kg/m3の結果を用いて、セメント水比と圧縮強度の関係を示すと、図9に示すグラフのようになる。
【0037】
一方、CSG材料の粘着力と、一軸圧縮強度との関係は、理論上、図10に示すようになる。図10中、Fcは圧縮強度、Ftは引張強度、φは内部摩擦角、σは一軸圧縮強度、τはせん断力、Cは粘着力を示す。この結果を基に、引張強度はピーク強度の1/8として、一軸圧縮強度と粘着力との関係を示すと、図11のグラフのようになる。
【0038】
以上の試験事例より、単位セメント量とピーク強度相当の粘着力との関係を推定したものを以下の表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
また、参考として、単位セメント量と弾性領域強度相当の粘着力との関係を推定したものを以下の表2に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
表1に示すように、CSGの粘着力は、最低セメント量60kg/m3として、ピーク強度で、440kN/m2程度確保できると考えられるが、試験事例の結果を考慮し、設計に用いる粘着力は、300kN/m2を基本として、必要に応じて単位セメント量の増量を考慮して、変化させるものとする。内部摩擦角は、図10より51度となるが、試験事例を考慮して48度とする。
【0043】
一方、母材Bの場合のCSGの単位体積重量は、下記の表3に示すように、単位セメント量60kg/m3、単位水量110kg/m3とした場合、22kN/m3となる。
【0044】
【表3】
【0045】
以上のように強度試験の結果より考察を行うことで、他の各試験条件についても粘着力(表1および表2参照)と、内部摩擦核と、単位体積重量(表3参照)が求められる。
【0046】
ところで、図1に示すように、地山の下部ですべり面(深い地すべり土塊のすべり面)が発生する場合を想定した場合、以下の数1に示す(式1)によって、すべりに対する安全率が示される。
【0047】
【数1】
【0048】
(式1)において、Fsはすべりに対する安全率=抵抗力/滑動力を示す。抵抗力を示す分子部分では、φ2は深い地すべり土塊の内部摩擦角を示し、WNは深い地すべり土塊の重量のうち、すべり面に鉛直な成分を示し、C2は深い地すべり土塊の粘着力を示し、L2は深い地すべり土塊のすべり面の長さを示し、φCはセメント系盛土部7の内部摩擦角を示し、WCNはセメント系盛土部7の重量のうち、すべり面に鉛直な成分を示し、CCはセメント系盛土部7の粘着力を示し、LC2はセメント系盛土部7と平坦部9との接触長さを示す。滑動力を示す分母部分では、WSは深い地すべり土塊の重量のうち、すべり面に平行な成分を示し、WCSはセメント系盛土部7の重量のうち、すべり面に平行な成分を示す。
【0049】
ここで、前記強度試験によって求められたセメント系盛土部7の粘着力、内部摩擦核および単位体積重量を(式1)に代入して計算することで、必要な安全率に応じた盛土量が求められる。この場合、単位セメント量を多くすると、盛土量を減らすことができ、逆に、盛土量を多くすると、単位セメント量を減らすことができる。現場発生土の採取状態やトータルでの施工コストを考慮して計算することによって、現場発生土と水とセメントとの配合比率を合理的に決定することができる。このとき、配合比率は、粒度のバラツキも考慮して、必要な安全率を得られるように決定する。
【0050】
一方、図2に示すように、地山の中間部ですべり面(浅い地すべり土塊のすべり面)が発生する場合を想定した場合、以下の数2に示す(式2)によって、すべりに対する安全率が示される。
【0051】
【数2】
【0052】
(式2)において、Fsはすべりに対する安全率=抵抗力/滑動力を示す。抵抗力を示す分子部分では、φ1は浅い地すべり土塊の内部摩擦角を示し、W1Nは浅い地すべり土塊の重量のうち、すべり面に鉛直な成分を示し、C1は浅い地すべり土塊の粘着力を示し、L1は浅い地すべり土塊のすべり面の長さを示し、φCはセメント系盛土部7の内部摩擦角を示し、WC1Nは浅い地すべり土塊のすべり面の下端部より上部に位置するセメント系盛土部7の重量のうち、すべり面に鉛直な成分を示し、CCはセメント系盛土部7の粘着力を示し、LC1は浅い地すべり土塊のすべり面の下端部におけるセメント系盛土部7の厚さを示す。滑動力を示す分母部分では、W1Sは浅い地すべり土塊の重量のうち、すべり面に平行な成分を示し、WC1Sは浅い地すべり土塊のすべり面の下端部より上部に位置するセメント系盛土部7の重量のうち、すべり面に平行な成分を示す。
【0053】
ここで、前記強度試験によって求められたセメント系盛土部7の粘着力、内部摩擦核および単位体積重量を(式2)に代入して計算することで、必要な安全率に応じた盛土量が求められる。この場合、単位セメント量を多くすると、盛土量を減らすことができ、逆に、盛土量を多くすると、単位セメント量を減らすことができる。現場発生土の採取状態、トータルでの施工コストおよび現場発生土の粒度のバラツキ状態を考慮して計算することによって、現場発生土と水とセメントとの配合比率を合理的に決定することができる。
【0054】
配合比率および盛土量は、図1のケースと図2のケースの両方の安全率の条件を満たすように決定される。
【0055】
なお、前記強度試験では、供試体は、直径150mm、高さ300mmの円柱体形状に作成したものを用いており、その試験結果に基づいて配合比率および盛土量を決定(設計段階)するようにしているが、実際の施工前には、直径300mm、高さ600mmの円柱体形状の大型供試体を作成し、同様の強度試験を行う。これによって、強度試験の精度向上が達成され、配合比率および盛土量の適合性が高められる。
【0056】
以下に、本実施の形態の作用を説明する。
【0057】
本実施の形態によれば、現場発生土を利用したセメント系材料を用いて、セメント系盛土部7を形成しているので、コンクリート製の擁壁を構築する場合と比較して、骨材の調達費用および搬送費用を大幅に低減できる。特に、施工現場が交通不便な山奥にある場合では、搬送費用の低減効果は大きい。また、セメント系盛土部7は、セメント系材料をバックホウなどで締め固めながら積層していくだけで構築できるので、型枠を形成して行うコンクリート擁壁の施工と比較して、施工手間が少なく、施工費用を大幅に低減することができる。さらに、従来は産業廃棄物となっていた現場発生土を有効利用できるので、産業廃棄物の処理費用を低減させることもできる。
【0058】
また、セメント系盛土部7は、セメントによって一体型に形成されており、従来の短繊維混合土砂と比較して粘着力が格段に大きい。したがって、滑動面(すべり面)の延長線部分より下側も含む盛土の重量で、地すべり滑動力に抵抗することができるので、盛土部6全体の厚さを大幅に薄くすることができる。具体的には、セメント系盛土部7の重量の他に、セメント系盛土部7の粘着力による抵抗力((式2)のCCLC1に相当)の増加が得られるので、盛土量を低減することができる。すなわち、盛土の重量が少なく、その重量のすべり面に鉛直な成分(WC1N)が小さくても、セメント系盛土部7の粘着力による抵抗力(CCLC1)が増加するので、必要な抵抗力を得ることができる。
【0059】
一方、セメント系盛土部7は、セメントによって、少なくとも平坦部9の地盤表面と岩着するので、セメント系盛土部7の重量の他に、地すべり滑動力に対する抵抗力((式1)のCCLC2に相当)を増大させることができ、これによっても盛土量を低減させることができる。すなわち、盛土の重量のうち、すべり面に鉛直な成分(WCN)が小さくても、セメント系盛土部7と平坦部9の地盤表面との粘着力による抵抗力(CCLC2)が増加するので、必要な抵抗力を得ることができる。
【0060】
さらに、セメント系盛土部7が接触する地盤表面11(平坦部9や傾斜面3など)を、目荒らしして地山を露出させているので、セメント系盛土部7と地盤表面11とが互いに噛み合うこととなり、セメント系盛土部7と地盤表面11との粘着力(岩着性)を大幅に高めることができる。これによって、すべりに対する抵抗力をさらに増加させることができ、盛土量を減らすことができる。
【0061】
また、セメント系材料の現場発生土と水とセメントとの配合比率は、予め採取した現場発生土と水とセメントとを複数種の配合比率で混合させて複数の強度試験体を形成して強度試験を行い、その強度試験の結果に応じて決定されるようにしたので、現場ごとに異なる現場発生土の特性に合わせて、配合比率を決定できる。これによって、常に必要な強度を発現させることができる最適な配合とすることができる。
【0062】
ここで、セメント量を増やすと、現場発生土の量を減らすことができるので、盛土の容積を減らすことができる。一方、現場発生土を増やすと、セメント量を減らすことができるので、コスト削減を図れる。これらを考慮することで、容積およびコスト面でバランスのとれた、つまり施工現場の形状に応じた配合比率を決定することができる。
【0063】
図12は本発明に係る押え盛土構造を実施するための最良の第二の形態を示した断面図であって、地山の下部ですべり面が発生する場合を想定した、すべりに対する安全率を説明するための図である。
【0064】
かかる実施の形態は、傾斜面3の下部に繋がる平坦部9と、この平坦部9に接触するセメント系盛土部7との粘着力(岩着性)が弱い場合の形態である。なお、セメント系盛土部7や傾斜面3などの構成は、基本的に図1の実施の形態と同様であるので、同じ符号を付して、その説明を省略する。
【0065】
本実施の形態において、地山の下部ですべり面(深い地すべり土塊のすべり面)が発生する場合を想定した場合、以下の数3に示す(式3)によって、すべりに対する安全率が示される。
【0066】
【数3】
【0067】
(式3)において、Fsはすべりに対する安全率=抵抗力/滑動力を示す。抵抗力を示す分子部分では、φ2は深い地すべり土塊の内部摩擦角を示し、WNは深い地すべり土塊の重量のうち、すべり面に鉛直な成分を示し、C2は深い地すべり土塊の粘着力を示し、L2は深い地すべり土塊のすべり面の長さを示し、φDはセメント系盛土部7と平坦部9間の内部摩擦角を示し、WCNはセメント系盛土部7の重量のうち、すべり面に鉛直な成分を示す。滑動力を示す分母部分では、WSは深い地すべり土塊の重量のうち、すべり面に平行な成分を示し、WCSはセメント系盛土部7の重量のうち、すべり面に平行な成分を示す。
【0068】
ここで、前記強度試験によって求められたセメント系盛土部7の粘着力、内部摩擦核および単位体積重量を(式3)に代入して計算することで、必要な安全率に応じた盛土量が求められる。この場合、単位セメント量を多くすると、盛土量を減らすことができ、逆に、盛土量を多くすると、単位セメント量を減らすことができる。以上のように、計算することによって、現場発生土の採取状態やトータルでの施工コストを考慮して、現場発生土と水とセメントとの配合比率を合理的に決定することができる。
【0069】
本実施の形態では、図1に示した実施の形態と比較してセメント系盛土部7と平坦部9との粘着力が弱い分、抵抗力が小さいが、セメント系盛土部7は一体化されているので、地山の中間部ですべり面(浅い地すべり土塊のすべり面)が発生する場合を想定した場合は、セメント系盛土部7の粘着力による抵抗力を得ることができ、全体として盛土量を減らすことができる。
【0070】
図13は本発明に係る押え盛土構造を実施するための最良の第三の形態を示した断面図であって、地山の中間部ですべり面が発生する場合を想定した、すべりに対する安全率を説明するための図である。
【0071】
かかる実施の形態は、セメント系盛土部7と傾斜面3との間に、現場発生土がそのまま積層されて構成される普通盛土部12が形成されている。セメント系盛土部7と普通盛土部12とで盛土部6が構成されている。セメント系盛土部7は、その底面が傾斜面3の下部に繋がる平坦部9に接触するように配置されている。セメント系盛土部7は、上部に向かうに連れて厚さが小さくなる断面台形状に形成されている。普通盛土部12は、上部に向かうに連れて厚さが大きくなる断面逆三角形状に形成されている。なお、セメント系盛土部7と普通盛土部12の形状は、前記の形状に限られるものではなく、セメント系盛土部7と普通盛土部12の厚さが、下部から上部まで一定の厚さとなるように形成してもよい。盛土部6は、傾斜面3側に現場発生土を積層するとともに、その表面側にセメント系材料を積層して構築されている。つまり、セメント系盛土部7と普通盛土部12とは、下部から上部に順次、同時施工される。なお、セメント系盛土部7と普通盛土部12以外の構成については、図1の実施の形態と同様であるので、同じ符号を付して、その説明を省略する。
【0072】
本実施の形態において、地山の中間部ですべり面(浅い地すべり土塊のすべり面)が発生する場合を想定した場合、以下の数4に示す(式4)によって、すべりに対する安全率が示される。
【0073】
【数4】
【0074】
(式4)において、Fsはすべりに対する安全率=抵抗力/滑動力を示す。抵抗力を示す分子部分では、φ1は浅い地すべり土塊の内部摩擦角を示し、W1Nは浅い地すべり土塊の重量のうち、すべり面に鉛直な成分を示し、C1は浅い地すべり土塊の粘着力を示し、L1は浅い地すべり土塊のすべり面の長さを示し、φBは普通盛土部12の内部摩擦角を示し、W´BNは普通盛土部12の重量のうち、すべり面に鉛直な成分を示し、φCはセメント系盛土部7の内部摩擦角を示し、W´C1Nはセメント系盛土部7の重量のうち、すべり面に鉛直な成分を示し、CCはセメント系盛土部7の粘着力を示し、L´C1は浅い地すべり土塊のすべり面の下端部におけるセメント系盛土部7の厚さを示す。滑動力を示す分母部分では、W1Sは浅い地すべり土塊の重量のうち、すべり面に平行な成分を示し、W´BSは浅い地すべり土塊のすべり面の下端部より上部に位置する普通盛土部12の重量のうち、すべり面に平行な成分を示し、W´C1Sは浅い地すべり土塊のすべり面の下端部より上部に位置するセメント系盛土部7の重量のうち、すべり面に平行な成分を示す。
【0075】
ここで、前記強度試験によって求められたセメント系盛土部7の粘着力、内部摩擦核および単位体積重量を(式4)に代入して計算することで、必要な安全率に応じた盛土量が求められる。この場合、単位セメント量を多くすると、盛土量を減らすことができ、逆に、盛土量を多くすると、単位セメント量を減らすことができる。以上のように、計算することによって、現場発生土の採取状態やトータルでの施工コストを考慮して、現場発生土と水とセメントとの配合比率を合理的に決定することができる。
【0076】
本実施の形態では、盛土部6をセメント系盛土部7と普通盛土部12とで構成しているので、図1に示した実施の形態と比較してセメントの混合量を低減することができる。すなわち、普通盛土部12で盛土部6の重量を確保しつつ、セメント系盛土部7で粘着力を得ることで、効率的にすべりに対する抵抗力を増加させることができる。よって施工コストのさらなる低減が達成される。
【0077】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。例えば、現場発生土は、基本的には分級しないが、分級する場合も本発明の技術範囲に含まれるのは言うまでもない。
【0078】
また、本発明に係る押え盛土構造は、単独で形成されることに限られるものではなく、地下水排除工と併用してもよいのは勿論である。このようにすれば、地下水の変動による滑動力の変動を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明に係る押え盛土構造を実施するための最良の形態を示した断面図であって、地山の下部ですべり面が発生する場合を想定した、すべりに対する安全率を説明するための図である。
【図2】本発明に係る押え盛土構造を実施するための最良の形態を示した断面図であって、地山の中間部ですべり面が発生する場合を想定した、すべりに対する安全率を説明するための図である。
【図3】(a)は河床砂礫の試験粒度を示したグラフ、(b)は風化岩(横坑掘削ズリ)の試験粒度を示したグラフである。
【図4】(a)は河床砂礫の単位水量とピーク強度との関係を示したグラフ、(b)は風化岩(横坑掘削ズリ)の単位水量とピーク強度との関係を示したグラフである。
【図5】(a)は河床砂礫の単位水量と弾性領域強度との関係を示したグラフ、(b)は風化岩(横坑掘削ズリ)の単位水量と弾性領域強度との関係を示したグラフである。
【図6】(a)は河床砂礫のピーク強度と弾性領域強度との関係を示したグラフ、(b)は風化岩(横坑掘削ズリ)のピーク強度と弾性領域強度との関係を示したグラフである。
【図7】(a)は河床砂礫の単位水量と引張強度との関係を示したグラフ、(b)は風化岩(横坑掘削ズリ)の単位水量と引張強度との関係を示したグラフである。
【図8】(a)は河床砂礫の弾性領域強度と引張強度との関係を示したグラフ、(b)は風化岩(横坑掘削ズリ)の弾性領域強度と引張強度との関係を示したグラフである。
【図9】セメント水比と圧縮強度との関係を示したグラフである。
【図10】一軸圧縮強度と粘着力との関係を示した理論図である。
【図11】一軸圧縮強度と粘着力との関係を示したグラフである。
【図12】本発明に係る押え盛土構造を実施するための最良の第二の形態を示した断面図であって、地山の下部ですべり面が発生する場合を想定した、すべりに対する安全率を説明するための図である。
【図13】本発明に係る押え盛土構造を実施するための最良の第三の形態を示した断面図であって、地山の中間部ですべり面が発生する場合を想定した、すべりに対する安全率を説明するための図である。
【符号の説明】
【0080】
2 山
3 傾斜面
4 地すべり土塊
5 末端部
6 盛土部
7 セメント系盛土部
9 平坦部
12 普通盛土部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾斜面の地すべりを防止するために前記傾斜面の地すべり土塊の末端部に所定厚さの盛土部を形成する押え盛土構造において、
施工現場あるいはその近傍で採取可能な現場発生土と水とセメントとを混合して構成されるセメント系材料を積層してなるセメント系盛土部を、少なくとも前記盛土部の一部に形成し、
前記セメント系盛土部は、少なくとも前記傾斜面の下部に繋がる平坦部に接触する
ことを特徴とする押え盛土構造。
【請求項2】
前記セメント系盛土部と前記傾斜面との間に、前記現場発生土が積層されて構成される普通盛土部を形成した、
ことを特徴とする請求項1に記載の押え盛土構造。
【請求項3】
前記セメント系盛土部が接触する地盤表面を、目荒らしして地山を露出させて、前記セメント系盛土部と地盤表面との粘着力を高めるように構成した
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の押え盛土構造。
【請求項1】
傾斜面の地すべりを防止するために前記傾斜面の地すべり土塊の末端部に所定厚さの盛土部を形成する押え盛土構造において、
施工現場あるいはその近傍で採取可能な現場発生土と水とセメントとを混合して構成されるセメント系材料を積層してなるセメント系盛土部を、少なくとも前記盛土部の一部に形成し、
前記セメント系盛土部は、少なくとも前記傾斜面の下部に繋がる平坦部に接触する
ことを特徴とする押え盛土構造。
【請求項2】
前記セメント系盛土部と前記傾斜面との間に、前記現場発生土が積層されて構成される普通盛土部を形成した、
ことを特徴とする請求項1に記載の押え盛土構造。
【請求項3】
前記セメント系盛土部が接触する地盤表面を、目荒らしして地山を露出させて、前記セメント系盛土部と地盤表面との粘着力を高めるように構成した
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の押え盛土構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−69553(P2008−69553A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−248986(P2006−248986)
【出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(594135151)財団法人ダム技術センター (12)
【出願人】(595029886)アイドールエンジニヤリング株式会社 (4)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(594135151)財団法人ダム技術センター (12)
【出願人】(595029886)アイドールエンジニヤリング株式会社 (4)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]