説明

指向性バーアンテナ

【課題】
キーレスエントリーなどのシステムでは、アンテナの前後に非対称な指向性が必要な場合がある。
誘導電磁界においてアンテナの指向性を任意に制御することは困難であり、バーアンテナの前後方向で受信感度に差をつけたい場合は、アンテナをシールド材で囲んでいたが、コストと形状に問題があった。
【解決手段】
コアにコイルが巻回された複数のバーアンテナにおいて、第1のバーアンテナと、第2のバーアンテナは、第3のバーアンテナを挟んでハの字型に配置された
ことを特徴とする指向性バーアンテナとし、前記指向性バーアンテナにおいて、第1のバーアンテナと第2のバーアンテナのコイルの巻回方向は同じであり、第3のバーアンテナのコイルの巻回方向は逆である
ことを特徴とする指向性バーアンテナ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、指向性のあるバーアンテナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の車両等のキーレスエントリー装置として、ユーザーがリモートユニットのボタンを操作することにより、ドアをロックあるいはアンロックする装置が一般的であり、このような装置の周波数にはLF帯がよく用いられており、アンテナは波長の長さに関係なく小型化できるバーアンテナが用いられている。
【0003】
一般的にバーアンテナは極座標において、コアの軸と垂直の方向に、軸に対して全ての方向に対称に8の字の指向特性がある。
図13(a)は従来のバーアンテナの一例を示す斜視図であり、棒状コア41の中央部にコイル42が巻回されている。
図13においてコア41は、
長さL×幅W×厚さT=20mm×10mm×10mm
の棒状であり、原点Oは、コア41の長さL,幅W,厚さTを2分するコアの中心点であり、コアの長さ方向をX軸、コアの幅方向をY軸,コアの厚み方向をZ軸とする。
また、
点Aは、アンテナの前方の点(X,Y,Z)=( 1m,0,0)
点Bは、アンテナの後方の点(X,Y,Z)=(−1m,0,0)
をあらわす。(以後、点Aと点Bとする。)
コアの特性は、
比透磁率 μ=80
導電率 σ =0s/m
であり、このコア41の中央部にコイル42が巻回されている。
該コイルは、
絶縁銅線径 φ=0.3mm
巻回数 20ターン
である。
図14は、図13(b)の示すようにバーアンテナ40のコイル42に交流定電流源Iを接続した時の、XY平面における座標の磁界強度分布を示す図である。
交流定電流源Iは、
周波数 f=125kHz
電流 I=2App
である。
この時の磁界強度は、
A点 1.53×10−3A/m
B点 1.51×10−3A/m
であり、指向性感度(20×log(A/B))は0.10dBである。
【0004】
このように、従来のバーアンテナの指向性はコアの軸を中心として軸に対して対称であり、軸方向の感度が無いため、複数のバーアンテナを組み合わせて無指向性アンテナとする特許文献1に示す発明・考案がされている。
【0005】
しかし近年、この種の装置において、運転者がリモートユニットを身につけ、ボタン操作をしなくても車両に近づくだけで自動的に車両のドアを解錠でき、また、降車して車両から離れると自動的に車両のドアを施錠するスマートエントリーが知られており、最近では家の玄関にもこのスマートエントリーが採用されている。
このような装置において、従来のアンテナをドアの外側に対して受信感度を持つように配置すると、ドアの内側に対しても受信感度を持ってしまうため、例えば家の玄関のスマートエントリーの場合は、来訪者を確認するために家の中でリモートユニットを持って玄関ドアに近づいた際にも開錠されてしまう問題があった。このような意図しない開錠を防ぐために、ドアの内と外で受信感度に差をつける必要があり、従来のバーアンテナをこのようなアプリケーションに用いる場合には、図15に示すように、バーアンテナ5の電波を受信したくない方向にシールド材6を設置することで電波を遮蔽して受信感度に差をつけていた。
【0006】
【特許文献1】特開2002−217635
【特許文献2】特許3495401
【特許文献3】特開2007−65881
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
キーレスエントリーなどのシステムでは、アンテナの前後に非対称な指向性が必要な場合がある。
通信距離が波長に対して十分に遠ければ通信は放射電磁界の領域で行われ、一般的な方法でアンテナの指向性を任意に制御が可能である。
近距離における通信の場合でも高周波数帯における通信の場合は波長が短いために、通信は放射電磁界の領域で通信が行われるが、キーレスエントリーやスマートエントリーのような近距離における低周波帯の無線通信の場合は通信距離に比べて波長が非常に長く、通信は誘導電磁界の領域で行われる。
誘導電磁界においてアンテナの指向性を任意に制御することは困難であり、バーアンテナの前後方向で受信感度に差をつけたい場合は、アンテナをシールド材で囲んでいたが、コストと形状に問題があった。
本発明は、シールドの必要のない、特定の方向に指向性を有する、安価で小型の指向性バーアンテナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
コアにコイルが巻回された複数のバーアンテナにおいて、第1のバーアンテナと、第2のバーアンテナは、第3のバーアンテナを挟んでハの字型に配置された
ことを特徴とする指向性バーアンテナとし、前記指向性バーアンテナにおいて、第1のバーアンテナと第2のバーアンテナのコイルの巻回方向は同じであり、第3のバーアンテナのコイルの巻回方向は逆であることを特徴とする指向性バーアンテナ
とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、シールド等を必要としないで、指向特性が前後に対して非対称で特定の方向に指向性がある安価で小型な指向性バーアンテナとすることができる。
【実施例】
【0010】
図1を用いて本発明による指向性バーアンテナの一実施例を説明する。
図1(a)は本発明の指向性バーアンテナの斜視図であり、図1(b)はアンテナの配置を示す図であり、図1(c)はコイルの接続を示す図である。図に示すように、バーアンテナ10はコア11の中央にコイル12が巻回され、同様にバーアンテナ20はコア21の中央にコイル22が巻回され、バーアンテナ30はコア31の中央にコイル32が巻回されている。
バーアンテナ10と20は、バーアンテナ30を挟んでそれぞれが対称になるようにハの字に配置され、コア11および21とコア31の中心点との距離をDとし、コア11と21はXY平面でそれぞれの中心点を軸に、お互いが逆方向にθ回転している。図においてθ=0°のときのバーアンテナ10を破線で示す。
コア11,21,31は、
長さL×幅W×厚さT=20mm×10mm×10mmの直方体であり、
D=20mm,θ=63°である。
原点Oをコア31の中心点とし、コア31の長手方向でハの字の開いた側をX軸方向、コア幅方向をY軸、厚さ方向をZ軸とし、アンテナの1m前方の点をA点(x,y,z)=(1,0,0),アンテナの1m後方の点をB点(x,y,z)=(−1,0,0)とする。
コイルの巻数は、コイル12=コイル22=コイル32=20ターンである。
図1(c)において、I〜Iは交流定電流源であり、黒丸はコイルの巻き始めを示す。したがってコイル12とコイル22は巻回方向が同じであり、コイル32は巻回方向が逆である。
図2に、図1のバーアンテナのXY平面における磁界強度分布を示す。このコイルの線材はφ0.3mm、コアの比透磁率μ=80、I=I=I=2App,周波数f=125kHzである。
バーアンテナの前後1mの点A,Bにおける磁界強度は、
A点:2.21×10−4A/m
B点:2.59×10−5A/m
であり、指向性感度は18.64dBであり、バーアンテナの前方に感度が高く、後方の感度が低いバーアンテナが得られた。
【0011】
(実験1)
図3は、図1の実施例においてθを0°とした場合を示す図であり、図3(a)はバーンテナの配置を示す平面図であり、図3(b)は回路図である。
図3(a)に示すように、バーアンテナ10,20,30はすべて平行に配置され、図3(a)に示すように、コイルの巻回方向はコイル12とコイル22は巻回方向が同じであり、コイル32は巻回方向が逆である。
図4に、図3のバーアンテナのXY平面における磁界強度分布を示す。A点とB点の磁界強度は、
A点:1.53×10−3A/m
B点:1.52×10−3A/m
であり、指向性感度は0.05dBであり、指向性は得られなかった。
【0012】
(実験2)
図5は、図1の実施例において、コイル12,コイル22,コイル32の巻回方向を同じとした場合を示す図であり、図5(a)はバーアンテナの配置を示す平面図であり、図5(b)は回路図である。
図5(a)に示すように、バーアンテナ10と20は、バーアンテナ30を挟んでそれぞれが対称になるようにハの字に配置され、図5(b)に示すように、コイル12,22,32の巻回方向は同じである。
図6に、図5のバーアンテナのXY平面における磁界強度分布を示す。A点とB点の磁界強度は、
A点:2.72×10−3A/m
B点:2.69×10−3A/m
であり、指向性感度は0.11dBであり、指向性は得られなかった。
【0013】
(実験3)
図7は、図1の実施例においてコア11および21とコア31のなす角θを0〜180°まで変化させた場合の指向性を示すグラフであり、横軸は角度、縦軸は指向性感度を示す。
θが0°付近の3つのコアが平行な状態では指向性がほとんど得られないが、
θが63°付近では指向性感度は18dBと最大になり、前方に大きい指向性が得られる。
θが90°以上ではコイル12,13の巻回方向が逆になったのと同じになり、したがってコイル12,22,32の巻回方向がすべて同じ向きとなる。このときの指向性感度はほぼ0dBとなり指向性は得られない。
【0014】
上記の結果から、バーアンテナ30をバーアンテナ10と20で挟んだハの字に配置し、コイル12とコイル22の巻回方向を同じとし、コイル32の巻回方向を逆にしたときのみ本発明の効果が得られた。
【0015】
図1の実施例において、コイル12と22の電流値と巻数およびコア11と21の中心となるコア31からの距離およびコア11と21の透磁率を同じにしたが、これらのいずれかを異ならせることで指向性の方向が変化する。例えば、コイルの電流を調節することで容易に指向性を調整することができ、アダプティブアンテナとすることができる。
また、材料やばらつきによりコア11と21の特性や、製造上のばらつきによりコイルの巻回位置などがずれてしまった場合に、コイルの電流を調整することによってばらつきを修正することも可能である。
また上記実施例ではそれぞれのコイルの電流はコイルごとの駆動電流が変えられるように別々の電流源としているが、全て同じ電流であれば、それぞれのコイルを直列に接続し、ひとつの電流源で3つのコイルを駆動とすることも可能である。
【0016】
(実験4)
図8は、図1の実施例においてコイル12の巻数を21ターンとした場合のXY平面における磁界強度分布を示す。
(実験5)
図9は、図1の実施例においてコイル12の巻回位置をコア11の中心点からハの字の開いた側にd1=3mmだけ移動した場合のXY平面における磁界強度分布を示す。図10はコイル12の巻回位置を示す図である。
(実験6)
図11は、図1の実施例においてコイル12の電流Iを0.8Aとした場合のXY平面における磁界強度分布を示す。
【0017】
実験4〜6の結果より、コイル12の巻数や、コイル12の巻回位置や、コイル12の電流Iを異ならせることで指向性を変えることが可能である。
【0018】
(実験7〜11)
表1は、図12において、コア11および21とコア31のなす角θを変えた場合,コイル32の巻回位置d2を変えた場合,コア31の位置d3を変えた場合,コイル32の巻数Nを変えた場合,コア11および21とコア31の中心点との距離Dを変えた場合の、A点とB点における指向性感度を示す。
図12は、バーアンテナ30におけるコイル32の巻回位置およびコア31の位置を示す図である。図においてd2はコア31の中心とコイル32の巻回の中心との距離を示し、原点Oはd3=0のときのコア31の中心点であり、d3は原点Oに対するコア31の中心からX方向の距離を示す。d2,d3はX軸方向を正とする。
【表1】

【0019】
表1より、コア11および21とコア31のなす角θや、コイル32の巻回位置d2や、コア31の位置d3や、コイル32の巻数Nや、コア11および21とコア31の中心点との距離をDを変えると、指向性感度を変えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の指向性バーアンテナの一実施例を示す図である。
【図2】図1の指向性バーアンテナの磁界強度分布を示す図である。
【図3】図1において、θ=0°とした場合を示す図である。
【図4】図3のバーアンテナの磁界強度分布を示す図である。
【図5】図1において、コイルの巻回を全て同じにした場合を示す図である。
【図6】図5のバーアンテナの磁界強度分布を示す図である。
【図7】図1において、θを0〜180°まで可変した場合の指向性感度を示す図である。
【図8】図1において、コイルの巻数を非対称にした場合の磁界強度分布を示す図である。
【図9】図1において、コイルの巻回位置を非対称にした場合の磁界強度分布を示す図である。
【図10】図9のコイルの巻回位置を説明する図である。
【図11】図1において、コイルの駆動電流を非対称にした場合の磁界強度分布を示す図である。
【図12】バーアンテナ30の位置とコイルの巻回位置を説明する図である。
【図13】従来のバーアンテナを示す図である。
【図14】図13のバーアンテナの磁界強度分布を示す図である。
【図15】従来のバーアンテナに指向性を持たせる一例である。
【符号の説明】
【0021】
10,20,30,40 バーアンテナ
11,21,31,41 コア
12,22,32,42 コイル
5 従来のバーアンテナ
6 シールド
O 原点
A アンテナより1m前方の点
B アンテナより1m後方の点
D コア1およびコア2の中心点と原点Oとの距離
I,I,I,I 交流定電流源
θ コア11およびコア21とコア31のなす角
d1 コア11の中心点とコイル12の巻回位置の距離
d2 コア31の中心点とコイル32の巻回位置の距離
d3 コア31の中心点と原点との距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアにコイルが巻回された複数のバーアンテナにおいて、第1のバーアンテナと、第2のバーアンテナは、第3のバーアンテナを挟んでハの字型に配置された
ことを特徴とする指向性バーアンテナ。
【請求項2】
前記指向性バーアンテナにおいて、第1のバーアンテナと第2のバーアンテナのコイルの巻回方向は同じであり、第3のバーアンテナのコイルの巻回方向は逆である
ことを特徴とする指向性バーアンテナ。
【請求項3】
アダプティブアンテナに用いたことを特徴とする請求項1と2に記載の指向性バーアンテナ。

【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図14】
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