説明

振動アクチュエータ、レンズ鏡筒、カメラ、振動子の製造方法及び振動アクチュエータの製造方法

【課題】駆動効率がよく、容易に製造できる振動アクチュエータ、レンズ鏡筒、カメラ、振動子の製造方法及び振動アクチュエータを提供する。
【解決手段】本発明の振動アクチュエータ(10)は、振動子(11)に設けられた弾性体(12)と、溝状の境界部分によって複数の領域に区切られた状態で、前記弾性体(12)上に焼結された電気機械変換素子(13)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動アクチュエータ、レンズ鏡筒、カメラ、振動子の製造方法及び振動アクチュエータの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
振動アクチュエータは、電気機械変換素子を駆動信号によって伸縮させ、この伸縮を利用して弾性体の駆動面に進行性振動波(以下、進行波とする)を発生させる。そして振動アクチュエータは、この進行波によって、駆動面に楕円運動を生じさせ、楕円運動の波頭に加圧接触した相対移動部材を駆動させることにより、駆動力を取り出す。
このような振動アクチュエータでは、駆動効率の向上等の観点から、様々な改良が行われている。特許文献1では、圧電素子本体に、電極領域毎に仕切るように圧電素子の厚み方向の少なくとも一部に溝状の切欠部を有する仕切り境界部を設ける例を開示している。
【特許文献1】特開昭63−220782号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献1に開示される手法では、圧電素子の製造工数が多く、生産コストの増加を招くという問題があった。
本発明の課題は、駆動効率がよく、容易に製造できる振動アクチュエータ、レンズ鏡筒、カメラ、振動子の製造方法及び振動アクチュエータの製造方法を提供することである。
【0004】
本発明は、以下のような解決手段により、前記課題を解決する。なお、理解を容易にするために、本発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、これに限定されるものではない。
請求項1に記載の発明は、振動子(11)に設けられた弾性体(12)と、溝状の境界部分によって複数の領域に区切られた状態で、前記弾性体(12)上に焼結された電気機械変換素子(13)とを備えた振動アクチュエータ(10)である。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の振動アクチュエータ(10)において、前記電気機械変換素子(13)は、前記境界部分により、独立した複数の領域に分離されている振動アクチュエータ(10)である。
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の振動アクチュエータ(10)において、前記電気機械変換素子(13)の前記複数の領域の表面に電極(131)が形成されている振動アクチュエータ(10)である。
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の振動アクチュエータ(10)において、前記複数の領域の、前記境界部分と接する端部以外の端部の表面には電極(131)が形成されていない振動アクチュエータ(10)である。
請求項5に記載の発明は、請求項1から4のいずれか1項に記載の振動アクチュエータ(10)において、前記電気機械変換素子(13)は、射出成形されて製造されたものである振動アクチュエータ(10)である。
請求項6に記載の発明は、請求項1から5のいずれか1項に記載の振動アクチュエータ(10)において、隣接する前記複数の領域の、前記電気機械変換素子(13)の表面における間隔が、0.1mm以下である振動アクチュエータ(10)である。
請求項7に記載の発明は、請求項1から6のいずれか1項に記載の振動アクチュエータ(10)において、前記弾性体(12)の前記電気機械変換素子(13)が設けられた面と反対側の面に加圧接触された移動体を備えた振動アクチュエータ(10)である。
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の振動アクチュエータ(10)において、前記弾性体(12)の前記電気機械変換素子(13)が設けられた面側に設けられ、前記弾性体(12)と前記移動体を加圧接触させる加圧力を発生する加圧部を備えた振動アクチュエータ(10)である。
請求項9に記載の発明は、請求項1から8のいずれか1項に記載の振動アクチュエータ(10)を備えるレンズ鏡筒である。
請求項10に記載の発明は、請求項1から8のいずれか1項に記載の振動アクチュエータ(10)を備えるカメラである。
請求項11に記載の発明は、弾性体(12)上に、溝状の境界部分によって複数の領域に区切られた状態で電気機械変換素子(13)を設ける第1の工程(S300)と、前記弾性体(12)と前記電気機械変換素子(13)とを焼結させる第2の工程(S400)と、を備える振動子(11)の製造方法である。
請求項12に記載の発明は、請求項11に記載の振動子(11)の製造方法において、前記第1の工程(S300)は、前記電気機械変換素子(13)を、前記溝状の境界部分によって独立した複数の領域に分離して設ける振動子(11)の製造方法である。
請求項13に記載の発明は、請求項11または12に記載の振動子(11)の製造方法において、前記第2の工程(S400)の後に、前記電気機械変換素子(13)の前記複数の領域の表面に電極(131)を形成する第3の工程(S500)を備える振動子(11)の製造方法である。
請求項14に記載の発明は、請求項13に記載の振動子(11)の製造方法において、前記第3の工程(S500)の後に、前記電気機械変換素子(13)を前記複数の領域毎に分極する第4の工程(S600)を備える振動子(11)の製造方法である。
請求項15に記載の発明は、請求項11から14のいずれか1項に記載の振動子(11)の製造方法において、前記第1の工程(S300)は、射出成形によって前記電気機械変換素子(13)を設ける振動子(11)の製造方法である。
請求項16に記載の発明は、請求項11から15のいずれか1項に記載の振動子(11)の製造方法において、前記第1の工程(S300)において、隣接する前記複数の領域の、前記電気機械変換素子(13)の表面における間隔が、0.1mm以下となるように前記電気機械変換素子(13)を設ける振動子(11)の製造方法である。
請求項17に記載の発明は、請求項11から16のいずれか1項に記載の振動子(11)の製造方法において、前記弾性体(12)の前記電気機械変換素子(13)が設けられた面と反対側の面に加圧接触された移動体を設ける振動アクチュエータ(10)の製造方法である。
請求項18に記載の発明は、請求項17に記載の振動アクチュエータ(10)の製造方法において、前記弾性体(12)の前記電気機械変換素子(13)が設けられた面側に、前記弾性体(12)と前記移動体を加圧接触させる加圧力を発生する加圧部を設ける振動アクチュエータ(10)の製造方法である。
なお、符号を付して説明した構成は、適宜改良してもよく、また、少なくとも一部を他の構成物に代替してもよい。
【0005】
本発明によれば、駆動効率がよく、容易に製造できる振動アクチュエータ、レンズ鏡筒、カメラ、振動子の製造方法及び振動アクチュエータの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、図面等を参照して、本発明の実施形態を挙げて、さらに詳しく説明する。なお、以下の実施形態は、振動アクチュエータとして超音波の振動域を利用する超音波モータを例に挙げて説明する。
【0007】
(実施形態)
図1は、本実施形態の超音波モータ10を用いたカメラ1を示す図である。
本実施形態のカメラ1は、撮像素子6を有するカメラボディ2と、レンズ鏡筒3とを備える。レンズ鏡筒3は、カメラボディ2に着脱可能な交換レンズである。なお、本実施形態のカメラ1では、レンズ鏡筒3が交換レンズである例を示したが、これに限らず、例えば、カメラボディと一体型のレンズ鏡筒であってもよい。
【0008】
レンズ鏡筒3は、レンズ4、カム筒5、超音波モータ10等を備える。本実施形態では、超音波モータ10は、カメラ1のフォーカス動作時にレンズ4を駆動する駆動源として用いられており、超音波モータ10から得られた駆動力は、カム筒5に伝えられる。レンズ4は、カム筒5とカム係合しており、超音波モータ10の駆動力によってカム筒5が回転すると、レンズ4は、カム筒5とのカム係合によって光軸方向へ移動し、焦点調節が行われる。
【0009】
図2は、本実施形態の超音波モータ10の断面図である。
本実施形態の超音波モータ10は、振動子11,移動体14,緩衝部材15,支持体16,緩衝部材17,加圧部18,固定部材19等を備えている。
振動子11は、弾性体12,圧電体13等を備えている。
弾性体12は、ステンレス材料やインバー材料等の鉄合金や真鍮等の弾性変形が可能な金属材料を用いて形成された略円環形状の部材であり、一方の端面には、圧電体13が設けられ、他方の面には、複数の溝12aを切って形成された櫛歯部12bが形成されている。この櫛歯部12bの先端面は、圧電体13の励振により、進行波が発生し、移動体14を駆動する駆動面となる。
【0010】
圧電体13は、電気エネルギーを機械エネルギーに変換する機能を有し、本実施形態では、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)を用いて形成されている。この圧電体13は、駆動信号が入力される電極131(図3(a)参照)の領域毎に複数形成され、弾性体12上に焼結されている。電極131は、不図示のフレキシブルプリント基板と電気的に接続しており、このフレキシブルプリント基板から供給される駆動信号によって、圧電体13が励振される。本実施形態の圧電体13の詳細な形状については、後述する。
【0011】
移動体14は、略円環形状の部材であり、後述する加圧部18の加圧力によって弾性体12の駆動面に加圧接触され、弾性体12の進行波によって摩擦駆動される。
緩衝部材15は、ゴム等を用いて形成された略円環形状の部材である。この緩衝部材15は、移動体14の振動を支持体16側へ伝えないようにする部材であり、移動体14と支持体16との間に設けられている。
支持体16は、移動体14を支持する部材であり、移動体14と一体となって回転して移動体14の回転運動を不図示の被駆動部材に伝達し、かつ、移動体14の回転中心軸方向の位置を規制する部材である。
【0012】
加圧部18は、振動子11と移動体14とを加圧接触させる加圧力を発生する部分であり、加圧板18a,皿バネ18bを備えている。加圧板18aは、皿バネ18bが発生する加圧力を受ける、略円環形状の板である。
緩衝部材17は、不織布やフェルト等を用いて形成された略円環形状の部材である。この緩衝部材17は、振動子11の振動を加圧部18側へ伝えないようにする部材であり、圧電体13と加圧板18aとの間に設けられている。
固定部材19は、本実施形態の超音波モータ10をレンズ鏡筒3に固定する部材である。
【0013】
ここで、圧電体13の形状について詳しく説明する。
図3は、本実施形態の振動子11を示す図である。図3(a)は、振動子11を加圧部18側から見た図であり、斜線が設けられた部分は電極131が形成されていること示している。図3(b)は、理解を容易にするために、圧電体13と弾性体12とを分離して示した斜視図である。
図3に示すように、本実施形態の圧電体13は、弾性体12の駆動面とは反対側の面上に複数独立して形成されている。この圧電体13及び振動子11の製造方法に関しては後述する。
【0014】
図3(a)に示すように、圧電体13上には、電極131が形成されている。この電極131は、分極処理の際の放電を防止する目的から、弾性体12の径方向における圧電体13の両端部(内周端、外周端)には形成されておらず、弾性体12の径方向における圧電体13の両端部には、圧電体13の素地部分が所定の幅で露出している。これに対して、弾性体12の周方向における圧電体13の両端部には、電極131が形成されている。
また、弾性体12の周方向において、隣接する電極131間には、圧電体13は形成されておらず、振動子11を加圧部18側から見ると、弾性体12が見える形態となっている。なお、本実施形態では、弾性体及び圧電体の外径は約12mm、内径は約8mmである。この場合、隣接する電極131(圧電体13)間の間隔Wは約0.1mm以下となるように形成されることが、駆動効率向上の観点から好ましい。本実施形態ではW=0.05mmである。
【0015】
この圧電体13は、弾性体12の周方向に沿って、2つの相(A相,B相)の信号が入力される部分に分かれており、各相に対応する部分においては、1/2波長毎に分極が交互になるように異なる極性の要素(A1,A2,A3,A4,B1,B2,B3,B4)が並べられている。また、A相とB相との間の1/4波長間隔があく部分は、グランド(G)に対応している。
【0016】
次に、本実施形態の振動子11の製造方法を説明する。
図4は、本実施形態の振動子11の製造方法を示す工程図である。
振動子11の製造工程は、圧電体準備工程S100と、弾性体準備工程S200と、射出成形工程S300と、焼結工程S400と、電極形成工程S500と、分極工程S600とを備える。
図4に示すように、圧電体準備工程S100は、材料確認工程S101と、材料秤量工程S102と、材料混合工程S103と、仮焼結工程S104と、粉砕工程S105と、造粒工程S106と、バインダ混合工程S107と、ペレット化工程S108とを備えている。
【0017】
材料確認工程S101は、PZTの材質を確認する工程であり、例えば、蛍光X線装置を用いて、PZTの純度が99.90%以上であるかを確認する。
材料秤量工程S102は、PZTの原料の重量を測定する工程であり、例えば、精密天秤を用いて、PZTの原料の重量が所定の目標値から誤差0.1g以下であるかを確認する。
材料混合工程S103は、PZTの原料と焼結に必要な所定の材料とを混合する工程であり、例えば、ボールミルを用いて所定の時間(本実施形態では、2時間)混合する。そして、粒度分布計を用いて、混合物の粒径が1〜2μmであるかを確認する。
【0018】
仮焼結工程S104は、混合物を仮焼結する工程であり、例えば、温度記録計や温度履歴センサを用いて、温度のプロファイル(設定)が850℃から±5℃の範囲内にあるかを確認しながら仮焼結する。
粉砕工程S105は、仮焼結物を粉砕する工程であり、例えば、ボールミルを用いて所定の時間で粉砕する。そして、粒度分布計を用いて、粉砕物の粒径が1〜2μmとなっているかを確認する。また、X線回折装置を用いて、PZTの結晶相から粉砕物中のPZTの割合を確認したり、比表面積測定機を用いて、粉砕物の比表面積が所定の値(本実施形態では、3cm/g)であるかを確認したりする。
造粒工程S106は、粉砕物の粉末を固めて粒状にする工程である。ここでは、例えば、スプレードライヤーを用いて所定の温度(本実施形態では、200℃)で粉砕物を乾燥させ、次に、PVA(ポリビニルアルコール)を所定量加えて造粒を行う。このとき、SEM(電子顕微鏡)を用いて、造粒された造粒子径が所定の値(本実施形態では、30〜100μm)であるか、また、PVAが所定の割合となっているかを確認する。
【0019】
バインダ混合工程S107は、造粒物に所定のバインダを所定量混合する工程であり、例えば、精密天秤を用いて、混合物の総重量が所定の目標値から誤差1g以下であるかを確認する。本実施形態では、バインダとして、PVB(ポリビニルブチラール)を用いている。
ペレット化工程S108は、混合物をペレット化(粒状に固めること)する工程であり、例えば、ペレット生成機を用いて行う。
【0020】
弾性体準備工程S200は、弾性体12を製造する弾性体製造工程S201を備える。本実施形態では、切削加工によって弾性体12を作製する。
【0021】
射出成形工程S300は、ペレット化された混合物を溶融して射出成形する工程である。図5は、この射出成形工程S300を詳細に説明する模式図である。射出成形工程S300では、図示するように、弾性体用金型12Aの中に弾性体準備工程S200で製造された弾性体12を配置する(S301)。
【0022】
次いで、圧電素子用金型13Aを弾性体用金型12Aに対向させて配置する(S302)。この圧電素子用金型13Aには、ペレット化された混合物が射出される凹部を複数の領域に分離するように、仕切り13Bが設けられている。
【0023】
この仕切り13Bは、圧電素子用金型13Aを弾性体用金型12Aに対向させて配置した図5のS302に示す状態で、弾性体12の表面と接触している。この仕切り13Bによって区切られた領域のそれぞれに、ペレット化された混合物を射出成形する(S303)。なお、この射出成形は、射出成形機により、例えば、混合物の温度が160〜170℃であるか、保圧圧力が所定の値であるか、保圧時間が所定の値であるか等を確認しながら行う。
【0024】
そして、弾性体12と圧電素子13とを加圧するように弾性体用の金型12Aと圧電素子用の金型13Aとの間に加圧力を加える(S304)。加圧値は、0.5t/cm2程度が好ましい。なお、射出時に、弾性体12と圧電素子13とが十分に加圧されていれば(加圧値が、0.5t/cm2程度であれば)、この工程は省略してもよい。
【0025】
弾性体用の金型12Aと圧電素子用の金型13Aとから弾性体12と圧電素子13とを抜き出す(S305)。なお、射出成形工程S300後には、不要となった樹脂バインダを取り除く脱脂工程があり、例えば、熱分解法等によって脱脂を行う。
【0026】
図4に戻り、焼結工程S400は、射出成形工程S300によって一体に形成された弾性体12と圧電体13とを加熱して、圧電体13を焼結する工程であり、焼結工程の焼結温度は、1000〜1200℃であることが好ましい。焼結工程S400は、例えば、温度記録計や温度履歴センサを用いて、温度のプロファイルが1100℃から±10℃の範囲にあるかを確認しながら行う。また、焼結した後に精密天秤を用いて、焼結密度が所定の値であるかを確認し、SEMを用いて結晶粒子径が所定の値(本実施形態では2μm程度)であるかを確認する。この焼結工程S400によって、混合物となっていた圧電体が、焼結体としての圧電体13となり、弾性体12と完全に接合される。
【0027】
電極形成工程S500は、圧電体13に電極を形成する工程であり、例えば、スクリーン印刷機を用いて、電極131を印刷によって形成する。また、SEMを用いて、印刷された電極131の膜厚が2〜5μmであるかを確認する。
分極工程S600は、圧電体13を分極する工程であり、例えば、所定の電源を用いて、25kV/cmの電圧を印加する。また、温度計を用いて、分極時の圧電体13の温度が100℃となるようにし、タイマーを用いて、30分間電圧をかける。なお、分極は、+の電極と−の電極とで圧電体13を挟み込んで行う必要があるが、本実施形態では、一方の電極には、印刷によって形成された電極131を用い、他方の電極には、弾性体12を用いる。
分極工程S600の後、必要であれば弾性体12の駆動面の平面性を確保するための研磨加工等を行い、本実施形態の振動子11が完成する。その後に、超音波モータ10を組み立てる組み立て工程等を経て、本実施形態の超音波モータ10が完成する。
【0028】
従来のように略円環形状の圧電体上に各電極を形成する方法では、圧電体の分極処理時の放電を防ぐため、各電極間には所定の間隔を設ける必要がある。従って、圧電体の電極間には、電極が形成されない圧電体の素地部分が存在する。この圧電体の素地部分は、電極が形成されていないので、分極処理を行っても未分極のままである。
そのため、超音波モータを駆動する駆動信号を各電極に与えた際には、電極が形成されている領域の圧電体は駆動信号により伸縮するが、圧電体の素地部分は、伸縮しないので弾性体の励振には寄与せず、また、電極間に存在するため電極が形成されている領域の圧電体の伸縮を阻害して弾性体の励振を妨げ、超音波モータの駆動効率を下げる要因となるという問題があった。
これに対して、本実施形態によれば、圧電体13を、各電極131に対応した領域毎に複数形成したので、電極131間に未分極のまま存在する圧電体の領域が無くなり、電極131が形成されている領域の圧電体13の伸縮を阻害しないので、超音波モータ10の駆動効率の向上が期待できる。
【0029】
また、従来のように略円環形状の圧電体上に各電極を形成する方法では、分極処理時の放電を防ぐために、各電極毎に1つ1つ分極処理を行うと、電極が形成されたある領域の圧電体は伸び、ある領域の圧電体は縮み、電極が形成されない電極間の圧電体の素地部分は変形しないため、分極処理後の圧電体は変形していびつな形状となる。
そのため、圧電体上に形成された複数の電極を同時に分極する必要があり、複数の電極を同時に分極する際には、放電を防止するために、隣接する電極間に所定の間隔を設ける必要があった。この放電防止のために設けられる隣接する電極間の間隔(図3(a)におけるWに相当)は、0.4〜0.5mmであった。
【0030】
しかし、本実施形態によれば、各電極131毎に圧電体13が独立して形成されているので、各電極131毎に分極処理を行った場合にも変形しない。従って、本実施形態によれば、全ての電極を同時に分極しなくてもよく、隣接する電極間の間隔を狭くできる。
本実施形態によれば、隣接する電極131(圧電体13)の間隔W=0.05mmとしたので、これにより、電極131の総面積が約6%増加し、弾性体12の励振に寄与する圧電体13の面積が増加する。
このことから、弾性体12を励振する効果が高まり、超音波モータの駆動効率向上が期待できる。
なお、本実施形態では、分極時の放電を防止する観点から、隣接しており、かつ、異なる極性(分極方向)に分極する圧電体13同士は、極性毎に分けて分極処理を行っている。
【0031】
さらに、圧電体13は、従来のような圧電体と弾性体とを接着剤を用いて接合する製造法では、部品の洗浄・乾燥、接着剤の塗布、固定治具による保持、加熱硬化、固定時具の取り外し等の工程や、接着剤の塗布量、接着剤の温度、加圧力、加圧時間、硬化温度、硬化時間等の工程時の管理項目が必要とされる。
しかし、本実施形態によれば、圧電体13の製造工程の1つである射出成形工程S300によって弾性体12に対して圧電体13を一体とし、焼結工程によって接着剤等を用いることなく完全に接合できるので、工程数を少なくし、上述のような各種管理項目をなくすことができ、振動子11の製造、ひいては超音波モータ10の製造が容易に行える。
【0032】
加えて、従来のように、圧電体と弾性体とを接着剤を用いて接合した振動子では、接着剤の層が圧電体と弾性体との間に存在することにより振動が減衰するという問題や、十分な接着強度を確保するために、接着剤の材料の選定や、弾性体の圧電体が接合される面を粗くする加工等が必要となるという問題があった。
しかし、本実施形態によれば、圧電体13と弾性体12とは直接接合されており、圧電体13と弾性体12との間には振動伝達を阻害するものがないので、弾性体12を効率よく励振できる。また、本実施形態によれば、圧電体13を焼結させて弾性体12と接合するので、簡単に十分な接合強度で圧電体13と弾性体12とを一体に接合できる。
【0033】
さらに、本実施形態のような圧電体13を、略円環形状の圧電体を所定の形状に切断する等によって形成しようとする場合、圧電体13は、その材質の性質上、割れやすいため、切断等の加工は困難である。
しかし、本実施形態によれば、容易に圧電体13を作製することができる。
【0034】
(変形形態)
【0035】
(1)本実施形態における圧電体用金型13Aは、弾性体12に対向させて配置したときに、仕切り13Bが弾性体12と接触することにより、複数の領域に完全に分離された凹部を有する。そしてこの分離された各領域に、圧電体の材料をそれぞれ射出成形することにより分離された圧電体13を複数独立して形成する例を示した。
しかし、圧電体は以下のように形成してもよい。例えば、仕切りの高さを低くし、弾性体に圧電体用金型を接触させたときに、弾性体の表面と仕切りとの間に隙間が形成されるようにしてもよい。このように形成された圧電体は、隣接する圧電体同士が完全に分離されず、弾性体側において連続し、溝によって複数の領域に実質的に区切られた1つの圧電体となる。このようにすると、混合物を射出する際に、その隙間から他の領域に混合物が流入することができる。このため、例えば射出口が一箇所であっても凹部全体に混合物を注入させることができ、射出が容易で且つ均一に行うことができる。
【0036】
(2)さらに、圧電体用金型に仕切りを設けない形態であってもよい。この場合、圧電体用金型は仕切りのない円環状の凹部を有するように形成される。その凹部に混合物を射出し、弾性体上に形成された円環状の圧電体の一部を放射線状に削ることにより圧電体を複数の領域に分割する。
【0037】
(3)本実施形態では、弾性体用金型12Aに圧電体用金型13Aを対向配置してその中に混合物を射出することにより圧電体13を成型した。しかし、圧電体を弾性体と別個に製造し、それを弾性体に接着してもよい。この場合、圧電体は、単独で射出成形により製造されても良く、また、シート状の材料から型を抜くことにより製造されてもよい。さらに、円筒体をスライスすることにより製造されてもよい。
また、これらの方法で製造する圧電体は、円環状であってもよく、また円環が複数個に分割された形を有していてもよい。
円環状の圧電体の場合、その圧電体を弾性体に接着し、その後、圧電体の一部を放射線状に削ることにより圧電体を複数の領域に分割してもよい。この場合、圧電体を弾性体に接着する際の位置決めが容易である。
また、円環が複数個に分割された圧電体の場合、圧電体を全体として略円環状となるようにして弾性体に接着する。この場合、圧電体を削って分割する手間が省ける。
【0038】
(4)本実施形態において、電極131は、弾性体12の径方向における圧電体13の両端部には形成されない例を示したが、これに限らず、例えば、圧電体13の全面に形成してもよい。この場合、分極処理の際に放電しないような対策が講じられることが好ましい。
【0039】
(5)本実施形態において、振動アクチュエータとして、移動体14が回転駆動される回転型の超音波モータ10を例に挙げて説明したが、これに限らず、リニア型の超音波モータとしてもよい。また、ロッド型、ペンシル型、円盤型等の振動アクチュエータとしてもよい。
【0040】
(6)本実施形態において、振動アクチュエータとして超音波モータ10を例に挙げて説明したが、これに限らず、例えば、超音波領域以外の振動を利用する振動アクチュエータとしてもよい。
【0041】
(7)本実施形態において、超音波モータ10が、カメラ1のオートフォーカスの駆動源として用いられる例を示したが、これに限らず、例えば、カメラのズーム動作の駆動源や、カメラの撮像系の一部を駆動して手振れを補正する手振れ補正機構の駆動源、複写機の駆動部、自動車のハンドルチルト装置、時計の駆動装置等に適用することができる。
なお、本実施形態及び各変形形態は、適宜組み合わせて用いることもできるが、詳細な説明は省略する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本実施形態の超音波モータを用いたカメラを示す図である。
【図2】本実施形態の超音波モータの断面図である。
【図3】本実施形態の振動子を示す図であり、(a)は振動子を加圧部側から見た図、(b)は圧電体と弾性体とを分離して示した斜視図である。
【図4】本実施形態の振動子の製造方法を示す工程図である。
【図5】射出成形工程を詳細に説明する模式図である。
【符号の説明】
【0043】
1:カメラ、10:超音波モータ、11:振動子、12:弾性体、13:圧電体、131:電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動子に設けられた弾性体と、
溝状の境界部分によって複数の領域に区切られた状態で、前記弾性体上に焼結された電気機械変換素子と、
を備えた振動アクチュエータ。
【請求項2】
請求項1に記載の振動アクチュエータにおいて、
前記電気機械変換素子は、前記境界部分により、独立した複数の領域に分離されている振動アクチュエータ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の振動アクチュエータにおいて、
前記電気機械変換素子の前記複数の領域の表面に電極が形成されている振動アクチュエータ。
【請求項4】
請求項3に記載の振動アクチュエータにおいて、
前記複数の領域の、前記境界部分と接する端部以外の端部の表面には電極が形成されていない振動アクチュエータ。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の振動アクチュエータにおいて、
前記電気機械変換素子は、射出成形されて製造されたものである振動アクチュエータ。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の振動アクチュエータにおいて、
隣接する前記複数の領域の、前記電気機械変換素子の表面における間隔が、0.1mm以下である振動アクチュエータ。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の振動アクチュエータにおいて、
前記弾性体の前記電気機械変換素子が設けられた面と反対側の面に加圧接触された移動体を備えた振動アクチュエータ。
【請求項8】
請求項7に記載の振動アクチュエータにおいて、
前記弾性体の前記電気機械変換素子が設けられた面側に設けられ、前記弾性体と前記移動体を加圧接触させる加圧力を発生する加圧部を備えた振動アクチュエータ。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の振動アクチュエータを備えるレンズ鏡筒。
【請求項10】
請求項1から8のいずれか1項に記載の振動アクチュエータを備えるカメラ。
【請求項11】
弾性体上に、溝状の境界部分によって複数の領域に区切られた状態で電気機械変換素子を設ける第1の工程と、
前記弾性体と前記電気機械変換素子とを焼結させる第2の工程と、
を備える振動子の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の振動子の製造方法において、
前記第1の工程は、前記電気機械変換素子を、前記溝状の境界部分によって独立した複数の領域に分離して設ける振動子の製造方法。
【請求項13】
請求項11または12に記載の振動子の製造方法において、
前記第2の工程の後に、前記電気機械変換素子の前記複数の領域の表面に電極を形成する第3の工程を備える振動子の製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載の振動子の製造方法において、
前記第3の工程の後に、前記電気機械変換素子を前記複数の領域毎に分極する第4の工程を備える振動子の製造方法。
【請求項15】
請求項11から14のいずれか1項に記載の振動子の製造方法において、
前記第1の工程は、射出成形によって前記電気機械変換素子を設ける振動子の製造方法。
【請求項16】
請求項11から15のいずれか1項に記載の振動子の製造方法において、
前記第1の工程において、隣接する前記複数の領域の、前記電気機械変換素子の表面における間隔が、0.1mm以下となるように前記電気機械変換素子を設ける振動子の製造方法。
【請求項17】
請求項11から16のいずれか1項に記載の振動子の製造方法において、
前記弾性体の前記電気機械変換素子が設けられた面と反対側の面に加圧接触された移動体を設ける振動アクチュエータの製造方法。
【請求項18】
請求項17に記載の振動アクチュエータの製造方法において、
前記弾性体の前記電気機械変換素子が設けられた面側に、前記弾性体と前記移動体を加圧接触させる加圧力を発生する加圧部を設ける振動アクチュエータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−259410(P2008−259410A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−60499(P2008−60499)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】