説明

振動検出装置、振動抑制装置、および、振動情報表示装置

【課題】転送能力が低くても振動の周波数領域の波形データを適切に送信し得る振動検出装置を提供する。
【解決手段】本発明の振動検出装置5は、工作機械における振動抑制装置などに適用される。振動検出装置5は、加工中に発生するびびり振動を振動センサ2a〜2cで検出し、フーリエ変換演算手段6により振動センサ2a〜2cからの信号をフーリエ変換演算する事で周波数領域の振動データを算出する。算出された周波数領域の振動データを、周波数分割演算手段9により設定された周波数間隔に分割し、分割された複数の周波数範囲について、それぞれの周波数範囲の中で最大となる振動データを、その周波数間隔の振動データとして出力する装置であり、前記周波数分割演算手段9によりデータ量を減少させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の分野で使用される振動抑制装置、例えば回転可能な主軸に工具を把持させ、ワークに対して工具を移動させながら加工を行う工作機械に搭載される振動抑制装置などに適用できる振動検出装置、および、これを搭載した振動抑制装置、および、振動情報表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
振動抑制装置は、工作機械において加工中に発生するびびり振動を検出し、検出値から工具の最適な回転速度を算出し、回転速度を変更する事によりびびり振動を抑制する装置である。
【0003】
図5は、従来の振動抑制装置の構成を示すブロック図である。図6は、振動抑制の対象となる回転軸ユニット11を側面から示した図であり、図7は、回転軸ユニット11を軸方向から示した図である。
【0004】
振動抑制装置は、回転軸13を含んだ回転軸ユニットと振動センサ12a〜12cと制御装置15を含んでいる。振動センサ12a〜12cは、図6及び図7に示す如く回転軸ユニットに取り付けられており、振動センサは、互いに他のセンサに対して直角方向の振動加速度を検出するようになっている。たとえば、振動センサ12a〜12cは、それぞれ直交するX軸、Y軸、Z軸方向での時間領域の振動加速度を検出するようになっている。
【0005】
一方、制御装置15には、FFT(高速フーリエ変換)演算装置20とパラメータ演算装置21が含まれている。
【0006】
FFT演算装置20には、FFT演算手段16が含まれている。FFT演算手段は、振動センサ12a〜12cで検出される時間領域の振動加速度を周波数領域の振動加速度に変換し、周波数領域の振動加速度とその周波数を抽出して出力する。
【0007】
パラメータ演算装置21には、パラメータ演算手段17と回転数制御手段18が含まれている。パラメータ演算手段17は、該FFT演算装置20にて算出したデータから最適回転速度の算出を行う。回転数制御手段18は、パラメータ演算手段17にて算出された最適回転速度を基に、回転軸13の回転数を制御する。
【0008】
振動抑制装置の機能を具体的に説明すると、振動センサ12a〜12cにより回転中に常時検出される振動加速度の信号に対して、FFT演算手段16は、予め設定された計測時間のデータに対してフーリエ変換を行い、周波数領域の振動加速度を算出する。次にパラメータ演算手段17は、予め設定された工具刃数や閾値を用いて演算、比較を行う事で最適回転速度を算出する。回転数制御手段18は、回転軸13の回転速度を、算出された最適回転速度に変更する。これにより、びびり振動を抑制し、加工面の仕上げ精度や加工品質を向上させる事ができる。
【0009】
実際の加工では、加工の初期段階で、びびり振動の自動抑制制御に必要なパラメータを機械オペレータがチューニングする場合があった。このよう場合、機械オペレータがパラメータをチューニングするための判断情報として全周波数領域の波形データを表示する必要があった。しかしながら、全周波数領域のデータは大きな情報量となり、高いデータ転送能力が必要なるため、コストアップとなる。
【0010】
また、これを回避するため、周波数領域の振動加速度のうち、求めたすべての周波数についての加速度を送信するのではなく、フーリエ変換のポイント数を削減し、分解能が粗い周波数での加速度を送信することで、情報量を減らす方法も考えられる。しかし、この方式では、分解能内の周波数領域の平均的な情報しか得られないため、分解能内の周波数領域内に複数の中程度のレベルの加速度がある場合等は、振動加速度の大きさの順位が変更されてしまい制御のために必要な情報が失われ、誤った制御をしてしまう場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003-85157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、全周波数領域の波形データを送信する場合に高い転送能力が必要となる課題、または、これを回避するために、飛び飛びの周波数のデータを送信する方式を適用した場合、振動加速度の大きさの順位が変更されてしまい制御のために必要な情報が失われ、誤った制御をしてしまう課題を解決するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の振動検出装置は、上述の目的達成のため、加工中に発生するびびり振動を検出し、検出値から工具の最適な回転速度を算出し、回転速度を変更する事によりびびり振動を抑制する振動抑制装置において、振動センサからの信号をフーリエ変換演算する事で周波数領域の振動データを算出するフーリエ変換演算手段と、算出された周波数領域の振動データを予め設定された周波数間隔に分割し、分割された複数の周波数範囲それぞれの周波数範囲の中で最大となる振動データを、その周波数間隔の振動データとして出力する周波数分割演算手段とかなる振動検出装置であり、前記周波数分割演算手段によりデータ量を減少させる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、振動センサにて取得した時間領域の振動加速度から周波数領域の振動加速度を算出し、予め設定した周波数幅で分割する。そして、分割点から次の分割点手前までのデータ範囲の中で最大となる振動加速度を抽出して、その分割点での振動加速度データとして転送する。これにより、制御のために必要な情報を欠如させる事無くデータ量を減少させる事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態である振動抑制装置の一例を示すブロック構成図である。
【図2】FFT演算手段により算出した周波数領域の振動加速度データを示すグラフである。
【図3】本実施形態による周波数分割処理を、周波数幅30Hzにて行った周波数領域の振動加速度データを示すグラフである。
【図4】図2の周波数領域の振動加速度データを30Hzごとに抽出したデータを示すグラフである。
【図5】従来の振動抑制装置の一例を示すブロック構成図である。
【図6】図5の回転軸ユニットを側面から示した説明図である。
【図7】図5の回転軸ユニットを軸方向から示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明における実施の形態について説明する。
【0017】
図1は、工作機械の振動抑制装置に関する本発明によるデータ転送処理をブロック構成で示した説明図である。
【0018】
本実施形態の振動抑制装置は、図5に例示した従来の振動抑制装置のFFT演算装置20に周波数分割演算手段9が追加された構成である。以下では、変更となった振動検出装置5について説明する。
【0019】
振動検出装置5は、FFT演算手段6と周波数分割演算手段9を含んでいる。FFT演算手段6は、振動センサ2a〜2cから検出される時間領域の振動加速度を周波数領域の振動加速度に変換し、周波数分割演算手段9へ出力する。
【0020】
周波数分割演算手段9は、該FFT演算手段により算出された周波数領域の振動加速度を、予め設定した周波数幅で分割する。そして、分割点から次の分割点手前までのデータ範囲の中で最大となる振動加速度を抽出して、その分割点での振動加速度データとしてパラメータ演算手段7に転送する。
【0021】
パラメータ演算手段7は、周波数分割演算手段9から転送されたデータから最適回転速度の算出を行う。回転数制御手段8は、パラメータ演算手段7にて算出された最適回転速度を基に、回転軸3の回転数を制御する。このパラメータ演算手段7、回転数制御手段8、FFT演算手段6、周波数分割演算手段9が、工具の振動を抑制する振動抑制装置として機能する。
【0022】
データ表示手段10は、パラメータ演算手段7に転送されたデータを画面に表示する。このデータ表示手段10、FFT演算手段6、周波数分割演算手段9が、周波数領域の振動データを表示する振動情報表示装置として機能する。
【0023】
以下、周波数分割演算手段9について具体的に説明する。例えば、振動検出装置5からパラメータ演算手段7の間の転送能力を128byte/16msecとする。
【0024】
振動センサ2a〜2cが、検出される振動加速度を20kHzサンプリングで1ポイント2byteのデータサイズで4096ポイント(計測時間204.8msec)の振動加速度を取得する。取得したデータは、FFT演算手段6により時間領域の振動加速度から0〜7.5kHzまでの周波数領域の振動加速度に変換される。図2は、算出された周波数領域の振動加速度の一例を示すグラフである。この算出された周波数領域の振動加速度をパラメータ演算手段7に転送しようとすると3Kbyte程度のデータ(1536ポイント)が必要となり、全データをそのまま転送しようとすると、(1536ポイント)×(2byte)/(128byte/16msec)=384msec程度必要となる。
【0025】
そこで、周波数分割演算手段により周波数幅30Hz(データ点数6ポイント幅)にて分割する事で全データ点数を1536/6≒250ポイントに削減すれば、(250ポイント)×(2byte)/(128byte/16msec)≒62.5msecにて全データを転送できる。本実施形態による周波数分割処理により転送される波形を図3に示す。この処理により、背景技術の項で説明したように飛び飛びの周波数で加速度を送信する方式、例えば、周波数30Hzごとのデータのみを転送する処理を行った図4と比較して振動加速度の大きさの順位と波形を変化させる事がないため、制御に必要な情報を失う事無くデータ量を減少させる事ができる。
【0026】
また、周波数領域の振動加速度を、制御ではなく表示に用いる用途など、多くの周波数ポイントでの加速度が必要ないことがある。その場合、さらに分割する周波数幅を広げることで、ピークの順位を誤ることなく、転送データ数を削減可能である。
【0027】
また、振動検出装置5の周波数分割演算手段9が転送するデータは、振動の加速度に関するデータである必要もない。検出したデータが振動の変位や速度に関するデータなどでもよく、転送データ数を削減する事は可能である。また、本実施形態では、周波数幅30Hzごとに分割しているが、必ずしも30Hzごとに分割する必要はなく、分割幅は転送能力に応じて適宜変更してもよい。
【符号の説明】
【0028】
1 回転軸ユニット、2a〜2c 振動センサ、3 回転軸、5 振動検出装置、6 FFT演算手段、7 パラメータ演算手段、8 回転数制御手段、9 周波数分割演算手段、10 データ表示手段、11 回転軸ユニット、12a〜12c 振動センサ、13 回転軸、15 制御装置、16 FFT演算手段、17 パラメータ演算手段、18 回転数制御手段、20 FFT演算装置、21 パラメータ演算装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工中に発生するびびり振動を検出し、検出した振動データを外部装置にシリアル出力する振動検出装置において、
振動センサからの信号をフーリエ変換演算することで周波数領域の振動データを算出するフーリエ変換演算手段と、
算出された周波数領域の振動データを予め設定された周波数間隔に分割し、当該分割された複数の周波数範囲それぞれの周波数範囲の中で最大となる振動データを、その周波数間隔の振動データとしてシリアル出力する周波数分割演算手段と、
を具備することを特徴とする振動検出装置。
【請求項2】
工具の振動を検出する振動センサからの信号に基づいて周波数領域の振動データを算出する振動検出手段と、
前記振動検出手段で検出された振動データに基づいて、工具の最適回転数を算出するパラメータ演算手段と、
前記算出された最適回転数に基づいて前記工具の回転数を制御する回転数制御手段と、
を具備し、前記振動検出手段は、
振動センサからの信号をフーリエ変換演算することで周波数領域の振動データを算出するフーリエ変換演算手段と、
算出された周波数領域の振動データを予め設定された周波数間隔に分割し、当該分割された複数の周波数範囲それぞれの周波数範囲の中で最大となる振動データを、その周波数間隔の振動データとしてシリアル出力する周波数分割演算手段と、
を備えることを特徴とする振動抑制装置。
【請求項3】
工具の振動を検出する振動センサからの信号に基づいて周波数領域の振動データを算出する振動検出手段と、
前記周波数領域の振動データを表示する表示手段と、
を備え、前記振動検出手段は、
振動センサからの信号をフーリエ変換演算することで周波数領域の振動データを算出するフーリエ変換演算手段と、
算出された周波数領域の振動データを予め設定された周波数間隔に分割し、当該分割された複数の周波数範囲それぞれの周波数範囲の中で最大となる振動データを、その周波数間隔の振動データとしてシリアル出力する周波数分割演算手段と、
を備えることを特徴とする振動情報表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−47707(P2012−47707A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192802(P2010−192802)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(000149066)オークマ株式会社 (476)
【Fターム(参考)】