説明

接着剤組成物および熱可塑性エラストマ製モールディング付きガラス板

熱可塑性エラストマとガラス物品との接着に用いられる、プロピレン−α−オレフィン共重合体を主鎖とし、α、β−カルボン酸およびその酸無水物から選択される少なくとも1種を側鎖に有する変性ポリオレフィンを含有する本発明の非塩素系接着剤組成物は、熱可塑性エラストマとガラスとの充分な接着性を発現する。また、該非塩素系接着剤組成物を用いてなる熱可塑性エラストマ製モールディングガラス板を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物および熱可塑性エラストマ製モールディング付きガラス板に関し、詳しくは、熱可塑性エラストマとガラス物品との接着性に優れる非塩素系接着剤組成物、およびその非塩素系接着剤組成物を用いた熱可塑性エラストマ製モールディング付きガラス板に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の窓用ガラス板には、ガラス板と車体との間に介在し、ガラス板と車体との間をシーリングし、必要に応じて装飾機能等の機能をも有する、樹脂製またはゴム製の部材が一体化されている。こうした機能を有する部材は、モールディング、枠材、ガスケット、モール等の種々の名称で呼ばれているが、本明細書では統一してモールディングという。
【0003】
従来、上記したモールディングの材料としては、耐擦傷性および成形性に優れることから、ポリ塩化ビニルが多用されてきたが、近年、環境保護の観点から、熱可塑性ポリオレフィン等に代表される塩素原子を含まない熱可塑性エラストマを用いるようになってきている。しかし、熱可塑性エラストマは表面の接着性や極性に乏しく、熱可塑性エラストマとガラスとの接着は容易でない。そのため、自動車の窓用ガラス板とモールディングとの一体化(接着)に使用する接着剤組成物に、依然として塩素原子を含むが接着力に優れる塩素化ポリオレフィン等の塩素系接着剤組成物が用いられているのが現状である。したがって、環境保護を強化する観点から、接着剤組成物としても、塩素化ポリオレフィン等の塩素系接着剤組成物の代わりに塩素原子を含まない成分からなる非塩素系接着剤組成物の使用が求められている。
【0004】
このような非塩素系接着剤組成物としては、例えば、無水マレイン酸−(メタ)アクリル変性アモルファスポリオレフィンを含む接着剤組成物:アウローレン(登録商標)が知られている(関口俊二、「プラスチックスエージ」、株式会社プラスチックエージ、2003年3月、49巻、3号、p.115−119参照。以下、「文献1」という)。文献1には、「アモルファスポリオレフィンを基本骨格とする成分を含有するアウローレンはポリプロピレン等のポリオレフィンに対する優れた付着性を示す」と記載されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
接着剤の接着力を図る尺度としては、初期接着強度がある。加えて、耐熱性、耐湿性、耐温水性、耐熱水性、耐候性等の耐久接着強度があるが、自動車用部品に用いられる接着剤については、使用環境の厳しさに対応する多くの耐久接着強度(耐久接着性)を満足する必要がある。
【0006】
しかし、上記した非塩素系接着剤組成物等を熱可塑性エラストマとガラスとを接着してなる自動車用部品に用いる場合、熱可塑性エラストマによっては耐久接着強度を測定する以前(耐久試験を行う前)に初期段階における充分な接着強度すら発現しないという問題がある。
【0007】
すなわち、種々の産業分野では、熱可塑性エラストマとガラスとの接着に用いられる非塩素系接着剤組成物が求められ、特に自動車産業においては、初期接着強度および各種耐久接着強度が強く充分な接着性を発現する組成物が求められている。
【0008】
そこで、本発明は、熱可塑性エラストマとガラスとの充分な接着性を発現する非塩素系接着剤組成物を提供することを目的とする。
【0009】
また、該非塩素系接着剤組成物を用いる熱可塑性エラストマ性モールディング付きガラス板を提供することを目的とする。
【0010】
ここで非塩素系とは、意図的に塩素を含有する出発原料を用いないことであり、不可避的不純物量として混入してくる以外の塩素を含まないことをいう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、非塩素系接着剤組成物について鋭意検討したところ、プロピレン−α−オレフィン共重合体に、α、β−不飽和カルボン酸またはその酸無水物をグラフト共重合して得られる変性ポリオレフィンを含有する接着剤組成物が、熱可塑性エラストマとガラスとに充分な接着性を発現することを知見して、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の(1)および(2)を提供する。
(1)熱可塑性エラストマとガラス物品との接着に用いられる接着剤組成物であって、プロピレン−α−オレフィン共重合体に、α、β−不飽和カルボン酸およびその酸無水物(以下、単に「不飽和カルボン酸等」という。)から選択される少なくとも1種をグラフト共重合して得られる変性ポリオレフィンを含有する接着剤組成物。
上記(1)に記載の接着剤組成物において、プロピレン−α−オレフィン共重合体のプロピレン単位の含有量は50モル%以上であるのがより優れた接着強度が得られる点で好ましい。
【0013】
上記(1)に記載の接着剤組成物において、変性ポリオレフィンの重量平均分子量は10,000〜100,000であるのが好ましく、また、その結晶化度は10〜70%であるのが好ましい。
【0014】
上記変性ポリオレフィンの不飽和カルボン酸等による変性量は、変性ポリオレフィン100質量部に対して、導入された不飽和カルボン酸等の質量が0.1〜10質量部であるのが好ましい。また、変性ポリオレフィンは、組成物としたときの耐熱性に優れる点で、その融解温度(Tm)が90℃以上であるのが好ましい。
【0015】
熱可塑性エラストマとガラス物品との接着においては、接着力に優れる点で下塗り剤としてガラスプライマを用いるのが好ましい。ガラスプライマとしては、イソシアネート基および/またはウレア基を有する化合物を含むウレタン系ガラスプライマであるのが好ましい。
【0016】
一方、熱可塑性エラストマとガラス物品との接着において、ガラスプライマを用いない場合には、上記(1)に記載の接着剤組成物に、シランカップリング剤をさらに含有させると接着力に優れる点で好ましい。シランカップリング剤の含量は、前記変性ポリオレフィン100質量部に対して0.1〜30質量部とするのがより好ましい。
また、上記に記載のガラスプライマとシランカップリング剤とを併用するのが耐久接着強度に優れる点で好ましい。
【0017】
(2)ガラス板と、該ガラス板の周縁部に上記(1)に記載の接着剤組成物から形成される接着剤層を介して一体化される熱可塑性エラストマ製モールディングとを有する熱可塑性エラストマ製モールディング付きガラス板。
【0018】
ここで、前記熱可塑性エラストマ製モールディングは、製造が容易である点で、押出成形または射出成形により成形されるものであるのが好ましい。
また、前記ガラス板は自動車の窓用ガラス板であるのが好ましい。
なお、該熱可塑性エラストマ製モールディング付きガラス板においても、ガラスプライマを用いるのが好ましく、ガラスプライマを用いない場合は接着剤組成物にシランカップリング剤を含有させるのが好ましい。さらに、上記のガラスプライマとシランカップリング剤を併用するのが耐久接着強度に優れる点で好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、上記(1)により、熱可塑性エラストマとガラスとの接着に用いられ、初期接着強度および耐久接着強度が強く充分な接着性を発現する非塩素系接着剤組成物を提供できる。
【0020】
更に、上記(2)により、強固に接着され充分な耐久接着強度を有する熱可塑性エラストマ製モールディング付きガラス板を提供できる。また、該熱可塑性エラストマ製モールディング付きガラス板は上記した充分な耐久接着強度を有するため、厳しい環境下に使用される自動車用部品等に特に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の熱可塑性エラストマ製モールディング付きガラス板の一例を示す概略断面図である。
【図2】図2は、射出成形による熱可塑性エラストマ製モールディング付きガラス板の製造例の説明図である。
【図3】図3は、押出成形による熱可塑性エラストマ製モールディング付きガラス板の製造例の説明図である。
【図4】図4は、評価試験(剥離強度試験)に用いる試験片の形状および寸法を説明する上面図である。
【図5】図5は、評価試験(剥離強度試験)に用いる試験片の形状および寸法を説明する側面概略図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明は、熱可塑性エラストマとガラス物品との接着に用いられる接着剤組成物であって、プロピレン−α−オレフィン共重合体に、α、β−不飽和カルボン酸およびその酸無水物から選択される少なくとも1種をグラフト共重合して得られる変性ポリオレフィンを含有する接着剤組成物(以下、単に「本発明の組成物」という。)である。
【0023】
本発明の組成物に含有される変性ポリオレフィンは、プロピレン−α−オレフィン共重合体を主鎖とする。
【0024】
上記プロピレン−α−オレフィン共重合体は、プロピレンとプロピレン以外のα−オレフィンとを共重合させたものであれば、その構造、物性等を特に限定されずに用いられる。
【0025】
プロピレン−α−オレフィン共重合体におけるプロピレン単位の含有量は、特に限定されないが、下記式で表される含有量が50モル%以上であるのが好ましい。
【0026】
含有量(モル%)=[プロピレン単位のモル数/全単位のモル数]×100
含有量が50モル%以上であると、プロピレン−α−オレフィン共重合体の充分な凝集力が得られ、熱可塑性エラストマ(特にオレフィン系熱可塑性エラストマ)とガラスとの接着性に優れる。より接着性に優れる点で含有量は60モル%以上であるのがより好ましい。
【0027】
プロピレン−α−オレフィン共重合体に用いられるプロピレン以外のα−オレフィンとしては、特に限定されず、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ヘプテン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン等が挙げられ、これらの中でも接着性が優れる点で1−ブテンが好ましい。これらのα−オレフィンは1種単独でまたは2種以上を混合して用いられる。
【0028】
また、該共重合体には、プロピレンの単位、プロピレン以外のα−オレフィンの単位の他に、本発明の目的を損わない範囲で他の単量体の単位を含有してもよい。
【0029】
プロピレン−α−オレフィン共重合体には、本発明の目的を損なわない範囲で、置換基を有していてもよい。
【0030】
プロピレン−α−オレフィン共重合体は、プロピレン、α−オレフィン、所望により他の単量体およびラジカル重合剤等を用いて、通常行われる共重合方法・条件を任意に選択して共重合させることにより得られる。
【0031】
プロピレン−α−オレフィン共重合体の重量平均分子量、融解温度(Tm)、結晶化度等の物性は、特に限定されないが、後述する変性ポリオレフィンとしての各物性を満たすものであるのが好ましい。
【0032】
プロピレン−α−オレフィン共重合体は、1種単独でまたは2種以上を混合して変性ポリオレフィンの主鎖として用いられる。
【0033】
変性ポリオレフィンの側鎖はα、β−不飽和カルボン酸およびその酸無水物から選択される少なくとも1種から形成される。該側鎖は、不飽和カルボン酸等のみから形成されていても、他の有機基に不飽和カルボン酸等が結合して形成されていてもよい。
【0034】
α、β−不飽和カルボン酸としては、特に限定されず、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸等が挙げられ、α、β−不飽和カルボン酸の酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。
【0035】
これらの中でも、α、β−不飽和カルボン酸の酸無水物が好ましく、接着性が優れる点で無水マレイン酸が特に好ましい。
【0036】
不飽和カルボン酸等による変性量は、変性ポリオレフィン100質量部に対して、導入される不飽和カルボン酸等の質量が0.1〜10質量部であるのが好ましい。変性量が0.1質量部以上であればガラスプライマおよび/またはシランカップリング剤との化学結合力が強く充分な接着力が得られ、変性量が10質量部以下であれば変性ポリオレフィンの極性が好適であり熱可塑性エラストマとの接着力に優れる。これらのバランスがよりよい点で、変性量は1〜5質量部であるのがより好ましい。さらに合成が容易である点で3質量部以下であることが好ましい。
【0037】
上記した本発明で用いる変性ポリオレフィンは、プロピレン−α−オレフィン共重合体に、α、β−不飽和カルボン酸等から選択される少なくとも1種をグラフト共重合させる製造方法により製造される。
【0038】
不飽和カルボン酸等をプロピレン−α−オレフィンにグラフト共重合させる方法としては、特に限定されず、例えば、溶液法、溶融法等の一般的な共重合方法を任意に選択できる。
【0039】
溶液法としては、例えば、プロピレン−α−オレフィンをトルエン等の芳香族有機溶媒に100〜180℃で溶解させた後、不飽和カルボン酸等を添加し、さらに、後述するラジカル発生剤を一度にまたは数回に分けて添加して共重合させる方法が挙げられる。
【0040】
溶融法としては、例えば、プロピレン−α−オレフィンをこれらの溶融温度以上に加熱して溶融させた後、不飽和カルボン酸等および後述するラジカル発生剤を添加して共重合させる方法が挙げられる。
【0041】
グラフト共重合に用いられるラジカル発生剤としては、特に限定されず、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ−ターシャルブチルパーオキサイド等が挙げられ、共重合反応温度とラジカル発生剤の分解温度を考慮して選択される。
【0042】
このようにして得られる変性ポリオレフィンは、重量平均分子量が10,000〜100,000であるのが好ましい。重量平均分子量が10,000以上であれば接着剤組成物としての凝集力が強くなり充分な接着強度が得られる。また、重量平均分子量が100,000以下であれば、変性ポリオレフィンの後述する有機溶媒への溶解性が高く、該溶液を塗布するにあたっての良好な作業性を得るための室温での流動性が得られる。接着強度と流動性がより優れる点で、重量平均分子量は30,000〜70,000であるのがより好ましい。
【0043】
本発明において、重量平均分子量の測定方法は、特に限定されないが、ゲルパーミエションクロマトグラフィー(Gel Permeation chromatographyl (GPC))による測定方法(標準ポリスチレン換算)であるのが好ましい。
【0044】
変性ポリオレフィンは結晶化度が10〜70%であるのが好ましい。結晶化度が10%以上であれば、接着剤組成物としての凝集力が強くなり充分な接着強度が得られる。また、結晶化度が70%以下であれば、変性ポリオレフィンを溶解した溶液が安定し、塗布時の良好な作業性が得られる室温での流動性を示し、低温での保管も可能となる。これらがより優れる点で結晶化度は30〜60%であるのがより好ましい。
【0045】
本発明において、結晶化度の測定方法は、特に限定されないが、X線回析による透過法等であるのが好ましい。
【0046】
また、変性ポリオレフィンは、接着剤組成物としての耐熱性に優れる点で、融解温度(Tm)は90℃以上であるのが好ましい。
【0047】
本発明の組成物には、変性ポリオレフィン以外に、所望により後述するシランカップリング剤および本発明の目的を損なわない範囲で他の成分を配合してもよい。他の成分としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、ブロッキング防止剤、カーボンブラック等、その他接着剤に必要に応じて添加される各種の添加剤等が挙げられる。
【0048】
本発明の組成物は、変性ポリオレフィン、所望により後述するシランカップリング剤、ならびに必要に応じて添加される成分とを単に混合した状態で使用されてもよいが、これらを有機溶媒に溶解して接着剤組成物の溶液として使用されるのが好ましい。用いられる有機溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素系溶媒、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒等が挙げられ、これらは1種単独でまたは2種以上を混合して用いられる。特に、メチルシクロヘキサンと酢酸エチルを混合して用いることが、安定した接着強度を得るために好ましい。
【0049】
このとき、変性ポリオレフィン、またはこれと所望により添加した後述するシランカップリング剤との合計が、濃度5〜30質量%となるように有機溶媒に溶解されるのが好ましい。濃度が5質量%以上であれば、二度塗りが不要となるため塗布工程を簡素化できる。濃度が30質量%以下であれば、有機溶媒に溶解して接着剤溶液を容易に調製することができる。
【0050】
本発明の組成物は、熱可塑性エラストマとガラスプライマが塗布されたガラス物品との接着に用いられる。
【0051】
熱可塑性エラストマとしては、特に限定されず、例えば、オレフィン系熱可塑性エラストマ、スチレン系熱可塑性エラストマ、ウレタン系熱可塑性エラストマ、ポリアミド系熱可塑性エラストマ、1,2−ポリブタジエン系熱可塑性エラストマ等が挙げられる。これらの中でも、オレフィン系熱可塑性エラストマが本発明の組成物との接着性に優れる点で好ましい。オレフィン系熱可塑性エラストマとしては、例えば、サントプレーン、ミラストマー、住友TPE、ケーモラン、オレフレックス、ミラプレーン、PER、出光TPOおよびサーリンク等の商品名で市販されている。
【0052】
ガラス物品としては、特に限定されず、例えば、ガラス板、ガラス棒等が挙げられる。
【0053】
ガラス板としては、特に限定されず、例えば、無機系の単板ガラス板、複数枚のガラス板が中間膜を介して積層された合わせガラス、強化処理が施された強化ガラス、熱線遮蔽性コーティング等の各種の表面処理が施されたガラス板等、種々のガラス板が使用可能である。また、有機ガラスと呼ばれる透明樹脂板を使用することもできる。
【0054】
ガラス物品には、紫外線の透過を防止するため、暗色セラミックペーストの焼成体等が設けられていてもよい。
【0055】
本発明の組成物は、上記変性ポリオレフィンを含有する組成物であり、その使用方法は特に限定されないが、例えば、以下の3態様が挙げられる。
【0056】
すなわち、第1態様は熱可塑性エラストマとガラスとを接着させるのにガラスプライマを用いて本発明の組成物で接着させる態様であり、第2態様は本発明の組成物にさらにシランカップリング剤を含有させてガラスプライマを用いないで熱可塑性エラストマとガラスとを接着させる態様である。第3態様は、ガラスプライマを用いかつ本発明の組成物にさらにシランカップリング剤を含有させてガラスプライマを用いて熱可塑性エラストマとガラスとを接着させる態様である。
【0057】
本発明の組成物を用いて熱可塑性エラストマとガラスとを接着させる第1態様においては、ガラスプライマを用いる。ガラスプライマをガラス物品に塗布すると、初期接着強度を損なうことなく耐久接着強度を高められる。
【0058】
ガラス物品に塗布されるガラスプライマとしては、イソシアネート基および/またはウレア基を有する化合物を含むウレタン系ガラスプライマであるのが好ましく、例えば、サンスター技研社から型番#435−41で市販されているガラスプライマ、横浜ゴム社から型番MS−90で市販されているガラスプライマやダウ・オートモティブ社から市販されているBETAPRIME(5001)、BETASEAL(43520A)等が挙げられる。
【0059】
本発明の組成物を用いて熱可塑性エラストマとガラスとを接着させる第2態様においては、本発明の組成物にシランカップリング剤をさらに含有させる。これにより、変性ポリオレフィンとシランカップリング剤が充分相溶し、ガラスプライマを用いなくても熱可塑性エラストマとガラスとの接着強度に優れる。
【0060】
シランカップリング剤としては、特に限定されず、例えば、オキシラン環を含む基(グリシジル基)、ビニル基、チオール基、アミノ基等の官能基を末端に有するシランカップリング剤が挙げられる。接着強度がより強くなる点で、グリシジル基を末端に有するグリシジル基含有シランカップリング剤が好ましい。
【0061】
シランカップリング剤は、変性ポリオレフィン100質量部に対して、0.1〜30質量部であるのが好ましい。0.1質量部以上であると、ガラスとの充分な接着力が得られる。また、30質量部以下であると、シランカップリング剤同士の結合を抑えられ、熱可塑性エラストマとの接着性の低下を防止できる。さらに、ガラスとの接着力をより効果的に発現できる点で、シランカップリング剤は、4質量部以上であるのがより好ましい。また、組成物の製造が容易である点で、シランカップリング剤は、20質量部以下であるのがより好ましい。
【0062】
本発明の組成物を用いて熱可塑性エラストマとガラスとを接着させる第3態様においては、ガラスプライマを用いかつ本発明の組成物にシランカップリング剤をさらに含有させる。これにより、初期接着強度を損なうことなくさらに耐久接着強度を高められる。また、接着強度が高くなることにより、熱可塑性エラストマとガラスとを接着させる際のガラスの予熱温度を低く設定でき、生産時間を短縮し、コストも低減できる。
【0063】
ガラスプライマは上記第1態様と同じものを用いるのが好ましい。また、シランカップリング剤も上記第2態様と同じものを用いるのが好ましい。これらを併用することで、本発明の組成物の酸無水物とシランカップリング剤のエポキシ基との結合およびシランカップリング剤のシラノール基同士の結合により、本発明の組成物を架橋させて耐熱性を向上でき、また本発明の組成物とガラスプライマとを強固に結合するため、各界面と接着剤層との凝集力が向上する。
【0064】
本発明の組成物は、上記構成をなし、熱可塑性エラストマとガラスとの充分な接着性を発現する非塩素系接着剤組成物であるため、種々の産業分野において、熱可塑性エラストマとガラスを接着するための接着剤組成物として好適に用いられる。特に本発明のうち強い耐久接着強度を有する組成物は、厳しい環境下に使用される自動車産業(自動車用部品)等の接着剤組成物として特に好適に用いられる。
【0065】
また、本発明の組成物は、非塩素系接着剤組成物であるため、近年、特に要求される環境保護の要請をも充分に満足できる。
【0066】
本発明はまた、本発明の組成物を用いる熱可塑性エラストマ製モールディング付きガラス板を提供する。
【0067】
以下、図1〜図3に基づいて、本発明の熱可塑性エラストマ製モールディング付きガラス板について詳細に説明する。
図1は、本発明の熱可塑性エラストマ製モールディング付きガラス板の一例を示す要部概略断面図である。図1において、1は熱可塑性エラストマ製モールディング付きガラス板(以下、単に「モールディング付きガラス板」という場合がある。)、2はガラス板、2Aは裏面、2Bは表面、3は熱可塑性エラストマ製モールディングおよび4は接着剤層である。熱可塑性エラストマ製モールディング付きガラス板1は、表面2Bと裏面2Aを持つガラス板2と熱可塑性エラストマ製モールディング3とが、接着剤層4を介して一体化されたものである。
【0068】
熱可塑性エラストマ製モールディング3は、射出成形や押出成形等の樹脂成形法により成形されるのが好ましい。射出成形による方法としては、例えば、熱可塑性エラストマ製モールディング3の形状に概略一致した彫り込みを有する成形型にガラス板2を配置し型締めして、彫り込みとガラス板2の周縁部とでキャビティ空間を形成し、成形型のキャビティ空間内に樹脂材料を射出する射出一体成形により、熱可塑性エラストマ製モールディング3をガラス板2の周縁部に一体的に成形する方法を採用することができる。この場合、ガラス板2を成形型に配置する前に、熱可塑性エラストマ製モールディング3が一体化されるガラス板2の周縁部に予め本発明の組成物を塗布し、接着剤層4を形成しておく。
【0069】
ここで、熱可塑性エラストマ製モールディングを形成する熱可塑性エラストマは、上記したとおりである。なお、上記熱可塑性エラストマに、一般に用いられる各種添加剤等を配合してもよい。
【0070】
また、熱可塑性エラストマ製モールディング3を、一旦、射出成形にて、ガラス板の全周に接着できるようにループ状にまたはガラス板の全周でなくその一部、例えば、3辺に接着できるようにコの字状に成形し、成形された熱可塑性エラストマ製モールディング3をガラス板2に押し付けて、熱可塑性エラストマ製モールディング3をガラス板2に一体化させる方法も採用できる。この場合、熱可塑性エラストマ製モールディング3をガラス板2の周縁部に押し付ける前に、ガラス板2の周縁部に本発明の組成物を塗布する、あるいは熱可塑性エラストマ製モールディング3のガラス板2に接着する面に本発明の組成物を塗布してもよい。
【0071】
図2は、熱可塑性エラストマ製モールディング付きガラス板を射出成形を利用して製造する他の方法を示す。図2において、2はガラス板、2Aは裏面、2Bは表面、5は保持機、6は吸盤、7は第1型、8は熱可塑性エラストマ製モールディング、9aおよび9bはシリンダ、10は昇降部材、11a、11b、11c、11dおよび11eはストッパ、12a、12b、12c、12dおよび12eは突出ピン、ならびに、13はキャビティ壁である。
【0072】
図2に示す方法においては、ガラス板2の裏面2Aの周縁部に沿って、予め本発明の組成物を塗布して接着剤層を形成するとともに、ガラス板2を余熱した後、保持機5の吸盤6にガラス板2の表面2Bを吸着させてガラス板2を保持しておく。一方、下側の第1型7と、上側の第2型(図示せず)とで形成されるキャビティ内に溶融熱可塑性エラストマを射出して熱可塑性エラストマ製モールディング8を成形した後、型開きして上側の第2型を脱型し、熱可塑性エラストマ製モールディング8の接着面を外部露出させるとともに、保持機5を作動させてガラス板2の裏面2Aを熱可塑性エラストマ製モールディング8に対して対面配置させる。
【0073】
次いで、各シリンダ9a、9bを同期して駆動させ、昇降部材10を上昇させる。昇降部材10は、各ストッパ11a、11b、11c、11dおよび11eを介してそれぞれ突出ピン12a、12b、12c、12dおよび12eを上昇させ、第1型7のキャビティ壁13から突出ピン12a、12b、12c、12dおよび12eの先端を突出させる。これにより、熱可塑性エラストマ製モールディング8は、ガラス板2の裏面2Aに向かって突き出され、ガラス板2の端縁全域に対して同時に押し付けられて仮接着される。
【0074】
次に、保持機5により、仮接着されたガラス板2および熱可塑性エラストマ製モールディング8を、本接着用テーブルに移動させ、熱可塑性エラストマ製モールディング8を本接着用テーブルの圧接面上に載置し、保持機5により一定圧力で一定時間押圧し、モールディング付きガラス板を得ることができる。こうした方法としては、例えば、特開2000−79626号公報に記載された方法を例示できる。
【0075】
モールディングを押出成形にて成形する方法としては、モールディングの断面形状に概略一致した開口を有する押出成形ダイから樹脂材料を押出し、成形する方法が挙げられる。このとき、(a)押出成形ダイから押出された直後に熱可塑性エラストマ製モールディングをガラス板の周縁部に押し付けて一体化する、あるいは(b)押出成形ダイから直接ガラス板の周縁部に熱可塑性エラストマ製モールディングを押出して一体化してもよい。いずれの方法においても、ガラス板の周縁部に、予め本発明の組成物を塗布し接着剤層を形成しておく方法を採用することができる。
【0076】
(a)押出成形ダイから押出された直後に熱可塑性エラストマ製モールディングをガラス板の周縁部に押し付けて一体化する方法の具体例として、図3に概略を示す方法が挙げられる。図3において、2はガラス板、4は接着剤層、14は吸着保持板、15はロボットアーム、16は押出機、17は押出成形ダイ、18は熱可塑性エラストマ製モールディング、19は冷却水槽、20は冷却スプレ、21は冷却水、22は保持ローラ、23は加熱装置および24は圧着部材である。図3に示す方法において、ガラス板2の周縁部には、予め本発明の組成物が塗布され乾燥されて接着剤層4が形成される。接着剤層4が形成されたガラス板2は、ロボット(吸着保持板14およびロボットアーム15を備える)で保持され、所定の移動を可能とされている。押出機16の先端には、熱可塑性エラストマ製モールディング18の断面形状に概略一致した開口を有する押出成形ダイ17が備えられている。
【0077】
押出成形ダイ17から押出された熱可塑性エラストマ製モールディング18は、冷却水(19は冷却水槽、20は冷却スプレ、21は冷却水を示す)により冷却される。冷却された熱可塑性エラストマ製モールディング18は、保持ローラ22を経て、加熱装置23によりガラス板2に対向する面が加熱され、圧着部材24に挿入される。圧着部材24は、熱可塑性エラストマ製モールディング18とガラス板2の周縁部とが挿入される空洞部を有するとともに、ガラス板2の周縁部と熱可塑性エラストマ製モールディング18とがこの空洞部を通過することで熱可塑性エラストマ製モールディング18をガラス板2に押し付け圧着できるようになっている。ガラス板2は、ガラス板2の周縁部に圧着部材24が沿うように、ロボットの駆動により圧着部材24に対し相対移動される。こうして、熱可塑性エラストマ製モールディング18がガラス板2の周縁部に一体化された熱可塑性エラストマ製モールディング付きガラス板を製造できる。こうした製造方法は特開2002−240122号公報でさらに詳説されている。
本発明の熱可塑性エラストマ製モールディング付きガラス板におけるガラス板は、上記したとおりである。
【0078】
本発明において、熱可塑性エラストマ製モールディングの形状は、要求性能やデザインの仕様等にあわせて、適宜決定できる。例えば、ループ状やコの字状等の形状が挙げられ、ガラス板の周縁全周にわたって同一の断面形状を有するものでも、部位に応じて異なる断面形状を有するものでもよい。また、ガラス板の周縁全周にわたって一体化されていても、ガラス板のある特定の辺または部分に一体化されていてもよい。
【0079】
本発明の熱可塑性エラストマ製モールディング付きガラス板には、図示を省略したが、例えば、図1において、ガラス板2の周縁部の接着剤層4が形成される領域には、ガラス板裏面2A上で接着剤層4との間に暗色セラミックペーストの焼成体が設けられてもよい。暗色セラミックペーストの焼成体により、接着剤層4が車外側から隠蔽され、紫外線の車内側への透過を防止できる。熱可塑性エラストマ製モールディング付きガラス板は、通常ウレタン系接着剤にて車体(図示せず)に固定されるので、暗色セラミックペーストの焼成体は、ウレタン系接着剤の紫外線による劣化を防止できる。紫外線耐久性が充分であれば、接着剤層4に顔料や染料等を添加し、車体との接着のための接着剤に対する紫外線照射を防止する隠蔽層として機能させることもできる。
【0080】
これらのような本発明の熱可塑性エラストマ製モールディング付きガラス板は、種々の産業分野に好適に用いられ、各種車輛の窓としてより好適に用いられ、自動車の窓として特に好適に用いられる。
【0081】
各種車輛、特に自動車の窓として好適に用いられる理由は、各種車輛は、特に夏場の駐車時においてガラス板が高温となるので、耐久接着性に優れた本発明の接着剤組成物の効果を有効に利用できるためである。
【実施例】
【0082】
<実施例1−1および1−2、参考例1>
以下に示す2種の無水マレイン酸変性ポリオレフィンを含有する接着剤組成物(接着剤溶液1および2)と塩素化ポリオレフィンを含有する接着剤組成物(接着剤溶液3)とを用いて、接着強度を測定し、本発明の非塩素系接着剤組成物(実施例1−1,1−2)と従来の塩素系接着剤組成物(参考例1)との接着性を評価し第1表に示した。
【0083】
(無水マレイン酸変性ポリオレフィン1および2の製造)
プロピレン単位の含有量が異なる2種のプロピレン−1−ブテン共重合体1および2のそれぞれ100gを、トルエン1900gに溶解し、150℃に加熱して該共重合体を溶解させた。次に、無水マレイン酸変性量が、得られる無水マレイン酸変性ポリオレフィン100質量部に対して3質量部となる割合で無水マレイン酸を添加し、さらにラジカル発生剤(ジクミルパーオキサイド、化薬アクゾ(株)製)1gを添加し、同温度で3時間グラフト重合させて、無水マレイン酸変性ポリオレフィン(第1表中、単に「変性ポリオレフィン」と表記する。)1および2をそれぞれ得た。このときの無水マレイン酸変性ポリオレフィン1のプロピレン単位の含有量は77モル%であり、無水マレイン酸変性ポリオレフィン2のプロピレン単位の含有量は69モル%であった。
【0084】
(キシレン溶液(接着剤溶液1、2)の調製)
得られた各無水マレイン酸変性ポリオレフィン100質量部と、シランカップリング剤としてエポキシシラン(3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、KMB−403、信越化学工業(株)製)5質量部とを混合し、キシレンに溶解し、第1表に示す固形分濃度のキシレン溶液(接着剤溶液1および2)を作製した。
【0085】
<参考例1>
(塩素化ポリプロピレンの製造)
アイソタクチックポリプロピレン(MI:メルトインデックス15)10kg、クロロホルム167kgを、耐圧性グラスライニングされた反応缶に入れ、加熱、溶解させた後、ジクミルパーオキサイド0.1kgを添加し、塩素ガスを7.4kg吹き込み、反応させた。次に、クロロホルム除去後、固形化した塩素化アイソタクチックポリプロピレン(以下「CPP−1」という)が得られた。このCPP−1の塩素含有量は25.9質量%、GPCによる重量平均分子量は140,000〜150,000、結晶化度は12%であった。
【0086】
また、吹き込む塩素ガスの量を6.2kgとした以外は上記CPP−1と同様にして、塩素化アイソタクチックポリプロピレン(以下「CPP−2」という)を製造した。このCPP−2の塩素含有量は20質量%、GPCによる重量平均分子量は190,000〜200,000、結晶化度は44%であった。
【0087】
(キシレン溶液(接着剤溶液3)の調製)
塩素化ポリオレフィンとして10.9質量部のCPP−1と87.5質量部のCPP−2、エポキシ基含有化合物として、CPP−1およびCPP−2の合計100質量部に対して1.7質量部のトリメチロールプロパントリグリシジルエーテル(共栄化学社製、エポライト100MF、エポキシ当量:135〜145g/eq)を、キシレンに溶解し、固形分濃度が10質量%のキシレン溶液を作製した。この溶液100質量部に、シランカップリング剤として3―アミノプロピルトリメトキシシランとN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランとの混合シランカップリング剤(両者の質量比は1:2)を、塩素化ポリオレフィンとエポキシ基含有化合物の合計100質量部に対して2.9質量部の割合で添加して充分攪拌し、キシレン溶液(接着剤溶液3)を作製した。
【0088】
(無水マレイン酸変性ポリオレフィンおよび塩素化ポリプロピレンの物性)
得られた無水マレイン酸変性ポリオレフィン1および2の重量平均分子量、結晶化度および融解温度を以下の方法によりそれぞれ測定した。また、塩素化ポリプロピレンCPP−1およびCPP−2の塩素含有量も同様に以下の方法で測定した。その結果を第1表に示す。
【0089】
1.重量平均分子量の測定
ゲルパーミエションクロマトグラフィー(GPC)により重量平均分子量を測定した。
GPC装置はShodex GPC SYSTEM−21H(昭和電工(株)製)、溶媒はテトラヒドロフランを用いて、測定温度40℃で測定し、標準ポリスチレン換算で重量平均分子量を算出した。
【0090】
2.結晶化度の測定
得られた各無水マレイン酸変性ポリオレフィン1〜4を厚さ1mmのフィルムに成形し、乾燥後(60℃、24時間)、X線回析装置(RINT2550、理学電機(株)製)を用いて、透過法により測定した。
【0091】
3.溶融温度の測定
得られた各無水マレイン酸変性ポリオレフィン1および2を、DSC−60A((株)島津製作所製)をもちいて、示差走査熱量測定により測定した。
【0092】
4.塩素含有量測定
得られた塩素化ポリオレフィンCPPー1およびCPP−2の塩素含有量の測定を電位差滴定法により行った。
【0093】
(モールディング付きガラス板(試験片)の製造)
まず、縦25mm×横150mm×厚さ5mmのガラス板を用意し、暗色セラミックペーストの焼成体等を常法に従いガラス表面に設けた。
【0094】
上記で得られた接着剤溶液1および2を、それぞれ樹脂換算で15g/m(接着剤層の乾燥後の厚さ約10〜20μm)になるように、ガラスプライマを塗布していない上記で用意したガラス板の横方向端部から70mmまでおよび縦方向の全域に塗布し送風乾燥して、図1に示す接着剤層4が形成されたガラス板2を用意した。
【0095】
図3に示す方法により、図4および図5に示す熱可塑性エラストマ製モールディング18の断面形状に概略一致した開口を有する押出成形ダイから、オレフィン系熱可塑性エラストマ材料(サントプレーン121−58W175、エーイーエス・ジャパン(株)製)を押出し、押出し直後の所定断面を有する熱可塑性エラストマ製モールディング18に冷水を吹き付けた後、熱可塑性エラストマ製モールディング18のガラス板2に対向する面に加熱空気を吹き付けた。加熱直後の熱可塑性エラストマ製モールディング18が圧着部材24の空洞部に挿入されるとともに、ロボットに保持されたガラス板2を、モールディング18の接着部に圧着部材が沿うように相対移動させる(ガラス板が横方向に移動させられる)ことで、熱可塑性エラストマ製モールディング付きガラス板が得られた。
なお、圧着時のモールディング接着面の温度は170℃、ガラス温度は80℃とした。
【0096】
ガラス板面における接着部分を、横方向に端部から70mm、縦方向に5mmとし、横方向の全域に熱可塑性エラストマ製モールディング18を接着させて、熱可塑性エラストモールディング付きガラス板を得た。
【0097】
ガラス板2と熱可塑性エラストマ製モールディング18の接着部の幅(縦方向)は5mm、熱可塑性エラストマ製モールディング18の厚さは3mmであった。
【0098】
このようにして得られた熱可塑性エラストマ製モールディング付きガラス板は、具体的には、図4および5に示したものである。図4は、評価試験(剥離強度試験)に用いた試験片の形状および寸法を説明する上面図である。図5は、評価試験(剥離強度試験)に用いた試験片の形状および寸法を説明する概略断面図である。図5において、接着剤層4はその厚さが厚めに記載されている。図4および図5において、2はガラス板であり、4は接着剤層、18は熱可塑性エラストマ製モールディングである。暗色セラミックペースト焼成体(図示していない)はガラス板上で接着剤層4の下にある。
【0099】
(初期剥離強度の測定)
得られた各熱可塑性エラストマ製モールディング付きガラス板(試験片)の初期剥離強度を以下の方法により測定した。結果を第1表に示す。
【0100】
得られた各試験片を、室温下に24時間放置した後、室温下で、JIS K6854に規定された浮動ローラー法剥離試験に準拠してクロスヘッドの移動速度を300mm/分として90度剥離試験を行い、初期剥離強度(N/cm)を測定した。
【0101】
測定に用いた装置は、オートグラフAGS−J型装置((株)島津製作所製)であった。
なお、上記試験において、「準拠して」の意味は試験片の形状や温度条件が異なるからであり、本例における初期剥離強度の試験片では接着部分が70×5(mm)となる(図4および図5参照)。以下の各耐久試験についても同様である。
初期剥離強度試験では、ガラス板に接着されていない部分を90度屈曲させて(図5において矢印Aの方向、JIS K6854に対応)引っ張って測定した。
【0102】
【表1】

【0103】
その結果、第1表に示すとおり本発明の接着剤組成物は、塩素化ポリオレフィンを含有する接着剤組成物と同等以上の接着強度を有し、優れた接着性を発揮した。
【0104】
<実施例2−1〜2−3および比較例1〜2>
次に、塩素系接着剤組成物と同等以上の接着強度を有する本発明の塩素を使わない(非塩素系)接着剤組成物と、公知の非塩素系接着剤組成物との耐久接着強度を評価した。
つまり、プロピレン単量体の含有量が50モル%以上の無水マレイン酸変性ポリオレフィン1および2を含有する接着剤組成物1および2、ならびに、非塩素系接着剤組成物(アウローレン(登録商標))を用いて、各種接着強度の評価を行った。
【0105】
(実施例2−1)
暗色セラミックペーストの焼成体の薄層上にガラスプライマ(#435−41、サンスター技研製)を塗布し乾燥したガラス板を用いた以外は、上記実施例1−1で調製した、無水マレイン酸変性ポリオレフィン1を含有するキシレン溶液(接着剤溶液1)を用い、上記実施例1−1と同様にして、図4および図5に示す、実施例2−1の熱可塑性エラストマ製モールディング付きガラス板(試験片)を得た。
【0106】
(実施例2−2)
暗色セラミックペーストの焼成体の薄層上にガラスプライマ(#435−41、サンスター技研製)を塗布し乾燥したガラス板を用いた以外は、上記実施例1−2で調製した、無水マレイン酸変性ポリオレフィン2を含有するキシレン溶液(接着剤溶液2)を用い、上記実施例1−2と同様にして、図4および図5に示す、実施例2−2の熱可塑性エラストマ製モールディング付きガラス板(試験片)を得た。
【0107】
(実施例2−3)
シランカップリング剤としてのエポキシシランを含有しない以外は上記実施例1−2と同様にして、無水マレイン酸変性ポリオレフィン2を含有するキシレン溶液(接着剤溶液2−2)を得た。
このキシレン溶液(接着剤溶液2−2)、および、暗色セラミックペーストの焼成体の薄層上にガラスプライマを塗布し乾燥したガラス板を用いた以外は、上記実施例1−2と同様にして、図4および図5に示す、実施例2−3の熱可塑性エラストマ製モールディング付きガラス板(試験片)を得た。
【0108】
(比較例1)
市販されている非塩素系接着剤組成物のメチルシクロヘキサン/メチルエチルケトン混合溶液100質量部(アウローレン(登録商標)250−MX、固形分濃度15.4質量%)にエポキシシラン5質量部を混合したアウローレン溶液1、および、暗色セラミックペーストの焼成体の薄層上にガラスプライマを塗布し乾燥したガラス板を用いた以外は、上記実施例1−1と同様にして、図4および図5に示す、比較例1の熱可塑性エラストマ製モールディング付きガラス板(試験片)を得た。
【0109】
(比較例2)
市販されている非塩素系接着剤組成物のメチルシクロヘキサン/メチルエチルケトン混合溶液100質量部(アウローレン(登録商標)250−MX、固形分濃度15.4質量%)を作製した(アウローレン溶液2)。
このエポキシシランを含有しないアウローレン溶液2、および、暗色セラミックペーストの焼成体の薄層上にガラスプライマを塗布し乾燥したガラス板を用いた以外は、上記実施例1−1と同様にして、図4および図5に示す、比較例2の熱可塑性エラストマ製モールディング付きガラス板(試験片)を得た。
【0110】
上記で得られた各熱可塑性エラストマ製モールディング付きガラス板(試験片)を用いて、初期剥離強度試験、耐熱試験、耐湿試験、耐温水試験、耐熱水試験および耐候性試験を行い、接着強度を測定した。その結果を第2表に示す。なお、剥離強度を測定できなかった試験については、第2表中の対応する欄に「−」を付した。
1.初期剥離強度の測定
上記実施例1−1の初期剥離強度の測定と同様にして測定した。
2.耐熱試験
各試験片を室温下に24時間放置した後、90℃で240時間加熱し、さらに、室温下で24時間放置し、JIS K6854に準拠して90度剥離試験を行い、耐熱後の剥離強度(N/cm)を測定した。
3.耐湿試験
各試験片を室温下に24時間放置した後、50℃、湿度95RH%の条件下、240時間放置し、さらに、室温下で24時間放置しJIS K6854に準拠して90度剥離試験を行い、耐湿後の剥離強度(耐湿試験、N/cm)を測定した。
4.耐温水試験
各試験片を室温下に24時間放置した後、40℃の温水に240時間浸せきし、さらに、室温下で24時間放置し、JIS K6854に準拠して90度剥離試験を行い、耐温水後の剥離強度(耐温水試験、N/cm)を測定した。
5.耐熱水試験
各試験片を室温下に24時間放置した後、80℃の温水に96時間浸せきし、さらに、室温下で24時間放置し、JIS K6854に準拠して90度剥離試験を行い、耐熱水後の剥離強度(耐熱水試験、N/cm)を測定した。
6.耐候性試験
各試験片を用いて、以下の1)〜5)の工程を1サイクルとし、合計9サイクル行った後、室温下に試験片を24時間放置し、室温下で、上記実施例1−1の初期剥離強度の測定と同様にして剥離強度(耐候性試験、N/cm)を測定した。
【0111】
1)50℃、湿度95RH%の条件下、80mW/cm2の照射量で4時間、試験片に紫外線を照射した。なお、照射装置はダイプラ社製メタルウェザ(KU−R4CI−A)、ランプはダイプラ社製メタルハライドランプ(MW−60W)、フィルタはダイプラ社製KF−2を用いた。
2)試験片を50℃、湿度95RH%の条件下、紫外線を照射せずに4時間放置した。
3)試験片に10秒間、水をシャワさせた。
4)試験片を50℃、湿度95RH%の条件下、紫外線を照射せずに4時間放置した。
5)試験片に10秒間、水をシャワさせた。
【0112】
【表2】

【0113】
第2表から明らかなように、プロピレン単位の含有量が50モル%以上である無水マレイン酸変性ポリオレフィンを含有した本発明の組成物を用いれば、いずれの試験においても充分な接着強度を発現した。
一方、非塩素系接着剤組成物としてアウローレン(登録商標)を用いたものは、いずれの試験においても接着強度を発現しなかった。
【0114】
<実施例3−1〜3−8>
次に、本発明の接着剤組成物について、シランカップリング剤を添加した場合としなかった場合、およびガラス板にガラスプライマを塗布した場合としなかった場合での耐久接着強度を評価した。さらに、ガラス板に暗色セラミックペーストの焼成体が形成されている場合とされていない場合についても評価した。
【0115】
(実施例3−1)
有機溶媒としてのキシレンの代わりにメチルシクロヘキサンと酢酸エチルとを混合して用いた以外は、上記実施例2−3と同様にしてシランカップリング剤としてエポキシシランを含まない、無水マレイン酸変性ポリオレフィン2を含有するメチルシクロヘキサン/酢酸エチル混合溶液(接着剤溶液2−3)を得た。
このメチルシクロヘキサン/酢酸エチル混合溶液(接着剤溶液2−3)、および、暗色セラミックペーストの焼成体の薄層上にガラスプライマを塗布していないガラス板を用いた以外は、上記実施例2−3と同様にして、図4および図5に示す、実施例3−1の熱可塑性エラストマ製モールディング付きガラス板(試験片)を得た。
【0116】
(実施例3−2)
暗色セラミックペーストの焼成体を形成させず、ガラスプライマも塗布していないガラス板を用いた以外は、上記実施例3−1と同様にして、図4および図5に示す、実施例3−2の熱可塑性エラストマ製モールディング付きガラス板(試験片)を得た。
【0117】
(実施例3−3)
シランカップリング剤としてのエポキシシラン(3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、KMB−403、信越化学工業(株)製)の含有量を18質量部とし、有機溶媒としてのキシレンの代わりにメチルシクロヘキサンと酢酸エチルとを混合して用いた以外は、上記実施例2−2と同様にして、無水マレイン酸変性ポリオレフィン2を含有するメチルシクロヘキサン/酢酸エチル混合溶液(接着剤溶液2−4)を得た。
このメチルシクロヘキサン/酢酸エチル混合溶液(接着剤溶液2−4)、および、暗色セラミックペーストの焼成体の薄層上にガラスプライマを塗布していないガラス板を用いた以外は、上記実施例2−2と同様にして、図4および図5に示す、実施例3−3の熱可塑性エラストマ製モールディング付きガラス板(試験片)を得た。
【0118】
(実施例3−4)
暗色セラミックペーストの焼成体を形成させず、ガラスプライマも塗布していないガラス板を用いた以外は、上記実施例3−3と同様にして、図4および図5に示す、実施例3−4の熱可塑性エラストマ製モールディング付きガラス板(試験片)を得た。
【0119】
(実施例3−5)
暗色セラミックペーストの焼成体の薄層上にガラスプライマ(#435−41、サンスター技研製)を塗布し乾燥させたガラス板を用いた以外は、上記実施例3−1で調製した、エポキシシランを含まない、無水マレイン酸変性ポリオレフィン2を含有するメチルシクロヘキサン/酢酸エチル混合溶液(接着剤溶液2−3)を用い、上記実施例3−1と同様にして、図4および図5に示す、実施例3−5の熱可塑性エラストマ製モールディング付きガラス板(試験片)を得た。
【0120】
(実施例3−6)
暗色セラミックペーストの焼成体を形成させずに、ガラスプライマを塗布し乾燥させたガラス板を用いた以外は、上記実施例3−5と同様にして、図4および図5に示す、実施例3−6の熱可塑性エラストマ製モールディング付きガラス板(試験片)を得た。
【0121】
(実施例3−7)
暗色セラミックペーストの焼成体の薄層上にガラスプライマを塗布し乾燥させたガラス板を用いた以外は、上記実施例3−3で調製した、エポキシシランを18質量部含む、無水マレイン酸変性ポリオレフィン2を含有するメチルシクロヘキサン/酢酸エチル混合溶液(接着剤溶液2−4)を用い、上記実施例3−3と同様にして、図4および図5に示す、実施例3−7の熱可塑性エラストマ製モールディング付きガラス板(試験片)を得た。
【0122】
(実施例3−8)
暗色セラミックペーストの焼成体を形成させずに、ガラスプライマを塗布し乾燥させたガラス板を用いた以外は、上記実施例3−7と同様にして、図4および図5に示す、実施例3−8の熱可塑性エラストマ製モールディング付きガラス板(試験片)を得た。
【0123】
上記で得られた各熱可塑性エラストマ製モールディング付きガラス板(試験片)を用いて、実施例2−1から実施例2−3で測定した方法と同様にして、初期剥離強度試験、耐熱試験、耐湿試験および耐熱水試験を行い、接着強度を測定した。その結果を第3表に示す。なお、剥離強度を測定できなかった試験については、第2表中の対応する欄に「−」を付した。
【0124】
【表3】

【0125】
第2表と第3表から明らかなように、第3表の実施例3−1の接着剤溶液にエポキシシランを含有させず、ガラス板にガラスプライマを塗布しない場合であっても、第2表の比較例1および比較例2のガラス板にガラスプライマを塗布した場合のアウローレンよりも初期剥離強度において高い接着強度を発現した。
【0126】
また、第3表から明らかなように、実施例3−1および実施例3−2と、実施例3−3および実施例3−4との比較より、接着剤溶液にエポキシシランを含有すると、耐熱試験、耐湿試験および耐熱水試験において、接着強度が向上する。
【0127】
また、実施例3−3および実施例3−4と、実施例3−5および実施例3−6との比較より、接着剤溶液にエポキシシランを含有させなくともガラス板にガラスプライマを塗布することにより、耐熱試験、耐湿試験および耐熱水試験において、接着強度がさらに向上する。
【0128】
また、実施例3−5および実施例3−6と、実施例3−7および実施例3−8との比較より、接着剤溶液にエポキシシランを含有させ、ガラス板にもガラスプライマを塗布することにより、暗色セラミックペーストの焼成体が形成されている場合は耐熱試験において、暗色セラミックペーストの焼成体が形成されていない場合は耐熱水試験において、接着強度がさらに向上する。
【0129】
また、暗色セラミックペーストの焼成体上に接着する場合と、直接ガラス板上に接着する場合では、直接ガラス板上に接着する場合の方が接着強度に劣るが、実施例3−7および実施例3−8のようにエポキシシランとガラスプライマを併用することにより、直接ガラス板上に接着する場合であっても暗色セラミックペーストの焼成体上に接着する場合と同等の接着強度が得られるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明の非塩素系接着剤組成物は、熱可塑性エラストマとガラスとの接着に用いられ、初期接着強度が強く充分な接着性を発現する。
また、本発明の熱可塑性エラストマ製モールディング付きガラス板は、本発明の非塩素系接着剤組成物を用いて熱可塑性エラストマ製モールディングをガラス板の周縁部に接着することにより、強固に接着される。また、本発明の非塩素系接着剤組成物にシランカップリング剤を含有させる、またはガラス板にガラスプライマを塗布することにより、該熱可塑性エラストマ製モールディング付きガラス板は、充分な耐久接着強度を有するため、厳しい環境下に使用される自動車用部品等に特に好適に用いられる。

なお、本発明の明細書には、本出願の優先権主張の基礎となる日本特許出願2004−026710(2004年2月3日出願)の明細書の全内容をここに引用し、発明の開示として取り込むものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性エラストマとガラス物品との接着に用いられる接着剤組成物であって、
プロピレン−α−オレフィン共重合体に、α、β−不飽和カルボン酸およびその酸無水物から選択される少なくとも1種をグラフト共重合して得られる変性ポリオレフィンを含有する接着剤組成物。
【請求項2】
前記プロピレン−α−オレフィン共重合体中のプロピレン単位の含有量が50モル%以上である請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
前記変性ポリオレフィンの重量平均分子量が10,000〜100,000である請求項1または2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
前記変性ポリオレフィンの結晶化度が10〜70%である請求項1〜3のいずれかに記載の接着剤組成物。
【請求項5】
前記変性ポリオレフィン100質量部に対して、シランカップリング剤の含有量が0.1〜30質量部である請求項1〜4のいずれかに記載の接着剤組成物。
【請求項6】
ガラス板と、
該ガラス板の周縁部に、請求項1〜5のいずれかに記載の接着剤組成物から形成される接着剤層を介して一体化される熱可塑性エラストマ製モールディングと
を有する熱可塑性エラストマ製モールディング付きガラス板。
【請求項7】
前記ガラス板の周縁部には、ガラスプライマが塗布してある請求項6に記載の熱可塑性エラストマ製モールディング付きガラス板。
【請求項8】
前記熱可塑性エラストマ製モールディングが押出成形により成形されるものである請求項6または7に記載の熱可塑性エラストマ製モールディング付きガラス板。
【請求項9】
前記熱可塑性エラストマ製モールディングが射出成形により成形されるものである請求項6または7に記載の熱可塑性エラストマ製モールディング付きガラス板。
【請求項10】
前記ガラス板が自動車の窓用ガラス板である請求項6〜9のいずれかに記載の熱可塑性エラストマ製モールディング付きガラス板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【国際公開番号】WO2005/075596
【国際公開日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【発行日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−517729(P2005−517729)
【国際出願番号】PCT/JP2005/001609
【国際出願日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【出願人】(000222554)東洋化成工業株式会社 (52)
【Fターム(参考)】