説明

摩擦材及びその製造方法

【課題】高摩擦係数であり、各種の制動条件に対し比較的安定しているとともに、摩擦材製造時の安全衛生性が向上し、自動車、大型トラック、鉄道車両、航空機、各種産業機械等のブレーキパッド、ブレーキライニング、ディスクパッド、クラッチフェーシング、ペーパークラッチフェーシング、制輪子などの各種用途に幅広く用いることができる摩擦材を提供する。
【解決手段】柱状の粒子形状を有するルチル型二酸化チタンを含有する。ルチル型二酸化チタンの重量平均長軸径は好ましくは1〜15μmであり、表面を有機化合物で処理したものが好ましい。少なくとも柱状の粒子形状を有するルチル型二酸化チタン及び結合材を混合した後、成形し、加熱硬化することにより製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は摩擦材及びその製造方法に関し、より詳しくは自動車、大型トラック、鉄道車両、航空機、各種産業用機械等のブレーキパッド、ブレーキライニング及びクラッチフェーシング等に使用される摩擦材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦材は、繊維基材、結合材、摩擦調整剤等を主成分とする組成物を成形し、加熱硬化して製造されるが、優れた摩擦性能や鳴き特性を得るために、アスベスト、チタン酸カリウム繊維などの各種無機繊維が用いられてきた。しかしながら、近年、アスベストはその発癌性により使用が制限され、また、その他の無機繊維についても、長さ5μm以上、直径3μm以下かつアスペクト比が3を超え吸入可能なものは安全性に懸念があるとして、使用を避ける傾向にある。このため、このような無機繊維を使用しない摩擦材が開発されているが、無機繊維は嵩密度が小さいため、フェード性能、高速の効きに有効である摩擦材の気孔率を向上させる効果を有するのに対して、使用しないことにより気孔率が低下し、フェード性能、高速の効きが低下するという問題を生じている。
この問題を改善するために例えば、繊維成分の少なくとも一部に酸化チタンウィスカーを用いることが提案されている(特許文献1参照)。また、粒径が約5μm、厚さが約0.5μmの板状チタニア(酸化チタン)を無機充填材として用いることも提案されている(特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平6−159410号公報
【特許文献2】特開平5−70765号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記の特許文献1には、酸化チタンウィスカーを含有することにより摩擦材の摩擦係数が適度に高く、しかも対面攻撃性が良好でブレーキ制動時に鳴き発生が少ない摩擦材が得られると記載されているものの、含有する酸化チタンウィスカーの結晶形や大きさ等の性状については記載がない。また、前記の特許文献2には、板状チタニアを含有することにより摩擦材の気孔率を5〜15%とすることができ、それによって摩擦材の硬度が低下し、初期摩擦係数、フェード性能、高速効力等が改善されるとの記載があるが、摩擦係数等の更なる改善が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、摩擦材の摩擦係数等の特性を改善するために、摩擦材に含有する材料として熱安定性に優れ、種々の結晶形のものが存在し、しかも、粒子形状等の異なる性状を持つものがある二酸化チタンに着目して、研究を行った結果、柱状の粒子形状を有するルチル型二酸化チタンを含有することによりチタン酸カリウム繊維や粒状ルチル型二酸化チタン顔料、板状ルチル型二酸化チタンを含有したものに比べ、摩擦係数が改善でき、高速の効きに有効であることなどを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、柱状の粒子形状を有するルチル型二酸化チタンを含有した摩擦材である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の摩擦材は、以下の優れた効果を奏するものである。
(1)低温から高温までの領域で摩擦係数が安定する。
(2)摩擦材の生産時に混合特性が向上し、均質な摩擦材を得ることができる。
(3)汎用されているチタン酸カリウム繊維に比べて、摩擦係数が高く、摩擦材の小型化及び軽量化ができる。
(4)粒状ルチル型二酸化チタン顔料、板状ルチル型二酸化チタンに比べ摩擦材の気孔率も高くでき、制動時に発生する摩擦熱を分散することができる。
このため、本発明の摩擦材は具体的に、自動車、大型トラック、鉄道車両、航空機、各種産業機械等のブレーキパッド、ブレーキライニング、ディスクパッド、クラッチフェーシング、ペーパークラッチフェーシング、制輪子などの各種用途に幅広く用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の摩擦材においては、柱状の粒子形状を有するルチル型二酸化チタンを含有することが重要である。このルチル型二酸化チタンは、摩擦材において繊維基材、摩擦調整剤(摩擦係数、硬度、気孔率等の特性改良剤、充填材を含む)の代替となる作用を有するものである。その柱状の形状とは、長軸径が短軸径より大きく、3以上の軸比(長軸径/短軸径)を有するものであり、柱状以外に棒状、針状、紡錘状、繊維状等と呼ばれる軸比を有するものも包含する。一方、一般的に板状粒子とは、各粒子の最大平面における最大長さ(l)に対して垂直な長さ(w)の比l/wが3より小さい粒子であり、3以上の軸比を有する柱状等の粒子形状とは異なるものである。
二酸化チタンの粒子形状、重量平均長軸径、重量平均短軸径は電子顕微鏡写真で確認することができ、それらの大きさは、少なくとも100個の粒子の長軸径、短軸径を計測して、それらの粒子を角柱相当体と仮定し、下記式によって重量平均長軸径、重量平均短軸径を算出する。
重量平均長軸径=Σ(Ln・Ln・Dn)/Σ(Ln・Dn
重量平均短軸径=Σ(Dn・Ln・Dn)/Σ(Ln・Dn
上記式中、nは計測した粒子の個数を表し、Lnは粒子の長軸径、Dnは粒子の短軸径を表す。
二酸化チタンの粒子径は、摩擦係数等の特性に応じて適宜設定することができ、例えば、二酸化チタンの重量平均長軸径が1〜15μmであるとより高い摩擦係数が得られるため好ましく、1〜13μmの範囲がより好ましい。この場合の短軸径は重量平均短軸径が0.1〜1.0μmが好ましく、より好ましくは0.2〜0.8μmの範囲である。粒子の軸比(重量平均長軸径/重量平均短軸径)は好ましくは3以上、より好ましくは5〜40、更に好ましくは10〜40である。
【0008】
好ましい二酸化チタンは、摩擦材としたときの摩擦係数等を改善できることから重量平均長軸径が5.0〜15.0μm、好ましくは7.0〜15.0μm、より好ましくは8.0〜14.0μm、最も好ましくは9.0〜13.0μmの範囲である。更に、10μm以上の長軸径を有する粒子が全体の15重量%以上が好ましく、より好ましくは25重量%以上、更に好ましくは35重量%以上である。一方、長軸径の小さい粒子の含有量が少ないのが好ましく、5.0μm未満の粒子が40重量%以下であることが好ましく、より好ましくは30重量%以下、更に好ましくは20重量%以下である。短軸径に関しては重量平均短軸径が0.25〜1.0μm、より好ましくは0.3〜0.8μmの範囲である。また、粒子の軸比(重量平均長軸径/重量平均短軸径)は好ましくは3以上、より好ましくは5〜40、更に好ましくは10〜40である。
【0009】
また好ましい二酸化チタンは、摩擦係数等も高く安全性も一層高くなると考えられることから重量平均長軸径が1〜5μmのものであり、1.5〜4μm程度がより好ましい。安全性の観点から更に好ましくは、長軸径が5μmより大きい粒子を含まないものである。短軸径は重量平均短軸径で表して0.1〜0.8μm程度が好ましく、より好ましくは0.15〜0.6μm程度の範囲、更に好ましくは0.2〜0.5μm程度の範囲である。粒子の軸比(重量平均長軸径/重量平均短軸径)は好ましくは3以上、より好ましくは3〜20、更に好ましくは5〜10である。
【0010】
本発明で用いる二酸化チタンは、ルチル型二酸化チタンに帰属する結晶を有するものであり、摩擦係数等を高めるためにルチル型二酸化チタン結晶がより多く含まれるのが好ましく、より好ましくは少なくとも50重量%、更に好ましくは少なくとも60重量%程度、更に好ましくは少なくとも70重量%程度、最も好ましくは少なくとも90重量%程度のほぼすべてがルチル型結晶の二酸化チタンである。ルチル型二酸化チタン結晶以外には、アナタース型結晶、ブルッカイト型結晶やX線回折では明確なピークを有さないアモルファス状の二酸化チタンが含まれていてもよい。ルチル型、アナタース型、ブルッカイト型の二酸化チタンのそれぞれの含有量はX線回折によって求めることができる。
二酸化チタンのTiOの純度は蛍光X線法で測定して80重量%以上が好ましく、90重量%以上がより好ましく、95重量%以上が更に好ましい。二酸化チタンにはTiOのほかに、二酸化チタン製造工程で使用される添加剤のアルカリ金属元素やリン元素等を含んでいてもよい。この場合にはアルカリ金属元素の含有量は、酸化物換算で0.2重量%以下であるのが好ましく、0.1重量%が更に好ましい。リン元素の含有量は、P換算で1重量%以下であるのが好ましく、0.5重量%以下が更に好ましい。一方、二酸化チタンの耐熱性や硬度を調整するなどの更なる改良のために、二酸化チタンにナトリウム、カリウム、リチウム、銅、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、アルミニウム、ガリウム、マンガン、鉄、ニッケル及びコバルトからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含有させてもよい。このような元素の含有量はその効果に応じて適宜設定することができるが、二酸化チタンに対して0.01〜20重量%程度が好ましく、0.1〜5重量%程度がより好ましい。
摩擦材における柱状ルチル型二酸化チタンの含有量は適宜設定できるが、摩擦材組成物全体の1〜50重量%程度が好ましく、3〜45重量%程度がより好ましく、5〜40重量%程度が更に好ましい。
【0011】
第一の方法
柱状の粒子形状を有するルチル型二酸化チタンの製造方法としては例えば、通常のルチル型二酸化チタンに、塩化ナトリウムと、オキシリン化合物とを混合した後、加熱焼成し、短軸径が0.01〜0.5μmで、軸比が3〜50の範囲にある針状粒子を得る方法(特公昭47−44974号公報参照)、チタン源、アルカリ金属源及びオキシリン化合物を含む混合物を、針状二酸化チタン核晶の存在下で加熱焼成し、短軸の重量平均径が0.05〜0.8μmの範囲、長軸の重量平均径が3〜7μmの範囲にあり、70重量%以上の粒子が2μm以上の長軸径を有する針状粒子を得る方法(特開平1−286924号公報参照)等の公知の方法を用いることができる。
【0012】
第二の方法
また、ルチル型二酸化チタンの重量平均長軸径が5〜15μmの範囲のものを製造する好ましい方法としては、前記の特公昭47−44974号公報、特開平1−286924号公報等に記載の方法で製造した軸比が2以上の二酸化チタン核晶の存在下、チタン化合物、アルカリ金属化合物及びオキシリン化合物を加熱焼成して二酸化チタン核晶を成長させる第一の工程、成長させた二酸化チタン核晶の存在下、更にチタン化合物、アルカリ金属化合物及びオキシリン化合物を添加し加熱焼成する第二の工程を経て、柱状の粒子形状を有する二酸化チタンを製造する。
【0013】
前記の二酸化チタン核晶は、新たな二酸化チタンが析出し成長するためのシードになるものであって、長軸径が短軸径より大きく、1を超える軸比(重量平均長軸径/重量平均短軸径)を有するものであり、2以上の軸比を有するものを好ましく用いられ、より好ましくは軸比が3以上、更に好ましくは5〜40、最も好ましくは10〜40である。その粒子形状は針状、棒状、紡錘状、繊維状、柱状等と呼ばれる軸比を有するものも包含する。このような二酸化チタン核晶は、例えば、特公昭47−44974号公報等に記載されている公知の方法を用いることができる。特公昭47−44974号公報記載の方法は、(a)ルチル型二酸化チタン又はルチル型の核晶を含有する二酸化チタン、(b)塩化ナトリウム又は塩化ナトリウムを50モル%含むアルカリ金属の塩化物及び/又は硫酸塩との混合物、(c)オキシリン化合物を、成分(b)と(a)を重量比で1:0.05〜1:2の範囲で、成分(b)と(c)をリン基準で算出した重量比で5:1〜130:1の範囲で混合し、725〜1000℃の範囲の温度で0.5〜10時間の範囲で加熱焼成した後、可溶性塩類を洗浄、除去してから固液分離する方法である。
【0014】
次に、二酸化チタン核晶、チタン化合物、アルカリ金属化合物及びオキシリン化合物を混合する。これらの混合は、粉体を乾式で混合しても、懸濁液にして湿式混合してもよい。二酸化チタン核晶の使用量は、TiO基準で混合物中の全TiO分の1〜99重量%の範囲が好ましく、残部はチタン化合物である。二酸化チタン核晶の使用量がこの範囲にあると、核晶の別相に小さい粒子が生成し難く、粒度分布が整った状態で核晶を成長させ易くなる。より好ましい範囲は3〜60重量%、更に好ましくは5〜40重量%である。アルカリ金属化合物の使用量は、混合物中の全TiO分1重量部に対し、アルカリ金属元素基準で0.03〜7重量部の範囲が好ましい。アルカリ金属化合物の使用量がこの範囲にあると、核晶が長軸方向に成長し易くなる。より好ましい範囲は、0.1〜4重量部である。オキシリン化合物の使用量は、混合物中の全TiO分1重量部に対し、リン基準で0.005〜1重量部の範囲が好ましい。オキシリン化合物の使用量がこの範囲にあると、整った形状に核晶を成長させ易い。より好ましい範囲は、0.01〜0.6重量部である。
チタン化合物としては、含水酸化チタン(TiO・HO、TiO・2HO)、水酸化チタン(Ti(OH))、酸化チタン(TiO)、硫酸チタン(Ti(SO)、硫酸チタニル(TiOSO)、塩化チタン(TiCl)、チタンアルコキシド(Ti(OR):Rはアルキル基)等が挙げられ、これらから選ばれる少なくとも1種を用いることができ、特に含水酸化チタンは反応性が高く、取扱いが容易であるので好ましい。
アルカリ金属化合物は生成する二酸化チタン粒子の柱状化を促進する作用があると考えられる。アルカリ金属化合物としては、ナトリウム、カリウム、リチウム等の塩化物、炭酸塩、水酸化物等が挙げられ、これらから選ばれる少なくとも1種を用いることができる。中でも、塩化ナトリウムは柱状化の促進効果が高く好ましい。
オキシリン化合物は、リンと酸素を含有する化合物を言い、チタン酸塩生成の抑制、二酸化チタン粒子の形状を整える効果があり、製造する二酸化チタンのルチル化を促進する働きも有すると考えられる。オキシリン化合物としては、第一リン酸ナトリウム、第二リン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウムなどを好ましく用いることができる。
【0015】
引き続き、混合物を加熱焼成(第一の工程)する。加熱焼成温度は700〜1000℃の範囲が好ましい。加熱焼成温度がこの範囲であれば、チタン化合物が二酸化チタンに転化し易く、成長した核晶同士が焼結し難くなる。より好ましい加熱焼成温度は、800〜900℃の範囲である。加熱焼成には、流動炉、静置炉、ロータリーキルン、トンネルキルン等の公知の加熱焼成炉を用いることができる。二酸化チタン核晶は、短軸の重量平均径を0.05〜0.8μmの範囲、長軸の重量平均径を3〜7μmの範囲にまで成長させると、所望の二酸化チタンが得られ易いので好ましい。成長させた二酸化チタン核晶は必要に応じて、水中に入れ懸濁した後、煮沸したりあるいは沸点以下の温度に加温して可溶性塩類を溶解してもよく、その後濾過、洗浄して可溶性塩類を除去してもよく、焼結の程度などに応じて分級や乾式粉砕を行ってもよい。
【0016】
次いで、成長させた二酸化チタン核晶に、更にチタン化合物、アルカリ金属化合物及びオキシリン化合物を添加し混合し、次いで、好ましくは700〜1000℃の範囲の温度で加熱焼成(第二の工程)する。加熱焼成温度がこの範囲であれば、チタン化合物が二酸化チタンに転化し易く、また、得られた粒子同士が焼結し難く、より粒子形状や粒度分布が整った粒子を得るのに有利となる。更に好ましい加熱焼成温度は、800〜900℃の範囲である。第二の工程で使用するチタン化合物、アルカリ金属化合物、オキシリン化合物や焼成炉等は、第一の工程と同様のものを使用することができる。二酸化チタンを得た後必要に応じて、水中に入れ懸濁した後、煮沸したりあるいは沸点以下の温度に加温して可溶性塩類を溶解してもよく、その後濾過、洗浄して可溶性塩類を除去してもよく、焼結の程度などに応じて分級や乾式粉砕を行ってもよい。
【0017】
また、前記の第一の工程、第二の工程で2回の加熱焼成によって得られた二酸化チタンを更に大きく成長させることもできる。このためには、得られた二酸化チタンを核晶として用い、加熱焼成を繰り返す。すなわち、2以上の軸比を有する二酸化チタン核晶の存在下、チタン化合物、アルカリ金属化合物及びオキシリン化合物を加熱焼成して、二酸化チタン核晶を成長させる工程を2回以上、好ましくは2回〜5回程度繰り返して、二酸化チタン核晶を成長させて、二酸化チタンを製造することができる。この方法において、二酸化チタン核晶、チタン化合物、アルカリ金属化合物及びオキシリン化合物のそれぞれの混合量を調整して、各成長工程において、用いた二酸化チタン核晶に対する成長後の二酸化チタン核晶の重量平均長軸径の比が1.2〜7となるように成長させるのが好ましく、2〜7になるように成長させるのがより好ましい。このような範囲で成長させると粒度分布が一層よいものができる。
【0018】
第三の方法
また、二酸化チタンの重量平均長軸径が1〜5μmのものを製造する好ましい方法としては、前記の特公昭47−44974号公報、特開平1−286924号公報等に記載の方法で製造した軸比が2以上の二酸化チタン核晶の存在下、液相中で加水分解性チタン化合物を加水分解して生成物を得た後、アルカリ金属化合物を含む焼成処理剤の存在下で前記の生成物を900〜1200℃の範囲の温度で加熱焼成して製造する。
この方法では、先ず、加水分解性チタン化合物の溶液に二酸化チタン核晶を添加するか、二酸化チタン核晶の懸濁液中に加水分解性チタン化合物の溶液を添加した後、液相中で加水分解性チタン化合物を加水分解する。この場合の二酸化チタン核晶は、加水分解性チタン化合物に対して0.5〜30重量%の範囲で用いると、所望の二酸化チタン粒子が得られ易いので好ましく、1〜15重量%の範囲がより好ましい。加水分解には、加熱加水分解、中和加水分解等を用いることができるが、中和剤を要さないので、工業的には加熱加水分解が好ましい。加熱加水分解は、50℃以上の温度で行うと加水分解が進み易いので好ましく、80℃以上であれば更に好ましい。加熱加水分解の温度には特に上限はないが、100℃未満の温度であれば、常圧下で加水分解を行うことができるので好ましい。中和加水分解は、pHを5.5〜9の範囲とすると加水分解が進み易いので好ましく、6〜8の範囲とするのがより好ましい。加水分解生成物は、加水分解性チタン化合物の加水分解により生成した含水酸化チタン(又は水酸化チタン)が、該核晶の表面に沈着したものと考えられる。
加水分解性チタン化合物としては、例えば、硫酸チタニル(TiOSO)、四塩化チタン、チタンアルコキシド等を用いることができ、コストの点で硫酸チタニル、四塩化チタンを用いるのが好ましい。中和剤には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の炭酸塩、アンモニア、炭酸アンモニウム、硝酸アンモニウム等のアンモニウム化合物等を用いることができる。
【0019】
次に、前記の加水分解生成物の懸濁液に、アルカリ金属化合物を含む焼成処理剤を添加、混合した後、必要に応じて脱水し、次いで、900〜1200℃の範囲の温度で加熱焼成する。アルカリ金属化合物を含む焼成処理剤は、加熱焼成時に二酸化チタンの柱状化を促進する作用を有するものであり、アルカリ金属化合物としてはナトリウム化合物、カリウム化合物、リチウム化合物等が挙げられ、これらから選ばれる1種以上を用いることができ、中でもナトリウム化合物とカリウム化合物を併用すると、柱状化促進の効果が高く好ましい。ナトリウム化合物としては水酸化ナトリウム、塩化ナトリウム、炭酸ナトリウム等を、カリウム化合物としては水酸化カリウム、塩化カリウム等を、リチウム化合物としては水酸化リチウム、塩化リチウム等を用いることができる。その使用量は、加水分解生成物に含まれるTiOに換算した総チタン量に対し、それぞれ、NaO換算で0.1〜1.5重量%の範囲、KO換算で0.1〜1.5重量%の範囲、LiO換算で0.1〜1.5重量%の範囲が好ましい。より好ましい範囲は、NaO換算で0.1〜1重量%、KO換算で0.2〜1.2重量%、LiO換算で0.2〜1.2重量%の範囲である。
【0020】
この方法の実施態様として、アルミニウム化合物及び/又はリン化合物が前記焼成処理剤に含まれていると、安定してルチル型結晶を生成させることができるので好ましい。アルミニウム化合物としては酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム等が、リン化合物としてはオルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸及びそれらの塩等が挙げられる。アルミニウム化合物、リン化合物の使用量は、加水分解生成物に含まれるTiOに換算した総チタン量に対し、Al換算で0.1〜1.5重量%の範囲が、P換算で0.1〜1.5重量%の範囲が好ましく、Al換算で0.2〜1.2重量%の範囲が、P換算で0.2〜1.2重量%の範囲がより好ましい。また、ルチル型結晶を安定化させる化合物としては、アルミニウム化合物、リン化合物以外にも、例えば、マグネシウム化合物、亜鉛化合物等を用いることもできる。好ましい使用量は化合物によって異なるが、マグネシウム化合物であれば、前記のTiO換算値に対し、MgOとして0.005〜0.1重量%の範囲であり、より好ましい範囲は0.01〜0.05重量%である。マグネシウム化合物としては塩化マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム等を用いることができる。
【0021】
上記したいずれの方法においても、二酸化チタンにナトリウム、カリウム、リチウム、銅、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、アルミニウム、ガリウム、マンガン、鉄、ニッケル及びコバルトからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含有させるには、前記の柱状二酸化チタン製造の加熱焼成工程の前に、所望の元素を含む化合物を添加し混合し、次いで、加熱焼成して製造することができる。ナトリウム、カリウム、リチウムについては前記したアルカリ金属化合物の添加により代用できる。
【0022】
このようにして二酸化チタンを製造した後は、必要に応じて公知の方法により、乾式粉砕して二酸化チタンの粒度を調整してもよい。また、二酸化チタンを必要に応じて溶媒に懸濁した後、ろ過、洗浄し、乾燥して不純物を除去してもよく、前記の懸濁の際に湿式粉砕して十分な粉砕を行ってもよい。湿式粉砕には縦型サンドミル、横型サンドミル等が、乾燥にはバンド式ヒーター、バッチ式ヒーター等が、乾式粉砕にはハンマーミル、ピンミル等の衝撃粉砕機、解砕機等の摩砕粉砕機、ジェットミル等の気流粉砕機や、噴霧乾燥機等の機器を用いることができる。
【0023】
また、二酸化チタンの表面を無機化合物や有機化合物の少なくとも一種で被覆処理しておくと、結合材との親和性が良くなり二酸化チタンが結合材に分散し易くなり、摩擦材の強度を向上させることができるため、好ましい。無機化合物と有機化合物を組み合わせて被覆してもよく、有機化合物を二酸化チタンの最外部に被覆すると、特に分散性の改良効果が大きくより好ましい。無機化合物や有機化合物の被覆量は、二酸化チタンに対して0.1〜30重量%程度が好ましく、0.3〜10重量%程度がより好ましく、1.0〜5重量%程度が更に好ましい。
無機化合物としては、例えば、ケイ素、ジルコニウム、アルミニウム、チタニウムの酸化物、水和酸化物が挙げられ、これらを単独で用いてもよく、2種以上を積層させたり、混合させたりして併用することもできる。有機化合物としては、例えば、(I)有機ケイ素化合物、(II)有機金属化合物、(III)ポリオール類、(IV)アルカノールアミン類又はその誘導体、(V)高級脂肪酸類又はその金属塩、(VI)高級炭化水素類又はその誘導体等が挙げられる。有機化合物も単独でも、2種以上を積層又は混合するなどして併用することができる。用いることができる有機化合物をより具体的に挙げると、
(I)有機ケイ素化合物としては、(1)オルガノポリシロキサン類((a)ストレート型ポリシロキサン(ジメチルポリシロキサン、メチル水素ポリシロキサン、メチルメトキシポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等)、(b)変性型ポリシロキサン(ジメチルポリシロキサンジオール、ジメチルポリシロキサンジハイドロジェン、側鎖又は両末端アミノ変性ポリシロキサン、側鎖又は両末端又は片末端エポキシ変性ポリシロキサン、両末端又は片末端メタクリル変性ポリシロキサン、側鎖又は両末端カルボキシル変性ポリシロキサン、側鎖又は両末端又は片末端カルビノール変性ポリシロキサン、両末端フェノール変性ポリシロキサン、側鎖又は両末端メルカプト変性ポリシロキサン、両末端又は側鎖ポリエーテル変性ポリシロキサン、側鎖アルキル変性ポリシロキサン、側鎖メチルスチリル変性ポリシロキサン、側鎖カルボン酸エステル変性ポリシロキサン、側鎖フルオロアルキル変性ポリシロキサン、側鎖アルキル・カルビノール変性ポリシロキサン、側鎖アミノ・両末端カルビノール変性ポリシロキサン等)等、又は、それらの共重合体、(2)オルガノシラン類((a)アミノシラン(アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等)、(b)エポキシシラン(γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等)、(c)メタクリルシラン(メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等)、(d)ビニルシラン(ビニルトリエトキシシラン等)、(e)メルカプトシラン(3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等)、(f)クロロアルキルシラン(3−クロロプロピルトリエトキシシラン等)、(g)アルキルシラン(n−ブチルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルメチルジエトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、n−オクチルトリエトキシシラン、n−デシルトリメトキシシラン、n−ヘキサデシルトリエトキシシラン、n−オクタデシルトリメトキシシラン、n−オクタデシルメチルジメトキシシラン等)、(h)フェニルシラン(フェニルトリエトキシシラン等)、(i)フルオロアルキルシラン(トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリデカフルオロオクチルトリメトキシシラン等)等、又は、それらの加水分解生成物、(3)オルガノシラザン類(ヘキサメチルシラザン、ヘキサメチルシクロトリシラザン等)等が挙げられる。
(II)有機金属化合物としては、(1)有機チタニウム化合物((a)アミノアルコキシチタニウム(イソプロピルトリ(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネート等)、(b)リン酸エステルチタニウム(イソプロピルトリス(ジオクチルピロホスフェート)チタネート、ビス(ジオクチルピロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルピロホスフェート)エチレンチタネート等)、(c)カルボン酸エステルチタニウム(イソプロピルトリイソステアロイルチタネート等)、(d)スルホン酸エステルチタニウム(イソプロピル−n−ドデシルベンゼンスルホニルチタネート等)、(e)チタニウムキレート(チタニウムジイソプロポキシビスアセチルアセトネート、チタニウムジイソプロポキシビスエチルアセトアセテート、オクチレングルコールチタネート等)等)、(f)亜リン酸エステルチタニウム錯体(テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート等)、(2)有機ジルコニウム化合物((a)カルボン酸エステルジルコニウム(ジルコニウムトリブトキシステアレート等)、(b)ジルコニウムキレート(ジルコニウムトリブトキシアセチルアセトネート等)等)、(3)有機アルミニウム化合物(アルミニウムキレート(アルミニウムアセチルアセトネートジイソプロピレート、アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレート、アルミニウムビスエチルアセトアセテートモノアセチルアセトネート、オクタデシレンアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート等)等が挙げられる。
(III)ポリオール類としては、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
(IV)アルカノールアミン類としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミン等が挙げられ、その誘導体としては、これらの酢酸塩、シュウ酸塩、酒石酸塩、ギ酸塩、安息香酸塩等の有機酸塩等が挙げられる。
(V)高級脂肪酸類としては、ステアリン酸、ラウリン酸、オレイン酸等が挙げられ、その金属塩としては、これらのアルミニウム塩、亜鉛塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩等が挙げられる。
(VI)高級炭化水素類としては、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス等が挙げられ、その誘導体としては、これらのパーフルオロ化物等が挙げられる。
二酸化チタンの表面に無機化合物や有機化合物を被覆するには、二酸化チタンの乾式粉砕の際、溶媒に懸濁する際あるいは湿式粉砕する際などに公知の方法を用いて行うことができる。
【0024】
本発明の摩擦材は、前記の柱状の粒子形状を有するルチル型二酸化チタンを結合材に配合して得られ、そのほか必要に応じて繊維基材、その他の摩擦調整剤(充填材、潤滑材、防錆材、研削材)等の成分を適宜含有することができる。
結合材としては、通常摩擦材に用いられる公知のものを使用することができ、例えばフェノール樹脂、ノボラック型のストレートフェノール樹脂、NBRゴム変性ハイオルソフェノール樹脂、NBRゴム変性フェノール樹脂、アクリルゴム変性フェノール樹脂等の各種ゴム変性フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、NBR(アクリロニトリルブタジエンゴム)、ニトリルゴム、アクリルゴムなどが挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。結合材の含有量は適宜設定することができ、好ましくは摩擦材組成物全体5〜50重量%程度、より好ましくは10〜40重量%程度含有する。
【0025】
繊維基材としては、通常摩擦材に用いられる無機繊維、有機繊維を使用できる。このような繊維基材としては、例えば鉄、銅、真鍮、青銅、アルミニウム等の金属繊維、セラミック繊維、チタン酸カリウム繊維、ガラス繊維、ロックウール、ウォラストナイト、セピオライト、アタパルジャイト、人工鉱物質繊維等の無機繊維、炭素繊維、アラミド繊維、アラミドパルプ、ポリイミド繊維、ポリアミド繊維、フェノール繊維、セルロース、アクリル繊維等の有機繊維が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。この繊維基材は、短繊維状、粉末状等の形態で使用することができ、その添加量は適宜調整することができるが、摩擦材組成物全体に対して好ましくは1〜60重量%程度、より好ましくは5〜40重量%程度である。
【0026】
摩擦調整剤は、摩擦調整、硬度や気孔率等の特性改良などの作用を有するものであり、通常摩擦材に用いられる有機摩擦調整剤、無機摩擦調整剤を必要に応じて用いることができる。有機摩擦調整剤としては、例えばカシューダスト、タイヤリク、ゴムダスト(ゴム粉末、粒)、ニトリルゴムダスト(加硫品)、アクリルゴムダスト(加硫品)、レジンダスト、フリクションダストなどが挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。この有機摩擦調整剤の添加量は適宜調整することができるが、摩擦材組成物全体に対して好ましくは1〜30重量%程度、より好ましくは10〜25重量%程度である。一方、無機摩擦調整剤としては、硫酸バリウム、バライタ(酸化バリウム)、炭酸カルシウム、マイカ、コークス、グラファイト等のほか、鉄、銅、アルミニウム等の金属粉を使用することができる。この無機摩擦調整剤の含有量は適宜調整することができるが、柱状ルチル型二酸化チタンとの合量として、摩擦材組成物全体の1〜80重量%程度が好ましく、10〜50重量%程度含有するのがより好ましい。そのうち柱状ルチル型二酸化チタンの含有量は、摩擦材組成物全体の1〜50重量%程度が好ましく、3〜45重量%程度がより好ましく、5〜40重量%程度が更に好ましい。
【0027】
本発明の摩擦材は従来公知の摩擦材の製造方法に準じて適宜製造することができる。例えば、少なくとも柱状の粒子形状を有するルチル型二酸化チタン及び結合材、好ましくは少なくとも柱状ルチル型二酸化チタン、結合材及び繊維基材を混合した後、成形し、加熱硬化して得られる。混合には、ヘンシェルミキサー、レディゲミキサー、アイリッヒミキサー等の混合機を用いることができ、均一に混合した後、必要に応じて成形用金型内で予備成形し、この予備成形物を成形温度130〜200℃程度、成形圧力100〜1000kgf/cm(9.8〜98MPa)程度で2〜15分間成形し、次に、得られた成形品を140〜250℃程度の温度で2〜48時間熱処理(加熱硬化)して製造する。その後、必要に応じてスプレー塗装、焼き付け、研磨処理を施してもよい。また、自動車等のディスクパッドを製造する場合には、予め洗浄、表面処理、接着剤を塗布した鉄又はアルミニウム製プレート上に予備成形物を載せ、この状態で成形、熱処理、スプレー塗装、焼き付け、研磨することにより製造することができる。
【実施例】
【0028】
以下に本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0029】
柱状二酸化チタンの製造例
二酸化チタンゾルの乾燥粉砕物(TiO換算)40重量部、アルカリ金属化合物として塩化ナトリウム40重量部及びオキシリン化合物として第二リン酸ナトリウム(NaHPO)10重量部を用い、これらを均一に混合し、ルツボに入れて、電気炉で825℃で3時間焼成した。次いで、焼成物を脱イオン水中に投入し、1時間煮沸した後濾過、洗浄して可溶性塩類を除去し、乾燥、粉砕して、短軸の重量平均径が0.25μm、長軸の重量平均径が3.4μmの針状二酸化チタン核晶を得た。
引き続き、二酸化チタンゾルの乾燥粉砕物(TiO換算)38重量部、アルカリ金属化合物として塩化ナトリウム40重量部、オキシリン化合物として第二リン酸ナトリウム(NaHPO)10重量部及び前記で得られた針状二酸化チタン核晶2重量部とを均一に混合し、ルツボに入れて、電気炉で825℃の温度で3時間焼成し、針状酸化チタン核晶を成長させた(第一の工程)。
次いで、成長させた針状二酸化チタン核晶を脱イオン水中に投入し、1時間煮沸した後濾過、洗浄して可溶性塩類を除去し、乾燥、粉砕して、成長した針状二酸化チタン核晶(試料a)を得た。
なお、ここで使用した二酸化チタンゾルは、TiOとして200g/リットルの濃度の四塩化チタン水溶液を30℃に保持しながら水酸化ナトリウム水溶液で中和してコロイド状の非晶質水酸化チタンを析出させ、このコロイド状水酸化チタンを70℃で5時間熟成してルチル型の微小チタニアゾルとしたものである。
【0030】
前記の二酸化チタンゾルの乾燥粉砕物(TiO換算)85重量部、アルカリ金属化合物として塩化ナトリウム50重量部、オキシリン化合物としてピロリン酸ナトリウム10重量部を用い、これらと成長させた針状二酸化チタン核晶(試料a)15重量部とを均一に混合し、ルツボに入れて、電気炉で825℃の温度で3時間焼成し、針状二酸化チタン核晶を更に成長させた(第二の工程)。
次いで、焼成物を脱イオン水中に投入して懸濁液とし、この中に水酸化ナトリウム水溶液(200g/リットル)を添加して系のpHを13.0に調整した。その後90℃に加熱して2時間撹拌してアルカリ処理を行い、次に塩酸水溶液(100g/リットル)を添加して系のpHを7.0に調整した後、濾過、洗浄した。得られたケーキを再び水中に投入して水懸濁液とした後、塩酸水溶液(100g/リットル)を添加してpHを1.0に調整し、90℃に加熱して2時間撹拌後、濾過、洗浄、乾燥、粉砕し、柱状二酸化チタン(試料A)を得た。
この試料Aはルチル型結晶を有しており、アナタース型結晶、ブルッカイト型結晶を含まないものであった。試料Aには、二酸化チタンのTiに対する原子比でナトリウムが0.0002含まれており、リンがPとして0.06重量%含まれ、TiO純度は99.6重量%であった。
【0031】
棒状二酸化チタンの製造例
硫酸チタニル溶液に、市販のルチル型二酸化チタン(FTL−100:石原産業社製、平均長軸径1.68μm、平均短軸径0.13μm)を核晶として硫酸チタニルに対し5重量%添加、混合し、99℃の温度で4時間加熱して、硫酸チタニルを加水分解して生成物を得た。この加水分解生成物に含まれるTiOに換算した総チタン量は、1000gであった。加水分解生成物の懸濁液に前記の総チタン量に対し、Al換算で0.2重量%に相当する硫酸アルミニウム、NaO換算で0.5重量%に相当する炭酸ナトリウム、KO換算で0.5重量%に相当する水酸化カリウム、P換算で0.2重量%に相当するオルトリン酸を添加、混合し、脱水した。得られた脱水ケーキを、電気炉を用いて1050℃で加熱焼成し、次いで、ハンマーミルで粉砕して、ルチル型の棒状二酸化チタン(試料B)を得た。
この試料Bはルチル型結晶を有しており、アナタース型結晶、ブルッカイト型結晶を含まないものであった。
【0032】
前記の方法で得られた試料A、Bについて、重量平均長軸径、重量平均短軸径を電子顕微鏡法により測定した結果を表1、2に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
実施例1、2、比較例1〜3
表3に示す組成の摩擦材組成物をレディゲミキサーを用いて均一に混合し、加圧型内で300kgf/cm(29.4MPa)で3秒間加圧して予備成形した。この予備成形物を成形温度150℃、成形圧力300kgf/cm(29.4MPa)の条件下で300秒間成形した後、160℃で1時間熱処理後、210℃で5時間熱処理を行い、実施例1、2、比較例1〜3の乗用車用ブレーキパッドを作製した。なお、比較例2の粒状ルチル型二酸化チタン顔料、比較例3の板状ルチル型二酸化チタンはいずれもアナタース型結晶、ブルッカイト型結晶を含まないものであった。
【0036】
得られた実施例1、2、比較例1〜3のブレーキパッドについて、下記評価方法により、気孔率、摩擦性能試験結果について評価し、比較例1〜3との比較評価を行った結果を表3に示す。
この結果、実施例1、2の気孔率は比較例2、3よりも高く、制動時に発生する摩擦熱を分散することができる。また、実施例1の摩擦性能に関して、その摩擦係数は比較例1〜3に比し高く、その他の性能は比較例1〜3とほぼ同程度あるいはそれ以上の性能を有していた。実施例2の摩擦係数は比較例1〜3に比し高く、その他の性能は比較例1、3に比べてやや劣るものの、比較例2とほぼ同程度あるいはそれ以上の性能を有していた。この結果から本発明の摩擦材の摩擦性能は、高摩擦係数であり、各種の制動条件に対し比較的安定していることがわかった。
(1)気孔率:JIS D4418により測定した値
(2)摩擦性能試験:PD51ディスクブレーキを用い、慣性モーメント44.1kg・m、JASO C 406テストコードで試験を実施した。
比較評価・・・◎:比較例1より優れる。○:比較例1と同程度。△:比較例1よりやや劣る。×:比較例1より劣る。
【0037】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の摩擦材は、高摩擦係数であり、各種の制動条件に対し比較的安定しているとともに、摩擦材製造時の安全衛生性が向上し、自動車、大型トラック、鉄道車両、航空機、各種産業機械等のブレーキパッド、ブレーキライニング、ディスクパッド、クラッチフェーシング、ペーパークラッチフェーシング、制輪子などの各種用途に幅広く用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】試料Aの電子顕微鏡写真である。
【図2】試料Bの電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱状の粒子形状を有するルチル型二酸化チタンを含有する摩擦材。
【請求項2】
ルチル型二酸化チタンの重量平均長軸径が1〜15μmである請求項1に記載の摩擦材。
【請求項3】
ルチル型二酸化チタンの重量平均長軸径が5〜15μmである請求項1に記載の摩擦材。
【請求項4】
ルチル型二酸化チタンの重量平均長軸径が1〜5μmである請求項1に記載の摩擦材。
【請求項5】
柱状の粒子形状を有するルチル型二酸化チタンを1〜50重量%含有する請求項1に記載の摩擦材。
【請求項6】
表面を有機化合物で処理したルチル型二酸化チタンを含有する請求項1に記載の摩擦材。
【請求項7】
少なくとも柱状の粒子形状を有するルチル型二酸化チタン及び結合材を混合した後、成形し、加熱硬化することを特徴とする摩擦材の製造方法。

【図2】
image rotate

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−13707(P2008−13707A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−187987(P2006−187987)
【出願日】平成18年7月7日(2006.7.7)
【出願人】(000000354)石原産業株式会社 (289)
【出願人】(000214272)長瀬産業株式会社 (137)
【Fターム(参考)】