説明

播種済み固形培土及びこれを用いた植物の栽培方法

【課題】播種作業を簡単に行えるようにし、発芽率や根付き率を向上させた播種済み固形培土及びこれを用いた植物の栽培方法を提供する。
【解決手段】固形培土1上に種子3が固形培土1の表面に接するように配置されている。種子3の表面全体を覆うようにコーティング層2が形成されている。コーティング層2は、播種済み固形培土に給水した際に、種子3が固形培土1から剥離することを防止するための接着性と、給水又は復元後のコーティング層2が、乾燥しにくくして種子3に水分を供給できるようにするための保水性とを兼ね備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、散布用の種子を、あらかじめ固形培土上に播種した播種済み固形培土及びこれを用いた植物の栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農業従事者の高齢化によって、手播きによる播種作業は重労働となってきている。さらに、一般家庭の園芸普及に伴い、種子から植物を育てようとする傾向も強くなってきている。また、種子によっては微細のものも多く、草花や野菜の種子の内、発芽に光を必要とする明発芽植物の種子は5.0mm以下のものが多い。特に草花の種子は微小のものが多く、直径0.3mm程度のものが多く存在することが知られている。
【0003】
このような種子は、種子から栽培する場合、播種しづらく、それが目的の培土以外に逸脱したり、目的の培土に落下しても定着しなかったり、良好な発芽や生育も期待できない。また、粗孔隙率の大きい土壌や潅水後の沈み込みが大きい土壌では、種子が埋もれて発芽率が極端に低下してしまう。
【0004】
以上のように、播種作業が重労働で難しい作業であり、また、播種後の灌水作業により種子が流亡する場合が多く、正常な発芽や生育が望めないこと等が問題となっていた。これらの問題に対して、近年では種子をタルクやゲルなどの素材で被覆して大きくした被覆種子を用いる方法や種子を封入した土製カプセルを用いる方法が提案されている。
【0005】
被覆種子の場合、全体が大きくなるので非常に播き易くなる。しかし、ゲル被覆種子の場合、分解促進剤を併用しないと、環境によっては被覆層の分解速度が遅くなるので、発芽が抑制されることがある。また、タルク被覆種子の場合、被覆材の厚みが種子に対して厚くなると発芽率が極端に低下することが知られている。また、微小種子の場合は被覆しても0.3mm程度にしかならないため、主としてレタス・ハクサイなど野菜の種子を機械で撒く目的で利用されているに過ぎない。
【0006】
一方、無機質または有機質の材料と種子を希釈混合して播種する方法でも、種子と希釈材の粒径分布や比重が一致しないため、分級による偏りで均一に撒くことが困難である。従ってこれらの方法を用いた場合でも、発芽率の低下が考えられるため、一般家庭向けに販売する場合には、発芽を確保するために過剰な粒数の種子が提供される。しかし、このような種子は、過剰播種による発芽後の間引き作業が必要になるなど、栽培作業において余分な労力を要する原因でもあった。
【0007】
そこで、例えば、特許文献1に示されるように、土壌材料及び有機材料を混合して成形し、その上面に凹部が設けられたペレットを用い、該凹部に種子を接着剤で接着したものが提案されている。また、特許文献2に示されるように、基材に種子及び/または種子剥離防止資材を接着剤で付着することで、発芽率を高く確保した種子付着資材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−154425号公報
【特許文献2】特開2008−220384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の構成では、ペレット自体が種子の被膜のような役割を果たすもので、ペレットの凹部に種子が重なって入れられていることからもわかるように、ペレットに根付かせるものではない。すなわち、吸水によりペレットを崩壊させて、種子を土壌に播くものであり、発芽率や根付き率は、満足できるものが得られない。
【0010】
一方、特許文献2の構成では、球状の資材に種子を付着させたものを土壌に播いているため、文献中にも記載されているように、培養土の種類や状態によって、発芽できないものや、発芽しても根付かないものがあり、効率良く育苗することができない。
【0011】
また、特許文献1、2ともに、種子を付着させるために、接着剤を用いているが、接着剤は種子を基材等に付着させて、剥離を防止するものであるため、吸水機能に乏しく、灌水後に乾燥しやすい。このため、種子からの発芽や根の成長が抑えられ枯れてしまうことがある。
【0012】
本発明は、上述した課題を解決するために創案されたものであり、播種作業を簡単に行えるようにし、発芽率や根付き率を向上させた播種済み固形培土及びこれを用いた植物の栽培方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、植物の根付けのための固形培土と、前記固形培土表面に接して配置された種子と、前記種子の全体を覆うように形成されたコーティング層とを備え、前記コーティング層は接着性と保水性を兼ね備えていることを特徴とする播種済み固形培土である。
【0014】
また、請求項2記載の発明は、前記コーティング層が、水性ゲル化剤と吸水性ポリマーとの混合物で構成されていることを特徴とする播種済み固形培土である。
【0015】
また、請求項3記載の発明は、前記コーティング層には、硬化剤が含まれていないことを特徴とする請求項2記載の播種済み固形培土である。
【0016】
また、請求項4記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の播種済み固形培土に水分を供給し、種子の発芽を促すことを特徴とする播種済み固形培土を用いた植物の栽培方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、固形培土の表面に接して種子が配置されているために、灌水後における固形培土への根付きが良くなる。また、種子の全体を覆っているコーティング層は、接着性と保水性とを兼ね備えているため、灌水時における固形培土からの種子の剥離を防止することができるとともに、コーティング層に水分を保持させることができる。
【0018】
また、長期保存のために、一旦、播種済み固形培土を乾燥させた後、灌水復元して用いる場合には、乾燥時や灌水復元後における固形培土からの種子の剥離を防止することができるとともに、復元したコーティング層に水分を保持させることができる。
【0019】
以上のように、コーティング層が種子に必要な水分を供給することができ、発芽率や根付き率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の播種済み固形培土の構成例を示す図である。
【図2】本発明の播種済み固形培土の製造工程例を示す図である。
【図3】本発明の播種済み固形培土を用いた植物の栽培方法例を示す図である。
【図4】播種済み固形培土の乾燥前と乾燥後とを示す図である。
【図5】播種済み固形培土に給水を行った状態と発芽した状態を示す図である。
【図6】コーティング層の成分を変えて播種済み固形培土を形成し、これを用いて植物を栽培したときの比較を示す図である。
【図7】固形培土の形状が異なる播種済み固形培土の例を示す図である。
【図8】図7の播種済み固形培土を植栽ユニットに設置し、発芽させた状態を示す図である。
【図9】図8の植栽ユニットを用いて壁面緑化を行った状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。図面は模式的なものであり、現実のものとは異なる。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
【0022】
図1は、本発明の播種済み固形培土の構成例を示す。図1(a)は、播種済み固形培土の斜視図を、図1(b)は、図1(a)の断面図を示す。固形培土1上に種子3が固形培土1の表面に接するように配置されている。図では、種子3は、例として3粒配置しているが、固形培土1の表面に接して配置できれば良く、何粒にしても良い。なお、隣り合わせた種が接触しないよう、一定の間隔をあけるのが望ましい。また、固形培土1の形状は、図1のように円筒形でなくても良く、後述するように直方体形状であっても良く、特に形状は制限されない。ただ、種子3の配置の行いやすさや、固形培土の設置の安定性からは、平板状であることが望ましい。
【0023】
ここで、固形培土とは、固形状に固められた培土を意味し、固化剤を用いて育苗用培土を固化した固化培土や、押圧機等により圧力が加えられて圧縮固形化された培土等を含むものである。固形培土の原料には、主として、ピートモス、ココピート、パーライト、バーミキュライト等が用いられる。また、水で復元するタイプの固形培土を用いることもでき、例えば、ジフィープレート(販売元:サカタのタネ)、ヴェルデナイト(販売元:尾関産業株式会社)などが知られている。どちらも主成分にピートモスを使用している。
【0024】
一方、種子3の表面全体を覆うようにコーティング層2が形成されている。コーティング層2は、播種済み固形培土に給水した際に、種子3が固形培土1から剥離することを防止するための接着性と、給水復元後のコーティング層2が、乾燥しにくくして種子3に水分を供給できるようにするための保水性とを兼ね備えている。接着性を確保するために、例えば水性ゲル化剤を、保水性を確保するために例えば吸水性ポリマーを用いる。したがって、コーティング層2は、例えば、水性ゲル化剤と吸水性ポリマーとを含む混合物で構成される。
【0025】
ここで使用する水性ゲル化剤としては、強い粘性を有する均一な流体であれば良く、例えば、天然ゲル、合成有機質ゲル、無機質ゲル等の中から広範囲に選択使用できる。例えばアルギン酸のアルカリ塩、カルボキシメチルセルロースのアルカリ塩、ポリアクリル酸のアルカリ塩、カラギーナン、ゼラチン、カンテン等の植物体のみならず人体に対しても影響がなく安全に使用できる水性ゲル化剤が好ましい。
【0026】
吸水性ポリマーとしては、スルホン酸系、デンプン系、カルボキシメチルセルロース系などの各種吸水性ポリマーが挙げられるが、特にカルボキシメチルセルロース系吸水性ポリマーは毒性が無く、生分解性で環境汚染の問題が発生しない等の理由により好ましい。
【0027】
図2は、図1の播種済み固形培土を製造する方法を示す。まず、図2(a)に示すように、固形培土1にコーティング層2の原料となるコーティング剤を適量滴下する。次に、図2(b)に示すように、種子3をコーティング層2の表面の適切な位置に載置し、種子3を上から棒状のもので押圧して、種子3をコーティング層2の中側に押し込む。このときに、押圧するには、例えば、ピンセット等を用いても良いし、棒状のもので自動的に押し付けられるような機械を用いても良い。最終的に、図2(c)のように、固形培土1の表面に接触するように種子3が配置されるようになれば、押圧を解除する。
【0028】
この状態で、播種済み固形培土に灌水して使用し、種子からの発芽を待つようにしても良い。一方、長期保存するためには、播種済み固形培土の乾燥、特にコーティング層2の乾燥を行う。乾燥は、種子にダメージを与えない程度の温度で、かつコーティング層2に含まれる水分が種子の発芽ができない水分率になるまで行う。例えば、乾燥は常温での通風乾燥とし、約1時間〜2時間行えば良い。
【0029】
以上のように、播種済み固形培土を製造する工程で、図2(a)、(b)のように、コーティング層2の原料となるコーティング剤を最初に滴下した後に、種子を配置し、この種子を押圧するようにしている。反対に、まず種子を固形培土上に配置して、その後コーティング剤を滴下する方法もあるが、この場合だと、コーティング剤の滴下により、種子が動いたり、コーティング剤を適量滴下できなかったりするため、図2のように製造するのが良い。また、図2(b)で、押圧せずに、種子3がコーティング層2の表面に載った状態で乾燥させてしまうと、給水復元後も種子3がコーティング層2の表面に載った状態で復元される。このため、固形培土1から種子3が浮いた状態となるので、根付きが悪くなる。
【0030】
図3は、上記のように製造された播種済み固形培土17(図1と同様の構成)を用いて、給水復元し、栽培する方法を示す。図3(a)は、容器15に播種済み固形培土17を入れ、容器内に水を、破線のラインまで注水した状態を示す。16は注水された水を示す。この注水により、播種済み固形培土17は復元し、図3(b)のような状態となる。容器15内への注水量は、固形培土1の形状が崩れない程度の量とすることが望ましい。また、上記以外の給水復元方法として、容器15内にあらかじめ水を適量入れておき、その後、容器15に播種済み固形培土17を浸漬するようにしても良い。
【0031】
ここで、コーティング層2まで水に浸漬されず、コーティング層2に直接水が供給されなくても、固形培土1が水分を十分吸収していれば、固形培土1からコーティング層2に水分が行き渡る。コーティング層2は、接着性と保水性とを兼ね備えているため、種子3の流亡を防ぐことができるとともに、種子3周辺に水分を保持させることができ、発芽に必要な水分を供給することができる。図3(c)は、種子3から発芽し、苗立ちした状態を示す。種子3周辺に水分を保持させることができているため、苗立ちした状態で図3(c)に示すように、コーティング層2は分解されてなくなっている。なお、容器15は、給水復元後、播種済み固形培土17全体の乾燥を防ぐ効果があるので、図3(c)の状態で使用することが望ましい。
【0032】
図4と図5は実際に播種済み固形培土を作製した後乾燥させ、その後に給水復元、発芽に至った結果を示す。図4(a)は、播種済み固形培土を製造した直後の乾燥前の状態である。図4(b)は、播種済み固形培土を通風乾燥させた後の状態を示す。図5(a)は、図4(b)の乾燥させた播種済み固形培土を容器に移し、給水復元した直後の状態を示す。図5(b)は、図5(a)から種子が発芽し、生育した状態を示す。
【0033】
次に、コーティング層の成分により、苗立ち率がどのように、変化するのか比較例と実施例を示す。固形培土1には、ジフィープレートを用いた。コーティング層2には、水性ゲル化剤のみを用いた場合を比較例とし、水性ゲル化剤と吸水性ポリマーとの混合物のみを用いた場合を実施例とした。
【0034】
試験には、かすみ草、コスモス、クリサンセマムの3種類の種子を用いた。1種類の種子について、固形培土1に10粒播種して形成した播種済み固形培土を2個用いた。したがって、1種類の種子に対しては、20粒使用され、これが3種類であるから、合計3×20=60粒の種子に対する苗立ち率を比較例、実施例ともに各々算出した。また、水性ゲル化剤には、アルギン酸系水性ゲルを、吸水性ポリマーにはカルボキシメチルセルロース系吸水性ポリマーを使用した。
【0035】
比較例に使用したコーティング層は、水溶液に対するアルギン酸系水性ゲルの割合が0.6重量%になるように調整した。一方、実施例に使用したコーティング層は、水溶液に対するアルギン酸系水性ゲルの割合が0.6重量%、カルボキシメチルセルロース系吸水性ポリマーの割合が0.96重量%になるように調整した。
【0036】
そして、上記コーティング層を用いて、比較例、実施例ともに種子を固形培土に付着させ通風乾燥した後に、図3又は図5に示すように、灌水して復元させた後の苗立ち率を調べた。この結果を、図6に示す。苗立ち率とは、固形培土に播種した種子が発芽し、コーティング層から突出し、さらに固形培土中から出芽し、その第一葉が完全に展開した、欠陥のない植物体となった状態を「苗立ち」したと云い、全播種数に対する「苗立ち」の割合(%)を「苗立ち率」とした。
【0037】
図6からわかるように、比較例、実施例ともに、乾燥後の種子剥離率は0%であり、乾燥後の固形培土表面の状態も、土の盛り上がり等なく良好であった。さらに、比較例、実施例ともに、灌水復元後の種子付着状況は、種子の剥離や流亡はなく、固形培土に固定された状態で復元された。しかし、苗立ち率は、比較例が20%に対して、実施例は56.7%であり、苗立ち率については倍以上の開きが見られた。この苗立ち率に関係することとして、復元後の水性ゲル化剤の分解状態を調べたところ、比較例では、一部の種子が苗立ち後も水性ゲル化剤がフィルム化して残存しており、灌水後の乾燥が早かったことを示している。一方、実施例では、コーティング層に吸水性ポリマーが含まれており、水分が長く保持されていたため、水性ゲル化剤は分解され残存はなかった。
【0038】
図6には記載していないが、試験的に、コーティング層を吸水性ポリマーのみで形成し、種子を固形培土に付着させて、通風乾燥して図1のような播種済み固形培土を形成した。この播種済み固形培土を灌水して復元させて見た。まず、乾燥後に種子の剥離が見られ、乾燥後の固形倍土表面において培土の盛り上がりが見られた。さらに、灌水復元後にも種子の剥離が見られ、流亡していた。
【0039】
上述したように、実施例では、コーティング層2の原料となるコーティング剤は、アルギン酸系水性ゲルとカルボキシメチルセルロース系吸水性ポリマーと水を材料としている。アルギン酸系水性ゲルのみではコーティング層の復元後乾燥しやすく、水を弾いてしまうため、アルギン酸系水性ゲルは分解されずに、フィルム化した状態で残る。それによって植物の芽や根の生長が抑えられ、コーティング層から外部に芽や根が出ることができずに枯死する場合がある。
【0040】
またカルボキシメチルセルロース系吸水性ポリマーのみでは接着性が弱く、乾燥作業後や灌水復元後に種子が剥離してしまう。2種を混合させることにより、アルギン酸系水性ゲルは乾燥中の種子剥離を防止し、復元時の固形培土の上面灌水による種子の流亡(水圧等によって)を抑制させることができる。一方、カルボキシメチルセルロース系吸水性ポリマーは復元後、種子周辺に水分を保持させることができるので、発芽に必要な水分を種子に供給できる。また、アルギン酸系水性ゲルは、カルボキシメチルセルロース系吸水性ポリマーに保持された水分により、復元後、次第に分解され植物の生育を阻害しない。
【0041】
コーティング層2におけるアルギン酸系水性ゲルの配合比率は、0.6重量%以下が望ましい。それ以上であると粘度が高くて均一に分散されず、また、一旦乾燥させた後、復元すると乾燥の度合いが高くなり植物の生育の生長を抑えてしまう。一方、カルボキシメチルセルロース系吸水性ポリマーの配合比率は1重量%以下が望ましい。こちらもアルギン酸系水性ゲル同様、それ以上であると粘度が高くて均一に分散されず、その後の取扱いが出来なくなる。また復元後、乾燥にさらされると、硬くなり、植物の生育を阻害してしまう。
【0042】
なお、コーティング層2の原料となるコーティング剤は、水性ゲル化剤と吸水性ポリマーと水の成分に、種子の発芽から初期生育までの間に必要な栄養物質であるデンプンや糖を添加し、その他、必要に応じ周知の殺菌剤、殺虫剤、動物忌避剤等を必要量を添加して用いても良い。
【0043】
また、本発明の播種済み固形培土では、コーティング層に硬化剤が含まれていないことも特徴の1つである。コーティング層を硬化させるために、例えば、塩化カルシウム水溶液等の硬化剤を用いると、水に対して不溶化されたコーティング層が形成される。そして、一旦、コーティング層を乾燥し、再度吸水・復元させる場合において、カルシウムイオンに接触した吸水性ポリマーは吸水・復元が殆ど進行せず、種子の発芽、生育の妨げになるため、硬化剤を使用しない。
【0044】
また、コーティング層2について、好光性種子(発芽するのに光を必要とする種子)の場合は、無色透明であるコーティング層を使用する。嫌光性種子(発芽に光を必要としない種子)の場合、遮光性を有する分散物質をコーティング層に添加することで、固形培土表面に種子を接着させた場合も、該コーティング層によって光の入射を抑えることができる。遮光性を有する分散物質としては、例えば、遮光性を有する顔料、遮光性を有する染料、培土、細粒のバーミキュライト、砂等が挙げられる。また、遮光性を有する顔料の例として、炭、活性炭等がある。嫌光性種子を用いて、無色透明のコーティング層と活性炭を添加したコーティング層で比較栽培したところ、活性炭を添加したコーティング層の方が根の張りも良く、生育が向上した。
【0045】
次に、本発明の播種済み固形培土の使用例を以下に示す。図7は、図1とは固形培土の形状が異なるだけで、基本的に同じ構成である。固形培土10の表面に接触するように種子3が配置されており、この種子3の全体を覆うように、コーティング層2が形成されている。固形培土10は、直方体形状又は立方体形状に形成されている。ここで、固形培土10の大きさを小さくし、種子3を1粒だけにして、ゲル被覆種子等の替わりに、圃場に播種して用いることもできる。この場合、固形培土の形状を図7のようにしておくと、播種済み固形培土を散布した場合、ゲル被覆種子等と比較して転がりにくいという利点がある。
【0046】
一方、図7のように構成された固形培土10を植栽ユニット20の各植栽部20aに固定して、2次元状に並べた播種済み固形培土とすることもできる。植栽部20aは、植栽ユニット20に設けられた凹部であり、固形培土10と同じ形状で構成されている。そして、各植栽部20aに灌水して、発芽させて苗立ちの状態となったことが、図7に模式的に示されている。このように、植栽ユニットに設置して栽培する場合には、灌水後、吸水しても膨張しないような固形培土を用いるのが望ましい。
【0047】
図8のように、2次元状に播種済み固形培土が設置された植栽ユニット20は、ビルの屋上緑化や、図9に示されるような壁面緑化等に用いることができる。図9では、建物30の壁面に、播種済み固形培土が固定された植栽ユニット20が取り付けられている。これに灌水装置を取り付ければ、灌水により、植栽ユニット20に設置された固形培土から植物が生育し、壁面緑化を行うことができる。なお、植栽ユニット20は、使用目的に応じて、例えばセルトレイや育苗ポットで構成しても良い。
【符号の説明】
【0048】
1 固形培土
2 コーティング層
3 種子
4 紫外光吸収層
10 固形培土
15 容器
16 水
17 播種済み固形培土
20 植栽ユニット
20a 植栽部
30 建物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の根付けのための固形培土と、
前記固形培土表面に接して配置された種子と、
前記種子の全体を覆うように形成されたコーティング層とを備え、
前記コーティング層は接着性と保水性を兼ね備えていることを特徴とする播種済み固形培土。
【請求項2】
前記コーティング層は、水性ゲル化剤と吸水性ポリマーとの混合物で構成されていることを特徴とする請求項1記載の播種済み固形培土。
【請求項3】
前記コーティング層には、硬化剤が含まれていないことを特徴とする請求項2記載の播種済み固形培土。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の播種済み固形培土に水分を供給し、種子の発芽を促すことを特徴とする播種済み固形培土を用いた植物の栽培方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図4】
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【図5】
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