説明

新規ポリウレタン及びそれを用いた乳化剤

【課題】樹脂やオイルなどの油性成分に対する乳化安定性及び流動性に優れた乳化剤として好適に用いることができる新規なポリウレタンを提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるグリセリルエーテル類(a)と、水溶性ポリアルキレングリコール(b)とを、有機ジイソシアナート(c)によりウレタン化させることで得られるポリウレタンである(式中、Rは炭素数4〜22のアルキル基又はアルケニル基、フェニル基など。Rは炭素数2〜4のアルキレン基。nは0〜30)。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリセリルエーテル類と水溶性ポリアルキレングリコールを有機ジイソシアネートによりウレタン化させることで得られる新規のポリウレタンに関し、より詳細には、例として乳化剤として用いることができるポリウレタンに関するものである。また、該ポリウレタンを含む乳化剤、及び、該乳化剤を用いた水中油型乳化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
水性樹脂乳化物等の水中油型乳化組成物は、その無公害性、安全性、作業性の利点から塗料、接着剤、紙加工剤、繊維加工剤、モルタル改質剤等の広範囲な用途に用いられている。しかしながら、樹脂を乳化する際に乳化剤を用いて水不溶性の油性成分である樹脂を水中へ安定に乳化、分散させることは難しく、特に溶剤等の共雑物を含有する系での安定乳化は困難である。
【0003】
そのため、例えば、下記特許文献1には、ラジカル重合可能なモノマー類を、塩基性化合物とポリアクリル酸と水の存在下で共重合させるという乳化重合法により水分散体を調製する方法が開示されている。また、下記特許文献2には、溶剤に溶解した樹脂を乳化剤を用いて水中へ乳化した後、溶剤を除去して水分散体を調製する方法が開示されている。
【0004】
しかしながら、これらの方法では樹脂の種類や濃度などの制限が多く、限られた範囲のもののみしか調製できないという問題があり、かつその乳化安定性も満足できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−007628号公報
【特許文献2】特開2008−056746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、樹脂やオイルなどの油性成分に対する乳化安定性及び流動性に優れた乳化剤として好適に用いることができる新規なポリウレタンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、下記一般式(1)で表されるグリセリルエーテル類(a)と、水溶性ポリアルキレングリコール(b)とを、有機ジイソシアナート(c)によりウレタン化させることで得られるポリウレタンが提供される。
【化1】

【0008】
(式中、Rは、炭素数4〜22のアルキル基もしくはアルケニル基、フェニル基、フェノール誘導体残基、又は、炭素数7〜22のアルキルフェニル基もしくはアルケニルフェニル基を表し、Rは、炭素数2〜4のアルキレン基を表し、nは、その平均値が0〜30の数である。)
本発明はまた、該ポリウレタンを含有する乳化剤を提供するものであり、更に、油性成分を該乳化剤で水に乳化することにより得られる水中油型乳化組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るポリウレタンであると、乳化剤として用いたときに、樹脂やオイル等の油性成分を水中へ安定に乳化させることができ、流動性にも優れる。また、この乳化剤を用いた水中油型乳化組成物は、水溶液濃度の影響を受けにくく、希釈安定性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0011】
本発明に用いられる上記一般式(1)で表されるグリセリルエーテル類(a)としては、公知の方法で合成されたもの、又はグリシジルエーテル類を公知の方法で開環して得たグリセリルエーテル類が好適に使用できる。詳細には、炭素数が4〜22のアルコール類のグリセリルエーテル類、該アルコール類のアルキレンオキサイド付加物のグリセリルエーテル類、フェノールのグリセリルエーテル、フェノールのアルキレンオキサイド付加物のグリセリルエーテル類、フェノール誘導体のグリセリルエーテル類、該フェノール誘導体のアルキレンオキサイド付加物のグリセリルエーテル類、炭素数が7〜22のアルキル置換乃至アルケニル置換フェノール類のグリセリルエーテル類、該アルキル置換乃至アルケニル置換フェノール類のアルキレンオキサイド付加物のグリセリルエーテル類などが挙げられる。これらのグリセリルエーテル類は単独で用いても、2種類以上を併用しても良い。
【0012】
このようにRで表される疎水基は、炭素数が4以上のものである。炭素数が4より小さいと、例えば上記ポリウレタンを乳化剤として用いたときに、油性成分との親和力の不足から乳化性能が不足する。逆に疎水基Rの炭素数が22より大きいと乳化作業時の粘度が高くなり、良好な粒子径の乳化物が得られない。疎水基Rは、炭素数が4〜18のアルキル基もしくはアルケニル基、又はフェニル基であることが好ましく、より好ましくは炭素数4〜18のアルキル基又はアルケニル基である。
【0013】
上記アルコール類のグリセリルエーテル類としては、具体的には、ブチルモノグリセリルエーテル、ヘキシルモノグリセリルエーテル、オクチルモノグリセリルエーテル、2−エチルヘキシルモノグリセリルエーテル、2−メチルオクチルモノグリセリルエーテル、ノニルモノグリセリルエーテル、デシルモノグリセリルエーテル、ウンデシルモノグリセリルエーテル、ドデシルモノグリセリルエーテル、トリデシルモノグリセリルエーテル、テトラデシルモノグリセリルエーテル、ペンタデシルモノグリセリルエーテル、ヘキサデシルモノグリセリルエーテル、オクタデシルモノグリセリルエーテル、オレイルモノグリセリルエーテルなどが挙げられる。上記アルコール類としては、直鎖状でも分岐していてもよく、また1級アルコールでも2級アルコールでもよく、更には飽和でも不飽和でもよい。
【0014】
上記フェノール誘導体のグリセリルエーテル類としては、具体的には、フェニルフェニルモノグリセリルエーテル、ナフチルモノグリセリルエーテル、スチレン化フェニルモノグリセリルエーテル、クミルフェニルモノグリセリルエーテルなどの化合物が挙げられる。
【0015】
上記アルキル置換乃至アルケニル置換フェノール類のグリセリルエーテル類としては、具体的には、トルイルモノグリセリルエーテル、エチルフェニルモノグリセリルエーテル、ブチルフェニルモノグリセリルエーテル、オクチルフェニルモノグリセリルエーテル、ノニルフェニルモノグリセリルエーテル、デシルフェニルモノグリセリルエーテル、ドデシルフェニルモノグリセリルエーテル、テトラデシルフェニルモノグリセリルエーテル、ヘキサデシルフェニルモノグリセリルエーテルなどの化合物が挙げられる。
【0016】
該アルコール類、フェノール、該フェノール誘導体、該アルキル置換乃至アルケニル置換フェノール類のアルキレンオキサイド付加物のグリセリルエーテル類も用いることが出来る。該アルキレンオキサイド(すなわち、式(1)中のORで表されるオキシアルキレン基)としては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドが挙げられ、より好ましくはエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドである。これらのアルキレンオキサイドは単独または複数の混合でも良く、複数の混合の場合、その結合様式はブロック、ランダムが挙げられる。また、その繰り返し数を表す式(1)中のnは、平均値で0〜30であり、より好ましくは0〜10である。
【0017】
該グリセリルエーテル類(a)としては、好ましくは、下記一般式(2)で表されるグリセリルエーテル類(a’)を用いることである。
【化2】

【0018】
式(2)中のRは式(1)と同じある。より好ましくは、式(2)中のRが炭素数4〜18のアルキル基又はアルケニル基であることであり、すなわち、炭素数が4〜18のアルコール類のグリセリルエーテル類(a’)が特に好ましく用いられる。
【0019】
本発明に用いられる上記水溶性ポリアルキレングリコール(b)は、少なくとも高分子鎖の両末端に水酸基を有するアルキレンオキサイドの重合体である。単量体のアルキレンオキサイドとしてはエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドなどがあるが、水溶性を高めるためにはエチレンオキサイドの含有率が60重量%以上であることが好ましい。より好ましくは、エチレンオキサイドの重合物(すなわち、ポリエチレングリコール)を用いることである。
【0020】
該水溶性ポリアルキレングリコール(b)の分子量は、水酸基価(OHV)換算値の分子量で400〜30,000のものが好ましい。より好ましくは1,000〜20,000であり、更に好ましくは3000〜10,000である。該分子量が400未満では、水溶性が低く、上記ポリウレタンを乳化剤として用いたときに十分な乳化性を得ることができないおそれがある。また該分子量が30,000を超えると、乳化作業時の粘度が高くなり良好な粒子径の乳化物が得られないおそれがある。ここで、OHV換算値の分子量は、トルエン共沸により乾燥させたポリアルキレングリコールを、JIS K0070(1992)に記載の方法で測定した値より算出される。
【0021】
上記水溶性ポリアルキレングリコール(b)としては、OHV換算値の分子量が400〜20,000のポリエチレングリコール(b’)が好ましく用いられ、より好ましくは、OHV換算値の分子量が1,000〜20,000のポリエチレングリコールを用いることである。
【0022】
本発明に用いられる上記有機ジイソシアナート(c)としては、鎖状脂肪族ジイソシアナート類、環状脂肪族ジイソシアナート類、芳香族ジイソシアナート類などよりなる一群のジイソシアナート化合物から選ばれた炭素数が3〜18のジイソシアナート化合物が挙げられる。例えば、イソホロンジイソシアナート(IPDI)、ヘキサメチレンジイソシアナート(HDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアナート(水添MDI)、シクロヘキサンジイソシアナート、フェニレンジイソシアナート、トリレンジイソシアナート(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート(MDI)、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート、ナフタレンジイソシアナート、キシリレンジイソシアナートなどを挙げることができる。これらのなかでも、反応性、取り扱い易さ、価格面から、好ましくはイソホロンジイソシアナート(IPDI)、ヘキサメチレンジイソシアナート(HDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアナート(水添MDI)を用いることである。
【0023】
本発明に係るポリウレタンは、上記グリセリルエーテル類(a)と水溶性ポリアルキレングリコール(b)とを、有機ジイソシアナート(c)によりウレタン化させることで得られるものである。詳細には、グリセリルエーテル類(a)及び水溶性ポリアルキレングリコール(b)の有するヒドロキシル基(OH)と、有機ジイソシアナート(c)の有するイソシアナート基(NCO)とが反応することにより、ウレタン結合(−NHCOO−)が形成されるので、得られる化合物は、該ウレタン結合を分子内に複数有するポリウレタンである。
【0024】
該ポリウレタンは、有機ジイソシアナート(c)を介してグリセリルエーテル類(a)と水溶性ポリアルキレングルコール(b)とを繋げてなる構造、すなわち(a)−(c)−(b)を含むものであり、通常、末端にはグリセリルエーテル類(a)及び/又は水溶性ポリアルキレングルコール(b)が結合される。好ましくは、グリセリルエーテル類(a)と水溶性ポリアルキレングルコール(b)を、有機ジイソシアナート(c)を介して、交互に連結した構造を持つこと、すなわち、−(a)−(c)−(b)−(c)−を主たる繰り返し単位として持つことである。但し、有機ジイソシアナート(c)を介して、グリセリルエーテル類(a)同士や水溶性ポリアルキレングルコール(b)同士が連結した構造、すなわち、(a)−(c)−(a)、(b)−(c)−(b)等を含んでもよく、また、通常、副反応としてこれらの構造も含まれる。
【0025】
該ポリウレタンは、ポリオール成分として含まれる上記グリセリルエーテル類(a)により、高分子の主鎖に疎水基Rがグラフトしており、この点に特徴の一つがある。高分子の主鎖に疎水基をグラフトすることで1分子あたりの油性成分への吸着点が多く、水和層への脱着が困難になり界面膜が強固になる。それゆえ幅広い油性成分の安定な乳化ができることのみならず、希釈安定性にも優れ、また溶剤等の共雑物の存在下でも良好な効果を発揮する。このような観点から、高分子の末端と主鎖の双方に疎水基が導入された形態となるように、上記グリセリルエーテル類(a)が高分子の末端にも結合されていることがより好ましい。
【0026】
該ポリウレタンの重量平均分子量は、8千〜15万の範囲にあることが好ましい。特に乳化剤として用いるには、重量平均分子量が1万〜10万の範囲にあることがより適している。更に好ましくは重量平均分子量が、1万5千〜5万の範囲にあることである。重量平均分子量が8千未満では十分な乳化性が得られず、また15万を超えると乳化作業時の粘度が高くなり、良好な粒子径の乳化物が得られないおそれがある。
【0027】
該ポリウレタンを構成するグリセリルエーテル(a)と水溶性アルキレングリコール(b)は、モル比で(a)/(b)=0.5〜2.0が好ましく、より好ましくは0.7〜1.3である。上記のように、(a)−(b)の繋がり、および副反応として起こる(a)−(a)、(b)−(b)等の繋がりは全て有機ジイソシアネート(c)を介すので、ポリウレタンを構成する(c)のモル比は、上記(a)/(b)と得られるポリウレタンの分子量により決まる。
【0028】
該ポリウレタンを得るための合成方法としては、特に限定するものではないが、好ましくは、(i)水溶性ポリアルキレングリコール(b)に過剰の有機ジイソシアナート(c)を反応させた後、得られた反応物にグリセリルエーテル類(a)を加えて反応させる方法、及び、(ii)グリセリルエーテル類(a)に過剰の有機ジイソシアナート(c)を反応させた後、得られた反応物に水溶性ポリアルキレングリコール(b)を加えて反応させる方法が挙げられる。特に(i)のようにして反応させることにより、高分子の末端と主鎖の双方にグリセリルエーテル類(a)に由来する疎水基が導入された形態となりやすく、好ましい。
【0029】
上記合成に際して仕込む3成分の比は特に限定されるものではないが、グリセリルエーテル類(a)と水溶性ポリアルキレングリコール(b)とがモル比で、(a)/(b)=0.5〜5.0であることが好ましく、より好ましくは1.5〜3.0である。また、ポリオール成分であるグリセリルエーテル類(a)及び水溶性ポリアルキレングリコール(b)と有機ジイソシアナート(c)とがモル比で、{(a)+(b)}/(c)=1.0〜3.0であることが好ましく、より好ましくは1.1〜1.5である。
【0030】
また、この合成に際しては公知のウレタン化触媒を用いてもよい。ウレタン化触媒としては、特に限定するものではないが、例えば、錫系触媒(例えば、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート、オクチル酸錫等)、アミン触媒(例えば、トリエチルアミン、N−エチルモルホリン、トリエチルジアミン等)、チタン系触媒(例えば、テトラブチルチタネート等)などが挙げられる。
【0031】
本発明に係る乳化剤は、上記ポリウレタンを含有するものであり、該ポリウレタンを主成分とすることにより、樹脂やオイル等の油性成分を水中へ安定に乳化させることができ、また流動性や希釈安定性にも優れる。
【0032】
本発明の乳化剤は、該ポリウレタン単独でもよいが、他の界面活性剤を含有してもよい。また、必要により、該ポリウレタンを、溶剤、水またはそれらの混合物に溶解して用いることもできる。
【0033】
上記ポリウレタンと併用することができる他の界面活性剤としては、特に限定されず、ノニオン性、アニオン性、カチオン性、両性の公知の界面活性剤を1種類乃至2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0034】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、アルコールのアルキレンオキサイド付加物、アルキルフェノールのアルキレンオキサイド付加物、スチレン化フェノールのアルキレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、多価アルコールの脂肪酸エステル、多価アルコールのアルキルエーテル、多価アルコールアルキレンオキサイド付加物の脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリエーテル変性ポリシロキサン、アミノポリエーテル変性ポリシロキサン、フルオロアルキルアルコールのアルキレンオキサイド付加物、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシアルキルセルロース、アルキルセルロースなどが挙げられる。
【0035】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩、アルケニルコハク酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、モノアシルグリセリン硫酸エステル塩、アルキルスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、α−スルホ脂肪酸エステル塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルリン酸エステル塩、アルキルエーテルリン酸エステル塩、フルオロアルキルカルボン酸塩、フルオロアルキルスルホン酸塩、フルオロアルキルベンゼンスルホン酸塩、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸塩、ポリメタクリル酸塩、ポリスチレンスルホン酸塩、マレイン化ポリブタジエン、スチレンマレイン酸コポリマー、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物などが挙げられる。
【0036】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルアミン塩、アルキルアミンポリオキシアルキレン付加物、脂肪酸トリエタノールアミンモノエステル塩、アシルアミノエチルジエチルアミン塩、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、アシルアミノアルキル型アンモニウム塩、アシルアミノアルキルピリジニウム塩、ジアシロキシエチルアンモニウム塩、アルキルイミダゾリン、ポリエチレンポリイミン、カチオン化セルロース、ポリジアリルジメチルアンモニウム塩などが挙げられる。
【0037】
両性界面活性剤としては、アルキルアミノ酢酸塩、アルキルアミノプロピオン酸塩、アルキルジメチルアンモニオ酢酸塩、アルキルアミドプロピルジメチルアンモニオ酢酸塩、アルキルスルホベタインなどが挙げられる。
【0038】
本発明に係る乳化組成物は、油性成分を上記乳化剤で水に乳化することにより得られる水中油型乳化組成物である。
【0039】
該油性成分としては、常温の形態として固体状、ペースト状、液体状のいずれでも良く、樹脂、油、有機溶剤等の水不溶成分が挙げられる。樹脂としては、例えば、アルキド樹脂、アクリル樹脂、アクリル変性アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ブロックイソシアナート、アミノ樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。油としては、例えば、パラフィン、脂肪酸とアルコールのエステル、トリグリセライド、シリコーン油等が挙げられる。有機溶剤としては、常温で液体であるなら揮発性、不揮発性のどちらでも良く、例えば、低級アルコールのアルキレンオキサイド付加物、低級脂肪酸、芳香族炭化水素、ハロゲン化アルキルなどが挙げられる。該油性成分としては、これらの樹脂、油及び有機溶剤の2種以上を混合したものであってもよく、また、例えば、樹脂や油にブタノールやブチルセロソルブ等の低級アルコール系溶剤(親水性有機溶剤)などを含有させたものであってもよい。
【0040】
本発明における乳化組成物には、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、難燃剤、加水分解防止剤、潤滑剤、可塑剤、充填剤、貯蔵安定剤といった添加剤を適宜配合することができる。
【0041】
乳化方法としては特に限定されず、公知の強制乳化法、転相乳化法、D相乳化法、ゲル乳化法等のいずれの方法でも構わず、使用機器は、例えば、攪拌羽、ディスパー、ホモジナイザー等による単独攪拌、およびこれらを組み合わせた複合攪拌など、種々使用可能である。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0043】
[製造例1]2−エチルヘキシルモノグリセリルエーテルの合成
エポゴーセー2EH(四日市合成(株)製、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、エポキシ当量換算値で分子量189)100g、水300g及び水酸化カリウム0.80gをオートクレーブに入れ、150℃で7時間攪拌した。次いで、キョーワード700(協和化学工業(株)製:酸化アルミニウム10.5重量%、酸化ケイ素60.2重量%)15gを加え、ロータリーエバポレーターにて水を留去した後にろ過を行ない、2−エチルヘキシルモノグリセリルエーテルを得た。
【0044】
[製造例2]ブチルモノグリセリルエーテルの合成
エポゴーセー2EHに代えてDY−BP(四日市合成(株)製、ブチルグリシジルエーテル、エポキシ当量換算値で分子量133)を使用した他は、製造例1と同様の方法でブチルモノグリセリルエーテルを得た。
【0045】
[製造例3]フェニルモノグリセリルエーテルの合成
エポゴーセー2EHに代えてエピオールP(日油(株)製、フェニルグリシジルエーテル、エポキシ当量換算値で分子量155)を使用した他は、製造例1と同様の方法でブチルモノグリセリルエーテルを得た。
【0046】
[製造例4]p−sec−ブチルフェニルモノグリセリルエーテルの合成
エポゴーセー2EHに代えてエピオールSB(日油(株)製、p−sec−ブチルフェニルグリシジルエーテル、エポキシ当量換算値で分子量238)を使用した他は、製造例1と同様の方法でp−sec−ブチルフェニルモノグリセリルエーテルを得た。
【0047】
[製造例5]ラウリルアルコール−4PO−3EO付加体のモノグリセリルエーテルの合成
500mLのガラス製セパラフラスコに、石井義朗著「非イオン界面活性剤」(誠文堂新光社)第2章に記載の方法で得たラウリルアルコール−4PO−3EO付加体(ラウリルアルコールのプロピレンオキサイド4モル及びエチレンオキサイド3モル付加体、水酸基価(OHV)換算値で分子量539)200g、エピクロロヒドリン44.6g(ラウリルアルコール−4PO−3EO付加体1.0mol部に対し1.3mol部)、48重量%水酸化ナトリウム水溶液124g及びテトラメチルアンモニウムクロライド2.85gを仕込み、激しく撹拌しながら50℃で3時間反応させた。得られた反応混合物を室温まで冷却し、有機層を水洗した。その後、製造例1と同様の方法で加水分解を行ない、ラウリルアルコール−4PO−3EO付加体のモノグリセリルエーテルを得た。
【0048】
[製造例6]オレイルセチルアルコール−4EO付加体のモノグリセリルエーテルの合成
ラウリルアルコール−4PO−3EO付加体に代えてオレイルアルコールとセチルアルコールの混合物のエチレンオキサイド4モル付加物(OHV換算値で分子量427)を使用した他は、製造例5と同様の方法でオレイルセチルアルコール−4EO付加体のモノグリセリルエーテルを得た。
【0049】
[製造例7]ポリウレタン(A)の合成
500mLのガラス製セパラフラスコに、PEG6000(第一工業製薬(株)製、OHV換算値で分子量8,200)を150g(1.0mol部)仕込み、90〜100℃、少なくとも10mbarの減圧下でトルエンとの共沸蒸留により乾燥した。次いでトルエン300gを加えて再び減圧下でトルエン約50mLを留去した後、窒素下で80℃まで冷却し、イソホロンジイソシアナート9.76g(2.4mol部)、ジブチルスズジラウレート0.0856gを順次加え、そのまま1時間半反応させた。この混合液を90℃に昇温し、2−エチルヘキシルモノグリセリルエーテル6.73g(1.8mol部)を加えて4時間攪拌した。反応終了物からトルエンを留去し、ポリウレタン(A)を得た。
【0050】
[製造例8]ポリウレタン(B)の合成
2−エチルヘキシルモノグリセリルエーテルに代えてブチルモノグリセリルエーテルを4.87g(1.8mol部)使用した他は、製造例7と同様の方法でポリウレタン(B)を合成した。
【0051】
[製造例9]ポリウレタン(C)の合成
2−エチルヘキシルモノグリセリルエーテルに代えてフェニルモノグリセリルエーテルを5.53g(1.8mol部)使用した他は、製造例7と同様の方法でポリウレタン(C)を合成した。
【0052】
[製造例10]ポリウレタン(D)の合成
2−エチルヘキシルモノグリセリルエーテルに代えてラウリルアルコール−4PO−3EO付加体のモノグリセリルエーテルを20.0g(1.8mol部)使用した他は、製造例7と同様の方法でポリウレタン(D)を合成した。
【0053】
[製造例11]ポリウレタン(E)の合成
2−エチルヘキシルモノグリセリルエーテルに代えてオレイルセチルアルコール−4EO付加体のモノグリセリルエーテルを16.5g(1.8mol部)使用した他は、製造例7と同様の方法でポリウレタン(E)を合成した。
【0054】
[製造例12]ポリウレタン(F)の合成
PEG6000に代えてPEG4000(第一工業製薬(株)製、OHV換算値で分子量3070)を56.2g(1.0mol部)使用した他は、製造例7と同様の方法でポリウレタン(F)を合成した。
【0055】
[製造例13]ポリウレタン(G)の合成
PEG6000に代えてエパン485(第一工業製薬(株)製、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、エチレンオキサイド含有率=85重量%、OHV換算値で分子量7100)を130g(1.0mol部)使用し、2−エチルヘキシルモノグリセリルエーテルに代えてp−sec−ブチルフェニルモノグリセリルエーテルを8.43g(1.8mol部)使用した他は、製造例7と同様の方法でポリウレタン(G)を合成した。
【0056】
[製造例14]ポリウレタン(H)の合成
イソホロンジイソシアナートに代えてジシクロヘキシルメタンジイソシアナートを11.5g(2.4mol部)使用した他は、製造例7と同様の方法でポリウレタン(H)を合成した。
【0057】
[製造例15]ポリウレタン(I)の合成
500mLのガラス製セパラフラスコに、PEG6000(第一工業製薬(株)製、OHV換算値で分子量8,200)を150g(1.0mol部)仕込み、90〜100℃、少なくとも10mbarの減圧下でトルエンとの共沸蒸留により乾燥した。次いでトルエン300gを加えて再び減圧下でトルエン約50mLを留去した後、窒素下で80℃まで冷却し、イソホロンジイソシアナート9.76g(2.4mol部)、ジブチルスズジラウレート0.0856gを順次加え、そのまま1時間半反応させた。この混合液を90℃に昇温し、フェニルモノグリセリルエーテル1.54g(0.5mol部)及び2−エチルヘキシルモノグリセリルエーテル4.86g(1.3mol部)を順次加えて4時間攪拌した。反応終了物からトルエンを留去し、ポリウレタン(I)を得た。
【0058】
[分子量の測定]
得られたポリウレタン(A)〜(I)の重量平均分子量を測定した。重量平均分子量は、GPCにより求めた。GPC装置及び分析条件は以下の通りであり、標準サンプルとして分子量327、2000、8250、19700のポリエチレングリコールで校正したものを用いた。結果を下記表1に示す。
・GPC装置:システムコントローラー:SCL−10A(株式会社島津製作所)
・検出器:RID−10A(株式会社島津製作所)
・カラム:Shodex GPC KF−G、KF−803、KF802.5、KF−802、KF−801(昭和電工株式会社)
・溶離液:テトラヒドロフラン
・サンプル注入:0.5重量%溶液、80μL
・流速:0.8mL/min
・温度:25℃
【0059】
[ポリウレタン組成の測定]
ポリウレタン(A)〜(I)を構成するグリセリルエーテル(a)と水溶性ポリアルキレングリコール(b)のモル比(a)/(b)は、下記GPC装置及び条件によって高分子部分を分取し、分取した高分子部分を重クロロホルムに溶解して13C−NMRにより、(a)の末端炭素と(b)のアルキレングリコール鎖の比から求めた。結果を表1に示す。
・GPC装置:システムコントローラー:SCL−10A(株式会社島津製作所)
・検出器:RID−10A(株式会社島津製作所)
・カラム:Megapak GEL 210FP×1、Megapak GEL 201F×2(日本分光株式会社)
・溶離液:テトラヒドロフラン
・サンプル注入:1重量%溶液、1mL
・流速:3mL/min
・温度:25℃
【0060】
【表1】

【0061】
表1に記載されている製造例7〜15で合成された化合物は、いずれも投入原料に対して分子量が伸長しており、グリセリルエーテル(a)と水溶性ポリアルキレングリコール(b)を分子中に有するものであった。グリセリルエーテル(a)と水溶性ポリアルキレングリコールがウレタン結合を介さずに(a)−(b)や(a)−(a)、(b)−(b)のように直接結合することは理論上ありえないことから、得られた化合物がウレタン結合を介して伸長していること、即ちポリウレタンであることは明らかである。また、上記(a)/(b)の測定に際してGPCで分取した高分子部分を、赤外分光法(IR)測定したところ、1700cm−1付近にピークを有しており、ウレタン結合の存在を確認することができた。
【0062】
[乳化試験例]
下記表2〜4に示す配合(重量部)に従い、油性成分と、上記製造例7〜15により得られた乳化剤としてのポリウレタン(A)〜(I)または比較の乳化剤を、ディスパーにて混合しながら、水を徐々に加えて水中油型乳化組成物を調製した。得られた乳化組成物はガラス瓶に入れ、25℃または40℃恒温槽に放置し乳化安定性を評価した。また、25℃の保存で1週間以上の安定性が確認されたものについてはB型粘度計にてその粘度を測定し、流動性の目安とした。粘度の測定に際しては、回転数30rpmで行い、粘度が6千mPa・sを超える高粘度のものについては回転数6rpmで測定した。また、調製した乳化組成物に該組成物と同量の水を加えて均一になるまでディスパーにて混合し、上記と同様の方法にて25℃の希釈安定性を評価した。
【0063】
表2〜4に記載した油性成分、及び比較の乳化剤の詳細は下記の通りである。また、乳化安定性、希釈安定性及び流動性の評価基準は下記の通りである。
【0064】
・油性成分
アルキド樹脂:PCF−30(伊藤製油(株)製、ヒマシ油脂肪酸縮合物)
アミノ樹脂:MX−410((株)三和ケミカル製、70%混合エーテル化メラミン樹脂)
エポキシ樹脂:jER828(ジャパンエポキシレジン(株)製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂)
流動パラフィン:ハイホワイト(新日本石油株式会社製)
シリコーン油:KF−96−100CS(信越化学工業株式会社製、ジメチルシリコーンオイル)
【0065】
・比較の乳化剤
ノイゲンTDS−120:ポリオキシエチレントリデシルエーテル(第一工業製薬(株)製、HLB=15)
ネオゲンS−20F:20%アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液(第一工業製薬(株)製)
エパンU−108:ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(第一工業製薬(株)製)
シャロールAN−103P:44%ポリアクリル酸ナトリウム水溶液(第一工業製薬(株)製)
DKSディスコートN−14:30%スチレン−マレイン酸ハーフエステルコポリマーアンモニウム塩水溶液(第一工業製薬(株)製)
ディスコールN−518:ポリアルキレンポリアミンアルキレンオキサイド付加物(第一工業製薬(株)製)
【0066】
・乳化安定性
◎:均一な乳化状態を1ヶ月間以上維持するもの
○:均一な乳化状態を1週間以上、1ヶ月未満維持するもの
△:均一な乳化状態を3日以上、1週間未満維持するもの
×:3日以内に分離または沈殿するもの
【0067】
・希釈安定性
乳化安定性と同じ基準で判定した。
【0068】
・流動性
○:25℃での粘度が5千mPa・s未満のもの
△:25℃での粘度が5千mPa・s以上、1万mPa・s未満のもの
×:25℃での粘度が1万mPa・s以上のもの
−:乳化安定性が1週間未満であるため、粘度測定せず
【0069】
【表2】

【表3】

【表4】

【0070】
結果は表2〜4に示した通りである。実施例1〜20の結果から明らかなように、本発明品に係るポリウレタン(A)〜(I)からなる乳化剤であると、幅広い組成、材質の油性成分に対して、乳化性、流動性、及びそれらの保持性(安定性)に優れていた。また、これらの乳化剤を用いた乳化組成物は水溶液濃度の影響を受けにくく、希釈安定性にも優れていた。さらに、実施例2,3,5〜7,9,12〜16,18〜20に示されているように、溶剤を含む系でも安定であった。
【0071】
このように幅広い種類の樹脂、オイル等の油性成分を水中へ安定に乳化でき、また、流動性及び希釈安定性に優れており、更には溶剤を含む系でも安定であるため、配合系における多くの用途に利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明に係るポリウレタンは、例として乳化剤として用いることができ、塗料、接着剤、紙加工剤、繊維加工剤、モルタル改質剤等に配合する樹脂の乳化に好適に利用することができ、これら用途の樹脂の水系化の幅を広げることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるグリセリルエーテル類(a)と、水溶性ポリアルキレングリコール(b)とを、有機ジイソシアナート(c)によりウレタン化させることで得られるポリウレタン。
【化1】

(式中、Rは、炭素数4〜22のアルキル基もしくはアルケニル基、フェニル基、フェノール誘導体残基、又は、炭素数7〜22のアルキルフェニル基もしくはアルケニルフェニル基を表し、Rは、炭素数2〜4のアルキレン基を表し、nは、その平均値が0〜30の数である。)
【請求項2】
下記一般式(2)で表されるグリセリルエーテル類(a’)と、水酸基価換算値の分子量400〜20,000のポリエチレングリコール(b’)とを、有機ジイソシアナート(c)によりウレタン化させることで得られるポリウレタン。
【化2】

(式中、Rは、炭素数4〜22のアルキル基もしくはアルケニル基、フェニル基、フェノール誘導体残基、又は、炭素数7〜22のアルキルフェニル基もしくはアルケニルフェニル基を表す。)
【請求項3】
請求項1又は2記載のポリウレタンを含有することを特徴とする乳化剤。
【請求項4】
油性成分を請求項3に記載の乳化剤で水に乳化することにより得られる水中油型乳化組成物。

【公開番号】特開2011−21170(P2011−21170A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−242498(P2009−242498)
【出願日】平成21年10月21日(2009.10.21)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】