説明

新規ポリペプチド、関節リウマチの診断方法、及び診断用キット

【課題】関節リウマチのマーカーとなり得る新規ポリペプチド、そのポリペプチドを検出する工程を含む関節リウマチの診断方法、及びその診断方法に使用される診断用キットを提供する。
【解決手段】本発明に係る関節リウマチの診断方法は、被検動物より採取した生体試料中から下記(a)及び(b)の少なくとも一方のポリペプチドを検出する工程を含む。
(a)タリンのF1ドメインに対応するアミノ酸配列を少なくとも含み、かつ、約32kDaの分子量を有するポリペプチド。
(b)タリンのF3ドメインに対応するアミノ酸配列を少なくとも含み、かつ、約15kDaの分子量を有するポリペプチド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規ポリペプチド、そのようなポリペプチドを検出する工程を含む関節リウマチの診断方法、及びそのような診断方法に使用される診断用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
関節リウマチ(Rheumatoid Arthritis:RA)は、関節の滑膜組織を病変の主座とする慢性炎症性疾患であり、有病率が人口の約1%を占める疾患である。関節リウマチは、その初期には滑膜炎を来し、次第に軟骨や骨が侵され、進行すると関節が破壊され変形する。また、症状の経過は、関節炎の寛解・再燃を繰り返し、完治する例や急速に進行する例など多彩である。
【0003】
関節リウマチの診断は主に症状によってなされるが、近年、患者の血清中に含まれる自己抗体をマーカーとした診断方法が注目されている。そのような自己抗体としては、リウマトイド因子(変性IgGに対する自己抗体)、抗環状シトルリン化ペプチド抗体(抗CCP抗体)等が知られている(非特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、これまでの報告では、リウマトイド因子の感度は75〜80%、特異度は50〜70%、抗CCP抗体の感度は50〜75%、特異度は85〜95%であり、必ずしも満足のいくものではなかった(非特許文献2,3参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Martinus A. M. et al., Arthritis Res. Ther., 4: 87−93, 2002
【非特許文献2】Avouac J. et al., Ann. Rheum. Dis. 65: 845−851, 2006
【非特許文献3】van Venrooij WJ. et al. Ann. N.Y. Acad. Sci. 1143: 268−285, 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、これまでに知られていない新規マーカーの探索を行い、見出された新規マーカーをもとに関節リウマチの診断方法及び診断用キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
関節リウマチ患者では、血中のリンパ球が活性化されて血管内皮細胞との細胞接着が亢進するのと同時にリンパ球遊走も亢進する結果、血管外にリンパ球が浸潤し、この浸潤リンパ球が様々な炎症を引き起こすことが知られている。そこで本件発明者は、新規マーカーの探索を行うにあたり、細胞と基質とが接着する領域、特にリンパ球内では細胞接着領域に主に集中して発現される高分子細胞骨格タンパク質であるタリン(Talin)に着目した。
【0008】
タリンは、FERM領域を含む分子量47kDaのN末端領域と、一束のαヘリックスからなる分子量190kDaのC末端領域とから構成されるタンパク質である。FERM領域はさらに、N末端側からF1ドメイン、F2ドメイン、F3ドメインの3つのサブ領域に分けられている。生体内では、カルパイン(Calpain)によって切断されたN末端領域のポリペプチド、その中でもF3ドメインがインテグリンβサブユニットに結合し、インテグリンの細胞内から細胞外へのシグナル伝達を増強させ、細胞接着や細胞遊走を亢進することが知られている。
【0009】
本件発明者は、関節リウマチ患者より採取したリンパ球におけるタリン発現について検討した。その結果、(i)関節リウマチ患者においては、通常の47kDaのポリペプチドのフラグメントである2種類のポリペプチドが検出されること、(ii)一方はF1ドメインを少なくとも含む約32kDaのポリペプチドであり、他方はF3ドメインを少なくとも含む約15kDaのポリペプチドであること、(iii)この2種類のポリペプチドをマーカーとして用いることで関節リウマチを高精度に診断できること、を見出した。
本発明は、このような知見に基づいて完成されたものであり、具体的には以下のとおりである。
【0010】
[1] タリンのF1ドメインに対応するアミノ酸配列を少なくとも含み、かつ、約32kDaの分子量を有する新規ポリペプチド。
【0011】
[2] タリンのF3ドメインに対応するアミノ酸配列を少なくとも含み、かつ、約15kDaの分子量を有する新規ポリペプチド。
【0012】
[3] 関節リウマチに罹患している被検動物より採取した生体試料中から検出可能である上記[1]又は[2]記載の新規ポリペプチド。
【0013】
[4] 被検動物より採取した生体試料中から下記(a)及び(b)の少なくとも一方のポリペプチドを検出する工程を含む関節リウマチの診断方法。
(a)タリンのF1ドメインに対応するアミノ酸配列を少なくとも含み、かつ、約32kDaの分子量を有するポリペプチド。
(b)タリンのF3ドメインに対応するアミノ酸配列を少なくとも含み、かつ、約15kDaの分子量を有するポリペプチド。
【0014】
[5] 前記被検動物がヒトである上記[4]記載の関節リウマチの診断方法。
【0015】
[6] 上記[4]又は[5]記載の関節リウマチの診断方法に使用するための診断用キット。
【0016】
[7] タリンのN末端からカルパイン切断部位までの範囲に特異的に結合する抗体を含有してなる上記[6]記載の診断用キット。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、関節リウマチを高精度に診断するための新規ポリペプチド、そのようなポリペプチドを検出する工程を含む関節リウマチの診断方法、及びそのような診断方法に使用される診断用キットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明における約32kDaのポリペプチド及び約15kDaのポリペプチドを説明するための模式図である。
【図2】末梢血単核球(PBMC)ライセート中に含まれるタリンのフラグメントを、H−18抗体を用いて検出したウエスタンブロット解析の結果を示す図である。
【図3】PBMCライセート中に含まれるタリンのフラグメントを、H−18抗体を用いて検出したウエスタンブロット解析の結果を示す図である。
【図4】PBMCライセート中に含まれるタリンのフラグメントを、H−18抗体を用いて検出したウエスタンブロット解析の結果を示す図である。
【図5】PBMCライセート中に含まれるタリンのフラグメントを、TA205抗体を用いて検出したウエスタンブロット解析の結果を示す図である。
【図6】PBMCライセート中に含まれるタリンのフラグメントを、TA205抗体を用いて検出したウエスタンブロット解析の結果を示す図である。
【図7】PBMCライセート中に含まれるタリンのフラグメントを、TA205抗体を用いて検出したウエスタンブロット解析の結果を示す図である。
【図8】健常者のPBMCライセートとRA患者のPBMCライセートとを混和した後、PBMCライセート中に含まれるタリンのフラグメントを、H−18抗体を用いて検出したウエスタンブロット解析の結果を示す図である。
【図9】GSTとタリンのF3ドメインを含むフラグメントとが融合したGST融合タンパク質を示す模式図である。
【図10】GST融合タンパク質と健常者又はRA患者のPBMCライセートとを混和した後、SDS電気泳動を行った結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[新規ポリペプチド及び関節リウマチの診断方法]
本発明に係る関節リウマチの診断方法は、被検動物より採取した生体試料中から下記(a)及び(b)の少なくとも一方のポリペプチドを検出する工程を含むものである。
(a)タリンのF1ドメインに対応するアミノ酸配列を少なくとも含み、かつ、約32kDaの分子量を有するポリペプチド。
(b)タリンのF3ドメインに対応するアミノ酸配列を少なくとも含み、かつ、約15kDaの分子量を有するポリペプチド。
【0020】
また、本発明に係る新規ポリペプチドは、上記(a)及び(b)の2種類のポリペプチドに対応するものである。
【0021】
前述したとおり、タリンは、FERM領域を含む分子量47kDaのN末端領域と、一束のαヘリックスからなる分子量190kDaのC末端領域とから構成されるタンパク質である。FERM領域はさらに、N末端側からF1ドメイン、F2ドメイン、F3ドメインの3つのサブ領域に分けられている。そして、生体内では、カルパインによって47kDaのN末端領域と190kDaのC末端領域とに切断される。
【0022】
ヒトの場合、タリン1、タリン2の2種類のアイソフォームが存在する。タリン1のmRNA配列、アミノ酸配列をそれぞれ配列番号1,2に示す。また、タリン2のmRNA配列、アミノ酸配列をそれぞれ配列番号3,4に示す。
タリン1に関しては、カルパインによる切断部位は431番目のアミノ酸と436番目のアミノ酸との間、F1ドメインは117番目から206番目までのアミノ酸配列、F2ドメインは207番目から308番目までのアミノ酸配列、F3ドメインは309番目から405番目までのアミノ酸配列にそれぞれ対応する。
一方、タリン2に関しては、カルパインによる切断部位は434番目のアミノ酸と439番目のアミノ酸との間、F1ドメインは119番目から208番目までのアミノ酸配列、F2ドメインは209番目から311番目までのアミノ酸配列、F3ドメインは312番目から408番目までのアミノ酸配列にそれぞれ対応する。
【0023】
上記(a)及び(b)の2種類のポリペプチドはいずれも、タリンがカルパインで切断された後の47kDaのポリペプチドのフラグメントに相当するものである。
図1に示すように、240kDaのタリンはカルパインによって47kDaのN末端領域と190kDaのC末端領域とに切断される。しかし、本件発明者の研究により、関節リウマチ(RA)に罹患している被検動物においては、この47kDaのポリペプチドが何らかの機序によってF2ドメイン内で切断され、約32kDaのポリペプチドと約15kDaのポリペプチドとが優位に出現していることが分かった。また、この切断部位は、F2ドメインのC末端に存在するH4領域内に存在することが推測された。なお、H4領域は、タリン1に関しては291番目のGluから308番目のTyrまで、タリン2に関しては294番目のGluから311番目のTyrまでのアミノ酸配列にそれぞれ対応する。
【0024】
したがって、上記(a)及び(b)の2種類のポリペプチドを関節リウマチのマーカーとすることが可能である。換言すれば、被検動物より採取した生体試料中から上記(a)及び(b)の2種類のポリペプチドの少なくとも一方を検出することで、関節リウマチを診断することが可能である。
【0025】
被検動物としては、関節リウマチに罹患し得る動物であれば特に制限はなく、目的に応じて選択することができる。例えば、ヒト、ラット、マウス、イヌ、ウシ、ネコ、ウサギ、モルモット等が挙げられるが、その中でもヒトが好ましい。
また、生体試料としては、特に制限はなく、目的に応じて選択することができる。例えば、末梢血、関節滑膜、関節液等が挙げられる。その中でも、採取が簡便である点で末梢血が好ましい。
【0026】
上記(a)及び(b)の2種類のポリペプチドの少なくとも一方を検出する方法としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、ウエスタンブロット法やELISA法が挙げられるが、その中でもウエスタンブロット法が好ましい。
【0027】
検出に用いる一次抗体としては、タリンのN末端からカルパイン切断部位までの範囲、すなわち上記の47kDaのポリペプチドに特異的に結合するものであれば特に制限はない。例えば、上記(a)のポリペプチドを検出可能な一次抗体としては、H−18抗体(サンタクルーズ・バイオテクノロジー社)、H−300抗体(サンタクルーズ・バイオテクノロジー社)等が挙げられる。また、上記(b)のポリペプチドを検出可能な一次抗体としては、TA205抗体(アブカム社)、H−300抗体(サンタクルーズ・バイオテクノロジー社)等が挙げられる。
【0028】
[診断用キット]
本発明に係る診断用キットは、本発明に係る関節リウマチの診断方法に使用するためのものである。この診断用キットには、例えば、タリンのN末端からカルパイン切断部位までの範囲、すなわち上記の47kDaのポリペプチドに特異的に結合する抗体が含まれる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載によって何ら限定して解釈されるものではない。なお、以下の実施例では、関節リウマチ患者(RA患者)21例、全身性エリテマトーデス患者(SLE患者)9例、及び健常者8例を被検者とした。
【0030】
<実施例1:ウエスタンブロット法によるタリンのフラグメントの検出>
実施例1では、カルパイン処理後の末梢血単核球(PBMC)ライセートに含まれるタリンのフラグメントをウエスタンブロット法により検出した。
【0031】
まず、Ficoll法を用いて各被検者からPBMCを採取後、1×10個のPBMCあたり1mLの溶解バッファ(10mM トリエタノールアミン、150mM NaCl、5mM EDTA、1% Triton X-100、10mM NaVO、10μg/mL リューペプチン、1mM PMSF、10μg/mL アプロチニン)を加えて15分間振盪混和した。さらに、1分間超音波破砕し、遠心分離を行った後、上清を回収してPBMCライセートとした。
次いで、このPBMCライセートにCaClとカルパイン1(シグマアルドリッチ社)とを加えて25℃で1時間振盪混和させ、SDSサンプルバッファを加えて5分間煮沸させた後、リアルゲルプレート(バイオクラフト社)を用いてSDS電気泳動を行った。その後、ジェルコードブルー染色試薬(サーモサイエンティフィック社)を用いてゲル染色を行い、目的のタンパク質のバンドを確認した。
【0032】
PBMCライセートの電気泳動後、泳動したタンパク質をPVDF膜に転写し、PVDF膜をBlock Ace(DSファーマバイオメディカル社)中、室温で1時間ブロッキングした。ブロッキング後、一次抗体溶液と室温で1時間振盪混和して洗浄し、さらに二次抗体溶液と室温で1時間振盪混和して洗浄した。一次抗体としては、H−18抗体(サンタクルーズ・バイオテクノロジー社)又はTA205抗体(アブカム社)を用いた。また、H−18抗体に対する二次抗体としてはHRP標識抗ヤギIgG抗体を用い、TA205抗体に対する二次抗体としてはHRP標識抗マウスIgG抗体を用いた。その後、PVDF膜を洗浄し、ECL Plusウエスタンブロッティング検出システム(GEヘルスケア社)を用いてバンドを検出した。一次抗体としてH−18抗体を用いた結果を図2〜4に示し、一次抗体としてTA205抗体を用いた結果を図5〜7に示す。
【0033】
図2〜7から分かるように、健常者の場合、H−18抗体及びTA205抗体のいずれによっても、通常の47kDaのバンド(星印)が確認されたが、RA患者の場合、H−18抗体では約32kDaのバンド(矢印)が優位に確認され、TA205抗体では約15kDaのバンド(矢印)が優位に確認された。
H−18抗体はタリンのN末端を認識することから、この約32kDaのバンドは、タリンがカルパイン1で切断された後の47kDaのポリペプチドのうち、N末端側の約32kDaのポリペプチドに対応すると考えられる。また、TA205抗体はタリンの139番目から433番目のアミノ酸を認識することから、この約15kDaのバンドは、同じく47kDaのポリペプチドのうち、C末端側の約15kDaのポリペプチドに対応すると考えられる。
【0034】
この約32kDa及び約15kDaのポリペプチドは、RA患者の血中で47kDaのポリペプチドが何らかの機序により切断されて生じた可能性がある。そこで、このことを確認するため、同一例の健常者のPBMCライセートと、数例のRA患者のPBMCライセートとをそれぞれ振盪混和し、上記と同様にH−18抗体を用いてウエスタンブロット解析を行った。結果を図8に示す。
【0035】
図8から分かるように、RA患者のPBMCライセートと混和させた場合には、健常者のPBMCライセート中に存在していた47kDaのポリペプチドのバンドが減弱又は消失し、代わりに約32kDaのポリペプチドのバンドが出現した。
この結果から、47kDaのポリペプチドは、RA患者の血中で何らかの機序により切断されると考えられる。
【0036】
<実施例2:GST融合タンパク質を用いたタリンの切断実験>
実施例2では、47kDaのポリペプチドの切断部位をさらに確認するため、GST融合タンパク質を用いたタリンの切断実験を行った。具体的には、図9に模式的に示すように、GSTとタリンのF3ドメインを含むフラグメントとが融合したGST融合タンパク質を、グルタチオンセファロース4Bに結合させた状態で作製し、切断実験に用いた。
【0037】
まず、mRNA精製キット(ファルマシア社)を用いて、健常者のPBMCから全mRNAを抽出した。続いて、逆転写酵素を用いて全mRNA1.0μgを一本鎖cDNAに変換した後、DNAポリヌクレオチドキナーゼを用いて二本鎖cDNAに変換した。この二本鎖cDNAを鋳型とし、5’−GAAGGACTTCCTGCCCAAGGAGTAT−3’(配列番号5)をセンスプライマー、5’−CCACAGAGCCATGCTCCACTTT−3’(配列番号6)をアンチセンスプライマーとして、PCR法により557bpのタリンcDNAを合成した。
【0038】
このcDNAをpCRIIベクター(インビトロジェン社)に組み込んだ後、EcoRIで切り出し、pGEX4T−1ベクター(GEヘルスケア社)に組み込んだ。このpGEX4T−1ベクターでTOP10F’細胞(インビトロジェン社)を形質転換した後、細胞を超音波で破砕し、さらにグルタチオンセファロース4Bと4℃で1時間振盪混和した。その後、GST融合タンパク質が結合したグルタチオンセファロース4Bを回収し、PBSで洗浄した。
【0039】
次いで、GST融合タンパク質が結合したグルタチオンセファロース4BとPBMCライセートとを25℃で1時間振盪混和した後、洗浄した。その後、還元型グルタチオンを含む溶出バッファを加えて遠心分離を行い、回収した上清のSDS電気泳動を行った後、ゲル染色をいった。なお、対照としては、PBMCライセートの代わりにPBSを混和したもの、及び0.001U/mLのトロンビンを含むPBSを混和したものを用いた。結果を図10に示す。
【0040】
図10から分かるように、健常者のPBMCライセートと混和させた場合には47kDaのGST融合タンパク質のバンドが優位に確認されたが、RA患者のPBMCライセートと混和させた場合には32kDaにもバンドが確認された。
この結果から、カルパイン処理後の47kDaのポリペプチドは、RA患者のPBMCライセートにより、N末端側から約32kDaの位置で切断されることが分かる。
【0041】
<実施例3:関節リウマチ診断の感度・特異度の確認>
実施例3では、RA患者21例、SLE患者9例、及び健常者8例を被検者として、約32kDaのポリペプチド又は約15kDaのポリペプチドをマーカーとした関節リウマチ診断の感度・特異度について確認した。
各被検者における約32kDaのポリペプチドの有無を下記表1に示し、各被検者における約15kDaのポリペプチドの有無を下記表2に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
約32kDaのポリペプチドの有無を検討すると、RA患者では健常者と比較して、感度は18/21×100=85.7%、特異度は8/8×100=100%であった。また、SLE患者と比較しても、感度は18/21×100=85.7%、特異度は5/9×100=55.6%であった。このことから、約32kDaのポリペプチドはRA患者血中に有意に存在することが分かる。
また、約15kDaのポリペプチドの有無を検討すると、RA患者では健常者と比較して、感度は17/21×100=81.0%、特異度は8/8×100=100%であった。また、SLE患者と比較しても、感度は17/21×100=81.0%、特異度は5/9×100=55.6%であった。このことから、約15kDaのポリペプチドはRA患者血中に有意に存在することが分かる。
【0045】
一般に日常診療上、関節リウマチ診断のマーカーとしてリウマトイド因子や抗CCP抗体が用いられている。これまでの報告では、リウマトイド因子の感度は75〜80%、特異度は50〜70%、抗CCP抗体の感度は50〜75%、特異度は85〜95%である。また、SLE患者の血中における抗CCP抗体の陽性率は5〜40%と報告されている(Qing YF. et al., Lupus 18: 713−717, 2009を参照)。
したがって、本発明の診断方法は、感度に関して既存の方法よりも優れ、特異度に関しても既存の方法に劣らないものであることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タリンのF1ドメインに対応するアミノ酸配列を少なくとも含み、かつ、約32kDaの分子量を有する新規ポリペプチド。
【請求項2】
タリンのF3ドメインに対応するアミノ酸配列を少なくとも含み、かつ、約15kDaの分子量を有する新規ポリペプチド。
【請求項3】
関節リウマチに罹患している被検動物より採取した生体試料中から検出可能である請求項1又は2記載の新規ポリペプチド。
【請求項4】
被検動物より採取した生体試料中から下記(a)及び(b)の少なくとも一方のポリペプチドを検出する工程を含む関節リウマチの診断方法。
(a)タリンのF1ドメインに対応するアミノ酸配列を少なくとも含み、かつ、約32kDaの分子量を有するポリペプチド。
(b)タリンのF3ドメインに対応するアミノ酸配列を少なくとも含み、かつ、約15kDaの分子量を有するポリペプチド。
【請求項5】
前記被検動物がヒトである請求項4記載の関節リウマチの診断方法。
【請求項6】
請求項4又は5記載の関節リウマチの診断方法に使用するための診断用キット。
【請求項7】
タリンのN末端からカルパイン切断部位までの範囲に特異的に結合する抗体を含有してなる請求項6記載の診断用キット。

【図1】
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【図9】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−157301(P2011−157301A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−20492(P2010−20492)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【出願人】(510180946)株式会社ケイティーバイオ (2)
【Fターム(参考)】