説明

既設アンカーの再緊張方法、アンカー再緊張用治具および再緊張部材兼用アンカーヘッド

【課題】 センターホールジャッキを用いることなく既設アンカーの再緊張を行うという目的を、構成の複雑化を伴うことなく実現可能とした。また、これに加えて、現行のアンカーヘッドへの適応性の向上をも、それと同時に実現可能とした。
【解決手段】 ねじ孔としてなる貫通孔34を離間3ヶ所以上に有したサポートヘッド32を、再緊張部材として、引張材18との、少なくとも牽引方向への一体移動を可能に、既設のアンカーヘッド22に対して固定的に連結する。そして、一連のテンションボルト16を、このサポートヘッド32の貫通孔34に対し引張材18の末端側から挿通、螺着し、この貫通孔に対するテンションボルトの螺進に伴う、その牽引方向へのサポートヘッドの軸線移動のもとで、引張材の再緊張を行うものとしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、施工、定着済みの既設アンカーを再緊張するアンカーの再緊張方法、このアンカーの再緊張に使用されるアンカー再緊張用治具、およびその再緊張部材として兼用可能な再緊張部材兼用アンカーヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
地盤、構造物等の補強、安定化を目的として施工されるアンカー、いわゆるグラウンドアンカーは、地盤中にその先端部の定着(固結)された引張材の自由長部の牽引、緊張により発生される緊張力を、その定着力として地盤、構造物等に伝達、付与する構造であるため、経年変化による地盤等の変位や引張材の伸び等によってその緊張力が低下すると、アンカーとしてのその機能性の低下が伴われる。そこで、通常は、ほぼ定期的にその健全度の検査を行い、緊張力が低下した判断されたとき、そのアンカーを再緊張することでアンカーとしての機能性を長期間維持することが行われている。
【0003】
ここで、この既設アンカーの再緊張にあたっては、多大な牽引力を発生可能とする油圧式等のセンターホールジャッキが一般的に使用されている。
【0004】
この、センターホールジャッキを使用した再緊張方法の一例として、たとえば特開平11−209974号公報に開示のものが挙げられる。この公知の再緊張方法は、アンカーヘッドに予め形成された中央のねじ孔に大径の長尺ボルトを螺着し、その長尺ボルトを、ラムチェアに載置したセンターホールジャッキで牽引することによって引張材、つまりはアンカーの再緊張をはかろうとするものである。
【0005】
ところで、アンカー施工時の緊張や既設アンカーの再緊張に使用される前出の一般的なセンターホールジャッキは、比較的重量のある大型機材として認識できるものであり、その移動および設置に相応の労力の要求されることは、センターホールジャッキに対する一般的な認識事項である。
【0006】
ここで、たとえ比較的重量のある大型機材であったとしても、足場やクレーン等の施工設備の整った当初施工時の作業環境であれば、引張材の緊張、定着に際してのセンターホールジャッキの使用にさほどの不都合は感じ得ない。しかし、再緊張の要求される既設アンカーは、通常、足場やクレーン等の施工設備の撤去された後の環境下にあるため、既設アンカーの再緊張にあたっては、センターホールジャッキの移動、設置に耐え得るだけの大規模な足場の構築やクレーンの設置等、その当初施工時と同等の施工設備の再現が要求されることから、既設アンカーの再緊張作業には多大な労力および時間が相応に掛かるものとして一般的には認識されている。
【0007】
つまり、センターホールジャッキを使用する従来の再緊張方法においては、その作業コストの増大化が避けられないものとなっている。
【0008】
また、場合によっては、経年に伴った、その現場周辺の環境変化により、その施工設備が再現不能となることも起こり得ることから、センターホールジャッキを使用する従来の再緊張方法は、施工後の現場環境変化に対する適応性に劣ることも否定できない。
【0009】
また、前出の特開平11−209974号公報に開示された再緊張方法においては、予めねじ孔の形成されたアンカーヘッドをその当初施工時に使用する必要があるため、めねじ孔を有しない、施工済みの現行のアンカーヘッドに対しては、この再緊張方法が適用できないと考えざるを得ず、その適応性、汎用性に劣ることも否定できない。
【特許文献1】特開平11−209974号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
解決しようとする問題点は、センターホールジャッキを使用する点、および施工済みの現行のアンカーヘッドに適用できないという点である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る本発明の既設アンカーの再緊張方法は、ねじ孔としてなる貫通孔を離間3ヶ所以上に有した再緊張部材を、引張材との、少なくとも牽引方向への一体移動を可能に設け、この再緊張部材を、その引張材の末端側から再緊張部材の貫通孔に挿通、螺着した一連のテンションボルトの螺進のもとで牽引方向に軸線移動させることを、その最も主要な特徴としている。
【0012】
また、請求項2の既設アンカーの再緊張方法は、請求項1において、ねじ孔としてなる貫通孔に対する螺進のもとでの、再緊張部材から支圧板方向へのテンションボルトの突出に伴った、このテンションボルトによる、支圧板に対する再緊張部材の押し上げにより引張材をその緊張方向に牽引し保持することを、その最も主要な特徴としている。
【0013】
さらに、請求項3の既設アンカーの再緊張方法は、請求項1において、支圧板への接地により配設されたボルト台に対して、テンションボルトを回転自在に挿通、保持し、このボルト台を支持ベースとしたテンションボルトの回転に伴った、ねじ孔としてなる前記貫通孔に対する螺進のもとでの、このテンションボルトによる、支圧板に対する再緊張部材の引き上げにより、引張材をその緊張方向に牽引し保持することを、その最も主要な特徴としている。
【0014】
また、請求項4の既設アンカーの再緊張方法は、少なくともその牽引方向への一体移動を可能に、既設のアンカーヘッドに固定的に連結されたサポートヘッドを請求項1ないし3での再緊張部材としたことを、その最も主要な特徴としている。
【0015】
さらに、請求項5の既設アンカーの再緊張方法は、少なくともその牽引方向への一体移動を可能に、引張材の、アンカーヘッドからのその延出端に固定的に連結されたサポートヘッドを請求項1ないし3での再緊張部材としたことを、その最も主要な特徴としている。
【0016】
そして、請求項6の既設アンカーの再緊張方法は、既設のアンカーヘッドにねじ孔となる貫通孔を予め設けることによって、このアンカーヘッド自体を請求項1ないし3での再緊張部材としたことを、その最も主要な特徴としている。
【0017】
また、請求項7に係る本発明のアンカー再緊張用治具は、めねじ部を少なくとも部分的に持つねじ孔として規定された貫通孔を、アンカーヘッドとの非整列位置での離間3ヶ所以上に有してなるとともに、アンカーヘッド、およびこのアンカーヘッドからの引張材の延出端のいずれかに対し、所定の連結手段によって少なくともその牽引方向への一体移動を可能に連結される、再緊張部材となるサポートヘッドと、このサポートヘッドの、ねじ孔としてなる貫通孔に挿通、螺着される一連のテンションボルトとを具備してなり、その貫通孔に対する螺進のもとでの、サポートヘッドから支圧板方向へのテンションボルトの突出に伴った、このテンションボルトによる、支圧板に対するサポートヘッドの押し上げにより、引張材をその緊張方向に牽引し保持する、押し上げ型として構成されたことを、その最も主要な特徴としている。
【0018】
そして、請求項8のアンカー再緊張用治具は、アンカーヘッド周りで支圧板とサポートヘッドとの間に介在可能な略リング状に形成されるとともに、その外周面に所定のねじ部の設けられた台座と、台座外周面のねじ部に螺着可能な対応ねじ部を、その下端部内周面に有してなる内部密閉型のヘッドキャップとを、請求項7の構成にさらに備えてなり、この台座上面を、テンションボルト先端の、支圧板側での接地面として規定するとともに、この台座を、再緊張後の既設アンカーの頭部定着部を防錆保護するための再緊張後用のヘッドキャップの取り付けベースとすることを、その最も主要な特徴としている。
【0019】
また、請求項9に係る本発明のアンカー再緊張用治具は、めねじ部を少なくとも部分的に持つねじ孔として規定された貫通孔を、アンカーヘッドとの非整列位置での離間3ヶ所以上に有してなるとともに、アンカーヘッド、およびこのアンカーヘッドからの引張材の延出端のいずれかに対し、所定の連結手段によって少なくともその牽引方向への一体移動を可能に連結される、再緊張部材となるサポートヘッドと、支圧板への接地のもとで、少なくともアンカーヘッドおよびサポートヘッドを覆って配設されるボルト台と、その挿通のもとで回転自在に垂設、支持されるボルト台の上端面を介して、サポートヘッドの貫通孔に挿通、螺着される一連のテンションボルトとを具備してなり、ボルト台を支持ベースとしたテンションボルトの回転に伴った、貫通孔に対する螺進のもとでの、このテンションボルトによる、支圧板に対するサポートヘッドの引き上げにより、引張材をその緊張方向に牽引し保持する、引き上げ型として構成されたことを、その最も主要な特徴としている。
【0020】
そして、請求項10のアンカー再緊張用治具は、ボルト台の上部を閉鎖的に覆う内部密閉型のキャップ体を、請求項9の構成にさらに備えてなり、ボルト台にこのキャップ体を組み合わせることにより、これを、再緊張後の既設アンカーの頭部定着部を防錆保護するための再緊張後用のヘッドキャップとすることを、その最も主要な特徴としている。
【0021】
また、請求項11に係る本発明のアンカー再緊張用治具においては、アンカーヘッドが、めねじ部を少なくとも部分的に持つねじ孔として規定された貫通孔を離間3ヶ所以上に予め有する再緊張部材としてなるとともに、一連のテンションボルトが、このアンカーヘッドの、ねじ孔としてなる貫通孔に挿通、螺着され、引張材の末端側から貫通孔に挿通、螺着した一連のテンションボルトをヘッドアンカーの貫通孔に対して螺進させることによる、支圧板に対する牽引方向へのヘッドアンカーの軸線移動によって、引張材をその緊張方向に牽引、保持可能としたことを、その最も主要な特徴としている。
【0022】
さらに、請求項12のアンカー再緊張用治具は、請求項11の構成において、テンションボルトを、アンカーヘッドから支圧板方向への突出を可能に、貫通孔に螺着し、貫通孔に対する螺進のもとでの、アンカーヘッドから支圧板方向へのテンションボルトの突出に伴った、このテンションボルトによる、支圧板に対するアンカーヘッドの押し上げにより、引張材をその緊張方向に牽引し保持する、押し上げ型として構成されたことを、その最も主要な特徴としている。
【0023】
そして、請求項13のアンカー再緊張用治具は、請求項11の構成において、支圧板への接地により配設された所定のボルト台に対して、テンションボルトを回転自在に挿通、保持し、ボルト台を支持ベースとしたテンションボルトの回転に伴った、貫通孔に対する螺進のもとでの、このテンションボルトによる、支圧板に対するアンカーヘッドの引き上げにより、引張材をその緊張方向に牽引し保持する、引き上げ型として構成されたことを、その最も主要な特徴としている。
【0024】
また、請求項14に係る本発明の再緊張部材兼用アンカーヘッドは、めねじ部を少なくとも部分的に持つねじ孔として規定された貫通孔を、離間3ヶ所以上に予め有する再緊張部材としてなり、引張材の末端側から貫通孔に挿通、螺着した一連のテンションボルトを貫通孔に対して螺進させることによる、支圧板に対する牽引方向へのその軸線移動によって、引張材の再緊張を可能としたことを、その最も主要な特徴としている。
【0025】
そして、請求項15の再緊張部材兼用アンカーヘッドは、請求項14の構成において、側端開口からの外形非円形のナット部材の挿入を可能とする挿入路が、そのナット部材の回転を規制可能とする形状で、貫通孔の一部に連通して設けられ、このナット部材を挿入路から貫通孔に整列配置することにより、このナット部材を貫通孔のめねじ部として規定、配設可能としたことを、その最も主要な特徴としている。
【発明の効果】
【0026】
請求項1ないし請求項3に係る本発明の既設アンカーの再緊張方法によれば、再緊張部材に対するテンションボルトの螺進のもとで、既設アンカーに対する再緊張作業が行えるため、その再緊張作業がセンターホールジャッキ等の大型機材を用いることなく容易に可能になるという利点がある。
【0027】
そして、センターホールジャッキ等の大型機材を使用しない既設アンカーの再緊張が可能となることから、既設アンカーの再緊張時における機材の移動、設置労力が大幅に軽減され、さらに、大型機材の移動、設置に必要な大規模な足場の構築等が、既設アンカーの再緊張時には不要となることから、この点からも、その作業時の労力が大幅に軽減でき、よって、その作業コストも大幅に低減されるという利点も、この既設アンカーの再緊張方法によれば得られる。
【0028】
また、テンションボルトをトルクレンチ等によってその締め付け方向に回転させれば足りるため、複数の既設アンカーに対する、複数の作業者による平行作業が可能となる。つまり、複数の既設アンカーに対する再緊張作業が同時進行のもとで行えることから、その全体的な作業時間の短縮による作業コストの低減も、この発明による利点として得ることができる。
【0029】
さらに、テンションボルトをその螺進状態で維持すれば、再緊張部材、つまり引張材がその再緊張状態で保持されるため、その隙間を埋めるためのスペーサ等の別部材は不要となり、その作業の簡素化が十分に得られることから、この発明によれば、その作業性が確実に向上されるという利点もある。
【0030】
そして、再緊張部材を介した引張材の牽引であるため、既設のアンカーヘッドに何等手を加えることなく、その牽引、再緊張を行うことが可能となる。つまり、その連結等を待った考慮していない現行形態のアンカーヘッドへの適用が可能であることから、現行のアンカーヘッドを用いた現状の既設アンカーを、その再緊張対象とすることができ、よって、その汎用性が確実に向上されるという利点が、この発明によれば得られる。
【0031】
また、請求項2の既設アンカーの再緊張方法によれば、再緊張部材の貫通孔に対してテンションボルトを直接的に螺着すれば足りるため、その構成の簡素化が可能になるという利点がある。
【0032】
そして、請求項3の既設アンカーの再緊張方法によれば、引っ張り方向の荷重がテンションボルトに対して作用されるため、テンションボルトによる支持荷重の増大化が十分に望める。つまり、再緊張時の引張荷重の大きい場合、およびその牽引長の長い場合等において特に効果的に使用できる再緊張方法が得られるという利点がある。
【0033】
そして、請求項4の構成においては、既設のアンカーヘッドに固定的に連結したサポートヘッドが再緊張部材として具体化されているため、これによれば、構成の複雑化を伴うことなくその作業の簡素化が十分に可能になるという利点が得られる。
【0034】
また、請求項5の構成においては、既設のアンカーヘッドからの引張材の延出端に固定的に連結したサポートヘッドが再緊張部材として具体化されているため、これによれば、構成の複雑化を伴うことなくその作業の簡素化が十分に可能になるという利点が得られる。
【0035】
さらに、請求項6の構成においては、既設のアンカーヘッド自体を再緊張部材としているため、その構成が確実に簡素化されるという利点がある。
【0036】
また、請求項7のアンカー再緊張用治具によれば、その構成の複雑化を伴うことなく、請求項1および請求項2の再緊張方法が適切に遂行できるという利点がある。
【0037】
そして、請求項8の構成によれば、請求項7のアンカー再緊張用治具における再緊張後の頭部定着部の防錆保護が、構成の複雑化を伴うことなく容易に可能になるという利点がある。
【0038】
また、請求項9のアンカー再緊張用治具によれば、その構成の複雑化を伴うことなく、請求項1および請求項3の再緊張方法が適切に遂行できるという利点がある。
【0039】
そして、請求項10の構成によれば、請求項9のアンカー再緊張用治具における再緊張後の頭部定着部の防錆保護が、構成の複雑化を伴うことなく容易に可能になるという利点がある。
【0040】
さらに、請求項11のアンカー再緊張用治具によれば、請求項1の再緊張方法が、その構成の複雑化を伴うことなく適切に遂行できるという利点がある。
【0041】
そして、この請求項11の構成によれば、アンカーヘッド自体が再緊張部材として利用されるため、構成が確実に簡素化されるという利点がある。
【0042】
また、請求項12の構成によれば、請求項1および請求項2の再緊張方法が、構成の複雑化を伴うことなく適切に遂行できるという利点がある。
【0043】
さらに、請求項13の構成によれば、請求項1および請求項3の再緊張方法が、構成の複雑化を伴うことなく適切に遂行できるという利点がある。
【0044】
そして、請求項14の再緊張部材兼用アンカーヘッドによれば、請求項1ないし請求項3の再緊張方法が構成の複雑化を伴うことなく適切に遂行できるという利点、および請求項11ないし請求項13のアンカー再緊張用治具が適切に構成できるという利点が、それぞれ得られる。
【0045】
さらに、請求項15の構成によれば、貫通孔のめねじ部が後付けの可能な別体のナット部材であるため、そのめねじ部における、施工時からの経年変化に伴った錆の発生が確実に防止できることから、その再緊張時におけるテンションボルトの円滑な螺進が容易に確保可能となり、よって、その作業性およびその作業の確実性が向上されるという利点が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
センターホールジャッキを用いることなく既設アンカーの再緊張を行うという目的を、構成の複雑化を伴うことなく実現可能とした。
【0047】
また、これに加えて、現行のアンカーヘッドへの適応性の向上をも、それと同時に実現可能とした。
【実施例】
【0048】
図1ないし図3に、この発明のアンカー再緊張用治具10の第1実施例を示す。そして、図1に示すその再緊張前の概略縦断面図と、図2に示すその再緊張後の概略縦断面図とを比較して見るとわかるように、この発明のアンカー再緊張用治具10は、所定の再緊張部材に対する、支圧板14方向への一連のテンションボルト16の螺進によって、既設アンカー、つまりその引張材18を牽引し再緊張するものとして構成されている。
【0049】
地盤、構造物等の補強、安定化を目的として施工されるアンカー(グラウンドアンカー)は、図4に示すように、地盤中にその定着部(図示しない)の固結された引張材18、たとえば所定複数本のPC鋼より線を所定の牽引力のもとで牽引し、その延出端18aに対し、構造物20上の支圧板14に載置、係合可能なアンカーヘッド22をクサビ24によって固定的に係止することにより、その緊張力を定着力として構造物および地盤に付与可能に構成されるが、その全体的な基本構造は公知であるとともに、その構造自体はこの発明の趣旨でないため、その構造に対する詳細な説明はここでは省略する。
【0050】
なお、図4に一点鎖線で示す参照符号26は、アンカー施工後にその頭部定着部28、つまりアンカーヘッド22を主体とした支圧板14の上方部分を防錆保護するための内部密閉型のヘッドキャップであり、このヘッドキャップは、通常、ボルト止め等により、支圧板に対して着脱可能に取り付けられる。
【0051】
この発明に係るアンカー再緊張用治具10は、このように施工されたアンカー(既設アンカー)の頭部定着部28を牽引することによって、その再緊張、つまりは引張材18の再緊張を行うものとして構成され、図1、図2に示すように、この第1実施例では、一連のテンションボルト16の螺進に伴った、支圧板14に対する再緊張部材の押し上げによって、その再緊張が行われるものとなっている。
【0052】
この再緊張部材は、アンカーヘッド22、あるいはこのアンカーヘッドから延出された引張材18の延出端18aに対し、所定の連結手段によって少なくともその牽引方向への一体移動を可能に連結されるものであり、図1および図3に示すように、ここではまず、アンカーヘッドに対して固定的に連結される略リング状のサポートヘッド32が、その再緊張部材として具体的に例示されている。
【0053】
このサポートヘッド(再緊張部材)32は、既設のアンカーヘッド22周りへの配置の可能な略リング状体としてなり、その軸線に沿った方向に延びる貫通孔34が、離間3ヶ所以上で、たとえば等間隔毎に形成されている。
【0054】
なお、図3を見るとわかるように、この実施例においては、サポートヘッドの貫通孔34の数が、ほぼ30°間隔の12ヶ所として具体化されている。
【0055】
そして、図1を見るとわかるように、このサポートヘッドの貫通孔34は、少なくとも部分的なめねじ部34aをその内部に持ったねじ孔として規定、形成され、このねじ部に対する、引張材18の末端側、つまり図中上方からの直接的な挿入、螺着のもとで、たとえば対応数のテンションボルト16がそれぞれ配設される。
【0056】
このサポートヘッド32は、既設のアンカーヘッド22の周りに配置され、このアンカーヘッドに対し、所定の連結手段によって、少なくとも牽引方向への一体移動を可能に連結されている。
【0057】
図1に加えて図3を見るとわかるように、この連結手段として、たとえば、アンカーヘッド22、サポートヘッド32間にその図中上方、つまり引張材末端側から嵌入される、平面対応円弧状の一連のクサビ30が例示できる。
【0058】
なお、クサビ30を連結手段として使用するにあたっては、サポートヘッド32の内周面32aが、上端を外側に傾斜させたテーパ面として形成される(図1参照)。
【0059】
ここで、この種のアンカー(既設アンカー)を再緊張する場合、その再緊張後の頭部定着部28に対しても防錆保護のためのヘッドキャップを設ける必要がある。しかしながら、既設のアンカーヘッド22の周りにサポートヘッド32を配するこの構成においては、施工当初のヘッドキャップ(図4の参照符号26)が再使用できない場合も起こり得る。そこで、図1ないし図3に示すように、この実施例においては、施工当初のヘッドキャップ(図4の参照符号26)が再使用できない場合を想定して、再緊張後のヘッドキャップの取り付けベースとなる台座36をアンカー再緊張用治具10の一構成部材として設けるものとしている。
【0060】
図1、図3に示すように、この台座36は、既設のアンカーヘッド22の周りに配設可能な、上記サポートヘッド32と同様の略リング状体として形成され、アンカーヘッド周りにおいて、支圧板14とサポートヘッドとの間に介在される。
【0061】
なお、この台座36は、サポートヘッド32から突出されたテンションボルト16の先端の当接、接地されるものであり、このテンションボルトを支持するためのその台座としての機能を確保可能に、テンションボルトの接地の可能な幅および剛性を有して形成されている。
【0062】
このアンカー再緊張用治具10の組み立て構造を図1に示す。そして、このような組み立てを伴って配設されたアンカー再緊張用治具10による既設アンカー、つまり引張材18の再緊張は、サポートヘッドのめねじ部34aに対する、引張材末端側からのテンションボルト16の螺進のもとで行われる。
【0063】
つまり、クサビ(連結手段)30によるアンカーヘッド22周りへのサポートヘッド32の固定的連結の後、各テンションボルト16を、トルクレンチ等によるその締め付け方向への回転操作のもとで螺進させ、この各テンションボルトの先端を、図2のようにサポートヘッドから支圧板14方向、ここでは台座36との接地部分で台座方向に突出させることにより、支圧板に対するアンカーヘッドの押し上げ、つまりは引張材18の再緊張が行われる。
【0064】
なお、各テンションボルト16に対する締め付けトルクをトルクレンチ等によって予め設定しておくことにより、その均質な牽引、緊張は容易に確保可能となる。
【0065】
上記のように、この発明の既設アンカーの再緊張方法においては、サポートヘッド32に螺着、配設されたテンションボルト16を、トルクレンチ等によってその締め付け方向に回転操作するにすぎないため、既設アンカーに対する再緊張作業が、センターホールジャッキ等の大型機材を用いることなく容易に可能となる。
【0066】
つまり、この発明によれば、センターホールジャッキ等の大型機材を使用しない既設アンカーの再緊張が可能となるため、既設アンカーの再緊張時における機材の移動、設置労力が大幅に軽減される。そして、大型機材の移動、設置に必要な大規模な足場の構築等が、既設アンカーの再緊張時には不要となることから、この点からも、その作業時の労力が大幅に軽減でき、よって、その作業コストも大幅に低減される。
【0067】
また、この発明においては、テンションボルト16をトルクレンチ等によってその締め付け方向に回転させれば足りるため、複数の既設アンカーに対する、複数の作業者による平行作業が可能となる。つまり、複数の既設アンカーに対する再緊張作業が同時進行のもとで行えることから、その全体的な作業時間の短縮も可能となり、よって、この点においても作業コストが十分に低減される。
【0068】
さらに、この発明によれば、テンションボルト16をその螺進状態で維持すれば、アンカーヘッド22、つまり引張材18がその再緊張状態で保持されるため、その隙間を埋めるためのスペーサ等の別部材は不要となり、よって、その作業性が確実に向上される。
【0069】
なお、地盤等の変位によって構造物20と引張材18との間に傾斜が生じても、各テンションボルト16の突出量を調整することによって、その傾斜に応じた角度でのアンカーヘッド22の保持が可能となることから、アジャスタ等の角度調整部材の付加も必要なくなる。従って、この発明によれば、その構成の簡素化が十分に可能となる。
【0070】
そして、上述したこの発明の第1実施例に係るアンカー再緊張用治具10によれば、上記既設アンカーの再緊張方法が、その構成の複雑化を伴うことなく容易かつ適切に遂行可能となる。
【0071】
さらに、このアンカー再緊張用治具10においては、クサビ30によって、サポートヘッド32が既設のアンカーヘッド22に固定的に連結されている。つまり、その連結等を全く考慮していない現行形態のアンカーヘッドへの適用が可能であることから、現行のアンカーヘッドを用いた現状の既設アンカーを、その再緊張対象とすることができ、よって、その汎用性が確実に向上される。
【0072】
ここで、上述したように、この実施例のアンカー再緊張用治具10においては、再緊張後用のヘッドキャップの取り付けベースとなる台座36が、支圧板14上に配設されている。そこで、この形態のアンカー再緊張用治具10においては、既設アンカーの再緊張後、この台座36を利用して、内部密閉型のヘッドキャップ38がその頭部定着部28を覆って取り付けられる(図2参照)。
【0073】
図3を見るとわかるように、台座36は、その外周面にねじ部40を有して形成されている。そして、このねじ部40に対応するねじ部42をその下端内周面に有するヘッドキャップ38を、図2に示すように、この台座36周りに螺着することによって、このヘッドキャップによる、再緊張後の頭部定着部28の防錆保護が可能となる。
【0074】
なお、テンションボルト16の接地される台座36は、テンションボルトの締め付けによるその緊張力のもとで支圧板14に対して圧接されることから、別段の固定を伴うことなく、支圧板上でのその固定的保持は確保される。
【0075】
また、図2の参照符号44は、ヘッドキャップ38の下面に設けられた防水用ゴムパッキンである。
【0076】
ここで、上記の実施例では、支圧板14とサポートヘッド32との間に介在した台座36に対する螺着を、アンカー再緊張後でのヘッドキャップ38の取り付け形態として具体化しているが、これはその一例にすぎず、この形態に限定するものではない。たとえば、支圧板14に対する直接的なボルト止め等のもとでアンカー再緊張後のヘッドキャップ38を取り付ける形態も、その取り付け形態の別の例として挙げられる。
【0077】
なお、台座36を用いないヘッドキャップ38の取り付け形態であれば、この台座をアンカー再緊張用治具10から省略することができる。
【0078】
しかしながら、この実施例のような、リング状の台座36を支圧板14とサポートヘッド32との間に介在させる構成であれば、ヘッドキャップ38の取り付けベースとなる台座が、アンカー再緊張用治具10の一構成部材として配設されるにすぎないため、ヘッドキャップの取り付けが、その構造の複雑化を伴うことなく容易に可能となる。そして、ヘッドキャップ38の取り付けが、既設アンカーの構成部材に何等手を加えることなく行えるため、その作業性も確実に向上される。
【0079】
また、上述したこの実施例においては、テンションボルト16、つまりサポートヘッドの貫通孔34の配置数が、30°離反した12として具体化されているが、このテンションボルトの数は、サポートヘッド32、ひいては引張材18を安定的に支持可能とする3ヶ所以上であれば足りるため、この12ヶ所に限定されるものではない。
【0080】
しかしながら、テンションボルト16の数が多いほど、この各テンションボルトに掛かる荷重が分散されて、1本あたりの分担荷重が減少するため、テンションボルトの数を多く設けるほど、その対応荷重、つまり緊張荷重を大きく設定することが可能となる。
【0081】
さらに、この実施例においては、サポートヘッドの貫通孔34の全数に亘ってテンションボルト16が配置されているが、サポートヘッド32に対するテンションボルトの配置数が3ヶ所以上であれば足りるため、貫通孔全数に対するテンションボルトの配置は特に要求されない。
【0082】
また、この実施例においては、サポートヘッドのめねじ部34aが、貫通孔34の一部として具体化されているが、これに限定されず、たとえば、その軸線方向での全域にめねじ部を設けてもよい。しかしながら、サポートヘッドのめねじ部34aは、既設アンカー再緊張時のトルクに耐え得る程度の長さを有すれば足りるため、貫通孔34の全長をめねじ部とする必要はなく、また、その長さを短縮することで、形成作業の容易化および螺着作業の容易化も可能となることから、その作業性が向上される。
【0083】
ここで、その牽引方向への一体移動を可能に、サポートヘッド32を既設のアンカーヘッド22周りに固定的に連結する連結手段として、上述の実施例においてはクサビ30を利用しているが、これに限定されるものではない。
【0084】
たとえば、図5、図6に示すように、既設アンカーのアンカーヘッド22の現行形態として、たとえばその周面にねじ部46を有したものがあり、このような形態のアンカーヘッドにおいては、サポートヘッド32の内周面に設けた、この周面のねじ部46に対応するねじ部48が、サポートヘッドをアンカーヘッドに固定的に連結する連結手段として具体化できる。
【0085】
このように、アンカーヘッドのねじ部46に螺着可能な対応するねじ部48を連結手段とすれば、この相互間の螺着のもとで、アンカーヘッド22とサポートヘッド32との、少なくともその牽引方向への一体移動が確保できるため、図7に示すような、サポートヘッドのめねじ部34aに対するテンションボルト16の螺進に伴った既設のアンカーヘッド22の押し上げ、つまりは引張材18の再緊張が、上記実施例と同様に確保可能となる。
【0086】
そして、このように、既設のアンカーヘッド22に予め設けられたねじ部46を利用することにより、クサビ等の別体の連結手段が不要となることから、その部品点数の削減が可能となり、よって、その構成の簡素化および作業の簡素化が得られる。
【0087】
なお、上記実施例と同一の構成部材に関しては、図5ないし図7において同一の参照符号を付すことで、ここでのその説明を省略する。
【0088】
また、前出のように、既設アンカーの再緊張を行う再緊張部材は、アンカーヘッド22、あるいはこのアンカーヘッドからの引張材の延出端18aのいずれかに対して固定的に連結されるものであれば足りるため、上記のようなアンカーヘッドに固定的に連結される形態のサポートヘッドに限定されない。そこで、引張材の延出端18aに対して固定的に連結されるサポートヘッド50を再緊張部材とした例を、図8ないし図10に示す。
【0089】
図8、図9を見るとわかるように、このサポートヘッド(再緊張部材)50は、引張材の延出端18aの挿通を可能とする挿通孔52を、その対応数だけその中央部に有して形成され、この挿通孔内における引張材周りへのクサビ54の嵌着により、このクサビを連結手段とした、引張材に対するサポートヘッドの一体的な連結が行われる。
【0090】
また、この構成においても、アンカーヘッド22の周りで支圧板14とサポートヘッド50との間に略リング状の台座36が配設され、この台座に対する一連のテンションボルト16の当接、接地のもとでの、サポートヘッドの貫通孔34に対するテンションボルトの螺進により、図10に示すような支圧板に対するサポートヘッドの押し上げに伴った引張材18の再緊張が可能となる。
【0091】
そして、この台座36の外周面にねじ部40を設けることによって、前記形態と同様の、アンカー再緊張後のヘッドキャップ38の取り付けが容易に可能となる。
【0092】
このように、アンカーヘッド22からの引張材18の延出長が相応にある場合は、この引張材の延出端18aをその牽引に利用することも可能となる。つまり、この構成においても、現行形態のアンカーヘッド22に何等手を加えることのないアンカーの再緊張が容易に可能となる。
【0093】
また、このような場合においては、既設のアンカーヘッド22の形状、形態を問わず、引張材18を牽引、再緊張することが可能となるため、アンカーヘッドの形状、形態が特殊等であった場合に、特に有効に利用できる。
【0094】
ここまでの実施例は、サポートヘッド(再緊張部材)に対する一連のテンションボルト16の螺進のもとでこのサポートヘッドを支圧板14に対して押し上げる、いわゆる押し上げ型として具体化したものであるが、これに限定されず、一連のテンションボルトによる引き上げのもとで既設アンカー、つまりは引張材18の再緊張を行う、いわゆる引き上げ型に、アンカー再緊張用治具を構成してもよい。
【0095】
この、引き上げ型のアンカー再緊張用治具110をこの発明の第2実施例とし、その一例を図11ないし図13に示す。
【0096】
図11、図12に示すように、たとえば、既設のアンカーヘッド22周りに配設された略リング状のサポートヘッド32が、クサビ(連結手段)30によって少なくとも牽引方向への一体移動を可能にそのアンカーヘッドに対して固定的に連結される。そして、このアンカーヘッド22およびサポートヘッド32を覆って、ボルト台56が、支圧板14への接地を伴って配設されている。
【0097】
このボルト台56は、少なくともその側面の閉鎖された中空の台形状に形成され、その上端に、サポートヘッドの貫通孔34に挿通、螺着される一連のテンションボルト16が回転自在に挿通、保持されている。
【0098】
このアンカー再緊張用治具110の組み立て構造を図11に示す。そして、このような組み立てを伴って配設されたアンカー再緊張用治具110による既設アンカー、つまり引張材18の再緊張は、上記第1実施例と同様に、サポートヘッドのめねじ部34aに対する、引張材末端側からのテンションボルト16の螺進のもとで行われる。
【0099】
つまり、ボルト台56を介してサポートヘッドのめねじ部34aに螺着されたテンションボルト16を、それぞれその締め付け方向に回転させると、めねじ部に対するテンションボルトの螺進のもとで、図13に示すように、サポートヘッド32が、既設のアンカーヘッド22と共に支圧板14からの引き上げ方向に軸線移動されるため、これによって引張材18、つまり既設アンカーが再緊張される。
【0100】
このように、この構成のアンカー再緊張用治具110においても、テンションボルト16を再緊張部材となるサポートヘッド32に対して螺進させることによって引張材18の再緊張を行うという、この発明の既設アンカーの再緊張方法が適切に遂行可能となる。
【0101】
そして、トルクレンチ等によるテンションボルト16の回転操作によって既設アンカーの再緊張を行う点は、上記第1実施例と同様であるため、この第2実施例の形態においても、既設アンカーに対する再緊張作業がセンターホールジャッキ等の大型機材を用いることなく容易に可能となり、よって、上記第1実施例と同様の効果が、この第2実施例のアンカー再緊張用治具110においても容易に確保可能となる。
【0102】
ここで、図13を見るとわかるように、この第2実施例のアンカー再緊張用治具110によって既設アンカー、つまり引張材18を再緊張すると、この引張材からの緊張力は、テンションボルト16をその軸線方向に引っ張る力として作用する。このような、テンションボルト16による引っ張り方向での荷重の支持であれば、第1実施例のアンカー再緊張用治具10でのテンションボルトの圧縮による支持に比較して、テンションボルトによる支持力が十分に高く維持できるため、引張荷重の大きい場合、およびその牽引長の長い場合等において特に効果的に使用できる。
【0103】
また、このようなボルト台56を用いる場合、図13に示すように、その下端にゴムパッキン44を設けることによって、その下端部の密閉が可能となる。そして、このボルト台56の上部を、内部密閉型のキャップ体58で覆うことによって、このボルト台とキャップ体との組み合わせを、再緊張後用のヘッドキャップとして利用することが可能となる。
【0104】
なお、ボルト台56に対するキャップ体58の連結手段としては、ボルト等が例示できる。また、図13の参照符号60は、キャップ体58の下端に設けられた防水用のゴムパッキンである。
【0105】
この第2実施例の一例を示す図11ないし図13においては、サポートヘッド32をアンカーヘッド22に固定的に連結する連結手段として、クサビ30を例示している。しかし、これに限定されず、たとえば図14ないし図16に示すように、既設のアンカーヘッド22がその外周面にねじ部46を有する形態であった場合においては、サポートヘッド32の内周面に設けた対応ねじ部48を、その間の連結手段として利用することができる。
【0106】
図14、図16に示すように、このような場合においても、ねじ部46,48の相互間の螺合のもとで、アンカーヘッド22、サポートヘッド32間が少なくともその牽引方向への一体移動を可能に連結されるため、ボルト台56に回転自在に保持された一連のテンションボルト16によるサポートヘッド、アンカーヘッドの一体的な牽引、つまり引張材18の再緊張が、上記同様に可能となる。
【0107】
また、第1実施例と同様に、アンカーヘッド22を介した牽引に限定されず、アンカーヘッド22からの引張材の延出端18aを利用してこの引張材18を再緊張することも可能である。
【0108】
図17ないし図19を見るとわかるように、この変形例においては、クサビ54を連結手段として引張材の延出端18aに固定的に連結されたサポートヘッド50が、その貫通孔34に一連のテンションボルト16の螺着される再緊張部材として例示されている。そして、ボルト台56に回転自在に挿通、保持された一連のテンションボルトを、ねじ孔としてなるサポートヘッド(連結手段)の貫通孔34に螺着し、この貫通孔のめねじ部34aに対する、そのテンションボルトの螺進により、図19に示すように、サポートヘッド50が支圧板14からの引き上げ方向に軸線移動され、よって、引張材18、つまり既設アンカーが再緊張される。
【0109】
ところで、上記の第1実施例および第2実施例は、いずれも、現行の形状、形態のアンカーヘッド22を持つ既設アンカーにおけるその再緊張を対象としたものである。つまり、上記の第1実施例および第2実施例のアンカー再緊張用治具10,110であれば、現行のアンカーヘッド22に対する汎用性が確実に向上される。
【0110】
しかしながら、新規で施工するアンカーの場合、そのアンカーヘッドの形状、形態を現行のものとする必要もないことから、このような場合においては、そのアンカーヘッド自体を、再緊張部材として利用することも可能となる。
【0111】
このような、再緊張部材兼用アンカーヘッド222を利用したアンカー再緊張用治具210の一例を、その第3実施例として図20ないし図22に示す。
【0112】
図示のように、この第3実施例のアンカー再緊張用治具210においては、一連のテンションボルト16の挿通、螺着される貫通孔34が、アンカーヘッド222に形成されている。そして、たとえば、支圧板14に対してアンカーヘッド222を押し上げる、いわゆる押し上げ型の構成においては、一連のテンションボルト16が、図22に示すように貫通孔のめねじ部34aに対し、引張材末端側から螺着され、トルクレンチ等によるその締め付け方向への回転操作のもとでの螺進により、各テンションボルトの先端が支圧板14方向に突出されて、その対応量だけ、支圧板に対するアンカーヘッドの押し上げ、つまりは引張材18の再緊張が行われる。
【0113】
なお、この第3実施例の形態においては、アンカーヘッド222自体が再緊張部材として利用されているため、再緊張部材としての別部材の付加はない。つまり、頭部定着部28の外径の変更はないため、図20および図22に示すように、施工当初のヘッドキャップ26をアンカーの再緊張後にも利用することが十分に可能となる。
【0114】
この構成においても、一連のテンションボルト16による既設アンカーの再緊張が行えるため、上記各実施例と同様に、その作業性は確実に向上される。
【0115】
ここで、この構成においては、アンカーヘッド222自体が再緊張部材として利用されるため、再緊張時における部材の追加は一連のテンションボルト16のみとなる。つまり、この構成においては、部品点数の低減による構成の簡素化、およびコストの低減が十分に可能となる。
【0116】
なお、ここでは押し上げ型の例を示しているが、図23に示すように、一連のテンションボルト16を回転自在に挿通、保持したボルト台56を利用することによって、アンカーヘッド222を再緊張部材とするこの構成は、引き上げ型としても具現化できる。
【0117】
ここで、上記で例示した、このアンカー再緊張用治具210において使用される再緊張部材兼用アンカーヘッド222は、一連のテンションボルト16の挿通、螺着される貫通孔34を予め有して形成されたものであるが、そのねじ部34aは貫通孔に一体に設けられたものに限定されない。つまり、この貫通孔34のねじ部として、たとえば、図24および図25に示すような別体のナット部材62を利用する構成として、この再緊張部材兼用アンカーヘッド222を具現化してもよい。
【0118】
図24および図25に加えて図26を見るとわかるように、別体のナット部材62を貫通孔34のねじ部として用いる再緊張部材兼用アンカーヘッド222には、側端開口からの外形非円形のナット部材、たとえば六角形状のナット部材62の挿入を可能とする挿入路64が、そのナット部材の回転を規制可能とする幅のもとで、貫通孔の一部、たとえば下端側に連通して設けられている。そして、このナット部材62を挿入路64から貫通孔34に整列配置することにより、このナット部材が貫通孔のめねじ部として規定、配設されている。
【0119】
図26に、施工当初の頭部定着部28の構造を示す。これを見るとわかるように、この構成においては、施工当初のアンカーヘッド222の貫通孔34にねじ部は存在しない。そして、ヘッドキャップ26を取り外した後のアンカーの再緊張時、図25に示すように挿入路64を介してナット部材62を貫通孔34に整列配置し、図24に示すように、このナット部材に対して一連のテンションボルト16を引張材末端側から螺着することによって、支圧板14に対するアンカーヘッド222の押し上げ、つまりは引張材18の再緊張が可能となる。
【0120】
上述したように、このような構成においては、施工当初のアンカーヘッド222にねじ部が存在しないため、施工時からの経年変化に伴った錆がねじ部に発生することはない。従って、その再緊張時におけるテンションボルト16の円滑な螺進が容易に確保可能となり、よって、その作業性およびその作業の確実性が向上される。
【0121】
なお、この実施例においては、ナット部材62の外形非円形状として六角形状を例示しているが、挿入路64との組み合わせのもとでその回転の阻止される形状であれば足りるため、これに限定されず、たとえば四角形状や楕円形状あるいは長円形状等を、ナット部材の外形非円形状としてもよい。
【0122】
また、ここでは押し上げ型の例を示しているが、図27に示すように、一連のテンションボルト16を回転自在に挿通、保持したボルト台56を利用することによって、別対のナット部材62を貫通孔34のねじ部として利用、規定するこのアンカーヘッド222においても、引き上げ型としての具現化は容易に可能となる。
【0123】
上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、この発明を何等限定するものでなく、この発明の技術範囲内で変形、改造等の施されたものも全てこの発明に包含されることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0124】
引張材はPC鋼より線に限定されず、PC鋼棒、ロックボルト等においても、上記構成は応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】この発明の第1実施例に係るアンカー再緊張用治具の、組み付け時における概略断面図である。
【図2】図1に示すアンカー再緊張用治具の概略分解斜視図である。
【図3】図1に示すアンカー再緊張用治具の、再緊張時における概略断面図である。
【図4】既設アンカーの頭部定着部を示す、当該部分の概略縦断面図である。
【図5】この発明の第1実施例の変形例に係るアンカー再緊張用治具の、組み付け時における概略断面図である。
【図6】図5に示すアンカー再緊張用治具の概略分解斜視図である。
【図7】図5に示すアンカー再緊張用治具の、再緊張時における概略断面図である。
【図8】この発明の第1実施例の別の変形例に係るアンカー再緊張用治具の、組み付け時における概略断面図である。
【図9】図8に示すアンカー再緊張用治具の概略分解斜視図である。
【図10】図8に示すアンカー再緊張用治具の、再緊張時における概略断面図である。
【図11】この発明の第2実施例に係るアンカー再緊張用治具の、組み付け時における概略断面図である。
【図12】図11に示すアンカー再緊張用治具の概略分解斜視図である。
【図13】図11に示すアンカー再緊張用治具の、再緊張時における概略断面図である。
【図14】この発明の第2実施例の変形例に係るアンカー再緊張用治具の、組み付け時における概略断面図である。
【図15】図14に示すアンカー再緊張用治具の概略分解斜視図である。
【図16】図14に示すアンカー再緊張用治具の、再緊張時における概略断面図である。
【図17】この発明の第2実施例の別の変形例に係るアンカー再緊張用治具の、組み付け時における概略断面図である。
【図18】図17に示すアンカー再緊張用治具の概略分解斜視図である。
【図19】図17に示すアンカー再緊張用治具の、再緊張時における概略断面図である。
【図20】この発明の第3実施例に係るアンカー再緊張用治具となる再緊張部材兼用アンカーヘッドの、施工当初の概略断面図である。
【図21】第3実施例に係るアンカー再緊張用治具の概略分解斜視図である。
【図22】図21に示すアンカー再緊張用治具の、再緊張時における概略断面図である。
【図23】この発明の第3実施例の変形例に係るアンカー再緊張用治具の、再緊張時における概略断面図である。
【図24】この発明の第3実施例において、別形態の再緊張部材兼用アンカーヘッドを使用した例を示す、再緊張時の概略断面図である。
【図25】図24に示す再緊張部材兼用アンカーヘッドを使用した際の、その下方から見た概略分解斜視図である。
【図26】図24に示す再緊張部材兼用アンカーヘッドを使用したアンカーの、その施工当初の概略断面図である。
【図27】図24に示す再緊張部材兼用アンカーヘッドを使用した第3実施例の変形例に係る、アンカー再緊張用治具の再緊張時の概略断面図である。
【符号の説明】
【0126】
10,110,210 アンカー再緊張用治具
14 支圧板
16 テンションボルト
18 引張材
22 既設のアンカーヘッド
30 クサビ(連結手段)
32,50 サポートヘッド(再緊張部材)
34 貫通孔
34a めねじ部
36 台座
48 ねじ部(連結手段)
56 ボルト台
58 キャップ体
62 ナット部材(めねじ部)
64 挿入路
222 再緊張部材兼用アンカーヘッド(再緊張部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支圧板に係合、載置されるアンカーヘッドの固定的係止により緊張定着された既設の引張材を、支圧板からのアンカーヘッドの離反方向に再度牽引し緊張する既設アンカーの再緊張方法において、
ねじ孔としてなる貫通孔を離間3ヶ所以上に有した所定の再緊張部材を、上記引張材との、少なくとも牽引方向への一体移動を可能に設け、
上記引張材の末端側から上記貫通孔に挿通、螺着した一連のテンションボルトを上記再緊張部材の貫通孔に対して螺進させることによる、上記支圧板に対する牽引方向への再緊張部材の軸線移動によって、上記引張材の再緊張を行うことを特徴とした既設アンカーの再緊張方法。
【請求項2】
ねじ孔としてなる前記貫通孔に対する螺進のもとでの、前記再緊張部材から前記支圧板方向への前記テンションボルトの突出に伴った、このテンションボルトによる、支圧板に対する再緊張部材の押し上げにより、前記引張材をその緊張方向に牽引し保持する請求項1記載の既設アンカーの再緊張方法。
【請求項3】
前記支圧板への接地により配設された所定のボルト台に対して、前記テンションボルトを回転自在に挿通、保持し、
このボルト台を支持ベースとしたテンションボルトの回転に伴った、ねじ孔としてなる前記貫通孔に対する螺進のもとでの、このテンションボルトによる、支圧板に対する再緊張部材の引き上げにより、前記引張材をその緊張方向に牽引し保持する請求項1記載の既設アンカーの再緊張方法。
【請求項4】
少なくともその牽引方向への一体移動を可能に、既設の前記アンカーヘッドに固定的に連結されたサポートヘッドを、牽引方向への軸線移動によって前記引張材を再緊張する前記再緊張部材とした請求項1ないし3のいずれか記載の既設アンカーの再緊張方法。
【請求項5】
少なくともその牽引方向への一体移動を可能に、前記引張材の、前記アンカーヘッドからのその延出端に固定的に連結されたサポートヘッドを、牽引方向への軸線移動によってその引張材を再緊張する前記再緊張部材とした請求項1ないし3のいずれか記載の既設アンカーの再緊張方法。
【請求項6】
既設の前記アンカーヘッドにねじ孔となる上記貫通孔を予め設けることによって、前記アンカーヘッド自体を、牽引方向への軸線移動によって前記引張材を再緊張する前記再緊張部材とした請求項1ないし3のいずれか記載の既設アンカーの再緊張方法。
【請求項7】
支圧板に係合、載置されるアンカーヘッドの固定的係止により緊張定着された既設の引張材を、再度牽引し緊張するための既設アンカー再緊張用の治具であり、
めねじ部を少なくとも部分的に持つねじ孔として規定された貫通孔を、上記アンカーヘッドとの非整列位置での離間3ヶ所以上に有してなるとともに、上記アンカーヘッド、およびこのアンカーヘッドからの上記引張材の延出端のいずれかに対し、所定の連結手段によって少なくともその牽引方向への一体移動を可能に連結される、再緊張部材となるサポートヘッドと;
上記サポートヘッドの、ねじ孔としてなる上記貫通孔に挿通、螺着される一連のテンションボルトと;
を具備し、上記貫通孔に対する螺進のもとでの、上記サポートヘッドから上記支圧板方向への上記テンションボルトの突出に伴った、このテンションボルトによる、支圧板に対するサポートヘッドの押し上げにより、上記引張材をその緊張方向に牽引し保持する、押し上げ型として構成されたアンカー再緊張用治具。
【請求項8】
前記アンカーヘッド周りで前記支圧板と前記サポートヘッドとの間に介在可能な略リング状に形成されるとともに、その外周面に所定のねじ部の設けられた台座と;
上記台座外周面のねじ部に螺着可能な対応ねじ部を、その下端部内周面に有してなる内部密閉型のヘッドキャップと;
をさらに備え、
この台座上面を、前記テンションボルト先端の、支圧板側での接地面として規定するとともに、この台座を、再緊張後の既設アンカーの頭部定着部を防錆保護するための再緊張後用の上記ヘッドキャップの取り付けベースとする請求項7記載のアンカー再緊張用治具。
【請求項9】
支圧板に係合、載置されるアンカーヘッドの固定的係止により緊張定着された既設の引張材を、再度牽引し緊張するための既設アンカー再緊張用の治具であり、
めねじ部を少なくとも部分的に持つねじ孔として規定された貫通孔を、上記アンカーヘッドとの非整列位置での離間3ヶ所以上に有してなるとともに、上記アンカーヘッド、およびこのアンカーヘッドからの上記引張材の延出端のいずれかに対し、所定の連結手段によって少なくともその牽引方向への一体移動を可能に連結される、再緊張部材となるサポートヘッドと;
上記支圧板への接地のもとで、少なくとも上記アンカーヘッドおよび上記サポートヘッドを覆って配設されるボルト台と;
その挿通のもとで回転自在に垂設、支持される上記ボルト台の上端面を介して、上記サポートヘッドの上記貫通孔に挿通、螺着される一連のテンションボルトと;
を具備し、上記ボルト台を支持ベースとした上記テンションボルトの回転に伴った、上記貫通孔に対する螺進のもとでの、このテンションボルトによる、支圧板に対するサポートヘッドの引き上げにより、上記引張材をその緊張方向に牽引し保持する、引き上げ型として構成されたアンカー再緊張用治具。
【請求項10】
前記ボルト台の上部を閉鎖的に覆う内部密閉型のキャップ体を、さらに備え、
前記ボルト台にこのキャップ体を組み合わせることにより、これを、再緊張後の既設アンカーの頭部定着部を防錆保護するための再緊張後用のヘッドキャップとする請求項9記載のアンカー再緊張用治具。
【請求項11】
支圧板に係合、載置されるアンカーヘッドの固定的係止により緊張定着された既設の引張材を、再度牽引し緊張するための既設アンカー再緊張用の治具であり、
上記アンカーヘッドが、めねじ部を少なくとも部分的に持つねじ孔として規定された貫通孔を離間3ヶ所以上に予め有する再緊張部材としてなるとともに、一連のテンションボルトが、このアンカーヘッドの、ねじ孔としてなる上記貫通孔に挿通、螺着され、
上記引張材の末端側から上記貫通孔に挿通、螺着した一連のテンションボルトを上記ヘッドアンカーの貫通孔に対して螺進させることによる、上記支圧板に対する牽引方向への上記ヘッドアンカーの軸線移動によって、上記引張材をその緊張方向に牽引、保持可能としたアンカー再緊張用治具。
【請求項12】
前記テンションボルトを、前記アンカーヘッドから前記支圧板方向への突出を可能に、前記貫通孔に螺着し、
前記貫通孔に対する螺進のもとでの、前記アンカーヘッドから前記支圧板方向への前記テンションボルトの突出に伴った、このテンションボルトによる、支圧板に対するアンカーヘッドの押し上げにより、前記引張材をその緊張方向に牽引し保持する、押し上げ型として構成された請求項11記載のアンカー再緊張用治具。
【請求項13】
前記支圧板への接地により配設された所定のボルト台に対して、前記テンションボルトを回転自在に挿通、保持し、
前記ボルト台を支持ベースとした前記テンションボルトの回転に伴った、前記貫通孔に対する螺進のもとでの、このテンションボルトによる、支圧板に対するアンカーヘッドの引き上げにより、前記引張材をその緊張方向に牽引し保持する、引き上げ型として構成された請求項11記載のアンカー再緊張用治具。
【請求項14】
支圧板に対する載置、係合を伴った引張材に対する固定的な連結のもとで、当該引張材を緊張定着するアンカーヘッドにおいて、
めねじ部を少なくとも部分的に持つねじ孔として規定された貫通孔を、離間3ヶ所以上に予め有する再緊張部材としてなり、
上記引張材の末端側から上記貫通孔に挿通、螺着した一連のテンションボルトを上記貫通孔に対して螺進させることによる、上記支圧板に対する牽引方向へのその軸線移動によって、上記引張材の再緊張を可能としたことを特徴とする再緊張部材兼用アンカーヘッド。
【請求項15】
側端開口からの外形非円形のナット部材の挿入を可能とする挿入路が、そのナット部材の回転を規制可能とする形状で、前記貫通孔の一部に連通して設けられ、このナット部材を上記挿入路から前記貫通孔に整列配置することにより、このナット部材を貫通孔の前記めねじ部として規定、配設可能とした請求項14記載の再緊張部材兼用アンカーヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2006−63757(P2006−63757A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−250864(P2004−250864)
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【出願人】(592016784)守谷鋼機株式会社 (16)
【出願人】(390036504)日特建設株式会社 (99)
【出願人】(594054036)三條金属株式会社 (4)
【Fターム(参考)】