昇降便器
【課題】使い勝手に優れているだけでなく安全性をも担保した昇降式便器を提供する。
【解決手段】便器昇降装置と、便器昇降装置に昇降可能に設置された便器本体10と、人体の有無を検知する検知部100と、を備えた昇降便器1において、便器10が昇降可能な領域に人体が存在しないことを検知部100が検知した後に、便器10を予め設定された高さに自動的に昇降させることで、使い勝手に優れているだけでなく安全性をも担保した昇降式便器とする。
【解決手段】便器昇降装置と、便器昇降装置に昇降可能に設置された便器本体10と、人体の有無を検知する検知部100と、を備えた昇降便器1において、便器10が昇降可能な領域に人体が存在しないことを検知部100が検知した後に、便器10を予め設定された高さに自動的に昇降させることで、使い勝手に優れているだけでなく安全性をも担保した昇降式便器とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトイレに設置でき便器自体が昇降可能な昇降便器に関する。
【背景技術】
【0002】
トイレ使用時に使用者がトイレを使い易くするように便座や便器を自動的に昇降させる昇降便器が従来から知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0003】
ここで、特許文献1に記載された便器は、使用者が便器の前に立ったことを検知して便座を上昇させるようになっている。これによって、例えば足腰の弱い高齢者が便座に腰掛ける際に腰掛け易くしている。また、特許文献1の昇降便器には、使用者が便座から立ち上がり脱座すると所定時間後に便座が下降する機能が備わっている。これによって、設定を適宜変えることで通常の使用者が慣れた姿勢でトイレの便座に座ることができるようにしている。
【0004】
一方、特許文献2に記載された昇降便器は、使用者が便座から離座したことを検知して便器を標準高さの位置まで昇降させるようになっている。これによって、大人や子供がそれぞれトイレを使用する際、若しくは大便用や小便用として便器を共用する際の便器の昇降量が最小限になるようにしている。
【特許文献1】特開平10−328076号公報(段落(0007)、段落(0008)、図3)
【特許文献2】特開平3−72126号公報(8頁、図10)
【特許文献3】特開2008−19578号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらの従来技術は、使用者によるトイレの使い勝手を向上させることを目的とし、この目的をそれぞれの構成で達成している。しかしながら、これらの従来技術には別の観点から見たときの解決すべき根本的な問題点がある。
【0006】
以下、これらの従来技術の問題点を図面に基づいて詳細に説明する。図17は、トイレ使用者が用足し直後に立ち上がった状態、若しくは前の使用者がトイレを出た直後に次の使用者が昇降便器3の便器30に近づいた状態を示す側面図である。また、図19は、便器使用者が用足し中に体調不良により急にトイレ床面に倒れた状態を示す側面図である。また、図18は、用足し直後にその者又は別の者がトイレの天井を清掃したり、天井に備わった電球を新しい電球に交換したりするために昇降便器3の便器30の上に乗った状態を示す側面図である。また、図20は、用足し直後にその者又は別の者がトイレの床面を清掃しようとする状態を示す側面図である。
【0007】
特許文献1に記載の昇降便器では、使用者が用足しの途中で立ち上がってしばらくした後再び便座に座り込もうとすると、便座が既に下降して便座の高さが低くなっているので、使用者を驚かせてしまう(図17の従来の昇降便器3の便器30参照)。特に使用者が聴力の衰えた高齢者や聴力障害者の場合、便座の昇降音が聞こえ辛くかつトイレの入り口側に向いて立ち上がっているので便座の高さが低くなったことに気づき難い。これによって、使用者がびっくりしてしまうだけでなく、この拍子に便座からトイレの床に転倒する虞もある。
【0008】
また、特許文献2に記載の昇降便器では、便器のホームポジション(便器不使用時に便器が戻る所定の高さ)が高い場合、使用者が便器の高さを低くして用足しを終え立ち上がると、便器もこれに応じて上昇し、便器の前方上部が使用者の腿の後側や臀部にぶつかり、使用者を驚かせてしまうことがある。特に使用者が足腰の弱い高齢者の場合、便器がこの身体部位にぶつかった拍子にバランスを崩して転倒してしまう虞がある(図17の従来の昇降便器3の便器30参照)。
【0009】
また、便器のホームポジションが高い場合、使用者が便器を低めの位置にして用足しした直後にその使用者か別の者がトイレの天井の清掃やトイレの天井に備わった電球を新しい電球に交換するために便器の上に乗ったとき、便器がホームポジションに向かって上昇するとその者を驚かせたり、その者を便器からトイレ床面に転落させる虞がある(図18の従来の昇降便器3の便器30参照)。
【0010】
一方、便器のホームポジションが低い場合、例えば男子小用で便器を上昇させた状態で用足しを終えた後、何らかの身体的不調でトイレの床に倒れたりすると、ホームポジションに戻ろうとする便器とトイレの床との間に足や手が挟まれてしまう虞がある(図19の従来の昇降便器3の便器30参照)。便器は一般に陶器でできており、このような重量物とトイレの床との間に足や手を挟むと、骨折等の大怪我につながることもある。
【0011】
また、便器のホームポジションが低い場合、例えば男子小用で便器を上昇させた状態で用足しした直後に便器底部の汚れを拭き取ろうとすると、ホームポジションに戻ろうとする便器とトイレの床との間に手が挟まれてしまう虞がある(図20の従来の昇降便器3の便器30参照)。
【0012】
さらに、離座や使用者が便器の前に立ったことをトリガーとして昇降動作を行うと、男子小用のように着座せずに使用する場合において使用中に便器が昇降してしまい、非常に使い勝手が悪くなったり、使用者と接触してしまい事故が起こるなどの問題も存在する。
【0013】
本発明の目的は、使い勝手に優れているだけでなく安全性をも担保した昇降便器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決するために、本発明にかかる昇降便器は、
便器昇降装置と、
前記便器昇降装置に昇降可能に設置された便器本体と、
人体の有無を検知する検知部と、を備えた昇降便器において、
前記便器本体が昇降可能な領域に人体が存在しないことを前記検知部が検知した後に、当該便器を予め設定された高さに自動的に昇降させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、使い勝手に優れているだけでなく安全性をも担保した昇降便器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明を実施するための最良の形態を説明するのに先立って、本発明の作用及び効果について説明する。
【0017】
本発明に係る第1の昇降便器は、便器昇降装置と、便器昇降装置に昇降可能に設置された便器本体と、人体の有無を検知する検知部と、を備えた昇降便器において、便器本体が昇降可能な領域に人体が存在しないことを検知部が検知した後に、便器を予め設定された高さに自動的に昇降させるようになっている。
【0018】
本発明に係る第1の昇降便器がこのような構成を有することで、便器の予め設定された高さ(ホームポジション)を高めの位置に設定した場合、従来の昇降式便器と異なり、便器を低めの位置にして用足しした後に立ち上がってその場で身繕いしている間に便器がホームポジションに向かって自動的に上昇せず、使用者の腿の後側や臀部に便器前側上部がぶつかることがなく、使用者を驚かせる虞がない。
【0019】
また、便器のホームポジションを低めの位置に設定した場合、高めの位置が好みの使用者が便器を上昇させた状態で用足し中に一旦立ち上がってから再び便座に腰掛けようとする際に、従来の昇降式便器と異なり便器がホームポジションまで下降して便座の高さが低くならず、使用者を驚かせる虞がない。
【0020】
また、本発明に係る第2の昇降便器は、便器昇降装置と、便器昇降装置に昇降可能に設置された便器本体と、人体の有無を検知する検知部と、を備えた昇降便器において、便器本体が昇降可能な領域及び前記昇降可能な領域の周辺領域に人体が存在しないことを検知部が検知した後に、便器を予め設定された高さに自動的に昇降させるようになっている。
【0021】
本発明に係る第2の昇降便器がこのような構成を有することで、上述した第1の昇降便器の作用に加えて以下の作用を有している。具体的には、便器のホームポジションが低めの位置にある場合、用足し中に使用者が急に体の具合が悪くなってトイレの床に倒れ込んだりしても、従来の昇降式便器と異なり便器がホームポジションに向かって下降することがなく、便器とトイレ床面との間に手や足等身体の一部が挟まれる虞がない。
【0022】
また、ホームポジションが低めの位置にある場合、男子が小用を済ませた直後に別の男子が小用のために便器に近づいても、従来の昇降便器と異なり便器がホームポジションに向かって下降することがなく、次の男子がそのまま用足しをすることができ、昇降便器の使い勝手が良くなる。
【0023】
以下、本発明の第1の実施形態に係る昇降便器について図面に基づいて説明する。図1は、本発明の第1の実施形態に係る昇降便器1を点線で囲まれた便器昇降領域と共に示す斜視図である。また、図2は、図1に示した昇降便器1が下限位置にある状態を点線で囲まれた便器昇降領域と共に示す側面図である。また、図3は、図1に示した昇降便器が上限位置にある状態を点線で囲まれた便器昇降領域と共に示す側面図である。
【0024】
本発明の第1の実施形態に係る昇降便器1は、ここでは図示しない便器昇降装置と、この便器昇降装置に昇降可能に設置された便器本体(以下、単に「便器10」とする)と、人体の有無を検知する人体検知センサ100(図5乃至図7参照)と、を備え、便器10が昇降可能な領域(以下、「便器昇降領域」とする)に人体が存在しないことを人体検知センサ100が検知した後に、便器10を予め設定された高さ(ホームポジション)に自動的に昇降させるようになっている。
【0025】
昇降便器1は、図1に示すキャビネット50内に便器10を昇降させる便器昇降装置(図示せず)を備えている。便器昇降装置は、ここでは図示しない平面視角型U字状からなりトイレ床面に面一にはめ込まれるベース板と、ベース板に垂設された固定部と、固定部に昇降可能に支持された可動部とからなる。
【0026】
固定部には、可動部を昇降させるガイド部及び駆動モータ、便器10の昇降を制御する制御ボックス、貯水タンク等が備わっている。また、可動部には、固定部のガイド部に摺動可能に係合するスライダが備わると共に、便器10の背部と結合するボルトの突出した便器結合部が備わっている。
【0027】
トイレの側壁部又はカウンタ等には、ここでは図示しないが使用者のトイレ内での使用態様や好みに合わせて昇降便器1の便器自体を昇降させたり、便器不使用時の便器の高さ(ホームポジション)を設定したりする便器昇降操作スイッチが備わっている。この便器昇降操作スイッチは、便器昇降部の制御ボックスに電気的に接触式又は非接触式で繋がっており、両者間で双方向通信又は片方向通信を可能としている。
【0028】
便器10の周囲には、図1において点線で示す境界領域で囲まれる便器昇降領域内に人がいることを検出する人体検知センサ100(図5乃至図7参照)が備わっている。なお、人体検知センサ100の設置場所の具体例については後述する。
【0029】
人体検知センサ100は、図2において点線で囲まれる便器昇降領域の下限高さHdより上側で図3において点線で囲まれる便器昇降領域の上限高さHuより下側、かつ便器10の垂直上方から見てトイレ床面に対して最も広がった投影面積を有する便器10の上下投影領域を周囲の境界領域とする便器昇降領域内の人体の有無を検知するようになっている。なお、ここで検出される人体とは、使用者の手や足、頭等身体の一部をさし、身体全体に限定されるものではない。
【0030】
便器10は、使用者が便器昇降操作スイッチを操作することで、制御ボックス内の制御回路及び駆動モータを介して昇降すると共に、使用者が用足しを終えて便器10の昇降領域内に人体が存在しないことを人体検知センサ100が検出した場合に限って予め設定された高さ(以下「ホームポジション」とする)まで便器10を自動的に昇降させるようになっている。
【0031】
ホームポジションは、使用者の好みに応じて任意に設定可能で、例えば子供や小柄な女性、若しくは便器の高さが低いほうが落ち着く使用者等が昇降便器1を主に使う場合はホームポジションを低めに設定し、大柄な男性や膝を曲げたり腰を屈めるのが辛い高齢者等が昇降便器1を主に使う場合はホームポジションを高めに設定する等、昇降便器1の使用態様に応じて使用者がホームポジションを適宜自由に設定できるようになっている。尚、この制御ルーチンは周知のルーチンであるので、そのフローチャートによる説明を省略する。
【0032】
本実施形態に係る昇降便器1は、上述した制御ルーチンとは異なり、制御ボックスを介して図4に示す人体検知ルーチンにより便器昇降領域内に人がいないかどうかを常に監視している。即ち、昇降便器1の電源を入れると、この人体検知ルーチンを常時繰り返すようになっている。そして、例えば人の手や足、腰等身体の一部のみがこの便器昇降領域内にあっても人体を検知したと判断する。
【0033】
具体的には、昇降便器1の電源投入により便器昇降領域内の人体検知を行う(ステップS1)。そして、便器昇降領域内に人体がいる場合は、このステップS1を繰り返す。即ち、便器昇降領域に人体の少なくとも一部が存在する間中、例えば人体検知センサが使用者の手や足、腰などの体の一部を検知している間中、便器10がホームポジションに向かう昇降動作を行なわないようにする。そして、便器昇降領域に人体を少なくともその一部でも全く検知しなくなった時点で便器10をホームポジションまで昇降させる(ステップS2)。
【0034】
従って、この人体検知ルーチンによって使用者が用足しを済ませて便器10から離座しても、人体検知センサが便器昇降領域内において使用者の手足等を検知している限り、便器10をホームポジションに戻す昇降動作を行なわない。
【0035】
この便器昇降領域内の人体検知ルーチンは、昇降便器1の自動制御ルーチンに比べて優先的なルーチンとされ、使用者がトイレを安全に使用できるようにしている。なお、この人体検知ルーチンのステップS1とステップS2との間、若しくはステップS1の繰り返しの間に一定の時間をおくタイマーカウンタのステップを介在させても良い。
【0036】
続いて、この人体検知センサ100のトイレにおける設置場所及び便器昇降領域内における人体有無の検知の仕方の具体的一例について説明する。
【0037】
なお、使用する人体検知センサとしては、本発明の目的とする第1の実施形態に係る便器昇降領域及び後述する第2の実施形態に係る便器昇降周辺領域における人体の有無を検出できるセンサであれば如何なるセンサを使用しても良く、例えば光電センサ、赤外線センサ、超音波センサ、熱感応型センサ等の様々なセンサを利用可能である。
【0038】
ここで、第1の実施形態における人体検知の仕方について説明する。図5は、人体検知センサ110(100)の設置位置及びハッチングで示す検出範囲110A(100A)を示す平面図である。また、図6は、点線で示す使用者が図5における便器10に着座した状態を人体検知センサ110,120(100)の設置位置と共に示す正面図である。また、図7は、使用者が図5における便器10から離座しようとする状態を人体検知センサ110,120,(100)の設置位置及びハッチングで示す検出範囲110A,120A(100A)と共に示す側面図である。
【0039】
図5及び図6に示すように、人体検知センサ110が使用者の腕や脇腹を検出し、図4に示すルーチンによって便器10をホームポジションに戻さないようにしている。また、図7に示すように使用者が用足しを終えた後、僅かに腰を曲げて立ち上がった状態でも、人体検知センサ110が使用者の臀部の存在を検出し、便器10をホームポジションに戻さないようにする。
【0040】
これによって、図7に示すように便器10のホームポジションを高めの位置に設定した場合、便器10を低めの位置にして用足しした後に、使用者が一旦立ち上がって膝を曲げた状態で身繕いしたりしても、人体検知センサ110の検出範囲100Aが使用者の腿の後側や臀部の存在を検出し、図17に示す従来例と異なり便器10がホームポジションに向かって自動的に上昇することがなく、これによって便器10の前側上部が使用者の腿の後側や臀部にぶつかって使用者を驚かせたり、これをきっかけに使用者が前のめりになってトイレ床面に転倒したりする虞がない。
【0041】
また、図7には示さないが、使用者が完全に立ち上がって人体検知センサ110の検出範囲110Aから使用者が脱しても、例えば片方の足の足首が人体検知センサ120の検出範囲120A内にあるときは、使用者が便器昇降領域内にいると判断して図4に示すルーチンによって便器10をホームポジションに戻さないようにする。
【0042】
これによって、便器10のホームポジションを低めに設定した際に、使用者が便器10から立ち上がった状態で身繕いしていても図17に示す従来例と異なり便器10がホームポジションに向かって下降することがなく、便器10の底部とトイレ床面との間に足を挟む虞がない。
【0043】
この場合、特に聴覚の衰えた高齢者や聴覚障害者は、前を向いた状態で立っているので、従来の昇降便器によるとホームポジションへの便器上昇音に気付き難く、便器10が腿の後側や臀部にいきなりぶつかって驚くと共にバランスを崩してトイレ床面への転倒を招く虞があるが、本実施形態に係る昇降便器1によると、このような従来の昇降便器において欠如していた安全性を確実に担保することができる。
【0044】
また、使用者が便器10の蓋13を閉じた後に立ちくらみ等の急な体調悪化によって使用者がトイレ床面に倒れ込んでも、手や足、頭部などの人体の一部が人体検知センサ120の検出範囲120A内にある限り、図19に示す従来例と異なり便器10はホームポジションに向かって下降せず、使用者の身体の一部が便器底部とトイレ床面との間に挟まれて思わぬ怪我をする虞がない。
【0045】
なお、便器10は一般に陶器でできており、重量物であるので、本発明によるこのような安全性の担保は、従来の昇降便器には見られない優れた特徴点であると言える。
【0046】
続いて、本発明の第2の実施形態に係る昇降便器について図面に基づいて説明する。本発明の第2の実施形態に係る昇降便器2は、第1の実施形態に係る昇降便器1と基本的構成の点で共通するが、人体検知領域が第1の実施形態のように便器昇降領域だけでなく、この便器昇降領域に加えて便器昇降周辺領域も含んでいることを特徴としている。
【0047】
ここで、便器昇降周辺領域とは、便器20の温水洗浄便座周囲に人が立てる程度の幅を有し、かつトイレ床面から便器20の下限位置までの高さ及びトイレの天井から便器20の上限位置までの高さで形成される空間領域をいう。
【0048】
なお、図8は、本発明の第2の実施形態に係る昇降便器2を一点鎖線で示す便器昇降周辺領域の外側境界部と共に示す斜視図である。また、図9は、図8に示した便器昇降周辺領域の外側境界部を点線で示す側面図である。また、図10は、図8に示した便器昇降周辺領域の外側境界部を一点鎖線で示す平面図である。また、図11は、図8に示した便器昇降周辺領域の外側境界部を一点鎖線で示す正面図である。また、図12は、図1に点線で示す便器昇降領域の外側境界部と図8に一点鎖線で示す便器昇降周辺領域の外側境界部との間に形成される便器昇降周辺領域を示す斜視図である。
【0049】
この第2の実施形態に係る昇降便器2においては、便器昇降領域と便器昇降周辺領域とを共通の人体検知センサ200で検出するようになっている。
【0050】
以下、この人体検知センサ200の具体的一例を示すが、実際には便器昇降領域及び便器昇降周辺領域内における人体の検出をくまなく行えるように適切な個数の人体検知センサがキャビネット前面やキャビネット上部のトイレ後部壁に備わっている。
【0051】
図13は、第2の実施形態において、人体有無を検出する人体検知センサ210(200)の設置位置と検出範囲210A(200A)を便器20と共に示す平面図である。また、図14は、第2の実施形態において、人体有無を検出する人体検知センサ210,220(200)の設置位置を便器20と共に示す正面図である。また、図15は、人体検知センサ210,220(200)の設置位置と検出範囲210A,220A(200A)を便器20の前に立つ点線で描いた使用者と共に示す側面図である。また、図16は、人体検知センサ210,220の検出範囲210A,220Aを便器20の底部を清掃中の点線で描く清掃者と共に示す側面図である。
【0052】
図13乃至図15から明らかなように、この第2の実施形態における昇降便器2によると、ホームポジションが高い位置にあるが実際には比較的低めの高さに位置した便器20から使用者が立ち上がった直後に、図17に示す従来例と異なり便器20がホームポジションに向かって上昇して使用者の腿の後部や臀部に便器20の前側上部が当たって使用者を驚かせるようなことがなく、これをきっかけとする使用者の転倒を防止することができる。
【0053】
また、高さの比較的低い位置にある便器20に向かって男子が小用を済ませてトイレを出た直後に別の男子がトイレに入って小用を行おうとする際に、図17に示す従来例と異なり、便器20が上側にあるホームポジションに向かって上昇してその者を驚かせることがない。
【0054】
また、ひとりの男子が身づくろいの時間を含めて長時間便器の前に立ち、小用を行おうとする際に、小用を行っている最中に便器20が自動昇降を開始してしまい、非常に使い勝手が悪くなる、使用者と接触して事故が起こるという問題もない。
【0055】
便器20のホームポジションを比較的低い位置に設定した際、上述のように例えば男子の使用者が便器20の位置を高くして小用を足した直後に図16に示すように小用による便器20の底部の汚れを取ろうと身をかがめて便器底部を手できれいにする際に、人体検知センサ220によって便器昇降領域及び便器昇降周辺領域内における人体の有無を検出することで、図20に示す従来例と異なり便器20がホームポジションに向かって下降して使用者をびっくりさせたりすることがなく、使用者の手を便器底部とトイレ床面との間に挟んだりする虞もない。
【0056】
また、便器昇降周辺領域の一部である便器底部とトイレ床面との間の空間における人体の有無を人体検知センサ220によって検出することで、使用者が着座中に体調が悪くなって急にトイレの床に倒れ込んでも、図19に示す従来例と異なり便器20がホームポジションに向かって下降することがなく、便器20の底部とトイレ床面との間に手や足など人体の一部を挟み込むのを確実に防止できる。
【0057】
また、便器20の高さを下限高さとして使用者が用足しした直後にその者又は他の者が便器20の上に乗って天井を清掃したり、天井に備えた電球を新しい電球に交換したりする際に、人体検知センサ210又は220の少なくとも何れか一方によって便器昇降領域及び便器昇降周辺領域内における人体の有無を検出することで、図18に示す従来例と異なり便器20がホームポジションに向かって急に上昇してその者をびっくりさせたりすることがなく、これをきっかけにその者がトイレ床面に転落するのを防止できる。
【0058】
なお、この第2の実施形態の場合、便器20の下限位置において便器底部とトイレ床面との間に手や足を挟み込まない程度の隙間がある場合でも、本発明の作用を発揮することができる。具体的には、この隔間は便器昇降周辺領域に属し、便器昇降領域には属さない。そのため、第1の実施形態のような人体検知センサが便器昇降領域のみに人体がいないことを検知した後に便器をホームポジションに戻そうとする形態では、トイレ床面に倒れ込んだ使用者の手や足は便器下限位置より下側、即ち便器昇降領域外にあるので、便器20がホームポジションに向かって下降する。その後、便器20は下限位置で下降を停止するので、使用者の手や足は便器底部とトイレ床面との間に挟まれることはないが、トイレ床面に倒れて心理的にパニック状態に陥った使用者の手や足に向かって便器20が下降してくると、更なる恐怖感を使用者に与えてしまう。しかしながら、第2の実施形態に係る昇降便器2の場合、この手や足は便器昇降周辺領域内にあるので、図14乃至図16に示す人体検知センサ220によってこれを検知し、便器20のホームポジションへの下降を停止してこのような恐怖感を使用者に与えないようにするメリットがある。
【0059】
なお、人体検知センサの設置場所は、上述の実施形態のようなキャビネット前面に限定されることなく、便器本体、リモコン、紙巻器、カウンタなどのトイレ空間に設置されるその他の設備や、トイレ空間内壁等であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る昇降便器を点線で囲まれた便器昇降領域の外側境界部と共に示す斜視図である。
【図2】図1に示した昇降便器が下限位置にある状態を点線で囲まれた便器昇降領域と共に示す側面図である。
【図3】図1に示した昇降便器が上限位置にある状態を点線で囲まれた便器昇降領域と共に示す側面図である。
【図4】図1に示した昇降便器の人体検知ルーチンを示すフローチャートである。
【図5】第1の実施形態に係る人体検知センサの検出範囲を示す平面図である。
【図6】点線で示す使用者が図5における昇降便器の便器に着座した状態を人体検知センサの設置位置と共に示す正面図である。
【図7】点線で示す使用者が図4における昇降便器の便器から離座しようとする状態を示す側面図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る昇降便器を一点鎖線で囲まれた便器昇降周辺領域の外側境界部と共に示す斜視図である。
【図9】図4に示す便器昇降周辺領域の外側境界部を示す側面図である。
【図10】図4に示す便器昇降周辺領域の外側境界部を示す平面図である。
【図11】図4に示す便器昇降周辺領域の外側境界部を示す正面図である。
【図12】図1に示す便器昇降領域の外側境界部と図8に示す便器昇降周辺領域の外側境界部との間に形成される便器昇降周辺領域を示す斜視図である。
【図13】第2の実施形態に係る人体検知センサの検出範囲を昇降便器と共に示す平面図である。
【図14】第2の実施形態に係る人体検知センサの設置位置を昇降便器と共に示す正面図である。
【図15】人体検知センサの検出範囲を便器の前に立つ点線で描いた使用者と共に示す側面図である。
【図16】人体検知センサの検出範囲を便器の底部を清掃中の点線で描く清掃者と共に示す側面図である。
【図17】従来においてトイレ使用者が用足し直後に立ち上がった状態、若しくは前の使用者がトイレを出た直後に次の使用者が便器に近づいた状態を示す側面図である。
【図18】従来において用足し直後にその者又は別の者がトイレの天井を清掃したり、天井に備わった電球を新しい電球に交換したりするために便器の上に乗った状態を示す側面図である。
【図19】従来において便器使用者が用足し中に体調不良により急にトイレ床面に倒れた状態を示す側面図である。
【図20】従来において用足し直後にその者又は別の者がトイレの床面を清掃しようとする状態を示す側面図である。
【符号の説明】
【0061】
1 昇降便器
10 便器
13 蓋
110,120(100) 人体検知センサ
110A,120A(100A) 検出範囲
2 昇降便器
20 便器
210,220(200) 人体検知センサ
210A,220A(200A) 検出範囲
3 昇降便器
30 便器
50 キャビネット
Hd 便器昇降領域の下限高さ
Hu 便器昇降領域の上限高さ
【技術分野】
【0001】
本発明はトイレに設置でき便器自体が昇降可能な昇降便器に関する。
【背景技術】
【0002】
トイレ使用時に使用者がトイレを使い易くするように便座や便器を自動的に昇降させる昇降便器が従来から知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0003】
ここで、特許文献1に記載された便器は、使用者が便器の前に立ったことを検知して便座を上昇させるようになっている。これによって、例えば足腰の弱い高齢者が便座に腰掛ける際に腰掛け易くしている。また、特許文献1の昇降便器には、使用者が便座から立ち上がり脱座すると所定時間後に便座が下降する機能が備わっている。これによって、設定を適宜変えることで通常の使用者が慣れた姿勢でトイレの便座に座ることができるようにしている。
【0004】
一方、特許文献2に記載された昇降便器は、使用者が便座から離座したことを検知して便器を標準高さの位置まで昇降させるようになっている。これによって、大人や子供がそれぞれトイレを使用する際、若しくは大便用や小便用として便器を共用する際の便器の昇降量が最小限になるようにしている。
【特許文献1】特開平10−328076号公報(段落(0007)、段落(0008)、図3)
【特許文献2】特開平3−72126号公報(8頁、図10)
【特許文献3】特開2008−19578号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらの従来技術は、使用者によるトイレの使い勝手を向上させることを目的とし、この目的をそれぞれの構成で達成している。しかしながら、これらの従来技術には別の観点から見たときの解決すべき根本的な問題点がある。
【0006】
以下、これらの従来技術の問題点を図面に基づいて詳細に説明する。図17は、トイレ使用者が用足し直後に立ち上がった状態、若しくは前の使用者がトイレを出た直後に次の使用者が昇降便器3の便器30に近づいた状態を示す側面図である。また、図19は、便器使用者が用足し中に体調不良により急にトイレ床面に倒れた状態を示す側面図である。また、図18は、用足し直後にその者又は別の者がトイレの天井を清掃したり、天井に備わった電球を新しい電球に交換したりするために昇降便器3の便器30の上に乗った状態を示す側面図である。また、図20は、用足し直後にその者又は別の者がトイレの床面を清掃しようとする状態を示す側面図である。
【0007】
特許文献1に記載の昇降便器では、使用者が用足しの途中で立ち上がってしばらくした後再び便座に座り込もうとすると、便座が既に下降して便座の高さが低くなっているので、使用者を驚かせてしまう(図17の従来の昇降便器3の便器30参照)。特に使用者が聴力の衰えた高齢者や聴力障害者の場合、便座の昇降音が聞こえ辛くかつトイレの入り口側に向いて立ち上がっているので便座の高さが低くなったことに気づき難い。これによって、使用者がびっくりしてしまうだけでなく、この拍子に便座からトイレの床に転倒する虞もある。
【0008】
また、特許文献2に記載の昇降便器では、便器のホームポジション(便器不使用時に便器が戻る所定の高さ)が高い場合、使用者が便器の高さを低くして用足しを終え立ち上がると、便器もこれに応じて上昇し、便器の前方上部が使用者の腿の後側や臀部にぶつかり、使用者を驚かせてしまうことがある。特に使用者が足腰の弱い高齢者の場合、便器がこの身体部位にぶつかった拍子にバランスを崩して転倒してしまう虞がある(図17の従来の昇降便器3の便器30参照)。
【0009】
また、便器のホームポジションが高い場合、使用者が便器を低めの位置にして用足しした直後にその使用者か別の者がトイレの天井の清掃やトイレの天井に備わった電球を新しい電球に交換するために便器の上に乗ったとき、便器がホームポジションに向かって上昇するとその者を驚かせたり、その者を便器からトイレ床面に転落させる虞がある(図18の従来の昇降便器3の便器30参照)。
【0010】
一方、便器のホームポジションが低い場合、例えば男子小用で便器を上昇させた状態で用足しを終えた後、何らかの身体的不調でトイレの床に倒れたりすると、ホームポジションに戻ろうとする便器とトイレの床との間に足や手が挟まれてしまう虞がある(図19の従来の昇降便器3の便器30参照)。便器は一般に陶器でできており、このような重量物とトイレの床との間に足や手を挟むと、骨折等の大怪我につながることもある。
【0011】
また、便器のホームポジションが低い場合、例えば男子小用で便器を上昇させた状態で用足しした直後に便器底部の汚れを拭き取ろうとすると、ホームポジションに戻ろうとする便器とトイレの床との間に手が挟まれてしまう虞がある(図20の従来の昇降便器3の便器30参照)。
【0012】
さらに、離座や使用者が便器の前に立ったことをトリガーとして昇降動作を行うと、男子小用のように着座せずに使用する場合において使用中に便器が昇降してしまい、非常に使い勝手が悪くなったり、使用者と接触してしまい事故が起こるなどの問題も存在する。
【0013】
本発明の目的は、使い勝手に優れているだけでなく安全性をも担保した昇降便器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決するために、本発明にかかる昇降便器は、
便器昇降装置と、
前記便器昇降装置に昇降可能に設置された便器本体と、
人体の有無を検知する検知部と、を備えた昇降便器において、
前記便器本体が昇降可能な領域に人体が存在しないことを前記検知部が検知した後に、当該便器を予め設定された高さに自動的に昇降させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、使い勝手に優れているだけでなく安全性をも担保した昇降便器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明を実施するための最良の形態を説明するのに先立って、本発明の作用及び効果について説明する。
【0017】
本発明に係る第1の昇降便器は、便器昇降装置と、便器昇降装置に昇降可能に設置された便器本体と、人体の有無を検知する検知部と、を備えた昇降便器において、便器本体が昇降可能な領域に人体が存在しないことを検知部が検知した後に、便器を予め設定された高さに自動的に昇降させるようになっている。
【0018】
本発明に係る第1の昇降便器がこのような構成を有することで、便器の予め設定された高さ(ホームポジション)を高めの位置に設定した場合、従来の昇降式便器と異なり、便器を低めの位置にして用足しした後に立ち上がってその場で身繕いしている間に便器がホームポジションに向かって自動的に上昇せず、使用者の腿の後側や臀部に便器前側上部がぶつかることがなく、使用者を驚かせる虞がない。
【0019】
また、便器のホームポジションを低めの位置に設定した場合、高めの位置が好みの使用者が便器を上昇させた状態で用足し中に一旦立ち上がってから再び便座に腰掛けようとする際に、従来の昇降式便器と異なり便器がホームポジションまで下降して便座の高さが低くならず、使用者を驚かせる虞がない。
【0020】
また、本発明に係る第2の昇降便器は、便器昇降装置と、便器昇降装置に昇降可能に設置された便器本体と、人体の有無を検知する検知部と、を備えた昇降便器において、便器本体が昇降可能な領域及び前記昇降可能な領域の周辺領域に人体が存在しないことを検知部が検知した後に、便器を予め設定された高さに自動的に昇降させるようになっている。
【0021】
本発明に係る第2の昇降便器がこのような構成を有することで、上述した第1の昇降便器の作用に加えて以下の作用を有している。具体的には、便器のホームポジションが低めの位置にある場合、用足し中に使用者が急に体の具合が悪くなってトイレの床に倒れ込んだりしても、従来の昇降式便器と異なり便器がホームポジションに向かって下降することがなく、便器とトイレ床面との間に手や足等身体の一部が挟まれる虞がない。
【0022】
また、ホームポジションが低めの位置にある場合、男子が小用を済ませた直後に別の男子が小用のために便器に近づいても、従来の昇降便器と異なり便器がホームポジションに向かって下降することがなく、次の男子がそのまま用足しをすることができ、昇降便器の使い勝手が良くなる。
【0023】
以下、本発明の第1の実施形態に係る昇降便器について図面に基づいて説明する。図1は、本発明の第1の実施形態に係る昇降便器1を点線で囲まれた便器昇降領域と共に示す斜視図である。また、図2は、図1に示した昇降便器1が下限位置にある状態を点線で囲まれた便器昇降領域と共に示す側面図である。また、図3は、図1に示した昇降便器が上限位置にある状態を点線で囲まれた便器昇降領域と共に示す側面図である。
【0024】
本発明の第1の実施形態に係る昇降便器1は、ここでは図示しない便器昇降装置と、この便器昇降装置に昇降可能に設置された便器本体(以下、単に「便器10」とする)と、人体の有無を検知する人体検知センサ100(図5乃至図7参照)と、を備え、便器10が昇降可能な領域(以下、「便器昇降領域」とする)に人体が存在しないことを人体検知センサ100が検知した後に、便器10を予め設定された高さ(ホームポジション)に自動的に昇降させるようになっている。
【0025】
昇降便器1は、図1に示すキャビネット50内に便器10を昇降させる便器昇降装置(図示せず)を備えている。便器昇降装置は、ここでは図示しない平面視角型U字状からなりトイレ床面に面一にはめ込まれるベース板と、ベース板に垂設された固定部と、固定部に昇降可能に支持された可動部とからなる。
【0026】
固定部には、可動部を昇降させるガイド部及び駆動モータ、便器10の昇降を制御する制御ボックス、貯水タンク等が備わっている。また、可動部には、固定部のガイド部に摺動可能に係合するスライダが備わると共に、便器10の背部と結合するボルトの突出した便器結合部が備わっている。
【0027】
トイレの側壁部又はカウンタ等には、ここでは図示しないが使用者のトイレ内での使用態様や好みに合わせて昇降便器1の便器自体を昇降させたり、便器不使用時の便器の高さ(ホームポジション)を設定したりする便器昇降操作スイッチが備わっている。この便器昇降操作スイッチは、便器昇降部の制御ボックスに電気的に接触式又は非接触式で繋がっており、両者間で双方向通信又は片方向通信を可能としている。
【0028】
便器10の周囲には、図1において点線で示す境界領域で囲まれる便器昇降領域内に人がいることを検出する人体検知センサ100(図5乃至図7参照)が備わっている。なお、人体検知センサ100の設置場所の具体例については後述する。
【0029】
人体検知センサ100は、図2において点線で囲まれる便器昇降領域の下限高さHdより上側で図3において点線で囲まれる便器昇降領域の上限高さHuより下側、かつ便器10の垂直上方から見てトイレ床面に対して最も広がった投影面積を有する便器10の上下投影領域を周囲の境界領域とする便器昇降領域内の人体の有無を検知するようになっている。なお、ここで検出される人体とは、使用者の手や足、頭等身体の一部をさし、身体全体に限定されるものではない。
【0030】
便器10は、使用者が便器昇降操作スイッチを操作することで、制御ボックス内の制御回路及び駆動モータを介して昇降すると共に、使用者が用足しを終えて便器10の昇降領域内に人体が存在しないことを人体検知センサ100が検出した場合に限って予め設定された高さ(以下「ホームポジション」とする)まで便器10を自動的に昇降させるようになっている。
【0031】
ホームポジションは、使用者の好みに応じて任意に設定可能で、例えば子供や小柄な女性、若しくは便器の高さが低いほうが落ち着く使用者等が昇降便器1を主に使う場合はホームポジションを低めに設定し、大柄な男性や膝を曲げたり腰を屈めるのが辛い高齢者等が昇降便器1を主に使う場合はホームポジションを高めに設定する等、昇降便器1の使用態様に応じて使用者がホームポジションを適宜自由に設定できるようになっている。尚、この制御ルーチンは周知のルーチンであるので、そのフローチャートによる説明を省略する。
【0032】
本実施形態に係る昇降便器1は、上述した制御ルーチンとは異なり、制御ボックスを介して図4に示す人体検知ルーチンにより便器昇降領域内に人がいないかどうかを常に監視している。即ち、昇降便器1の電源を入れると、この人体検知ルーチンを常時繰り返すようになっている。そして、例えば人の手や足、腰等身体の一部のみがこの便器昇降領域内にあっても人体を検知したと判断する。
【0033】
具体的には、昇降便器1の電源投入により便器昇降領域内の人体検知を行う(ステップS1)。そして、便器昇降領域内に人体がいる場合は、このステップS1を繰り返す。即ち、便器昇降領域に人体の少なくとも一部が存在する間中、例えば人体検知センサが使用者の手や足、腰などの体の一部を検知している間中、便器10がホームポジションに向かう昇降動作を行なわないようにする。そして、便器昇降領域に人体を少なくともその一部でも全く検知しなくなった時点で便器10をホームポジションまで昇降させる(ステップS2)。
【0034】
従って、この人体検知ルーチンによって使用者が用足しを済ませて便器10から離座しても、人体検知センサが便器昇降領域内において使用者の手足等を検知している限り、便器10をホームポジションに戻す昇降動作を行なわない。
【0035】
この便器昇降領域内の人体検知ルーチンは、昇降便器1の自動制御ルーチンに比べて優先的なルーチンとされ、使用者がトイレを安全に使用できるようにしている。なお、この人体検知ルーチンのステップS1とステップS2との間、若しくはステップS1の繰り返しの間に一定の時間をおくタイマーカウンタのステップを介在させても良い。
【0036】
続いて、この人体検知センサ100のトイレにおける設置場所及び便器昇降領域内における人体有無の検知の仕方の具体的一例について説明する。
【0037】
なお、使用する人体検知センサとしては、本発明の目的とする第1の実施形態に係る便器昇降領域及び後述する第2の実施形態に係る便器昇降周辺領域における人体の有無を検出できるセンサであれば如何なるセンサを使用しても良く、例えば光電センサ、赤外線センサ、超音波センサ、熱感応型センサ等の様々なセンサを利用可能である。
【0038】
ここで、第1の実施形態における人体検知の仕方について説明する。図5は、人体検知センサ110(100)の設置位置及びハッチングで示す検出範囲110A(100A)を示す平面図である。また、図6は、点線で示す使用者が図5における便器10に着座した状態を人体検知センサ110,120(100)の設置位置と共に示す正面図である。また、図7は、使用者が図5における便器10から離座しようとする状態を人体検知センサ110,120,(100)の設置位置及びハッチングで示す検出範囲110A,120A(100A)と共に示す側面図である。
【0039】
図5及び図6に示すように、人体検知センサ110が使用者の腕や脇腹を検出し、図4に示すルーチンによって便器10をホームポジションに戻さないようにしている。また、図7に示すように使用者が用足しを終えた後、僅かに腰を曲げて立ち上がった状態でも、人体検知センサ110が使用者の臀部の存在を検出し、便器10をホームポジションに戻さないようにする。
【0040】
これによって、図7に示すように便器10のホームポジションを高めの位置に設定した場合、便器10を低めの位置にして用足しした後に、使用者が一旦立ち上がって膝を曲げた状態で身繕いしたりしても、人体検知センサ110の検出範囲100Aが使用者の腿の後側や臀部の存在を検出し、図17に示す従来例と異なり便器10がホームポジションに向かって自動的に上昇することがなく、これによって便器10の前側上部が使用者の腿の後側や臀部にぶつかって使用者を驚かせたり、これをきっかけに使用者が前のめりになってトイレ床面に転倒したりする虞がない。
【0041】
また、図7には示さないが、使用者が完全に立ち上がって人体検知センサ110の検出範囲110Aから使用者が脱しても、例えば片方の足の足首が人体検知センサ120の検出範囲120A内にあるときは、使用者が便器昇降領域内にいると判断して図4に示すルーチンによって便器10をホームポジションに戻さないようにする。
【0042】
これによって、便器10のホームポジションを低めに設定した際に、使用者が便器10から立ち上がった状態で身繕いしていても図17に示す従来例と異なり便器10がホームポジションに向かって下降することがなく、便器10の底部とトイレ床面との間に足を挟む虞がない。
【0043】
この場合、特に聴覚の衰えた高齢者や聴覚障害者は、前を向いた状態で立っているので、従来の昇降便器によるとホームポジションへの便器上昇音に気付き難く、便器10が腿の後側や臀部にいきなりぶつかって驚くと共にバランスを崩してトイレ床面への転倒を招く虞があるが、本実施形態に係る昇降便器1によると、このような従来の昇降便器において欠如していた安全性を確実に担保することができる。
【0044】
また、使用者が便器10の蓋13を閉じた後に立ちくらみ等の急な体調悪化によって使用者がトイレ床面に倒れ込んでも、手や足、頭部などの人体の一部が人体検知センサ120の検出範囲120A内にある限り、図19に示す従来例と異なり便器10はホームポジションに向かって下降せず、使用者の身体の一部が便器底部とトイレ床面との間に挟まれて思わぬ怪我をする虞がない。
【0045】
なお、便器10は一般に陶器でできており、重量物であるので、本発明によるこのような安全性の担保は、従来の昇降便器には見られない優れた特徴点であると言える。
【0046】
続いて、本発明の第2の実施形態に係る昇降便器について図面に基づいて説明する。本発明の第2の実施形態に係る昇降便器2は、第1の実施形態に係る昇降便器1と基本的構成の点で共通するが、人体検知領域が第1の実施形態のように便器昇降領域だけでなく、この便器昇降領域に加えて便器昇降周辺領域も含んでいることを特徴としている。
【0047】
ここで、便器昇降周辺領域とは、便器20の温水洗浄便座周囲に人が立てる程度の幅を有し、かつトイレ床面から便器20の下限位置までの高さ及びトイレの天井から便器20の上限位置までの高さで形成される空間領域をいう。
【0048】
なお、図8は、本発明の第2の実施形態に係る昇降便器2を一点鎖線で示す便器昇降周辺領域の外側境界部と共に示す斜視図である。また、図9は、図8に示した便器昇降周辺領域の外側境界部を点線で示す側面図である。また、図10は、図8に示した便器昇降周辺領域の外側境界部を一点鎖線で示す平面図である。また、図11は、図8に示した便器昇降周辺領域の外側境界部を一点鎖線で示す正面図である。また、図12は、図1に点線で示す便器昇降領域の外側境界部と図8に一点鎖線で示す便器昇降周辺領域の外側境界部との間に形成される便器昇降周辺領域を示す斜視図である。
【0049】
この第2の実施形態に係る昇降便器2においては、便器昇降領域と便器昇降周辺領域とを共通の人体検知センサ200で検出するようになっている。
【0050】
以下、この人体検知センサ200の具体的一例を示すが、実際には便器昇降領域及び便器昇降周辺領域内における人体の検出をくまなく行えるように適切な個数の人体検知センサがキャビネット前面やキャビネット上部のトイレ後部壁に備わっている。
【0051】
図13は、第2の実施形態において、人体有無を検出する人体検知センサ210(200)の設置位置と検出範囲210A(200A)を便器20と共に示す平面図である。また、図14は、第2の実施形態において、人体有無を検出する人体検知センサ210,220(200)の設置位置を便器20と共に示す正面図である。また、図15は、人体検知センサ210,220(200)の設置位置と検出範囲210A,220A(200A)を便器20の前に立つ点線で描いた使用者と共に示す側面図である。また、図16は、人体検知センサ210,220の検出範囲210A,220Aを便器20の底部を清掃中の点線で描く清掃者と共に示す側面図である。
【0052】
図13乃至図15から明らかなように、この第2の実施形態における昇降便器2によると、ホームポジションが高い位置にあるが実際には比較的低めの高さに位置した便器20から使用者が立ち上がった直後に、図17に示す従来例と異なり便器20がホームポジションに向かって上昇して使用者の腿の後部や臀部に便器20の前側上部が当たって使用者を驚かせるようなことがなく、これをきっかけとする使用者の転倒を防止することができる。
【0053】
また、高さの比較的低い位置にある便器20に向かって男子が小用を済ませてトイレを出た直後に別の男子がトイレに入って小用を行おうとする際に、図17に示す従来例と異なり、便器20が上側にあるホームポジションに向かって上昇してその者を驚かせることがない。
【0054】
また、ひとりの男子が身づくろいの時間を含めて長時間便器の前に立ち、小用を行おうとする際に、小用を行っている最中に便器20が自動昇降を開始してしまい、非常に使い勝手が悪くなる、使用者と接触して事故が起こるという問題もない。
【0055】
便器20のホームポジションを比較的低い位置に設定した際、上述のように例えば男子の使用者が便器20の位置を高くして小用を足した直後に図16に示すように小用による便器20の底部の汚れを取ろうと身をかがめて便器底部を手できれいにする際に、人体検知センサ220によって便器昇降領域及び便器昇降周辺領域内における人体の有無を検出することで、図20に示す従来例と異なり便器20がホームポジションに向かって下降して使用者をびっくりさせたりすることがなく、使用者の手を便器底部とトイレ床面との間に挟んだりする虞もない。
【0056】
また、便器昇降周辺領域の一部である便器底部とトイレ床面との間の空間における人体の有無を人体検知センサ220によって検出することで、使用者が着座中に体調が悪くなって急にトイレの床に倒れ込んでも、図19に示す従来例と異なり便器20がホームポジションに向かって下降することがなく、便器20の底部とトイレ床面との間に手や足など人体の一部を挟み込むのを確実に防止できる。
【0057】
また、便器20の高さを下限高さとして使用者が用足しした直後にその者又は他の者が便器20の上に乗って天井を清掃したり、天井に備えた電球を新しい電球に交換したりする際に、人体検知センサ210又は220の少なくとも何れか一方によって便器昇降領域及び便器昇降周辺領域内における人体の有無を検出することで、図18に示す従来例と異なり便器20がホームポジションに向かって急に上昇してその者をびっくりさせたりすることがなく、これをきっかけにその者がトイレ床面に転落するのを防止できる。
【0058】
なお、この第2の実施形態の場合、便器20の下限位置において便器底部とトイレ床面との間に手や足を挟み込まない程度の隙間がある場合でも、本発明の作用を発揮することができる。具体的には、この隔間は便器昇降周辺領域に属し、便器昇降領域には属さない。そのため、第1の実施形態のような人体検知センサが便器昇降領域のみに人体がいないことを検知した後に便器をホームポジションに戻そうとする形態では、トイレ床面に倒れ込んだ使用者の手や足は便器下限位置より下側、即ち便器昇降領域外にあるので、便器20がホームポジションに向かって下降する。その後、便器20は下限位置で下降を停止するので、使用者の手や足は便器底部とトイレ床面との間に挟まれることはないが、トイレ床面に倒れて心理的にパニック状態に陥った使用者の手や足に向かって便器20が下降してくると、更なる恐怖感を使用者に与えてしまう。しかしながら、第2の実施形態に係る昇降便器2の場合、この手や足は便器昇降周辺領域内にあるので、図14乃至図16に示す人体検知センサ220によってこれを検知し、便器20のホームポジションへの下降を停止してこのような恐怖感を使用者に与えないようにするメリットがある。
【0059】
なお、人体検知センサの設置場所は、上述の実施形態のようなキャビネット前面に限定されることなく、便器本体、リモコン、紙巻器、カウンタなどのトイレ空間に設置されるその他の設備や、トイレ空間内壁等であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る昇降便器を点線で囲まれた便器昇降領域の外側境界部と共に示す斜視図である。
【図2】図1に示した昇降便器が下限位置にある状態を点線で囲まれた便器昇降領域と共に示す側面図である。
【図3】図1に示した昇降便器が上限位置にある状態を点線で囲まれた便器昇降領域と共に示す側面図である。
【図4】図1に示した昇降便器の人体検知ルーチンを示すフローチャートである。
【図5】第1の実施形態に係る人体検知センサの検出範囲を示す平面図である。
【図6】点線で示す使用者が図5における昇降便器の便器に着座した状態を人体検知センサの設置位置と共に示す正面図である。
【図7】点線で示す使用者が図4における昇降便器の便器から離座しようとする状態を示す側面図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る昇降便器を一点鎖線で囲まれた便器昇降周辺領域の外側境界部と共に示す斜視図である。
【図9】図4に示す便器昇降周辺領域の外側境界部を示す側面図である。
【図10】図4に示す便器昇降周辺領域の外側境界部を示す平面図である。
【図11】図4に示す便器昇降周辺領域の外側境界部を示す正面図である。
【図12】図1に示す便器昇降領域の外側境界部と図8に示す便器昇降周辺領域の外側境界部との間に形成される便器昇降周辺領域を示す斜視図である。
【図13】第2の実施形態に係る人体検知センサの検出範囲を昇降便器と共に示す平面図である。
【図14】第2の実施形態に係る人体検知センサの設置位置を昇降便器と共に示す正面図である。
【図15】人体検知センサの検出範囲を便器の前に立つ点線で描いた使用者と共に示す側面図である。
【図16】人体検知センサの検出範囲を便器の底部を清掃中の点線で描く清掃者と共に示す側面図である。
【図17】従来においてトイレ使用者が用足し直後に立ち上がった状態、若しくは前の使用者がトイレを出た直後に次の使用者が便器に近づいた状態を示す側面図である。
【図18】従来において用足し直後にその者又は別の者がトイレの天井を清掃したり、天井に備わった電球を新しい電球に交換したりするために便器の上に乗った状態を示す側面図である。
【図19】従来において便器使用者が用足し中に体調不良により急にトイレ床面に倒れた状態を示す側面図である。
【図20】従来において用足し直後にその者又は別の者がトイレの床面を清掃しようとする状態を示す側面図である。
【符号の説明】
【0061】
1 昇降便器
10 便器
13 蓋
110,120(100) 人体検知センサ
110A,120A(100A) 検出範囲
2 昇降便器
20 便器
210,220(200) 人体検知センサ
210A,220A(200A) 検出範囲
3 昇降便器
30 便器
50 キャビネット
Hd 便器昇降領域の下限高さ
Hu 便器昇降領域の上限高さ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
便器昇降装置と、
前記便器昇降装置に昇降可能に設置された便器本体と、
人体の有無を検知する検知部と、を備えた昇降便器において、
前記便器本体が昇降可能な領域に人体が存在しないことを前記検知部が検知した後に、当該便器を予め設定された高さに自動的に昇降させることを特徴とする昇降便器。
【請求項2】
便器昇降装置と、
前記便器昇降装置に昇降可能に設置された便器本体と、
人体の有無を検知する検知部と、を備えた昇降便器において、
前記便器本体が昇降可能な領域及び前記昇降可能な領域の周辺領域に人体が存在しないことを前記検知部が検知した後に、当該便器を予め設定された高さに自動的に昇降させることを特徴とする昇降便器。
【請求項1】
便器昇降装置と、
前記便器昇降装置に昇降可能に設置された便器本体と、
人体の有無を検知する検知部と、を備えた昇降便器において、
前記便器本体が昇降可能な領域に人体が存在しないことを前記検知部が検知した後に、当該便器を予め設定された高さに自動的に昇降させることを特徴とする昇降便器。
【請求項2】
便器昇降装置と、
前記便器昇降装置に昇降可能に設置された便器本体と、
人体の有無を検知する検知部と、を備えた昇降便器において、
前記便器本体が昇降可能な領域及び前記昇降可能な領域の周辺領域に人体が存在しないことを前記検知部が検知した後に、当該便器を予め設定された高さに自動的に昇降させることを特徴とする昇降便器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2010−116714(P2010−116714A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−290425(P2008−290425)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【出願人】(390010054)小糸工業株式会社 (136)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【出願人】(390010054)小糸工業株式会社 (136)
【Fターム(参考)】
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