説明

有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】高い発光効率を有し、発光効率が低下するまでに要する時間が長く、かつ高品質な有機エレクトロルミネッセンス素子の提供。
【解決手段】陽極と陰極の間に、正孔注入層と発光層とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記正孔注入層が、酸性基を有し、かつ主鎖に芳香環および/または共役系複素環を有する導電性高分子(A)を含有し、該導電性高分子(A)中の酸性基の数が、前記芳香環および/または共役系複素環の総数に対して55〜400%である、有機エレクトロルミネッセンス素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極間に正孔注入層と発光層とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL」という。)は、発光材料として低分子または高分子の有機化合物を用いる素子である。有機EL素子は、電極間に発光層を有するが、素子の特性や寿命(すなわち、発光効率が低下するまでに要する時間)の向上のために、陽極に隣接して正孔注入層を設けることが一般的である。
【0003】
正孔注入層としては、従来、酸性基を有する導電性高分子と、主鎖に芳香環を含まない非導電性高分子とを含有する層が知られている。
しかし、このような正孔注入層を備えた有機EL素子は、その寿命が充分ではなかった。
そこで、長寿命の有機EL素子として、酸性基を有する導電性高分子と、酸性基を有し主鎖に芳香環を含む非導電性高分子とを含有する混合液を陽極上に塗布して成膜した正孔注入層を備えた有機EL素子が提案されている(例えば特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−19357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では正孔注入層を陽極上に形成する際に斑ができやすく、均一な品質の有機EL素子が得られにくかった。特に、カウンターカチオンの非存在下では酸性基を有する導電性高分子の溶解性が悪いため、混合液の陽極上への塗布性が低下しやすく、斑の発生が顕著である。
混合液にカウンターカチオンを添加すれば斑の問題は改善されるものの、酸性基を有する導電性高分子の自己ドープ性が損なわれるため導電性が低下しやすく、充分な発光効率が得られにくかった。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、高い発光効率を有し、発光効率が低下するまでに要する時間が長く、かつ高品質な有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極と陰極の間に、正孔注入層と発光層とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記正孔注入層が、酸性基を有し、かつ主鎖に芳香環および/または共役系複素環を有する導電性高分子(A)を含有し、該導電性高分子(A)中の酸性基の数が、前記芳香環および/または共役系複素環の総数に対して55〜400%であることを特徴とする。
ここで、前記導電性高分子(A)が、酸性基を有するポリアニリンであることが好ましい。
また、前記ポリアニリンが、メトキシポリアニリンであることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、高い発光効率を有し、発光効率が低下するまでに要する時間が長く、かつ高品質である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL」という。)は、陽極と陰極の間に、正孔注入層と発光層とを備える。
【0010】
[陽極および陰極]
本発明の有機ELに備わる陽極および陰極は、いずれか一方が透明または半透明であることが好ましく、特に、陽極が透明または半透明であることが好ましい。これにより発光をより透過するため、発光の取出し効率が向上する。
なお、本発明において「透明」とは目視にて曇りのないことを意味し、「半透明」とは目視にて均一または不均一な曇りを有することを意味する。
【0011】
陽極の材料としては、導電性の金属酸化物、半透明の金属等が用いられる。具体的には、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、およびそれらの複合体であるインジウム・スズ・オキサイド(ITO)、インジウム・亜鉛・オキサイド等からなる導電性ガラス(NESAなど)や、金、白金、銀、銅等が挙げられる。中でも、ITO、インジウム・亜鉛・オキサイド、酸化スズが好ましい。また、陽極として、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体などの有機の透明導電膜を用いてもよい。
陽極の膜厚は、光の透過性と電気伝導度とを考慮して適宜設定できるが、例えば10nm〜10μmが好ましい。
なお、本発明において「導電性」とは、10Ω・cm以下の体積抵抗率を有することである。
【0012】
一方、陰極の材料としては、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム、スカンジウム、バナジウム、亜鉛、イットリウム、インジウム、セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、イッテルビウムなどの金属、およびそれらのうち2つ以上の合金、あるいはそれらのうち1つ以上と、金、銀、白金、銅、マンガン、チタン、コバルト、ニッケル、タングステン、錫のうち1つ以上との合金、グラファイトまたはグラファイト層間化合物等が挙げられる。合金の例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、インジウム−銀合金、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−マグネシウム合金、リチウム−インジウム合金、カルシウム−アルミニウム合金などが挙げられる。
陰極は、1層でもよいし、2層以上の積層構造でもよい。
陰極の膜厚は、電気伝導度や耐久性を考慮して、適宜設定できる。
【0013】
[正孔注入層]
正孔注入層は、陽極に隣接する層であり、導電性高分子(A)を含有する。
一般に、「導電性高分子」とは、金属的または半導体的な導電性を示す高分子物質の総称である(岩波理化学辞典第5版:1998年発行)。
導電性高分子の具体的な例は「導電性ポリマー」(吉村進一著、共立出版)、「導電性高分子の最新応用技術」(小林征男監修、シーエムシー出版)に記載されている。
【0014】
<導電性高分子(A)>
前記導電性高分子(A)は、酸性基を有し、かつ主鎖に芳香環および/または共役系複素環を有する。
また、導電性高分子(A)は、当該導電性高分子(A)中の酸性基の数が、前記芳香環および/または共役系複素環の総数に対して55〜400%である。酸性基の数が55%以上であれば、導電性高分子(A)の溶解性が向上する。従って、詳しくは後述するが、導電性高分子(A)を含む材料を溶媒に溶解させて正孔注入層用組成物を調製し、該組成物を陽極上に塗布して正孔注入層を成膜する際に、斑ができにくく、均一な品質の有機EL素子が得られる。また、導電性高分子(A)は溶解性に優れるため、正孔注入層用組成物にカウンターカチオンを添加する必要がない。従って、導電性高分子(A)の自己ドープ性が損なわれにくく、導電性が低下しにくいので、充分な発光効率が得られる。
導電性高分子(A)中の酸性基の数は、70%以上が好ましく、100%以下が好ましい。特に、酸性基の数が70%以上であれば、自己ドープ性が良好となり、充分な導電性が得られやすくなる。
なお、導電性高分子(A)中の酸性基の数とは、導電性高分子(A)の芳香環および/または共役系複素環の個数に対する酸性基の割合のことである。例えば、酸性基の数が100%の導電性高分子(A)とは、酸性基が導電性高分子(A)の芳香環および/または共役系複素環と同じ個数で存在することを意味する。
【0015】
酸性基としては、例えばカルボキシル基やホスホ基等の弱酸性基、スルホ基、スルホニルイミド等の強酸性基、パーフルオロアルキレンスルホ基、パーフルオロフェニレンスルホ基、パーフルオロアルキレンスルホニルイミド等の超強酸性基などが挙げられる。中でも、強酸性基、超強酸性基が好ましく、スルホ基、パーフルオロアルキレンスルホ基、パーフルオロフェニレンスルホ基などが特に好ましい。
【0016】
導電性高分子(A)は、上述したように、主鎖に芳香環および/または共役系複素環を有する。共役系複素環としては、窒素原子または硫黄原子を有する5員環または6員環の共役系複素環が挙げられる。
主鎖に芳香環および/または共役系複素環を有する導電性高分子としては、例えばパラ位もしくはメタ位で結合したポリフェニレン、2価の基を介してフェニル基が繋がった高分子(例えば−CH=CH−を介してフェニル基が繋がったポリフェニレンビニレン、−S−を介してフェニル基が繋がったポリフェニレンサルファイド、−O−を介してフェニル基が繋がったポリフェニレンオキサイドが挙げられる)、五員環を構成する元素がCとH以外の元素を一つ含み2,5位で繋がった高分子(例えばNHを含む五員環が2,5位で繋がったポリピロール、Sを含む五員環が2,5位で繋がったポリチオフェン、Oを含む五員環が2,5位で繋がったポリフラン、Seを含む五員環が2,5位で繋がったポリセレノフェン、Teを含む五員環が2,5位で繋がったポリテルロフェンが挙げられる)、芳香族アミン類を重合して得られる高分子(例えばポリアニリン、ポリアミノピレンが挙げられる)が挙げられる。
【0017】
また、主鎖に芳香環および/または共役系複素環を有する導電性高分子は、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜10のアリール基または炭素数6〜10のアリールオキシ基、ハロゲン原子等の置換基で置換されていてもよい。
【0018】
炭素数1〜10のアルキル基としては、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、イソブチル、n−ペンチル、2,2-ジメチルプロピル、シクロペンチル、n−ヘキシル、シクロヘキシル、2−メチルペンチル、2−エチルヘキシル等の炭素数1〜10のアルキル基、これらの基にフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ、フェニル、ナフチル、フェノキシ、ナフチルオキシなどが置換したアルキル基等が挙げられる。
【0019】
炭素数1〜10のアルコキシ基としては、例えばメトキシ、エトキシ、n−プロピルオキシ、イソプロピルオキシ、n−ブチルオキシ、sec−ブチルオキシ、tert−ブチルオキシ、イソブチルオキシ、n−ペンチルオキシ、2,2−ジメチルプロピルオキシ、シクロペンチルオキシ、n−ヘキシルオキシ、シクロヘキシルオキシ、2−メチルペンチルオキシ、2−エチルヘキシルオキシ等の炭素数1〜10のアルコキシ基、これらの基にフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ、フェニル、ナフチル、フェノキシ、ナフチルオキシなどが置換したアルコキシ基等が挙げられる。
【0020】
炭素数6〜10のアリール基としては、例えばフェニル、ナフチル等の炭素数6〜10のアリール基、これらの基にフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ、フェニル、ナフチル、フェノキシ、ナフチルオキシなどが置換したアリール基等が挙げられる。
【0021】
炭素数6〜10のアリールオキシ基としては、例えばフェノキシ、ナフチルオキシ等の炭素数6〜10のアリールオキシ基、これらの基にフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ、フェニル、ナフチル、フェノキシ、ナフチルオキシなどが置換したアリールオキシ基等が挙げられる。
【0022】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。
【0023】
導電性高分子(A)としては、上述した主鎖に芳香環および/または共役系複素環を有する導電性高分子に酸性基が導入されたものが挙げられ、具体的には、酸性基を有するポリフェニレン、酸性基を有するポリフェニレンビニレン、酸性基を有するポリフェニレンサルファイド、酸性基を有するポリフェニレンオキサイド、酸性基を有するポリピロール、酸性基を有するポリチオフェン(例えば酸性基を有するポリ(3,4−ジオキシチオフェン)など)、酸性基を有するポリフラン、酸性基を有するポリセレノフェン、酸性基を有するポリテルロフェン、酸性基を有するポリアニリンもしくはその共重合体、または酸性基を有するポリアミノピレン等が挙げられる。
中でも、水溶性であり、塗布性が良好であることから、酸性基を有するポリアニリンが好ましい。また、上述した置換基で置換されたポリアニリンに酸性基が導入されたものも好ましく、中でも重合反応における反応性が良好であることから、メトキシ基で置換されたメトキシポリアニリンに酸性基が導入されたもの(酸性基を有するメトキシポリアニリン)が好ましい。
導電性高分子(A)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
主鎖に芳香環又は複素環を含む導電性高分子への酸性基の導入の状態は特に制限されず、これら導電性高分子に酸性基が直接結合していてもよいし、連結基を介して酸性基が結合していてもよい。
連結基としては、炭素数1〜10のアルキレン、炭素数1〜10で−O−を含んでいるアルキレン、炭素数1〜10のオキシアルキレン、炭素数6〜10のアリーレン、炭素数6〜10のオキシアリーレン等が挙げられる。
【0025】
炭素数1〜10のアルキレンとしては、例えばメチレン、エチレン、n−プロピレン、イソプロピレン、n−ブチレン、sec−ブチレン、tert−ブチレン、イソブチレン、n−ペンチレン、2,2−ジメチルプロピレン、シクロペンチレン、n−ヘキシレン、シクロヘキシレン、2−メチルペンチレン、2−エチルヘキシレン等の炭素数1〜10のアルキレン、これらのアルキレンにフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ、フェニル、ナフチル、フェノキシ、ナフチルオキシなどが置換したアルキレン等が挙げられる。
【0026】
炭素数1〜10で−O−を含んでいるアルキレンとしては、例えばメチレンオキシメチレン、エチレンオキシメチレン、プロピレンオキシメチレン、ブチレンオキシメチレン、ブチレンオキシエチレン、ブチレンオキシプロピレン、ブチレンオキシブチレン、ペンチレンオキシメチレン、ペンチレンオキシエチレン、ペンチレンオキシプロピレン、ヘキシレンオキシメチレン、へプチレンオキシメチレン、オクチレンオキシメチレン、ノナチルオキシメチレン等の−O−を含んでいるアルキレン、これらのアルキレンにフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ、フェニル、ナフチル、フェノキシ、ナフチルオキシなどが置換した−O−を含んでいるアルキレン等が挙げられる。
【0027】
炭素数1〜10のオキシアルキレンとしては、例えば、メチレンオキシ、エチレンオキシ、n−プロピレンオキシ、イソプロピレンオキシ、n−ブチレンオキシ、sec−ブチレンオキシ、tert−ブチレンオキシ、イソブチレンオキシ、n−ペンチレンオキシ、2,2-ジメチルプロピレンオキシ、シクロペンチレンオキシ、n−ヘキシレンオキシ、シクロヘキシレンオキシ、2−メチルペンチレンオキシ、2−エチルヘキシレンオキシ等の炭素数1〜10のオキシアルキレン、これらのオキシアルキレンにフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ、フェニル、ナフチル、フェノキシ、ナフチルオキシなどが置換したオキシアルキレン等が挙げられる。
【0028】
炭素数6〜10のアリーレンとしては、例えばフェニレン、ナフチレン等の炭素数6〜10のアリーレン、これらのアリーレンにフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ、フェニル、ナフチル、フェノキシ、ナフチルオキシなどが置換したアリーレン等が挙げられる。
【0029】
炭素数6〜10のオキシアリーレンとしては、例えばフェニレンオキシ、ナフチレンオキシ等の炭素数6〜10のオキシアリーレン、これらのオキシアリーレンにフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ、フェニル、ナフチル、フェノキシ、ナフチルオキシなどが置換したオキシアリーレン等が挙げられる。
【0030】
導電性高分子(A)の具体的な例としては、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する化合物が好ましい。
【0031】
【化1】

【0032】
式(1)中、R〜Rは、各々独立に、−H、炭素数1〜24の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数1〜24の直鎖もしくは分岐のアルコキシ基、酸性基、水酸性基、ニトロ基、−F、−Cl、−Brまたは−Iであり、かつR〜Rのうちの少なくとも1つが酸性基である。
【0033】
導電性高分子(A)としては、上記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する化合物の中でも、特に下記一般式(2)で表される化合物が好ましい。なお、酸性基の数は合成方法等により異なるが、ここでは芳香環の数に対して酸性基の数が100%である導電性高分子を例示した。
【0034】
【化2】

【0035】
式(2)中、nは重合度を示し、15〜5000である。
【0036】
また、導電性高分子(A)としては、上述した化合物以外にも、例えば下記一般式(3)〜(6)で表される化合物などが挙げられる。なお、酸性基の数は合成方法等により異なるが、ここでは芳香環の数に対して酸性基の数が100%である導電性高分子を例示した。
【0037】
【化3】

【0038】
式(3)〜(6)中、n〜nはそれぞれ重合度を示し、nは13〜4500、nは3〜5500、nは15〜500、nは3〜10である。
【0039】
導電性高分子(A)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で求められる数平均分子量が3000〜1000000であることが好ましく、3000〜300000であることがより好ましい。数均分子量が3000以上であれば、充分な粘度を確保できるので、詳しくは後述するが、正孔注入層を成膜する際の正孔注入層用組成物の塗布性が良好となる。一方、数均分子量が1000000以下であれば、粘度が必要以上に高くなりすぎるのを抑制できるので、正孔注入層用組成物の塗布性を良好に維持できる。
【0040】
<他の材料>
正孔注入層は、上述した導電性高分子(A)の他に、低分子系の正孔注入材料、高分子系の正孔注入材料、導電性高分子(A)以外の他の導電性高分子など、他の材料などを含有してもよい。
【0041】
低分子系の正孔注入材料としては、ピラリゾン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体が例示される。また、特開昭63−70257号公報、特開昭63−175860号公報、特開平2−135359号公報、特開平2−135361号公報、特開平2−209988号公報、特開平3−37992号公報、特開平3−152184号公報に記載されている正孔輸送材料等も好適に用いられる。
【0042】
高分子系の正孔注入材料としては、カルバゾール基を有する高分子、芳香族アミン基を有する高分子、導電性高分子等が例示される。カルバゾール基を有する高分子、芳香族アミン基を有する高分子として、具体的にはポリビニルカルバゾール及びその誘導体、芳香族アミン基を主鎖もしくは側鎖に有する高分子化合物などが挙げられ、特開平6−95537号公報、特開平11−35687号公報、特開2000−80167号公報に記載されているものが好適に用いられる。
【0043】
導電性高分子(A)以外の他の導電性高分子としては、ポリアセチレン及びその誘導体、パラ位もしくはメタ位で結合したポリフェニレン及びその誘導体、2価の基を介してフェニル基が繋がった高分子(例えば−CH=CH−を介してフェニル基が繋がったポリフェニレンビニレン及びその誘導体、−S−を介してフェニル基が繋がったポリフェニレンサルファイド及びその誘導体、−O−を介してフェニル基が繋がったポリフェニレンオキサイド及びその誘導体が挙げられる)、五員環を構成する元素がCとH以外の元素を一つ含み2,5位で繋がった高分子(例えばNHを含む五員環が2,5位で繋がったポリピロール及びその誘導体、Sを含む五員環が2,5位で繋がったポリチオフェン及びその誘導体、Oを含む五員環が2,5位で繋がったポリフラン及びその誘導体、Seを含む五員環が2,5位で繋がったポリセレノフェン及びその誘導体、Teを含む五員環が2,5位で繋がったポリテルロフェン及びその誘導体が挙げられる)、芳香族アミン類を重合して得られる高分子(例えばポリアニリン及びその誘導体、ポリアミノピレン及びその誘導体が挙げられる)が挙げられる。中でも、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、ポリピロール及びその誘導体が好ましくポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体がより好ましい。
【0044】
[発光層]
発光層は、発光材料として低分子発光体や高分子発光体を含有する。発光層を成膜する際の製造プロセスが容易である観点で、発光層は高分子発光体より形成されるのが好ましい。
【0045】
<低分子発光体>
低分子発光体としては、例えばナフタレンもしくはその誘導体、アントラセンもしくはその誘導体、ペリレンもしくはその誘導体、ポリメチン系、キサンテン系、クマリン系、シアニン系などの色素類、8−ヒドロキシキノリンもしくはその誘導体の金属錯体、芳香族アミン、テトラフェニルシクロペンタジエンもしくはその誘導体、またはテトラフェニルブタジエンもしくはその誘導体などを用いることができる。具体的には、特開昭57−51781号、同59−194393号公報に記載されている。
【0046】
<高分子発光体>
高分子発光体としては、蛍光または燐光を示す高分子であれば制限はないが、下記一般式(7)および/または下記一般式(8)で表される繰り返し単位を有する高分子発光体が好適である。
−Ar−(Y− ・・・(7)
−Ar−NR(−Ar− )− ・・・(8)
【0047】
式(7)中、Arは、アリーレン基、2価の複素環基または金属錯体構造を有する2価の基であり、Yは−CR=CR−、または−C≡C−である。R およびR は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、1価の複素環基またはシアノ基である。kは0〜2の整数である。Y が複数個存在する場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。
式(7)中のkは、好ましくは0または1である。
【0048】
式(8)中、Ar およびArはそれぞれ独立にアリーレン基または2価の複素環基であり、Rは、アルキル基、アリール基、1価の複素環基を示す。zは1〜4の整数である。Rがアリール基または1価の複素環基の場合、該アリール基、該1価の複素環基はアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、置換シリル基、置換アミノ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールアルキル基、アリールアルコキシ基、アリールアルケニル基、アリールアルキニル基、1価の複素環基等の置換基を有していてもよい。
【0049】
高分子発光体は、一般式(7)や一般式(8)で示される繰り返し単位以外の繰り返し単位を含んでいてもよい。式(7)および/または式(8)で示される繰り返し単位の合計は通常全繰り返し単位の50モル%以上が好ましい。
【0050】
<他の材料>
発光層は、上述した低分子発光体および高分子発光体の他に、正孔輸送性材料、電子輸送性材料など、他の材料を一種類以上含有してもよい。
正孔輸送性材料および電子輸送性材料としては、公知の低分子化合物や高分子化合物が挙げられる。中でも高分子化合物が好ましい。
高分子化合物の正孔輸送性材料、および高分子化合物の電子輸送性材料の具体例としては、WO99/13692公開明細書、WO99/48160公開明細書、GB2340304A、WO00/53656公開明細書、WO01/19834公開明細書、WO00/55927公開明細書、GB2348316、WO00/46321公開明細書、WO00/06665公開明細書、WO99/54943公開明細書、WO99/54385公開明細書、US5777070、WO98/06773公開明細書、WO97/05184公開明細書、WO00/35987公開明細書、WO00/53655公開明細書、WO01/34722公開明細書、WO99/24526公開明細書、WO00/22027公開明細書、WO00/22026公開明細書、WO98/27136公開明細書、US573636、WO98/21262公開明細書、US5741921、WO97/09394公開明細書、WO96/29356公開明細書、WO96/10617公開明細書、EP0707020、WO95/07955公開明細書、特開2001−181618号公報、特開2001−123156号公報、特開2001−3045号公報、特開2000−351967号公報、特開2000−303066号公報、特開2000−299189号公報、特開2000−252065号公報、特開2000−136379号公報、特開2000−104057号公報、特開2000−80167号公報、特開平10−324870号公報、特開平10−114891号公報、特開平9−111233号公報、特開平9−45478号公報等に開示されているポリフルオレン、その誘導体および共重合体、ポリアリーレン、その誘導体および共重合体、ポリアリーレンビニレン、その誘導体および共重合体、芳香族アミンおよびその誘導体の(共)重合体が例示される。
【0051】
高分子化合物の正孔輸送性材料としては、上記に例示した文献に記載のものがより好適に用いられるが、それ以外の高分子化合物、例えばポリビニルカルバゾールもしくはその誘導体、ポリシランもしくはその誘導体、側鎖もしくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体、ポリピロールもしくはその誘導体、またはポリ(2,5−チエニレンビニレン)もしくはその誘導体なども用いることができる。
一方、低分子化合物の正孔輸送性材料としては、例えばピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体が例示される。
【0052】
高分子化合物の電子輸送性材料としては、上記に例示した文献に記載のもの以外にも、例えばポリキノリンもしくはその誘導体、ポリキノキサリンもしくはその誘導体などが挙げられる。
一方、低分子化合物の電子輸送性材料としては、例えばオキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタンもしくはその誘導体、ベンゾキノンもしくはその誘導体、ナフトキノンもしくはその誘導体、アントラキノンもしくはその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタンもしくはその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレンもしくはその誘導体、ジフェノキノン誘導体、または8−ヒドロキシキノリンもしくはその誘導体の金属等が挙げられる。
【0053】
また、正孔輸送性材料および電子輸送性材料としては、特開昭63−70257号公報、特開昭63−175860号公報、特開平2−135359号公報、特開平2−135361号公報、特開平2−209988号公報、特開平3−37992号公報、特開平3−152184号公報に記載されている正孔輸送性材料や電子輸送材料等を用いてもよい。
【0054】
[その他の層]
本発明の有機EL素子は、陽極と陰極の間に、正孔注入層および発光層の他に、正孔輸送層や電子輸送層(以下、これらを総称して「電荷輸送層」という場合がある。)を有していてもよい。
正孔輸送層は、正孔を輸送する機能を有する層であり、正孔輸送性材料を含有する。正孔輸送性材料としては、発光層の説明において先に例示した正孔輸送性材料が挙げられる。
一方、電子輸送層は、電子を輸送する機能を有する層であり、電子輸送性材料を含有する。電子輸送性材料としては、発光層の説明において先に例示した電子輸送性材料が挙げられる。
【0055】
本発明の有機EL素子は、発光層、正孔輸送層、電子輸送層をそれぞれ独立に2層以上有していてもよい。また、正孔輸送層および/または電子輸送層は、2層以上であってもよい。
【0056】
すなわち、本発明の有機EL素子としては、陽極と陰極の間に、陽極に接して正孔注入層を有し、さらに発光層を有する素子(例えば、下記a))の他に、例えば正孔注入層と発光層との間に、該発光層に隣接して正孔輸送層を設けたEL素子(例えば、下記b));陰極と発光層との間に、該発光層に隣接して電子輸送層を設けたEL素子(例えば、下記c));陰極と発光層との間に、該発光層に隣接して電子輸送層を設け、正孔注入層と発光層との間に、該発光層に隣接して正孔輸送層を設けたEL素子(例えば、下記d))等が挙げられる。なお、下記a)〜d)において、「/」は各層が隣接して積層されていることを示す。
a):陽極/正孔注入層/発光層/陰極
b):陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/陰極
c):陽極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/陰極
d):陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
【0057】
有機EL素子に備わる各層の膜厚は、各層に含まれる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように選択すればよいが、少なくともピンホールが発生しないような厚さが必要であり、厚すぎると素子の駆動電圧が高くなり好ましくない。
従って、正孔注入層の膜厚は、例えば1〜300nmが好ましく、発光層の膜厚は、例えば1nm〜1μmが好ましく、正孔輸送層の膜厚は、例えば1nm〜1μmが好ましく、電子輸送層の膜厚は、例えば1nm〜1μmが好ましい。
【0058】
また、有機EL素子は、陽極と陰極の間に、正孔注入層、発光層、正孔輸送層、電子輸送層以外の層を有していてもよい。このような層としては、例えば電子注入層、膜厚10nm以下の絶縁層が挙げられる。
電子注入層は、陰極に隣接し、陰極と発光層または電子輸送層との間に設けられる層であって、陰極からの電子注入効率を改善する機能や、素子の駆動電圧を下げる効果を有する。電子注入層の具体的な例としては、陰極材料の仕事関数と発光層に含まれる発光材料の電子親和力、または電子輸送層に含まれる電子輸送性材料との中間の値の電子親和力を有する材料を含む層などが好適に使用される。
一方、絶縁層は、電荷輸送層や発光層の界面に設ける薄いバッファー層であって、界面の密着性向上や混合の防止等の効果を有する。
なお、電子注入層および絶縁層の膜厚は、発光寿命や素子寿命を勘案して適宜設定すればよい。
【0059】
[有機EL素子の製造方法]
有機EL素子は、例えば基板に形成された陽極上に正孔注入層を成膜した後、発光層や必要に応じて正孔輸送層や電子輸送層などの他の層を任意の順で成膜し、さらにその上に陰極を形成することで得られる。
なお、基板としては、電極の形成や各層の成膜に耐えることのできるものであれば特に制限されないが、例えばガラス、プラスチック、高分子フィルム、シリコン基板などが挙げられる。また、基板が不透明である場合は、反対の電極が透明または半透明であることが好ましい。
【0060】
基板上へ陽極を形成する方法としては、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法等などが挙げられる。
一方、陰極を形成する方法としては、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、金属薄膜を熱圧着するラミネート法等が挙げられる。
【0061】
正孔注入層を成膜する方法としては、上述した導電性高分子(A)を含有する溶液や分散液から成膜する方法、電気化学的な重合を陽極上で行うことで成膜する方法などが挙げられる。ここで、溶液や分散液から成膜する方法について、具体的に説明する。
まず、導電性高分子(A)や、必要に応じて上述した他の材料を溶媒に溶解または分散させて正孔注入層用組成物を調製する。その際、導電性高分子(A)や他の材料が溶媒に溶解または分散しにくい場合は、高分子バインダーを添加するのが好ましい。高分子バインダーとしては、電荷輸送を極度に阻害しないものが好ましい。また、可視光に対する吸収が強くないものも好適に用いられる。具体的には、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)もしくはその誘導体、ポリ(2,5−チエニレンビニレン)もしくはその誘導体、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、またはポリシロキサンなどが挙げられる。
ついで、得られた正孔注入層用組成物を陽極上に塗布し、乾燥させて正孔注入層を成膜する。
【0062】
正孔注入層用組成物の調製に用いる溶媒としては、導電性高分子(A)や他の材料、必要に応じて使用される高分子バインダーを溶解させるものであれば特に制限されないが、例えば水、または水と有機溶媒の混合溶媒などが好適に使用される。有機溶媒の例としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、プロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、エチルイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、エチレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル等のエチレングリコール類、プロピレングリコール、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル等のプロピレングリコール類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン等のピロリドン類、乳酸メチル、乳酸エチル、β−メトキシイソ酪酸メチル、α−ヒドロキシイソ酪酸メチル等のヒドロキシエステル類等及びこれらを混合したものなどが挙げられる。
【0063】
正孔注入層用組成物の塗布方法としては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法等などが挙げられる。
【0064】
発光層を成膜する方法としては、発光材料として低分子発光体を用いる場合には、例えば真空蒸着により成膜する方法や、高分子バインダーに混合して得られる混合溶液から成膜する方法が挙げられる。
高分子バインダーとしては、正孔注入層の成膜方法の説明おいて先に例示した高分子バインダーが挙げられる。
【0065】
一方、発光材料として高分子発光体を用いる場合には、該高分子発光体を含有する溶液や分散液から成膜する方法が挙げられる。この場合、高分子発光体や必要に応じて他の材料(正孔輸送性材料、電子輸送性材料など)を溶媒に溶解または分散させて発光層用組成物を調製し、これを用いて発光層を成膜すればよい。なお、発光層用組成物を調製する際は、必要に応じて先に例示した高分子バインダーを併用してもよい。
発光層用組成物を用いて発光層を成膜する場合は、正孔注入層を成膜する場合と同様の方法を採用すればよい。
発光層用組成物の調製に用いる溶媒としては、高分子発光体や高分子バインダーを溶解させるものであれば特に制限はない。具体的には、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン等の塩素系溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒やトルエン、キシレン、メシチレン、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、n−ブチルベンゼン等の芳香族化合物系溶媒などが挙げられる。
【0066】
正孔輸送層や電子輸送層を成膜する方法としては、正孔輸送性材料や電子輸送性材料として低分子化合物を用いる場合には、例えば真空蒸着により成膜する方法や、高分子バインダーに混合して得られる混合溶液から成膜する方法が挙げられる。
正孔輸送層や電子輸送層を成膜する際に用いる電荷輸送用高分子バインダーとしては、正孔輸送や電荷輸送を極度に阻害しないものや、可視光に対する吸収が強くないものが好適に用いられる。このような高分子バインダーとしては、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)もしくはその誘導体、ポリ(2,5−チエニレンビニレン)もしくはその誘導体、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、またはポリシロキサンなどが挙げられる。
【0067】
一方、正孔輸送性材料や電子輸送性材料として高分子化合物を用いる場合には、該高分子化合物を含有する溶液や、溶融状態の高分子化合物から成膜する方法が挙げられる。成膜する際は、必要に応じて先に例示した電荷輸送用高分子バインダーを併用してもよい。
また、高分子化合物の正孔輸送性材料や電子輸送性材料を含有する溶液に用いる溶媒としては、高分子化合物や電荷輸送用高分子バインダーを溶解させるものであれば特に制限はない。具体的には、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン等の塩素系溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテート等のエステル系溶媒などが挙げられる。
【0068】
このようにして得られた有機EL素子は、上述した導電性高分子(A)を含有する正孔注入層を備える。該導電性高分子(A)は溶媒に対する溶解性に優れるため、陽極上に正孔注入層用組成物を塗布する際の塗布性が良好であり、斑のない正孔注入層を形成でき、均一な品質の有機EL素子が得られる。また、正孔注入層は、導電性高分子(A)の自己ドープ性が損なわれにくく、導電性が低下しにくいので、充分な発光効率が得られる。
また、上述したように正孔注入層は、極性が高い導電性高分子(A)が水、または水と有機溶媒の混合溶媒に溶解または分散した正孔注入層用組成物を用いて成膜する。一方、正孔注入層上に成膜される層は非水溶性であるため、これらの層同士が相互に混和することがない。よって、多層化による機能分離を効果的に行うことができるため、発光効率が低下するまでに要する時間が長い、すなわち長寿命の有機EL素子が得られる。
従って、本発明の有機EL素子は、高い発光効率を有し、発光効率が低下するまでに要する時間が長く、かつ高品質である。
【0069】
なお、本発明の有機EL素子は、当該有機EL素子を保護する保護層および/または保護カバーを装着して用いるのが好ましい。保護層および/または保護カバー装着することで、有機EL素子をより長期安定に使用することができる。
保護層としては、高分子化合物、金属酸化物、金属窒化物、金属窒酸化物、金属フッ化物、金属ホウ化物などを用いることができる。
一方、保護カバーとしては、ガラス板、表面に低透水率処理を施したプラスチック板などを用いることができる。保護カバーを有機EL素子に装着する際は、保護カバーを熱硬化樹脂や光硬化樹脂で素子基板と貼り合わせて密閉する方法が好適に用いられる。
【0070】
保護層および/または保護カバーを装着する際は、スペーサーを用いて有機EL素子と保護層および/または保護カバーとの間に空間を形成するのが好ましく、この空間により有機EL素子の破損を効果的に防止できる。さらに、この空間に窒素やアルゴンのような不活性なガスを封入すれば、陰極の酸化を防止することができる。また、酸化バリウム、酸化カルシウム等の乾燥剤を空間内に充填すれば、有機EL素子の製造過程で吸着した水分によって有機EL素子の性能が低下するのを抑制できる。これらのうち、いずれか1つ以上の方策をとることが好ましい。
【0071】
本発明の有機EL素子は、面状光源、セグメント表示装置、ドットマトリックス表示装置、液晶表示装置のバックライト等の表示素子として用いることができる。
【0072】
本発明の有機EL素子を面状の発光素子とするためには、面状の陽極と陰極を用い、これらが重なり合うように配置すればよい。
また、本発明の有機EL素子を用いてパターン状の発光を得るためには、前記面状の発光素子の表面にパターン状の窓を設けたマスクを設置する方法、非発光部の有機物層を極端に厚く形成し実質的に非発光とする方法、陽極または陰極のいずれか一方または両方の電極をパターン状に形成する方法を採用すればよい。これらのいずれかの方法でパターンを形成し、いくつかの電極を独立にON/OFFできるように配置することにより、数字や文字、簡単な記号などを表示できるセグメントタイプの表示素子が得られる。
さらに、本発明の有機EL素子をドットマトリックスタイプの表示素子とするためには、陽極と陰極をともにストライプ状に形成して直交するように配置すればよい。複数の種類の発光色の異なる重合体を塗り分ける方法や、カラーフィルターまたは蛍光変換フィルターを用いる方法により、部分カラー表示、マルチカラー表示が可能となる。ドットマトリックスタイプの表示素子は、パッシブ駆動でも、アモルファスシリコンや低温ポリシリコンを用いた薄膜トランジスタなどと組み合わせたアクティブ駆動でもよい。
【0073】
これらの表示素子は、コンピュータ、テレビ、携帯端末、携帯電話、カーナビゲーション、ビデオカメラのビューファインダーなどの表示装置として用いることができる。さらに、前記面状の発光素子は、自発光薄型であり、液晶表示装置のバックライト用の面状光源、あるいは面状の照明用光源として好適に用いることができる。また、フレキシブルな基板を用いれば、曲面状の光源や表示装置としても使用できる。
【実施例】
【0074】
以下、本発明をさらに詳細に説明するために実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、実施例において、質量平均分子量、数平均分子量、Z平均分子量については、水系の溶媒を用いて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算で求めた。
【0075】
<合成例1:スルホ基を有するメトキシポリアニリンA(スルホン化メトキシポリアニリンA)の合成>
2−アミノアニソール−4−スルホン酸200mmolと、トリエチルアミン100mmolを0℃で混合溶液(水:アセトニトリル=1:1(体積%/体積%))90mLに溶解した。これを、ペルオキソ二硫酸アンモニウム100mmolと濃硫酸1.1gを含む混合溶液(水:アセトニトリル=1:1(体積%/体積%))180mL中に、冷却下で滴下した。このときのモノマー溶液滴下速度は2.4g/時間、最高到達温度は20℃であった。また、反応系内のpHは滴下開始時がpH1、滴下終了時がpH1であり、pHの最高値は3であった。
滴下終了後25℃で1時間更に攪拌したのち、反応生成物を遠心濾過器にてろ別後、メチルアルコールにて洗浄後乾燥し、重合体粉末(スルホン化メトキシポリアニリンA)34gを得た。スルホン化メトキシポリアニリンA中の酸性基(スルホ基)の数は、スルホン化メトキシポリアニリンAの芳香環の総数に対して100%であった。
このスルホン化メトキシポリアニリンA中に含まれる、残留モノマーである2−アミノアニソール−4−スルホン酸は0.2%、副生塩であるトリエチルアミン硫酸塩は、0.05%であった。
【0076】
得られたスルホン化メトキシポリアニリンA(5質量部)を水100質量部に室温(25℃)で攪拌溶解させ、測定用溶液を調製した。
得られた測定用溶液をガラス基板上にスピンコート法により塗布し、100℃で乾燥させ、膜厚0.2μmのフィルムを得た。フィルム表面の表面抵抗値は3×10 Ω/□であった。
また、スルホン化メトキシポリアニリンAの分子量を測定した結果、数平均分子量(Mn)=25000、質量平均分子量(Mw)=27000、Z平均分子量(Mz)=28000、分散度(Mw/Mn)=1.08、分散度(Mz/Mw)=1.04であった。
【0077】
<合成例2:スルホ基を有するポリアニリンB(スルホン化ポリアニリンB)の合成>
発煙硫酸80mLをフラスコに入れ氷浴で冷却しながら、エメラルジンベースポリアニリン(Aldrich社製)1.0gを固体のまま分割して仕込んだ。仕込み終了後に氷浴を外してそのまま一晩攪拌した。
反応終了後、1Lのビーカーに400mLのメタノールを入れ、ビーカーの内温が15〜20℃付近を保持するように氷浴で冷却しながら、反応液を30分かけて少しずつ加えた。さらにアセトン200mLを加えて攪拌した後、ガラスフィルターで沈殿をろ過した。ついで、100mLのメタノールでリパルプ洗浄しながら洗浄ろ過する作業を4回繰り返し、緑色の固体1.1gを得た。
得られた固体を、0.1モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液50mLに溶解させ、深青色の液体を得た。この液体を透析用セルローズチューブ(三光純薬株式会社製、サイズ:36/32)を用いて、透析により過剰の水酸化ナトリウムを除いた後、イオン交換樹脂(Aldrich社製)に通して、スルホン化ポリアニリンBの溶液(緑色)50gを得た。この溶液の固形分は約1.7%であった。
得られた溶液中のスルホン化ポリアニリンBの組成は、元素分析で確認した。その結果、スルホン化率54%および含水10モル%とした場合の計算値とよく一致した。すなわち、スルホン化ポリアニリンB中の酸性基(スルホ基)の数は、スルホン化ポリアニリンBの芳香環の総数に対して54%である。
【0078】
<合成例3:高分子発光体1の合成>
2,7−ジブロモ−9,9−ジオクチルフルオレン(26g、0.047mol)、2,7−ジブロモ−9,9−ジイソペンチルフルオレン(5.6g、0.012mol)および2,2’−ビピリジル(22g、0.141mol)を脱水したテトラヒドロフラン1600mLに溶解した後、窒素でバブリングして系内を窒素置換した。窒素雰囲気下において、この溶液に、ビス(1、5−シクロオクタジエン)ニッケル(0){Ni(COD) }(40g、0.15mol)加え、60℃まで昇温し、8時間反応させた。反応後、この反応液を室温(約25℃)まで冷却し、混合溶液(25%アンモニア水200mL/メタノール1200mL/イオン交換水1200mL)中に滴下して30分間攪拌した後、析出した沈殿をろ過して風乾した。その後、トルエン1100mLに溶解させてからろ過を行い、ろ液をメタノール3300mLに滴下して30分間攪拌した。析出した沈殿をろ過し、メタノール1000mLで洗浄した後、5時間減圧乾燥し、共重合体(高分子発光体1)20gを得た。
高分子発光体1の分子量を測定した結果、数平均分子量(Mn)=4.6×10、質量平均分子量(Mw)=1.1×10であった。
【0079】
<合成例4:高分子発光体2の合成>
2,7−ジブロモ−9,9−ジオクチルフルオレン(5.8g、0.0105mol)、上記 N,N’−ビス(4−ブロモフェニル)−N,N’−ビス(4−n−ブチルフェニル)−1,4−フェニレンジアミン(3.1g、0.0045mmol)および2,2’−ビピリジル(6.6g)を脱水したテトラヒドロフラン20mLに溶解した後、窒素でバブリングして系内を窒素置換した。窒素雰囲気下において、この溶液に、ビス(1、5−シクロオクタジエン)ニッケル(0){Ni(COD)}(12.0g)加え、60℃まで昇温し、攪拌しながら3時間反応させた。反応後、この反応液を室温(約25℃)まで冷却し、混合溶液(25%アンモニア水50mL/メタノール約200mL/イオン交換水約300mL)中に滴下して1時間攪拌した後、析出した沈殿をろ過して2時間減圧乾燥し、トルエン約350mLに溶解させた。その後、1N塩酸約200mLを加えて1時間攪拌し、水層を除去して有機層に4%アンモニア水約200mLを加え、1時間攪拌した後に水層を除去した。有機層にイオン交換水約200mLを加え攪拌した後、水層を除去した。有機層はメタノール約700mLに滴下して1時間攪拌し、析出した沈殿をろ過して2時間減圧乾燥し、トルエン約350mLに溶解させた。その後、アルミナカラムを通して精製を行い、回収したトルエン溶液をメタノール約700mlに滴下して1時間攪拌し、析出した沈殿をろ過して2時間減圧乾燥し、共重合体(高分子発光体2)3.5gを得た。
高分子発光体2の分子量を測定した結果、数平均分子量(Mn)=3.4×10、質量平均分子量(Mw)=5.4×10であった。
【0080】
[実施例1]
スルホン化メトキシポリアニリンA(2質量部)を水100質量部に室温(25℃)で攪拌溶解させ、正孔注入層用組成物を調製した。
別途、高分子発光体1と高分子発光体2を質量比が3:7となるように混合して、固形分の濃度が1.5質量%となるようにトルエンに溶解させ、発光層用組成物を調製した。
【0081】
スパッタ法により150nmの厚みでITO膜を付けたガラス基板に、正孔注入層用組成物をスピンコートにより1000rpmで塗布した後、窒素雰囲気下においてホットプレート上で110℃×10分の条件で乾燥させ、正孔注入層を成膜した。
ついで、正孔注入層上に、発光層用組成物をスピンコートにより1400rpmで塗布した後、減圧下80℃で1時間乾燥させ、発光層を成膜した。
ついで、発光層上に、陰極として、フッ化リチウムを約4nm、カルシウムを約5nm、次いでアルミニウムを約70nm蒸着して、有機EL素子を作製した。なお真空度が、1×10−4Pa以下に到達したのち、金属の蒸着を開始した。
得られた有機EL素子に電圧を印加したところ、充分な発光を観測することができた。
【0082】
[比較例1]
スルホン化メトキシポリアニリンAの代わりにスルホン化ポリアニリンBを用いて正孔注入層用組成物を調製した以外は、実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
得られた有機EL素子は、正孔注入層に斑があり、電圧を印加しても発光が観測されなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極の間に、正孔注入層と発光層とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記正孔注入層が、酸性基を有し、かつ主鎖に芳香環および/または共役系複素環を有する導電性高分子(A)を含有し、該導電性高分子(A)中の酸性基の数が、前記芳香環および/または共役系複素環の総数に対して55〜400%である、有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記導電性高分子(A)が、酸性基を有するポリアニリンである、請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記ポリアニリンが、メトキシポリアニリンである、請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。

【公開番号】特開2011−138813(P2011−138813A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−296014(P2009−296014)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】