説明

有機繊維フィブリッド、これを用いたシート材、このシート材を配した吸音用構造材

【課題】耐熱性・難燃性に優れた吸音材を提供する。
【解決手段】パラ型全芳香族ポリアミドまたはメタ型全芳香族ポリアミドからなる高分子重合体をN−メチル−2−ピロリドン、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、またはテトラメチルウレアおよびこれらの混合物から選択される極性アミド溶媒に溶解した溶液に上記高分子重合体に対して、10〜90重量%となるよう無機微粒子を添加した混合液を水系凝固液に導入して得られる無機微粒子を内包した非晶質含水成形物からなる有機繊維フィブリッド、該有機繊維フィブリッドからなるシート材および該シート材を配した吸音用構造材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、吸音性に優れた吸音材を提供することが可能な有機繊維フィブリッド、これを用いたシート材、このシート材を配してなる、耐熱性に優れた吸音用構造材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車輌や住宅あるいは高速道路などの吸音、遮音材として、ガラスウール、ウレタンフォーム、ポリエステル繊維、さらには高融点熱可塑性繊維と低融点熱可塑性繊維を用いたもの(例えば、特許文献1参照)など、各種繊維を用いた吸音材が多数提案されている。かかる吸音材に要求される特性としては、吸音性、軽量性、形態安定性などがあげられる。特に、吸音性においては、低周波から高周波にかけて広くかつ良好な吸音特性が求められている。吸音材の吸音性を高める方法としては、従来、繊維径を細くしたり、目付けを大きくするなどの方法が採用されてきた。しかるに、単に繊維径を細くするだけでは、低周波から高周波にかけて広くかつ良好な吸音特性は十分には得られず、形態安定性も損なわれるという問題があった。他方、単に目付けを大きくするだけでは、軽量性が損なわれるという問題があった。
【0003】
また、近年、自動車性能の高度化・乗心地の快適さを追求する動きが急速に高まって来ており、中でも自動車エンジンの高性能化は目覚しいものがある。他方、エンジンルームの高温化、騒音の拡大、難燃規制の強化等大型自動車を中心として問題が健在化しつつある。従来、エンジンの騒音を低減するためボンネット裏に難燃化したポリプロピレン繊維あるいはポリエチレンテレフタレート繊維の不織布やガラス繊維マットが吸音材として用いられていたが、エンジンルームの高温化が進むに従い、これら素材の耐熱・難燃性は限度に達しつつある。吸音材の耐熱・難燃性向上技術として、無機繊維質を結合剤にて結着させる方法(特許文献2)などが提案されている。しかしながら、無機質を通常の結合剤にて結着するには無機質の脱落の問題などで配合量に限界があること、また、無機質が吸音材表面に存在することにより音の反射割合が高くなり、良質な吸音材を得ることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−3599号公報
【特許文献2】特開平6−212593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、耐熱性・難燃性に優れた吸音材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、耐熱性を向上するために無機微粒子を添加した吸音性のシート材を作製するにあたり、音の反射を抑制するため無機微粒子の表面を非晶質含水フィブリッドにて覆うことを特徴とする。
すなわち、本発明は、パラ型全芳香族ポリアミドおよび/またはメタ型全芳香族ポリアミドからなる高分子重合体をN−メチル−2−ピロリドン、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、またはテトラメチルウレアおよびこれらの混合物から選択される極性アミド溶媒に溶解した溶液に上記高分子重合体に対して、10〜90重量%となるよう無機微粒子を添加した混合液を水系凝固液に導入して得られる無機微粒子を内包した非晶質含水成形物からなる有機繊維フィブリッド、該有機繊維フィブリッドからなるシート材、および該シート材を配した吸音用構造材である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、耐熱性・難燃性に優れた吸音材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の無機微粒子を内包した非晶質含水構造物からなる有機繊維フィブリッドに用いられるポリマー(高分子重合体)としては、ポリ−p−フェニレンテレフタルアミドに代表されるパラ型全芳香族ポリアミドや、その共重合体、メタ型全芳香族ポリアミド、ポリ−p−フェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)ホモポリマーなど、ポリマーの種類や、ポリマーの構造や重合度などは特に限定されるものではなく、ポリマー自身の耐熱性や製造工程などを考慮するとパラ型全芳香族ポリアミドやメタ型全芳香族ポリアミドが好ましく、最も好ましくはパラ型全芳香族ポリアミドである。
【0009】
また、本発明の有機繊維フィブリッドの製造に用いられる溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、またはテトラメチルウレアおよびこれらの混合物から選択される極性アミド溶媒が挙げられる。
極性アミド溶媒の使用量は、高分子重合体の濃度が好ましくは2〜20重量%、さらに好ましくは4〜10重量%となる量である。
【0010】
さらに、本発明の有機繊維フィブリッドに用いられる無機微粒子とは、耐熱・難燃性に優れたものであればいかようにも使用できるが、クレイ、タルク、硫酸バリウム、カオリン、シリカ、ウォラストナイト、オスモス・雲母などが使用できる。
無機微粒子の粒子径は、20μm以下のものが好ましく、さらに好ましくは5μm以下である。20μmを超えると、パルプへの内包性が悪くなるため、吸音性を阻害する。
また、無機微粒子は、その比表面積が2g/m以上、かつ700℃にて5時間焼結した際の重量減少が10%以下である。
無機微粒子の添加量は、高分子重合体に対して、10重量%から90重量%の範囲である。10重量%未満では、耐熱・難燃性を発現しにくく、一方90重量%を超えると、非晶質含水フィブリッド内に無機微粒子を内包できず、吸音性が悪くなるとともに、粉落ちなどの原因となる。
【0011】
本発明の無機微粒子を内包した非晶質含水成形体からなる有機繊維フィブリッドは、例えば、例えば、WO 2004/099476 A1〔特表2006−525391号公報〕、特公昭35−11851号公報、特公昭37−5732号公報などに記載されているような、有機系高分子重合体溶液を、該高分子重合体溶液の凝固液と剪断力とが存在する系において混合するなどの方法より作製される、微小のフィブリルを有する薄葉状、鱗片状の小片、ランダムにフィブリル化した微小短繊維、または粒状の粒子状物を指す。ここで非晶質とは、一般に水素結合に基づく結晶構造を形成する前の構造物を指す。さらに非結晶構造中に水分が含まれたものを非晶質含水成形物と総称する。一般にポリマーは凝固後、乾燥や延伸することにより結晶化が進行するが、凝固ポリマー中にある程度の水を含むことによりその結晶化が抑制され、それゆえ該非晶質含水フィブリッドの結晶化度は含水率とある程度相関しているといえる。一概には言えないが、含水率が高いほど結晶化度は低く、含水率が低いほど結晶化度は高いと推定される。低結晶化度であるほど柔軟であり、かつ他の繊維材料との絡み合いにおいてバインダー的な特性を有するものとなり、乾燥プレス工程で結晶化が進むことにより、耐熱性のある高強度バインダーとなる。
一旦乾燥工程等を経て該非晶質含水フィブリッドの水が除去された場合、ポリマーの結晶化が進行することにより、再びポリマー中へ大量の水が存在することが困難となり、その結果、本発明で期待されるような、バインダー的な特性は示せず、高強度が発現しないため好ましくない。
【0012】
以上により、該非晶質含水フィブリッドは一般には有機高分子重合体溶液を水系凝固液に導入後、急激な剪断力をかけて微小なフィブリッドとした後、水洗後/又は水洗することなく、かつ乾燥することなくして得ることが好ましい。また、非晶質含水フィブリッドとしては、有機系高分子重合体溶液を、水系凝固液で凝固して作製された非晶質含水成形物を湿潤状態で粘状叩解用リファイナリーやビーターを使用して更にフィブリル化したものを乾燥工程等を経ることなく回収されたものでも良い。
さらに、非晶質含水フィブリッド中に水分が存在することにより、ポリマーの結晶化が抑制されてポリマー自体があまり剛直にならずに柔軟であり、この状態で抄造等によりビーターシートガスケットの基となるシート状物を得た後、乾燥や熱プレスを行った場合、シート状物中の非晶質含水成形体有機繊維フィブリッドから水が除去されてポリマーの結晶化が進行し、且つその過程で平滑に変形するために、その結果として得られた吸音用シート材に高強度が発現するという効果も考えられる。
【0013】
以上のことから、非晶質含水フィブリッドの水分率としては、10〜99重量%であることが好ましく、10重量%未満では結晶化度が高くなり、本発明の高強度は得られない。一方、99重量%を超えると、水分が殆んどで効率が悪くなり好ましくない。好ましくは20重量%以上、最も好ましくは50重量%以上である。
【0014】
次に、本発明のシート材は、以上の有機繊維フィブリッドを用いた吸音シートである。
本発明におけるシート材(吸音シート)には、無機微粒子を内包した非晶質含水成形体からなる有機繊維フィブリッドのほかに任意の繊維材料を併用することが出来る。繊維材料を併用することにより、シート材の強度が高まるほか、シート製造時の濾水時間が短くなり、生産性向上に繋がる。
この繊維材料としては、パラ型全芳香族ポリアミド繊維、アクリル繊維、ポリ−p−フェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、セルロース繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、芳香族ポリエステル繊維などの有機繊維の短繊維や高度にフィブリル化したパルプ状繊維、好ましくはパラ型全芳香族ポリアミド繊維の高度にフィブリル化したアラミドパルプが挙げられる。また、単一または複数種組み合わせて用いることができ、その種類や組合せ、配合比率等は特に限定されるものではない。
【0015】
シート材における本発明の有機繊維フィブリッドの配合量としては、20〜100 重量%、好ましくは30〜100 重量%、さらに好ましくは40〜100重量%
である。配合量が20重量%未満の場合、配合量が少なすぎるために、本発明の有機繊維フィブリッドを添加することによる明確な耐熱・難燃性の向上効果は得られない。
【0016】
本発明におけるシート材(吸音材シート)の製造工程として、まず原料のスラリーを調製する。このスラリーの水への投入順序等に特に規定はなく、繊維材料や有機繊維フィブリッド(非晶質含水フィブリッド)、必要に応じて分散剤などを投入し、例えばナイアガラビーターやディスクリファイナーなどの公知の叩解機を用いることができる。なお、叩解により形状が変わるなどの支障がある材料の場合は、繊維材料等を予め叩解した後に添加しても特に差し支えない。
混合は、パルパーなどの公知のミキサーを用いることができる。これらの工程で、混合や叩解の際、気泡の発生を抑制する目的で、一般の抄造の際に用いられる公知の消泡剤を用いることができる。
【0017】
次に、このスラリーを抄造し、シート状物を得る。抄造は、長網抄紙機や丸網抄紙機といった連続抄紙機や、TAPPI箱型抄紙機など公知の抄造装置を用いて抄造することができ、また抄造後、連続抄紙機の場合はそのまま乾燥工程を経てローラーへ巻き取る。箱型抄紙機などのバッチ式での抄紙機の場合は、抄造後の紙を金枠等に保持し、乾燥機などで乾燥する。乾燥温度は、水が十分に除去できる温度であれば特に制限は無いが、原料の劣化等を考慮すると、80℃〜150℃が好ましいが、この温度に限定されるものではない。その後、必要に応じて熱プレスを行う。熱プレスの圧力や温度は、特に限定されるものではなく、原料の種類や最終製品の厚みなどにより適宜調節することができ、カレンダーなどの公知の熱プレス機を用いることができる。なお、乾燥と熱プレスを同時に行っても特に差し支えは無い。この乾燥および熱プレス工程において、該非晶質含水フィブリッドは、ポリマー中から水が除去され、シートの平滑性や高強度が発現するものと考えられる。さらに必要に応じて任意の大きさや形状に裁断し、吸音材シートを得る。
【0018】
以上のような本発明のシート材(吸音材シート)は、耐熱性ボード上の表面に単独で/または積層して張り合わせるなどすることにより、車輌内装、住宅、高速道路壁面などの吸音用構造材として用いられる。
【実施例】
【0019】
以下に本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、これらに限定されるものではない。
なお、実施例においては下記の測定方法に従って各種の物性測定を実施した。
1)長さ加重平均繊維長
パルプエキスパート試験機により計測、平均繊維長を測定した。
2)水分率(重量%)
JIS L1013に準拠して測定し下記の式で算出した。
水分率(重量%)=〔(W0−W)/W0〕×100
ここで、W0は乾燥前重量、Wは乾燥後重量である。
3)厚さ
寸法測定器:ST−022ゲージスタンド((株)小野測器製)を用いて測定した。
4)難燃性
限界酸素指数(LOI値) JIS L1091 E法に準拠した測定法にて測定を実施した。
5)吸音性
JIS A1405に基づき、管内法による建築材料の垂直入射吸音率を1/3オクターブ中心周波数1000―6300Hzで測定した。n数5でその平均値を算出した。なお、本発明の吸音シート材が音源側に位置するよう配して測定をおこなった。
ブランク用基材として、メタ型全芳香族ポリアミド(帝人テクノプロダクツ社製、コーネックス(ポリメタフェニレンイソフタルアミド)のフェルト 目付45g/mを使用して測定した。)
6)シートからの粉落ち
得られた吸音シート材を黒色台紙の上高さ3cmの位置にて、シート材の両端を把持し、1分間手動にて浸透させた後の、黒色台紙上の粉体量を目視にて観察した。
【0020】
[実施例1〜6]
「WO 2004/099476 A1」の実施例1に記載の手順に従い、ポリ−p−フェニレンテレフタルアミドの非晶質含水フィブリッドを作製した。その際、非晶質含水フィブリッドの40〜80重量%となるようカオリンを添加し、上記手順にてカオリンを内包した非晶質含水フィブリッド(有機繊維フィブリッド)を得た。得られた非晶質含水フィブリッドの長さ加重平均繊維長、水分率を表1〜2に示す。
次に、その他の繊維材料として、ポリ−p−フェニレンテレフタルアミド繊維を高度にフィブリル化させたアラミドパルプ(商品名「トワロン1094」、帝人トワロン製、長さ加重平均繊維長:0.91mm、以下アラミドパルプと略称)を、それぞれ表1〜2のような組成で、吸音シート材を次のような工程を経て作製した。
まず、ポリ−p−フェニレンテレフタルアミドの非晶質含水フィブリッドとアラミドパを水に分散させ、パルパーにて混合した。そして、抄紙機を用いて抄造した後、カレンダーを用いて乾燥・熱プレスを行って吸音シート材を得た。得られた吸音シート材の物性を同じく表1〜2に示す。
【0021】
[比較例1]
非晶質含水フィブリッドを作製する際にカオリンを添加しなかった他は、実施例1と同様に非晶質含水フィブリッドを作製し、評価した。結果を表2に示す。
【0022】
[比較例2]
非晶質含水フィブリッドの代わりにアラミドパルプとカオリンを表1に示す割合で抄紙時に配合してシート材を作製し、評価した。結果を表2に示す。
【0023】
【表1】














【0024】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の有機繊維フィブリッドを用いたシート材は、吸音性、耐熱性に優れ、自動車などの車輌や住宅あるいは高速道路などの吸音、遮音材として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラ型全芳香族ポリアミドおよび/またはメタ型全芳香族ポリアミドからなる高分子重合体をN− メチル−2−ピロリドン、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、またはテトラメチルウレアおよびこれらの混合物から選択される極性アミド溶媒に溶解した溶液に上記高分子重合体に対して、10〜90重量%となるよう無機微粒子を添加した混合液を水系凝固液に導入して得られる無機微粒子を内包した非晶質含水成形物からなることを特徴とする有機繊維フィブリッド。
【請求項2】
無機微粒子の粒子径が20μm以下、比表面積が2g/m以上、かつ700℃にて5時間焼結した際の重量減少が10%以下である請求項1記載の有機繊維フィブリッド。
【請求項3】
非晶質含水成形物からなる有機繊維フィブリッドの水分率が10〜99重量%である請求項1または2記載の有機繊維フィブリッド。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載の有機繊維フィブリッドを用いたシート材。
【請求項5】
無機微粒子を内包した非晶質含水成形物からなる有機繊維フィブリッドの水系分散体を叩解、混合して、湿式抄造またはパルプモールド法によりシート化することにより製造される、厚みが0.05mm〜5mm、かつ空隙率が50%以上である請求項4記載のシート材。
【請求項6】
限界酸素指数が30以上である請求項4または5記載のシート材。
【請求項7】
請求項4〜6いずれかに記載のシート材を配してなる、吸音用構造材。

【公開番号】特開2012−233266(P2012−233266A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100377(P2011−100377)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】