説明

有機電界発光素子及び表示媒体

【課題】発光時の熱安定性及び保存安定性に優れ、素子寿命が長く、かつ製造が容易な有機電界発光素子。
【解決手段】構成単位としてチアゾロチアゾール縮合環、及び芳香族アミンを部分構造として含む繰り返し単位よりなる電荷輸送性ポリエステルを、少なくとも1種含有する有機電界発光素子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電界発光素子及びそれを利用した表示媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
電界発光素子は、自発光性の全固体素子であり、視認性が高く衝撃にも強いため、広く応用が期待されている。現在は無機蛍光体を用いたものが主流であり広く使用されており、駆動に200V以上、50Hz乃至1000Hzの交流電圧を必要とする。一方、有機化合物を用いた電界発光素子研究は、最初アントラセン等の単結晶を用いて始まり、膜厚は1mm程度で、100V以上の駆動電圧が必要であり、蒸着法による薄膜化が試みられている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
これら素子の発光は、電極の一方から電子が注入され、もう一方の電極から正孔が注入されることにより、素子中の発光材料が高いエネルギー準位に励起され、励起された発光体が基底状態に戻る際の余分なエネルギーを光として放出する現象である。
【0004】
有機電界発光素子としては、近年低分子化合物の代わりに高分子材料を用いる電界発光素子についても研究・開発が進められ、ポリ(p−フェニレンビニレン)等の導電性高分子素子(例えば、特許文献1又は非特許文献2参照)、ポリフォスファゼンの側鎖にトリフェニルアミンを導入した高分子素子(例えば、非特許文献3参照)、正孔輸送性ポリビニルカルバゾール中に電子輸送材料と蛍光色素を混入した素子(例えば、非特許文献4参照)が提案されている。
【0005】
また、製造が容易で十分な輝度が得られ、耐久性に優れた有機電界発光素子として、特定のアミン構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなるホール輸送性ポリエステルを有機化合物層とする技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
さらに、作製法においては、製造の簡略化、加工性、大面積化、コスト等の観点から塗布方式が望ましく、キャステイング法によっても素子が得られることが報告されている(例えば、非特許文献5及び6参照)。
【特許文献1】特開平10−92576号公報
【特許文献2】特開2002−43066号公報
【非特許文献1】Thin Solid Films,94,171(1982)
【非特許文献2】Nature,357,477(1992)
【非特許文献3】第42回高分子討論会予稿集20J21(1993)
【非特許文献4】第38回応用物理学関係連合講演会予稿集31p−G−12(1991)
【非特許文献5】第50回応用物理学会学術講演予稿集,29p−ZP−5(1989)
【非特許文献6】第51回応用物理学会学術講演予稿集,28a−PB−7(1990)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、ポリビニルカルバゾールを用いた有機電界発光素子と比べ、素子寿命が長い有機電界発光素子及びそれを用いた表示媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、以下の本発明により達成される。
すなわち、本発明の請求項1に係る発明は、少なくとも一方が透明または半透明である陽極及び陰極よりなる一対の電極と、
該一対の電極間に挾まれ、少なくとも一層が下記一般式(I−1)または(I−2)で示される電荷輸送性ポリエステルを1種以上含有する一つまたは複数の有機化合物層と、
を有すること有機電界発光素子である。
【0009】
【化1】

【0010】
前記一般式(I−1)及び(I−2)中、Aは下記一般式(II−1)及び(II−2)で示される構造から選択された少なくとも1種を表し、Rは置換もしくは未置換の芳香環数2乃至10の1価の多核芳香族炭化水素基、置換もしくは未置換の芳香環数2乃至10の1価の縮合芳香族炭化水素基、炭素数1乃至6の1価の直鎖状炭化水素基、炭素数2乃至10の1価の分枝鎖状炭化水素基、ヒドロキシル基を表す。Yは2価のアルコール残基を表し、Zは2価のカルボン酸残基を表し、mは1乃至5の整数を表し、pは5乃至5000の整数を表す。また、B及びB’は、−O−(Y−O)m−H、または−O−(Y−O)m−CO−Z−CO−ORで表される基(ただし、Y、Z、mは上記と同義である。Rは水素原子、アルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、または、置換もしくは未置換のアラルキル基を表す)を表す。
【0011】
【化2】

【0012】
前記一般式(II−1)及び(II−2)中、Arは置換もしくは未置換のフェニル基、置換もしくは未置換の芳香環数2乃至10の1価の多核芳香族炭化水素、置換もしくは未置換の芳香環数2乃至10の1価の縮合芳香族炭化水素又は置換もしくは未置換の1価の芳香族複素環を表し、jは0または1を表し、Tは炭素数1乃至6の2価の直鎖状炭化水素基または炭素数2乃至10の2価の分枝鎖状炭化水素基を表し、Xは下記式(III)で表される基を表す。
【0013】
【化3】

【0014】
一般式(III)中、Arは、置換または未置換のフェニレン基、置換もしくは未置換の芳香環数2乃至10の2価の多核芳香族炭化水素、置換もしくは未置換の芳香環数2乃至10の2価の縮合芳香族炭化水素または置換もしくは未置換の2価の芳香族複素環を表す。
【0015】
請求項2に係る発明は、前記有機化合物層が、発光層と、電子輸送層及び電子注入層の少なくとも一層とを含み、前記発光層、電子輸送層及び電子注入層から選択された少なくとも一層が、前記一般式(I−1)または(I−2)で示される電荷輸送性ポリエステルを1種以上含有する請求項1に記載の有機電界発光素子である。
【0016】
請求項3に係る発明は、前記有機化合物層が、発光層と、正孔輸送層及び正孔注入層の少なくとも一層とを含み、前記発光層、正孔輸送層及び正孔注入層から選択された少なくとも一層が、前記一般式(I−1)または(I−2)で示される電荷輸送性ポリエステルを1種以上含有する請求項1に記載の有機電界発光素子である。
【0017】
請求項4に係る発明は、前記有機化合物層が、発光層と、正孔輸送層及び正孔注入層の少なくとも一層と、電子輸送層及び電子注入層の少なくとも一層とを含み、前記発光層、正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層及び電子注入層から選択された少なくとも一層が、前記一般式(I−1)または(I−2)で示される電荷輸送性ポリエステルを1種以上含有する請求項1に記載の有機電界発光素子である。
【0018】
請求項5に係る発明は、前記有機化合物層が、電荷輸送機能を持つ発光層のみから構成され、前記電荷輸送機能を持つ発光層が、前記一般式(I−1)または(I−2)で示される電荷輸送性ポリエステルを1種以上含有する請求項1に記載の有機電界発光素子である。
【0019】
請求項6に係る発明は、少なくとも一方が透明である一対の電極と、該一対の電極間に挟まれ、且つ1つ以上の層から構成される有機化合物層と、を有し、前記有機化合物層を構成する少なくとも1層が、請求項1に記載の電荷輸送性ポリエステルを1種以上含有し、マトリックス状及びセグメント状の少なくとも一方で配列された有機電界発光素子と、
マトリックス状及びセグメント状の少なくとも一方で配列された前記有機電界発光素子を駆動する駆動手段と、を備える表示媒体である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の請求項1に係る発明によれば、ポリビニルカルバゾールを用いた有機電界発光素子と比べ、素子寿命が長い有機電界発光素子が得られる。
請求項2に係る発明によれば、本構成を有していない場合に比較して、発光効率が高い有機電界発光素子が得られる。
請求項3に係る発明によれば、本構成を有していない場合に比較して、耐久性が高い有機電界発光素子が得られる。
請求項4に係る発明によれば、本構成を有していない場合に比較して、より低電圧で駆動する有機電界発光素子が得られる。
請求項5に係る発明によれば、本構成を有していない場合に比較して、層構成が単純である有機電界発光素子が得られる。
請求項6に係る発明によれば、ポリビニルカルバゾールを用いた有機電界発光素子と比べ、表示特性に優れる表示媒体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を実施形態により詳細に説明する。
<有機電界発光素子>
本実施形態の有機電界発光素子(以下、「有機EL素子」という場合がある)は、少なくとも一方が透明または半透明である陽極及び陰極よりなる一対の電極と、該一対の電極間に挾まれ、少なくとも一層が下記一般式(I−1)または(I−2)で示される電荷輸送性ポリエステルを1種以上含有する一つまたは複数の有機化合物層と、を有することを特徴とする。
【0022】
【化4】

【0023】
なお、前記一般式(I−1)及び(I−2)中、Aは下記一般式(II−1)及び(II−2)で示される構造から選択された少なくとも1種を表し、Rは置換もしくは未置換の芳香環数2乃至10の1価の多核芳香族炭化水素基、置換もしくは未置換の芳香環数2乃至10の1価の縮合芳香族炭化水素基、炭素数1乃至6の1価の直鎖状炭化水素基、炭素数2乃至10の1価の分枝鎖状炭化水素基、ヒドロキシル基を表す。Yは2価のアルコール残基を表し、Zは2価のカルボン酸残基を表し、mは1乃至5の整数を表し、好ましくは1、pは5乃至5000の整数を表す。また、B及びB’は、−O−(Y−O)m−H、または−O−(Y−O)m−CO−Z−CO−ORで表される基(ただし、Y、Z、mは上記と同義である。Rは水素原子、アルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、または、置換もしくは未置換のアラルキル基を表す)を表す。なお、Y(2価のアルコール残基)及び、Z(2価のカルボン酸残基)は、例えば、構造式(VI−1)及び(VI−2)で示される電荷輸送性モノマーを例えば後述の方法で重合して生成される。
【0024】
【化5】

【0025】
前記一般式(II−1)及び(II−2)中、Arは置換もしくは未置換のフェニル基、置換もしくは未置換の芳香環数2乃至10の1価の多核芳香族炭化水素、置換もしくは未置換の芳香環数2乃至10の1価の縮合芳香族炭化水素又は置換もしくは未置換の1価の芳香族複素環を表し、jは0または1を表し、好ましくは1、Tは炭素数1乃至6の2価の直鎖状炭化水素基または炭素数2乃至10の2価の分枝鎖状炭化水素基を表し、Xは下記式(III)で表される基を表す。
【0026】
【化6】

【0027】
一般式(III)中、Arは、置換もしくは未置換のフェニレン基、置換もしくは未置換の芳香環数2乃至10の2価の多核芳香族炭化水素、置換もしくは未置換の芳香環数2乃至10の2価の縮合芳香族炭化水素または置換もしくは未置換の2価の芳香族複素環を表す。
【0028】
本実施形態における電荷輸送性ポリエステルは、置換もしくは未置換のフェニレン基等に連結された2つのチアゾール環の縮環構造を分子構造中に挿入することによりイオン化ポテンシャルを低くコントロールすることができ、電極からの電荷注入性が改善される。さらにポリエステル構造により基板との密着性が向上し電荷注入性が良く、特に前記置換もしくは未置換のフェニレン基等に連結された2つのチアゾール環の縮環構造を挿入したものでは溶剤や樹脂に対する溶解性及び相溶性に優れている。従って、本実施形態の有機電界発光素子は、有機化合物層の少なくとも一層が前記電荷輸送性ポリエステルを含有してなることで、十分な輝度を有し、発光効率が高く、素子寿命が長い。さらに、前記電荷輸送性ポリエステルを用いることで、大面積化され、有機電界発光素子が容易に製造される。
【0029】
また、前記電荷輸送性ポリエステルは後述する構造を選択することで、正孔輸送能、電子輸送能のいずれの機能をも付与することができるため、目的に応じて正孔輸送層、発光層、電子輸送層等のいずれの層にも用いられる。さらに、本実施形態における電荷輸送性ポリエステルは、ガラス転移温度が比較的高く、しかも電荷の移動度が大きいことから、発光時の熱安定性、保存安定性に優れる。
なお本実施形態において、「電荷輸送性ポリエステル」とは、p型あるいはn型を電荷として伝導する半導体であるポリエステルを意味する。
【0030】
(電荷輸送性ポリエステル)
以下、本実施形態における前記電荷輸送性ポリエステルについて詳述する。まず、該電荷輸送性ポリエステルの特徴である一般式(I−1)及び(I−2)におけるAの構造について説明する。
前記一般式(II−1)及び(II−2)中、Arは置換もしくは未置換のフェニル基、置換もしくは未置換の芳香環数2乃至10の1価の多核芳香族炭化水素、置換もしくは未置換の芳香環数2乃至10の1価の縮合芳香族炭化水素又は置換もしくは未置換の1価の芳香族複素環を表す。尚、一般式(II−1)及び(II−2)中に2つ存在するArは、同一であっても異なっていても構わないが、製造容易性という観点からは同一であることが好ましい。
【0031】
ここで、一般式(II−1)及び(II−2)中、Arを表す構造として選択される多核芳香族炭化水素及び縮合芳香族炭化水素を構成する芳香環の数は、さらに2乃至5のものが好ましく、また縮合芳香族炭化水素においては2乃至4のものがより好ましい。尚、当該多核芳香族炭化水素及び縮合芳香族炭化水素とは、本実施形態においては、具体的には以下に定義される多環式芳香族のことを意味する。
すなわち、「多核芳香族炭化水素」とは、炭素と水素とから構成される芳香環が2個以上存在し、環同士が炭素−炭素結合によって結合している炭化水素を表す。具体的には、ビフェニル、ターフェニル等が挙げられる。また、「縮合芳香族炭化水素」とは、炭素と水素とから構成される芳香環が2個以上存在し、これらの芳香環同士が1対の隣接して結合する炭素原子を共有している炭化水素化合物を表す。具体的には、ナフタレン、アントラセン、ピレン、フェナントレン、ペリレン、フルオレン等が挙げられる。
【0032】
さらに一般式(II−1)及び(II−2)中において、Arを表す構造として選択される「芳香族複素環」とは、炭素と水素以外の元素も含む芳香環を表し、その環骨格を構成する原子数(Nr)が、5及び6の少なくともいずれかであるものが好適に用いられる。また、環骨格を構成する炭素原子以外の原子(異種原子)の種類及び数は特に限定されないが、例えば、硫黄原子、窒素原子、または酸素原子等が好ましく用いられ、前記環骨格中には2種類以上の異種原子、及び、2個以上の異種原子の少なくともいずれかが含まれてもよい。特に5員環構造をもつ複素環として、チオフェン、ピロール及びフラン、または、前記化合物の3位及び4位の炭素を窒素で置き換えた複素環が好ましく用いられ、6員環構造を持つ複素環として、ピリジンが好ましく用いられる。
【0033】
更に、前記芳香族複素環は、芳香環に複素環が置換しているもの、複素環に芳香環が置換しているもの何れも含み、該複素環及び芳香環として上述の複素環及び芳香環が挙げられる。
これらは全てが共役系で構成されたもの、あるいは一部が共役系で構成されたもののいずれでもよいが、電荷輸送性や発光効率の点で、全てが共役系で構成されたものが好ましい。
【0034】
一般式(II−1)及び(II−2)中、Arで表されるフェニル基、多核芳香族炭化水素、縮合多環芳香族炭化水素又は芳香族複素環を更に置換する置換基としては、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、置換アミノ基、またはハロゲン原子等が挙げられる。前記アルキル基としては、炭素数1乃至10のものが好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、またはイソプロピル基等が挙げられる。前記アルコキシル基としては、炭素数1乃至10のものが好ましく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、またはイソプロポキシ基等が挙げられる。前記アリール基としては、炭素数6乃至20のものが好ましく、例えば、フェニル基、トルイル基等が挙げられる、前記アラルキル基としては、炭素数7乃至20のものが好ましく、例えば、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。前記置換アミノ基の置換基としては、アルキル基、アリール基、またはアラルキル基等が挙げられ、具体例は前述の通りである。
【0035】
一般式(II−1)及び(II−2)中、Xは、前記一般式(III)で表される基を表す。
一般式(III)中、Arは、置換もしくは未置換のフェニレン基、置換もしくは未置換の芳香環数2乃至10の2価の多核芳香族炭化水素、置換もしくは未置換の芳香環数2乃至10の2価の縮合芳香族炭化水素、又は置換もしくは未置換の2価の芳香族複素環を表す。ここで、上記「多核芳香族炭化水素、縮合芳香族炭化水素、芳香族複素環を含む芳香族基」については、前述に示すとおりである。
尚、一般式(III)中に2つ存在するArは、それぞれ同一であっても異なっていても構わない。
【0036】
一般式(II−1)及び(II−2)中、Tは、炭素数1乃至6の2価の直鎖状炭化水素基または炭素数2乃至10の2価の分枝鎖状炭化水素基を表し、望ましくは炭素数が2乃至6の2価の直鎖状炭化水素基及び炭素数3乃至7の2価の分枝鎖状炭化水素基より選択される。これらの中でもより具体的には、以下に示す2価の炭化水素基が特に好ましい。
【0037】
【化7】

【0038】
以上説明した一般式(II−1)及び(II−2)で示される構造から選択された少なくとも1種は、前記一般式(I−1)及び(I−2)で示される電荷輸送性ポリエステルにおけるAである。
なお、一般式(I−1)及び(I−2)で表される電荷輸送性ポリエステル中に存在する複数のAは、同一の構造であっても、異なった構造であってもよい。
【0039】
一般式(I−1)及び(I−2)(B及びB’も含む)中、Yは2価アルコール残基を、Zは2価カルボン酸残基を表す。Y及びZは、具体的には下記式(IV−1)乃至(IV−6)から選択される基が挙げられる。
【0040】
【化8】

【0041】
上記式(IV−1)乃至(IV−6)中、R及びRは、それぞれ水素原子、置換もしくは未置換の炭素数1乃至4のアルキル基、置換もしくは未置換の炭素数1乃至4のアルコキシ基、置換もしくは未置換のフェニル基または置換もしくは未置換のアラルキル基、またはハロゲン原子を表し、a乃至cはそれぞれ独立に1乃至10の整数を表し、eは0乃至2の整数を表し、d、fは0または1を表し、Vは下記(V−1)乃至(V−11)で表される基を表す。
【0042】
【化9】

【0043】
上記式(V−1)、(V−10)、(V−11)中、gは1乃至20の整数を、hは0乃至10の整数を表す。
【0044】
一般式(I−1)及び(I−2)中、mは1乃至5の整数を表し、pは5乃至5,000の整数を表すが、望ましくは10乃至1000の範囲である。
より具体的には、前記電荷輸送性ポリエステルの重量平均分子量Mwは5,000乃至300,000の範囲であることが好ましく、10000乃至150000の範囲であるのが特に好ましい。上記重量平均分子量Mwは以下の方法により測定することができる。すなわち重量平均分子量は、電荷輸送性ポリエステルの1.0質量%THF溶液を調製し、示差屈折率検出器(RI)を用いて、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、標準試料としてスチレンポリマーを用いて測定した。
【0045】
また、前記電荷輸送性ポリエステルのガラス転移温度(Tg)は50℃以上300℃以下であることが好ましく、90℃以上250℃以下がより好適である。
なお、上記ガラス転移温度は、示差走査型熱量計によりα−酸価アルミニウム(α−Al)をレファレンスとし、サンプルをゴム状態になるまで昇温し、液体窒素に浸し急冷した後、再度昇温速度10℃/分の条件で昇温して測定することができる。
【0046】
一般式(I−1)及び(I−2)で表される電荷輸送性ポリエステルは、例えば、下記構造式(VI−1)及び(VI−2)で示される電荷輸送性モノマーを、例えば第4版実験化学講座28巻(日本化学会編、丸善、1992)などに記載された公知の方法で重合することにより合成することができる。
【0047】
【化10】

【0048】
一般式(VI−1)及び(VI−2)中、Ar、X、T、jは前記一般式(II−1)及び(II−2)におけるAr、X、T、jと同一である。A’は水酸基、ハロゲン原子、または−O−R(Rは、置換または未置換のアルキル基、置換または未置換のアリール基または置換または未置換のアラルキル基を表す)を表す。
【0049】
ここで、前記一般式(VI−1)で示される構造の具体例を、表1乃至表5示す。なお、下記表において、化合物の末端のA’はメトキシ基であり(表6乃至表10も同様)、化合物番号を付した電荷輸送性モノマーの各具体例に関し、例えば、5の番号を付した具体例については「モノマー化合物(5)」という。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】
【表4】

【0054】
【表5】

【0055】
また、以下に前記一般式(VI−2)で示される構造の具体例を、表6乃至表10に示す。
【0056】
【表6】

【0057】
【表7】

【0058】
【表8】

【0059】
【表9】

【0060】
【表10】

【0061】
ここでまず、上記一般式(VI−1)及び(VI−2)で示される電荷輸送性モノマーの合成法について説明する。以下に電荷輸送性モノマーの合成法を例示するが、これに限定するものではない。
【0062】
本実施形態における電荷輸送性モノマーを得るには、例えば、まずアリールアミン誘導体とハロゲン化カルボアルコキシアルキルベンゼンと、またはハロゲン化アリールとカルボアルコキシアニリン誘導体とを反応させてジアリールアミンを合成する。次いで、ハロゲン化合物とジアリールアミンとを、銅やよう化銅を触媒に用いて、Ullmannカップリング反応や、Pd触媒を用いたパラジウムカップリングを行うことにより、電荷輸送性モノマーを得ることができる。
【0063】
本発明においては、具体的には例えば、下記一般式(VII)で示されるハロゲン化合物と下記一般式(VIII)で示されるアセトアミド化合物とを銅触媒でカップリング反応を行うか、もしくは、下記一般式(IX)で示されるアセトアミド化合物と下記一般式(X)で示されるハロゲン化合物とを銅触媒でカップリング反応を行うことにより、下記一般式(XI)で表されるジアリールアミンを得ることができる。
次いで、ジアリールアミン(XI)と下記一般式(XII)で示されるジハロゲン化合物とを銅触媒でカップリング反応を行うことにより電荷輸送性モノマーを得ることができる。
【0064】
【化11】

【0065】
【化12】

【0066】
一般式(VII)中、Rは水素原子、アルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、または置換もしくは未置換のアラルキル基を表し、Gは臭素原子またはヨウ素原子を表す。また、一般式(VIII)中、Acはアセチル基、Arは前述と同様である。
【0067】
【化13】

【0068】
一般式(IX)中、Rは水素原子、アルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、または置換もしくは未置換のアラルキル基、Acはアセチル基を表す。
【0069】
【化14】

【0070】
【化15】

【0071】
【化16】

【0072】
一般式(X)中、ArおよびGは前述と同様である。また、一般式(XI)中の、Ar、Rも前述と同様である。さらに、一般式(XII)中の、G、Xは前述と同様である。
【0073】
上記カップッリング反応は、一般式(VIII)もしくは(IX)で示されるアセトアミド化合物1当量に対して、一般式(VII)または一般式(X)で示されるハロゲン化合物を0.5当量以上1.5当量以下、望ましくは0.7当量以上1.2当量以下で用いられる。
上記カップリング反応において用いられる銅触媒としては、例えば、銅紛、酸化第一銅、または硫酸銅等が挙げられ、一般式(VIII)または(IX)で示されるアセトアミド化合物1質量部に対して、望ましくは0.001質量部以上3質量部以下、より望ましくは0.01質量部以上2質量部以下で用いられる。
【0074】
前記カップリング反応では、塩基を用いてもよく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、または炭酸カリウム等が使用でき、一般式(VIII)または(IX)で示されるアセトアミド化合物1当量に対して、望ましくは0.5当量以上3当量以下、より望ましくは0.7当量以上2当量以下で用いられる。
【0075】
また前記カップリング反応においては、溶媒を用いてもよいし、溶媒を用いなくても良い。
溶媒を用いる場合、望ましい溶媒としては、例えば、n−トリデカン、テトラリン、p−シメン、またはテルピノレン等の高沸点の非水溶性炭化水素系溶剤や、o−ジクロロベンゼン、クロロベンゼン等の高沸点のハロゲン系溶剤が挙げられ、一般式(VIII)または(IX)で示されるアセトアミド化合物1質量部に対して、0.1質量部以上3質量部以下、望ましくは0.2質量部以上2質量部以下の範囲で使用される。
【0076】
また、カップリング反応は、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、100℃以上300℃以下、望ましくは150℃以上270℃以下、さらに望ましくは180℃以上230℃以下の温度範囲で、十分に効率よく攪拌しながら行い、さらに反応中に生成する水を除去しながら反応させることが望ましい。
【0077】
カップリング反応終了後には、必要に応じて冷却した後、メタノール、エタノール、n−オクタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、またはグリセリン等の溶剤、及び、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基を用いて、加水分解反応を行う。
具体的には、例えば、上記第1カップリング反応を行った後、その反応溶液中に直接溶剤および塩基を加え、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で、50℃以上でありかつ溶剤の沸点以下である温度の範囲において、十分に効率よく攪拌しながら行う。
この場合、上記溶剤としては、カップリング反応でカルボン酸塩が生成して固化するため、反応温度を上げることができる沸点150℃以上の高沸点のものを用いることが望ましい。また、加水分解反応の後処理において、水に注入した後に塩酸等で中和することにより一般式(XI)で示されるジアリールアミン化合物を遊離させるために、水溶性のエチレングリコール、プロピレングリコール、またはグリセリン等を用いることが特に望ましい。
【0078】
上記溶剤の使用量は、一般式(VIII)もしくは(IX)で示されるアセトアミド化合物1質量部に対して、0.5質量部以上10質量部以下、望ましくは1質量部以上5質量部以下の範囲で用いられる。
また塩基は、一般式(VIII)もしくは(IX)で示されるアセトアミド化合物1質量部に対して、0.2質量部以上5質量部以下、望ましくは0.3質量部以上3質量部以下の範囲で用いられる。
【0079】
加水分解反応の終了後、反応生成物を水に注入し、さらに塩酸等で中和することにより一般式(XI)で示されるジアリールアミン化合物を遊離させる(後処理)。次いで、十分に洗浄し、必要に応じて、適当な、溶剤に溶解させた後、シリカゲル、アルミナ、活性白土、または活性炭等でカラム精製を行うか、または溶液中にこれら吸着剤を添加して不要分を吸着させる等の処理を行う。さらにアセトン、エタノール、酢酸エチル、またはトルエン等の適当な溶剤から再結晶させるか、または、メチルエステル化、エチルエステル化等のエステル化を行った後、同様の操作を行ってもよい。
次いで、上記で得られた一般式(XI)で示されるジアリールアミン化合物と一般式(XII)で示されるハロゲン化合物とを、銅触媒によるカップリング反応をさせた後、メチルエステル化、或いはエチルエステル化等を行うか、または一般式(XI)で示されるジアリールアミン化合物をメチルエステル化、或いはエチルエステル化等を行った後、一般式(XII)で示されるジハロゲン化合物と銅触媒によるカップリング反応を行うことにより、一般式(VI−1)で示されるジアミン化合物を得ることができる。
【0080】
上記一般式(X)で示されるジアリールアミン化合物と一般式(XII)で示されるハロゲン化合物とのカップリング反応において、一般式(XII)で示される化合物として、一般式(XI)で示される化合物1当量に対して、1.5当量以上5当量以下、望ましくは1.7当量以上4当量以下の一般式(XII)で示されるジハロゲン化合物が用いられる。
また、上記銅触媒としては、例えば、銅紛、酸化第一銅、または硫酸銅等が使用でき、一般式(XI)で示されるジアリールアミン化合物1質量部に対し、0.001質量部以上3質量部以下、望ましくは0.01質量部以上2質量部以下で用いられる。
【0081】
上記カップリング反応では、塩基を用いてもよく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、または炭酸カリウム等が使用でき、一般式(XI)で示される化合物1当量に対し、望ましくは1当量以上6当量以下、より望ましくは1.4当量以上4当量以下で用いられる。
【0082】
上記カップリング反応において、溶剤は必要に応じて使用するが、望ましいものとしては、例えば、n−トリデカン、テトラリン、p−シメン、またはテルピノレン等の高沸点の非水溶性炭化水素系溶剤や、o−ジクロロベンゼン、クロロベンゼン等の高沸点のハロゲン系溶剤が挙げられ、一般式(XI)で示されるジアリールアミン化合物1質量部に対し、0.1質量部以上3質量部以下、望ましくは0.2質量部以上2質量部以下の範囲で使用される。
また上記カップリング反応は、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下において、100℃以上300℃以下、望ましくは150℃以上270℃以下、さらに望ましくは、180℃以上250℃以下で十分に効率よく攪拌しながら行い、さらに反応中に生成する水を除去しながら反応させることが望ましい。
【0083】
上記カップリング反応の終了後は、反応生成物をトルエン、アイソパー、またはn−トリデカン等の溶剤に溶解させ、必要に応じて、水洗またはろ過により、不要物を除去し、さらに、シリカゲル、アルミナ、活性白土、または活性炭等で、カラム精製するか、または溶液中にこれらの吸着剤を添加し、不要分を吸着させる等の処理を行い、さらに、エタノール、酢酸エチル、またはトルエン等の適当な溶剤から、再結晶させて精製する。
【0084】
また、本実施形態における一般式(VI−1)および(VI−2)で示される電荷輸送性モノマーは、パラジウム触媒を用いたアミノ化反応においても合成できる。すなわち、一般式(I)で示されるカルバゾール化合物の製造法として、一般式(XI)で示されるジアリールアミン化合物と一般式(XII)で示されるジハロゲン化合物とを、三級ホスフィン類、パラジウム化合物、または塩基の存在下反応させて得ることもできる。
上記アミノ化反応を行う場合、一般式(XI)で示されるジアリールアミンの使用量は、例えば、一般式(XI)で示されるジハロゲン化合物に対してモル比で0.5倍以上4.0倍以下の範囲が望ましく、より望ましくは0.8倍以上2.0倍以下の範囲である。
【0085】
三級ホスフィン類としては特に限定されるものではなく、例えば、トリフェニルホスフィン、トリ(ターシャリーブチル)ホスフィン、トリ(p−トリル)ホスフィン、トリ(m−トリル)ホスフィン)、トリイソブチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、またはトリイソプロピルホスフィンなどの三級アルキルホスフィン類が挙げられるが、望ましくはトリ(ターシャリーブチル)ホスフィンである。
三級ホスフィンの使用量は特に限定されるものではないが、例えば、パラジウム化合物に対して0.5モル倍以上10モル倍以下が望ましく、より望ましくはパラジウム化合物に対して2.0モル倍以上8.0モル倍以下の範囲である。
【0086】
また、パラジウム化合物としては、特に限定されるものではなく、例えば、酢酸パラジウム(II)、塩化パラジウム(II)、臭化パラジウム(II)、またはパラジウムトリフルオロアセテ−ト(II)などの2価パラジウム化合物類、トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウム(0)、(ジベンジリデンアセトン)二パラジウム(0)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、またはパラジウム−カーボンなどの0価パラジウム化合物類が挙げられ、特に望ましくは酢酸パラジウム、トリスジベンジリデンアセトン二パラジウム(0)である。
パラジウム化合物の使用量は、特に限定されるものではないが、一般式(XI)に対してパラジウム換算で0.001モル%以上10モル%以下であり、より望ましくはパラジウム換算で0.01モル%以上5.0モル%以下である。
【0087】
塩基としては、特に限定されるものではなく、例えば、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、ターシャリーブトキシカリウム、ターシャリーブトキシナトリウム、ナトリウム金属、カリウム金属、水素化カリウムなどが挙げられ、望ましくは炭酸ルビジウム、またはターシャリーブトキシナトリウムである。
これらの塩基の使用量は、例えば、一般式(XII)で示される化合物に対して、モル比で0.5倍以上4.0倍以下の範囲であり、より望ましくは1.0倍以上2.5倍以下の範囲である。
【0088】
前記アミノ化反応は、不活性溶媒下で実施されることが望ましい。使用できる溶媒としては、本反応を著しく阻害しない溶媒であればよく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、またはメシチレンなどの芳香族炭化水素溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、またはジオキサンなどのエーテル溶媒、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、またはジメチルスルホキシドなどを例示する事ができる。これらのうち、より望ましくは、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶媒である。
また、上記アミノ化反応は、常圧下において、窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で実施されるが、加圧条件下において実施することもできる。反応温度は例えば、20℃以上300℃以下の範囲で実施されるが、より望ましくは50℃以上180℃以下の範囲である。反応時間は反応条件により異なるが、例えば、数分(5分)以上20時間以下の範囲から選択すればよい。
【0089】
上記アミノ化反応後は、反応溶液を水中に投入後、よく攪拌し、反応生成物が結晶である場合は吸引ろ過でろ取することにより粗生成物を得ることができる。反応生成物が油状物である場合は、酢酸エチル、トルエン等の適当な溶剤で抽出し粗生成物を得ることができる。
このようにして得られた組成生物を、シリカゲル、アルミナ、活性白土、または活性炭等でカラム精製するか、または溶液中にこれらの吸着剤を添加し、不要分を吸着させる等の処理を行い、さらに、反応生成物が結晶の場合にはヘキサン、メタノール、アセトン、エタノール、酢酸エチル、またはトルエン等の適当な溶剤から、再結晶させて精製する。
【0090】
上記のようにして得られた前記構造式(VI−1)及び(VI−2)で示される電荷輸送性モノマーを用い、公知の方法で重合することにより、前記一般式(I−1)および(I−2)で示される電荷輸送性ポリエステルが合成される。
具体的には、前記電荷輸送性モノマーの末端に任意の分子を導入することを行うことが望ましく、その場合、以下の合成法が挙げられる。
【0091】
[1]A’が水酸基の場合
A’が水酸基の場合には、HO−(Y−O)−Hで示される2価アルコール類を当量(質量比)混合し、酸触媒を用いて重合する。なお、上記Y及びmは、前記一般式(I−1)及び(I−2)におけるY及びmと同一である。
上記酸触媒としては、硫酸、トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸等、通常のエステル化反応に用いるものが使用でき、モノマー1質量部に対して、1/10,000質量部乃至1/10質量部、好適には1/1,000質量部乃至1/50質量部の範囲で用いられる。合成中に生成する水を除去するために、水と共沸可能な溶剤を用いることが好ましく、トルエン、クロロベンゼン、1−クロロナフタレン等が有効であり、モノマー1質量部に対して、1質量部乃至100質量部、好適には2質量部乃至50質量部の範囲で用いられる。反応温度は任意に設定できるが、重合中に生成する水を除去するために、溶剤の沸点で反応させることが好ましい。反応終了後、溶剤を用いなかった場合には、溶解可能な溶剤に溶解させる。溶剤を用いた場合には、反応溶液をそのまま、メタノール、エタノール等のアルコール類や、アセトン等のポリマーが溶解しにくい貧溶剤中に滴下し、ポリマーを析出させ、ポリマーを分離した後、水や有機溶剤で十分洗浄し、乾燥させる。更に、必要であれば適当な有機溶剤に溶解させ、貧溶剤中に滴下し、ポリマーを析出させる再沈殿処理を繰り返してもよい。再沈殿処理の際には、メカニカルスターラー等で、効率よく攪拌しながら行うことが好ましい。再沈殿処理の際にポリマーを溶解させる溶剤は、ポリマー1質量部に対して、1質量部乃至100質量部、好適には2質量部乃至50質量部の範囲で用いられる、また、貧溶剤はポリマー1質量部に対して、1質量部乃至1,000質量部、好適には10質量部乃至500質量部の範囲で用いられる。
【0092】
[2]A’がハロゲンの場合
A’がハロゲンの場合には、HO−(Y−O)−Hで示される2価アルコール類を当量(質量比)混合し、ピリジンやトリエチルアミン等の有機塩基性触媒を用いて重合する。なお、上記Y及びmは、前記一般式(I−1)及び(I−2)におけるY及びmと同一である。
上記有機塩基性触媒は、モノマー1質量部に対して、1質量部乃至10質量部、好適には2質量部乃至5質量部の範囲で用いられる。溶剤としては、塩化メチレン、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、クロロベンゼン、1−クロロナフタレン等が有効であり、モノマー1質量部に対して、1質量部乃至100質量部、好適には2質量部乃至50質量部の範囲で用いられる。反応温度は任意に設定できる。重合後、前記[1]の場合に準じて再沈殿処理し、精製することができる。また、ビスフェノール等の酸性度の高い2価のアルコール類を用いる場合には、界面重合法も用いることができる。すなわち、2価のアルコール類に水を加え、当量(質量比)の塩基を加えて、溶解させた後、激しく攪拌しながら2価のアルコール類と当量のモノマー溶液を加えることによって重合できる。この際、水は2価アルコール類1質量部に対して、1質量部乃至1,000質量部、好適には2質量部乃至500質量部の範囲で用いられる。モノマーを溶解させる溶剤としては、塩化メチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、トルエン、クロロベンゼン、1−クロロナフタレン等が有効である。反応温度は任意に設定でき、反応を促進するために、アンモニウム塩、スルホニウム塩等の相間移動触媒を用いることが効果的である。相間移動触媒は、モノマー1質量部に対して、0.1質量部乃至10質量部、好適には0.2質量部乃至5質量部の範囲で用いられる。
【0093】
[3]A’が−O−Rの場合
A’が−O−Rの場合には、HO−(Y−O)−Hで示される2価アルコール類を過剰に加え、硫酸、リン酸等の無機酸、チタンアルコキシド、カルシウム及びコバルト等の酢酸塩或いは炭酸塩、亜鉛等の酸化物を触媒に用いて加熱し、エステル交換により合成できる。尚、上記Y及びmは、前記一般式(I−1)及び(I−2)におけるY及びmと同一である。
2価アルコール類はモノマー1質量部に対して、2質量部乃至100質量部、好適には3質量部乃至50質量部の範囲で用いられる。触媒は、モノマー1質量部に対して、1/1,000質量部乃至1質量部、好適には1/100質量部乃至1/2質量部の範囲で用いられる。反応は、反応温度200℃乃至300℃で行い、基−O−Rから基HO−(Y−O)−Hへのエステル交換終了後は基HO−(Y−O)−Hの脱離による重合反応を促進するため、減圧下で反応させることが好ましい。また、基HO−(Y−O)−Hと共沸可能な1−クロロナフタレン等の高沸点溶剤を用いて、減圧下で基HO−(Y−O)−Hを共沸で除きながら反応させる。
【0094】
より具体的には、一般式(I−1)及び(I−2)で示される電荷輸送性ポリエステルは、次のようにして合成することができる。上記[1]乃至[3]のそれぞれの場合において、2価アルコール類を過剰に加えて反応させることによって下記構造式(XIII−1)または(XIII−2)で示される化合物を生成した後、これをモノマーとして用いて、上記[2]に準じた方法で、2価カルボン酸または2価カルボン酸ハロゲン化物等と反応させればよく、それによってポリマーが得られる。
【0095】
【化17】

【0096】
上記一般式(XIII−1)及び(XIII−2)中、Ar、X、T、jは前記一般式(II−1)及び(II−2)におけるAr、X、T、jと同一であり、Y、mは前記一般式(I−1)及び(I−2)におけるY、mと同一である。
【0097】
なお、前記[1]乃至[3]の合成法のうち、本実施形態における電荷輸送性ポリエステルとしては、[1]の合成法によることが特に好ましい。
【0098】
ここで、一般式(I−1)及び(I−2)で示される電荷輸送性ポリエステルの具体例を表11及び表12に示すが、本実施形態における電荷輸送性ポリエステルはこれら具体例に限定されるわけではない。尚、下記表において、モノマーの列のAの欄の番号は、前記一般式(II−1)及び(II−2)で示される構造の具体例の構造番号(表1乃至表10の電荷輸送性モノマーの番号)に対応している。また、Zの欄が「−」であるものは一般式(I−1)で示される電荷輸送性ポリエステルの具体例を示し、その他は一般式(I−2)で示される電荷輸送性ポリエステルの具体例を示す。
以下、下記表において化合物番号を付した電荷輸送性ポリエステルの各具体例に関し、例えば、15の番号を付した具体例については「例示化合物(15)」という。
【0099】
【表11】

【0100】
【表12】

【0101】
次に、本実施形態の有機電界発光素子の構成について詳述する。
本実施形態の有機電界発光素子は、少なくとも一方が透明または半透明である一対の電極と、それら電極間に挾まれた一つまたは複数の有機化合物層より構成され、該有機化合物層の少なくとも一層に上記に説明した電荷輸送性ポリエステルを1種含有してなるものであればその層構成は特に限定されない。
【0102】
本実施形態の有機電界発光素子においては、有機化合物層が1つの場合は、有機化合物層は電荷輸送能を持つ発光層を意味し、該発光層が前記電荷輸送性ポリエステルを含有してなる。一方、有機化合物層が複数の場合(即ち、各層が異なる機能を有する機能分離型の場合)は、少なくともいずれか一層が発光層からなり、この発光層は電荷輸送能を持つ発光層であってもよい。この場合、前記発光層あるいは前記電荷輸送能を持つ発光層と、その他の層からなる層構成の具体例としては、下記(1)乃至(3)が挙げられる。
【0103】
(1)発光層と、電子輸送層及び電子注入層の少なくともいずれかの層と、から構成される層構成。
(2)正孔輸送層及び正孔注入層の少なくともいずれかの層と、発光層と、電子輸送層及び電子注入層の少なくともいずれかの層と、から構成される層構成。
(3)正孔輸送層及び正孔注入層の少なくともいずれかの層と、発光層と、から形成される層構成。
【0104】
これら層構成(1)乃至(3)の発光層及び電荷輸送能を持つ発光層以外の層は、電荷輸送層や電荷注入層としての機能を有する。
なお、層構成(1)乃至(3)のいずれの層構成においても、いずれか一層に前記電荷輸送性ポリエステルが含まれていればよい。
【0105】
また、本実施形態の有機電界発光素子において、発光層、正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層、電子注入層は、前記電荷輸送性ポリエステル以外の電荷輸送性化合物(正孔輸送材料、電子輸送材料)を更に含んでもよい。該電荷輸送性化合物の詳細については後述する。
【0106】
以下、図面を参照しつつ、より詳細に説明するが、本実施形態の有機電界発光素子はこれらに限定されるわけではない。
図1乃至図4は、本実施形態の有機電界発光素子の層構成を説明するための模式的断面図であって、図1、図2、図3の場合は、有機化合物層が複数の場合の一例であり、図4の場合は、有機化合物層が1つの場合の例を示す。なお、図1乃至図4において、同一の機能を有するものは同じ符号を付して説明する。
【0107】
図1に示す有機電界発光素子は、透明絶縁体基板1上に、透明電極2、発光層4、電子輸送層及び電子注入層の少なくとも一層5並びに背面電極7が順次積層されたもので、層構成(1)に相当するものである。但し、符号5で示される層が、電子輸送層及び電子注入層から構成される場合には、発光層4の背面電極7側に、電子輸送層、電子注入層、背面電極7がこの順に積層される。
【0108】
図2に示す有機電界発光素子は、透明絶縁体基板1上に、透明電極2、正孔輸送層及び正孔注入層の少なくとも一層3、発光層4、電子輸送層及び電子注入層の少なくとも一層5並びに背面電極7が順次積層されたもので、層構成(2)に相当するものである。但し、符号3で示される層が、正孔輸送層及び正孔注入層から構成される場合には、透明電極2の背面電極7側に、正孔注入層、正孔輸送層、発光層4がこの順に積層される。また、符号5で示される層が、電子輸送層及び電子注入層から構成される場合には、発光層4の背面電極7側に、電子輸送層、電子注入層、背面電極7がこの順に積層される。
【0109】
図3に示す有機電界発光素子は、透明絶縁体基板1上に、透明電極2、正孔輸送層及び正孔注入層の少なくとも一層3、発光層4並びに背面電極7が順次積層されたもので、層構成(3)に相当するものである。但し、符号3で示される層が、正孔輸送層及び正孔注入層から構成される場合には、透明電極2の背面電極7側に、正孔注入層、正孔輸送層、発光層4がこの順に積層される。
【0110】
図4に示す有機電界発光素子は、透明絶縁体基板1上に、透明電極2、電荷輸送能を持つ発光層6及び背面電極7が順次積層されたものである。
また、トップエミッション構造や陰極・陽極共に透明電極を用いて透過型にする場合、さらには図1乃至図4の層構成を複数段積重ねた構造も実現される。
以下、各々を詳しく説明する。
【0111】
本実施形態における前記電荷輸送性ポリエステルには、含有される有機化合物層の機能によって、正孔輸送能、電子輸送能のいずれの機能をも付与される。
例えば、前記電荷輸送性ポリエステルは、図1に示される有機電界発光素子の層構成の場合、発光層4及び電子輸送層及び電子注入層の少なくとも一層5のいずれに含有されてもよく、発光層4及び電子輸送層及び電子注入層の少なくとも一層5としていずれも作用する。また、図2に示される有機電界発光素子の層構成の場合、正孔輸送層及び正孔注入層の少なくとも一層3、発光層4及び電子輸送層及び電子注入層の少なくとも一層5のいずれに含有されてもよく、正孔輸送層及び正孔注入層の少なくとも一層3、発光層4及び電子輸送層及び電子注入層の少なくとも一層5としていずれも作用する。また、図3に示される有機電界発光素子の層構成の場合、正孔輸送層及び正孔注入層の少なくとも一層3及び発光層4のいずれに含有されてもよく、正孔輸送層及び正孔注入層の少なくとも一層3及び発光層4としていずれも作用する。さらに、図4に示される有機電界発光素子の層構成の場合、電荷輸送能を持つ発光層6に含有され、電荷輸送能を持つ発光層6として作用する。
【0112】
図1乃至図4に示される有機電界発光素子の層構成の場合、透明絶縁体基板1は、発光を取り出すため透明なものが好ましく、ガラス、プラスチックフィルム等が用いられるがこれに限られるものではない。なお、上記透明とは、可視領域の光の透過率が10%以上であることを意味し、更に透過率が75%以上であることが好ましい。以下これに準ずる。
また、透明電極2は、透明絶縁体基板に準じて発光を取り出すための透明または半透明であって、且つ正孔の注入を行うため仕事関数の大きなものが好ましく、仕事関数が4eV以上のものが好ましい。なお、前記半透明とは、可視領域の光の透過率が70%以上であることを意味し、更に透過率が80%以上であることが好ましい。以下これに準ずる。
【0113】
具体例として、酸化スズインジウム(ITO)、酸化スズ(NESA)、酸化インジウム、酸化亜鉛等の酸化膜、及び蒸着或いはスパッタされた金、白金、パラジウム等が用いられるが、これに限られるものではない。電極のシート抵抗は、低いほどが望ましく、数百Ω/□以下が好ましく、さらには100Ω/□以下がより好ましい。また、透明絶縁体基板に準じて、可視領域の光の透過率が10%以上で、更に透過率が75%以上であることが好ましい。
【0114】
図1乃至図3に示される有機電界発光素子の層構成の場合、電子輸送層や正孔輸送層等は、目的に応じて機能(電子輸送能、正孔輸送能)が付与された前記電荷輸送性ポリエステル単独で形成されていてもよいが、例えば正孔移動度を調節するため、前記電荷輸送性ポリエステル以外の正孔輸送材料を、層を構成する材料全体に対して0.1質量%乃至50質量%の範囲で混合分散して形成されてもよい。
前記正孔輸送材料としては、テトラフェニレンジアミン誘導体、トリフェニルアミン誘導体、カルバゾール誘導体、スチルベン誘導体、スピロフルオレン誘導体、アリールヒドラゾン誘導体、ポルフィリン系化合物が挙げられるが、これらの中では、電荷輸送性ポリエステルとの相溶性がよいことから、テトラフェニレンジアミン誘導体、スピロフルオレン誘導体、トリフェニルアミン誘導体が好ましい。
【0115】
また、電子移動度を調整する場合は、層を構成する材料全体に対して電子輸送材料を0.1質量%から50質量%の範囲で混合分散して形成されてもよい。
前記電子輸送材料として、オキサジアゾール誘導体、ニトロ置換フルオレノン誘導体、ジフェノキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、シロール誘導体、キレート型有機金属錯体、多核または縮合芳香環化合物、ペリレン誘導体、トリアゾール誘導体、フルオレニリデンメタン誘導体等が挙げられる。
【0116】
また、正孔移動度及び電子移動度の両方の調整が必要な場合は、前記電荷輸送性ポリエステルに前記正孔輸送材料及び電子輸送材料の両方を一緒に混在させてもよい。
【0117】
さらに、成膜性の向上、ピンホール防止等のため、適切な樹脂(ポリマー)、添加剤を加えてもよい。具体的な樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、セルロース樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリススチレン樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、スチレンブタジエン共重合体、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、シリコーン樹脂、ポリ−N−ビニルカルバゾール樹脂、ポリシラン樹脂、ポリチオフェン、ポリピロール等の導電性樹脂等を用いることができる。また、添加剤としては、公知の酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤等を用いることができる。
【0118】
また、電荷注入性を向上させる場合は、正孔注入層や電子注入層を用いる場合があるが、正孔注入材料としては、トリフェニルアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、フタロシアニン誘導体、インダンスレン誘導体、ポリアルキレンジオキシチオフェン誘導体等が用いられる。また、これらには、ルイス酸、スルホン酸等を混合してもよい。電子注入材料としては、Li、Ca、Ba、Sr、Ag、Au等の金属、LiF、MgF等の金属フッ化物、MgO、Al、LiO等の金属酸化物が用いられる。
【0119】
また、前記電荷輸送性ポリエステルを発光機能以外で用いる場合は、発光性化合物を発光材料として用いる。発光材料としては、固体状態で高い発光量子効率を示す化合物を用いる。発光材料は、低分子化合物または高分子化合物どちらでもよく、有機低分子である場合の好適な例としては、キレート型有機金属錯体、多核または縮合芳香環化合物、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、スチリルアリーレン誘導体、シロール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサチアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体等が、高分子の場合、ポリパラフェニレン誘導体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリアセチレン誘導体等が用いられる。好適な具体例として、下記の化合物(XIV−1)〜(XIV−17)が用いられるが、これらに限定されたものではない。
【0120】
【化18】

【0121】
【化19】

【0122】
なお、上記構造式(XIV−13)乃至(XIV−17)中、Vは前記Arと同一の2価の有機基、n及びgはそれぞれ独立に1以上の整数を表す。
【0123】
また、有機電界発光素子の耐久性向上あるいは発光効率向上を目的として、上記発光材料または前記電荷輸送性ポリエステル中にゲスト材料として発光材料と異なる色素化合物をドーピングしてもよい。該色素化合物のドーピングの割合としては、対象となる層の0.001質量%乃至40質量%、好適には0.01質量%乃至10質量%である。このドーピングに用いられる色素化合物としては、発光材料との相容性が良く、かつ発光層の良好な薄膜形成を妨げない有機化合物が用いられ、好適にはクマリン誘導体、DCM誘導体、キナクリドン誘導体、ペリミドン誘導体、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、ベンゾチオキサンテン誘導体、ルブレン誘導体、ポルフィリン誘導体、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスニウム、イリジウム、白金、および金などの金属錯体化合物等が用いられる。
好適な具体例として、下記の化合物(XV−1)乃至(XV−6)が用いられるが、これらに限定されたものではない。
【0124】
【化20】

【0125】
また、発光層4は、前記発光材料単独で形成されていても良いが、電気特性及び発光特性をさらに改善する等の目的で、前記発光材料に前記電荷輸送性ポリエステルを1質量%ないし50質量%の範囲で混合・分散して形成させてもよい。もしくは前記発光材料中に、前記電荷輸送性ポリエステル以外の電荷輸送性材料を1質量%ないし50質量%の範囲で混合・分散して形成させてもよい。また、前記電荷輸送性ポリエステルが発光特性も兼ね備えたものである場合、発光材料として用いてもよく、その場合、電気特性及び発光特性をさらに改善する等の目的で、前記電荷輸送性ポリエステル以外の電荷輸送性材料を1質量%ないし50質量%の範囲で混合分散して形成させてもよい。
【0126】
図4に示される有機電界発光素子の層構成の場合、電荷輸送能を持つ発光層6は、目的に応じて機能(正孔輸送能、あるいは電子輸送能)が付与された前記電荷輸送性ポリエステル中に、発光材料(好適には、前記発光材料(XIV−1)乃至(XIV−17)から選ばれる少なくとも1種)を50質量%以下で分散させた有機化合物層であるが、有機電界発光素子に注入される正孔と電子のバランスを調節するために前記電荷輸送性ポリエステル以外の電荷輸送材料を10質量%乃至50質量%分散させてもよい。
前記電荷輸送材料としては、電子移動度を調節する場合、電子輸送材料としてオキサジアゾール誘導体、ニトロ置換フルオレノン誘導体、ジフェノキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、フルオレニデンメタン誘導体等が挙げられる。
【0127】
図1乃至図4に示される有機電界発光素子の層構成の場合、背面電極7には、真空蒸着可能で、電子注入を行うため仕事関数の小さな金属、金属酸化物、金属フッ化物等が使用される。金属としてはマグネシウム、アルミニウム、金、銀、インジウム、リチウム、カルシウムおよびこれらの合金が挙げられる。金属酸化物としては、酸化リチウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化スズインジウム、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化インジウム亜鉛等が挙げられる。また、金属フッ化物としては、フッ化リチウム、フッ化マグネシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化カルシウム、フッ化アルミニウムが挙げられる。
【0128】
また、背面電極7上には、さらに素子の水分や酸素による劣化を防ぐために保護層を設けてもよい。具体的な保護層の材料としては、In、Sn、Pb、Au、Cu、Ag、Alなどの金属、MgO、SiO、TiO等の金属酸化物、ポリエチレン樹脂、ポリウレア樹脂、ポリイミド樹脂等の樹脂が挙げられる。保護層の形成には、真空蒸着法、スパッタリング法、プラズマ重合法、CVD法、コーティング法が適用できる。
【0129】
これら図1乃至図4に示される有機電界発光素子は、まず透明電極2の上に各有機電界発光素子の層構成に応じた個々の層を順次形成することにより作製される。なお、正孔輸送層及び正孔注入層の少なくとも一層3、発光層4、電子輸送層及び電子注入層の少なくとも一層5、或いは、電荷輸送能を持つ発光層6は、上記各材料を真空蒸着法、もしくは、適切な有機溶媒に溶解或いは分散し、得られた塗布液を用いて前記透明電極上にスピンコーティング法、キャスト法、ディップ法、インクジェット法等により形成される。
【0130】
本実施形態における電荷輸送性ポリエステルは、前述のように高い熱安定性及び優れた溶解性を有しているので、上記各層の形成しやすさ、素子としての安定性等を考慮すると、図2、図4に示される構成の有機電界発光素子に用いられることが望ましい。
特に、本実施形態の電荷輸送性ポリエステルを用いた図2に示す構成の有機電界発光素子では、層構成により機能が分担されエネルギー効率が向上する。
【0131】
正孔輸送層及び正孔注入層の少なくとも一層3、発光層4、電子輸送層及び電子注入層の少なくとも一層5、並びに、電荷輸送能を持つ発光層6の膜厚は、各々10μm以下、特に0.001μm以上5μm以下の範囲であることが好ましい。上記各材料(前記非共役系高分子、発光材料等)の分散状態は分子分散状態でも微結晶などの粒子状態でも構わない。塗布液を用いた成膜法の場合、分子分散状態とするために分散溶媒は上記各材料の分散性及び溶解性を考慮して選択する必要がある。粒子状に分散するためには、ボールミル、サンドミル、ペイントシェイカー、アトライター、ホモジナイザー、超音波法等が利用される。
【0132】
そして最後に、図1及び図2に示す有機電界発光素子の場合には、電子輸送層及び電子注入層の少なくとも一層5の上に背面電極7を真空蒸着法、スパッタリング法等により形成することにより、本実施形態の有機電界発光素子が得られる。また、図3に示す有機電界発光素子の場合には、発光層4の上に、図4に示す有機電界発光素子の場合には、電荷輸送能を持つ発光層6の上に背面電極7を真空蒸着法、スパッタリング法等により形成することにより本実施形態の有機電界発光素子が得られる。
【0133】
<表示媒体>
本実施形態の表示媒体は、前記本実施形態の有機電界発光素子を、マトリクス状及びセグメント状の少なくともいずれかに配置したことを特徴とする。本実施形態において有機電界発光素子をマトリクス状に配置する場合、電極のみをマトリクス状に配置する態様であってもよいし、電極及び有機化合物層の両方をマトリクス状に配置する態様であってもよい。また、本実施形態において有機電界発光素子をセグメント状に配置する場合、電極のみをセグメント状に配置する態様であってもよいし、電極及び有機化合物層の両方をセグメント状に配置する態様であってもよい。
【0134】
前記マトリクス状またはセグメント状の有機化合物層は、例えば前述したインクジェット法を用いることにより容易に形成する。
マトリクス状に配置した有機電界発光素子及びセグメント状に配置した有機電界発光素子から構成される表示媒体の駆動装置及び駆動方法としては、従来公知のものが用いられる。
【実施例】
【0135】
以下、本発明を、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。ただし、これら各実施例は、本発明を制限するものではない。
【0136】
<電荷輸送性ポリエステルの合成>
(合成例1)
三口フラスコに、4−ブロモベンゾアルデヒド18.5g、ルベアン酸30.0g及びジメチルホルムアミド100mlを入れ、窒素気流下、24時間還流攪拌した。この反応後、トルエンおよび純水を加え、次いでこれをろ過し、その有機層を純水で洗浄した。次いで、再結晶することにより、ハロゲン体を18.9g得た。
【0137】
続いて、アセトアニリド(25.0g)、4−ヨードフェニルプロピオン酸メチル(64.4g)、炭酸カリウム(38.3g)、硫酸銅5水和物(2.3g)、n−トリデカン(50ml)を500mlの三口フラスコに入れ、窒素気流下、230℃で20時間加熱攪拌した。反応終了後、水酸化カリウム(15.6g)をエチレングリコール(300ml)に溶解したものを加え、窒素気流下で3.5時間加熱還流した後、室温まで冷却し、反応液を1Lの蒸留水に注ぎ、塩酸で中和し、結晶を析出させた。結晶を吸引ろ過によりろ取し、十分に水洗した後、1Lのフラスコに移した。これに、トルエン(500ml)を加え、加熱還流し、共沸により水を除去した後、濃硫酸(1.5ml)のメタノール(300ml)溶液を加え、窒素気流下で5時間加熱還流した。反応後、トルエンで抽出し、有機層を蒸留水で十分に洗浄した。次いで、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶剤を減圧下留去し、ヘキサンから再結晶することによりジアリールアミンを36.5g得た。
【0138】
得られたハロゲン体15.0g、ジアリールアミン24.9g、炭酸カリウム24.0g、硫酸銅5水和物1.2g及びo−ジクロロベンゼン150mlを500mlのフラスコに入れ、窒素気流下で20時間加熱還流した。反応終了後、室温まで冷却し、トルエン500mlに溶解させ不要物をろ過し、そのろ液をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン)にて精製することにより、前記モノマー化合物(3)8.7gを得た。
【0139】
上記モノマー化合物(3)1.0g、エチレングリコール3.0g及びテトラブトキシチタン0.04gを100mlの三口ナスフラスコに入れ、窒素気流下、200℃で3時間加熱攪拌した。モノマー化合物(3)が消費されたことを確認した後、0.5mmHgに減圧してエチレングリコールを留去しながら230℃に加熱し、5時間反応を続けた。その後、室温まで冷却し、テトラヒドロフラン200mlに溶解し、不溶物を0.5μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターにてろ過し、ろ液をメタノール500mlを撹拌している中に滴下し、ポリマーを析出させた。得られたポリマーをろ過し、メタノールで洗浄した後、乾燥させ、0.55gの例示化合物(2)を得た。
【0140】
例示化合物(2)の分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、東ソー株式会社製、HLC−8120GPC)にて測定したところ、重量平均分子量(Mw)は3.9×10(スチレン換算)であり、モノマーの分子量から求めたpは56程度であった。
また、示差走査型熱量計(セイコーインスツルメンツ社製、Tg/DTA6200)で測定したガラス転移温度(Tg)は151℃であった。
【0141】
(合成例2)
合成例1において、アセトアニリド、4−ヨードフェニルプロピオン酸メチルの代わりに2−ブロモ−9,9’−ジメメチルフルオレンと3−(4−アセチルアミノフェニル)プロピオン酸メチルエステルを用いた以外は、合成例1に準じて合成し、モノマー化合物(13)を得た。
次いで、モノマー化合物(13)を用いて、合成例1に準じて重合を行って、例示化合物(7)を得た。
【0142】
例示化合物(7)の分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、東ソー株式会社製、HLC−8120GPC)にて測定したところ、重量平均分子量(Mw)は3.4×10(スチレン換算)であり、モノマーの分子量から求めたpは34程度であった。
また、示差走査型熱量計(セイコーインスツルメンツ社製、Tg/DTA6200)で測定したガラス転移温度(Tg)は160℃であった。
【0143】
(合成例3)
合成例1のハロゲン体の合成において、4−ブロモベンゾアルデヒドの代わりに5-ブロモチオフェン−2−カルボキシアルデヒドを用い、さらにジアリールアミンの合成において、4−ヨードフェニルプロピオン酸メチルの代わりに3−ヨードフェニルプロピオン酸メチルを用いた以外は、合成例1に準じて合成し、モノマー化合物(24)を得た。
次いで、モノマー化合物(24)を用いて、合成例1に準じて重合を行って、例示化合物(10)を得た。
【0144】
例示化合物(10)の分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、東ソー株式会社製、HLC−8120GPC)にて測定したところ、重量平均分子量(Mw)は3.5×10(スチレン換算)であり、モノマーの分子量から求めたpは45程度であった。
また、示差走査型熱量計(セイコーインスツルメンツ社製、Tg/DTA6200)で測定したガラス転移温度(Tg)は142℃であった。
【0145】
(合成例4)
合成例1のハロゲン体の合成において、4−ブロモベンゾアルデヒドの代わりに5-ブロモチオフェン−2−カルボキシアルデヒドを用い、さらにジアリールアミンの合成において、アセトアニリドの代わりにp−アセトトルイジンを用いた以外は、合成例1に準じて合成し、モノマー化合物(26)を得た。
次いで、モノマー化合物(26)を用いて、合成例1に準じて重合を行って、例示化合物(12)を得た。
【0146】
例示化合物(12)の分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、東ソー株式会社製、HLC−8120GPC)にて測定したところ、重量平均分子量(Mw)は4.4×10(スチレン換算)であり、モノマーの分子量から求めたpは54程度であった。
また、示差走査型熱量計(セイコーインスツルメンツ社製、Tg/DTA6200)で測定したガラス転移温度(Tg)は148℃であった。
【0147】
(合成例5)
合成例1のハロゲン体の合成において、4−ブロモベンゾアルデヒドの代わりに5−(4-ブロモフェニル)-チオフェン‐2−カルボキシアルデヒドを用いた以外は、合成例1に準じて合成し、モノマー化合物(36)を得た。
次いで、モノマー化合物(36)を用いて、合成例1に準じて重合を行って、例示化合物(18)を得た。
【0148】
例示化合物(18)の分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、東ソー株式会社製、HLC−8120GPC)にて測定したところ、重量平均分子量(Mw)は4.2×10(スチレン換算)であり、モノマーの分子量から求めたpは45程度であった。
また、示差走査型熱量計(セイコーインスツルメンツ社製、Tg/DTA6200)で測定したガラス転移温度(Tg)は165℃であった。
【0149】
(合成例6)
合成例1のジアリールアミンの合成において、4−ヨードフェニルプロピオン酸メチルの代わりに、 3−(4’−ヨードビフェニル)プロピオン酸メチルエステルを用いた以外は、合成例1に準じて合成し、モノマー化合物(52)を得た。
次いで、モノマー化合物(52)を用いて、合成例1に準じて重合を行って、例示化合物(25)を得た。
【0150】
例示化合物(25)の分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、東ソー株式会社製、HLC−8120GPC)にて測定したところ、重量平均分子量(Mw)は3.2×10(スチレン換算)であり、モノマーの分子量から求めたpは34程度であった。
また、示差走査型熱量計(セイコーインスツルメンツ社製、Tg/DTA6200)で測定したガラス転移温度(Tg)は150℃であった。
【0151】
(合成例7)
合成例1のジアリールアミンの合成において、アセトアニリド、4−ヨードフェニルプロピオン酸メチルの代わりに、N−(9,9−ジメチル−9H−フルオレン−2−イル)−ホルムアミドと3−(4’−ヨードビフェニル)プロピオン酸メチルエステルを用いた以外は、合成例1に準じて合成し、モノマー化合物(80)を得た。
次いで、モノマー化合物(80)を用いて、合成例1に準じて重合を行って、例示化合物(35)を得た。
【0152】
例示化合物(35)の分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、東ソー社製、HLC−8120GPC)にて測定したところ、重量平均分子量(Mw)は 7.1×10(スチレン換算)であり、モノマーの分子量から求めたpは27程度であった。
また、示差走査型熱量計(セイコーインスツルメンツ社製、Tg/DTA6200)で測定したがガラス転移温度(Tg)は測定できなかった。
【0153】
(合成例8)
合成例1のジアリールアミンの合成において、アセトアニリド、4−ヨードフェニルプロピオン酸メチルの代わりに、4−ヨードビフェニルと3−(4−アセチルアミノフェニル)プロピオン酸メチルエステルを用いた以外は、合成例1に準じて合成し、モノマー化合物(7)を得た。
次いで、モノマー化合物(7)を用いて、合成例1に準じて重合を行って、例示化合物(4)を得た。
【0154】
例示化合物(4)の分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、東ソー株式会社製、HLC−8120GPC)にて測定したところ、重量平均分子量(Mw)は7.5×10(スチレン換算)であり、モノマーの分子量から求めたpは34程度であった。
また、示差走査型熱量計(セイコーインスツルメンツ社製、Tg/DTA6200)で測定したガラス転移温度(Tg)は152℃であった。
【0155】
(合成例9)
合成例1のジアリールアミンの合成において、アセトアニリド、4−ヨードフェニルプロピオン酸メチルの代わりに、N−(4−ピロール‐1−フェニル)ホルムアミドと3−(4’−ヨードビフェニル)プロピオン酸メチルエステルを用いた以外は、合成例1に準じて合成し、続いてトリアリール化、クロロ化を行い、さらに得られたクロロ化合物のホモカップリング反応を行って、モノマー化合物(83)を得た。
次いで、モノマー化合物(83)を用いて、合成例1に準じて重合を行って、例示化合物(37)を得た。
【0156】
例示化合物(37)の分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、東ソー株式会社製、HLC−8120GPC)にて測定したところ、重量平均分子量(Mw)は9.9×10(スチレン換算)であり、モノマーの分子量から求めたpは49程度であった。
また、示差走査型熱量計(セイコーインスツルメンツ社製、Tg/DTA6200)で測定したがガラス転移温度(Tg)は測定できなかった。
【0157】
<電荷輸送性ポリエステルの溶解性>
前記得られた各例示化合物、及び後述する比較例2乃至比較例4で用いた電荷輸送性ポリマーの各種溶媒に対する溶解性を調べた。溶解性は、実施例/比較例で用いたジクロロエタン、クロロベンゼンに加えて、有機EL素子の作製に際して実用上好適なその他の溶媒の結果についても示した。溶解性試験については溶媒100ml中に化合物1gを溶解し、その状況を目視により観察して、以下の基準により判断した。
○:加熱無しで溶解。
○〜△:加熱して溶解。
△:一部のみ溶解。
結果を表13に示す。
【0158】
【表13】

【0159】
<実施例1>
透明絶縁基板上に形成されたITO(三容真空社製)を短冊状のフォトマスクを用いてフォトリソグラフィによりパターニングし、さらにエッチング処理することにより短冊状のITO電極(幅2mm)を形成した。次に、このITOガラス基板を中性洗剤、超純水、アセトン(電子工業用、関東化学製)及びイソプロパノール(電子工業用、関東化学製)で超音波を各5分間加えて洗浄した後、スピンコーターで乾燥させた。
前記基板に、正孔輸送層として、前記電荷輸送性ポリエステル〔例示化合物(2)〕の5質量%モノクロロベンゼン溶液を調製し、0.1μmのPTFEフィルターで濾過した後、ディップ法により厚さ0.050μmの薄膜を形成した。発光材料として前記例示化合物(XIV−1)を蒸着して、厚さ0.055μmの発光層を形成した。続いて短冊状の穴が設けられている金属性マスクを設置してMg−Ag合金を共蒸着により蒸着して、2mm幅、0.15μm厚の背面電極をITO電極と交差するように形成した。形成された有機電界発光素子の有効面積は0.04cmであった。
【0160】
<実施例2>
前記電荷輸送性ポリエステル〔例示化合物(7)〕1質量部、ポリ(N−ビニルカルバゾール)4質量部、及び前記例示化合物(XIV−1)0.02質量部の10質量%ジクロロエタン溶液を調製し、0.1μmのPTFEフィルターで濾過した。この溶液を用いて、実施例1に準じて短冊状のITO電極をエッチングし、洗浄し、乾燥したガラス基板上に、スピンコーター法により膜厚0.15μmの薄膜を形成した。充分乾燥させた後、短冊状の穴が設けられている金属製マスクを設置してMg−Ag合金を共蒸着により蒸着して、2mm幅、0.15μm厚の背面電極をITO電極と交差するように形成した。形成された有機電界発光素子の有効面積は0.04cmであった。
【0161】
<実施例3>
実施例1に準じてエッチング、洗浄し、乾燥したITOガラス基板上に、実施例1に準じて前記電荷輸送性ポリエステル〔例示化合物(10)〕を厚さ0.050μmの正孔輸送層を形成した。次いで、発光層として前記例示化合物(XIV−1)と前記例示化合物(XV−1)との混合物(質量比:99/1)を厚さ0.065μm、電子輸送層として前記例示化合物(XIV−9)を厚さ0.030μmで形成した。充分乾燥させた後、短冊状の穴が設けられている金属製マスクを設置してMg−Ag合金を共蒸着して、2mm幅、0.15μm厚の背面電極をITO電極と交差するように形成した。形成された有機電界発光素子の有効面積は0.04cmであった。
【0162】
<実施例4>
実施例1に準じてエッチング、洗浄したITOガラス基板上に、実施例1に準じて正孔輸送層として、電荷輸送性ポリエステル〔例示化合物(12)〕を厚さ0.050μmでインクジェット法(ピエゾインクジェット方式)により形成した。次いで、発光層として前記例示化合物(IX−5)を5質量%含んだ前記例示化合物(XIV−17、n=8)を厚さ0.065μmでスピンコーター法により形成した。充分乾燥させた後、Caを厚さ0.08μm、Alを厚さ0.15μmに蒸着して、2mm幅、合計0.23μm厚の背面電極をITO電極と交差するように形成した。形成された有機電界発光素子の有効面積は0.04cmであった。
【0163】
<実施例5>
実施例1で用いた電荷輸送性ポリエステル〔例示化合物(2)〕の代わりに、前記電荷輸送性ポリエステル〔例示化合物(18)〕を用いた以外は、実施例1に準じて有機電界発光素子を作製した。
【0164】
<実施例6>
実施例1で用いた電荷輸送性ポリエステル〔例示化合物(2)〕の代わりに、前記電荷輸送性ポリエステル〔例示化合物(25)〕を用いた以外は、実施例1に準じて有機電界発光素子を作製した。
【0165】
<実施例7>
実施例1で用いた電荷輸送性ポリエステル〔例示化合物(2)〕の代わりに、前記電荷輸送性ポリエステル〔例示化合物(35)〕を用いた以外は、実施例1に準じて有機電界発光素子を作製した。
【0166】
<実施例8>
実施例3で用いた電荷輸送性ポリエステル〔例示化合物(10)〕の代わりに、前記電荷輸送性ポリエステル〔例示化合物(4)〕を用いた以外は、実施例3に準じて有機電界発光素子を作製した。
【0167】
<実施例9>
実施例3で用いた電荷輸送性ポリエステル〔例示化合物(10)〕の代わりに、前記電荷輸送性ポリエステル〔例示化合物(37)〕を用いた以外は、実施例3に準じて有機電界発光素子を作製した。
【0168】
<実施例10>
電荷輸送性ポリエステル〔例示化合物(2)〕の1.5質量%ジクロロエタン溶液を調製し、0.1μmのPTFEフィルターで濾過した。この溶液を用いて、実施例1に準じてエッチング、洗浄し、乾燥したITOガラス基板に、インクジェット法により膜厚0.05μmの薄膜を形成した。次いで、発光材料として前記例示化合物(XIV−14、n=8)をスピンコート法により厚さ0.050μmの発光層を形成した。充分乾燥させた後、Caを厚さ0.08μm、Alを厚さ0.15μmに蒸着して、2mm幅、合計0.23μm厚の背面電極をITO電極と交差するように形成した。形成された有機電界発光素子の有効面積は0.04cmであった。
【0169】
<実施例11>
実施例1に準じてエッチング、洗浄し、乾燥したITOガラス基板上に、発光層として前記例示化合物(XIV−17、n=8)を厚さ0.050μmとなるように形成した。電荷輸送性ポリエステル〔例示化合物(2)〕の1.1質量%トルエン溶液を調製し、0.25μmのPTFEフィルターで濾過した。この溶液を用いて、前記発光層上にスピンコーター法により厚さ0.065μmの電子輸送層を形成した。充分乾燥させた後、短冊状の穴が設けられている金属製マスクを設置してMg−Ag合金を共蒸着して、2mm幅、0.15μm厚の背面電極をITO電極と交差するように形成した。形成された有機電界発光素子の有効面積は0.04cmであった。
【0170】
<比較例1>
実施例1で用いた電荷輸送性ポリエステル〔例示化合物(2)〕の代わりに、下記構造式(XVI)で示される化合物を用いた他は、実施例1に準じて有機EL素子を作製した。
【0171】
【化21】

【0172】
<比較例2>
電荷輸送性ポリマーとしてポリビニルカルバゾール(PVK)を2質量部、発光材料として前記例示化合物(XIV−1)を0.1質量部、電子輸送材料として前記化合物(XIV−9)を1質量部混合し、10質量%ジクロロエタン溶液を調製し、0.1μmのPTFEフィルターで濾過した。この溶液を用いて、2mm幅の短冊型ITO電極をエッチングにより形成したガラス基板上に、ディップ法により塗布して膜厚0.15μmの正孔輸送層を形成した。十分乾燥させた後、短冊状の穴が設けられている金属製マスクを設置してMg−Ag合金を共蒸着して、2mm幅、0.15μm厚の背面電極をITO電極と交差するように形成した。形成された有機電界発光素子の有効面積は0.04cmであった。
【0173】
<比較例3>
電荷輸送性ポリマーとして下記構造式(XVII)を2質量部、発光材料として前記例示化合物(XIV−1)を0.1質量部、電子輸送材料として前記化合物(XIV−9)を1質量部混合し、10質量%ジクロロエタン溶液を調製し、0.1μmのPTFEフィルターで濾過した。この溶液を用いて、2mm幅の短冊型ITO電極をエッチングにより形成したガラス基板上に、ディップ法により塗布して膜厚0.15μmの正孔輸送層を形成した。十分乾燥させた後、短冊状の穴が設けられている金属製マスクを設置してMg−Ag合金を共蒸着して、2mm幅、0.15μm厚の背面電極をITO電極と交差するように形成した。形成された有機電界発光素子の有効面積は0.04cmであった。
【0174】
【化22】

【0175】
<比較例4>
実施例1で用いた電荷輸送性ポリエステル〔例示化合物(2)〕の代わりに、下記構造式(XVIII)で示される化合物(Tg:145℃、重量平均分子量:5.1×10)を用いた他は実施例1に準じて有機EL素子を作製した。
【0176】
【化23】

【0177】
以上のように作製した有機EL素子を、真空中(133.3×10−3Pa)でITO電極側をプラス、Mg−Ag電極をマイナスとして直流電圧を印加し、直流駆動方式(DC駆動)で初期輝度を1000cd/m2とした時の駆動電流密度により発光特性を調べた。また、発光寿命の評価は、乾燥空気中室温において直流駆動方式(DC駆動)で初期輝度を1000cd/m2とし、比較例1の素子の輝度(初期輝度L:1000cd/m)が輝度L/初期輝度L=0.5となった時点の駆動時間を1.0とした場合の相対時間、及び、素子の輝度が輝度L/初期輝度L=0.5となった時点での電圧上昇分(=電圧/初期駆動電圧)により評価した。結果を表14に示す。
【0178】
【表14】

【0179】
表14の結果より、熱安定性、溶解性に優れる本実施形態における電荷輸送性ポリエステルを用いた実施例1乃至11の有機電界発光素子では、発光寿命が従来の電荷輸送性ポリマーを用いたものよりも良好である。
【図面の簡単な説明】
【0180】
【図1】実施形態の有機電界発光素子の層構成の一例を示した概略構成図である。
【図2】実施形態の有機電界発光素子の層構成の他の一例を示した概略構成図である。
【図3】実施形態の有機電界発光素子の層構成の他の一例を示した概略構成図である。
【図4】実施形態の有機電界発光素子の層構成の他の一例を示した概略構成図である。
【符号の説明】
【0181】
1 透明絶縁体基板
2 透明電極
3 正孔輸送層及び正孔注入層の少なくとも一層
4 発光層
5 電子輸送層及び電子注入層の少なくとも一層
6 電荷輸送能を有する発光層
7 背面電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方が透明または半透明である陽極及び陰極よりなる一対の電極と、
該一対の電極間に挾まれ、少なくとも一層が下記一般式(I−1)または(I−2)で示される電荷輸送性ポリエステルを1種以上含有する一つまたは複数の有機化合物層と、
を有することを特徴とする有機電界発光素子。
【化1】

(前記一般式(I−1)及び(I−2)中、Aは下記一般式(II−1)及び(II−2)で示される構造から選択された少なくとも1種を表し、Rは置換もしくは未置換の芳香環数2乃至10の1価の多核芳香族炭化水素基、置換もしくは未置換の芳香環数2乃至10の1価の縮合芳香族炭化水素基、炭素数1乃至6の1価の直鎖状炭化水素基、炭素数2乃至10の1価の分枝鎖状炭化水素基、ヒドロキシル基を表す。Yは2価のアルコール残基を表し、Zは2価のカルボン酸残基を表し、mは1乃至5の整数を表し、pは5乃至5000の整数を表す。また、B及びB’は、−O−(Y−O)m−H、または−O−(Y−O)m−CO−Z−CO−ORで表される基(ただし、Y、Z、mは上記と同義である。Rは水素原子、アルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、または、置換もしくは未置換のアラルキル基を表す)を表す。)
【化2】

(前記一般式(II−1)及び(II−2)中、Arは置換もしくは未置換のフェニル基、置換もしくは未置換の芳香環数2乃至10の1価の多核芳香族炭化水素、置換もしくは未置換の芳香環数2乃至10の1価の縮合芳香族炭化水素又は置換もしくは未置換の1価の芳香族複素環を表し、jは0または1を表し、Tは炭素数1乃至6の2価の直鎖状炭化水素基または炭素数2乃至10の2価の分枝鎖状炭化水素基を表し、Xは下記式(III)で表される基を表す。)
【化3】

(一般式(III)中、Arは、置換もしくまたは未置換のフェニレン基、置換もしくは未置換の芳香環数2乃至10の2価の多核芳香族炭化水素、置換もしくは未置換の芳香環数2乃至10の2価の縮合芳香族炭化水素または置換もしくは未置換の2価の芳香族複素環を表す。)
【請求項2】
前記有機化合物層が、発光層と、電子輸送層及び電子注入層の少なくとも一層とを含み、前記発光層、電子輸送層及び電子注入層から選択された少なくとも一層が、前記一般式(I−1)または(I−2)で示される電荷輸送性ポリエステルを1種以上含有することを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項3】
前記有機化合物層が、発光層と、正孔輸送層及び正孔注入層の少なくとも一層とを含み、前記発光層、正孔輸送層及び正孔注入層から選択された少なくとも一層が、前記一般式(I−1)または(I−2)で示される電荷輸送性ポリエステルを1種以上含有することを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項4】
前記有機化合物層が、発光層と、正孔輸送層及び正孔注入層の少なくとも一層と、電子輸送層及び電子注入層の少なくとも一層とを含み、前記発光層、正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層及び電子注入層から選択された少なくとも一層が、前記一般式(I−1)または(I−2)で示される電荷輸送性ポリエステルを1種以上含有することを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項5】
前記有機化合物層が、電荷輸送機能を持つ発光層のみから構成され、前記電荷輸送機能を持つ発光層が、前記一般式(I−1)または(I−2)で示される電荷輸送性ポリエステルを1種以上含有することを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項6】
少なくとも一方が透明である一対の電極と、該一対の電極間に挟まれ、且つ1つ以上の層から構成される有機化合物層と、を有し、前記有機化合物層を構成する少なくとも1層が、請求項1に記載の電荷輸送性ポリエステルを1種以上含有し、マトリックス状及びセグメント状の少なくとも一方で配列された有機電界発光素子と、
マトリックス状及びセグメント状の少なくとも一方で配列された前記有機電界発光素子を駆動する駆動手段と、を備えることを特徴とする表示媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−224662(P2009−224662A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−69238(P2008−69238)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】