説明

束状に凝集したルチル型酸化チタンならびにそれを使用した化粧料

【課題】特定の形状を有するルチル型酸化チタンを使用した高い透明性と高い紫外線遮蔽能を有する化粧料を提供する。
【解決手段】本発明は、酸可溶性チタン化合物に塩酸を添加してpH1〜3において解膠処理を行った後、追加の塩酸及び脂肪族ヒドロキシ酸化合物を添加して加水分解を行うことにより得られる棒状粒子が束状に配向凝集した粒子形態で、配向凝集した粒子の見掛け平均長軸長40〜80nm、配向凝集した粒子の見掛け平均短軸長15〜40nm、見掛け平均軸比(見掛け平均長軸長/見掛け平均短軸長)1.2〜5.0で、比表面積が150〜250m/gを示す短冊状あるいは藁束状のルチル型酸化チタンとそれを配合した化粧料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、棒状の微細粒子が束状に配向凝集した形状を有し、配向凝集した粒子の見掛け平均長軸長が40〜80nm、配向凝集した粒子の見掛け平均短軸長が15〜40nm、見掛け平均軸比(見掛け平均長軸長/見掛け平均短軸長)1.2〜5.0の短冊状あるいは藁束状ルチル型酸化チタンと、それを使用した高い紫外線遮蔽効果と高い透明性を有する化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、日焼け止め化粧品等においては、紫外線、特に、UV−B紫外線の遮蔽を目的に、微粒子ルチル型酸化チタンが広く用いられている。微粒子酸化チタンにおける透明性は、粒径に反比例しており、粒径が小さいほど透明性が高くなる。一方、紫外線遮蔽能は一定の粒径範囲において最大になり、粒子径がその特定範囲より大きくなっても、小さくなっても、低下する。すなわち、酸化チタンの光散乱と紫外線防止効果の粒子径依存性については、特開平9−202722号公報(特許文献1)にMie理論(P.Stamatakis et al., J.Coatings Tech., 62(10), 95(1990))に基づいて、理論計算が行われている。その結果では、300nmの波長では、30〜60nmの粒径が最も遮蔽効果が高く、350nmでは、80nmの粒径が最適で、400nmでは120nmの粒径が最適となっている。
【0003】
このような観点から、特開平9−202722号公報(特許文献1)においては長径がUVAを遮蔽する最適粒径である100nm前後で、短径がUVBを遮蔽する最適粒径である30〜60nmで、軸比が2〜4の紡錘状の微粒子酸化チタンを用いた日焼け止め化粧料が開示されている。しかし、開示された酸化チタンは、湿式法で合成した紡錘状酸化チタンを400〜900℃の温度で焼成した酸化チタンであるため、分散が悪く透明性においては満足できるものでなかった。
【0004】
また、最近の日焼け止め化粧料においては透明性の高い製剤が好まれている。このため、微粒子酸化チタンの微粒子化開発が進み、従来の紡錘状酸化チタンにおいて粒径10nmの酸化チタンが開発され、このタイプの酸化チタンが主に日焼け止め化粧料に使用されている。しかし、紡錘状酸化チタンの場合、微粒子化を図ると相似形に小さくなるため、紫外線遮蔽能が極端に悪くなり、紫外線遮蔽能の高い製剤を作製することが難しいという問題が生じた。そこで、この問題の解決を目的に特開2004−115342号公報(特許文献2)において10〜150nmの範囲の平均長軸径と40〜175Åの範囲の平均結晶子径とを有する針状二酸化チタン微粒子が開示されている。この酸化チタンは、従来の紡錘状酸化チタンでは微粒子化を図ると相似形に小さくなるという欠点を抑えるため、三塩化チタンを添加して加熱塩酸処理を行うことにより長軸径を大きくして針状粒子にすることにより紫外線遮蔽能の低下を抑えるものである。しかしながら、この酸化チタンも短軸径が10nm程度と小さいものであるため酸化チタンの微粒子化に伴う紫外線遮蔽能の低下を抑えるのには不十分であった。
【0005】
一方、本発明者等は、特願2009−15202号において紫外線遮蔽能が従来の酸化チタンより良好な棒状粒子が束状に配向凝集した粒子形態を有する70〜230nmの藁束状酸化チタンを提案したが、この藁束状酸化チタンは紫外線遮蔽能が従来の酸化チタンに比べ良好であったが、粒径が大きいため日焼け止め化粧料に使用する際には白さが目立ち透明性の点で満足できるものでなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−202722号公報
【特許文献2】特開2004−115342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、微粒子酸化チタンの微粒子化による紫外線遮蔽能の低下を改良することを目的になされたもので、透明性と紫外線遮蔽能とを同時に満足する微粒子酸化チタン及びそれを使用した化粧料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は日焼け止め化粧料用に多用されている形状異方性のルチル型微粒子酸化チタンにおいて高透明性でかつ紫外線遮蔽能の高い酸化チタンを得るためには長軸長並びに短軸長がともにUVB遮蔽に最適な粒径である30〜60nmの粒子に調整することがもっと好ましいと考え種々検討を行った。
【0009】
本発明者等は、先に出願した藁束状酸化チタン(特願2009−15202号)の透明性改良を目的に微粒子化を検討した。その結果、藁束状酸化チタンの合成条件下において使用する酸可溶性チタン化合物を塩酸酸性下pH1〜3において解膠処理を行った後、脂肪族ヒドロキシ酸化合物及び追加の塩酸を添加して加水分解を行うと脂肪族ヒドロキシ酸化合物の媒晶効果により長軸長の成長が抑制されるとともに棒状の微細粒子が束状に凝集した短冊状あるいは藁束状の形状をした、見掛け平均軸比1.2〜5.0の粒子が生成し、この粒子は透明性が良好でかつ紫外線遮蔽能に優れていることを見出して本発明を完成した。
【0010】
すなわち本発明は、酸可溶性チタン化合物に塩酸を添加してpH1〜3において解膠処理を行った後、追加の塩酸及び脂肪族ヒドロキシ酸化合物を添加して加水分解を行うことにより得られる棒状粒子が束状に配向凝集した粒子形態で、配向凝集した粒子の見掛け平均長軸長40〜80nm、配向凝集した粒子の見掛け平均短軸長15〜40nm、見掛け平均軸比(見掛け平均長軸長/見掛け平均短軸長)1.2〜5.0で、より好ましくは見掛け平均長軸長40〜70nm、見掛け平均短軸長15〜30nm、見掛け平均軸比1.2〜4.5で、比表面積が150〜250m/gを示す短冊状あるいは藁束状のルチル型酸化チタンとそれを配合した化粧料に関するものである。
本発明の短冊状あるいは藁束状酸化チタンを配合した化粧料は透明性並びに紫外線遮蔽能が優れたものである。
【0011】
ここにおいて、平均長軸長、平均短軸長および平均軸比は透過型電子顕微鏡写真より、70個の粒子について個々の粒子の長軸長、短軸長および軸比を測定し、それらを平均した値である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、酸可溶性チタン化合物を塩酸酸性において加熱加水分解を行って異方性のルチル型酸化チタンを合成する際に酸可溶性チタン化合物を塩酸酸性下pH1〜3において解膠を行った後、追加の塩酸及び脂肪族ヒドロキシ酸化合物を添加して加水分解を行うことにより軸比の小さい短冊状あるいは藁束状ルチル型酸化チタンを得ることができる。この酸化チタンを使用した化粧料は透明性並びに紫外線遮蔽能とも高く良好である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1で得られた短冊状ルチル型酸化チタンを示す透過型電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例2で得られた藁束状ルチル型酸化チタンを示す透過型電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例3で得られた藁束状ルチル型酸化チタンを示す透過型電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例1,2,3および比較例で得た表面処理微粒子ルチル型酸化チタン分散体塗膜の波長300nm〜800nmでの透過率曲線である。
【図5】実施例1,2,3および比較例で得た表面処理微粒子ルチル型酸化チタン分散体塗膜の紫外線領域(300nm〜400nm)における透過率曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の短冊状あるいは藁束状粒子とは、凝集粒子を構成する個々の粒子が棒状の粒子であり、個々の粒子が束状に配向して構成された凝集粒子を指すもので、凝集粒子が短冊状あるいは藁束状の形状を有する。従来の紡錘状粒子は表面が平滑であるのに対し、この短冊状あるいは藁束状粒子は粒子同士のファンデルワールス力により結合した凝集体(Aggregate)であるので、その表面には凹凸があり、比表面積が従来の紡錘状酸化チタンに比べ大きく、また、紡錘状粒子は円柱状で粒子の中心部が太く長軸の両端が次第に細く収束した形状であるのに対し、この短冊状あるいは藁束状粒子は棒状粒子で構成されているために長軸の両端が球形状ないし楕円体形状となっていることが特徴である。
本発明の短冊状あるいは藁束状ルチル型酸化チタンの製造方法について詳細に説明する。
【0015】
本発明の短冊状あるいは藁束状ルチル型酸化チタンは、酸可溶性チタン化合物に塩酸を添加して、pH1〜3に調整して解膠処理を行った後、追加の塩酸及び脂肪族ヒドロキシ酸化合物を添加して加熱加水分解を行えば得られる。加水分解条件は原料である酸可溶性チタン化合物の酸溶解性により適宜調整することが必要である。例えば、硫酸チタニル溶液又は四塩化チタン溶液をアルカリ中和して得られるオルソチタン酸を使用する場合は、オルソチタン酸に塩酸に添加してpH1〜3に調整して温度20〜50℃において解膠を行った後、追加塩酸及び脂肪族ヒドロキシ酸化合物をTiOに対し0.5〜6重量%を添加して、TiO濃度50〜140g/L、好ましくは60〜120g/L、塩酸濃度60〜120g/L、好ましくは70〜100g/Lに調整した後、温度30〜80℃、好ましくは35〜70℃で加水分解することにより得られる。しかし、この場合、未反応のチタン化合物が残るので反応を完結するため加水分解後、さらに、95℃以上の温度で4〜8時間熟成を行うことが好ましい。尚、短冊状あるいは藁束状粒子は熟成時間が長くなると凝集が崩れ棒状粒子が生成し分散が悪くなり、透明性が悪くなるので熟成時間は8時間以内が適当である。
(酸可溶性チタン化合物)
【0016】
本発明において使用できる酸可溶性チタン化合物としては塩酸可溶のチタン化合物であれば良いが、硫酸チタニルや四塩化チタンを低温でアルカリ中和して得られるオルソチタン酸が好ましい。また、メタチタン酸をアルカリで処理したチタン酸のアルカリ塩も使用できる。
(脂肪族ヒドロキシ酸化合物)
【0017】
本発明において添加する脂肪族ヒドロキシ酸化合物としては、例えば、グリコール酸、乳酸、クエン酸、酒石酸、サリチル酸、リンゴ酸、イソクエン酸およびこれらの塩の一種または二種以上のものを用いることができる。脂肪族ヒドロキシ酸化合物の添加量は、酸可溶性チタン化合物に含まれるTiOに対し、0.5〜5.5重量%、好ましくは1〜5重量%である。脂肪族ヒドロキシ酸化合物を7重量%以上添加すると脂肪族ヒドロキシ酸化合物とチタンの錯体が生成し反応が進まなくなり、また得られた酸化チタンの凝集が強くなって透明性が悪くなるので好ましくない。
(表面被覆層)
【0018】
前記短冊状あるいは藁束状ルチル型酸化チタンには、化粧料を製造する際の分散媒体中での分散安定性及び耐久性の向上のため、その凝集粒子表面に無機物が被覆されていることが好ましい。使用できる無機物としては、アルミニウム、ケイ素、亜鉛、チタニウム、ジルコニウム、鉄、セリウム及び錫等の金属の含水酸化物又は酸化物が挙げられる。これに用いられる前記金属塩には何ら使用制限はない。更に、これらの酸化チタンは化粧料に配合する前に、あらかじめ撥水及び/又は撥油化処理が施されていることが好ましい。当該処理物は有機物であり、ジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン等のシリコーン系化合物、シラン系、アルミニウム系、チタニウム系及びジルコニウム系等のカップリング剤、パーフルオロアルキルリン酸化合物等のフッ素化合物、炭化水素、レシチン、アミノ酸、ポリエチレン、ロウ、ラウリン酸やステアリン酸等の脂肪酸等が挙げられる。
(併用可能な無機顔料及び有機顔料)
【0019】
本発明の化粧料には、通常の化粧料に使用される無機顔料、有機顔料等の各種成分を必要に応じて併用できる。併用できる無機顔料には、酸化チタン、酸化亜鉛、ベンガラ、黄酸化鉄、黒酸化鉄、群青、紺青、酸化セリウム、タルク、白雲母、合成雲母、金雲母、黒雲母、合成フッ素金雲母、雲母チタン、雲母状酸化鉄、セリサイト、ゼオライト、カオリン、ベントナイト、クレー、ケイ酸、無水ケイ酸、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、ケイ酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、チッ化ホウ素、オキシ塩化ビスマス、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化クロム、カラミン、ヒドロキシアパタイトおよびこれらの複合体等を用いることができる。同じく併用できる有機顔料には、シリコーン粉末、シリコーン弾性粉末、ポリウレタン粉末、セルロース粉末、ナイロン粉末、ウレタン粉末、シルク粉末、PMMA粉末、スターチ、ポリエチレン粉末、ポリスチレン粉末、カーボンブラック、タール色素、天然色素、ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸等およびこれらの複合体等を用いることができる。
(配合可能な成分)
【0020】
なお、本発明の化粧料は、上記成分の他に、目的に応じて本発明の効果を損なわない量的、質的範囲内で他の成分を配合することができる。例えば、油性成分、色素、pH調整剤、保湿剤、増粘剤、界面活性剤、分散剤、安定化剤、着色剤、防腐剤、酸化防止剤、金属封鎖剤、収斂剤、消炎剤、紫外線吸収剤、香料等も、本発明の目的を達する範囲内で適宜配合することができる。
(化粧料の剤型)
【0021】
本発明の化粧料は公知の方法で製造することができ、化粧料の剤型としては粉末状、粉末固形状、クリーム状、乳液状、ローション状、油性液状、油性固形状、ペースト状等のいずれの状態であってもよく、例えばメークアップベース、ファンデーション、コンシーラー、フェースパウダー、コントロールカラー、日焼け止め化粧料、口紅、リップクリーム、アイシャドウ、アイライナー、マスカラ、チークカラー、マニキュア、ボディーパウダー、パヒュームパウダー、ベビーパウダー等のメークアップ化粧料、スキンケア化粧料、ヘアケア化粧料等とすることができる。
(短冊状あるいは藁束状ルチル型酸化チタンの配合量)
【0022】
これらの化粧料中の短冊状あるいは藁束状ルチル型酸化チタンの配合量は、各種化粧料の要求特性に応じて任意に設定することができるが0.1〜50重量%、好ましくは1〜45重量%である。本発明の短冊状あるいは藁束状ルチル型酸化チタンを用いた化粧料においては目的に応じ異なる粒径並びに形状の酸化チタンと併用しても良い。
【実施例】
【0023】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。以下に挙げる例は単に例示のために記すものであり、発明の範囲がこれによって制限されるものではない。
[実施例1]
【0024】
ルチル型酸化チタンの合成:160g/Lの炭酸ナトリウム溶液中に硫酸チタニル溶液を、液温が25℃を越えないようにゆっくりと滴下し、pHが10になったとき硫酸チタニルの滴下を止めた。この中和で得られたオルソチタン酸の白色沈殿をろ過し、十分洗浄した。洗浄したオルソチタン酸ケーキを希塩酸によりリパルプし塩酸濃度20g/Lに調整し25℃にて3時間解膠を行った。その後、濃塩酸並びにクエン酸を添加してTiO濃度80g/L、塩酸濃度80g/L、クエン酸濃度0.8g/Lに調整した。次に、撹拌しながら加温し液温を40℃に合わせ、撹拌しながら40℃で20時間加水分解を行い、ルチル型酸化チタンを合成した。得られたルチル型酸化チタンは、比表面積が172m/gであり、その形状を透過型電子顕微鏡で観察したところ、見掛けの平均長軸長80nm、見掛けの平均短軸長20nm、見掛けの平均軸比4.0である棒状粒子が束状に配向して凝集した図1に示す短冊状粒子であった。
【0025】
表面処理:得られたルチル型酸化チタン含有水懸濁液を加温し70℃に調整した。次いで、酸化チタンに対しAlとして15重量%のアルミン酸ナトリウムを撹拌しながらゆっくりと添加し、1時間撹拌を行った後、希硫酸を添加しpHを8.0に調整した。次に、酸化チタンに対し18重量%のステアリン酸ナトリウムを添加し、1時間撹拌を行った後、希硫酸によりpHを6.5に調整した。ろ過、水洗後、乾燥機にて110℃で12時間乾燥して表面処理ルチル型酸化チタンを得た。被覆粉体の比表面積は56m/gであった。
[実施例2]
【0026】
ルチル型酸化チタンの合成:実施例1と同様にして得られたオルソチタン酸の白色沈殿をろ過し、十分洗浄した。洗浄したオルソチタン酸ケーキを希塩酸によりリパルプし塩酸濃度20g/Lに調整し35℃にて3時間解膠を行った。その後、濃塩酸並びにクエン酸を添加してTiO濃度90g/L、塩酸濃度90g/L、クエン酸濃度2.7g/Lに調整した。次に、撹拌しながら加温し液温を40℃に合わせ、撹拌しながら40℃で20時間加水分解を行い、ルチル型酸化チタンを合成した。得られたルチル型酸化チタンは、比表面積が215m/gであり、その形状を透過型電子顕微鏡で観察したところ、この粒子は見掛けの平均長軸長65nm、見掛けの平均短軸長25nm、見掛けの平均軸比2.6である棒状粒子が束状に配向して凝集した図2に示す藁束状粒子であった。
表面処理:実施例1と同様な表面処理により表面処理ルチル型酸化チタンを得た。被覆粉体の比表面積は74m/gであった。
[実施例3]
【0027】
ルチル型酸化チタンの合成:実施例1と同様にして得られたオルソチタン酸の白色沈殿をろ過し、十分洗浄した。洗浄したオルソチタン酸ケーキを希塩酸によりリパルプし塩酸濃度20g/Lに調整し35℃にて3時間解膠を行った。その後、濃塩酸並びにクエン酸を添加してTiO濃度80g/L、塩酸濃度120g/L、クエン酸濃度4.0g/Lに調整した。次に、撹拌しながら加温し液温を40℃に合わせ、撹拌しながら40℃で20時間加水分解を行い、ルチル型酸化チタンを合成した。得られたルチル型酸化チタンは、比表面積が220m/gであり、その形状を透過型電子顕微鏡で観察したところ、この粒子は見掛けの平均長軸長が54nm、見掛けの平均短軸長が36nm、見掛けの平均軸比1.5である棒状粒子が束状に配向して凝集した図3に示す藁束状粒子であった。
表面処理:実施例1と同様な表面処理により表面処理ルチル型酸化チタンを得た。被覆粉体の比表面積は96m/gであった。
[比較例]
【0028】
ルチル型酸化チタンの合成:硫酸チタニル溶液を加熱分解し、ろ過、洗浄した含水酸化チタンスラリーに苛性ソーダ溶液を撹拌しながら投入し、95℃で2時間加熱した。次いでこの処理物を十分洗浄して得られたスラリーに塩酸を撹拌しながら投入し、TiO濃度90g/L、塩酸濃度80g/Lに調整して、95℃で2時間加熱して加水分解を行い、ルチル型酸化チタンを合成した。得られたルチル型酸化チタンは、比表面積98m/gであり、その形状を透過型電子顕微鏡で観察したところ、この粒子は平均長軸長80nm、平均短軸長10nmの凝集していない紡錘状粒子であった。
表面処理:実施例1と同様な表面処理により表面処理ルチル型酸化チタンを得た。被覆粉体の比表面積は64m/gであった。
(透明性の評価)
【0029】
実施例1,2,3および比較例で得た表面処理微粒子ルチル型酸化チタンを、それぞれ微粒子酸化チタン/環状シリコーン(信越化学製KF−995)/シリコーン系分散剤(信越化学製KF−6028)/1mmφジルコニアビーズ=40g/50g/10g/300gの配合割合で250mLガラスマヨネーズ瓶に採取し、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)を使用して2時間分散した。得られた各分散体を石英ガラス板上へ10μmの膜厚になるよう塗布し、分光光度計(JASCO製U−BEST V−560)を用いて波長300nm〜800nmにおける上記膜の透過率曲線を図4に示した。また、図5には紫外線遮蔽能を示すため300nm〜400nmの透過率曲線を示した。
【0030】
図4は本発明の短冊状あるいは藁束状酸化チタンは従来の紡錘状酸化チタンに比べ透明性が良好であることを示している。また、図5は本発明の短冊状あるいは藁束状酸化チタンは従来の紡錘状酸化チタンより長波長の紫外線を遮蔽しており、紫外線遮蔽能が良好であることを示している。
(化粧料)
【0031】
以下、本発明の短冊状あるいは藁束状酸化チタン粉体を配合した化粧料について説明する。
[処方例1:W/O乳液型サンスクリーン]
透明性の評価において作製した分散体を用い、実施例並びに比較例で得られた表面処理酸化チタンを使用した、W/O乳液型サンスクリーンを作製した。
(成分) 重量(%)
1.架橋型ポリエーテル変性シリコーン(注1) 2.0
2.架橋型ジメチルポリシロキサン(注2) 3.0
3.デカメチルシクロペンタシロキサン 13.5
4.ジメチルポリシロキサン(6mm/秒(25℃)) 7.0
5.製造実施例並びに製造比較例で得た表面処理酸化チタンの分散体 25.0
6.シリコーン処理タルク 4.0
7.1,3−ブチレングリコ−ル 5.0
8.クエン酸ナトリウム 0.4
9.塩化ナトリウム 0.5
10.防腐剤 適 量
11.精製水 残 余
(注1)信越化学工業(株)製:KSG−210
(注2)信越化学工業(株)製:KSG−15
(製造方法)
A:成分1〜5を均一に混合し、6を均一に分散する。
B:成分7〜11を均一に混合する。
C:撹拌下、AにBを徐添して乳化し、W/O乳液型サンスクリーンを得た。
(紫外線遮蔽能の評価)
【0032】
W/O乳液型サンスクリーンをトランスポアテープに2mg/cm塗布した後、Labsphere社製UV−1000SSPFアナライザーで測定した結果を表1に示した。
【表1】

表1のように本発明の束状粒子は比較例の紡錘状粒子より紫外線遮蔽能が高いものであった。
【0033】
また、得られたサンスクリーンを、10名の専門パネルにより、官能試験を行なったところ、本発明の短冊状あるいは藁束状粒子を使用したサンスクリーンはいずれも青味感がなく透明感に優れ、そして、ざらつき感がなく、素肌になじむという評価が得られた。
[処方例2:W/Oクリーム]
(成分) 重量(%)
1.架橋型ポリエーテル変性シリコーン(注1) 3.5
2.架橋型ジメチルポリシロキサン(注2) 5.0
3.分岐型ポリエーテル変性シリコーン(注3) 1.0
4.有機変性ベントナイト 1.2
5.トリエチルヘキサノイン 5.0
6.ジメチルポリシロキサン(6mm/秒(25℃)) 5.5
7.デカメチルシクロペンタシロキサン 9.0
8.アクリルシリコーン樹脂溶解品(注4) 1.5
9.製造実施例並びに製造比較例で得た表面処理酸化チタンの分散体 25.0
10.1,3−ブチレングリコ−ル 5.0
11.クエン酸ナトリウム 0.4
12.精製水 残 余
(注1)信越化学工業(株)製:KSG−210
(注2)信越化学工業(株)製:KSG−15
(注3)信越化学工業(株)製:KF−6028
(注4)信越化学工業(株)製:KP−575
(製造方法)
A:成分1〜8を混合して均一に分散させる。
B:成分10.11.12を混合し溶解させる。
C:AにBを加え均一に混合する。
D:Cに成分9を加え均一に混合し、W/Oクリームを得た。
【0034】
得られたサンスクリーンを、10名の専門パネルにより、官能試験を行なったところ、本発明の短冊状あるいは藁束状粒子を使用したサンスクリーンはいずれも青味感がなく透明感に優れ、そして、ざらつき感がなく、素肌になじむという評価が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状粒子が束状に配向凝集した粒子形態で、配向凝集した粒子の見掛け平均長軸長40〜80nm、配向凝集した粒子の見掛け平均短軸長15〜40nm、見掛け平均軸比(見掛け平均長軸長/見掛け平均短軸長)1.2〜5.0で、比表面積が150〜250m/gを示すルチル型酸化チタンであることを特徴とする短冊状あるいは藁束状ルチル型酸化チタン。
【請求項2】
酸可溶性チタン化合物に脂肪族ヒドロキシ酸化合物と塩酸を添加して反応させることを特徴とする請求項1記載の短冊状あるいは藁束状ルチル型酸化チタン。
【請求項3】
脂肪族ヒドロキシ酸化合物がクエン酸化合物あるいはイソクエン酸化合物である請求項2記載の短冊状あるいは藁束状ルチル型酸化チタン。
【請求項4】
酸可溶性チタン化合物に含まれるTiOに対し、脂肪族ヒドロキシ酸化合物を0.5〜5.5重量%添加することを特徴とする請求項2記載の短冊状あるいは藁束状ルチル型酸化チタン。
【請求項5】
粒子表面を無機物及び有機物の一種または二種以上で含む層で被覆したことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の短冊状あるいは藁束状ルチル型酸化チタン。
【請求項6】
粒子表面を被覆する無機物がアルミニウム、ケイ素、チタニウム、ジルコニウム及び錫のうちの一種又は二種以上であることを特徴とする、請求項5記載の短冊状あるいは藁束状ルチル型酸化チタン。
【請求項7】
粒子表面を被覆する有機物がシリコーン系化合物、各種カップリング剤や脂肪酸化合物のうちの一種又は二種以上であることを特徴とする、請求項5記載の短冊状あるいは藁束状ルチル型酸化チタン。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の短冊状あるいは藁束状ルチル型酸化チタンを含有することを特徴とする化粧料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−1199(P2011−1199A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−142942(P2009−142942)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【出願人】(000109255)チタン工業株式会社 (17)
【Fターム(参考)】