説明

核医学診断装置

【課題】RI分布画像取得用のエミッションデータの吸収補正で被検体の幾何的態様に起因する補正誤差が生じるのを抑える。
【解決手段】この発明の装置は、トランスミッションデータを再構成処理して得られた被検体Mの全体吸収係数マップから分別取得した体内吸収係数マップについての被検体Mの体軸Zと垂直な所定区域毎に所定区域内の吸収係数の理論上の吸収係数に対するズレの度合いを吸収係数ズレ度合い検出部12で検出すると共に、検出された吸収係数のズレの度合いにしたがって各所定区域内の吸収係数を吸収係数修正部13で修正することにより、体内吸収係数マップは被検体Mの幾何的態様が十分に反映されたものになる。エミッションデータの吸収補正に用いる吸収係数マップは被検体Mの幾何的態様が十分に加味されたものとなるので、エミッションデータの吸収補正で被検体Mの幾何的態様の違いに起因する補正誤差が生じるのを抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、被検体に予め投与された放射性同位元素(適宜「RI」と略記)によって放出される放射線(例えばγ線)を検出することによりエミッションデータを収集すると共に収集したエミッションデータ(放射データ)にしたがってRI分布画像を取得する核医学診断装置に係り、特にRI分布画像取得用のエミッションデータを吸収補正するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
核医学診断装置の一つであるPET(ポジトロン・エミッション・トモグラフィ)装置は、被検体に投与されたRIにより体外に放射される511keVのエネルギーの放射線(消滅γ線)を検出することによりエミッションデータを収集すると共に、収集したエミッションデータにしたがってRI分布画像を取得する装置である。被検体に投与されたRIのポジトロンの消滅に伴って同時に発生して反対方向に向かって進む二つの消滅γ線は、シンチレータとフォトマルチプライヤ(光電子増倍管)からなる放射線検出器(γ線検出器)で同時に検出される。PET装置で使われるRIは、11C,13N,15O,18Fなど半減期の短いものである。
【0003】
一方、PET装置の場合、エミッションデータの吸収補正がRI分布画像に定量性をもたらすうえで不可欠である。エミッションデータの吸収補正としては、コインシデンストランスミッション補正法とシングルトランスミッション補正法があり、近年、特に吸収補正に必要なトランスミッションデータを収集する際にCs−137(光子エネルギー662keV)を外部線源として使うシングルトランスミッション補正法が、PET装置にも採り入れられている。Cs−137を外部線源に使うと、線源コストが安いうえに線源の寿命も長く、加えてトランスミッションデータの収集時間を短縮させられる等のメリットがある。
【0004】
他方、PET装置におけるエミッションデータの吸収補正の場合、被検体の外部放射線源の放射線を検出することによりトランスミッションデータ(透過データ)を収集した後、その収集されたトランスミッションデータを再構成処理して被検体の吸収係数の3次元分布に相応する吸収係数マップを取得し、吸収係数マップを用いて収集されたエミッションデータの吸収補正処理が行なわれる。
【0005】
従来のPET装置にCs−137を外部線源に使うシングルトランスミッション補正法が適用される場合、吸収係数マップの吸収係数が適合するエネルギーを、トランスミッションデータ収集用の外部放射線源から放出されるCs−137のエネルギーである662keVから、被検体に投与されたRIにより体外に放出される放射線の511keVのエネルギーへ変換する処理をした後、吸収係数マップをエミッションデータの吸収補正処理に用いる。
【0006】
加えて、吸収係数マップにおける軟組織や肺野などの領域を抽出すると共に、抽出した各領域の吸収係数を一律に理論上の吸収係数へ変更するセグメンテーション処理も行なわれている(非特許文献1を参照)。
【0007】
【非特許文献1】K.Blingel,L.E.Adam,J.S.Karp,"Segmented Attenuation Correction using Cs-137Single Photon Transmission"IEEE NSS & MIC Conference Record.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来のPET装置の場合、エミッションデータの吸収補正の際に往々にして補正誤差が生じるという問題がある。トランスミッションデータを再構成処理して取得する吸収係数マップに被検体のサイズや形状など幾何的態様の違いが余り反映されておらず、吸収係数マップが被検体のサイズ等によっては的確でないからである。
具体的には、例えばサイズの大きい被検体の場合、散乱放射線が多くなって同時計数値が増える結果、見かけ上、放射線の吸収率が下がる、即ち被検体の吸収係数が過少に見積もられる事態が生じる。
【0009】
この発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、エミッションデータの吸収補正で被検体のサイズや形状など幾何的態様に起因する補正誤差が生じるのを抑えることができる核医学診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち、請求項1に記載の発明に係る核医学診断装置は、(A)被検体に投与された放射性同位元素(RI)によって放出される放射線を検出することによりRI分布画像取得用のエミッションデータ(放射データ)を収集するエミッションデータ収集手段と、(B)被検体に照射される外部放射線源の放射線を検出することによりトランスミッションデータ(透過データ)を収集するトランスミッションデータ収集手段と、(C)収集されたトランスミッションデータを再構成処理して被検体の体内および体外の両方の吸収係数の3次元分布に相応する全体吸収係数マップを取得する全体吸収係数マップ取得手段と、(D)全体吸収係数マップから被検体の体内だけの吸収係数の3次元分布に相応する体内吸収係数マップと被検体の体外だけの吸収係数の3次元分布に相応する体外吸収係数マップをそれぞれ取得する体内外別吸収係数マップ取得手段と、(E)体内吸収係数マップについての被検体の体軸と垂直な所定区域毎に所定区域内の吸収係数の理論上の吸収係数に対するズレの度合いを検出する吸収係数ズレ度合い検出手段と、(F)吸収係数ズレ度合い検出手段により検出された吸収係数のズレの度合いにしたがって各所定区域内の吸収係数を修正する吸収係数修正手段と、(G)吸収係数修正手段による修正を終えた体内吸収係数マップと体外吸収係数マップを合成処理して被検体の体内外の吸収係数の3次元分布に相応する合体吸収係数マップを取得する合体吸収係数マップ取得手段とを備え、合体吸収係数マップ取得手段により取得された合体吸収係数マップを用いて収集されたエミッションデータの吸収補正処理を行なうことを特徴とするものである。
【0011】
[作用・効果]請求項1の発明の核医学診断装置によりRI分布画像を撮影取得する場合、先ずトランスミッションデータ収集手段により被検体に照射される外部放射線源の放射線を検出することによりトランスミッションデータ(透過データ)が収集される。続いて全体吸収係数マップ取得手段が、収集されたトランスミッションデータを再構成処理して被検体の体内および体外の両方の吸収係数の3次元分布に相応する全体吸収係数マップを取得する。その後、体内外別吸収係数マップ取得手段により、全体吸収係数マップから被検体の体内の吸収係数の3次元分布に相応する体内吸収係数マップと被検体の体外の吸収係数の3次元分布に相応する体外吸収係数マップとがそれぞれ取得される。
【0012】
続いて、吸収係数ズレ度合い検出手段により体内吸収係数マップについての被検体の体軸と垂直な所定区域毎に所定区域内の吸収係数の理論上の吸収係数に対するズレの度合いが検出された後、吸収係数修正手段により吸収係数ズレ度合い検出手段で検出された吸収係数のズレの度合いにしたがって各所定区域内の吸収係数が修正される。次に、合体吸収係数マップ取得手段により吸収係数修正手段による修正を終えた体内吸収係数マップと体外吸収係数マップが合成処理されて被検体の体内外の吸収係数の3次元分布に相応するひとつの合体吸収係数マップが取得される。
【0013】
そして、エミッションデータ収集手段により被検体に投与されたRIによって放出される放射線を検出することによりRI分布画像取得用のエミッションデータが収集されると共に、合体吸収係数マップを用いて収集されたエミッションデータの吸収補正処理を行なわれてから画像再構成処理によってRI分布画像が取得される。
【0014】
すなわち、請求項1の発明の核医学診断装置の場合、トランスミッションデータを再構成処理して取得した被検体の体内および体外の両吸収係数の3次元分布に相応する全体吸収係数マップから分別取得した体内吸収係数マップは、被検体の体内の吸収係数だけの3次元分布に相応するマップであるのに加え、体内吸収係数マップについての被検体の体軸と垂直な所定区域は被検体の輪切り片に対応しており、被検体の体軸と垂直な所定区域は被検体の所定区域の幾何的態様をよく反映している。
【0015】
その結果、体内吸収係数マップについての被検体の体軸と垂直な所定区域毎に所定区域内の吸収係数の理論上の吸収係数に対するズレの度合いを検出すると共に検出された吸収係数のズレの度合いにしたがって各所定区域内の吸収係数を修正することによって、体内吸収係数マップは全体的に被検体の幾何的態様が十分に反映されたものとなるので、体内吸収係数マップと体外吸収係数マップを合成した合体吸収係数マップも、やはり全体的に被検体の幾何的態様がよく反映されたものとなる。
【0016】
したがって、合体吸収係数マップを用いて行なうRI分布画像取得用のエミッションデータの吸収補正には、被検体の幾何的態様が十分に加味される。
よって、請求項1の発明の核医学診断装置によれば、RI分布画像取得用のエミッションデータの吸収補正で被検体のサイズや形状など幾何的態様に起因する補正誤差が生じるのを抑えられる。
【0017】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の核医学診断装置において、吸収係数ズレ度合い検出手段は、体内吸収係数マップについての被検体の体軸と垂直な所定区域毎に、吸収係数の係数値ヒストグラムを求めると共に係数値ヒストグラムでピークの位置にくる高頻度吸収係数μA と理論上の吸収係数μB との比μB/μA を各所定区域における吸収係数のズレの度合いとして検出すると共に、吸収係数修正手段は、所定区域内の各吸収係数に比μB/μA を乗算することにより吸収係数の修正を行なうものである。
【0018】
[作用・効果]請求項2の発明の核医学診断装置の場合、吸収係数ズレ度合い検出手段は、体内吸収係数マップについての被検体の体軸と垂直な所定区域毎に、吸収係数の係数値ヒストグラムを求めると共に係数値ヒストグラムでピークの位置にくる高頻度吸収係数μA と理論上の吸収係数μB との比μB/μA を各所定区域における吸収係数のズレの度合いとして速やかに検出する。また、吸収係数修正手段は、所定区域内の各吸収係数に比μB/μA を乗算(掛け算処理)することで吸収係数の修正を速やかに行なう。
【0019】
また、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の核医学診断装置において、理論上の吸収係数が被検体における軟組織領域についての吸収係数であるものである。
【0020】
[作用・効果]請求項3の発明の核医学診断装置の場合、体内吸収係数マップにおいて大部分を占める軟組織領域の吸収係数の理論上の吸収係数に対するズレが抑えられる。
【0021】
また、請求項4に記載の発明は、吸収係数修正手段は、吸収係数に対するμB/μA の乗算処理の後、さらに理論上の吸収係数を含む所定範囲内の吸収係数を全て理論上の吸収係数へ一律に変更するセグメンテーション処理を行なうものである。
【0022】
[作用・効果]請求項4の発明の核医学診断装置の場合、体内吸収係数マップの吸収係数のうち理論上の吸収係数を含む所定範囲内の吸収係数が、セグメンテーション処理によって全て理論上の吸収係数に揃えられる結果、吸収係数のバラツキ(変動)が抑えられる。
【0023】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1から4のいずれかに記載の核医学診断装置において、(H)全体吸収係数マップの吸収係数の対応するエネルギーを、トランスミッションデータ収集用の外部放射線源より放出される放射線のエネルギーからエミッションデータ収集用の放射性同位元素(RI)により放出される放射線のエネルギーに変換する対応エネルギー変換手段を備えているものである。
【0024】
[作用・効果]請求項5の発明の核医学診断装置の場合、対応エネルギー変換手段により、全体吸収係数マップの吸収係数の対応するエネルギーが、トランスミッションデータ収集用の外部放射線源より放出される放射線のエネルギーからエミッションデータ収集用の放射性同位元素(RI)の消滅に伴って放出される放射線のエネルギーに変換される。 したがって、請求項5の発明の核医学診断装置によれば、エミッションデータ収集用の放射性同位元素(RI)により放出される放射線のエネルギーとは異なるエネルギーの放射線を放出する放射線源をトランスミッションデータ収集用の外部放射線源として用いることができる。
【発明の効果】
【0025】
この発明の核医学診断装置の場合、トランスミッションデータを再構成処理して得られた被検体の体内および体外の両吸収係数の3次元分布に相応する全体吸収係数マップから分別取得した体内吸収係数マップは、被検体の体内の吸収係数だけの3次元分布に相応するマップであるのに加え、体内吸収係数マップについての被検体の体軸と垂直な所定区域は被検体の輪切り片に対応しており、被検体の体軸と垂直な所定区域は被検体の所定区域の幾何的態様をよく反映している。その結果、体内吸収係数マップについての被検体の体軸と垂直な所定区域毎に所定区域内の吸収係数の理論上の吸収係数に対するズレの度合いを検出すると共に検出された吸収係数のズレの度合いにしたがって各所定区域内の吸収係数を修正することによって、体内吸収係数マップは全体的に被検体の幾何的態様が十分に反映されたものとなるので、体内吸収係数マップと体外吸収係数マップを合成した合体吸収係数マップも、やはり全体的に被検体の幾何的態様がよく反映されたものとなる。
【0026】
したがって、合体吸収係数マップを用いて行なうRI分布画像取得用のエミッションデータの吸収補正には、被検体の幾何的態様が十分に加味される。
よって、この発明の核医学診断装置によれば、RI分布画像取得用のエミッションデータの吸収補正で被検体のサイズや形状など幾何的態様に起因する補正誤差が生じるのを抑えることができる。
【実施例】
【0027】
この発明の核医学診断装置の実施例を図面を参照しながら説明する。図1はこの発明の核医学診断装置の実施例に係るPET装置の全体構成を示すブロック図である。
【0028】
図1に示す実施例のPET装置は、放射線(γ線)を検出する放射線検出器(γ線検出器)1が配備されているガントリ2と、被検体Mが載置される天板3を備えている。放射線検出器1は、入射放射線を光に変換するシンチレータ1Aの後にシンチレータ1Aから放出される光を電気に変換して出力するフォトマルチプライヤ1Bを配置した構成とされ、ガントリ2の開口部2Aを取り囲むかたちでリング状に設置されている。天板3は天板駆動部4により被検体Mを載置したまま、矢印RAで示す上下方向や矢印RBで示す被検体Mの体軸Zの方向に移動可能とされていて、RI分布画像の撮影時は、図1に示すように、天板3を移動させて被検体Mをガントリ2の開口部2Aの内側に進入させる。
【0029】
実施例のPET装置の場合、ガントリ2の開口部2Aには、シングルトランスミッションデータ収集用の外部放射線源5も配備されている。外部放射線源5は点状線源であって、開口部2Aの中央又は端部に配設されて、データ収集の際に外部線源駆動部6により被検体Mの周りを、矢印RCで示すように回転させられる。また外部放射線源5は662keVのエネルギーの放射線(γ線)を放出するCs−137が線源として用いられている。実施例では、外部放射線源5から放出された放射線をエミッションデータ収集用に放射線検出器1で検出しているが、別途専用の検出器を設けても良い。
【0030】
一方、実施例のPET装置は、被検体Mに投与された放射性同位元素(RI)によって放出される放射線(γ線)を検出することによりRI分布画像取得用のエミッションデータ(放射データ)を収集するエミッションデータ収集部7を放射線検出器1の後段に備えている。エミッションデータ収集部7の場合、被検体Mに投与されるポジトロン放出型の放射性同位元素が、ポジトロンの消滅に伴って同時に発生して反対方向に向かって進む511keVのエネルギーの二つの放射線(消滅γ線)を同時に検出した時のデータのみをエミッションデータとして収集する構成とされている。
【0031】
他方、実施例のPET装置は、外部線源駆動部6で駆動される外部放射線源5の位置をモニタしながら、被検体Mに照射される外部放射線源5の放射線を検出することによりトランスミッションデータ(透過データ)を収集するトランスミッションデータ収集部8も放射線検出器1の後段に備えていると共に、収集されたトランスミッションデータを再構成処理して被検体Mの体内および体外の両方の吸収係数の3次元分布に相応する全体吸収係数マップを取得する全体吸収係数マップ取得部9を備えている。なお、被検体Mの体外の吸収係数としては、例えば天板3についての吸収係数が挙げられる。被検体Mの周りの空気の吸収係数も一応はあるが、空気の吸収係数は事実上ゼロであり、無視できる。
【0032】
また、全体吸収係数マップ取得部9に続いて、全体吸収係数マップの吸収係数の対応するエネルギーを、トランスミッションデータ収集用の外部放射線源5より放出される放射線のエネルギーからエミッションデータ収集用の放射性同位元素(RI)により放出される放射線のエネルギーに変換する対応エネルギー変換部10が備えられている。全体吸収係数マップ取得部9で取得される全体吸収係数マップは、外部放射線源5により放出される放射線の662keVのエネルギーに対応しているので、被検体Mに投与されるポジトロン放出型のRIによって放出される511keVのエネルギーに対応するマップに変換するのである。具体的には全体吸収係数マップの吸収係数を全て〔(511keVの放射線の水に対する吸収率0.095)÷(622keVの放射線の水に対する吸収率0.084)〕倍する。つまり全体吸収係数マップの吸収係数が1.13(=0.095/0.084)倍される。
【0033】
こうして、トランスミッションデータを再構成処理してから対応するエネルギーが変換された吸収係数マップは、RI分布画像取得用のエミッションデータの吸収補正に用いられるのであるが、実施例のPET装置は、吸収係数マップを全体的に被検体Mの幾何的態様が十分に反映されたものにする為の構成を備えている点を特徴としているので、以下、この特徴とする構成を具体的に説明する。
【0034】
まず実施例のPET装置は、対応エネルギー変換部10により対応エネルギーが変換された全体吸収係数マップから被検体Mの体内だけの吸収係数の3次元分布に相応する体内吸収係数マップと被検体Mの体外だけの吸収係数の3次元分布に相応する体外吸収係数マップをそれぞれ取得する体内外別吸収係数マップ取得部11を備えている。
【0035】
以下に体内外別吸収係数マップ取得部11における処理の例を説明する。まず、被検体Mの軟組織領域の吸収係数よりも小さく、かつ体外の吸収係数よりも大きな値をもつ適宜の閾値を設定する。全体吸収係数マップの吸収係数を前記閾値と比較することにより体内と体外の吸収係数を弁別する。具体的には、全体吸収係数マップを縦横の吸収係数の配列に沿って線順次に処理してゆく。1つの配列ラインに沿った処理について説明すると、その配列ライン上の各吸収係数を体外から体内に向かう方向に閾値と比較する。そして、吸収係数と閾値の大小関係が逆転した位置を体外から体内への境界位置として記憶する。同じ配列ラインについて逆方向からも同様にして体外から体内への境界位置を検出する。以上の処理を縦横の全ての配列ラインに沿って行なうことにより、体内の吸収係数と体外の吸収係数とを弁別することができる。なお、天板3の部分についてはノイズなどの影響で閾値よりも大きな吸収係数が存在することも考えられる。そこで、体内外の吸収係数を弁別する際に天板3の位置情報を参照し、全体吸収係数マップ内において天板3が存在する領域を特定し、その領域内の吸収係数は強制的に体外の吸収係数であると判定するようにしてもよい。
【0036】
ここで全体吸収係数マップと体内吸収係数マップおよび体外吸収係数マップの相違の理解の為に、各吸収係数マップの補正係数を画素値(ピクセル値)として被検体Mの体軸Zを含む縦断面を図2〜図4にそれぞれ模式的に画像化して示す。全体吸収係数マップ対応画像P1は、図2に示すように、被検体Mと天板3の断面の両方が写された画像となる。体内吸収係数マップ対応画像P2は、図3に示すように、被検体Mの断面だけが写された画像となり、体外吸収係数マップ対応画像P3は、図4に示すように、天板3の断面だけが写された画像となる。
【0037】
さらに実施例のPET装置は、図5に示すように、体内外別吸収係数マップ取得部11により取得された体内吸収係数マップについての被検体Mの体軸Zと垂直な所定区域Ma1〜Man毎に所定区域Ma1〜Man内の吸収係数の理論上の吸収係数に対するズレの度合いを検出する吸収係数ズレ度合い検出部12を備えている。被検体Mの体内だけの吸収係数の3次元分布に相応する体内吸収係数マップについての被検体Mの体軸Zと垂直な所定区域Ma1〜Manは、被検体Mの輪切り片に対応している。被検体Mの体軸Zと垂直な所定区域Ma1〜Manは被検体Mの所定区域の幾何的態様(例えば、断面積の大小)をよく反映している。
【0038】
なお、所定区域Ma1〜Manの幅(厚み)は1スライス(1横断面)分でもよいし、複数スライス分でもよいが、通常、ヒストグラムの統計精度を高める為に複数スライス分を纏めた幅とする。体内吸収係数マップについての被検体Mの体軸Zと垂直な所定区域Ma1〜Manの理解の為に、一つの所定区域Makの補正係数を画素値(ピクセル値)として被検体Mの体軸Zに対し垂直な横断面を模式的に画像化して示す。所定区域対応画像P4は、図6に示すように、所定区域Makの位置での被検体Mの横断面が写された画像となる。
【0039】
実施例の装置の吸収係数ズレ度合い検出部12の場合、体内吸収係数マップに関して被検体Mの体軸Zと垂直な所定区域Ma1〜Man毎に、高頻度吸収係数μA と理論上の吸収係数μB との比μB/μA をそれぞれ求めることで各所定区域Ma1〜Manにおける吸収係数のズレの度合いが速やかに検出される。任意の所定区域Makにしたがって具体的に説明すると、図7に示すように、先ず所定区域Makの係数値ヒストグラムQAを求め、ついで係数値ヒストグラムQAの上のピークqaの頂点位置になる高頻度吸収係数μA を求めてから、理論上の吸収係数μB との比μB/μA を求める。なお、係数値ヒストグラムQAでピークqaの頂点位置を求めるには、図7に一点鎖線で示すガウスピークgpを用いて係数値ヒストグラムQAの上でガウスピークgpが最もよく合う時(Gauss Fitting をした時) のガウスピークgpの頂点位置になる吸収係数を高頻度吸収係数μA とする。
【0040】
加えて、実施例のPET装置は、吸収係数ズレ度合い検出部12により検出された吸収係数のズレの度合いにしたがって各所定区域Ma1〜Man内の吸収係数を修正する吸収係数修正部13を備えている。実施例の装置の吸収係数修正部13の場合、所定区域内の各吸収係数に(高頻度吸収係数μA と理論上の吸収係数μB との比μB/μA )を乗算することにより吸収係数の修正を行なう。図8に示すように、吸収係数修正後の所定区域Makの吸収係数の係数値ヒストグラムQBは、ピークqbの頂点位置が理論上の吸収係数μB にくる。つまり吸収係数修正処理により係数値ヒストグラムQBでは高頻度吸収係数は理論上の吸収係数μB へ移行する。
【0041】
なお、図7と図8に示す理論上の吸収係数μB は被検体Mにおける軟組織領域についての吸収係数(0.095)であるので、高頻度吸収係数も軟組織領域についての吸収係数となるので、体内吸収係数マップにおける軟組織領域についての吸収係数が的確に修正されたことになる。被検体Mは軟組織領域の占有率が非常に大きい為に被検体Mにおける軟組織領域についての吸収係数のズレが的確に修正されるということは、体内吸収係数マップ全体が的確なものとなることを意味する。
【0042】
また、実施例のPET装置の場合は、吸収係数修正部13は、吸収係数に対するμB/μA の乗算処理の後、さらに理論上の吸収係数を含む所定範囲内の吸収係数を全て理論上の吸収係数μB へ一律に変更するセグメンテーション処理を行なう。具体的には、図9に示すように、吸収係数μB よりf1・σだけ下の吸収係数〜吸収係数μB よりf2・σだけ上の吸収係数の範囲の全吸収係数を全て吸収係数μB に変更する。但し、f1,f2は予め決定された定数であり、σは標準偏差である。このセグメンテーション処理によって、体内吸収係数マップの吸収係数のうち理論上の吸収係数を含む所定範囲内の吸収係数が全て理論上の吸収係数に揃えられる結果、吸収係数のバラツキ(変動)が抑えられる。被検体Mの位置に起因する吸収係数の変動や統計的ゆらぎ(統計ノイズ)に起因する吸収係数の変動などが抑えられることになる。
【0043】
そして、実施例のPET装置は、吸収係数修正部13による処理を終えた体内吸収係数マップと体外吸収係数マップを合成処理して被検体の体内外の吸収係数の3次元分布に相応する合体吸収係数マップを取得する合体吸収係数マップ取得部14を備えている。合体吸収係数マップ取得部14は、いったん二つに分別した吸収係数マップを合成(合体化)してエミッションデータの吸収補正に用いるのに適当な一つのマップに戻す。
なお、通常、合体吸収係数マップはエミッション画像再構成より先に取得される必要があるので、取得された合体吸収係数マップは吸収係数マップ記憶用メモリ(図示省略)に保存されることになる。
【0044】
一方、エミッションデータ収集部7の後段に配備されるエミッショデータ補正部15は、合体吸収係数マップ取得部14で取得された合体吸収係数マップを用いてエミッションデータの吸収補正を行なう。具体的には、合体吸収係数マップをフォワードプロジェクション処理してエミッションデータに乗算するなどして吸収補正が行なわれる。エミッショデータ補正部15の後段に配備されているPET再構成部16は、吸収補正済のエミッショデータ、あるいは吸収補正演算を組み込んだ画像再構成法にしたがって再構成処理を行なってPET画像(RI分布画像)を取得する。
【0045】
その他に実施例のPET装置は、PET画像や操作メニューを画面に写し出す表示モニタ17や必要な指令やデータを入力する操作部18を備えている。なお、主制御部19はコンピュータとその作動プログラムを中心に構成され、操作部18により入力される指令やデータあるいは撮影の進行状況に応じて必要な命令やデータを各部に送出し装置を正常に稼働させる役割を果たす。
【0046】
続いて、上述した実施例のPET装置における吸収係数マップ取得プロセスを図面を参照しながら説明する。図10は実施例のPET装置での吸収係数マップ取得プロセスを示すフローチャートである。
〔ステップ1〕被検体Mを天板3に載置してガントリ2の開口部2Aに導入して外部放射線源5から被検体Mに放射線を照射する。
【0047】
〔ステップ2〕トランスミッションデータ収集部8は放射線検出器1から出力される放射線検出信号及び外部線源駆動部6から得られる外部放射線源5の位置情報にしたがってトランスミッションデータを収集する。
【0048】
〔ステップ3〕全体吸収係数マップ取得部9が収集されたトランスミッションデータを再構成処理して全体吸収係数マップを取得する。
【0049】
〔ステップ4〕対応エネルギー変換部10が全体吸収係数マップをエミッションデータ収集用のRIによって放出される放射線のエネルギー(511keV)に対応するマップに変換する。
【0050】
〔ステップ5〕体内外別吸収係数マップ取得部11が全体吸収係数マップから体内吸収係数マップと体外吸収係数マップを分別取得する。
【0051】
〔ステップ6〕吸収係数ズレ度合い検出部12が体内吸収係数マップについての被検体Mの体軸Zと垂直な所定区域Ma1〜Man毎に所定区域Ma1〜Man内の吸収係数の理論上の吸収係数に対するズレの度合い(高頻度吸収係数μA と理論上の吸収係数μB との比μB/μA )を検出する。
【0052】
〔ステップ7〕吸収係数修正部13が吸収係数のズレの度合い(比μB/μA )を各吸収係数に乗算してからセグメンテーション処理を行なって吸収係数を修正する。
【0053】
〔ステップ8〕合体吸収係数マップ取得部14が吸収係数修正部13の処理を終えた体内吸収係数マップと体外吸収係数マップを合成処理して一つの合体吸収係数マップを取得する。
以上で吸収係数マップの取得は完了し、続いてエミッションデータの収集の方に移行する。
【0054】
以上に述べたように、実施例のPET装置の場合、トランスミッションデータを再構成処理して得られた被検体Mの体内および体外の両吸収係数の3次元分布に相応する全体吸収係数マップから分別取得した体内吸収係数マップは、被検体Mの体内の吸収係数だけの3次元分布に相応するマップであるのに加え、体内吸収係数マップについての被検体Mの体軸Zと垂直な所定区域Ma1〜Manは被検体Mの輪切り片に対応しており、被検体Mの体軸Zと垂直な所定区域Ma1〜Manの幾何的態様をよく反映している。
【0055】
その結果、体内吸収係数マップについての被検体Mの体軸Zと垂直な所定区域Ma1〜Man毎に所定区域Ma1〜Man内の吸収係数の理論上の吸収係数に対するズレの度合いを検出すると共に検出された吸収係数のズレの度合いにしたがって各所定区域Ma1〜Man内の吸収係数を修正することによって、体内吸収係数マップは全体的に被検体Mの幾何的態様が十分に反映されたものとなるので、体内吸収係数マップと体外吸収係数マップを合成した合体吸収係数マップも、やはり全体的に被検体Mの幾何的態様がよく反映されたものとなる。
【0056】
したがって、合体吸収係数マップを用いて行なうRI分布画像取得用のエミッションデータの吸収補正には、被検体Mの幾何的態様が十分に加味される。
よって、この発明の核医学診断装置によれば、RI分布画像取得用のエミッションデータの吸収補正で被検体Mのサイズや形状など幾何的態様に起因する補正誤差が生じるのを抑えることができる。
【0057】
この発明は、上記の実施例に限られるものではなく、以下のように変形実施することも可能である。
(1)実施例の場合、PET装置であったが、この発明はSPECT装置などPET装置以外の装置にも適用できる。
【0058】
(2)実施例の場合、吸収係数マップがCs−137を線源として取得したマップであったが、この発明はX線CTによる吸収係数マップにもGe/Ga−68を線源として取得した吸収係数マップにも適用することができる。つまり、トランスミッションデータ収集用の外部放射線源5の線源はCs−137に限られるものではない。
【0059】
(3)実施例の場合、吸収係数マップを体内吸収係数マップと体外吸収係数マップの二つに分別したが、さらに体内吸収係数マップが軟組織と肺野で弁別された複数の体内吸収係数マップに分別されているようであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】実施例のPET装置の全体の構成を示すブロック図である。
【図2】実施例における全体吸収係数マップ対応画像を示す模式図である。
【図3】実施例における体内吸収係数マップ対応画像を示す模式図である。
【図4】実施例における体外吸収係数マップ対応画像を示す模式図である。
【図5】被検体における被検体の体軸と垂直な所定区域を示す模式図である。
【図6】被検体における被検体の体軸と垂直な所定区域対応画像を示す模式図である。
【図7】吸収係数修正前の体内吸収係数マップについての吸収係数の係数値ヒストグラムを示すグラフである。
【図8】吸収係数修正後であってセグメンテーション処理前の体内吸収係数マップについての吸収係数の係数値ヒストグラムを示すグラフである。
【図9】実施例においてセグメンテーション処理の実施対象となる吸収係数範囲を示す模式図である。
【図10】実施例のPET装置での吸収係数マップ取得プロセスを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0061】
1 …放射線検出器
5 …外部放射線源
7 …エミッションデータ収集部
8 …トランスミッションデータ収集部
9 …全体吸収係数マップ取得部
10 …対応エネルギー変換部
11 …体内外別吸収係数マップ取得部
12 …吸収係数ズレ度合い検出部
13 …吸収係数修正部
14 …合体吸収係数マップ取得部
15 …エミッショデータ補正部
M …被検体
Ma1〜Man …所定区域
QA,QB …係数値ヒストグラム
μA …高頻度吸収係数
μB …理論上の吸収係数



【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)被検体に投与された放射性同位元素(RI)によって放出される放射線を検出することによりRI分布画像取得用のエミッションデータ(放射データ)を収集するエミッションデータ収集手段と、(B)被検体に照射される外部放射線源の放射線を検出することによりトランスミッションデータ(透過データ)を収集するトランスミッションデータ収集手段と、(C)収集されたトランスミッションデータを再構成処理して被検体の体内および体外の両方の吸収係数の3次元分布に相応する全体吸収係数マップを取得する全体吸収係数マップ取得手段と、(D)全体吸収係数マップから被検体の体内だけの吸収係数の3次元分布に相応する体内吸収係数マップと被検体の体外だけの吸収係数の3次元分布に相応する体外吸収係数マップをそれぞれ取得する体内外別吸収係数マップ取得手段と、(E)体内吸収係数マップについての被検体の体軸と垂直な所定区域毎に所定区域内の吸収係数の理論上の吸収係数に対するズレの度合いを検出する吸収係数ズレ度合い検出手段と、(F)吸収係数ズレ度合い検出手段により検出された吸収係数のズレの度合いにしたがって各所定区域内の吸収係数を修正する吸収係数修正手段と、(G)吸収係数修正手段による修正を終えた体内吸収係数マップと体外吸収係数マップを合成処理して被検体の体内外の吸収係数の3次元分布に相応する合体吸収係数マップを取得する合体吸収係数マップ取得手段とを備え、合体吸収係数マップ取得手段により取得された合体吸収係数マップを用いて収集されたエミッションデータの吸収補正処理を行なうことを特徴とする核医学診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の核医学診断装置において、吸収係数ズレ検出手段は、体内吸収係数マップについての被検体の体軸と垂直な所定区域毎に、吸収係数の係数値ヒストグラムを求めると共に係数値ヒストグラムでピークの位置にくる高頻度吸収係数μA と理論上の吸収係数μB との比μB/μA を各所定区域における吸収係数のズレの度合いとして検出すると共に、吸収係数修正手段は、所定区域内の各吸収係数に比μB/μA を乗算することにより吸収係数の修正を行なう核医学診断装置。
【請求項3】
請求項2に記載の核医学診断装置において、理論上の吸収係数が被検体における軟組織領域についての吸収係数である核医学診断装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の核医学診断装置において、吸収係数修正手段は、吸収係数に対するμB/μA の乗算処理の後、さらに理論上の吸収係数を含む所定範囲内の吸収係数を全て理論上の吸収係数へ一律に変更するセグメンテーション処理を行なう核医学診断装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の核医学診断装置において、(H)全体吸収係数マップの吸収係数の対応するエネルギーを、トランスミッションデータ収集用の外部放射線源より放出される放射線のエネルギーからエミッションデータ収集用の放射性同位元素(RI)により放出される放射線のエネルギーに変換する対応エネルギー変換手段を備えている核医学診断装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−132800(P2007−132800A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−326176(P2005−326176)
【出願日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】