説明

栽培ハウス及び栽培方法

【課題】ハウスの内部空間を有効活用しつつ、葉菜類の種別や育成時期に応じた環境を容易に作り出すことのできる栽培ハウス及び栽培方法を提供すること。
【解決手段】下向きに開口する断面コ字又はE字状のブロック2をハウス1内に上下に積み重ねると共に、各ブロック2の奥行き方向の開口端を出入り可能に塞ぎ、各ブロックの内部空間を栽培空間3とし、各栽培空間の高さ寸法を人が立ったまま移動可能な寸法に形成してあることを特徴とする栽培ハウス。ブロックを側方、奥行き方向に連続して列設してもよい。複数の栽培空間に時期をずらして同種の葉菜類を植え、葉菜類の育成状況に応じて空調装置、照明装置、及びガス供給装置を駆動することを特徴とする栽培方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウス内の空間を区画する栽培ハウス、及びその栽培ハウスを使用した栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ほうれん草に代表される葉菜類は、気候の影響によって品不足となる時期がある。このような時期であっても安定して出荷でき、経営を安定化させる栽培方法として、従来、ハウス内の地面を複数の区画に分け、区画毎に時期をずらして葉菜類の種を播く栽培方法が行われている。この方法は、区画ごとに葉菜類の生育状況が異なるため、区画ごとに応じた適切な散水や管理が必要とされる。
【0003】
また、葉菜類は、種別や生育状況に応じた環境(例えば室温、日照時間、炭酸ガス濃度等)を整えることによって、従来よりも短期間での収穫や、収穫量の増大を見込めることが知られている。
【0004】
なお、本発明者は上記した栽培方法等に関する先行技術文献情報の所在を知らないが、広く知られた技術である。
【0005】
そこで、本発明者は、上述した栽培方法と葉菜類に対する知見を組み合わせることによって、経営の安定化や短期間での収穫等を図ることを思いついた。即ち、ハウス内を複数の小部屋に仕切って、小部屋ごとに独自の環境を管理できるようにすることである。
【0006】
しかし、ハウス内に複数の小屋を構築することは現実的ではない。仮にハウス内に複数の小屋を構築したとしても、ハウスの天井が高い場合には、2階建以上の小屋を構築しないと、ハウスの内部空間を有効活用できず、収穫量の一層の増大を図ることができない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は上記実情を考慮して開発されたもので、その目的とするところは、ハウスの内部空間を有効活用しつつ、葉菜類の種別や育成時期に応じた環境を容易に作り出すことのできる栽培ハウス及び栽培方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の栽培ハウスは、下向きに開口する断面コ字又はE字状のブロックをハウス内に上下に積み重ねると共に、各ブロックの奥行き方向の開口端を出入り可能に塞ぎ、各ブロックの内部空間を栽培空間とし、各栽培空間の高さ寸法を人が立ったまま移動可能な寸法に形成してあることを特徴とする。栽培空間に空調装置、照明装置、及びガス供給装置を備えていれば、その栽培空間を作業者の思い通りの環境にすることができる。
【0009】
ハウス内の横幅寸法が広い場合にハウス内の空間を有効活用するには、請求項2の発明のように、断面コ字状又はE字状のブロックを平面視して側方に連続して列設してあることが望ましい。
【0010】
ハウス内の縦幅寸法が長い場合にハウス内の空間を有効活用するには、請求項3の発明のように、断面コ字状又はE字状のブロックを平面視して奥行き方向に連続して列設することによって、連続する内部空間を一つの栽培空間とし、奥行き方向に連続するブロックの開口端を出入り可能に塞いであることが望ましい。
【0011】
また、請求項1、2又は3記載の栽培ハウスを用いる栽培方法としては、請求項4の発明のように、各栽培空間に空調装置、照明装置、及びガス供給装置を備え、複数の栽培空間に時期をずらして同種の葉菜類を植え、葉菜類の育成状況に応じて空調装置、照明装置、及びガス供給装置を駆動するものが挙げられる。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明は、ブロックを上下に積み重ねることにより、別々の栽培空間を形成できるので、ハウスの内部空間を有効活用できる。また、各ブロックの奥行き方向の開口端を出入り可能に塞いであるので、栽培空間に空調装置、照明装置、及びガス供給装置を配備することによって、葉菜類の種別や育成時期に応じた環境を容易に作り出すことができ、収穫量の増大を図れる。さらに、各栽培空間の高さ寸法を人が立ったまま移動可能な寸法に形成してあるので、栽培空間での作業も平地と変わらない状態でできる。
【0013】
請求項2の発明は、ブロックを平面視して側方に連続して列設するので、ハウスの内部空間を有効活用できる。
【0014】
請求項3の発明は、ブロックを平面視して奥行き方向に連続して列設するので、ハウスの内部空間を有効活用できる。また、ブロックの奥行き方向に長い栽培空間を一室として管理できるので、葉菜類の種別や育成時期に応じた環境を容易に作り出すことができる。
【0015】
請求項4の発明は、複数の栽培空間を利用して、収穫期が時期をずらして順番に現れることになり、葉菜類の育成状況に応じて空調装置、照明装置、及びガス供給装置を駆動することによって、収穫量の増大及び収穫期間の短縮を図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
栽培ハウスは図1に示すように、ハウス(建物)1内に、断面コ字又はE字状のプレキャストコンクリートからなるブロック2を上下方向に積み重ねると共に、奥行き方向、及び側方に連続して列設し、ブロック2の内部空間を栽培空間3とする。
【0017】
上下に積み重ねたブロック2同士の連結構造は図2に示すように、ボルト止めするものである。具体的には、下側のブロック2の上面には上下方向に延びる脚部4の上面に、インサートボルト5を埋設し、一方、上側のブロック2の上下方向に延びる脚部4の底面には内向きに開口する箱型のインサートケース6を埋設し、インサートケース6の底面にはインサートボルト5の上面に相当する箇所に抜穴があけてあり、内側からインサートケース6の中に止めボルト7を入れ、インサートボルト5の雌ネジにねじ込んで連結する。インサートケース6の両側に定着鉄筋8の下部を溶着によって固着し、インサートケース6が外れるのを防いである。ボルト止め箇所はブロック2の奥行き方向に間隔をあけて複数設ける。また、強度面を考慮して、図4に示すように下側のブロック2の上面であって、上側のブロック2の脚部4の下端部間には、コンクリートを流し込んで床部9を形成し、床部9の施工の際には、前述した図2のインサートケース6の中にもコンクリートを注入して連結を強固にする。
【0018】
側方にブロック2を列設する際には、できるだけ隙間無く横に並べる。
【0019】
奥行き方向へ列設したブロック2の連結構造も図3に示すように、ボルト止めするものである。具体的には、前側のブロック2と後側のブロック2の突き合わせ端面には、内側(栽培空間側)に小窪みを向かい合わせにあけ、突き合わせた小窪みに気密用シール材10を挟むと共に、外側にボルト差込穴11を向かい合わせにあけ、各ボルト差込穴11に面して別のインサートボルト12を埋設してある。図3(ハ)に示すように向かい合う各ボルト差込穴11の奥には断面コ字の外留め具13の中央片を当てて、向かい合う金物の内側に、断面ロ字の内留め具14を挿入し、断面ロ字の内留め具14の内側から各インサートボルト12の雌ネジに向かって止めボルト15を捩じ込んで連結する。ボルト止め箇所は、ブロック2の幅方向に間隔をあけて複数設ける。
【0020】
栽培空間3を人が出入り可能に塞ぐ構造は図4に示すように、ブロック2の奥行き方向の端面の内側に沿って溝16を設け、溝16に別の気密用シール材17をはめ込むと共に、端面の外側に沿って別のインサートボルト18を埋設し、密閉パネル19の外周側の室外側から止めボルト20を、ブロック端面のインサートボルト18の雌ネジに捩じ込んで連結してある。密閉パネル19には出入り口を形成し、図示しないヒンジを支点に動くドア21で出入り口を開閉可能としてある。密閉パネル19の内側には断熱ボード22を有し、断熱ボード22の内面には図示しない反射シートを設けて、熱効率を向上してある。
【0021】
ハウス1は天井までの高さが約4m以上のものを用いる。一方、ブロック2は、その内部空間である栽培空間3の高さ寸法を、人が立ったまま移動可能な程度(成人の平均的背丈を基準とする)、より具体的に言えば2〜3mとする。また、ブロック2は図1に示すように栽培空間3の幅寸法全域のうち、幅中央部を人の移動用空間とし、幅両側を栽培棚23の設置空間とすることを考慮して、幅寸法全長を例えば3〜4mとする。
【0022】
栽培棚23は図5に示すように、箱型に組まれたフレーム24内に、棚となる器状の栽培水槽25を上下に間隔をあけて有し、各栽培水槽25の中には水温調節管26を配備すると共に、各栽培水槽25に栽培床27の入った容器28を出し入れ可能に収容する。例えば、容器28のフランジ29を栽培水槽25の縁の上に載せる。上下の栽培水槽25の間隔が栽培室30となり、各栽培室30の上部には照明装置31としての蛍光灯をフレーム24を利用して止めてあり、各栽培室30にはガス供給装置32の一部としてのガス配管を通し、ガス配管にあけた穴から炭酸ガスを栽培室30内に放出する。ガス配管の一次側にはガス供給源となるガスボンベを接続する。ガスボンベの代わりにエアコンプレッサーを配管に接続して、ガス配管32の穴から単に空気を放出して風を作りだしても良い。水温調節管26内には水等の媒体を通して、媒体の温度を調整することによって、栽培水槽25内の水温を調整する。
【0023】
容器28は底の浅い箱型であって、中に栽培床27となるグラスウールマット等を収容し、図示しない底の無数の抜穴から栽培水槽25内の水や培養液を栽培床27に浸漬させ、栽培床27に植えた葉菜類に水や栄養を与える。葉菜類としては、ほうれん草、小松菜、レタス等が例示できる。
【0024】
ブロック2の天井面には図1に示すように冷暖房用の空調装置(エアコン)33の室内機をボルト止めする。図1、図5に示す空調装置33、照明装置31、ガス供給装置32に接続するために、図4(イ)に示すように栽培空間3の床部9には予めパイプ34を埋設しておき、パイプ34内にガスや配線を通すことが栽培空間3で栽培作業をしやすくできるので、望ましい。また、図示しないが、室温検知センサ、培養液温検知センサ、炭酸ガス濃度検知センサを適宜箇所に配備しておき、各種センサからの情報により、各種装置を自動的に駆動することが栽培空間3の環境を整える上では望ましい。
【0025】
上述した栽培ハウスを用いた葉菜類の栽培方法は、例えば図6に示すように、同種の葉菜類を四室の栽培空間3で栽培する場合、播種から収穫までの1サイクルの期間を四分割し、分割した期間だけ時期を順番にずらして種を播き、四室に収穫期が順番に現れるようにする。
【0026】
各室では葉菜類を例えば図7に示すように以下の要領で栽培する。まず、栽培床27を準備して、容器28内の栽培床27に種を播く。次に栽培棚23に異常がないか、例えば栽培水槽25を洗浄してあることを確認する。そして、栽培床27の入った容器28を栽培棚23に設置する。栽培水槽25に水を注入し、毛細管現象で栽培床27が濡れることを確認する。葉菜類としてほうれん草を栽培した場合であれば、そのままの自然の状態を維持すると、約14日で発芽する。そして、芽を育成する際には、炭酸ガス、肥料を施す。約9日経つと、育成を促進させるために、施肥しつつ、日照時間を延ばし、炭酸ガス濃度を高め、風を与える。その際には、生長具合を重量、含水率、形態から判断して、その判断結果を反映させる。約8日経つと、充分成長しているので、収穫する。収穫の際には、葉色、体型、有毒物(重金属類)の有無を確認してから、商品として販売する。なお、葉菜類の育成状況に応じて空調装置33、照明装置31、及びガス供給装置32を駆動して、気温:20℃前後、湿度:昼間80〜85%、夜間90%、炭酸ガス濃度:育成期400PPM、促進期1200PPM、日照時間:平時一日12時間間欠照射、促進期一日24時間連続照射、風力0.5〜0.6m、液温:気温より高め(5℃程度)を達成する。
【0027】
上述した栽培ハウスは、ブロック2にコンクリートを用いているので、熱通過遮断効果が高い。また、施工も積み重ね、ボルト止め、列設する作業だけなので、施工期間が短くて済む。
【0028】
なお、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、栽培空間3内に栽培棚23を設置して水耕栽培する例を示したが、土で栽培する手法であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】(イ)(ロ)図は栽培ハウスの概略を示す正面図、側面図である。
【図2】(イ)(ロ)(ハ)図は上下のブロックの連結構造を示す縦断面図、A−A線断面図、B−B線断面図である。
【図3】(イ)(ロ)(ハ)図は奥行き方向のブロックの連結構造を示す縦断面図、A−A線断面図、B−B線断面図である。
【図4】(イ)(ロ)図は奥行き方向のブロックの連結構造を示す正面図、縦断面図である。
【図5】栽培棚の概略を示す説明図である。
【図6】栽培方法を示す説明図である。
【図7】栽培時の管理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0030】
1 ハウス、2 ブロック、3 栽培空間、4 脚部、5 インサートボルト、6 インサートケース、7 止めボルト、8 定着鉄筋、9 床部、10 気密用シール材、11 ボルト差込穴、12 インサートボルト、13 外留め具、14 内留め具、15 止めボルト、16 溝、17 気密用シール材、18 インサートボルト、19 密閉パネル、20 止めボルト、21 ドア、22 断熱ボード、23 栽培棚、24 フレーム、25 栽培水槽、26 水温調節管、27 栽培床、28 容器、29 フランジ、30 栽培室、31 照明装置、32 ガス供給装置、33 空調装置、34 パイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下向きに開口する断面コ字又はE字状のブロック(2)をハウス(1)内に上下に積み重ねると共に、各ブロック(2)の奥行き方向の開口端を出入り可能に塞ぎ、各ブロック(2)の内部空間を栽培空間(3)とし、各栽培空間(3)の高さ寸法を人が立ったまま移動可能な寸法に形成してあることを特徴とする栽培ハウス。
【請求項2】
断面コ字状又はE字状のブロック(2)を平面視して側方に連続して列設してあることを特徴とする請求項1記載の栽培ハウス。
【請求項3】
断面コ字状又はE字状のブロック(2)を平面視して奥行き方向に連続して列設することによって、連続する内部空間を一つの栽培空間(3)とし、奥行き方向に連続するブロック(2)の開口端を出入り可能に塞いであることを特徴とする請求項1又は2記載の栽培ハウス。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載の栽培ハウスを用い、各栽培空間(3)に空調装置(33)、照明装置(31)、及びガス供給装置(32)を備え、複数の栽培空間(3)に時期をずらして同種の葉菜類を植え、葉菜類の育成状況に応じて空調装置(33)、照明装置(31)、及びガス供給装置(32)を駆動することを特徴とする栽培方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−209252(P2007−209252A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−32548(P2006−32548)
【出願日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(506046425)
【Fターム(参考)】